(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185825
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置の製造方法及び駆動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/52 20060101AFI20221208BHJP
F16D 27/115 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
F16D13/52 D
F16D27/115 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093687
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】小野 智範
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056BE25
3J056CA07
3J056CC37
3J056FA11
3J056GA12
(57)【要約】
【課題】回転部材へのおもりの取り付けや回転部材の切削を行うことなく、回転バランスを調整することが可能な駆動力伝達装置の製造方法、及び回転バランスが高められた駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動力伝達装置1の製造方法は、インナシャフト3の回転アンバランスを測定する第1の測定工程と、多板クラッチ4の複数のインナクラッチプレート42及び押圧機構5の構成部材のうちインナシャフト3に対する相対回転が規制された構成部材を含む内側回転部材群1Cの回転アンバランスを測定する第2の測定工程と、内側回転部材群1Cの中心部にインナシャフト3を挿通させる挿通工程とを備える。挿通工程において、第1の測定工程及び第2の測定工程の測定結果に基づいて、インナシャフト3の回転アンバランスと内側回転部材群1Cの回転アンバランスとが相殺されるように、内側回転部材群1Cの内側にインナシャフト3を挿通させる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアウタクラッチプレートと複数のインナクラッチプレートとを軸方向に交互に配置してなる多板クラッチと、前記複数のアウタクラッチプレートが軸方向移動可能に係合するアウタハウジングと、前記複数のインナクラッチプレートが軸方向移動可能に係合するインナシャフトと、前記多板クラッチを軸方向に押圧する押圧機構とを備え、前記アウタハウジングと前記インナシャフトとの間で前記多板クラッチによって駆動力が伝達される駆動力伝達装置の製造方法であって、
前記インナシャフトの回転アンバランスを測定する第1の測定工程と、
前記複数のインナクラッチプレート及び前記押圧機構の構成部材のうち前記インナシャフトに対する相対回転が規制された構成部材を含む内側回転部材群の回転アンバランスを測定する第2の測定工程と、
前記内側回転部材群の中心部に前記インナシャフトを挿通させて前記複数のインナクラッチプレートを前記インナシャフトに係合させる挿通工程と、を備え、
前記挿通工程において、前記第1の測定工程及び前記第2の測定工程の測定結果に基づいて、前記インナシャフトの回転アンバランスと前記内側回転部材群の回転アンバランスとが相殺されるように、前記内側回転部材群の内側に前記インナシャフトを挿通させる、
駆動力伝達装置の製造方法。
【請求項2】
前記複数のインナクラッチプレートが係合する係合部を有する軸状の組付部材を用い、前記アウタハウジングと前記組付部材との間に前記多板クラッチ及び前記押圧機構の少なくとも一部の構成部材を組み付ける組み付け工程をさらに備え、
前記第2の測定工程において、前記内側回転部材群を前記組付部材と共に回転させて回転アンバランスを測定する、
請求項1に記載の駆動力伝達装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1の測定工程の測定結果における回転アンバランスの方向を示すマーキングを施す第1のマーキング工程と、
前記第2の測定工程の測定結果における回転アンバランスの方向を示すマーキングを施す第2のマーキング工程と、をさらに備え、
前記挿通工程において、前記第1のマーキング工程において施されたマーキングの位置と前記第2のマーキング工程において施されたマーキングの位置とに基づいて、前記内側回転部材群と前記インナシャフトとの周方向の相対位置を規定する、
請求項1又は2に記載の駆動力伝達装置の製造方法。
【請求項4】
前記インナシャフトは、前記複数のインナクラッチプレートが係合するスプライン係合部が一方の端部に設けられた軸部と、前記軸部の他方の端部に連続して設けられたギヤ部とを有し、
前記挿通工程において、前記インナシャフトの前記軸部を前記一方の端部側から前記内側回転部材群の中心部に挿入する、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の駆動力伝達装置の製造方法。
【請求項5】
複数のアウタクラッチプレートと複数のインナクラッチプレートとを軸方向に交互に配置してなる多板クラッチと、前記複数のアウタクラッチプレートが軸方向移動可能に係合するアウタハウジングと、前記複数のインナクラッチプレートが軸方向移動可能に係合するインナシャフトと、前記多板クラッチを軸方向に押圧する押圧機構とを備え、
