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特開2022-185711遺伝子組換えレンギョウおよびそれを用いる有用二次代謝産物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185711
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】遺伝子組換えレンギョウおよびそれを用いる有用二次代謝産物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 5/00 20180101AFI20221208BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20221208BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
A01H5/00 A
A01H1/00 A ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093493
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】511046058
【氏名又は名称】公益財団法人サントリー生命科学財団
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】小山 知嗣
(72)【発明者】
【氏名】村田 純
(72)【発明者】
【氏名】堀川 学
(72)【発明者】
【氏名】松本 えりか
(72)【発明者】
【氏名】奥田 利美
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 炎
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA03
2B030AB03
2B030AD08
2B030CA17
2B030CB02
2B030CD17
(57)【要約】
【課題】非内因性の有用二次代謝産物を産生できる遺伝子組換え木本植物提供することを課題とする。また、本発明は、該遺伝子組換え木本植物を用いて、非内因性の有用二次代謝産物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】非内因性の有用二次代謝産物を産生するための外来遺伝子が、発現可能にゲノムに導入されていることを特徴とする遺伝子組換えレンギョウ、ならびに、(1)請求項4~6のいずれかに記載の遺伝子組換えレンギョウを栽培する工程、および(2)前記遺伝子組換えレンギョウから、ピペリトール、セサミンまたはピペリトールとセサミンの混合物を精製する工程を含む、ピペリトールおよび/またはセサミンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非内因性の有用二次代謝産物を産生するための外来遺伝子が、発現可能にゲノムに導入されていることを特徴とする遺伝子組換えレンギョウ。
【請求項2】
栄養繁殖個体である、請求項1に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
【請求項3】
非内因性の有用二次代謝産物が非内因性リグナンである、請求項1または2に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
【請求項4】
外来遺伝子がゴマセサミン合成酵素をコードする遺伝子である、請求項1~3のいずれかに記載の遺伝子組換えレンギョウ。
【請求項5】
ゴマセサミン合成酵素が配列番号1または配列番号3に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなる、請求項4に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
【請求項6】
非内因性リグナンがピペリトールおよびセサミンである、請求項4または5に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
【請求項7】
Fi35S:CYP81Q1(受託番号:FERM BP-22382)またはFk35S:CYP81Q1(受託番号:FERM BP-22383)である請求項5または6に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
【請求項8】
以下の工程(1)および(2)を含むピペリトールおよび/またはセサミンの製造方法:
(1)請求項4~6のいずれかに記載の遺伝子組換えレンギョウを栽培する工程、
(2)前記遺伝子組換えレンギョウから、ピペリトール、セサミンまたはピペリトールとセサミンの混合物を精製する工程。
【請求項9】
前記遺伝子組換えレンギョウが栄養繁殖個体である、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換えレンギョウおよびそれを用いる有用二次代謝産物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴマ(Sesamum indicum)種子中に含まれているセサミンは、多様な生理活性を有することが明らかにされており、コレステロール代謝、肝機能、免疫機能等の改善に有効であることが知られている。セサミンをゴマ種子あるいはゴマ種子の絞り粕から分離精製する方法はすでに実用化されており(特許文献1、2参照)、セサミンを主成分とする、アルコール分解促進作用などを有する肝機能活性増強剤が市販されている。しかし、セサミンの原料素材として供給可能であるのは、ゴマ油製品類の精製工程での副産物であり、ゴマ油製品類の需要の変動により供給が困難となることが危惧される。さらに、通常ゴマ種子は1年に1回しか収穫されない。しかも日本では、使用するゴマ種子のほとんどを輸入に依存している。それゆえ、今後のセサミンの需要増加を考慮すれば、安定的な原材料供給源の確保が課題となる。
【0003】
これまでに、持続可能なセサミン供給体として、レンギョウ遺伝子組換え細胞U18i-CPi-Fkを開発した(特許文献3、非特許文献1)。同生産体は、赤色LED下で高いセサミン生産能力を示すとともに、アルギン酸ナトリウムビーズを用いた液体窒素下で長期保存できる性質を有していた。一方、大量培養するためには大規模な培養施設が必要になることや、大規模培養した場合に均一な赤色LED照射が不可能であるため、生産効率が非常に低下する可能性があるいう欠点があった。
【0004】
