(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185521
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】トナー樹脂用分散剤およびトナー樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 220/36 20060101AFI20221207BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20221207BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20221207BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C08F220/36
C08L33/14
C08L91/06
G03G9/097 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093265
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】宗形 裕基
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真紀
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸之輔
(72)【発明者】
【氏名】田上 安宣
【テーマコード(参考)】
2H500
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
2H500AA03
2H500AA06
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4J002AA011
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4J100AL03Q
4J100AL05Q
4J100AL08P
4J100BA34P
(57)【要約】
【課題】トナー樹脂中のワックスや着色剤の分散性を向上させることのできるトナー樹脂用分散剤を提供する。
【解決手段】特定のアミド基含有単量体(a1)に由来する構成単位が1~100質量%、特定の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位が0~99質量%である重合体(A)からなるトナー樹脂用分散剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるアミド基含有単量体(a1)に由来する構成単位が1~100質量%、下記式(2)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位が0~99質量%である重合体(A)からなるトナー樹脂用分散剤。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R
3は炭素数7~31のアルキル基を示す。)
【化2】
(式(2)中、R
4は水素原子またはメチル基を示し、R
5は炭素数1~22のアルキル基を示す。)
【請求項2】
トナー樹脂100質量部に対し、請求項1に記載のトナー樹脂用分散剤を0.1~50質量部、ワックス及び着色剤から選択される少なくとも1種の成分を0.1~20質量部含有することを特徴とするトナー樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、ファクシミリ、およびプリンタ等における電子写真法で形成される静電荷の現像に用いられるトナーに対して好適に使用されるトナー樹脂用分散剤に関する。より詳細には、トナー樹脂中における着色剤やワックスの分散性を向上させることができるトナー樹脂用分散剤、および前記分散剤を含有するトナー樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂には、成型加工時における金型からの離型性を向上させ金型の汚染を抑制したり、また熱や機械的負荷に応じて樹脂の軟化性等の物性を調節したりするために、ワックスが添加されている。ワックスとしては、例えば、炭化水素ワックスや脂肪酸エステル等が用いられている。しかしながら、熱可塑性樹脂中でのワックスの分散状態が不十分な場合、離型性の向上や樹脂物性の調節などの効果が不十分になるだけでなく、透明性の低下や、ワックスが樹脂表面へ移行することに起因するブロッキングの発生などの問題が生じる。
特に、上述したワックスの機能を活かした用途としては、熱可塑性樹脂にワックス、着色剤等の成分を配合した熱可塑性樹脂組成物で形成された電子写真用トナーを挙げることができる。一般に、トナー樹脂組成物では、樹脂の成型加工用途と比較してワックスの添加量が多いため、ワックスの分散性の低下に起因する問題がより発生しやすい。従って、ワックス等の添加剤を分散させるなど、添加剤の機能を十分に発揮させる分散剤が求められている。
【0003】
特許文献1では、ポリエステル樹脂とカルナウバワックスを含む熱可塑性樹脂組成物に対してビニルモノマーで変性されたワックス変性体を添加剤として使用することで、熱可塑性樹脂へのワックスの分散性を向上させることを開示している。同様に特許文献2では、ポリエステル樹脂とモノエステルワックスを含む熱可塑性樹脂組成物に対して特定のモノマー組成からなるアクリル樹脂を添加し、ワックスの分散性の向上を狙っている。また特許文献3では、特定のベース樹脂と着色剤を混合した熱可塑性樹脂を使用したトナーが着色剤の分散性に優れることを謳っている。
【0004】
しかしながら、上記のような試みによって、これら添加剤を使用してもワックスおよび着色剤を十分に分散することができない問題があるなど、満足できるものではなかった。さらに、それぞれに適した分散剤を複数種使用すると、各分散剤の性能が十分に得られなかったりする虞があり、分散剤同士の相性やほかの材料との適合性を調整する必要を生じ、工数が増える場合があった。そのため、ワックスや着色剤といった複数種の機能成分をいずれも十分に分散させることのできる分散剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-264621号公報
