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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185774
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
H02M3/155 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093602
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 崇明
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA20
5H730AS04
5H730AS13
5H730BB14
5H730FD31
5H730FG05
5H730XX03
5H730XX23
5H730XX50
(57)【要約】
【課題】コンデンサの実際の状態に基づいて、コンデンサの劣化を診断する。
【解決手段】電源と負荷との間で電力変換を行う電力変換装置であって、一対の入力端と、一対の出力端と、リアクトルと、ダイオードと、スイッチと、コンデンサと、電流センサと、制御ユニットと、を備える。制御ユニットは、コンデンサの劣化を診断する診断処理を実行可能に構成されている。診断処理は、スイッチのオンとオフとを繰り返すことにより、リアクトルとコンデンサとの直列回路に電源から印加される電圧に所定の周波数で変動する交流成分を付与するスイッチング処理と、スイッチング処理で付与された交流成分に対して、電流センサで測定される電流に現れる交流成分が有する位相差又はゲインを特定する特定処理と、特定処理によって特定された位相差又は前記ゲインが、正常範囲内にあるのか否かを判定する判定処理と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と負荷との間で電力変換を行う電力変換装置であって、
前記電源に接続される一対の入力端と、
前記負荷に接続される一対の出力端と、
一端が前記一対の入力端の一方に接続されているリアクトルと、
アノードが前記リアクトルの他端に接続されており、カソードが前記一対の出力端の一方に接続されているダイオードと、
一端が前記リアクトルの前記他端に接続されており、他端が前記一対の入力端の他方及び前記一対の出力端の他方に接続されているスイッチと、
前記一対の出力端の間に接続されているコンデンサと、
前記リアクトルに流れる電流を測定する電流センサと、
前記スイッチの動作を制御する制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、前記コンデンサの劣化を診断する診断処理を実行可能に構成されており、
前記診断処理は、
前記スイッチのオンとオフとを繰り返すことにより、前記リアクトルと前記コンデンサとの直列回路に前記電源から印加される電圧に所定の周波数で変動する交流成分を付与するスイッチング処理と、
前記スイッチング処理で付与された前記交流成分に対して、前記電流センサで測定される電流に現れる交流成分が有する位相差又はゲインを特定する特定処理と、
前記特定処理によって特定された前記位相差又は前記ゲインが、正常範囲内にあるのか否かを判定する判定処理と、
を含む、電力変換装置。
【請求項2】
前記特定処理では、前記位相差が特定され、
前記判定処理では、特定された前記位相差が前記正常範囲内にあるのか否かが判定される、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力変換装置は、前記一対の出力端と前記負荷との間に設けられている一対のリレーをさらに備え、
前記制御ユニットは、前記診断処理を実行する前に、前記一対のリレーをオフする開放処理を実行する、
請求項1又は請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記診断処理は、前記判定処理で前記位相差又は前記ゲインが正常範囲外にあると判定された場合に、所定の通知動作を実行する通知処理をさらに含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電源は、燃料電池である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電力変換装置は、車両に搭載されている、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記診断処理は、前記車両が停車しているときに実行される、請求項6に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池と負荷との間で電力変換を行う電力変換装置が記載されている。この電力変換装置は、一対の入力端と、一対の出力端と、リアクトルと、ダイオードと、スイッチと、コンデンサと、電流センサと、電圧センサと、制御ユニットとを備える。制御ユニットは、燃料電池の電圧及び電流から決定した燃料電池のインピーダンスに基づいて、燃料電池の劣化を診断することができる。
