(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185734
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221208BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G21/00 386
G03G21/00 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093530
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 尭行
【テーマコード(参考)】
2H033
2H270
【Fターム(参考)】
2H033BA11
2H033BA12
2H033BB03
2H033BB04
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB12
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB37
2H033BE00
2H033BE03
2H033BE06
2H033CA16
2H033CA23
2H033CA36
2H033CA40
2H033CA57
2H270KA59
2H270KA61
2H270LA01
2H270LA70
2H270LA80
2H270LC02
2H270LC04
2H270MA34
2H270MD10
2H270NC20
2H270NC22
2H270QB07
2H270RA13
2H270RB03
2H270RC03
2H270RC04
2H270RC16
2H270ZC03
2H270ZC04
(57)【要約】
【課題】許容範囲を超える大きさの異音が発生する前の適切な時点に定着ベルトを交換することが可能な定着装置を提供する。
【解決手段】記憶部は、定着ベルトの回転中に許容範囲を超える大きさの異音が発生するときの定着モーターのトルクの標準偏差を閾値として記憶し、制御部は、定着モーターを回転させてトルクの標準偏差を算出し、算出したトルクの標準偏差に基づき、トルクの標準偏差が閾値に到達する閾値時点を予測する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に支持される無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトの内周面に接触する押圧パッドと、
前記定着ベルトの外周面に接触し、前記押圧パッドとの間で前記定着ベルトを挟み、前記定着ベルトと共に回転する加圧ローラーと、
前記定着ベルトまたは前記加圧ローラーを回転させる定着モーターと、
前記定着モーターを制御する制御部と、
記憶部と、を備え、
前記記憶部は、前記定着ベルトの回転中に許容範囲を超える大きさの異音が発生するときの前記定着モーターのトルクの標準偏差を閾値として予め記憶し、
前記制御部は、前記定着モーターを回転させて前記トルクの標準偏差を算出し、算出した前記トルクの標準偏差に基づき、前記トルクの標準偏差が前記閾値に到達する閾値時点を予測する予測処理を行う、定着装置。
【請求項2】
前記制御部は、予め定められた確認時点になるごとに、前記予測処理を行い、
前記確認時点になったとき、前記制御部は、現在の前記トルクの標準偏差を算出し、過去の前記トルクの標準偏差と現在の前記トルクの標準偏差とに基づき、前記閾値時点を予測する、請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記制御部は、過去の前記トルクの標準偏差および現在の前記トルクの標準偏差の各値から近似直線を求め、求めた前記近似直線の傾きに基づき前記閾値時点を予測する、請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記予測処理を前回行ってからの印刷枚数が予め定められた基準枚数に到達したとき、前記制御部は、前記確認時点になったと判断する、請求項2または3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記閾値時点よりも前の時点を前記定着ベルトの交換をすべきベルト交換時点として予測する、請求項1~4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記予測処理を行ったとき、前記制御部は、前記予測処理を今回行った時点から前記閾値時点に到達するまでの印刷枚数を閾値枚数として予測し、前記予測処理を今回行った時点からの印刷枚数が前記閾値枚数よりも所定枚数少ない枚数に到達する時点を前記ベルト交換時点として予測する、請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記制御部は、報知を行う報知部に接続され、
