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特開2022-185599転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置
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  • 特開-転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185599
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/045 20190101AFI20221208BHJP
【FI】
G01M13/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093317
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前川 利満
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024BA21
2G024BA27
2G024CA13
2G024CA26
2G024DA09
2G024FA02
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
(57)【要約】
【解決課題】軌道輪のはく離の進展を定量的に評価することができる転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置を提供する。
【解決手段】回転機械に使用される転がり軸受の異常診断方法は、転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得する時刻取得工程と、進入時刻と脱出時刻との時間差である、はく離通過時間と前記転動体の公転速度の積に基づいて、はく離サイズを推定する推定工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械に使用される転がり軸受の異常診断方法であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が前記軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得する時刻取得工程と、
前記進入時刻と前記脱出時刻との時間差である、はく離通過時間と前記転動体の公転速度の積に基づいて、はく離サイズを推定する推定工程とを有する、転がり軸受の異常診断方法であって、
前記センサは、前記転がり軸受の振動速度および加速度を検出する振動センサであり、
前記時刻取得工程は、前記転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度の最大値を示す時刻を前記脱出時刻とする工程と、前記脱出時刻に対応する振動速度の方向が振動速度軸上の最大値または最小値のいずれか一方を定める工程と、
時間軸上で前記脱出時刻から遡った時刻であって、かつ前記脱出時刻に採用した振動速度軸上の反対方向のピークであって、脱出時刻に採用しなかった振動速度の最大値または最小値のうちいずれか他方を示す時刻を転動体のはく離への進入時刻とする転がり軸受の異常診断方法。
【請求項2】
回転機械に使用される転がり軸受の異常診断装置であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が前記軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得し、且つ、前記進入時刻と前記脱出時刻との時間差である、はく離通過時間と前記転動体の公転速度の積に基づいて、はく離サイズを推定する制御装置とを有する、転がり軸受の異常診断装置であって、
前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度の最大値を示す時刻を脱出時刻とし、前記脱出時刻に対応する振動速度の方向から脱出点の方向を定め、前記脱出点における振動速度軸上の反対方向のピークを示す時刻を転動体のはく離への進入時刻とする転がり軸受の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置に関し、特に、転がり軸受の軌道輪に生じたはく離サイズを推定できる転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受から検出される振動を検出して、転がり軸受が組み込まれた機械装置を分解することなく、機械装置の実稼働状態で転がり軸受の異常の有無や異常の部位を診断する技術が種々提案されている。
【0003】
また、風車のドライブトレインや鉱山設備などの大型の回転機械に使用される転がり軸受では、軸受の交換が容易ではないため、若干の損傷が発生しても継続して使用されることが多いことから、損傷の進展に応じた軸受の交換時期を明確に把握することが求められている。
【0004】
損傷の進展度を把握する技術として、例えば特許文献1に記載の転がり軸受の状態監視装置では、内外輪間のラジアル方向の相対変位を変位センサで検出し、複数の転動体から静止輪の内輪が受ける総負荷回数の増加に応じた内外輪間の相対変位の段階的な増大パターンに従って、転がり軸受の状態を診断している。
【0005】
