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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185628
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20221208BHJP
   F01M 1/16 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F01M1/16 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093361
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岡沢 伸吾
【テーマコード(参考)】
3G313
3J049
【Fターム(参考)】
3G313BB15
3G313BB32
3G313EA02
3G313EA07
3J049AA08
3J049BB13
3J049BB17
3J049BB23
3J049BB26
3J049BB35
3J049BC08
3J049BG07
3J049CA02
(57)【要約】
【課題】チェーンテンショナの油圧室の油圧が低下しても当該油圧を早期に回復させることによってチェーンの振動に起因する異音が大きくなることを抑制できるようにすること。
【解決手段】内燃機関10は、クランク軸11と、各カム軸21,22と、チェーン34と、チェーンテンショナ40と、オイルポンプ26Aと、油路28とを備える。チェーンテンショナ40は、オイルが油路28を介して供給される油圧室40Aの油圧が高いほどプランジャの後退方向への移動を抑制できるように構成されている。CPU101は、所定の実行条件が成立しているとの判定をなすと、オイルポンプ26Aのオイル吐出量を多くする処理を実行する。CPU101は、油温が油温判定値以上であり、且つ、クランク軸11の回転速度が所定の速度範囲に含まれている場合、実行条件が成立しているとの判定をなす。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸と、カム軸と、前記クランク軸及び前記カム軸に掛け回されており、前記クランク軸の回転を前記カム軸に伝達するチェーンと、前記チェーンの張力を調整するチェーンテンショナと、オイルポンプと、前記オイルポンプと前記チェーンテンショナとを繋ぐ油路と、を備える内燃機関に適用され、
前記チェーンテンショナは、
前記オイルポンプから吐出されたオイルが前記油路を介して供給される油圧室と、前記油圧室の容積を拡大させる方向であって且つ前記チェーンに接近する方向である前進方向、及び、前記前進方向の反対方向である後退方向に移動するプランジャと、前記前進方向に前記プランジャを付勢する付勢バネと、を有し、前記油圧室の油圧が高いほど前記プランジャの前記後退方向への移動を抑制できるように構成されたものであり、
所定の実行条件が成立しているとの判定をなすと、当該実行条件が成立しているとの判定をなす前よりも前記オイルポンプのオイル吐出量を多くする処理を実行する実行装置を備え、
前記実行装置は、前記オイルの温度である油温が油温判定値以上であり、且つ、前記クランク軸の回転速度が所定の速度範囲に含まれている場合、前記実行条件が成立しているとの判定をなす
内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、クランク軸とカム軸とに掛け回されているチェーンと、チェーンの張力であるチェーン張力を調整するチェーンテンショナとを備えている。
こうしたチェーンテンショナの一例が、特許文献1に記載されている。チェーンテンショナは、筒状をなすハウジングと、ハウジングの内周面に沿って当該ハウジングの軸線の延びる方向に進退移動するプランジャとを備えている。ハウジングの両端のうち、一方の端は底壁によって閉塞されており、他方の端は解放されている。こうしたハウジングの他方の端に形成されている開口からプランジャが突出するようになっている。ハウジング内には、底壁とプランジャとの間に油圧室が区画されているとともに、プランジャをハウジング外に突出させる方向である前進方向にプランジャを付勢する付勢バネが配置されている。当該油圧室には、内燃機関のオイルポンプから吐出されたオイルが供給される。