前記ベルト交換時点になったとき、前記制御部は、前記定着ベルトの交換を促す旨の報知を前記報知部に行わせる、請求項5または6に記載の定着装置。
【請求項8】
印刷ジョブでは、トナー像が転写された用紙が前記定着ベルトと前記加圧ローラーとの間に形成される定着ニップに搬送され、前記定着ニップを前記用紙が通過することによって前記トナー像が前記用紙に定着され、
前記用紙が普通紙のとき、前記制御部は、前記定着モーターを予め定められた標準速度で回転させ、
前記予測処理を行うとき、前記制御部は、前記定着モーターを前記標準速度よりも遅い低速で回転させた状態で前記定着モーターに流れる電流値を検出し、検出した前記電流値に基づき前記トルクの標準偏差を算出する、請求項1~7のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項9】
印刷ジョブでは、トナー像が転写された用紙が前記定着ベルトと前記定着ローラーとの間に形成される定着ニップに搬送され、前記定着ニップを前記用紙が通過することによって前記トナー像が前記用紙に定着され、
前記予想処理を行うとき、前記制御部は、前記定着モーターを回転させる一方で前記定着ニップに前記用紙を搬送せずに前記定着モーターに流れる電流値を検出し、検出した前記電流値に基づき前記トルクの標準偏差を算出する、請求項1~8のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の定着装置を備える、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置は、定着装置を備える。定着装置は、ローラーを有し、当該ローラーをモーターで回転させる。これにより、定着処理が行われる。このような定着装置を備える画像形成装置は、たとえば、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1の画像形成装置は、定着装置のモーターのトルク検出を行う。そして、モーターのトルクが一定時間以上、正常時の値よりも大きいとき、定着装置が故障していると判断し、画像形成装置の動作を停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の定着装置には、定着ベルト(無端状のベルト)を回転させて定着処理を行うものがある。定着ベルトを備える定着装置は、たとえば、押圧パッドおよび加圧ローラーをさらに備える。押圧パッドは、定着ベルトの内側に配置され、外側に向けて定着ベルトを押圧する。加圧ローラーは、押圧パッドとの間で定着ベルトを挟み、定着ベルトとの間で定着ニップを形成する。そして、定着処理の実行中、加圧ローラーおよび定着ベルトのうち一方が回転し、他方が従動して回転する。
【0006】
定着ベルトは、その内周面が押圧パッドと接触した状態で回転する。このため、定着ベルトの回転中、定着ベルトの内周面と押圧パッドとの間に摺動負荷が生じる。そして、定着ベルトの累計使用時間が長くなると、摺動負荷の変動が大きくなり、画像形成装置の全体に振動が伝わって異音が発生する。許容範囲を超えるほどの大きな異音が発生すると、ユーザーにとっては煩わしい。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、許容範囲を超える大きさの異音が発生する前の適切な時点に定着ベルトを交換することが可能な定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の局面による定着装置は、回転可能に支持される無端状の定着ベルトと、定着ベルトの内周面に接触する押圧パッドと、定着ベルトの外周面に接触し、押圧パッドとの間で定着ベルトを挟み、定着ベルトと共に回転する加圧ローラーと、定着ベルトまたは加圧ローラーを回転させる定着モーターと、定着モーターを制御する制御部と、記憶部と、を備える。記憶部は、定着ベルトの回転中に許容範囲を超える大きさの異音が発生するときの定着モーターのトルクの標準偏差を閾値として予め記憶する。制御部は、定着モーターを回転させてトルクの標準偏差を算出し、算出したトルクの標準偏差に基づき、トルクの標準偏差が閾値に到達する閾値時点を予測する予測処理を行う。
