(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185766
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20221208BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 P
H02K9/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093589
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】門司 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】梶川 敦史
【テーマコード(参考)】
3J063
5H609
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB02
3J063AC01
3J063BA11
3J063CA01
3J063CB01
3J063CD41
3J063CD65
3J063XD03
3J063XD23
3J063XD29
3J063XD33
3J063XD47
3J063XD62
3J063XD72
3J063XE14
3J063XE22
3J063XE32
3J063XE38
3J063XF14
5H609BB03
5H609PP02
5H609PP07
5H609PP09
5H609QQ05
5H609QQ13
5H609RR01
5H609RR26
5H609RR37
5H609RR43
5H609RR50
(57)【要約】
【課題】車両用駆動装置の駆動効率の低下を抑制しつつ、当該車両用駆動装置の駆動によって冷却及び潤滑の対象箇所に油を供給する。
【解決手段】車両用駆動装置100は、油貯留部Pよりも上側に配置された第1キャッチタンク1及び第2キャッチタンク2と、油貯留部Pから油を吸引して供給油路7に吐出するオイルポンプ8と、供給油路7に連通して回転電機3に油を供給する冷却油供給部6と、供給油路7から排出された油を導く導油部70とを備えている。第1キャッチタンク1の第1排出口13及び第2キャッチタンク2の第2排出口23の少なくとも一方が回転電機3、出力部材4、ギヤ機構5を収容する収容空間に連通している。第1キャッチタンク1の第1導入口11には油貯留部Pから掻き上げられた油が導かれ、第2キャッチタンク2の第2導入口21には導油部70を介して供給油路7から排出された油が導かれる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを備えた回転電機と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
前記回転電機と前記出力部材との間の動力伝達を行うギヤ機構と、
前記回転電機、前記出力部材、及び、前記ギヤ機構を収容する収容空間を囲むケースと、を備えた車両用駆動装置であって、
前記ケース内における前記収容空間の下部に形成され、油が溜まる油貯留部と、
車両搭載状態で前記油貯留部よりも上側に配置されている第1キャッチタンクと、
車両搭載状態で前記油貯留部よりも上側に配置されている第2キャッチタンクと、
前記回転電機に対して冷却用の油を供給する冷却油供給部と、
前記回転電機の駆動力により回転駆動されて前記油貯留部に溜まった油を吸引し、前記冷却油供給部に連通している供給油路に油を吐出するオイルポンプと、
前記供給油路から排出された油を導く導油部と、を備え、
前記第1キャッチタンクは、油を導入する第1導入口と、前記第1導入口から導入された油を一時的に貯留する第1貯留部と、前記第1貯留部に貯留された油が排出される第1排出口とを備え、
前記第2キャッチタンクは、油を導入する第2導入口と、前記第2導入口から導入された油を一時的に貯留する第2貯留部と、前記第2貯留部に貯留された油が排出される第2排出口とを備え、
前記第1排出口及び前記第2排出口の少なくとも一方が、前記収容空間に連通しており、
前記第1導入口には、前記ロータ、前記ギヤ機構、及び前記出力部材の少なくともいずれかの回転により前記油貯留部から掻き上げられた油が導かれ、
前記第2導入口には、前記導油部を介して前記供給油路から排出された油が導かれる、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前記供給油路に設けられ、前記供給油路内の油圧が予め設定された開放しきい値以上となった場合に油を前記供給油路から排出するリリーフ弁を備え、
前記導油部は、前記リリーフ弁により前記供給油路から排出された油を前記第2導入口に導く、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記ロータの下端部、前記ギヤ機構におけるギヤ歯の下端部及び前記出力部材の下端部の内、車両搭載状態で何れか下側に配置された下端部よりも下側に、前記オイルポンプの吸入油路における前記油貯留部に開口する開口部である吸入開口部が配置されている、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記ギヤ機構におけるギヤ歯の下端部よりも下側に、前記ロータの下端部が配置され、
前記第1貯留部の容量は、前記油貯留部の油面が前記ギヤ機構におけるギヤ歯の下端部に対応する高さとなった状態で油が溢れ出ないように設定され、