近年、酵母などの微生物に合成生物学的な手法で目的物質を多数導入して植物二次代謝産物を生産する報告が相次いでいるが、有用ゴマ由来リグナンを生産する微生物の開発に至っていない。また、このような微生物が開発されたとしても、商用ベースに耐える大規模な培養が困難であることに加え、多種の植物由来遺伝子を微生物に導入するため、これらの遺伝子が欠損・変異することで目的とする物質の生産効率が著しく低下することが懸念される。これまでにシロイヌナズナにゴマ由来生合成酵素遺伝子(CYP81Q1)を導入しセサミンを生産した例があるものの非常に微量であるため、生産体としては脆弱なものであった。以上の背景から、効率的にセサミンを生産する遺伝子組換え植物体の開発が望まれた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-7676号公報
【特許文献2】特開2001-139579公報
【特許文献3】特開2015-188442公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Murata J, Matsumoto E, Morimoto K, Koyama T, Satake H. Generation of triple-transgenic Forsythia cell cultures as a platform for the efficient, stable, and sustainable production of lignans. PLOS One 10 e0144519 (2016)
【非特許文献2】Tera M, Koyama T, Murata J, Furukawa A, Mori S, Azuma T, Watanabe T, Hori K, Okazawa A, Kabe Y, Suematsu M, Satake H, Ono E, Horikawa M. Identification of a binding protein for sesamin and characterization of its roles in plant growth. Scientific Reports 9 8631 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、非内因性の有用二次代謝産物を産生できる遺伝子組換え木本植物提供することを課題とする。また、本発明は、該遺伝子組換え木本植物を用いて、非内因性の有用二次代謝産物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]非内因性の有用二次代謝産物を産生するための外来遺伝子が、発現可能にゲノムに導入されていることを特徴とする遺伝子組換えレンギョウ。
[2]栄養繁殖個体である、前記[1]に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
[3]非内因性の有用二次代謝産物が非内因性リグナンである、前記[1]または[2]に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
[4]外来遺伝子がゴマセサミン合成酵素をコードする遺伝子である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の遺伝子組換えレンギョウ。
[5]ゴマセサミン合成酵素が配列番号1または配列番号3に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなる、前記[4]に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
[6]非内因性リグナンがピペリトールおよびセサミンである、前記[4]または[5]に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
[7]Fi35S:CYP81Q1(受託番号:FERM BP-22382)またはFk35S:CYP81Q1(受託番号:FERM BP-22383)である前記[5]または[6]に記載の遺伝子組換えレンギョウ。
[8]以下の工程(1)および(2)を含むピペリトールおよび/またはセサミンの製造方法:
(1)請求項4~6のいずれかに記載の遺伝子組換えレンギョウを栽培する工程、
(2)前記遺伝子組換えレンギョウから、ピペリトール、セサミンまたはピペリトールとセサミンの混合物を精製する工程。
[9]前記遺伝子組換えレンギョウが栄養繁殖個体である、前記[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、非内因性の有用二次代謝産物を産生できる遺伝子組換え木本植物を提供することができる。また、本発明により該遺伝子組換え木本植物を用いる非内因性の有用二次代謝産物を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】リグナン代謝経路を示す模式図である。
図2】核局在型GFP(nGFP)遺伝子発現用プラスミドの構造を示す図である。
図3】レンギョウから切り出した葉片をアグロバクテリウム懸濁液に浸漬し、カルス誘導培地で共存培養した後、除菌用のシュート誘導培地に静置した葉片の画像である。
図4】(A)は葉片をカナマイシン入り選択培地で培養し、カルス形成を経て不定芽が形成された状態を示す画像であり、(B)は不定芽が成長して茎が伸長した状態を示す画像であり、(C)は不定芽におけるGFP蛍光を示す図である。
図5】(A)は発根したnGFP組換えアイノコレンギョウを土に植え替え、健全に生育した状態を示す図であり、(B)は野生型アイノコレンギョウ(左)およびnGFP組換えアイノコレンギョウ(右)の展開様におけるGFP蛍光を検出した画像である。
図6】nGFP遺伝子組換えアイノコレンギョウおよび野生型(WT)アイノコレンギョウからそれぞれゲノムDNAおよび全RNAを抽出し、nGFP遺伝子、NPTII遺伝子およびnGFP遺伝子転写産物の存在を確認した結果を示す図であり、(A)はゲノムPCRの結果、(B)はRT-PCRの結果を示す図である。
図7】ゴマセサミン生合成酵素(CYP81Q1)遺伝子発現用プラスミドの構造を示す図である。
図8】(A)はCYP81Q1遺伝子組換えアイノコレンギョウ(右)およびnGFP遺伝子遺伝子組換えアイノコレンギョウ(左)の各植物体の画像であり、(B)はCYP81Q1遺伝子組換えチョウセンレンギョウ(右)および野生型(WT)チョウセンレンギョウ(左)の各植物体の画像である。
図9】CYP81Q1遺伝子組換えアイノコレンギョウ、nGFP遺伝子組換えアイノコレンギョウ、CYP81Q1遺伝子組換えチョウセンレンギョウおよび野生型(WT)チョウセンレンギョウからそれぞれゲノムDNAおよび全RNAを抽出し、CYP81Q1遺伝子、NPTII遺伝子およびCYP81Q1遺伝子転写産物の存在を確認した結果を示す図であり、(A)はアイノコレンギョウのゲノムPCRの結果、(B)はアイノコレンギョウのRT-PCRの結果、(C)はチョウセンレンギョウのゲノムPCRの結果、(D)はチョウセンレンギョウのRT-PCRの結果を示す図である。