【0003】
当該チェーンテンショナは、付勢バネの付勢力と、油圧室の油圧とによって、プランジャがチェーンを押す力を調整できる。そのため、油圧室の油圧が高いほど、油圧室の容積を縮小する方向である後退方向へのプランジャの移動が抑制される。すなわち、油圧室の油圧を高くすることにより、チェーンの振動を抑制できる。ここでいう後退方向は、前進方向の反対方向である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-134263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チェーンが振動した場合、振動に応じた力がチェーンからチェーンテンショナに入力されるため、後退方向にプランジャが移動する。この際に、油圧室のオイルが、ハウジングとプランジャとの間の隙間などを介してハウジング外に漏出する。油温が高くてオイルの粘度が低いほど、オイルの漏出量が多くなりやすい。油圧室から多くのオイルが漏出すると、チェーンからチェーンテンショナに上記力が入力された際におけるプランジャの後退方向の移動量が多くなりやすい。
【0006】
クランク軸の回転速度によっては、クランク軸の回転によって走行するチェーンからチェーンテンショナに入力される力の次数と、チェーンテンショナの付勢バネの固有値とが一致することがある。この場合では、チェーンからチェーンテンショナへの入力の次数と、チェーンテンショナの付勢バネの固有値とが一致しない場合と比較し、プランジャの後退方向への移動量が多くなる。プランジャの後退方向への移動量が多いと、油圧室からのオイルの漏出量がさらに多くなる。
【0007】
油圧室からオイルが漏出した場合、油圧室にオイルを供給し、油圧室の油圧を早期に回復させることが望ましい。しかし、オイルポンプとチェーンテンショナとを繋ぐ油路の油圧が低いと、油圧室の油圧を回復させるまでに要する時間が長くなる。その結果、油圧室の油圧が低い状態が長く続くため、チェーンの振動の振幅が大きくなってしまう。その結果、チェーンの振動に起因する異音が大きくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための内燃機関の制御装置は、クランク軸と、カム軸と、前記クランク軸及び前記カム軸に掛け回されており、前記クランク軸の回転を前記カム軸に伝達するチェーンと、前記チェーンの張力を調整するチェーンテンショナと、オイルポンプと、前記オイルポンプと前記チェーンテンショナとを繋ぐ油路と、を備える内燃機関に適用される。前記チェーンテンショナは、前記オイルポンプから吐出されたオイルが前記油路を介して供給される油圧室と、前記油圧室の容積を拡大させる方向であって且つ前記チェーンに接近する方向である前進方向、及び、前記前進方向の反対方向である後退方向に移動するプランジャと、前記前進方向に前記プランジャを付勢する付勢バネと、を有し、前記油圧室の油圧が高いほど前記プランジャの前記後退方向への移動を抑制できるように構成されたものである。この制御装置は、所定の実行条件が成立しているとの判定をなすと、当該実行条件が成立しているとの判定をなす前よりも前記オイルポンプのオイル吐出量を多くする処理を実行する実行装置を備えている。前記実行装置は、前記オイルの温度である油温が油温判定値以上であり、且つ、前記クランク軸の回転速度が所定の速度範囲に含まれている場合、前記実行条件が成立しているとの判定をなす。
【0009】
上記構成では、オイルの粘度が低くなっているか否かを判断するための油温が油温判定値として設定されている。また、チェーンからプランジャに入力される力の次数と、付勢バネの固有値とが一致しているか否かを判断するためのクランク軸の回転速度の範囲として、所定の速度範囲が設定されている。そのため、油温が油温判定値以上であり、且つ、クランク軸の回転速度が所定の速度範囲に含まれている場合には、プランジャが後退方向に移動した際に油圧室から多くのオイルが漏出する可能性があると判断できる。すなわち、実行条件が成立したとの判定をなすことができる。このように実行条件が成立しているとの判定がなされると、実行条件が成立しているとの判定がなされる前よりもオイルポンプのオイル吐出量が増大されるため、油路の油圧を高くできる。これにより、チェーンに押されてプランジャが後退方向に移動したことによって油圧室からオイルが漏出したとしても、当該油圧室にオイルを早期に供給できる。すなわち、油圧室の油圧を早期に回復できる。その結果、チェーンの振動の振幅が大きくなることが抑制されるため、チェーンの振動に起因する異音が大きくなることを抑制できる。