前記第2貯留部の容量は、前記油貯留部の油面が前記ロータの下端部に対応する高さとなった状態で油が溢れ出ないように設定されている、請求項1から3の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第2貯留部は、前記第1貯留部よりも上側に配置され、前記第2排出口は、前記第1貯留部に連通し、前記第1排出口は、前記収容空間に連通している、請求項1から4の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と出力部材とこれらの間の動力伝達を行うギヤ機構とこれらを収容する収容空間を囲むケースとを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009-250415号公報には、車両の駆動力源に駆動連結された回転部材(14)の回転により油貯留部(D1)に貯留された油を掻き上げると共に、当該駆動力源により駆動される機械式のオイルポンプ(17)で油貯留部(D1)から油を吸い上げて、油を一時的に貯留するキャッチタンク(21)を介して潤滑及び冷却の対象箇所に油を供給する車両用駆動装置が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。この車両用駆動装置では、回転部材(14)の回転速度が相対的に低く、オイルポンプ(17)の吐出量が少ない場合には、回転部材(14)による掻き上げと、オイルポンプ(17)の吐出とによってキャッチタンク(21)に油が供給される。回転部材(14)の回転速度が相対的に高く、オイルポンプ(17)の吐出量が多い場合には、キャッチタンク(21)に油が満たされることにより油貯留部(D1)の油面が回転部材(14)よりも低くなり、油貯留部(D1)の油が掻き上げられなくなる。このため、キャッチタンク(21)への油は、オイルポンプ(17)からの吐出によって供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この車両用駆部材の回転速度が低く、オイルポンプの吐出力が低い場合の油の供給量を確保するために、掻き上げによる油をキャッチタンクに導入している。但し、回転部材の回転速度が低い場合には、遠心力も小さく、掻き上げられる油が到達する高さも低くなるため、キャッチタンクに十分な油が入らない場合がある。ここでキャッチタンクの周壁の高さを低くすることにより油を入りやすくすることはできるが、その分、キャッチタンクに貯留できる油の容量が少なくなってしまう。一方、周壁を高くすると油が入りにくくなり、また、低速時にはオイルポンプによる吐出量も少ないため、キャッチタンクが油で満たされるまでに時間を要することになる。また、回転部材の回転速度が低い状態が続く場合(例えば車両が低速での走行を続ける場合など)には、油貯留部の油面が低下しにくくなり、回転部材に対する油の攪拌抵抗によって車両用駆動装置の効率を低下させる可能性がある。
【0005】
上記背景に鑑みて、車両用駆動装置の駆動効率の低下を抑制しつつ、当該車両用駆動装置の駆動によって冷却及び潤滑の対象箇所に油を供給することができる技術の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた車両用駆動装置は、ロータを備えた回転電機と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記回転電機と前記出力部材との間の動力伝達を行うギヤ機構と、前記回転電機、前記出力部材、及び、前記ギヤ機構を収容する収容空間を囲むケースと、を備えた車両用駆動装置であって、前記ケース内における前記収容空間の下部に形成され、油が溜まる油貯留部と、車両搭載状態で前記油貯留部よりも上側に配置されている第1キャッチタンクと、車両搭載状態で前記油貯留部よりも上側に配置されている第2キャッチタンクと、前記回転電機に対して冷却用の油を供給する冷却油供給部と、前記回転電機の駆動力により回転駆動されて前記油貯留部に溜まった油を吸引し、前記冷却油供給部に連通している供給油路に油を吐出するオイルポンプと、前記供給油路から排出された油を導く導油部と、を備え、前記第1キャッチタンクは、油を導入する第1導入口と、前記第1導入口から導入された油を一時的に貯留する第1貯留部と、前記第1貯留部に貯留された油が排出される第1排出口とを備え、前記第2キャッチタンクは、油を導入する第2導入口と、前記第2導入口から導入された油を一時的に貯留する第2貯留部と、前記第2貯留部に貯留された油が排出される第2排出口とを備え、前記第1排出口及び前記第2排出口の少なくとも一方が、前記収容空間に連通しており、前記第1導入口には、前記ロータ、前記ギヤ機構、及び前記出力部材の少なくともいずれかの回転により前記油貯留部から掻き上げられた油が導かれ、前記第2導入口には、前記導油部を介して前記供給油路から排出された油が導かれる。
【0007】
この構成によれば、油貯留部から掻き上げられた油が第1キャッチタンクに貯留され、オイルポンプにより油貯留部から吸引されて吐出された油が第2キャッチタンクに貯留される。これらのキャッチタンクに油が貯留されることにより、ロータ、ギヤ機構、及び出力部材の回転中における油貯留部の油面を低下させることができ、これらが油を掻き上げる際の攪拌抵抗を低減し易くすることができる。また、これらのキャッチタンクへの油の導入が掻き上げ及びオイルポンプの双方により行われることにより、油の導入がオイルポンプのみで行われる場合に比べて、オイルポンプの小型化を図り易い。また、オイルポンプの駆動による車両用駆動装置のエネルギー損失も低く抑えることができる。即ち、本構成によれば、車両用駆動装置の駆動効率の低下を抑制しつつ、当該車両用駆動装置の駆動によって冷却及び潤滑の対象箇所に油を供給することができる。