図10】土に植えて2か月生育させたCYP81Q1遺伝子組換えアイノコレンギョウ、nGFP遺伝子組換えアイノコレンギョウ、CYP81Q1遺伝子組換えチョウセンレンギョウおよび野生型(WT)チョウセンレンギョウからそれぞれ若い展開葉を収穫し、リグナン類を抽出・精製したサンプルをHPLCに供し、ピペリトール(P1)とセサミン(P2)を検出した結果を示す図である。
図11図10で用いたサンプルをLC-MSに供し、ピペリトール(P1)とセサミン(P2)を検出した結果を示す図である。
図12】アグロバクテリウムを感染させた葉片を培養して作製した遺伝子組換えレンギョウ(オリジナル)、オリジナルを挿し木して生育させた栄養繁殖レンギョウ(2回目)および2回目を挿し木して生育させた栄養繁殖レンギョウ(3回目)から葉を収穫し、リグナン類を抽出・精製したサンプルをHPLCに供し、ピペリトールとセサミンを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔遺伝子組換えレンギョウ〕
本発明は、非内因性の有用二次代謝産物を産生する遺伝子組換えレンギョウを提供する。本発明の遺伝子組換えレンギョウは、非内因性の有用二次代謝産物を産生するための外来遺伝子が、発現可能にゲノムに導入されているものであればよい。本発明の遺伝子組換えレンギョウは、挿し木や水耕栽培で栄養繁殖することができ、栄養繁殖した次世代以降の遺伝子組換えレンギョウにおいても有用二次代謝産物の産生能が維持される点で、非常に有用である。
【0012】
レンギョウはモクセイ科レンギョウ属の多年生木本植物の総称であり、丈夫で繁殖力が高く、栽培が容易な落葉性低木広葉樹である。代表的な種としては中国原産種であるレンギョウ(Forsythia suspensa)、シナレンギョウ(Forsythia viridissima)、朝鮮半島原産種であるチョウセンレンギョウ(Forsythia koreana)、日本原産種であるヤマトレンギョウ(Forsythia japonica)、ショウドシマレンギョウ(Forsythia togashii)、ヨーロッパ原産種であるセイヨウレンギョウ(Forsythia europaea)などが知られている。本国においては、チョウセンレンギョウ(Forsythia koreana)がいわゆる「レンギョウ」として一般に植栽されている。また園芸種としては、レンギョウとシナレンギョウを交配し品種改良を行ったアイノコレンギョウ(Forsythia intermedia)が広く流通している。
【0013】
レンギョウは、ピノレジノール・ラリシレジノール還元酵素およびピノレジノール配糖化酵素を発現する木本植物であって、ピノレジノールを多く蓄積し、二次代謝物としてトリテルペン、モノテルペングリコシド、リグナンなどを蓄積している。これらの成分は解熱剤、消炎剤、利尿剤、排膿剤、鎮痛薬として漢方医薬に用いられるほか、強い抗菌作用を示す生薬として古くから用いられている。
【0014】
非内因性の有用二次代謝産物は特に限定されず、レンギョウの植物体において天然には見出されない有用二次代謝産物であればよい。非内因性の有用二次代謝産物はリグナンでもよく、非リグナンでもよい。非内因性のリグナンとしては、例えばセサミン(sesamin)、ピペリトール(piperitol)、セサモリン(sesamolin)、セサミノール(sesaminol)、セサミノールトリグルコシド(sesaminol triglucoside)、プルビアチロール(pluviatilol)、ヒノキニン(hinokinin)、プルビアトリド(pluviatolide)、ヤテイン(yatein)、5’-デスメチルヤテイン(5'-desmethyl-yatein)、デオキシポドフィロトキシン(Deoxypodophyllotoxin)、4’-デスメチルデオキシポドフィロトキシン(4'-desmethyldeoxypodophyllotoxin)、4’-デスメチルエピポドフィロトキシン(4'-desmethylepipodophyllotoxin)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。非リグナンとしては、レチクリン(reticuline)、ベルベリン(berberine)、リモネン(limonene)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
セサミンはゴマ種子中に含まれる主要なリグナンであり、上記のとおり多様な生理活性を有することが知られている。ピペリトールは、セサミンを中間産物とするリグナン代謝経路におけるセサミン前駆体である(図1参照)。セサミンおよびピペリトールは、レンギョウにセサミン合成酵素遺伝子(例えば、CYP81Q1遺伝子またはCYP81Q2遺伝子)を導入することにより産生させることができる。
【0016】
セサモリン、セサミノール、セサミノールトリグルコシドもゴマ種子中に含まれるリグナンであり、セサモリンはセサミノールの前駆体、セサミノールトリグルコシドはセサミノール配糖体である。セサモリンおよびセサミノールは、例えばCYP81Q1遺伝子とCYP92B14遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる(図1参照)。セサミノールトリグルコシドは、例えばCYP81Q1遺伝子とCYP92B14遺伝子を導入したレンギョウに、UGT71A9遺伝子、UGT94AG1遺伝子およびUGT94AA2遺伝子を導入することにより産生させることができる。
【0017】
プルビアチロールは、例えばCYP81Q3遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。ヒノキニンは、例えばPCBER遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。プルビアトリドは、例えばCYP719A23遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。ヤテインは、例えばOMT1遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。5’-デスメチルヤテインは、例えばCYP71CU1遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。デオキシポドフィロトキシンは、例えば2-ODD遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。4’-デスメチルデオキシポドフィロトキシンは、例えばCYP71BE54遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。4’-デスメチルエピポドフィロトキシンは、例えばCYP82D61遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。レチクリンは、例えば4’OMT遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。ベルベリンは、例えばTHBO遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。リモネンは、例えばリモネン合成酵素遺伝子をレンギョウに導入することにより産生させることができる。
