(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185789
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】転炉吹錬方法及び転炉設備
(51)【国際特許分類】
C21C 5/30 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
C21C5/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093627
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】田村 鉄平
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AB03
4K070AB06
4K070AC02
4K070AC14
4K070AC20
4K070BA05
4K070BB02
4K070BB04
4K070BB08
(57)【要約】
【課題】溶銑又は溶鋼の吸窒や復りんを抑制可能な転炉吹錬方法を開示する。
【解決手段】以下の要件1-1及び1-2を満たす、転炉吹錬方法。要件1-1:吹錬開始時点T
Sから時点T
A1まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける。ここで、吹錬開始時点T
Sから時点T
A1までに上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点T
Sから吹錬終了時点T
Eまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%以上である。要件1-2:少なくとも時点T
A1から吹錬末期まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉吹錬方法であって、
上吹きランスから、転炉内の溶銑又は溶鋼へと、酸素を含む上吹きガスを吹き付けることを含み、
以下の要件1-1及び1-2を満たす、
転炉吹錬方法。
要件1-1:吹錬開始時点TSから時点TA1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける。ここで、吹錬開始時点TSから前記時点TA1までに前記上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに前記上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%以上である。
要件1-2:少なくとも前記時点TA1から吹錬末期まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、前記低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【請求項2】
以下の要件1-1a及び1-1bを満たす、
請求項1に記載の転炉吹錬方法。
要件1-1a:前記吹錬開始時点TSから吹錬開始後のいずれかの時点TB1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける一方で、前記脱りん剤を吹き付けない。
要件1-1b:前記時点TB1から前記時点TA1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、上吹きガスとしての前記低窒素濃度ガスとともに、前記脱りん剤を吹き付ける。
【請求項3】
転炉吹錬方法であって、
上吹きランスから、転炉内の溶銑又は溶鋼へと、酸素を含む上吹きガスを吹き付けることを含み、
以下の要件2-1を満たす、
転炉吹錬方法。
要件2-1:吹錬開始後の時点TA2から吹錬末期まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、前記上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、吹錬開始時点TSから前記時点TA2までに前記上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに前記上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%未満であり、前記低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【請求項4】
以下の要件2-2を満たす、
請求項3に記載の転炉吹錬方法。
要件2-2:前記吹錬開始時点TSから前記時点TA2まで、又は、吹錬開始後のいずれかの時点TB2から前記時点TA2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付け、前記時点TA2において上吹きガスを前記低窒素濃度ガスへと切り替える。
【請求項5】
以下の要件2-2a及び2-2bを満たす、
請求項4に記載の転炉吹錬方法。
要件2-2a:前記吹錬開始時点TSから前記時点TB2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガス又は0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける一方で、前記脱りん剤を吹き付けない。
要件2-2b:前記時点TB2から前記時点TA2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、前記上吹きガスとしての高窒素濃度ガスとともに、前記脱りん剤を吹き付け、前記時点TA2において上吹きガスの種類を切り替える。ここで、前記高窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%超の窒素濃度を有する。
【請求項6】
転炉設備であって、転炉と、上吹きランスと、第1供給ラインと、第2供給ラインと、第1供給源と、第2供給源と、第3供給源と、第4供給源とを備え、
前記第1供給ラインが、前記上吹きランス又は前記第2供給ラインに接続されており、
前記第2供給ラインが、前記上吹きランス又は前記第1供給ラインに接続されており、
前記第1供給源が、前記第1供給ラインに接続されており、且つ、前記第1供給ラインに酸素ガスを供給可能であるように構成されており、
前記第2供給源が、前記第2供給ラインに接続されており、且つ、前記第2供給ラインに第1キャリアガスを供給可能であるように構成されており、
前記第3供給源が、前記第2供給ラインに接続されており、且つ、前記第2供給ラインに第2キャリアガスを供給可能であるように構成されており、
前記第4供給源が、前記第2供給ラインに接続されており、且つ、前記第2供給ラインにCaを含む脱りん剤を供給可能であるように構成されており、
前記第2供給ラインへと供給された前記脱りん剤が、前記第2供給ラインを介して、前記第1キャリアガス又は前記第2キャリアガスとともに、前記上吹きランス又は前記第1供給ラインへと供給可能であるように構成されており、
前記上吹きランス又は前記第1供給ラインへと供給された前記第1キャリアガス又は前記第2キャリアガスと前記脱りん剤とが、前記酸素とともに、前記上吹きランスから前記転炉内へと上吹き可能であるように構成されており、
前記第2供給ラインに供給されるキャリアガスが、前記第1キャリアガスと前記第2キャリアガスとで切替可能であるように構成されており、
前記キャリアガスの切替によって、前記上吹きランスから前記転炉内へと上吹きされる上吹きガスが、0.3モル%以下の窒素濃度を有する低窒素濃度ガスと、0.3モル%超の窒素濃度を有する高窒素濃度ガスとで切替可能であるように構成されている、
