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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185704
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20221208BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221208BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B41J2/165 209
B41J2/01 401
B41J2/175 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093480
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】平澤 雄輔
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB50
2C056EB52
2C056EC26
2C056EC41
2C056EC54
(57)【要約】
【課題】実際のインク収容量を動作に反映させる印刷装置を提供すること。
【解決手段】プリンター1は、インクを収容するインク収容部18と、インク収容部18内のインクの液面Lの位置を測定して、インク収容部18におけるインク収容量を特定する測定部60と、インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッド25と、制御部50と、を備え、制御部50は、インク収容量に応じた制御を行う。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容するインク収容部と、
前記インク収容部内の前記インクの液面位置を測定して、前記インク収容部におけるインク収容量を特定する測定部と、
前記インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドと、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記インク収容量に応じた制御を行う印刷装置。
【請求項2】
表示部を備え、
前記インク収容部には、インク保管容器が保管する前記インクが補充され、
前記制御部は、前記インク収容部に前記インクが補充される際に、前記インク収容量を前記表示部に表示させる、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記インク保管容器から前記インクが前記インク収容部に補充される前と後とで、前記インク収容量の変化量を計算し、前記変化量から前記インク保管容器に残存する残インク量を計算する演算部を備え、
前記制御部は、前記残インク量が所定の値以下である場合に、新たなインク保管容器の準備の案内を指示する、請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記制御部は、混色除去のために前記インクジェットヘッドから予備吐出される前記インク滴の数を変更する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記インクは、第1インクと、第2インクと、を含み、
前記インク収容部は、前記第1インクが収容される第1インク収容部と、前記第2インクが収容される第2インク収容部と、を有し、
前記インクジェットヘッドは、前記第1インクが吐出される第1ノズル列と、前記第1ノズル列と隣り合い、前記第2インクが吐出される第2ノズル列と、を有し、
前記制御部は、前記第1インク収容部の前記インク収容量と、前記第2インク収容部の前記インク収容量と、に応じて、前記第1インクの前記予備吐出の前記インク滴の数と、前記第2インクの前記予備吐出の前記インク滴の数、とを変更する、請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記インク収容部における計算上のインク収容量を計算して、前記インク収容量と前記計算上のインク収容量とを比較し、
前記インク収容量が前記計算上のインク収容量を下回る場合に、前記印刷装置の動作を停止させる、あるいは前記表示部に警告を表示させる、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷装置として、インク滴をインクジェットヘッドから吐出させて印刷を行うインクジェットプリンターが知られていた。インクジェットプリンターでは、インク滴の質量や飛翔速度などを精密に調整することによって高精細な画像が得られる。インクジェットプリンターのインク収容容器におけるインク収容量の多少は、インク滴の質量や飛翔速度に影響を及ぼす場合がある。