【0010】
したがって、上記構成によれば、油圧室の油圧が低下しても当該油圧を早期に回復させることによってチェーンの振動に起因する異音が大きくなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の制御装置と、同制御装置が適用される内燃機関の概略を示す構成図。
図2】内燃機関の動力伝達機構を示す図。
図3】動力伝達機構のチェーンテンショナを示す断面図。
図4】制御装置で実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図5】油圧と機関回転数との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態を図1図5に従って説明する。
図1には、本実施形態の制御装置100と、制御装置100が適用される内燃機関10とが図示されている。
【0013】
<内燃機関10>
内燃機関10は、クランク軸11と、複数の気筒12とを有している。各気筒12内には、ピストン13が設けられている。各気筒12内におけるピストン13よりも上方域は燃焼室14である。燃焼室14では、燃料及び空気を含む混合気が燃焼される。各ピストン13は、コネクティングロッド15を介してクランク軸11に連結されている。各燃焼室14には、吸気通路16及び排気通路17が接続されている。吸気通路16を介して空気が各燃焼室14に導入される。また、各燃焼室14での混合気の燃焼によって生じた排気は、排気通路17に排出される。
【0014】
内燃機関10では、燃焼に供される燃料を噴射する噴射弁18と、燃焼室14の混合気に対して点火を行う点火プラグ19とが気筒12毎に設けられている。
内燃機関10は、カム軸として、吸気カム軸21及び排気カム軸22を備えている。吸気カム軸21には、吸気カム軸21と一体回転するカムである吸気カム21Aが設けられている。排気カム軸22には、排気カム軸22と一体回転するカムである排気カム22Aが設けられている。
【0015】
内燃機関10は、吸気バルブ23及び排気バルブ24を備えている。吸気バルブ23は、吸気カム軸21の回転に応じて吸気通路16の燃焼室14に対する開閉を行う。排気バルブ24は、排気カム軸22の回転に応じて排気通路17の燃焼室14に対する開閉を行う。
【0016】
内燃機関10は、内燃機関10内でオイルを循環させるために作動するオイル供給機構26を備えている。オイル供給機構26は、オイルポンプ26Aを有している。オイルポンプ26Aは、クランク軸11に連結されている。すなわち、オイルポンプ26Aは、クランク軸11の駆動力に基づきオイルを吐出する機関駆動式のオイルポンプである。オイルポンプ26Aは、油路28にオイルを吐出する。油路28を流れるオイルが、内燃機関10の各種の必要箇所に供給される。必要箇所としては、例えば、後述するチェーンテンショナ40及びシリンダブロック内の油路などを挙げることができる。
【0017】
なお、オイルポンプ26Aは、可変容量式のオイルポンプである。オイル供給機構26は、オイル制御バルブ26Bを有している。そのため、オイル制御バルブ26Bを作動させることにより、オイルポンプ26Aのオイル吐出量を調整できる。
【0018】
図2に示すように、内燃機関10は、クランク軸11の回転を各カム軸21,22に伝達する動力伝達機構30を備えている。動力伝達機構30は、駆動スプロケット31、吸気側スプロケット32、排気側スプロケット33及びチェーン34を有している。
【0019】
駆動スプロケット31は、クランク軸11に固定されている。吸気側スプロケット32は、吸気カム軸21に固定されている。排気側スプロケット33は、排気カム軸22に固定されている。
【0020】
チェーン34は、駆動スプロケット31、吸気側スプロケット32及び排気側スプロケット33に巻き掛けられている。図中時計回り方向である正転方向D1に駆動スプロケット31が回転すると、チェーン34が走行し、吸気側スプロケット32及び排気側スプロケット33に駆動力が伝達される。これにより、吸気側スプロケット32及び排気側スプロケット33が、図中時計回り方向にそれぞれ回転する。すなわち、チェーン34は、クランク軸11及び各カム軸21,22に巻き回されており、クランク軸11の回転を各カム軸21,22に伝達する。
