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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185793
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20221208BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221208BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20221208BHJP
   A01G 13/00 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08L67/00
C08J5/18 CFD
A01G13/00 301Z
C08L67/02
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093633
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】苗 偉
【テーマコード(参考)】
2B024
4F071
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
2B024DB01
4F071AA43
4F071AA44
4F071AA45
4F071AA81
4F071AC05
4F071AC08
4F071AC10
4F071AC12
4F071AE04
4F071AE11
4F071AE22
4F071AF08
4F071AF16
4F071AF52
4F071AH01
4F071AH03
4F071AH04
4F071AH07
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB09
4F071BC01
4F071BC12
4J002CF03X
4J002CF18W
4J002CF18X
4J002GA01
4J200AA04
4J200BA11
4J200BA12
4J200BA14
4J200CA01
4J200DA01
4J200EA07
(57)【要約】
【課題】生分解性を有しながら、良好な機械物性とガスバリア性を有する樹脂組成物及び樹脂フィルムの提供。
【解決手段】樹脂組成物は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)、及び、第二樹脂成分(B)を含有する。成分(A)は、3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が1~6モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A1)、及び、3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A2)を含む。成分(A)の全体に占める共重合体(A2)の割合が40重量%以上である。成分(B)は、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及び、ポリ乳酸からなる群より選択される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)、及び、第二樹脂成分(B)を含有する樹脂組成物であって、
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)は、
3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が1~6モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A1)、及び、3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A2)を含み、
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の全体に占める共重合体(A2)の割合が40重量%以上であり、
第二樹脂成分(B)は、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及び、ポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも1種である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂が、脂肪族ジカルボン酸由来の繰り返し単位と、芳香族ジカルボン酸由来の繰り返し単位と、ジオール由来の繰り返し単位とを有し、前記脂肪族ジカルボン酸は、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、ピメリン酸、スベリン酸、フマル酸、およびイタコン酸からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、およびフランジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記ジオールは、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、および1,4-ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)と第二樹脂成分(B)の合計に対するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の割合が10重量%以上50重量%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
第二樹脂成分(B)は、前記脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂として、ポリブチレンアジペートテレフタレートを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
第二樹脂成分(B)の全体に占めるポリブチレンアジペートテレフタレートの割合が50重量%以上である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
第二樹脂成分(B)は、ポリブチレンアジペートテレフタレートと、
ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及び、ポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも1種と、を含む、請求項4又は5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)は架橋構造を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
可塑剤をさらに含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された樹脂フィルム。
【請求項10】
厚みが10μm以上100μm以下である、請求項9に記載の樹脂フィルム。
【請求項11】
