(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185627
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】乗物用内装材
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
B60R13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093360
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 亮
(72)【発明者】
【氏名】玉樹 幸祐
【テーマコード(参考)】
3D023
【Fターム(参考)】
3D023BA01
3D023BB08
3D023BC01
3D023BD03
3D023BE06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新しい静電気除去構造を実現する乗物用内装材を提供する。
【解決手段】基材と、基材の少なくとも一部を覆う表皮材40と、を備え、基材は、接触部の骨格となる基材本体と、基材本体から金属部材に向けて延びる延設部とを有し、表皮材40は、基材本体を覆って接触部を構成する表皮本体部43と、表皮本体部43から連続し、延設部に備えられる表皮延設部44と、を備えるとともに、少なくとも金属部材に向かう側の表面に静電気拡散性を有する除電表面層を備えており、当該乗物用内装材は、表皮材40が金属部材の側を向く姿勢で金属部材に取り付けられたとき、延設部は金属部材に固定されるとともに、表皮材40は表皮延設部44における除電表面層が金属部材に直接接触する構成を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物を構成する金属部材に対して乗物室内側に取り付けられ、乗員が触れる接触部を備える乗物用内装材であって、
板状をなす基材と、
前記基材の少なくとも一部を覆う表皮材と、
を備え、
前記基材は、前記接触部の骨格となる基材本体と、前記基材本体から前記金属部材に向けて延びる延設部とを有し、
前記表皮材は、
前記基材本体を覆って前記接触部を構成する表皮本体部と、
前記表皮本体部から連続し、前記延設部に備えられる表皮延設部と、
を備えるとともに、
少なくとも前記金属部材に向かう側の表面に静電気拡散性を有する除電表面層を備えており、
当該乗物用内装材は、前記表皮材が前記金属部材の側を向く姿勢で前記金属部材に取り付けられたとき、
前記延設部は前記金属部材に固定されるとともに、
前記表皮材は前記表皮延設部における前記除電表面層が前記金属部材に直接接触する構成を備えている、乗物用内装材。
【請求項2】
前記金属部材は、金属基材と、前記金属基材の室内側の表面を塗装する絶縁性の塗膜と、を備えており、
前記表皮材は、前記塗膜が設けられた部分において、前記金属部材と接触する構成を備えている、請求項1に記載の乗物用内装材。
【請求項3】
前記表皮材は、
静電気拡散性を有する除電表面層と、
前記除電表面層の前記基材の側を向く面である裏面に一体的に配されており、弾性を有する弾性層と、
を含む積層構造を有している、請求項1または2に記載の乗物用内装材。
【請求項4】
前記弾性層は発泡樹脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【請求項5】
前記金属部材と前記延設部とは、離間して配されるとともに、少なくとも一方には、他方に向けて突出する突出部を備え、当該突出部と前記他方との間において前記除電表面層と前記金属部材とが直接接触する構成を備えている、請求項1~4のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【請求項6】
前記金属部材および前記延設部は、互いを締結する締結部材を挿通する挿通孔をそれぞれ備え、
前記金属部材の前記挿通孔にはグロメットが装着されており、前記グロメットは、前記挿通孔に挿通される筒部と、前記金属部材の乗物室内側の表面において前記筒部から前記挿通孔の半径方向外側に向けて延びるフランジ部と、を備え、
前記延設部は、前記挿通孔の近傍において前記金属部材に向けて突出する押当て部を備え、
前記押当て部の突出高さは、前記フランジ部の乗物室内外方向に沿う厚み寸法よりも小さく、
前記押当て部の前記突出高さと前記表皮材の厚みとの合計は、乗物室内外方向に沿う前記フランジ部の前記厚み寸法よりも大きくなる構成とされている、請求項5に記載の乗物用内装材。
【請求項7】
前記延設部は、板状をなす延設部本体と、前記延設部本体の乗物室外側の表面から前記金属部材に向けて突出する前記押当て部と、を備えており、
前記押当て部は、前記延設部本体から立ち上がる基部と、前記基部から前記延設部本体の表面に沿って延びる梁部と、を備え、
前記表皮延設部は、前記梁部に重畳されている、請求項6に記載の乗物用内装材。
【請求項8】
前記梁部は、前記基部から前記基材本体の側に向けて延設されており、
前記表皮延設部は、前記梁部に室外側から重畳するとともに、少なくとも一部が前記延設部本体に固定されている、請求項7に記載の乗物用内装材。
【請求項9】
前記梁部は、前記基部から前記基材本体の側とは反対側に向けて延設されており、
前記表皮延設部は、前記基材と前記梁部とに連続して室外側から貼着されている、請求項7に記載の乗物用内装材。
【請求項10】
