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  • 特開-移動速度の検出装置および検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185771
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】移動速度の検出装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/36 20060101AFI20221208BHJP
   G01S 13/50 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01P3/36 E
G01S13/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093599
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西山 拓真
(72)【発明者】
【氏名】時枝 幸伸
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AH12
5J070AH19
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK01
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】速度の測定における曖昧さを解消する。
【解決手段】奇数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度Voと奇数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcaとに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、偶数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度Voと偶数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcbとに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度Veを出力する信号処理部5を有し、奇数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcaに基づく折り返し速度Vmaxaと偶数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcbに基づく折り返し速度Vmaxbとの最小公倍数が、送受信部3と物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
奇数番目のチャープフレームと偶数番目のチャープフレームとで2種類のチャープ時間を交互に切り替えながら送信波を放射するとともに前記送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信する送受信部と、
前記奇数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、前記偶数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力する信号処理部と、を有し、
前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間に基づく折り返し速度と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間に基づく折り返し速度との最小公倍数が、前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上である、
ことを特徴とする移動速度の検出装置。
【請求項2】
前記信号処理部が、
複数の前記奇数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値と前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、複数の前記偶数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動速度の検出装置。
【請求項3】
前記信号処理部が、
最新のチャープフレームの処理によって得られる前記送受信部と前記物体との距離,前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度,および受信強度の組み合わせデータについて前記相対的な移動速度の値ごとに前記受信強度の値を積算し前記相対的な移動速度の値別の受信強度積算値を算出して前記相対的な移動速度と前記受信強度積算値との組み合わせデータの集合を生成し、
前記組み合わせデータの集合において前記最新のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値と、少なくとも前記観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値を除く前記受信強度積算値の平均値と、の関係に基づいて速度信頼度を算出し、
前記速度信頼度の値に応じて所定の間は前記推定相対速度の値を更新しない、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の移動速度の検出装置。
【請求項4】
前記信号処理部が、
最新のチャープフレームの処理によって得られる前記送受信部と前記物体との距離,前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度,および受信強度の組み合わせデータについて前記相対的な移動速度の値ごとに前記受信強度の値を積算し前記相対的な移動速度の値別の受信強度積算値を算出して前記相対的な移動速度と前記受信強度積算値との組み合わせデータの集合を生成し、
前記組み合わせデータの集合において前記最新のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値と、少なくとも前記観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値を除く前記受信強度積算値の平均値と、の関係に基づいて速度信頼度を算出し、
前記速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の推定相対速度の値と最新の推定相対速度の値とを加重平均して算出される値を推定相対速度として出力する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の移動速度の検出装置。
【請求項5】
送受信部が奇数番目のチャープフレームと偶数番目のチャープフレームとで2種類のチャープ時間を交互に切り替えながら送信波を放射するとともに前記送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信する処理と、
前記奇数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、前記偶数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力する処理と、を有し、
前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間に基づく折り返し速度と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間に基づく折り返し速度との最小公倍数が、前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上である、
ことを特徴とする移動速度の検出方法。
【請求項6】
複数の前記奇数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値と前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、複数の前記偶数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力する、
