(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185534
(43)【公開日】2022-12-14
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20221207BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221207BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20221207BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20221207BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
C09J11/04
C08G59/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093296
(22)【出願日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】楠田 智
【テーマコード(参考)】
4J036
4J040
【Fターム(参考)】
4J036AA02
4J036AD08
4J036DA01
4J036DC28
4J036FA06
4J036FA11
4J036FA13
4J036JA06
4J040EC022
4J040EC061
4J040GA11
4J040HA196
4J040HC16
4J040HD35
4J040JB04
4J040KA16
4J040KA42
4J040LA06
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】 本発明は、優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有する硬化物を生成することができる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の接着剤組成物は、エポキシ樹脂100質量部と、フェニル型モノグリシジルエーテル1~20質量部と、脂肪酸処理炭酸カルシウム10~200質量部と、ケチミン化合物10~50質量部とを含むので、空気などに含まれている水分によって硬化し、優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有する硬化物を生成することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂100質量部と、
フェニル型モノグリシジルエーテル1~20質量部と、
脂肪酸処理炭酸カルシウム10~200質量部と、
ケチミン化合物10~50質量部とを含むことを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
エポキシシランカップリング剤がエポキシ樹脂100質量部に対して1~10質量部含有されていることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
JIS K6833に準拠した25℃における10rpmでの粘度が5~200Pa・sであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トンネル壁面などのコンクリート構造物の表面に、コンクリートを打設するときの材料の分離及び締固め不足などが原因となって、ジャンカと呼ばれる不良部分が発生することがある。
【0003】
コンクリート構造物に生じたジャンカを放置しておくと、コンクリート構造物の耐久性に悪影響を及ぼすため、定期的にジャンカの補修が行なわれる。ジャンカの補修には、従来から、硬化剤としてアミン化合物を使用した2液型エポキシ接着剤組成物が用いられている。
【0004】
しかしながら、2液型エポキシ接着剤組成物は、使用時にエポキシ樹脂と硬化剤とを混合して用られることから、エポキシ樹脂と硬化剤の計量の精度や混合具合によって、接着剤組成物が硬化して得られる硬化物の特性が変化するという問題点を有している。
【0005】
そこで、特許文献1には、所定の構造を有するエポキシ樹脂と、変性ケチミンと、変性シリコーン樹脂と、変性シリコーン樹脂用触媒と、脱水剤とを含む1液湿気硬化型組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記1液湿気硬化型組成物を硬化させて生成される硬化物は、圧縮強度及び耐衝撃性が低いという問題点を有しており、優れた硬化物を生成し得る接着剤組成物が所望されている。
【0008】
本発明は、優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有する硬化物を生成することができる接着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の接着剤組成物は、エポキシ樹脂100質量部と、フェニル型モノグリシジルエーテル1~20質量部と、脂肪酸処理炭酸カルシウム10~200質量部と、ケチミン化合物10~50質量部とを含む。
【0010】
[エポキシ樹脂]
