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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185741
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】歯車
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/17 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
F16H55/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093544
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉住 文太
(72)【発明者】
【氏名】青山 隆之
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 一郎
(72)【発明者】
【氏名】柴田 好克
【テーマコード(参考)】
3J030
【Fターム(参考)】
3J030AC10
3J030BA02
3J030BA05
3J030BB09
3J030BC02
(57)【要約】
【課題】部位ごとにヤング率の異なる歯を有する歯車の性能向上の手法を提案する。
【解決手段】はすば歯車の歯14は、かみ合い開始点Sが属する第1層20と、かみ合い終了点Gが属する第2層22と、第1層20と第2層22に挟まれた第3層24とを有する。第1層20のヤング率と、第2層22のヤング率が、第1のヤング率であり、第3層24は、接触点軌跡Tに交差する方向において両側の端部24bのヤング率が第1のヤング率より高い第2のヤング率であり、接触点軌跡Tに交差する方向において中央部24aのヤング率が第2のヤング率より低い第3のヤング率である。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かみ合い開始点が属する第1層と、かみ合い終了点が属する第2層と、前記第1層と前記第2層に挟まれた第3層とを有し、
前記第1層のヤング率と、前記第2層のヤング率が、第1のヤング率であり、
前記第3層は、接触点軌跡に交差する方向において両端部のヤング率が前記第1のヤング率より高い第2のヤング率であり、接触点軌跡に交差する方向において中央部のヤング率が前記第2のヤング率より低い第3のヤング率である、
はすば歯車。
【請求項2】
かみ合い開始点が属する第1層と、かみ合い終了点が属する第2層と、前記第1層と前記第2層に挟まれた第3層を有し、
前記第1層のヤング率と、前記第2層のヤング率が、第1のヤング率であり、
前記第3層は、接触点軌跡に交差する方向において両端部のヤング率が前記第1のヤング率より高い第2のヤング率であり、接触点軌跡に交差する方向において中央部のヤング率が前記第2のヤング率より低い第3のヤング率である、
まがりばかさ歯車。
【請求項3】
かみ合い開始点が属する第1層と、かみ合い終了点が属する第2層と、前記第1層と前記第2層に挟まれた第3層を有し、
前記第1層のヤング率と、前記第2層のヤング率が、第1のヤング率であり、
前記第3層は、接触点軌跡に交差する方向において両端部のヤング率が前記第1のヤング率より高い第2のヤング率であり、接触点軌跡に交差する方向において中央部のヤング率が前記第2のヤング率より低い第3のヤング率である、
ハイポイドギヤ。
【請求項4】
前記第1層、前記第2層および前記第3層がそれぞれ歯幅方向に沿って延びている請求項1に記載の歯車。
【請求項5】
前記第1層、前記第2層および前記第3層がそれぞれ歯車の軸線方向に直交する方向に延びている、請求項2または3に記載の歯車。
【請求項6】
前記第1層、前記第2層および前記第3層がそれぞれ歯車の軸線方向に沿う方向に延びている、請求項2または3に記載の歯車。
【請求項7】
前記第1層、前記第2層および前記第3層がそれぞれ接触線に沿って延びている、請求項1から3のいずれか1項に記載の歯車。
【請求項8】
前記第3のヤング率が、前記第1のヤング率に等しい、請求項1から6のいずれか1項に記載の歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車に対して、強度、伝達効率、騒音など様々な要求がある。従来、これらの要求に対して、歯車の諸元(モジュール、歯たけ、圧力角、ねじれ角など)に加え、材質、表面処理、歯面修整などによって改善が図られてきた。動力伝達用の歯車では、伝達トルクによる荷重により歯自体がたわみ、たわみは伝達トルクの大きさにより変化する。また、歯車の回転に伴い、同時にかみ合う歯数が変動するため、1つの歯に掛かる荷重が変動し、これによっても歯のたわみが変化する。このたわみの変化に対応するために歯面修整等の対策が行われてきた。
【0003】
