(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185624
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】積層電極体の製造方法及び全固体二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20221208BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221208BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093354
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100194777
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 憲治
(72)【発明者】
【氏名】片山 祐也
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓海
(72)【発明者】
【氏名】藤本 晃広
(72)【発明者】
【氏名】土江 宏典
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ01
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM11
5H029CJ03
5H029HJ15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内部抵抗が低い積層電極体の製造方法、及び、負荷特性に優れた全固体二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】硫化系固体電解質粒子を120MPa未満の面圧で加圧して前記固体電解質層を得るための第1仮成形層を形成する。その第1仮成形層の一方の主面に第1電極合剤を配置し、第1電極合剤を1000MPa未満の面圧で加圧して第1仮成形層の一方の主面に第1電極層を得るための第2仮成形層を形成する。そして、第1仮成形層の他方の主面に第2電極層を得るための第2電極合剤を配置し、第2電極合剤、第1仮成形層及び第2仮成形層を所定の面圧で加圧して積層電極体を形成する。これにより各層のひび割れを抑制し、各層の厚みを均一にすることで内部抵抗が低い積層電極体を製造でき、この積層電極体をケースに収容することで負荷特性に優れた全固体二次電池を製造できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の主面に積層された第1電極層と、前記固体電解質層の他方の主面に積層された第2電極層とを有する積層電極体の製造方法であって、
硫化系固体電解質粒子を120MPa未満の面圧で加圧して前記固体電解質層を得るための第1仮成形層を形成する工程と、
前記第1仮成形層の一方の主面に第1電極合剤を配置する工程と、
前記第1電極合剤を500MPa未満の面圧で加圧して前記第1仮成形層の一方の主面に前記第1電極層を得るための第2仮成形層を形成する工程と、
前記第1仮成形層の他方の主面に前記第2電極層を得るための第2電極合剤を配置する工程と、
前記第2電極合剤、前記第1仮成形層及び前記第2仮成形層を所定の面圧で加圧して前記積層電極体を形成する工程と、を含む積層電極体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の積層電極体の製造方法であって、
前記第1仮成形層を形成する工程において、前記硫化系固体電解質粒子は、30MPa以上の面圧で加圧される、積層電極体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層電極体の製造方法であって、
前記第2仮成形層を形成する工程において、前記第1電極合剤は、30MPa以上の面圧で加圧される、積層電極体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の積層電極体の製造方法であって、
前記第1電極合剤は、負極合剤であり、
前記第1電極層は、負極層である、積層電極体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層電極体の製造方法であって、
前記積層電極体を形成する工程において、前記第2電極合剤、前記第1仮成形層及び前記第2仮成形層は、1000MPa以上の面圧で加圧される、積層電極体の製造方法。
【請求項6】