接着剤組成物は、エポキシ樹脂を含有している。エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を複数個含有している。エポキシ樹脂としては、特に限定されず、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂、ビスフェノールF型のエポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型のエポキシ樹脂、アミノフェノール型のエポキシ樹脂、アニリン型のエポキシ樹脂、ベンジルアミン型のエポキシ樹脂、キシレンジアミン型のエポキシ樹脂などの芳香環を含むエポキシ樹脂及びこれらの水添物、グリシジルエステル型のエポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、メタキシレンジやヒダントインなどをエポキシ化した含窒素エポキシ樹脂、ポリブタジエン骨格又はNBR骨格を含有するゴム変性エポキシ樹脂などが挙げられる。接着剤組成物の硬化物が優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有しているので、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂及びビスフェノールF型のエポキシ樹脂が好ましい。なお、エポキシ樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0011】
エポキシ樹脂は、一般的に、多価フェノールなどの多価アルコールの水酸基にエピクロルヒドリンが付加してなる生成物(例えば、下記式(1)において、繰り返し数n=0)であるか、又は、多価アルコールにエピクロルヒドリンが開環付加して生成された繰り返し単位を有している(例えば、下記式(1)において、繰り返し数nが自然数)。
【0012】
エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンと反応生成物)である場合、下記に示す構造式を有する。但し、繰り返し数nは、0又は自然数である。
【0013】
【0014】
[フェニル型モノグリシジルエーテル]
接着剤組成物は、フェニル型モノグリシジルエーテルを含有している。フェニル型モノグリシジルエーテルは、分子中にフェニル基を有していると共に、グリシジル基を1個のみ有している。フェニル型モノグリシジルエーテルは、分子中にエポキシ基を1個のみ有している。
【0015】
接着剤組成物がフェニル型モノグリシジルエーテルを含有していると、接着剤組成物は、優れた流動性を有し、優れた塗工性を有している。更に、接着剤組成物の硬化物の耐衝撃性及び圧縮強度を向上させることができる。
【0016】
フェニル型モノグリシジルエーテルとしては、特に限定されず、例えば、2,3-エポキシプロピルフェニルエーテル、2-フェニルフェノールグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテルなどが挙げられ、接着剤組成物の硬化物の耐衝撃性及び圧縮強度が向上するので、2-フェニルフェノールグリシジルエーテル、2,3-エポキシプロピルフェニルエーテルが好ましく、2-フェニルフェノールグリシジルエーテルがより好ましい。なお、フェニル型モノグリシジルエーテルは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0017】
接着剤組成物において、フェニル型モノグリシジルエーテルの含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上であり、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。フェニル型モノグリシジルエーテルの含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して20質量部以下であり、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がより好ましい。フェニル型モノグリシジルエーテルが1質量部以上であると、接着剤組成物の硬化物の耐衝撃性及び圧縮強度が向上すると共に、接着剤組成物の塗工性が向上する。フェニル型モノグリシジルエーテルが20質量部以下であると、接着剤組成物の硬化物の圧縮強度及び耐衝撃性が向上する。
【0018】
[脂肪酸処理炭酸カルシウム]
接着剤組成物は、脂肪酸処理炭酸カルシウムを含有している。接着剤組成物が脂肪酸処理炭酸カルシウムを含有していることによって、接着剤組成物の硬化物の耐衝撃性を向上させることができる。
【0019】
接着剤組成物は、フェニル型モノグリシジルエーテル及び脂肪酸処理炭酸カルシウムを含有しており、フェニル型モノグリシジルエーテルが接着剤組成物の粘度を低下させ且つ分散性に優れた脂肪酸処理炭酸カルシウムを用いることによって、接着剤組成物中に脂肪酸処理炭酸カルシウムを高度に分散させ、更に、接着剤組成物の硬化物の架橋構造にフェニル型モノグリシジルエーテルを取り込むことによって、接着剤組成物の硬化物に優れた機械的強度を付与していると共に、接着剤組成物の硬化物の架橋構造に柔軟性を付与している。従って、接着剤組成物の硬化物に加わる圧縮応力及び衝撃力を円滑に吸収し、接着剤組成物の硬化物に優れた圧縮強度及び耐衝撃性を付与している。
