(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185815
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ティシューペーパー及びティシューペーパーの製造方法
(51)【国際特許分類】
A47K 10/16 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
A47K10/16 C
A47K10/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093671
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祥子
【テーマコード(参考)】
2D135
【Fターム(参考)】
2D135AA07
2D135AB03
2D135AD01
2D135AD07
2D135AD13
2D135BA08
2D135BA10
2D135CA02
2D135DA02
2D135DA06
2D135DA07
2D135DA28
(57)【要約】
【課題】柔らかさに優れたティシューペーパーを提供する。
【解決手段】柔軟剤を含有し、縦方向の乾燥引張強度が200cN/25mm以上400cN/25mm以下であり、比例限度における縦方向の引張応力が160cN以上250cN以下であり、160cNの変位が2.4%以上である、ティシューペーパー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟剤を含有し、
縦方向の乾燥引張強度が200cN/25mm以上400cN/25mm以下であり、
比例限度における縦方向の引張応力が160cN以上250cN以下であり、
150cNの変位が2.4%以上である、
ティシューペーパー。
【請求項2】
前記柔軟剤は、ジエチルエーテルで抽出される油分を前記柔軟剤中に0.1質量%以上0.25質量%以下含む、
請求項1に記載のティシューペーパー。
【請求項3】
150cNの永久変位率が21%以上である、
請求項1または2に記載のティシューペーパー。
【請求項4】
250cNの変位が4.5%以上であり、
250cNの永久変位率が30%以上60%以下である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のティシューペーパー。
【請求項5】
球状圧縮仕事量が300mJ以下である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のティシューペーパー。
【請求項6】
算術平均高さが3μm以上7μm以下である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のティシューペーパー。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のティシューペーパーの製造方法であって、
前記柔軟剤が添加されたパルプスラリーを抄紙して湿紙にする抄紙工程と、
前記湿紙をヤンキードライヤーで乾紙にする乾燥工程と、
前記乾紙をクレーピングドクターで前記ヤンキードライヤーから剥がす剥離工程と、を有し、
前記ヤンキードライヤーの表面に0.5mg/m2以上3.5mg/m2以下の接着剤が塗布されている、
ティシューペーパーの製造方法。
【請求項8】
前記接着剤がポリアミド系樹脂を含有する、
請求項7に記載のティシューペーパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティシューペーパー及びティシューペーパーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ティシューペーパーには、紙を柔らかくするために柔軟剤が含まれている。また、紙が破れないように所定の引張強度を有する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、柔らかいティシューペーパーのニーズが高まっているが、柔軟剤の添加量を増やすと乾燥時ドライヤーに紙が貼り付かず紙にクレープが入りにくくなり却って柔らかくならない。また、引張強度を下げると紙は柔らかくなるが破れやすくなる。そのため、従来のティシューペーパーでは、柔らかさの向上に限界がある。
【0005】
本発明の課題は、柔らかさに優れたティシューペーパーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第1の態様は、柔軟剤を含有し、縦方向の乾燥引張強度が200cN/25mm以上400cN/25mm以下であり、比例限度における縦方向の引張応力が160cN以上250cN以下であり、160cNの変位が2.4%以上である、ティシューペーパーを提供する。
【0007】
本明細書において、柔軟剤は、ティシューペーパーを構成する紙に柔軟性を与える成分を含む。縦方向は、ティシューペーパーの製造時における繊維の流れ方向(またはMD方向)を示す。
【0008】
乾燥引張強度は、ティシューペーパーが乾燥状態で引っ張られたときの強度を示す。比例限度における引張応力は、引張荷重による応力(引張応力)と伸びが比例関係にある領域における、最大の引張応力を示す。150cNは、比例限度内のティシューペーパーの引張強度を示す。150cNの変位は、縦方向に150cNの一定荷重をかけたときのティシューペーパーの変位を示す。
【0009】
第1の態様では、柔軟剤を含有しながら、縦方向の乾燥引張強度を200cN/25mm以上400cN/25mm以下にし、比例限度における縦方向の引張応力を160cN以上250cN以下にし、160cNの変位を2.4%以上にすることで、破れにくく、柔らかさに優れたティシューペーパーが得られる。
【0010】
本発明に係る第2の態様は、前記柔軟剤が、ジエチルエーテルで抽出される油分を前記柔軟剤中に0.1質量%以上0.25質量%以下含む、ティシューペーパーを提供する。第2の態様では、柔軟剤中にジエチルエーテルで抽出される油分が0.1質量%以上0.25質量%以下含まれる柔軟剤を含有することで、ティシューペーパーの柔らかさを向上させることができる。
【0011】
本発明に係る第3の態様は、150cNの永久変位率が21%以上である、ティシューペーパーを提供する。本明細書において、永久変位は、一定荷重をかけた後、無荷重にしたときに、元に戻らない分の伸びを示す。永久変位率は、一定荷重をかけた後、無荷重にしたときに、元に戻らない分の伸びを百分率で示したものである。150cNの永久変位率は、150cNの荷重下における永久変位率を示す。
【0012】
なお、永久変位率は、一定荷重で比較した場合に変位が大きく、無荷重にしたときの永久変位が少ないと、ティシューペーパーの伸びの戻りが多くなり、ティシューペーパーが柔らかいことを示す。第3の態様では、150cNの永久変位率を21%以上にすることで、ティシューペーパーの柔らかさをさらに向上させることができる。