下記特許文献1においては、接触点軌跡に沿ってヤング率が変化する歯を有する歯車によって、歯車に求められる要求に応じる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-119584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯車の歯のヤング率の分布について改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るはすば歯車は、かみ合い開始点が属する第1層と、かみ合い終了点が属する第2層と、第1層と第2層に挟まれた第3層とを有し、第1層のヤング率と、第2層のヤング率が、第1のヤング率であり、第3層は、接触点軌跡に交差する方向において両端部のヤング率が第1のヤング率より高い第2のヤング率であり、接触点軌跡に交差する方向において中央部のヤング率が第2のヤング率より低い第3のヤング率である。
【0007】
本発明に係るまがりばかさ歯車は、かみ合い開始点が属する第1層と、かみ合い終了点が属する第2層と、第1層と第2層に挟まれた第3層とを有し、第1層のヤング率と、第2層のヤング率が、第1のヤング率であり、第3層は、接触点軌跡に交差する方向において両端部のヤング率が第1のヤング率より高い第2のヤング率であり、接触点軌跡に交差する方向において中央部のヤング率が第2のヤング率より低い第3のヤング率である。
【0008】
本発明に係るハイポイドギヤは、かみ合い開始点が属する第1層と、かみ合い終了点が属する第2層と、第1層と第2層に挟まれた第3層とを有し、第1層のヤング率と、第2層のヤング率が、第1のヤング率であり、第3層は、接触点軌跡に交差する方向において両端部のヤング率が第1のヤング率より高い第2のヤング率であり、接触点軌跡に交差する方向において中央部のヤング率が第2のヤング率より低い第3のヤング率である。
【0009】
さらに、はすば歯車において、第1層、第2層および第3層がそれぞれ歯幅方向に沿って延びているものとすることができる。
【0010】
さらに、まがりばかさ歯車およびハイポイドギヤにおいて、第1層、第2層および第3層がそれぞれ歯車の軸線方向に直交する方向に延びているものとすることができる。
【0011】
また、まがりばかさ歯車およびハイポイドギヤにおいて、第1層、第2層および第3層がそれぞれ歯車の軸線方向に沿う方向に延びているものとすることができる。
【0012】
また、はすば歯車、まがりばかさ歯車およびハイポイドギヤにおいて、第1層、第2層および第3層がそれぞれ接触線に沿って延びているものとすることができる。
【0013】
さらに、第3のヤング率が、第1のヤング率に等しいものとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
歯車の歯のヤング率分布による歯車の性能改善手法において、さらなる性能の改善、例えば、伝達効率、歯面の面圧の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】はすば歯車を示す図である。
図2】はすば歯車の1つの歯を示す図である。
図3】歯面修整を模式的に示す図である。
図4】かみ合う歯対の力学モデルを示す図である。
図5】第1実施形態のはすば歯車の歯を示す斜視図である。
図6】第1実施形態のはすば歯車の歯の構成を模式的に示す図である。
図7】第1実施形態に対する比較例のはすば歯車の歯の構成を模式的に示す図である。
図8】第1実施形態、比較例および均質材のかみ合い伝達誤差を比較して示した図であり、第1実施形態と比較例で、高低のヤング率をそれぞれ同一にした場合を比較した図である。
図9】第1実施形態、比較例および均質材のかみ合い伝達誤差を比較して示した図であり、第1実施形態と比較例で、低負荷域のかみ合い伝達誤差を一致させた場合を比較した図である。
図10】第1実施形態と比較例と均質材の最大面圧を比較して示した図である。
図11】均質材に対する第1実施形態および比較例の最大面圧比を示す図である。
図12】比較例の低負荷時の歯当たりを示す図である。
図13】第1実施形態の低負荷時の歯当たりを示す図である。
図14】第1実施形態の中負荷時の歯当たりを示す図である。
図15】均質材の被駆動歯車の位相遅れの変動を示す図である。
図16】第1実施形態の被駆動歯車の位相遅れの変動を示す図である。
図17】比較例の被駆動歯車の位相遅れの変動を示す図である。
図18】第1実施形態、比較例および均質材の面圧分布を比較して示した図である。
図19】第2実施形態のはすば歯車の歯を示す斜視図である。
図20】第2実施形態のはすば歯車の歯の構成を模式的に示す図である。
図21】第2実施形態に対する比較例のはすば歯車の歯の構成を模式的に示す図である。
図22】第2実施形態、比較例および均質材のかみ合い伝達誤差を比較して示した図であり、第2実施形態と比較例で、高低のヤング率をそれぞれ同一にした場合を比較した図である。