インフレーション成形体である、請求項9又は10に記載の樹脂フィルム。
【請求項12】
前記樹脂フィルムは、農業用マルチフィルムである、請求項9~11のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、及び、該樹脂組成物から形成される樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。そのため、生分解性プラスチックスへの代替が検討されている。
【0003】
農業用途では、地温を調節したり、土の乾燥や雑草の繁茂を抑えることなどを目的に、畑の表面を覆うマルチフィルムとして、樹脂フィルムが活用されている。当該樹脂フィルムは、燻蒸剤を効率よく土壌に固定させ、線虫、バクテリア、菌類などの害虫を排除し、高品質の野菜、果物、花の生産に役立ちながら、環境へ逃がさず望ましくない副作用を抑えることができる。このような樹脂フィルムに含まれる樹脂材料としては、生分解性プラスチックスの中でも、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)が広く使用されている。PBATは土壌分解性を有するため、農作物の収穫後は土壌に漉き込むことができ、労働力を削減できるためである。
【0004】
特許文献1では、PBAT等の生分解性ポリエステル80~95質量%、ポリヒドロキシアルカノエート5~20質量%、炭酸カルシウム10~20質量%、及び、滑石3~15質量%を含むポリエステルフィルムが、農業用マルチフィルムとして使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-523962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)はガスバリア性が低い特性がある。そのため、農業用マルチフィルムとして使用すると、燻蒸剤が環境に逃げてしまい、所定の目的が果たさなくなる恐れがあり、また環境へ望ましくない影響を与える。
そこで、フィルムのガスバリア性を改善するため、同じく生分解性を有する樹脂であるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)をPBATにブレンドすることが提案されている。
しかし、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)をブレンドすると、フィルムのガスバリア性は改善され得るものの、機械物性、特に引裂耐性が急激に悪化する傾向があった。引裂耐性が不十分であると、農業用マルチフィルムとして使用する際に支障が生じる。
特許文献1では、炭酸カルシウムと滑石を配合して引裂耐性を改善することが記載されているが、特定の無機フィラー2種類をそれぞれ特定量で配合する必要があり、フィルムの組成が極めて限定的であった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、生分解性を有しながら、良好な機械物性とガスバリア性を有する樹脂組成物及び樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)と、ポリブチレンアジペートテレフタレート等の第二樹脂成分をブレンドすることに加えて、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を、構成モノマー含有割合が異なる2種類の共重合体から構成されるように設計することで、生分解性を有しながら、良好な機械物性とガスバリア性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)、及び、第二樹脂成分(B)を含有する樹脂組成物であって、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)は、3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が1~6モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A1)、及び、3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A2)を含み、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の全体に占める共重合体(A2)の割合が40重量%以上であり、第二樹脂成分(B)は、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及び、ポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも1種である、樹脂組成物に関する。
好ましくは、前記脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂が、脂肪族ジカルボン酸由来の繰り返し単位と、芳香族ジカルボン酸由来の繰り返し単位と、ジオール由来の繰り返し単位とを有し、前記脂肪族ジカルボン酸は、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、ピメリン酸、スベリン酸、フマル酸、およびイタコン酸からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、およびフランジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つであり、前記ジオールは、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、および1,4-ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1つである。
好ましくは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)と第二樹脂成分(B)の合計に対するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の割合が10重量%以上50重量%以下である。
好ましくは、第二樹脂成分(B)は、前記脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂として、ポリブチレンアジペートテレフタレートを含む。
好ましくは、第二樹脂成分(B)の全体に占めるポリブチレンアジペートテレフタレートの割合が50重量%以上である。
好ましくは、第二樹脂成分(B)は、ポリブチレンアジペートテレフタレートと、
ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及び、ポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも1種と、を含む。
好ましくは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)は架橋構造を有する。
前記樹脂組成物は、可塑剤をさらに含有してもよい。
また本発明は、前記樹脂組成物から形成された樹脂フィルムにも関する。
好ましくは、厚みが10μm以上100μm以下である。
前記樹脂フィルムは、インフレーション成形体であってもよい。