全固体二次電池の製造方法であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層電極体の製造方法によって製造された前記積層電極体をケースの内部に収容する工程を含む、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質層を有する積層電極体及び全固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話又はノート型パソコン等の携帯電子機器の発達、及び、電気自動車の実用化等に伴い、小型及び軽量、かつ、高容量及び高エネルギー密度の二次電池の必要性が増している。
【0003】
従来、この必要性を満たす二次電池として、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が用いられている。しかしながら、リチウムイオン二次電池は、非水電解質として可燃性物質である有機溶媒を含んでいる。また、上述した機器及び電気自動車等の発達によってリチウムイオン二次電池が高エネルギー密度化し、また、可燃性物質である有機溶媒の量が増加傾向にある。その結果、リチウムイオン二次電池には、より一層の信頼性が求められている。
【0004】
このような状況において、有機溶媒を用いない全固体型のリチウム二次電池(全固体二次電池)が注目されている。全固体二次電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の成形体を用いるものである。
【0005】
全固体二次電池は、種々の改良が試みられている。特開2017-10816号公報(特許文献1)は、全固体電池の製造方法を開示している。この全固体電池の製造方法は、正極積層体をプレスする第一プレス工程、負極積層体をプレスする第二プレス工程、並びに、正極積層体、中間固体電解質層及び負極積層体をプレスする第三プレス工程を含む。正極積層体及び負極積層体の少なくとも一方は、中間固体電解質層とは別に第一又は第二固体電解質層を有している。第三プレス工程のプレス圧力は、第一プレス工程のプレス圧力及び第二プレス工程のプレス圧力より高い。中間固体電解質層が第三プレス工程でプレスされる前には、第三プレス工程のプレス圧力を超える圧力でプレスされない。また、各プレス工程においてプレス温度が調整されている。すなわち、各プレス工程におけるプレス圧力及びプレス温度を調整し、かつ、第一又は第二固体電解質層を有することにより、短絡を抑制し、かつ内部抵抗値が低下した全固体電池を提供している。
【0006】
国際公開2020/66323号公報は、一例として、固体電解質層に対して正極及び負極のそれぞれを積層することによって電極積層体を作製する扁平形全固体電池の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-10816号公報
【特許文献2】国際公開2020/66323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の全固体電池の製造方法は、例えば、第二固体電解質層を省略する場合は、中間固体電解質層を構成する固体電解質を負極活物質層の表面にプレスすることになる。そのため、第二固体電解質層と負極活物質層との接合状態が良好になり難くい。その結果、第二固体電解質層と負極活物質層との界面での抵抗が高くなり、電池の負荷特性が低下する要因となる。
【0009】
一方、特許文献2は、固体電解質層に対して正極及び負極のそれぞれを積層することによって電極積層体を作製することを開示しているが、内部抵抗が低い積層電極体を形成するための具体的な提案は何ら示されていない。
【0010】
そこで、本開示は、内部抵抗が低い積層電極体の製造方法、及び、負荷特性に優れた全固体二次電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示は次のように構成した。すなわち、本開示に係る積層電極体の製造方法は、固体電解質層と、固体電解質層の一方の主面に積層された第1電極層と、固体電解質層の他方の主面に積層された第2電極層とを有する積層電極体の製造方法であってよい。硫化系固体電解質粒子を120MPa未満の面圧で加圧して前記固体電解質層を得るための第1仮成形層を形成する工程を含んでよい。第1仮成形層の一方の主面に第1電極合剤を配置する工程を含んでよい。第1電極合剤を500MPa未満の面圧で加圧して第1仮成形層の一方の主面に前記第1電極層を得るための第2仮成形層を形成する工程を含んでよい。第1仮成形層の他方の主面に第2電極層を得るための第2電極合剤を配置する工程を含んでよい。第2電極合剤、第1仮成形層及び第2仮成形層を所定の面圧で加圧して積層電極体を形成する工程を含んでよい。
【0012】
第1仮成形層を形成する工程において、硫化系固体電解質粒子は、30MPa以上の面圧で加圧されてよい。
【0013】
第2仮成形層を形成する工程において、第1電極合剤は、30MPa以上の面圧で加圧されてよい。
【0014】