ことを特徴とする請求項5に記載の移動速度の検出方法。
【請求項7】
最新のチャープフレームの処理によって得られる前記送受信部と前記物体との距離,前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度,および受信強度の組み合わせデータについて前記相対的な移動速度の値ごとに前記受信強度の値を積算し前記相対的な移動速度の値別の受信強度積算値を算出して前記相対的な移動速度と前記受信強度積算値との組み合わせデータの集合を生成する処理と、
前記組み合わせデータの集合において前記最新のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値と、少なくとも前記観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値を除く前記受信強度積算値の平均値と、の関係に基づいて速度信頼度を算出する処理と、をさらに有し、
前記速度信頼度の値に応じて所定の間は前記推定相対速度の値を更新しない、
ことを特徴とする請求項5または6に記載の移動速度の検出方法。
【請求項8】
最新のチャープフレームの処理によって得られる前記送受信部と前記物体との距離,前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度,および受信強度の組み合わせデータについて前記相対的な移動速度の値ごとに前記受信強度の値を積算し前記相対的な移動速度の値別の受信強度積算値を算出して前記相対的な移動速度と前記受信強度積算値との組み合わせデータの集合を生成する処理と、
前記組み合わせデータの集合において前記最新のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値と、少なくとも前記観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値を除く前記受信強度積算値の平均値と、の関係に基づいて速度信頼度を算出する処理と、をさらに有し、
前記速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の推定相対速度の値と最新の推定相対速度の値とを加重平均して算出される値を推定相対速度として出力する、
ことを特徴とする請求項5または6に記載の移動速度の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動速度の検出装置および検出方法に関し、特に、レーダから送信された電波が物体の表面で反射して戻ってくる反射波を処理して取得されるレーダデータに基づいてレーダ装置と物体との相対的な移動速度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
距離や速度を測定するためのレーダ装置として、三角波の周波数変調を施した連続波レーダの送信信号と受信信号とのビート信号の周波数から距離および速度を求めるミリ波レーダ装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-51055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、FMCW(Frequency Modulated-Continuous Wave の略;周波数変調連続波)方式のレーダのチャープ時間(言い換えると、チャープの周期)の逆数を2で除した値がドップラ(=相対速度)のサンプリング周波数に相当する。サンプリング定理によりナイキスト周波数を超える周波数はフーリエ変換で復元することができないので、レーダ装置と物体との実際の相対的な移動速度が大きくなると、エイリアス信号として折り返った速度に出現する。このため、速度に対応する周波数において折り返しが発生すると、速度の測定における曖昧さが発生する、という問題がある。
【0005】
そこでこの発明は、速度の測定における曖昧さを解消することが可能な移動速度の検出装置および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係る移動速度の検出装置は、奇数番目のチャープフレームと偶数番目のチャープフレームとで2種類のチャープ時間を交互に切り替えながら送信波を放射するとともに前記送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信する送受信部と、前記奇数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、前記偶数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力する信号処理部と、を有し、前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間に基づく折り返し速度と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間に基づく折り返し速度との最小公倍数が、前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上である、ことを特徴とする。
【0007】
この発明に係る移動速度の検出装置は、前記信号処理部が、複数の前記奇数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値と前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、複数の前記偶数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力する、ようにしてもよい。
【0008】
この発明に係る移動速度の検出装置は、前記信号処理部が、最新のチャープフレームの処理によって得られる前記送受信部と前記物体との距離,前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度,および受信強度の組み合わせデータについて前記相対的な移動速度の値ごとに前記受信強度の値を積算し前記相対的な移動速度の値別の受信強度積算値を算出して前記相対的な移動速度と前記受信強度積算値との組み合わせデータの集合を生成し、前記組み合わせデータの集合において前記最新のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値と、少なくとも前記観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値を除く前記受信強度積算値の平均値と、の関係に基づいて速度信頼度を算出し、前記速度信頼度の値に応じて所定の間は前記推定相対速度の値を更新しない、ようにしてもよい。
【0009】
この発明に係る移動速度の検出装置は、前記信号処理部が、最新のチャープフレームの処理によって得られる前記送受信部と前記物体との距離,前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度,および受信強度の組み合わせデータについて前記相対的な移動速度の値ごとに前記受信強度の値を積算し前記相対的な移動速度の値別の受信強度積算値を算出して前記相対的な移動速度と前記受信強度積算値との組み合わせデータの集合を生成し、前記組み合わせデータの集合において前記最新のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値と、少なくとも前記観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値を除く前記受信強度積算値の平均値と、の関係に基づいて速度信頼度を算出し、前記速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の推定相対速度の値と最新の推定相対速度の値とを加重平均して算出される値を推定相対速度として出力する、ようにしてもよい。
【0010】
