(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185713
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/28 20200101AFI20221208BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20221208BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20221208BHJP
G06F 113/08 20200101ALN20221208BHJP
【FI】
G06F30/28
G06F30/10 200
G06F111:10
G06F113:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093495
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】保坂 知幸
(72)【発明者】
【氏名】杉井 泰介
(72)【発明者】
【氏名】石井 英二
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DJ03
5B146DL08
(57)【要約】
【課題】設計支援装置において実測値が未知の場合においても適切なモデル選択可能な、シミュレーション装置及びシミュレーション方法及び設計支援装置を提供する
【解決手段】本発明のシミュレーション装置は、解析条件を入力する条件入力部2と、条件入力部で入力された境界条件に基いて生成されたROMの構成情報を予め記憶するデータベース部4と、FOMに基づいて数値解析を行うFOM解析部11と、FOM解析部の解析結果に基づいてROMを生成するROM生成部12と、条件入力部で入力された解析条件に基いてFOM解析部により数値解析して解析結果を求め、解析結果に基づいて、データベース部のROMの構成情報を選択するROM選択部13と、ROM選択部で求めた構成情報のROMに基づいて数値解析を行うROM解析部14と、ROM解析部の解析結果を出力する出力部3と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計作業を支援する設計支援装置のシミュレーション装置であって、
解析条件を入力する条件入力部と、
前記条件入力部で入力された境界条件に基いて生成されたROMの構成情報を予め記憶するデータベース部と、
FOMに基づいて数値解析を行うFOM解析部と、
前記FOM解析部の解析結果に基づいてROMを生成するROM生成部と、
前記条件入力部で入力された解析条件に基いて前記FOM解析部により数値解析して解析結果を求め、前記解析結果に基づいて、前記データベース部のROMの構成情報を選択するROM選択部と、
前記ROM選択部で求めた構成情報のROMに基づいて数値解析を行うROM解析部と、
前記ROM解析部の解析結果を出力する出力部と、
を備えたことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシミュレーション装置において、
前記データベース部は、
前記条件入力部で入力された境界条件において前記FOM解析部で数値解析した解析結果を前記ROM生成部により次元圧縮して求めたROMの全体構成情報と部分構成情報とを対応付けて記憶し、
前記ROM選択部は、
前記FOM解析部により部分解析して解析結果を求め、部分解析結果に基づいて前記データベース部のROMの部分構成情報を特定し、前記部分構成情報に対応する全体構成情報を、前記ROM解析部で解析するROMの全体構成情報として選択する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項3】
請求項2に記載のシミュレーション装置において、
前記ROM選択部は、
前記部分解析結果に基づいて前記ROM生成部によりROMの部分構成情報を求め、前記部分構成情報に最も近い前記データベース部のROMの部分構成情報を特定し、特定された部分構成情報に対応する前記データベース部のROMの全体構成情報を選択する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項4】
請求項3に記載のシミュレーション装置において、
前記ROM選択部は、
前記ROM生成部で生成したROMの部分構成情報と、前記データベース部の特定したROMの部分構成情報との誤差に応じて、選択した前記データベース部のROMの全体構成情報を補正する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項5】
請求項2に記載のシミュレーション装置において、