【特許文献2】特開2018-060056号公報
【特許文献3】特開2019-199534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トナー樹脂中のワックスや着色剤の分散性を向上させることのできるトナー樹脂用分散剤、およびトナー樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討した結果、特定構造の重合体を分散剤として用いることにより上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のものである。
【0008】
[1]下記式(1)で示されるアミド基含有単量体(a1)に由来する構成単位が1~100質量%、下記式(2)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位が0~99質量%である重合体(A)からなるトナー樹脂用分散剤。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R
3は炭素数7~31のアルキル基を示す。)
【化2】
(式(2)中、R
4は水素原子またはメチル基を示し、R
5は炭素数1~22のアルキル基を示す。)
【0009】
[2]トナー樹脂100質量部に対し、前記[1]に記載のトナー樹脂用分散剤を0.1~50質量部、ワックス及び着色剤から選択される少なくとも1種の成分を0.1~20質量部含有することを特徴とするトナー樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトナー樹脂用分散剤を用いることにより、トナー樹脂組成物中のワックスや着色剤の分散性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明のトナー樹脂用分散剤は下記式(1)で示されるアミド基含有単量体(a1)に由来する構成単位が1~100質量%、下記式(2)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位が0~99質量%である重合体(A)であることを特徴とする。
【化3】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R
3は炭素数7~31のアルキル基を示す。)
【化4】
(式(2)中、R
4は水素原子またはメチル基を示し、R
5は炭素数1~22のアルキル基を示す。)
【0012】
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを包含する総称である。また、重合体を構成する構成単位とは、当該重合体を合成するために用いたモノマーから重合反応により誘導された化学構造を有し、重合体鎖の連鎖構造を構成する単位のことを意味する。また、各モノマーに由来する構成単位の重合前モノマーの質量基準での共重合割合とは、重合反応によって重合体(A)中に組み込まれたモノマーの重合前における全質量に対する、当該重合体(A)に取り込まれた各モノマーの重合前における質量の割合を意味する。
【0013】
各モノマーに由来する構成単位の重合前モノマーの質量基準での共重合割合は、重合体(A)を合成する際に用いた各モノマーの仕込み量から計算することができる。
仕込み量から計算する場合には、重合体(A)を合成する時のモノマーの重合転化率が100%(つまり、未反応状態のまま残存するモノマーの量がゼロ)の場合には、重合体(A)に組み込まれたモノマーの量は仕込み量と等しいと考える。一方、重合体(A)を合成する時のモノマーの重合転化率が100%未満の場合には、モノマーの仕込み量から未反応状態のまま残存するモノマーの量を差し引いた値を重合体(A)に組み込まれたモノマーの量と考える。
先ず、重合体(A)の合成に用いた各モノマーの仕込み量から、重合体(A)に組み込まれた各モノマーの量を計算する。次に、重合体(A)に組み込まれたモノマーの合計量を計算する。そして、重合体(A)に組み込まれたモノマーの合計量に対する、重合体(A)に組み込まれた各モノマーの割合を計算する。
【0014】
また、他の方法としては、合成された重合体(A)中に存在する各モノマーに由来する構成単位の量を、プロトン核磁気共鳴分光法や熱分解ガスクロマトグラフィー等の適切な方法で分析した結果から、各モノマーに由来する構成単位の重合前モノマーの質量基準での共重合割合を特定することができる。
この場合、先ず、重合体(A)の分析結果から、各モノマーに由来する構成単位の量を測定又は計算する。この段階では、通常、各モノマーに由来する構成単位の量は、モル単位の値として得られる。次に、各モノマーに由来する構成単位の量を、重合前のモノマーの質量に換算する。そして、得られた換算値を用いて、重合体(A)に組み込まれたモノマーの合計量に対する、重合体(A)に組み込まれた各モノマーの割合を計算する。
【0015】
〔アミド基含有単量体(a1)〕
本発明で用いるアミド基含有単量体(a1)は下記式(1)で示される。
【化5】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2は炭素数1~4のアルキレン基を示し、R
3は炭素数7~31のアルキル基を示す。)
【0016】
式(1)中、R1は水素原子またはメチル基であり、反応性の観点から水素原子が好ましい。
R2は炭素数1~4のアルキレン基である。炭素数1~4のアルキレン基としては、直鎖のアルキレン基であってもよいし、分岐のアルキレン基であってもよいが、直鎖のアルキレン基であることが好ましい。炭素数1~4の直鎖のアルキレン基としては、メチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2-CH2-)、プロピレン基(-CH2-CH2-CH2-)、ブチレン基(-CH2-CH2-CH2-CH2-)が挙げられ、中でもエチレン基(-CH2-CH2-)が好ましい。