【0018】
上記例示した各外来遺伝子の塩基配列は、公知のデータベース(例えば、GenBank等)から容易に取得することができる。取得した塩基配列情報に基づき、所望の外来遺伝子が挿入させた発現ベクターを構築することができる。
【0019】
本発明の遺伝子組換えレンギョウに産生させる非内因性の有用二次代謝産物は、非内因性リグナンであることが好ましい。なかでも、ゴマのリグナンが好ましく、ゴマのリグナンとしては、セサミンおよびピペリトールが好ましい。セサミンおよびピペリトールを産生する遺伝子組換えレンギョウは、レンギョウにセサミン合成酵素遺伝子を導入することにより作製することができる。例えば、ゴマのセサミン合成酵素遺伝子を好適に用いることができる。ゴマのセサミン合成酵素としては、Sesamum indicumから単離されたチトクロームP-450であるCYP81Q1およびSesamum radiatumから単離されたチトクロームP-450であるCYP81Q2が知られている(Ono, E. et al., (2006) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 10116-10121.)。
【0020】
ゴマのセサミン合成酵素遺伝子は、配列番号1に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であることが好ましい。配列番号1に示されるアミノ酸配列はSesamum indicum CYP81Q1のアミノ酸配列であり、アクセッション番号BAE48234.1としてGenBank等の公知のデータベースに登録されている。また、ゴマのセサミン合成酵素遺伝子は、配列番号3に示されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子であることが好ましい。配列番号3に示されるアミノ酸配列はSesamum radiatum CYP81Q2のアミノ酸配列であり、アクセッション番号BAE48235.1としてGenBank等の公知のデータベースに登録されている。
【0021】
配列番号1に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質であることが好ましい。具体的には、セサミン合成酵素活性が、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質のセサミン合成酵素活性と同等(例えば、約0.5~2倍)であることが好ましい。配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列からなるタンパク質についても同じである。
【0022】
配列番号1に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列が挙げられる。「1~数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。また、実質的に同一のアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるアミノ酸配列が挙げられる。配列番号3で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列についても同じである。
【0023】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(Sesamum indicumのセサミン合成酵素であるCYP81Q1)をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号2で示される塩基配列を含むDNAを用いることができ、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(Sesamum radiatumのセサミン合成酵素であるCYP81Q2)をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号4で示される塩基配列を含むDNAを用いることができる。配列番号2で示される塩基配列はアクセッション番号AB194714.1として、配列番号4で示される塩基配列はアクセッション番号AB194715.1として、としてGenBank等のデータベースに登録されている。
【0024】
本発明の遺伝子組換えレンギョウを作製する方法は特に限定されず、公知の植物遺伝子組み換え技術、植物細胞培養技術および植物再分化技術を用いて行うことができる。例えば、目的の非内因性の有用二次代謝産物を産生するための外来遺伝子発現ベクターを作製し、これをレンギョウ細胞に導入し、形質転換レンギョウ細胞を取得し、これを培養してレンギョウ植物体を再分化させる方法が挙げられる。ただし、これに限定されるものではない。
【0025】
発現ベクターは、植物細胞内で発現を可能とするプロモーターと、植物細胞内で発現させる遺伝子を含むように構築する。発現ベクターの母体となるベクターには、公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、コスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物細胞へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121等を挙げることができる。
【0026】
プロモーターは、植物細胞内で導入した遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター、オレオシン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、アクチン遺伝子プロモーターまたはユビキチン遺伝子プロモーターを好ましく用いることができる。上記各プロモーターを用いれば、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。
【0027】
発現ベクターは、プロモーターおよび植物細胞内で発現させる遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、例えば、ターミネーター、選別マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、発現ベクターは、さらにT-DNA領域を有していてもよい。T-DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて発現ベクターを植物細胞に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