図23】第2実施形態、比較例および均質材のかみ合い伝達誤差を比較して示した図であり、第2実施形態と比較例で、低負荷域のかみ合い伝達誤差を一致させた場合を比較した図である。
図24】第2実施形態、比較例および均質材の最大面圧を比較して示した図である。
図25】均質材に対する第2実施形態および比較例の最大面圧比を示す図である。
図26】ハイポイドギヤを示す図である。
図27】ハイポイドギヤを構成するピニオンおよびリングギアの接触線と接触点軌跡を示す図である。
図28】第3実施形態のハイポイドギアの歯の一構成例を模式的に示す図である。
図29】第3実施形態のハイポイドギアの歯の他の構成例を模式的に示す図である。
図30】第4実施形態のハイポイドギアの歯の一構成例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。
【0017】
<解析モデルの解析手法の説明>
図1は、歯車の一例としてのインボリュートはすば歯車を示す図である。図1の(a)には、かみ合う2個の歯車10,12が示されている。図1の(b)には、歯車10,12の一部の軸線直交断面が示されている。
【0018】
図2は、歯車10の1つの歯14を拡大して示す図である。符号Dwで示す方向は、図1にも示すように歯車の軸線に沿う方向であり、以降「歯幅方向Dw」と記す。歯幅方向Dwにおける歯14の寸法を歯幅wと記す。符号Dhで示す方向は、歯車の半径方向に沿う方向であり、以降「歯たけ方向Dh」と記す。歯たけ方向Dhにおける歯14の寸法を歯たけhと記す。歯車12の歯15は、ねじれ角が歯14とは逆になるが概略同形状である。かみ合いの相手側の歯と接触する面である歯面16は、歯幅方向Dwにわたって滑らかに連続し、本願においては、このような歯面16で構成される歯車を1つの独立した歯車として取り扱う。
【0019】
図3は、歯面修整を模式的に表したものである。歯面修整は、接触する2つの歯面の双方に与えることができ、またそうすることが一般的であるが、以下では、2つの歯面の修整量を合算した値、言い換えれば接触する歯面同士の相対的な修整形状について議論する。図3に示す歯面修整も、接触する歯面同士の相対的な修整形状を示している。図3において、高さ軸の0を通り高さ軸に直交する平面が歯14,15の無修整の歯面16’を表す。歯面16の寸法は、歯幅w、歯たけhである。高さ軸が修整量mを表し、図示されるように歯面が凸形状となるように修整量を与えるのが一般的である。歯幅方向Dwにおける修整をクラウニング、歯たけ方向Dhにおける修整を歯形丸みと記す。なお、修整量mは、数μmから数十μmであるので、修整が歯のたわみに係る剛性に与える影響は無視できる。
【0020】
無負荷の状態で無修整の歯がかみ合うとき、歯同士の接点を結ぶと線となり、これを「接触線L」と記す(図2参照)。はすば歯車の場合、接触線Lは、図中に示すように歯先または歯元に対して斜めになる。接触線L上の修整された歯面の頂点を結んだ線を「接触点軌跡T」と記す。駆動側の歯車においては、歯幅wの一端側の歯元からかみ合いが開始し、他端側の歯先にてかみ合いが終了する。かみ合いが開始する点を「かみ合い開始点S」、かみ合いが終了する点を「かみ合い終了点G」と記す。
【0021】
図4は、かみ合う歯対の力学モデルを示す図である。図示する状態において、歯車は、2つの歯対A,Bでかみ合っている。駆動側の歯車の2つの歯面16DA,16DBと、被駆動側の歯車の2つの歯面16CA,16CBとが接触線LA,LBで接している。駆動側の2つの歯面16DA,16DBは、異なる歯14の歯面であるが、1つの歯車10上の表面であるので、モデル上、1つの面として扱うことができる(以下、歯面16Dと記す。)。被駆動側の2つの歯面16CA,16CBも同様に1つの面として扱うことができる(以下、歯面16Cと記す)。接触線LA,LBの位置からそれぞれの接触線上の修整形状が求まる。接触線LA上において、駆動側歯面16Dと被駆動側歯面16Cの間に荷重FAが作用し、接触線LB上において荷重FBが作用する。接触線LA,LB上には、歯の曲げ剛性および接触剛性を含む剛性Kdが分布している。この剛性は、かみ合う歯同士の剛性を合わせたものである。接触線LA,LB上のそれぞれの剛性KdをKdA,KdBと記す。駆動側の歯車に掛かるトルクと歯車の基礎円半径から歯面16Cと歯面16Dの間に作用する荷重が算出でき、この荷重と、かみ合う2つの歯対(A歯対,B歯対)との間の剛性KdA,KdBによるばね力が釣り合うことに基づき、接触線上における歯面16C,16Dの相対的な変位、2つの歯面に作用する荷重FA,FBの比率も算出することができる。歯14が、均質な材料から構成される場合、接触線は、歯車の回転に伴い移動するので、剛性Kdも回転角θの関数となる。歯が均質な材料であることから、ヤング率は回転角θに対して一定であり、図中の剛性Kdの変化は、歯の形状および力の作用する位置に起因する。また、対をなす歯車のかみ合い率によって、同時にかみ合う歯の数は、歯車の回転に伴って変化する。例えば、かみ合い率が2を超える場合、図4に示すように2つの接触線LA,LBで接する2歯かみ合いの場合と、2つの接触線LA,LBに加え、更にもう1つの接触線でも接触する3歯のかみ合いとを交互に繰り返す。歯面16C,16Dに作用する荷重は、歯車対が伝達するトルクを基礎円半径で割ったものであり、2歯かみ合い状態であれば、この荷重が2歯に分担され、荷重FA,FBとなり、3歯かみ合い状態であれば3歯に分担される。