前記除電表面層は、導電性繊維を含む、合成樹脂シート、布帛、不織布、および編物の少なくとも一つを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【請求項11】
当該乗物用内装材は、乗物用ドアを構成する金属製のドアパネルの室内側に取り付けられるドアトリムであって、
前記接触部は、ドアプルハンドルを構成するプルハンドル部材である、請求項1~10のいずれか1項に記載の乗物用内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用内装材として、静電気除去性能を有するものが知られている。例えば特許文献1には、ドアパネルのポケット部材のうち、乗員の手が触れる把持面を含む部分を導電性樹脂により構成し、乗物の躯体をなす金属パネルに電気的に接続する構成が開示されている。これにより、乗員が把持面に触れることで、乗員に帯電していた静電気を乗物側に除電することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記構成では、導電性樹脂から金属パネルに至る除電経路に、ポケット部材を強固に支持するための金属製ブラケットを利用している。また、金属製ブラケットと金属パネルとの導通には、金属パネルに設けられた締結孔に拡径変形可能な係止部材(いわゆるグロメット)を嵌めるとともに、これを導電性樹脂によって構成することで、金属パネルの塗装を剥がすことなく、締結孔の側面を通じた導電を確保している。したがって、この静電気除去構造は、複数の部材を要するとともに、ポケット部材を構成する部品とは別に導電性を有する特殊な係止部材が必要とされ、部品点数が増加するとともに、コストが増加するという問題がある。
【0005】
ここに開示される技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、新しい静電気除去構造を実現する乗物用内装材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ドアパネル等の金属部材の車室内側面には塗装が施されており、従来、この塗装が施されている箇所においては電気的な接続が不十分であると考えられていた。そのため、塗装が施されていない箇所、例えばドアパネルに組付部材を固定するための締結孔の内周面等を経由して、組付部材の接触部とドアパネルとの間の静電気の導通経路を確保していた。また表皮材は、通常は、基材のうち乗物室に露出される部分のみを覆っており、基材のうち乗物室に露出されない部分には配されない。しかしながら、本発明者らの鋭意検討によると、アースとして作用し得るような乗物を構成する金属部材と、除電時に人に痛みを感じさせるような大きな電圧の静電気を溜めた部材との間であれば、塗装が施されていない箇所のみならず、塗装が施された箇所であっても電気的に導通し得ることを知見した。
【0007】
すなわち、上記課題を解決するため、ここに開示される乗物用内装材は、乗物を構成する金属部材に対して乗物室内側に取り付けられ、乗員が触れる接触部を備える乗物用内装材であって、板状をなす基材と、前記基材の少なくとも一部を覆う表皮材と、を備える。前記基材は、前記接触部の骨格となる基材本体と、前記基材本体から前記金属部材に向けて延びる延設部とを有する。また前記表皮材は、前記基材本体を覆って前記接触部を構成する表皮本体部と、前記表皮本体部から連続し、前記延設部に備えられる表皮延設部と、を備えるとともに、少なくとも前記金属部材に向かう側の表面に静電気拡散性を有する除電表面層を備えている。そして当該乗物用内装材は、前記表皮材が前記金属部材の側を向く姿勢で前記金属部材に取り付けられたとき、前記延設部は前記金属部材に固定されるとともに、前記表皮材は前記表皮延設部における前記除電表面層が前記金属部材に直接接触する構成を備えている。これにより、ドアパネル等の金属部材の室内側に塗装が施されているか否かに関わらず、同一の構成で、接触部に蓄積された静電気を除電することができる。
【0008】
なお、本技術において、「静電気拡散性」を有するとは、IEC 61340-2-3:20001に基づき測定される表面抵抗値(Surface Resistance:Rs[Ω/□])が、次式:1×104≦Rs<1×1012、より特徴的には1×105≦Rs<1×1011;を満たしていることをいう。物品の表面抵抗値がこの範囲にあることで、静電気が帯電したヒトがこの物品の表面に触れたときに、当該ヒトに痛みや衝撃を知覚させることなくその静電気をゆっくりと当該物品へと移動させ、当該ヒトの身体から静電気を除去(除電)することが可能とされる。
また、「電気伝導性」を有するとは、上記表面抵抗値[Ω/□]がRs<1×1012であることをいい、典型的にはRs≦1×104、より特徴的にはRs≦1×10-2を満たすことであり得る。またさらには、JIS K 7194に基づき測定される体積抵抗率が、典型的には105Ωcm以下、好ましくは10-3Ωcm以下、より好ましくは10-1Ωcm以下、例えば10-6Ωcm以下であってもよい。
そして「電気絶縁性」を有するとは、上記表面抵抗値[Ω/□]が1012≦Rsであることをいい、さらには、上記体積抵抗率が106Ωcm以上、典型的には108Ωcm以上、例えば1010Ωcm以上であることをいう。
【0009】
本技術の好適な一態様において、前記金属部材は、金属基材と、前記金属基材の室内側の表面を塗装する絶縁性の塗膜と、を備えており、前記表皮材は、前記塗膜が設けられた部分において、前記金属部材と接触する構成を備えていてもよい。ドアパネル等の金属部材は、金属基材が塗装されている部分であっても、本技術に係る静電気除去構造を適用することができる。したがって、金属部材の塗膜が設けられた部分において表皮材が接触する構成とした場合に、この乗物用内装材の利点を発揮し得る点において好適である。
