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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185604
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】新規フェニルプロパノイド化合物
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/203 20060101AFI20221208BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20221208BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221208BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20221208BHJP
【FI】
C07H15/203 CSP
A61Q19/02
A61K8/60
A61P17/18
A61P17/00
A61K31/7034
A61K36/48
A61Q19/00
A23L33/105
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093326
(22)【出願日】2021-06-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】390010124
【氏名又は名称】株式会社ナボカルコスメティックス
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】セン カ キョウ
(72)【発明者】
【氏名】堺 孝子
(72)【発明者】
【氏名】トウ テイ カ
(72)【発明者】
【氏名】ホウ チ テン
(72)【発明者】
【氏名】オウ カイ ユウ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス ウエイ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C057
4C083
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD57
4B018ME06
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF01
4C057BB02
4C057DD01
4C057JJ23
4C083AA111
4C083AA112
4C083AD201
4C083AD202
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC23
4C083DD08
4C083DD12
4C083DD14
4C083DD15
4C083DD16
4C083DD17
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE12
4C083EE13
4C083EE16
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA08
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA28
4C086MA32
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC37
4C086ZC41
4C088AB59
4C088AC04
4C088BA09
4C088BA10
4C088BA12
4C088BA32
4C088CA08
4C088MA13
4C088MA16
4C088MA17
4C088MA22
4C088MA28
4C088MA32
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA41
4C088MA43
4C088MA52
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC37
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】イナゴマメ由来の新規な活性成分及びその用途を提供すること。
【解決手段】本発明は、下記式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【化1】
【請求項2】
下記式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する美白剤。
【化2】
【請求項3】
前記式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の濃度が0.001mM~1mMである請求項2に記載の美白剤。
【請求項4】
下記式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有するメラニン生成抑制剤。
【化3】
【請求項5】
下記式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する抗酸化剤。
【化4】
【請求項6】
皮膚外用剤である請求項2~5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
化粧料である、請求項2~6のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
下記式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する皮膚美白用飲食品組成物。
【化5】
【請求項9】
イナゴマメ(Ceratonia siliqua)の莢果の含水アルコール抽出物を得る工程、
前記含水アルコール抽出物を、石油エーテル、酢酸エチルの順に液液抽出を行い、酢酸エチル画分を回収する工程、及び、
前記酢酸エチル画分から下記式(I)で表される化合物を分離する工程、を有することを特徴とする該化合物の製造方法。
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マメ科植物であるイナゴマメ(Ceratonia siliqua L.)から分離、精製して得られる新規なフェニルプロパノイド化合物及びその用途に関し、さらに、この化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イナゴマメ(Ceratonia siliqua L.)は、主に地中海地方を原産とするマメ科植物である。イナゴマメの莢果、すなわち、イナゴマメの莢及び果肉はキャロブ(carob)と呼ばれ、古くから食用又は食品原料として利用されてきた。成熟した莢果は長さ10~25cm程度で、甘味を呈する。イナゴマメの莢果には、多糖類、セルロース及びミネラル類が多く含まれ、タンパク質や非炭水化物系の低分子化合物等が少量含まれている。近年、イナゴマメの新たな機能に関する研究が進められており、イナゴマメの莢果(pod)の水抽出物が、消化管における止瀉、抗酸化、抗菌、抗潰瘍及び抗炎症作用等の複数の薬理作用を有しており、潰瘍性大腸炎や胃潰瘍などの消化器疾患の予防及び治療効果を有することが報告されている(非特許文献1、2)。また、特許文献1には、イナゴマメの種子抽出物にα-グルコシダーゼ阻害活性があり、体重増加の抑制効果を有することが記載されている(特許文献1)。
【0003】
他方、フリーラジカルとは、体内での代謝の過程で生成される中間生成物であり、不対電子を含んだ、非常に活発な化学的性質を有する原子、原子団又は分子である。体内で生成した過剰なフリーラジカルは、正常細胞の細胞膜を損傷し、タンパク質を変性させ、酵素機能の喪失及びDNAや細胞外マトリックスの損傷を引き起こしている。フリーラジカルによる損傷は、老化、発癌、アルツハイマー病、心血管や脳血管の疾患及び皮膚病などと密接に関連している。人体にはフリーラジカルによる損傷を防ぐための抗酸化メカニズムが備わっているが、絶え間ない老化や病的状態等により、過剰なフリーラジカルによって引き起こされる損傷を完全に排除することは困難である。よって、人体の正常な機能を維持するため、抗酸化剤によるフリーラジカルの除去は非常に有効である。現在利用されている抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられるが、これらは高価であり、安全性に劣る等の課題を有している。
【0004】
フリーラジカルの強い酸化力によって、細胞外マトリックス等が損傷すると肌の弾力性が失われる可能性がある。また、老化によって、皮膚がたるみ、キメが粗くなり、肌がくすむことにより、肌の色は暗くなる。同時に、人間の肌の色は、主に体内で生成されるメラニン含有量に依存することから、皮膚にメラニンが蓄積することも、肌の色が暗くなり、弾力性とツヤが失われる重要な理由の1つである。
【0005】
昨今の研究成果によれば、抗酸化活性を有する物質は、体内のフリーラジカルを除去してフリーラジカルによる損傷を低減させることにより、皮膚の老化プロセスを遅らせること、そして、その結果として、美白効果をもたらすことができるとされている。このことから、メラニン生成を抑制すると共に抗酸化活性を有する物質には、相乗的な美白効果が発揮され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-119999号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rtibi K, Jabri M A, Selmi S, et al., “Preventive effect of carob (Ceratonia siliqua L.) in dextran sulfate sodium-induced ulcerative colitis in rat”, RSC Advances, 2016年, Vol. 6, p.19992-20000.