転炉設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は転炉吹錬方法及び転炉設備を開示する。
【背景技術】
【0002】
高炉溶銑から低りん鋼を溶製する方法として、特許文献1に開示されているように、熱力学的に脱りんに有利な低温且つ高炭素濃度域において、溶銑の脱りん処理を行い、その後、溶銑の脱炭吹錬を行う方法が知られている。脱りん処理が行われた溶銑は、未処理の溶銑に比べてりん濃度が低いため、次工程の脱炭吹錬における脱りん負荷が低減される。一方で、脱りん処理が行われた溶銑中には、脱りん処理で生成した脱りんスラグが不可避的に含まれている。すなわち、脱りん処理で生成した脱りんスラグの一部が、次工程における脱炭吹錬に持ち込まれることとなる。ここで、脱炭吹錬においては、熱力学的に脱りんに不利な高温且つ低炭素濃度域となることから、脱りんスラグから溶銑又は溶鋼への復りんが生じ易い。この点、脱炭吹錬において脱りんスラグから溶鋼への復りんを抑制するためには、脱炭吹錬時に脱りん剤を添加する必要がある。
【0003】
脱炭吹錬において添加される脱りん剤としては、Caを含む脱りん剤が挙げられる。例えば、脱りん剤はCaOやCaCO3を含み得る。これらの脱りん剤は、高温の火点で滓化し、トランジトリー反応によって効率的に脱りん反応を起こす。脱炭吹錬における脱りん剤の添加方法としては、塊状の脱りん剤を溶銑又は溶鋼に上置き添加する方法が一般的であるが、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと上吹きガスとともに脱りん剤を吹き付ける方法もある。この場合、キャリアガスによって運ばれた脱りん剤と酸素ガスとを合流させたうえで上吹きが行われ、言い換えれば、上吹きガスは酸素ガスとキャリアガスとを含むものとなる。
【0004】
脱りん剤のキャリアガスとしては、通常、コスト及び安全性の観点から、窒素ガスが使用される。しかしながら、キャリアガスとして窒素ガスを使用する場合、脱炭吹錬において上吹きランスから溶鋼へと窒素濃度の高い上吹きガスが吹き付けられることとなり、溶鋼の窒素濃度を上昇させてしまう。鋼中の窒素は鋼の靭性を低下させるため、最終的に溶製される溶鋼の窒素濃度はできるだけ低く抑えることが望ましい。
【0005】
上記の問題に対して、特許文献2には、脱炭吹錬において、吹き付け酸素量が全酸素量の10%以上50%以下である時期に、脱りん剤を上吹きガスとともに吹き付ける方法が開示されている。すなわち、吹錬の前半に脱りん剤を吹き付けることで、吹錬後半の溶銑又は溶鋼への吸窒を抑制することができ、最終的に溶製される溶鋼中の窒素濃度を低く抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-144415号公報
【特許文献2】特開2020-105562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の知見によると、特許文献2に開示されているように吹錬の前半に脱りん剤を吹き付けることで、溶銑又は溶鋼への吸窒を抑えつつ、溶銑又は溶鋼の脱りんを促進することができるものの、より高温となる吹錬後半において復りんが起こり、吹錬前半における脱りん促進効果が低減してしまう。この点、転炉吹錬において、溶銑又は溶鋼の吸窒や復りんを抑制可能な新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
転炉吹錬方法であって、
上吹きランスから、転炉内の溶銑又は溶鋼へと、酸素を含む上吹きガスを吹き付けることを含み、
以下の要件1-1及び1-2を満たす、
転炉吹錬方法
を開示する。
【0009】
要件1-1:吹錬開始時点TSから時点TA1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける。ここで、吹錬開始時点TSから前記時点TA1までに前記上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに前記上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%以上である。
【0010】
要件1-2:少なくとも前記時点TA1から吹錬末期まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、前記低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【0011】
本開示の転炉吹錬方法は、以下の要件1-1a及び1-1bを満たすものであってもよい。
【0012】
要件1-1a:前記吹錬開始時点TSから吹錬開始後のいずれかの時点TB1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける一方で、前記脱りん剤を吹き付けない。
【0013】
要件1-1b:前記時点TB1から前記時点TA1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、上吹きガスとしての前記低窒素濃度ガスとともに、前記脱りん剤を吹き付ける。
【0014】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
転炉吹錬方法であって、
上吹きランスから、転炉内の溶銑又は溶鋼へと、酸素を含む上吹きガスを吹き付けることを含み、
以下の要件2-1を満たす、
転炉吹錬方法
を開示する。
【0015】
要件2-1:吹錬開始後の時点TA2から吹錬末期まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、前記上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、吹錬開始時点TSから前記時点TA2までに前記上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに前記上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%未満であり、前記低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【0016】
本開示の転炉吹錬方法は、以下の要件2-2を満たすものであってもよい。
【0017】
要件2-2:前記吹錬開始時点TSから前記時点TA2まで、又は、吹錬開始後のいずれかの時点TB2から前記時点TA2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付け、前記時点TA2において上吹きガスを前記低窒素濃度ガスへと切り替える。
【0018】
本開示の転炉吹錬方法は、以下の要件2-2a及び2-2bを満たすものであってもよい。
【0019】
要件2-2a:前記吹錬開始時点TSから前記時点TB2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガス又は0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける一方で、前記脱りん剤を吹き付けない。
【0020】
要件2-2b:前記時点TB2から前記時点TA2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、前記上吹きガスとしての高窒素濃度ガスとともに、前記脱りん剤を吹き付け、前記時点TA2において上吹きガスの種類を切り替える。ここで、前記高窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%超の窒素濃度を有する。