例えば、特許文献1には、計測されたインク残量に応じて印刷画質の変化を補償する印刷画像補償部を備えた印刷装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-19091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の印刷装置では、実際のインク残量が印刷装置の動作へ十分に反映されない場合があるという課題があった。詳しくは、印刷装置の電源が入れられた時点で、不揮発性メモリーに記憶されたインク吐出量累積値とインクカートリッジのインク収容量とが比較されて、インク残量の計測が成される。そのため、インクジェットヘッドのクリーニングなどインクを比較的多量に消費した場合に、実際のインク残量が上記動作に反映され難くなっていた。すなわち、実際のインク収容量を動作へ反映させる印刷装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
印刷装置は、インクを収容するインク収容部と、前記インク収容部内の前記インクの液面位置を測定して、前記インク収容部におけるインク収容量を特定する測定部と、前記インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドと、制御部と、を備え、前記制御部は、前記インク収容量に応じた制御を行う。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る印刷装置としてのインクジェットプリンターの構成を示す斜視図。
図2】インクジェットヘッドのノズル列の配置を示す平面図。
図3】インク収容量に応じたプリンターの動作に関連する構成のブロック図。
図4】測定部の構成を示す模式図。
図5】インク収容部に対するインクの供給状態を示す模式図。
図6】インク収容部のインク収容量と表示部のインク残量表示とを対比させた模式図。
図7】インク収容部のインク収容量とインク滴の質量の関係を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の各図においては、必要に応じて相互に直交する座標軸としてXYZ軸を付し、各矢印が指す方向を+方向とし、+方向と反対の方向を-方向とする。+Z方向を上方、-Z方向を下方ということもあり、+Z方向から見ることを平面視という。
【0008】
本実施形態では、印刷装置としてコンシューマー向けのインクジェットプリンターを例示する。本実施形態に係る印刷装置としてのインクジェットプリンター1の構成について、図1を参照して説明する。なお、以下の説明では、インクジェットプリンター1を単にプリンター1という。
【0009】
プリンター1は、紙などの印刷媒体へインク滴を付着させて印刷を行う印刷装置である。図1に示すように、プリンター1は略直方体の筐体20を有する。筐体20の-Y方向を向く面には、操作パネル17とタンクユニット19とが配置される。操作パネル17は、操作部15と表示部16とを有する。操作部15には、プリンター1にて各種操作を行うためのボタンが備わる。表示部16は、プリンター1の各種情報を表示する。表示部16は、例えば、液晶パネルである。操作パネル17と表示部16とは、タッチパネルとして一体に構成されてもよい。
【0010】
タンクユニット19は、5個のインク収容部18a,18b,18c,18d,18eを内部に収容する。ここで、インク収容部18a,18b,18c,18d,18eを総称して、単にインク収容部18ということもある。インク収容部18には、プリンター1の印刷に供される、図示しないインクが収容される。インク収容部18には、インクボトルなどのインク保管容器からインクが補充される。すなわち、プリンター1は、インク収容部18のインク収容量が減少した際に、使用者がインク保管容器からインクをインク収容部18に注ぎ入れて補充することが可能である。なお、インク収容部18は、インクが補充可能であることに限定されず、インク収容部18を交換する形態であってもよい。また、インク収容部18の数は5つに限定されない。
【0011】
インク収容部18にインク保管容器からインクを補充する際には、筐体20上方の画像読取部13、およびタンクユニット19上方のカバー29を各々上方へ跳ね上げて行う。インクの補充については後述する。
【0012】
インク収容部18には、各々異なる色を呈する5種のインクが収容されてもよく、同じ色を呈するインクが収容されてもよい。インク収容部18に収容されるインクは、第1インクと第2インクとを含む。第1インクと第2インクとは、後述する印刷部23のインクジェットヘッド25において、各々が吐出されるノズル列が互いに隣り合う。本実施形態では、インク収容部18aに収容されるインクを第1インクとし、インク収容部18bに収容されるインクを第2インクとして説明する。そして、インク収容部18aが第1インク収容部であり、インク収容部18bが第2インク収容部である。なお、第1インクと第2インクと、および第1インク収容部と第2インク収容部とは、上記の組合せに限定されない。
【0013】