【0010】
本技術の好適な一態様において、前記表皮材は、静電気拡散性を有する除電表面層と、前記除電表面層の前記基材の側を向く面である裏面に一体的に配されており、弾性を有する弾性層と、を含む積層構造を有している。表皮材に柔軟性を付与することができる弾性層は、その構造等に起因して十分な静電気拡散性を具備することが困難であり、その傾向は弾性の柔軟性を高めるほど顕著となる。上記構成によると、除電表面層は表皮材の表面のみに備えられていればよく、裏面に弾性層を配することが可能となり、接触部に柔らかな触感を付与することができる。これにより、優れた質感と静電気除去性能とを両立させた乗物用内装材が提供される。
【0011】
本技術の好適な一態様において、前記金属部材と前記延設部とは、離間して配されるとともに、少なくとも一方には、他方に向けて突出する突出部を備え、当該突出部と前記他方との間において前記除電表面層と前記金属部材とが直接接触する構成を備えていてもよい。上記構成によると、表皮材と金属部材とが直接接触し得るように、表皮材の厚みに応じて突出部の突出高さを設定することができる。これにより、表皮材と金属部材との接触をより確実なものとすることができる。
【0012】
本技術の好適な一態様において、前記金属部材および前記延設部は、互いを締結する締結部材を挿通する挿通孔をそれぞれ備え、前記金属部材の前記挿通孔にはグロメットが装着されており、前記グロメットは、前記挿通孔に挿通される筒部と、前記金属部材の乗物室内側の表面において前記筒部から前記挿通孔の半径方向外側に向けて延びるフランジ部と、を備え、前記延設部は、前記挿通孔の近傍において前記金属部材に向けて突出する押当て部を備え、前記押当て部の突出高さは、前記フランジ部の乗物室内外方向に沿う厚み寸法よりも小さく、前記押当て部の前記突出高さと前記表皮材の厚みとの合計は、乗物室内外方向に沿う前記フランジ部の前記厚み寸法よりも大きくなる構成とされている。上記構成によると、金属部材と基材の延設部とを締結したとき、金属部材と延設部の離間寸法はグロメットのフランジ部の厚み寸法に一致することとなる。上記構成によると、フランジ部の近傍に押当て部を設けることで、表皮材を金属部材に押し付けるのに適した寸法に押当て部を精度よく形成することができる。これにより、表皮材と金属部材とをより確実に接触させることができる。なお、金属部材は一般に、締結の相手部材との離間距離を縮めて締結するために締結部材の挿通孔の近傍で形状が大きく変形されることがある。したがって、ここでいう「挿通孔の近傍」とは、押当て部が、グロメットのフランジ部に干渉しない程度に挿通孔から離れているものの、金属部材と延設部との離間距離がフランジ部の厚み寸法を維持し得る程度に近接している範囲をいう。
【0013】
本技術の好適な一態様において、前記延設部は、板状をなす延設部本体と、前記延設部本体の乗物室外側の表面から前記金属部材に向けて突出する前記押当て部と、を備えており、前記押当て部は、前記延設部本体から立ち上がる基部と、前記基部から前記延設部本体の表面に沿って延びる梁部と、を備え、前記表皮延設部は、前記梁部に重畳されていてもよい。上記構成によると、表皮材を金属部材に対して好適に弾接させることができる。
【0014】
本技術の好適な一態様において、前記梁部は、前記基部から前記基材本体の側に向けて延設されており、前記表皮延設部は、前記梁部に室外側から重畳するとともに、少なくとも一部が前記延設部本体に固定されていてもよい。上記構成によると、押当て部の基部とグロメットとをより近い構成とすることができ、金属部材と延設部との締結および金属部材と表皮材との接触を、より安定した構成のものとすることができる。
【0015】
本技術の好適な一態様において、前記梁部は、前記基部から前記基材本体の側とは反対側に向けて延設されており、前記表皮延設部は、前記基材と前記梁部とに連続して室外側から貼着されている。上記構成によると、表皮延設部を押当て部から浮かせることなく全体を押当て部に貼着することができる。これにより、乗物走行中に浮いた表皮延設部の周縁で表皮延設部が剥がれたり付着したりする微粘着音(ニチャニチャ音)が発生したり、表皮延設部の付着強度が低下することを抑制することができる。
【0016】
本技術の好適な一態様において、前記除電表面層は、導電性繊維を含む、合成樹脂シート、布帛、不織布、および編物の少なくとも一つを含んでもよい。上記構成によると、除電表面層を様々な触感および質感の素材によって構成することができ、ユーザの満足度を向上させることができる。
【0017】
本技術の好適な一態様において、前記弾性層は発泡樹脂を含んでもよい。上記構成によると、表皮材の質感を高めることができるとともに、乗物用内装材と金属部材との電気的接続をより確実なものとすることができる。
【0018】
本技術の好適な一態様において、当該乗物用内装材は、乗物用ドアを構成する金属製のドアパネルの室内側に取り付けられるドアトリムであって、前記接触部は、ドアプルハンドルを構成するプルハンドル部材であってよい。上記構成によると、乗員が乗物から降りるとき、ドアを開けるためにプルハンドル部材に触れるという自然な動作の中で、着座シートへの着座中に溜めた静電気をドアパネルに逃すことができる。
【発明の効果】
【0019】
ここに開示される技術によると、新しい静電気除去構造を実現する乗物用内装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態に係るドアトリムを備える車両用ドアの斜視図