前記インナシャフトの回転軸に対する回転アンバランスの方向を示すマーキングが当該インナシャフトに施されており、
前記複数のインナクラッチプレート及び前記押圧機構の構成部材のうち前記インナシャフトに対する相対回転が規制された構成部材を含む内側回転部材群の回転アンバランスの方向と、前記インナシャフトの回転軸に対する前記マーキングの位置とが所定の位置関係となるように、前記内側回転部材群の中心部に前記インナシャフトが挿通されている、
駆動力伝達装置。
【請求項6】
前記インナシャフトは、前記複数のインナクラッチプレートが係合するスプライン係合部が一方の端部に設けられた軸部と、前記軸部の他方の端部に連続して設けられたギヤ部とを有し、
前記軸部に前記マーキングが施されている、
請求項5に記載の駆動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力伝達装置の製造方法及び駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前輪及び後輪の一方を主駆動輪とし、他方を補助駆動輪とする4輪駆動車において、駆動源から補助駆動輪に駆動力を伝達する駆動力伝達経路には、クラッチ板の係合力に応じて伝達する駆動力を制御できる装置が配置されている。このような装置は、例えばカップリング装置、クラッチ装置、駆動力伝達装置などと称される(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0003】
特許文献1には、カップリング装置を回転させ、その振動がピークになったときの回転位置に基づいてカップリング装置における偏重部分の回転位置を特定し、この偏重部分の軽量化又は偏重部分と反対側の増量化を行って、カップリング装置における偏重をなくすことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、回転の不釣合いを修正するにあたり、「回転部材の余分な質量を取り去るには切削が行われ、そのためには切削設備が必要であり、回転部材に修正おもりを溶接するには溶接設備が必要であり、いずれの場合も、不釣合いの修正に大がかりな設備が必要で、修正コストが高い上に、修正された機械の外観を損なう恐れもある」との課題に鑑みて、クラッチ板の外周に形成されたスプライン部に欠歯部を設け、この欠歯部を不釣合い調整手段とするクラッチ装置が記載されている。
【0005】
また、本出願人は、デフケースに固定されたリングギヤに噛み合うギヤ部を一端部に有するピニオンギヤシャフトの外周スプライン部に複数のインナクラッチプレートを係合させるデファレンシャル装置一体型の駆動力伝達装置の製造方法として、特許文献3のものを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-77297号公報(請求項10参照)
【特許文献2】特開2004-245346号公報(明細書段落[0016]、[0039]、及び
図2参照)
【特許文献3】特開2017-154575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2には、回転バランスの試験方法やクラッチ装置の組み付け方法が記載されていないが、例えば欠歯部のないクラッチ板を組み付けた回転バランス試験によって偏重部分の回転位置を特定した後にクラッチ装置を分解し、偏重部分に欠歯部が位置するように周方向位置を調節したクラッチ板を用いて再度組み付けを行う場合には、分解及び組み付けを行うことにより新たな回転アンバランスが発生してしまうおそれがある。また、クラッチ板自体に回転アンバランスが存在する場合には、特許文献2のものでは回転バランスを調節することができない。
【0008】
そこで、本発明は、回転部材へのおもりの取り付けや回転部材の切削を行うことなく、回転バランスを調整することが可能な駆動力伝達装置の製造方法、及び回転バランスが高められた駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するために、複数のアウタクラッチプレートと複数のインナクラッチプレートとを軸方向に交互に配置してなる多板クラッチと、前記複数のアウタクラッチプレートが軸方向移動可能に係合するアウタハウジングと、前記複数のインナクラッチプレートが軸方向移動可能に係合するインナシャフトと、前記多板クラッチを軸方向に押圧する押圧機構とを備え、前記アウタハウジングと前記インナシャフトとの間で前記多板クラッチによって駆動力が伝達される駆動力伝達装置の製造方法であって、前記インナシャフトの回転アンバランスを測定する第1の測定工程と、前記複数のインナクラッチプレート及び前記押圧機構の構成部材のうち前記インナシャフトに対する相対回転が規制された構成部材を含む内側回転部材群の回転アンバランスを測定する第2の測定工程と、前記内側回転部材群の中心部に前記インナシャフトを挿通させて前記複数のインナクラッチプレートを前記インナシャフトに係合させる挿通工程と、を備え、前記挿通工程において、前記第1の測定工程及び前記第2の測定工程の測定結果に基づいて、前記インナシャフトの回転アンバランスと前記内側回転部材群の回転アンバランスとが相殺されるように、前記内側回転部材群の内側に前記インナシャフトを挿通させる、駆動力伝達装置の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記の目的を達成するために、複数のアウタクラッチプレートと複数のインナクラッチプレートとを軸方向に交互に配置してなる多板クラッチと、前記複数のアウタクラッチプレートが軸方向移動可能に係合するアウタハウジングと、前記複数のインナクラッチプレートが軸方向移動可能に係合するインナシャフトと、前記多板クラッチを軸方向に押圧する押圧機構とを備え、前記インナシャフトの回転軸に対する回転アンバランスの方向を示すマーキングが当該インナシャフトに施されており、前記複数のインナクラッチプレート及び前記押圧機構の構成部材のうち前記インナシャフトに対する相対回転が規制された構成部材を含む内側回転部材群の回転アンバランスの方向と、前記インナシャフトの回転軸に対する前記マーキングの位置とが所定の位置関係となるように、前記内側回転部材群の中心部に前記インナシャフトが挿通されている、駆動力伝達装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る駆動力伝達装置の製造方法及び駆動力伝達装置によれば、回転部材へのおもりの取り付けや回転部材の切削を行うことなく、回転バランスを調整することができ、回転バランスを高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された4輪駆動車の構成例を示す概略構成図である。
【
図2】駆動力伝達装置の構成例を水平断面で示す断面図である。
【
図3】(a)は、第1カム部材における第2カム部材側の面を示す構成図である。(b)は、第2カム部材における第1カム部材側の面を複数のカムボールと共に示す構成図である。
【
図4】(a)は、第1の測定工程を示す説明図である。(b)は、第1のマーキング工程においてマークが付されたインナシャフトを示す説明図である。
【
図5】(a)は、第1組立体を示す断面図である。(b)は、第2組立体を示す断面図である。
【
図6】(a)は、第2の測定工程を示す説明図である。(b)は、第2のマーキング工程でマークが付された組付部材を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図8を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された4輪駆動車の構成例を示す概略構成図である。4輪駆動車100は、走行用の駆動力を発生させる駆動源としてのエンジン11と、トランスミッション12と、左右一対の主駆動輪としての前輪131,132及び左右一対の補助駆動輪としての後輪133,134と、前輪側のドライブシャフト141,142と、フロントデファレンシャル15と、トランスファギヤ機構16と、プロペラシャフト17と、後輪側のドライブシャフト18,19と、プロペラシャフト17と後輪側のドライブシャフト18,19との間に配置された駆動力伝達装置1と、駆動力伝達装置1を制御する制御装置10とを備えている。
【0015】
4輪駆動車100は、エンジン11の駆動力を前輪131,132及び後輪133,134に伝達する4輪駆動状態と、エンジン11の駆動力を前輪131,132のみに伝達する2輪駆動状態とを切り替え可能である。なお、駆動源としては、内燃機関であるエンジン11に限らず、高出力電動モータを用いてもよく、エンジンと高出力電動モータとを組み合わせた所謂ハイブリッドシステムを用いてもよい。
【0016】
フロントデファレンシャル15は、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力が伝達されるフロントデフケース151と、フロントデフケース151と一体に回転するピニオンシャフト152と、ピニオンシャフト152に軸承された一対のピニオンギヤ153と、一対のピニオンギヤ153にギヤ軸を直交させて噛み合う一対のサイドギヤ154とを有している。一対のサイドギヤ154には、前輪側のドライブシャフト141,142がそれぞれ連結されている。
【0017】
トランスファギヤ機構16は、フロントデフケース151と一体に回転する入力ギヤ161と、入力ギヤ161に噛み合わされた出力ギヤ162とを有している。出力ギヤ162には、プロペラシャフト17の一方の端部が連結されている。プロペラシャフト17の他方の端部は、後述する駆動力伝達装置1に駆動力を出力する出力端となっている。出力ギヤ162のギヤ径は入力ギヤ161のギヤ径よりも小さく、エンジン11が発生する駆動力の一部がトランスファギヤ機構16によって増速されてプロペラシャフト17に伝達される。
【0018】
前輪131,132には、フロントデファレンシャル15によって配分された駆動力が前輪側のドライブシャフト141,142を介して常時伝達される。後輪133,134には、4輪駆動時にプロペラシャフト17によって伝達された駆動力が駆動力伝達装置1及び後輪側のドライブシャフト18,19を介して伝達される。2輪駆動時には、プロペラシャフト17から後輪側のドライブシャフト18,19への駆動力の伝達が駆動力伝達装置1によって遮断される。駆動力伝達装置1は、4輪駆動時において、制御装置10から供給される電流に応じた大きさの駆動力をプロペラシャフト17から後輪側のドライブシャフト18,19に伝達する。
【0019】
(駆動力伝達装置の構成)
図2は、駆動力伝達装置1の構成例を水平断面で示す断面図である。
図2では、図面左側が4輪駆動車100への搭載状態における車両の前後方向の前側(前輪131,132側)にあたり、図面右側が4輪駆動車100への搭載状態における車両前後方向の後側(後輪133,134側)にあたる。以下の説明において、「前側」及び「後側」とは、車両前後方向の前側及び後側をいう。