また、特許文献2に記載の状態監視装置では、振動波形を複数の損傷フィルタ周波数帯域に分割して抽出処理した後の波形にエンベロープ処理及び周波数分析を行い、スペクトルデータを入手する。そして、抽出された周波数帯域において、転がり軸受の回転速度信号に基づいて算出した軸受損傷周波数と、スペクトルデータに含まれる周波数成分とを比較し、転がり軸受の異常の部位を特定し、損傷フィルタ周波数帯域毎に算出される振動実効値に基づいて、部位の損傷の程度又は損傷の進展状況を診断している。
【0006】
さらには、特許文献3に記載の状態監視装置では、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価できるものであって、軸受の振動速度の最大値と最小値、もしくはその逆の組み合わせで進入点と脱出点を定めて、その時間差からはく離長さを推定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特許文献1 : 特開2017-26020号公報
特許文献2 : 特開2017-32520号公報
特許文献3: 国際公開公報WO2020/040280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、損傷が進展すると内外輪の相対変位が段階的に増大するという知見に基づいて、損傷ステージを3段階に設けるといった定性的な判定に留まっていた。そのため損傷初期においては、計測時点のデータだけで損傷の状態を把握できずに、内外輪間のラジアル方向の相対変位の急激な増大が継続してから異常を判定したのでは、既に軸受の周辺部品に損傷の影響が出てしまっている恐れもあり、必然的に軸受交換のタイミングが遅れがちになる恐れがあった。また、特許文献2に記載の方法や構成では、複数の損傷フィルタ周波数帯域ごとに算出される振動実効値等に基づいて、部位の損傷の程度または損傷の進展状況を3段階で診断する損傷レベル診断部を備えている。損傷レベル診断部は、正常品または正常時の値と比較することで部位の損傷の程度または損傷の進展状況を診断するが、正常品または正常時の値との比較結果に依存した診断結果となり、はく離の進展を定量的に評価したものではなかった。さらに特許文献3では、はく離への進入点とはく離からの脱出点の定義が、振動速度の最大値と最小値の両方が測定されないと定まらないため、はく離進入点とはく離脱出点を逆に定義してしまい、誤ってはく離長さを評価する懸念が予想される。そのためはく離が進展した後に再測定し、振動速度の最大値と最小値がはく離進入点とはく離脱出点のいずれかを示しているか確認する工程が必要になり、はく離長さ解析の処理速度が遅くなるという問題があった。
【0009】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軌道輪が転動体からの繰返し荷重を受けた場合に、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に即座に評価することができる転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)
回転機械に使用される転がり軸受の異常診断方法であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が前記軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得する時刻取得工程と、
前記進入時刻と前記脱出時刻との時間差である、はく離通過時間と前記転動体の公転速度の積に基づいて、はく離サイズを推定する推定工程とを有する、転がり軸受の異常診断方法であって、
前記センサは、前記転がり軸受の振動速度および加速度を検出する振動センサであり、
前記時刻取得工程は、前記転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度の最大値を示す時刻を前記脱出時刻とする工程と、前記脱出時刻に対応する振動速度の方向が振動速度軸上の最大値または最小値のいずれかを定める工程と、
時間軸上で前記脱出時刻から遡った時刻であって、かつ前記脱出時刻に採用した振動速度軸上の反対方向のピークであって、脱出時刻に採用しなかった振動速度の最大値または最小値のうちいずれか他方に対応する時刻を転動体のはく離への進入時刻とする転がり軸受の異常診断方法。
(2) 回転機械に使用される転がり軸受の異常診断装置であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が前記軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得し、且つ、前記進入時刻と前記脱出時刻との時間差である、はく離通過時間と前記転動体の公転速度の積に基づいて、はく離サイズを推定する制御装置とを有する、転がり軸受の異常診断装置であって、
前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度の最大値を示す時刻を脱出時刻とし、前記脱出時刻に対応する振動速度の方向から脱出点の方向を定め、前記脱出点における振動速度のY軸上の反対方向のピークを示す時刻を転動体のはく離への進入時刻とする転がり軸受の異常診断装置。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)の異常診断方法、及び上記(2)の異常診断装置によれば、転動体が軌道輪のはく離領域に進入及び脱出する時刻を取得して、進入時刻と脱出時刻との時間差から、はく離サイズを推定することで、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に即座に評価することができ、軸受の交換時期を明確化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の各実施形態に係る転がり軸受の異常診断装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】(a)は、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する際のころ荷重について説明するための図であり、(b)は、転動体が軌道輪のはく離領域から脱出する際のころ荷重について説明するための図である。
