IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185807
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】うま味増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20221208BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20221208BHJP
【FI】
A23L27/20 F
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093657
(22)【出願日】2021-06-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)日本農芸化学会2021年度(令和3年度)大会 開催日 令和3年3月20日 (2)日本農芸化学会2021年度(令和3年度)大会 講演要旨 掲載年月日 令和3年3月20日 掲載アドレス https://jsbba2.bioweb.ne.jp/jsbba2021/download_pdf.php?p_code=3E06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菅 一也
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】葛西 賢造
【テーマコード(参考)】
4B036
4B047
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LF01
4B036LF04
4B036LF05
4B036LH05
4B036LK01
4B047LF02
4B047LF03
4B047LF07
4B047LF08
4B047LF09
4B047LG05
4B047LG06
4B047LP02
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、食品本来の良好な香りの特徴を活かしながらうま味を増強することができるうま味増強剤を提供することにある。
【解決手段】4-エチルグアイアコール、4-プロピルグアイアコール、2-エトキシ-4-ビニルフェノール、γ-ノナラクトン、バニリン及びアセトバニロンからなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分とするうま味増強剤。当該うま味増強剤は、飲食品の本来有する良好な香りの特徴を活かしながら、香味に悪影響を及ぼすことなく、当該飲食品のうま味を増強することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-エチルグアイアコール、4-プロピルグアイアコール、2-エトキシ-4-ビニルフェノール、γ-ノナラクトン、バニリン及びアセトバニロンからなる群より選択される1種以上の化合物を有効成分とするうま味増強剤。
【請求項2】
有効成分である化合物を10ppb以上含有する請求項1に記載のうま味増強剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のうま味増強剤を添加してなる飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のうま味増強剤を添加することにより、有効成分である化合物を、4-エチルグアイアコールの場合は0.1ppb~100ppb、4-プロピルグアイアコールの場合は0.1ppb~1000ppb、2-エトキシ-4-ビニルフェノールの場合は0.1ppb~1000ppb、γ-ノナラクトンの場合は0.1ppb~10ppb、バニリンの場合は0.1ppb~100ppb、アセトバニロンの場合は0.1ppb~1000ppb含有する飲食品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のうま味増強剤を添加することによる、飲食品のうま味増強方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のうま味増強剤を添加することにより、有効成分である化合物を、4-エチルグアイアコールの場合は0.1ppb~100ppb、4-プロピルグアイアコールの場合は0.1ppb~1000ppb、2-エトキシ-4-ビニルフェノールの場合は0.1ppb~1000ppb、γ-ノナラクトンの場合は0.1ppb~10ppb、バニリンの場合は0.1ppb~100ppb、アセトバニロンの場合は0.1ppb~1000ppb添加する、飲食品のうま味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はうま味増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