【0003】
上記の電力変換装置において、リアクトル、ダイオード及びスイッチは、DC-DCコンバータを構成している。DC-DCコンバータは、スイッチが高速でオフ及びオフされることにより、燃料電池といった電源からの直流電力を昇圧して、一対の出力端から出力する。一対の出力端の間には、コンデンサが接続されており、これによって、リプル電流の発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-153403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、コンデンサは、充電及び放電を繰り返すことで劣化する。コンデンサの劣化により、コンデンサの静電容量は小さくなることから、コンデンサはリプル電流を十分に低減できなくなるおそれがある。そこで、コンデンサの設計段階において、充放電の回数及び時間等といった要求性能を予め想定し、その要求性能を満足するコンデンサを設計する手法が採用されている。しかしながら、例えば、コンデンサが実際に経験する環境温度が、想定された温度範囲と異なる場合、コンデンサの劣化が助長されるおそれがある。そのため、コンデンサの経験する環境温度によっては、コンデンサが想定よりも短い期間で大きく劣化してしまい、その後はリプル電流を十分に低減できないおそれがある。このような事態を回避するために、コンデンサの実際の状態に基づいて、コンデンサの劣化を診断する手法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の実情を鑑み、本明細書が開示する技術は、電力変換装置に具現化される。この電力変換装置は、電源と負荷との間で電力変換を行う電力変換装置であって、前記電源に接続される一対の入力端と、前記負荷に接続される一対の出力端と、一端が前記一対の入力端の一方に接続されているリアクトルと、アノードが前記リアクトルの他端に接続されており、カソードが前記一対の出力端の一方に接続されているダイオードと、一端が前記リアクトルの前記他端に接続されており、他端が前記一対の入力端の他方及び前記一対の出力端の他方に接続されているスイッチと、前記一対の出力端の間に接続されているコンデンサと、前記リアクトルに流れる電流を測定する電流センサと、前記スイッチの動作を制御する制御ユニットと、を備える。前記制御ユニットは、前記コンデンサの劣化を診断する診断処理を実行可能に構成されている。前記診断処理は、前記スイッチのオンとオフとを繰り返すことにより、前記リアクトルと前記コンデンサとの直列回路に前記電源から印加される電圧に所定の周波数で変動する交流成分を付与するスイッチング処理と、前記スイッチング処理で付与された前記交流成分に対して、前記電流センサで測定される電流に現れる交流成分が有する位相差又はゲインを特定する特定処理と、前記特定処理によって特定された前記位相差又は前記ゲインが、正常範囲内にあるのか否かを判定する判定処理と、を含む。
【0007】
上記の電力変換装置では、リアクトル、ダイオード、及びスイッチが、DC-DCコンバータを構成しており、DC-DCコンバータの高電圧側には、リプル電流を抑制するためのコンデンサが接続されている。このような回路構造では、電源に対してリアクトルとコンデンサとが直列に接続されたLC直列回路が存在する。制御ユニットは、このLC直列回路を利用することによって、コンデンサの劣化を診断する診断処理を実行する。診断処理では、電源からLC直列回路に印加される電圧に、所定の周波数で変動する交流成分(以下、入力交流成分)を付与しながら、リアクトルに流れる電流に現れる交流成分(以下、出力交流成分)を観測する。入力交流成分と出力交流成分との間には、LC直列回路の共振周波数に応じた位相差及びゲインが生じるとともに、LC直列回路の共振周波数は、コンデンサの静電容量に応じて変化する。従って、入力交流成分と出力交流成分との間の位相差又はゲインに基づいて、コンデンサの静電容量の変化、即ち、コンデンサが劣化しているのか否かを判定することができる。
【0008】
これにより、例えば、コンデンサの経験した環境温度が、想定されている温度範囲と異なる等により、コンデンサが想定よりも早く劣化した場合でも、制御ユニットは、コンデンサの実際の状態に基づいて、コンデンサの劣化を診断することができる。コンデンサが劣化していると診断された場合には、例えば、当該コンデンサを交換するといった適切な処置を取り得る。これにより、電力変換装置において、リプル電流を低減するというコンデンサの機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電力変換装置10の構成を説明する図。