R3は炭素数7~31のアルキル基である。炭素数7~31のアルキル基としては、エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基、ベヘニル基などが挙げられる。樹脂中での相溶性の観点から、R3は炭素数12~31のアルキル基が好ましく、炭素数16~31のアルキル基がより好ましく、炭素数16~22のアルキル基がさらに好ましい。また、R3は直鎖でも分岐でもよいが、直鎖のものが好ましい。
【0017】
重合体(A)における、アミド基含有単量体(a1)に由来する構成単位は、1~100質量%であり、20~100質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。アミド基含有単量体(a1)に由来する構成単位が上記の範囲であると分散性がより高くなる。
なお、重合体(A)におけるアミド基含有単量体(a1)に由来する構成単位(質量%)は、重合体(A)を構成する構成単位に占めるアミド基含有単量体(a1)に由来する構成単位の共重合割合である。該共重合割合は、重合前モノマーの質量基準での共重合割合を意味する。
【0018】
〔(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)〕
本発明で用いる(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)は下記式(2)で示される。
【化6】
(一般式(2)中、R
4は水素原子またはメチル基を示し、R
5は炭素数1~22のアルキル基を示す。)
【0019】
一般式(2)中、R4は水素原子またはメチル基であり、重合性の観点からメチル基が好ましい。R5は炭素数1~22のアルキル基である。炭素数1~22のアルキルとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基、ベヘニル基などが挙げられる。分散性安定性の観点から、炭素数は12~22が好ましく、16~22がより好ましい。
【0020】
重合体(A)における、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位は、0~99質量%であり、0~70質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位が上記の範囲であると分散性がより高くなる。
なお、重合体(A)における(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位(質量%)は、重合体(A)を構成する構成単位に占める(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位の共重合割合である。該共重合割合は、重合前モノマーの質量基準での共重合割合を意味する。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。すなわち、重合体(A)における(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0021】
〔他のモノマー〕
本発明の重合体(A)は、アミド基含有単量体(a1)および(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に由来する構成単位だけで構成されていてよく、あるいはこれらのモノマーと重合可能な他のモノマーに由来する構成単位を、重合前モノマーの質量基準で、更に30質量%以下含有していてもよい。他のモノマーの比率は、30質量%以下とするが、15質量%以下が更に好ましく、5質量%以下がより好ましく、0質量%であってもよい。こうした他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリルなどを挙げることができる。その他のモノマーとして、(メタ)アクリル酸を用いた場合、樹脂へのワックスの分散性をより向上させることができるため好ましい。
【0022】
〔重合体(A)〕
本発明の重合体(A)の重量平均分子量、数平均分子量、分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。重合体(A)の重量平均分子量は、3,000~150,000であり、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは30,000~70,000である。重合体(A)の重量平均分子量が低すぎると、樹脂組成物とした際の保存安定性が不足し、重量平均分子量が高すぎると、分散性が低下するおそれがある。
本発明の重合体(A)の分散度[重量平均分子量/数平均分子量]は、分散性の観点から、1.0~5.0であり、1.5~3.0が好ましい。
【0023】
〔重合体(A)の製造方法〕
次に、本発明の重合体(A)を製造する方法について説明する。重合体(A)は、アミド基含有単量体(a1)を単独でラジカル重合させるか、又は、アミド基含有単量体(a1)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)を少なくとも含有するモノマー混合物をラジカル重合させることにより得ることができる。
重合は公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、重合体(A)の重量平均分子量を上記範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合や懸濁重合が好ましい。
重合開始剤は、公知のものを使用することができる。例えば、t-ブチルパーオキシネオデカノエートなどの有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを挙げることができる。これらの重合開始剤は1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、用いるモノマーの組み合わせや、反応条件などに応じて適宜設定することができる。