うま味は、甘味、酸味、塩味、苦味とともに基本味と呼ばれる味の一つであり、食材の持ち味を引き立て、料理の味に深みを加えることから、食品の美味しさを構成する重要な要素である。日本においては、うま味をもたらす食材として、かつお節や昆布が古くから利用されており、かつお節のうま味は、アミノ酸であるイノシン酸の他に、核酸のうま味などが知られ、かつお節自体の香りがうま味を増強することも知られている(非特許文献1)。
【0003】
他方、スモークチーズ、ハム、ベーコン等をはじめとする燻製料理は、燻すことで水分活性を抑え、殺菌性のある香気をまとうことで日持ちを向上させる他、特有の香りにより燻製する前に比べ美味しさが増すことが知られている。
【0004】
しかし、かつお節や燻製物は、上記のとおり特有の強い香りを有することから、食品本来の香りを損なうことがあり、うま味の増強と食品本来の香りの維持は両立できない知見が多かった。
【0005】
一方、4-エチルグアイアコールは、かつお節中に微量含まれていることが知られているが(非特許文献2)、かつお節の香気を構成する上での重要な成分とはみなされていない(非特許文献3)。その他、当該物質に関しては、4-エチルグアイアコールを複数の成分と組み合わせることにより自然な魚介類フレーバーを得る技術(特許文献1)、魚節エキスに4-エチルグアイアコールを複数の成分と組み合わせて配合することにより魚節フレーバーを得る技術(特許文献2)、4-エチルグアイアコールと4-エチルフェノールを併用した料理のだし感を増強できる醤油(特許文献3)、4-エチルグアイアコールと特定の香気成分3~5種を組み合わせただし様香気付与香料組成物(特許文献4)が報告されているが、4-エチルグアイアコール単独でうま味を増強する知見は見出されていなかった。
【0006】
4-プロピルグアイアコールは、魚介系のフレーバーの素材として知られており、魚介類フレーバーの製造方法(特許文献5)、シーフードフレーバーの製造方法(特許文献6)などが公知となっているが、うま味を増強する知見は見出されていない。
【0007】
γ-ノナラクトン、バニリン及びアセトバニロンは、香料素材として公知の物質であり、バニリンについては、バニリンと特定の香気成分4~5種を組み合わせだし様香気付与香料組成物(特許文献4)が公知となっているが、うま味を増強する知見は報告されていない。
【0008】
また、2-エトキシ-4-ビニルフェノールについては、香料素材としての知見が報告されておらず、うま味を増強する知見についても当然報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-143466号公報
【特許文献2】特開2004-135522号公報
【特許文献3】特開2014-207881号公報
【特許文献4】特開2015-211669号公報
【特許文献5】特開2005-143466号公報
【特許文献6】特開2014-076010号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Y. Ogasawara, et al., J. Food Sci., 81, C308-C316 (2016)
【非特許文献2】SAKAKIBARA et al.,Agricultural and Biological Chemistry,1990年,第54巻,第1号,p.9-16
【非特許文献3】石黒ら,日本食品科学工学会誌,2001年,第48巻,第8号,p.570-577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、食品本来の良好な香りの特徴を活かしながらうま味を増強することができるうま味増強剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、数百種類あると言われるかつお節香気から、うま味を増幅させる香気成分をスクリーニングし、鋭意研究の結果、4-エチルグアイアコール、4-プロピルグアイアコール、2-エトキシ-4-ビニルフェノール、γ-ノナラクトン、バニリン及びアセトバニロンに飲食品のうま味増強効果を見出し、本発明を完成するに至った。これらの化合物は強い燻製臭を有さないことから、適量添加することで、燻製臭が付与されることなく、数々の飲食品のうま味を増強することができるものであった。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]4-エチルグアイアコール、4-プロピルグアイアコール、2-エトキシ-4-ビニルフェノール、γ-ノナラクトン、バニリン及びアセトバニロンからなる群より選択される1種以上の化合物を有効成分とするうま味増強剤。
