(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185725
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 19/00 20060101AFI20221208BHJP
B22D 19/04 20060101ALI20221208BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B22D19/00 W
B22D19/04
B22D17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093513
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢矧 宗一郎
(57)【要約】
【課題】大がかりな設備および器具を使用することなく、鋳型へ被鋳ぐるみ材を供給する。
【解決手段】鋳造装置は、第1鋳型と、融解材料が充填される隙間であるキャビティを第1鋳型とともに画定する第2鋳型と、を備える。第1鋳型は、第1鋳型の一部を構成する移動部であって、移動部がキャビティの一部を画定する位置である第1位置と、第1位置に比べて第2鋳型から遠い位置である第2位置と、をとることができる移動部と、第1位置と第2位置との間で移動部を移動させる駆動部と、第2位置にある移動部に対して第1位置の側にある位置に、被鋳ぐるみ材を供給する供給路と、を備える。移動部が第1位置にあるとき、移動部と第2鋳型との少なくとも一方が、被鋳ぐるみ材を保持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造装置であって、
第1鋳型と、融解材料が充填される隙間であるキャビティを前記第1鋳型とともに画定する第2鋳型と、を備え、
前記第1鋳型は、
前記第1鋳型の一部を構成する移動部であって、前記移動部が前記キャビティの一部を画定する位置である第1位置と、前記第1位置に比べて前記第2鋳型から遠い位置である第2位置と、をとることができる前記移動部と、
前記第1位置と前記第2位置との間で前記移動部を移動させる駆動部と、
前記第2位置にある前記移動部に対して前記第1位置の側にある位置に、被鋳ぐるみ材を供給する供給路と、
を備え、
前記移動部が前記第1位置にあるとき、前記移動部と前記第2鋳型との少なくとも一方が、前記被鋳ぐるみ材を保持する
鋳造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造装置であって、
前記供給路は略鉛直方向に沿って形成されている、
鋳造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鋳造装置であって、
前記移動部が前記第2位置にあるとき、前記供給路の開口端部は開放されており、
前記移動部が前記第1位置にあるとき、前記供給路の前記開口端部は前記移動部により塞がれており、
前記移動部が前記第2位置と前記第1位置の間の位置にあるとき、前記供給路の前記開口端部は、前記移動部により塞がれているか、または前記被鋳ぐるみ材が通過しない程度に開口している、
鋳造装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の鋳造装置であって、
前記移動部の前記被鋳ぐるみ材が接触する部分には、前記被鋳ぐるみ材の一部を受け入れる凹部が設けられており、
前記移動部は、前記第1位置にあるとき、前記一部を前記凹部に受け入れつつ、前記被鋳ぐるみ材を前記第2鋳型に押しつける、
鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軽合金により形成された部品と鉄により形成された部品とを溶接により接合することは難しい。このため、被鋳ぐるみ材によりこれらの部品同士を接合することが知られている。特許文献1に記載されているように、まず、被鋳ぐるみ材を含むアルミニウム合金の部品を鋳造により作製する。具体的には、型の内部に鉄の被鋳ぐるみ材を配置した状態で、型にアルミニウム合金の溶湯を型に流し込み、冷却する。出来上がったアルミニウム合金の部品のうちの被鋳ぐるみ材と鉄の部品とを溶接する。このようにして、アルミニウム合金といった軽合金の部品と鉄の部品とを接合することができる。
【0003】