図2図2の(a)は、LC直列回路に付与される入力交流成分の一例を示す。図2の(b)は、図2の(a)の入力交流成分が付与されたときに、LC直列回路に現れる出力交流成分の一例を示す。
図3】コンデンサ28の劣化が進行していない場合における、入力交流成分と出力交流成分との間の位相差θ及びゲインGの一例を示す図。
図4】コンデンサ28の劣化が進行している場合における、入力交流成分と出力交流成分との間の位相差θ及びゲインGの一例を示す図。なお、図4には、図3の位相差θ及びゲインGが比較例として、破線で示されている。
図5】制御ユニット50が実行する診断処理の一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本技術の一実施形態において、特定処理では、位相差が特定されてもよい。この場合、判定処理では、特定された位相差が正常範囲内にあるのか否かが判定されてもよい。即ち、特定処理で特定された位相差に基づいて、コンデンサの劣化が診断されてもよい。但し、他の実施形態として、特定処理において、ゲインを特定し、そのゲインに基づいて、コンデンサの劣化が診断されてもよい。
【0011】
本技術の一実施形態において、電力変換装置は、一対の出力端と負荷との間に設けられている一対のリレーをさらに備えてもよい。この場合、制御ユニットは、診断処理を実行する前に、一対のリレーをオフする開放処理を実行してもよい。このような構成によると、負荷の存在による影響を排除して、診断処理をより正しく実行することができる。また、スイッチング処理により発生するリプル電流が、負荷へ流入することを回避できる。これにより、例えば、負荷の劣化を回避することができる。
【0012】
本技術の一実施形態において、診断処理は、判定処理で位相差又はゲインが正常範囲外にあると判定された場合に、所定の通知動作を実行する通知処理をさらに含んでよい。このような構成によると、例えば、電力変換装置のユーザや管理者等が、コンデンサの劣化を認識することができるため、当該コンデンサを交換するといった適切な処置を取り得る。
【0013】
本技術の一実施形態において、電源は、燃料電池であってもよい。なお、電源は、必ずしも燃料電池に限られず、エンジン発電機や、太陽光発電装置等の発電機やリチウムイオン電池等の二次電池であってもよい。
【0014】
本技術の一実施形態において、電力変換装置は、車両に搭載されていてもよい。但し、他の実施形態として、電力変換装置は、船舶や航空機等の移動体に搭載されてもよいし、定置式の発電システム等に搭載されてもよい。
【0015】
上記した実施形態において、診断処理は、車両が停車しているときに実行されてもよい。車両が停車している場合には、電力変換装置から負荷への出力が必要とされない。そのため、制御ユニットは、診断処理を実行する前に、一対のリレーをオフする開放処理を実行することができる。
【実施例0016】
図面を参照して、電力変換装置10について説明する。電力変換装置10は、電源12と負荷14との間に設けられ、それらの間で電力変換を行う装置である。本実施例の電力変換装置10は、DC-DCコンバータ20を含み、電源12からの直流電力を昇圧して、負荷14側へ出力することができる。なお、DC-DCコンバータ20と負荷14との間には、必要に応じて、インバータ回路といった他の電力変換回路がさらに設けられてもよい。本実施例の電力変換装置10は、例えば、ハイブリッド車、燃料電池車、又は電気自動車といった自動車に搭載されることができる。但し、本実施例で開示される技術は、自動車に搭載される電力変換装置10に限られず、船舶や航空機等の移動体や定置式の発電システムといった、様々な用途の電力変換装置として使用することができる。
【0017】
一例ではあるが、本実施例の電力変換装置10では、電源12が、燃料電池であってもよい。但し、電源12は、必ずしも燃料電池に限定されることなく、エンジン発電機や、太陽光発電装置等の発電機、又はリチウムイオン電池といった二次電池であってもよい。また、本実施例の電力変換装置10では、負荷14が、例えば自動車の走行用モータといった、三相モータであってよい。この場合、電力変換装置10と負荷14との間には、U相、V相、W相を有する三相交流電電力を生成する三相インバータが設けられてもよい。
【0018】
図1に示すように、電力変換装置10は、電源12に接続される一対の入力端16と、負荷14に接続される一対の出力端18と、を備える。一対の入力端16には、電源12の正極に接続される正極入力端16aと、電源12の負極に接続される負極入力端16bとが含まれる。一対の出力端18には、負荷14の正極に接続される正極出力端18aと、負荷14の負極に接続される負極出力端18bとが含まれる。負極入力端16bと負極出力端18bとは互いに接続されており、両者は同じ電位に維持される。