【
図3】車両用ドアのプルハンドル部材を車室外側から視た斜視図
【
図6】プルハンドル部材の壁組付部をドアインナパネルに組付けた様子を示す要部断面図(
図5のC-C線断面図に対応)
【
図7】
図3のプルハンドル部材を後方から視た要部断面図(
図3のA-A線断面図)
【
図8】
図3のプルハンドル部材を後方から視た他の要部断面図(
図3のB-B線断面)
【
図10】プルハンドル部材の接続部における取付断面図(
図5のD-D線断面図に対応)
【
図11】プルハンドル部材の接続部における取付断面図(
図5のE-E線断面図に対応)
【
図12】他の実施形態における表皮材の表皮延設部を示す要部拡大図(
図5に対応)
【
図13】プルハンドル部材の壁組付部をドアインナパネルに組付けた様子を示す要部断面図(
図12のF-F線断面図に対応)
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪実施形態1≫
ここに開示される技術について、
図1~
図11を参照しつつ、乗物用内装材としてのドアトリム20ないしはトリムボード21を例にして説明する。なお、
図1のドアトリム20は、乗物としての車両の右側のドア10に配されるものであるが、左側のドア等においても同様の構成が備えられるものとする。また、各図に示した符号F,Rr,U,D,IN,OUTはそれぞれ、車両進行方向の前方,後方、鉛直方向(上下方向)の上方,下方,車室の室内側,車室外側を示す。ただし、上記方向は説明のために便宜的に定めたものに過ぎず、限定的に解釈すべきものではない。
【0022】
ここに開示されるドアトリム20は、
図1および
図2等に示すように、車両用ドア10(乗物用ドア)のドアパネル12の室内側に取り付けられ、車室の壁面を構成するとともに、車室の見栄えや居住性を向上させるための内装材である。ドアパネル12は、それぞれ板状をなすドアアウタパネル14とドアインナパネル16とを備えており、これらは鉄鋼やアルミニウム等の金属製パネルをプレス加工することで形成されている。これらのドアインナパネル16とドアアウタパネル14との間には、ウインドウガラス18を昇降するための昇降機構(図示せず)や、スピーカ25A等の各種部品が配されている。なお、本例のドアインナパネル16は、具体的には図示しないが、金属製の基材の室内側の表面に、電気絶縁性の塗料によって塗装が施され、室内側の前面に塗膜が備えられている。
【0023】
ドアトリム20は、インサイドハンドル22、アームレスト23、ドアプルハンドル24、スピーカ25Aを覆うスピーカグリル25、ドアポケット26等の機能部品を備えている。このドアトリム20は、概して内装材本体としての板状のトリムボード21を主体として構成されており、トリムボード21は、大まかにはアッパートリム21Aとロアトリム21Bとにより構成されている。またロアトリム21Bは、複数の板状部材を互いに組み付けることで構成されている。板状部材には、機能部品が取り付けられたり、いくつかの板状部材が組み合わされることで機能部品が構成されたりしている。これらアッパートリム21Aおよびロアトリム21Bは、基本的には、ポリプロピレン等の電気絶縁性を有する合成樹脂材料によって構成されており、必要に応じて、質感や触感等を高める表皮材21C等によって覆われる。
【0024】
ここで、アームレスト23は、シートに着座した乗員が肘を掛けて腕を休めるための機能部品である。アームレスト23は、ロアトリム21Bの上方において前後に亘って配されるとともに、室内側に膨出するアームレスト部材23Aを、アッパートリム21Aに対して組付けることで構成される。アームレスト部材23Aは、大まかには、上方を向く肘掛け面部材23Bと、この肘掛け面部材23Bを覆う表皮材23Cと、表皮材23Cを挟みこみながら肘掛け面部材23Bを下方から支持する室内側部材23Dと、により構成されている。アームレスト部材23Aは、肘掛け面部材23Bの表面(上面)を表皮材23Cで覆った状態で、肘掛け面部材23Bと室内側部材23Dとを固定することで組み立てられる。室内側部材23Dの下方には、室外側に向けて突出する筒状の取付ボス23G,23Gが立設されている。アームレスト部材23Aのうち、肘掛け面部材23Bおよび室内側部材23Dは、ポリプロピレン等の電気絶縁性の合成樹脂材料によって構成されている。表皮材23Cは、これに限定されるものではないが、塩化ビニル等の合成樹脂材料からなる表面層と、連続気泡を含むスポンジ状のウレタンフォーム等の発泡樹脂層と、が一体的に積層された積層材によって構成されている。
【0025】
また、アームレスト23の前後方向の中央付近には、ドアプルハンドル24が凹設されている。ドアプルハンドル24は、シートに着座した乗員がドア10を開閉するときに手を掛けるための手掛かりとなる。ドアプルハンドル24は、
図3および
図4に示すように、アッパートリム21Aと肘掛け面部材23Bとの間に、内箱状のプルハンドル部材30が収容されるかたちで組み付けられることで構成されている。肘掛け面部材23Bは、中央付近においてアッパートリム21A側の端部がアッパートリム21Aから離れて室内側にくびれることで、ドアプルハンドル24の開口23Eを形成している。
【0026】
