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特開2022-185658絶縁シート及びその製造方法、並びに回転電機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185658
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】絶縁シート及びその製造方法、並びに回転電機
(51)【国際特許分類】
   H01B 17/56 20060101AFI20221208BHJP
   H02K 15/10 20060101ALI20221208BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20221208BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20221208BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H01B17/56 A
H02K15/10
H02K3/34 C
H01F27/32 130
H01F41/12 E
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093416
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江頭 康平
(72)【発明者】
【氏名】名取 詩織
(72)【発明者】
【氏名】保田 直紀
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和哉
【テーマコード(参考)】
5E044
5G333
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5E044CA02
5E044CB03
5G333AA03
5G333AB08
5G333CB01
5G333CB20
5G333DA04
5G333DA28
5H604AA03
5H604AA08
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DA01
5H604DA13
5H604DA16
5H604DA19
5H604DA21
5H604DB02
5H604DB03
5H604DB07
5H604DB15
5H604DB26
5H604DB30
5H604PB03
5H615AA01
5H615PP01
5H615RR02
5H615RR03
5H615RR04
5H615RR09
5H615SS24
5H615TT03
5H615TT21
5H615TT31
5H615TT32
5H615TT35
5H615TT36
5H615TT37
(57)【要約】
【課題】絶縁対象の部材同士の隙間を充填し両者を絶縁及び固着し、かつ、優れた放熱性を有する絶縁シート及びその製造方法、並びに回転電機を提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁シート1は、絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれか1種または2種以上を基材2とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層3が基材2に形成されている。前記熱硬化性樹脂組成物は、25℃で固体の熱硬化性樹脂と、25℃で液状の熱硬化性樹脂と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤と、前記固体の熱硬化性樹脂と前記液状の熱硬化性樹脂の合計100質量部に対して、固体の熱硬化性樹脂を10質量部から90質量部の範囲とし、絶縁樹脂層3は、切断される領域と折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域に形成しない。優れた放熱性を有する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれか1種または2種以上を基材とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層が前記基材の片面または両面に形成された絶縁シートであって、
前記熱硬化性樹脂組成物は、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤と、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、前記熱硬化性樹脂(A)を10質量部から90質量部の範囲とし、
前記絶縁樹脂層は、切断される領域と折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域以外に形成されていることを特徴とする絶縁シート。
【請求項2】
前記絶縁樹脂層は、切断及び曲げ加工の位置を始点として両側の、10μm~5mmの幅以外の領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
前記基材を重ねる場合は、前記基材の重なる領域以外の領域に前記絶縁樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁シート。
【請求項4】
前記基材の重なる領域周縁部の、前記基材の重なる領域の境界線から10μm~5mmの範囲以外の領域に前記絶縁樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の絶縁シート。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂組成物は、粒状の無機充填剤を有し、
前記無機充填剤は、最大粒径が前記絶縁樹脂層の厚みよりも小さく、平均粒径が前記絶縁樹脂層の厚みの0.5倍よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項6】
前記基材が、貫通孔を有していることを特徴とする請求項5に記載の絶縁シート。
【請求項7】
前記貫通孔の前記基材の表面に平行な方向のサイズは、前記無機充填剤の最小粒径よりも大きく、最大粒径の100倍以下であり、かつ、前記貫通孔の前記基材の表面の面内比率は、5%から95%の範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の絶縁シート。
【請求項8】
前記貫通孔の前記基材の表面に平行な方向のサイズは、前記無機充填剤の平均粒径以上であることを特徴とする請求項7に記載の絶縁シート。
【請求項9】
前記基材は、アラミド紙、クラフト紙、クレープ紙、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック、シリカ、またはアルミナの少なくとも1種類以上から構成される材料からなることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項10】
前記基材は、前記絶縁紙及び前記絶縁フィルムのいずれか一方または両方が積層されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項11】
複数の前記基材が前記絶縁樹脂層または接着剤を介して積層されており、一端部または両端部の前記基材に前記絶縁樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂(A)及び前記熱硬化性樹脂(B)は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項13】
前記熱硬化性樹脂(A)は、軟化点が50℃から160℃の範囲にあるエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項14】
前記潜在性硬化剤は、三フッ化ホウ素-アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジッドのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項15】
前記熱硬化性樹脂組成物は、重量平均分子量が10,000から100,000の範囲である熱可塑性樹脂を含み、前記熱可塑性樹脂は、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して1質量部から40質量部の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項16】
前記絶縁樹脂層は、前記熱硬化性樹脂組成物の全質量100重量部に対して不揮発分が97質量部以上であることを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項17】
前記絶縁樹脂層は、25℃での貯蔵せん断弾性率が1.0×10Paから5.0×10Paの範囲であり、貯蔵せん断弾性率の最低値が80℃から150℃の範囲にあって10Paから2.0×10Paの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項18】
前記絶縁樹脂層は、25℃での複素粘度が6.0×10Pa・sから1.0×10Pa・sの範囲であり、複素粘度の最低値が80℃から150℃の範囲にあって5.0×10Pa・s以下であることを特徴とする請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項19】
前記絶縁樹脂層の膜厚は、絶縁対象の部材同士の隙間の寸法から前記基材の厚みを差し引いた寸法の1.1倍から2.0倍の範囲に設定されることを特徴とする請求項1から請求項18のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項20】
前記絶縁樹脂層は、融点が100℃以下で、硬化開始温度が前記融点より5℃以上高いことを特徴とする請求項1から請求項19のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項21】
請求項1から請求項20のいずれか一項に記載の絶縁シートが用いられ、固定子鉄心のスロット内に固定子コイルが収納された回転電機であって、
前記絶縁樹脂層をなす前記熱硬化性樹脂組成物が硬化された状態の前記絶縁シートが、前記スロットの内壁と前記固定子コイルとの間に配置され、前記固定子鉄心と前記固定子コイルとを絶縁及び固着していることを特徴とする回転電機。
【請求項22】
前記絶縁樹脂層は、前記固定子鉄心及び前記固定子コイルとの接着力が20N/m以上であることを特徴とする請求項21記載の回転電機。
【請求項23】
絶縁紙及び絶縁フィルムのいずれか一方または両方を基材とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層が前記基材の片面または両面に形成された絶縁シートの製造方法であって、
25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤と、最大粒径が前記絶縁樹脂層の膜厚よりも小さく平均粒径が前記膜厚の0.5倍よりも小さい無機充填剤と、希釈用有機溶剤とを攪拌混合して前記熱硬化性樹脂組成物のスラリーを作製する第1の工程と、
前記スラリーを前記基材または離型紙または離型フィルムに切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域を除く部分に塗布し乾燥させる第2の工程を含み、
前記第1の工程において、前記熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、前記熱硬化性樹脂(A)を10質量部から90質量部の範囲としたことを特徴とする絶縁シートの製造方法。
【請求項24】
前記第2の工程において前記スラリーを前記離型紙または前記離型フィルムに塗布した場合、前記第2の工程で乾燥させた前記熱硬化性樹脂組成物を未塗布の前記基材の片面または両面に圧着させて貼り付ける第3の工程を行うことを特徴とする請求項23に記載の絶縁シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、絶縁シート及びその製造方法、並びに回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機、発電機、圧縮機等を含む回転電機においては、小型化及び高出力化に伴い、絶縁性、耐熱性、及び排熱性に優れた絶縁材料が求められている。絶縁対象の部材間、例えば固定子鉄心とコイルの隙間に絶縁材料を配置する場合、部分的に空気層が残存すると絶縁性、排熱性、及び耐振性が低下する原因となる。従来、固定子鉄心のスロット内にコイルを収納する際には、スロット内壁とコイルの隙間に絶縁紙が挿入され、コイルは液状の絶縁ワニスで含浸処理されている。
【0003】
しかしながら、固定子巻線の高占積率化に伴い、スロット内壁、コイル、及び絶縁紙各々の隙間が狭くなっており、絶縁ワニスが十分に浸透せず部分固着となるという問題が生じている。また、浸透性を高めるため低粘度ワニスを用いると、コイルエンドに滴下したワニスの多くが鉄心部の端面に漏れ出し、コイル内部の付着量が不十分となる。それらの結果、コイルの固着性能が低下すると、回転電機の長期的な絶縁信頼性に悪影響を与える。特に、自動車用回転電機の場合、コイルの固着性能の低下は自動車の快適性を推し量る上での一つの基準である騒音、振動、ハーシュネス(Noise、Vibration、Harshness:以下、NVH特性という)を悪化させる要因となる。
【0004】
さらに、高出力化に伴い固定子巻線の発熱温度は上昇傾向にあり、回転電機の耐久性の観点から排熱性能を向上させる必要があるが、絶縁ワニスがコイル間に十分付着されておらず空気層を含む場合、コイルの熱を鉄心に効率良く排熱することができない。
【0005】
特許文献1には、コイルへの絶縁ワニスの含浸処理を行わずに、コイルを固定子鉄心と絶縁して固着させる方法が提案されている。この先行例では、両表面に半硬化状態の熱硬化性樹脂が積層された絶縁フィルム基材を用い、絶縁フィルム基材とコイルとの間、及び絶縁フィルム基材とスロット内壁との間に半硬化状態の熱硬化性樹脂を硬化させた絶縁固着樹脂が充填されるようにしている。また、特許文献2には、絶縁樹脂層が常温での加圧で所定の厚みに圧縮され、硬化時の加熱により流動して部材間の細部に浸透する絶縁シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5157296号公報