好ましくは、前記樹脂フィルムは、農業用マルチフィルムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生分解性を有しながら、良好な機械物性とガスバリア性を有する樹脂組成物及び樹脂フィルムを提供することができる。
前記樹脂組成物及び樹脂フィルムは、特許文献1で開示されている特定量の炭酸カルシウム及び/又は特定量の滑石を含有しなくても、良好な機械物性を達成し得る。
前記樹脂フィルムは、生分解性を有し、良好な引裂耐性とガスバリア性を兼ね備えているため、農業用マルチフィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)、及び、第二樹脂成分(B)を含有する樹脂組成物に関する。
【0013】
(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A))
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂成分(A)は、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体の少なくとも2種類の混合物であり、具体的には、3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が1~6モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A1)、及び、3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A2)を含む。
【0014】
共重合体(A1)は、共重合体(A2)よりも結晶性が高い樹脂である。共重合体(A1)に含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位の平均含有割合よりも高いことが好ましい。共重合体(A1)に含まれる3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合は、1~6モル%であり、1~5モル%が好ましく、2~4モル%がより好ましい。
【0015】
共重合体(A1)の重量平均分子量は、機械特性と生産性を両立する観点から、20万~100万が好ましく、22万~80万がより好ましく、25万~60万が更に好ましい。
共重合体(A1)としては1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
共重合体(A2)は、共重合体(A1)よりも結晶性が低い樹脂である。共重合体(A2)に含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位の平均含有割合よりも低いことが好ましい。共重合体(A2)に含まれる3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合は、24~99モル%であり、24~50モル%が好ましく、25~35モル%がより好ましく、26~30モル%が特に好ましい。
【0017】
共重合体(A2)の重量平均分子量は、機械特性と生産性を両立する観点から、20万~250万が好ましく、25万~230万がより好ましく、30万~200万が更に好ましい。
共重合体(A2)としては1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
良好な機械特性とガスバリア性を両立する観点から、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の全体に占める共重合体(A2)の割合は、40重量%以上に設定される。共重合体(A2)の割合が40重量%未満であると、機械特性を十分に改善することができない。該割合は45重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、52重量%以上がさらに好ましい。また、共重合体(A2)の割合の上限は、生産性とガスバリア性の観点から、75重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましく、65重量%以下がさらに好ましい。
【0019】
良好な機械特性とガスバリア性を両立する観点から、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の全体に占める共重合体(A1)の割合は、60重量%以下が好ましく、55重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましく、48重量%以下がより更に好ましい。また、共重合体(A1)の割合の下限は、生産性とガスバリア性の観点から、25重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、35重量%以上がさらに好ましい。
【0020】
共重合体(A1)と共重合体(A2)を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位および3-ヒドロキシヘキサノエート単位の平均含有比率は、機械特性と生産性を両立する観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位=93/7~80/20(モル%/モル%)が好ましく、92/8~81/19(モル%/モル%)がより好ましく、90/10~82/18(モル%/モル%)がさらに好ましく、88/12~82/18(モル%/モル%)がより更に好ましく、86/14~82/18(モル%/モル%)が特に好ましい。
【0021】
共重合体(A1)、共重合体(A2)、又はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位の平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有比率とは、平均モル比を意味する。ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位の平均含有比率とは、共重合体(A1)と共重合体(A2)を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の全体に含まれる全モノマー単位に占める各モノマー単位のモル比を意味する。
【0022】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)全体の重量平均分子量は、特に限定されないが、機械特性と生産性を両立する観点から、20万~200万が好ましく、25万~150万がより好ましく、30万~100万が更に好ましい。
【0023】
共重合体(A1)、共重合体(A2)、又はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製HPLC GPC system)を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0024】