第1電極合剤は、負極合剤であってよい。第1電極層は、負極層であってよい。
【0015】
積層電極体を形成する工程において、第2電極合剤、第1仮成形層及び第2仮成形層は、1000MPa以上の面圧で加圧されてよい。
【0016】
本開示に係る全固体二次電池の製造方法は、上述の積層電極体の製造方法によって製造された積層電極体をケースの内部に収容する工程を含んでよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る積層電極体の製造方法によれば、内部抵抗が低い積層電極体を形成することができる。全固体二次電池の製造方法によれば、負荷特性に優れた全固体二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示に係る積層電極体及び全固体二次電池の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本開示に係る積層電極体の製造方法を示す概略図である。
【
図3】
図3は、積層電極体の製造方法を示す概略図である。
【
図4】
図4は、積層電極体の製造方法を示す概略図である。
【
図5】
図5は、積層電極体の製造方法を示す概略図である。
【
図6】
図6は、積層電極体の製造方法を示す概略図である。
【
図7】
図7は、積層電極体の製造方法を示す概略図である。
【
図8】
図8は、積層電極体の製造方法を示す概略図である。
【
図9】
図9は、積層電極体の製造方法を示す概略図である。
【
図10】
図10は、本開示に係る製造方法によって製造された全固体二次電池の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示に係る積層電極体1及び全固体二次電池10の製造方法について、
図1~10を用いて具体的に説明する。
図1は、積層電極体1及び全固体二次電池10の製造方法を示すフローチャートである。まず、本開示に係る積層電極体1の製造方法について、
図1を参照しながら、
図2~9を用いて具体的に説明する。なお、製造された積層電極体1は、後述するように、固体電解質層23と、固体電解質層23の一方の主面に積層された負極層(電極層)33と、固体電解質層23の他方の主面に積層された正極層(電極層)42を有する。なお、本開示に係る積層電極体1の製造方法は、例えば120μm以下の厚みを有する固体電解質層23を含む積層電極体1の製造に好適に用いることができる。
【0020】
(工程1(S1))
図2に示すように、まず、加圧装置100を準備する。加圧装置100は、上下に貫通した臼孔101aを有するダイス101と、臼孔101aの下方から挿入されて臼孔101a内を摺動する下杵102と、臼孔101aの上方から挿入されて臼孔101a内を摺動する上杵103とを備えている。ダイス101は、板状に形成されている。臼孔101aは、ダイス101の上面から下面にかけて円筒状に開口形成されている。下杵102と上杵103とは各々、臼杵の開口形状に沿う円柱形状に形成されている。加圧装置100は、プレス機を用いて下杵102及び上杵103を上下方向に摺動させることにより、臼孔101aに充填された材料を加圧する。加圧装置100は、本実施形態では、粉末成形金型である。加圧装置100は、粉末成形金型に限られず、後述する所定の面圧で加圧して積層電極体1を成形できれば、錠剤成型機などであってもよい。
【0021】
(工程2(S2))
図3に示すように、臼孔101aに下杵102を挿入し、臼孔101aの下方の開口を下杵102により閉じた状態で、臼孔101aの上方から硫化物系固体電解質粒子21を充填する。硫化物系固体電解質粒子21は、特に図示しないが、ダイス101の上面を平行に移動するホッパーから臼孔101aに充填される(以下、臼孔101aに充填される負極合剤31及び正極合剤41においても同じ。)。ホッパーは、硫化物系固体電解質粒子21を充填する際に臼孔101aの上方に移動し、硫化物系固体電解質粒子21を充填しないときは臼孔101aの上方以外の場所で待機している。硫化物系固体電解質粒子21は、例えば、1mgの硫化物系固体電解質材料(Li
6PS
5Cl)である。なお、硫化物系固体電解質粒子21は、特に限定はされず、イオン伝導性の点から他のアルジロダイト型等の硫化物系固体電解質材料であってもよい。
【0022】
(工程3(S3))