【0008】
車両用駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両用駆動装置と駆動対象の車輪との関係を示す図
【
図2】車両用駆動装置における油の流れを模式的に示す図
【
図4】軸方向第1側(車輪側)から見た車両用駆動装置の外観図
【
図5】軸方向第2側(車体側)から見た車両用駆動装置の外観図
【
図6】車両用駆動装置の
図4におけるVI-VI断面図
【
図7】車両用駆動装置の
図5におけるVII-VII断面図
【
図8】軸方向第1側(車輪側)から見た第2ケース部の平面図
【
図9】軸方向第2側(車体側)から見た第2ケース部の平面図
【
図10】軸方向第1側(車輪側)から見たケースカバーの平面図
【
図11】軸方向第2側(車体側)から見たケースカバーの平面図
【
図12】車速(回転速度)とそれぞれの油の貯留部における油の量との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両用駆動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、
図1に示すように、車両の車輪Wに取り付けられて当該車輪Wを駆動する車両用駆動装置100を例として説明する。この車両用駆動装置100における駆動力源は、後述するように回転電機3であり、車両用駆動装置100はいわゆるインホイールモータ型の駆動装置である。
【0011】
以下の説明における各部材についての方向は、車両用駆動装置100が車両に組み付けられた状態での方向を表す。また、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態を含む概念である。ここで、車両用駆動装置100が車両に取り付けられた状態(車両搭載状態)において、鉛直方向に沿った方向を上下方向Zと称し、上下方向Zにおける上方を上側Z1、下方を下側Z2と称する。また、車両搭載状態において、車両用駆動装置100の回転軸(本実施形態では互いに平行な別軸である第1軸A1及び第2軸A2、詳細は後述する)に沿った方向を軸方向Lと称し、軸方向Lにおいて車輪Wの側を軸方向第1側L1(車輪側)と称し、軸方向Lにおいて車体側(車輪Wとは反対側)を軸方向第2側L2(車体側)と称する。また、第1軸A1及び第2軸A2のそれぞれを基準として、径方向における外側を径方向外側R1、径方向における内側を径方向内側R2と称する。
【0012】
本実施形態の車両用駆動装置100は、車両用駆動装置100における供給対象箇所(潤滑必要箇所(潤滑対象箇所)及び冷却必要箇所(冷却対象箇所))へ油を供給する構成に特徴を有する。潤滑必要箇所及び冷却必要箇所は、後述する回転電機3、ギヤ機構5、出力部材4の構成要素である。回転電機3,ギヤ機構5、出力部材4は、ケース10の収容空間に収容されおり、本実施形態の車両用駆動装置100は、当該収容空間へ油を供給する構成に特徴を有する。
図2は、その特徴を説明するため、車両用駆動装置100における油の流れを模式的に示している。また、
図3のスケルトン図は、車両用駆動装置100の構成例を模式的に示している。
【0013】
図2及び
図3に示すように、車両用駆動装置100は、回転電機3と、車輪Wに駆動連結される出力部材4と、回転電機3と出力部材4との間の動力伝達を行うギヤ機構5と、これら回転電機3、出力部材4、及びギヤ機構5を収容する収容空間を囲むケース10とを備えている。ケース10は、
図1等に示すように、第1ケース部101、第2ケース部102、ケースカバー103を備えている。第1ケース部101は主に回転電機3の収容空間を形成し、第2ケース部102は主にギヤ機構5及び出力部材4の収容空間を形成している(
図6、
図7参照)。第1ケース部101と第2ケース部102とは締結部材107によって軸方向Lに締結固定されている。また、第2ケース部102とケースカバー103とも締結部材107によって軸方向Lに締結固定されている。そして、ケース10内には、回転電機3、ギヤ機構5、出力部材4を冷却及び潤滑する油が収容されている。ケース10における収容空間の下部には、当該油が溜まる油貯留部Pが形成されている(
図2、
図6、
図7等参照)。
【0014】
尚、「冷却」とは、部材から油が熱を奪うことによって当該部材の温度を低下させることをいう。また、「潤滑」とは回転部材とこれを回転可能に支持する支持部材との摩擦を軽減すること、及び、係合又は噛み合う複数の部材間の摩擦を軽減することをいう。摩擦によって発生する熱は摩擦を軽減することによって抑制されるので、「潤滑」と「冷却」とは厳密に区別されなくてもよい。
【0015】
上述したように、ケース10における収容区間の下部には油貯留部Pが形成されている。そして、
図2に示すように、車両用駆動装置100は、さらに、第1キャッチタンク1と、第2キャッチタンク2と、冷却油供給部6と、オイルポンプ8と、導油部70とを備えている。第1キャッチタンク1は、車両搭載状態で油貯留部Pよりも上側Z1に配置されて油を一時的に貯留する。同様に、第2キャッチタンク2も、車両搭載状態で油貯留部Pよりも上側Z1に配置されて油を一時的に貯留する。本実施形態では、第2キャッチタンク2は、第1キャッチタンク1よりも上側Z1に配置されている。オイルポンプ8は、回転電機3の駆動力により回転駆動されて油貯留部Pに溜まった油を吸引し、供給油路7に油を吐出する。冷却油供給部6は、供給油路7に連通しており、オイルポンプ8から吐出された冷却用の油を回転電機3に対して供給する。この回転電機3が冷却必要箇所の一例である。より具体的には、回転電機3のステータコイル34及びロータ31等が冷却必要箇所となる。
