(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185630
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】非常停止装置
(51)【国際特許分類】
H02P 3/22 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
H02P3/22 A
H02P3/22 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093365
(22)【出願日】2021-06-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(74)【代理人】
【識別番号】100184631
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 隆
(72)【発明者】
【氏名】河本 道生
【テーマコード(参考)】
5H530
【Fターム(参考)】
5H530AA02
5H530BB32
5H530CC06
5H530CC22
5H530CD30
5H530CE15
5H530CF08
5H530EE01
5H530EE07
5H530EF10
(57)【要約】
【課題】発電制動によってモータを非常停止させる際に、モータのコイルが焼損するのを防止することが可能な非常停止装置を提供する。
【解決手段】モータMの作動中に、モータMに供給される電力が遮断されて、モータMの制御が不能となったときに、当該モータMを非常停止させる。非常停止装置1は、モータMの複数のコイルU,V,Wに電力を供給する入力線I
U、I
V,I
W間を短絡する短絡回路2と、短絡回路2の動作を制御する制御装置5とを備える。制御装置5は、モータMの作動中に供給電力が遮断されたとき、短絡回路2を短絡状態にするとともに、コイルU,V,Wの温度が所定の基準値を超えると短絡回路2における短絡を解除し、コイルコイルU,V,Wの温度が基準値以下になると短絡回路2を短絡状態にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの作動中に、該モータに供給される電力が遮断されて、該モータの制御が不能となったとき、該モータを非常停止させる非常停止装置であって、
前記モータの複数のコイルに電力を供給する入力線間を短絡する短絡回路と、
前記短絡回路の動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記モータの作動中に供給電力が遮断されたとき、前記短絡回路を短絡状態にするとともに、前記コイルの温度が所定の基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、前記コイルの温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成されていることを特徴とする非常停止装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記コイルの温度を検出するコイル温度検出器を備え、該コイル温度検出器によって検出される温度が前記基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、検出温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成されていることを特徴とする請求項1記載の非常停止装置。
【請求項3】
前記コイル温度検出器は、前記基準値を超えると開き、前記基準値以下になると閉じる温度依存型のスイッチを備え、
前記制御装置は、前記コイル温度検出器のスイッチが閉じているとき、前記短絡回路を短絡状態にし、前記コイル温度検出器のスイッチが開いているとき、前記短絡回路における短絡を解除するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の非常停止装置。
【請求項4】
前記短絡回路は、抵抗を介して前記入力線を短絡させるように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非常停止装置。
【請求項5】
モータの作動中に、該モータに供給される電力が遮断されて、該モータの制御が不能となったとき、該モータを非常停止させる非常停止装置であって、
前記モータの複数のコイルに電力を供給する入力線間を、抵抗を介して短絡する短絡回路と、