【0013】
本発明に係る第4の態様は、250cNの変位が4.5%以上であり、250cNの永久変位率が30%以上60%以下である、ティシューペーパーを提供する。本明細書において、250cNは、比例限度外のティシューペーパーの引張強度を示す。250cNの変位は、縦方向に250cNの一定荷重をかけたときのティシューペーパーの変位を示す。250cNの永久変位率は、250cNの荷重下における永久変位率を示す。
【0014】
第4の態様では、250cNの変位を4.5%以上にし、250cNの永久変位率を30%以上60%以下にすることで、ティシューペーパーの柔らかさをさらに向上させることができる。
【0015】
本発明に係る第5の態様は、球状圧縮仕事量が300mJ以下である、ティシューペーパーを提供する。本明細書において、球状圧縮仕事量は、ティシューペーパーを同じ条件で略同じ大きさに丸めたものを10個(組)用意し、これらを所定の容器に入れて容積が約200mlになるまで圧縮したときの仕事量を示す。
【0016】
この球状圧縮仕事量は、ティシューペーパーを丸めたときの柔らかさの指標を示す。第5の態様では、球状圧縮仕事量を300mJ以下にすることで、ティシューペーパーの柔らかさをさらに向上させることができる。
【0017】
本発明に係る第6の態様は、算術平均高さが3μm以上7μm以下である、ティシューペーパーを提供する。第6の態様では、算術平均高さを3μm以上7μm以下にすることで、ティシューペーパーの滑らかさを向上させることができる。
【0018】
本発明に係る第7の態様は、上記第1乃至第6の態様のいずれかのティシューペーパーの製造方法であって、前記柔軟剤が添加されたパルプスラリーを抄紙して湿紙にする抄紙工程と、前記湿紙をヤンキードライヤーで乾紙にする乾燥工程と、前記乾紙をクレーピングドクターで前記ヤンキードライヤーから剥がす剥離工程と、を有し、前記ヤンキードライヤーの表面に0.5mg/m2以上3.5mg/m2以下の接着剤が塗布されている、ティシューペーパーの製造方法を提供する。
【0019】
第7の態様では、ヤンキードライヤーの表面に0.5mg/m2以上3.5mg/m2以下の接着剤が塗布されていることで、ヤンキードライヤーの表面に厚い皮膜を形成することができる。この厚い皮膜により、剥離工程の際にヤンキードライヤーと乾紙の間にクレーピングドクターの先端が入り込み、乾紙の表面を皮膜で保護しながら乾紙が剥ぎ取られる。これにより、均一で細かいクレープが形成されたティシューペーパーが得られる。
【0020】
また、第7の態様では、ヤンキードライヤーの表面に形成された厚い皮膜により、剥離工程の際にクレーピングドクターの先端がヤンキードライヤーの表面に接触するのを避けることができる。そのため、第7の態様では、この厚い皮膜によりヤンキードライヤーの表面を保護することができる。
【0021】
また、第7の態様では、ヤンキードライヤーの表面と乾紙の間に形成された厚い皮膜により、上述のように皮膜を介して乾紙にクレープが形成され、またクレーピングドクターの先端がヤンキードライヤーの表面に接触しにくいことで、剥離工程の際にヤンキードライヤー自体も保護することができる。
【0022】
本発明に係る第8の態様は、前記接着剤が熱硬化性ポリアミド系樹脂を含有する、ティシューペーパーの製造方法を提供する。ヤンキードライヤーの表面に塗布される接着剤が熱硬化性ポリアミド系樹脂を含有することで、ヤンキードライヤーの表面に厚い皮膜が形成される際に、ヤンキードライヤーの近傍では強い加熱により皮膜の一部が硬くなり、ヤンキードライヤーから離れた乾紙側では弱い加熱により皮膜の一部が柔らかくなる。
【0023】
これにより、第8の態様では、ヤンキードライヤーの表面に形成された柔らかい皮膜により、乾紙が接着されやすくなり、乾燥工程の際に乾紙のピックアップ(ヤンキードライヤーに対する湿紙の接着)が容易になる。また、ヤンキードライヤーの表面に形成された硬い皮膜により、ヤンキードライヤーの表面の保護を強化することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、柔らかさに優れたティシューペーパーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係るティシューペーパーの表面を画像解析により測定した画像を示す図である。
【
図2】算術平均高さを説明するためのイメージ図である。
【
図3】従来のティシューペーパーの表面を画像解析により測定した画像を示す図である。
【
図4】従来のティシューペーパーの表面を画像解析により測定した画像を示す図である。
【
図5】引張荷重によるティシューペーパーの変位と応力の関係を示すグラフである。
【
図6】150cNの引張荷重における永久変位を示すグラフである。
【
図7】球状圧縮試験で使用されるティシューペーパーの試験体を保持容器に収容した状態を示す写真である。
【
図8】球状圧縮試験で使用されるティシューペーパーの試験体10個を試験容器に収容した状態を示す図である。
【
図10】
図8の試験容器の内部を天面側から見て、(A)は下段のみに配置された試験体を示し、(B)は下段、及び中段に配置された試験体を示し、(C)は下段、中段、及び上段に配置された試験体を示す図である。
【
図11】試験体を収容した試験容器を圧縮試験機にセットした状態(加圧開始前)を示す図である。
【
図12】球状圧縮試験で使用されるティシューペーパーの試験体(左から10cc、20cc、35cc、50cc)を示す写真である。
【
図13】
図12において圧縮試験機による加圧開始時の状態を示す写真である。
【
図14】
図12において圧縮試験機による加圧時の状態を示す写真である。
【
図15】球状圧縮試験における圧力と加圧容量(押し込み量)との関係を示すグラフである。
【
図16】本発明の実施形態に係るティシューペーパーの製造方法を実行するフローチャートである。
【
図17】本発明の実施形態に係るティシューペーパーを製造する装置の模式図である。
【
図19】従来のティシューペーパーの製造工程の一部を示す図である。
【
図20】従来のティシューペーパーの製造工程の一部を示す図である。
【
図21】従来のティシューペーパーの製造工程の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する場合がある。また、各図において、各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。
【0027】
<ティシューペーパー>
本実施形態に係るティシューペーパーについて説明する。