【0019】
図1に示すように、DC-DCコンバータ20は、リアクトル22と、ダイオード24と、スイッチ26とをさらに備える。リアクトル22は、一端が正極入力端16aに接続されており、他端がダイオード24のアノードに接続されている。ダイオード24のカソードは、正極出力端18aに接続されている。従って、電源12に接続される正極入力端16aと、負荷14に接続される正極出力端18aとの間には、リアクトル22とダイオード24とが直列に接続されている。スイッチ26の一端は、リアクトル22の他端及びダイオード24のアノードに接続されている。スイッチ26の他端は、負極入力端16b及び負極出力端18bに接続されている。
【0020】
上記した構成により、DC-DCコンバータ20では、スイッチ26がオンされると、電源12とリアクトル22とを互いに接続する閉回路が形成され、電源12からリアクトル22に電気エネルギーが蓄積される。その後、スイッチ26がオフされると、リアクトル22に蓄積された電気エネルギーが、電源12からの電気エネルギーとともに、一対の出力端18側へ出力される。従って、DC-DCコンバータ20では、スイッチ26が所定の周波数(即ち、所定のタイミング)で交互にオン及びオフされることで、電源12からの直流電力が昇圧されて、一対の出力端18から負荷14へ出力される。
【0021】
図1に示すように、電力変換装置10は、コンデンサ28をさらに備える。コンデンサ28は、いわゆる平滑コンデンサであり、DC-DCコンバータ20が出力する直流電力を平滑化する。コンデンサ28は、一対の出力端18の間に接続されている。即ち、コンデンサ28は、正極出力端18aと負極出力端18bとの間に接続されている。これにより、コンデンサ28は、スイッチ26を所定の周波数で交互にオン及びオフする際に発生するリプル電流を抑制することができる。
【0022】
図1に示すように、電力変換装置10は、制御ユニット50をさらに備える。制御ユニット50は、電力変換装置10の動作を監視及び制御する制御装置である。制御ユニット50は、スイッチ26と通信可能に接続されており、スイッチ26のPWM(Pulse Width Modulation)制御を実行可能に構成されている。このPWM制御では、スイッチ26が所定の周波数でオン及びオフされるとともに、負荷14からの要求に基づいて、スイッチ26がオンされる時間(いわゆるデューティ比)が調整される。制御ユニット50は、スイッチ26のPWM制御を実行することにより、負荷14からの要求に応じて、負荷14へ供給する電力を調節することができる。
【0023】
図1に示すように、電力変換装置10は、電流センサ30をさらに備える。一例ではあるが、電流センサ30は、ダイオード24のカソードと正極出力端18aとの間に配置されており、電源12からリアクトル22を通じて正極出力端18aから出力される電流を測定することができる。電流センサ30は、制御ユニット50と通信可能に接続されており、電流センサ30による測定結果は、制御ユニット50によって取得可能に構成されている。なお、電流センサ30の具体的な構成や配置は、特に限定されない。電流センサ30は、リアクトル22に流れる電流を測定できるものであればよい。
【0024】
図1に示すように、電力変換装置10は、一対のリレー32をさらに備える。一対のリレー32は、電源12と負荷14とを電気的に接続及び遮断することができる。一対のリレー32は、一対の出力端18と負荷14との間に設けられている。一対のリレー32がオンされると、一対の出力端18が負荷14に対して電気的に接続され、電源12と負荷14との間が、DC-DCコンバータ20を介して電気的に接続される。これに対して、一対のリレー32がオフされると、一対の出力端18が負荷14に対して電気的に遮断され、電源12と負荷14との間も電気的に遮断される。一対のリレー32のオン及びオフは、制御ユニット50によって制御される。但し、他の実施形態として、一対のリレー32のオン及びオフは、制御ユニット50に代えて、他の制御装置やユーザによって切り替えられてもよい。
【0025】
上記した構成では、リアクトル22とコンデンサ28が、電源12に対してLC直列回路を構成している。このLC直列回路は、リアクトル22のリアクタンスとコンデンサ28の静電容量とで定まる共振周波数fxを有する。図2に示すように、LC直列回路に印加される電圧V(t)に交流成分を付与すると、LC直列回路に流れる電流I(t)にも交流成分が現れる。以下では、電圧V(t)に付与する交流成分を、入力交流成分と称し、電流I(t)に現れる交流成分を、出力交流成分と称することがある。入力交流成分と出力交流成分とは、互いに等しい周波数を有するが、両者の間には位相差θが現れる。