前記短絡回路の動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記モータの作動中に供給電力が遮断されたとき、前記短絡回路を短絡状態にするとともに、前記コイル及び抵抗の温度の内のいずれかが所定の基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、前記コイル及び抵抗の双方の温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成されていることを特徴とする非常停止装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記コイルの温度を検出するコイル温度検出器、及び前記抵抗の温度を検出する抵抗温度検出器を備え、該コイル温度検出器及び抵抗温度検出器によって検出される温度のいずれかが前記基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、前記コイル温度検出器及び抵抗温度検出器によって検出される双方の温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成されていることを特徴とする請求項5記載の非常停止装置。
【請求項7】
前記コイル温度検出器及び抵抗温度検出器は、それぞれ前記基準値を超えると開き、前記基準値以下になると閉じる温度依存型のスイッチを備え、
前記制御装置は、コイル温度検出器及び抵抗温度検出器の双方の前記スイッチが閉じているとき、前記短絡回路を短絡状態にし、コイル温度検出器及び抵抗温度検出器のいずれか一方のスイッチが開いているとき、前記短絡回路における短絡を解除するように構成されていることを特徴とする請求項6記載の非常停止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの作動中に、当該モータに供給される電力が遮断されて、当該モータが制御不能となったときに、当該モータを非常停止させる非常停止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工作機機械の分野では、被回転体であるワークや工具を回転させるために回転装置(主軸装置)が用いられており、この回転装置は、一般的に、前記被回転体に連結されて、当該被回転体を回転させる主軸モータ、この主軸モータの作動を制御する回転制御部などを備えて構成される。
【0003】
そして、前記回転制御部には、一般的に、停電やその他の原因によって、前記モータの回転中に、当該モータに接続されたアンプによる制御が不能となったとき、当該モータを非常停止させるためのダイナミックブレーキ回路と呼ばれる回路が設けられている。このようなダイナミックブレーキ回路を備えた回転装置の一例として、従来、特許第6285477号公報(各特許文献1)に開示されたモータ駆動装置が知られている。
【0004】
このモータ駆動装置は、同公報に開示されるように、モータを駆動するインバータと、モータの回転速度を取得する回転速度取得部と、モータのイナーシャに関する情報を格納したイナーシャ情報格納部と、モータの回転速度及びイナーシャに基づいて、モータの回転エネルギーを計算する回転エネルギー計算部と、非常停止時にモータの発電制動によって減速トルクを発生させるダイナミックブレーキ回路と、このダイナミックブレーキ回路における抵抗の耐量に関する情報を格納した耐量情報格納部と、モータの非常停止時に上アーム及び下アームのうちの一方のアームのパワー素子をオンし、他方のアームのパワー素子をオフするパワー素子操作部と、ダイナミックブレーキ回路のスイッチを操作するダイナミックブレーキ回路操作部と、モータの回転エネルギーとダイナミックブレーキ回路の耐量とを比較する耐量比較部とから構成される。
【0005】
そして、ダイナミックブレーキ回路操作部は、モータの回転エネルギーがダイナミックブレーキ回路の耐量を超えている場合には、ダイナミックブレーキ回路を動作させないで、モータの回転エネルギーがダイナミックブレーキ回路の耐量以下の場合に、ダイナミックブレーキ回路を動作させる。尚、モータの回転エネルギーがダイナミックブレーキ回路の耐量を超えている場合には、ダイナミックブレーキ回路操作部は、しばらくモータを空転させることにより、その回転速度が低下し、モータの回転エネルギーがダイナミックブレーキ回路の耐量以下になった後に、ダイナミックブレーキ回路を動作させる。
【0006】
斯くして、この従来のモータ駆動装置では、上記のようなダイナミックブレーキ回路操作部の動作により、ダイナミックブレーキ回路の損傷が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、工作機械の分野では、モータに供給される電力が遮断された際の非常停止回路として、上述したようなダイナミックブレーキ回路、即ち、回転エネルギーを消費するための特別な抵抗を設けることなく、モータの各コイルに電力を供給する入力線間を短絡させる短絡回路のみが設けられているものもある。この非常停止回路によれば、モータが空転することよって当該モータに発生する誘起電流を、モータの各コイルに流すことにより、モータの回転エネルギーが各コイルにより熱に変換されて消費され、これによりモータが停止される。