また、この発明に係る移動速度の検出方法は、送受信部が奇数番目のチャープフレームと偶数番目のチャープフレームとで2種類のチャープ時間を交互に切り替えながら送信波を放射するとともに前記送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信する処理と、前記奇数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、前記偶数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力する処理と、を有し、前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間に基づく折り返し速度と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間に基づく折り返し速度との最小公倍数が、前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上である、ことを特徴とする。
【0011】
この発明に係る移動速度の検出方法は、複数の前記奇数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値と前記奇数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、複数の前記偶数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値と前記偶数番目のチャープフレームの前記チャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力する、ようにしてもよい。
【0012】
この発明に係る移動速度の検出方法は、最新のチャープフレームの処理によって得られる前記送受信部と前記物体との距離,前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度,および受信強度の組み合わせデータについて前記相対的な移動速度の値ごとに前記受信強度の値を積算し前記相対的な移動速度の値別の受信強度積算値を算出して前記相対的な移動速度と前記受信強度積算値との組み合わせデータの集合を生成する処理と、前記組み合わせデータの集合において前記最新のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値と、少なくとも前記観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値を除く前記受信強度積算値の平均値と、の関係に基づいて速度信頼度を算出する処理と、をさらに有し、前記速度信頼度の値に応じて所定の間は前記推定相対速度の値を更新しない、ようにしてもよい。
【0013】
この発明に係る移動速度の検出方法は、最新のチャープフレームの処理によって得られる前記送受信部と前記物体との距離,前記送受信部と前記物体との相対的な移動速度,および受信強度の組み合わせデータについて前記相対的な移動速度の値ごとに前記受信強度の値を積算し前記相対的な移動速度の値別の受信強度積算値を算出して前記相対的な移動速度と前記受信強度積算値との組み合わせデータの集合を生成する処理と、前記組み合わせデータの集合において前記最新のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値と、少なくとも前記観測相対速度の値と組み合わされている前記受信強度積算値を除く前記受信強度積算値の平均値と、の関係に基づいて速度信頼度を算出する処理と、をさらに有し、前記速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の推定相対速度の値と最新の推定相対速度の値とを加重平均して算出される値を推定相対速度として出力する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る移動速度の検出装置や移動速度の検出方法によれば、奇数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と奇数番目のチャープフレームのチャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、偶数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度と偶数番目のチャープフレームのチャープ時間とに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力するようにしているので、速度の測定における曖昧さを解消することが可能となる。
【0015】
この発明に係る移動速度の検出装置や移動速度の検出方法によれば、また、奇数番目のチャープフレームのチャープ時間に基づく折り返し速度と偶数番目のチャープフレームのチャープ時間に基づく折り返し速度との最小公倍数が、送受信部と物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上であるようにしているので、速度の測定における曖昧さを確実に解消することが可能となる。
【0016】
この発明に係る移動速度の検出装置や移動速度の検出方法は、複数の奇数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値に基づく速度候補の集合と、複数の偶数番目のチャープフレームの処理によって特定される観測相対速度の値に基づく速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度を出力するようにした場合には、推定相対速度の異常値の出力を防ぐことが可能となり、延いては、移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0017】
この発明に係る移動速度の検出装置や移動速度の検出方法は、相対的な移動速度の値ごとに受信強度の値を積算して算出される受信強度積算値を用いて計算される速度信頼度の値に応じて所定の間は推定相対速度の値を更新しないようにした場合には、外乱などによって受信強度が著しく低下した時に推定される推定相対速度の異常値の出力を防ぐことが可能となり、延いては、短期間の受信強度の低下による推定相対速度の値への影響を抑圧して移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0018】
この発明に係る移動速度の検出装置や移動速度の検出方法は、相対的な移動速度の値ごとに受信強度の値を積算して算出される受信強度積算値を用いて計算される速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の推定相対速度の値と最新の推定相対速度の値とを加重平均して算出される値を推定相対速度として出力するようにした場合には、外乱などによって受信強度が著しく低下した時に推定される推定相対速度の異常値のそのままの出力を防ぎつつ過去の推定相対速度の値と最新の推定相対速度の値とのそれぞれの信頼度で加重平均した値を出力することが可能となり、延いては、短期間の受信強度の低下による推定相対速度の値への影響を抑圧して移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施の形態に係る移動速度の検出装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2】実施の形態における1チャープフレームごとの変調設定の切り替えを説明する図である。
図3】VRデータの集合における速度の折り返しの例を示す図である。
図4図1の移動速度の検出装置の速度補正部における速度の推定の仕法を説明する図である。
図5図1の移動速度の検出装置の速度補正部における速度の推定の他の仕法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
図1は、この発明の実施の形態に係る移動速度の検出装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0022】
移動速度の検出装置1は、レーダによって取得されるレーダデータに基づいてレーダ装置と物体との相対的な移動速度を推定する仕組みであり、主として、制御部2と、送受信部3と、A/D変換部4と、信号処理部5と、を備える。
【0023】
制御部2は、移動速度の検出装置1を構成する各部を制御するための機序であり、例えば、移動速度の検出に纏わる演算処理を行う中央処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)、読み出し可能な記憶装置であるROM(Read Only Memory の略)、ならびに、読み出しおよび書き込み可能な記憶装置であるRAM(Random Access Memory の略)などを備える機序として構成される。