【0026】
図3に示すように、入力交流成分と出力交流成分との間の位相差θは、入力交流成分の周波数fと、LC直列回路の共振周波数fxとの関係に応じて変化する。例えば、入力交流成分の周波数fが、LC直列回路の共振周波数fxと等しいとき、入力交流成分と出力交流成分との間の位相差θはゼロとなる。入力交流成分の周波数fがLC直列回路の共振周波数fxよりも小さいときは、位相差θが正の値となる。そして、入力交流成分の周波数fがLC直列回路の共振周波数fxよりも大きいときは、位相差θが負の値となる。
【0027】
前述したように、LC直列回路の共振周波数fxは、リアクトル22のリアクタンスとコンデンサ28の静電容量とで定まる。リアクトル22のリアクタンスやコンデンサ28の静電容量は既知であるので、LC直列回路に所定の周波数fa(例えば、1kHz)の入力交流成分を付与すると、入力交流成分と出力交流成分との間には、想定された位相差θa(例えば、65°)が観測される。
【0028】
しかしながら、コンデンサ28は充放電を繰り返すことによって劣化する。コンデンサ28の劣化が進行すると、コンデンサ28の静電容量が変化する。通常、コンデンサ28の劣化が進行するほど、コンデンサ28の静電容量は低下していくが、この点については特に限定されない。コンデンサ28の静電容量が変化すると、LC直列回路の共振周波数fxも変化する。即ち、LC直列回路の共振周波数fxは、コンデンサ28の劣化の進行に伴って変化する。
【0029】
図4に示すように、LC直列回路の共振周波数fxが変化すると、入力交流成分の周波数fと、入力交流成分と出力交流成分との間に現れる位相差θとの関係も変化する。従って、コンデンサ28の劣化が進行している状態では、LC直列回路に前述した所定の周波数fa(例えば、1kHz)の入力交流成分を付与したときに、測定される出力交流成分には、想定された位相差θaとは異なる位相差θb(例えば、72°)が発生する。言い換えると、LC直列回路に所定の周波数faの入力交流成分を付与したときに、測定された出力交流成分に想定された位相差θaとは異なる位相差θbが発生している場合、コンデンサ28の劣化が進行していると判断することができる。一方、検出された出力交流成分に想定された位相差θaが発生している場合は、コンデンサ28の劣化は進行していないと判断することができる。
【0030】
図3図4に示すように、入力交流成分に対する出力交流成分の大きさ(即ち、ゲインG)も、入力交流成分の周波数fと、LC直列回路の共振周波数fxとの関係に応じて変化する。例えば、入力交流成分の周波数fが、LC直列回路の共振周波数fxと等しいとき、入力交流成分に対する出力交流成分のゲインGは最大となる。そして、入力交流成分の周波数fがLC直列回路の共振周波数fxから離れるほど、入力交流成分に対する出力交流成分のゲインGは低下していく。従って、LC直列回路に所定の周波数faの入力交流成分を付与したときに、測定された出力交流成分が想定された振幅とは異なる振幅を有している場合、コンデンサ28の劣化が進行していると判断することができる。一方、測定された出力交流成分が想定された振幅を有する場合は、コンデンサ28の劣化は進行していないと判断することができる。
【0031】
以上の知見に基づいて、本実施例の電力変換装置10では、制御ユニット50が、コンデンサ28の劣化を診断する診断処理を実行可能に構成されている。以下では、図5を参照しながら、制御ユニット50が実行する診断処理の一例について詳細に説明する。
【0032】
図5において、制御ユニット50は、電力変換装置10が安定状態であると判断すると(ステップS10でYES)、ステップS12以降の処理へ移行する。ここで、電力変換装置10が安定状態であるとは、電力変換装置10から負荷14への出力が必要とされない状態のことをいう。例えば、電力変換装置10が車両に搭載されている場合は、車両が停車しているときに、電力変換装置10が安定状態であると判断して、ステップS12以降の処理へ移行する。一方、制御ユニット50は、電力変換装置10が安定状態でないと判断すると(ステップS10でNO)、ステップS10の処理へ再び戻る。即ち、電力変換装置10が安定状態であると判断されるまで、制御ユニット50により、ステップS10の処理が繰り返される。
【0033】