【0021】
動力伝達機構30は、駆動スプロケット31と排気側スプロケット33との間に位置している固定ガイド35を有している。固定ガイド35は、チェーン34で囲まれる領域の外であってチェーン34の近傍に位置している。固定ガイド35は、駆動スプロケット31から排気側スプロケット33に向かうように延びている。固定ガイド35は、ボルトにより内燃機関10に固定されている。固定ガイド35は、チェーン34で囲まれる領域の外から当該チェーン34に接触している。
【0022】
動力伝達機構30は、駆動スプロケット31及び吸気側スプロケット32の間に位置している揺動ガイド36を有している。揺動ガイド36は、チェーン34で囲まれている領域の外であってチェーン34の近傍に位置している。揺動ガイド36は、ガイド本体36A、支持突起36B、当接突起36C及び回動軸36Dを有している。
【0023】
ガイド本体36Aは、駆動スプロケット31から吸気側スプロケット32に向かうように延びている。ガイド本体36Aは、長手方向の中央部分がチェーン34に向かって凸となるように湾曲した略弓型形状である。
【0024】
支持突起36Bは、ガイド本体36Aにおける駆動スプロケット31に近い端部に設けられている。支持突起36Bは、チェーン34から離れる方向に突出している。回動軸36Dは、例えば、クランク軸11と同じ方向に延びた状態で内燃機関10に固定されている。回動軸36Dは、支持突起36Bを貫通している。これにより、支持突起36B及びガイド本体36Aは、回動軸36Dを中心軸として揺動可能である。
【0025】
当接突起36Cは、ガイド本体36Aにおける長手方向の中央部分よりも吸気側スプロケット32に近い箇所に設けられている。当接突起36Cは、チェーン34から離れる方向に突出している。当接突起36Cにおける突出端面は、当該突出端面の中央部分が窪むように湾曲している。
【0026】
動力伝達機構30は、チェーン34の張力を調整するチェーンテンショナ40を有している。以降の記載では、チェーン34の張力を、「チェーン張力」ともいう。チェーンテンショナ40は、揺動ガイド36を挟んでチェーン34の反対側に位置している。図3に示すように、チェーンテンショナ40は、ハウジング41、プランジャ42、付勢バネ43、逆止弁44、第1フランジ46及び第2フランジ47を有している。
【0027】
図3に示すように、ハウジング41は、略円筒形状である。ハウジング41の両端のうち、当接突起36Cから離れている端は、底壁411によって閉塞されている。一方、ハウジング41の両端のうち、当接突起36Cに近い方の端には、ハウジング41の内部と外部とを連通する開口412が設けられている。そして、ハウジング41の両端のうち、開口412が設けられている側の端は、当接突起36Cを向いている。
【0028】
ハウジング41内には、内部空間41Aと、拡径空間41Bとが形成されている。内部空間41Aは、ハウジング41の開口412を介して外部と連通している。拡径空間41Bは、内部空間41Aの軸線方向の略中央部分に接続している。ハウジング41の周壁に環状の凹部が設けられており、この凹部内が拡径空間41Bとなっている。すなわち、拡径空間41Bは、内部空間41Aを周方向に取り囲む略円環形状の空間である。
【0029】
ハウジング41の周壁には、貫通孔41Cが形成されている。貫通孔41C内は拡径空間41Bと連通している。すなわち、拡径空間41Bは、貫通孔41C内を介して外部と連通している。貫通孔41Cは、油路28と繋がっている。
【0030】
第1フランジ46は、ハウジング41の外周面から外方に突出している。第2フランジ47は、ハウジング41を挟んで第1フランジ46の反対側に位置している。そして、第2フランジ47は、ハウジング41の外周面から、第1フランジ46の突出方向とは反対方向に突出している。第1フランジ46及び第2フランジ47は、例えば、ボルトによって内燃機関10のシリンダブロックにそれぞれ固定されている。
【0031】