【0021】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
転炉設備であって、転炉と、上吹きランスと、第1供給ラインと、第2供給ラインと、第1供給源と、第2供給源と、第3供給源と、第4供給源とを備え、
前記第1供給ラインが、前記上吹きランス又は前記第2供給ラインに接続されており、
前記第2供給ラインが、前記上吹きランス又は前記第1供給ラインに接続されており、
前記第1供給源が、前記第1供給ラインに接続されており、且つ、前記第1供給ラインに酸素ガスを供給可能であるように構成されており、
前記第2供給源が、前記第2供給ラインに接続されており、且つ、前記第2供給ラインに第1キャリアガスを供給可能であるように構成されており、
前記第3供給源が、前記第2供給ラインに接続されており、且つ、前記第2供給ラインに第2キャリアガスを供給可能であるように構成されており、
前記第4供給源が、前記第2供給ラインに接続されており、且つ、前記第2供給ラインにCaを含む脱りん剤を供給可能であるように構成されており、
前記第2供給ラインへと供給された前記脱りん剤が、前記第2供給ラインを介して、前記第1キャリアガス又は前記第2キャリアガスとともに、前記上吹きランス又は前記第1供給ラインへと供給可能であるように構成されており、
前記上吹きランス又は前記第1供給ラインへと供給された前記第1キャリアガス又は前記第2キャリアガスと前記脱りん剤とが、前記酸素とともに、前記上吹きランスから前記転炉内へと上吹き可能であるように構成されており、
前記第2供給ラインに供給されるキャリアガスが、前記第1キャリアガスと前記第2キャリアガスとで切替可能であるように構成されており、
前記キャリアガスの切替によって、前記上吹きランスから前記転炉内へと上吹きされる上吹きガスが、0.3モル%以下の窒素濃度を有する低窒素濃度ガスと、0.3モル%超の窒素濃度を有する高窒素濃度ガスとで切替可能であるように構成されている、
転炉設備
を開示する。
【発明の効果】
【0022】
本開示の技術によれば、転炉吹錬において、溶銑又は溶鋼の吸窒や復りんを抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1形態に係る転炉吹錬方法における流れの一例を示している。
【
図2】第1形態に係る転炉吹錬方法における流れの一例を示している。
【
図3】第2形態に係る転炉吹錬方法における流れの一例を示している。
【
図4】第2形態に係る転炉吹錬方法における流れの一例を示している。
【
図5】転炉設備の構成の一例を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.転炉吹錬方法
本開示の転炉吹錬方法は、上吹きランスから転炉内の溶銑又は溶鋼へと酸素を含む上吹きガスを吹き付けるにあたり、窒素を含有しないか、又は、窒素ガス濃度の低いキャリアガスを利用して、上記の酸素とともに脱りん剤の上吹きを行うことで、溶銑又は溶鋼への吸膣や復りんを抑えつつ、低りん鋼を溶製するものである。以下、本開示の転炉吹錬方法について2つの形態を例示する。
【0025】
1.1 第1形態
第1形態に係る転炉吹錬方法は、上吹きランスから、転炉内の溶銑又は溶鋼へと、酸素を含む上吹きガスを吹き付けることを含み、
図1に示されるように、以下の要件1-1及び1-2を満たす。
【0026】
要件1-1:吹錬開始時点TSから時点TA1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける。ここで、吹錬開始時点TSから前記時点TA1までに前記上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに前記上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%以上である。
【0027】
要件1-2:少なくとも前記時点TA1から吹錬末期まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、前記低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【0028】
1.1.1 要件1-1
図1に示されるように、第1形態に係る転炉吹錬方法においては、吹錬開始時点T
Sから時点T
A1まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける。ここで、吹錬開始時点T
Sから時点T
A1までに上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点T
Sから吹錬終了時点T
Eまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%以上である。
【0029】
「吹錬開始時点TS」とは、転炉吹錬において上吹きランスから酸素の上吹きを開始した時点(上吹き酸素量0%時点)をいう。例えば、脱炭吹錬における酸素の上吹きを開始した時点であってよい。
【0030】
「吹錬終了時点TE」とは、転炉吹錬において上吹きランスからの酸素の上吹きを終了した時点(上吹き酸素量100%時点)をいう。例えば、脱炭吹錬において、酸素の上吹きを終了し、溶鋼が溶製された時点であってよい。
【0031】
「時点TA1」とは、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%以上が吹き込まれた時点である。時点TA1は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の65%以上、70%以上、75%以上又は80%以上が吹き込まれた時点であってもよい。
【0032】
「0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガス」は、
図1に示されるように、酸素のみであってもよいし、酸素と酸素以外のガスとの混合ガスであってもよい。この場合の酸素以外のガスとしては、例えば、アルゴンや二酸化炭素や空気が挙げられる。特に、アルゴンや二酸化炭素を用いた場合に、上吹きガスの窒素濃度を一層低減し易い。混合ガスにおける酸素と酸素以外のガスとの混合比は特に限定されるものではなく、目的とする吹錬条件に応じて適宜調整されればよい。尚、酸素以外のガスは、後述の脱りん剤を運ぶためのキャリアガスであってもよい。すなわち、
図1に示されるように、第1形態に係る転炉吹錬方法においては、吹錬開始時点T
Sから時点T
A1までの間に、上吹きガスとともに脱りん剤の上吹きを行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0033】
図1に示されるように、第1形態に係る転炉吹錬方法においては、吹錬開始時点T
Sから時点T
A1まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付けることはせず、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける。本発明者の知見によれば、吹錬開始時点T
Sから時点T
A1までの間に、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガスの吹き付けを行った場合、溶銑又は溶鋼への吸窒が生じ、且つ、溶銑又は溶鋼に取り込まれた窒素が吹錬終了時点までに充分に除去されず、最終的に溶製される鋼の窒素濃度が高くなってしまう。これに対し、第1形態に係る転炉吹錬方法のように、吹錬開始時点T
Sから時点T
A1まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付けることで、吹錬前半における溶銑又は溶鋼への吸窒を抑制でき、最終的に溶製される鋼の窒素濃度が低減され易い。