【0022】
上記のような、歯車の回転に伴う歯の剛性Kdの変化、歯に加わる荷重の変化により、歯面16C,16Dの相対的な変位が生じ、これが歯車のかみ合い伝達誤差に相当する。荷重FA,FBと接触剛性から歯の面圧も算出することができる。歯対のモデルおよびその解析については、例えば、日本機械学会論文集43巻301号(昭52-7)「誤差をもつ円筒歯車の荷重伝達特性に関する研究(第1報、基礎的考察)」に詳しい。歯の曲げ剛性及び接触剛性については、日本機械学会論文集(C編)63巻609号(1995-5)「はすば歯車のかみ合い伝達誤差の計測と解析法の改良」に詳しい。
【0023】
歯を構成する材料のヤング率を歯の部位によって異ならせることにより、歯車の回転角θに伴う歯の剛性Kdの変化を変更することができる。このことを利用して、均一なヤング率の歯に対して、かみ合い伝達誤差を小さくすることができる可能性がある。ヤング率を異ならせるために、例えば、焼結材において密度を変更する。焼結材は、粉末間に隙間があるため、隙間のない材料(以下、均質材と記す。)に比べて剛性が低くなる。隙間の量、つまり焼結材の密度により、剛性が変化する。焼結材の密度を低くすると、ヤング率は低下する。
【0024】
<第1実施形態>
解析に用いた歯車の諸元を表1に示す。
【表1】
【0025】
また、2つの歯面の修整量を合算した歯面修整量は、クラウニングが歯幅端において27.5μm、歯形丸みがかみ合い始終端で17.2μmであり、バイアス修整はなしである。
【0026】
図5,6は、本発明の第1実施形態である、部位によってヤング率が異なるはすば歯車の歯14を模式的に示す図であり、図5は斜視図、図6は周方向から見た状態を示す図である。また、図7は、比較例の歯214を示し、歯214は、歯14とはヤング率の分布が異なっている。図6,7において、歯14,214を表す長方形の横寸法が歯幅wを示し、縦寸法はかみ合い長さgを表す。
【0027】
歯14は、それぞれ歯幅方向Dwに延び、ヤング率の異なる3つの層を有する。歯14が駆動側の歯車の歯であれば、かみ合い開始点Sは歯元側、かみ合い終了点Gは歯先側となる。よって、かみ合い開始点Sが属する層が歯元側の層となり、この層を第1層20と記す。また、かみ合い終了点Gが属する層が歯先側の層となり、この層を第2層22と記す。第1層20と第2層22に挟まれた層を第3層24と記す。被駆動側の歯車の歯においては、かみ合い開始点Sは歯先側、かみ合い終了点Gは歯元側となる。
【0028】
第1層20と第2層22のヤング率は等しく173GPaである。第3層24のヤング率は、歯幅中央に位置する中央部24aと、中央部24aの両側の端部24bとで異なり、中央部24aでは第1層20および第2層22と同じ173GPa、端部24bでは第1層20および第2層22より高い239GPaである。第3層24は、かみ合い長さgの方向において中央に位置し、その幅gcのかみ合い長さgに対する比は、0.25である(gc/g=0.25)。また、第3層24の中央部24aの幅wcの歯幅wに対する比は、0.20である(wc/w=0.20)。歯14のヤング率の分布の態様を、以降「I形分布」と記す。
【0029】
比較例の歯214は、歯14に対して第3層224が均一のヤング率に形成されている点で相違しており、その他は同一である。第1層220および第2層222のヤング率は173GPaであり、第3層224のヤング率は239GPaである。歯214のヤング率の分布の態様を、以降「横分割形分布」と記す。
【0030】
図8は、歯車の伝達トルクTqに対するかみ合い伝達誤差の変化を示す図である。かみ合い伝達誤差は、駆動側歯車に対する被駆動側歯車の回転位相遅れであり、図においては、回転位相遅れの変動の振幅で示されている。ひし形「◆」で示すグラフは、均質材で形成された歯、すなわち部位によるヤング率の違いがない歯を示し、三角「▲」で示すグラフは横分割形のヤング率分布、四角「■」で示すグラフはI形のヤング率分布を示している。均質材のヤング率は、I形分布および横分割形分布の高低のヤング率の単純平均である206GPaである。
【0031】
I形分布の歯14は、50Nm以下の低負荷域では、横分割形分布の歯214に比べて、かみ合い伝達誤差が小さく、均質材の歯車と同等である。100Nm以上の中負荷域以上においては、均質材の歯に比してかみ合い伝達誤差が小さいが、横分割形分布の歯214に比して若干大きくなっている。総合的に見て、I形分布の歯14は、かみ合い伝達誤差を小さくしていることが理解できる。
【0032】