【0024】
制御部2は、ROMに格納されている、移動速度の検出装置1の動作を制御するためのプログラムを中央処理装置が実行することにより、RAMを必要に応じて作業領域として使用しながら、前記プログラムに従って移動速度の検出装置1の各部の処理の開始,内容,および終了を統制して制御する。
【0025】
そして、この実施の形態に係る移動速度の検出装置1は、奇数番目のチャープフレームと偶数番目のチャープフレームとで2種類のチャープ時間Tca,Tcbを交互に切り替えながら送信波を放射するとともに送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信する送受信部3と、奇数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度Voと奇数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcaとに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、偶数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度Voと偶数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcbとに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度Veを出力する信号処理部5と、を有し、奇数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcaに基づく折り返し速度Vmaxaと偶数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcbに基づく折り返し速度Vmaxbとの最小公倍数が、送受信部3と物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上である、ようにしている(図1参照)。
【0026】
また、この実施の形態に係る移動速度の検出方法は、送受信部3が奇数番目のチャープフレームと偶数番目のチャープフレームとで2種類のチャープ時間Tca,Tcbを交互に切り替えながら送信波を放射するとともに送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信する処理と、奇数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度Voと奇数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcaとに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、偶数番目のチャープフレームの処理によって得られる観測相対速度Voと偶数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcbとに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度Veを出力する処理と、を有し、奇数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcaに基づく折り返し速度Vmaxaと偶数番目のチャープフレームのチャープ時間Tcbに基づく折り返し速度Vmaxbとの最小公倍数が、送受信部3と物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上である、ようにしている。
【0027】
送受信部3は、電圧生成回路31,電圧制御発振器32,分配回路33,送信アンテナ34,受信アンテナ35,および混合器36を含む。
【0028】
送受信部3は、例えば79GHz帯,76GHz帯,または60GHz帯の周波数を有する電波(尚、「ミリ波」とも呼ばれる)を生成して、送信アンテナ34を介して周辺の空間へと放射/送信する。なお、この発明では、高周波数帯の電波を利用することが好ましい。
【0029】
送受信部3は、レーダ方式として例えばFMCW(Frequency Modulated-Continuous Wave の略;周波数変調連続波)方式のレーダスキャンを行って取得されるレーダデータを出力する。
【0030】
FMCW方式では、周波数変調した連続波(具体的には、電波;送信信号に相当する)を送信波として送信するとともに物体の表面で反射して戻ってくる反射波(具体的には、電波;受信信号に相当する)を受信し、送信波と受信波(即ち、反射波)との差分(言い換えると、送信波と受信波との間の周波数差)を解析することにより、具体的には距離方向に対する周波数解析を行うことにより、送受信部3と送信波を反射させた物体との間の距離が計算され、さらに、計算された距離の周波数の位相を連続波ごとに計測して解析することにより、具体的には速度方向に対する周波数解析を行うことにより、送受信部3と送信波を反射させた物体との相対的な移動速度が計算される。
【0031】
FMCW方式のレーダは、時間の経過に応じて周波数変調を行う連続発振レーダであり、複数のチャープを含むバースト波を生成して放射/送信する。バースト波に含まれる各波形即ち各チャープは、周波数が時間的に掃引されて、時間の経過に伴って周波数が線形的に変化する(具体的には、上昇/下降する)ように生成される。
【0032】
複数のチャープが所定の時間周期で放射/送信され、一連で1つの纏まりとして構成される複数のチャープのことを「チャープフレーム」と呼ぶ。1つのチャープフレームが1回のレーダスキャンに相当し、1チャープフレームごとに処理が行われる。
【0033】
この発明では、相互に異なる2種類のチャープ時間(即ち、1チャープの繰り返し周期)が用いられ、1チャープフレームごとに相互に異なる2種類のチャープ時間が交互に切り替えられて送受信が行われる(図2参照)。
【0034】
この実施の形態では、奇数番目(即ち、1番目,3番目,5番目,・・・)のチャープフレームでは変調設定として「変調パターンA」が用いられ、偶数番目(即ち、2番目,4番目,6番目,・・・)のチャープフレームでは変調設定として「変調パターンB」が用いられる。奇数番目(即ち、1番目,3番目,5番目,・・・)のチャープフレームのことを「奇数フレーム」と呼び、偶数番目(即ち、2番目,4番目,6番目,・・・)のチャープフレームのことを「偶数フレーム」と呼ぶ。
【0035】
変調設定としては、例えば、チャープ時間Tc,チャープフレーム時間Tf(尚、チャープ数でもよい),およびチャープの周波数(即ち、変調周波数)の範囲f1~f2が設定される。この発明では、少なくとも、変調パターンAの折り返し速度Vmaxaと変調パターンBの折り返し速度Vmaxbとが相互に異なる所定の値となるように、変調パターンAのチャープ時間Tcaと変調パターンBのチャープ時間Tcbとが相互に異なる値(即ち、Tca≠Tcb)に設定される。なお、2種類の変調パターンA,B各々のチャープフレーム時間Tfa,Tfbやチャープの周波数の範囲f1a~f2a,f1b~f2bは、相互に異なる値に設定されてもよく、或いは、同じ値に設定されてもよい。
【0036】
変調パターンAの折り返し速度Vmaxaと変調パターンBの折り返し速度Vmaxbとは、特定の値の組み合わせに限定されるものではないものの、VmaxaとVmaxbとの最小公倍数が、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上になるように調整されて設定される。
【0037】
なお、変調パターンAの折り返し速度Vmaxaと変調パターンBの折り返し速度Vmaxbとの両方が、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値よりも小さくなるように設定されてもよい。すなわち、変調パターンAによる送受信の処理と変調パターンBによる送受信の処理とのどちらにおいても速度の折り返しが発生しても構わない。検出可能な相対速度の範囲を狭くすることにより、相対速度の分解能の低下を回避することができる。
【0038】