従来は、特許文献1に記載されているように、ロボットアームに取り付けられたロボットハンドが、位置決めされて治具の上に置かれている被鋳ぐるみ材を吸着する。その後、ロボットアームが、被鋳ぐるみ材を型内に搬送していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術においては、被鋳ぐるみ材の型内への供給のため、ロボットハンド、ロボットアーム、位置決め用の治具等の大がかりな設備および器具が必要となるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本開示の形態によれば、第1鋳型と、融解材料が充填される隙間であるキャビティを第1鋳型とともに画定する第2鋳型と、を備える鋳造装置が提供される。この鋳造装置において、第1鋳型は、第1鋳型の一部を構成する移動部であって、移動部がキャビティの一部を画定する位置である第1位置と、第1位置に比べて第2鋳型から遠い位置である第2位置と、をとることができる移動部と、第1位置と第2位置との間で移動部を移動させる駆動部と、第2位置にある移動部に対して第1位置の側にある位置に、被鋳ぐるみ材を供給する供給路と、を備える。この鋳造装置において、移動部が第1位置にあるとき、移動部と第2鋳型との少なくとも一方が、被鋳ぐるみ材を保持する。
このような態様によれば、供給路によって供給された被鋳ぐるみ材が、第1鋳型の移動部が移動することによってキャビティに配置される。よって、被鋳ぐるみ材の型内への供給のため、ロボットアーム、ロボットハンド、治具等の設備および器具を使用する必要がない。
(2)上記形態の鋳造装置において、供給路は略鉛直方向に沿って形成されていてもよい。
このような態様によれば、供給路内を落下させて被鋳ぐるみ材を移動部に供給できる。よって、簡易な構成で被鋳ぐるみ材を型内へ供給することができる。
(3)上記形態の鋳造装置において、移動部が第2位置にあるとき、供給路の開口端部は開放されており、移動部が第1位置にあるとき、供給路の開口端部は移動部により塞がれている。移動部が第2位置と第1位置の間の位置にあるとき、供給路の前記開口端部は、移動部により塞がれているか、または被鋳ぐるみ材が通過しない程度に開口していてもよい。
このような態様によれば、移動部が、第2位置から第1位置へ移動している間は、新たな被鋳ぐるみ材が供給路から供給されない。移動部が第2位置に戻ると、供給路の開口端部が開放し、供給路から被鋳ぐるみ材が一つ供給される。よって、簡易な構成で、被鋳ぐるみ材をキャビティに順次配置することができる。
(4)上記形態の鋳造装置において、移動部の被鋳ぐるみ材が接触する部分には、被鋳ぐるみ材の一部を受け入れる凹部が設けられている。移動部は、第1位置にあるとき、一部を凹部に受け入れつつ、被鋳ぐるみ材を第2鋳型に押しつけてもよい。
このような態様によれば、キャビティの内部に配置された被鋳ぐるみ材の位置がずれることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る鋳造装置の構成を示す断面図である。
【
図9】鋳造品と鉄の部品とを接合する様子を表した図である。
【
図10】他の実施形態に係る鋳造装置の構成を示す断面図である。
【
図11】他の実施形態に係る移動部の面の平面図である。
【
図12】他の実施形態に係る移動部の面の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.実施形態
図1は、実施形態に係る鋳造装置10の構成を表す断面図である。以下の説明では、理解を容易にするため、XYZ直交座標系を設定する。X軸方向は、水平方向である。Y軸方向は鉛直方向である。Z軸方向は、X軸およびY軸に直交する方向である。
【0010】
鋳造装置10は、
図3A、
図3Bに示す鉄の被鋳ぐるみ材501を含むアルミニウム合金の部品を鋳造により作製する。鋳造されるアルミニウム合金の部品は、例えば、車両のボディとなる部品である。本実施形態では、鋳造方法としてダイカスト法を使用する例を説明する。
【0011】
図1に示すように、鋳造装置10は、固定型100と可動型200とを備える。固定型100を第1鋳型とも呼ぶ。可動型200を第2鋳型とも呼ぶ。固定型100と可動型200とは、融解材料が充填される隙間であるキャビティ300を形成する。可動型200は、型締めのときに固定型100に接触させられ、型開きのときに固定型100から離れる金型である。可動型200は、例えば、型締装置により移動させられる。
【0012】
固定型100は、第1通路110と、第2通路120と、駆動部130と、移動部140と、を有する。第1通路110を供給路とも呼ぶ。
【0013】