【0009】
ところが、このような非常停止回路では、モータのコイルに誘起電流を流すことによって、モータの回転エネルギーを消費させているため、空転時のモータの回転エネルギーが大きい場合には、コイルに過大な熱が生じて当該コイルが焼損するという問題がある。
【0010】
上述したように、工作機械の分野で用いられるモータには、ワークを回転させるための主軸モータなどがあるが、加工対象のワークの重量が相当に重い場合には、モータを停止させるために消費すべき回転エネルギーが過大なものになるため、上記のような態様では、モータのコイルが焼損するといったことが起こり得るのである。
【0011】
そして、このようにしてモータが損傷すると、その交換などの修復作業に多大な時間や労力を費やさなくてならず、また、交換用のモータに係る設備費用が必要となる。
【0012】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、発電制動によってモータを非常停止させる際に、モータのコイルが焼損するのを防止することが可能な非常停止装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、モータの作動中に、該モータに供給される電力が遮断されて、当該モータの制御が不能となったときに、当該モータを非常停止させる非常停止装置であって、
前記モータの複数のコイルに電力を供給する入力線間を短絡する短絡回路と、
前記短絡回路の動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記モータの作動中に供給電力が遮断されたとき、前記短絡回路を短絡状態にするとともに、前記コイルの温度が所定の基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、前記コイルの温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成された非常停止装置に係る(第1の態様)。
【0014】
この非常停止装置によれば、モータに供給される電力が遮断されると、制御装置によって短絡回路が短絡状態にされ、モータの各コイルに電力を供給する入力線間が短絡される。斯くして、このような状態でモータが空転すると、当該モータに誘起電流が生じ、生じた電流が当該モータの各コイルに流れ、この結果、モータの回転エネルギーが、抵抗として作用する各コイルにより熱に変換されて消費され、このような作用によってモータが制動される。
【0015】
その際、制御装置により、コイルの温度が監視され、各コイルの温度が所定の基準値を超えると前記短絡回路における短絡が解除される。これにより、発電制動が停止された状態でモータが空転し、この結果、コイルが焼損するのが防止される。そして、発電制動が停止された状態でモータが空転することにより、各コイルが冷却され、その温度が上昇から下降に転じて、所定の基準値以下になると、再度、前記短絡回路が短絡された状態となり、発電制動によって当該モータの空転が制動される。
【0016】
斯くして、この非常停止装置によれば、発電制動によってモータを非常停止させる際に、当該モータのコイルが損傷するのを防止することができる。尚、前記基準値は、コイルの焼損を確実に防止することができる値(温度)に設定される。
【0017】
上記第1の態様において、前記制御装置は、前記コイルの温度を検出するコイル温度検出器を備え、該コイル温度検出器によって検出される温度が前記基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、検出温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成された態様(第2の態様)を採ることができる。
【0018】
また、上記第2の態様において、前記コイル温度検出器は、前記基準値を超えると開き、前記基準値以下になると閉じる温度依存型のスイッチを備え、前記制御装置は、前記コイル温度検出器のスイッチが閉じているとき、前記短絡回路を短絡状態にし、前記コイル温度検出器のスイッチが開いているとき、前記短絡回路における短絡を解除するように構成された態様(第3の態様)を採ることができる。
【0019】
また、上記第1~第3の態様において、前記短絡回路は、抵抗を介して前記入力線を短絡させるように構成されていても良い(第4の態様)。このようにすれば、モータの空転によって誘起された電流がモータのコイルと抵抗に流されて、モータの回転エネルギーが、モータのコイル及び抵抗によって熱に変換されて消費されるため、モータをより短時間で停止させることができる。
【0020】
また、本発明は、モータの作動中に、該モータに供給される電力が遮断されて、該モータの制御が不能となったとき、該モータを非常停止させる非常停止装置であって、