共重合体(A1)又は共重合体(A2)の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(P3HB3HH)を生産する菌としては、アエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)等が知られている。特に、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、生産したいポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に合わせて、各種ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件を最適化すればよい。
【0025】
共重合体(A1)と共重合体(A2)のブレンド物を得る方法は特に限定されず、微生物産生によりブレンド物を直接得る方法であってよいし、化学合成によりブレンド物を直接得る方法であってもよい。また、個別に製造した共重合体(A1)と共重合体(A2)を、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて溶融混練してブレンド物を得てもよいし、共重合体(A1)と共重合体(A2)をそれぞれ溶媒に溶解して混合・乾燥してブレンド物を得ても良い。
【0026】
(架橋構造)
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)は、架橋構造を有しないものであってもよいし、有機過酸化物との反応によって導入された架橋構造を有するものであってもよい。樹脂成分(A)に架橋構造を導入することによって、フィルムの生産性(特にインフレーション成形における生産性)が良好となり、また、機械特性が向上し得る。
【0027】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)が架橋構造を有する場合、樹脂成分(A)は、その全体に架橋構造が導入されたものでもよいし、架橋構造が導入された成分と、架橋構造が導入されていない成分の双方を含んでもよい。特に、共重合体(A2)は、生産性や機械特性の観点から、架橋構造が導入された成分を含むことが好ましい。
【0028】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)に架橋構造を導入するために使用する有機過酸化物としては特に限定されないが、例えば、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パ-オキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジコハク酸パーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニロキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシ,3,5,5-トリメチルヘキサノエート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシ)プロパン、2,2-ジ-t-ブチルパーオキシブタン等が挙げられる。中でも、ジベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが好ましい。有機過酸化物としては1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
有機過酸化物は、固体状や液体状など様々な形態で用いられ、希釈剤等によって希釈された液体状のものであってもよい。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)と混合し得る形態の有機過酸化物(特に、室温(25℃)で液体状の有機過酸化物)は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)に均一に分散することができ、局所的な変性反応を抑制しやすくなるため好ましい。
【0030】
有機過酸化物の使用量は、生産性と機械特性を改善する観点から、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)100重量部に対して0.01~0.5重量部であることが好ましく、0.05~0.4重量部がより好ましく、0.1~0.3重量部がさらに好ましい。
【0031】
尚、有機過酸化物との反応によって導入された架橋構造を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)、及び、これを含む樹脂組成物又は樹脂フィルムは、有機過酸化物由来の成分(例えば、当該有機過酸化物の分解物、当該分解物由来の化合物等)を含む場合がある。
【0032】
架橋構造を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)は、好適には、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分と有機過酸化物を押出機に投入して溶融混錬することにより得ることができる。これにより、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を均一に架橋することができる。また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分と有機過酸化物に加えて、後述するような結晶核剤、滑剤、有機又は無機系フィラー等の他の成分も押出機に投入して溶融混練を行なってもよい。
【0033】
上記溶融混練においては、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)又は共重合体(A1)及び共重合体(A2)と、有機過酸化物をそれぞれ個別に押出機に投入してもよいし、各成分を混合してから押出機に投入してもよい。
【0034】
上記溶融混練は、公知乃至慣用の方法に従って実施可能であり、例えば、押出機(一軸押出機、二軸押出機)、ニーダー等を使用して実施することができる。溶融混練の条件は、特に限定されず適宜設定可能であるが、有機過酸化物が溶融混練中に反応を完了できる樹脂温度と滞留時間を設定することが好ましい。具体的には、ダイスの温度計にて測定した樹脂温度が155℃以上175℃以下の範囲にて溶融混練することが好ましい。また、押出機内での滞留時間が60秒以上300秒以下となるように溶融混練することが好ましい。
【0035】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)が、架橋構造が導入された成分と、架橋構造が導入されていない成分の双方を含む場合、まず、樹脂成分(A)の一部について、上記のように有機過酸化物との溶融混錬を行って架橋構造を導入した後、残部の樹脂成分(A)を混合すればよい。
【0036】
(第二樹脂成分(B))
本実施形態に係る樹脂組成物は、第二樹脂成分(B)として、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及び、ポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。このうち、機械特性が良好であることから、第二樹脂成分(B)として、少なくとも、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂を含むことが好ましい。