前記ROM選択部は、
前記ROM解析部により前記解析条件における前記データベース部の部分構成情報が示すROMの数値解析の解析結果を求めて、前記FOM解析部により部分解析した解析結果に最も近い前記データベース部の部分構成情報を特定し、特定された部分構成情報に対応する前記データベース部のROMの全体構成情報を選択する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項6】
請求項1に記載のシミュレーション装置において、
前記ROM生成部は、
固有直交分解法により次元縮退して固有モードと対応する係数とを求め、
前記データベース部は、
前記固有モードと対応する係数との少なくとも一方をROMの構成情報として記憶する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項7】
請求項1に記載のシミュレーション装置において、
前記ROM生成部は、
動的モード分解法により次元縮退して固有モードと対応する係数とを求め、
前記データベース部は、
前記固有モードと対応する係数との少なくとも一方をROMの構成情報として記憶する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項8】
請求項1に記載のシミュレーション装置において、
前記データベース部は、
実測値に基づいて求めたROMの構成情報を記憶する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項9】
設計作業を支援する設計支援装置のシミュレーション方法であって、
境界条件においてFOMにより数値解析した解析結果に基づいて生成されたROMの構成情報をデータベース部に記憶するステップと、
解析条件においてFOMにより数値解析するステップと、
前記FOMの解析結果に基づいて、前記データベース部のROMの構成情報を選択するステップと、
選択された前記構成情報のROMにより数値解析を行うステップと、
を含むシミュレーション方法。
【請求項10】
請求項9に記載のシミュレーション方法において、
ROMの全体構成情報と部分構成情報とを対応付けて構成情報として記憶し、
解析条件におけるFOMにより数値解析は部分解析であり、
前記FOMの部分解析結果に基づいて、前記データベース部のROMの部分構成情報を特定し、前記部分構成情報に対応する全体構成情報を、前記構成情報として選択する
ことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項11】
請求項10に記載のシミュレーション方法において、
前記FOMの部分解析結果に基づいて次元圧縮してROMの部分構成情報を求め、前記 部分構成情報に最も近い前記データベース部のROMの部分構成情報を特定し、特定された部分構成情報に対応する前記データベース部のROMの全体構成情報を選択する
ことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項12】
請求項10に記載のシミュレーション方法において、
前記解析条件における前記データベース部の部分構成情報が示すROMの数値解析の解析結果を求め、前記FOMの部分解析結果に最も近い前記データベース部の部分構成情報を特定し、特定された部分構成情報に対応する前記データベース部のROMの全体構成情報を選択する
ことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか一項に記載のシミュレーション装置を有する設計支援装置であって、
設計内容の最適化の開始時に、前記データベース部に前記条件入力部で入力された境界条件に基いて生成されたROMの構成情報を記憶し、
設計内容の最適化中に、変更内容を解析条件として入力して、前記データベース部のROMの構成情報を選択し、選択した構成情報のROMに基づいて数値解析を行う
ことを特徴とする設計支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援におけるシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の高性能化と設計期間短縮への要求から設計プロセスが複雑化している。製品の性能を評価のためには、試作コスト低減のために数値解析が有効な手段であり、計算機の性能向上に伴って広く普及している。しかしながら、数値流体解析(CFD:Computational Fluid Dynamics)はいまだ多くの時間を要する計算処理が必要となっており、計算時間の削減による設計期間の短縮が求められている。
【0003】
