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特開2022-185732溶接ワイヤ送給装置及びそれを備えたアーク溶接システム
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  • 特開-溶接ワイヤ送給装置及びそれを備えたアーク溶接システム 図1
  • 特開-溶接ワイヤ送給装置及びそれを備えたアーク溶接システム 図2
  • 特開-溶接ワイヤ送給装置及びそれを備えたアーク溶接システム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185732
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】溶接ワイヤ送給装置及びそれを備えたアーク溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/133 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
B23K9/133 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093525
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芝田 峻
(72)【発明者】
【氏名】大原 隆靖
(72)【発明者】
【氏名】福光 洋一
(57)【要約】
【課題】溶接ワイヤの母材への送給速度を所望の速度に維持するためのユーザの作業量及び作業時間を削減するとともに安定した良好な溶接品質を得る。
【解決手段】溶接ワイヤ送給装置7に、溶接ワイヤ3が母材5に向かって前進と後退を所定周期で繰り返しながら送給されるように第1のモータ713を制御する第1のモータ制御部731と、第1のモータ713のモータ電流に基づいて、前記所定周期の整数倍である所定時間分のこのモータ電流の平均値と所定の基準値との差が小さくなり、かつ溶接ワイヤ3が第1の加圧ローラ711及び第1の送給ローラ712に向かって前進するように第2のモータ723を制御する第2のモータ制御部732とを設ける。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを母材に向けて送給する溶接ワイヤ送給装置であって、
前記溶接ワイヤを挟む第1の送給ローラ及び第1の加圧ローラと、
前記第1の送給ローラを回転させる第1のモータと、
前記溶接ワイヤが前記母材に向かって前進と後退を所定周期で繰り返しながら送給されるように前記第1のモータを制御する第1のモータ制御部と、
前記第1の送給ローラ及び前記第1の加圧ローラの反母材側で前記溶接ワイヤを挟む第2の送給ローラ及び第2の加圧ローラと、
前記第2の送給ローラを回転させる第2のモータと、
前記第1のモータのモータ電流に基づいて、前記所定周期の整数倍である所定時間分の当該モータ電流の平均値と所定の基準値との差が小さくなり、かつ前記第2の送給ローラ及び前記第2の加圧ローラが前記溶接ワイヤを前進させるように前記第2のモータを制御する第2のモータ制御部とを備えていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接ワイヤ送給装置において、
前記第1の送給ローラ及び前記第1の加圧ローラは、溶接トーチに設けられていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項3】
請求項2に記載の溶接ワイヤ送給装置と、
前記溶接トーチを移動させるマニピュレータとを備えたアーク溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤを母材に向けて送給する溶接ワイヤ送給装置及びそれを備えたアーク溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、溶接ワイヤを母材に向かって進退させる第1のローラと、前記第1のローラを回転させる第1のモータと、前記第1のローラの反母材側で前記溶接ワイヤを前記母材に向かって進退させる第2のローラと、前記第2のローラを回転させる第2のモータとを備えた溶接ワイヤ送給装置が開示されている。この溶接ワイヤ送給装置では、前記第1のローラと前記第2のローラとの間にワイヤバッファを設け、当該ワイヤバッファにバッファリングされている溶接ワイヤの量が所定の数値範囲内となるように前記第1のモータ及び第2のモータの少なくとも一方を制御することにより、適切なワイヤ送給を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6155151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のような溶接ワイヤ送給装置にワイヤバッファを設けず、溶接ワイヤを所望の速度で母材に送給するように第1のモータを制御する場合、第2のローラによる溶接ワイヤの送給力を適切な数値範囲内に設定しないと、第1のローラに送給される溶接ワイヤの送給抵抗が大きくなり過ぎて溶接ワイヤの母材への送給速度を所望の速度に維持できなくなる。また、第2のローラによる溶接ワイヤの送給力の適切な数値範囲は、第1のローラの位置や姿勢、及び溶接ワイヤの種類等によって異なる。