【特許文献2】特許第6824372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1において、半硬化状態の熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂等で構成され、絶縁フィルム基材は、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド等の樹脂から構成されているが、それらの詳細な組成及び物性については何ら記載されていない。また、熱硬化性樹脂の柔軟性と流動性の特性についての評価がされておらず、加熱時に流動し部材間の細部に浸透する特性を有するか不明である。
【0008】
また、上記特許文献1では、回転電機のコイルと鉄心の隙間を埋めるため、熱硬化性樹脂の厚みを絶縁フィルム基材の厚みより大きくしているが、絶縁シートの総厚の規定がされていない。絶縁シートの総厚がコイルと鉄心の隙間の寸法より大きい場合、スロットへのコイル挿入作業が困難になることがある。また、コアに挿入する前に絶縁シートを既定の形状に加工する必要があるが、切断及び曲げ成形する衝撃で樹脂層が割れたり、剥離したりすることで、切断機の切断刃及び曲げ成形機の金型などの治具に樹脂が付着し、加工装置が汚染される懸念がある。
【0009】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、絶縁対象の部材同士の隙間を充填し両者を絶縁及び固着することが可能な絶縁シート及びその製造方法を提供することを目的とする。また、上記絶縁シートを用いることにより絶縁信頼性、排熱性、及び耐振性の向上を図り、回転電機の小型化及び高出力化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示される絶縁シートは、絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれか1種または2種以上を基材とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層が前記基材の片面または両面に形成された絶縁シートであって、前記熱硬化性樹脂組成物は、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤と、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、前記熱硬化性樹脂(A)を10質量部から90質量部の範囲とし、前記絶縁樹脂層は、切断される領域と折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域以外に形成することを特徴とする。
【0011】
また、本願に開示される回転電機は、本願に開示される絶縁シートが用いられ、固定子鉄心のスロット内に固定子コイルが収納された回転電機であって、前記絶縁樹脂層をなす前記熱硬化性樹脂組成物が硬化された状態の前記絶縁シートが、前記スロットの内壁と前記固定子コイルとの間に配置され、前記固定子鉄心と前記固定子コイルとを絶縁及び固着していることを特徴とする。
【0012】
また、本願に開示される絶縁シートの製造方法は、絶縁紙及び絶縁フィルムのいずれか一方または両方を基材とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層が前記基材の片面または両面に形成された絶縁シートの製造方法であって、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤と、最大粒径が前記絶縁樹脂層の膜厚よりも小さく平均粒径が前記膜厚の0.5倍よりも小さい無機充填剤と、希釈用有機溶剤とを攪拌混合して前記熱硬化性樹脂組成物のスラリーを作製する第1の工程と、前記スラリーを前記基材または離型紙または離型フィルムに切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域を除く部分に塗布し乾燥させる第2の工程を含み、前記第1の工程において、前記熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、前記熱硬化性樹脂(A)を10質量部から90質量部の範囲としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願に開示される絶縁シートによれば、絶縁樹脂層が常温での加圧で所定の厚みに圧縮され、硬化時の加熱により流動して部材間の細部に浸透するため、絶縁対象の部材同士の隙間を確実に埋め、両者を絶縁及び固着することができる。また、切断及び折り曲げ成形など絶縁シートを加工する領域及び絶縁シートが重なる領域に予め絶縁樹脂層を形成しないことにより、加工時の絶縁樹脂層の割れ及び剥離を排除し、回転電機を安定して製造できる。
【0014】
本願に開示される回転電機によれば、硬化時の加熱により流動した絶縁樹脂層がスロットの内壁と固定子コイルの隙間の細部に浸透し、固定子鉄心と固定子コイルとを確実に絶縁及び固着するため、絶縁信頼性、排熱性、及び耐振性の向上が図られ、小型化及び高出力化が実現する。
【0015】
本願に開示される絶縁シートの製造方法によれば、絶縁対象の部材同士の隙間を確実に埋め、両者を絶縁及び固着することが可能な絶縁シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1による絶縁シートの構成例を示す断面図である。
図2】実施の形態1による複合絶縁シートの構成例を示す断面図である。
図3】実施の形態3による絶縁樹脂層の貯蔵せん断弾性率の温度変化による挙動を説明する図である。
図4】実施の形態3による絶縁樹脂層の損失弾性率の温度変化による挙動を説明する図である。
図5】実施の形態3による絶縁樹脂層の複素粘度の温度変化による挙動を説明する図である。
図6】実施の形態5による回転電機の固定子を説明する斜視図である。
図7】実施の形態5による回転電機の固定子を説明する断面図である。
図8】実施の形態5による回転電機における絶縁シートの使用例を説明する図である。
図9】実施の形態5による回転電機における絶縁シートの使用例を説明する図である。
図10】実施の形態5による回転電機における絶縁シートの使用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
以下に、実施の形態1による絶縁シートについて、図面に基づいて説明する。図1及び図2は、実施の形態1による絶縁シート及び複合絶縁シートの構成例をそれぞれ示している。なお、図中、同一、相当部分には同一符号を付している。
【0018】
絶縁シート1は、絶縁紙または熱可塑性の絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれか一つを基材2とし、基材2の片面または両面に、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層3が切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域を除く部分に形成されている。なお、以下の説明で、絶縁紙、絶縁フィルム、不織布及びメッシュクロスを特に区別しない場合は基材2と記す。図1(a)に示す例では、基材2の片面に絶縁樹脂層3が形成され、図1(b)に示す例では、基材2の両面に絶縁樹脂層3が形成されている。
【0019】
絶縁樹脂層3の形成しない領域は絶縁シート1を製品に使用する際の切断及び成形などの加工する際に、絶縁樹脂層3に割れ及び剥離などが起こることを回避することを目的としている。切断及び成形の加工時の影響で絶縁樹脂層3を形成しない領域幅は、加工装置の公差及び加工バラつきを加味し、切断刃及び成形金型などの加工治具が絶縁樹脂層3に触れる位置を始点として、両側に10μm~5mmの幅とすることが好ましい。絶縁樹脂層3の役割であり固着性及び排熱性を考慮した場合、絶縁樹脂層3を形成しない領域を小さくすることが好ましいため、絶縁樹脂層3にクラック及び剥離が発生しないことを前提とし、25μm~2mmの幅とすることがより好ましい。
【0020】
また、使用時に絶縁シート1が重なる領域が発生する場合は、一方の絶縁シートはその領域は予め絶縁樹脂層3を形成しないことが好ましい。絶縁樹脂層3を形成しない領域は、絶縁シート1の重なりの公差及びバラつきを加味し、重なる領域に加えて、その境界線から10μm~5mmの広げた領域とすることが好ましい。絶縁樹脂層3の役割であり固着性及び排熱性を考慮した場合、絶縁樹脂層3を形成しない領域を小さくすることが好ましいため、絶縁樹脂層3が重なる境界線を始点として25μm~2mmの広げた領域とすることがより好ましい。
【0021】
絶縁樹脂層3を形成しない領域は、切断及び折り曲げ成形の加工される領域、絶縁シート1が重なる領域が挙げられるが、これらに限定するものではなく、割れ及び剥離などで製品品質に影響がある領域があれば、絶縁樹脂層3を形成しなくてもよい。
【0022】
基材2を形成する絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスの材質は絶縁性を備えた素材で、柔軟性等の目的とする特性の付与にあわせて、公知のものを適宜選択すればよく、複数の材質を組み合わせて用いても構わない。基材2の材質は、例えば、エンジニアリングプラスチックまたはスーパーエンジニアリングプラスチックからなる絶縁樹脂材料、シリカまたはアルミナまたはガラスからなる無機系絶縁材料、もしくは繊維状の前記絶縁樹脂材料または繊維状の前記無機系絶縁材料を含む材料である。絶縁樹脂材料であれば、柔軟性があるので有利に成形を行うことができ、無機系絶縁材料であれば、熱伝導率が高いので、発熱した固定子コイルから固定子鉄心への排熱を高めることができる。有機系絶縁材料の具体例としては、アラミド紙、クラフト紙、クレープ紙、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ナイロン6,6、ビニロン、エチレン酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、レーヨン、テフロン(登録商標)またはポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、液晶ポリマー、セルロース、及びビニロン等が挙げられる。無機系絶縁材料の具体例としては、シリカ及びアルミナ等が挙げられる。基材2は、上記具体例に示した有機系絶縁材料及び無機系絶縁材料の少なくとも1種以上から構成される。
【0023】
また、複合絶縁シート10は、絶縁紙または熱可塑性の絶縁フィルムを基材2、2aとし、複数の基材2、2aが接着剤4を介して積層され、一端部または両端部の基材2に絶縁樹脂層3が切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域を除く部分に形成されている。図2(a)に示す例では、一端部の基材2に絶縁樹脂層3が形成され、図2(b)に示す例では、両端部の基材2に絶縁樹脂層3が形成されている。なお、接着剤4は、絶縁樹脂層3であってもよい。絶縁樹脂層3は柔軟性があり基材2との接着強度が大きいため、加熱圧着することで基材2同士を接着することができる。また、基材2aは、基材2と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0024】
複合絶縁シート10に含まれる複数の基材2、2aは、絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれであってもよく、絶縁紙と絶縁フィルムの両方を含んでいてもよい。また、複合絶縁シート10に含まれる基材2、2aの枚数は、特に限定されるものではない。ただし、枚数が多くなると複合絶縁シート10の総厚が大きくなるため、3枚程度が好ましい。
【0025】
さらに、基材2は、絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれか一種または複数の種類が積層された基材であってもよい。すなわち、複合基材としては、絶縁紙と絶縁フィルムとを含む複合絶縁紙、複数種類の絶縁フィルムを含む複合絶縁フィルム等が挙げられる。複合基材は、アクリル系またはエポキシ系の汎用接着剤あるいは充填材を含む高熱伝導性接着剤で接着されていてもよい。高い耐熱性と絶縁性が要求される回転電機用の絶縁シートの場合、高耐熱性のアラミド紙、ポリエーテルサルフォン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリイミド等を含む複合基材が好適である。
【0026】
絶縁シート1の熱硬化性樹脂組成物の排熱性を効果的に反映させるために、基材2に空孔、空隙、もしくは目開き孔などの貫通孔がある絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスを用いても構わない。この場合、これらの貫通孔に熱硬化性樹脂組成物を充填するために、空孔、空隙、及び目開き孔のサイズは1μm以上であることが好ましい。熱硬化性樹脂組成物に無機充填材を含有する場合は、空孔、空隙、及び目開き孔の前記基材の表面に平行な方向のサイズは、複数の無機充填剤の最小粒径より大きいことがより好ましい。その貫通孔サイズは、無機充填剤が貫通孔に、より効率よく入り込むために、無機充填剤の平均粒径より大きく、その貫通孔の面内比率としての空孔率、空隙率、目開き率が5%から95%の範囲内であることがより好ましい。絶縁シート1の熱伝導率に絶縁樹脂層3の熱伝導率の効果を反映し、基材の強度を確保する観点から、貫通孔の面内比率は10%から90%の範囲内であることがさらに好ましい。全ての無機充填剤が貫通孔を通過する必要がある場合は、貫通孔サイズを、最大粒径よりも大きくすればよい。基材上に絶縁樹脂層3が平滑でかつ均一な膜厚で形成されるのであれば、貫通孔サイズの上限は限定されるものではないが、無機充填剤の最大粒径の100倍以下が好ましい。100倍を超えると、絶縁樹脂層3が基材上に不均一な膜厚で形成され、表面の平滑性が低下する。貫通孔サイズが無機充填剤の最小粒径より小さい場合、貫通孔に熱硬化性樹脂組成物が部分的に充填されず、空気層が残存し、十分な排熱効率が得られない。また、貫通孔の比率が5%未満の場合は、絶縁シート1の熱伝導率は、基材2の熱抵抗の影響が大きく、熱硬化性樹脂組成物の熱伝導率が十分に反映されず、95%を超えると、絶縁樹脂層3が基材上に膜厚が不均一に形成されたり、絶縁樹脂層3を含侵による形成では貫通孔に絶縁樹脂層3が保持できない。
【0027】
実施の形態2.