【0016】
導油部70は、供給油路7から排出された油を第2キャッチタンク2に導く油路である。本実施形態では、供給油路7内の油圧が予め設定された開放しきい値以上となった場合に供給油路7から導油部70に油が排出される。具体的には、供給油路7内の油圧が開放しきい値以上となった場合に開放されるリリーフ弁7vが供給油路7に設けられている。導油部70は、リリーフ弁7vが作用して供給油路7から排出された油を第2キャッチタンク2に導く。
【0017】
第1キャッチタンク1は、油を導入する第1導入口11と、第1導入口11から導入された油を一時的に貯留する第1貯留部12と、第1貯留部12に貯留された油が排出される第1排出口13とを備えている。また、第2キャッチタンク2は、油を導入する第2導入口21と、第2導入口21から導入された油を一時的に貯留する第2貯留部22と、第2貯留部22に貯留された油が排出される第2排出口23とを備えている。第1排出口13及び第2排出口23の少なくとも一方が、ケース10内の収容空間(潤滑必要箇所)に連通しており、第1貯留部12及び第2貯留部22の少なくとも一方に貯留された油が、収容空間(潤滑必要箇所)に供給される。本実施形態では、第1貯留部12に貯留された油が、収容空間(潤滑必要箇所)に供給される。
【0018】
詳細は、具体例も示して後述するが、本実施形態では、第2貯留部22は、第1貯留部12よりも上側Z1に配置されており、第2排出口23は、第1貯留部12に連通している。そして、第1排出口13が、収容空間に連通している。つまり、第2貯留部22に貯留された油も第1貯留部12を介して収容空間に供給される。同様に詳細は後述するが、第1導入口11には、回転電機3のロータ31、ギヤ機構5、及び出力部材4の少なくともいずれかの回転により油貯留部Pから掻き上げられた油が導かれ、第1貯留部12に貯留される。第2導入口21には、上述した導油部70を介して供給油路7から排出された油が導かれ、第2貯留部22に貯留される。
【0019】
以下、具体例を示して車両用駆動装置100の実施形態を説明する。本明細書では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等)が含まれていてもよい。
【0020】
また、本明細書では、2つの部材の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線に直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの部材の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを意味する。また、本明細書では、2つの部材の配置に関して、「軸方向の配置領域が重複する」とは、一方の部材の軸方向の配置領域内に、他方の部材の軸方向の配置領域の少なくとも一部が含まれることを意味する。
【0021】
図3に示すように、回転電機3は、ロータ31と、ステータコイル34が巻き回されたステータ33とを備えている。回転電機3は、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置(図示せず)と電気的に接続されており、蓄電装置から電力の供給を受けて力行する。また、回転電機3は、車両の慣性力により発電した電力を蓄電装置に供給して蓄電させてもよい。ロータ31と連結されてロータ31と一体的に回転するロータシャフト32は、ロータシャフト軸受B3に回転可能に支持されている。ロータシャフト32は、入力シャフト30(入力部材)に連結されている。入力シャフト30は、入力シャフト軸受B2に回転可能に支持されて、ロータシャフト32と一体的に回転する。
【0022】
入力シャフト30は、ギヤ機構5を介して出力部材4に駆動連結されている。ギヤ機構5は、減速機として機能する遊星歯車機構PGと、遊星歯車機構PGと出力部材4とを駆動連結する連結ギヤ機構CGとを備えて構成されている。本実施形態では、ロータ31と、ロータシャフト32と、入力シャフト30と、遊星歯車機構PGと、連結ギヤ機構CGとが第1軸A1上に配置され、出力部材4が第1軸A1に平行な別軸である第2軸A2に配置されている。
【0023】
遊星歯車機構PGは、サンギヤ51と、リングギヤ52と、サンギヤ51及びリングギヤ52の双方に噛み合う複数のピニオンギヤ53と、複数のピニオンギヤ53を回転可能に支持するキャリヤ54とを備えている。連結ギヤ機構CGは、連結シャフト軸受B5に回転可能に支持された連結シャフト59と、連結シャフト59に連結された連結ギヤ58とを備えて構成されている。連結ギヤ58は、第2軸A2上に配置された出力ギヤ41と噛み合っている。出力ギヤ41は、出力シャフト軸受B4に回転可能に支持された出力シャフト42に連結されて出力シャフト42と一体的に回転する。出力シャフト42は、車輪Wと駆動連結されており、出力ギヤ41及び出力シャフト42の少なくとも一方は、出力部材4に相当する。
【0024】
遊星歯車機構PGのサンギヤ51は、入力シャフト30に連結されて入力シャフト30と一体的に回転する。リングギヤ52はケース10に固定されている。キャリヤ54は、連結シャフト59に連結されて、連結シャフト59と一体的に回転する。サンギヤ51は、遊星歯車機構PGの入力要素であり、キャリヤ54は遊星歯車機構PGの出力要素である。本実施形態において遊星歯車機構PGは、入力要素に入力された回転を減速すると共にトルクを増幅して、出力要素から出力する減速機として構成されている。尚、上述したロータシャフト軸受B3、入力シャフト軸受B2、連結シャフト軸受B5、出力シャフト軸受B4は、「潤滑必要箇所」に相当する。