前記脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂とは、脂肪族ジカルボン酸由来の繰り返し単位と、芳香族ジカルボン酸由来の繰り返し単位と、ジオール由来の繰り返し単位とを有するポリエステル重合体である。
【0037】
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の構成成分となる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、ピメリン酸、スベリン酸、フマル酸、およびイタコン酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸が好ましい。
【0038】
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の構成成分となる芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、およびフランジカルボン酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、テレフタル酸、フランジカルボン酸が好ましい。
【0039】
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の構成成分となるジオールとしては、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、および1,4-ブタンジオール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0040】
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンセバケートテレフタレート(PBSeT)、ポリブチレンアゼレートテレフタレート(PBAzT)等が挙げられる。中でも、工業的な入手性、耐熱性、および/または生分解性等の観点から、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンセバケートテレフタレート(PBSeT)、ポリブチレンアゼレートテレフタレート(PBAzT)が好ましく、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)が特に好ましい。
【0041】
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の繰り返し単位の組成比は、機械特性の観点から、脂肪族ジカルボン酸単位/芳香族ジカルボン酸単位の組成比が、95/5~30/70(mol/mol)であることが好ましく、90/10~40/60(mol/mol)であることがより好ましい。脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位との合計を100mol%としたとき、芳香族ジカルボン酸単位が5mol%以上であれば機械特性が良好となる。また、芳香族ジカルボン酸単位が70mol%以下であれば生分解性に優れる。
【0042】
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、1万~50万が好ましく、2万~40万がより好ましい。重量平均分子量が50万以下であれば、加工が容易となり、1万以上であれば、物性に優れる。脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の重量平均分子量と同様の方法により求めることができる。
【0043】
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂として特に好ましいPBATは、1,4-ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸のランダム共重合体のことをいう。特表平10-508640号公報等に記載されているような、(a)主としてアジピン酸もしくはそのエステル形成性誘導体またはこれらの混合物35~95モル%、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体またはこれらの混合物5~65モル%(モル%の合計は100モル%)よりなる混合物に、(b)ブタンジオールが含まれている混合物(ただし(a)と(b)とのモル比が0.4:1~1.5:1)の反応により得られるPBATが好ましい。PBATの市販品としてはBASF社製「エコフレックス F blend C1200」(登録商標)などが挙げられる。
【0044】
第二樹脂成分(B)がPBATを含む場合、第二樹脂成分(B)の全体に占めるPBATの割合は特に限定されないが、PBAT配合による利点が得られるよう、50重量%以上100重量%以下であることが好ましい。60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましく、80重量%以上がより更に好ましい。また、上限は95重量%以下がより好ましい。
【0045】
第二樹脂成分(B)の全体に占めるPBATの割合が100重量%未満である場合、第二樹脂成分(B)は、PBATと、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、及び、ポリ乳酸からなる群より選択される少なくとも1種と、を含むことが好ましく、PBATとポリ乳酸を含むことが特に好ましい。PBATと、PBAT以外の樹脂を併用することで、フィルムの生産性(特にインフレーション成形における生産性)が良好となり得る。
【0046】
前記樹脂組成物において、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)の割合は特に限定されず、機械強度やガスバリア性、生分解性などを考慮して適宜決定することができる。しかしながら、各物性のバランスから、樹脂成分(A)と第二樹脂成分(B)の合計に対する樹脂成分(A)の割合は、10重量%以上50重量%以下であることが好ましい。樹脂成分(A)の割合を10重量%以上とすることで、ガスバリア性及び生分解性を良好なものとすることができる。より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上、より更に好ましくは25重量%以上である。また、樹脂成分(A)の割合を50重量%以下とすることで、機械特性を良好なものとすることができる。より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下、より更に好ましくは35重量%以下である。
【0047】
同様の観点から、樹脂成分(A)と第二樹脂成分(B)の合計に対する第二樹脂成分(B)の割合は、50重量%以上90重量%以下であることが好ましい。第二樹脂成分(B)の割合を90重量%以下とすることで、ガスバリア性及び生分解性を良好なものとすることができる。より好ましくは85重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下、より更に好ましくは75重量%以下である。また、樹脂成分(B)の割合を50重量%以上とすることで、機械特性を良好なものとすることができる。より好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、より更に好ましくは65重量%以上である。