近年、流体解析の分野において流れの時空間構造からその支配的な構造を抽出することで低次元モデル(ROM:Reduced Order Model)を形成する技術が開発されている。このROMを用いることでこれまでCFDに要していた時間を低減できる可能性があり、注目されている。
例えば、特許文献1には、ROMを用いて空調システムを制御する技術が開示され、実測した物理量に基づいて事前に作成した気流の低次元モデルから状況が最も近いモデルを選択し、空調制御を行う技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
設計支援装置において数値解析により設計内容を評価する際には、実測して物理量を取得することができないため、特許文献1の技術を適用できない。そのため、実測値が未知の場合においても適切なモデル選択を行うための技術が必要となる。
【0006】
本発明の目的は、設計支援装置において実測値が未知の場合においても適切なモデル選択可能な、シミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のシミュレーション装置は、設計作業を支援する設計支援装置のシミュレーション装置であって、解析条件を入力する条件入力部と、前記条件入力部で入力された境界条件に基いて生成されたROMの構成情報を予め記憶するデータベース部と、FOMに基づいて数値解析を行うFOM解析部と、前記FOM解析部の解析結果に基づいてROMを生成するROM生成部と、前記条件入力部で入力された解析条件に基いて前記FOM解析部により数値解析して解析結果を求め、前記解析結果に基づいて、前記データベース部のROMの構成情報を選択するROM選択部と、前記ROM選択部で求めた構成情報のROMに基づいて数値解析を行うROM解析部と、
前記ROM解析部の解析結果を出力する出力部と、を備えるようにした。
【0008】
また、設計作業を支援する設計支援装置のシミュレーション方法は、境界条件においてFOMにより数値解析した解析結果に基づいて生成されたROMの構成情報をデータベース部に記憶するステップと、解析条件においてFOMにより数値解析するステップと、前記FOMの解析結果に基づいて、前記データベース部のROMの構成情報を選択するステップと、選択された前記構成情報のROMにより数値解析を行うステップと、を含むようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、設計支援装置において実測値が未知の場合においても適切なモデル選択可能な、シミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2A】シミュレーションの事前準備の処理フロー図である。
【
図2B】目的の解析条件において、ROMによるシミュレーションを行う処理フロー図である。
【
図3】ROMの選択方法を説明するフロー図である。
【
図4】他のROMの選択方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施形態のシミュレーション装置10の構成図である。
シミュレーション装置10は、設計支援装置の一部として構成するか、又は設計支援装置にネットワークを介して接続する。
【0012】
シミュレーション装置10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、入出力I/F(Interface)、通信I/F及びメディアI/Fを有する情報処理装置で実現され、演算処理部1と条件入力部2と出力部3とデータベース部4とから構成する。
【0013】
演算処理部1は、数値解析によりシミュレーションを行う処理部であり、CPUがROM又はHDDに記憶するプログラムを実行することで実現する。演算処理部1は、詳細は後述する、FOM(Full Order Model)解析部11、ROM(Reduced Order Model)生成部12、ROM選択部13及びROM解析部14を有する。
【0014】
条件入力部2は、設計支援装置から通知される、シミュレーションの入力データを入力する処理部である。シミュレーション装置10がネットワークを介して設計支援装置に接続する場合には、通信I/Fを含み構成する。
【0015】
出力部3は、設計支援装置に通知する、シミュレーションの出力データを出力する処理部である。シミュレーション装置10がネットワークを介して設計支援装置に接続する場合には、通信I/Fを含み構成する。
【0016】
データベース部4は、HDDにより実現され、詳細を後述する複数のROMの全体構成情報41と部分構成情報42を記憶する記憶部である。シミュレーション装置10とネットワーク接続するクラウドストレージにデータベース部4を設けるようにしてもよい。
【0017】
ここで、演算処理部1のシミュレーションについて説明する。