【0028】
転写ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものを好適に用いることができる。例えば、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。なかでもNosターミネーターがより好ましい。発現ベクターに転写ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成されることを防止することができる。
【0029】
選別マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。具体的には、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を含むことにより、選択薬剤を含む培地中で生育する植物細胞を選択すれば、目的の形質転換植物細胞を容易に取得することができる。
【0030】
翻訳効率を高めるための塩基配列としては、例えば、タバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、目的遺伝子の翻訳効率を高めることができる。
【0031】
発現ベクターを、レンギョウ培養細胞またはレンギョウ植物体の一部(例えば、葉、茎など)に導入し、カルス誘導を経て再分化させる方法を用いて本発明の遺伝子組換えレンギョウを作製することができる。発現ベクターは、一般的な形質転換方法によって植物体の一部または植物培養細胞に導入することができる。具体的には、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法や直接植物細胞に導入する方法を用いることができる。発現ベクターを直接植物細胞に導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。発現ベクターを導入したアグロバクテリウムを植物へ感染させる手法としては、例えば、リーフディスク法(Horsch, R.&B.、 et al.: A simple and general method for trams-ferring cloned genes into plants. Science,227、 1229-1231, 1985)、プロトプラスト共存培養法(Marton, L., et al.: In vitro transformation of cultured cell from Nicotiana tabacum by Agrobacterium tumefaciens. Nature,277, 129-131, 1981)、カルス再生法(Plant Cell Reports, 12,7-11,1992)、減圧浸潤法(The Plant Journal, 19(3), 249-257, 1999)等を採用することができるがこれらに限定されない。
【0032】
例えばレンギョウの葉片にアグロバクテリウムを感染させて発現ベクターを導入する場合、レンギョウの葉の表面を70%アルコール、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液等を用いて滅菌した後、メス等を用いて適当な大きさの葉片を切り出し、アグロバクテリウム懸濁液に浸漬してアグロバクテリウムに感染させる。アグロバクテリウムに感染した葉片を、カルス誘導培地およびシュート誘導培地(再分化用培地)で培養してレンギョウ植物体を再分化させる。遺伝子組換え体を選択するために、発現ベクターに含まれる選択マーカー遺伝子の種類に応じて、抗生物質等の薬剤を添加した培地を用いることが好ましい。
【0033】
カルス誘導培地およびシュート誘導培地には、植物組織培養に通常用いられるムラシゲ・スクーグ(MS)培地、リンズマイヤー・スクーグ(LS)培地、ホワイト培地、ガンボーグB5培地、ニッチェ培地、ヘラー培地、モーレル培地等の基本培地(必要に応じて、カゼイン分解酵素、コーンスティープリカー、ビタミン類等をさらに補充することができる)に、オーキシン類および必要に応じてサイトカイニン類等の植物生長調節物質(植物ホルモン)を適当な濃度で添加した培地を用いることができる。オーキシン類としては、例えば、3-インドール酢酸(IAA)、3-インドール酪酸(IBA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)等が挙げられるが、それらに限定されない。オーキシン類は、例えば、約0.1~約10ppmの濃度で培地に添加され得る。サイトカイニン類としては、例えば、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ゼアチン等が挙げられるが、それらに限定されない。サイトカイニン類は、例えば、約0.1~約10ppmの濃度で培地に添加され得る。
【0034】
カルスから伸長した不定芽を切り取って培地に植え継ぎ、発根が認められるまで継代培養を続ける。さらに培養を続け、高さが10~15cm程度になったレンギョウ培養植物の先端部(約5cm)を土に移植し、定法にしたがって栽培を行う。得られたレンギョウ植物体のゲノムに外来遺伝子が導入されていることは、対象のレンギョウ植物体からゲノムDNAを抽出し、PCR、サザンハイブリダイゼーション、塩基配列解析等によって確認することができる。
【0035】
本発明の遺伝子組換えレンギョウは、挿し木や水耕栽培で栄養繁殖することができる。それゆえ、遺伝子組み換え技術を用いて目的の遺伝子組換えレンギョウを樹立した後は、栄養繁殖により、遺伝的に同一である遺伝子組換えレンギョウを容易に増やすことができる。したがって、本発明の遺伝子組換えレンギョウは、栄養繁殖個体であってもよい。挿し木による栄養繁殖の方法は特に限定されず、枝を土に挿し、水やり等の通常の栽培を行えばよい。水耕栽培による栄養繁殖の方法は特に限定されず、枝を水に漬けて発根させればよい。十分に発根させた後土に植え替えることができる。植物による有用物質の製造を産業として実施するためにはスケールアップが必要であり、遺伝的背景が同一で目的の有用物質を製造する能力を保持する多数の植物を栽培し、いわゆる植物工場を立ち上げることが必須である。本発明の遺伝子組換えレンギョウは、上記の通り、挿し木や水耕栽培で栄養繁殖することができるので、産業として植物工場を立ち上げるための植物として非常に有用である。
【0036】