【0025】
図4及び
図5は、車両用駆動装置100の外観図であり、
図4は軸方向第1側L1(車輪側)から、
図5は軸方向第2側L2(車体側)から見た外観図である。
図6は、
図4におけるVI-VI断面図であり、
図7は、
図5におけるVII-VII断面図である。また、
図8及び
図9は、第2ケース部102の平面図であり、
図8は軸方向第1側L1(車輪側)から、
図9は軸方向第2側L2(車体側)から平面図である。また、
図10及び
図11は、ケースカバー103の平面図であり、
図10は軸方向第1側L1(車輪側)から、
図11は軸方向第2側L2(車体側)から見た平面図である。
図4、
図5に示すように、第1ケース部101、第2ケース部102、ケースカバー103のそれぞれには、車両用駆動装置100の熱を放熱させるための冷却フィン105が形成されている。
【0026】
図6及び
図7に示すように、回転電機3は、軸方向第2側L2において、ケース10における収容空間の上下方向Zのほぼ全域に亘って配置されている。軸方向第2側L2には第1ケース部101が配置されており、回転電機3は第1ケース部101の内側に収容されている。つまり、回転電機3は第1ケース部101と軸方向Lの配置領域が重複するように、ケース10に収容されている。ロータシャフト32は、ロータシャフト軸受B3を介してケース10に回転可能に支持されている。ロータシャフト軸受B3は、軸方向第2側L2において径方向内側R2からロータシャフト32を支持するロータシャフト第1軸受B31と、軸方向第1側L1において径方向外側R1からロータシャフト32を支持するロータシャフト第2軸受B32とを備える。
【0027】
上述したように、ロータシャフト32には入力シャフト30が連結されている。入力シャフト30は、中空のロータシャフト32の径方向内側R2に配置され、入力シャフト軸受B2を介してケース10に回転可能に支持されている。入力シャフト軸受B2は、軸方向第2側L2において径方向外側R1から入力シャフト30を支持する入力シャフト第1軸受B21と、軸方向第1側L1において径方向外側R1から入力シャフト30を支持する入力シャフト第2軸受B22とを備える。入力シャフト第1軸受B21は、ロータシャフト第1軸受B31よりも径方向内側R2に配置され、入力シャフト第2軸受B22は、ロータシャフト第2軸受B32よりも径方向内側R2に配置されている。
【0028】
遊星歯車機構PGは、径方向Rにおいて、ロータシャフト32と入力シャフト30との間に配置されている。入力シャフト30の径方向外側R1、つまり入力シャフト30の外周には遊星歯車機構PGのサンギヤ51が形成されている。リングギヤ52は、ロータシャフト32の径方向内側R2でケース10に固定されており、サンギヤ51とリングギヤ52との間に複数のピニオンギヤ53が配置されている。複数のピニオンギヤ53を回転可能に支持するキャリヤ54は、連結シャフト59と一体的に形成されて一体的に回転する。
【0029】
遊星歯車機構PGに対して軸方向第1側L1における連結シャフト59の径方向外側R1には連結ギヤ58が配置されている。連結ギヤ58と遊星歯車機構PGとは軸方向Lの配置領域が重複しないように配置されている。連結シャフト59は、連結シャフト軸受B5を介して回転可能にケース10に支持されている。連結シャフト軸受B5は、軸方向第2側L2において径方向外側R1から連結シャフト59を支持する連結シャフト第1軸受B51と、軸方向第1側L1において径方向外側R1から連結シャフト59を支持する連結シャフト第2軸受B52とを備える。
【0030】
第1軸A1上に配置された連結ギヤ58は、第2軸A2上に配置された出力ギヤ41に噛み合っている。出力ギヤ41は、出力シャフト42の径方向外側R1、具体的には出力シャフト42の外周に形成されている。出力シャフト42は、出力シャフト軸受B4を介して回転可能にケース10に支持されている。出力シャフト軸受B4は、軸方向第2側L2において径方向外側R1から出力シャフト42を支持する出力シャフト第1軸受B41と、軸方向第1側L1において径方向外側R1から出力シャフト42を支持する出力シャフト第2軸受B42とを備える。
【0031】
連結ギヤ58と出力ギヤ41とは、軸方向Lの配置領域が重複するように配置されている。また、連結ギヤ58と出力ギヤ41とは、軸方向Lの配置領域が第2ケース部102と重複するように配置されている。また、連結シャフト第1軸受B51と出力シャフト第1軸受B41とは、軸方向Lの配置領域が重複するように配置され、連結シャフト第2軸受B52と出力シャフト第2軸受B42とは、軸方向Lの配置領域が重複するように配置されている。
【0032】
図8及び
図9は、第2ケース部102の軸方向L視の平面図であり、
図8は軸方向第1側L1(車輪側)から見た図、
図9は軸方向第2側L2(車体側)から見た図である。
図10及び
図11は、ケースカバー103の軸方向L視の平面図であり、
図10は軸方向第1側L1(車輪側)から見た図であり、
図11は軸方向第2側L2(車体側)から見た図である。
【0033】
図6及び
図7に示すように、油貯留部Pは、ケース10内における収容空間の下部に形成されている。そして、第1キャッチタンク1及び第2キャッチタンク2は、油貯留部Pよりも上側Z1に配置されている。また、
図6から
図8、及び
図11に示すように、本実施形態では、第2キャッチタンク2は、第1キャッチタンク1よりも上側Z1に配置されている。具体的には、第2貯留部22は、第1貯留部12よりも上側Z1に配置されている。そして、本実施形態では、第1貯留部12と第2貯留部22とは軸方向Lの配置領域が重複して配置されている。