【0048】
(添加剤)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、その他の成分を含んでいてもよい。例えば、発明の効果を阻害しない範囲で、有機系又は無機系フィラー等を含んでいてもよい。当該有機系又は無機系フィラーの含有量は、適宜設定することができ、特に限定されない。有機系又は無機系フィラーは、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0049】
(シリカ)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、無機系フィラーとして、シリカを含有しても良い。
【0050】
前記シリカとしては、特にその種類は限定されないが、汎用性の観点から、乾式法または湿式法で製造される合成非晶質シリカが好ましい。また、疎水処理または非疎水処理を施したいずれのものも使用可能であり、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0051】
前記シリカとしては、吸着水分量が0.5重量%以上7重量%以下のシリカが好ましい。吸着水分量は、例えば研精工業株式会社製電磁式はかりMX-50を用いて160℃における揮発分を吸着水分量として測定することができる。吸着水分量が7重量%より大きい場合、シリカ表面や粒子間に吸着した水分の凝集力で分散しにくくなって成形時にフィッシュアイとなって外観不良を起こす場合がある。また逆に0.5重量%未満の場合には、この僅かに粒子間の残った水分が架橋液膜を形成して表面張力で大きな結合力を生み、分離・分散が極端に難しくなる傾向がある。
【0052】
前記シリカの平均一次粒子径は、樹脂フィルムの引裂強度を向上させることができ、フィッシュアイ等の外観上の欠陥を生じにくく、透明性を大きく損なうことがなければ特に限定されないが、引裂強度等の機械的特性の向上効果が得られやすく、透明性に優れている点で0.001~0.1μmであることが好ましく、0.005~0.05μmであることが特に好ましい。なお、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した任意の50個以上の一次粒子の径を算術平均することにより求められる。
【0053】
前記シリカの配合量(総配合量)は、シリカの配合により得られる効果とシリカの分散性などを勘案して、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)100重量部に対して、1~12重量部であることが好ましい。前記シリカの配合量は、2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。また、11重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0054】
前記シリカの分散性を向上させることを目的に、前記シリカと、分散助剤を併用することが好ましい。
【0055】
前記分散助剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物などが例示される。これらのうち、樹脂成分への親和性に優れブリードしにくいことから、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエートなどの変性グリセリン系化合物;ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸エステル系化合物;ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレートなどのポリエーテルエステル系化合物が好ましく、更には、バイオマス由来成分を多く含むものが、組成物全体のバイオマス度を高めることができることから特に好ましい。このような分散助剤としては、理研ビタミン株式会社のアセチル化モノグリセライドBIOCIZERやPLシリーズ、ROQUETTE社のPolysorbシリーズなどが例示される。分散助剤は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0056】
前記分散助剤の配合量(総配合量)は、分散助剤の配合により得られる効果と分散助剤のブリードアウトの可能性などを勘案して、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)100重量部に対して0.1~20重量部であることが好ましい。前記分散助剤の配合量は、0.3重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上がさらに好ましい。また、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。
【0057】
また、有機系又は無機系フィラーの他にも、発明の効果を阻害しない範囲で、通常の添加剤として使用される顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、しゅう動性改良剤、その他の副次的添加剤の一種又は二種以上を含んでいてもよい。当該添加剤の含有量も、適宜設定することができる。以下、結晶核剤、滑剤と可塑剤について、さらに詳しく説明する。
【0058】
(結晶核剤)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、結晶核剤も含んでもよい。結晶核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、ガラクチトール、マンニトール等の多価アルコール;オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。
結晶化核剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、0.5~3重量部がより好ましく、0.7~1.5重量部がさらに好ましい。また、結晶化核剤は、1種を使用してよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0059】
(滑剤)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、滑剤も含んでもよい。滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミド又はエルカ酸アミドが好ましい。
滑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.05~3重量部がより好ましく、0.1~1.5重量部がさらに好ましい。また、滑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。しかしながら、本実施形態に係る樹脂フィルムは、滑剤を含有しなくともよい。
【0060】