【非特許文献2】Rtibi K, Selmi S, Grami D, et al., “Chemical constituents and pharmacological actions of carob pods and leaves (Ceratonia siliqua L.) on the gastrointestinal tract: A review“, Biomedicine & Pharmacotherapy, 2017年, Vol. 93, p.522-528.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した非特許文献1,2では、イナゴマメの莢果抽出物が、消化管における止瀉、抗酸化、抗菌、抗潰瘍及び抗炎症作用等の薬理作用を有し、消化器疾患の治療効果を有すること、並びに特許文献1では、イナゴマメの種子抽出物に体重増加の抑制効果を有することが報告されているが、具体的な活性成分の特定にはまだ至っていない。
【0009】
また、イナゴマメを美白剤として用いることについての検討はこれまでなされておらず、その有効性はまったく不明であった。
【0010】
したがって、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、その目的は、イナゴマメ由来の新規な活性成分及びその用途を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、メラニン生成抑制作用を有すると共に抗酸化活性をも有する新たな美白剤であって、天然物であるイナゴマメ由来のものを提供することにある。さらに、この美白剤を含む皮膚外用剤、化粧料及び皮膚美白用飲食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、イナゴマメの莢果抽出物から新規なフェニルプロパノイド化合物を分離し、この新規化合物がメラニン生成抑制作用のみならず、抗酸化活性をも有することを見出した。この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、下記式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。
【0014】
【化1】
【0015】
式(I)で表される化合物は、イナゴマメ(Ceratonia siliqua)の莢果抽出物から分離、精製された新規フェニルプロパノイド化合物であり、メラニン生成抑制作用及び抗酸化活性を備え、美白効果を有する。
【0016】
また、本発明の美白剤は、上述した式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する。式(I)で表される化合物を投与することにより、皮膚におけるメラニン生成が抑制されると共に、フリーラジカルが除去されて皮膚の老化が抑制されるため、相乗的な美白効果が発揮され得る。
【0017】
また、本発明の美白剤は、上述した式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の濃度が0.001mM~1mMであることも好ましい。これにより、効果に優れる活性成分の濃度が選択される。
【0018】
また、本発明のメラニン生成抑制剤は、上述した式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する。式(I)で表される化合物を投与することにより、皮膚におけるメラニン生成が抑制される。
【0019】
また、本発明の抗酸化剤は、上述した式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する。式(I)で表される化合物を投与することにより、フリーラジカルが除去され、フリーラジカルによって生じる損傷が低減される。
【0020】
また、本発明の美白剤、メラニン生成抑制剤又は抗酸化剤は、皮膚外用剤又は化粧料であることも好ましい。これにより、皮膚の美白効果、皮膚におけるメラニン生成抑制効果又は皮膚の老化防止効果を有する皮膚外用剤又は化粧料が得られる。
【0021】
また、本発明の皮膚美白用飲食品組成物は、上述した式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する。これにより、皮膚におけるメラニン生成が抑制されると共に、体内のフリーラジカルが除去されて皮膚の老化プロセスを遅らせることにより、相乗的な美白効果が発揮される飲食品組成物が得られる。
【0022】
また、本発明の上述した式(I)で表される化合物の製造方法は、イナゴマメ(Ceratonia siliqua)の莢果の含水アルコール抽出物を得る工程、この含水アルコール抽出物を石油エーテル、酢酸エチルの順に液液抽出を行い、酢酸エチル画分を回収する工程、及び、回収された酢酸エチル画分から式(I)で表される化合物を分離する工程、を有している。これにより、抗酸化活性及びメラニン生成抑制作用を備え、美白効果を有する、新規なフェニルプロパノイド化合物が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する新規フェニルプロパノイド化合物並びにこれを含有する美白剤、メラニン生成抑制剤、抗酸化剤、皮膚外用剤、化粧料及び皮膚美白用飲食品組成物を提供することができる。
(1)メラニン生成抑制作用及び抗酸化活性を備え、相乗的な美白効果を有する。
(2)古来から食用とされているイナゴマメの莢果由来の化合物を有効成分とするものであるため、人体に対する安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の化合物の高分解能ESIマススペクトルを示す図である。
図2】本発明の化合物の紫外吸収スペクトルを示す図である。
図3】本発明の化合物の赤外吸収スペクトルを示す図である。
図4】本発明の化合物のH-NMRスペクトル(CDOD、600MHz)を示す図である。