なお、重合開始剤を投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしてもよいし、一部を一括仕込みして残りを滴下してもよく、あるいは全量を滴下してもよい。また、前記モノマーとともに重合開始剤を滴下すると、反応の制御が容易となるので好ましく、さらにモノマー滴下後も重合開始剤を添加すると、残存モノマーを低減できるので好ましい。溶液重合の際に使用する重合溶媒としては、モノマーと重合開始剤が溶解するものを使用することができ、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0024】
重合溶媒に対するモノマー(合計量)の濃度は、10~60質量%が好ましく、特に好ましくは20~50質量%である。モノマー混合物の濃度が低すぎると、モノマーが残存しやすく、得られる重合体(A)の分子量が低下するおそれがあり、モノマーの濃度が高すぎると、発熱を制御し難くなるおそれがある。
モノマーを投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしても良いし、一部を一括仕込みして残りを滴下しても良いし、あるいは全量を滴下しても良い。発熱の制御しやすさから、一部を一括仕込みして残りを滴下するか、または全量を滴下するのが好ましい。
重合温度は、重合溶媒の種類などに依存し、例えば、50℃~110℃である。重合時間は、重合開始剤の種類と重合温度に依存し、例えば、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシネオデカノエートを使用した場合、重合温度を70℃として重合すると、重合時間は6時間程度が適している。
以上の重合反応を行なうことにより、本発明のトナー樹脂用分散剤である重合体(A)が得られる。得られた重合体(A)は、そのまま用いてもよいし、重合反応後の反応液に、脱溶媒、ろ取や精製を施して単離してもよい。
【0025】
〔トナー樹脂組成物〕
本発明のトナー樹脂組成物は、トナー樹脂、上記した重合体(A)からなるトナー樹脂用分散剤、並びにワックス及び着色剤から選択される少なくとも1種の成分を含有する組成物である。
本発明の重合体(A)は、トナー樹脂への樹脂分散剤として好適に用いられる。トナー樹脂中にワックスや着色剤とともに重合体(A)を共存させると、トナー樹脂中のマトリクス中にワックスや着色剤の分散を補助することができる。トナー樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0026】
こうした熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリイソプレン等のゴム状(共)重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらのなかで、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がより好ましい。
【0027】
また、ワックスとしては、例えば、炭化水素系化合物、脂肪酸アミド系化合物、脂肪酸エステル系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
炭化水素系化合物としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられる。
脂肪酸アミド系化合物としては、脂肪酸のモノアミド又はビスアミドを用いることができ、例えば、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
脂肪酸エステル系化合物としては、例えば、ブチルステアレート、ブチルラウレート、ブチルパルミテート、ブチルモンタネート、プロピルステアレート、フェニルステアレート、ラウリルアセテート、ステアリルアセテート、ステアリルラウレート、ステアリルステアレート、ベヘニルベヘネート、ベヘニルベンゾエート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノベヘネート、ペンタエリスリトールトリラウレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールモノベヘネート等が挙げられる。
これらの中で、脂肪酸アミド系化合物および脂肪酸エステル系化合物が好ましく、脂肪酸エステル系化合物がより好ましい。
【0028】
着色剤としては、例えば、ブラック着色剤、シアン着色剤、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤などを用いることができる。
ブラック着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、並びに酸化鉄亜鉛、及び酸化鉄ニッケル等の磁性粉等を用いることができる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、その誘導体、及びアントラキノン化合物等が利用できる。具体的には、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、及び60等が挙げられる。
イエロー着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料、及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等の化合物が用いられ、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、74、83、93、97、120、138、155、180、181、185、186、及び213等が挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料、及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等の化合物が用いられ、C.I.ピグメントレッド31、48、57:1、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、150、163、170、184、185、187、202、206、207、209、237、238、251、254、255、269及びC.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