演算処理部1は、多次元の数値流体解析によりシミュレーションを行う。数値流体解析では質量保存式や運動量方程式などのいくつかの支配方程式を解く必要がある。ここで支配方程式はいくつかの偏微分方程式(PDE:Partial Differential Equation)からなり、解析的に解くことができないため、数値的に解く必要があることが知られている。例えば、数値解析手法の一種である有限体積法を例に挙げると、解析対象の領域を有限個数のコントロールボリュームに分割し、それぞれの計算セルに対して積分形の支配方程式を解く。
【0018】
具体的には、演算処理部1は、設計支援装置から、解析する領域の指定や境界条件、初期条件の指定が条件入力部2を介して入力され、支配方程式の数値解析を行い、出力部3を介して計算結果を出力する。設計支援装置に視認可能な計算結果を出力する場合には、出力部3で可視化ソフトを用いて計算結果を処理する。
なお、本明細書では、支配方程式を直接数値解析する解析モデルをFOM(Full Order Model)と呼ぶ。
【0019】
次に、演算処理部1が、シミュレーション時間短縮のために採用する、ROMの技術について説明する。ROMは、FOMの時空間構造をその支配的構造によって表した、又はFOMをより低次元に縮約したモデルの総称である。ROMの生成は、流体解析の分野においては固有直交分解(POD:Proper Orthogonal Decomposition)や動的モード分解(DMD:Dynamic Mode Decomposition)のような手法が用いられる。これらの次元縮退手法を用いることで、PDEを常微分方程式(ODE:Ordinary Differential Equation)に縮約、計算コストを低減する。
【0020】
FOMにおいてPDEの計算には境界条件の変更が行われる。これはある境界上の流速ベクトルの値や、圧力のスカラー値として定義される。PDEにエネルギーの保存式が含まれる場合にはある境界上の温度のスカラー値や熱流束も境界条件の一種とみなされる。これらの境界条件の変更において、その全ての条件変更を反映したROMを取得することはできない。
【0021】
そのため、いくつかの境界条件においてFOMを用いて時空間構造の正解値を取得し、取得した時空間構造からROMを作成することで、いくつかの境界条件の事前情報を取得することができる。また、事前情報はROMの係数値(構成情報)に反映される。詳細は後述するが演算処理部1では、このような事前にFOMから得たROMの係数値(構成情報)を事前情報としてデータベース部4に保存しておき、解析条件に応じてROMの係数値(構成情報)を取得する。
【0022】
このROMは、ある物理量を、係数と空間構造の支配構造であるモードの重ね合わせによって表現できるという認識に基づく。モードの導出方法として、固有直交分解と動的モード分解(DMD)が公知の技術として知られている。ここではDMDを例に以下説明する。
【0023】
DMDでは、時空間データを、モードと呼ばれるいくつかの支配的な構造のパターンの重ね合わせとして表現する。まず、データ(物理量)が数式1のような線形力学系の時間発展をすると仮定する。
【0024】
【0025】
ここでベクトルΨkはk番目の時刻における、m個のデータを含む。また、行列Aは全てのkについて一定とする。今、ベクトルΨ0からΨnまでのn+1個の入力が与えられたとき、数式2のように2つの行列に分けることを考える。
【0026】
【0027】
数式2は、数式1を用いると、数式3のように表せる。
【0028】
【0029】
ここでX0の疑似逆行列をX+
0とすると、行列Aは、数式4と計算される。
【0030】
【0031】
m行n列の行列であるX0の特異値分解を数式5で示す。
【0032】
【0033】
ここで、Uはm行m列のユニタリ行列、W*はn行n列のユニタリ行列Wの随伴行列を示している。Σは数式6のような非対角成分が0、対角成分が正の固有値の平方根が大きさの順で並んだn行n列の行列となる。
【0034】
【0035】
これらの行列を用いると、疑似逆行列は数式7により示される。
【0036】
【0037】
以上の数式7及び数式4から、行列Aを求めることができる。しかし、行列Aを直接取り扱うと、流体解結果の空間セル次元のオーダーとなり計算機のメモリの観点から現実的ではない。そこで、数式8の近似行列を求める。
【0038】
【0039】
近似行列の近似固有値と近似固有ベクトルを求めると、固有ベクトルが動的モード(Dynamic Mode)と呼ばれており、固有値は対応する固有ベクトルの時間刻みの間の時間発展を示す。
【0040】
【0041】
以上の手順で取得したモードから、元の流れ場を復元することができる。また、モードの取得には、数値計算結果を用いることができる。ここで、時間方向には等間隔に結果を取得する必要があることに留意されたい。