タンクユニット19の前面99には、インク収容部18の各々と対応する位置に5個の窓部21が設けられる。各窓部21は筐体20に設けられた貫通孔である。各窓部21を介して、対応するインク収容部18のインク視認部61を視認することが可能である。
【0014】
インク視認部61は、インク収容部18の外装筐体の壁の一部である。インク視認部61では、インク収容部18の内部が視認可能であり、インク収容部18に収容されるインクの大まかな量を把握することが可能となっている。
【0015】
筐体20の内部には、印刷媒体にインクを付着させて印刷を行う印刷部23が収容される。印刷部23は、供給部24、インクジェットヘッド25、およびキャリッジ26を含む。供給部24は、インク収容部18に収容された各インクを、インクジェットヘッド25へ個別に供給する複数の配管を含む。なお、図示の便宜上、供給部24を1本の配管としている。
【0016】
インクジェットヘッド25は、キャリッジ26の下方に配置される。インクジェットヘッド25には、供給部24を介してインク収容部18からがインクが供給される。図示を省略するが、インクジェットヘッド25は、内部に駆動手段であるアクチュエーターと、下方に複数のノズル列とを有する。インクジェットヘッド25では、各ノズル列が有する複数のノズルから、該アクチュエーターの駆動によって対応するインクがインク滴として吐出される。インクジェットヘッド25のアクチュエーターとしては、圧電素子、振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子、および加熱によって生じる気泡によってインク滴を吐出させる電気熱変換素子などが挙げられる。
【0017】
インクジェットヘッド25から吐出されるインク滴の質量は、インク収容部18に収容されるインクのインク収容量に影響を受けることがある。詳しくは、インクの水頭圧の差に由来して、上記インク滴の質量が変化する。インク収容量が多く、インクの水頭圧が高いと上記質量が大きくなる傾向があり、インク収容量が少なく、インクの水頭圧が低いと上記質量が小さくなる傾向がある。
【0018】
上述したインク滴の質量の多少は、例えば、インク収容量の差が大きな2種のインクを各々全ノズル同時に吐出させるような印刷において、画質の差として顕在化する場合があった。また、同様な理由から、インクジェットヘッド25のクリーニング動作後の予備吐出などにおいても、予備吐出されるインク滴の質量に差が生じる場合があった。そのため、インク収容量が少ないインクにおいて、十分な予備吐出量が確保されず、その後に印刷された画像に混色が発生する可能性があった。これに対して、本発明の印刷装置は、インク収容量を測定して印刷装置の動作を制御することにより、上記の現象を抑制するものである。プリンター1におけるインク収容量に応じた動作については後述する。
【0019】
キャリッジ26は、図示しない駆動部によって、X軸に沿う方向に往復移動が可能である。図示を省略するが、プリンター1は、印刷媒体をキャリッジ26に対して-Y方向に搬送する搬送部を有する。そのため、インクジェットヘッド25は、印刷媒体に対して、X軸に沿う方向およびY軸に沿う方向へ相対的に走査が可能となっている。インクジェットヘッド25を印刷媒体に対して走査しながらインクの色種、インク滴の数や質量、および吐出の時期などを制御することにより、印刷媒体にカラー画像などが印刷可能となる。
【0020】
図2を参照して、インクジェットヘッド25におけるノズル列の配置について説明する。図2は、インクジェットプリンター1において、印刷媒体の側から上方を仰視した場合のインクジェットヘッド25の外観を示している。
【0021】
図2に示すように、インクジェットヘッド25は、印刷媒体が配置されるプラテンと対向する面にノズル面41を有する。ノズル面41には、+X方向に向かって、ノズル列45a,45b,45c,45d,45eがこの順番で設けられる。ノズル列45aからノズル列45eは、各々Y軸に沿って配置された複数のノズル43から成る。なお、図示の便宜上、ノズル43の数および大きさを実際とは異ならせている。
【0022】
ノズル列45aからノズル列45eのそれぞれは、上述したインク収容部18のいずれかと対応する。具体的には、例えば、ノズル列45aがインク収容部18aに、ノズル列45bがインク収容部18bに、ノズル列45cがインク収容部18cに、ノズル列45dがインク収容部18dに、ノズル列45eがインク収容部18eに、各々対応する。
【0023】
本実施形態では、インク収容部18aに収容される第1インクが吐出される第1ノズル列がノズル列45aであり、インク収容部18bに収容される第2インクが吐出される第2ノズル列がノズル列45bである。なお、第1ノズル列と第2ノズル列とは、X軸に沿う方向において隣り合っていればよく、上記の組合せに限定されない。また、ノズル列45aからノズル列45eの各々は、1列であることに限定されず、複数の列を含んでもよい。
【0024】
図3を参照して、インク収容量の測定とインク収容量に応じた動作とに関する構成について説明する。