プランジャ42は、略円柱形状である。プランジャ42の外径は、ハウジング41における内部空間41Aの内径よりもわずかに小さい。プランジャ42は、ハウジング41の内部空間41Aに収容されている。プランジャ42の第1端を含む一部分は、ハウジング41の開口412から内部空間41A外に突出している。プランジャ42の第1端は、揺動ガイド36の当接突起36Cに当接している。
【0032】
プランジャ42は、ハウジング41の軸線に沿う方向に進退移動可能である。すなわち、プランジャ42は、チェーン34に接近する方向である前進方向、及び、前進方向の反対方向である後退方向に移動可能である。後退方向は、プランジャ42をチェーン34から離間させる方向である。
【0033】
プランジャ42の第2端とハウジング41の底壁411との間に、オイルが供給される油圧室40Aが区画されている。すなわち、チェーンテンショナ40は、オイルポンプ26Aから吐出されたオイルが流入する油圧室40Aを有している。プランジャ42が前進方向に移動すると、油圧室40Aの容積が拡大する。一方、プランジャ42が後退方向に移動すると、油圧室40Aの容積が縮小する。
【0034】
プランジャ42は、当該プランジャ42内の空間として、第1空間42A、第2空間42B及び接続孔42Cを備えている。プランジャ42における第2端から第1端に向かって、第2空間42B、接続孔42C、第1空間42Aの順に並んでいる。第2空間42Bは、油圧室40Aと連通している。接続孔42Cは、第2空間42Bと第1空間42Aとを繋げている。接続孔42Cの内径は、第2空間42Bの内径よりも小さい。第1空間42Aの内径は、接続孔42Cの内径よりも大きい。
【0035】
プランジャ42には、第1空間42Aとプランジャ42外とを連通させる導入孔42Dが形成されている。具体的には、導入孔42Dは、第1空間42Aと拡径空間41Bとを連通している。
【0036】
付勢バネ43は、油圧室40Aに配置されている。付勢バネ43は、ハウジング41の底壁411からプランジャ42を離間させる方向、すなわち前進方向にプランジャ42を付勢している。
【0037】
逆止弁44は、プランジャ42の第2空間42Bに配置されている。逆止弁44は、接続孔42Cを閉塞する弁体44Aと、弁体44Aを接続孔42Cに接近させるように付勢する弁用バネ44Bとを有している。逆止弁44は、接続孔42Cを介した第2空間42Bから第1空間42Aへのオイルの流通を規制する。また、第1空間42Aの油圧が第2空間42Bの油圧よりも高い場合、弁用バネ44Bの付勢力に抗して弁体44Aが変位するため、接続孔42Cが解放される。そのため、接続孔42Cを介した第1空間42Aから第2空間42Bへのオイルの流通が許容される。一方、第1空間42Aの油圧が第2空間42Bの油圧以下である場合、弁用バネ44Bの付勢力によって弁体44Aが接続孔42Cを閉塞する。そのため、接続孔42Cを介した第1空間42Aから第2空間42Bへのオイルの流通が規制される。
【0038】
第2空間42Bに供給されるオイルの量が多いほど、第2空間42Bと連通する油圧室40Aの油圧が高くなる。そして、油圧室40Aの油圧が高いほど、ハウジング41からのプランジャ42の突出量が多くなる。プランジャ42の突出量が多いほど、チェーンテンショナ40が当接突起36Cを押す力が大きくなる。すると、揺動ガイド36がチェーン34を押す力が大きくなる。その結果、チェーン張力が大きくなる。すなわち、チェーンテンショナ40は、付勢バネ43の付勢力と、油圧室40Aの油圧とによってチェーン張力を調整できる。具体的には、チェーンテンショナ40は、油圧室40Aの油圧が高いほど、プランジャ42の後退方向への移動を抑制できる。
【0039】
<内燃機関10の検出系>
図1に示すように、内燃機関10は、各種のセンサを備えている。センサとしては、クランク角センサ111、油温センサ112及び油圧センサ113を挙げることができる。クランク角センサ111は、クランク軸11の回転速度である機関回転数Neに応じた検出信号を出力する。油温センサ112は、内燃機関10内を循環するオイルの温度である油温TPを検出し、検出結果に応じた検出信号を出力する。油圧センサ113は、油路28における油圧POを検出し、検出結果に応じた検出信号を出力する。
【0040】
<制御装置100>
制御装置100は、内燃機関10が備える各種のアクチュエータを作動させる。すなわち、制御装置100は、上記各種のセンサの検出信号を基に、各噴射弁18、各点火プラグ19及びオイル制御バルブ26Bを作動させる。
