(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185785
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】汚泥処理装置、汚泥処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/143 20190101AFI20221208BHJP
【FI】
C02F11/143 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093619
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000220675
【氏名又は名称】東京都下水道サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】内原 晴日
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA05
4D059AA19
4D059BE31
4D059BE37
4D059BE46
4D059BE53
4D059DA45
4D059EB11
4D059EB16
(57)【要約】
【課題】余剰汚泥からに含まれるリンの放出を、既存の余剰汚泥貯留槽を用いて効果的に、かつ低コストに抑制することが可能な汚泥処理装置、および汚泥処理方法を提供する。
【解決手段】下水処理施設で生じるリンを含有する余剰汚泥を貯留する余剰汚泥貯留槽と、前記余剰汚泥貯留槽に貯留された前記余剰汚泥に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加するリン放出抑制剤添加手段と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水処理施設で生じるリンを含有する余剰汚泥を貯留する余剰汚泥貯留槽と、前記余剰汚泥貯留槽に貯留された前記余剰汚泥に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加するリン放出抑制剤添加手段と、を有することを特徴とする汚泥処理装置。
【請求項2】
前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、有効塩素5%で、前記余剰汚泥に対する添加量が0.1容量%以上、0.4容量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の汚泥処理装置。
【請求項3】
下水処理施設で生じるリンを含有する余剰汚泥に対して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加するリン放出抑制剤添加工程を有することを特徴とする汚泥処理方法。
【請求項4】
前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、有効塩素5%で、前記余剰汚泥に対する添加量が0.1容量%以上、0.4容量%以下の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の汚泥処理方法。
【請求項5】
前記リン放出抑制剤添加工程では、前記余剰汚泥に対して前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を混合後、反応時間を30分以上、90分以下の範囲にすることを特徴とする請求項3または4に記載の汚泥処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理で発生する余剰汚泥に次亜塩素酸ナトリウムを添加して生物活性を抑制し、余剰汚泥に含まれるリンの分離(吐き出し)を抑制する汚泥処理装置、および汚泥処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、都市部の下水や産業排水(以下、単に下水と称する)には、リンが多く含まれている。こうした下水に含まれるリンは、湖沼や海域の富栄養化の原因物質の一つとされている。このため、環境保全の観点から、下水から効果的にリンを除去することが求められるため、生物学的リン処理を行っている。また、将来のリン資源の枯渇防止の観点からも、生物学的リン除去を行った活性汚泥から、リンを効率的に回収し、再資源化(利用)することが求められている。
【0003】
例えば、下水処理施設において生物学的水処理に用いられる活性汚泥は、余剰汚泥として引き抜かれ、汚泥処理工程の汚泥貯留槽などにおいて有機酸を多く含む生汚泥と合わさって嫌気状態となると、余剰汚泥に存在するポリリン蓄積細菌(polyphosphate accumulating organisms)が有機酸を消費してリンを大量に放出する。そして、後工程である脱水処理工程などにおいて、脱水された余剰汚泥のリンの含有率は低下し、脱水で生じる分離水にリンが移行することになる。
【0004】
こうしたリンを高濃度に含む分離水は下水処理工程に返水され、下水処理工程中のリン濃度を高めてしまうため、下水処理水に含まれるリン濃度が放流基準値を超過する懸念がある。
【0005】