図9は、横分割形分布の歯214において、低負荷域のかみ合い伝達誤差がI形分布の歯14と同等になるよう、各層のヤング率を変更した場合のかみ合い伝達誤差を示している。具体的には、ヤング率を、第1層220および第2層222において194GPa、第3層224において219GPaとしている。図から、横分割形分布の歯214は、かみ合い伝達誤差が、低負荷域ではI形分布の歯14と同等となるものの、中負荷域以上においてはI形分布の歯14よりも大きくなる。このことからも、I形分布が、広い範囲で伝達誤差を小さくできる可能性が示される。
【0033】
図10は歯車の伝達トルクTqに対する最大面圧を示す図であり、図11は均質材の歯に対する横分割形分布の歯214およびI形分布の歯14の最大面圧の比を示す図である。横分割形分布、I形分布共に、均質材に対して最大面圧が増加しているが、図11に示すように増加の割合は、I形分布の方が抑えられている。I形分布の歯14の最大面圧の増加量は、横分割形分布の歯214に比して3割程度減少する。したがって、歯面強度に関して、I形分布の歯14は、横分割形分布の歯214に対して有利となる。
【0034】
低負荷域で、I形分布の歯14が、横分割形分布の歯214に対してかみ合い伝達誤差が小さくなる理由について図12から図17を用いて説明する。
【0035】
図12から図14は、歯当たりを示し、右下がりの線が回転角度ごとの接触線Lであり、接触線Lが存在する範囲が歯面同士が接触する範囲、すなわち歯当たりである。1対の歯が歯幅の中央かつピッチ円筒上で接触しているときの接触線が符号Pで示されている。1つの接触線Pは、歯面の歯幅中央かつピッチ円筒上の点であるピッチ点pを通って延びる。伝達トルクが大きくなり、歯当たりの範囲が拡大すると、他の歯がピッチ点pで接触しているときにも、接触が生じ、このときの接触線も符号Pで示される(図14参照)。ピッチ点pから、歯車が半ピッチ回転した回転角度での接触線を符号Qで示す。図12は横分割形のヤング率分布の歯214の低負荷時(Tq=25Nm)の歯当たりを示し、図13はI形のヤング率分布の歯14の低負荷時(Tq=25Nm)、図14はI形分布の歯14の中負荷時(Tq=150Nm)の歯当たりを示す。
【0036】
図15から図17は、歯車の回転角度に対する被駆動歯車の位相遅れを示す図である。横方向に延びる波形状の線が、各伝達トルクTqにおける位相遅れを示し、伝達トルクTqが大きいほど位相遅れも大きくなっている。図15が均質材の位相遅れを示し、図16が横分割形のヤング率分布、図17がI形のヤング率分布の位相遅れを示す。図15から図17において、歯が接触線Pで接しているときの回転角度がPで示されており、接触線Qで接しているときの回転角度がQで示されている。図15から図17において、Pで示す回転角度における位相遅れφPと、Qで示す回転角度における位相遅れφQの差がΔφであり、Δφは位相遅れの変動の振幅を示している。また、位相遅れは、かみ合う歯対のたわみを表している。伝達トルクTqが大きくなるほど、歯がたわみ、位相遅れが大きくなる。また、歯車の回転に伴って位相遅れが変動する。被駆動歯車の回転変動が大きくなると、回転変動に起因してギヤ騒音等が発生する。
【0037】
横分割形分布では、低負荷域において、伝達誤差が均質材より大きくなる。横分割形分布の歯214は、接触線Pで接しているときは、高いヤング率の第3層224でかみ合い、半ピッチずれた接触線Qで接しているときは、低いヤング率の第1,2層220,222でかみ合う。このため、横分割形分布では、接触線Qで接しているときの歯対剛性に対する接触線Pで接しているときの歯対剛性の比が、均質材と比較して大きくなっている。横分割形分布では低負荷(この実施形態では例えば50Nm以下)では、接触線Pにおける歯対剛性が接触線Qにおける歯対剛性に対して過多となって、図17に示すように、Qの位置のたわみ量(位相遅れφQに相当)に対してPの位置のたわみ量(位相遅れφPに相当)が不足する。この結果、低負荷域では、Pの位置とQの位置の回転角位相遅れの差Δφが大きくなって均質材より伝達誤差が増加する。なお、中負荷以上(例えば100Nm以上)では、上に述べた接触線Qで接しているときの歯対剛性に対する接触線Pで接しているときの歯対剛性の比が均質材より大きい特性によって、均質材で生じるPの位置とQの位置の回転位相遅れの差が打ち消され、小さい伝達誤差が実現される。
【0038】
I形分布の歯14では、低負荷域において、横分割形分布の歯214に比して伝達誤差が低減する。図13に示すように、低負荷域では、歯当たりが小さいため、ピッチ点pを通る接触線Pも短い。このため、接触線Pの全長のうち中央のヤング率が低い中央部24aに対応する長さの割合が大きくなり、荷重を主に中央部24aで分担することになる。この結果、接触線Pで接しているときの歯対剛性が低くなる。このため、図16に示すように、図17の横分割形分布に対して、Pの位置におけるたわみ量が増加、つまり位相遅れφPが増加し、位相遅れの振幅Δφが小さくなる。
【0039】