【0009】
本発明の第2の局面による画像形成装置は、上記定着装置を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成では、許容範囲を超える大きさの異音が発生する前の適切な時点に定着ベルトを交換できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】一実施形態の画像処理装置に設置される定着装置の概略図である。
【
図3】一実施形態の画像処理装置に設置される定着装置の定着ベルト周辺の断面図である。
【
図4】一実施形態の画像形成装置のブロック図である。
【
図5】一実施形態の画像形成装置の制御部が行う処理のフローチャートである。
【
図6】一実施形態の画像形成装置の制御部が求める近似曲線を示す図である。
【
図7】一実施形態の画像形成装置の報知部が表示するメッセージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<画像形成装置の構成>
図1に示すように、本実施形態の画像形成装置100は、電子写真方式で印刷を行う複合機であり、定着装置10を備える。定着装置10の構成については、後に詳細に説明する。
【0013】
画像形成装置100は、給紙部110を備える。給紙部110は、給紙カセット111および給紙ローラー112を含む。給紙カセット111は、用紙Sを収容する。給紙ローラー112は、給紙ローラー112の用紙Sに当接し、回転する。これにより、給紙カセット111から用紙Sが引き出される。
【0014】
給紙カセット111の用紙Sは、用紙搬送路に給紙される。
図1では、用紙搬送路を破線で示す。用紙搬送路には、複数の搬送ローラー対(図示せず)が設けられる。搬送ローラー対は、互いに圧接する一対のローラーを含む。搬送ローラー対は、回転することにより、ローラー間に進入した用紙Sを搬送する。
【0015】
画像形成装置100は、画像形成部120を備える。画像形成部120は、画像を形成する。画像形成部120は、感光体ドラム121および転写ローラー122を含む。感光体ドラム121は、回転可能に支持され、その周面上にトナー像を担持する。転写ローラー122は、感光体ドラム121に圧接し、感光体ドラム121との間で転写ニップを形成する。転写ローラー122は、感光体ドラム121と共に回転する。感光体ドラム121および転写ローラー122は、回転することにより、転写ニップに進入した用紙Sを搬送しつつ、用紙Sにトナー像を転写する。
【0016】
図示しないが、画像形成部120は、帯電装置、露光装置および現像装置を含む。帯電装置は、感光体ドラム121の周面を帯電させる。露光装置は、感光体ドラム121の周面上に静電潜像を形成する。現像装置は、静電潜像をトナー像に現像する。
【0017】
画像形成部120は、トナー像を転写した用紙Sを定着装置10に向けて搬送する。定着装置10は、用紙Sに対して加熱および加圧を行い、用紙Sにトナー像を定着させる。定着装置10は、用紙Sを搬送しつつ定着処理を行う。定着処理後、用紙Sは排紙トレイETに排出される。
【0018】
画像形成装置100は、画像読取部130を備える。画像読取部130は、原稿を読み取り、原稿の画像データを生成する。たとえば、印刷ジョブでは、原稿の画像データに基づく画像が用紙Sに印刷される。
【0019】
図2および
図3に示すように、定着装置10は、定着ベルト1、押圧パッド2、加圧ローラー3および定着モーター4を備える。また、定着装置10は、加熱ユニットHUを備える。加熱ユニットHUは、電磁誘導加熱方式で加熱を行う。定着装置10の加熱方式が他の方式であってもよい。
【0020】
定着ベルト1は、無端状の耐熱ベルトである。たとえば、定着ベルト1は、内側から順に、誘導発熱層(電鋳ニッケルなど)、弾性層(シリコーンゴムなど)および離型層(フッ素系樹脂など)を有する。定着ベルト1は、回転可能に支持される。加熱ユニットHUは、定着ベルト1の外周面に対して所定間隔を隔てて配置される。
【0021】
定着ベルト1の幅方向の両側には、たとえば、フランジ101が配置される。フランジ101は、シャフト102に取り付けられる。シャフト102は、定着ベルト1の回転中心に配置され、幅方向に延びる。フランジ101を設けることにより、定着ベルト1の斜行が抑制される。
【0022】
定着ベルト1の内側には、ベルトガイド103が配置される。ベルトガイド103は、シャフト102の軸方向から見て、略円弧状に形成される(