【0020】
駆動力伝達装置1は、円筒状の円筒部21と円盤状の底部22とを一体に有する有底円筒状のアウタハウジング2と、アウタハウジング2の円筒部21の内側に配置されたインナシャフト3と、複数のアウタクラッチプレート41と複数のインナクラッチプレート42とを交互に配置してなる多板クラッチ4と、多板クラッチ4を押圧する押圧機構5と、アウタハウジング2の後側の端部を閉塞する蓋体6と、車体に対して非回転に支持されたデフキャリヤ70と、デフキャリヤ70に収容されたデファレンシャル機構7と、駆動力伝達装置1の各部に配置された軸受81~87及びシール部材881~887とを備えている。
【0021】
アウタハウジング2及びデフキャリヤ70の内部には、潤滑油が封入されている。複数のアウタクラッチプレート41と複数のインナクラッチプレート42の摩擦摺動は、アウタハウジング2の内部に封入された潤滑油によって潤滑される。デファレンシャル機構7の各部の回転摺動は、デフキャリヤ70の内部に封入された潤滑油によって潤滑される。
【0022】
アウタハウジング2とインナシャフト3とは、共通の回転軸線O1を中心として相対回転可能である。多板クラッチ4は、アウタハウジング2とインナシャフト3との間で駆動力を伝達する。プロペラシャフト17に伝達された駆動力は、アウタハウジング2から多板クラッチ4を介してインナシャフト3に伝達され、さらにデファレンシャル機構7によってドライブシャフト18,19に配分される。以下、回転軸線O1に平行な方向を軸方向という。
【0023】
アウタハウジング2の円筒部21における底部22側の端部には、内周面に形成された複数のスプライン突起211からなるスプライン係合部210が設けられている。このスプライン係合部210には、複数のアウタクラッチプレート41が軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。底部22の中心部には、軸方向の貫通孔220が形成されており、この貫通孔220が栓体201によって閉塞されている。アウタハウジング2の底部22には、プロペラシャフト17の端部に取り付けられた十字継手の継手部材が複数のボルト202によって締結される。底部22には、ボルト202が螺合する複数のねじ孔221が形成されている。
【0024】
蓋体6は、アウタハウジング2の後端部の内周に螺合して固定された軟磁性材料からなる外側部材61と、外側部材61の内側に固定されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなる中間部材62と、中間部材62の内側に固定された軟磁性材料からなる内側部材63とを有している。外側部材61、中間部材62、及び内側部材63は、回転軸線O1を中心として同心状に配置された環状であり、内側部材63の中心部にインナシャフト3が挿通されている。外側部材61と中間部材62、及び中間部材62と内側部材63は、それぞれ溶接により固定されている。内側部材63の後側の端部は、軸受81を介してデフキャリヤ70に支持されている。また、軸受81には、後述する押圧機構5の電磁コイル53を保持するヨーク54が支持されている。
【0025】
インナシャフト3は、浸炭焼入れ等の硬化処理を施した鋼材からなり、回転軸線O1方向に延在して配置された軸部31と、軸部31の前側の端部に連続して設けられた小径のボス部30と、軸部31の後側の端部に連続して設けられたギヤ部32とを一体に有している。軸部31の前側の端部には、外周面に形成された複数のスプライン突起311からなるスプライン係合部310が設けられている。このスプライン係合部310には、複数のインナクラッチプレート42が軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合している。
【0026】
インナシャフト3は、軸方向の中央部よりもギヤ部32側の部分が一対の軸受82,83を介してデフキャリヤ70に対して回転可能に支持されている。本実施の形態では、一対の軸受82,83のうち、ギヤ部32側の一方の軸受82は円錐ころ軸受であり、他方の軸受83は玉軸受であるが、軸受82,83の双方を円錐ころ軸受としてもよい。一方の軸受82とギヤ部32の背面32aとの間には、シム801が配置されている。軸受82,83の間には、間座802が配置されている。一対の軸受82,83には、インナシャフト3の軸部31に形成されたねじ部312に螺合するナット部材803によって軸方向の予圧が付与されている。
【0027】
インナシャフト3のボス部30とアウタハウジング2との間には、軸受84が配置されている。軸受84は、内輪841及び外輪842と複数の転動体843とを有する玉軸受であり、アウタハウジング2における底部22の貫通孔220に収容されている。軸受84は、内輪841に対向してボス部30に嵌着された止め輪804によって抜け止めされている。外輪842とアウタハウジング2の底部22に設けられた内径側の環状突起222との間には、シム805が配置されている。
【0028】
押圧機構5は、多板クラッチ4を軸方向に押圧するカム推力を発生させるカム機構51と、電磁クラッチ機構52と、電磁コイル53とを有している。カム機構51は、第1カム部材511と、第2カム部材512と、複数のカムボール513とを有している。第1カム部材511及び第2カム部材512は、例えば焼結金属からなる。第1カム部材511は、多板クラッチ4の複数のインナクラッチプレート42のうち最も後側のインナクラッチプレート42に対向している。第2カム部材512と蓋体6の内側部材63との間には、軸受85が配置されている。これにより、第2カム部材512は、第1カム部材511から離間する方向の後側への軸方向移動が規制されると共に、蓋体6に対して回転自在である。