第1通路110は、固定型100の内部において、略鉛直方向に沿って延びる縦穴として形成された通路である。第1通路110は、被鋳ぐるみ材501が、被鋳ぐるみ材501の自重により移動できるよう形成されている。略鉛直方向に沿って延びるとは、第1通路110の両端を結んだ直線が、略鉛直方向に沿っていることをいう。ここで、略鉛直とは、鉛直線に対してプラスマイナス20度の範囲にあることをいう。より好ましくは、第1通路110の鉛直線に対する傾きは、鉛直線に対してプラスマイナス10度の範囲にあるとよい。さらに、より好ましくは、第1通路110の鉛直線に対する傾きは、鉛直線に対してプラスマイナス5度の範囲にあるとよい。
【0014】
第1通路110は、被鋳ぐるみ材501があらかじめ決められた姿勢を維持しながら第1通路110の内部を通り抜けることができる寸法および形状で構成されている。具体的には、第1通路110のX軸方向の長さは、
図3Bに示すような被鋳ぐるみ材501の厚みと略等しくなるよう形成されている。第1通路110のZ軸方向の長さは、
図3Aに示す被鋳ぐるみ材501の幅と略等しくなるよう形成されている。
図1に示すように、第1通路110の上側の端部、即ち、第1通路110の+Y側に位置する端部は、固定型100の上面において開口している。この開口は、被鋳ぐるみ材501を固定型100の内部に投入する投入口である。開口は、その面積が、例えば、1つの被鋳ぐるみ材501を受け入れることができる程度の面積となるよう形成されている。第1通路の下側の端部、即ち、第1通路の-Y側に位置する端部は、第2通路120に向かって開口している。この開口を第1開口端部111と呼ぶ。第1通路110の第1開口端部111を供給路の開口端部とも呼ぶ。
【0015】
第2通路120は、固定型100の110の内部において、略水平方向に沿って延びる横穴として形成された通路である。略水平方向に沿って延びるとは、第2通路120の両端を結んだ直線が、略水平方向に沿っていることをいう。ここで、略水平とは、水平線に対してプラスマイナス20度の範囲にあることをいう。より好ましくは、第2通路120の水平線に対する傾きは、水平線に対してプラスマイナス10度の範囲にあるとよい。さらに、より好ましくは、第2通路120の水平線に対する傾きは、水平線に対してプラスマイナス5度の範囲にあるとよい。
【0016】
第2通路120は、被鋳ぐるみ材501があらかじめ決められた姿勢を維持しながら第2通路120の内部を通り抜けることができる寸法および形状で構成されている。具体的には、第2通路120のY軸方向の長さは、
図3Aに示す被鋳ぐるみ材501の幅と略等しくなるよう形成されている。ここで、あらかじめ決められた姿勢とは、被鋳ぐるみ材501が、第1通路110から第2通路120の内部に落下したときの姿勢である。第2通路120の可動型200に近い側の端部、即ち、第2通路120の-X側に位置する端部は、キャビティ300に向かって開口している。この開口を第2開口端部121と呼ぶ。第2通路120の可動型200から遠い側の端部を第3端部122と呼ぶ。
【0017】
駆動部130は、移動部140を第2通路120の内部で移動させる。駆動部130は、円筒形状のシリンダチューブ131と、シリンダチューブ131の内部を往復するピストン132と、ピストン132と移動部140とを連結するピストンロッド133と、を含む。
【0018】
駆動部130は、例えば、油圧シリンダにより実現される。ポンプにより、シリンダチューブ131に作動液L5(作動油)が流入されると、作動液の圧力を受けたピストン132が押し出される。よって、ピストン132は前進する。ピストン132が前進するとは、ピストン132が-X方向に移動することをいう。一方、作動液がシリンダチューブ131から吐出されると、ピストン132に加えられる圧力が減少する。よって、ピストン132は、例えば、スプリングにより後退する。ピストン132が後退するとは、ピストンが+X方向に移動することをいう。ピストン132が、シリンダチューブ131の内部を往復すると、ピストン132にピストンロッド133を介して連結されている移動部140も往復する。
【0019】
移動部140は、駆動部130のピストン132の往復運動と連動して、第2通路120の内部を往復する。移動部140は、可動型200に対向する面141と、面141に設けられた凹部142と、を含む。
【0020】
図2は、第2通路120の第2開口端部121から移動部140を見た場合の面141の平面図である。
図1、
図2に示すように、面141の中央付近には、略円形の凹部142が形成されている。凹部142は、
図3A、