前記モータの複数のコイルに電力を供給する入力線間を、抵抗を介して短絡する短絡回路と、
前記短絡回路の動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記モータの作動中に供給電力が遮断されたとき、前記短絡回路を短絡状態にするとともに、前記コイル及び抵抗の温度の内のいずれかが所定の基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、前記コイル及び抵抗の双方の温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成された非常停止装置に係る(第5の態様)。
【0021】
この非常停止装置によれば、モータに供給される電力が遮断されると、制御装置によって短絡回路が短絡状態にされ、モータの各コイルに電力を供給する入力線間が抵抗を介して短絡される。斯くして、このような状態でモータが空転すると、当該モータに誘起電流が生じ、生じた電流が当該モータの各コイル及び抵抗に流れ、この結果、モータの回転エネルギーが、各コイル及び抵抗により熱に変換されて消費され、このような作用によってモータが制動される。
【0022】
その際、制御装置により、コイル及び抵抗の温度が監視され、コイル及び抵抗の温度の内のいずれかが所定の基準値を超えると前記短絡回路における短絡が解除される。これにより、発電制動が停止された状態でモータが空転し、この結果、コイル及び抵抗が焼損するのが防止される。そして、発電制動が停止された状態でモータが空転することにより、コイル及び抵抗が冷却され、その温度が上昇から下降に転じて、コイル及び抵抗の双方の温度が所定の基準値以下になると、再度、前記短絡回路が短絡された状態となり、発電制動によって当該モータの空転が制動される。
【0023】
斯くして、この非常停止装置によれば、発電制動によってモータを非常停止させる際に、当該モータのコイル、及び短絡回路の抵抗が損傷するのを防止することができる。尚、前記基準値は、コイル及び抵抗の焼損を確実に防止することができる値(温度)に設定される。
【0024】
上記第5の態様において、前記制御装置は、前記コイルの温度を検出するコイル温度検出器、及び前記抵抗の温度を検出する抵抗温度検出器を備え、該コイル温度検出器及び抵抗温度検出器によって検出される温度のいずれかが前記基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、前記コイル温度検出器及び抵抗温度検出器によって検出される双方の温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成された態様(第6の態様)を採ることができる。
【0025】
また、上記第6の態様において、前記コイル温度検出器及び抵抗温度検出器は、それぞれ前記基準値を超えると開き、前記基準値以下になると閉じる温度依存型のスイッチを備え、前記制御装置は、コイル温度検出器及び抵抗温度検出器の双方の前記スイッチが閉じているとき、前記短絡回路を短絡状態にし、コイル温度検出器及び抵抗温度検出器のいずれか一方のスイッチが開いているとき、前記短絡回路における短絡を解除するように構成された態様を採ることができる(第7の態様)。
【0026】
尚、上記第1~第7の態様に係る前記基準値について、短絡回路の短絡を解除する際の基準値を第1基準値とし、短絡回路を再短絡させる際の基準値を第2基準値とすると、第1基準値と第2基準値とは同じ値(温度)であっても良いが、第1基準値は、第2基準値よりも大きい値(高い温度)に設定されているのが好ましい。第1基準値と第2基準値とを同じ値にすると、発電制動とその停止が短時間で脈動的に実行される可能性があるが、第1基準値を第2基準値よりも大きい値にすることで、発電制動とその停止とを安定した状態で繰り返し動作させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る非常停止装置によれば、発電制動によってモータを非常停止させる際に、当該モータのコイルが損傷するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る非常停止装置の概略構成を示したブロック図である。
【
図2】第1の実施形態の回路制御部における処理を説明するためのフローチャートである。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る非常停止装置の概略構成を示したブロック図である。
【
図4】第2の実施形態の回路制御部における処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
[第1の実施形態]
まず、
図1及び