図5】本発明の化合物の13C-NMRスペクトル(CDOD、150MHz)を示す図である。
図6】本発明の化合物のHSQCスペクトルを示す図である。
図7】本発明の化合物のHMBCスペクトルを示す図である。
図8】本発明の化合物のH-NMRシグナル及び13C-NMRシグナルを一覧にまとめた図である。
図9】本発明の化合物のHMBC相関を示す図である。
図10】実施例4における、本発明の化合物によるDPPHラジカル消去活性を示すグラフである。
図11】実施例5における、HepG2細胞に対する本発明の化合物の細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
図12】実施例5における、本発明の化合物によるHepG2細胞におけるROS生成抑制効果を示すグラフである。
図13】実施例6における、B16メラノーマ細胞に対する本発明の化合物の細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の新規フェニルプロパノイド化合物及びこれを含む美白剤、メラニン生成抑制剤、抗酸化剤、皮膚外用剤、化粧料及び皮膚美白用飲食品組成物並びにこの化合物の製造方法について説明する。
【0026】
本発明に係る下記式(I)で表される新規フェニルプロパノイド化合物は、グルコースと2-メチルプロピオン酸とがそれぞれシナピルアルコールにエステル結合した化合物である。
【0027】
【化2】
【0028】
本発明に係る新規フェニルプロパノイド化合物は塩であってもよく、薬理学的に許容される塩であることが好ましい。この新規フェニルプロパノイド化合物の薬理学的に許容される塩としては、酸又は塩基と形成される塩であればよく、特に限定されない。また、この新規フェニルプロパノイド化合物又はその塩は、溶媒和物であってもよく、特に限定されないが、例えば、水和物、エタノール等の有機溶媒和物が挙げられる。
【0029】
本発明に係る新規フェニルプロパノイド化合物は優れたメラニンの生成抑制作用を有しており、さらに抗酸化作用をも併せ持つことから、複数のメカニズムによる美白効果が得られる美白剤として用いることができる。すなわち、本発明に係る新規フェニルプロパノイド化合物により、皮膚におけるメラニン生成が抑制されると共に、抗酸化作用によってフリーラジカルが除去されるため、フリーラジカルによる損傷によって引き起こされる皮膚の老化による肌の暗色化が抑制され、相乗的な美白効果が発揮され得る。
【0030】
本発明において、メラニン生成抑制作用とは、本発明の新規フェニルプロパノイド化合物を添加又は投与されない状態のコントロールと比較して、例えば、B16メラノーマ細胞等のメラニン生成細胞におけるメラニン生成量が低減する作用を意味する。より具体的には、メラニン生成量がコントロールの80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。
【0031】
また、本発明において、抗酸化作用とは、本発明の新規フェニルプロパノイド化合物を添加又は投与されない状態のコントロールと比較して、例えば、DPPHラジカル消去率が高いこと、又は細胞内ROSを低減させる作用を意味する。
【0032】
本発明の新規フェニルプロパノイド化合物は、イナゴマメの莢果から分離、精製することにより得ることができる。本発明で用いられるイナゴマメとは、学名をCeratonia siliquaといい、マメ科ジャケツイバラ亜科イナゴマメ属の植物である。地中海沿岸地方を原産とする植物であるが、本発明においては、産地や栽培環境は特に限定されず、あらゆる産地及び栽培環境のイナゴマメを用いることができる。
【0033】
本発明の新規フェニルプロパノイド化合物のイナゴマメからの分離方法について説明する。まず、イナゴマメの莢果から含水アルコール抽出物を得る。本発明におけるイナゴマメ莢果の含水アルコール抽出物とは、イナゴマメの莢果に抽出溶媒として含水アルコールを加え、抽出処理を施すことによって得られた抽出物をいう。イナゴマメの莢果とは、イナゴマメの莢付果実の莢と果肉のことを意味し、莢又は果肉のいずれか一方を抽出材料として用いることも可能であるが、莢及び果肉を用いることがより好ましい。抽出処理は、採取された状態、すなわち、生の状態のイナゴマメ莢果、又は乾燥状態のイナゴマメ莢果に対して行われるが、抽出効率の向上を図るため、又は取り扱いを容易とするために種々の前処理が施されたイナゴマメ莢果に対して抽出処理を施すことも可能である。前処理としては、特に限定されないが、乾燥処理、破砕処理又は粉砕処理等が挙げられ、これら前処理が施されたイナゴマメの莢果に抽出処理を施して抽出物を得てもよい。
【0034】
抽出溶媒として用いられる含水アルコールを構成するアルコールとしては、本発明のフェニルプロパノイド化合物を抽出できるものであれば特に限定されず、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール又はイソブタノール等が挙げられる。このうち、人体への安全性及び抽出効率等の観点から、抽出溶媒としては、含水エタノールが好適に選択される。また、含水アルコールのアルコール濃度としては、50~99%が好ましく、60~97%がより好ましく、70~95%が特に好ましい。また、抽出溶媒には、本発明の化合物の抽出を妨げない範囲において、他の成分を含有させることも可能である。
【0035】