従来、下水処理施設等においては、放流水に含まれるリン濃度を低減するために、水処理工程においてリンの凝集剤を添加してリンを固形分として回収したり、汚泥処理工程において余剰汚泥から分離したリンを高濃度に含む分離水に対して、凝集沈殿や晶析などの反応処理を行うことにより、分離水に含まれるリンを除去している(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたような分離水中のリンの回収方法は、コストの高い凝集剤を添加したり、上澄み液の凝集沈殿、晶析などの反応処理が必要となり、下水処理に係る運転管理の複雑化、凝集剤に係るコストの増加、新たな処理施設の増設等の必要性、などによって下水処理に係るコストが大きく増大するといった課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、余剰汚泥に含まれるリンの放出を、既存の余剰汚泥貯留槽を用いて効果的に、かつ低コストに抑制することが可能な汚泥処理装置、および汚泥処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の汚泥処理装置は、下水処理施設で生じるリンを含有する余剰汚泥を貯留する余剰汚泥貯留槽と、前記余剰汚泥貯留槽に貯留された前記余剰汚泥に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加するリン放出抑制剤添加手段と、を有することを特徴とする
。
【0010】
本発明によれば、余剰汚泥に含まれるリンの放出を、既存の余剰汚泥貯留槽を用いて効果的に、かつ低コストに抑制することが可能な汚泥処理装置を提供することができる。
【0011】
また、本発明では、前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、有効塩素5%の条件で、前記余剰汚泥に対する添加量が0.1容量%以上、0.4容量%以下の範囲であってもよい。
【0012】
本発明の汚泥処理方法は、下水処理施設で生じるリンを含有する余剰汚泥に対して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加するリン放出抑制剤添加工程を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明では、前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、有効塩素5%で、前記余剰汚泥に対する添加量が0.1容量%以上、0.4容量%以下の範囲であってもよい。
【0014】
また、本発明では、前記リン放出抑制剤添加工程では、前記余剰汚泥に対して前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液を混合後、反応時間を30分以上、90分以下の範囲にしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、余剰汚泥に含まれるリンの放出を、既存の余剰汚泥貯留槽を用いて効果的に、かつ低コストに抑制することが可能な汚泥処理装置、および汚泥処理方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の汚泥処理装置の設置例である下水処理施設の概要を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態の汚泥処理装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の汚泥処理装置、および汚泥処理方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明において用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
図1は、本発明の汚泥処理装置の設置例である下水処理施設の概要を示す模式図である。
下水処理施設1は、例えば市街地の家屋や事業所等で発生した下水(排水)を浄化処理する施設であり、下水が流入する上流側から順に、沈砂池2、最初沈殿池3、反応槽4、最終沈殿池5、および塩素接触槽7が設けられている。また、下水処理で発生する汚泥(生汚泥・余剰汚泥)を処理する汚泥処理施設6が設けられている。
【0019】
沈砂池2は、下水処理施設1に流入した下水に含まれる土砂などを沈殿させて、土砂などを下水から除くための池である。
【0020】
最初沈殿池3は、沈砂池2を経た下水を低速で移動させ、下水に含まれる沈殿しやすい汚れを沈殿させる。最初沈殿池3で沈殿した沈殿物は、生汚泥として汚泥処理施設6に移送される。
【0021】
反応槽4は、最初沈殿池3を経た下水と、ポリリン蓄積細菌を含む活性汚泥に空気を送り込み、6~8時間ほど反応槽4内で混合撹拌する。これにより、下水中の汚れを活性汚泥によって分解し、微細な汚れは活性汚泥に付着して塊状物となる。
【0022】
最終沈殿池5は、反応槽4で生じた活性汚泥の塊状物を3~4時間かけて沈殿させ、上澄み部分である処理水と、活性汚泥とに分離する。ここで生じた活性汚泥は反応槽4へ返送されるが、余剰な汚泥分(余剰汚泥)は汚泥処理施設6に移送される。
【0023】
塩素接触槽7は、最終沈殿池5で分離された処理水に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加して大腸菌等を消毒し、河川や海に放流する。
【0024】
汚泥処理施設6は、こうした一連の下水処理工程で発生した汚泥(生汚泥・余剰汚泥)を処理する施設であり、後述する汚泥処理装置を有する。
【0025】
(汚泥処理装置)
図2は、本発明の一実施形態の汚泥処理装置を示す模式図である。
下水処理施設1の汚泥処理施設6(