【0025】
図3に示すように、プリンター1は、インク収容部18、測定部60、演算部70、制御部50、表示部16、インクジェットヘッド25、および吸引部80を備える。測定部60は、制御部50および演算部70と電気的に接続される。演算部70は制御部50とも電気的に接続される。表示部16、インクジェットヘッド25、および吸引部80は、制御部50と電気的に接続される。
【0026】
測定部60および演算部70は、インク収容部18の各々のインク収容量に関するデータを制御部50に送信する。制御部50は、上記インク収容量に応じた制御を行う。表示部16、インクジェットヘッド25、および吸引部80は、上記制御に基づく動作を行う。
【0027】
測定部60は、各インク収容部18内のインクの液面位置を測定して、各インク収容部18におけるインク収容量を特定する。インクの液面位置、すなわちインク収容量の測定方法としては、例えば、光学方式、フロート方式、マイクロトラップアンテナ方式、および超音波方式などの公知の液面センサーが挙げられる。本実施形態では、液面センサーとしてマイクロトラップアンテナによる測定方法を採用するが、これに限定されるものではない。液面センサーとしては、1つのインク収容部18において、複数のインクの液面位置が検知可能であればよい。ここで、図4を参照して測定部60の構成について説明する。
【0028】
図4に示すように、測定部60は、送信電極122、受信電極130、および図示しない検出部を備える。送信電極122と受信電極130とは、インク収容部18を挟んでZ軸と直交する方向に対向して配置される。本実施形態では、送信電極122と受信電極130とが対向する方向をX軸に沿う方向とする。受信電極130は、受信電極131,132,133を含む。送信電極122および受信電極131,132,133は、金、銀、銅、アルミニウム、鉄などの金属または合金といった導電性を有する材料を含む。
【0029】
インク収容部18は、略直方体であって、Z軸に沿う複数の側板129、底部126、およびキャップ127を有する。キャップ127はインク収容部18に対して着脱可能である。インク収容部18からキャップ127を取り外すことにより、インク収容部18の上方が解放されて、インク収容部18内にインクを注ぎ入れることが可能となる。
【0030】
インク収容部18の形成材料としては、インクが貯留可能であり、誘電体であれば特に限定されない。該形成材料としては、ポリオレフィン、ポリカーボネート、およびポリエステルなどの樹脂が挙げられる。図示を省略するが、底部126には、上述した供給部24の配管が接続される。
【0031】
受信電極131,132,133は、+X方向からの透過視にて、送信電極122と重なる位置に設けられる。底部126側から上方に向かって、受信電極133、受信電極132、受信電極131の順番に配置される。詳しくは、受信電極131が高さ位置H1に配置され、受信電極132が高さ位置H2に配置され、受信電極133が高さ位置H3に配置される。
【0032】
送信電極122と受信電極131とは、互いに対向する平行な平板であり、コンデンサー171を形成する。コンデンサー171と同様にして、送信電極122と受信電極132とはコンデンサー172を形成し、送信電極122と受信電極133とはコンデンサー173を形成する。
【0033】
コンデンサー171,172,173の静電容量は、コンデンサー171,172,173の電極間に介在する物質の比誘電率によって決まる。空気の比誘電率は略ゼロであり、インクの比誘電率は空気よりも大きい。
【0034】
送信電極122には、スイッチ回路113を介して交流電源112が電気的に接続される。交流電源112は、送信電極122に送信信号として、パルス波を出力する。該パルス波は、コンデンサー171,172,173に存在する、インク収容部18内の空気またはインクを介して、受信電極131,132,133に受信される。
【0035】
図示しない検出部に対して、受信電極131は配線141を介し、受信電極132は配線142を介し、受信電極133は配線143を介し、各々電気的に接続される。検出部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programable Gate Array)などの処理回路と、半導体メモリーなどの記憶回路とを含む。
【0036】
Z軸に沿う方向において、液面レベルLV1はコンデンサー171の下端から上端までの範囲であり、液面レベルLV2はコンデンサー172の下端から上端までの範囲であり、液面レベルLV3はコンデンサー173の下端から上端までの範囲である。インク収容部18の底部126から上方へ、液面レベルLV3、液面レベルLV2、液面レベルLV1の順に配置される。
【0037】