I形分布の歯14では、中負荷以上において、図14に示すように、歯当たりが大きくなり、低負荷と比較して接触線Pがヤング率の大きい第3層の端部24bにも延びる。このため、接触線Pの全長に占める低いヤング率の中央部24aの割合が小さくなり、接触線Pで接しているときの歯対剛性は横分割形分布の場合に近づく。これにより、中負荷以上では、横分割形分布の伝達誤差が低減するのと同様の理由で、I形分布においても伝達誤差の低減効果が得られる。
【0040】
以上のように、I形分布では、負荷の増大とともに、歯あたりの拡大に伴って高ヤング率の第3層24内の接触線が層内で伸長することで、第3層の中央部24aの低いヤング率の寄与が減少する。すなわち、I形分布では、低いヤング率の第3層の中央部24aが低負荷域で選択的にかみ合い性能に寄与することで、全負荷域に対して伝達誤差の低減をバランスよく実現できる。また、第1実施形態では、第3層の中央部24aのヤング率が、第1層20および第2層22のヤング率と同一であるが、第3層の中央部24aのヤング率を第3層の端部24bのヤング率より低い任意の値としても、上述の伝達誤差低減の理由から考えて、伝達誤差の低減効果を得ることができる。
【0041】
図18は、伝達トルクTqが150Nmのときのピッチ点pを通る接触線Pに沿った面圧分布を示す図である。「●」が均質材、「▲」が横分割形分布の歯214、「■」がI形分布の歯14の面圧分布を示す。クラウニングと歯形丸みにより歯面修整された歯面においては、最大面圧はピッチ点pを通る接触線Pの中央部分で生じる。横分割形分布の場合、接触線Pの中央部分は、均質材に比べてヤング率が高く、より多くの荷重を分担することになるため、面圧が高くなる。一方、I形分布の場合、接触線Pの中央部分は、第3層24の中央部24aに対応し、中央部24aのヤング率が低いため、この部分によって分担される荷重が少なくなり、面圧が低くなる。以上のことから、第3層の中央部24aのヤング率を第3層の端部24bのヤング率より低い値とすれば、最大面圧の低減効果を得ることができる。
【0042】
<第2実施形態>
図19,20は、本発明の第2実施形態である、部位によってヤング率が異なるはすば歯車の歯34を模式的に示す図であり、図19は斜視図、図20は周方向から見た状態を示す図である。歯車の諸元は、前述の表1と同様であり、ヤング率の分布を除き、歯14と同様の構成を有する。また、図21は、比較例の歯234を示し、歯234は、歯34とはヤング率の分布が異なっている。図20,21において、歯34,234を表す長方形の横寸法が歯幅wを示し、縦寸法はかみ合い長さgを表す。
【0043】
歯34は、それぞれ接触線Lの方向に沿って延びる、ヤング率の異なる3つの層を有する。歯34が駆動側の歯車の歯であれば、かみ合い開始点Sは歯元側、かみ合い終了点Gは歯先側となる。よって、かみ合い開始点Sが属する層が歯元側の層となり、この層を第1層40と記す。また、かみ合い終了点Gが属する層が歯先側の層となり、この層を第2層42と記す。第1層40と第2層42に挟まれた層を第3層44と記す。被駆動側の歯車の歯においては、かみ合い開始点Sは歯先側、かみ合い終了点Gは歯元側となる。
【0044】
第1層40と第2層42のヤング率は等しく184GPaである。第3層44のヤング率は、歯幅中央に位置する中央部44aと、中央部44aの両側の端部44bとで異なり、中央部44aでは第1層40および第2層42と同じ184GPa、端部44bでは第1層40および第2層42より高い228GPaである。第3層44は、かみ合い長さgの方向における幅gcのかみ合い長さgに対する比は、0.25である(gc/g=0.25)。また、第3層24の中央部24aの幅wcの歯幅wに対する比は、0.20である(wc/w=0.20)。歯14のヤング率の分布の態様を、以降「斜めI形分布」と記す。
【0045】
比較例の歯234は、歯34に対して第3層244が均一のヤング率に形成されている点で相違しており、その他は同一である。第1層240および第2層242のヤング率は184GPaであり、第3層244のヤング率は228GPaである。歯234のヤング率の分布の態様を、以降「斜め分割形分布」と記す。
【0046】
図22は、歯車の伝達トルクTqに対するかみ合い伝達誤差の変化を示す図である。かみ合い伝達誤差は、駆動側歯車に対する被駆動側歯車の回転位相遅れであり、図においては、回転位相遅れの変動の振幅で示されている。ひし形「◆」で示すグラフは、均質材で形成された歯、すなわち部位によるヤング率の違いがない歯を示し、三角「▲」で示すグラフは斜め分割形のヤング率分布、四角「■」で示すグラフは斜めI形のヤング率分布を示している。均質材のヤング率は、斜めI形分布および斜め分割形分布の高低のヤング率の単純平均である206GPaである。
【0047】
斜めI形分布の歯34は、50Nm以下の低負荷域では、斜め分割形分布の歯234に比べて、かみ合い伝達誤差が小さく、均質材の歯車と同等である。100Nm以上の中負荷域以上においては、均質材の歯車に比してかみ合い伝達誤差が小さく、斜め分割形分布の歯234とほぼ同等である。総合的に見て、斜めI形分布の歯34は、かみ合い伝達誤差を小さくしていることが理解できる。