【0034】
第1キャッチタンク1の第1導入口11には、ロータ31、連結ギヤ58(ギヤ機構5)、及び出力部材4の少なくとも何れかの回転により油貯留部Pから掻き上げられた油が導かれる。
図6及び
図7に示す符号“H0”は、油貯留部Pに貯留される油の初期油面の高さを示している。初期油面高さH0においては、ロータ31、連結ギヤ58、遊星歯車機構PG、出力ギヤ41が油に浸されており、これらの回転によって油を掻き上げることができる。掻き上げられた油は、
図6及び
図9に示すように、第1導入口11の軸方向第2側L2に形成されたオイル導入ガイド17に捕捉され、第1導入口11を介して第1貯留部12に導かれる。
【0035】
掻き上げられた油は、第1貯留部12に貯留される。車速(ロータ31等の回転速度)が高くなると、それに伴って掻き上げられる油の量も増加し、第1貯留部12に貯留される油の量も増加していく。その結果、油貯留部Pにおける油面の高さは初期油面高さH0から低下していくことになる。
図12は、車速(ロータ31、ギヤ機構5、出力部材4の回転速度)と、それぞれの油の貯留部(油貯留部P、第1貯留部12、第2貯留部22)における油の量との関係を示している。尚、
図12では比較を容易にするために、油貯留部Pにおける油面高さに換算して油の量を示している。
図12において、“HP”は油貯留部Pにおける油面の高さ(油貯留部油量HP)を示している。“H1”は第1貯留部12に貯留される油の量(第1貯留部油量H1)を、“H2”は第2貯留部22に貯留される油の量(第2貯留部油量H2)を、それぞれ油貯留部Pにおける油面の高さに換算して示している。
【0036】
第2キャッチタンク2の第2導入口21には、
図6に示すように第2ケース部102の内壁に形成された導油部70を介して供給油路7から排出された油が導かれる。供給油路7には、回転電機3の駆動力により回転駆動されて油貯留部Pに溜まった油を吸引するオイルポンプ8から吐出される油が供給される。
図5及び
図7に示すように、油貯留部Pには、オイルポンプ8の吸入油路81と油貯留部Pとを連通するための開口部である吸入開口部82が形成されている。吸入開口部82は、後述するように油貯留部Pの油面が最も低くなった場合であっても、油貯留部Pから適切に油を吸入することができる位置に設けられている。
【0037】
本実施形態では、ロータ31の下端部“H3”、ギヤ機構5におけるギヤ歯の下端部(遊星歯車機構PGのリングギヤ52のギヤ歯の下端部、連結ギヤ58のギヤ歯の下端部)“H5”及び出力部材4の下端部(出力ギヤ41のギヤ歯の下端部)の内、車両搭載状態で何れか下側Z2に配置された下端部“H5”よりも下側Z2に、オイルポンプ8の吸入油路81における油貯留部Pに開口する開口部である吸入開口部82が配置されている。本実施形態では、
図7に示すように、ロータ31の下端部“H3”が最も下側Z2に配置された下端部であり、吸入開口部82は、ロータ31の下端部“H3”よりも下側Z2に配置されている。
【0038】
例えば、ロータ31の停止中やロータ31の回転速度が低い低速領域であって、油貯留部Pの油面が最も高い状態では、ロータ31、ギヤ機構5及び出力部材4の少なくとも1つにより油が掻き上げられて第1導入口11に導かれた油が第1キャッチタンク1に貯留される。第1キャッチタンク1に油が貯留されることで油貯留部Pの油面が低下して、ロータ31、ギヤ機構5におけるギヤ歯及び出力部材4の下端部の何れか最も下側Z2に配置されたものよりも下側Z2に油面が位置する状態になると、これら何れかによる油の掻き上げが行われない状態となる。しかし、この状態でも、当該下端部よりも下側Z2に吸入開口部82が配置されていることで、オイルポンプ8により油を吸引することができる。
【0039】
オイルポンプ8は、
図5及び
図7に示すように、吸入開口部82及び吸入油路81を介して油貯留部Pに溜まった油を吸引し、冷却油供給部6に連通している供給油路7に油を吐出する。
図6及び
図7に示すように、冷却油供給部6は回転電機3のステータコイル34のコイルエンド部の近傍に配置されており、電流が流れることによって発熱するステータコイル34に冷却用の油を供給する。
【0040】
第2キャッチタンク2の第2導入口21には、供給油路7から排出された油が導油部70を介して導かれる。供給油路7には、供給油路7内の油圧が予め設定された開放しきい値以上となった場合に供給油路7から油を排出するリリーフ弁7vが備えられている。導油部70は、リリーフ弁7vを介して供給油路7に接続されている。つまり、第2キャッチタンク2(第2貯留部22)には、車速(ロータ31の回転速度)が高くなり、オイルポンプ8の吐出力が高くなって、供給油路7内の油圧が開放しきい値以上となった場合に、油が導かれる。
【0041】
つまり、オイルポンプ8の吐出量が相対的に低い場合には、供給油路7内の油圧の上昇が大きくはなく、油貯留部Pから吸引された油は第2キャッチタンク2に導かれない。このため、油貯留部Pの油面の低下は限定的となる。従って、ロータ31、ギヤ機構5、出力部材4などの掻き上げによって第1キャッチタンク1に油を導き易くなる。一方、ロータ31の回転速度が高くなりオイルポンプ8の吐出量が高くなると、供給油路7内の油圧も上昇し、油貯留部Pから吸引された油が第2キャッチタンク2に導かれる。これにより油貯留部Pの油面が低下することで、掻き上げに伴う攪拌抵抗が低減され、車両用駆動装置100のエネルギー損失を低く抑えることができる。尚、この場合でも、潤滑対象箇所への油は、第2キャッチタンク2から第1キャッチタンク1を介して適切に供給可能である。