液面レベルLV1,LV2,LV3のいずれかにインクの液面Lがある場合に、受信電極131,132,133が受信したパルス波、換言すればコンデンサー171,172,173の出力電圧に差が生じる。該出力電圧は、対応する範囲において、インクが存在する場合に大きくなり、空気が存在する場合に小さくなり、インクおよび空気が存在する場合に中ほどの値となる。これらの場合の出力電圧は、予め3つの閾値として設定され得る。すなわち、コンデンサー171,172,173の出力電圧を、検出部において3つの閾値と比較することによって、液面Lの位置が特定される。これにより、インク収容部18におけるインク収容量を測定することができる。
【0038】
図3に戻り、演算部70は、インク収容部18の各々についてインク収容量の変化量を計算する。演算部70の具体的な機能については後述する。演算部70は、例えば、CPUなどの処理回路および半導体メモリーなどの記憶回路を含む。演算部70は、測定部60または制御部50に含まれてもよい。
【0039】
制御部50は、測定部60および演算部70から送信されるインク収容量に関するデータに基づき、プリンター1における各種の動作を制御する。制御部50は、上記データに応じて、表示部16、インクジェットヘッド25、および吸引部80に各種の動作を行わせる。制御部50は、例えば、CPUやFPGAなどの処理回路と、半導体メモリーなどの記憶回路とを含む制御基板である。
【0040】
制御部50は、後述するインク収容量に関連する動作の他に、上記の動作に含まれないプリンター1の基本動作も制御するものであってもよい。該基本動作とは、インク収容量に応じた動作以外の動作であり、印刷、印刷媒体の搬送、画像読取部13における画像読取り、ヘッドクリーニングやメンテナンスなどの動作を含む。
【0041】
吸引部80は、インクジェットヘッド25のメンテナンスなど担う。図示を省略するが、吸引部80は、吸引ポンプ、吸着部材、および保湿部材を含む。吸引部80は、インクジェットヘッド25のノズル面41に被せるように装着可能に設けられる。
【0042】
吸着部材は、ノズル面41に対して、平面視にて略同じ大きさの枠状の弾性部材である。ノズル面41に吸引部80を装着すると、ノズル面41と吸着部材とが圧着されて密閉される。そのため、吸着部材の内側に接続された吸引ポンプを作動させると、ノズル43からインクジェットヘッド25内のインクが吸引される。これにより、インクジェットヘッド25のクリーニングが行われる。
【0043】
吸着部材の内側には、スポンジなどの多孔質の保湿部材が配置される。保湿部材は、インクを保持することが可能である。インクを保湿部材に保持させた状態でノズル面41に吸引部80を装着することにより、プリンター1が長期間使用されない場合に、ノズル43が保湿される。これによって、ノズル43内のインクの固化や乾燥が抑制される。また、クリーニング動作後、印刷前後および印刷途中の予備吐出を、保湿部材に対して噴射させることもある。
【0044】
図5図6および図7を参照して、プリンター1におけるインク収容量に応じた動作について説明する。また、以下の説明では必要に応じて図3も参照することとする。図5は、プリンター1のインク収容部18aにインクを補充する状態を示している。図7では、図示の便宜上、インクジェットヘッド25を2個としているが、実際は一体である。
【0045】
図5に示すように、プリンター1では、インクの補充の際に画像読取部13およびタンクユニット19のカバー29を跳ね上げて解放させる。これにより、インク収容部18の上方に設けられたキャップ127が開閉可能となる。なお、プリンター1は画像読取部13を備えることに限定されない。
【0046】
インク収容部18にインク保管容器31からインクを補充するには、キャップ127を開放したインク収容部18にインク保管容器31を接続する。これによって、インク保管容器31内のインクがインク収容部18に注入されて、インク補充が行われる。
【0047】
ここで、インク補充とは、インク収容部18において、インク残量がないか僅少の状態でインクを注入することに限らず、インク残量が十分ある状態でインクを継ぎ足すことも含めていう。また、インク補充によって、インク収容部18におけるインク収容量が満杯である上限値になるとは限らない。
【0048】
制御部50は、インク収容部18にインク保管容器31からインクが補充される際に、インク収容部18のインク収容量を表示部16に表示させる。具体的には、図6に示すように、インク収容部18のインク収容量に応じて、表示部16にインク残量が表示される。表示部16のインク残量表示は、例えば、Z軸に沿って配置された複数の表示ブロック16aを有する。インク収容部18のZ軸に沿う方向と、表示部16の複数の表示ブロック16aが配列されるZ軸に沿う方向と、を対応させる。すなわち、インクが存在する位置の表示ブロック16aを濃色とし、インクが存在しない位置の表示ブロック16aをブランクとする。インクの液面Lに対応する表示ブロック16aを淡色表示としてもよい。
【0049】
これにより、インク収容部18のインク収容量を確認しながら、プリンター1に対してインクを補充することが可能となる。そのため、インク収容部18に適量のインクを補充することができる。つまり、インク収容部18におけるインク収容量の上限値に対して過不足なくインクを補充することができる。なお、上述したインク残量の表示形式は一例であって、これに限定されるものではない。