含水アルコールによる抽出方法としては、イナゴマメの莢果に抽出溶媒である含水アルコールを加えて浸漬させ、抽出を行う。例えば、イナゴマメ莢果を含水率10%未満の乾燥破砕物とした場合には、植物体1重量部に対し、抽出溶媒を5~10重量部用いることが好ましい。また、抽出方法としては、室温での抽出、加熱抽出、加圧加熱抽出又は亜臨界抽出等のいずれの方法でも行うことが可能であるが、抽出効率の観点から、還流操作による加熱抽出が好ましい。また、抽出効率を高めるため、抽出操作は複数回行うことが好ましく、抽出溶媒中のアルコール濃度を変えて複数回の抽出操作を行うことがさらに好ましい。特に限定されないが、具体的には、95%エタノールによる還流抽出を1~5回行い、引き続いて、70%エタノールによる還流抽出を1~5回行うといった抽出方法が挙げられる。抽出時間は、抽出方法、抽出材料の態様、抽出溶媒の種類又は抽出温度等に応じて種々設定されるが、例えば、70~95%のエタノールを用いて還流抽出を行う場合には、1回の抽出時間として1~3時間程度とすることが好ましく、1.5時間程度とすることが特に好ましい。上述した抽出処理後、残渣をデカンテーション、遠心分離又はろ過等により取り除くことによりイナゴマメの莢果の含水アルコール抽出物が得られる。得られた抽出物には減圧蒸留等の処理を施すことにより、濃縮液や固形物としたものも含まれる。
【0036】
上述のようにして得られたイナゴマメの莢果の含水アルコール抽出物については、イナゴマメの莢果に多量に含まれている糖類等が存在すると考えられるため、これら不要な成分を除去することを目的として、イオン交換樹脂による分離操作を行ってもよい。具体的には、イナゴマメの莢果の含水アルコール抽出物1重量部に対し、1~10重量部の水を加えて分散させ、マクロポーラス吸着樹脂等のイオン交換樹脂を詰めたカラムに通し、本発明のフェニルプロパノイド化合物を吸着させて、糖類などの不要成分を流出除去させる。その後、95%エタノール等で溶出させることにより、本発明のフェニルプロパノイド化合物を含む画分が回収される。
【0037】
引き続いて、イナゴマメの莢果の含水アルコール抽出物又は上述したイオン交換樹脂により分離された回収画分のさらなる分離操作について説明する。含水アルコール抽出物又は回収画分を水系溶媒に分散させ、石油エーテル、酢酸エチルの順に溶媒抽出を行う。水系溶媒としては、本発明のフェニルプロパノイド化合物を分散できるものであれば特に限定されないが、50%含水メタノールが好適に用いられる。石油エーテル/水系溶媒での液液抽出を複数回行った後、酢酸エチル/水系溶媒での液液抽出を複数回行う。この溶媒抽出操作により回収された酢酸エチル画分に本発明の新規なフェニルプロパノイド化合物が含まれる。各溶媒系での液液抽出の回数は2~10回程度が好ましく、5回程度が特に好ましい。
【0038】
上述のようにして得られた酢酸メチル画分から常法に基づき精製することにより、本発明の新規フェニルプロパノイド化合物が単離され得る。精製方法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィー等を挙げることができ、これらのうちの1種又は複数を組み合わせて精製することが可能である。各種クロマトグラフィーに用いられる担体や溶出溶媒等は、各種クロマトグラフィーに対応して適宣選択することができる。
【0039】
なお、上述のようにしてイナゴマメの莢果から分離、精製された本発明のフェニルプロパノイド化合物は、完全な純物質として単離されていなくてもよく、イナゴマメ原料由来の他の成分が一部含まれていてもよい。
【0040】
さらに、本発明の新規フェニルプロパノイド化合物は、公知の方法で合成して得られた合成品であってもよい。
【0041】
本発明の新規フェニルプロパノイド化合物は優れたメラニンの生成抑制作用を有しており、さらに抗酸化作用をも併せ持つことから、複数のメカニズムによる美白作用が得られる美白剤として用いることができる。また、このフェニルプロパノイド化合物は、メラニン生成抑制剤又は抗酸化剤として用いることができる。
【0042】
本発明の新規フェニルプロパノイド化合物を含有する美白剤及びメラニン生成抑制剤は、皮膚におけるメラニン生成を抑制すると共に、フリーラジカルによる損傷によって引き起こされる、皮膚の老化による肌の暗色化を抑制するための皮膚外用剤又は化粧料として用いることができる。また、本発明の新規フェニルプロパノイド化合物を含有する抗酸化剤は、フリーラジカルによる損傷によって引き起こされる皮膚の老化を防ぎ、皮膚を安定した状態に保つための皮膚外用剤として用いることができる。また、本発明の抗酸化剤は、フリーラジカルによる損傷によって引き起こされる皮膚の老化を防ぎ、皮膚のたるみやキメの粗化、肌のくすみを予防し、皮膚を健やかに保つ作用を有する化粧料として用いることができる。
【0043】
本発明の美白剤、メラニン生成抑制剤及び抗酸化剤の投与量は、目標とする効果、治療効果、投与方法又は年齢などによって変化するので一概には規定できないが、外用剤として用いた場合における、通常一日の非経口的な投与量は、本発明のフェニルプロパノイド化合物として、0.2μg~30mgとすることが好ましく、1μg~3mgとすることがより好ましく、5μg~500μgとすることがさらに好ましい。また、内用剤として用いた場合における、経口的な投与量としては、本発明のフェニルプロパノイド化合物として、通常一日1μg~1000mgとすることが好ましく、5μg~500mgとすることがより好ましい。
【0044】
本発明の美白剤、メラニン生成抑制剤及び抗酸化剤並びに皮膚外用剤及び化粧料の剤形は、特に限定されず、例えば、低粘度液体、ローション等の液剤、乳液、ゲル、ペースト、クリーム、フォーム、パック、軟膏、粉剤、エアゾール又は貼付剤等、並びに錠剤、顆粒剤、カプセル剤又は内服用液剤等が挙げられる。なお、本発明に係る美白剤、メラニン生成抑制剤及び抗酸化剤は、化粧品、医薬部外品又は医薬品のいずれにも適用することができる。具体的な製品としては、特に限定されないが、化粧水、化粧クリーム、化粧乳液、美容液、化粧パック、化粧洗浄料、石鹸、ヘアケア剤、浴用剤又はメーキャップ化粧料、抗ニキビスキンケア化粧料等が挙げられる。
【0045】
本発明の美白剤、メラニン生成抑制剤及び抗酸化剤並びに皮膚外用剤及び化粧料中において、本発明の新規フェニルプロパノイド化合物の配合濃度は、好ましくは0.001mM~1mMであり、より好ましくは5μM~100μMであり、さらに好ましくは10μM~100μMである。新規フェニルプロパノイド化合物の配合量をこの範囲内とすることにより、本化合物を安定に配合することができ、皮膚への安全性も高く、高い美白効果、メラニン生成抑制作用及び抗酸化作用を発揮することができる。