図4に示すように、硫化物系固体電解質粒子21を120MPa未満の面圧で上方から上杵103によって加圧(仮プレス)し、後述する固体電解質層23を得るための仮成形層22を形成する。この面圧が120MPa以上である場合、仮成形層22にひび割れが生じ得る。その結果、仮成形層22から得られる固体電解質層23の内部抵抗が高くなってしまう。また、負極層33と正極層42とが接触しやすくなり全固体二次電池10において内部短絡が生じ得る。一方、面圧が120MPa未満である場合、仮成形層22のひび割れを抑制できる。その結果、内部抵抗が低く、また、内部短絡を抑制できる固体電解質層23を形成することができる。ただし、この面圧が低すぎると、仮成形層22の形状を維持できず、後述する(工程6)において、仮成形層22の位置がズレたり仮成形層22の一部が脱落するなどして、加圧後に固体電解質層23の厚みが均一になり難い。固体電解質層23の厚みの不均一は、電池性能の低下の原因となる。このような観点から、硫化物系固体電解質粒子21を加圧する面圧は、30MPa以上、好ましくは40MPa以上、より好ましくは50MPa以上とするのがよく、120MPa未満、好ましくは100MPa未満、より好ましくは90MPa未満とするのがよい。
【0023】
(工程4(S4))
図5に示すように、負極合剤(電極合剤)31を臼孔101aに充填し、仮成形層22の一方の主面、すなわち、図中の仮成形層22の上面に負極合剤31を配置する。負極合剤31は、例えば、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質として、LTO(Li
4Ti
5O
12、チタン酸リチウム)と、硫化物系固体電解質(Li
6PS
5Cl)と、カーボンナノチューブとを重量比で50:41:9の割合で含有した129mgの混合物である。なお、負極合剤31は、特に限定されるものではなく、例えば、金属リチウム、リチウム合金などの金属材料や、黒鉛、低結晶カーボンなどの炭素材料や、SiO、LTO(Li
4Ti
5O
12、チタン酸リチウム)等であってもよく、これらを適宜混合したものであってもよい。
【0024】
(工程5(S5))
図6に示すように、仮成形層22の上面に配置された負極合剤31を上方から500MPa未満の面圧で上杵103によって加圧(仮プレス)し、負極層33を得るための仮成形層32を形成する。この面圧が500MPa以上である場合、仮成形層32にひび割れが生じたり、後述する(工程8)における正極合剤41の加圧の際に、固体電解質層23と正極層42との接合が不十分になったりする。その結果、最終的に得られる積層電極体1の内部抵抗が高くなってしまう。一方、この面圧が500MPa未満である場合、仮成形層32のひび割れを抑制でき、かつ、固体電解質層23と正極層42との接合を良好な状態とすることができるため、最終的に得られる積層電極体1の内部抵抗を低くすることができる。ただし、この面圧が低すぎると、仮成形層32の形状を維持できず、後述する(工程6)において、仮成形層32の位置がズレたり仮成形層32の一部が脱落するなどして、加圧後に負極層33の厚みが均一になり難い。負極層33の厚みの不均一は、電池性能の低下の原因となる。このような観点から、負極合剤31を加圧する面圧は、30MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上とするのがよく、500MPa未満、好ましくは450MPa未満、より好ましくは400MPa未満とするのがよい。
【0025】
(工程6(S6))
図7に示すように、仮成形層22及び仮成形層32の上下を反転させる。すなわち、図中の上方に仮成形層22が配置され、下方に仮成形層32が配置されるように、上下を反転させる。(工程6)で作成した仮成形層22及び仮成形層32を一旦臼孔101aから取り出し、これらの上下を反転させてから再度臼孔101aに配置してもよい。或いは、加圧装置100自体を上下に反転させて仮成形層22及び仮成形層32の上下を反転させてもよい。このように、仮成形層22及び仮成形層32の上下を反転させることにより、臼孔101a内に残存した負極合剤31が後述する(工程7-1)において正極合剤41に接触することがないため短絡を抑制することができる。この場合、上杵103と下杵102の上下も入れ替わる。ここでは、加圧装置100自体を上下に反転させた場合であっても、図示の上方を上杵103とし、下方を下杵102として説明する。
【0026】
(工程7-1(S7-1))
図8に示すように、臼孔101aに正極合剤(電極合剤)41を充填し、仮成形層22の他方の主面、すなわち、上下反転させた後の仮成形層22の上面に、正極合剤(電極合剤)41を配置する。正極合剤41は、例えば、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質として、平均粒径5μmのコバルト酸リチウムと、硫化物系固体電解質(Li
6PS
5Cl)と、導電助剤であるカーボンナノチューブとを質量比で70:26:4の割合で含有した92mgの混合物である。なお、正極合剤41は、特に限定されるものではなく、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル型マンガン複合酸化物、オリビン型複合酸化物等であってもよく、これらを適宜混合したものであってもよい。