【0050】
上述したインク保管容器31には、未開封状態で所定量のインクが封入されている。インク収容部18に対して、未開封状態のインク保管容器31を開封してインクを補充する場合に、インク収容量の変化量からインク保管容器31におけるインクの保管量が推定される。
【0051】
詳しくは、インク保管容器31からインク収容部18にインクが補充される前と後とで、測定部60によってインク収容量が測定される。この測定結果から、演算部70にてインク収容量の変化量が計算され、該変化量からインク保管容器31に残存する残インク量が計算される。
【0052】
制御部50は、インク保管容器31の推定される残インク量を、予め記憶していた所定の値と比較する。残インク量が所定の値以下である場合には、新たなインク保管容器31の準備の案内を指示する。該案内は、表示部16に表示されてもよく、パイロットランプの点灯、ブザーまたはチャイムなどの音や、プリンター1を操作する情報端末への表示などであってもよい。これによって、新たなインク保管容器31を準備する時期が分かり易くなり、使用者の利便性を向上させることができる。
【0053】
制御部50は、混色除去のためにインクジェットヘッド25から予備吐出されるインク滴の数を変更する。詳しくは、上述したように、インク収容部18のインク収容量が少ない場合には、インクジェットヘッド25から吐出されるインク滴の質量が所望の質量に満たなくなる可能性がある。そこで、測定部60が測定したインク収容量に応じてインク滴の数を増加させて、印刷媒体に塗布されるインクの総質量を調整する。すなわち、個々のインク滴の質量が不足する分をインク滴の数を増やして補う。増加させるインク滴の数は、インク収容量に応じて予め制御部50に記憶される。
【0054】
なお、基本とするインク滴の質量をインク収容量の上限値の中間程度に設定して、実際のインク収容量が多い場合には、制御部50はインク滴の数を減らす制御を行ってもよい。
【0055】
これによれば、プリンター1によって印刷されるカラー画像などにおいて、混色の発生を抑えることができる。詳しくは、インクジェットヘッド25のクリーニングでは、インク収容量が少ないインクのノズル43にクリーニングで発生した混合インクが引き込まれ易い。混合インクがノズル43に引き込まれると、プリンター1が印刷する画像などに、一部所望の色と異なる色が印刷される、所謂混色現象が発生することがあった。この現象は、複数のインク収容部18の間のインクの水頭圧差や予備吐出の不足に由来する。これに対して、インク収容量が比較的に少ないインクにおいて、予備吐出のインク滴の数を増やすことにより、吐出ノズル内の混合インクが排出されて混色の発生が抑えられる。
【0056】
また、上述した混色現象は、ノズル列45a~45eのうち、隣り合う何れか2つの間で顕著となることがあった。例えば、図7に示すように、第1インクが収容されるインク収容部18aと、第2インクが収容されるインク収容部18bとにおいて、第1インクの収容量が第2インクの収容量よりも少ない場合に、インクジェットヘッド25から吐出されるインク滴の質量に差が生じることがあった。つまり、第1インクのインク滴aは、第2インクのインク滴bと比べて質量が小さくなる傾向がある。
【0057】
そこで、プリンター1の制御部50は、第1インク収容部であるインク収容部18aのインク収容量と、第2インク収容部であるインク収容部18bのインク収容量と、に応じた制御を行う。該制御によって、第1インクの予備吐出のインク滴aの数と、第2インクの予備吐出のインク滴bの数と、を変更してインク滴aの数をインク滴bの数よりも増やす。
【0058】
これによれば、隣り合う第1ノズル列であるノズル列45aと第2ノズル列であるノズル列45bとで、インク収容量が大きく異なっても、混色の発生をさらに抑えることができる。
【0059】
制御部50は、インク収容部18のインク収容量に応じて、インクジェットヘッド25における駆動電圧を制御してもよい。詳しくは、インクジェットヘッド25がインク滴を吐出する際の圧電素子を駆動する駆動電圧を変更して、インク滴の質量の不足を補ってもよい。例えば、上述した第1インクと第2インクとにおいて、第1インクのインク滴aを吐出させる際に、駆動電圧の値を増加させてインク滴aの質量を増加させてもよい。これによれば、印刷媒体にカラー画像などを印刷する場合に、インク滴の質量の差に由来するムラなどの発生を抑えることができる。
【0060】
制御部50は、インク収容部18のインク収容量に応じて、プリンター1の稼働によるインク収容量の減少を調整してもよい。詳しくは、制御部50は、インク収容量に応じて、印刷時または予備吐出時のインク滴の数、およびインクジェットヘッド25の駆動電圧のうちのいずれか1つ以上を変更する。この変更は、各インク収容部18のインク収容量を揃えるように制御される。そのため、インクの補充時期がばらつき難くなって、補充を一度に行うことができる。また、インク収容部18が交換可能な形態である場合に、交換時期を合わせることができる。これらにより、使用者の利便性を向上させることができる。