図2に基づいて、本発明の第1の実施形態に係る非常停止装置について説明する。
図1に示すように、本例の非常停止装置1は、電源Pから電力を供給される同期モータM(以下、単に「モータM」という)に接続されるもので、モータMの作動中に、電源Pからの電力供給が遮断されて、当該モータMの制御が不能となったときに、これを非常停止させる装置である。尚、モータMは、電源Pを有するモータ制御装置Mcによって、その作動が制御される。
【0031】
この非常停止装置1は、
図1に示すように、電源PからモータMの3相の各巻き線(コイル)U,V,Wに接続される各入力線I
U,I
V,I
W間を短絡させる短絡回路2と、この短絡回路2の動作を制御する制御装置5などから構成される。
【0032】
前記短絡回路2は、入力線IUに接続される抵抗RU、入力線IVに接続される抵抗RV、及び入力線IWに接続される抵抗RW、並びに抵抗RUと共通端子4との接続を入り切りするスイッチ3U、抵抗RVと共通端子4との接続を入り切りするスイッチ3V、及び抵抗RWと共通端子4との接続を入り切りするスイッチ3Wから構成される。尚、スイッチ3U,3V,3Wは短絡スイッチ3を構成する。
【0033】
前記制御装置5は、前記モータMの各コイルU,V,Wの近傍にそれぞれ配置されて、各コイルU,V,Wの温度を検出する温度センサTS1,TS2,TS3と、前記短絡回路2の各抵抗RU,RV,RWの近傍にそれぞれ配置されて、各抵抗RU,RV,RWの温度を検出する温度センサTS4,TS5,TS6と、前記短絡スイッチ3(3U,3V,3W)の動作を制御する短絡回路制御部6とから構成される。
【0034】
前記短絡回路制御部6は、CPU、RAM、ROMなどを含むコンピュータから構成され、適宜作成されたコンピュータプログラムにしたがって、
図2に示した処理を実行する。即ち、前記短絡回路制御部6は、所定の処理開始信号を外部から受信することにより処理を開始して、前記モータ制御装置Mcの制御状態を監視し、モータMを駆動しているときに、電源PからモータMに供給される電力が遮断されたかどうかを確認する(ステップS1)。尚、この監視処理は外部から処理終了信号が入力されるまで実行される(ステップS7)。
【0035】
そして、モータ制御装置McによってモータMが駆動されているときに、電源PからモータMに供給される電力が遮断されたことが、監視中に確認されると、短絡回路制御部6は、前記短絡スイッチ3(3U,3V,3W)をONにして、入力線IU,IV,IW相互間をそれぞれ抵抗RU,RV,RWを介して短絡させる(ステップS2)。
【0036】
モータ制御装置McによってモータMが駆動されているときに、電源PからモータMに供給される電力が遮断されると、モータMが制御不能になって空転するが、短絡回路2によって入力線IU,IV,IW相互間を短絡させることにより、モータMの空転に起因した誘起電流が当該モータMに生じる。そして、生じた誘起電流はモータMの各コイルU,V,Wに流れるとともに、抵抗RU,RV,RWに流れ、その過程で熱に変換される。斯くして、モータMの空転に伴う回転エネルギーは、各コイルU,V,W及び抵抗RU,RV,RWによって熱エネルギーに変化されることによって消費され、この結果、モータMの回転が減速される。即ち、モータMが発電制動される。
【0037】
次に、短絡回路制御部6は、短絡スイッチ3(3U,3V,3W)をONにした後、温度センサTS1~TS6によって検出される温度を監視し(ステップS3)、温度センサTS1~TS6によって検出される温度が、いずれも所定の基準値を超えていない場合には、短絡スイッチ3(3U,3V,3W)をONにした状態を維持、即ち、発電制動を維持し(ステップS4)、温度センサTS1~TS6によって検出されるコイルU,V,W及び抵抗RU,RV,RWの温度のいずれかが所定の基準値を超えた場合には、短絡スイッチ3(3U,3V,3W)をOFFにして、発電制動を停止する(ステップS5)。
【0038】
上述したように、モータMが空転した状態で、短絡回路2よって入力線IU,IV,IW間を短絡させると、モータMに生じた誘起電流がコイルU,V,W及び抵抗RU,RV,RWに流れて、これらコイルU,V,W及び抵抗RU,RV,RWが発熱して温度上昇することになるが、温度がそれぞれの耐熱温度を超えると、コイルU,V,W及び抵抗RU,RV,RWが焼損することになる。
【0039】
そこで、コイルU,V,W及び抵抗RU,RV,RWの温度を温度センサTS1~TS6によって検出し、検出された各温度のいずれかが所定の基準値を超えた場合に、短絡スイッチ3(3U,3V,3W)をOFFにして発電制動を停止し、モータMを再度空転させる。これにより、モータMのコイルU,V,W、及び短絡回路2の抵抗RU,RV,RWが焼損するのが防止される。尚、前記基準値は、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWの焼損を確実に防止することができる値(温度)に設定される。