【0048】
図23は、斜め分割形分布の歯234において、低負荷域のかみ合い伝達誤差が斜めI形分布の歯34と同等になるよう、各層のヤング率を変更した場合のかみ合い伝達誤差を示している。具体的には、ヤング率を、第1層240および第2層242において197GPa、第3層244において216GPaとしている。図から、斜め分割形分布の歯234は、かみ合い伝達誤差が、低負荷域では斜めI形分布の歯34と同等となるものの、中負荷域以上においては斜めI形分布の歯34よりも大きくなる。このことからも、斜めI形分布が、広い範囲で伝達誤差を小さくできる可能性が示される。
【0049】
図24は歯車の伝達トルクTqに対する最大面圧を示す図であり、図25は均質材の歯に対する斜め分割形分布の歯234および斜めI形分布の歯34の最大面圧の比を示す図である。斜め分割形分布の場合、均質材に対して最大面圧が増加しているが、斜めI形分布の場合、均質材に対して、低負荷域および中負荷域ではほぼ同等であり、高負荷領域でわずかに増加している。図25に示されるように、斜めI形分布の歯34の、最大面圧の増加量は、斜め分割形分布の歯234に比して4割から9割減少する。したがって、歯面強度に関して、斜めI形分布の歯34は、斜め分割形分布の歯234に対して有利となる。
【0050】
はすば歯車において、接触線Lの方向は、1つの歯の表裏の歯面において傾きが反対になる。このため、第2実施形態のように、接触線Lの延びる方向に層を形成する場合には、重視する一方の歯面の接触線Lに沿うように各層を設ける。第1実施形態のようにヤング率の層を歯幅方向Dwに延びるように形成する場合には、表裏の歯面において同じ効果を得ることができる。
【0051】
第2実施形態では、第3層の中央部44aのヤング率が、第1層40および第2層42のヤング率と同一であるが、第3層の中央部44aのヤング率を第3層の端部44bのヤング率より低い任意の値としても、第1実施形態の場合と同様に、伝達誤差の低減効果を得ることができる。また、第3層の中央部44aのヤング率を第3層の端部44bのヤング率より低い値とすれば、第1実施形態の場合と同様に、最大面圧の低減効果を得ることができる。
【0052】
<第3実施形態>
第3実施形態は、本発明が、ハイポイドギヤまたはまがりばかさ歯車に適用された態様である。
【0053】
図26は、ハイポイドギヤを示す図である。ハイポイドギヤは、ピニオン46とリングギヤ48から構成される。ピニオン46の軸線50と、リングギヤ48の軸線52は交わらず、オフセットZを有する。このオフセットZが0の場合がまがりばかさ歯車である。
【0054】
図27は、ハイポイドギヤのピニオン46とリングギヤ48の一部を示した図である。ハイポイドギヤにおいても、歯車の回転に伴い接触線Lが接触点軌跡Tに沿って移動する。したがって、かみ合い開始点Sが属する第1層と、かみ合い終了点Gが属する第2層と、第1層と第2層に挟まれた第3層とを有し、第1層と第2層のヤング率が第1のヤング率であり、第3層は接触点軌跡に交差する方向において両端部のヤング率が第1のヤング率より高い第2のヤング率であり、接触点軌跡Tに交差する方向において中央部のヤング率が第2のヤング率より低い第3のヤング率とすることにより、前述したはすば歯車と同様の効果を得ることができる。
【0055】
図28,29は、自動車等の車両の終減速機に用いられた場合の、歯の部位によってヤング率が異なるハイポイドギヤのピニオン46の歯54およびリングギヤ48の歯56の態様を示す図である。図28は、車両が加速する際に接触する加速歯面を示しており、図29は、車両が減速する際に接触する減速歯面を示している。
【0056】
加速時には、ピニオン46が駆動側歯車となり、リングギヤ48が被駆動側歯車となる。図28に示すように、ピニオン46の歯54の加速歯面では、接触点軌跡Tは、歯元側から歯先側へと延び、リングギヤ48歯の56では歯先側から歯元側に延びる。図28は、加速時の性能、特にギヤ騒音の静粛性を求める場合のヤング率分布を示している。この場合の歯54,56を歯54A,56Aと記す。歯54A,56Aは、接触線Lの方向に延びる3層から構成される。ピニオンの歯54Aは、かみ合い開始点Sが属する第1層60と、かみ合い終了点Gが属する第2層62と、第1層60と第2層62に挟まれた第3層64との3層から構成される。第1層60および第2層62は第1のヤング率を有する。第3層64は、接触線Lの方向において、両側の端部64bが第1のヤング率より高い第2のヤング率を有し、第3層64の中央部64aが、第2のヤング率より低いヤング率、例えば第1のヤング率を有する。リングギヤの歯56Aは、かみ合い開始点Sが属する第1層70と、かみ合い終了点Gが属する第2層72と、第1層70と第2層72に挟まれた第3層74との3層から構成される。第1層70および第2層72は第1のヤング率を有する。第3層74は、接触線Lの方向において、両側の端部74bが第1のヤング率より高い第2のヤング率を有し、第3層74の中央部74aが、第2のヤング率より低いヤング率、例えば第1のヤング率を有する。以上のヤング率分布により、加速時において、第1および第2実施形態と同様に、騒音低減および最大面圧減少の効果を得ることができる。