【0046】
本発明の美白剤、メラニン生成抑制剤及び抗酸化剤は、従来慣用されている方法により種々の形態に調製することができる。この場合、通常製剤用の担体や賦形剤など、医薬品の添加剤として許容されている添加剤を用いて製剤化することができる。また、本化合物のバイオアベイラビリティーや安定性を向上させるために、マイクロカプセル、微粉末化、シクロデキストリン等を用いた包接化などの製剤技術を含むドラッグデリバリーシステムを用いることもできる。
【0047】
また、本発明の美白剤、メラニン生成抑制剤及び抗酸化剤並びに皮膚外用剤及び化粧料には、皮膚外用剤及び化粧料に通常用いられる成分である水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、ビタミン類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素又はキレート剤等の成分を適宜配合することができる。さらに、本発明の作用効果を損なわない範囲において、通常用いられる各種の機能性成分、例えば、保湿剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、紫外線防御剤、血行促進剤及び他の美白剤・抗酸化剤等から選ばれる機能性成分の一種または二種以上と併用することができる。
【0048】
さらに、本発明の皮膚美白用飲食品組成物は、本発明の新規フェニルプロパノイド化合物を活性成分として含有している。本発明の皮膚美白用飲食品組成物は、錠剤やカプセル剤、顆粒剤、シロップ剤などのサプリメント形態、清涼飲料、果汁飲料、アルコール飲料などの飲料、アメやガム、クッキー、ビスケット、チョコレート等の菓子、パン、粥、シリアル、麺類、ゼリー、スープ、乳製品、調味料等のあらゆる形態とすることができる。このように飲食品として用いる際には、本発明の有効成分の効能に影響を与えない範囲において、他の有効成分や、ビタミン、ミネラル若しくはアミノ酸等の栄養素等を種々組み合わせることも可能である。本発明の飲食品には、サプリメント、健康食品、機能性食品、特定保健用食品等が含まれる。また、本発明の飲食品の1日あたりの摂取量は、本発明のフェニルプロパノイド化合物として、通常一日1μg~1000mgとすることが好ましく、5μg~500mgとすることがより好ましい。
【0049】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0050】
[実施例1]
1.イナゴマメ莢果の含水アルコール抽出物の調製
採取後、乾燥処理されたイナゴマメ(Ceratonia siliqua)の莢付果実から種を取り除いた。このイナゴマメの莢果を粉砕機で粉砕して粒径2mm以下の粉砕物を得た。20kgの粉砕物に対し、140kg(7倍量)の含水95%エタノールを加え、1.5時間還流抽出する操作を2回行った後、残渣をさらに140kg(7倍量)の含水70%エタノールで1.5時間還流抽出した。得られた還流抽出液を合わせた後、溶媒を減圧留去してイナゴマメ莢果の含水エタノール抽出物12.4kgを得た。
【0051】
[実施例2]
2.イナゴマメ莢果の含水アルコール抽出物の分離及び精製
実施例1で得られたイナゴマメ莢果の含水エタノール抽出物を1~10倍量の水に分散させ、イオン交換樹脂(マクロポーラス吸着樹脂D101、Cangzhou Bon Adsorber Technology Co., Ltd.)に吸着させた。カラム容量の3倍量の蒸留水で溶出して糖類等の不純物を除去した後、カラム容量の3倍量の含水95%エタノールで溶出させ、溶媒を減圧留去し、462.7gのエタノール溶出画分(非炭水化物系低分子化合物画分)を得た。次に、得られたエタノール溶出画分を1.0Lの含水50%メタノールに分散させ、石油エーテル、酢酸エチルの順に、それぞれ5回ずつ液液抽出を行った。各溶媒を減圧留去して、石油エーテル画分28.4g、酢酸エチル画分139.4g及び水系画分290.2gをそれぞれ得た。
【0052】
次に、135.0gの酢酸エチル画分について、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(カラム充填材:200~300メッシュ、青島海洋化工場製品)に供し、石油エーテル(P)/酢酸エチル(E)及びジクロロメタン(C)/メタノール(M)の2つの展開溶媒を用いて溶出させ、分画を行った。この結果、108個の溶出画分が得られた。得られた108個の溶出画分について、薄層クロマトグラフィー(シリカゲルGF254プレート、青島海洋化工場製品)による同定を行い、類似する画分を合わせて10個の溶出画分A~Jを得た。
【0053】
次に、溶出画分I(20.0g)について、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(カラム充填材:40~63μm、メルク社製品)に供し、メタノール:水=15:85→100:0の勾配溶出により分画を行った。得られた溶出画分について、薄層クロマトグラフィー(シリカゲルGF254プレート、青島海洋化工場製品)による同定を行い、類似する画分を合わせて5つの溶出画分I1~I5を得た。
【0054】
次に、溶出画分I5(2.7g)について、ゲルろ過クロマトグラフィー(カラム充填材:Sephadex LH-20)に供し、ジクロロメタン:メタノール=1:1で溶出させ、5つの溶出画分I5a~I5eを得た。
【0055】
次に、溶出画分I5b(0.5g)をセミ分取HPLC(カラムI:YMC-Pack ODS-A、250×20mm、5μm)に供し、メタノール:水=55:45、検出波長220nmで分離し、画分I5b1を得た。この画分I5b1をセミ分取HPLC(カラムII:YMC-Pack ODS-A、250×10mm、5μm)に供し、メタノール:水=55:45、検出波長267nmで分離して、本発明の化合物(以下、「Ceratonia siliqua B」という。)48.3mgを得た(保持時間tR=27.27分)。