図1を参照)に設置される汚泥処理装置10は、重力濃縮槽11と、余剰汚泥貯留槽12と、遠心濃縮機13と、濃縮汚泥貯留槽14と、リン放出抑制剤添加手段15と、遠心脱水機16と、を有している。
【0026】
重力濃縮槽11は、例えば、下水処理施設1の最初沈殿池3(
図1を参照)で沈殿した沈殿物(生汚泥)をポンプで抜き、重力濃縮槽11内で比重差によって重力濃縮し、水分を分離する分離槽であればよい。
【0027】
余剰汚泥貯留槽12は、下水処理施設1の最終沈殿池5で発生する各系列の余剰汚泥を一つに貯留し、汚泥性状を均質にする設備である。余剰汚泥貯留槽では液位制御により、後段の遠心濃縮機に余剰汚泥を移送する。
【0028】
汚泥処理施設に設置されている既存の余剰汚泥貯留槽をそのまま用いることができる。
この余剰汚泥貯留槽12では、リン放出抑制剤添加手段15から供給されるリン放出抑制剤である次亜塩素酸ナトリウム水溶液を余剰汚泥に添加して攪拌する。これにより、余剰汚泥に含まれるリンが放出されないようにする。
【0029】
遠心濃縮機13は、下水処理施設1の各工程で生じた余剰汚泥に含まれる水分を、遠心分離によって取り除き、余剰汚泥を濃縮する。こうした遠心濃縮機13は、例えば、遠心分離機から構成されていればよい。なお、余剰汚泥の濃縮機は遠心濃縮だけでなく、ベルト濃縮など、機械濃縮できる装置であればよい。
【0030】
濃縮汚泥貯留槽14は、重力濃縮槽11や遠心濃縮機12で水分を減少させて濃縮された汚泥(生汚泥・余剰汚泥)を貯留する槽と、貯留する汚泥を攪拌する撹拌機などから構成されていればよい。濃縮汚泥貯留槽14は、下水処理施設に設置されている既存の(公知の)濃縮汚泥貯留槽をそのまま用いることができる。ここでは、前段の余剰汚泥貯留槽12で次亜塩素酸ナトリウムにより、余剰汚泥の生物活性を抑制しているため、有機酸を多く含む重力濃縮汚泥と余剰濃縮汚泥を混合攪拌しても余剰汚泥からのリンの溶出が抑制されることになる。
【0031】
リン放出抑制剤添加手段15から供給される次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、例えば、次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素5%の場合、薬剤の添加率は、余剰汚泥に対し、0.1容量%以上、0.4容量%以下程度の範囲で運用すればよい。この目安として、遠心濃縮機分離水の残留塩素濃度を把握することが望ましい。具体的には、分離水中に残留塩素が不検出の場合、次亜塩素酸ナトリウムの添加が不足し、リン抑制効果が低下する可能性がある。一方、残留塩素が検出されれば、次亜塩素酸ナトリウムの添加が足りていることになるため、リン抑制効果が期待できる。
【0032】
このため、次亜塩素酸ナトリウムの添加率が0.1容量%未満の場合、余剰濃縮汚泥からのリン成分の放出抑制効果が限定的となる。また、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.4容量%を超えると、それ以上、余剰濃縮汚泥からのリンの放出抑制効果が向上することが無く、次亜塩素酸ナトリウムのコストが増大する懸念がある。
【0033】
本事例では、次亜塩素酸ナトリウムの添加率0.1容量%で費用対効果が最も高い結果であった。ただし、汚泥性状によっては、薬剤添加率が変動する可能性がある。
このため、余剰濃縮機の分離水の残留塩素を測定し0.1mg/L以上検出される濃度に添加率を変更することが望ましい。
【0034】
遠心脱水機16は、濃縮汚泥貯留槽14で重力濃縮汚泥と余剰濃縮汚泥との混合汚泥を高分子凝集剤に反応させて混合汚泥に含まれる水分を、遠心脱水によって分離して取り除き、混合汚泥を脱水する。
【0035】
こうした遠心脱水機16によって混合汚泥から脱水される分離水は、余剰汚泥に添加された次亜塩素酸ナトリウム水溶液の作用によって、余剰濃縮汚泥から分離水に移行するリンの量が抑制されている。よって、分離水に含まれるリンは低濃度に抑えられている。こうした分離水は、例えば、最初沈殿池3(
図1を参照)に返水されるが、リン濃度が低く抑えられているために、処理される下水のリン濃度を上昇させる可能性を低下させることがてきる。
【0036】
(汚泥処理方法)
次に、本発明の一実施形態の汚泥処理方法について説明する。
本実施形態の汚泥処理方法は、下水処理施設で生じるリンを含有する余剰汚泥に対して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加するリン放出抑制剤添加工程を有する。
【0037】
余剰汚泥に添加する次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、有効塩素5%の条件で、前記余剰汚泥に対する添加量が0.1容量%以上、0.4容量%以下の範囲であってもよい。
リン放出抑制剤添加工程では、例えば余剰汚泥貯留槽において、リンを含有する余剰汚泥に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加して混合し、所定の反応時間だけ保持すればよい。
【0038】
こうしたリン放出抑制剤添加工程における余剰汚泥と次亜塩素酸ナトリウム水溶液との反応時間は、例えば30分以上にすればよい。反応時間が30分未満であると、余剰汚泥のリン放出の抑制効果が限定的になる懸念がある。本事例では、実施設備の滞留時間を考慮して30分から90分で反応しており、各施設の状況に応じて反応時間を調整すればよい。
【0039】