図1は、本実施形態のティシューペーパーの表面を画像解析により測定した画像を示す図である。本実施形態において、ティシューペーパーの材質は紙である。紙のパルプ組成は、紙における公知の組成を用いることができる。例えば、パルプの配合割合を、50質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%とすることができる。
【0028】
また、紙の坪量(米坪ともいう)は、特に限定されず、ティシューペーパーのプライ数に応じて、例えば、5g/m2以上80g/m2以下であり、好ましくは7g/m2以上50g/m2以下、より好ましくは9g/m2以上20g/m2以下である。なお、坪量は、JIS P 8124(2011)の規定に準拠して測定することができる。
【0029】
また、紙の厚み(以下、紙厚という)は、特に限定されず、2プライあたり、50μm以上500μm以下であり、好ましくは60μm以上330μm以下、より好ましくは100μm以上200μm以下である。なお、紙厚は、JIS P 8111(1998)の規定に準拠して測定することができる。
【0030】
ティシューペーパーの態様は、特に限定されないが、汎用のティシューペーパー(保湿成分を含まないティシューペーパーまたは非保湿ティシューペーパー)であることが好ましい。また、ティシューペーパーの用途は、産業用、家庭用、携帯用のいずれにも適用できるが、これらの中でも家庭用のティシューペーパーに好ましく用いられる。
【0031】
本実施形態のティシューペーパーは、柔軟剤を含有する。本明細書において、柔軟剤は、ティシューペーパーを構成する紙に柔軟性を与える成分を含む。具体的には、柔軟剤が、パルプ繊維間を広げる機能を有し、パルプ繊維の間に空気層を形成し、パルプ繊維間にも入り込むことで、パルプ繊維を可疎化して、紙を柔らかくすることができる。また、パルプ表面に柔軟剤が付くことで、肌との摩擦を低下させ、紙に滑らかさを与えることができる。
【0032】
柔軟剤に含まれる成分は、特に限定されない。柔軟剤に含まれる成分としては、例えば、脂肪酸エステル系化合物、脂肪酸アミド系化合物等が挙げられる。脂肪酸エステル系化合物および脂肪酸アミド系化合物を用いる場合は、いずれか一方を用いてもよいし、両方を併用してもよい。なお、該両方を用いる場合は、柔軟剤中の脂肪酸エステル系化合物と脂肪酸アミド系化合物との配合割合は任意であるが、脂肪酸エステル系化合物と脂肪酸アミド系化合物との含有割合は1:1~1:5であることが好ましい。
【0033】
柔軟剤に含まれる肪酸エステル系化合物としては、炭素数が6~24のアルコールと炭素数7~25の脂肪酸との化合物であるのが好ましい。アルコールは、直鎖アルコール、分岐鎖を有するアルコール、飽和アルコール、及び不飽和アルコールの何れでも良い。特に、炭素数が10~22のアルコールが好ましく、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びオレイルアルコールが好ましい。
【0034】
また、炭素数7~25の脂肪酸としては、直鎖脂肪酸、分岐鎖を有する脂肪酸、飽和脂肪酸、及び不飽和脂肪酸の何れでも良い。中でも、炭素数が10~22の脂肪酸が好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、及びオレイン酸が好ましい。これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0035】
柔軟剤に含まれる脂肪酸アミド系化合物は、ポリアルキレンポリアミンおよびカルボン酸を反応させて得ることができる。好適なポリアルキレンポリアミンは、分子中に少なくとも3個のアミノ基を有する、下記一般式(1)で示されるものである。
【0036】
【0037】
式(1)中、R1は各々独立して炭素数1~4のアルキレン基であり、nは1~3の整数である。このポリアクリルアミンにおいては、分子中に異なるR1が存在していてもよい。また、2種以上のポリアルキレンポリアミンを用いることも可能である。好ましいR1はエチレン基である。
【0038】
一方、カルボン酸としては、炭素数10~24のカルボン酸が望ましく、飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のいずれであってもよい。また、直鎖状カルボン酸、分岐鎖を有するカルボン酸のいずれであってもよい。中でも炭素数12~22のカルボン酸が好ましく、特に炭素数14~18のカルボン酸が好ましい。
【0039】
本実施形態のティシューペーパーでは、柔軟剤が、ジエチルエーテルで抽出される油分(以下、抽出油分という場合がある)を柔軟剤中に0.1質量%以上0.25質量%以下含まれていることが好ましく、より好ましくは0.12質量%以上0.22質量%以下含まれている。ここで、ジエチルエーテルは、低極性物質である油脂を効率的に抽出する。
【0040】
このような油分(油性成分)は、ティシューペーパーの主原料であるパルプには通常を含まれておらず、柔軟剤に含まれる。この油分0.1質量%以上0.25質量%以下という範囲は、ティシューペーパーの坪量に関わらず、従来のティシューにおいては見られない高い含有量である。
【0041】
本実施形態のティシューペーパーは、縦方向の乾燥引張強度が200cN/25mm以上400cN/25mm以下であり、好ましくは210cN/25mm以上350cN/25mm以下、より好ましくは220cN/25mm以上300cN/25mm以下に調整さる。
【0042】
ここで、縦方向は、ティシューペーパーの製造時における繊維の流れ方向(またはMD方向)を示す。縦方向の乾燥引張強度は、ティシューペーパーが乾燥状態でMD比方向に引っ張られたときの強度を示す。
【0043】
また、本実施形態のティシューペーパーにおいて、横方向の乾燥引張強度は任意であり、例えば50cN/25mm以上200cN/25mm以下、好ましくは60cN/25mm以上170cN/25mm以下、より好ましくは60cN/25mm以上140cN/25mm以下に調整される。
【0044】
ここで、横方向は、ティシューペーパーの製造時における繊維の流れ方向と直交する方向(またはCD方向)を示す。横方向の乾燥引張強度は、乾燥状態でティシューペーパーがCD方向に引っ張られたとき強度を示す。
【0045】
本実施形態のティシューペーパーにおいて、縦方向の伸び率は、任意であり、例えば、5%以上20%以下、好ましくは8%以上18%以下、より好ましくは10%以上15%以下に調整される。ここで、縦方向の伸び率は、製造時のティシューペーパーの流れ方向に乾燥状態でティシューペーパーが引っ張られて破断したときの長さを百分率で示したものである。
【0046】
本実施形態のティシューペーパーは、比例限度における縦方向の引張応力が160cN以上250cN以下であり、好ましくは160cN以上240cN以下、さらに好ましくは160cN以上230cN以下に調整される。ここで、比例限度における引張応力は、引張荷重による応力(引張応力)と伸びが比例関係にある領域における、最大の引張応力を示す。