図3Bに示す被鋳ぐるみ材501の一部を受け入れるように形成されている。
図1を再び参照する。ピストン132が前進すると、移動部140は第2通路120の内部を-X方向に移動する。ピストン132が後退すると、移動部140は第2通路120の内部を+X方向に移動する。
【0021】
また、移動部140は、第3端部122より+X側に進むことができない。さらに、移動部140とピストン132とを連結するピストンロッド133が、あらかじめ決められた長さとなるよう形成されている。このため、移動部140は固定型100の-X側の端部から-X側に進むことができない。
【0022】
上記のように移動部140のX軸方向における移動範囲が規制されている。このため、移動部140は、位置P1と位置P2との間においていずれかの位置をとる。位置P1は、移動部140がキャビティ300の一部を画定する位置である。位置P2は、位置P1に比べて可動型200から遠い位置である。
【0023】
以下の説明において、移動部140が位置P1にあるとは、より具体的には、移動部140の面141がX軸上において位置P1に位置するように、移動部140が第2通路120の内部に配置されていることをいう。移動部140が位置P2にあるとは、より具体的には、移動部140の面141がX軸上において位置P2に位置するように、移動部140が第2通路120の内部に配置されていることをいう。位置P1を第1位置とも呼ぶ。位置P2を第2位置とも呼ぶ。
【0024】
移動部140は、位置P1にあるとき、キャビティ300の一部を画定する。より具体的には、移動部140は、位置P1にあるとき、第2通路120の第2開口端部121を塞ぐ。よって、移動部140の面141がキャビティ300の一部を形成する。移動部140の外形の形状と第2開口端部121の開口の形状とはいずれも公差寸法の範囲内で形成されている。これにより、移動部140が第2開口端部121を塞いでいるときに、移動部140と第2開口端部121との間の隙間から、キャビティ300に充填された融解材料が第2通路120の内部に流入することを防止できる。
【0025】
さらに、移動部140は、位置P1にあるときは、第1通路110の第1開口端部111を塞ぐ。一方、移動部140は、位置P2にあるとき、第1通路110の第1開口端部111を塞がない。即ち、移動部140が位置P2にあるとき、第1通路110の第1開口端部111は開放している。
【0026】
図3Aは、被鋳ぐるみ材501を上から見た上面図である。
図3Bは、被鋳ぐるみ材501を側面から見た側面図である。図示するように、被鋳ぐるみ材501は、略円盤形状に形成されている。例えば、被鋳ぐるみ材501の大きさは直径2センチメートル程度である。
図3Bに示すように、被鋳ぐるみ材501は、サイズが異なる4枚の鉄製の円形の板を重ね合わせたような形状に形成されている。図示する例では、被鋳ぐるみ材501は、上から順に、1番小さいサイズの円形の板、2番目に小さいサイズの円形の板、1番大きいサイズの円形の板、2番目に小さいサイズの円形の板が配置されたような形状に形成されている。例えば、被鋳ぐるみ材501は、鍛造した鉄を切削加工して形成する。このように、被鋳ぐるみ材は、中央部の厚みが厚く、外周部の厚みが薄い略円盤形状に形成されている。以下、被鋳ぐるみ材501の紙面上側の面を凸面、紙面下側の面を平面と呼ぶものとする。
【0027】
被鋳ぐるみ材501の厚さは、被鋳ぐるみ材501が鋳ぐるみされる鋳造品の厚みにより、適宜変更される。被鋳ぐるみ材501の一部は、鋳造品の外部に露出させられている。これにより、鋳造装置10により鋳造される鋳造品と鉄の部品とを接合する場合、鋳造品に含まれる被鋳ぐるみ材501と鉄の部分とを溶接することができる。また、被鋳ぐるみ材501の大きさは、例えば、鋳造装置10が鋳造する鋳造品と鉄の部品との接合部分に要求される強度により、適宜変更される。
【0028】
図4から
図8は鋳造品を鋳造するときの、鋳造装置10の動作の様子を表した図である。以下、
図4から
図8を参照しながら、鋳造品の作製方法を説明する。
【0029】
図4に示すように、移動部140は、初期位置である位置P2に配置されている。この状態で、例えば、作業者が固定型100の投入口から被鋳ぐるみ材501を固定型100の内部に投入する。ここで、作業者は、被鋳ぐるみ材501の凸面が位置P2の側に、平面が位置P1の側となるように、被鋳ぐるみ材501を固定型100に投入するものとする。さらに、作業者は、鋳造装置10による鋳造品の作製に先立って、1日に作製が予定されている数の鋳造品のために必要とされる数の被鋳ぐるみ材501を一度に固定型100に投入してもよい。この場合、第1通路110の内部に固定型100に投入された複数の被鋳ぐるみ材501が略鉛直方向に積み重ねられている。