【0034】
1.1.2 要件1-2
図1に示されるように、第1形態に係る転炉吹錬方法においては、少なくとも時点T
A1から吹錬末期まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【0035】
「吹錬末期」とは、吹錬の終了直前から吹錬終了までをいい、具体的には、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の95%超が吹き込まれている時期を、吹錬末期とみなすことができる。
【0036】
「低窒素濃度ガス」は、上吹きガスとして上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと吹き付けられる。低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含む。低窒素濃度ガスにおける窒素濃度は、0.3モル%以下であり、0.2モル%以下であってもよい。低窒素濃度ガスにおける窒素濃度の下限は特に限定されず、実質的に0であってもよい。低窒素濃度ガスにおける酸素とキャリアガスとの混合比は、特に限定されるものではなく、目的とする吹錬条件に応じて、上記の窒素濃度を満たすように適宜調整されればよい。
【0037】
「キャリアガス」は、脱りん剤を運ぶために利用されるもので、上吹きガスの一部を構成し得る。窒素濃度が0.3モル%以下の低濃度窒素ガスを構成するためには、キャリアガスとして、窒素を含まないか、又は、窒素濃度の低いガスを用いる。そのようなキャリアガスとしては、例えば、アルゴンや二酸化炭素や空気が挙げられる。特に、アルゴンや二酸化炭素を用いた場合に、窒素濃度を一層低減し易い。また、キャリアガスとして空気を用いる場合も、当該空気中の窒素を希釈するために、アルゴンや二酸化炭素と組み合わせたほうがよい。尚、安全性の観点からキャリアガスとして酸素を用いることは避けたほうがよい。この点、キャリアガスは、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下、1モル%以下又は0.1モル%以下の酸素濃度を有するものであってよい。
【0038】
「脱りん剤」は、Caを含み、脱りん機能を発揮するものであれば、いずれも採用可能である。例えば、CaOを含む脱りん剤や、CaCO
3を含む脱りん剤等を採用可能である。脱りん剤には、SiO
2源が含まれていてもよい。SiO
2源としては、珪石、かんらん石等が挙げられる。
図1に示されるように、脱りん剤は、上記の上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、溶銑又は溶鋼へと吹き付けられる。すなわち、本開示の転炉吹錬方法においては、塊状の脱りん剤が溶銑又は溶鋼に上置き添加されるのではなく、粉状の脱りん剤が上吹きガスとともに溶銑又は溶鋼に吹き付けられる。上吹きランスからの吹き付けが可能である限り、脱りん剤の形状や大きさ(粒子径)は特に限定されるものではない。
【0039】
第1形態に係る転炉吹錬方法においては、例えば、上記のキャリアガスによって運ばれた脱りん剤と上吹き酸素とが合流することで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガス(酸素とキャリアガスとの混合ガス)とともに脱りん剤が吹き付けられる。低窒素濃度ガスにおける窒素濃度は0.3モル%以下であり、これにより、溶銑又は溶鋼への吸窒が抑えられる。
【0040】
図1に示されるように、第1形態に係る転炉吹錬方法においては、少なくとも時点T
A1から吹錬末期まで、低窒素濃度ガスとともに脱りん剤が上吹きされればよい。すなわち、脱りん剤の上吹き開始時点は、時点T
A1に限られず、
図1に示されるように、時点T
A1よりも前から脱りん剤の吹き付けが行われていてもよい。また、脱りん剤の吹き付け終了時点は、吹錬終了時点に限られず、
図1に示されるように、吹錬終了の前に脱りん剤の吹き付けを終了してもよい。脱りん効果を一層高める観点からは時点T
A1よりも前から脱りん剤の吹き付けを行ってもよく、コストを抑える観点からは時点T
A1よりも前には脱りん剤の吹き付けを行わなくてもよい。
【0041】
1.1.3 要件1-1a及び1-1b
図2に示されるように、第1形態に係る転炉吹錬方法は、以下の要件1-1a及び1-1bを満たすものであってもよい。
【0042】
要件1-1a:前記吹錬開始時点TSから吹錬開始後のいずれかの時点TB1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける一方で、前記脱りん剤を吹き付けない。
【0043】
要件1-1b:前記時点TB1から前記時点TA1まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、上吹きガスとしての前記低窒素濃度ガスとともに、前記脱りん剤を吹き付ける。
【0044】
図1及び2に示されるように、要件1-1a及び1-1bは、上記要件1-1の一例に該当する。すなわち、第1形態に係る転炉吹錬方法においては、吹錬開始からある時点T
B1までは、窒素濃度の低い上吹きガスの吹き付けのみを行い、脱りん剤の上吹きを行わず、ある時点T
B1から低窒素濃度ガスとともに脱りん剤の上吹きを開始してもよい。このように、吹錬開始時点T
Sから時点T
B1まで脱りん剤の上吹きを行わず、時点T
B1から脱りん剤の上吹きを開始することで、脱りん剤を安定的に上吹きすることができる。
【0045】
図2に示されるように、時点T
B1は、吹錬開始時点T
Sから吹錬終了時点T
Eまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%未満が吹き込まれた時点である。例えば、時点T
B1は、吹錬開始時点T
Sから吹錬終了時点T
Eまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の1%以上、5%以上又は10%以上、50%以下、40%以下、30%以下又は20%以下が吹き込まれた時点であってもよい。
【0046】
以上の通り、第1形態に係る転炉吹錬方法においては、吹錬の前半から中盤において、窒素濃度の高い上吹きガスを吹き込まないことで、溶銑又は溶鋼における吸窒を抑えることができる。また、第1形態に係る転炉吹錬方法においては、溶銑又は溶鋼が高温且つ低炭素濃度となる吹錬の後半から末期にかけて、低窒素濃度の上吹きガスとともに脱りん剤の吹き込みを行うことで、溶銑又は溶鋼への吸窒を抑えつつ、溶銑又は溶鋼への復りんを抑える(脱りんを促進する)ことができる。結果として、最終的に溶製される鋼の窒素濃度及びりん濃度が低減され易い。
【0047】
1.2 第2形態
第2形態に係る転炉吹錬方法は、上吹きランスから、転炉内の溶銑又は溶鋼へと、酸素を含む上吹きガスを吹き付けることを含み、
図3に示されるように、以下の要件2-1を満たす。
【0048】
要件2-1:吹錬開始後の時点TA2から吹錬末期まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、前記上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、吹錬開始時点TSから前記時点TA2までに前記上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに前記上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%未満であり、前記低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【0049】