【0029】
図3(a)は、第1カム部材511における第2カム部材512側の面を示す構成図である。
図3(b)は、第2カム部材512における第1カム部材511側の面を複数のカムボール513と共に示す構成図である。第1カム部材511及び第2カム部材512の中心部にはインナシャフト3の軸部31が挿通される。第1カム部材511の内周側の端部には、複数のスプライン突起511aが設けられている。複数のスプライン突起511aは、インナシャフト3のスプライン係合部310に軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合する。
【0030】
第1カム部材511における第2カム部材512との対向面には、回転軸線O1を中心とする仮想円VC1に沿って周方向に延びる複数のカム溝511bが形成されている。複数のカム溝511bは、それぞれの周方向中央部が軸方向に最も深く、周方向端部に近づくにつれて徐々に軸方向の深さが浅くなっている。
【0031】
第2カム部材512の外周側の端部には、複数のスプライン突起512aが設けられている。また、第2カム部材512における第1カム部材511との対向面には、回転軸線O
1を中心とする仮想円VC
2に沿って周方向に延びる複数のカム溝512bが形成されている。複数のカム溝512bは、それぞれの周方向中央部が軸方向に最も深く、周方向端部に近づくにつれて徐々に軸方向の深さが浅くなっている。
図2(b)では、複数のカム溝512bのそれぞれの最深部にカムボール513が配置された状態を示している。
【0032】
本実施の形態では、一例として、第1カム部材511及び第2カム部材512にそれぞれ六つのカム溝511b,512bが形成されている。第1カム部材511に対する第2カム部材512の相対回転は、カムボール513がカム溝511b,512bを転動する範囲(本実施の形態では±30°未満)に規制されている。カム機構51は、第1カム部材511と第2カム部材512とが相対回転してカムボール513がカム溝511b,512bの周方向の中央部から端部に転動することにより、多板クラッチ4をアウタハウジング2の底部22に向かって軸方向に押圧する。
【0033】
電磁クラッチ機構52は、アウタハウジング2のスプライン係合部210に軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合するアーマチャ521及び複数の電磁アウタクラッチプレート522と、第2カム部材512の複数のスプライン突起512aに軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合する複数の電磁インナクラッチプレート523とを有している。アーマチャ521、電磁アウタクラッチプレート522、及び電磁インナクラッチプレート523は、円環板状の軟磁性金属からなる。複数の電磁アウタクラッチプレート522と複数の電磁インナクラッチプレート523とは軸方向に交互に並び、蓋体6とアーマチャ521との間に配置されている。
【0034】
電磁コイル53は、蓋体6の外側部材61と内側部材63との間でヨーク54に保持され、中間部材62の後側に配置されている。電磁コイル53には、配線部材55の導電線551を介して制御装置10から励磁電流が供給される。電磁コイル53に励磁電流が供給されると、外側部材61及び内側部材63ならびにアーマチャ521を含む磁路に磁束が発生し、アーマチャ521が複数の電磁アウタクラッチプレート522及び電磁インナクラッチプレート523を蓋体6に向かって押圧する。なお、電磁アウタクラッチプレート522及び電磁インナクラッチプレート523には、中間部材62と軸方向に並ぶ径方向中央部に、外周部と内周部とを区画して磁束の短絡を防ぐ複数の円弧状のスリットが形成されている。
【0035】
デフキャリヤ70は、本体部701と蓋部702とを有している。本体部701は、車両左側の端部が開放されており、この開口部が蓋部702によって閉塞されている。本体部701及び蓋部702には、後輪側のドライブシャフト18,19の一部である等速ジョイント181,191のステム部182,192がそれぞれ挿通されている。
【0036】
デファレンシャル機構7は、インナシャフト3のギヤ部32に噛み合うリングギヤ71と、リングギヤ71が固定されたフランジ部721を有するデフケース72と、デフケース72と一体に回転するピニオンシャフト73と、ピニオンシャフト73をデフケース72に対して抜け止め及び回り止めするピン74と、ピニオンシャフト73に軸承された一対のピニオンギヤ75と、一対のピニオンギヤ75にギヤ軸を直交させて噛み合う一対のサイドギヤ76とを有している。
【0037】
リングギヤ71は、傘歯車であり、より具体的にはハイポイドギヤである。デフケース72は、一対の円錐ころ軸受86,87によってデフキャリヤ70に対して回転可能に支持されている。一対のサイドギヤ76には、等速ジョイント181,191のステム部182,192がそれぞれ相対回転不能に嵌合している。
【0038】
(駆動力伝達装置の製造方法)
次に、駆動力伝達装置1の製造方法について、
図4乃至
図8を参照して説明する。この製造方法は、駆動力伝達装置1が搭載された4輪駆動車100の走行時において、駆動力伝達装置1において発生する回転アンバランスに起因する振動を抑制すべく、特に考慮されたものである。