【0047】
比例限度における引張応力は、例えば、
図5に示すグラフにおいて、引張荷重によるティシューペーパーの変位と応力とが比例関係を示す比例線PLからずれる位置(B点)の引張応力である。なお、
図5において、Aは引張荷重の開始時(変位原点又は0点)を示し、Bは比例限度を示し、Cは破断時を示す。
【0048】
本実施形態のティシューペーパーは、比例限度の変位率が40%以上であることが好ましく、より好ましくは42%以上、さらに好ましくは45%以上に調整される。なお、比例限度の変位率の上限は、特に限定されず、例えば、70%以下に調整することができる。
【0049】
ここで、比例限度の変位率は、引張荷重をかけたティシューペーパーが、比例限度における引張応力がかかった際の変位を、比例限度における引張応力がかかってから破断するまでの変位で除した百分率で示したものであり、下記式(2)で計算される。
【0050】
【0051】
なお、ティシューペーパーにはクレープが形成されているが、比例限度まではこのクレープが伸ばされるため、ティシューペーパーの伸び縮みは大きい。一方、比例限度以降は徐々にパルプ繊維の絡みが伸ばされ、ティシューペーパーの伸び縮みは小さくなり、ティシューペーパーが破断する傾向がある。
【0052】
このような観点から、比例限度の変位率が高いことは、引張荷重によりティシューペーパーが破断するまでの変位が大きく、ティシューペーパーの伸び縮みが大きいことを示す。なお、ティシューペーパーの伸び縮みが大きいことは、クレープが多く形成されていることを示し、しかも細かく均一にクレープが形成され、表面性が向上していることを示す。
【0053】
本実施形態のティシューペーパーは、150cNの変位が2.4%以上であることが好ましく、より好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは2.6%以上に調整される。また、250cNの変位が4.5%以上であることが好ましく、より好ましくは4.6%以上、さらに好ましくは4.7%以上に調整される。ここで、変位は、一定荷重をかけたときのティシューペーパーの変位を示す。
【0054】
ここで、永久変位は、一定荷重をかけた後、無荷重にしたときに、元に戻らない分の伸びを示す。150cNの永久変位は、150cNの荷重下における永久変位を示す。250cNの永久変位は、250cNの荷重下における永久変位を示す。
【0055】
永久変位は、例えば、
図6に示すグラフにおいて、150cNの荷重をかけた後、無荷重にしたときに、元に戻らない分の変位を示す。なお、
図6において、Dは引張荷重の開始時を示し、Eは150cNの荷重時を示し、FのY軸は永久変位を示す。
【0056】
本実施形態のティシューペーパーは、150cNの永久変位率が21%以上であることが好ましく、より好ましくは23%以上である。また、250cNの永久変位率が30%以上であることが好ましく、より好ましくは35%以上である。
【0057】
ここで、永久変位率は、一定荷重をかけた後、無荷重にしたときに、元に戻らない分の伸びを百分率で示したものである。150cNの永久変位率は、150cNの荷重下における永久変位率を示す。250cNの永久変位率は、150cNの荷重下における永久変位率を示す。
【0058】
なお、永久変位率(一定荷重で比較した場合に変位が大きく、無荷重にしたときの永久変位)が少ないと、ティシューペーパーの伸びの戻りが多くなり、ティシューペーパーが柔らかいことを示す。
【0059】
本実施形態のティシューペーパーは、球状圧縮仕事量が300mJ以下であることが好ましく、より好ましくは290mJ以下、さらに好ましくは260mJ以下に調整される。ここで、球状圧縮仕事量は、ティシューペーパーを同じ条件で略同じ大きさに丸めたものを10個(組)用意し、これらを所定の容器に入れて容積が約200mlになるまで圧縮したときの仕事量を示す。
【0060】
この球状圧縮仕事量は、ティシューペーパーを丸めたときの柔らかさの指標を示す。具体的には、球状圧縮仕事量は、
図7~
図14に示す球状圧縮試験により測定することができる。
【0061】
まず、JIS P 8111(1998)の環境下における標準状態で調湿したティシューペーパー1組を、軽く潰さないよう両手の手のひらで丸め、40ccのプラスチック容器内に入れて10分間保持して、ティシューペーパーの試験体(ティシューペーパーの玉または球状ティシューペーパー)を作製する(
図7)。本実施形態では、このような試験体を10個用意する。
【0062】
次いで、500mLのガラス製ビーカーに、上記10個の試験体をビーカー内で偏らないように10個入れた(
図8)。具体的には、
図9、
図10に示すように、下段1に3個、中段2に3個、上段3に4個の試験体(球状のティシューペーパー)を潰さないように均等に入れる。
【0063】
ビーカー内に収容した10個のティシューペーパーの上に、円盤状のアクリル板(直径82mm、中心部に直径20mmの貫通孔、重量59.5g、面積49.67cm3)を静かに載せる。
【0064】
アクリル板を載せて3分以内に、球状圧縮試験を開始する。具体的には、
図11に示すように、試験体を収容したビーカーの右横側にタイマーを置き、プッシュプルゲージ(IMADA社製、商品名「デジタルフォースゲージ Z2-20N」)を0.525cm/秒の速さで降下させる。プッシュプルゲージの先端部の位置は、ビーカーを載せた台から約13.4cmである。終点の200mLは、ビーカーを載せた台から5.0cmである。
【0065】
なお、予め、男女10名により、ティシューペーパーを丸めたときの柔らかさを評価した(
図12)。そのとき、握り締めたときの球状ティシューペーパーの大きさは10名中の8名が20ccを選出した。したがって、10玉で200mLを終点とした。
【0066】
球状圧縮試験では、
図13に示すように、プッシュプルゲージがアクリル円板に接触し加圧し始めたときを「初期容量」とした。本実施形態では、タイマー表示が10.56秒のとき、荷重開始(0.00cN)とした。初期容量は514.80ccとなった。そして、
図14に示すように、200mLに達したとき、時間は21.38秒、プッシュプルゲージの荷重は-12.37Nであった。
【0067】
次に、球状圧縮仕事量を求める。タイマー時間が0.4秒毎に押し込み量が約0.20cm毎にプッシュプルゲージの先端が下降する。押し込み量をLk(cm)とし、押し込み荷重Fk(kgf)とする。Fkはアクリル円板の重さ59.5gとプッシュプルゲージに表示された(N)荷重を加えて計算する。球状圧縮仕事量W(mJ)は、下記式(3)により算出される。
【0068】
【0069】
式(3)より、k=1のとき、L
k-L
k-1=0.215cm、1/2×(F