プルハンドル部材30は、アッパートリム21Aとアームレスト部材23Aとに組付けられることで、上方に開口23Eを有する箱状をなしている。プルハンドル部材30は、その骨格をなす基材31と、この基材31の表側(すなわち、アッパートリム21Aに対向する側の表面)に備えられる表皮材40とにより構成されている。基材31は、プルハンドル部材30の室内側壁面をなす壁部32と、底面を構成する底部33と、が組み合わされることにより構築されている。基材31は、ポリプロピレン等の電気絶縁性の合成樹脂材料によって構成されている。例えば、基材31は、静電気拡散性を備える材料を含むことなく構成することができる。
【0027】
壁部32は、アーチ形状をなす板状に形成された壁部本体32Aと、この壁部本体32Aの前後方向の両端においてそれぞれ、前方または後方に延びるように設けられた板片状の壁組付部32Bと、を含んでいる。壁部本体32Aには、アッパートリム21Aに対向する表側(すなわち、室外側)の表面を覆うように、表皮材40が巻き付けられる。この壁部本体32Aの裏側には、前後方向の中央部分において、室内側に向けて突出する筒状の取付ボス32Gが複数(本例では3つ)立設されている。また、前後の壁組付部32Bにはそれぞれ、上下に1つずつ、貫通孔32C,32E、および、貫通孔32D,32Fが形成されている。壁組付部32Bのうち、上方の貫通孔32C,32Dが形成された部分は、上端が室外側に向けて傾斜している。
【0028】
ここで、前方の壁組付部32Bの表側には、
図5および
図6に示すように、貫通孔32Cよりもやや後方に、室外側に向けて突出する押当て部34が一体的に備えられている。押当て部34は、壁組付部32Bの板面から室外側に立ち上がる基部34Aと、基部34Aから後方に向けて延びる梁部34Bと、を含む断面略L字形をなしている。梁部34Bは、先端に向かうほど室外側に向かうようにやや傾斜している。換言すれば、梁部34Bは、先端に向かうほどドアインナパネル16に近づくように傾斜している。また、梁部34Bは、室内外方向で撓むことができるようになっている。そして押当て部34は、付加的に、梁部34Bから上下方向に離間した位置に一つずつ備えられる、鈎形をなす係止部34Cを含む。
【0029】
底部33は、大まかには半楕円形の板状の底部本体33Aと、この底部本体33Aの前後方向の両端においてそれぞれ、前方または後方に延びるように設けられた板片状の底組付部33Bと、を備えている。底部本体33Aは、前後方向の中央部分において室内側に広くひろがっており、室内側の端部において底面組付部が立ち上がるように設けられるとともに、この底面組付部には複数(本例では3つ)の貫通孔33Iが設けられている。底組付部33Bは、後述する組み立て状態において、壁部32の前後の壁組付部32Bに沿うように形成されているとともに、壁部32の下方の貫通孔35B,35Dに対応する位置に、室外側に向けて突出する筒状の取付ボス33C,33Dが1つずつ立設されている。また、底組付部33Bは、取付ボス33C,33Dよりも下方の部分が室外側に向けて突出し、アームレスト部材23Aの室内側部材23Dの下端に沿うように形成されるとともに、室内側部材23Dの取付ボス23G,23Gに対応する位置に貫通孔33E,33Fが設けられている。
【0030】
そして、壁部本体32Aに表皮材40を巻き付けた状態で、壁部32の取付ボス32Gを底部33の貫通孔33Iに相通し、また、壁部32の下方の貫通孔32E,32Fに底部33の取付ボス33C,33Dを挿通して、取付ボス33C,33Dの先端を熱カシメすることで、壁部32と底部33とが一体的に結合されるようになっている。このようにして、プルハンドル部材30が組み立てられる。
【0031】
なお、壁部32の後上方の貫通孔32Dには、図示しない締結具が挿入され、
図3に示すように、この締結具によって壁部32は肘掛け面部材23Bの筒状の取付ボス23Fに組付けられる。このとき、底部33の下方の貫通孔33E,33Fに室内側部材23Dの取付ボス23Fが相通されて、アームレスト部材23Aに対するプルハンドル部材30の位置が所定の位置に定められる。また、壁部32の前上方の貫通孔32Cには、
図6に示すように、締結具46が挿入され、壁部32はこの締結具46によってドアインナパネル16に直接的に締結される。より具体的には、ドアインナパネル16の締結具46の固定位置には、貫通孔16Xが設けられるとともに、電気絶縁性の合成樹脂からなるグロメット45が取付けられている。グロメット45は、貫通孔16Xに嵌められる円筒状の筒部45Aと、筒部45Aの室内側の先端において貫通孔16Xの縁に沿って半径方向外側に延びるフランジ部45Bとを含む。グロメット45の内径は、締結具46のねじ部の外形よりも小さい。したがって、締結具46を貫通孔32Cに挿通してグロメット45に締結すると、グロメット45の筒部45Aが拡径されて、壁部32がドアインナパネル16に対して堅く固定されるようになっている。
【0032】
さらに、底部33の底部本体33Aには、略L字型の金属製のブラケット47と締結するための締結孔33Hが設けられ、
図7に示すように、底部33がブラケット47にビス締め等により締結されることで、プルハンドル部材30はこのブラケット47を介してドアインナパネル16に強固に支持されるようになっている。また、
図8に示すように、底部本体33Aの室外側の端部には、アッパートリム21Aに沿って垂下する組付部が備えられ、この組付部には室外側に向けて円筒形の取付ボス33Gが立設されている。そしてこの取付ボス33Gをアッパートリム21Aの下端に設けられた貫通孔21Dに挿通した状態で取付ビス48によりビス締め等をすることで、プルハンドル部材30をアッパートリム21Aに固定できるようになっている。
【0033】