(可塑剤)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、可塑剤を含んでもよい。可塑剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物、二塩基酸エステル系化合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分への可塑化効果が特に優れている点で、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、二塩基酸エステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。クエン酸エステル系化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。セバシン酸エステル系化合物としては、例えば、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。二塩基酸エステル系化合物としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート等が挙げられる。
可塑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分(A)100重量部に対して、1~20重量部が好ましく、2~15重量部がより好ましく、3~10重量部がさらに好ましい。また、可塑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0061】
(樹脂フィルム)
前記樹脂組成物は、好適に、樹脂フィルムに成形することができる。当該樹脂フィルムは、単層フィルムであってもよいし、多層フィルムであってもよい。
樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましく、15μm以上80μm以下がより好ましく、20μm以上60μm以下がさらに好ましい。
【0062】
(樹脂フィルムの製造方法)
本実施形態に係る樹脂フィルムは、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形など種々の成形方法によって製造することができるが、インフレーション成形により製造することが好ましい。
【0063】
前記インフレーション成形とは、先端に円筒ダイが取り付けられた押出機から溶融樹脂組成物をチューブ状に押し出し、直後に、該チューブのなかに気体を吹き込んでバルーン状にふくらませることでチューブ状の単層または多層フィルムを成形する成形方法のことをいう。当該インフレーション成形の方法は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂をフィルム成形する際に用いられる一般的なインフレーション成形機を用いて実施することが可能である。一般的なインフレーション成形機とは、単層フィルムの成形の場合、1台の単軸押出機に1台の円筒ダイが取り付けられているものをいう。多層フィルムの成形の場合は、使用する樹脂の種類に合わせて複数の押出機から1台の円筒ダイに溶融樹脂を流し込み、ダイス内で各樹脂を積層できるものをいう。上記単軸押出機は、投入された原料樹脂を溶融混練し、所望の温度に保ちながら一定の吐出を得るものであればよい。単軸押出機のスクリュー形状等も特に限定されないが、ミキシングエレメントを備えるものが、混練性の観点から好ましい。また、円筒ダイの構造も単層、積層フィルムに合わせて適宜設計されるものであり特に限定されないが、中でも、ウエルドの発生が少なく、厚みの均一性も得やすいため、スパイラルマンドレルダイが好ましい。
【0064】
インフレーション成形における成形温度としては、樹脂が適切に溶融できる温度であれば特に限定されるものではないが、例えば135~200℃が好ましい。ここでいう成形温度とは、押出機以降からダイから吐出するまでの間の樹脂温度のことを指す。樹脂温度は、一般的には例えばアダプターに設置された温度計により測定することができる。
【0065】
インフレーション成形における引取速度としては、樹脂フィルムの厚みや幅、樹脂吐出量により決定されるが、バルーン安定性を維持できる範囲で調整可能である。一般的に1~50m/分が好ましい。
【0066】
インフレーション成形においては、バルーンの外側から吹き付けるエアリングを、吐出した溶融樹脂を固化させてバルーンを安定させるために用いることができる。好適に用いられるエアリングの吹き付け構造としては、エアの吹き出す環状のスリットが複数設けられ、各スリット間にあるチャンバーによりバルーンの安定化が促進されるスリットタイプのものである。
【0067】
インフレーション成形の後、チューブ状の成形フィルムをピンチロールで折り重ねた状態で巻き取りロールまで引き取る工程や、巻き取り後に折り重ねた成形フィルムを容易に剥離させるため、ピンチロールで折り重なったフィルムの界面にエアを吹き込む工程、引き取りの途中で、用途に合わせてフィルムをカットする工程などを行ってもよい。カット方式としては、折り重ねられたチューブ状成形フィルムの幅方向の両端をカットして2枚のフィルムを形成する方式や、チューブ状成形フィルムを幅方向にホットカットすると共に、ヒートシールによって融着を行うことで袋形状のフィルムを形成する方式などがある。また、カットしやすいように、カット直前で折り重なったフィルムの界面にエアを吹き込む工程を含んでもよい。また、折り重ねられた状態のチューブ状フィルムの両端を内側に折り込む、いわゆるガゼット折りをする工程を行ってもよい。また、ピンチロールで折り重ねた後、巻き取り前までにフィルム表面に印刷する工程を行ってもよく、さらに印刷密着性を向上させるために、印刷前にフィルム表面にコロナ処理を行ってもよい。印刷方法としては、特に限定されるものではないが、グラビア印刷やフレキソ印刷が挙げられる。
【0068】
本実施形態に係る樹脂フィルムは優れた生分解性を有しているため、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。例えば、ゴミ袋、レジ袋、野菜・果物の包装袋、ピロー包装、宅配用袋、農業用マルチフィルム、林業用燻蒸シート、フラットヤーン等を含む結束テープ、植木の根巻フィルム、おむつのバックシート、包装用シート、ショッピングバック、水切り袋、その他コンポストバック等の用途に用いられる。特に、前記樹脂フィルムは、生分解性、良好な引き裂き強度とガスバリア性を兼ね備えているため、農業用マルチフィルムとして好適に使用することができる。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0070】
各実施例及び比較例では以下の原料を使用した。
P3HB3HH-1:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=97.2/2.8(モル%/モル%)、重量平均分子量は66万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例2に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-2:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=71.8/28.2(モル%/モル%)、重量平均分子量は66万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例9に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-3:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=94/6(モル%/モル%)、重量平均分子量は40万g/mol)