実施の形態2では、絶縁シートの絶縁樹脂層を構成する熱硬化性樹脂組成物について説明する。熱硬化性樹脂組成物は、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤を有する。熱硬化性樹脂組成物は、さらに粒状で複数の無機充填剤を有しても構わない。複数の無機充填剤は、最大粒径が絶縁樹脂層3の厚みよりも小さく、平均粒径が絶縁樹脂層3の厚みの0.5倍よりも小さい。無機充填剤の最大粒径が絶縁樹脂層3の厚み以上になった場合、または無機充填剤の平均粒径が絶縁樹脂層3の厚みの0.5倍以上になった場合、基材2に絶縁樹脂層3を形成するスラリーを塗布した際に絶縁シート1に表面平坦性が得られない。また、絶縁樹脂層3の圧縮は高弾性の無機充填材で停止するため、絶縁樹脂層3が効率よく圧縮されず、絶縁シート1が配置される隙間の細部に絶縁樹脂層3を十分に充填することができなくなる場合、及び固定子鉄心を円筒状に成形する際に、絶縁シート1を固定子に圧縮固定できなくなる場合がある。また、熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて硬化促進剤、製膜性付与剤、粘着付与剤、及び接着付与剤等を含む。なお、以下の説明において、熱硬化性樹脂(A)及び熱硬化性樹脂(B)を特に区別せず両方を指す場合、あるいはこれらの混合樹脂を指す場合は、単に「熱硬化性樹脂」と記す。また、常温を約25℃とする。
【0028】
熱硬化性樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂として公知のものが用いられる。特に、絶縁ワニスとして汎用に使用されているエポキシ樹脂、フェノール樹脂、またはビニルエステル樹脂等の不飽和ポリエステル樹脂の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0029】
熱硬化性樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ブロム化脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネート、ヒダントイン型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂(ビニルエステル系樹脂)、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、ポリエーテル(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0030】
熱硬化性樹脂(A)は常温で固体であり、融点あるいはガラス転移点の軟化温度が150℃以下であり、さらに好ましくは125℃以下である。軟化温度が150℃よりも大きい場合、加熱時に熱硬化性樹脂(B)との重合反応が進みにくく、硬化処理工程における加熱温度を200℃よりも高くする必要があり、絶縁対象の部材あるいは絶縁フィルムの劣化を誘発するため好ましくない。
【0031】
また、熱硬化性樹脂(A)は、液状の熱硬化性樹脂(B)または希釈用有機溶剤(以下、希釈剤という)の少なくとも一方に溶解しなければならない。溶解しない場合、スラリー作製の際に樹脂成分が均等に溶解した状態が得られず、均質な絶縁樹脂層を形成することができない。
【0032】
さらに、熱硬化性樹脂(A)がエポキシ樹脂の場合、絶縁対象の部材との接着力を高める観点からは、エポキシ当量が200以上であり、軟化点が50℃から160℃の範囲(以下、このような数値または割合の下限と上限を示す場合、「50℃~160℃」のように記す)にあるエポキシ樹脂がより好ましい。また、熱硬化性樹脂(A)がビニルエステル樹脂等の不飽和ポリエステル樹脂の場合も、軟化点が50℃~160℃であるものが好ましい。これらは常温での他の原材料との予備混合時の作業性に優れ、且つ、加熱で容易に溶融するため、他の原材料との均一混合性が向上する。
【0033】
熱硬化性樹脂(B)は、熱硬化性樹脂(A)がエポキシ樹脂の場合、絶縁対象の部材との接着力を高めるには、常温で液状のエポキシ樹脂が好適であり、熱硬化性樹脂(A)の溶解力を高めるには、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましく用いられる。また、熱硬化性樹脂(B)は、熱硬化性樹脂(A)が不飽和ポリエステル樹脂の場合、熱硬化性樹脂(A)の溶解力を高めるには、不飽和ポリエステル樹脂のオリゴマーまたはモノマーの低粘度の低分子量体が好適である。
【0034】
このように、常温での状態が異なる熱硬化性樹脂(A)と熱硬化性樹脂(B)を用い、質量比の配合等を調整することにより、絶縁樹脂層の常温での表面粘着性(タック性)、機械強度(靭性)、粘着性、加熱時の流動性等を制御することができる。熱硬化性樹脂(A)と熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、熱硬化性樹脂(A)は10質量部~90質量部であり、より好ましくは15質量部~85質量部である。
【0035】
質量比でいうと、熱硬化性樹脂(A)と熱硬化性樹脂(B)との質量比(A/B)は、10/90~90/10の範囲であることが好ましい。質量比(A/B)が10/90未満の場合、液状樹脂が多いため、乾燥後に安定した絶縁樹脂層が得られず、離型基材から剥離できない。質量比(A/B)が90/10を超える場合、固形樹脂が多いため、絶縁樹脂層3の靭性(材料の粘り強さ)が低くなる。このため、乾燥時または離型基材からの剥離時に割れ及び欠けが発生し易く、作業性が悪くなる。
【0036】
靭性が高く安定した絶縁樹脂層を作製するには、質量比(A/B)は15/85~85/15の範囲であることが好ましい。また、絶縁対象の部材への貼り付けを容易にできる粘着性を確保するには、質量比(A/B)は15/85~50/50の範囲が好ましい。一方、絶縁樹脂層表面の粘着性が不要な場合(例えば粘着性が作業性を悪化させる場合)は、表面粘着性を低くするために、質量比(A/B)は50/50~85/15の範囲が好ましい。この場合、常温で固体の熱硬化性樹脂(A)が多いことから加熱時の流動性が低下する。加熱時の流動性を確保しながら、表面粘着性を低くする必要がある場合は、常温で液状の熱硬化性樹脂(B)の比率を高めた配合で、乾燥温度を高めるか、乾燥時間を長くし、硬化反応を少し進めた半硬化状態の絶縁樹脂層3を形成すれば良い。
【0037】
また、熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を硬化させる硬化剤を含有することができる。硬化剤は、特に限定されることはなく、熱硬化性樹脂の種類にあわせて公知のものを適宜選択することができる。硬化剤には、アミン類、フェノール類、酸無水物類、イミダゾール類、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミド樹脂等が用いられる。
【0038】
硬化剤の具体例としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸及び無水ハイミック酸等の脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族酸無水物、無水フタル酸及び無水トリメリット酸等の芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン、アジピン酸ジヒドラジド等の有機ジヒドラジド、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素及び三臭化ホウ素等のハロゲン化ホウ素アミン錯体、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン及びその誘導体、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール及び2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p-ヒドロキシスチレン樹脂等の多価フェノール化合物、有機過酸化物が挙げられる。
【0039】
ハロゲン化ホウ素アミン錯体の代表的な具体例としては、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素ジエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素イソプロピルアミン錯体、三フッ化ホウ素クロロフェニルアミン錯体、三フッ化ホウ素-トリアリルアミン錯体、三フッ化ホウ素ベンジルアミン錯体、三フッ化ホウ素アニリン錯体、三塩化ホウ素モノエチルアミン錯体、三塩化ホウ素フェノール錯体、三塩化ホウ素ピペリジン錯体、三塩化ホウ素硫化ジメチル錯体、三塩化ホウ素N,N-ジメチルオクチルアミン錯体、三塩化ホウ素N,N-ジメチルドデシルアミン錯体、三塩化ホウ素N,N-ジエチルジオクチルアミン錯体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、硬化剤の配合量は、使用する熱硬化性樹脂及び硬化剤の種類等に合わせて適宜調整すればよく、通常、熱硬化性樹脂100質量部に対して0.1質量部以上200質量部以下であることが好ましい。
【0041】
さらに、硬化剤は、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合、絶縁樹脂層の保存安定性、硬化性、及び硬化樹脂物性等の観点から、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤が好適である。潜在性硬化剤の具体例としては、三フッ化ホウ素-アミン錯体等のハロゲン化ホウ素アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジッド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。これらの潜在性硬化剤を有した絶縁シート1を反応活性開始温度未満で加熱することで、固定子コイル及び固定子鉄心の隙間に流動した絶縁樹脂層3が入り込み、絶縁対象となる部材の固着性及び排熱性を効果的に高めることができる。これらの潜在性硬化剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。潜在性硬化剤の配合量は、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂に対する当量比が0.3~2.0であり、硬化物特性の安定性の観点から、0.5~1.5であることがより好ましい。
【0042】
また、熱硬化性樹脂に不飽和ポリエステル樹脂を用いた場合、有機過酸化物は、重合反応を開始させる反応開始剤として用いられる。有機過酸化物としては、10時間半減期温度が40℃以上であれば特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。有機過酸化物の具体例としては、ケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、パーオキシジカーボネート系の過酸化物等が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0043】
活性温度が高い有機過酸化物を選択することにより、絶縁樹脂層の可使時間(すなわち絶縁シートの可使時間)を向上させることができる。コイルへの含浸処理に適した絶縁樹脂層の可使時間を確保する観点からは、有機過酸化物の10時間半減期温度が80℃以上であることが好ましい。また、絶縁樹脂層の硬化を効率良く進行させるため、有機過酸化物の10時間半減期温度は、絶縁樹脂層を硬化させる際の硬化炉の設定温度以下であることが好ましい。
【0044】
このような10時間半減期温度を有する有機過酸化物の具体例としては、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-2-メチルシクロヘキサン、2,2-ジ(4,4-ジ-(ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)バレラート、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサン酸、t-ブチルパーオキシラウリン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、p-メンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、メチルエチルケトンパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クミンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0045】
有機過酸化物の配合量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂であるポリエステル樹脂の合計100質量部に対して通常0.1質量部~10質量部であり、より好ましくは0.5質量部~5質量部である。有機過酸化物の配合量が0.1質量部未満であると、架橋密度が小さくなり、硬化が不十分になることがある。一方、有機過酸化物の配合量が10質量部よりも多いと、絶縁樹脂層3の可使時間が著しく短くなる傾向にある。
【0046】
また、熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を含有させることができる。硬化促進剤は、特に限定されることはなく、熱硬化性樹脂の種類に合わせて公知のものを適宜選択することができる。硬化促進剤の具体例としては、3級アミン類、イミダゾール類、アミンアダクト類等が挙げられる。絶縁樹脂層3の保存安定性、硬化性、及び硬化樹脂物性等の観点から、60℃以下では反応不活性な硬化促進剤がより好ましい。
【0047】
硬化促進剤の配合量は、熱硬化性樹脂の合計100質量部に対し、通常0.01質量部~10質量部であり、より好ましくは0.02質量部~5.0質量部である。硬化促進剤が0.01質量部より小さいと硬化反応の促進効果が劣り、10質量部より大きいと可使時間が短くなる傾向にある。
【0048】
また、熱硬化性樹脂組成物には、膜厚均一性及び表面平滑性等の製膜性を向上させるため、必要に応じて製膜性付与剤を含有させることができる。製膜性付与剤には、重量平均分子量が10,000~100,000の熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂(A)と熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して1質量部~100質量部である。熱硬化性樹脂の硬化特性を損なわないためには、5質量部~80質量部の範囲内であることがより好ましい。このように規定された熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂組成物が有することで、熱硬化性樹脂組成物の厚みの均一性及び表面平滑性等の製膜性を効果的に向上させることができる。熱可塑性樹脂は、特に限定されることはなく、熱硬化性樹脂の種類に合わせて公知のものを適宜選択することができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、例えばフェノキシ樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの製膜性付与剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量が10,000よりも小さい場合は、製膜性の改善に至らない。熱可塑性樹脂の重量平均分子量が100,000よりも大きい場合は、液状の熱硬化性樹脂(B)への溶解分散性が悪く、スラリーを調製できない。製膜性付与剤の配合量は、硬化促進性及び硬化樹脂物性等の観点から、熱硬化性樹脂(A)と熱硬化性樹脂(B)とを合計した質量を100質量部としたときに、通常1質量部~40質量部であり、より好ましくは5質量部~30質量部である。製膜性付与剤が1質量部よりも小さいと製膜性の改善効果が劣り、40質量部よりも大きいと液状の熱硬化性樹脂(B)への溶解分散性が悪く、スラリーを調製できない。
【0050】
また、熱硬化性樹脂組成物には、絶縁樹脂層の表面粘着性を向上させるため、必要に応じて、粘着付与剤を含有させることができる。粘着付与剤は、重量平均分子量が10,000~200,000であれば、特に限定されることはなく、熱硬化性樹脂の種類に合わせて公知のものを適宜選択することができる。粘着付与剤の具体例としては、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、天然ゴム、スチレン系エラストマー、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルホルマール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂等が挙げられる。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
粘着付与剤の重量平均分子量が10,000より小さい場合は粘着性の改善に至らず、200,000より大きい場合は、液状の熱硬化性樹脂(B)への溶解分散性が悪く、スラリーを調製できない。粘着付与剤の配合量は、硬化促進性及び硬化樹脂物性の観点から、熱硬化性樹脂の合計100質量部に対し、通常1質量部~20質量部であり、より好ましくは2質量部~10質量部である。粘着付与剤が1質量部より小さいと表面粘着性の改善効果が劣り、20質量部よりも大きいと液状の熱硬化性樹脂(B)への溶解分散性が悪く、スラリーを調製できない。
【0052】
また、熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と無機充填材との界面、あるいは絶縁樹脂層と絶縁対象の部材との界面の接着力を向上させる観点から、接着付与剤を含有させることができる。接着付与剤は、特に限定されることはなく、熱硬化性樹脂または無機充填材の種類に合わせて公知のものを適宜選択することができる。
【0053】
接着付与剤の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。これらの接着付与剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。接着付与剤の配合量は、熱硬化性樹脂または接着付与剤の種類等に合わせて適宜設定すればよく、通常、熱硬化性樹脂100質量部に対して0.01質量部~5質量部であることが好ましい。
【0054】
また、熱硬化性樹脂組成物には、熱伝導率及び機械強度の向上、絶縁樹脂層の厚膜化等の観点から、充填剤を含有させることができる。充填剤は、特に限定されることはなく、目的に合わせて公知のものを適宜選択することができる。充填剤は、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等で表面処理されたものでもよいし、表面処理されていないものでもよい。
【0055】
無機充填剤の具体例としては、結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、窒化ケイ素、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ガラス、硫酸バリウム、マグネシア、酸化ベリリウム、雲母、酸化マグネシウム等が挙げられる。充填剤の形状は、破砕状または球状が好適であるが、亜球状、鱗片状、繊維状、ミルドファイバー、ウィスカー等であってもよい。これらの充填剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0056】
また、硬化後の絶縁樹脂層の耐クラック性及び耐衝撃性を向上させる目的で、熱可塑性樹脂、ゴム成分、各種オリゴマー等の樹脂系充填剤を添加してもよい。熱可塑性樹脂の具体例としては、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、MBS樹脂(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体)、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、アクリル樹脂等が挙げられ、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、フッ素ゴム等により変性することができる。また、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末等を添加してもよい。
【0057】
無機充填材の配合量は、樹脂組成物を均一に混合できる量であれば良く、通常、熱硬化性樹脂組成物の全量に対して、70体積%以下であり、混合の作業性を考慮すると、より好ましくは65体積%以下である。無機充填材の配合量が70体積%よりも大きいと樹脂組成物と均一に混合できなくなり、絶縁樹脂層3の特性の再現性が得られない傾向にある。また、絶縁シート1を折り曲げて使用する場合は、柔軟性を高める必要があるため、50体積%以下がより好ましい。さらに、絶縁シート1の熱伝導率を高める必要、厚い絶縁樹脂層3を形成する必要がない場合、熱硬化性樹脂組成物に無機充填材を配合しないことも可能である。無機充填材を配合しない場合でも、絶縁シート1の基材2に熱硬化性樹脂組成物の排熱性を効果的に反映させるために、空孔、空隙、もしくは目開きのある絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスの基材2を絶縁シート1に使用しても構わない。
【0058】
絶縁シート1は、絶縁対象の部材間(例えばコイルと鉄心間)の隙間に挿入され相間絶縁として用いられる。このため、熱硬化性樹脂組成物の無機充填材の最大粒径は、隙間の寸法から絶縁シートの基材の厚みを差し引いた寸法より小さく、平均粒径は隙間の寸法の0.5倍より小さいことが好ましい。例えば、隙間の寸法から基材の厚みを差し引いた実測寸法が、公差を含めて10μm~100μmである場合、最大粒径が10μm以下で平均粒径が5μm以下の無機充填材が選定される。無機充填剤の最大粒径がその隙間から基材の絶縁フィルムあるいは絶縁紙の厚みを差し引いた寸法以上、またはその平均粒径がその寸法の0.5倍以上になった場合、絶縁シートの表面平坦性が得られず、その隙間への挿入作業が低下したり、また、絶縁樹脂層の圧縮は高弾性の無機充填材で停止するため、効率よく圧縮されず、絶縁シートが配置される隙間の細部に絶縁樹脂層を十分に充填することができなかったり、固定子鉄心を円筒状に成形する際に、絶縁シートを固定子に圧縮固定できなくなる場合がある。
【0059】
さらに、熱硬化性樹脂組成物には、充填剤等の固体粉末の樹脂中での沈降を抑制する沈降防止剤または分散剤、ボイド発生を防止する消泡剤、絶縁樹脂層同士のブロッキングを防止するポリマービーズ等のアンチブロッキング剤または滑り性向上剤、塗料定着剤、酸化防止剤、難燃化剤、着色剤、増粘剤、減粘剤、界面活性剤等を配合することもできる。
【0060】
実施の形態3.