【0041】
制御装置100は、CPU101、ROM102及び記憶装置103を有している。ROM102には、CPU101が実行する制御プログラムが記憶されている。記憶装置103には、CPU101の演算結果が記憶される。
【0042】
<チェーン28の振動に起因する異音の発生を抑制するための処理の流れ>
図4及び図5を参照し、当該異音の発生を抑制するためにCPU101が実行する一連の処理の流れについて説明する。CPU101は、内燃機関10の運転中には図4に示す処理ルーチンを繰り返し実行する。
【0043】
図4に示すように、本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS11では、CPU101は、実行フラグFLGにオフがセットされているか否かを判定する。実行フラグFLGは、後述する吐出量増大処理によって油圧POが増大されている場合、実行フラグFLGにオンがセットされる。一方、吐出量増大処理によって油圧POが増大されていない場合、実行フラグFLGにオフがセットされる。実行フラグFLGにオフがセットされている場合(S11:YES)、CPU101は、処理を次のステップS13に移行する。一方、実行フラグFLGにオフがセットされていない場合(S11:NO)、CPU101は、処理を後述するステップS21に移行する。
【0044】
ステップS13において、CPU101は、油温TPが油温判定値TPTh以上であるか否かを判定する。油温TPが高いほどオイルの粘度が低くなる。そして、オイルの粘度が低いほど、チェーンテンショナ40の油圧室40Aからオイルが漏出しやすい。すなわち、ハウジング41とプランジャ42との間の僅かな隙間などを介し、油圧室40Aからオイルが外部に漏出しやすくなる。そこで、オイルの粘度が低くて油圧室40Aからオイルが漏出しやすい状態になっているか否かを判断するための油温TPが、油温判定値TPThとして設定されている。油温TPが油温判定値TPTh以上である場合は、オイルの粘度が低く、油圧室40Aからオイルが漏出しやすいと見なす。一方、油温TPが油温判定値TPTh未満である場合は、オイルの粘度が低くないため、油圧室40Aからオイルが漏出しやすいと見なさない。
【0045】
ステップS13において、油温TPが油温判定値TPTh以上である場合(YES)、CPU101は、処理をステップS15に移行する。一方、油温TPが油温判定値TPTh未満である場合(S13:NO)、CPU101は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0046】
ステップS15において、CPU101は、機関回転数Neが所定の速度範囲RNeに含まれているか否かを判定する。所定の速度範囲RNeの下限として、第1機関回転数Ne1が設定されている。所定の速度範囲RNeの上限として、第2機関回転数Ne2が設定されている。
【0047】
機関回転数Neによっては、クランク軸11の回転によって走行するチェーン34からチェーンテンショナ40のプランジャ42に入力される力の次数と、チェーンテンショナ40の付勢バネ43の固有値とが一致することがある。この場合では、チェーン34からチェーンテンショナ40への入力の次数と、付勢バネ43の固有値とが一致しない場合と比較し、プランジャ42の後退方向への移動量が多くなりやすい。そこで、チェーン34からチェーンテンショナ40への入力の次数と、付勢バネ43の固有値とが一致しているか否かを判断するための機関回転数Neが、第1機関回転数Ne1及び第2機関回転数Ne2として設定されている。機関回転数Neが第1機関回転数Ne1以上であって且つ第2機関回転数Ne2以下である場合は、チェーン34からチェーンテンショナ40への入力の次数と、付勢バネ43の固有値とが一致していると見なす。機関回転数Neが第1機関回転数Ne1未満である場合は、チェーン34からチェーンテンショナ40への入力の次数と、付勢バネ43の固有値とが一致していると見なさない。機関回転数Neが第2機関回転数Ne2を越えている場合は、チェーン34からチェーンテンショナ40への入力の次数と、付勢バネ43の固有値とが一致していると見なさない。
【0048】