1.2.1 要件2-1
図3に示されるように、第2形態に係る転炉吹錬方法において、吹錬開始時点T
Sから時点T
A2までに上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点T
Sから吹錬終了時点T
Eまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%未満である。言い換えれば、「時点T
A2」は、吹錬開始時点T
Sから吹錬終了時点T
Eまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%未満が吹き込まれた時点である。時点T
A2は、吹錬開始時点T
Sから吹錬終了時点T
Eまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上又は40%以上、59%以下、58%以下、57%以下、55%以下、50%以下、40%以下、30%以下又は20%以下が吹き込まれた時点であってもよい。或いは、後述するように、時点T
A2まで高窒素濃度ガスの吹込みを行い、時点T
A2において、上吹きガスを高窒素濃度ガスから低窒素濃度に切り替える場合、時点T
A2は、吹錬開始時点T
Sから吹錬終了時点T
Eまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の40%以上、45%以上又は50%以上、59%以下、58%以下又は57%以下が吹き込まれた時点であってもよい。時点T
A2をできるだけ遅い時点とすることで、一般的に高コストである低窒素濃度のキャリアガス(アルゴン等)の使用量を少なくすることができる。
【0050】
本発明者の知見によれば、時点TA2から吹錬末期まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤の吹き付けを行った場合、仮に時点TA2よりも前に溶銑又は溶鋼への吸窒が生じていたとしても、時点TA2から吹錬終了に至るまでに、溶銑又は溶鋼中の窒素が取り除かれ、最終的に溶製される鋼の窒素濃度が低減され易い。また、時点TA2から吹錬末期まで脱りん剤の吹き付けを行うことで、溶銑又は溶鋼が高温且つ低炭素濃度となる吹錬の後半から末期にかけて、溶銑又は溶鋼への復りんを抑える(脱りんを促進する)ことができる。結果として、最終的に溶製される鋼の窒素濃度及びりん濃度が低減され易い。
【0051】
1.2.2 要件2-2
上述の通り、第2形態に係る転炉吹錬方法においては、吹錬開始時点T
Sから時点T
A2に至るまでに溶銑又は溶鋼の吸窒が生じて、溶銑又は溶鋼中の窒素濃度が高くなっていてもよい。すなわち、
図3に示されるように、吹錬開始時点T
Sから時点T
A2までの間においては、上吹きガスとして、酸素のみを用いてもよいし、低窒素濃度ガスを用いてもよいし、高窒素濃度ガスを用いてもよい。特に、時点T
A2よりも前において、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、上吹きガスとして高窒素濃度ガスを吹き付け、時点T
A2において上吹きガスを低窒素濃度ガスへと切り替えることで、一般的に高コストである低窒素濃度のキャリアガスの使用量を少なくすることができる。すなわち、
図4に示されるように、第2形態に係る転炉吹錬方法は、以下の要件2-2を満たすものであってもよい。
【0052】
要件2-2:前記吹錬開始時点TSから前記時点TA2まで、又は、吹錬開始後のいずれかの時点TB2から前記時点TA2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付け、前記時点TA2において上吹きガスを前記低窒素濃度ガスへと切り替える。
【0053】
「0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガス」は、例えば、酸素と窒素濃度の高いガスとの混合ガスであってもよく、後述する「高窒素濃度ガス」であってもよい。
【0054】
上吹きガスを窒素濃度の高いガスから窒素濃度の低いガスへと切り替える方法は特に限定されるものではない。例えば、後述するように、酸素供給ライン(第1供給ライン)とキャリアガス供給ライン(第2供給ライン)とを有する転炉設備において、キャリアガス供給ラインに供給されるキャリアガスの種類を切り替えることで、結果として、上吹きガスを窒素濃度の高いガスから窒素濃度の低いガスへと切り替えることができる。尚、吹錬中にキャリアガスを窒素濃度の高いガスから窒素濃度の低いガスへ切り替えた場合、後述の供給ラインや第4供給源(粉体供給装置)等に残留した窒素濃度の高いキャリアガスが窒素濃度の低いガスと混ざることとなり、必ずしも、切り替え後に直ちに窒素濃度の低いガスが上吹き可能となるわけではない。このことも勘案して、キャリアガスの切り換えのタイミングや上吹きガス中の窒素濃度を管理することが好ましい。
【0055】
1.2.3 要件2-2a及び2-2b
図3に示されるように、第2形態に係る転炉吹錬方法においては、吹錬開始時点T
Sから脱りん剤の上吹きが行われてもよいし、吹錬開始後のいずれかの時点T
B2から脱りん剤の上吹きが行われていてもよい。特に、吹錬開始時点T
Sから時点T
B2まで脱りん剤の上吹きを行わず、時点T
B2から脱りん剤の上吹きを開始することで、脱りん剤を安定的に上吹きすることができる。すなわち、第2形態に係る転炉吹錬方法は、
図4に示されるように、以下の要件2-2a及び2-2bを満たすものであってもよい。
【0056】
要件2-2a:前記吹錬開始時点TSから前記時点TB2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガス又は0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける一方で、前記脱りん剤を吹き付けない。
【0057】
要件2-2b:前記時点TB2から前記時点TA2まで、前記上吹きランスから前記溶銑又は前記溶鋼へと、前記上吹きガスとしての高窒素濃度ガスとともに、前記脱りん剤を吹き付け、前記時点TA2において上吹きガスの種類を切り替える。ここで、前記高窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%超の窒素濃度を有する。
【0058】
「時点TB2」は、吹錬開始時点TSと上記時点TA2との間であればよい。例えば、時点TB2は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の0%超、1%以上、3%以上又は5%以上、40%未満、30%以下、20%以下又は15%以下が吹き込まれた時点であってもよい。
【0059】
「高窒素濃度ガス」は、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%超の窒素濃度を有する。すなわち、高窒素濃度ガスに用いられるキャリアガスは、窒素濃度が高い。このようなキャリアガスとしては、窒素のほか、空気等が挙げられる。高窒素濃度ガスにおける窒素濃度は0.3モル%超であり、0.5モル%以上、1.0モル%以上、1.5モル%以上又は2.0モル%以上であってもよい。
【0060】
1.3 補足
第1形態及び第2形態に係る転炉吹錬方法においては、要件1-2や2-1に引き続いて、吹錬末期から吹錬終了までにおいても、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付けるとよい。言い換えれば、