【0057】
減速時には、リングギヤ48が駆動側歯車となり、ピニオン46が被駆動側歯車となる。図29に示すリングギヤ48の歯56の減速歯面では、接触点軌跡Tは、歯元側から歯先側へと延び、ピニオン46の歯54では歯先側から歯元側に延びる。図29は、減速時の性能、特にギヤ騒音の静粛性を求める場合のヤング率分布を示している。この場合の歯54,56を歯54C,56Cと記す。歯54C,56Cは、接触線Lの方向に延びる3層から構成される。ピニオンの歯54Cは、かみ合い開始点Sが属する第1層80と、かみ合い終了点Gが属する第2層82と、第1層80と第2層82に挟まれた第3層84との3層から構成される。第1層80および第2層82は第1のヤング率を有する。第3層84は、接触線Lの方向において、両側の端部84bが第1のヤング率より高い第2のヤング率を有し、第3層84の中央部84aが第2のヤング率より低いヤング率、例えば第1のヤング率を有する。リングギヤの歯56Cは、かみ合い開始点Sが属する第1層90と、かみ合い終了点Gが属する第2層92と、第1層90と第2層92に挟まれた第3層94との3層から構成される。第1層90および第2層92は第1のヤング率を有する。第3層94は、接触線Lの方向において、両側の端部94bが第1のヤング率より高い第2のヤング率を有し、第3層94の中央部94aが第2のヤング率より低いヤング率、例えば第1のヤング率を有する。以上のヤング率分布により、減速時において、第1および第2実施形態と同様に、騒音低減および最大面圧減少の効果を得ることができる。
【0058】
<第4実施形態>
第4実施形態は、本発明が、ハイポイドギヤまたはまがりばかさ歯車に適用されたもう1つの態様である。
【0059】
図30は、自動車等の車両の終減速機に用いられた場合の、歯の部位によってヤング率が異なるハイポイドギヤのピニオン46の歯104およびリングギヤ48の歯106の態様を示す図である。
【0060】
車両の減速時において、ピニオン46は被駆動歯車となり、接触点軌跡Tは、歯先側から歯元側に延び、かみ合い開始点Sは歯先側となり、かみ合い終了点Gは歯元側になる。リングギヤ48は駆動歯車となり、接触点軌跡Tは、歯元側から歯先側に延び、かみ合い開始点Sは歯元側となり、かみ合い終了点Gは歯先側になる。
【0061】
ピニオンの歯104は、ピニオンの軸線50の延びる方向にそれぞれ延びる、かみ合い開始点Sが属する第1層110と、かみ合い終了点Gが属する第2層112と、第1層110と第2層112に挟まれた第3層114との3層から構成される。第1層110および第2層112は第1のヤング率を有する。第3層114は、ピニオンの軸線50に沿う方向において、両側の端部114bが第1のヤング率より高い第2のヤング率を有し、第3層114の中央部114aが第2のヤング率より低いヤング率、例えば第1のヤング率を有する。
【0062】
リングギヤの歯106は、リングギヤの軸線52に直交する方向にそれぞれ延びる、かみ合い開始点Sが属する第1層120と、かみ合い終了点Gが属する第2層122と、第1層120と第2層122に挟まれた第3層124との3層から構成される。第1層120および第2層122は第1のヤング率を有する。第3層124は、リングギヤの軸線52に直交する方向において、両側の端部124bが第1のヤング率より高い第2のヤング率を有し、第3層124の中央部124aが第2のヤング率より低いヤング率、例えば第1のヤング率を有する。以上のヤング率分布により、減速時において、第1および第2実施形態と同様に、騒音低減および最大面圧減少の効果を得る。
【符号の説明】
【0063】
10,12 歯車、14,15,34 歯、16 歯面、20,40,60,70,80,90,110,120 第1層、22,42,62,72,82,92,112,122 第2層、24,44,64,74,84,94,114,124 第3層、24a,44a,64a,74a,84a,94a,114a,124a 第3層の中央部、24b,44b,64b,74b,84b,94b,114b,124b 第3層の端部、46 ピニオン、48 リングギヤ、50 ピニオンの軸線 52 リングギヤの軸線、54,104 ピニオンの歯、56,106 リングギヤの歯、Dh 歯たけ方向、Dw 歯幅方向、G かみ合い終了点、L 接触線、P ピッチ点接触時の接触線、Q ピッチ点から半ピッチずれた位置での接触時の接触線、S かみ合い開始点、T 接触点軌跡、Tq 伝達トルク。
図1
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