【0039】
駆動力伝達装置1の製造方法は、インナシャフト3の回転アンバランスを測定する第1の測定工程と、第1の測定工程の測定結果における回転アンバランスの方向を示すマーキングを施す第1のマーキング工程と、複数のインナクラッチプレート42が係合する係合部910を有する軸状の組付部材91を用い、この組付部材91とアウタハウジング2との間に多板クラッチ4及び押圧機構5の少なくとも一部の構成部材を組み付ける組み付け工程と、組付部材91を回転させて回転アンバランスを測定する第2の測定工程と、第2の測定工程の測定結果における回転アンバランスの方向を示すマーキングを施す第2のマーキング工程と、組付部材91に替えて多板クラッチ4及び押圧機構5の内側にインナシャフト3を挿通させる挿通工程と、多板クラッチ4及び押圧機構5の内側に挿通されたインナシャフト3とアウタハウジング2とを軸受84を介して連結する連結工程とを有している。なお、回転アンバランスの方向とは、特に回転アンバランスが最大となる方向のことである。
【0040】
(第1の測定工程及び第1のマーキング工程)
図4(a)は、第1の測定工程の一例を示す説明図である。
図4(b)は、第1のマーキング工程において第1のマークM
1が付されたインナシャフト3を示す説明図である。第1の測定工程では、治具92に対して軸受93,94を介してインナシャフト3を支持して回転させ、インナシャフト3の回転アンバランスを測定する。軸受93,94は、
図2に示す駆動力伝達装置1の構成と同様に、軸部31における軸方向の中央部よりもギヤ部32側の部分を支持する。
図4(a)の図示例では、ギヤ部32側の一方の軸受93が円錐ころ軸受であり、他方の軸受94が玉軸受である。軸受93,94は、インナシャフト3のねじ部312に螺合したナット部材95によってギヤ部32側に向かって押し付けられている。
【0041】
インナシャフト3は、ギヤ部32に噛み合わされたリングギヤ96を回転させることにより、軸受93,94の中心線である軸受中心線C
1を中心として回転する。インナシャフト3をギヤ部32とは反対側から軸方向に見たとき、インナシャフト3が歪のない理想的な形状である場合には、ボス部30の軸端面30aにおける中心点と軸受中心線C
1とが一致する。しかし、例えば硬化処理を施した際にインナシャフト3に歪が発生すると、
図4(b)に示すように、ボス部30の軸端面30aにおける中心点C
2が軸受中心線C
1からずれてしまう。
【0042】
図4(b)では、軸端面30aの中心点C
2が軸受中心線C
1から図面上方にずれた状態を示しており、このように中心点C
2がずれたときのボス部30の外縁を二点鎖線で示している。
図4(b)では、説明の明確化のため、中心点C
2と軸受中心線C
1との距離を誇張して表している。なお、硬化処理後のインナシャフト3の歪(曲がり)の大きさが許容値を越えている場合には、歪を矯正する方向にインナシャフト3を曲げる曲げ加工を施してもよい。ただし、このような歪矯正のための加工を行ったとしても、インナシャフト3の歪を完全に除去することは困難である。
【0043】
第1のマーキング工程では、インナシャフト3の回転アンバランスの方向、すなわち軸部31の一端部を軸受支持して回転させた場合の他端部の回転振れの方向を示すマーキングをインナシャフト3に施す。このマーキングの具体的な方法は、特に限定されるものではないが、例えば油性塗料の塗布や粘着シールの貼付、あるいは電気ペン(振動、高温、あるいは放電によって金属表面を変質させる筆状器具)による刻印によって行うことができる。
【0044】
なお、
図4(b)では、ボス部30の軸端面30aにおける軸受中心線C
1から中心点C
2に向かう半直線上に三角形状の第1のマークM
1を付した場合を図示しているが、第1のマークM
1の位置及び形状は、回転アンバランスの方向を特定可能なものであればよい。例えば、ボス部30の外周面30bにマーキングを施してもよく、ボス部30と軸部31との段差面31aにマーキングを施してもよい。マーキングの形状は、例えば線状あるいは点状でもよく、多角形状でもよい。
【0045】
(組み付け工程)
図5(a)は、組み付け工程において、組付部材91とアウタハウジング2との間に多板クラッチ4及び蓋体6が押圧機構5の一部の構成部材と共に組み付けられた第1組立体1Aを示す断面図である。
図5(b)は、デフキャリヤ70にデファレンシャル機構7及びインナシャフト3が押圧機構5の他の一部の構成部材と共に組み付けられた第2組立体1Bを示す断面図である。
【0046】
押圧機構5は、第1カム部材511、第2カム部材512、複数のカムボール513、アーマチャ521、複数の電磁アウタクラッチプレート522、及び複数の電磁インナクラッチプレート523が第1組立体1Aに組み付けられ、電磁コイル53がヨーク54及び配線部材55と共に第2組立体1Bに組み付けられる。
【0047】
組み付け工程では、軸状の組付部材91を用いて第1組立体1Aを組み立てる。組付部材91は、外径が異なる大径円筒部911及び小径円筒部912を有している。組付部材91の中心部には、組付部材91を軸方向に貫通する嵌合孔90が形成されている。嵌合孔90の内周には、複数のスプライン突起90aが設けられている。大径円筒部911と小径円筒部912との間には、軸方向に対して垂直な環状の段差面91aが形成されている。大径円筒部911は、アウタハウジング2の貫通孔220内に配置され、段差面91aがアウタハウジング2の環状突起222と軸方向に対向している。小径円筒部912の外周には、複数のスプライン突起912aからなる係合部910が設けられている。係合部910におけるスプライン突起912aの数は、インナシャフト3のスプライン係合部310におけるスプライン突起311の数と同じである。