実施の形態3では、絶縁樹脂層及び絶縁シートの特性について説明する。絶縁樹脂層は、表面平滑性及び柔軟性が高い方が好ましい。絶縁対象の部材との貼り付け性が良好であって、硬化後の絶縁樹脂層と絶縁対象の部材との間に空気層が発生しないためには、絶縁樹脂層の膜厚の面内分布を平均値の±30%以内とする。
【0061】
また、絶縁樹脂層は、25℃で180度に折り曲げても割れが発生しない柔軟性を有する。過度な加熱により絶縁樹脂層3の乾燥が進むと、希釈剤の揮発に加えて熱硬化性樹脂の硬化反応が進行し、絶縁樹脂層3の柔軟性が消失することがある。絶縁樹脂層3の柔軟性が消失した場合、部材の表面形状に沿う柔軟性が絶縁樹脂層3にないため、部材同士の隙間に絶縁シート1を配置した際に絶縁樹脂層3にクラックが発生することがある。あるいは、絶縁樹脂層3の加熱硬化後も絶縁樹脂層3が部材に接着及び固着しないことがある。
【0062】
また、絶縁樹脂層3は、膜厚が大きすぎると内部応力が高くなり、180度折り曲げ時に割れが発生する可能性がある。絶縁樹脂層3の膜厚は1μm~500μmが好適であり、絶縁対象の部材同士の隙間を完全に埋めるためには5μm~300μmがより好ましい。膜厚が1μm未満の場合、ピンホールのない絶縁樹脂層を形成することが難しく、膜厚が500μmを超える場合、180度折り曲げ試験において割れが発生する可能性が大きい。
【0063】
絶縁樹脂層3の厚みは、絶縁シート1が配置される隙間の間隔と基材2の厚みとの差の1.1倍から2.0倍の範囲内に形成されている。より好ましくは、1.3倍~1.7倍の範囲内に形成される。このように規定された範囲内に絶縁樹脂層3の厚みを形成することで、絶縁シート1が配置される隙間の細部に絶縁樹脂層3を十分に充填することができる。また、絶縁シート1を回転電機に配置する場合、回転電機の組立性の悪化を抑制することができる。具体的には、隙間の寸法から基材2の厚みを差し引いた寸法が100μmの場合、絶縁樹脂層3の厚みは110μm~200μmが好適であり、130μm~170μmがより好ましい。厚みが110μm未満の場合、加熱された絶縁樹脂層3が隙間の細部に十分に充填されない。厚みが200μmを超える場合、回転電機の固定子の成形時にスロット間に隙間が生じるため固定子を円筒状に成形できなくなる等、固定子の組立性が悪化することがある。
【0064】
絶縁シート1に設けられた絶縁樹脂層3は、25℃で25MPaの圧力で厚み(総厚)が10%以上圧縮され、絶縁シート1が配置される部材同士の隙間の寸法公差を考慮すると、厚みが20%以上圧縮されることがより好ましい。絶縁樹脂層3は、熱硬化性樹脂組成物の全質量を100重量部としたときに、不揮発分が97質量部以上である。絶縁樹脂層3は不揮発分が97質量部以上であるため、完全硬化すると3%~10%の体積収縮がある。また、絶縁シート1の基材2は、種類によっては25MPaの圧力でほとんど圧縮されないため、絶縁樹脂層3の厚みは、隙間の寸法から基材2の厚みを差し引いた寸法よりも10%以上大きくする必要がある。25℃で25MPaの圧力で絶縁シート1の厚みが10%未満しか圧縮されない場合、絶縁シート1を配置した時に隙間が埋まっていても、絶縁樹脂層3の硬化収縮により微小な隙間が生じる場合がある。
【0065】
絶縁シート1を部材に予め貼り付けて使用する場合、絶縁樹脂層3は25℃で表面粘着性(タック性)があるものが好ましい。一方、部材に絶縁シート1を予め貼り付けると作業性が悪くなる場合は、前述の熱硬化性樹脂の質量比及び乾燥条件等で、柔軟性と圧縮性を保持した状態で絶縁樹脂層3の表面粘着性をなくすことができる。表面粘着性がない指標として、40℃で絶縁対象の部材に2MPaの圧力で押しつけても粘着しないこととする。この条件で粘着した場合、作業環境温度(25~35℃)によっては表面粘着性が強くなり、絶縁シート1の作業性が悪くなる可能性がある。
【0066】
絶縁樹脂層3は、25℃で圧縮される柔軟性を有すると共に、加熱時に流動して、部材間の細部(例えば固定子コイル及び固定子鉄心の突出形状及び凹部形状等)に浸透しなければならない。このような特性を得るには、絶縁樹脂層3の乾燥状態が重要である。柔軟性に関しては、180℃に折り曲げても割れが発生しないことで簡易的に判断できる。これらの柔軟性と流動性の特性をより定量的に判定する手法として、粘弾性測定による弾性率評価がある。
【0067】
図3は、単体の絶縁樹脂層3から得た粘弾性測定の具体例であり、温度に対する貯蔵せん断弾性率(G′)の変化を示している。25℃での貯蔵せん断弾性率(図5中、Aで示す)は、1.0×10Pa~5.0×10Paの範囲内である。貯蔵せん断弾性率は、温度上昇とともに低下し、最低値(図3中、Bで示す)が80℃~150℃の範囲内にあって10Pa~2.0×10Paの範囲内である。このように規定された範囲内に貯蔵せん断弾性率が設定されることで、絶縁樹脂層3に予め定めた圧縮率が得られ、絶縁樹脂層3を部材間の細部に浸透させることができる。上記の値を満たさない絶縁樹脂層3は、加圧時に予め定めた圧縮率が得られず、部材間の細部への浸透性が得られない。
【0068】
また、貯蔵せん断弾性率の最低値が80℃未満にある場合は、常温放置で反応が進行し、柔軟性が低下しやすい。一方、最低値が150℃以上にある場合は、完全硬化するために必要な加熱温度が高くなり、基材を劣化させる恐れがある。絶縁樹脂層の形状の維持、及び加熱温度での流動性を発現させる観点から、25℃での貯蔵せん断弾性率が3.0×10Pa~3.0×10Paであり、且つ、80℃~150℃での貯蔵せん断弾性率の最低値が1.0×10Pa~5.0×10Paであり、25℃での値の10分の1以下であることがより好ましい。さらに、180℃以上での貯蔵せん断弾性率は、硬化による影響で、1.0×10Pa以上で飽和する(図3中、Cで示す)。
【0069】
また、図4は、絶縁樹脂層の損失弾性率(G″)の温度変化による挙動を示している。25℃での損失弾性率(図4中、Aで示す)が1.0×10Pa~5.0×10Paであり、温度上昇とともに低下し、その最低値(図4中、Bで示す)が80℃~150℃にあって10Pa~2.0×10Paである。さらに、損失正接(tanδ)の極大値が80℃~150℃にあって1.0~3.5である。損失弾性率及び損失正接が上記の値を満たさない絶縁樹脂層は、所要の加圧時の圧縮率が得られず、部材間の細部への浸透性が得られない。
【0070】
また、損失弾性率の最低値あるいは損失正接の極大値が80℃未満にある場合は、常温放置で反応が進行し、柔軟性が低下しやすい。一方、それらが150℃以上にある場合は、完全硬化するために必要な加熱温度が高くなり、基材を劣化させる恐れがある。絶縁樹脂層の維持、及び加熱温度での流動性を発現させる観点から、25℃での損失弾性率が3.0×10Pa~3.0×10Paであり、且つ、80℃~150℃での損失弾性率の最低値が1.0×10Pa~1.0×10Paであり、25℃の値の5分の1以下であることがより好ましい。180℃以上での損失弾性率は、硬化による影響で、5.0×10Pa以上で飽和し(図4中、Cで示す)、損失正接は0.2以下で飽和する。
【0071】
また、絶縁樹脂層の柔軟性と流動性の特性は、複素粘度でも評価できる。図5は、絶縁樹脂層の動的粘弾性測定で得られた複素粘度の温度変化による挙動を示している。25℃での複素粘度(図5中、Aで示す)が6.0×10Pa・s~1.0×10Pa・sであり、温度上昇とともに低下し、その最低値(図5中、Bで示す)が80℃~150℃にあって5.0×10Pa・s以下である。
【0072】
これらの値を満たさない絶縁樹脂層は、所要の加圧時の圧縮率が得られず、部材間の細部への浸透性が得られない。さらに、絶縁樹脂層の形状の維持、及び加熱温度での流動性を発現させる観点から、25℃での複素粘度が1.0×10Pa・s~5.0×10Pa・sであり、且つ、80℃~150℃での複素粘度の最低値が1Pa・s~5.0×10Pa・sであり、25℃での値の10分の1以下であることがより好ましい。180℃以上での複素粘度は、硬化による影響で、1.0×10Pa・s以上で飽和する(図5中、Cで示す)。
【0073】
絶縁シートは、絶縁対象の部材(例えばコイル、鉄心等)の隙間に配置された後、硬化処理工程で加熱硬化される。硬化処理工程における加熱温度は、硬化剤及び硬化促進剤の種類によって異なるが、絶縁対象の部材を劣化させない加熱温度と時間に設定される。具体的には、加熱温度は100℃~200℃が好ましく、130℃~190℃がより好ましい。加熱時間は1分~6時間が好ましく、3分~2時間がより好ましい。
【0074】
加熱温度が100℃未満、または加熱時間が1分未満の場合、硬化が不十分となり、部材との接着及び固着ができない。100℃~170℃の比較的低温では6時間を超えても部材を劣化させることは少ないが、170℃以上で6時間を超える場合、または200℃以上の高温加熱では、部材を劣化させる場合がある。なお、絶縁シートは溶剤をほとんど含まないため、誘導加熱または通電加熱等で硬化することもでき、硬化処理工程の簡略化が図られる。
【0075】
絶縁シート1を固定子鉄心などの被着体に、両面テープで貼り付けても良いが、被着体あるいは絶縁シート1を加温し、その熱により絶縁樹脂層3の粘着性を発現させ、直接被着体に貼り付けることができる。絶縁樹脂層3を加温し粘着性を発現させる際に、硬化反応が進行すると、貼り付け作業中に粘着力が低下し、被着体に貼り付けができなくなる。
貼り付け作業と絶縁樹脂層3の硬化を効率良く行うために、絶縁樹脂層3の融点は100℃以下で、かつその硬化開始温度は、融点より5℃以上高くすると良い。粘着作業中に絶縁樹脂層3の温度が低下し、粘着性が低下する恐れがある場合、その尤度を配慮した高い温度で絶縁樹脂層3を加温する方が、作業性が良くなるため、融点と硬化開始温度の温度差を10℃以上とすることがより好ましい。絶縁シート1は切断及び成形をして使用することから、絶縁樹脂層3は常温ではタック性が低いことが良いため、融点は、30℃以上100℃以下が好ましく、また、切断及び成形などの常温での作業環境温度が最大40℃まで上昇する可能性があるため、40℃以上100℃以下がより好ましい。融点が30℃未満の場合は、常温での保管に絶縁樹脂層3の粘性が変化し、作業性が低下する。また、100℃を超える場合は、貼り付け温度の設定にもよるが、硬化反応が並行して進行する可能性が高く、貼り付け作業性が低下する。また、この場合、絶縁樹脂層3の硬化開始温度は、融点の5℃以上、より好ましくは10℃以上高い温度で、かつ絶縁樹脂層3のポットライフを確保するため、100℃以上であることがさらに好ましい。硬化開始温度が融点+5℃より低い場合は、絶縁樹脂層3を加温して粘着性を高める作業中に反応が進行し、粘着性の低下を引き起こす。融点は、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)の配合で制御し、前者を増やすと上昇する傾向がある。また、潜在性硬化剤と硬化促進剤は反応開始温度を有するので、硬化開始温度は、これらの種類の選定と配合量で制御できる。また、貼り付け温度は、熱硬化樹脂組成物により粘着性が異なるが、固定子鉄心など被着体あるいは絶縁シート1を予め、硬化開始温度以下かつ融点±20℃の範囲内で予熱して、貼り付けると良い。絶縁樹脂層1の流動性を高めることで、より粘着力が増すため、貼り付け温度は融点±10℃の範囲内がより好ましい。貼り付け温度が融点より20℃超低い場合、樹脂層3の粘着性が低く、また20℃超高い場合は、絶縁樹脂層3が流動し、貼り付け性が低下する。
【0076】
また、絶縁シート1は、絶縁対象の部材を一体化し耐振性を向上させるために、硬化後の部材との接着力は10N/m以上が好ましい。絶縁シート1の硬化後の部材との接着力は、耐振性の特性ばらつきを抑制するためには、20N/m以上がより好ましい。そのため、絶縁シート1を回転電機に用いた場合、絶縁樹脂層3で固着された固定子鉄心と固定子コイルとの接着力は、20N/m以上である。接着力が10N/m未満の場合、十分な耐振性が得られず、絶縁シート1を設けた機器の長期的な信頼性が低下する。
【0077】
上述した特性を有する絶縁樹脂層3を備えた絶縁シート1によれば、絶縁樹脂層3が常温での加圧で所定の厚みに効率よく圧縮されるとともに、硬化時の加熱により絶縁樹脂層3が流動して部材間の細部に浸透するため、空気層が排除されて絶縁対象の部材同士の隙間を確実に埋め、両者を絶縁し、両者を固着することができる。