ステップS15において、機関回転数Neが所定の速度範囲RNeに含まれている場合(YES)、CPU101は、処理をステップS17に移行する。一方、機関回転数Neが所定の速度範囲RNeに含まれていない場合(S15:NO)、CPU101は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0049】
図5は、機関回転数Neを横軸とし、油温TPを縦軸とするグラフである。同グラフにおいて、油温TPが油温判定値TPTh以上であって、且つ、機関回転数Neが所定の速度範囲RNeに含まれている場合の領域を、過剰漏出領域ARとしている。現時点の油温TPと機関回転数Neとを示す点である現状点が過剰漏出領域ARに含まれていると、チェーン34が振動した際にプランジャ42の後退方向への移動量が多くなりやすい。すなわち、油圧室40Aから多くのオイルが漏出する可能性がある。そこで、本実施形態では、油温TPが油温判定値TPTh以上であって、且つ、機関回転数Neが所定の速度範囲RNeに含まれている場合、CPU101は、所定の実行条件が成立しているとの判定をなす。一方、油温TPが油温判定値TPTh未満であったり、機関回転数Neが所定の速度範囲RNeに含まれていなかったりする場合、CPU101は、所定の実行条件が成立しているとの判定をなさない。そのため、ステップS17の処理は、所定の実行条件が成立するようになると実行される処理であるといえる。
【0050】
図4に戻り、ステップS17において、CPU101は、オイルポンプ26Aのオイル吐出量を増大させる吐出量増大処理を実行する。すなわち、CPU101は、油圧POの指令値である油圧目標値POTrとして所定油圧を設定する。吐出量増大処理の実行前の油圧POよりも高い油圧が油圧目標値POTrとして設定される。CPU101は、油圧POと油圧目標値POTrとの偏差を入力とするフィードバック制御を実行することにより、オイル制御バルブ26Bの操作量を導出する。そして、CPU101は、導出した操作量を基にオイル制御バルブ26Bを作動させる。これにより、油圧POを油圧目標値POTrに接近させることができる。すなわち、本実施形態では、所定の実行条件が成立したとの判定がなされると、実行条件が成立したとの判定がなされる前よりもオイルポンプ26Aのオイル吐出量が増大される。なお、本実施形態では、吐出量増大処理が実行するCPU101が、「実行装置」に対応する。
【0051】
吐出量増大処理の実行によって油圧POが増大されると、CPU101は、処理をステップS19に移行する。
ステップS19において、CPU101は、実行フラグFLGにオンをセットする。そして、CPU101は、処理をステップS21に移行する。
【0052】
ステップS21において、CPU101は、終了条件が成立しているか否かを判定する。終了条件は、吐出量増大処理の実行によって油圧POを増大させた状態を終了させるための条件である。例えば、CPU101は、油温TPが油温判定値TPTh未満になった場合、終了条件が成立したとの判定をなす。また例えば、CPU101は、機関回転数Neが所定の速度範囲RNeに含まれないようになった場合、終了条件が成立したとの判定をなす。
【0053】
終了条件が成立したとの判定をなしている場合(S21:YES)、CPU101は、処理をステップS23に移行する。一方、終了条件が成立したとの判定をなしていない場合(S21:NO)、CPU101は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0054】
ステップS23において、CPU101は、オイルポンプ26Aのオイル吐出量を減少させる縮退処理を実行する。すなわち、CPU101は、油圧目標値POTrを減少させる。例えば、CPU101は、油圧目標値POTrを吐出量増大処理の実行前の大きさまで減少させる。CPU101は、油圧POと油圧目標値POTrとの偏差を入力とするフィードバック制御を実行することにより、オイル制御バルブ26Bの操作量を導出する。そして、CPU101は、導出した操作量を基にオイル制御バルブ26Bを作動させる。これにより、油圧POを減少させることができる。縮退処理の実行によって油圧POを減少させると、CPU101は、処理をステップS25に移行する。
【0055】
ステップS25において、CPU101は、実行フラグFLGにオフをセットする。その後、CPU101は、本処理ルーチンを一旦終了する。
<本実施形態における作用及び効果>