P3HB3HH-4:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=89/11(モル%/モル%)、重量平均分子量は60万g/mol)
【0071】
(有機過酸化物)
日油社製パーブチルI(t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1分間半減期温度:159℃)
【0072】
(可塑剤)
理研ビタミン社製BIOCIZER(グリセリン脂肪酸エステル)
【0073】
(滑剤)
日本精化製BNT-22H(ベヘン酸アミド)
【0074】
(結晶核剤)
三菱ケミカル株式会社製ノイライザーP(ペンタエリスリトール)
【0075】
各実施例および比較例では以下の評価を実施した。
(引裂き強度)
JIS K7128-2 プラスチック-フィルム及びシートの引裂強さ試験方法第2部、エレメンドルフ引裂法に準じて評価した。なお、インフレーション成形品はMDとTD両方向について、Tダイ成形品はMD方向のみについて評価した。
【0076】
(酸素透過性)
JIS K 7126-1 プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法、附属書2(ガスクロマトグラフ法)に準じて評価した。
【0077】
(生分解性[土壌分解])
<サンプル>
平均厚み40μm、60-69mgのフィルム
<試験条件>
生分解性(土壌分解)評価用として、植物源(土:150g、23~28℃で9日間養生)、海砂(200g)、水分(110g)を混合しコンポストを作製した。得られたコンポストを900mLのガラス容器に投入し、次いでフィルム(60~69mg)をコンポストに埋め込んだ後に、27~29℃下で保持し分解試験を行った。1週間毎にコンポストの水分補充を行い、コンポスト初期重量=460gを維持するように調節した。
2週間ごとにフィルムを回収して重量を計測し、10週間時点の重量減少率を記録し、以下のように評価した。
〇:7%以上
×:2%以下
【0078】
(実施例1)樹脂フィルムの製造方法
P3HB3HH-1、P3HB3HH-2、滑剤、及び、結晶核剤を表1に示す配合比でドライブレンドし、同方向噛合型二軸押出機(東芝機械社製:TEM26ss)を用いて、設定温度120℃以上170℃以下、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬し、ストランドカットすることで溶融混錬物を得た。得られた溶融混錬物と、第二樹脂成分(B)としてEcovio(R) M2351(BASF社製、PBATとポリ乳酸(重量比9:1)の混合物)を、P3HB3HHの合計:第二樹脂成分(B)の重量比=30:70でドライブレンドし、L/D=32の単軸スクリューを有する押出機に直径100mmの円筒状ダイスリップを装着したダイが接続されたインフレーション成形機(北進産業株式会社製)に投入してフィルムを作製した。
得られたフィルムについて引裂き強度、酸素透過性、及び生分解性を評価し、その結果を表1に示す。
【0079】
(実施例2)
更に有機過酸化物と可塑剤を表1に示す配合比で追加して溶融混錬物を得た以外は実施例1と同様にして、インフレーション成形を実施してフィルムを作製した。各種評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例3)
P3HB3HH-1、P3HB3HH-2、滑剤、結晶核剤、及び、有機過酸化物を表1に示す配合比でドライブレンドし、実施例1と同様にして溶融混錬物を得た後、得られた溶融混錬物に、表1に示す量のP3HB3HH-3をドライブレンドし、更に、Ecovio M2351を、P3HB3HHの合計:第二樹脂成分(B)の重量比=30:70でドライブレンドし、実施例1記載のインフレーション成形機に投入してフィルムを作製した。各種評価結果を表1に示す。
【0081】
(実施例4)
更に可塑剤を表1に示す配合比で追加して溶融混錬物を得た以外は実施例3と同様にして、インフレーション成形を実施してフィルムを作製した。各種評価結果を表1に示す。
【0082】
(実施例5)
P3HB3HH-1、P3HB3HH-2、P3HB3HH-3、有機過酸化物の配合比を表1に示すように変更し、インフレーション成形の代わりにTダイ成形を実施した以外は、実施例4と同様にしてフィルムを作製した。Tダイ成形では、コンパウンドペレットを単軸押出機(20mmφ、L/D=20、(株)東洋精機製 ラボプラストミル)に投入し、先端に取り付けたT型ダイスより押出し、金属ロールで引き取り、所定の厚みのフィルムを得た。シリンダーおよびダイスの設定温度は、C1_C2_C3_ダイスを140_150_160_170℃、スクリュー回転数30rpmとし、引き取り速度は、フィルム厚み30μm狙いで、4.0m/minで調節した。各種評価結果を表1に示す。
【0083】
(比較例1)
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を使用せず、Ecovio M2351のみを使用して実施例1と同様にしてインフレーション成形を実施してフィルムを作製した。各種評価結果を表1に示す。
【0084】
(比較例2)
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)としてP3HB3HH-4のみを使用したこと以外は実施例1と同様にして、インフレーション成形を実施してフィルムを作製した。各種評価結果を表1に示す。
【0085】
(比較例3)
各成分の配合比を表1に示すように変更した以外は実施例5と同様にして、Tダイ成形を実施してフィルムを作製した。各種評価結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1より以下のことが分かる。実施例1~5で製造した各フィルムは、引裂き強度が大きく、酸素透過性が低く(ガスバリア性が高く)、生分解性が良好であった。
【0088】
一方、比較例1のフィルムは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を配合していないもので、酸素透過性が大きく(ガスバリア性が低く)、生分解性は不十分であった。
比較例2のフィルムは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)として、3-ヒドロキシヘキサノエート単位が11モル%であるP3HB3HHを用いたもので、引裂き強度、特に流れ方向の引裂き強度が小さい値を示した。
比較例3のフィルムは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)として共重合体(A1)と(A2)の双方を含むが、(A2)の割合が37重量%と少ないもので、引裂き強度が小さい値を示した。