【0020】
脂肪酸処理炭酸カルシウムは、その表面が脂肪酸によって処理されている。脂肪酸としては、例えば、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、及びイコサン酸などの飽和脂肪酸;ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸、イコサン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラトリエン酸、及びテトラドコサン酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。接着剤組成物中における分散性に優れているので、飽和脂肪酸が好ましい。飽和脂肪酸の炭素数は、8以上が好ましく、12以上がより好ましく、14以上がより好ましく、16以上がより好ましい。飽和脂肪酸の炭素数は、30以下が好ましく、26以下がより好ましく、22以下がより好ましく、20以下がより好ましい。なお、脂肪酸処理炭酸カルシウムは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0021】
脂肪酸処理炭酸カルシウムのBET比表面積は、10m2/g以上が好ましく、15m2/g以上がより好ましく、20m2/g以上がより好ましい。脂肪酸処理炭酸カルシウムのBET比表面積は、40m2/g以下が好ましく、35m2/g以下がより好ましく、30m2/g以下がより好ましい。脂肪酸処理炭酸カルシウムのBET比表面積が10m2/g以上であると、接着剤組成物の硬化物の圧縮強度及び耐衝撃性を向上させることができる。脂肪酸処理炭酸カルシウムのBET比表面積が40m2/g以下であると、接着剤組成物の硬化物の圧縮強度及び耐衝撃性を向上させることができる。
【0022】
なお、脂肪酸処理炭酸カルシウムのBET比表面積は、JIS Z8830:2013に準拠して測定された値をいう。例えば、脂肪酸処理炭酸カルシウムのBET比表面積は、ユアサアイオニクス社から商品名「NOVA2000」にて市販されているBET比表面積計を用いて1点法にて測定することができる。
【0023】
接着剤組成物中における脂肪酸処理炭酸カルシウムの含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して10質量部以上であり、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上がより好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がより好ましく、80質量部以上がより好ましく、90質量部以上がより好ましい。接着剤組成物中における脂肪酸処理炭酸カルシウムの含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して200質量部以下であり、190質量部以下が好ましく、180質量部以下がより好ましく、170質量部以下がより好ましく、160質量部以下がより好ましく、150質量部以下がより好ましく、140質量部以下がより好ましく、130質量部以下がより好ましく、120質量部以下がより好ましく、110質量部以下がより好ましい。脂肪酸処理炭酸カルシウムの含有量が10質量部以上であると、接着剤組成物の硬化物の耐衝撃性及び圧縮強度を向上させることができる。脂肪酸処理炭酸カルシウムの含有量が200質量部以下であると、接着剤組成物の硬化物の圧縮強度及び耐衝撃性が向上する。
【0024】
[ケチミン化合物]
接着剤組成物は、ケチミン化合物を含有している。接着剤組成物がケチミン化合物を含有していると、接着剤組成物の硬化物は、10~30%程度の低い伸び率のもとで高モジュラスを有し、圧縮応力及び衝撃応力を円滑に吸収することができ、優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有している。
【0025】
ケチミン化合物は、分子中にケチミン結合(N=C)を有している。ケチミン化合物は、分子中にケチミン結合を複数有している。ケチミン化合物としては、2,5,8-トリアザ-1,8-ノナジエン、2,10-ジメチル-3,6,9-トリアザ-2,9-ウンデカジエン、2,10-ジフェニル-3,6,9-トリアザ-2,9-ウンデカジエン、3,11-ジメチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、3,11-ジエチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、2,4,12,14-テトラメチル-5,8,11-トリアザ-4,11-ペンタデカジエン、2,4,20,22-テトラメチル-5,12,19-トリアザ-4,19-トリエイコサジエン、2,4,15,17-テトラメチル-5,8,11,14-テトラアザ-4,14-オクタデカジエン、9-(3-ブトキシ-2-ヒドロキシプロピル)-5,13-ジメチル-6,9,12-トリアザ-5,12-ヘプタデカジエン、1,2-エチレンビス(イソペンチリデンイミン)、1,2-へキシレンビス(イソペンチリデンイミン)、p,p’-ビフェニレンビス(イソペンチリデンイミン)、1,2-エチレンビス(イソプロピリデンイミン)、1,3-プロピレンビス(イソプロピリデンイミン)、p-フェニレンビス(イソペンチリデンイミン)、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミンなどが挙げられる。なお、ケチミン化合物(D)は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0026】