図2参照)。ベルトガイド103は、定着ベルト1の内周面に接触する。ベルトガイド103は、定着ベルト1の外周面と加熱ユニットHUとの間隔が所定間隔となるよう定着ベルト1を支持する。
【0023】
押圧パッド2は、定着ベルト1の内側に配置される。押圧パッド2の配置位置は、ベルトガイド103が配置される側とはシャフト102を挟んで反対側である。押圧パッド2は、保持部材(図示せず)によって保持される。押圧パッド2は、定着ベルト1の内周面に接触する。押圧パッド2は、定着ベルト1をその内側から外側に向かって押圧する。定着ベルト1が回転することにより、押圧パッド2に対して定着ベルト1の内周面が摺動する。たとえば、押圧パッド2は、液晶ポリマー樹脂およびシリコーンゴムなどの弾性材料で形成される。
【0024】
加圧ローラー3は、定着ベルト1の外側に配置される。加圧ローラー3は、回転可能に支持される。たとえば、加圧ローラー3は、芯金、芯金上に形成される弾性層(シリコーンゴムなど)および弾性層の表面を覆う離型層(フッ素系樹脂など)を有する。加圧ローラー3は、定着ベルト1を挟んで押圧パッド2を所定の圧力で押圧する。加圧ローラー3は、定着ベルト1との間で定着ニップNを形成する。
【0025】
定着モーター4は、加圧ローラー3に連結される。すなわち、定着モーター4から加圧ローラー3に駆動力が伝達される。加圧ローラー3は、定着モーター4の駆動力により回転する。加圧ローラー3が回転することにより、定着ベルト1が従動して回転する。定着ベルト1は、加圧ローラー3と共に回転する。なお、変形例として、定着モーター4の駆動力によって定着ベルト1を回転させ、加圧ローラー3を従動回転させてもよい。
【0026】
印刷ジョブでは、トナー像が転写された用紙Sが定着ニップNに搬送され、定着ニップNに進入する。そして、トナー像が転写された用紙Sは、定着ニップNを通過する。定着装置10は、定着ニップNを通過する用紙Sに対して定着処理を行う。
【0027】
図4に示すように、画像形成装置100は、制御部11を備える。制御部11は、CPUおよびASICなどの処理回路を含む。制御部11は、印刷ジョブを制御する。制御部11は、給紙部110、画像形成部120および画像読取部130の各動作を制御する。
【0028】
制御部11は、加熱ユニットHUを制御する(定着温度を制御する)。また、制御部11は、定着モーター4を制御する。言い換えると、制御部11は、定着ベルト1(加圧ローラー3)の回転速度を制御する。さらに言い換えると、制御部11は、用紙Sの搬送速度を制御する。
【0029】
たとえば、印刷ジョブを実行するとき、制御部11は、今回実行する印刷ジョブのジョブデータに基づき、今回実行する印刷ジョブで使用する用紙Sの種類(坪量など)を認識する。そして、制御部11は、用紙Sの種類に基づき、今回実行する印刷ジョブでの用紙Sの搬送速度を設定する。すなわち、制御部11は、定着ベルト1(加圧ローラー3)の回転速度を設定する。制御部11は、設定内容に基づき、定着モーター4を制御する。制御部11は、予め定められた複数段階(たとえば、2段階)の搬送速度から、今回実行する印刷ジョブでの用紙Sの搬送速度を選択する。
【0030】
印刷ジョブで使用する用紙Sが普通紙のとき、制御部11は、用紙Sの搬送速度を予め定められた標準速度(高速)に設定する。すなわち、制御部11は、定着モーター4を標準速度で回転させる。印刷ジョブで使用する用紙Sが厚紙のとき、制御部11は、用紙Sの搬送速度を標準速度よりも遅い低速に設定する。すなわち、制御部11は、定着モーター4を標準速度よりも遅い低速で回転させる。
【0031】
このように、制御部11は、定着装置10(加熱ユニットHUおよび定着モーター4)の動作を制御する。すなわち、制御部11は、定着装置10の一構成要素である。たとえば、制御部11は、メイン制御部とエンジン制御部とに分類されてもよい。メイン制御部は、画像形成装置100の全体制御を行う。エンジン制御部は、メイン制御部からの命令に基づき、定着装置10など印刷にかかわるデバイス(モーターおよびセンサーなど)を制御する、また、定着装置10の制御を専用で行う定着制御部(たとえば、CPUおよびメモリー)を別途設けてもよい。
【0032】
画像形成装置100は、記憶部12を備える。記憶部12は、ROM、RAMおよびHDDなどの記憶デバイスを含む。記憶部12は、種々の情報を記憶する。記憶部12は、制御部11に接続される。制御部11は、記憶部12への情報の書き込みおよび記憶部12からの情報の読み出しを行う。