【0027】
(工程8(S8))
図9に示すように、上述の正極合剤41、仮成形層22及び仮成形層32を1000MPa以上の面圧で加圧(本プレス)する。これにより、仮成形層22、仮成形層32及び正極合剤41が圧縮され、固体電解質層23と、固体電解質層23の一方の主面に積層された負極層33と、固体電解質層23の他方の主面に積層された正極層42を有する積層電極体1を形成することができる。積層電極体1は、ダイス101と下杵102とを相対的に移動させることにより、臼孔101aから取り出すことができる。なお、積層電極体1を臼孔101aから取り出すには、ダイス101と上杵103とを相対的に移動させてもよい。また、上杵103及び下杵102によって積層電極体1を挟んだ状態で、上杵103と下杵102をダイス101に対して相対的に移動させ、積層電極体1を臼孔101aから取り出すようにすれば、積層電極体1に割れや欠けが生じるのを抑制することができるので好ましい。また、ダイス101を分割して積層電極体1を移動させることなくダイス101から取り出してもよい。このようにして、積層電極体1を製造することができる。なお、固体電解質層23、負極層33及び正極層42の各々の充填性を向上させる、すなわち、空隙率を減らすため、この面圧は高い方が好ましい。
【0028】
また、(工程7-1)と(工程8)との間に、正極層を得るための仮成形層を形成する(工程7-2)を含むことができる。すなわち、特に図示はしないが、(工程7-1)で仮成形層22の他方の主面に配置された正極合剤41を加圧(仮プレス)し、正極層を得るための仮成形層を形成してもよい。この際、正極合剤41を加圧(仮プレス)する面圧は、上述した負極合剤31を加圧(仮プレス)する際の面圧と同様の観点から、30MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上とするのがよく、500MPa未満、好ましくは450MPa未満、より好ましくは400MPa未満とするのがよい。
【0029】
この場合、(工程8)においては、正極層42を得るための仮成形層、仮成形層22及び仮成形層32を1000MPa以上の面圧で加圧(本プレス)する。これにより、仮成形層22、仮成形層32及び正極層42を得るための仮成形層が圧縮され、固体電解質層23と、固体電解質層23の一方の主面に積層された負極層33と、固体電解質層23の他方の主面に積層された正極層42を有する積層電極体1を形成することができる。
【0030】
また、(工程4)において正極合剤41を配置し、(工程7-1)において負極合剤31を配置してもよい。すなわち、正極合剤41及び負極合剤31を仮成形層22の主面に配置する順番を入れ替えてもよい。この場合、(工程5)において正極合剤41の仮成形層32を得るするための面圧として、(工程7-2)における面圧を適用すればよく、(工程7-2)において負極合剤31の仮成形層を得るための面圧として、(工程5)における面圧を適用すればよい。ただし、正極活物質及び負極活物質の種類にもよるが、一般に、正極活物質に比べ負極活物質の方が硬く、負極合剤31の方が正極合剤41に比べて充填されにくい場合が多い。そのため、負極合剤の充填性を高めるためには、負極合剤31を段階的に圧縮成形することが好ましい。すなわち、(工程4)において負極層33を得るための仮成形層32を形成し、(工程8)において負極層33を形成することが好ましい。また、仮成形層22の他方の主面に正極層42を得るための仮成形層を形成していないため、効率的に積層電極体1を形成することができる。一方で、(工程7-2)のように、仮成形層22の他方の主面にも電極層を得るための仮成形層を形成する場合は、負極合剤31及び正極合剤41のいずれを先に仮成形層22の主面に配置してもよい。
【0031】
このような積層電極体1の製造方法は、固体電解質層23、負極層33及び正極層42の各々の厚みを均一にすることができ、かつ、固体電解質層23、負極層33及び正極層42の各々のひび割れを抑制できる。したがって、負極層33及び固体電解質層23の界面の接合性、並びに、正極層42及び固体電解質層23の界面の接合性に優れ、内部抵抗の低い積層電極体1を形成することができる。
【0032】
次に、全固体二次電池10の製造方法について、
図10を参照しながら説明する。なお、ここでは、全固体二次電池10は、扁平形電池である。
【0033】
(工程9(S9))
上述の(工程8)で製造された積層電極体1をケースの内部に収容する。
【0034】
具体的には、まず、ケースを準備する。ケースは、外装缶11、封口缶12及びガスケット13を有している。
【0035】