【0078】
実施の形態4.
実施の形態4では、絶縁シート1の製造方法について説明する。絶縁シートの製造工程は、熱硬化性樹脂組成物のスラリーを作製する第1の工程と、第1の工程で作製したスラリーを基材等に、切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域を除いた部分に塗布し、乾燥させる第2の工程とを含む。
【0079】
第1の工程は、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤と、最大粒径が絶縁樹脂層3の厚みよりも小さく、平均粒径が絶縁樹脂層3の厚みの0.5倍よりも小さい粒状で複数の無機充填剤と、希釈剤とを攪拌混合して、熱硬化性樹脂組成物のスラリーを作製する工程である。スラリーは、固体樹脂と液状樹脂を常温で希釈剤(有機溶剤)に溶解して作製する。従って、スラリーの作製温度は常温で、気温を考慮すると10~40℃の範囲となる。第1の工程における熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)と熱硬化性樹脂(B)とを合計した質量を100質量部としたときに、熱硬化性樹脂(A)の質量部は、10質量部から90質量部の範囲内である。撹拌混合は、撹拌機で行う。撹拌混合は、熱硬化性樹脂組成物に希釈剤を加えて予め定めた混合物粘度とした後、充填剤が沈降せず均一に分散するまで行われる。
【0080】
熱硬化性樹脂を溶解させる希釈剤は、塗膜後には揮発または蒸発してほぼ完全に消滅する。希釈剤は、特に限定されることはなく、使用する熱硬化性樹脂及び無機充填剤等の種類に合わせて公知のものを適宜選択することができる。希釈剤の具体例としては、トルエン、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤の配合量は、混練が可能な混合物粘度となれば特に限定されることはなく、通常、熱硬化性樹脂と無機充填剤との合計100質量部に対して20質量部~200質量部である。
【0081】
第2の工程は、絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれか一つの単層シート、もしくは絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスから選択された複数のシートが積層された積層シートから形成された基材2の一方の面もしくは双方の面に第1の工程で作製したスラリーを切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域には形成せず、塗布した後、未硬化または半硬化の状態までスラリーを乾燥させる工程である。スラリーは、シート塗工機にて、予め定めた厚みで指定した領域に基材2に塗布される。乾燥は乾燥炉にて80℃~160℃の温度条件で行われる。乾燥により希釈剤を揮発させ、絶縁樹脂層3は形成される。
【0082】
絶縁樹脂層を切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域に形成しないように、塗布領域を部分的に選択して塗布するシート塗工機は、例えば、ダイリップ及びダイランド部に塗布幅またはストライプパターンに応じた専用のシム板を設置して塗工するダイコーターなどが挙げられるが、塗工パターンを制御して塗布できる間欠塗工、ストライプ塗工、スジ塗工、またはインクジェット塗工など当該技術分野において公知のシート塗工機を用いることができる。
【0083】
第2の工程における基材2へのスラリーの塗布は、シート塗工機による塗布に限るものではない。第1の工程で作製したスラリーに基材2を含浸し、基材2を引き上げながら、乾燥炉にて80℃~160℃の温度条件で希釈剤を揮発させて絶縁樹脂層3を形成してもよい。その場合、絶縁樹脂層3の厚みはスラリーの粘度によって調整される。また、大きい貫通孔を有した基材2の場合は、孔部に絶縁樹脂層3が形成されないことがあるため、シート塗工機を用いた絶縁シート1の製造方法で絶縁シート1を作製する方が好ましい。
【0084】
第2の工程においてスラリーを離型紙または離型フィルムに塗布して乾燥させた場合、第2の工程で乾燥させた熱硬化性樹脂組成物を基材2の片面または両面に加温圧着させて貼り付ける第3の工程を行う。第3の工程には、ラミネータ加工装置等、当該技術分野において公知の装置を用いることができる。
【0085】
絶縁樹脂層3は、熱硬化性樹脂組成物の全質量を100重量部としたときに、乾燥後の不揮発分が97質量部以上であり、より好ましくは99質量部以上である。不揮発分が97質量部未満の場合、残留した希釈剤により後述する離型紙等からの絶縁樹脂層3の離型が困難になる。このように規定された範囲に不揮発分が設定されることで、絶縁樹脂層3を容易に離型紙等から離型することができる。絶縁樹脂層3は、希釈剤のみを揮発させた未硬化状態であってもよいし、希釈剤の揮発後に硬化反応を進めるための加熱をさらに行い、半硬化状態としてもよい。作製された絶縁シート1は、絶縁樹脂層3同士が接触した状態では接着(ブロッキング)してしまうため、絶縁樹脂層3の表面を離型フィルムまたは離型紙で覆い、使用時に離型する。
【0086】
実施の形態5.
実施の形態5では、絶縁シートの回転電機への使用例について、図6から図10を用いて説明する。図6及び図7は、実施の形態5による回転電機の固定子を説明する斜視図及び断面図、図8から図10は、実施の形態5による回転電機における絶縁シートの使用例を説明する図であり、図9は、図8中、A-Aで示す部分の断面図、図10は、図8中、Bで示す部分の拡大図である。
【0087】
絶縁シート1は、回転電機の固定子のコイルと鉄心の間への配置(貼付けあるいは挿入)する場合、鉄心の大きさに応じた寸法に切り取り、鉄心の矩形部に反って折り曲げて使用する。切断及び折り曲げなどの加工には、切断機及び成形機などの加工装置が用いられる。絶縁シートの絶縁樹脂層3が、硬化が進行し過ぎていたり、無機充填材量が多くて柔軟性が乏しかったりした場合、または基材と接着力が低い場合は、加工装置の切断刃及び成形金型などの治具が絶縁樹脂層3に触れると、クラック及び剥離が発生し、固定子への配置の際に異物として製品性能に悪影響を及ぼしたり、加工装置の汚染に繋がる。また、絶縁樹脂層3の粘着性が高い場合は、切断刃及び成形金型などの治具に付着し、成形の妨げ及び加工装置の汚染に繋がる。従って、絶縁シート1の加工時に、その冶具が触れる領域を予め絶縁樹脂層3を塗布していなければ、これらの不具合事象は回避できる。すなわち、絶縁シート1は、切断及び折り曲げ成形の装置治具が絶縁樹脂層3に触れる領域は、予め絶縁樹脂層3を形成しないものとする。
【0088】
絶縁樹脂層3を形成しない領域は、加工時に絶縁樹脂層3の剥離及び割れが発生しない幅、あるいは加工治具に絶縁樹脂層3が付着しない幅とすることとする。具体的には、加工装置の公差及び加工バラつきを加味し、切断刃及び成形金型などの加工治具が絶縁樹脂層3に触れる位置を始点として、両側に10μm~5mmの幅とすることが好ましい。絶縁樹脂層3の役割であり固着性及び排熱性を考慮した場合、絶縁樹脂層3を形成しない領域を小さくすることが好ましいため、絶縁樹脂層3にクラック及び剥離が発生しないことを前提とし、25μm~2mmの幅とすることがより好ましい。基材の両面に絶縁樹脂層3を形成する絶縁シート1の場合、切断及び成形により影響受ける領域は、片面のみ絶縁樹脂層3を形成しないことでクラック及び剥離の発生を回避できる場合もあるが、より確実に回避するため、両面とも形成しないことが好ましい。
【0089】
なお、固着性及び排熱性を高める必要がある場合は、上記の切断及び折り曲げなどの加工装置の冶具が触れる領域以外の、絶縁樹脂層3がコイル及び鉄心に平面的に接触する領域は、塗布されていることが好ましい。上述のように、絶縁樹脂層3が切断及び成形に耐え得る柔軟性または基材との接着力が確保されていない場合でも、加工冶具の影響を受ける基材の領域に予め絶縁樹脂層3を塗布していなければ、その影響を回避できる。その結果、製品不具合の影響となるクラック及び剥離は、絶縁樹脂層3の組成及び乾燥条件に関係なくなるため、絶縁シート1の製造マージンが大幅に向上する。
【0090】
また、固定子の設計によっては、絶縁シート1のコイルと鉄心に配置する際に、絶縁シート1が重なる領域が発生する場合がある。絶縁樹脂層3は基材、コイル、鉄心の界面を固着させる役割があるが、絶縁シート1が重なる領域の両側に絶縁樹脂層3が形成されていると、その領域の絶縁樹脂層3の膜厚が倍となり厚くなるため、固定子の成形時にスロット間に隙間が生じ、円環状に成形できなくなる。すなわち、絶縁シート1が重なる領域が発生する場合は、一方の絶縁シートはその領域は予め絶縁樹脂層3を形成しないことが好ましい。
【0091】
絶縁樹脂層3を形成しない領域は、絶縁シート1の重なりの公差及びバラつきを加味し、重なる領域に加えて、その境界線から10μm~5mm広げた領域とすることが好ましい。絶縁樹脂層3の役割であり固着性及び排熱性を考慮した場合、絶縁樹脂層3を形成しない領域を小さくすることが好ましいため、絶縁樹脂層3が重なる境界線を始点として25μm~2mm広げた領域とすることがより好ましい。
【0092】
電動機、発電機、圧縮機等の回転電機は、固定子コイル11と円環状の固定子鉄心12を含む固定子20を備えている。固定子鉄心12のティース部13の間には、所定数のスロット14が周方向に設けられ、スロット14内に固定子コイル11が収納される。絶縁樹脂層3をなす熱硬化性樹脂組成物が硬化された状態の絶縁シート1が、スロット14の内壁と固定子コイル11との間に配置され、固定子鉄心12と固定子コイル11とを絶縁及び固着している。
【0093】
絶縁シート1を固定子コイル11または固定子鉄心12に予め貼り付ける場合、絶縁樹脂層3は25℃で表面粘着性を有するものが選択される。また、絶縁シート1を予め貼り付けると固定子コイル11を挿入する際の作業性が悪くなる場合は、25℃で表面粘着性のない絶縁シート1が選択される。
【0094】
図8に示す例では、基材2の両面に絶縁樹脂層3が形成された絶縁シート1を用いているが、基材2の片面に絶縁樹脂層3が形成されたものであってもよい。絶縁樹脂層3が片面のみの場合、または絶縁樹脂層3に表面粘着性がない場合には、両面テープ等を用いて絶縁シート1を固定子鉄心12に貼り付けてもよい。なお、絶縁シート1は、切断部である端部と折り曲げ部は、絶縁樹脂層3が形成されていないため、加工によりクラック及び剥離は生じることはない。
【0095】
回転電機の製造工程においては、固定子鉄心12と固定子コイル11の隙間に絶縁シート1を挿入または貼り付けにより配置し、固定子鉄心12を円環状に成形することにより絶縁シート1を圧縮固定する。絶縁樹脂層3の膜厚は、固定子鉄心12(スロット14の内壁)と固定子コイル11の隙間の寸法から基材2の厚みを差し引いた寸法の1.1倍~2.0倍に設定されており、固定子鉄心12を円環状に成形する時の圧力で減少する。このため、図9に示すように、スロット14の内部における絶縁シート1の厚みは、スロット14の外部における絶縁シート1の厚みよりも小さくなる。なお、絶縁シート1の端部は絶縁樹脂層3が形成されていないため、切断加工によりクラック及び剥離が生じることはない。
【0096】
図10に示すように、絶縁シート1の切断加工した端部及び折り曲げた箇所は絶縁樹脂層3を形成してないため、絶縁樹脂層3のクラック及び剥離が発生することはない。また、絶縁樹脂層3は半硬化状態あるいは未硬化のため、硬化処理時の加熱によって流動するので、絶縁樹脂層3は、硬化処理時の加熱によって、折り曲げた箇所、固定子鉄心12と固定子コイル11の隙間、及び固定子コイル11の隙間の細部に浸透するため、空気層を排除し隙間を確実に埋めることができる。なお、図10は、硬化処理前の絶縁シート1を示しており、硬化処理後には固定子鉄心12と固定子コイル11の角部11aの隙間は熱硬化性樹脂組成物で埋められる。硬化された絶縁樹脂層3は、固定子鉄心12及び固定子コイル11との接着力が20N/m以上である。接着力が20N/m以上であるため、固定子コイル11の固着が確実に行えるので、固定子20の機械的強度を維持することができ、回転電機のNVH特性を改善することができる。