図2及び4に示されるように、吹錬末期において、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、0.3モル%超の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付けないほうがよい。吹錬末期において、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付けることで、吹錬末期における溶銑又は溶鋼への吸窒を抑制でき、最終的に溶製される鋼の窒素濃度を一層低減し易くなる。上述したように、吹錬末期においては、吹錬終了まで低窒素濃度ガスとともに脱りん剤の上吹きを行ってもよいし、吹錬終了の直前に脱りん剤の上吹きを停止して、窒素濃度が0.3モル%以下である上吹きガスによる上吹きのみを行ってもよい。
【0061】
第1形態及び第2形態に係る転炉吹錬方法においては、上記の要件が満たされればよく、それ以外の吹錬条件(上吹きランスからの上吹きガスの流量や流速、溶銑や溶鋼の組成や温度等)については、従来と同様としてよい。
【0062】
1.4 効果
以上の通り、本開示の転炉吹錬方法によれば、吹錬後半に脱りん剤を溶銑又は溶鋼に吹き付けることにより、復りん速度以上の脱りん速度を火点で得られるため、高温になる吹錬の後半から末期おいて懸念される溶銑又は溶鋼への復りんを解消することが可能であり、また、窒素濃度を低く抑えたキャリアガスを用いることで溶銑又は溶鋼への吸窒も抑えることができる。結果として、窒素濃度及びりん濃度の低い鋼が溶製され易い。
【0063】
2.転炉設備
本開示の転炉吹錬方法は、例えば、上吹きガスの種類を切り替えることが可能な転炉設備において実施され得る。本開示の技術は転炉設備としての側面も有する。
【0064】
図5に示されるように、一実施形態に係る転炉設備100は、転炉10と、上吹きランス20と、第1供給ライン31と、第2供給ライン32と、第1供給源41と、第2供給源42と、第3供給源43と、第4供給源44とを備える。前記第1供給ライン31は、前記上吹きランス20又は前記第2供給ライン32に接続されている。前記第2供給ライン32は、前記上吹きランス20又は前記第1供給ライン31に接続されている。前記第1供給源41は、前記第1供給ライン31に接続されており、且つ、前記第1供給ライン31に酸素ガスを供給可能であるように構成されている。前記第2供給源42は、前記第2供給ライン32に接続されており、且つ、前記第2供給ライン32に第1キャリアガスを供給可能であるように構成されている。前記第3供給源43は、前記第2供給ライン32に接続されており、且つ、前記第2供給ライン32に第2キャリアガスを供給可能であるように構成されている。前記第4供給源44は、前記第2供給ライン32に接続されており、且つ、前記第2供給ライン32にCaを含む脱りん剤を供給可能であるように構成されている。
図5に示されるように、転炉設備100は、前記第2供給ライン32へと供給された前記脱りん剤が、前記第2供給ライン32を介して、前記第1キャリアガス又は前記第2キャリアガスとともに、前記上吹きランス20又は前記第1供給ライン31へと供給可能であるように構成されており、前記上吹きランス20又は前記第1供給ライン31へと供給された前記第1キャリアガス又は前記第2キャリアガスと前記脱りん剤とが、前記酸素とともに、前記上吹きランス20から前記転炉10内へと上吹き可能であるように構成されており、前記第2供給ライン32に供給されるキャリアガスが、前記第1キャリアガスと前記第2キャリアガスとで切替可能であるように構成されており、前記キャリアガスの切替によって、前記上吹きランス20から前記転炉10内へと上吹きされる上吹きガスが、0.3モル%以下の窒素濃度を有する低窒素濃度ガスと、0.3モル%超の窒素濃度を有する高窒素濃度ガスとで切替可能であるように構成されている。
【0065】
転炉10としては従来と同様のものを用いればよい。本開示の転炉設備において、転炉10は、上吹き転炉及び上底吹き転炉のいずれであってもよい。上底吹き転炉は、その底部に、底吹きガスを炉内に供給するための流路を複数備えていてよい。また、転炉は、その側部に、溶製後の溶鋼を出鋼するための出鋼口等を備えていてよい。
【0066】
転炉10の内部に装入される溶銑1としては、例えば、一般的な高炉溶銑をいずれも採用できる。溶銑1は、不純物としてP、Cを含有するほか、Siを含有していてもよい。溶銑1がSiを含有する場合、酸素ガスによる酸化精錬によって溶銑中のSiの脱珪反応が進行し、次いで脱りん反応が進行することとなる。脱珪後、転炉10内の脱珪スラグを排滓してもよいし、転炉10内に脱珪スラグを残したまま、上記本開示の方法による脱りんを行ってもよい。溶銑1は、溶鉄(例えば高炉溶銑)と、スクラップ等の添加材料との混合物であってもよい。溶銑1を転炉10に装入する方法も特に限定されるものではなく、例えば、溶銑鍋等の公知の容器を用いて転炉10内に流し込む方法が挙げられる。上述の通り、本開示の転炉吹錬方法は脱炭吹錬時に適用されてもよく、この場合、転炉10内の溶銑1は、脱りん処理後の脱りん溶銑であってよい。
【0067】
上吹きランス20についても、従来と同様のランスを採用可能である。上吹きランス20は、例えば、その上端側(上流側)が、第1供給ライン31や第2供給ライン32に直接的又は間接的に接続されていてよく、これにより、転炉精錬時、第1供給ライン31や第2供給ライン32から上吹きランス20へと酸素、又は、酸素及びキャリアガス、又は、酸素、キャリアガス及び脱りん剤が供給され、上吹きランス20に供給された酸素、キャリアガス及び脱りん剤は、上吹きランス20の下端側の吹出口から溶銑1又は溶鋼へと吹き出される。上吹きランス20から溶銑1へと酸素を含む上吹きガスを吹き込むことで、溶銑1を撹拌させつつ酸化精錬を進行させることができる。尚、転炉10が上底吹き転炉である場合、転炉10の底部から底吹きガスを連続的又は断続的に吹き込むことで、精錬中の溶銑1の撹拌を増強することもできる。
【0068】
第1供給ライン31や第2供給ライン32は、例えば、公知の配管によって構成され得る。特に、第1供給ライン31や第2供給ライン32の少なくとも一部が可撓性を有する管によって構成されることで、第1供給ライン31や第2供給ライン32が上吹きランス20の昇降等に追従し易くなる。第1供給ライン31は、上吹きランス20又は第2供給ライン32に接続されており、第2供給ライン32は、上吹きランス20又は第1供給ライン31に接続されている。すなわち、第1供給ライン31及び第2供給ライン32は上吹きランス20よりも上流側で互いに合流していてもよいし、或いは、第1供給ライン31と第2供給ライン32とが、上吹きランス20に別々に接続されて、ランス内で合流していてもよい。
【0069】
第1供給源41は酸素ガスの供給源であり、第2供給源42は第1キャリアガスの供給源であり、第3供給源43は第2キャリアガスの供給源であり、第4供給源44は脱りん剤の供給源である。第1供給源41は、配管等を介して第1供給ライン31に接続されており、且つ、第1供給ライン31に酸素ガスを供給可能であるように構成されている。第2供給源42は、配管等を介して第2供給ライン32に接続されており、且つ、第2供給ライン32に第1キャリアガスを供給可能であるように構成されている。第3供給源43は、配管等を介して第2供給ライン32に接続されており、且つ、第2供給ライン32に第2キャリアガスを供給可能であるように構成されている。第4供給源44は、配管等を介して第2供給ライン32に接続されており、且つ、第2供給ライン32にCaを含む脱りん剤を供給可能であるように構成されている。
【0070】