【0056】
[実施例3]
3.化合物(Ceratonia siliqua B)の構造解析
実施例2で得られた化合物、「Ceratonia siliqua B」の構造解析を行った。構造解析にあたり、高分解能質量分析(HR-ESI-MS;正イオンモード)、紫外吸収スペクトル分析、赤外吸収スペクトル分析、H-NMR、13C-NMR、HMBC及びHSQC分析を行った。これらの分析に用いた装置は次のとおりである。
・高分解能質量分析:エレクトロスプレーイオン化四重極飛行時間型質量分析装置(Bruker Daltonics社製品)
・紫外吸収スペクトル分析:紫外可視分光光度計(UV-2401PC、株式会社島津製作所製品)
・赤外吸収スペクトル分析:FT-IR(NEXUS470、Thermo nicolet社製品)
・NMR分析:600MHz核磁気共鳴装置(AVANCE III 600、Bruker社製品)
【0057】
Ceratonia siliqua Bの物理的性質は以下のとおりである。高分解能質量分析(HR-ESI-MS)のスペクトルを図1に、紫外吸収スペクトル分析の結果を図2に、赤外吸収スペクトル分析の結果を図3にそれぞれ示す。
・性状:黄色粉末
・HR-ESI-MS(positive) m/z:465.1983[M+Na]
・紫外吸収スペクトル:λmax(MeOH)nm (logε):193.6(3.73),211.6(4.32),269.2(3.97)
・赤外吸収スペクトル(KBr、cm-1):νmax:3393.18,2933.52,1731.29,1587.20,1506.71,1464.86,1421.12,1388.81,1336.38,1243.07,1158.97,1129.16,1070.11,625.20,609.78,595.24,581.17,566.35,536.59,523.24
【0058】
高分解能質量分析(図1)の結果、準分子イオンピークが、m/z 465.1983[M+Na]であることから、組成式はC213010、不飽和度は7と推定された。また、紫外吸収スペクトル(図2)からは、211nm及び269nmに最大吸収があることから、Ceratonia siliqua Bはフェニルプロパノイド系化合物である可能性が示唆された。また、赤外吸収スペクトル(図3)からは、分子構造に、水酸基(3393.18cm-1)、ベンゼン環(1587.20cm-1、1506.71cm-1)及びエステル結合(1731.29cm-1、1129.16cm-1)等の官能基が含まれることが示された。
【0059】
さらに、H-NMR分析(溶媒:CDOD、観測周波数:600MHz)により得られたスペクトル(図4)からは、一組の1,3,4,5-置換ベンゼン環水素シグナル[δ:6.76(2H,s,H-2,H-6)]、一組のトランス-オレフィンプロトンシグナル[δ:6.61(1H,d,J=16.2Hz,H-7),6.30(1H,dt,J=15.6Hz,J=6.0Hz,H-8)]、1つのメチレン水素シグナル[δ:4.71(2H,d,J=6.0Hz,H-9)]、2つのメトキシ基シグナル[δ:3.86(6H,s,OCH-3,OCH-5)]、1つのメチン基シグナル[δ:2.60(1H,m,H-2′)]、2つのメチル基シグナル[δ:1.18(6H,d,J=7.2Hz,H-1′/H-4′)]、一組のグルコース残基の水素シグナル[δ:4.89(1H,d,J=7.8Hz,H-1″),3.78(1H,dd,J=12.0Hz,J=2.4Hz,H-6α″),3.67(1H,dd,J=12.0Hz,J=5.4Hz,H-6β″),3.48(1H,m,H-2″),3.43(1H,m,H-3″),3.42(1H,m,H-4″),3.22(1H,m,H-5″)]が確認された(図8)。また、13C-NMR分析(溶媒:CDOD、観測周波数:150MHz)により得られたスペクトル(図5)からは、21の炭素シグナルが確認された(図8)。その中には、1つのエステルのカルボニル基炭素シグナル(δ:178.5)、8個の芳香族又はオレフィンの炭素シグナル(δ:154.3×2,136.2,134.8,134.5,124.4,105.6×2)、1つのメチレン基シグナル(δ:66.0)、2つのメトキシ基シグナル(δ:57.0×2)、1つのメチン基シグナル(δ:35.2)、2つのメチル基シグナル(δ:19.3×2)、一組のグルコース残基の炭素シグナル(δ:105.2,78.3,77.8,75.7,71.3,62.5)が含まれていた。これらの解析結果より、本化合物のNMRデータはシリンギン(Syringin)と類似するが、本化合物には、さらに2-メチルプロピオン酸ユニットが含まれている点で、シリンギンとは異なる化合物であることがわかった。
【0060】
また、HMBC分析により得られたスペクトル(図7)からは、H-2/H-6とC-4、H-7とC-2/C-6、H-8とC-1、H-9とC-7及びH-1″とC-4のロングレンジ相関シグナルが確認された。この結果より、本化合物の構造にシリンギンユニットが存在することが示された。また、H-1′とC-3′/C-4′、H-2′とC-3′/C-4′にロングレンジ相関シグナルが確認されたことから、本化合物の構造に2-メチルプロピオン酸ユニットが存在することが示された。さらに、H-9とC-3′とにロングレンジ相関シグナルが確認されたことにより、2-メチルプロピオン酸ユニットがC-9位に結合していることが示された。グルコース末端のプロトンの結合定数は7.8Hzであり、グルコースの末端の相対配置はβ型であることがわかった。これらの解析結果から本化合物、Ceratonia siliqua Bの構造を以下式(I)のとおり決定した。図8に、HSQCスペクトル及びHMBCスペクトル分析に基づく、H-NMRのδ及び13C-NMRのδをまとめた帰属表を示す。また、図9にCeratonia siliqua BのHMBCの解析結果を示す。