図3】本発明の実施形態に係る軌道輪のはく離通過時間を説明するための振動速度波形のグラフとそれに対応する包絡線処理を施した振動加速度波形のグラフの概念図である。
図4】(a)は、転動体が軌道輪のはく離を通過する時間を説明するための他の振動速度波形のグラフの概念図であり、(b)は、転動体が軌道輪のはく離を通過する時間を説明するためのさらに他の振動速度波形のグラフの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態に係る駆動装置用転がり軸受について図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
以下、図1図3を参照して、第1実施形態に係る転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置について説明する。図1に示すように、本実施形態の異常診断装置1は、機械設備10に組み込まれた転がり軸受11の異常を診断するものであり、転がり軸受11から発生する振動(信号)を検出する振動センサ12と、振動センサ12で検出した信号を、データ伝送手段13を介して受信し、信号処理を行って転がり軸受11の軌道輪(即ち、内輪111又は外輪112)のはく離の有無、及びはく離サイズの推定をリアルタイムで行う演算処理部21、及び機械設備10を駆動制御する制御部22を有する制御装置20と、モニタや警報機等からなる出力装置30と、を備えている。
【0015】
なお、本実施形態の異常診断装置1が適用される機械設備10としては、例えば、風車や鉱山設備等が挙げられる。
【0016】
転がり軸受11は、機械設備10の回転軸に外嵌される内輪111と、ハウジング114等に内嵌される外輪112と、内輪111及び外輪112との間で転動可能に配置された複数の転動体113と、転動体113を転動自在に保持する不図示の保持器と、を有する。
【0017】
振動センサ12は、転がり軸受11の固定輪である外輪112が取り付けられたハウジング114の負荷圏に固定されている。図2は上部が負荷圏となる一態様である。振動センサ12の固定方法には、ボルト固定、接着、ボルト固定と接着の併用、及び樹脂材による埋め込み等がある。
【0018】
また、振動センサ12としては、圧電式加速度センサ、動電式速度センサ、変位センサを用いることができる。転がり軸受の運転状態により、加速度、速度、変位等を検出することで、等価的に振動を検出して電気信号に変換することができるものを適宜使用することができる。例えば、転がり軸受が高速回転時は加速度、低速回転時は変位を検出してもよい。なお、後述するように、本実施形態では、速度及び加速度で表される振動波形を用いてはく離の解析を行う。このため、加速度信号を検出する場合には、出力信号を積分処理により、変位信号を検出する場合には、出力信号を微分処理によりそれぞれ変換して、振動波形を求める。
【0019】
また、制御装置20は、マイクロコンピュータ(ICチップ、CPU、MPU、DSP等)により構成されており、また、図示しない内部メモリを備えている。このため、後述する各処理をこのマイクロコンピュータのプログラムにより実行することができるので、装置を簡素化、小型化かつ安価に構成することができる。
制御装置20は、演算処理部21で判定された転がり軸受11の診断結果を、内部メモリに記憶すると共に、機械設備10の動作を制御部22へ出力し、診断結果に応じた機械設備10を駆動する制御信号を機械設備10の動作にフィードバック(回転数を落とすなど)する。さらに、制御装置20は、有線又はネットワークを考慮した無線を利用したデータ伝送手段31により出力装置30に送る。
【0020】
出力装置30は、転がり軸受11の診断結果をモニタ等にリアルタイムで表示する。また、異常が検出された場合に、ライトやブザー等の警報機を用いてオペレータに異常であることの注意を促すようにしてもよい。
また、信号のデータ伝送手段13は、振動センサ12からの信号を的確に送受信可能であればよいので、有線でも良いし、ネットワークを考慮した無線を利用してもよい。
【0021】
ここで、転がり軸受11の負荷圏において、転動体113が健全部(正常ではく離がない領域)を通過する際には、転動体113は内輪111及び外輪112と接触し、所定の転動体荷重を負担している。一方、はく離が生じていると、一般に、はく離の深さは、転動体113と軌道輪のヘルツ接触の弾性接近量よりも大きいため、転動体113が軌道輪のはく離領域を通過する際には、内輪111と外輪112のどちらか一方のみに接触し、転動体113がはく離内部を通過する状態では、転動体荷重は健全部での転動体荷重よりも減少する。
【0022】
詳述すると、図2(a)に例示する様に、転動体113が内輪111のはく離領域に入る前は、外輪112を介してハウジング114が転動体荷重を負担しているが、内輪111のはく離領域に進入した際は、転動体荷重は減少する。この転動体荷重の変化は、径方向外側に向かう方向を正方向とすると、振動速度の負の最大値(底部)(図3上方グラフのB部参照)として捉えられる。なお、図2中、符号λは、はく離長さ(単位:[m]、[mm]等)を示し、符号vは、転動体の公転速度(単位:[m/s]等)を示す。