ステップS12では、制御ユニット50は、ステップS14以降の診断処理を実行する前に、一対のリレー32をオフする開放処理を実行する。一対のリレー32がオフされると、電力変換装置10から負荷14が電気的に切り離される。これにより、負荷14の存在による影響を排除して、診断処理をより正しく実行することができる。ステップS14では、制御ユニット50は、前述した入力交流成分を付与するためのスイッチング処理を実行する。このスイッチング処理では、スイッチ26のオンとオフとが繰り返されることにより、LC直列回路に電源12から印加される電圧に、所定の周波数faで変動する交流成分(即ち、入力交流成分)が付与される。ステップS16において、制御ユニット50は、ステップS14のスイッチング処理で付与された交流成分に対して、電流センサ30で測定される電流に現れる交流成分(即ち、出力交流成分)が有する位相差θ又はゲインGを特定する特定処理を実行する。即ち、特定処理では、スイッチング処理で付与された入力交流成分に対して、出力交流成分が有する位相差θ又はゲインGが特定される。
【0034】
ステップS18では、制御ユニット50は、特定処理によって特定された位相差θ又はゲインGが、正常範囲内にあるのか否かを判定する判定処理を実行する。正常範囲は、実験又はシミュレーションによって決定されており、予め制御ユニット50に記憶されている。正常範囲の具体的な態様は特に限定されず、所定の下限値及び上限値の一方又は両方で規定される範囲であってよい。
【0035】
特に限定されないが、例えば位相差θに対する正常範囲は、コンデンサ28の初期状態と、コンデンサ28の劣化が進行している状態の各々について、所定の周波数faの入力交流成分をLC直列回路に付与したときに、出力交流成分が有する位相差θから実験的に決定することができる。詳しくは、コンデンサ28の初期状態における位相差θa(図3参照)から、コンデンサ28の劣化が進行している状態における位相差θb(図4参照)までの範囲を、正常範囲とすることができる。ここで、コンデンサ28の初期状態とは、コンデンサ28の劣化が進行しておらず、コンデンサ28が設計値の静電容量を有する状態を意味する。
【0036】
ゲインGに対する正常範囲についても、同様に、コンデンサ28の初期状態と、コンデンサ28の劣化が進行している状態の各々について、所定の周波数faの入力交流成分をLC直列回路に付与したときに、出力交流成分が有するゲインGから実験的に決定することができる。なお、具体的な決定方法は、上記の位相差θと同様であるため、割愛する。
【0037】
ステップS18の判定処理において、位相差θ又はゲインGが正常範囲外にあると判定された場合(ステップS18でYES)には、所定の通知動作を実行する通知処理が実行される(ステップS20)。所定の通知動作には、例えば、電力変換装置10のユーザや管理者等へ判定結果を直接的に通知することが含まれる。さらに、所定の通知動作には、位相差θ又はゲインGが正常範囲外にあると判定されたことを示す所定の動作(例えば、通知灯の点灯)をすることで、電力変換装置10のユーザや管理者等へ判定結果を間接的に通知することも含まれる。このように、所定の通知動作は、電力変換装置10のユーザや管理者等にコンデンサ28の劣化が進行していることを通知できればよく、その具体的な方法は、特に限定されない。
【0038】
ステップS18の判定処理において、位相差θ又はゲインGが正常範囲内にあると判定された場合(ステップS18でNO)、あるいは、ステップS20の処理が実行された場合には、制御ユニット50は、診断処理を終了する。
【0039】
以上のように、制御ユニット50は、リアクトル22及びコンデンサ28によって構成されているLC直列回路を利用して、コンデンサ28の劣化を診断する診断処理を実行することができる。このような構成によると、例えば、コンデンサ28の経験した環境温度が、想定されている温度範囲と異なる等により、コンデンサ28が想定よりも早く劣化した場合でも、制御ユニット50は、コンデンサ28の実際の状態に基づいて、コンデンサ28の劣化を診断することができる。コンデンサ28が劣化していると診断された場合には、例えば、当該コンデンサ28を交換するといった適切な処置を取り得る。これにより、電力変換装置10において、リプル電流を低減するというコンデンサ28の機能を維持することができる。
【0040】
以上、いくつかの具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書又は図面に説明した技術要素は、単独であるいは組み合わせによって技術的有用性を発揮するものである。
【符号の説明】
【0041】
10 :電力変換装置
12 :電源
14 :負荷
16 :入力端
16a :正極入力端
16b :負極入力端
18 :出力端
18a :正極出力端
18b :負極出力端
20 :DC-DCコンバータ
22 :リアクトル
24 :ダイオード
26 :スイッチ
28 :コンデンサ
30 :電流センサ
32 :リレー
50 :制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5