【0061】
制御部50は、インク収容部18のインク収容量およびインクの温度に応じて、インクジェットヘッド25の印刷率を調整してもよい。詳しくは、インクの温度が低いとインクの粘度が上昇し易くなる。インクの粘度が上昇すると、インクジェットヘッド25から吐出されるインク滴の質量が減少する傾向がある。そのため、インク収容量が少なく、且つインクの温度が低い場合に、インク滴の質量低下が顕著となり易い。この現象は、印刷率である印刷Duty(1平方インチ当たりの記録ドット数)が上限値および上限値に近い領域において、印刷される画質などの印刷品質に影響を及ぼすことがあった。なお、インクの温度が低いとは、特に限定されないが、例えば-5℃以下の場合である。
【0062】
これに対して、インク収容部18からインクジェットヘッド25の間のインク経路に温度検知機構を設けて、インクの温度を検知する。検知された温度データは制御部50に送信される。制御部50は、印刷予定の画像などの印刷Dutyと、インクの温度およびインク収容量とを対比する。制御部50は、対比の結果、印刷品質が十分に確保できないと判断した場合に、印刷時の1パスあたりのインク滴の質量を減じて、パス数を増やす制御を行う。これにより、インク収容量やインクの温度によらず、所望の印刷品質を確保することができる。
【0063】
制御部50は、インク収容部18のインク収容量に応じて、吸引部80の吸引ポンプの回転数を調整してもよい。詳しくは、インク収容量が少ないインクのノズル43は、インク収容量が多いインクのノズル43と比べて、吸引ポンプによるインク吸引の抵抗が大きくなる。これは、上述したインクの水頭圧の差に由来する。つまり、インク収容量の多少によって、ノズル43から吸引されるインクの質量に差が生じることがあった。吸引されるインクの質量に差が生じて、所望の質量のインクが吸引されないと、ノズル43における目詰まりが悪化するなどの信頼性面の不具合が生じる可能性があった。
【0064】
これに対して、制御部50は、インク収容量の少ないインクに対応させて、吸引部80の吸引ポンプの回転数を増加させる。該回転数は、積算の回転数であってもよく、時間当たりの回転数、つまり回転速度であってもよい。これによれば、上述した信頼性面の不具合の発生を抑えることができる。
【0065】
制御部50は、インクジェットヘッド25のクリーニング、予備吐出、および印刷などで消費したインクの消費量を計算して、該消費量からインク収容部18における計算上のインク収容量を記録してもよい。そして、制御部50は、インク収容部18のインク収容量に応じて吸引ポンプの回転数を変更した場合に、インクの吸引量を上記計算上のインク収容量に反映させて記録してもよい。変更されたインクの吸引量が記録されることによって、廃インク量の管理が容易になるなど、プリンター1のメンテナンスの利便性を向上させることができる。
【0066】
制御部50は、インク収容部18における、実際のインク収容量と上記計算上のインク収容量とを比較してもよい。実際のインク収容量が計算上のインク収容量を下回る場合には、プリンター1内部でのインクの漏洩が疑われる。そのため、制御部50は、上記の場合に、プリンター1の動作を停止させるか、表示部16に警告を表示させてもよい。また、上記警告の告知は、パイロットランプの点灯、ブザーまたはチャイムなどの音や、プリンター1を操作する情報端末への表示などであってもよい。これによれば、インク漏洩などの不測の事態に備えることができる。
【0067】
本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0068】
実際のインク収容量をプリンター1の制御に反映させることができる。詳しくは、インク収容部18内において、インクの液面Lの位置に基づいてインク収容量が把握される。すなわち、インク収容部18内の所定位置におけるインクの有無を検知する場合と比べて、実際のインク収容量を把握し易くなる。これにより、きめ細かな制御が可能となり、プリンター1にて実際のインク収容量に即した動作が成される。すなわち、実際のインク収容量を動作へ反映させるプリンター1を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…印刷装置としてのプリンター、16…表示部、18,18c,18d,18e…インク収容部、18a…第1インク収容部としてのインク収容部、18b…第2インク収容部としてのインク収容部、25…インクジェットヘッド、31…インク保管容器、45a…第1ノズル列としてのノズル列、45b…第2ノズル列としてのノズル列、50…制御部、60…測定部、70…演算部、a,b…インク滴。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7