【0033】
画像形成装置100は、操作パネルOPを備える。操作パネルOPは、タッチスクリーンを含む。タッチスクリーンは、ソフトウェアボタンおよびメッセージなど種々の情報を表示する。そして、タッチスクリーンは、ユーザーからタッチ操作を受け付ける。操作パネルOPには、スタートボタンなどのハードウェアボタンも設けられる。スタートボタンは、印刷ジョブ(コピージョブ)の実行要求をユーザーから受け付けるボタンである。
【0034】
操作パネルOPは、制御部11に接続される。制御部11は、操作パネルOPの表示動作を制御する。また、制御部11は、操作パネルOPに対して行われた操作を検知する。後述するベルト交換時点になったとき、制御部11は、定着ベルト1の交換を促す旨の報知を操作パネルOPに行わせる。
【0035】
また、制御部11は、通信回路(図示せず)を含み、LANなどのネットワークNTに接続される。ネットワークNTには、ユーザーにより使用されるユーザー端末PCなどが接続される。ユーザー端末PCは、たとえば、パーソナルコンピューターである。制御部11は、ネットワークNTを介して、ユーザー端末PCと通信可能に接続される。
【0036】
ユーザー端末PCから画像形成装置100に対し、印刷ジョブのジョブデータ(PDLデータなどを含むデータ)を送信できる。制御部11は、ユーザー端末PCからジョブデータを受信すると、印刷ジョブの実行要求を受け付けたと判断し、受信したジョブデータに基づき印刷ジョブを実行する。
【0037】
制御部11は、ユーザーに報知すべき情報をユーザー端末PCに表示させることができる。たとえば、後述するベルト交換時点になったとき、制御部11は、定着ベルト1の交換を促す旨の報知をユーザー端末PCに行わせることができる。
【0038】
操作パネルOPおよびユーザー端末PCは共に、本発明の「報知部」に相当する。以下の説明では、操作パネルOPおよびユーザー端末PCを総じて報知部13と称する。
【0039】
<定着ベルトを交換すべき時点の予測>
予め定められた確認時点になったとき、制御部11は、定着ベルト1を交換すべきベルト交換時点を予測する予測処理を行う。制御部11は、予測処理で予測したベルト交換時点を示す交換時点情報を記憶部12に記憶する。そして、ベルト交換時点になったとき、制御部11は、定着ベルト1の交換を促す旨の報知を報知部13に行わせる。以下に具体的に説明する。
【0040】
定着ベルト1は、その内周面が押圧パッド2と接触した状態で回転する。このため、印刷ジョブの実行中、すなわち、定着ベルト1の回転中、定着ベルト1の内周面と押圧パッド2との間に摺動負荷が生じる。
【0041】
定着ベルト1の内周面と押圧パッド2との間に生じる摺動負荷の変動が大きい場合、画像形成装置100の全体に振動が伝わり、異音が発生する。許容範囲を超えるほどの大きな異音が印刷ジョブの実行中に発生すると、ユーザーにとっては煩わしい。
【0042】
なお、定着ベルト1は、経時的に劣化する。押圧パッド2と接触する定着ベルト1の内周面には、ひび割れが発生する。定着ベルト1の内周面に発生するひび割れが増大することにより、摺動負荷の変動が大きくなり、許容範囲を超える大きさの異音が発生する。このため、適切な時点で定着ベルト1を交換することにより、許容範囲を超える大きさの異音が発生することを抑制できる。
【0043】
ここで、定着ベルト1の内周面と押圧パッド2との間に生じる摺動負荷の変動が大きい場合には、定着ベルト1を回転させる定着モーター4のトルクが大きく振れる。言い換えると、定着ベルト1の回転中に発生する異音の大きさが許容範囲を超える場合には、定着ベルト1を回転させる定着モーター4のトルクが大きく振れる。
【0044】
そこで、制御部11は、予測処理として、
図5に示すフローに沿った処理を行う。
図5に示すフローは、確認時点になったと制御部11が判断したときにスタートする。
【0045】
なお、制御部11は、印刷枚数をカウントし、記憶部12に記憶する。制御部11は、画像形成装置100が最初に起動してからの印刷枚数を認識する。印刷枚数は、定着ニップNを通過した用紙Sの枚数に相当する。そして、印刷枚数が予め定めれた基準枚数(たとえば、数百枚~数千枚)に到達したとき、制御部11は、確認時点になったと判断し、予測処理を行う。以降、予測処理を前回行ってからの印刷枚数が基準枚数に到達するごとに、制御部11は、確認時点になったと判断する。
【0046】