[2]有効成分である化合物を10ppb以上含有する[1]に記載のうま味増強剤。
[3][1]又は[2]に記載のうま味増強剤を添加してなる飲食品。
[4][1]又は[2]に記載のうま味増強剤を添加することにより、有効成分である化合物を、4-エチルグアイアコールの場合は0.1ppb~100ppb、4-プロピルグアイアコールの場合は0.1ppb~1000ppb、2-エトキシ-4-ビニルフェノールの場合は0.1ppb~1000ppb、γ-ノナラクトンの場合は0.1ppb~10ppb、バニリンの場合は0.1ppb~100ppb、アセトバニロンの場合は0.1ppb~1000ppb含有する飲食品。
[5][1]又は[2]に記載のうま味増強剤を添加することによる、飲食品のうま味増強方法。
[6][1]又は[2]に記載のうま味増強剤を添加することにより、有効成分である化合物を、4-エチルグアイアコールの場合は0.1ppb~100ppb、4-プロピルグアイアコールの場合は0.1ppb~1000ppb、2-エトキシ-4-ビニルフェノールの場合は0.1ppb~1000ppb、γ-ノナラクトンの場合は0.1ppb~10ppb、バニリンの場合は0.1ppb~100ppb、アセトバニロンの場合は0.1ppb~1000ppb添加する、飲食品のうま味増強方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のうま味増強剤は、飲食品の本来有する良好な香りの特徴を活かしながら、当該飲食品のうま味を増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明におけるうま味とは、5基本味にいううま味のことを指し、うま味増強とは、飲食品の本来有する良好な香りの特徴を活かしながら、当該飲食品のうま味を増強することを指す。
【0016】
本発明のうま味増強剤は、4-エチルグアイアコール、4-プロピルグアイアコール、2-エトキシ-4-ビニルフェノール、γ-ノナラクトン、バニリン及びアセトバニロンからなる群から選択される1種以上の化合物を有効成分として用いる。
【0017】
本発明のうま味増強剤に用いられる上記化合物は、市販品を購入すること又は公知の方法で合成することにより調達可能である。
【0018】
本発明のうま味増強剤は、有効成分として用いる化合物の有する香気の閾値以下でうま味増強効果を示すため、飲食品に添加することで、飲食品の本来有する良好な香りの特徴を活かしながら、当該飲食品のうま味を増強することができ、また、うま味が増強した飲食品を得ることができる。
【0019】
本発明のうま味増強剤が適用される飲食品としては、それ自体がうま味を有するものであれば何でもよく、例えば、和風だしの素、コンソメスープの素、中華スープの素、即席味噌汁、カレールウ、シチュールウ、ハヤシライスのルウ、ハッシュドビーフのルウ、ソース、調味ソース、粉末調味料、液体調味料、ドレッシング、揚げ粉、パスタソース、グラタンソース、炊き込みご飯の素(パエリア、ビリヤニ、ピラフ等)、炒飯の素、麻婆豆腐の素、鍋の素等の調味料類、カップラーメン、カップ焼きそば、袋麺等の即席麺類、カップごはん等の即席米飯類、レトルト食品、冷凍食品(炒飯、ピラフ、餃子、焼売、から揚げ、ハンバーグ、フライ、コロッケ、グラタン、ピザ等)、缶詰等の調理食品や加工食品、スナック菓子、米菓等の菓子類等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0020】
本発明のうま味増強剤に用いられる化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明のうま味増強剤の飲食品への好適な添加量は、添加対象の飲食品によって異なるため、目的に応じて調整する。一例として、うま味増強効果が得られ、かつ、有効成分である化合物自体が有する香気が飲食品の本来有する香りに悪影響を与えないよう、有効成分である化合物が飲食品に対し、4-エチルグアイアコールの場合は0.1ppb~100ppb含まれるのが好ましく、1ppb~10ppb含まれるのがより好ましい。なお、本発明においてppt、ppb、ppm及び%とは、特に記載の無い限り質量比のことを示す。
【0022】
4-プロピルグアイアコールの場合は0.1ppb~1000ppb含まれるのが好ましく、1ppb~100ppb含まれるのがより好ましく、10ppb~100ppb含まれるのがさらに好ましい。