ここで、表皮材40は、プルハンドル部材30の内張材であり、壁部32の表面の少なくとも一部を覆うように壁部32に対して固定される。そして表皮材40は、乗員が触れる接触面を構成し、壁部32に対して、静電気拡散性を付与するために備えられる要素である。また、本例の表皮材40は、壁部32に対して、その他、外観意匠性や上質な触感を付与する要素でもある。この表皮材40は、例えば
図9に示すように、静電気拡散性を有する除電表面層41と、弾性を有するものの電気伝導性を有さない弾性層42と、が一体化された積層構造を有している。また本例の表皮材40は、具体的には図示しないものの、弾性層42の裏面に接着層が設けられており、壁部32に対して貼着できるように構成されている。そして表皮材40は、除電表面層41が表面に露出し、弾性層42が除電表面層41の裏面、すなわち、壁部32に向かう面となるように壁部32に貼り付けられる。
【0034】
除電表面層41は、例えば、金属や炭素からなる導電性繊維を含むことによって静電気拡散性が付与された、布帛、不織布、および編物等のファブリック表皮や、導電性繊維や導電性微粒子を含むことによって静電気拡散性が付与された合成樹脂からなる合成皮革、ポリマー構造に由来して静電気拡散性を備える樹脂シート等によって構成することができる。これに限定されるものではないが、本例の除電表面層41は、導電性繊維が編み込まれた編物からなる導電性ファブリック表皮である。また、弾性層42は、所望の柔軟性を実現することが可能な弾性材料によって構成することができ、例えば、連続気泡を含むスポンジ状のウレタンフォーム等の発泡樹脂を好ましく採用することができる。弾性層42は、除電表面層41と同様に静電気拡散性を備えていてもよいが、実際的には、優れた柔軟性を備える発泡樹脂については、その多孔質構造に起因して、適切な静電気拡散性を具備させることが困難となる。
【0035】
表皮材40は、より詳細には、
図5、
図10、
図11等に示すように、壁部32を覆う表皮本体部43と、表皮本体部43から前方に延びる表皮延設部44と、を備えている。表皮本体部43は、表皮材40の主体をなして壁部本体32Aを覆う部分であって、従来の表皮材に該当する。壁部本体32Aの上方と下方は、巻込み代の分だけ壁部本体32Aよりも大きく形成されており、表皮材40の上下の巻込み代はそれぞれ、壁部本体32Aの裏面側(室内側)に巻き込まれて、表皮材40の端部は接着層(図示せず)により壁部本体32Aの裏面(室内側)の面に固定されている。また、表皮材40の前方と後方は、壁部本体32Aの側面および巻込み代の分だけ壁部本体32Aよりも大きく形成されており、表皮材40の前後の巻込み代はそれぞれ、壁部本体32Aの側面ないしは裏面側(室内側)に巻き込まれて接着層(図示せず)によって固定されている。これにより、壁部32の周縁において端部(端面)が表皮材40によって覆われ、美観の向上が図られている。
【0036】
表皮延設部44は、表皮本体部43の前方に向けて延びる部分である。表皮延設部44は、壁組付部32Bの貫通孔32Cの近傍に設けられた押当て部34に重畳されている。より具体的には、表皮延設部44は、壁部本体32Aから押当て部34の梁部34Bの上(室外側の表面)にまで延びる主延設部44Aと、主延設部44Aの先端において上下方向にそれぞれ延びる被係止部44Bと、を含むT字状をなしている。被係止部44Bにはそれぞれ切込みが設けられており、この切込みに係止部34Cの鈎部を挿通して係止させることで、表皮延設部44を押当て部34に重畳させて固定できるようになっている。換言すると、表皮材40を、押当て部34によって壁組付部32Bの表面よりも室外側に突出させている。ここで、押当て部34の基部34Aの高さ(壁組付部32Bの表面からの突出寸法)は、グロメット45のフランジ部45Bの厚み(室内外方向の寸法)よりも小さく、かつ、表皮材40の厚みと基部34Aの高さの合計がフランジ部45Bの厚みよりも厚くなるように設計されている。このことにより、壁部32をドアインナパネル16に取り付けたときに、表皮材40の表皮延設部44が壁組付部32Bの押当て部34によってドアインナパネル16に押し付けられ、表皮材40の表面がドアインナパネル16にしっかりと接触する構成が実現される。換言すれば、表皮材40は、弾性層42を厚み方向で圧縮変形させた状態で、接触部を構成する除電表面層41がドアインナパネル16に直接的に接触される。
【0037】
上記実施形態において、車両(乗物の一例)を構成するドアインナパネル16(金属部材)に対して室内側に取り付けられ、乗員が触れる接触部を備えるトリムボード21(乗物用内装材)は、板状をなす基材31(壁組付部32B)と、この基材31の少なくとも一部(壁部本体32A)を覆う表皮材40と、を備えている。基材31は、接触部の骨格となる壁部本体32A(基材本体)と、壁部本体32Aからドアインナパネル16に向けて延びる壁組付部32B(延設部)とを有する。表皮材40は、壁部本体32Aを覆って接触部を構成する表皮本体部43と、この表皮本体部43から連続し、壁組付部32Bに備えられる表皮延設部44と、を備えるとともに、少なくともドアインナパネル16に向かう側の表面に静電気拡散性を有する除電表面層41を備えている。そしてこのトリムボード21は、表皮材40がドアインナパネル16の側を向く姿勢でドアインナパネル16に取り付けられたとき、壁組付部32Bはドアインナパネル16に固定されるとともに、表皮材40は表皮延設部44における除電表面層41がドアインナパネル16に直接接触する構成を備えている。
【0038】