【0023】
また、図2(b)に例示する様に、該転動体113が内輪111のはく離領域から脱出する際は、外輪112を介してハウジング114が負担する転動体荷重が増加して回復し、その転動体荷重の変化は、振動速度の正の最大値(頂部)(図3上方グラフ参照)として捉えられる。
即ち、転動体113が内輪111のはく離領域に進入するか脱出する際には、転動体荷重の変化の向きが異なるため、転動体荷重の減少は振動速度の負の最大値(底部)として表れ、転動体荷重の増加は、振動速度の正の最大値(頂部)として表れる。
また、実際には、回転輪である内輪111の1回転周期内においては、負荷圏で転動体113が内輪のはく離領域を通過する数回の衝突が振動として表れるが、本実施形態では、負荷圏にある転動体113が内輪のはく離領域を通過するときに発生する、負又は正の最大値の振動速度が診断のために取得される。
【0024】
なお、はく離は微視的に、内輪の回転方向、軸方向、深さ方向いずれにも伝播するためはく離が発生しているかどうかの判断は、振動速度の負又は正の最大値の絶対値を閾値と比較することで行われ、絶対値が閾値より大きい場合に、はく離が発生していると判断する。
【0025】
そして、はく離が発生している場合には、演算処理部21は、出力される振動速度波形と振動加速度波形から演算を行うことになる。そこで、はく離進入点に比べはく離脱出点における振動加速度が顕著に高いことと、転動体がはく離から脱出するときにはく離の淵に衝突して転がり軸受の外径方向に大きな加速度を生じることに着目し、図3に示すように転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度の最大値(図3中A部)を示す時刻T1を転動体113が軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻(脱出点)として定める。そして、はく離脱出時刻に対応する振動速度の値から脱出点の振動速度軸上の正負方向を定めたうえで、時間軸上で遡った時刻であって、脱出点における振動速度軸上の反対方向のピーク(図3中B部)を示す時刻T2を転動体113のはく離への進入時刻(進入点)として取得する。
ここで、上記所定時間は、軸受損傷の振動周期(転動体が内輪のはく離領域を通過する時間間隔)よりも僅かに長い周期としている。例えば、所定時間は、転動体が内輪のはく離領域を通過する間隔の2倍以下で設定される。
なお、振動センサ12の出力は、どの方向を正方向とするか選択が可能なため、内輪のはく離領域に進入する際に、正の最大値(頂部)として表わされ、はく離領域から脱出する際に、負の最大値(底部)として表わされる場合がある。この場合には、転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度の最大値を示す時刻を転動体が軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻とし、脱出時刻に対応する振動速度の方向から脱出点の振動速度軸上の方向を定めたうえで、脱出点における振動速度軸上の反対方向のピークを示す時刻を転動体のはく離への進入時刻とする。 すなわち、脱出時刻(脱出点)を示す振動速度が最大値の場合には振動速度の最小値が進入時刻(進入点)とし、脱出時刻(脱出点)を示す振動速度が最小値の場合には振動速度の最大値が進入時刻(進入点)とすることができる。
【0026】
また、振動センサ12の出力によっては、図4(a)及び(b)に示すように、進入時刻及び脱出時刻を示す振動速度の最大値(頂部)と最小値(底部)が、いずれも正側の値となる場合や、あるいは、いずれも負側の値となる場合がある。
図4(a)(b)においては振動速度の最大値が閾値の上限値を超えたり、振動速度の下限値が閾値の下限値を下回っているためはく離が発生していると判断する。
そして、この場合にも転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度(図示は省略)の最大値を示す時刻を転動体が軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻とし、脱出時刻に対応する振動速度の方向から脱出点の振動速度軸上の方向を定めたうえで、脱出点における振動速度軸上の反対方向のピークを示す時刻を転動体のはく離への進入時刻として取得してもよい。
【0027】
次に、演算処理部21は、進入時刻と脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する。
具体的に、内輪回転、外輪固定の本実施形態において、内輪はく離の場合には、はく離サイズは、次の数式(1)で与えられる。
【0028】
【数1】
【0029】
また、外輪はく離の場合には、はく離サイズは、次の数式(2)で与えられる。
【0030】
【数2】
【0031】
なお、本実施形態と異なり、内輪固定、外輪回転の転がり軸受において、内輪はく離の場合のはく離サイズは、次の数式(3)で与えられ、外輪はく離の場合のはく離サイズは、次の数式(4)で与えられる。また、この場合、振動センサ12は、静止側の軸に取り付けられてもよい。
【0032】
【数3】
【0033】
【数4】
【0034】
以下は、式(1)~(4)における各記号の意味を表す。
τ:はく離通過時間
d m:転動体のPCD
D a:転動体の直径
f ri:内輪回転周波数
f re:外輪回転周波数
f c:転動体の公転周波数
f i=f ri-f c
f e=f re-f c
【0035】