しかし、溶接トーチの位置や姿勢、又は溶接ワイヤの種類を変更する度に、第2のローラによる溶接ワイヤの送給力が適切な数値範囲内となるように第2のモータのモータ電流を手作業で調整するようにすると、ユーザの作業量及び作業時間が増大するとともに溶接品質がばらつきやすくなる。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、溶接ワイヤの母材への送給速度を所望の速度に維持するためのユーザの作業量及び作業時間を削減するとともに安定した良好な溶接品質を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、溶接ワイヤを母材に向けて送給する溶接ワイヤ送給装置であって、前記溶接ワイヤを挟む第1の送給ローラ及び第1の加圧ローラと、前記第1の送給ローラを回転させる第1のモータと、前記溶接ワイヤが前記母材に向かって前進と後退を所定周期で繰り返しながら送給されるように前記第1のモータを制御する第1のモータ制御部と、前記第1の送給ローラ及び前記第1の加圧ローラの反母材側で前記溶接ワイヤを挟む第2の送給ローラ及び第2の加圧ローラと、前記第2の送給ローラを回転させる第2のモータと、前記第1のモータのモータ電流に基づいて、前記所定周期の整数倍である所定時間分の当該モータ電流の平均値と所定の基準値との差が小さくなり、かつ前記第2の送給ローラ及び前記第2の加圧ローラが前記溶接ワイヤを前進させるように前記第2のモータを制御する第2のモータ制御部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
これにより、第2のモータ制御部が、第1のモータのモータ電流の所定時間分の平均値と所定の基準値との差が小さくなるように第2のモータを自動的に制御するので、第2のモータのモータ電流を手作業で調整しなくても、第1のローラに送給される溶接ワイヤの送給抵抗が大きくなり過ぎるのを抑制できる。したがって、溶接ワイヤの母材への送給速度を所望の速度に維持するためのユーザの作業量及び作業時間を削減でき、より安定した良好な溶接品質が得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、溶接ワイヤの母材への送給速度を所望の速度に維持するためのユーザの作業量及び作業時間を削減でき、より安定した良好な溶接品質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るアーク溶接システムの構成を示す概略図である。
図2】溶接ワイヤ送給装置の構成を示すブロック図である。
図3】ワイヤブースターによる溶接ワイヤの送給力と、第1のモータのモータ電流の所定時間分の平均値の基準値との差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るアーク溶接システム1の構成を示す。このアーク溶接システム1は、溶接ワイヤ3を母材5に向けて送給してアーク溶接を行う。このアーク溶接システム1は、溶接ワイヤ送給装置7と、マニピュレータ9と、溶接電流供給装置11とを備えている。
【0012】
溶接ワイヤ送給装置7は、溶接ワイヤ3を母材5に向けて送給する。具体的には、溶接ワイヤ送給装置7は、溶接トーチとしてのサーボプルトーチ71と、ワイヤブースター72と、制御装置73と、引き出し装置74と、ペールパック75とを備えている。
【0013】
サーボプルトーチ71は、溶接ワイヤ3を保持した状態で、シールドガス及び溶接ワイヤ3を母材5に供給し、溶融した溶接ワイヤ3をシールドガスで包囲して保護しながら母材5を溶接するように構成されている。具体的には、サーボプルトーチ71は、図2に示すように、第1の加圧ローラ711と、第1の送給ローラ712と、第1のモータ713とを備えている。なお、シールドガスは、図示しないボンベから図示しない供給手段によってサーボプルトーチ71に送られる。
【0014】
第1の加圧ローラ711と第1の送給ローラ712は、溶接ワイヤ3を挟んだ状態で溶接ワイヤ3に接触している。
【0015】
第1のモータ713は、第1の送給ローラ712を回転させる。
【0016】
ワイヤブースター72は、ペールパック75から引き出し装置74を介して引き出された溶接ワイヤ3をサーボプルトーチ71に送給する。具体的には、ワイヤブースター72は、第2の加圧ローラ721と、第2の送給ローラ722と、第2のモータ723とを備えている。
【0017】
第2の加圧ローラ721と第2の送給ローラ722は、第1の加圧ローラ711及び第1の送給ローラ712の反母材5側で、溶接ワイヤ3を挟んだ状態で溶接ワイヤ3に接触している。
【0018】
第2のモータ723は、第2の送給ローラ722を回転させる。
【0019】
制御装置73は、第1のモータ713を制御する第1のモータ制御部731と、第2のモータ723を制御する第2のモータ制御部732とを有している。
【0020】
第1のモータ制御部731は、溶接ワイヤ3が母材5に向かって前進と後退を所定周期で繰り返しながら所望の速度で送給されるように第1のモータ713を制御する。第1のモータ制御部731は、溶接電圧(アーク電圧)を参照し、当該溶接電圧が所定の設定電圧となるように第1のモータ713を制御する。
【0021】
第2のモータ制御部732は、第2の加圧ローラ721及び第2の送給ローラ722が溶接ワイヤ3を第1の加圧ローラ711及び第1の送給ローラ712に向かって前進(正送)させるように第2のモータ723を制御する。このとき、第2のモータ制御部732は、第1のモータ713のモータ電流に基づいて、当該モータ電流と所定の基準値との差が小さくなるように第2のモータ723を制御する。第1のモータ713のモータ電流は、第1のモータ713のコイルを流れる電流であり、第1のモータ713の入力電流を測定する電流計により取得できるが、取得方法はこれに限定されない。