【0042】
演算処理部1におけるROMは、任意の物理量が、モードと係数の重ね合わせとして数式10のように表現できるという認識に基づく。
本明細書では、ROMを表すモードと係数、又は近似固有ベクトルと近似固有値をROMの構成情報と呼ぶ。
【0043】
【0044】
ここでuは物理量、αは係数、φはモードを示す。ROMを用いた解析としては、ある対象において事前解析を実施することでモードの情報を取得し、モードのみをデータベースに保存しておき、係数のみをガラーキン射影などの手法を用いて算出する方法や、種々のパラメータにおいてモードと係数を取得し、パラメータに対する係数の応答曲面を作成する方法がある。
【0045】
次に、実施形態のシミュレーション装置10におけるシミュレーション(ROMによる解析処理)の処理内容を説明する。
図2Aは、シミュレーションの事前準備の処理フロー図である。
図2Bは、目的の解析条件において、ROMによるシミュレーションを行う処理フロー図である。
【0046】
図2Aで、条件入力部2により、いくつかの境界条件を入力し(S21)、演算処理部1のFOM解析部11で、入力した条件においてFOMによる数値解析を行い(S22)、その結果を基にROM生成部12により次元縮退したROMを生成し(S23)、得られたROMの構成情報をデータベース部4に保存する(S24)。
これにより、データベース部4に複数のROMの構成情報を保存する。
【0047】
詳細には、データベース部4には、FOMの全体解析結果に基づいて求めたROMの全体構成情報41と、FOMの部分解析結果に基づいて求めたROMの部分構成情報42とを対応付けて、境界条件毎に記憶する。
この部分解析は、FOMによる全体解析よりも空間的観点での部分的な領域に対する解析か、時間的観点での全体解析の部分的(短時間)な解析か、あるいは空間的、時間的両方の観点で部分的な解析であり、全体解析よりも短時間で解析が可能である。
なお、ROMの全体構成情報と部分構成情報とは、必ずしも一致していない。
【0048】
ステップS22のFOMによって得られた解析結果の時空間データを直接データベース部4に保存することも可能だが、データサイズが膨大になるため、保存には適さない。また、境界条件の数だけデータ保存容量が必要になるため、データ保存容量の観点から直接データを保存することは現実的ではない。時空間データを低次元モデル化することで、データサイズを小さくできるため、多くの境界条件における解析結果のデータを圧縮してROMとして保存しておくことができる。
【0049】
次に、
図2Bにより、目的の解析条件において、ROMによるシミュレーションする処理フローを説明する。
条件入力部2によりシミュレーションする解析条件を入力する(S25)。そして、演算処理部1(ROM選択部13)は、データベース部4を参照して、数値解析するROMを選択し(S26)、ROM解析部14が、選択されたROMに基づいて解析条件におけるROMによる数値解析を行う(ROM解析)(S27)。出力部3は、解析結果を出力する(S28)。ステップS26のROMの選択方法については、後述する。
【0050】
実施形態のシミュレーション装置10は、ROMにより数値解析することでFOMによる数値解析に比べて短時間で処理を行うことができる。さらに、事前にFOMの全体解析結果に基づいて求めて用意したROMの構成情報(部分構成情報と全体構成情報)からROMを選択することで、ROMの生成時間を省くことができ、よりシミュレーション時間を短縮することができる。
【0051】
次に、ROMの選択方法について、
図3により詳細に説明する。つまり、
図2BのステップS26、S27のROMの解析処理を詳細に説明する。
【0052】
特許文献1には、流れの測定値とROMにより復元された値を比較することで、最適なROMを決定する技術が開示されている。設計支援装置においては、測定値を入手することは一般には難しく、特許文献1の技術を適用できない。以下のROMの選択方法では、測定値は不要であり、設計支援装置にも適用できる。
【0053】
ステップS31で、条件入力部2によりシミュレーションする条件(解析条件)を入力する。
【0054】
ステップS32で、演算処理部1のFOM解析部11は、ステップS31で入力した解析条件により、FOMの部分解析を行う。つまり、空間的観点での部分的な領域に対する数値解析、時間的観点での全体解析の部分的(短時間)な数値解析の、少なくともいずれかの解析を行う。
【0055】
ステップS33で、ROM生成部12は、ステップS32の結果を基に、次元縮退したROMを生成する。
【0056】
ステップS34で、シミュレーションする対象ROMの構成情報として、ステップS33で生成したROMの構成情報を求める。