1+F
2)=0.065kgf、仕事量W1=1mJとなる。同様に、k=2のとき、W2=2mJとなる。初期容量から200mLに達するまでの仕事量の合計(球状圧縮仕事量)は、仕事量W=260mJとなる。仕事量Wは、
図15に示すグラフにおいて、曲線の下部の面積に相当する。
【0070】
本実施形態のティシューペーパーは、算術平均高さが3μm以上7μm以下であることが好ましく、より好ましくは4μm以上6.5μm以下、さらに好ましくは5μm以上6μm以下である。ここで、算術平均高さは、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を示す(
図2参照)。
【0071】
なお、従来のティシューペーパーでは、
図3に示すように、クレープが形成されない部分があり、ティシューペーパーの表面が平坦で凹凸が小さかったり、また、
図4に示すように、クレープが大きく、不均一であったりする。そのため、従来のティシューペーパーは、伸びが小さく、硬く感じる傾向があり、柔らかさ、滑らかさの向上に限界がある。
【0072】
これに対して、本実施形態のティシューペーパーでは、
図1に示すように、均一で細かいクレープが形成されており、伸びが大きく、柔らかく感じる。このような効果を得るために、本実施形態では、上述のように、柔軟剤を含有しながら、縦方向の乾燥引張強度を200cN/25mm以上400cN/25mm以下にし、比例限度における縦方向の引張応力を160cN以上250cN以下にし、160cNの変位を2.4%以上にする。これにより、本実施形態では、破れにくく、柔らかさに優れたティシューペーパーが得られる。
【0073】
本実施形態のティシューペーパーでは、上述のように、ジエチルエーテルで抽出される油分(柔軟剤)が0.1質量%以上0.25質量%以下含まれることで、ティシューペーパーの柔らかさを向上させることができる。
【0074】
本実施形態のティシューペーパーでは、上述のように、150cNの永久変位率を21%以上にすることで、ティシューペーパーの柔らかさをさらに向上させることができる。
【0075】
本実施形態のティシューペーパーでは、上述のように、250cNの変位を4.5%以上にし、250cNの永久変位率を30%以上60%以下にすることで、ティシューペーパーの柔らかさをさらに向上させることができる。
【0076】
本実施形態のティシューペーパーでは、上述のように、球状圧縮仕事量を300mJ以下にすることで、ティシューペーパーの柔らかさをさらに向上させることができる。
【0077】
本実施形態のティシューペーパーでは、上述のように、算術平均高さを3μm以上7μm以下にすることで、ティシューペーパーの滑らかさを向上させることができる。
【0078】
<ティシューペーパーの製造方法>
本実施形態に係るティシューペーパーの製造方法について説明する。
図16は、本実施形態に係るティシューペーパーの製造方法を実行するフローチャートである。
図17は、本実施形態に係るティシューペーパーを製造する装置の模式図であり、
図18は、
図17の一部を拡大した図である。なお、各図において共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0079】
本実施形態に係るティシューペーパーの製造方法は、上述のティシューペーパーの製造方法であり、抄紙工程S1、乾燥工程S2、及び剥離工程S3を有する(
図16)。なお、本実施形態に係るティシューペーパーの製造方法は、本発明に係るティシューペーパーの製造方法の一例である。
【0080】
本実施形態に係るティシューペーパーの製造方法は、例えば、
図17に示すティシューペーパーを製造する装置100によって実現することができる。
図17に示す装置100は、サクションシリンダー10、パルプスラリー供給部20、毛布30、ロール40、ヤンキードライヤー50、熱風フード60、接着剤供給部70、クレーピングドクター80、クリーニングドクター90を備える。ここでは、
図17に示す装置100を用いて、
図16に示すティシューペーパーの製造方法を具体的に説明する。
【0081】
抄紙工程S1では、上述の柔軟剤が添加されたパルプスラリーPSを抄紙して湿紙P1にする。具体的には、回転するサクションシリンダー10の表面に、パルプスラリー供給部20からパルプスラリーPSを供給する。また、ロール40(搬送ロール42)に沿って長尺の毛布30が搬送される。毛布30の搬送速度は、任意であり、例えば、900~1300m/分である。
【0082】
供給されたパルプスラリーPSは、毛布30がサクションシリンダー10とクーチロール41との間を通過する際に、該毛布30に転写される。毛布30に転写されたパルプスラリーPSは、タッチロール43まで搬送される間に脱水され、湿紙P1となる。
【0083】
乾燥工程S2では、湿紙P1をヤンキードライヤー50で乾燥して乾紙P2にする。湿紙P1は、相互に回転するタッチロール43とヤンキードライヤー50の入側51の表面との間を通過する際に、毛布30から分離され、ヤンキードライヤー50の表面に接着される。
【0084】
なお、湿紙P1が分離された毛布30は、ヒッチロール44に搬送された後、さらにタッチロール45に搬送され、タッチロール45とヤンキードライヤー50の表面との間を再び通過する。このとき、毛布30に残存した湿紙P1の一部がヤンキードライヤー50の表面に接着される。
【0085】
なお、毛布30は、湿紙P1が分離された後、ストレッチロール46に搬送され、引き延ばされた状態でさらにスクイズロール47に搬送され、該スクイズロール47を通過することにより圧搾される。圧搾された毛布30は、サクションシリンダー10とクーチロール41の間に搬送されて、再びパルプスラリーPSが転写され、抄紙工程S1が繰り返される。
【0086】
乾燥工程S2では、湿紙P1がタッチロール43とヤンキードライヤー50の入側51の表面との間を通過する前に、ヤンキードライヤー50の表面に接着剤が塗布される。具体的には、ヤンキードライヤー50の入側51とクリーニングドクター90の間に接着剤供給部70が設けられており、この接着剤供給部70から接着剤がヤンキードライヤー50の表面に噴射される。これにより、接着剤がヤンキードライヤー50の表面に塗布され、ヤンキードライヤー50の表面に接着剤の膜(皮膜F)が形成される。
【0087】
また、接着剤の成分は、特に限定されないが、好ましくは熱硬化性ポリアミド系樹脂を含有する。熱硬化性ポリアミド系樹脂は、ヤンキードライヤー50の表面で加熱される。このとき、ヤンキードライヤー50の表面に塗布された熱硬化性ポリアミド系樹脂は、ヤンキードライヤー50の近傍では強い加熱により形成される皮膜の一部F1が硬くなり、ヤンキードライヤー50から離れた乾紙側では弱い加熱により形成される皮膜の一部F2が柔らかくなる(
図18)。
【0088】