【0042】
上述したように、本実施形態では、第2貯留部22は、第1貯留部12よりも上側Z1に配置されている。そして、第2貯留部22に連通する第2排出口23は、
図6及び
図11に示すようにキャッチタンク間油路91を介して第1貯留部12に連通している。そして、第1貯留部12に連通する第1排出口13は、
図6や
図9に示すように複数の油路9を介して潤滑必要箇所に連通している。第1排出口13は複数箇所に設けられていてもよい。
【0043】
例えば、1つの第1排出口13は、
図6及び
図11に示すように遊星歯車機構潤滑油路92と連通し、遊星歯車機構潤滑油路92を介して遊星歯車機構PG、特にキャリヤ54に潤滑用の油を供給する。また、遊星歯車機構潤滑油路92から供給された油は、さらに下側Z2に流れて連結シャフト第1軸受B51、入力シャフト第2軸受B22、ロータシャフト第2軸受B32等を潤滑してもよい。また、例えば、
図9及び
図11に示す出力シャフト第1軸受潤滑油路94を介して出力シャフト第1軸受B41に油が供給されてもよい。さらに、第1軸A1に沿って配置された油路(符号なし)等を通って、ロータシャフト第1軸受B31や入力シャフト第1軸受B21に油が供給されてもよい。
【0044】
また、別の第1排出口13は、
図6及び
図11に示すように、連結シャフト第2軸受潤滑油路95に連通し、連結シャフト第2軸受B52に油を供給し、これを潤滑する。さらに、第1軸A1に沿って配置された油路(符号なし)等を通って、連結シャフト第1軸受B51に油が供給されると好適である。また、連結シャフト軸受B5を潤滑した油は、さらに出力シャフト軸受B4に供給されてこれらを潤滑してもよい。
【0045】
尚、出力シャフト第2軸受B42は、出力ギヤ41など、出力部材4による掻き上げによって油が供給されてもよい。また、出力シャフト第1軸受B41は、ロータ31による掻き上げによって油が供給されてもよい。また、最も径方向外側R1に位置するロータシャフト第2軸受B32は、ロータ31による掻き上げによって油が供給されてもよい。
【0046】
上述したように、第2キャッチタンク2と第1キャッチタンク1とが連通していることで、第1キャッチタンク1及び第2キャッチタンク2から収容空間内の潤滑必要箇所に油を供給するための油路9として、第1排出口13から潤滑必要箇所に油を供給する油路9のみを備えれば良い。このため、第1排出口13から潤滑必要箇所に油を供給する油路と第2排出口23から潤滑必要箇所に油を供給する油路9とを独立して備える構成に比べて、潤滑必要箇所に油を供給する油路9の構造を簡略化し易い。
【0047】
ところで、
図12に示すように、ロータ31等の回転によって掻き上げられる油は、車速(ロータ31等の回転速度)が高くなるに従って増加し、第1貯留部12に貯留される油も増加する。例えば、回転速度が第1速度V1に達すると、第1貯留部12が満杯となる。また、第1速度V1においては、供給油路7内の油圧が開放しきい値に達する。これにより、上述したように、リリーフ弁7vが開放され、速度が第1速度V1以上では第2貯留部22にも油が導入される。即ち、
図12に示す第1速度域T1では、掻き上げにより第1キャッチタンク1に油が導入され、第2速度域T2では、オイルポンプ8及びリリーフ弁7vを介して供給される油が第2キャッチタンク2に導入される。
【0048】
尚、上記においては、第1貯留部12が満杯となる速度(V11)と、供給油路7内の油圧が開放しきい値に達する速度(V12)とが、共に第1速度V1である形態を例示したが、当然ながらこれら2つの速度は異なる速度であってもよい。供給油路7に高い油圧が掛かるとオイルポンプ8の負荷が増大し、回転電機3のエネルギー損失も増大する。また、第1貯留部12が満杯であれば、掻き上げによって第1貯留部12に油を導入する必要性も低下する。従って、第1貯留部12が満杯となる速度(V11)よりも低い速度で、リリーフ弁7vが開放される方が好ましい。つまり、供給油路7内の油圧が開放しきい値に達する速度(V12)は、第1貯留部12が満杯となる速度(V11)よりも低い速度であると好適である。尚、本実施形態では、リリーフ弁7vによって供給油路7から導油部70に油が排出される形態を例示したが、油圧センサの検出結果に基づいて制御される電磁弁等によって供給油路7から導油部70に油が排出されてもよい。
【0049】
ロータ31等の回転による掻き上げにより第1キャッチタンク1へ油が導入され始めると、油貯留部Pに貯留される油が減少し、油面の高さは初期油面高さH0から低下していく。油面の高さの低下は、第1貯留部12が満杯となる第1速度V1(V11)まで継続する。本実施形態では、第1貯留部12が満杯となった際の油貯留部Pの油面の高さは、少なくても遊星歯車機構PGが油につからない高さ“H5”である(
図6、
図7参照)。本実施形態では、第1速度V1(V12)より第2キャッチタンク2への油の導入が開始されるため、油面の高さは第2貯留部22が満杯となるまで、さらに低下していく。
図12に示すように、本実施形態では車速(ロータ31の回転速度)が第2速度V2に達すると第2貯留部22も満杯となる。この際の油貯留部Pの油面の高さは、
図6及び
図7に示す“H3”であり、この高さは、吸入開口部82よりも高い高さである。
【0050】
ここで、第1貯留部12及び第2貯留部22の容量は、下記のように設定されているとよい。本実施形態では、例えば
図6及び