この実施の形態では、一例として、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される範囲が-400km/hから+400km/hまでであるとする。この実施の形態では、また、変調パターンAの折り返し速度Vmaxaが100km/hに設定され(即ち、検出可能な相対速度の範囲は-100km/hから+100km/hまで)、変調パターンBの折り返し速度Vmaxbが80km/hに設定される(即ち、検出可能な相対速度の範囲は-80km/hから+80km/hまで)。したがって、変調パターンAの折り返し速度Vmaxaと変調パターンBの折り返し速度Vmaxbとの最小公倍数が400であり、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上である。
【0039】
そして、電圧生成回路31は、例えば、時間軸上でレベルが次第に高くなる区間とレベルが次第に低くなる区間とが交互に連続して1波形が三角波状に変化する変調電圧を生成して制御電圧として出力する。なお、レーダ方式としてFCM(Fast Chirp Modulation の略)方式が用いられて、のこぎり波状に変化する変調電圧が生成されて制御電圧として出力されるようにしてもよい。
【0040】
この際、電圧生成回路31は、1チャープフレームごとに相互に異なる2種類の変調周期(尚、チャープ時間に相当する)を交互に切り替えて変調電圧を生成して制御電圧として出力する。この実施の形態では、奇数フレームでは変調パターンAに従って変化する変調電圧が生成されて制御電圧として出力され、偶数フレームでは変調パターンBに従って変化する変調電圧が生成されて制御電圧として出力される。
【0041】
電圧生成回路31による変調電圧の生成は制御部2によって制御される。すなわち、制御部2は、1チャープフレームごとに変調パターンAに従う変調設定と変調パターンBに従う変調設定とを切り替えて変調電圧を生成して制御電圧として出力するように電圧生成回路31を制御する。
【0042】
電圧制御発振器32は、電圧生成回路31から出力される制御電圧の入力を受け、前記制御電圧に応じて時間軸上で周波数が次第に高くなる変調区間と周波数が次第に低くなる変調区間とが交互に連続して1波形(別言すると、1チャープ)が三角波状に変化する送信信号を生成して出力する。なお、レーダ方式としてFCM方式が用いられて、のこぎり波状に周波数が変化する送信信号が生成されて出力されるようにしてもよい。
【0043】
電圧制御発振器32は、この実施の形態では、奇数フレームでは変調パターンAに従って周波数変調される送信信号を生成して出力し、偶数フレームでは変調パターンBに従って周波数変調される送信信号を生成して出力する。
【0044】
分配回路33は、電圧制御発振器32から出力される送信信号の入力を受け、前記送信信号を送信アンテナ34および混合器36へと予め定められる所定の分配比で分配して供給する。
【0045】
分配回路33と送信アンテナ34との間に、必要に応じて、送信信号を増幅する増幅回路などが設けられるようにしてもよい。
【0046】
送信アンテナ34は、分配回路33から供給される送信信号の入力を受け、前記送信信号に基づいて送信波を生成して、前記送信波を周辺の空間へと放射/送信する。
【0047】
受信アンテナ35は、送信アンテナ34から放射された電波(即ち、送信波)が周辺の空間に存在する物体(別言すると、物標)の表面で反射して戻ってくる電波(即ち、反射波;「ドップラ反射波」とも呼ばれる)を含む電波を捕捉/受信し、前記反射波に対応する信号を受信信号として出力する。
【0048】
混合器36は、分配回路33から供給される送信信号(尚、「ローカル信号」とも呼ばれる)の入力を受けるとともに、受信アンテナ35から出力される受信信号の入力を受け、前記送信信号と前記受信信号とを混合して差分信号(尚、アナログ信号である)を生成して出力する。
【0049】
混合器36とA/D変換部4との間に、必要に応じて、差分信号を増幅する増幅回路や、差分信号のうちの不要な周波数成分を抑圧するフィルタ回路などが設けられるようにしてもよい。
【0050】
A/D変換部4は、送受信部3から出力される差分信号の入力を受け、アナログの前記差分信号に対して予め定められる所定のサンプリング周波数を用いてサンプリング処理(別言すると、アナログ-デジタル変換処理)を施して前記差分信号をデジタルデータに変換してデジタル信号化された差分信号(具体的には、デジタルの電圧データ)を出力する。
【0051】
ここで、A/D変換部4におけるサンプリング周波数は、奇数フレームの処理と偶数フレームの処理とで変化させずに同じ周波数が用いられる。すなわち、変調パターンAのチャープ時間Tcaと変調パターンBのチャープ時間Tcbとが相互に異なる値(即ち、Tca≠Tcb)に設定されているので、変調パターンAに従うチャープフレームの処理と変調パターンBに従うチャープフレームの処理とで同じサンプリング周波数が用いられることにより、変調パターンAの折り返し速度Vmaxaと変調パターンBの折り返し速度Vmaxbとが相互に異なる値になる。
【0052】
レーダスキャンが行われて送受信部3から出力されるレーダデータとしての差分信号は、送信側から分配回路33を介して分配される送信信号(ローカル信号)の周波数成分と受信アンテナから出力される受信信号の周波数成分との偏差の周波数成分を有する信号(つまり、ビート周波数を有する信号であり、「ビート信号」とも呼ばれる)である。
【0053】
レーダスキャンが行われるたびに、送受信部3からレーダデータが出力されて、A/D変換部4を介して、前記レーダデータが信号処理部5へと入力される。
【0054】
信号処理部5は、送受信部3から出力されてA/D変換部4でデジタルデータに変換されるレーダデータとしての差分信号の周波数解析を行うとともに、周波数解析結果を用いて送信波を反射させた物体に関する距離情報および運動情報を計算する。信号処理部5は、距離周波数解析部51、速度周波数解析部52,速度検出部53,および速度補正部54を含んで構成される。
【0055】
距離周波数解析部51は、A/D変換部4から出力されるレーダデータ(別言すると、ビート波形データ)としての差分信号(ビート信号)に対して距離方向に対する周波数解析を行う。
【0056】
距離周波数解析部51は、具体的には、1回のレーダスキャン分のビート波形データである差分信号(ビート信号)の振幅に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform の略)を用いて距離方向に対する周波数解析処理を施して、離散周波数が距離に対応する周波数複素スペクトルを出力する。
【0057】
速度周波数解析部52は、レーダデータ(ビート波形データ)としての差分信号(ビート信号)について速度方向に対する周波数解析を行う。
【0058】
速度周波数解析部52は、具体的には、距離周波数解析部51から出力される離散周波数が距離に対応する周波数複素スペクトルの入力を受け、前記周波数複素スペクトルのうちの離散周波数が相互に同じ距離に対応する各部位に対して高速フーリエ変換を用いて速度方向に対する周波数解析処理を施して、距離方向と速度方向との2次元高速フーリエ変換処理の結果として、離散周波数が速度に対応するパワースペクトル、つまり結果的に距離方向と速度方向とに対応する2次元周波数パワースペクトルを出力する。
【0059】
速度検出部53は、速度周波数解析部52から出力される距離方向と速度方向とに対応する2次元周波数パワースペクトルの入力を受け、前記2次元周波数パワースペクトルのうち、信号強度/受信強度が所定の検出用しきい値よりも大きく且つ極大となる部位をピークとして検出し、前記ピークに対応する距離方向の離散周波数(即ち、距離に対応する離散周波数)と速度方向の離散周波数(即ち、速度に対応する離散周波数)とを特定する。なお、高速フーリエ変換のような離散周波数変換を行うと、上記ピークに対応する距離方向や速度方向の周波数は離散的な周波数として得られる。
【0060】
検出用しきい値は、特定の値に限定されるものではなく、2次元周波数パワースペクトルのピークを適切に検出し得ることが考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。検出用しきい値は、予め定められるようにしてもよく、或いは、動的なしきい値アルゴリズムであるCFAR(Constant False Alarm Rate の略)が用いられて設定されるようにしてもよい。
【0061】