熱硬化性ポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン等が挙げられる。なお、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリンは、エピクロロヒドリンによる変性を制御することで、樹脂の分子量、架橋密度、カチオン性を制御することが可能であり、さらに樹脂中に形成されるアゼチジニウム環(AZR)の量を制御することで熱硬化性を調整することができる。また、熱硬化性ポリアミド系樹脂の熱硬化性を調整することで、接着剤によるコーティング層を厚くすることができる。
【0089】
ヤンキードライヤー50の表面に塗布される接着剤の量は、ヤンキードライヤー50の表面に対して0.5mg/m2以上3.5mg/m2以下であり、好ましくは0.8mg/m2以上3.3mg/m2以下、より好ましくは1mg/m2以上3mg/m2以下である。
【0090】
本実施形態では、接着剤の塗布量は、得られるティシューペーパーP3の質量(t)に対して1~4kg/tに調整されている。このときヤンキードライヤー50の表面に形成される皮膜Fの膜厚は1~3.5μmと推定される。この皮膜Fの膜厚は、従来のヤンキードライヤー50の表面に形成される皮膜の膜厚の約5倍である(
図18~
図21参照)。
【0091】
乾燥工程S2では、湿紙P1が、反時計回り(RD方向)に回転するヤンキードライヤー50の表面に接着された状態で熱風フード60内を通過し、ヤンキードライヤー50の出側52に搬送されるまでに乾紙P2となる。
【0092】
剥離工程S3では、ヤンキードライヤー50の出側52に搬送され乾紙P2が、クレーピングドクター80でヤンキードライヤー50から剥がされる。具体的には、クレーピングドクター80の先端を、ヤンキードライヤー50と乾紙P2の間に設置し、クレープを形成しながら乾紙P2がヤンキードライヤー50から分離する。
【0093】
ヤンキードライヤー50から分離した乾紙P2は、ティシューペーパーP3となる。ティシューペーパーP3のクレープ率は、任意であるが、好ましくは10~20%である。
【0094】
なお、乾紙P2が分離したヤンキードライヤー50は、クリーニングドクター90に搬送され、クリーニングされる。具体的には、ヤンキードライヤー50の表面に残った皮膜Fのうち柔らかい皮膜F2が、クリーニングドクター90の先端で削り取られ、ヤンキードライヤー50の表面には硬い皮膜F1だけが残る。
【0095】
クリーニングされたヤンキードライヤー50は、ヤンキードライヤー50の入側51に搬送される途中で、ヤンキードライヤー50の表面に再び接着剤が塗布され、皮膜Fが形成される。そして、表面に皮膜Fが形成されたヤンキードライヤー50は入側51に搬送され、再びヤンキードライヤー50の表面に湿紙P1が接着され、乾燥工程S2が繰り返される。
【0096】
なお、従来のティシューペーパーの製造方法では、ヤンキードライヤー50に薄くて柔らかい皮膜F3が形成される場合がある(
図19)。この製造方法では、ヤンキードライヤー50の表面に形成される皮膜F3が薄いため、乾紙P2にクレーピングドクター80の先端が当たり、表面の紙質が悪化する。また、皮膜F3が柔らかいため、ヤンキードライヤー50の表面から剥がれやすく、ヤンキードライヤー50に対する湿紙P1または乾紙P2の接着が不十分となる。
【0097】
また、従来のティシューペーパーの製造方法では、ヤンキードライヤー50に薄くて硬い皮膜F4が形成される場合がある(
図20)。この製造方法では、薄くて硬い皮膜F4と乾紙P2との間で乾紙P2が剥ぎ取られるため、クレープが大きくなり、表面性が悪く、紙質が硬くなる。
【0098】
さらに、従来のティシューペーパーの製造方法では、ヤンキードライヤー50に硬い皮膜F5と剥離層F6が形成される場合がある(
図21)。この製造方法では、剥離層F6によりヤンキードライヤー50からの乾紙P2の剥ぎ取りは容易になり、クレープが小さくなることで、表面性は良好になるが、紙質が硬くなる。
【0099】
これに対して、本実施形態の製造方法では、上述のように、ヤンキードライヤー50の表面に0.5mg/m
2以上3.5mg/m
2以下の接着剤が塗布されていることで、ヤンキードライヤー50の表面に厚い皮膜Fを形成することができる(
図17、
図18)。この厚い皮膜Fにより、剥離工程S3の際にヤンキードライヤー50と乾紙P2の間にクレーピングドクター80の先端が入り込み、乾紙P2の表面を皮膜Fで保護しながら乾紙P2が剥ぎ取られる。これにより、均一で細かいクレープが形成されたティシューペーパーが得られる。
【0100】
また、本実施形態の製造方法では、ヤンキードライヤー50の表面に形成された厚い皮膜Fにより、剥離工程S3の際にヤンキードライヤー50の先端がヤンキードライヤー50の表面に接触または当接するのを避けることができる。そのため、本実施形態の製造方法では、この厚い皮膜Fによりヤンキードライヤー50の表面を保護することができる。
【0101】
また、本実施形態の製造方法では、ヤンキードライヤー50の表面と乾紙P2の間に形成された厚い皮膜Fにより、上述のように皮膜Fを介して乾紙P2にクレープが形成されることで、またヤンキードライヤー50の先端がヤンキードライヤー50の表面に接触しにくいため、剥離工程S3の際にヤンキードライヤー50自体も保護することができる。
【0102】
本実施形態の製造方法では、ヤンキードライヤー50の表面に塗布される接着剤が熱硬化性ポリアミド系樹脂を含有することで、ヤンキードライヤー50の表面に厚い皮膜Fが形成される際に、ヤンキードライヤー50の近傍では強い加熱によって皮膜Fの一部F1が硬くなり、ヤンキードライヤー50から離れた乾紙P2側では弱い加熱によって皮膜Fの一部F2が柔らかくなる。
【0103】
これにより、本実施形態の製造方法では、ヤンキードライヤー50の表面に形成された柔らかい皮膜F2により、乾紙P2が接着されやすくなり、乾燥工程S2の際に乾紙P2のピックアップ(ヤンキードライヤー50に対する湿紙P1の接着)が容易になる。また、ヤンキードライヤー50の表面に形成された硬い皮膜F1により、ヤンキードライヤー50の表面の保護を強化することができる。
【実施例0104】
以下、本発明について、さらに実施例を用いて具体的に説明する。実施例、比較例の評価は、以下の試験により行った。
【0105】
[ティシューペーパー(試験体)]
図16の製造方法(
図17の装置100)により、ティシューペーパーを製造し、これを試験体とした。
【0106】
[表面粗さ(算術平均高さ)]
株式会社キーエンス社製のワンショット3D測定マクロスコープ VR-3200と、画像解析ソフトウェア「VR-H2A」により表面粗さを測定した。測定は、倍率12倍、視野面積30mm×30mmの条件で行った。得られた表面粗さから、算術平均高さを算出した。算術平均高さは、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均として得た。