本発明の遺伝子組換えレンギョウは、本発明者らにより作製された、ゴマCYP81Q1遺伝子がゲノムに導入され、セサミンおよびピペリトールを産生する遺伝子組換えアイノコレンギョウ(識別の表示Fi35S:CYP81Q1、受託番号FERM BP-22382として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託済み。受託日:2019年9月18日)であってもよく、本発明者らにより作製された、ゴマCYP81Q1遺伝子がゲノムに導入され、セサミンおよびピペリトールを産生する遺伝子組換えチョウセンレンギョウ(識別の表示Fk35S:CYP81Q1、受託番号FERM BP-22383として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託済み。受託日:2019年9月18日)であってもよい。
【0037】
〔ピペリトールおよび/またはセサミンの製造方法〕
本発明は、ピペリトールおよび/またはセサミンの製造方法を提供する。本発明の製造方法は、以下の工程(1)および(2)を含むものであればよい。
(1)ゴマセサミン合成酵素をコードする遺伝子が発現可能にゲノムに導入されている遺伝子組換えレンギョウを栽培する工程、
(2)前記遺伝子組換えレンギョウから、ピペリトール、セサミンまたはピペリトールとセサミンの混合物を精製する工程。
【0038】
工程(1)では、ゴマセサミン合成酵素をコードする遺伝子が、発現可能にゲノムに導入されている遺伝子組換えレンギョウを栽培する。当該遺伝子組換えレンギョウは、前段で説明したとおり、公知の植物遺伝子組み換え技術、植物細胞培養技術および植物再分化技術を用いて作製して用いることができる。また、作製した遺伝子組換えレンギョウから挿し木や水耕栽培で栄養繁殖させた遺伝子組換えレンギョウ(栄養繁殖個体)を用いてもよい。当該遺伝子組換えレンギョウは、上記の寄託株であるFi35S:CYP81Q1またはFk35S:CYP81Q1を用いてもよく、これらから挿し木で繁殖させた遺伝子組換えレンギョウを用いてもよい。
【0039】
工程(1)の栽培方法には、公知のレンギョウの栽培方法を用いることができ、園芸関連の書籍や、園芸関連のウェブサイトから容易に取得することができる。工程(1)の栽培期間は特に限定されず、栽培環境に応じて適宜設定することができる。例えば、高さが50cm程度になるまで栽培してもよい。挿し木から高さが50cm程度になるまでの期間は、通常4~5か月程度である。また、例えば、成熟葉を収穫できるようになるまで栽培してもよい。挿し木から成熟葉を収穫できるまでの期間は、通常1~2か月程度である。工程(2)において葉からピペリトール、セサミンまたはピペリトールとセサミンの混合物を精製する場合、葉を収穫した後、再度葉を収穫できるようになるまで、工程(1)を繰り返し行うことができる。
【0040】
工程(2)では、工程(1)で栽培した遺伝子組換えレンギョウから、ピペリトール、セサミンまたはピペリトールとセサミンの混合物を精製する。最初に、工程(1)の栽培期間を経た植物からその一部を回収する。回収する植物の部位は特に限定されず、葉、枝、根、花等のいずれの部位であってもよいが、回収の簡便性と通年の回収が可能である点で葉を回収することが好ましい。回収した植物の部位に対して、抽出に適した処理を行ってもよい。抽出に適した処理としては、例えば細切、破砕、乾燥、凍結粉砕、凍結乾燥などが挙げられる。
【0041】
ゴマセサミン合成酵素をコードする遺伝子が、発現可能にゲノムに導入されている遺伝子組換えレンギョウからセサミンおよびピペリトールを抽出および精製する方法は特に限定されず、公知の植物細胞抽出物の調製方法およびリグナン類の精製方法から適宜選択して用いることができる。例えば、本発明者らが、後段の実施例2で行った方法等が挙げられる。具体的には、凍結乾燥した葉を粉砕し、50%メタノールを加えて60℃に加温して抽出する。遠心分離して上清を凍結乾燥機で乾固させ、50%メタノールに再懸濁してろ過する。このろ液がピペリトールとセサミンの混合精製物に相当する。ピペリトールおよびセサミンをそれぞれの精製物として回収する場合は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分離することができる。具体的には、例えばMurataら(PLOS One 10 e0144519 (2016))に記載された方法を用いることができる。
【0042】
本発明の製造方法を用いれば、セサミンとほぼ同容量のピペリトールを製造することができる。ピペリトールはゴマでは微量しか回収できないので、本発明の製造方法はピペリトールを効率よく製造する方法として有用である。また、本発明の製造方法を用いれば、遺伝子組換えレンギョウの葉からセサミンおよびピペリトールを抽出し、精製することができる。ゴマでは、種子からセサミンを抽出するが、種子は年に1回しか収穫できない。これに対して、遺伝子組換えレンギョウの葉は1年中収穫できるので、植物工場を構成する植物として優れている。また、遺伝子組換えレンギョウは挿し木や水耕栽培で栄養繁殖することができるので、容易にスケールアップできる点においても植物工場を構成する植物として非常に優れている。さらに、微生物や培養植物細胞を用いてセサミンおよびピペリトールを製造する場合と比較して、遺伝子組換えレンギョウの維持は低コストで行うことができるので、コストの大幅な低減が見込まれる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
〔参考例1:ゲノムに外来遺伝子が導入された遺伝子組換えレンギョウの作製〕
ゲノムに外来遺伝子が導入された遺伝子組換えレンギョウを作製するために、レンギョウ葉切片を用いた遺伝子組換え系を確立させた。
【0045】
(1)材料および方法
アイノコレンギョウ(Forsythia intermedia; Fi)は新潟植物園から、チョウセンレンギョウ(Forsythia koreana; Fk)は京都大学生存圏研究所・梅澤俊明博士から、それぞれ入手した。レンギョウの栽培条件は、16時間明条件(照度:50~75μmol/m/秒)と8時間暗条件のサイクルを継続し、室温を22℃とした。レンギョウを無菌培養するために、表面殺菌した植物体を、1/2濃度のMS塩、MSビタミン、30g/Lスクロース、5g/Lアガーゲル、22.5mg/L硫酸銅(II)(CuSO4・5H2O)を含む改変MS固形培地に挿し木し、2か月から3か月ごとに、10cmほどの植物体を切り取り、新しい培地へ移し継代した。
【0046】
外来遺伝子には、核局在型GFP遺伝子(Koyama et al., Plant Physiology 162, 991-1005 (2013)参照)を使用した。核局在型GFP遺伝子を、定法に従ってエレクトロポレーションによりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens GV3101株)へ導入した。アグロバクテリウムに導入したプラスミドの模式図を図2に示す。構成的高発現カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターとノパリン合成酵素遺伝子(NOS)ターミネーターの間に核移行型GFP(nGFP)遺伝子を挿入した。NLSは核移行シグナル、npt IIはカナマイシン耐性遺伝子である。得られた遺伝子組換えアグロバクテリウムを50mg/Lカナマイシン、50mg/Lゲンタマイシン、100mg/Lリファンピシリンを含むLB培地で、OD600が2.0となるように、27℃、180rpmで震盪培養した。