【0097】
これらのことから、絶縁シート1を使用した回転電機は、固定子コイル11の絶縁性能が高く、絶縁劣化が生じ難い。また、固定子コイル11の巻線からの発熱を固定子鉄心12に効率的に排熱することができる。また、固定子コイル11の固着が確実に行えるため、機械的強度が維持され、NVH特性の改善が図られる。また、絶縁シート1は溶剤をほとんど含有していないため、汎用の加熱炉だけでなく誘導加熱及び通電加熱で硬化することができる。さらに、硬化処理工程中のエネルギーロスが少ないことから、硬化時間が短く、回転電機の製造工程の簡略化が図られる。従って、絶縁シート1を使用した回転電機は、絶縁信頼性、排熱性、及び耐振性の向上が図られ、小型化及び高出力化が実現する。
【実施例0098】
以下、実施例及び比較例により本願の詳細を説明するが、本願はこれらに限定されるものではない。実施例及び比較例では、下記の材料を表1及び表2に記載の配合にて混合し、熱硬化性樹脂組成物を調整した。これらの熱硬化性樹脂組成物に希釈剤を加えたスラリーを調合して基材に塗工し、希釈剤を揮発乾燥して絶縁樹脂層を作製した。
【0099】
<固形の熱硬化性樹脂(A)>
(1-1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量950、軟化点95℃)
(1-2)ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂(重合平均分子量2500、軟化点95℃)
【0100】
<液状の熱硬化性樹脂(B)>
(2-1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)
(2-2)ネオペンチルグリコールジアクリレート(25℃での粘度6mPa・s)
【0101】
<硬化剤>
(3-1)ジシアンジアミド(反応開始温度160℃)
(3-2)キシリレンジアミン(常温で反応活性)
(3-3)t-ブチルクミルパーオキサイド(10時間半減期温度119.5℃)
【0102】
<硬化促進剤>
(4-1)1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(反応開始温度125℃)
(4-2)1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(反応開始温度100℃)
(4―3)オクチル酸亜鉛(反応開始温度105℃)
(4-4)2,4,6-トリス(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール(常温で反応活性)
<熱可塑性樹脂>
(5-1)フェノキシ樹脂(重合平均分子量18万)
(5-2)ポリエステル樹脂(重合平均分子量6.5万)
【0103】
<無機充填剤>
(6-1)溶融シリカ(最大粒径10μm、最小粒径1μm、平均粒径4μm)
(6-2)結晶シリカ(最大粒径30μm、最小粒径5μm、平均粒径12μm)
(6-3)アルミナ(最大粒径5μm、最小粒径1μm、平均粒径3μm)
(6-4)炭酸カルシウム(最大粒径20μm、最小粒径3μm、平均粒径8μm)
(6-5)炭酸カルシウム(最大粒径120μm、最小粒径10μm、平均粒径60μm)
【0104】
<基材>
(7-1)アラミド紙(厚み0.25mm)
(7-2)複合絶縁フィルム:ポリフェニレンサルファイド/ポリエチレンテレフタレート/ポリフェニレンサルファイド(厚み0.13mm。層間接着剤あり)
(7-3)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ20μm、空隙率40%)
(7-4)ナノファイバー不織布:ポリエーテルエーテルケトン(厚み:0.08mm、空隙サイズ3~25μm、空隙率65%)
(7-5)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm)
(7-6)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ1.1μm、空孔率60%)
(7-7)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ3μm、空孔率95%)
(7-8)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ500μm、空孔率20%)
(7-9)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ4.5μm、空孔率5%)
(7-10)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ525μm、空孔率45%)
(7-11)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ5μm、空孔率96%)
(7-12)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ0.9μm、空孔率35%)
(7-13)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ1.5μm、空孔率4.5%)
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
実施例1-10による絶縁シートは、上記実施の形態1及び2に記載された原材料とその配合に従って作製されている。一方、比較例1-10による絶縁シートは、原材料の配合、基材の選定、基材への塗布条件等が適正でなく、本願の絶縁シートには適合していない。実施例1-10及び比較例1-10による絶縁シート1及び絶縁樹脂層3(硬化処理前)に対し、表面平滑性、柔軟性、圧縮率、熱伝導率、粘着性、クレージング、不揮発分、ゲル化時間、貯蔵せん断弾性率、及び複素粘度について評価した。また、硬化処理後の絶縁樹脂層について、接着強度と絶縁耐圧を評価した。さらに、絶縁シート1について、切断及び折り曲げの加工性についても評価した。なお、各特性の評価とも、絶縁シート1の作製直後と常温放置30日後とも基準値を満足するか否かで判定した。
【0108】
表面平滑性は、絶縁樹脂層の膜厚の面内分布が平均値の±30%以内であるか否かで判断した(〇:±30%以内、×:±30%超)。また、絶縁シートの可使時間を確認するため、作製直後と、40℃にて30日保管後の柔軟性と圧縮率の測定を行った。柔軟性は、25℃において、手作業で180度折り曲げて、割れまたは欠けの発生の有無で判定した(〇:発生無し、×:発生有り)。絶縁樹脂層の圧縮率は、圧延鋼板上に絶縁シートを配置し、25℃で25MPaの圧力を加えた時の膜厚の減少から算出し、その圧縮率が10%以上であるか否かで判断した(〇:10%以上、×:10%未満)。
【0109】
粘着性は、圧延鋼板上に絶縁シートを配置し、40℃で2MPaの圧力で押しつけて粘着するか否かを、作製直後と、40℃にて30日保管後に評価した。なお、粘着性については、絶縁シートの用途によって有る方が好ましい場合と無い方が好ましい場合があるため、どちらがよいとは言えない。ただし、作製直後と30日経過後とで粘着性が変化することは好ましくないため、その点を評価した。
【0110】
また、エナメル線の皮膜への影響を調査するため、クレージング現象の発生有無を確認した。ポリエステルイミド/ポリアミドイミドを皮膜とするエナメル線(φ1.0mm)を5%に伸長した後にU字形状に曲げた試験片を作製し、常温で皮膜表面に絶縁シートを貼り付けて5分後に剥離した。絶縁樹脂層に表面粘着性がなく貼り付かない場合は、クリップで固定して接触させた。剥離後、光学顕微鏡観察とピンホール試験を実施し、クレージング現象の有無を評価した。
【0111】
ピンホール試験は、JISC3003に準拠し、食塩水中に規定の長さ(約5m)の試験片を浸漬し、液を正極、試験片を負極として12Vで1分間直流電圧を加えたときに発生するピンホール数を調べた。さらに、貼り付け後に150℃×1hrの条件で硬化させた試験片についても、皮膜表面の亀裂またはピンホールの発生有無を光学顕微鏡で観察した。それらの結果、亀裂またはピンホールの発生がなく、絶縁破壊電圧の低下がない場合はクレージングなしと判定し、亀裂またはピンホールの発生が確認され、絶縁破壊電圧の低下がある場合はクレージングありと判定した(○:クレージングなし、×:クレージングあり)。
【0112】
不揮発分は硬化前後の重量変化から計算し、97%以上か否かで判定した(○:97%以上、×:97%未満)。ゲル化時間は、絶縁樹脂層を採取し、熱板法にて150℃下でのゲル化時間を測定した。融点と硬化開始温度は、示差走査熱量計測定で測定した。貯蔵せん断弾性率、及び複素粘度は、100μm~300μmの膜厚の絶縁樹脂層を用い、パラレルプレート冶具にて常温から昇温速度5℃/分で昇温させた時の動的粘弾性評価にて測定した。貯蔵せん断弾性率については、25℃で1.0×10Paから5.0×10Paの範囲であり、その最低値が80℃から150℃の範囲にあって10Paから2.0×10Paの範囲であるか否かで判断した(〇:範囲内、×:範囲外)。複素粘度については、25℃で6.0×10Pa・sから1.0×10Pa・sの範囲であり、その最低値が80℃から150℃の範囲にあって5.0×10Pa・s以下であるか否かで判断した(〇:範囲内、×:範囲外)。
【0113】
接着強度は、接着試験片を作製し、引張試験機にて評価した。接着試験片は、絶縁シートをアセトン脱脂の処理表面を施した電磁鋼板に圧着し、150℃で1時間硬化させて作製した。引張試験は、25℃において剥離角度180度、引張速度10mm/minの条件で行い、以下の判定基準で評価した(○:接着強度10N/m以上、×:接着強度10N/m未満)。
【0114】
絶縁耐圧は、絶縁樹脂層を鋼板片側に貼り付けて、150℃で1時間硬化させた試験片を、絶縁破壊試験器を用いて油中で0.5kV/秒での一定昇圧にて電圧印加することにより絶縁破壊電圧を測定し、以下の判定基準で評価した(○:絶縁破壊電圧8kV以上、×:絶縁破壊電圧8kV未満)。加工性に関しては、加工装置(切断機、曲げ成形機)にて、絶縁シート1の作製直後と30日経過後において、切断および90℃の折り曲げ成形を実施し、クラックあるいは剥離の発生有無を確認した(〇:クラック・剥離なし。×:クラック・剥離あり)。加温貼り付け性として、融点より5℃低い温度で予熱した鉄心に絶縁シート1を押し当てて、貼り付け可能かを確認した(〇:貼り付け可能、×;貼り付け不可能)。実施例1-10及び比較例1-10による絶縁シート及び絶縁樹脂層の評価結果を、表3、表4及び表5にそれぞれ示す。
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
最初に、実施例の評価結果について、表3を用いて説明する。実施例1-10による絶縁シート1は、表3に示すように、いずれも柔軟性及び粘弾性特性(貯蔵せん断弾性率、複素粘度)に優れており、10%以上の圧縮率を有している。そのため、回転電機の固定子鉄心12と固定子コイル11の隙間に絶縁シート1が配置された時に、固定子鉄心12を円筒状に成形する時の圧力によって絶縁樹脂層3の厚みが減少し、かつ加熱時に絶縁樹脂層3が流動して隙間の細部に浸透することができる。また、40℃にて30日保管した後において、柔軟性と圧縮率に変化がないことから、常温では反応進行が遅く絶縁シート1の可使時間は長い。また、いずれも高い接着強度と絶縁耐圧が得られている。
【0119】
また、いずれも、切断機で切断される領域と、成形機で折り曲げる領域は、切断刃及び成形金型の冶具が触れる部分から所要の幅で絶縁樹脂層3を形成していないことから、加工時の絶縁樹脂層3にクラック及び剥離が起こることはない。さらに、実施例1と実施例4に関しては、スロット内に絶縁シート1を設置した際、重なり領域を有しているが、片側をその領域と境界から所要の幅で絶縁樹脂層3塗布していないため、円環に成形する際に絶縁樹脂層3が厚くなることはなく、成形に影響がないことを確認した。
【0120】