【0040】
次に、短絡回路制御部6は、ステップS2において最初に短絡スイッチ3(3U,3V,3W)をONにしてからの経過時間が所定の基準時間を超えたかどうかを確認し(ステップS6)、基準時間を経過していない場合には、発電制動によってモータMの空転が制動されていないと判断して、ステップS3~S6の処理を繰り返して実行する。
【0041】
そして、繰り返し処理中に、発電制動が停止された状態でモータMが空転することにより、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWが冷却され、その温度が上昇から下降に転じて、所定の基準値(温度)以下になると(ステップS3)、再度、短絡スイッチ3(3U,3V,3W)がON状態にされて、発電制動が実行される(ステップS4)。
【0042】
このように、この短絡回路制御部6では、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWの温度が基準温度以下の場合に実行される発電制動処理と、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWの温度が基準温度以上となった場合に実行される発電制動停止処理とが、モータMの空転が停止されるまで繰り返して実行される。尚、前記基準時間は、繰り返し処理を行ったとしてもモータMを確実に停止させることができる時間であって、経験的に設定される時間である。
【0043】
一方、ステップS6において、基準時間が経過している場合には、発電制動によってモータMの空転が制動されて停止されたと判断し、ついで、外部から処理終了信号が入力されているかどうかを確認し(ステップS7)、処理終了信号が入力されている場合には、処理を終了し、処理終了信号が入力されていない場合には、処理終了信号が入力されるまで、上述したステップS1~S7の処理を繰り返して実行する。
【0044】
以上のように、本例の非常停止装置1によれば、モータMの作動中に、電源Pからの電力供給が遮断されて、当該モータMの制御が不能となったときに、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWを焼損させることなく、モータMを停止させることができる。
【0045】
[第2の実施形態]
次に、
図3及び
図4に基づいて、本発明の第2の実施形態に係る非常停止装置について説明する。
図3に示すように、この非常停止装置11は、第1の実施形態に係る非常停止装置1と同様に、電源Pから電力を供給されるモータMに接続されるもので、モータMの作動中に、電源Pからの電力供給が遮断されて、当該モータMの制御が不能となったときに、これを非常停止させる装置である。尚、モータMは、電源Pを有するモータ制御装置Mcによって、その作動が制御される。
【0046】
この非常停止装置11は、
図3に示すように、電源PからモータMの3相の各巻き線(コイル)U,V,Wに接続される各入力線I
U,I
V,I
W間を短絡させる短絡回路12と、この短絡回路12の動作を制御する制御装置15などから構成される。
【0047】
前記短絡回路12は、入力線IUに接続される抵抗RU、入力線IVに接続される抵抗RV、及び入力線IWに接続される抵抗RW、並びに抵抗RUと共通端子14との接続を入り切りするスイッチ13U、抵抗RVと共通端子14との接続を入り切りするスイッチ13V、及び抵抗RWと共通端子14との接続を入り切りするスイッチ13Wを備えており、抵抗RUとスイッチ13Uとの間、抵抗RVとスイッチ13Vとの間、及び抵抗RWとスイッチ13Wとの間に、それぞれ後述するサーモスタットS1~S6が電気的に接続された回路を構成する。尚、スイッチ13U,13V,13Wは短絡スイッチ13を構成する。
【0048】
前記制御装置15は、前記モータMの各コイルU,V,Wの近傍にそれぞれ配置されて、各コイルU,V,Wの温度を検出し、検出した温度が所定の基準値(温度)を超えるとスイッチを開き、前記基準値(温度)以下になるとスイッチを閉じる温度依存型のスイッチであるサーモスタットS1,S2,S3と、前記短絡回路12の各抵抗RU,RV,RWの近傍にそれぞれ配置されて、同じく各抵抗RU,RV,RWの温度を検出し、検出した温度が所定の基準値(温度)を超えるとスイッチを開き、前記基準値(温度)以下になるとスイッチを閉じる温度依存型のスイッチであるサーモスタットS4,S5,S6と、前記短絡スイッチ13(13U,13V,13W)の動作を制御する短絡回路制御部16とから構成される。この基準値(温度)は、第1の実施形態と同様に、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWの焼損を確実に防止することができる値(温度)である。
【0049】