【0057】
ステップS35で、ROM選択部13は、データベース部4の部分構成情報42を参照して、ステップS34で求めた対象ROMの構成情報に最も近い部分構成情報を特定する。詳しくは、ROM選択部13は、例えばL1ノルムやL2ノルムの最小化問題として誤差を求め、最も近い部分構成情報を特定する。ROM選択部13は、データベース部4の複数のROMの重ね合わせの構成情報と、対象ROMの構成情報とを比較してもよい。
【0058】
ステップS36で、ROM選択部13は、データベース部4から、ステップS35で特定した部分構成情報に対応する全体構成情報を取得する。
【0059】
ステップS37で、ROM解析部14は、ステップS36で取得した全体構成情報のROMによる数値解析を行う。
このとき、対象ROMの構成情報と特定した部分構成情報との差に応じて、取得した全体構成情報を補正してもよい。これにより、解析結果の精度を向上することができる。
【0060】
ステップS38で、出力部3は、ステップS37の解析結果を出力する。
【0061】
次に、他のROMの選択方法について、
図4により、詳細に説明する。
図3の処理フローと同様に、
図2Aにより説明した事前解析によりデータベース部4に複数のROMの全体構成情報41と部分構成情報42とを対応付けて記憶しておく。
【0062】
ステップS41で、条件入力部2によりシミュレーションする条件(解析条件)を入力する。
【0063】
ステップS42で、演算処理部1のFOM解析部11は、ステップS41で入力した解析条件におけるFOMによる部分解析を行う。つまり、空間的観点での部分的な領域に対する解析、時間的観点での全体解析の部分的(短時間)な解析の、少なくともいずれかの解析を行う。
【0064】
ステップS43で、ROM選択部13は、ステップS42で解析したFOMの部分解析結果を、解析対象の部分解析結果とする。
【0065】
ステップS44で、ROM選択部13は、データベース部4の部分構成情報42を参照して、ROM解析部14により、ステップS41で入力した解析条件において部分構成情報が示すROMによりROM解析を行う。そして、その部分解析結果とステップS43の解析対象の部分解析結果とを比較して、部分構成情報42において、解析対象の部分解析結果に最も近い部分構成情報を特定する。詳しくは、ROM選択部13は、例えばL1ノルムやL2ノルムの最小化問題として誤差を求め、最も近い部分構成情報を特定する。
【0066】
ステップS45で、ROM選択部13は、データベース部4から、ステップS44で特定した部分構成情報に対応する全体構成情報を取得する。
【0067】
ステップS46で、ROM解析部14は、ステップS45で取得した全体構成情報のROMによる解析を行う。
このとき、対象ROMの構成情報と特定した部分構成情報との差に応じて、取得した全体構成情報を補正してもよい。これにより、解析結果の精度を向上することができる。
【0068】
ステップS47で、出力部3は、ステップS46の解析結果を出力する。
【0069】
以上のように、
図4の処理フローでは、演算処理部1が、FOMの部分解析結果とROMの部分解析結果を比較してROMを選択することが、
図3の処理フローと異なる。
【0070】
上記では、いくつかの境界条件を入力してFOMによる数値解析し、その数値解析結果に基づいてROMを生成して、データベース部4の全体構成情報41と部分構成情報42とを保存することを説明したが、FOMによる数値解析の解析結果に替えて、実測値に基づいてROMの全体構成情報41と部分構成情報42を求めるようにしてもよい。
【0071】
次に、設計作業を支援する設計支援装置における実施形態のシミュレータ装置の動作について説明する。
設計支援装置では、設計内容の最適化のために、変更内容を数値流体解析してその効果を確認する作業を繰り返し行っている。
【0072】
実施形態のシミュレーション装置10を適用する設計支援装置では、最適化の開始時に、いくつかの境界条件において
図2Aで説明した複数のROMの全体構成情報と部分構成情報を対応付けてデータベース部4に保存する。そして、最適化の作業で、
図2B、
図3、
図4で説明したように、変更内容を解析条件として条件入力して、数値流体解析する。これを繰り返して、最適化を行う。
【0073】
実施形態のシミュレーション装置10によれば、最適なROMが選択されるので、短いタクトタイムで解析結果を得ることができ、最適化のための繰り返し処理を効率よく行える。
【符号の説明】
【0074】
1 演算処理部
11 FOM解析部
12 ROM生成部
13 ROM選択部
14 ROM解析部
2 条件入力部
3 出力部
4 データベース部
41 全体構成情報
42 部分構成情報
10 シミュレーション装置(設計支援装置)