図7に示すように、ギヤ機構5におけるギヤ歯の下端部(H5)よりも下側Z2に、ロータ31の下端部(H3)が配置されている。第1貯留部12の容量は、油貯留部Pの油面がギヤ機構5におけるギヤ歯の下端部(H5)に対応する高さとなった状態で油が溢れ出ないように設定されている。また、第2貯留部22の容量は、油貯留部Pの油面がロータ31の下端部(H3)に対応する高さとなった状態で油が溢れ出ないように設定されている。
【0051】
このように設定されていると、油貯留部Pの油面がギヤ歯の下端部(H5)に対応する高さとなるまで、ギヤ機構5のギヤ歯により掻き上げた油を第1キャッチタンク1の第1貯留部12に貯留させることができる。また、油貯留部Pの油面がロータ31の下端部(H3)に対応する高さとなるまで、オイルポンプ8により吸引した油を第2キャッチタンク2の第2貯留部22に貯留させることができる。第1貯留部12及び第2貯留部22に油を貯留することで、油貯留部Pの油面をロータ31の下端部(H3)と同じ高さ或いはそれより下側Z2まで低下させることが可能となる。よって、ロータ31による油の撹拌抵抗を更に低減することができる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、油貯留部Pから掻き上げられた油が第1キャッチタンク1に貯留され、オイルポンプ8により油貯留部Pから吸引されて吐出された油が第2キャッチタンク2に貯留される。これらのキャッチタンクに油が貯留されることにより、ロータ31、ギヤ機構5、及び出力部材4の回転中における油貯留部Pの油面を低下させることができ、これらが油を掻き上げる際の攪拌抵抗を低減し易くすることができる。また、これらのキャッチタンクへの油の導入が掻き上げ及びオイルポンプ8の双方により行われることにより、油の導入がオイルポンプ8のみで行われる場合に比べて、オイルポンプ8の小型化を図り易い。また、オイルポンプ8の駆動による車両用駆動装置100のエネルギー損失も低く抑えることができる。即ち、本実施形態によれば、車両用駆動装置100の駆動効率の低下を抑制しつつ、当該車両用駆動装置100の駆動によって冷却及び潤滑の対象箇所に適切に油を供給することができる。
【0053】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0054】
(1)上記においては、回転電機3と同軸である第1軸A1上に遊星歯車機構PGによる減速機と連結ギヤ機構CGが配置され、第1軸A1と平行な別軸である第2軸A2上に出力部材4が配置される2軸の形態を例示した。しかし、例えば減速機が第1軸A1と平行な別軸上に配置された平歯車機構によって構成され、さらにこれらに平行な別軸上に出力部材4が配置される3軸の形態であってもよい。また、上記においては、いわゆるインホイールモータ型の車両用駆動装置を例示したが、出力用差動歯車装置等を有して左右の車輪Wに動力を分配する車両用駆動装置であってもよい。この場合、当該出力用差動歯車装置を構成する回転部材が出力部材4に相当する。
【0055】
(2)上記においては、第2キャッチタンク2が、第1キャッチタンク1よりも上側Z1に配置されている形態を例示して説明した。具体的には、第2貯留部22が、第1貯留部12よりも上側Z1に配置され、第2排出口23が、第1貯留部に連通し、前記第1排出口が、収容空間(潤滑必要箇所)に連通している形態を例示した。しかし、第1キャッチタンク1と第2キャッチタンク2とは上下方向Zにおいて同じ位置に配置されていても、第1キャッチタンク1が、第2キャッチタンク2よりも上側Z1に配置されていてもよい。また、第1キャッチタンク1と第2キャッチタンク2とは連通していなくてもよく、それぞれのキャッチタンクから収容空間(潤滑必要箇所)への油路9が形成されていてもよい。
【0056】
(3)上記においては、供給油路7にリリーフ弁7vが設けられ、供給油路7内の油圧が開放しきい値以上となった場合に油が供給油路7から排出される形態を例示した。しかし、リリーフ弁7vを介することなく、供給油路7内の油が第2貯留部22へ導入される形態であってもよい。油圧が低ければ、第2貯留部22へ導入される油の流量も少なくなり、油圧が高ければ、第2貯留部22へ導入される油の流量も多くなるので、第2貯留部22へ導入される油の量はある程度、油圧に応じて制御される。
【0057】
(4)上記においては、ギヤ機構5等による油の掻き上げとの関係を考慮して、吸入開口部82が配置される形態を例示した。しかし、吸入開口部82はオイルポンプ8が油貯留部Pから油を吸引できればよく、ギヤ機構5等による油の掻き上げとは無関係に配置されていてもよい。例えば、上下方向Zにおける最下部に吸入開口部82が配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1:第1キャッチタンク、2:第2キャッチタンク、3:回転電機、4:出力部材、5:ギヤ機構、6:冷却油供給部、7:供給油路、7v:リリーフ弁、8:オイルポンプ、9:油路、10:ケース、11:第1導入口、12:第1貯留部、13:第1排出口、21:第2導入口、22:第2貯留部、23:第2排出口、31:ロータ、70:導油部、81:吸入油路、82:吸入開口部、100:車両用駆動装置、B2:入力シャフト軸受、B21:入力シャフト第1軸受、B22:入力シャフト第2軸受、B3:ロータシャフト軸受、B31:ロータシャフト第1軸受、B32:ロータシャフト第2軸受、B4:出力シャフト軸受、B41:出力シャフト第1軸受、B42:出力シャフト第2軸受5:連結シャフト軸受、B51:連結シャフト第1軸受、B52:連結シャフト第2軸受:初期油面高さ、P:油貯留部、W:車輪、Z1:上側、Z2:下側