【0048】
アウタハウジング2と組付部材91の小径円筒部912の間には、多板クラッチ4の複数のアウタクラッチプレート41及び複数のインナクラッチプレート42と、押圧機構5の第1カム部材511、第2カム部材512、複数のカムボール513、アーマチャ521、複数の電磁アウタクラッチプレート522、及び複数の電磁インナクラッチプレート523と、蓋体6とが順次組み付けられる。このうち、複数のインナクラッチプレート42、第1カム部材511、第2カム部材512、複数のカムボール513、及び複数の電磁インナクラッチプレート523は、インナシャフト3に対する相対回転が規制される内側回転部材群1Cである。インナクラッチプレート42及び第1カム部材511は、小径円筒部912の係合部910に係合している。
【0049】
(第2の測定工程及び第2のマーキング工程)
図6(a)は、第2の測定工程の一例を示す説明図である。
図6(b)は、第2のマーキング工程で第2のマークM
2が付された組付部材91を示す説明図である。第2の測定工程では、アウタハウジング2を治具97に対して複数のボルト98により非回転に固定した状態で、モータ99によって組付部材91を回転させて内側回転部材群1Cの回転アンバランスを測定する。なお、
図6(a)に示す例では、ボルト98をアウタハウジング2のねじ孔221に螺合させてアウタハウジング2を固定しているが、アウタハウジング2の固定方法はこれに限らず、例えば円筒部21を一対の治具により径方向に挟み込んで固定してもよい。
【0050】
モータ99は、組付部材91の嵌合孔90にスプライン嵌合するシャフト991を有しており、シャフト991の回転によって組付部材91及び内側回転部材群1Cを回転させる。この回転の際、内側回転部材群1Cの何れかの部材に例えば加工誤差による回転アンバランスがあると、組付部材91がシャフト991の回転軸線O
2に対して偏心して回転する。
図6(b)では、組付部材91の中心点C
3が回転軸線O
2から図面上方にずれた状態を示しており、このように中心点C
3がずれたときの大径円筒部911の外縁を二点鎖線で示している。
図6(b)では、説明の明確化のため、中心点C
3と回転軸線O
2との距離を誇張して表している。なお、組付部材91は、それ自体の回転によっては回転振れが発生しないように、予め高精度に加工されている。
【0051】
第2のマーキング工程では、組付部材91及び内側回転部材群1Cの回転アンバランスの方向、すなわち組付部材91を内側回転部材群1Cと共に回転させた場合の回転振れの方向を示すマーキングを組付部材91に施す。このマーキングは、電気ペンによって行ってもよいが、駆動力伝達装置1の製造ラインにおいて組付部材91を繰り返し使用する場合には、消去もしくは除去可能な方法によって組付部材91にマーキングを施すことが望ましい。具体的には、例えば油性塗料の塗布や粘着シールの貼付によってマーキングを施すことが望ましい。
【0052】
図6(b)では、一例として、組付部材91の大径円筒部911側の軸方向端面911aにおける回転軸線O
2から中心点C
3に向かう半直線上に三角形状の第2のマークM
2を付した場合を図示しているが、第2のマークM
2の位置及び形状は、内側回転部材群1Cの回転アンバランスの方向を特定可能なものであればよい。例えば、組付部材91の外周面や、組付部材91における小径円筒部912側の軸方向端面などにマーキングを施してもよい。また、アウタハウジング2及び蓋体6の外部から視認可能な部位であれば、例えば第1カム部材511又は第2カム部材512にマーキングを施してもよい。マーキングの形状は、例えば線状でも点状でもよく、多角形状でもよい。
【0053】
(挿通工程)
図7は、挿通工程を示す説明図である。挿通工程では、内側回転部材群1Cの中心部にインナシャフト3を挿通させて、複数のインナクラッチプレート42をインナシャフト3のスプライン係合部310に係合させる。この際、第1の測定工程及び第2の測定工程の測定結果に基づいて、インナシャフト3の回転アンバランスと内側回転部材群1Cの回転アンバランスとが相殺されるように、内側回転部材群1Cの内側にインナシャフト3を挿通させる。
【0054】
挿通工程では、まず始めに、第1のマーキング工程において施されたマーキングの位置と第2のマーキング工程において施されたマーキングの位置とに基づいて、内側回転部材群1Cとインナシャフト3との周方向の相対位置を規定する。本実施の形態では、インナシャフト3に施された第1のマークM1がインナシャフト3の回転振れが最も大きくなる方向を示し、組付部材91に施された第2のマークM2が組付部材91の回転振れが最も大きくなる方向を示しているので、第1のマークM1と第2のマークM2が回転軸線O1を挟んで並ぶように、換言すれば回転軸線O1を中心とする周方向において第1のマークM1及び第2のマークM2の位置が180°程度異なるように、インナシャフト3と組付部材91との回転方向の相対位置を規定する。
【0055】