ここで、内輪はく離か、外輪はく離かの判定は、内輪111の回転周期内の各転動体113のはく離領域進入時点間の間隔を見て判断するようにしてもよいし、転がり軸受より検出した実測データをエンベロープ分析等の解析処理を行って実測周波数成分を生成し、計算により求めた内輪と外輪のそれぞれの理論周波数成分と一致するか否かで損傷箇所を判定する方法を用いて、判断するようにしてもよい。
【0036】
これにより、制御部22は、得られたはく離サイズに基づいて、機械設備10を停止させてもよいし、回転数を落とすように制御してもよい。
また、そのまま運転しても転がり軸受11の交換までに重大損傷を起こさない程度のはく離サイズと判断すれば、上記の制御は行わず、制御部22は、機械設備10の運転をそのまま継続してもよい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る異常診断方法及び異常診断装置1によれば、転がり軸受11の回転中に振動センサ12によって検出された出力信号から、転動体113が軌道輪である内輪111又は外輪112のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体113が該軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得する時刻取得工程と、進入時刻と脱出時刻との時間差である、はく離通過時間と前記転動体の公転速度の積に基づいて、はく離サイズを推定する推定工程と、を有するので、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができ、軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0038】
なお、本発明の異常診断方法及び異常診断装置は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形、改良等が可能である。例えば、転がり軸受は、軸受形式に限定されず、玉軸受を含む、全ての形式の転がり軸受に適用することができる。
【0039】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1)回転機械に使用される転がり軸受の異常診断方法であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が前記軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得する時刻取得工程と、
前記進入時刻と前記脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する推定工程とを有する、転がり軸受の異常診断方法であって、
前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記時刻取得工程は、前記転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度の最大値を示す時刻を前記脱出時刻とする工程と、前記脱出時刻に対応する振動速度の方向が振動速度軸上の最大値または最小値のいずれか一方を定める工程と、時間軸上で前記脱出時刻から遡った時刻であって、かつ前記脱出時刻に採用した振動速度軸上の反対方向のピークであって、脱出時刻に採用しなかった振動速度の最大値または最小値のうちいずれか他方を示す時刻を転動体のはく離への進入時刻とする転がり軸受の異常診断方法。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形とエンベロープ加速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができ、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができるとともに軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【0040】
(2) 回転機械に使用される転がり軸受の異常診断装置であって、
前記転がり軸受の回転中にセンサによって検出された出力信号から、転動体が軌道輪のはく離領域に進入する進入時刻と、該転動体が前記軌道輪のはく離領域から脱出する脱出時刻を取得し、且つ、前記進入時刻と前記脱出時刻との時間差である、はく離通過時間に基づいて、はく離サイズを推定する制御装置とを有する、転がり軸受の異常診断装置であって、
前記センサは、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサであり、
前記制御装置は、前記転がり軸受の回転中に計測した振動加速度を包絡線処理したエンベロープ振動加速度の最大値を示す時刻を脱出時刻とし、前記脱出時刻に対応する振動速度の方向から脱出点の方向を定め、前記脱出点における振動速度軸上の反対方向のピークを示す時刻を転動体のはく離への進入時刻とする転がり軸受の異常診断装置。
この構成によれば、振動センサを用いて、転動体荷重の変化を振動速度の変化として捉えて、振動速度波形とエンベロープ加速度波形から進入時刻及び脱出時刻を容易に取得することができ、軌道輪に生じたはく離の進展を定量的に評価することができるとともに軸受の交換時期を明確に把握することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 異常診断装置
10 機械設備
11 転がり軸受
12 振動センサ
20 制御装置
21 演算処理部
22 制御部
31 データ伝送手段
図1
図2
図3
図4