各サーモスタットS1,S2,S3,S4,S5,S6の各出力端子は配線によって直列に接続されて一つの温度感応スイッチを構成し、この温度感応スイッチは一以上の検出温度が前記基準値(温度)を超えるとスイッチを開き、即ち、OFFし、全ての検出温度が前記基準値(温度)以下の場合にスイッチを閉じる、即ち、ONにする。そして、このサーモスタットS1,S2,S3,S4,S5,S6から構成される温度感応スイッチが、前記短絡回路12の抵抗RUとスイッチ13Uとの間、抵抗RVとスイッチ13Vとの間、及び抵抗RWとスイッチ13Wとの間にそれぞれ電気回路的に介装される。
【0050】
前記短絡回路制御部16は、CPU、RAM、ROMなどを含むコンピュータから構成され、適宜作成されたコンピュータプログラムにしたがって、
図4に示した処理を実行する。即ち、前記短絡回路制御部16は、所定の処理開始信号を外部から受信することにより処理を開始して、前記モータ制御装置Mcの制御状態を監視し、モータMを駆動しているときに、電源PからモータMに供給される電力が遮断されたかどうかを確認する(ステップS11)。尚、この監視処理は外部から処理終了信号が入力されるまで実行される(ステップS14)。
【0051】
そして、モータ制御装置McによってモータMが駆動されているときに、電源PからモータMに供給される電力が遮断されたことが、監視中に確認されると、短絡回路制御部16は、前記短絡スイッチ13(13U,13V,13W)をONにする(ステップS12)。このとき、コイルU,V,W及び抵抗RU,RV,RWの温度は基準値以下であるので、サーモスタットS1,S2,S3,S4,S5,S6から構成される温度感応スイッチはONとなっており、前記短絡スイッチ13をONにすることによって、入力線IU,IV,IW相互間がそれぞれ抵抗RU,RV,RWを介して短絡される。
【0052】
これにより、モータMの空転に起因した誘起電流が当該モータMに生じ、生じた誘起電流がモータMの各コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWに流れ、その過程で熱に変換される。斯くして、モータMの空転に伴う回転エネルギーは、各コイルU,V,W及び抵抗RU,RV,RWによって熱エネルギーに変化されることによって消費され、この結果、モータMの回転が減速される。即ち、モータMが発電制動される。
【0053】
このようにして、短絡スイッチ13(13U,13V,13W)をONにした後、短絡回路制御部16は、ステップS12において短絡スイッチ13(13U,13V,13W)をONにしてからの経過時間が所定の基準時間を超えたかどうかを確認し(ステップS13)、基準時間を経過していない場合には、発電制動によってモータMの空転が停止されていないと判断して、基準時間が経過するまで待機する。
【0054】
そして、発電制動によって、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWの温度が上昇し、その一以上の温度が基準値(温度)を超えると、サーモスタットS1,S2,S3,S4,S5,S6から構成される温度感応スイッチがOFFとなり、前記短絡回路12における短絡が解除されて発電制動が停止され、これによりモータMが再度空転される。斯くして、このような挙動により、モータMのコイルU,V,W、及び短絡回路12の抵抗RU,RV,RWが焼損するのが防止される。
【0055】
そして、発電制動の停止によってモータMが空転すると、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWが冷却され、その温度が上昇から下降に転じて、前記基準値(温度)以下になると、再度、サーモスタットS1,S2,S3,S4,S5,S6から構成される温度感応スイッチがONとなり、これにより、再度、入力線IU,IV,IW相互間がそれぞれ抵抗RU,RV,RWを介して短絡され、モータMの発電制動が再開される。
【0056】
斯くして、基準時間が経過すると、短絡回路制御部16は、発電制動によってモータMの空転が制動されて停止されたと判断して、ついで、外部から処理終了信号が入力されているかどうかを確認し(ステップS14)、処理終了信号が入力されている場合には、処理を終了し、処理終了信号が入力されていない場合には、処理終了信号が入力されるまで、上述したステップS11~S14の処理を繰り返して実行する。
【0057】
このように、本例の非常停止装置11によっても、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWの温度が基準温度以下の場合に発電制動が実行され、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWの温度が基準温度以上となった場合には発電制動停止され、モータMの空転が停止されるまで、発電制動とその停止とが繰り返して実行される。尚、本例においても、前記基準時間は、繰り返し処理を行ったとしてもモータMを確実に停止させることができる時間であって、経験的に設定される時間である。