【0061】
【化3】
【0062】
[実施例4]
4.Ceratonia siliqua Bの抗酸化活性(1)
実施例2で得たCeratonia siliqua Bを用いて、Ceratonia siliqua BのDPPHラジカル消去活性を測定した。
【0063】
まず、実施例2で得たCeratonia siliqua Bを正確に秤り取り、メタノールに溶解して、濃度100μMのサンプル液を調製した。この濃度100μMのサンプル液をさらにメタノールで希釈し、1μM、5μM、10μM及び50μMの異なる濃度のサンプル液を得た。次に、2mgのDPPH(2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル)を50mLのメタノールに溶解させ、100μMのDPPH溶液を調製した。
【0064】
96ウェルマイクロプレートのウェルに190μLのDPPH溶液を入れ、サンプル液10μLをすばやく添加した。ウェル内の反応液の総量は200μLであった。プレートを穏やかに振とうし、暗所で室温にて30分間反応させた。その後、マイクロプレートリーダーにて517nmにおける吸光度(Aサンプル)を測定した。また、ブランクとして、サンプル液の代わりにメタノールを添加した反応液を用い、ブランクの吸光度(Aブランク)を測定した。さらに、サンプルブランクとして、各濃度のサンプル液そのものの着色による吸光度(Aサンプルブランク)を測定した。試験は各濃度のサンプル液、ブランク及びサンプルブランクについて、3回(3ウェル)ずつ行った(n=3)。
【0065】
ラジカル消去率(%)は、以下式で求めた。
ラジカル消去率(%)=[Aブランク-(Aサンプル-Aサンプルブランク)]/Aブランク×100
ブランクはブランクの吸光度、Aサンプルはサンプル液の吸光度、Aサンプルブランクはサンプルブランクの吸光度である。
【0066】
結果を図10に示す。本発明の化合物、Ceratonia siliqua Bは濃度依存的にDPPHラジカルを消去することが示された。これにより、Ceratonia siliqua Bはラジカル消去活性、すなわち抗酸化活性を有することがわかった。
【0067】
[実施例5]
5.Ceratonia siliqua Bの抗酸化活性(2)
実施例2で得たCeratonia siliqua Bを用いて、Ceratonia siliqua Bが、生細胞中の活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)の生成に与える影響を調べた。
【0068】
(ア)生細胞及びその細胞培養条件
本試験においては、生細胞として、ヒト肝由来腫瘍細胞株であるHepG2細胞を用いた。HepG2細胞は、DMEM培地(10%FBS、100U/mLのペニシリン及び100μM/mLストレプトマイシンを含む)で37℃、5%CO存在下、飽和湿度条件下で培養した。
【0069】
(イ)サンプル液の調製
Ceratonia siliqua BをDMEM培地で希釈し、1μM、5μM、10μM、50μM及び100μMの異なる濃度のサンプル液を得た。
【0070】
(ウ)HepG2細胞に対する細胞毒性の検討
まず、MTT試験により、HepG2細胞に対するCeratonia siliqua Bの細胞毒性の有無の確認を行った。3代以上継代培養されたHepG2細胞をトリプシン処理し、1×10個/mLの濃度の単一細胞の懸濁液を調製した。96ウェルマイクロプレートの各ウェルにこの細胞懸濁液を100μLずつ播種し、COインキュベーターで24時間培養した。培養後、上清を除去して、対照(ブランクコントロール)群と試験群とに分け、対照群にはDMEM培地を200μL添加し、試験群には上記(イ)のサンプル液をそれぞれ200μLずつ添加した。COインキュベーターで48時間培養した後、上清を除去し、0.5mg/mLのMTTを100μLずつ添加した。4時間後、上清を除去し、DMSOを150μLずつ添加し、マイクロプレートリーダーにて570nmにおける吸光度を測定した。試験は対照群、試験群における各濃度のサンプル液について、3回(3ウェル)ずつ行った(n=3)。
【0071】
結果を図11に示す。対照(ブランクコントロール)群の値を100として、試験群の細胞生存率を算出した。1~100μMの濃度において、本発明の化合物であるCeratonia siliqua Bは、HepG2細胞に対する細胞毒性を有さないことがわかった。
【0072】
(エ)HepG2細胞中のROSの測定
1×10個/mLの濃度のHepG2細胞懸濁液を調製し、96ウェルマイクロプレートの各ウェルにこの細胞懸濁液を100μLずつ播種し、COインキュベーターで24時間培養した。これをブランクコントロール群、陽性対照群及び試験群に分け、ブランクコントロール群にはDMEM培地を100μL添加し、陽性対照群にはL-アスコルビン酸をDMEM培地に溶解させた溶液を100μL添加し(L-アスコルビン酸の最終濃度:100μM)、試験群にはCeratonia siliqua BをDMEM培地で適宜希釈した溶液を異なる濃度(最終濃度:1μM、5μM、10μM、50μM及び100μM)となるように100μLずつ添加した。COインキュベーターで24時間培養した後、各ウェルから培養液を除去し、無血清培地を100μL加えて洗浄することを3回繰り返した。次に、10μMのDCFH-DA(2',7'-Dichlorofluorescin diacetate)を100μLずつ各ウェルに加え、COインキュベーターで60分間インキュベートした後、各ウェルからDCFH-DAを除去し、無血清培地を100μL加えて洗浄することを3回繰り返した。最後に無血清培地で希釈した400μMの過酸化水素(H)を100μLずつ各ウェルに添加し、90分間インキュベートした。その後、ウェル内の培地を除去し、100μLのPBSを加え、励起波長485nmで535nmにおける蛍光強度を測定した。ブランクコントロール群の蛍光強度を1.0(Basal)として、陽性対照群及び試験群のROS生成量を算出した。試験はブランクコントロール群、陽性対照群及び試験群における各濃度のサンプル液について、3回(3ウェル)ずつ行った(n=3)。