また、実施例1-10の絶縁シート1について、固定子鉄心への貼り付け性を確認した。各絶縁シート1の絶縁樹脂層3の示差走査熱量計測定から得られた融点と硬化開始温度は、実施例1、実施例5(融点80℃、硬化開始温度105℃)、実施例2(53℃、125℃)、実施例3、6-10(72℃、130℃)、実施例4(95℃、108℃)である。融点より5℃低い温度で固定子鉄心を予熱し、実施例1-10の絶縁シート1を押し当てて、加温貼り付け性を評価したところ、いずれも固定子鉄心にしっかりと粘着し固定できた。実施例1、3、5は常温でも粘着性があり、鉄心の貼り付けは可能であるが、融点付近で加温することでより容易にしかも強固に接着できる。したがって、これらの絶縁シート1は常温での粘着性有無に関わらず、融点付近で加温することにより、粘着テープで固定しなくて、鉄心など被着体に貼り付けが可能である。
【0121】
さらに、実施例3において、基材の表面に平行な方向の貫通孔(空孔、空隙、目開き)のサイズとその貫通孔の面内比率(空孔率、空隙率、目開き率)による影響について、実施例3、6-10にて説明する。実施例3には無機充填材に(6-3)アルミナ(最大粒径5μm、最小粒径1μm、平均粒径3μm)を使用している。この粒径サイズと貫通孔(空孔)のサイズの大小および貫通孔の面内比率(空孔率)が貫通孔内の熱硬化性樹脂の充填に影響を受ける。実施例3は基材2に(7-3)複合絶縁紙:アラミド紙/ポリイミド/アラミド紙(厚み0.17mm、空孔サイズΦ20μm、空隙率40%)を使用しており、空孔サイズΦ20μmは充填剤の最大粒径5μmよりも大きく、貫通孔に熱硬化性樹脂組成物が均質に充填されている。
【0122】
基材2に空孔、空隙、もしくは目開き孔などの貫通孔がある絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスを使用し、その貫通孔に熱伝導率の高い熱硬化性樹脂組成物を充填させることで、絶縁シート1の熱硬化性樹脂組成物の排熱性を効果的に向上させることができる。実施例3の基材(7-3)と同じ厚みと材質で、貫通孔(空孔)サイズ及び貫通孔(空孔率)の面内比率が異なる基材を用いて、実施例3と同じ熱硬化性樹脂組成物と塗工条件で絶縁シート1を作製した(実施例6-10)。貫通孔への熱硬化性樹脂組成物の充填状態及び、硬化後の定常法で測定した熱伝導率の評価結果(表5)、絶縁耐圧の評価結果(表3、4)を用いて説明する。なお、貫通孔への熱硬化性樹脂組成物の充填状態は全貫通孔内部に樹脂が充填されている(〇)、未充填または空洞がある(×)として判定した。熱伝導率は、貫通孔がない基材を用いた実施例6と比較して、熱伝導率向上(〇)、同等以下(×)として判定した。
【0123】
実施例6は、貫通孔がない基材(7-5)を用い、実施例7、8では各々、実施例3において、各々、空孔サイズが充填剤の最小粒径より大きく平均粒径より小さいφ1.1μmで空孔率60%の基材(7-6)、空孔サイズが平均粒径と同じφ3μmで空孔率95%の基材(7-7)を使用し、同一条件で絶縁シート1を作製した。貫通孔の熱硬化性樹脂組成物の充填状態、熱伝導率、絶縁耐圧を評価した。また、実施例9、10では、各々、空孔サイズが最大粒径の100倍の500μmで空孔率20%の基材(7-8)、空孔サイズが平均粒径より大きく最大粒径より小さい4.5μmで目開き率5%の基材(7-9)を使用し、同一条件で絶縁シート1を作製した。貫通孔の熱硬化性樹脂組成物の充填状態、熱伝導率、絶縁耐圧を評価した。
【0124】
実施例6では、実施例3と同じ熱硬化性樹脂組成物と基材材質を用いていることから、実施例3と熱伝導率は貫通孔がある実施例3より低いが、その他は同等の特性であった。
【0125】
実施例7では、貫通孔に、貫通孔よりも径の小さい無機充填材が入り込み、無機充填材が少ない樹脂成分主体の熱硬化性樹脂組成物がボイドもなく完全充填されている。実施例6と同じ熱硬化樹脂組成物を使用しているので、絶縁シート1の熱伝導率は、空孔に充填された熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性が反映して、貫通孔がない基材を用いた実施例6より向上し、その他の特性は実施例6と同等であった。
【0126】
実施例8では、貫通孔に、貫通孔よりも径の小さい無機充填材が入り込んだ上、熱硬化性樹脂組成物がボイドもなく均一に完全充填されている。実施例6と同じ熱硬化樹脂組成物を使用しているので、絶縁シート1の熱伝導率は、空孔に充填された熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性が反映して実施例6より向上し、その他の特性は実施例6と同等であった。
【0127】
実施例9では、貫通孔に、すべての無機充填材が入り込んだ上、熱硬化性樹脂組成物がボイドもなく均一に完全充填されている。実施例6と同じ熱硬化樹脂組成物を使用しているので、絶縁シート1の熱伝導率は、空孔に充填された熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性が反映して実施例6より向上し、その他の特性は実施例6と同等であった。
【0128】
実施例10では、貫通孔に、貫通孔よりも径の小さい無機充填材が入り込んだ上、熱硬化性樹脂組成物がボイドもなく完全充填されている。実施例6と同じ熱硬化樹脂組成物を使用しているので、絶縁シート1の熱伝導率は、空孔に充填された熱硬化性樹脂組成物の熱伝導性が反映して実施例6より向上し、その他の特性は実施例6と同等であった。
【0129】
次に、比較例の評価結果について、表4を用いて説明する。比較例1-10の絶縁シート1は、表4に示すように、原料の配合、基材2上の切断部と折り曲げ部への絶縁樹脂層3の塗布条件等が適合していないため、特性基準を満足する所望の絶縁シート1の特性が得られなかった。
【0130】
比較例1は、絶縁樹脂層3の原料が実施例1と同じ組成で基材2も同じであるため、比較例1の絶縁樹脂層3の特性は実施例1と同じである。比較例1は、基材2上の切断部の領域に絶縁樹脂層3を塗布している点で実施例1と異なる。そのため、比較例1の絶縁シート1の特性も加工性以外は実施例1と同じである。比較例1では、切断及び折り曲げの加工領域に絶縁樹脂層3を塗布しており、切断機及び曲げ成形機で加工した際に、加工冶具が接触または絶縁樹脂層3にクラックと剥離が見られたり、加工冶具に粘着し、装置が汚染した。また、比較例1では、絶縁シート1の重なり領域は、片側には絶縁樹脂層3を形成していないため、円環に成形する際に厚くなることはなく、成形に影響はないが、切断により剥離した絶縁樹脂層3がスロット内に異物として存在し、モータ性能の劣化を引き起こす可能性がある。
【0131】
比較例2は、絶縁樹脂層3の原料が実施例2と同じ組成であるが、熱硬化性樹脂組成物を基材2に塗布した後の乾燥を実施例2より30℃高い温度で3倍の時間で行った。乾燥を過度に実施しているため、絶縁樹脂層3が完全硬化状態に近いので柔軟性を有していない。このため、絶縁シート1の圧縮率が非常に低く、折り曲げにより絶縁樹脂層3に割れ及び剥離が発生し、絶縁シート1の施工性が悪化している。また、比較例2は、実施例2と同様に、基材2上の切断及び折り曲げの加工領域に絶縁樹脂層3を塗布していないが、切断部からの未塗布領域が1μmと狭い。切断機で加工した際に、未塗布領域が狭いため、切断刃に絶縁樹脂層3が接触し、クラックと剥離が見られ、剥離した樹脂が切断刃などに付着し、装置を汚染した。また、絶縁シートの重なり領域は、両側には絶縁樹脂層3を形成しているため、円環に成形できなかった。
【0132】
比較例3は、実施例3の配合において、硬化剤のみが異なっている。比較例3には、常温で反応活性を有する硬化剤が含まれる。比較例3の絶縁シート1は、常温静置状態で絶縁樹脂層3の反応が進行し、経時的に絶縁樹脂層3の物性が変化するため、可使時間に問題を有する。30日経過後において柔軟性と粘着性が失われ、圧縮率が減少している。常温で硬化するため加熱硬化時の流動性が低く、微小な隙間への浸透性が得られず、部材との接着力が劣る。また、折り曲げにより絶縁樹脂層3に割れ及び剥離が発生し、絶縁シート1の施工性が悪化している。また、比較例3は実施例2と同様に、基材2上の切断及び折り曲げの加工領域に絶縁樹脂層3を塗布していないが、折り曲げ部からの未塗布領域が切2μmと狭い。折り曲げ機で加工した際に、未塗布領域が狭いため、冶具に絶縁樹脂層3が接触し、クラックと剥離が見られ、剥離した樹脂が金型などに付着し、装置を汚染した。さらに、絶縁シートの重なり領域はないため、円環に成形することは可能であるが、折り曲げ加工により剥離した絶縁樹脂層3がスロット内に異物として存在し、モータ性能の劣化を引き起こす可能性がある。
【0133】
比較例4では、実施例4の配合において、最大粒径120μm、最小粒径10μm、平均粒径60μmの無機充填剤を72体積%と過剰に充填している。比較例4は、厚みが80μmの基材2の両面に厚みが75μmの絶縁樹脂層3が形成された総厚230μmの絶縁シート1である。無機充填剤の最大粒径が絶縁樹脂層3の厚みよりも大きいため、絶縁樹脂層3の表面に無機充填剤の突出した箇所が形成されるので表面平滑性が低い。さらに、過度に無機充填材を配合しているため、柔軟性はなく、絶縁樹脂層3は圧縮されない。また、貯蔵せん断弾性率及び複素粘度も所望の範囲に入らない。そのため、比較例4の絶縁シート1は、固定子鉄心12と固定子コイル11の隙間(240μm)に挿入することができず、円環に成形できない。また、絶縁樹脂層3の樹脂成分比が少ないことから、固定子鉄心12及び固定子コイル11と絶縁シート1の密着性が劣り、所望の接着強度が得られない。比較例4では、切断及び折り曲げの加工領域に絶縁樹脂層3を塗布しており、切断機及び曲げ成形機で加工した際に、加工冶具が接触または絶縁樹脂層3にクラック及び剥離が発生し、それらが加工冶具に付着し、装置が汚染した。
【0134】
また、鉄心への加温貼り付け性の比較例として、実施例4の絶縁シート1の熱硬化性樹脂組成物の硬化促進剤(4-3)を、反応開始温度が常温付近にある(4-4)に変更し、その添加量を比較例5では1質量部、比較例6では0.1質量部として、実施例4と同一条件で絶縁シート1を作製した。この絶縁樹脂層3の融点はいずれも実施例4と同じ95℃であったが、硬化開始温度は、比較例5が63℃と融点より低く、比較例6が99℃と融点より僅かに高い温度であった。これらの絶縁シート1について、固定子鉄心への加温貼り付け性を確認した。
【0135】
比較例5では、絶縁シート1を融点より5℃低い温度で予熱した固定子鉄心に、押し当てて、貼り付けたところ、粘着性が全くなく、固定子鉄心に貼り付けられなかった。これは、予熱温度が硬化開始温度(63℃)より高いため、貼り付け作業時に硬化反応が進行し、絶縁樹脂層3の流動性が消失したことが要因と考えられる。また、常温保管時にも硬化が進行していくことから、作製から30日経過後には柔軟性及び圧縮率が低下し、ゲル化時間が測定不能で、貯蔵せん断弾性率及び複素粘度は基準の特性を得られなかった。
【0136】
比較例6では、絶縁シート1を融点より5℃低い温度で予熱した固定子鉄心に、押し当てて、貼り付けたところ、粘着力が乏しく、固定子鉄心に貼り付けた後に、弱い力で剥がれ、十分な固定はできなかった。これは、示差走査熱量計測定で測定した硬化開始温度は融点より4℃より高い温度であったが、その予熱温度でも徐々に反応が進行し、貼り付け作業中に流動性が低下したことが要因と考えられる。硬化促進剤量が少ないため、比較例5に比べると常温保管時の硬化進行が遅いが、作製から30日経過後には柔軟性及び圧縮率が低下し、ゲル化時間が測定不能で、貯蔵せん断弾性率及び複素粘度は基準の特性を得られなかった。
【0137】
さらに、基材の表面に平行な方向のサイズ(貫通孔サイズ)とその貫通孔の面内比率による影響について、比較例7―10にて説明する。実施例6の基材(7-5)と同じ厚みと材質で、貫通孔(空孔)のサイズ及び貫通孔の面内比率(空孔率)が異なる基材を用いて、実施例3の熱硬化性樹脂組成物と同じ条件で絶縁シート1を作製し、貫通孔への熱硬化性樹脂組成物の充填状態及び、硬化後の熱伝導率、絶縁耐圧を評価した。実施例6と同じ熱硬化性樹脂組成物を用いて、貫通孔サイズ及び貫通孔の面内比率の違いによる比較例7-10の評価結果を表4と表5に示す。
【0138】