ケチミン化合物は、エポキシ樹脂と速やかに反応し、優れた圧縮強度を有する硬化物を生成することができるので、2,5,8-トリアザ-1,8-ノナジエン、2,10-ジメチル-3,6,9-トリアザ-2,9-ウンデカジエン、2,10-ジフェニル-3,6,9-トリアザ-2,9-ウンデカジエン、3,11-ジメチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、3,11-ジエチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、2,4,12,14-テトラメチル-5,8,11-トリアザ-4,11-ペンタデカジエン、2,4,20,22-テトラメチル-5,12,19-トリアザ-4,19-トリエイコサジエン、2,4,15,17-テトラメチル-5,8,11,14-テトラアザ-4,14-オクタデカジエンが好ましい。
【0027】
ケチミン化合物は、水分がない状態ではエポキシ樹脂との反応性は有せず、安定的に存在する。一方、ケチミン化合物は、空気中の湿気や、コンクリート及び外壁仕上げ材などの建築部材に含まれている湿気などの水分と反応してケチミン結合(N=C)が分解して一級アミンを生成する。この一級アミンがエポキシ樹脂と反応して接着剤組成物が硬化する。
【0028】
接着剤組成物において、エポキシ基のモル数[EP]と、ケチミン化合物が加水分解して生成されるアミノ基(-NH2)のモル数[NH2]とのモル比([EP]/[NH2])は、0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましい。モル比([EP]/[NH2])が0.8以上であると、接着剤組成物の硬化物の圧縮強度及び耐衝撃性が向上する。なお、エポキシ基のモル数[EP]とは、接着剤組成物中に含まれているエポキシ基の総モル数をいう。従って、例えば、接着剤組成物が、後述するエポキシシランカップリング剤を含有している場合には、エポキシシランカップリング剤に含まれているエポキシ基のモル数も含まれる。
【0029】
接着剤組成物において、エポキシ基のモル数[EP]と、ケチミン化合物(C)が加水分解して生成されるアミノ基(-NH2)のモル数[NH2]とのモル比([EP]/[NH2])は、6以下が好ましく、5以下がより好ましい。モル比([EP]/[NH2])が6以下であると、接着剤組成物の硬化物中に未反応のアミンを残存させないようにして硬化物の圧縮強度を向上させることができる。
【0030】
なお、エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数[EP]は、エポキシ基を有する化合物のそれぞれについて、エポキシ基を有する化合物の含有量をその化合物のエポキシ当量で除してエポキシ基を有する化合物のモル数をそれぞれ算出する。エポキシ基を有する化合物のそれぞれのエポキシ基のモル数の総和を「エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数[EP]」とする。
【0031】
ケチミン化合物が加水分解して生成されるアミノ基(-NH2)のモル数[NH2]は、ケチミン化合物の加水分解により生じるアミン化合物の量をアミン当量で除した値である。なお、アミン化合物のアミン当量は、JIS K7237「エポキシ樹脂のアミン系硬化剤の全アミン価試験方法」に準拠して測定された値とする。
【0032】
接着剤組成物中におけるケチミン化合物の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して10質量部以上であり、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、35質量部以上がより好ましい。ケチミン化合物の含有量が10質量部以上であると、接着剤組成物の硬化物が優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有する。
【0033】
接着剤組成物中におけるケチミン化合物の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して50質量部以下であり、48質量部以下が好ましく、46質量部以下がより好ましく、44質量部以下がより好ましい。ケチミン化合物の含有量が50質量部以下であると、接着剤組成物の圧縮強度及び耐衝撃性が向上する。
【0034】
[添加剤]
接着剤組成物は、その物性を阻害しない範囲内において、添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、例えば、加水分解促進触媒、接着付与剤、脱水剤、引っ張り物性などを改善する物性調整剤、可塑剤、タレ防止剤、補強剤、着色剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、香料などが挙げられる。