速度検出部53は、さらに、上記で特定される、2次元周波数パワースペクトルにおけるピークに対応する距離方向の離散周波数と速度方向の離散周波数とを用いて、FMCW方式のレーダの原理に基づいて、送受信部3と送信波を反射させた物体との間の距離(「観測距離Ro」と呼ぶ)、および、送受信部3と前記物体との相対的な移動速度(具体的には、送信波が前記物体の表面で反射した時の瞬時の相対速度;「観測相対速度Vo」と呼ぶ)を計算して出力する。
【0062】
信号処理部5による処理は、レーダスキャンごとに行われる。すなわち、1回のレーダスキャンが行われるたびに観測相対速度Voが計算される。
【0063】
なお、移動速度の検出装置1は、例えば、鉄道や自動車などの車両に搭載されるようにしてもよい。この場合は、送受信部3から出力されるレーダデータとしての差分信号に、周囲の静止物(例えば、地面/路面や構造物、また、地面/土地に対して固定的に設置されている設備;「静止ターゲット」と呼ぶ)からの反射波に起因する、移動速度の検出装置1自身の移動速度に対応する(別言すると、相当する)速度成分が含まれる。このため、静止ターゲットからの反射波に着目することにより、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定することが可能であり、つまり、静止ターゲットを基準とする自装置の相対速度を割り出すことにより、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定することが可能であり、延いては車両の移動速度/走行速度を推定することが可能である。
【0064】
移動速度の検出装置1が車両に搭載されて移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定する場合は、速度周波数解析部52から出力される距離方向と速度方向とに対応する2次元周波数パワースペクトルについて、速度方向の値ごと(別言すると、周波数ビン/速度ビンごと)に信号強度/受信強度の値が積算されて速度方向の値別の受信強度積算値が算出されるとともに前記受信強度積算値の最大値が特定されて、前記最大値に対応する速度方向の値が観測相対速度Voとして出力されるようにしてもよい。この場合の観測相対速度Voは、移動速度の検出装置1自身の移動速度である。なお、受信強度積算値は、すなわち、2次元周波数パワースペクトルにおける、速度方向の値ごと(別言すると、周波数ビン/速度ビンごと)の、距離方向についての受信強度の積算値である。
【0065】
移動速度の検出装置1が車両に搭載されて移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定する場合は、また、下記のア乃至ウが考慮されるなどしたうえで、移動速度の検出に纏わる演算処理に用いられる、2次元周波数パワースペクトルにおける距離方向の値(別言すると、周波数ビン/距離ビン)の範囲が限定されるようにしてもよい。
ア) 送受信部3の近傍に存在し送受信部3とともに移動して送受信部3との相対的な移動速度の値が0になる物体が存在する範囲を除く。
イ) 地面/土地に対して移動する物体(即ち、静止ターゲットではない物体)が存在することが明らかな範囲を除く。例えば、移動速度の検出装置1が鉄道に搭載されて前記鉄道の走行速度を推定する場合に他の鉄道が走行する範囲(例えば、隣接する線路の範囲)を除いたり、移動速度の検出装置1が自動車に搭載されて前記自動車の走行速度を推定する場合に他の自動車が走行する範囲(例えば、隣接する車線の範囲)を除いたりする。
ウ) 静止ターゲットが存在しない範囲や、静止ターゲットが存在しても反射波の受信強度が極端に弱くなる範囲を除く。
【0066】
ここで、上記のようにデジタルの電圧データが用いられるデジタル信号処理では、離散フーリエ変換が用いられて周波数解析が行われることにより、サンプリング定理に基づいて周波数の折り返しが発生する。すなわち、チャープ時間Tcによって検出可能な相対速度の範囲が決まり、送受信部3と送信波を反射させた物体との実際の相対的な移動速度が検出可能な相対速度の範囲を超えると、速度の折り返しが発生する。離散フーリエ変換が用いられる周波数解析において検出可能な相対的な移動速度の範囲のことを「相対速度検出範囲」と呼ぶ。
【0067】
速度周波数解析部52から出力される距離方向と速度方向とに対応する2次元周波数パワースペクトルに基づく、送受信部3と送信波を反射させた物体との相対的な移動速度V(単位:km/h)と、送受信部3と前記物体との距離R(単位:m)と、受信強度Iとの組み合わせからなるデータ(「VRデータ(V,R,I)」と呼ぶ)の集合における速度の折り返しの例を図3に示す。図3では、横軸を相対的な移動速度Vとするとともに縦軸を距離Rとしたうえで、(V,R)の組み合わせに対応する受信強度Iの値を、前記値
の大きさに応じて色を変えて表示している。
【0068】
図3は、折り返し速度Vmaxが100km/hである(即ち、相対速度検出範囲が-100km/hから+100km/hまでである)とともに、送受信部3と送信波を反射させた物体との実際の相対的な移動速度(「実際相対速度Va」と呼ぶ)が120km/hである場合の例であり、実際相対速度Vaが相対速度検出範囲を20km/h超えているので、反対に折り返した-80km/hにエイリアス信号が出現する。
【0069】
そこで、この発明では、奇数フレームの変調設定として変調パターンAが用いられるとともに偶数フレームの変調設定として変調パターンBが用いられることにより、相互に異なる2種類のチャープ時間TcaとTcbとが1チャープフレームごとに交互に切り替えられて送受信が行われるようにして、ナイキスト周波数が1チャープフレームごとに変わって信号処理部5における相対速度検出範囲が1チャープフレームごとに変わり、1チャープフレームの間に折り返る速度が変わることを利用して相対速度が推定される。
【0070】
例えば、nを自然数として、〔n〕番目のチャープフレームと〔n+1〕番目のチャープフレームとが用いられて実際相対速度Vaの推定が行われる(図4参照)。図4に示す例では、〔n〕番目のチャープフレームが奇数フレームであり、〔n+1〕番目のチャープフレームが偶数フレームであるとする。
【0071】
図4に示す例では、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される範囲が-400km/hから+400km/hまでであるとし、また、実際相対速度Vaが120km/hであるとする。
【0072】
速度補正部54は、〔n〕番目のチャープフレームの処理が行われて速度検出部53から出力される観測相対速度Voの入力を受け、前記観測相対速度Voの値と、奇数フレームの変調設定である変調パターンAの折り返し速度Vmaxaとに基づいて、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される範囲の速度候補の集合を生成する。
【0073】
図4に示す例では、〔n〕番目のチャープフレームの処理が行われて速度検出部53から出力される観測相対速度Voの値が-80であるとき、奇数フレームの変調設定である変調パターンAの折り返し速度Vmaxaは100km/hであるので、速度補正部54は、-280,-80,120,および320[km/h]を含む速度候補の集合を生成する。
【0074】
速度補正部54は、また、〔n+1〕番目のチャープフレームの処理が行われて速度検出部53から出力される観測相対速度Voの入力を受け、前記観測相対速度Voの値と、偶数フレームの変調設定である変調パターンBの折り返し速度Vmaxbとに基づいて、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される範囲の速度候補の集合を生成する。
【0075】
図4に示す例では、〔n+1〕番目のチャープフレームの処理が行われて速度検出部53から出力される観測相対速度Voの値が-40であるとき、偶数フレームの変調設定である変調パターンBの折り返し速度Vmaxbは80km/hであるので、速度補正部54は、-360,-200,-40,120,および280[km/h]を含む速度候補の集合を生成する。
【0076】
速度補正部54は、続いて、〔n〕番目のチャープフレームについて生成される速度候補の集合と〔n+1〕番目のチャープフレームについて生成される速度候補の集合とを対比して、一致する値を特定し、送受信部3と送信波を反射させた物体との相対的な移動速度の推定値(「推定相対速度Ve」と呼ぶ)として前記一致する値を出力する。
【0077】