なお、インナシャフト3を内側回転部材群1Cの中心部に挿通させる際には、組付部材91の係合部910における複数のスプライン突起912aの位置と、インナシャフト3のスプライン係合部310における複数のスプライン突起311の位置とを合わせる必要があるため、第1のマークM1の位置と第2のマークM2の位置とを180°ずらせるとは限らない。このため、挿通工程では、回転軸線O1を中心とする周方向における第1のマークM1の位置と第2のマークM2の位置との差が可及的に180°に近くなるように、インナシャフト3と組付部材91との回転方向の相対位置を規定する。
【0056】
その後、
図7に示すように、インナシャフト3のボス部30側の端部を組付部材91の小径円筒部912側の端部に当接させ、第1組立体1Aを第2組立体1Bに向かって軸方向に相対移動させることにより、組付部材91をインナシャフト3によってアウタハウジング2の貫通孔220から押し出しつつ、インナシャフト3のスプライン係合部310に複数のインナクラッチプレート42及び第1カム部材511を係合させる。これにより、内側回転部材群1Cの回転アンバランスの方向と、インナシャフト3の回転軸線O
1に対するマーキングの位置とが所定の位置関係となるように、内側回転部材群1Cの中心部にインナシャフト3が挿通される。挿通工程が完了したとき、インナシャフト3のボス部30は、アウタハウジング2の貫通孔220内に配置される。また、挿通工程では、インナシャフト3の軸部31を、スプライン係合部310が設けられた前側の端部から内側回転部材群1Cの中心部に挿入する。
【0057】
(連結工程)
図8は、連結工程を示す説明図である。連結工程では、アウタハウジング2の貫通孔220内に配置されたインナシャフト3のボス部30とアウタハウジング2の底部22との間に軸受84を止め輪804及びシム805と共に配置し、インナシャフト3とアウタハウジング2とを軸受84を介して相対回転可能に連結する。その後、貫通孔220を栓体201によって閉塞し、駆動力伝達装置1が完成する。
【0058】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本発明の実施の形態によれば、インナシャフト3の回転アンバランスと内側回転部材群1Cの回転アンバランスとが相殺されるように作用するので、アウタハウジング2等の回転部材へのおもりの取り付けや切削加工を行うことなく、回転バランスを調整することができる。なお、インナシャフト3の回転アンバランスによって発生し得る振動の大きさと、内側回転部材群1Cの回転アンバランスによって発生し得る振動の大きさとは、常に一致するわけではないので、本実施の形態に係る駆動力伝達装置1の製造方法は、必ずしも車両走行時に駆動力伝達装置1で発生する回転アンバランスによる振動を解消できるものではない。しかし、本実施の形態によれば、少なくともインナシャフト3の回転アンバランスの方向と内側回転部材群1Cの回転アンバランスの方向とが一致してしまうことを確実に防ぐことができ、おもりの取り付けや切削加工を行わなくとも、駆動力伝達装置1で発生する振動を許容範囲内に抑えることが可能となる。
【0059】
(駆動力伝達装置1の製造方法の変形例)
上記の駆動力伝達装置1の製造方法では、第1のマークM1及び第2のマークM2を目印とし、インナシャフト3と組付部材91との回転方向の相対位置を規定する場合について説明したが、例えば第1組立体1A及び第2組立体1Bの組み立てから回転アンバランスの測定、及び第1組立体1Aと第2組立体1Bとの結合までを自動化された製造ラインで一貫して行う場合には、組付部材91やインナシャフト3に回転アンバランスの方向を示すマーキングを行わなくてもよい。これは、回転アンバランスを測定する測定機において測定された回転アンバランスの方向に関する情報に基づいて、組付機等において組付部材91とインナシャフト3との回転方向の位置合わせをすればよいためである。
【0060】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。またさらに、上記した複数の実施の形態の一部の構成を互いに組み合わせることも可能である。
【0061】
なお、上記の実施の形態では、アウタハウジング2へのおもりの取り付けや切削加工を行うことなく、駆動力伝達装置1で発生する振動を許容範囲内に抑えることが可能となる場合について説明したが、より厳密に駆動力伝達装置1で発生する振動を抑制するためには、アウタハウジング2におもりの取り付けや切削加工を施して、アウタハウジング2の回転によって発生する振動を低減させてもよい。また、上記の実施の形態では、カム機構51、電磁クラッチ機構52、及び電磁コイル53によって押圧機構5を構成した場合について説明したが、これに限らず、例えば油圧シリンダ及び油圧ピストンによって押圧機構を構成してもよい。
【0062】
また、上記の実施の形態では、プロペラシャフト17とデファレンシャル機構7との間にアウタハウジング2及びインナシャフト3が配置され、インナシャフト3のギヤ部32がデファレンシャル機構7のリングギヤ71に噛み合わされた場合について説明したが、車両におけるアウタハウジング及びインナシャフト等の配置はこれに限らない。例えば、デファレンシャル機構の一方のサイドギヤと車輪との間にアウタハウジング及びインナシャフトを配置してもよい。この場合、インナシャフトがサイドギヤに相対回転不能に連結され、あるいはインナシャフトが等速ジョイントのステム部として構成される。
【符号の説明】
【0063】
1…駆動力伝達装置 1C…内側回転部材群
2…アウタハウジング 3…インナシャフト
4…多板クラッチ 41…アウタクラッチプレート
42…インナクラッチプレート 5…押圧機構
91…組付部材 910…係合部