たとえば、印刷枚数が基準枚数に到達したときに実行していた印刷ジョブの終了後、制御部11は、予測処理を行う。なお、印刷ジョブの終了後、印刷枚数が基準枚数に到達していなくても、そのときの印刷枚数と基準枚数との差が予め定められた調整枚数(たとえば、数枚~十数枚)よりも少ない場合、当該印刷ジョブの終了後に予測処理を行ってもよい。変形例として、印刷ジョブの実行中に印刷枚数が基準枚数に到達したとき、当該印刷ジョブの実行中に予測処理(予測処理のためのトルク検出)を並行して行ってもよい。
【0047】
ステップS1において、制御部11は、トルク検出処理を行って、定着モーター4のトルクを検出する。制御部11は、一定期間、トルク検出処理を行う。トルク検出処理を行う期間は、たとえば、数十秒(たとえば、60秒)である。
【0048】
トルク検出処理を行うとき、制御部11は、定着モーター4を標準速度(高速)よりも遅い低速で回転させる。このとき、制御部11は、用紙Sの搬送を担う部材(給紙ローラー112および感光体ドラム121なども含む)を回転させるモーター(図示せず)を停止した状態にする。言い換えると、トルク検出処理(予測処理)を行うとき、制御部11は、用紙Sを搬送しない。さらに言い換えると、トルク検出処理は、用紙Sを搬送していない状態で行われる。このため、トルク検出処理の実行中は、用紙Sは定着ニップNを通過しない。
【0049】
制御部11は、定着モーター4を低速で回転させた状態で、定着モーター4に流れる電流値を検出する。当該検出した検出電流値に基づき、制御部11は、定着モーター4のトルクを検出する。たとえば、記憶部12には、定着モーター4の電流値とトルクとの対応関係を示す変換テーブルが記憶される。当該変換テーブルと検出電流値とに基づき、制御部11は、定着モーター4の一定期間分のトルクを検出する。
【0050】
ステップS2において、制御部11は、トルク検出処理で検出した一定期間分のトルクの標準偏差を算出する。ステップS3において、制御部11は、標準偏差の算出値を記憶部12に記憶する。
【0051】
過去の予測処理で算出された標準偏差が記憶部12に既に記憶された状態では、今回の予測処理で算出された標準偏差が新たに記憶部12に追加される。すなわち、予測処理が複数回行われていれば、複数回分の予測処理で算出された各標準偏差が記憶部12に記憶された状態となる。たとえば、制御部11は、記憶部12に記憶する標準偏差と予測処理の実行日とを対応付ける。
【0052】
ステップS4において、制御部11は、算出したトルクの標準偏差に基づき、定着モーター4のトルクの標準偏差が予め定められた閾値に到達する閾値時点を予測する。予測処理で使用する閾値は、定着ベルト1の回転中に許容範囲を超える大きさの異音が発生するときの定着モーター4のトルクの標準偏差として予め定められた値である。すなわち、定着モーター4の一定期間におけるトルクの標準偏差が閾値を超えると、印刷ジョブの実行中(定着ベルト1の回転中)に許容範囲を超える大きさの異音が発生する。たとえば、予測処理で使用する閾値は、メーカーによって実験的に予め定められ、記憶部12に予め記憶される。
【0053】
閾値時点の予測方法は特に限定されない。たとえば、閾値時点を予測するとき、制御部11は、過去の予測処理で算出したトルクの標準偏差および今回の予測処理で算出したトルクの標準偏差の各値から近似直線を求め、求めた近似直線の傾きに基づき、閾値時点を予測する。たとえば、制御部11は、今までの予測処理(今回の予測処理を含む)で予測した全ての標準偏差の値について、最小二乗法を用いて近似直線(当該直線の式)を求める。
【0054】
ステップS4の処理で求められる近似直線の一例を
図6に示す。
図6において、縦軸は標準偏差であり、横軸は印刷枚数である。
図6には、今回の予測処理の実行時点T1からの印刷枚数が基準枚数に到達する時点T2(次回の予測処理の実行時点)よりも前の時点が閾値時点Ttとして予測される例を示す。
【0055】
ステップS5において、制御部11は、定着ベルト1の交換をすべきベルト交換時点を予測する。制御部11は、今回予測した閾値時点よりも前の時点をベルト交換時点として予測する。言い換えると、制御部11は、今回予測した閾値時点よりも所定期間遡った時点をベルト交換時として予測する。
【0056】
たとえば、制御部11は、今回の予測処理の実行時点から閾値時点に到達するまでの印刷枚数を閾値枚数として予測する。そして、制御部11は、今回の予測処理の実行時点からの印刷枚数が閾値枚数よりも所定枚数少ない枚数に到達する時点をベルト交換時点として予測する。言い換えると、制御部11は、閾値枚数よりも所定枚数少ない枚数を対象枚数と認識し、今回の予測処理の実行時点からの印刷枚数が対象枚数に到達する時点をベルト交換時点として予測する。