外装缶11は、円形状の底部11aと、底部11aの外周から連続して形成される円筒状の周壁部11bとを備えている。周壁部11bは、縦断面視で、底部11aに対して略垂直に延びるように設けられている。外装缶11は、ステンレス、ニッケル、鉄などの金属材料によって形成されている。なお、外装缶11の形状は、円形状の底部11aを備えた円筒形状に限られない。例えば、外装缶11の形状は、底部11aを四角形状などの多角状に形成し、周壁部11bを底部11aの形状に合わせた四角筒状などの多角筒状に形成してもよく、積層電極体1及び全固体二次電池10のサイズや形状に応じて、種々変更することができる。そのため、周壁部11bの形状は、円筒状だけでなく、四角筒状などの多角筒状も含むものである。なお、積層電極体1の形状は、例えば、円柱状、四角柱状等の多角柱状である。
【0036】
封口缶12は、円形状の平面部12aと、平面部12aの外周から連続して形成される円筒状の周壁部12bとを備える。封口缶12の開口は、外装缶11の開口と対向する。封口缶12は、ステンレスなどの金属材料によって形成されている。なお、封口缶12の形状は、円形状の平面部12aを備えた円筒形状に限られない。例えば、封口缶12の形状は、平面部12aを四角形状などの多角状に形成し、周壁部12bを平面部12aの形状に合わせた四角筒状などの多角筒状に形成してもよく、積層電極体1及び全固体二次電池10のサイズや形状に応じて、種々変更することができる。そのため、周壁部12bの形状は、円筒状だけでなく、四角筒状などの多角筒状も含むものである。
【0037】
ガスケット13は、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、PFA樹脂などの水分低透過性樹脂によって形成されている。ガスケット13は、外装缶11の周壁部11bの内周面に沿う筒状に形成され、外装缶11の周壁部11bと封口缶12の周壁部12bとの間に配置されている。ガスケット13は、外装缶11と封口缶12とを絶縁できれば、特に限定されるものではないが、水分透過性や耐熱性の点から、ポリフェニレンサルファイド樹脂、あるいはPFA樹脂などのフッ素樹脂が好ましく用いられる。
【0038】
外装缶11と封口缶12とは、積層電極体1を内部空間に収容したのち、外装缶11の周壁部11bと封口缶12の周壁部12bとの間にガスケット13を介してカシメられる。具体的には、外装缶11と封口缶12とは、外装缶11と封口缶12の互いの開口を対向させ、外装缶11の周壁部11bの内側に封口缶12の周壁部11bを挿入したのち、周壁部11bと周壁部12bとの間にガスケット13を介してカシメられる。このようにして外装缶20と封口缶30とにより積層電極体1を内部空間に収容するケースが構成される。なお、全固体二次電池10の製造方法は、これに限られず、積層電極体1をケースに収容して二次電池として機能するように製造できればよい。
【0039】
これにより、負荷特性に優れた全固体二次電池10を製造することができる。
【0040】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例0041】
以下、実施例1及び2、並びに、比較例1~3の扁平形全固体二次電池を作製し、各々の扁平形全固体二次電池の内部抵抗を測定した。
【0042】
(実施例1)
実施例1の扁平形全固体二次電池を以下の通り作製した。まず、平均粒子径が0.7μmの硫化物系固体電解質(Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8)の粉末9.6mgを粉末成形金型に入れ、プレス機を用いて70MPa(0.7tf/cm2)の面圧で加圧成形を行い、固体電解質層を得るための仮成形層を形成した。次に、固体電解質層を得るための仮成形層の上面(一方の主面)に、平均粒子径が2μmのチタン酸リチウム(Li4Ti5O12、負極活物質)と、平均粒子径が0.7μmの硫化物系固体電解質(Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8)と、グラフェン(導電助剤)とを、質量比で50:41:9の割合で混合して作製した負極合剤101mgを配置し、300MPa(3tf/cm2)の面圧で加圧成形を行い、固体電解質層を得るための仮成形層の一方の主面に負極層を得るための仮成形層を形成した。金型を上下反転させた後、金型とともに上下反転した固体電解質層を得るための仮成形層の上面(他方の主面)に、表面にLiNbO3の被覆層が形成された平均粒子径が5μmのLiCoO2(正極活物質)と、平均粒子径が3μmの硫化物系固体電解質(Li7.0PS5.4Cl1.2)と、カーボンブラック及び気相成長炭素繊維(VGCF)とを、質量比で70:26.8:1.1:2.1で混合して作製した正極合剤73mgを配置した。負極層を得るための仮成形層、固体電解質層を得るための仮成形層、及び、正極合剤を1300MPa(13tf/cm2)の面圧で加圧成形を行うことにより圧縮して、830μmの厚みを有する負極層と110μmの厚みを有する固体電解質層と550μmの厚みを有する正極層とが一体化された積層電極体を得た。なお、被覆層を含む正極活物質粉末の全体の重量に対する、前記被覆層の重量の割合は、2質量%であった。最後に、ステンレス鋼製の封口缶及び外装缶をケースとして用い、封口缶と外装缶との間に積層電極体を収容するとともに、封口缶及び積層電極体の間、並びに、外装缶及び積層電極体の間の各々に、0.1mmの厚みを有する多孔質カーボンシートが配置されるようにして封止を行うことにより、扁平形全固体二次電池を組み立てた。