【0047】
次に、アグロバクテリウムを、遠心機(HP25;Beckman)を用いて、5,000×gで15分間遠心分離することにより集菌し、ガンボーグB5塩、MSビタミン、30g/Lスクロース、2.0mg/Lインドール-3-酢酸、0.5mg/L 6-ベンジルアデニン、20mg/Lアセトシリンゴン、0.02% 500W Additive(DOW Chmical)を含む懸濁液に再懸濁した。
【0048】
アグロバクテリウム懸濁液に、無菌培養したレンギョウから切り出した葉片(1cm×0.5cm)を浸し、2分間静置した。葉片をアグロバクテリウム懸濁液から取り出し、滅菌したろ紙(ADVANTEC No.1、直径70mm)を敷いたカルス誘導培地(ガンボーグB5、B5ビタミン、30g/Lスクロース、2.0mg/Lインドール-3-酢酸、0.5mg/L 6-ベンジルアデニン、20mg/Lアセトシリンゴン、3g/Lジェランガムを含む)に置き、3日間共存培養した。アグロバクテリウムを除菌するために、葉片を10mg/Lメロペンを含むシュート誘導培地(MS塩、MSビタミン、30g/Lスクロース、0.5mg/Lインドール‐3-酢酸、2.0mg/L 6-ベンジルアデニン、3g/Lジェランガム)で、7日間培養した(図3)。
【0049】
遺伝子組換え体を選抜するために、葉片を10mg/Lメロペンと、50mg/Lカナマイシン(チョウセンレンギョウの場合)あるいは75mg/Lカナマイシン(アイノコレンギョウの場合)を含むシュート誘導培地に移し、2週間ごとに新鮮な培地に継代して、不定芽を形成するまで6か月間継代培養し(図4(A)、(B))、GFPの蛍光を蛍光顕微鏡M205FAにより検出した(図4(C))。不定芽をメスで切り取り、10mg/Lメロペンと、50mg/Lカナマイシン(チョウセンレンギョウの場合)あるいは75mg/Lカナマイシン(アイノコレンギョウの場合)を含む改変MS固形培地で発根が認められるまで、6か月から1年6か月継代培養した。発根したレンギョウ培養植物を土に植え替え(図5(A))、そのGFP蛍光を検出した(図5(B))。
【0050】
Pro35S:nGFP遺伝子組換えアイノコレンギョウと野生型(WT)アイノコレンギョウから、ゲノムDNAを調製するためにNucleon PhytoPure Genomic DNA Extraction kit(GE Healthcare)を用いた。全RNAを調製するためにRNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を用い、さらに4M塩化リチウム沈殿処理とDNase Iにより全RNAを精製し、SuperScript III(Thermo Fisher Scientific)により、逆転写した。ゲノムDNAと逆転写産物をそれぞれ鋳型に用いて、ゲノムPCRとRT-PCRを行った。ExTaq DNA polymerase(Takara)を用いて、96℃15秒、60℃15秒、72℃45秒を1サイクルとして、最大30サイクル増幅し、PCR産物を定法に従ってアガロース電気泳動し、臭化エチジウムにより可視化した。増幅に使用したプライマーを以下に示す。
GFP増幅用プライマー
GFP-Fw: 5'-ATGGTGAGCAAGGGCGAG-3'、配列番号5
GFP-Rv: 5'-TTACTTGTACAGCTCGTCCATGC-3'、配列番号6
NPTII増幅用プライマー
NPTII-Fw: 5'-CTCCTGCCGAGAAAGTATCC-3'、配列番号7
NPTII-Rv: 5'-CTCGTCAAGAAGGCGATAGAAG-3'、配列番号8
シトクローム増幅用プライマー
CytDNA-Fw: 5'-AGTTCGAGCCTGATTATCCC-3'、配列番号9
CytDNA-Rv: 5'-GCATGCCGCCAGCGTTCATC-3'、配列番号10
【0051】
結果を図6に示した。(A)がゲノムPCRの結果、(B)がRT-PCRの結果である。nGFPのシグナルが10株中8株で検出されたので、それら8株でnGFP遺伝子がアイノコレンギョウゲノムに挿入され、発現されたことが明らかとなった。nptIIはカナマイシン耐性遺伝子を示しポジティブコントロールとし、Cytはシトクローム遺伝子を示し内在遺伝子のコントロールとした。
【0052】
〔実施例1:ゴマセサミン合成酵素を発現する遺伝子組換えレンギョウの作製〕
参考例1において、核局在型GFP(nGFP)遺伝子をゴマセサミン合成酵素CYP81Q1(以下「ゴマCYP81Q1」)遺伝子(Tera et al., Scientific Reports 9 8631 (2019))に変更した以外は参考例1と同じ方法で、ゴマCYP81Q1遺伝子を発現する遺伝子組換えアイノコレンギョウ(以下「CYP81Q1遺伝子組換えFi」)およびゴマCYP81Q1遺伝子を発現する遺伝子組換えチョウセンレンギョウ(以下「CYP81Q1遺伝子組換えFk」)を作製した。ゴマCYP81Q1遺伝子発現用プラスミドの模式図を図7に示す。構成的高発現カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターとノパリン合成酵素遺伝子(NOS)ターミネーターの間にゴマCYP81Q1遺伝子を挿入した。npt IIはカナマイシン耐性遺伝子である。
【0053】
作製した遺伝子組換えレンギョウの植物体を図8に示した。(A)は左がnGFP遺伝子組換えFi(図中FinGFP)、右がCYP81Q1遺伝子組換えFi(図中FiCYP81Q1)であり、(B)は左が野生型Fk(図中FkWT)、右がCYP81Q1遺伝子組換えFk(図中FkCYP81Q1)である。いずれの植物体も形態に異常を示さず、健全に生育した。
【0054】
CYP81Q1遺伝子組換えFi(Fi 35S:CYP81Q1)およびCYP81Q1遺伝子組換えFk(Fk 35S:CYP81Q1)から、それぞれ参考例1と同じ方法でゲノムDNAと全RNAを抽出し、ゲノムDNAと逆転写産物をそれぞれ鋳型に用いて、ゲノムPCRとRT-PCRを行った。増幅に使用したプライマーを以下に示す。
CYP81Q1増幅用プライマー
CYP81Q1-Fw: 5'-ATGGAAGCTGAAATGCTATATTCAGCTCT-3'、配列番号11
CYP81Q1-Rv: 5'-TCAAACGTTGGAAACCTGACGAAGAAC-3'、配列番号12
ExTaq DNA polymerase(Takara)を用いて、96℃15秒、60℃15秒、72℃1分を1サイクルとして、最大30サイクル増幅し、PCR産物を定法に従ってアガロース電気泳動し、臭化エチジウムにより可視化した。
【0055】