【0023】
2-エトキシ-4-ビニルフェノールの場合は0.1ppb~1000ppb含まれるのが好ましく、0.1ppb~10ppb含まれるのがより好ましく、1ppb~10ppb含まれるのがさらに好ましい。
【0024】
γ-ノナラクトンの場合は0.1ppb~10ppb含まれるのが好ましい。
【0025】
バニリンの場合は0.1ppb~100ppb含まれるのが好ましく、1ppb~100ppb含まれるのがより好ましく、1ppb~10ppb含まれるのがさらに好ましい。
【0026】
アセトバニロンの場合は0.1ppb~1000ppb含まれるのが好ましく、10ppb~1000ppb含まれるのがより好ましく、10ppb~100ppb含まれるのがさらに好ましい。
【0027】
本発明のうま味増強剤は、そのまま飲食品に添加して使用してもよいが、使用時の利便性のため適宜溶剤などで希釈されてもよい。希釈に用いる溶剤などは香料組成物に常用されるものであれば特に制限はない。また、あらかじめ香料組成物とすることもでき、香味に悪影響のない範囲であれば、香料以外の成分として常用される他の添加物や添加剤を加えた組成物としてもよい。さらに、本発明においては香料一般に適用される製剤化技術の適用も可能であり、粉末化、カプセル化など、状況により所望の形態に調製することもできる。なお、上記のように調製される香料組成物等の飲食品への添加量は、一般的に最大でも1%程度であることから、うま味増強効果が得られるよう、いずれの形態でも、有効成分である化合物を10ppb以上含有するよう調製するのが好ましい。
【0028】
本発明のうま味増強剤は、飲食品中に均等に混合することができれば、製造工程のどの時点で添加しても構わない。
【実施例0029】
(実施例1)
4-エチルグアイアコールを、市販のかつおだし、コンソメスープ、中華スープ、カレー及びシチューに対して表1に記載の濃度となるようそれぞれ添加し、うま味の増強効果についての官能評価を行った。官能評価は、訓練された社内パネル4名によって、表2に記載の基準(3段階)で行い、結果を表1に併せて示した。官能評価の結果、上記の全ての飲食品についてうま味の増強効果が認められた。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
(実施例2)
4-プロピルグアイアコールを、市販のかつおだし、コンソメスープ、中華スープ、カレー及びシチューに対して表3に記載の濃度となるようそれぞれ添加し、うま味の増強効果についての官能評価を行った。官能評価は、訓練された社内パネル4名によって、表2に記載の基準(3段階)で行い、結果を表3に併せて示した。官能評価の結果、上記の全ての飲食品についてうま味の増強効果が認められた。
【0033】
【表3】
【0034】
(実施例3)
2-エトキシ-4-ビニルフェノールを、市販のかつおだし、コンソメスープ、中華スープ、カレー及びシチューに対して表4に記載の濃度となるようそれぞれ添加し、うま味の増強効果についての官能評価を行った。官能評価は、訓練された社内パネル4名によって、表2に記載の基準(3段階)で行い、結果を表4に併せて示した。官能評価の結果、上記の全ての飲食品についてうま味の増強効果が認められた。
【0035】
【表4】
【0036】
(実施例4)
γ-ノナラクトンを、市販のかつおだし、コンソメスープ、中華スープ、カレー及びシチューに対して表5に記載の濃度となるようそれぞれ添加し、うま味の増強効果についての官能評価を行った。官能評価は、訓練された社内パネル4名によって、表2に記載の基準(3段階)で行い、結果を表5に併せて示した。官能評価の結果、上記の全ての飲食品についてうま味の増強効果が認められた。
【0037】
【表5】
【0038】
(実施例5)
バニリンを、市販のかつおだし、コンソメスープ、中華スープ、カレー及びシチューに対して表6に記載の濃度となるようそれぞれ添加し、うま味の増強効果についての官能評価を行った。官能評価は、訓練された社内パネル4名によって、表2に記載の基準(3段階)で行い、結果を表6に併せて示した。官能評価の結果、上記の全ての飲食品についてうま味の増強効果が認められた。
【0039】
【表6】
【0040】
(実施例6)
アセトバニロンを、市販のかつおだし、コンソメスープ、中華スープ、カレー及びシチューに対して表7に記載の濃度となるようそれぞれ添加し、うま味の増強効果についての官能評価を行った。官能評価は、訓練された社内パネル4名によって、表2に記載の基準(3段階)で行い、結果を表7に併せて示した。官能評価の結果、上記の全ての飲食品についてうま味の増強効果が認められた。
【0041】
【表7】