図4に示す例では、速度補正部54は、速度候補の集合の中から一致する値として120を特定し、推定相対速度Veとして120[km/h]を出力する。
【0078】
速度候補の集合同士を対比して一致する値を特定する際に、速度候補の値に関する所定の範囲が設定されて、速度候補の集合それぞれに含まれる速度候補の値同士の差の絶対値が前記所定の範囲内であれば2つの速度候補の値は一致する値であると判断するようにしてもよい。例えば、速度候補の値同士の差の絶対値が0.5[km/h]以下であれば2つの速度候補の値は一致する値であると判断するようにしてもよい。この場合、一致する値であると判断された2つの速度候補の値のうちの最新の演算処理で得られた値が推定相対速度Veとして出力されるようにしてもよく、或いは、一致する値であると判断された2つの速度候補の値の平均値が推定相対速度Veとして出力されるようにしてもよい。
【0079】
(複数の奇数フレームと複数の偶数フレームとが用いられる場合)
誤推定の発生を低減させるため、複数の奇数フレームと複数の偶数フレームとが用いられて推定相対速度Veの計算(即ち、実際相対速度Vaの推定)が行われるようにしてもよい(図5参照)。
【0080】
図5に示す例では、nを自然数として、〔n〕乃至〔n+3〕番目のチャープフレームが用いられて推定相対速度Veの計算(即ち、実際相対速度Vaの推定)が行われる。図5に示す例では、〔n〕番目および〔n+2〕番目のチャープフレームが奇数フレームであり、〔n+1〕番目および〔n+3〕番目のチャープフレームが偶数フレームであるとする。変調設定などの条件は、図4に示す例と同様であるとする。
【0081】
図5に示す例では、速度補正部54は、〔n〕乃至〔n+3〕番目のチャープフレームの処理が行われて速度検出部53から出力されるチャープフレームごとの観測相対速度Voの入力を受け、〔n〕番目のチャープフレームの観測相対速度Voの値と〔n+2〕番目のチャープフレームの観測相対速度Voの値とを、すなわち、奇数フレームごとの観測相対速度Voの値同士を比較し、また、〔n+1〕番目のチャープフレームの観測相対速度Voの値と〔n+3〕番目のチャープフレームの観測相対速度Voの値とを、すなわち、偶数フレームごとの観測相対速度Voの値同士を比較する。
【0082】
速度補正部54は、続いて、奇数フレームごとの観測相対速度Voの値同士の差の絶対値が所定の範囲内である場合に、複数の奇数フレームの処理における観測相対速度Voの値が(概ね)等しいので観測が適切に行われているとして、前記奇数フレームごとの観測相対速度Voの値のうちの最新の演算処理で得られた値を複数の奇数フレームの観測相対速度Voとして特定する、または、前記奇数フレームごとの観測相対速度Voの値の平均値を複数の奇数フレームの観測相対速度Voとして特定する。
【0083】
速度補正部54は、また、偶数フレームごとの観測相対速度Voの値同士の差の絶対値が所定の範囲内である場合に、複数の偶数フレームの処理における観測相対速度Voの値が(概ね)等しいので観測が適切に行われているとして、前記偶数フレームごとの観測相対速度Voの値のうちの最新の演算処理で得られた値を複数の偶数フレームの観測相対速度Voとして特定する、または、前記偶数フレームごとの観測相対速度Voの値の平均値を複数の偶数フレームの観測相対速度Voとして特定する。
【0084】
なお、複数の奇数フレームと複数の偶数フレームとが用いられる場合は、送受信部3と物体との相対的な移動速度がフレーム間で変化することも考えられる。このため、例えば、相対速度が大きく変化することが想定されて最新の正確な相対速度の把握が重要であるときは奇数/偶数フレームごとの観測相対速度Voの値のうちの最新の演算処理で得られた値が複数の奇数/偶数フレームの観測相対速度Voとして特定されるようにすることが考えられ、また、相対速度が大きくは変化しないことが想定されて安定性を備える相対速度の把握が重要であるときは奇数/偶数フレームごとの観測相対速度Voの値の平均値が複数の奇数/偶数フレームの観測相対速度Voとして特定されるようにすることが考えられる。
【0085】
速度補正部54は、続いて、上記の処理によって特定される複数の奇数フレームの観測相対速度Voの値と、奇数フレームの変調設定である変調パターンAの折り返し速度Vmaxaとに基づいて、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される範囲の速度候補の集合を生成する。
【0086】
速度補正部54は、また、上記の処理によって特定される複数の偶数フレームの観測相対速度Voの値と、偶数フレームの変調設定である変調パターンBの折り返し速度Vmaxbとに基づいて、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される範囲の速度候補の集合を生成する。
【0087】
速度補正部54は、続いて、複数の奇数フレームについて生成される速度候補の集合と複数の偶数フレームについて生成される速度候補の集合とを対比して、一致する値を特定し、推定相対速度Veとして前記一致する値を出力する。
【0088】
速度候補の集合同士を対比して一致する値を特定する際に、速度候補の値に関する所定の範囲が設定されて、速度候補の集合それぞれに含まれる速度候補の値同士の差の絶対値が前記所定の範囲内であれば2つの速度候補の値は一致する値であると判断するようにしてもよい。例えば、速度候補の値同士の差の絶対値が0.5[km/h]以下であれば2つの速度候補の値は一致する値であると判断するようにしてもよい。この場合、一致する値であると判断された2つの速度候補の値のうちの最新の演算処理で得られた値が推定相対速度Veとして出力されるようにしてもよく、或いは、一致する値であると判断された2つの速度候補の値の平均値が推定相対速度Veとして出力されるようにしてもよい。
【0089】
なお、複数の奇数フレームと複数の偶数フレームとが用いられて推定相対速度Veの計算(即ち、実際相対速度Vaの推定)が行われる場合を説明する図5に示す例では〔n〕乃至〔n+3〕番目の合計4つのチャープフレームが用いられるようにしているが、チャープフレームの数は合計5つ以上でも構わない。
【0090】
すなわち、複数の奇数フレームと複数の偶数フレームとが用いられて推定相対速度Veの計算(即ち、実際相対速度Vaの推定)が行われる場合は、奇数フレームごとの観測相対速度Voの値同士が比較されて複数の奇数フレームの観測相対速度Voが特定されるとともに偶数フレームごとの観測相対速度Voの値同士が比較されて複数の偶数フレームの観測相対速度Voが特定され、奇数フレームについて生成される速度候補の集合と偶数フレームについて生成される速度候補の集合とが対比されて一致する値が推定相対速度Veとして出力されるようにしてもよい。
【0091】
(推定相対速度Veの信頼性が考慮される場合)
誤推定の発生を低減させるため、推定相対速度Veの信頼性(言い換えると、観測相対速度Voの信頼性)が考慮されて推定相対速度Veの計算(即ち、実際相対速度Vaの推定)が行われるようにしてもよい。
【0092】
この場合、速度補正部54は、下記の数式1に従って速度信頼度IR[dB]を算出する。
(数1) IR = 20×log10(Ismax/Isavg)
【0093】
上記の数式1に従って速度信頼度IR[dB]を算出するため、最新のチャープフレームの処理によって得られる距離方向と速度方向とに対応する2次元周波数パワースペクトルに基づくVRデータ(V,R,I)の集合について、相対的な移動速度Vの値ごとに受信強度Iの値が積算されて相対的な移動速度Vの値別の受信強度積算値Isが算出されて、相対的な移動速度Vと受信強度積算値Isとの組み合わせデータ(V,Is)の集合が生成される。受信強度積算値Isは、すなわち、VRデータ(V,R,I)の集合における、相対的な移動速度Vの値ごとの、距離Rの方向についての受信強度Iの積算値である。
【0094】
そのうえで、上記の数式1において、Ismaxは、相対的な移動速度Vと受信強度積算値Isとの組み合わせデータ(V,Is)の集合において観測相対速度Voの値と組み合わされている受信強度積算値Isの値である。また、Isavgは、相対的な移動速度Vと受信強度積算値Isとの組み合わせデータ(V,Is)の集合においてIsmaxを除く受信強度積算値Isの平均値である。
【0095】