【0107】
[坪量(米坪)]
ティシューペーパーの坪量(米坪)は、JIS P 8124の規定に準拠して測定した。坪量の単位は、g/m2である。
【0108】
[厚み(紙厚)]
ティシューペーパーの厚みは、JIS P 8111(1998)の規定に準拠して測定した。厚みの単位は、μmである。
【0109】
[乾燥引張強度]
乾燥引張強度は、JIS P 8113(1998)の規定に準拠して測定した。試験片は縦方向、横方向ともに幅25mm(±0.5mm)×長さ150mm程度に裁断したものを用いた。試験機は、引張圧縮試験機(ミネベア株式会社製、TG-200N)を用いた。測定は、つかみ間隔を100mmに設定して、試験片の両端を試験機のつかみに締め付け、ティシューペーパーの紙片を上下方向に引張り荷重をかけ、ティシューペーパーが破断したときの指示値(デジタル値)を読み取る手順で行った。引張速度は100mm/minとした。縦方向、横方向ともに各々5組の試料を用意して各5回ずつ測定し、その測定値の平均を各方向の乾燥引張強度とした。また、縦横比は、横方向に対する縦方向の引張強度の比として算出した。
【0110】
[伸び率]
引張圧縮試験機(ミネベア株式会社製、TG-200N)を用いて縦方向の伸び率を測定した。伸び率は、引張荷重がかけられたときにティシューペーパーが破断するまで伸びた分の長さを百分率で示す。
【0111】
[比例限度]
引張圧縮試験機(ミネベアミツミ株式会社製、テクノグラスTGEシリーズ)を用い、25mm幅(ティシューペーパーの横方向)、長さ140mm(ティシューペーパーの縦方向)のティシューペーパーをチャック間100mmにセットして、100mm/分の速度でティシューペーパーが破断するまで引張る。このとき、ティシューペーパーを縦方向に5mm程度たるませて引張荷重試験を開始し、応力がかかり始める点を変位原点とする。比例限度における引張応力は、引張応力と伸びが比例関係にある領域における最大の引張応力とする。比例限度変位率は、上述の式(2)により、比例限度の変位と破断時の変位から求める。
【0112】
[永久変位]
引張圧縮試験機(ミネベアミツミ株式会社製、テクノグラスTGEシリーズ)を用い、25mm幅のティシューペーパーをチャック間100mmにセットして、100mm/分の速度で150cNおよび250cNまで引張る。その後無負荷にして、20mm/分の速度でティシューペーパーの伸びが戻りきるところまでティシューペーパーの変位を測定し、ティシューペーパーの伸びが戻りきったところで試験を終了する。なお、非保湿ティシューは、引張強度縦が250~450cN程度であり、150cNは比例限度内、250cNは比例限度以降であることから、これら2つの負荷量のデータを測定した。
【0113】
[球状圧縮試験]
JIS P 8111(1998)の環境下における標準状態で調湿したティシューペーパー1組を、軽く潰さないよう両手の手のひらで丸め、40ccのプラスチック容器内に入れて10分間保持して、ティシューペーパーの試験体(ティシューペーパーの玉または球状ティシューペーパー)を10個作製する(
図7)。作製した10個の試験体を500mLのガラス製ビーカーに入れる。このとき、試験体はビーカー内で潰れないように、下段に3個、中段に3個、上段3に4個配置する(
図9、
図10)。ビーカー内に収容した10個のティシューペーパーの上に、円盤状のアクリル板(直径82mm、中心部に直径20mmの貫通孔、重量59.5g、面積49.67cm
3)を静かに載せる。アクリル板を載せて3分以内に、球状圧縮試験を開始する。球状圧縮試験では、試験体を収容したビーカーの右横側にタイマーを置き、プッシュプルゲージ(IMADA社製、商品名「デジタルフォースゲージ Z2-20N」)を0.525cm/秒の速さで降下させる(
図11)。プッシュプルゲージの先端部の位置は、ビーカーを載せた台から約13.4cmである。終点の200mLは、ビーカーを載せた台から5.0cmである。なお、予め、男女10名により、ティシューペーパーを丸めたときの柔らかさを評価した(
図12)。そのとき、握り締めたときの球状ティシューペーパーの大きさは10名中の8名が20ccを選出した。したがって、10玉で200mLを終点とした。次いで、プッシュプルゲージがアクリル円板に接触させ、加圧し始めたときを「初期容量」とした。本実施形態では、タイマー表示が10.56秒のとき、荷重開始(0.00cN)とした。初期容量は514.80ccとなった(
図13)。そして、
図14に示すように、200mLに達したとき、時間は21.38秒、プッシュプルゲージの荷重は-12.37Nであった(
図14)。次いで、球状圧縮仕事量を求める。タイマー時間が0.4秒毎に押し込み量が約0.20cm毎にプッシュプルゲージの先端が下降する。押し込み量をL
k(cm)とし、押し込み荷重Fk(kgf)とする。Fkはアクリル円板の重さ59.5gとプッシュプルゲージに表示された(N)荷重を加えて計算する。球状圧縮仕事量W(mJ)を、下記式(3)により算出した。式(3)より、k=1のとき、L
k-L
k-1=0.215cm、1/2×(F1+F2)=0.065kgf、仕事量W1=1mJとなる。同様に、k=2のとき、W2=2mJとなる。初期容量から200mLに達するまでの仕事量の合計は、仕事量W=260mJとなる。仕事量Wは、曲線の下部の面積に相当する(
図15)。
【0114】
[抽出油分]
試験体をジエチルエーテルに浸し、抽出される油分(抽出油分)の量をティシューペーパーの重量に対する割合で算出した。
【0115】
[官能試験]
柔らかさ、しっとり感、滑らかさ、厚み感の、およびこれらの総合評価を行った。総合評価は、柔らかさ、しっとり感、滑らかさ、厚み感の平均値を算出し、平均値が4.5以上の場合は良好と評価した。
【0116】
以下、実施例及び比較例について、説明する。
【0117】
[実施例1]
算術平均高さ5.5μm、坪量12.1g/m2、紙厚126μm、乾燥引張強度(縦)281cN、乾燥引張強度(横)97cN、伸び率(縦)8.9%、比例限度における縦方向の引張応力205cN、比例限度の変位4.3%、比例限度の変位率48%、150cNの変位3.3%、150cNの永久変位0.9%、150cNの永久変位率26%、250cNの変位4.9%、250cNの永久変位1.8%、250cNの永久変位率37%、球状圧縮試験における初期容量515ml、球状圧縮仕事量260mJ、抽出油分0.13%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0118】
[実施例2]