【0022】
マニピュレータ9は、多関節型アームで構成されている。マニピュレータ9の先端に前記サーボプルトーチ71が取り付けられている。マニピュレータ9は、サーボプルトーチ71を所定の溶接計画線(予定された溶接軌跡)に沿って移動させるように図示しない制御手段によって制御される。
【0023】
溶接電流供給装置11は、溶接ワイヤ3と母材5との間に溶接電流を供給する。
【0024】
上述のように構成されたアーク溶接システム1では、溶接ワイヤ3と母材5との間に溶接電流が供給された状態で、溶接ワイヤ送給装置7の第1のモータ制御部731の制御により、第1のモータ713が第1の送給ローラ712を2方向に回転させ、溶接ワイヤ3が母材5に向かって前進と後退を所定周期で繰り返しながら送給される。また、第2のモータ制御部732の制御により、第2のモータ723が第2の送給ローラ722を回転させ、第2の加圧ローラ721及び第2の送給ローラ722が、溶接ワイヤ3を第1の加圧ローラ711及び第1の送給ローラ712に向かって前進させる。溶接動作中、第2のモータ制御部732は、溶接ワイヤ3を第1の加圧ローラ711及び第1の送給ローラ712に向かって前進させるが、後退させないように、第2のモータ723を制御する。したがって、第2の加圧ローラ721及び第2の送給ローラ722は、溶接動作中、溶接ワイヤ3を前進させるが、後退させない。また、このとき、第2のモータ制御部732は、第1のモータ713のモータ電流に基づいて、当該モータ電流の所定時間分の平均値と所定の基準値との差を算出し、当該差が小さくなるように第2のモータ723を制御する。当該所定時間は、溶接ワイヤ3が前進と後退を繰り返す前記所定周期の整数倍である。詳しくは、第2のモータ制御部732は、所定の制御周期毎に、第1のモータ713のモータ電流を参照し、当該モータ電流の前記所定時間分の平均値と所定の基準値との差を算出し、当該差が小さくなるように第2のモータ723のモータ電流を更新する。
【0025】
ここで、図3は、ワイヤブースター(第2の加圧ローラ721及び第2の送給ローラ722)72による溶接ワイヤ3の送給力と、第1のモータ713のモータ電流の前記所定時間分の平均値の基準値との差の関係を示す。本実施形態において、基準値は、第1の送給ローラ712に送給される溶接ワイヤ3の送給抵抗が0である場合に、溶接ワイヤ3を所望の速度で送給するのに必要な第1のモータ713のモータ電流の前記所定時間分の平均値である。
【0026】
図3中、符号EX1、EX2、EX3で示す点では、第1のモータ713のモータ電流の前記所定時間分の平均値の基準値との差が、0Aを上回っている。これらの場合、ワイヤブースター72による溶接ワイヤ3の送給力が弱すぎると考えられる。したがって、第2のモータ制御部732は、ワイヤブースター72による溶接ワイヤ3の送給力がより大きくなるように、第2のモータ723を制御する。つまり、第2のモータ制御部732は、第2のモータ723のモータ電流を増大させる。
【0027】
一方、図3中、符号EX4、EX5、EX6で示す点では、第1のモータ713のモータ電流の前記所定時間分の平均値の基準値との差が、0Aを下回っている。これらの場合、ワイヤブースター72による溶接ワイヤ3の送給力が強すぎると考えられる。したがって、第2のモータ制御部732は、ワイヤブースター72による溶接ワイヤ3の送給力がより小さくなるように、第2のモータ723を制御する。つまり、第2のモータ制御部732は、第2のモータ723のモータ電流を減らす。
【0028】
このように、本実施形態では、第1の加圧ローラ711及び第1の送給ローラ712がマニピュレータ9の先端に取り付けられたサーボプルトーチ71に設けられているので、ワイヤブースター72による溶接ワイヤ3の送給力の適切な数値範囲は、マニピュレータ9の動きに伴うサーボプルトーチ71の位置や姿勢の変化に応じて変動する。しかし、第2のモータ制御部732が、第1のモータ713のモータ電流の前記所定時間分の平均値と基準値との差が小さくなるように第2のモータ723を自動的に制御するので、サーボプルトーチ71の位置や姿勢が変化する度に第2のモータ723のモータ電流を手作業で調整しなくても、第1の送給ローラ712に送給される溶接ワイヤ3の送給抵抗が大きくなり過ぎるのを抑制できる。したがって、溶接ワイヤ3の速度を所望の速度に維持するためのユーザの作業量及び作業時間を削減でき、より安定した良好な溶接品質が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の溶接ワイヤ送給装置及びそれを備えたアーク溶接システムは、溶接ワイヤの送給速度を所望の速度に維持するためのユーザの作業量及び作業時間を削減でき、より安定した良好な溶接品質が得られ、溶接ワイヤを母材に向けて送給する溶接ワイヤ送給装置及びそれを備えたアーク溶接システムとして有用である。
【符号の説明】
【0030】
1 アーク溶接システム
3 溶接ワイヤ
5 母材
7 溶接ワイヤ送給装置
9 マニピュレータ
711 第1の加圧ローラ
712 第1の送給ローラ
713 第1のモータ
721 第1の加圧ローラ
722 第2の送給ローラ
723 第2のモータ
731 第1のモータ制御部
732 第2のモータ制御部
図1
図2
図3