【0058】
以上のように、本例の非常停止装置11によっても、モータMの作動中に、電源Pからの電力供給が遮断されて、当該モータMの制御が不能となったときに、コイルU,V,W、及び抵抗RU,RV,RWを焼損させることなく、モータMを停止させることができる。
【0059】
以上、本発明の具体的な実施の形態について説明したが、本発明が採り得る態様は、何ら上例のものに限定されるものではない。
【0060】
例えば、上述した第1の実施形態及び第2の実施形態では、短絡回路2,12にそれぞれ抵抗RU,RV,RWを設けることにより、モータMの回転エネルギーを短時間に消費させて、当該モータMを短時間の内に停止させるようにしたが、このような態様に限られるものではなく、モータMの回転エネルギーが比較的小さい場合には、前記抵抗RU,RV,RWを省略しても良い。この場合、抵抗RU,RV,RWの省略に合わせて、第1の実施形態の温度センサTS4~TS6、及び第2の実施形態のサーモスタットS4~S6を省略することができる。
【0061】
また、第2の実施形態において、温度依存型のスイッチとしてサーモスタットを例示したがこれに限られるものではなく、同様の機能を有する他のスイッチを採用することができる。
【0062】
また、第1及び第2の実施形態において、短絡回路2,12の短絡を解除する際の基準値を第1基準値とし、短絡回路2,12を再短絡させる際の基準値を第2基準値とすると、第1基準値と第2基準値とは同じ値(温度)であっても良いが、第1基準値は、第2基準値よりも大きい値(高い温度)に設定されていても良い。第1基準値と第2基準値とを同じ値にすると、発電制動とその停止が短時間で脈動的に実行される可能性があるが、第1基準値を第2基準値よりも大きい値にすることで、発電制動とその停止とを安定した状態で繰り返し動作させることができる。
【0063】
繰返しになるが、上述した実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 非常停止装置
2 短絡回路
3 短絡スイッチ
4 共通端子
RU,RV,RW 抵抗
5 制御装置
6 短絡回路制御部
TS1~TS6 温度センサ
11 非常停止装置
12 短絡回路
13 短絡スイッチ
14 共通端子
15 制御装置
16 短絡回路制御部
S1~S6 サーモスタット
Mc モータ制御装置
P 電源
M (同期)モータ
U,V,W コイル(巻き線)
IV,IU,IW 入力線
【手続補正書】
【提出日】2021-08-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの作動中に、該モータに供給される電力が遮断されて、該モータの制御が不能となったとき、該モータを非常停止させる非常停止装置であって、
前記モータの複数のコイルに電力を供給する入力線間を、抵抗を介して短絡する短絡回路と、
前記短絡回路の動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記モータの作動中に供給電力が遮断されたとき、前記短絡回路を短絡状態にするとともに、前記コイル及び抵抗の温度の内のいずれかが所定の基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、前記コイル及び抵抗の双方の温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成されていることを特徴とする非常停止装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記コイルの温度を検出するコイル温度検出器、及び前記抵抗の温度を検出する抵抗温度検出器を備え、該コイル温度検出器及び抵抗温度検出器によって検出される温度のいずれかが前記基準値を超えると前記短絡回路における短絡を解除し、前記コイル温度検出器及び抵抗温度検出器によって検出される双方の温度が前記基準値以下になると前記短絡回路を短絡状態にするように構成されていることを特徴とする請求項1記載の非常停止装置。
【請求項3】
前記コイル温度検出器及び抵抗温度検出器は、それぞれ前記基準値を超えると開き、前記基準値以下になると閉じる温度依存型のスイッチを備え、
前記制御装置は、コイル温度検出器及び抵抗温度検出器の双方の前記スイッチが閉じているとき、前記短絡回路を短絡状態にし、コイル温度検出器及び抵抗温度検出器のいずれか一方のスイッチが開いているとき、前記短絡回路における短絡を解除するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の非常停止装置。