比較例7では、貫通孔が大きいため、無機充填剤は入り込むが熱硬化性樹脂組成物の充填が不十分で、貫通孔内部に空洞及び貫通穴が散在する絶縁シート1が得られた。絶縁シート1の面内に熱硬化性樹脂組成物の充填されていない貫通孔が散在しているため、貫通孔がない基材を用いた実施例6より熱伝導率が顕著に低下し、絶縁破壊電圧が0kVで、基準の8kVを得ることはできなかった。
【0139】
比較例8では、無機充填剤はほとんど入り込むが貫通孔の面内比率が96%と大きいため、熱硬化性樹脂組成物の充填が不十分な貫通孔が散在する絶縁シート1が得られた。絶縁シート1の面内に熱硬化性樹脂組成物の充填されていない貫通孔が散在しているため、実施例6より熱伝導率が顕著に低下し、絶縁破壊電圧が0kVで、基準の8kVを得ることはできなかった。
【0140】
比較例9では、貫通孔サイズが無機充填剤の最小粒径より小さいため、無機充填剤が入り込まないだけでなく貫通孔の入り口で無機充填剤によって目詰まりし、内部に熱硬化性樹脂組成物が充填されていない貫通孔が多数存在している。絶縁シート1の貫通孔に空気層が存在しているため実施例6より熱伝導率が顕著に低下し、絶縁破壊電圧が0.8kVと低く、基準の8kVを得ることはできなかった。
【0141】
比較例10では、貫通孔サイズが無機充填剤の平均粒径より小さい上に基材の貫通孔の面内比率が4.5%と小さいため、熱硬化性樹脂組成物の塗工時に表面張力より、熱硬化性樹脂組成物が上手く充填されず空洞が存在する貫通孔が散在した。絶縁シート1の熱伝導率は、貫通孔に空気層が存在しているため実施例6より熱伝導率が低下し、絶縁破壊電圧も2kVと低く、基準の8kVを得ることはできなかった。
【0142】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本願は、絶縁シート及びその製造方法、並びに回転電機として利用することができる。
【符号の説明】
【0144】
1 絶縁シート、2、2a 基材、3 絶縁樹脂層、4 接着剤、10 複合絶縁シート、11 固定子コイル、11a 角部、12 固定子鉄心、13 ティース部、14 スロット、20 固定子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれか1種または2種以上を基材とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層が前記基材の片面または両面に形成された絶縁シートであって、
前記熱硬化性樹脂組成物は、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤とを含み、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、前記熱硬化性樹脂(A)を10質量部から90質量部の範囲とし、
前記絶縁樹脂層は、切断される領域と折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域以外に形成され
前記基材の重なる領域以外の領域に前記絶縁樹脂層が形成されていることを特徴とする絶縁シート。
【請求項2】
前記絶縁樹脂層は、切断及び曲げ加工の位置を始点として両側の、10μm~5mmの幅以外の領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項3】
前記基材の重なる領域周縁部の、前記基材の重なる領域の境界線から10μm~5mmの範囲以外の領域に前記絶縁樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁シート。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物は、粒状の無機充填剤を有し、
前記無機充填剤は、最大粒径が前記絶縁樹脂層の厚みよりも小さく、平均粒径が前記絶縁樹脂層の厚みの0.5倍よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項5】
前記基材が、貫通孔を有していることを特徴とする請求項4に記載の絶縁シート。
【請求項6】
前記貫通孔の前記基材の表面に平行な方向のサイズは、前記無機充填剤の最小粒径よりも大きく、最大粒径の100倍以下であり、かつ、前記貫通孔の前記基材の表面の面内比率は、5%から95%の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の絶縁シート。
【請求項7】
前記貫通孔の前記基材の表面に平行な方向のサイズは、前記無機充填剤の平均粒径以上であることを特徴とする請求項6に記載の絶縁シート。
【請求項8】
前記基材は、アラミド紙、クラフト紙、クレープ紙、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック、シリカ、またはアルミナの少なくとも1種類以上から構成される材料からなることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項9】
前記基材は、前記絶縁紙及び前記絶縁フィルムのいずれか一方または両方が積層されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項10】
複数の前記基材が前記絶縁樹脂層または接着剤を介して積層されており、一端部または両端部の前記基材に前記絶縁樹脂層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂(A)及び前記熱硬化性樹脂(B)は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂(A)は、軟化点が50℃から160℃の範囲にあるエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項13】
前記潜在性硬化剤は、三フッ化ホウ素-アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジッドのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項14】
前記熱硬化性樹脂組成物は、重量平均分子量が10,000から100,000の範囲である熱可塑性樹脂を含み、前記熱可塑性樹脂は、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して1質量部から40質量部の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項15】
前記絶縁樹脂層は、前記熱硬化性樹脂組成物の全質量100重量部に対して不揮発分が97質量部以上であることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項16】
前記絶縁樹脂層は、25℃での貯蔵せん断弾性率が1.0×10Paから5.0×10Paの範囲であり、貯蔵せん断弾性率の最低値が80℃から150℃の範囲にあって10Paから2.0×10Paの範囲であることを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項17】
前記絶縁樹脂層は、25℃での複素粘度が6.0×10Pa・sから1.0×10Pa・sの範囲であり、複素粘度の最低値が80℃から150℃の範囲にあって5.0×10Pa・s以下であることを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項18】
前記絶縁樹脂層の膜厚は、絶縁対象の部材同士の隙間の寸法から前記基材の厚みを差し引いた寸法の1.1倍から2.0倍の範囲に設定されることを特徴とする請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項19】
前記絶縁樹脂層は、融点が100℃以下で、硬化開始温度が前記融点より5℃以上高いことを特徴とする請求項1から請求項18のいずれか一項に記載の絶縁シート。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれか一項に記載の絶縁シートが用いられ、固定子鉄心のスロット内に固定子コイルが収納された回転電機であって、
前記絶縁樹脂層をなす前記熱硬化性樹脂組成物が硬化された状態の前記絶縁シートが、前記スロットの内壁と前記固定子コイルとの間に配置され、前記固定子鉄心と前記固定子コイルとを絶縁及び固着していることを特徴とする回転電機。
【請求項21】
前記絶縁樹脂層は、前記固定子鉄心及び前記固定子コイルとの接着力が20N/m以上であることを特徴とする請求項20に記載の回転電機。
【請求項22】
絶縁紙及び絶縁フィルムのいずれか一方または両方を基材とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層が前記基材の片面または両面に形成された絶縁シートの製造方法であって、
25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤と、最大粒径が前記絶縁樹脂層の膜厚よりも小さく平均粒径が前記膜厚の0.5倍よりも小さい無機充填剤と、希釈用有機溶剤とを攪拌混合して前記熱硬化性樹脂組成物のスラリーを作製する第1の工程と、
前記スラリーを前記基材または離型紙または離型フィルムに切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域を除く部分および前記基材の重なる領域以外の領域に塗布し乾燥させる第2の工程を含み、
前記第1の工程において、前記熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、前記熱硬化性樹脂(A)を10質量部から90質量部の範囲としたことを特徴とする絶縁シートの製造方法。
【請求項23】
前記第2の工程において前記スラリーを前記離型紙または前記離型フィルムに塗布した場合、前記第2の工程で乾燥させた前記熱硬化性樹脂組成物を未塗布の前記基材の片面または両面に圧着させて貼り付ける第3の工程を行うことを特徴とする請求項22に記載の絶縁シートの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本願に開示される絶縁シートは、絶縁紙、絶縁フィルム、不織布、及びメッシュクロスのいずれか1種または2種以上を基材とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層が前記基材の片面または両面に形成された絶縁シートであって、前記熱硬化性樹脂組成物は、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤とを含み、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、前記熱硬化性樹脂(A)を10質量部から90質量部の範囲とし、前記絶縁樹脂層は、切断される領域と折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域以外に形成され、前記基材の重なる領域以外の領域に前記絶縁樹脂層が形成されていることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
また、本願に開示される絶縁シートの製造方法は、絶縁紙及び絶縁フィルムのいずれか一方または両方を基材とし、未硬化または半硬化の状態の熱硬化性樹脂組成物からなる絶縁樹脂層が前記基材の片面または両面に形成された絶縁シートの製造方法であって、25℃で固体の熱硬化性樹脂(A)と、25℃で液状の熱硬化性樹脂(B)と、60℃以下で反応不活性な潜在性硬化剤と、最大粒径が前記絶縁樹脂層の膜厚よりも小さく平均粒径が前記膜厚の0.5倍よりも小さい無機充填剤と、希釈用有機溶剤とを攪拌混合して前記熱硬化性樹脂組成物のスラリーを作製する第1の工程と、前記スラリーを前記基材または離型紙または離型フィルムに切断される領域、折り曲げ成形の加工される領域のいずれか一方または両方の領域を除く部分および前記基材の重なる領域以外の領域に塗布し乾燥させる第2の工程を含み、前記第1の工程において、前記熱硬化性樹脂組成物は、前記熱硬化性樹脂(A)と前記熱硬化性樹脂(B)の合計100質量部に対して、前記熱硬化性樹脂(A)を10質量部から90質量部の範囲としたことを特徴とする。