ドアインナパネル16のようにアースとして作用し得るような乗物を構成する金属部材と、除電時に人に痛みを感じさせるような大きな電圧の静電気を溜めた部材との間であれば、塗装が施されていない箇所のみならず、塗装が施された箇所であっても電気的に導通し得る。そのため、ここに開示されるトリムボード21は、除電表面層41をドアインナパネル16に直接接触させることで、接触部(表皮本体部43)に蓄積された静電気を除電する構成を備えている。これにより、ドアインナパネル16等の金属部材の室内側に塗装が施されているか否かに関わらず、同一の構成で、接触部に蓄積された静電気を除電することができる。
【0039】
上記実施形態において、ドアインナパネル16は、金属製の金属基材と、この金属基材の室内側の表面に絶縁性の塗膜が備えられており、表皮材40は、塗膜が設けられた部分においてドアインナパネル16と接触する構成を備えている。ドアインナパネル16等の金属部材は、金属基材が塗装されている部分であっても、本技術に係る静電気除去構造を適用することができる。したがって、ドアインナパネル16の塗膜が設けられた部分において表皮材40が接触する構成とした場合に、このトリムボード21(乗物用内装材)の利点を発揮し得る点において好適である。
【0040】
上記実施形態において、表皮材40は、静電気拡散性を有する除電表面層41と、除電表面層41の基材31の側を向く面である裏面に一体的に配されており、弾性を有する弾性層42と、を含む積層構造を有している。表皮材40に柔軟性を付与することができる弾性層42は、その構造等に起因して十分な静電気拡散性を具備することが困難であり、その傾向は弾性の柔軟性を高めるほど顕著となり得る。上記構成によると、除電表面層41は表皮材40の表面のみに備えられていればよく、裏面に弾性層42を配することが可能となり、接触部に柔らかな触感を付与することができる。これにより、優れた質感と静電気除去性能とを両立させたトリムボード21(乗物用内装材)が提供される。
【0041】
上記実施形態において、ドアインナパネル16(金属部材)と壁組付部32B(延設部)とは、離間して配されるとともに、少なくとも壁組付部32B(一方)には、ドアインナパネル16(他方)に向けて突出する押当て部34(突出部の一例)を備え、当該押当て部34とドアインナパネル16(他方)との間において除電表面層41とドアインナパネル16とが直接接触する構成を備えている。上記構成によると、表皮材40とドアインナパネル16とが直接接触し得るように、表皮材40の厚みに応じて押当て部34(突出部)の突出高さを設定することができる。これにより、表皮材40とドアインナパネル16との接触をより確実なものとすることができる。
【0042】
上記実施形態において、ドアインナパネル16および壁組付部32B(延設部)は、互いを締結する締結具46(締結部材)を挿通する貫通孔16X(挿通孔),32Cをそれぞれ備えている。そしてドアインナパネル16の貫通孔16Xにはグロメット45が装着されており、グロメット45は、貫通孔16Xに挿通される筒部45Aと、ドアインナパネル16の乗物室内側の表面において筒部45Aから貫通孔16Xの半径方向外側に向けて延びるフランジ部45Bと、を備えている。また壁組付部32Bは、挿通孔32Cの近傍においてドアインナパネル16に向けて突出する押当て部34を備えている。そして押当て部34の突出高さは、フランジ部45Bの乗物室内外方向に沿う厚み寸法よりも小さく、押当て部34の突出高さと表皮材40の厚みとの合計は、乗物室内外方向に沿うフランジ部45Bの厚み寸法よりも大きくなる構成とされている。ドアインナパネル16(金属部材)と基材31の壁組付部32B(延設部)とを締結したとき、ドアインナパネル16と壁組付部32Bの離間寸法はグロメット45のフランジ部45Bの厚み寸法に一致することとなる。上記構成によると、フランジ部45Bの近傍に押当て部34を設けることで、表皮材40をドアインナパネル16に押し付けるのに適した寸法に押当て部34を精度よく形成することができる。これにより、表皮材40とドアインナパネル16(金属部材)とをより確実に接触させることができる。
【0043】
上記実施形態において、壁組付部32B(延設部)は、板状をなす壁組付部32B(延設部本体)と、この壁組付部32Bの乗物室外側の表面からドアインナパネル16(金属部材)に向けて突出する押当て部34と、を備えている。この押当て部34は、壁組付部32B(延設部本体)から立ち上がる基部34Aと、基部34Aから壁組付部32B(延設部本体)の表面に沿って延びる梁部34Bと、を備えており、表皮延設部44は、梁部34Bに重畳されている。このような構成によると、表皮材40をドアインナパネル16に対して好適に弾接させることができる。
【0044】
上記実施形態において、梁部34Bは、基部34Aから壁部本体32A(基材本体)の側に向けて延設されており、表皮延設部44は、梁部34Bに室外側から重畳するとともに、少なくとも一部が壁組付部32Bに固定されている。このような構成によると、押当て部34の基部34Aとグロメット45とをより近づける構成とすることができ、ドアインナパネル16と壁組付部32B(延設部)との締結およびドアインナパネル16と表皮材40との接触を、より安定した構成のものとすることができる。
【0045】
上記実施形態において、除電表面層41は、導電性繊維が編み込まれた編物からなる導電性ファブリック表皮であり、導電性繊維を含むものであった。また、除電表面層41は、その他の導電性繊維を含む合成樹脂シート、布帛、および不織布の少なくとも一つを含むものであってよい。このように、除電表面層41は様々な触感および質感の素材によって構成することができ、ユーザの満足度を向上させることができる。