算術平均高さ3.9μm、坪量12.1g/m2、紙厚123μm、乾燥引張強度(縦)312cN、乾燥引張強度(横)136cN、伸び率(縦)6.6%、比例限度における縦方向の引張応力228cN、比例限度の変位3.2%、比例限度の変位率48%、150cNの変位2.6%、150cNの永久変位0.6%、150cNの永久変位率23%、250cNの変位5.6%、250cNの永久変位2.2%、250cNの永久変位率39%、球状圧縮試験における初期容量566ml、球状圧縮仕事量257mJ、抽出油分0.12%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0119】
[実施例3]
算術平均高さ4.4μm、坪量12g/m2、紙厚130μm、乾燥引張強度(縦)247cN、乾燥引張強度(横)130cN、伸び率(縦)8.4%、比例限度における縦方向の引張応力178cN、比例限度の変位5.2%、比例限度の変位率62%、150cNの変位4.7%、150cNの永久変位1.7%、150cNの永久変位率37%、球状圧縮試験における初期容量500ml、球状圧縮仕事量222mJ、抽出油分0.18%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0120】
[実施例4]
算術平均高さ6.1μm、坪量15g/m2、紙厚170μm、乾燥引張強度(縦)258cN、乾燥引張強度(横)80cN、伸び率(縦)14.9%、比例限度における縦方向の引張応力169cN、比例限度の変位9%、比例限度の変位率60%、150cNの変位7.9%、150cNの永久変位3.3%、150cNの永久変位率42%、250cNの変位13.6%、250cNの永久変位7.9%、250cNの永久変位率58%、球状圧縮試験における初期容量517ml、球状圧縮仕事量257mJ、抽出油分0.22%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0121】
[比較例1]
算術平均高さ3.4μm、坪量12g/m2、紙厚120μm、乾燥引張強度(縦)272cN、乾燥引張強度(横)123cN、伸び率(縦)5.6%、比例限度における縦方向の引張応力170cN、比例限度の変位2.7%、比例限度の変位率48%、150cNの変位2.1%、150cNの永久変位0.4%、150cNの永久変位率20%、250cNの変位3.7%、250cNの永久変位1%、250cNの永久変位率27%、球状圧縮試験における初期容量585ml、球状圧縮仕事量339mJ、抽出油分0.10%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0122】
[比較例2]
算術平均高さ7.2μm、坪量13.4g/m2、紙厚140μm、乾燥引張強度(縦)317cN、乾燥引張強度(横)115cN、伸び率(縦)14.3%、比例限度における縦方向の引張応力155cN、比例限度の変位4%、比例限度の変位率28%、150cNの変位4.2%、150cNの永久変位1.3%、150cNの永久変位率30%、250cNの変位8.1%、250cNの永久変位3.9%、250cNの永久変位率48%、球状圧縮試験における初期容量561ml、球状圧縮仕事量292mJ、抽出油分0.05%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0123】
[比較例3]
算術平均高さ5.7μm、坪量13.1g/m2、紙厚136μm、乾燥引張強度(縦)268cN、乾燥引張強度(横)139cN、伸び率(縦)12.2%、比例限度における縦方向の引張応力167cN、比例限度の変位6.6%、比例限度の変位率55%、150cNの変位6.4%、150cNの永久変位1.6%、150cNの永久変位率26%、250cNの変位10.7%、250cNの永久変位5.6%、250cNの永久変位率53%、球状圧縮試験における初期容量576ml、球状圧縮仕事量306mJ、抽出油分0.12%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0124】
[比較例4]
算術平均高さ4.7μm、坪量10.7g/m2、紙厚115μm、乾燥引張強度(縦)464cN、乾燥引張強度(横)130cN、伸び率(縦)8.8%、比例限度における縦方向の引張応力260cN、比例限度の変位4%、比例限度の変位率46%、150cNの変位2.6%、150cNの永久変位0.7%、150cNの永久変位率26%、250cNの変位3.9%、250cNの永久変位1%、250cNの永久変位率26%、球状圧縮試験における初期容量572ml、球状圧縮仕事量266mJ、抽出油分0%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0125】
[比較例5]
算術平均高さ6.2μm、坪量11.4g/m2、紙厚123μm、乾燥引張強度(縦)520cN、乾燥引張強度(横)130cN、伸び率(縦)11%、比例限度における縦方向の引張応力226cN、比例限度の変位3.7%、比例限度の変位率33%、150cNの変位2.9%、150cNの永久変位1%、150cNの永久変位率35%、250cNの変位4%、250cNの永久変位1.4%、250cNの永久変位率36%、球状圧縮試験における初期容量565ml、球状圧縮仕事量267mJ、抽出油分0%に調整された試験体を評価した。結果を表1に示す。
【0126】
【0127】
表1より、算術平均高さが3.9~6.1μmであり、坪量が12~15g/m2であり、紙厚が123~170μmであり、乾燥引張強度(縦)が247~312cNであり、乾燥引張強度(横)が80~136cNであり、伸び率(縦)が6.6~14.9%であり、比例限度における縦方向の引張応力が169~228cNであり、比例限度の変位が3.2~9%であり、比例限度の変位率48~62%、150cNの変位が2.6~7.9%、150cNの永久変位0.6~3.3%、150cNの永久変位率23~42%、250cNの変位4.9~13.6%、250cNの永久変位1.8~7.9%、250cNの永久変位率37~58%、球状圧縮試験における初期容量500~566ml、球状圧縮仕事量222~260mJ、抽出油分0.12~0.22%に調整されたティシューペーパーは、総合評価が4.5以上であった(実施例1~4)。
【0128】
これに対して、算術平均高さ、乾燥引張強度(縦)、伸び率(縦)、比例限度における縦方向の引張応力、比例限度の変位、比例限度の変位率、150cNの変位、150cNの永久変位、150cNの永久変位率、250cNの変位、250cNの永久変位、250cNの永久変位率、球状圧縮試験における初期容量、球状圧縮仕事量の少なくともいずれかが実施例1~4の範囲から外れるティシューペーパーは、総合評価が4.5未満であった(比較例1~5)。
【0129】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。