【0057】
特に限定されないが、所定枚数は数十枚である。なお、画像形成装置100の使用環境に応じて、所定枚数が任意に変更できてもよい。たとえば、一ジョブの印刷枚数が数百枚となる印刷ジョブが頻繁に実行される環境では、所定枚数をより多くしてもよい(たとえば、所定枚数が数百枚であってもよい)。
【0058】
図6には、今回の予測処理の実行時点T1からの印刷枚数が対象枚数に到達する時点(ベルト交換時点)に符号Trを付す。
図6に示す例では、次回の予測処理の実行時点T2よりも前にベルト交換時点Trが到来する。
【0059】
図示しないが、次回の予測処理の実行時点T2の以降にベルト交換時点Trが到来すると予測される場合もある。この場合には、時点T2において予測処理が行われ、時点T2での予測処理で予測された閾値時点Ttに基づき、ベルト交換時点Trが更新される。すなわち、後述するベルト交換の報知処理は、時点T1で予測されたベルト交換時点Trでは行われない。
【0060】
また、図示しないが、予測処理でベルト交換時点Trを予測した結果、既にベルト交換時点Trになっている場合がある。この場合には、予測処理の実行後、直ちに、後述するベルト交換の報知処理が行われる。
【0061】
<定着ベルトの交換を促す報知>
交換時点情報で示されるベルト交換時点になったとき、制御部11は、ベルト交換を促す報知処理を報知部13に行わせる。ただし、予測処理で予測したベルト交換時点が既に到来していれば、制御部11は、予測処理の実行後、直ちに、ベルト交換の報知処理を報知部13に行わせる。
【0062】
報知部13は、ベルト交換の報知処理として、
図7に示すような報知メッセージMSを表示する処理を行う。報知メッセージMSは、定着ベルト1の交換を促すメッセージを含む。また、報知メッセージMSは、定着ベルト1を交換することにより、画像形成装置100の故障および異音の発生などを抑制できる旨のメッセージを含む。図示しないが、直近の予測処理で予測した閾値時点までの印刷枚数と共に、当該印刷枚数分の印刷が実行されるまでに定着ベルト1を交換すべきである旨のメッセージを報知メッセージMSとして表示してもよい。
【0063】
たとえば、ベルト交換時点になったとき、制御部11は、操作パネルOPに報知メッセージMSをポップアップ表示させる。以降、制御部11は、定着ベルト1の交換が完了するまで、操作パネルOPの画面内の所定領域に報知メッセージMSを表示させ続ける。
【0064】
また、たとえば、ベルト交換時点になったとき、制御部11は、ユーザー端末PCに報知メッセージMSをポップアップ表示させる。以降、ユーザー端末PCは、定着ベルト1の交換が完了した旨の通知を制御部11から受けるまで、画像形成装置100に対応するプリンタードライバーを起動するごとに、報知メッセージMSを表示する。
【0065】
本実施形態の構成では、上記のように、制御部11は、定着モーター4を回転させてトルクの標準偏差(すなわち、画像形成装置100の全体に振動が発生する原因となる定着モーター4のトルクの振れ)を算出し、算出したトルクの標準偏差に基づき、定着モーター4のトルクの標準偏差が予め定められた閾値に到達する閾値時点を予測する予測処理を行う。そして、制御部11は、閾値時点よりも前の時点を定着ベルト1の交換をすべきベルト交換時点として予測する。ここで、予測処理で使用する閾値は、定着ベルト1の回転中に許容範囲を超える大きさの異音が発生するときの定着モーター4のトルクの標準偏差として予め定められた値である。
【0066】
この構成では、許容範囲を超える大きさの異音が発生し始める時点よりも後の時点がベルト交換時点として予測されることを抑制できる。これにより、確実に、許容範囲を超える大きさの異音が発生する前の適切な時点で定着ベルト1を交換できる。すなわち、画像形成装置100から許容範囲を超えるほどの大きい異音が発生することを抑制できる。また、大きな異音に起因してユーザーを不快にさせることを抑制できる。
【0067】