気体供給源である第1供給源41、第2供給源42及び第3供給源43は、例えば、高圧ガスを含む容器であってもよい。或いは、キャリアガスとして空気を用いる場合、当該空気の供給源42又は43は大気であってもよく、すなわち、大気からポンプ等を介して空気を供給し得る。第1キャリアガスとしては、例えば、窒素濃度の高いガスが挙げられ、具体的には窒素や空気が挙げられる。第2キャリアガスとしては、例えば、窒素濃度の低いガスが挙げられ、具体的には、アルゴンや二酸化炭素が挙げられる。脱りん剤の供給源44は、粉体である脱りん剤を第2供給ライン32へと供給可能なものであればよく、一般的な粉体供給装置を採用可能である。
【0071】
転炉設備100は、第2供給ライン32へと供給された脱りん剤が、第2供給ライン32を介して、キャリアガスとともに、上吹きランス20又は第1供給ライン31へと供給可能であるように構成されており、上吹きランス20又は第1供給ライン31へと供給されたキャリアガスと脱りん剤とが、第1供給ラインからの酸素とともに、上吹きランス20から転炉10内へと上吹き可能であるように構成されている。また、第2供給ライン32に供給されるキャリアガスが、第1キャリアガスと第2キャリアガスとで切替可能であるように構成されることで、上吹きランス20から転炉10内へと上吹きされる上吹きガスが、0.3モル%以下の窒素濃度を有する低窒素濃度ガスと、0.3モル%超の窒素濃度を有する高窒素濃度ガスとで切替可能であるように構成されている。例えば、供給源や供給ラインの一部をバルブ等によって開閉可能に構成することによって、第2供給ライン32からランスへのキャリアガス及び脱りん剤の供給及び当該供給の停止を切り替えることができ、また、第2供給ライン32に供給されるキャリアガスを第1キャリアガスと第2キャリアガスとで切り替えることができる。このように、上記転炉設備100によれば、酸素供給ラインである第1供給ライン31と、キャリアガス及び脱りん剤の供給ラインである第2供給ライン32とが、各々、上吹きランス20に接続され、且つ、第2供給ライン32から上吹きランス20へのキャリアガス及び脱りん剤の供給の有無や、上吹きランス20へと供給されるキャリアガスの種類を切り替え可能であるように構成されることによって、上記の第1形態及び第2形態に係る転炉吹錬方法のいずれについても実施可能である。
【実施例0072】
以下、実施例を示しつつ本発明についてさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいては、種々の条件を採用可能とするものである。
【0073】
1.実験1
CaO粉を溶銑に上吹きしながら吹錬を行って窒素濃度が十分に低い溶鋼を得る場合の上吹きガスに含まれる窒素濃度の上限について、試験転炉を用いて調査した。具体的には、
図5に示されるような試験転炉を用いた溶銑の脱炭吹錬実験において、脱りん剤としてのCaO含有粉を酸素含有ガスとともに上吹きし、吹錬後に得られた溶鋼中りん濃度や窒素濃度を測定した。実験条件は以下の通りである。
【0074】
まず、上底吹きの試験転炉に温度1300℃~1400℃の溶銑2.0tを装入した。溶銑は脱珪・脱りん銑相当の炭素濃度が3.2~3.5質量%、珪素濃度が0.05質量%以下、マンガン濃度が0.1質量%以下、りん濃度が0.03~0.05質量%、硫黄濃度が0.005~0.01質量%の組成の溶銑を用いた。上吹きランスは5孔ランスを用いた。CaO含有粉にはCaO純分が97%の生石灰粉を用いた。生石灰粉は、粉体供給装置からキャリアガスによって配管及び可撓性のホースでランス上端まで運ばれ、ランスの上端で酸素供給配管と接続され、上吹き用酸素ガスと合流するものとした。その後、酸素ガス、キャリアガス及びCaO含有粉が混合した状態でランス内を通り、ランス先端に設けた5つのノズルから溶銑に向けて吹付けられるようにした。生石灰粉は上記の方法にて吹錬初期から末期まで一定供給速度で合計20kgを吹き付けた。上吹き用の酸素ガスは6.5Nm3/min、キャリアガス流量は0.1~0.3Nm3/min、合計のガス流量は6.6~6.8Nm3/minとし、ランス高さは450mmで吹錬を行った。キャリアガスには下記表1に示されるような様々なガスを用い、酸素ガスと混合した状態で窒素濃度が0~4.4モル%となるようにして実験を行った。尚、上記の脱りん剤以外に、フラックスとして、珪石5.0kg、MgO粒3.0kgを吹錬前に溶銑上に上置き添加した。また、底吹きは4本の各羽口から、アルゴンガスを0.1Nm3/minの流量で流した。
【0075】
吹錬後に炉内の溶鋼を採取し、溶鋼中のりん濃度及び窒素濃度を分析したところ、いずれの条件についても溶鋼中のりん濃度は0.005%以下であった。一方で、窒素濃度については条件毎に異なる値となった。下記表1に、実験条件及び実験結果を示す。
【0076】
【0077】
表1に示される結果から明らかなように、上吹きガス中の窒素濃度が高くなるほど溶鋼中の窒素濃度が高くなった。表1に示されるように、溶鋼中の窒素濃度を、酸素ガスのみを上吹きする場合と同等の0.0015質量%以下にするためには、上吹きガス中の窒素濃度を0.3モル%以下にする必要がある。
【0078】
2.実験2
上記の検討では、吹錬している間は生石灰粉を上吹きし続けているため、キャリアガスも流し続けるものとした。一方で、上吹きガス中の窒素濃度を0.3モル%以下に保つためには、窒素濃度が低い高価なキャリアガスを大量に消費することとなり、大幅なコストアップに繋がる虞がある。そのため、高価なキャリアガスの消費量を減らす観点から、吹錬初期から末期まで生石灰粉を上吹きし続けずに、復りんが顕著となる吹錬後半以降に生石灰粉を上吹きする条件や、吹錬前半においては窒素濃度の高い安価なキャリアガスを使用し、吹錬後半においては窒素濃度の低い高価なキャリアガスを使用する条件について、検討を行った。実験条件は以下の通りである。
【0079】
図5に示されるような転炉設備において、上底吹き転炉に溶銑290~310tを装入して、副原料を添加した後、上吹きランスから酸素ガスを溶銑に吹き付けて脱炭吹錬を行った。上吹きランスには5孔ランスを用いた。ランス上端には酸素ガス供給配管(第1供給ライン)が接続され、ランス上端近傍の酸素ガス供給配管には粉体供給配管(第2供給ライン)が接続され、酸素ガス供給配管と粉体ガス供給配管との接続部近傍において粉体供給配管にバルブが設けられ、粉体供給をする場合はバルブを開き、粉体供給をしない場合は閉じることが可能であり、粉体供給が必要ない時にはキャリアガスの浪費を抑制できるようにした。また、酸素ガス供給配管には酸素供給源(第1供給源)を接続して酸素を流通可能とする一方、粉体供給配管には、第1キャリアガス供給源(第2供給源)と第2キャリアガス供給源(第3供給源)と粉体供給源(第4供給源)としての粉体供給装置とを接続し、且つ、第1キャリアガス供給源の近傍と第2キャリアガス供給源の近傍とに各々バルブを設けて、粉体供給配管へと供給されるキャリアガスを第1キャリアガスと第2キャリアガスとで切替できるようにした。溶銑は、事前に脱りん転炉にて脱珪・脱りん処理を行い、一旦脱りん転炉から溶銑鍋に出湯した溶銑であり、組成は炭素濃度が3.2~3.5質量%、珪素濃度が0.05質量%以下、マンガン濃度が0.1質量%以下、りん濃度が0.02~0.04質量%、硫黄濃度が0.005~0.01質量%のものを用いた。副原料として、塊生石灰を2.4~3.4t、珪石を0.5~0.8t、橄欖岩を0.6~1.0t、鉄鉱石を最大3.0t添加した。
【0080】
比較例1~12及び実施例1~6について、各々、下記表2に示される実験条件にて、脱炭吹錬を行い、吹錬終了後、溶鋼中のりん濃度及び窒素濃度を分析した。溶鋼中のりん濃度が0.005質量%以下である場合を合格(◎、○)と評価し、0.005質量%を超えるものを不合格(×)と評価した。特に溶鋼中のりん濃度が0.003質量%以下である場合を良好(◎)と評価した。また、溶鋼中の窒素濃度が、粉体上吹きを行わない場合の脱炭吹錬で得られる溶鋼中の窒素濃度0.0015質量%以下である場合を合格(○)と評価し、0.0015質量%を超える場合を不合格(×)と評価した。結果を下記表2に示す。