内燃機関10が運転している場合、クランク軸11の回転によってチェーン34が走行している。このときにチェーン34が振動すると、チェーンテンショナ40によってチェーン34の振動が抑えられる。
【0056】
ここで、チェーンテンショナ40の油圧室40Aのオイルの粘度が低いと、チェーン34によってプランジャ42が押されて後退方向に移動した際に油圧室40Aからオイルが漏出しやすい。具体的には、プランジャ42の後退方向への移動量が多いほど、油圧室40Aからのオイルの漏出量が多くなりやすい。
【0057】
また、チェーン34からプランジャ42に入力される力の次数と、付勢バネ43の固有値とが一致している場合、当該力の次数と付勢バネ43の固有値とが一致していない場合と比較し、プランジャ42の後退方向への移動量が多くなりやすい。
【0058】
したがって、オイルの粘度が低く、且つチェーン34からプランジャ42に入力される力の次数と、付勢バネ43の固有値とが一致している場合、油圧室40Aから多くのオイルが漏出する可能性がある。
【0059】
そこで、本実施形態では、油温TPが油温判定値TPTh以上であり、且つ、機関回転数Neが所定の速度範囲RNeに含まれている場合には、所定の実行条件が成立したとの判定がなされる。そして、当該実行条件が成立したとの判定がなされると、吐出量増大処理が実行される。吐出量増大処理が実行されると、実行条件が成立したとの判定がなされる前よりもオイルポンプ26Aのオイル吐出量が増大される。そのため、油路28の油圧POが高くなる。これにより、チェーン34に押されてプランジャ42が後退方向に移動したことによって油圧室40Aからオイルが漏出したとしても、油圧室40Aには油路28を介してオイルが早期に供給される。その結果、油圧室40Aの油圧を早期に回復できる。そのため、チェーン34の振動の振幅が大きくなることが抑制されるため、チェーン34の振動に起因する異音が大きくなることを抑制できる。
【0060】
したがって、油圧室40Aの油圧が低下しても当該油圧を早期に回復させることによってチェーン34の振動に起因する異音が大きくなることを抑制できる。
ここで、チェーンテンショナ40の油圧室40Aの油圧が低下しても当該油圧を早期に回復できるように、油路28の油圧POを常に高くする場合を考える。この場合、油圧室40Aの油圧を早期に回復できるようになるものの、オイルポンプ26Aのオイル吐出量を常に多い状態にする必要がある。オイルポンプ26Aは機関駆動式のポンプであるため、オイル吐出量が多いほど内燃機関10の燃費が悪化する。この点、本実施形態では、所定の実行条件が成立しているとの判定がなされると、オイル吐出量が増大されるようになっている。すなわち、オイル吐出量が常に多い状態で維持されるわけではない。その結果、内燃機関10の燃費の悪化を抑制しつつ、油圧室40Aの油圧が低下しても当該油圧を早期に回復させることができる。
【0061】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0062】
・吐出量増大処理は、吐出量増大処理の開始前における油圧目標値POTrと、規定液圧との和を、新たな油圧目標値POTrとして設定する処理であってもよい。この場合であっても、吐出量増大処理の実行によって油路28の油圧POを高くできる。
【0063】
・制御装置100は、CPU101とROM102とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置100は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御装置100は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)制御装置100は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)制御装置100は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【符号の説明】
【0064】
10…内燃機関
11…クランク軸
21,22…カム軸
26A…オイルポンプ
28…油路
34…チェーン
40…チェーンテンショナ
40A…油圧室
42…プランジャ
43…付勢バネ
100…制御装置
101…CPU
図1
図2
図3
図4
図5