【0035】
接着剤組成物は、エポキシシランカップリング剤を含有していることが好ましい。エポキシシランカップリング剤とは、一分子中にアルコキシ基が結合した珪素原子と、エポキシ基を有する官能基とを含む化合物を意味する。接着剤組成物がエポキシシランカップリング剤を含有していると、コンクリート構造物に形成されたジャンカなどの不良部分に対する投錨効果によるコンクリート構造物への接着性の向上を図ることができると共に、エポキシシランカップリング剤のエポキシ基とコンクリート構造物表面の水酸基との反応によって、接着剤組成物の硬化物とコンクリート構造物との接着性の向上を図ることができる。
【0036】
エポキシシランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられ,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。なお、エポキシシランカップリング剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0037】
接着剤組成物中におけるエポキシシランカップリング剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。接着剤組成物中におけるエポキシシランカップリング剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。エポキシシランカップリング剤の含有量が1質量部以上であると、コンクリート構造物に形成されたジャンカなどの不良部分に対する投錨効果によるコンクリート構造物への接着性の向上を図ることができると共に、エポキシシランカップリング剤のエポキシ基とコンクリート構造物表面の水酸基との反応によって、接着剤組成物の硬化物とコンクリート構造物との接着性の向上を図ることができる。エポキシシランカップリング剤の含有量が10質量部以下であると、接着剤組成物の硬化物の架橋密度を適度なものとし、接着剤組成物の硬化物の圧縮強度及び耐衝撃性を向上させることができる。
【0038】
[接着剤組成物]
接着剤組成物は、エポキシ樹脂、フェニル型モノグリシジルエーテル、脂肪酸処理炭酸カルシウム及びケチミン化合物に必要に応じて添加剤を加えた上で汎用の要領で均一に混合して作製することができる。
【0039】
接着剤組成物におけるJIS K6833に準拠した25℃における10rpmでの粘度は、5Pa・s以上が好ましく、10Pa・s以上がより好ましく、30Pa・s以上がより好ましい。接着剤組成物におけるJIS K6833に準拠した25℃における10rpmでの粘度は、200Pa・s以下が好ましく、190Pa・s以下がより好ましい。接着剤組成物の粘度が5Pa・s以上であると、接着剤組成物を周囲に流動させることなく所望箇所に正確に塗工することができる。接着剤組成物の粘度が200Pa・s以下であると、コンクリート構造物に形成されたジャンカなどの不良部分に隙間なく接着剤組成物を充填することができるので好ましい。
【0040】
なお、接着剤組成物の粘度は、JIS K6833に準拠してBS型粘度計及びローターNo.5を用い、25℃及び相対湿度50%にて回転数10rpmの条件下にて測定された値をいう。
【0041】
接着剤組成物のTi指数は、3.0以上が好ましく、4.0以上がより好ましく、4.5以上がより好ましい。硬化性組成物のTi指数は、7.0以下が好ましく、6.5以下がより好ましく、6.0以下がより好ましい。接着剤組成物のTi指数が3.0以上であると、コンクリート構造物に形成されたジャンカなどの不良部分に隙間なく接着剤組成物を充填することができるので好ましい。接着剤組成物のTi指数が7.0以下であると、接着剤組成物の塗工性が向上する。
【0042】
なお、接着剤組成物のTi指数は、JIS K6833に準拠して23℃の雰囲気下にてB型粘度計ローターNo.7を用いて測定した、1rpm時の接着剤組成物の粘度と10rpm時の接着剤組成物の粘度との粘度比[(1rpm時の粘度)/(10rpm時の粘度)]をいう。
【0043】
接着剤組成物は、ケチミン化合物が、空気中の湿気や、コンクリート及び外壁仕上げ材などの建築部材に含まれている湿気などの水分と反応してケチミン結合(N=C)が分解して一級アミンを生成し、この一級アミンがエポキシ樹脂と反応して接着剤組成物が硬化して優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有する硬化物を生成する。
【0044】
接着剤組成物は、1液型のエポキシ系の接着剤組成物であるので、エポキシ樹脂と硬化剤とを混合する必要はなく、エポキシ樹脂と硬化剤とを使用時に混合する必要はなく、エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合の変動によって硬化物の物性が変動することはない。従って、接着剤組成物の硬化物は、所望の圧縮強度及び耐衝撃性を発現する。
【0045】