【0073】
結果を図12に示す。Vit.Cは陽性対照である100μMのL-アスコルビン酸を示している。本発明の化合物であるCeratonia siliqua Bは、HepG2細胞中で過酸化水素によって誘発されるROSの増加を濃度依存的に阻害することが示された。これにより、Ceratonia siliqua Bは生細胞中におけるROSの生成量を低減させる抗酸化活性を有することがわかった。
【0074】
[実施例6]
6.Ceratonia siliqua Bのメラニン生成抑制効果
実施例2で得たCeratonia siliqua Bを用いて、Ceratonia siliqua Bのメラニン生成抑制効果を調べた。
【0075】
(ア)細胞培養条件
本試験においては、B16メラノーマ細胞を用いた。B16メラノーマ細胞は、マウス皮膚の黒色腫瘍由来細胞株であり、メラニン産生能を有している。B16メラノーマ細胞は、DMEM培地(10%FBS、100U/mLのペニシリン及び100μM/mLストレプトマイシンを含む)で37℃、5%CO存在下、飽和湿度条件下で培養した。
【0076】
(イ)サンプル液の調製
Ceratonia siliqua BをDMEM培地で希釈し、1μM、5μM、10μM、50μM及び100μMの異なる濃度のサンプル液を得た。
【0077】
(ウ)B16メラノーマ細胞に対する細胞毒性の検討
まず、MTT試験により、B16メラノーマ細胞に対するCeratonia siliqua Bの細胞毒性の有無の確認を行った。3代以上継代培養されたB16メラノーマ細胞をトリプシン処理し、3×10個/mLの濃度の単一細胞の懸濁液を調製した。96ウェルマイクロプレートの各ウェルにこの細胞懸濁液を100μLずつ播種し、COインキュベーターで一晩インキュベートした。各ウェルから上清を除去して、対照(ブランクコントロール)群と試験群とに分け、対照群にはDMEM培地を200μL添加し、試験群には上記(イ)のサンプル液をそれぞれ200μLずつ添加した。COインキュベーターで48時間培養した後、上清を除去し、0.5mg/mLのMTTを100μLずつ添加した。4時間後、上清を除去し、DMSOを150μLずつ添加し、マイクロプレートリーダーにて570nmにおける吸光度を測定した。試験は対照群及び試験群における各濃度のサンプル液について、3回(3ウェル)ずつ行った(n=3)。
【0078】
結果を図13に示す。対照(ブランクコントロール)群の値を100として、試験群の細胞生存率を算出した。1~100μMの濃度において、本発明の化合物であるCeratonia siliqua Bは、B16メラノーマ細胞に対する細胞毒性を有さないことがわかった。
【0079】
(エ)B16メラノーマ細胞のメラニン生成量の測定
B16メラノーマ細胞の単一細胞の懸濁液を調製し、12ウェルマイクロプレートの各ウェルに4×10個のB16メラノーマ細胞をそれぞれ播種した。COインキュベーターで一晩培養した後、上清を除去し、ブランクコントロール群、陽性対照群及び試験群に分けた。ブランクコントロール群にはDMEM培地を1mL添加し、陽性対照群にはL-アスコルビン酸を異なる濃度でDMEM培地に溶解させた溶液(L-アスコルビン酸の濃度:0.1μM、5μM、10μM)を1mLずつ添加し、試験群には上記(イ)のサンプル液をそれぞれ1mLずつ添加した。48時間培養した後、各ウェルから上清を除去し、PBSバッファーで2回洗浄した後、トリプシン処理を行い、1.2mLのPBSバッファーを加えて単一細胞の懸濁液を調製した。この細胞懸濁液のうち200μLを分取し、蛋白質含有量を決定した。また、残りの細胞懸濁液は3000rpmで5分間遠心分離して上清を除去した後、1%DMSOを含む1MのNaOH溶液を250μL加え、80℃に加温したウォーターバスで30分間溶解させた。この溶解液の200μLを取り、405nmにおける吸光度(A試験群、陽性対照群、Aブランクコントロール群)を測定した。試験はブランクコントロール群、陽性対照群及び試験群における各濃度のサンプル液について、3回(3ウェル)ずつ行った(n=3)。
【0080】
細胞内のメラニンの生成抑制率(%)は、以下式で求めた。
試験群のメラニンの生成抑制率(%)=1-[(A試験群/試験群の蛋白質含有量)/(Aブランクコントロール群/ブランクコントロール群の蛋白質含有量)]。
陽性対照群のメラニンの生成抑制率(%)=1-[(A陽性対照群/陽性対照群の蛋白質含有量)/(Aブランクコントロール群/ブランクコントロール群の蛋白質含有量)]。
ここで、A試験群は試験群の吸光度、A陽性対照群は陽性対照群の吸光度、Aブランクコントロール群はブランクコントロール群の吸光度である。
【0081】
結果を以下表1に示す。陽性対照であるL-アスコルビン酸は10μMの濃度において、メラニン生成に対する有意な抑制効果を示し(P<0.01)、その抑制率は32.8%であった。他方、本発明の化合物であるCeratonia siliqua Bについても、10~100μMの濃度において、B16メラノーマ細胞のメラニン生成に対する有意な抑制効果が認められた(P<0.05)。Ceratonia siliqua Bのメラニン生成抑制効果はその濃度に比例して高くなり、100μMの濃度で30%超ものメラニン生成抑制効果を示した。
【0082】
【表1】
【0083】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の新規フェニルプロパノイド化合物は、美白剤、メラニン生成抑制剤、抗酸化剤、皮膚外用剤及び化粧品として使用され、医療や美容の分野において幅広く利用されるものである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13