なお、異音の発生原因の1つとして、定着ベルト1の内周面のひび割れがある。このため、異音が発生したまま定着ベルト1を使用し続けると、定着ベルト1が破損する可能性がある。定着ベルト1がジョブ実行中に破損すると、他の部材も故障し、修理および部品交換に長期間要することになる。その期間は画像形成装置100を使用できないので、ユーザーに不利益を与える。また、異音が発生した状態(振動が発生した状態)で定着ベルト1を使用し続けると、他の部材の位置ずれ、緩みおよび摩耗などが進み易くなる。これにより、定着ベルト1が破損しなくても、他の部材をメンテナンスしなければならないという状況になり得る。したがって、予測処理により予測されたベルト交換時点で定着ベルト1を交換することが好ましい。その結果、画像形成装置100の故障を抑制できる。
【0068】
また、本実施形態では、上記のように、制御部11は、予め定められた確認時点になるごとに、予測処理を行う。そして、確認時点になったとき、制御部11は、現在のトルクの標準偏差を算出し、過去のトルクの標準偏差と現在のトルクの標準偏差とに基づき、閾値時点を予測する。すなわち、確認時点になったとき、制御部11は、今までに算出した全ての標準偏差の各値に基づき、閾値時点を予測する。これにより、予測処理の精度が向上する。
【0069】
また、本実施形態では、上記のように、制御部11は、過去のトルクの標準偏差および現在のトルクの標準偏差の各値から近似直線を求め、求めた近似直線の傾きに基づき閾値時点を予測する。これにより、容易に、閾値時点を予測できる。
【0070】
また、本実施形態では、上記のように、予測処理を前回行ってからの印刷枚数が予め定められた基準枚数に到達したとき、制御部11は、確認時点になったと判断する。これにより、或る予測処理の実行時点から次の予測時点の実行時点までの期間が長くなり過ぎたり短くなり過ぎたりすることを抑制できる。
【0071】
また、本実施形態では、上記のように、予測処理を行ったとき、制御部11は、予測処理を今回行った時点から閾値時点に到達するまでの印刷枚数を閾値枚数として予測し、予測処理を今回行った時点からの印刷枚数が閾値枚数よりも所定枚数少ない枚数に到達する時点をベルト交換時点として予測する。これにより、確実に、許容範囲を超える大きさの異音が発生する前の時点をベルト交換時点として予測できる。
【0072】
また、本実施形態では、上記のように、ベルト交換時点になったとき、制御部11は、定着ベルト1の交換を促す旨の報知を報知部13に行わせる。これにより、定着ベルト1の交換が必要であることをユーザーに確実に認識させることができる。すなわち、定着ベルト1の交換を確実に行わせることができる。たとえば、ユーザーはメンテナンス業者に対し、定着ベルト1の交換を依頼する。
【0073】
また、本実施形態では、上記のように、予測処理を行うとき、制御部11は、定着モーター4を標準速度よりも遅い低速で回転させた状態で定着モーター4に流れる電流値を検出し、検出した電流値に基づきトルクの標準偏差を算出する。ここで、定着ベルト1の内周面にひび割れが発生している場合、定着モーター4を低速で回転させた方がトルクの変動が大きくなる。このため、異音の発生原因の1つである定着ベルト1の内周面のひび割れをトルクの標準偏差に基づき検出する場合には、定着モーター4を低速で回転させてトルクを検出することが好ましい。
【0074】
変形例として、印刷ジョブで使用する用紙Sが厚紙である場合の定着モーター4の回転速度(用紙Sの搬送速度)よりも遅い速度で定着モーター4を回転させることができてもよい。言い換えると、印刷ジョブで使用する用紙Sが厚紙である場合の定着モーター4の回転速度よりも遅い速度が予測処理用の速度として準備されてもよい。そして、予測処理を行うとき(定着モーター4のトルク検出を行うとき)、予測処理用の速度で定着モーター4を回転させてもよい。なお、定着モーター4の回転速度を複数段階に切り替えない構成では、予測処理時の定着モーター4の回転速度を印刷ジョブ時の定着モーター4の回転速度と同じにしてもよい。
【0075】
また、本実施形態では、予想処理を行うとき、制御部11は、定着モーター4を回転させる一方で定着ニップNに用紙Sを搬送せずに定着モーター4に流れる電流値を検出し、検出した電流値に基づきトルクの標準偏差を算出する。ここで、定着ニップNに用紙Sの前端が進入するとき、および、定着ニップNを用紙Sの後端が通過するとき、定着モーター4のトルクが変動する。このため、予測処理では、用紙Sを搬送せずにトルク検出を行うことが好ましい。
【0076】
今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 定着ベルト
2 押圧パッド
3 加圧ローラー
4 定着モーター
10 定着装置
11 制御部
12 記憶部
13 報知部
100 画像形成装置