【0030】
最初に投入された被鋳ぐるみ材501は、第1通路110を通過して、第2通路120の内部に落下する。このとき、
図4に示すように、被鋳ぐるみ材501は、位置P2にある移動部140の近傍に落下する。より具体的には、被鋳ぐるみ材501は、位置P2にある移動部140に対して位置P1の側にある位置側に落下する。このとき、被鋳ぐるみ材501の凸面が移動部140に接触している。ここで、被鋳ぐるみ材501の重心は凸面側にあるものとする。このため被鋳ぐるみ材501は、移動部140から離れる方向に倒れることがない。
【0031】
例えば、型締めのタイミングで、ピストン132が前進を開始する。よって、移動部140が被鋳ぐるみ材501を押しながら、矢印A1が示す方向に移動する。このとき被鋳ぐるみ材501に接触する面141に形成されている凹部142が、被鋳ぐるみ材501の凸面の中央部の厚み部分を受け入れている。このため、移動部140は、被鋳ぐるみ材501の姿勢を維持したまま、被鋳ぐるみ材501を運ぶことができる。
【0032】
移動部140が前進するにつれて、第1通路の第1開口端部111が移動部140により徐々に閉じられる。図示するように、被鋳ぐるみ材501の厚さは、第1開口端部111のX軸方向の長さと略等しい。移動部140が前進することにより第1開口端部111の開口の面積が小さくなるので、次の被鋳ぐるみ材501は、第1開口端部111を通り抜けることができない。このため、第1通路110内にある他の被鋳ぐるみ材501が第2通路120の内部に落下することはない。移動部140は、さらに前進し、被鋳ぐるみ材501を第2開口端部121からキャビティ300に押し出す。
【0033】
図5に示すように、位置P1にある移動部140は、被鋳ぐるみ材501を可動型200のキャビティ300の一部を画定する面のうち、可動型200に対して移動部140を投影したときに移動部140の面141が重なる領域に押しつけている。これにより、被鋳ぐるみ材501は、移動部140と可動型200とによりキャビティ300の内部に保持されている。このとき、移動部140は、凹部142が被鋳ぐるみ材501の凸面の一部を受け入れている状態で、被鋳ぐるみ材501を可動型200に押しつけている。よって、キャビティ300の内部に配置された被鋳ぐるみ材501の位置がずれることを防止することができる。さらに、被鋳ぐるみ材501が落下することを防止することができる。
【0034】
図6に示すように、続いて、アルミニウム合金の融解材料M10が射出装置により、キャビティ300に圧入され、冷却される。
【0035】
図7に示すように、例えば、型締装置が可動型200を開いた後、搬出装置が固定型100から鋳造品を取り出す。
【0036】
できあがった鋳造品が固定型100から取り出された後、ピストン132の後退により、移動部140が後退する。移動部140が矢印A2の方向に移動するにつれて、移動部140により塞がれていた第1通路の第1開口端部111が徐々に開かれる。
【0037】
図8に示すように、移動部140が初期位置(位置P2)に戻ると、第1開口端部111は完全に開放した状態となる。その結果、第1通路110内から別の被鋳ぐるみ材501が第2通路120に落下する。よって、鋳造装置10は、再び、
図4から
図8に示す工程を実行し、新たな鋳造品を作製する。以上が、鋳造装置10による鋳造品の作製方法である。なお、
図8では、第1通路110に配置された複数の被鋳ぐるみ材501のうちの最後の被鋳ぐるみ材501の落下している様子を表している。
【0038】
従来は、被鋳ぐるみ材の型内への搬送のため、ロボットアーム、ロボットハンド、治具等の設備および器具を使用する必要があった。例えば、車両のボディを構成する部品は比較的大型の鋳造品である。このような大型の鋳造品の金型の決められた位置に、例えば、直径2センチメートル程度の大きさの被鋳ぐるみ材を配置するためには、治具を使用した被鋳ぐるみ材の位置決め、ロボットによる搬送等が必須であった。実施形態に係る鋳造装置10においては、固定型100の移動部140が移動して、固定型100の内部に投入された被鋳ぐるみ材501をキャビティ300の内部の決められた位置に配置する(
図4から
図6参照)。このため、実施形態に係る構成を採用することにより、大がかりな設備および器具は不要となる。
【0039】