【0081】
【0082】
表2に示される結果から以下のことが分かる。
【0083】
比較例1は、吹錬の10%(上吹き酸素量割合)~100%の吹錬終了まで、CaO粉を0.8kg/min/tで酸素とともに上吹きした例である。キャリアガスにはN2ガスを用い、キャリアガス流量は2000Nm3/minでCaO粉を酸素ラインに供給した。また、酸素ガス流量は48000~65000Nm3/hとし、上吹きガスの総流量は50000~67000Nm3/hで、上吹きガスのN2濃度は3.0~4.0モル%であった。吹錬終了後、溶鋼中のりん濃度及び窒素濃度を分析したところ、溶鋼中のりん濃度は0.003質量%であり、十分な脱りんができていた。吹錬終了まで行われた粉体上吹きにより復りんが抑制されたと考えられる。一方で、溶鋼中の窒素濃度は0.0042質量%であり、粉体上吹きを行わない場合の脱炭吹錬で得られる溶鋼中の窒素濃度0.0015質量%よりも大幅に増加した。粉体上吹き時の上吹きガスにおける窒素濃度が高すぎたため、吹錬時に溶鋼の吸窒が生じ、これが吹錬終了後にも残存したものと考えられる。
【0084】
比較例2~5は、キャリアガスを空気とし、粉体上吹き終了のタイミングを吹錬の70%~100%として、脱炭吹錬を行った例である。吹錬終了後、溶鋼中のりん濃度及び窒素濃度を分析したところ、比較例1と同様に、溶鋼中のりん濃度は0.005%以下で、脱りんに問題はなかったが、溶鋼中の窒素濃度は粉体上吹きをしない脱炭吹錬で得られる溶鋼中の窒素濃度0.0015質量%よりも大幅に増加した。比較例1と同様に、粉体上吹き時の上吹きガスにおける窒素濃度が高すぎたため、吹錬時に溶鋼の吸窒が生じ、これが吹錬終了後にも残存したものと考えられる。
【0085】
実施例1は、吹錬の10%(上吹き酸素量割合)~100%の吹錬終了までCaO粉を酸素とともに上吹きした例である。ただし、CaO粉のキャリアガスとして、窒素を含有しないアルゴンを用いた。吹錬終了後、溶鋼中のりん濃度及び窒素濃度を分析したところ、溶鋼中のりん濃度は0.002質量%と良好であり、また、溶鋼中の窒素濃度についても0.0012質量%と粉体上吹きを行わない場合と同等の低い濃度とすることができた。
【0086】
ただし、実施例1においては、吹錬の60%以上の期間にわたって、キャリアガスとしてアルゴンを用いて粉体上吹きを行ったために、キャリアガスとして窒素や空気を用いた場合に比べて、製造コストの増大が懸念される。これを解決すべく、以下の比較例及び実施例を検討した。
【0087】
比較例6~8は、キャリアガスとして空気を用いて、吹錬末期のみCaO粉を上吹きした例である。具体的には、CaO粉の上吹きを吹錬の80%~95%の時期に開始し、吹錬終了までCaO粉を0.8~0.9kg/min/tで酸素とともに上吹きした。吹錬終了後、溶鋼中のりん濃度及び窒素濃度を分析したところ、溶鋼中のりん濃度は0.004~0.005質量%と低い結果が得られたものの、溶鋼中の窒素濃度は粉体上吹きをしない脱炭吹錬で得られる溶鋼中の窒素濃度0.0015質量%よりも大幅に増加した。比較例1~5と同様に、粉体上吹き時の上吹きガスにおける窒素濃度が高すぎたため、吹錬時に溶鋼の吸窒が生じ、これが吹錬終了後にも残存したものと考えられる。
【0088】
実施例2~4は、窒素を含まないキャリアガスを用いて、吹錬末期のみCaO粉を上吹きした例である。具体的には、CaO粉の上吹きを吹錬の80%~95%の時期に開始し、吹錬終了までCaO粉を0.8~1.2kg/min/tで酸素とともに上吹きした。吹錬終了後、溶鋼中のりん濃度及び窒素濃度を分析したところ、溶鋼中のりん濃度は0.005質量%と非常に低い結果が得られ、また、窒素濃度についても0.0010~0.0013質量%と粉体上吹きを行わない場合と同等の低い濃度とすることができた。このように、吹錬開始から吹錬終了まで窒素濃度の低い上吹きガスによる上吹きを行い、且つ、吹錬の末期にCaO粉を上吹きすることによって、粉体コストのほか、キャリアガスコストについても、実施例1に比べて抑制することができた。
【0089】
上述の通り、吹錬の末期のみCaO粉を上吹きした実施例2~4でも良好な脱りん結果が得られたが、吹錬前半からCaO粉を上吹きした実施例1に比べると、溶鋼中のりん濃度が若干高い。この点、脱りんの観点からは、吹錬前半から吹錬末期までCaO粉を上吹きすることが好ましいといえる。この点、吹錬前半からCaO粉を上吹きするものの、キャリアガス種を吹錬の途中で切り替えることについて検討した。
【0090】
実施例5及び6、並びに、比較例9及び10は、吹錬前半からCaO粉を上吹きし、キャリアガス種を吹錬の途中で高窒素濃度ガスから低窒素濃度ガスに切り替えた例である。実施例5及び6の結果から明らかなように、吹錬の前半においてはキャリアガスとして空気を用い、吹錬期間の60%に到達する前に、キャリアガスをArガスに切換えることで、溶鋼中のりん濃度を0.003質量%以下に下げることができ、また、溶鋼中の窒素濃度も同様に低位に抑制できた。ただし、比較例9及び10の結果から明らかなように、キャリアガスを切り替えるタイミングが遅すぎると、最終的に得られる溶鋼中の窒素濃度が高くなってしまう。吹錬前半で溶銑又は溶鋼の吸窒が起こり、これが吹錬終了後にも残存したものと考えられる。実施例5及び6、並びに、比較例9及び10の結果から、吹錬の60%未満の段階でキャリアガスの切り替えを行うことで、最終的に得られる溶鋼中の窒素濃度を低減できることが分かる。
【0091】
比較例11及び12は従来技術に相当する。すなわち、吹錬の前半においてCaO粉を上吹きし、吹錬の後半はCaO粉の上吹きをせず、上吹きガス(酸素)の上吹きのみを行った例である。この場合、最終的に得られる溶鋼の窒素濃度を低減することができるものの、りん濃度が大幅に上昇してしまう。より高温となる吹錬後半において復りんが起こり、吹錬前半における脱りん促進効果が低減されたものと考えられる。
【0092】
3.まとめ
以上の実験から、上吹きランスから、転炉内の溶銑又は溶鋼へと、酸素を含む上吹きガスを吹き付ける転炉吹錬方法において、以下の要件1-1及び1-2が満たされる場合、或いは、以下の要件2-1が満たされる場合、溶銑又は溶鋼の吸窒や復りんを抑制でき、最終的に得られる溶鋼のりん濃度及び窒素濃度を十分に低減できるといえる。
【0093】
要件1-1:吹錬開始時点TSから時点TA1まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、0.3モル%以下の窒素濃度を有する上吹きガスを吹き付ける。ここで、吹錬開始時点TSから時点TA1までに上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに前記上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%以上である。
【0094】
要件1-2:少なくとも時点TA1から吹錬末期まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。
【0095】
要件2-1:吹錬開始後の時点TA2から吹錬末期まで、上吹きランスから溶銑又は溶鋼へと、上吹きガスとしての低窒素濃度ガスとともに、Caを含む脱りん剤を吹き付ける。ここで、吹錬開始時点TSから時点TA2までに上吹きランスから吹き付けられる合計の酸素量は、吹錬開始時点TSから吹錬終了時点TEまでに上吹きランスから吹き付けられる全酸素量の60%未満であり、低窒素濃度ガスは、酸素とキャリアガスとを含み、且つ、0.3モル%以下の窒素濃度を有する。