結果を図9に示した。(A)がCYP81Q1遺伝子組換えFi(Fi 35S:CYP81Q1)のゲノムPCRの結果、(B)がCYP81Q1遺伝子組換えFi(Fi 35S:CYP81Q1)のRT-PCRの結果、(C)がCYP81Q1遺伝子組換えFk(Fk 35S:CYP81Q1)のゲノムPCRの結果、(D)がCYP81Q1遺伝子組換えFk(Fk 35S:CYP81Q1)のRT-PCRの結果である。いずれの植物体からもCYP81Q1のシグナルが特異的に増幅されたので、ゴマCYP81Q1を発現するアイノコレンギョウおよびゴマCYP81Q1を発現するチョウセンレンギョウを作製できたことが明らかにとなった。
【0056】
本発明者らは、実施例1で作製したゴマCYP81Q1遺伝子がゲノムに導入された遺伝子組換えアイノコレンギョウおよびゴマCYP81Q1遺伝子がゲノムに導入された遺伝子組換えチョウセンレンギョウを独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託している(受託日:2019年9月18日)。該遺伝子組換えアイノコレンギョウの識別の表示はFi35S:CYP81Q1、受託番号はFERM BP-22382である。該遺伝子組換えチョウセンレンギョウの識別の表示はFk35S:CYP81Q1、受託番号はFERM BP-22383である。
【0057】
〔実施例2:CYP81Q1遺伝子組換えレンギョウ葉における非内因性リグナンの検出〕
遺伝子組換えレンギョウの葉における非内因性リグナンの蓄積を明らかにするために、CYP81Q1遺伝子組換えFi(Fi 35S:CYP81Q1)およびCYP81Q1遺伝子組換えFk(Fk 35S:CYP81Q1)を土に植えて2か月生育させた。コントロールとしてnGFP遺伝子組換えFi(Fi 35S:nGFP)および野生型Fk(Fk WT)も同様に土に植えて2か月生育させた。3番目、4番目、5番目に若い展開葉を3枚収穫し、液体窒素で凍結し、凍結乾燥機FDU-2110(EYELA)により凍結乾燥させ、乾燥重量を測定した。リグナン類の抽出のため、Teraら(Scientific Reports 9 8631 (2019))に記載された方法に従って、凍結乾燥した葉を乳鉢と乳棒で粉砕し、50%メタノールを加えて60℃で1時間の加温を2回繰り返し抽出した。抽出液を15,000rpmで15分間遠心分離して残渣を取り除き、上清を凍結乾燥機により乾固した。乾固した抽出物を300μLの50%メタノールに再懸濁し、Millex-LHフィルター(Millipore)でろ過した。
【0058】
精製した抽出液を、Murataら(PLOS One 10 e0144519 (2016))に記載された方法に従って、Develosil C30-UG5カラム(4.6×150mm, Nomura Chemical)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムAlliance2960(Waters Corporation)に供し、283nmにおける吸収によりリグナン類を検出し、Empower2ソフトウェア(Waters Corporation)により、データ解析した。
【0059】
結果を図10に示した。HPLCクロマトグラムは、縦軸にシグナル強度、横軸に保持時間を示す。CYP81Q1遺伝子組換えFi(Fi 35S:CYP81Q1)とCYP81Q1遺伝子組換えFk(Fk 35S:CYP81Q1)の抽出液中に、ピペリトール(P1)とセサミン(P2)のピークが認められた一方で、コントロールであるnGFP遺伝子組換えFi(Fi 35S:nGFP)と野生型Fk(Fk WT)にはピペリトール(P1)とセサミン(P2)のピークが認められなかった。
【0060】
次に、精製した抽出液を、Murataら(Nat. Commun. 8 2155 (2017))に記載された方法に従って、液体クロマトグラフィー質量分析計LC-MS-IT-TOF(Shimadzu)に供した。
結果を図11に示した。LC-MSクロマトグラムは、縦軸にシグナル強度、横軸に保持時間を示す。CYP81Q1遺伝子組換えFi(Fi 35S:CYP81Q1)とCYP81Q1遺伝子組換えFk(Fk 35S:CYP81Q1)の抽出液中に、ピペリトール(P1)とセサミン(P2)のピークが認められた一方で、コントロールであるnGFP遺伝子組換えFi(Fi 35S:nGFP)と野生型Fk(Fk WT)にはピペリトール(P1)とセサミン(P2)のピークが認められなかった。
【0061】
〔実施例3:栄養繁殖したCYP81Q1遺伝子組換えレンギョウ葉における非内因性リグナンの検出〕
実施例2により、CYP81Q1遺伝子組換えレンギョウの葉は、非内因性リグナンのピペリトールとセサミンを蓄積することが明らかとなったので、遺伝子組換えレンギョウを挿し木し、栄養繁殖した後も葉に非内因性リグナンが持続的に蓄積することの確認を行った。
【0062】
参考例1および実施例1で作製した遺伝子組換えレンギョウを「オリジナル」とし、「オリジナル」を挿し木して得られた栄養繁殖レンギョウを「二回目」、「二回目」を挿し木して得られた栄養繁殖レンギョウを「三回目」とした。実施例2と同じ方法で葉からリグナン類を抽出、精製し、HPLCで検出した。実施例2と同様に、コントロールとしてnGFP遺伝子組換えFi(Fi 35S:nGFP)および野生型Fk(Fk WT)を用いた。「オリジナル」は1本の植物から得られたサンプルを測定した。「二回目」と「三回目」は6本の植物から得られたサンプルを測定した。「二回目」と「三回目」の測定値は、一元配置分散分析し、スチューデントのt-検定によりP<0.01である場合に有意差ありとした。
【0063】
結果を図12に示した。グラフの縦軸は、HPLCクロマトグラムのピーク面積からリグナンの蓄積量を算出し、葉の乾燥重量当たりの量を示す。図12に示したように、「二回目」および「三回目」の栄養繁殖レンギョウの葉においてもピペリトールおよびセサミンの蓄積を認めた。本解析により、CYP81Q1遺伝子組換えFiとCYP81Q1遺伝子組換えFkが非内因性リグナンのピペリトールとセサミンを持続的に蓄積することが認められた。
【0064】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【受託番号】
【0065】
(1)
微生物の表示
識別の表示 Fi35S:CYP81Q1
受託番号 FERM BP-22382
受託日
2019年9月18日
国際寄託当局
名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
(2)
微生物の表示
識別の表示 Fk35S:CYP81Q1
受託番号 FERM BP-22383
受託日
2019年9月18日
国際寄託当局
名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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