接着剤組成物は、上述の通り、硬化することによって優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有する硬化物を生成し、トンネル壁面や建築構造物などのコンクリート構造物の表面に形成されたジャンカの補修のために好適に用いることができる。
【0046】
具体的には、コンクリート構造物の表面に形成されたジャンカ内に接着剤組成物を注入し、接着剤組成物を空気中及び/又はコンクリート構造物に含まれている水分により硬化させて硬化物を生成する。硬化物によってジャンカ内を充填することによってジャンカが形成されたコンクリート構造物を補修することができる。
【0047】
トンネル壁面は、トンネルの上方に存在する地面からの圧力によって圧縮応力を常時、加えられている。更に、トンネル内を走行する自動車に起因した振動によって、トンネル壁面には衝撃が加えられる。
【0048】
接着剤組成物は、硬化によって優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有する硬化物を生成するので、硬化物に上述のような圧縮応力や衝撃力が加えられた場合にあっても、硬化物は、圧縮応力や衝撃力を円滑に吸収し、硬化物に亀裂などの破損が生じることはなく、長時間にわたって優れた圧縮応力及び耐衝撃性を維持することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の接着剤組成物は、空気などに含まれている水分によって硬化し、優れた圧縮強度及び耐衝撃性を有する硬化物を生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例0051】
[エポキシ樹脂]
・ビスフェノールA型のエポキシ樹脂(油化シェル社製 商品名「エピコート828」、エポキシ当量:189)
・ビスフェノールF型のエポキシ樹脂(三菱化学社製 商品名「jER806」、エポキシ当量:165)
【0052】
[フェニル型モノグリシジルエーテル]
・フェニル型モノグリシジルエーテル1(2-フェニルフェノールグリシジルエーテル、阪本薬品工業社製 商品名「SY-OPG」)
・フェニル型モノグリシジルエーテル2(2,3-エポキシプロピルフェニルエーテル、関東化学株式会社製 商品名「17031」)
【0053】
[脂肪酸処理炭酸カルシウム]
・脂肪酸処理炭酸カルシウム1(丸尾カルシウム社製 商品名「カルファイン200M」、BET比表面積:25m2/g、脂肪酸:オクタデカン酸)
・脂肪酸処理炭酸カルシウム2(白石カルシウム社製 商品名「CCR」、BET比表面積:18m2/g、脂肪酸:オクタデカン酸)
・脂肪酸処理炭酸カルシウム3(日東粉化工業社製 商品名「NCC#2310」、BET比表面積:2.3m2/g、脂肪酸:テトラデカン酸)
・無処理炭酸カルシウム4(脂肪酸による表面処理なし(無処理炭酸カルシウム)、東洋ファインケミカル社製 商品名「P30」、BET比表面積:18m2/g)
【0054】
[ケチミン化合物]
・ケチミン化合物1(アミン価:280mgKOH/g、三菱化学社製 商品名「エピキュアH30」)
・ケチミン化合物2(アミン価:290mgKOH/g、ADEKA社製 商品名「アデカハードナーEH-235R-2」)
【0055】
[エポキシシランカップリング剤]
・エポキシシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製 商品名「KBM403」)
【0056】
(実施例1~11、比較例1~9)
表1に示した所定量のエポキシ樹脂、フェニル型モノグリシジルエーテル、脂肪酸処理炭酸カルシウム、無処理炭酸カルシウム、ケチミン化合物及びエポキシシランカップリング剤をプラネタリーミキサーを用いて40℃及び真空雰囲気下にて均一に混合して1液型の接着剤組成物を得た。
【0057】
接着剤組成物において、エポキシ基のモル数[EP]と、ケチミン化合物(C)が加水分解して生成されるアミノ基(-NH2)のモル数[NH2]とのモル比([EP]/[NH2])を表1の「エポキシ基/アミノ基」の欄に記載した。
【0058】
接着剤組成物について、JIS K6833に準拠した25℃における10rpmでの粘度及びTi指数を上述の要領で測定し、その結果をそれぞれ、表1の「10rpm粘度」及び「Ti指数」の欄に示した。
【0059】
得られた接着剤組成物について、圧縮強度及び耐衝撃性を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0060】
(圧縮強度)
接着剤組成物を23℃及び相対湿度50%の雰囲気下にて7日間に亘って養生して、縦25mm×横13mm×高さ13mmの直方体形状の試験片を作製した。得られた試験片の圧縮強度をJIS K6911の熱硬化性プラスチック一般試験方法に準拠して測定した。
【0061】
(耐衝撃性)
圧縮強度の測定方法と同様の要領で試験片を作製した。得られた試験片の衝撃強さをJIS K7111のプラスチック-シャルピー衝撃強さに準拠して測定した。
【0062】
(体積収縮率)
接着剤組成物の体積収縮率をJIS K6833に準拠して比重測定により硬化前後の体積収縮率を測定した。接着剤組成物の体積収縮率が小さいほど、接着剤組成物の硬化物は、亀裂を生じることなく、被着体に対する密着性をより効果的に維持することができる。
【0063】