また、移動部140が、初期位置である位置P2から位置P1への移動を開始してから、再び、初期位置である位置P2へ戻るまでは、新たな被鋳ぐるみ材501が移動部140に供給されない(
図5から
図7参照)。移動部140が再び初期位置である位置P2に戻ったときに、第1通路110の第1開口端部111は再び開放される(
図8参照)。このように、移動部140の移動により第1通路110の第1開口端部111の開閉を制御するので、簡易な構成で被鋳ぐるみ材501をキャビティ300に順次配置できる。
【0040】
図9は、鋳造装置10により鋳造されたアルミニウム合金の部品と(鋳造品500)と鉄の部品とを接合する様子を表した図である。鋳造品500は、被鋳ぐるみ材501(
図3Aおよび
図3B参照)と鋳ぐるみ材502とを含む。鋳ぐるみ材502は、
図6に示したアルミニウム合金の融解材料M10が固まったものである。鉄板800は、プレス加工された鉄の部品の一例である。例えば、スポット溶接により鋳造品500と鉄板800とを接合する。この場合、鉄板800と鋳造品500の被鋳ぐるみ材501が含まれている部分とを重ね、重ね合わせた箇所を電極で挟み、電極に電流を流すと同時に電極で矢印A11の方向および矢印A12の方向に加圧する。
【0041】
B.他の実施形態
(B1)上記の実施形態においては、
図1、
図2に示すように、移動部140の面141の中央付近に、略円形の凹部142が形成されている例を説明した。しかし、凹部142の面141における位置、形状については適宜変更可能である。
【0042】
図10は、他の実施形態に係る鋳造装置10の構成を表す断面図である。
図11は、他の実施形態における第2通路120の第2開口端部121から移動部140を見た場合の面141の平面図である。
図10、
図11に示すように、面141の中央付近から鉛直上方に向けて延びた溝として形成された凹部142aが面141に設けられている。
図10に示すように、他の実施形態においては、移動部140が初期位置である位置P2にあるとき、第1通路110の内面の一部(可動型から遠い方の内側面)と、移動部140の面141と、段差がある構成となっている。より具体的には、第1通路110の内面の一部(可動型から遠い方の内側面)と、凹部142aの内側面のうち鉛直方向に平行な面とに段差ができない構成となっている。
【0043】
図12は、他の形状の凹部142bを有する面141の平面図である。
図12に示す面141に設けられている凹部142bは、面141の中央付近から鉛直上方に向けて広がる溝として形成されている。この場合も、
図10に示す例と同様に、移動部140が初期位置である位置P2にあるとき、第1通路110の内面の一部(可動型から遠い方の内側面)と、凹部142aの内側面のうち鉛直方向に平行な面とに段差ができない構成となっている。
【0044】
上記のように移動部140を構成することにより(
図10から
図12参照)、被鋳ぐるみ材501が、第2通路120の底面に着地する前であって落下している最中においても、凹部142aは、被鋳ぐるみ材501の凸面の一部を受け入れることができる。移動部140が移動する前から、凹部142aが、被鋳ぐるみ材501の一部を受け入れているので、被鋳ぐるみ材501が、第2通路120の内部で倒れにくくなる。よって、移動部140が、被鋳ぐるみ材501の姿勢を維持したまま、被鋳ぐるみ材501を運ぶことがより容易となる。なお、凹部142の面141における位置、形状は、被鋳ぐるみ材501の形状に合わせて形成されることが望ましい。
【0045】
あるいは、移動部140の面141に凹部142を形成しなくてもよい。この場合であっても、移動部140が、被鋳ぐるみ材501に十分な圧力を加えて、可動型200に押しつけることで、被鋳ぐるみ材501がキャビティ300の内部において落下することを防止できる。この場合、被鋳ぐるみ材501の一部を受け入れる凹部142を移動部140に設ける必要がないため、移動部140の構成をより簡易なものとすることができる。
【0046】
(B2)上記の実施形態においては、
図1に示すように、被鋳ぐるみ材501が通る通路が、略鉛直方向に沿って形成された第1通路110と略水平方向に沿って形成された第2通路120とである例を説明した。しかし、第1通路110と第2通路120との構成はこれに限られない。
【0047】
例えば、第1通路110が略水平方向に沿って形成された通路であり、第2通路120が略鉛直方向に沿って形成された通路であってもよい。例えば、