【0046】
上記実施形態において、弾性層42は発泡樹脂を含むウレタンフォームから構成されていた。ウレタンフォームはその連続気泡構造に由来して、接触部に柔らかな触感を付与することができるとともに、大きく弾性変形させることができる。このような構成によると、表皮材40の質感を高めることができるとともに、トリムボード21(乗物用内装材)とドアインナパネル16(金属部材)との電気的接続をより確実なものとすることができる。
【0047】
上記実施形態において、トリムボード21(乗物用内装材)は、乗物用ドア10を構成する金属製のドアインナパネル16(ドアパネル)の室内側に取り付けられるトリムボード21(ドアトリム20)であって、接触部は、ドアプルハンドル24を構成するプルハンドル部材30である。このような構成によると、例えば、乗員が車両(乗物)から降りるとき、ドア10を開けるためにプルハンドル部材30に触れるという自然な動作の中で、着座シートへの着座中に溜めた静電気を好適にドアインナパネル16に逃すことができる。
【0048】
≪実施形態2≫
実施形態2に係るトリムボード21(乗物用内装材)について、
図12および
図13を参照して説明する。本実施形態では、壁組付部32B(延設部)に設けられる押当て部134(突出部の一例)および表皮延設部144の構成が、実施形態1と異なっている。それ以外の構成および作用効果については、実施形態1と同様であってよく、同様の構成、作用および効果についての説明は省略する。なお、
図12および
図13では、プルハンドル部材30等の構成の図示を省略している。
【0049】
具体的には、押当て部134における基部134Aは、実施形態1の基部34Aよりも壁部本体32Aの側に配されている。また梁部134Bは、基部134Aから壁部本体32A(基材本体)の側とは反対側に(ずなわち貫通孔32Cの側に)向けて延設されている。また、表皮延設部144は、表皮本体部43から概ね一定の太さで押当て部134の梁部134Bに重畳されている。表皮延設部144はその全体が、壁組付部32B、基部134Aの側面、および梁部134Bの室外側の表面に貼着されている。このような構成によると、表皮延設部144を押当て部134から浮かせることなく、その全体を押当て部134に貼着することができる。これにより、乗物走行中に浮いた表皮延設部144の周縁で表皮延設部144が剥がれたり付着したりする微粘着音(ニチャニチャ音)が発生したり、表皮延設部144の付着強度が低下することを抑制することができる。また、表皮延設部144は押当て部134にしっかりと貼着されるため、より広い面積でドアインナパネル16(ドアパネル)に押し当てることができる。これにより、接触部に蓄積された静電気をより円滑に除電することができる。
【0050】
<他の実施形態>
ここに開示される技術は、上記の実施形態に開示されたものに限定されるものではなく、例えば、以下の態様もここに開示される技術範囲に含まれる。また、ここに開示される技術は、その本質から逸脱しない範囲において種々変更された態様で実施することができる。
【0051】
(1)上記実施形態において、プルハンドル部材30の底部本体33Aは基材が露出されていた。しかしながら、底部本体33Aは表皮材によって覆われていてもよい。このときの底部本体33Aを覆う表皮材は、静電気拡散性を有する表皮材40であってもよいが、例えば、電気絶縁性を有する合成樹脂シート(例えば、合成皮革)等の表皮材を用いてもよい。
【0052】
(2)上記実施形態では、壁部32とドアインナパネル16とのうち、壁部32の側に、ドアインナパネル16に向けて突出する押当て部34が備えられていた。しかしながら、壁部32とドアインナパネル16とのうち、ドアインナパネル16の側に、壁部32に向けて突出する構成が備えられていてもよい。また、上記実施形態の押当て部34は、先端に向かうほど室外側に向かう構成と、室内外方向で撓むことができる構成とを備えていた。しかしながら、押当て部34は、先端に向かうほど室外側に向かう構成および室内外方向で撓むことができる構成のいずれか一方または両方を備えていなくてもよい。また、ドアインナパネル16が壁部32に向けて突出する構成を備えている場合についても同様である。
【0053】
(3)上記実施形態では、乗物用内装材として、車両用のドアトリムを例示したが、乗物用内装材はこれに限定されない。乗物用内装材は、例えば、乗員が姿勢を保持するための把持部を備えたクォータートリムや、アシストグリップを備えた天井用内装材やピーラーガーニッシュ等の乗物用内装材に適用してもよい。さらに、乗物用内装材は、車両用途のものに限定されず、例えば、地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの種々の乗物における乗物用内装材に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
12…ドアパネル、16…ドアインナパネル、16X…貫通孔、20…ドアトリム、21…トリムボード、24…ドアプルハンドル、30…プルハンドル部材、31…基材、32…壁部、32A…壁部本体、32B…壁組付部(延設部)、34,134…押当て部、34A,134A…基部、34B,134B…梁部、34C…係止部、40…表皮材、41…除電表面層、42…弾性層、43…表皮本体部、44,144…表皮延設部、44A…主延設部、44B…被係止部、45…グロメット、45A…筒部、45B…フランジ部、46…締結具、47…ブラケット、144…表皮延設部