受信強度積算値Isの平均値Isavgが算出される際に、Ismaxに加えて、相対的な移動速度Vと受信強度積算値Isとの組み合わせデータ(V,Is)の集合において観測相対速度Voの値の近傍の相対的な移動速度Vの値と組み合わされている受信強度積算値Isの値も除かれるようにしてもよい。例えば、観測相対速度Voの値の両隣1つずつの相対的な移動速度Vの値と組み合わされている受信強度積算値Isの値も除かれるようにしたり、観測相対速度Voの値の両隣2つずつの相対的な移動速度Vの値と組み合わされている受信強度積算値Isの値も除かれるようにしたりしてもよい。
【0096】
そして、速度信頼度IRの値が予め定められる信頼度しきい値よりも大きい場合には、速度補正部54は、最新のチャープフレームの処理を含む演算処理で得られる推定相対速度Veの値を出力するとともに前記推定相対速度Veの値をホールド用相対速度Vhとして記憶する(具体的には例えば、ROMなどに記憶させる)。
【0097】
一方、速度信頼度IRの値が信頼度しきい値以下の場合には、速度補正部54は、ホールド用相対速度Vhの値を出力する。つまり、速度信頼度IRの値が信頼度しきい値以下の場合には、最新の演算処理で得られる推定相対速度Veの値が出力されるのではなく、以前の演算処理で得られた推定相対速度Veの値がホールドされ、推定相対速度Veの値は更新されない。
【0098】
信頼度しきい値[dB]は、特定の値に限定されるものではなく、送受信部3の出力に纏わる特性が考慮されたり、外乱などが無い(若しくは、少ない)良好な状態で受信されて送信波を反射させた物体に対応する受信強度のピークが的確に現れ得るレーダデータであるのか、或いは、外乱などによって良好とは言えない状態で受信されて送信波を反射させた物体に対応する受信強度のピークが的確には現れ得ないレーダデータであるのか、を判別し得る値であることが考慮されたりなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。
【0099】
また、推定相対速度Veの値をホールドする場合、推定相対速度Veの値のホールド状態が予め定められるホールドしきい値以上継続した場合には、推定相対速度Veの値のホールド状態を解除して、最新のチャープフレームの処理を含む演算処理で得られる推定相対速度Veの値が出力されるとともに前記推定相対速度Veの値がホールド用相対速度Vhとして記憶される(具体的には例えば、ROMなどに記憶される)ようにしてもよい。
【0100】
ホールドしきい値は、特定の値に限定されるものではなく、1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅が考慮されたり、速度の乗っ取りなどが発生して異常な推定相対速度Veの値のホールド状態を継続してしまうことを防止することが考慮されたりなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。
【0101】
なお、速度信頼度IRの算出の仕方は、上記の数式1に限定されるものではなく、例えば、IsmaxやIsavgについて常用対数がとられないようにしてもよい。
【0102】
また、速度信頼度IRの値が信頼度しきい値以下の場合について、速度補正部54は、下記の数式2に従って、ホールド用相対速度Vhと最新のチャープフレームの処理を含む演算処理で得られる推定相対速度Veの値とを、速度信頼度IRの値に応じて決定される重み係数WhとWeとで加重平均した値VNを出力するようにしてもよい。
(数2) VN = (Wh×Vh+We×Ve)/(Wh+We)
【0103】
上記の数式2における、ホールド用相対速度の値Vhにかかる重み係数Whは、当該のホールド用相対速度の値Vhとして記憶された推定相対速度Veの値に関する速度信頼度IRの値に応じて決定され、また、推定相対速度Veの値にかかる重み係数Weは、当該の推定相対速度Veの値に関する速度信頼度IRの値に応じて決定される。この場合、速度信頼度IRの値と重み係数Wh,Wmの値との間の関係について、基本的には速度信頼度IRの値が大きいほど重み係数Wh,Wmの値が大きくなるような関係が、具体的には例えば速度信頼度IRの値を説明変数として重み係数Wh,Wmの値を算出する関数として、予め定められる。
【0104】
上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、奇数フレームの処理によって得られる観測相対速度Voと奇数フレームのチャープ時間Tcaとに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、偶数フレームの処理によって得られる観測相対速度Voと偶数フレームのチャープ時間Tcbとに基づいて速度の折り返しを考慮して生成される速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度Veを出力するようにしているので、速度の測定における曖昧さを解消することが可能となる。
【0105】
上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、また、奇数フレームの変調設定である変調パターンAの折り返し速度Vmaxaと偶数フレームの変調設定である変調パターンBの折り返し速度Vmaxbとの最小公倍数が、送受信部3と送信波を反射させる物体との相対的な移動速度として実際にあり得ると想定される最大値以上であるようにしているので、速度の測定における曖昧さを確実に解消することが可能となる。
【0106】
また、上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、複数の奇数フレームの処理によって特定される観測相対速度Voの値に基づく速度候補の集合と、複数の偶数フレームの処理によって特定される観測相対速度Voの値に基づく速度候補の集合と、を対比して一致する値に基づいて推定相対速度Veを出力するようにした場合には、推定相対速度Veの異常値の出力を防ぐことが可能となり、延いては、移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0107】
上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、相対的な移動速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算して算出される受信強度積算値Isを用いて上記の数式1に従って計算される速度信頼度IRの値に応じて所定の間は推定相対速度Veの値を更新しないようにした場合には、外乱などによって受信強度Iが著しく低下した時に推定される推定相対速度Veの異常値の出力を防ぐことが可能となり、延いては、短期間の受信強度Iの低下による推定相対速度Veの値への影響を抑圧して移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0108】
上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、相対的な移動速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算して算出される受信強度積算値Isを用いて上記の数式1に従って計算される速度信頼度IRの値に応じて決定される重みWh,Weを用いて上記の数式2に従って過去の推定相対速度Veの値と最新の推定相対速度Veの値とを加重平均して算出される値VNを推定相対速度として出力するようにした場合には、外乱などによって受信強度Iが著しく低下した時に推定される推定相対速度Veの異常値のそのままの出力を防ぎつつ過去の推定相対速度Veの値と最新の推定相対速度Veの値とのそれぞれの信頼度で加重平均した値を出力することが可能となり、延いては、短期間の受信強度Iの低下による推定相対速度Veの値への影響を抑圧して移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0109】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【符号の説明】
【0110】
1 移動速度の検出装置
2 制御部
3 送受信部
31 電圧生成回路
32 電圧制御発振器
33 分配回路
34 送信アンテナ
35 受信アンテナ
36 混合器
4 A/D変換部
5 信号処理部
51 距離周波数解析部
52 速度周波数解析部
53 速度検出部
54 速度補正部
図1
図2
図3
図4
図5