図1を時計回りに90度回転させた態様である。この場合、第2通路120の第2開口端部121は、固定型100の上面において開口している。可動型200は、固定型100の上部に配置されている。移動部140は、鉛直方向に移動可能である。例えば、作業者が被鋳ぐるみ材501を固定型100の側面に形成されている投入口から固定型100の内部に供給する。このとき、被鋳ぐるみ材501は自重により落下することができない。このため、例えば、エアーブロー装置が吹き出したエアーにより、被鋳ぐるみ材501を第1通路110から第2通路120に移動させる。その後、移動部140が、下から上に向かって移動し、被鋳ぐるみ材501を固定型100と可動型200とにより画定されたキャビティに押し出す。このとき、被鋳ぐるみ材501は、移動部140により保持されている。この場合も、移動部140が移動して、被鋳ぐるみ材501をキャビティ300の内部の決められた位置に配置するため、大がかりな設備および器具は不要となる。
【0048】
(B3)あるいは、第1通路110が鉛直方向に対して傾斜した方向に沿って形成された通路であり、第2通路120が水平方向に対して傾斜した方向に沿って形成された通路であってもよい。例えば、
図1を時計回りに45度回転させた態様である。この場合、投入口から固定型100の内部に投入された被鋳ぐるみ材501は、自重あるいはエアーにより、第1通路110を通って、第2通路120に落下する。移動部140は、斜め下から斜め上に向かって移動して、被鋳ぐるみ材501を固定型100と可動型200とにより画定されたキャビティ300に押し出す。このとき、被鋳ぐるみ材501は、移動部140と可動型200とのうち、少なくとも移動部140により保持されている。この場合も、移動部140が移動して、被鋳ぐるみ材501をキャビティ300の内部の決められた位置に配置するため、大がかりな設備および器具は不要となる。
【0049】
(B4)鋳造装置10は、複数の被鋳ぐるみ材501を含む鋳造品500を作製できる構成であってもよい。この場合、被鋳ぐるみ材501の数に応じ、固定型100内に第1通路110、第2通路120、駆動部130、および移動部140を複数組設ければよい。
【0050】
(B5)実施形態においては移動部140の前進・後退により、第1通路110の第1開口端部111が開閉され、第2通路120の内部への被鋳ぐるみ材501の供給を制御していた。しかし、移動部140により第1開口端部111を塞がずに、例えば、第1通路110の第1開口端部111を塞ぐ蓋を設けてもよい。この場合、被鋳ぐるみ材501を第2通路120の内部に供給するときに、蓋を開けて、被鋳ぐるみ材501が第2通路120の内部に配置された後、蓋を閉じるようにしてもよい。
【0051】
また、移動部140の面141に凹部142を形成しなくてもよい。この場合であっても、移動部140が、被鋳ぐるみ材501に十分な圧力を加えて、可動型200に押しつけることで、被鋳ぐるみ材501がキャビティ300の内部において落下することを防止できる。
【0052】
実施形態においては、第1通路110、第2通路120が直線状の通路である例を説明したが、第1通路110、第2通路120は必ずしも直線状の通路でなくてもよい。例えば、第1通路110、第2通路120の一部あるいは全部が曲がって形成されていてもよい。
実施形態においては、一例として、ダイカスト法による鋳造を説明したが、本開示の技術は、重力鋳造法による鋳造に適用してもよい。
【0053】
実施形態においては、被鋳ぐるみ材501として鉄を使用し、鋳ぐるみ材502としてアルミニウム合金を使用する例を説明したが、被鋳ぐるみ材501、鋳ぐるみ材502の材料は、これに限られない。例えば、被鋳ぐるみ材501としてステンレスを使用してもよい。また、鋳ぐるみ材502として、チタン合金を使用してもよい。
【0054】
実施形態では、駆動部130が油圧シリンダにより実現される例を説明したが、これに限られない。駆動部130は、エアシリンダ、電動シリンダ等によって実現されてもよい。
【0055】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
10…鋳造装置、100…固定型、110…第1通路、111…第1開口端部、120…第2通路、121…第2開口端部、122…第3端部、130…駆動部、131…シリンダチューブ、132…ピストン、133…ピストンロッド、140…移動部、141…面、142…凹部、200…可動型、300…キャビティ、500…鋳造品、501…被鋳ぐるみ材、502…鋳ぐるみ材、800…鉄板、A1,A2,A11,A12…矢印、L5…作動液、M10…融解材料、P1,P2…位置