【0043】
(実施例2)
実施例1で作製した固体電解質層を得るための仮成形層の上面(一方の主面)に、実施例1で作製した正極合剤73mgを配置し、300MPa(3tf/cm2)の面圧で加圧成形を行い、固体電解質層を得るための仮成形層の一方の主面に正極層を得るための仮成形層を形成した。金型を上下反転させた後、金型とともに上下反転した固体電解質層を得るための仮成形層の上面(他方の主面)に、実施例1で作製した負極合剤101mgを配置し、1300MPa(13tf/cm2)の面圧で加圧成形を行うことにより、正極層を得るための仮成形層、固体電解質層を得るための仮成形層、及び、負極合剤を圧縮して、825μmの厚みを有する負極層と110μmの厚みを有する固体電解質層と540μmの厚みを有する正極層とが一体化された積層電極体を得た。最後に、実施例1と同様にして扁平形全固体電池を組み立てた。
【0044】
(比較例1)
実施例1で作製した負極合剤101mgを粉末成形金型に入れ、プレス機を用いて300MPa(3tf/cm2)の面圧で加圧成形を行い、負極層を得るための仮成形層を形成した。前記負極層を得るための仮成形層の上面に、平均粒子径が0.7μmの硫化物系固体電解質(Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8)の粉末9.6mgを配置し、70MPa(0.7tf/cm2)の面圧で加圧成形を行い、負極層を得るための仮成形層の一方の上面に固体電解質層を得るための仮成形層を形成した。さらに、前記固体電解質層を得るための仮成形層の上面に、実施例1で作製した正極合剤73mgを配置し、1300MPa(13tf/cm2)の面圧で加圧成形を行うことにより、負極層を得るための仮成形層、固体電解質層を得るための仮成形層、及び、正極合剤を圧縮して、負極層と固体電解質層と正極層とが一体化された積層電極体を得た。最後に、実施例1と同様にして扁平形全固体二次電池を組み立てた。
【0045】
(比較例2)
固体電解質の仮成形層を形成する際の面圧を、130MPa(1.3tf/cm2)に変更し、その他の工程は、実施例1と同様にして扁平形全固体二次電池を組み立てた。
【0046】
(比較例3)
負極層を得るための仮成形層を形成する際の圧力を、600MPa(6tf/cm2)に変更し、その他の工程は、実施例1と同様にして扁平形全固体二次電池を組み立てた。
【0047】
(評価結果)
実施例1及び2並びに比較例1~3の扁平形全固体二次電池に対し、1kHzの交流電圧を印加して内部抵抗を測定した。評価結果は以下の通りであった。実施例1の扁平形全固体二次電池の内部抵抗は、230Ωであった。実施例2の扁平形全固体二次電池の内部抵抗は、260Ωであった。比較例1の扁平形全固体二次電池の内部抵抗は、316Ωであった。比較例2の扁平形全固体二次電池の内部抵抗は、519Ωであった。比較例3の扁平形全固体二次電池の内部抵抗は、432Ωであった。
【0048】
実施例1及び2の扁平形全固体二次電池は、適切な工程順及び適切な面圧で加圧成形したことにより、固体電解質層、負極層及び正極層の各々の厚みを均一にすることができ、かつ、それらのひび割れを抑制できた。そのため、固体電解質層、負極層及び正極層の工程順が異なる比較例1の扁平形全固体二次電池や、固体電解質層を得るための仮成形層又は負極層を得るための仮成形層を形成する際の面圧が高すぎる比較例2及び比較例3の扁平形全固体二次電池に比べ、内部抵抗を低減することができた。このため、実施例1及び2の扁平形全固体二次電池は、比較例1~比較例3の電池に比べ、優れた負荷特性を得ることができた。なお、実施例1及び2において、上述の(工程7-2)を設けた場合であっても、同様の結果が得られるものと考えられる。
1 積層電極体、10 全固体二次電池、11 外装缶、11a 底部、11b 周壁部、12 封口缶、12a 平面部、12b 周壁部、13 ガスケット、21 硫化物系固体電解質粒子、22 仮成形層、23 固体電解質層、31 負極合剤、32 仮成形層、33 負極層、41 正極合剤、42 正極層、100 加圧装置、101 ダイス、101a 臼孔、102 下杵、103 上杵材