こうしたリン放出抑制剤添加工程によって、余剰汚泥に含まれるリンが、汚泥から離脱することを抑制できる。例えば、後工程で混合汚泥を脱水する際に、混合汚泥から分離水にリンが移行することを抑制する。これにより、分離水からリンを回収するために、コストの高い凝集剤を添加したり、上澄み液の凝集沈殿、晶析などの反応処理が不要となり、下水処理に係る運転管理を簡素化して、下水処理に係るコストを低減することが可能になる。
【0040】
また、混合汚泥から分離された分離水を、例えば、下水処理施設に流入する下水に返水しても、下水処理施設で処理水に含まれるリン濃度の上昇を抑えることができる。よって、処理水に含まれるリン濃度を低減することができ、処理水の放出に伴う湖沼や海域の富栄養化を防止することができる。また、リン放出抑制剤添加工程によって、余剰汚泥に含まれるリン濃度を高めることにより、余剰汚泥をリン資源として用いることができ、リン資源の枯渇防止にも寄与する。
【0041】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。こうした実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0042】
本発明の効果を検証した。
東京都下水道局東部スラッジプラントでは、東京都区部における、複数の水再生センターで発生する汚泥(5ヵ所27400m3/日)を集約処理している。このため、汚泥処理返流水(以下、返流水)のリン負荷(PO4-P) が高く、返流水が流入する隣接の水再生センターでは、リンを安定的に処理することが重要な課題である。
【0043】
そこで、東京都下水道局東部スラッジプラントでは、水再生センターヘのリン負荷低減を目的に、返流水に液体塩化アルミニウム(LAC) を添加し、PO4-Pを不溶化している。この対策は、一度放出した後のPO4-Pを低減する事後対策として有効である。
一方、返流水のリン負荷は、遠心脱水機で生じた分離水が最も高く、全流入負荷の22%を占めていた。
【0044】
こうした要因として、遠心脱水機前段で余剰汚泥と最初沈殿池の汚泥(重力汚泥)を貯留槽で混合する際、余剰汚泥中のリン蓄積細菌が貯留槽内の嫌気条件下でリンを放出し、分離水のPO4-Pを濃縮汚泥貯留槽前に比べ、約10倍に高めていると考えられた。このため、貯留槽内でのリン蓄積細菌によるリン放出を抑制することができれば、遠心脱水槽での分離水のリン負荷上昇を末然に防止でき、新たなリンの低減対策として有効と考えられる。そこで、分離水のリン負荷上昇を確認するため、遠心脱水槽に投入された汚泥のリン放出状況調査と、リン蓄積細菌の活性を阻害するため、薬剤を添加したリン放出抑制調査を行った。
【0045】
(1)次亜塩素酸ナトリウム添加によるリン放出抑制調査
リン蓄積細菌の活性阻害を目的に、余剰汚泥に次亜塩素酸ナトリウム(以下、NaClO)を添加したリンの放出抑制調査を行った。NaClOを選定した理由は、放流水の消毒を目的に都内全ての水再生センターに配備され、かつ汎用性があるためである。
【0046】
試験方法は、余剰汚泥にNaClO(有効塩素5%)を添加し、30分反応後、遠心分離機で10倍に濃縮した(上澄み液を9割排除し、残りを余剰濃縮汚泥とした)。次に、重力濃縮汚泥と混合し、余剰比率20容量%に調整した。その後、攪拌しながら180分後にろ過し、ろ液のPO4-P、残留塩素をそれぞれ分光光度計で分析した。
【0047】
NaClO添加によるリン放出抑制
NaClO濃度の設定は、ろ液に残留塩素が検出されればリン蓄積細菌の活性を阻害できると考え、残留塩素が検出し始めた0.1容量%以上で試験を行った。
【0048】
NaClO(有効塩素5%)添加による余剰汚泥のリン放出抑制の検証結果を表1に示す。なお、放出抑制率は、各汚泥のPO4-Pの変化量から算出した。
【0049】
【0050】
表1に示す結果によれば、余剰汚泥のリンの放出抑制率は、NaClOの添加率が0.1容量%で63%減、0.4容量%で82%減となり、NaClOの添加率が高いほどリンの放出抑制効果は高いことが判明した。
【0051】
一方、残留塩素濃度は、NaClOの添加率0.3容量%から急激に上昇し、過剰に添加されていることが分かった。残留塩素が高い場合、設備材質の腐食や塩素ガス発生に繋がる可能性がある。このため、放出抑制率を保持しながら残留塩素の影響を極力抑えるためには、NaClOの添加率は0.1容量%程度が適切であると考えられる。
【0052】
そこで、NaClO(0.1容量%)とリンの費用対効果を算出すると、NaClOの必要量は1日当たり14m3(約12万円)で、遠心脱水機分離水のPO4-Pを330kg削減できる見込みとなった(360円/kg)。その結果、センター全体のリン負荷を14%低減でき、返流水のリン負荷低減に大きく寄与することが分かった。
【0053】
(2)NaClO添加によるリン放出抑制
NaClOの添加率が高いほど、リン放出抑制率と残留塩素が顕著に高くなる傾向を示した。
NaClOの添加率は、0.1容量%が適切であり、その結果、リン放出抑制率は63%となった。
NaClO(0.1容量%)の費用対効果は(360円/kg)であり、遠心脱水機分離水のPO4-Pを330kg/日、全体のリン負荷を14%程度削減でき、コスト削減に寄与することが確認された。
【0054】
以上の検証結果より、本発明のように、余剰汚泥へのNaClO添加は、返流水の新たなリン負荷低減対策として効果的である。更に、NaClO添加の低濃度化や反応時間とリン放出の関係性および費用対効果についても効果があることが確認できた。