着色剤は、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
トナー樹脂組成物中での本発明の重合体(A)からなるトナー樹脂用分散剤の含有量は、トナー樹脂の質量を100質量部としたとき、0.1~50質量部が好ましく、0.1~40質量部がより好ましく、5.0~30質量部がさらに好ましく、15~25質量部がさらに好ましい。また、トナー樹脂組成物中でのワックス及び着色剤から選択される少なくとも1種の成分の含有量は、トナー樹脂の質量を100質量部としたとき、0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.5~8質量部がさらに好ましく、1.0~5質量部がさらに好ましい。
本発明のトナー樹脂組成物には、その目的に応じ、所望の特性を付与する他の成分、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤などの一種または二種以上を含有させてもよい。
本発明のトナー樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形などの成型原料として、また電子写真用トナーとして使用することが出来る。
【実施例0030】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0031】
<合成例1>[トナー樹脂用分散剤の合成]
ステアリン酸アミドエチルアクリレート300g、ステアリルメタクリレート100g、メチルメタクリレート100gを4つ口フラスコに入れ、トルエン500gで溶解させ、30分窒素ガスの吹き込みを行った。この後、重合開始剤としてt-ブチルペルオキシネオデカノエート5gを加えて70℃で6時間重合反応を行った。その後、120℃で減圧乾燥を行い、重合体(A)からなるトナー樹脂用分散剤を得た。
【0032】
<合成例2~6>[トナー樹脂用分散剤の合成]
下記表1に示す種類および量の成分を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って重合体(A)からなるトナー樹脂用分散剤を得た。
【0033】
<比較合成例1~2>[トナー樹脂用分散剤の合成]
下記表2に示す種類および量の成分を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って重合体からなるトナー樹脂用分散剤を得た。
【0034】
合成例及び比較合成例で製造した各重合体の重量平均分子量は、下記の条件でGPCを用いて測定した。
〔重量平均分子量の測定〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により、各重合体の重量平均分子量を求めた。
装置:東ソー(株)社製、HLC-8220
カラム: shodex社製、LF-804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0035】
〔各合成例で製造したトナー樹脂用分散剤の融点〕
示差走査熱量分析計として、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「DSC-7000X」を使用した。測定は、約10mgのトナー樹脂用分散剤を試料ホルダーに入れ、レファレンス材料としてアルミナ10mgを用いて行い、昇温速度毎分5℃として10℃から200℃まで昇温した。なお、測定の前に、10℃から200℃までの昇温工程と200℃から10℃までの冷却工程を経たサンプルを測定試料とした。上記DSCにより測定された吸熱ピークのトップピークの温度を、トナー樹脂用分散剤の融点とした。
【0036】
【0037】
【0038】
〔トナー樹脂組成物の調製〕
(実施例1)
ポリエステル樹脂(ダイヤクロンFC-2470;三菱ケミカル(株)製)を74質量部、合成例1で製造したトナー樹脂用分散剤(重合体(A))を20質量部、ワックス(ニッサンエレクトール WEP-3;日油(株)製)を3質量部、着色剤(カーボンブラック;Cabot社製)を3質量部の割合で混合し、二軸混錬機(製品名「ラボプラストミル」、東洋精機社製)を用いて溶融混錬を行ない、トナー樹脂組成物を得た。溶融混錬は120℃、60rpm/分で約5分間行った。
(実施例2~7、比較例1~3)
下記表3及び4に示す種類および量の成分を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従ってトナー樹脂組成物を調製した。
【0039】
〔評価方法〕
実施例1~7及び比較例1~3で製造したトナー樹脂組成物について、以下の方法で、分散性を評価した。その結果を表3及び4に示す。
【0040】
〔トナー樹脂用分散剤を用いた着色剤分散性評価〕
混錬したトナー樹脂組成物についてウルトラミクロトーム(型式:UC7、Leica製)を用いてダイヤモンドナイフで切り出しを行い、切り出した断面を走査電子顕微鏡(SEM;型式:JSM-IT500、日本電子(株)製)にて観察した。評価は以下のように行った。
◎:着色剤が凝集することなく均一に分散している。
〇:僅かな凝集が認められる。
△:凝集して空隙がみられる。
【0041】
〔トナー樹脂用分散剤を用いたワックス分散性評価〕
着色剤の分散性評価と同様に、混錬したトナー樹脂組成物についてウルトラミクロトームを用いて切り出しを行い、切り出した断面を走査電子顕微鏡にて観察した。評価は以下のように行った。
◎:ワックス粒子が凝集することなく均一に分散している。
〇:僅かな凝集が認められる。
△:凝集して空隙がみられる。
【0042】
【0043】
【0044】
実施例1~7のトナー樹脂組成物は、表3に示すように、いずれもワックスおよび着色剤の分散性が優れていた。これら組成物をトナー用ワックスとして使用すると、バインダー樹脂中でワックスおよび着色剤が分散され、高画質化や分散安定性に寄与することができる。
【0045】
一方、比較例1、2のトナー樹脂組成物は、アミド基含有単量体を含まない重合体を含有しており、比較例3は重合体を含んでいないことから、ワックスおよび着色剤の分散性が低い結果が得られた。