(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185850
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】揮発性硫黄化合物検知素子及び検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20221208BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20221208BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01N21/78 Z
G01N31/00 P
G01N31/22 121A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093738
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 容子
(72)【発明者】
【氏名】及川 一摩
【テーマコード(参考)】
2G042
2G054
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA08
2G042BB14
2G042BD15
2G042CA10
2G042CB01
2G054AA01
2G054AB05
2G054BA04
2G054CA10
2G054CA21
2G054CE02
2G054CE08
2G054EA04
2G054EB01
2G054FA10
2G054FA12
2G054FA32
2G054FA33
2G054GA02
2G054GA03
2G054GB01
2G054GB04
2G054GE01
2G054GE03
2G054GE05
2G054JA01
2G054JA02
2G054JA09
(57)【要約】
【課題】気体中に含まれている揮発性硫黄化合物を高精度にかつ簡便に測定可能にする。
【解決手段】本開示の揮発性硫黄化合物検知素子は、酸化ケイ素を含む多孔体と、前記多孔体の孔内に配置された、分子内にジスルフィド結合を有する化合物を含む検知剤とを備える。検知剤が配置された孔内の15~30℃でのpHは、4~8である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ケイ素を含む多孔体と、
前記多孔体の孔内に配置された、分子内にジスルフィド結合を有する化合物を含む検知剤と、
を備え、
前記検知剤が配置された前記孔内の15~30℃でのpHは、4~8である、
揮発性硫黄化合物検知素子。
【請求項2】
請求項1記載の揮発性硫黄化合物検知素子において、
前記分子内にジスルフィド結合を有する化合物は、ピリジン環をさらに有する、
揮発性硫黄化合物検知素子。
【請求項3】
請求項1記載の揮発性硫黄化合物検知素子において、
前記分子内にジスルフィド結合を有する化合物は、ピリジン環をさらに有し、
前記ピリジン環に電子吸引基がさらに結合している、
揮発性硫黄化合物検知素子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の揮発性硫黄化合物検知素子において、
前記検知剤は、弱酸と強塩基の塩をさらに含む、
揮発性硫黄化合物検知素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の揮発性硫黄化合物検知素子において、
前記多孔体は、平均孔径が50nm以下の多孔質ガラスである、
揮発性硫黄化合物検知素子。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の揮発性硫黄化合物検知素子において、
前記多孔体は、シリカのエアロゲルを含む多孔体である、
揮発性硫黄化合物検知素子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の揮発性硫黄化合物検知素子を検知対象の気体に曝露する曝露工程と、
前記曝露工程により検知対象の気体に曝露された前記揮発性硫黄化合物検知素子の吸光度を測定する測定工程と、
検知対象の気体に曝露する前にあらかじめ測定された前記揮発性硫黄化合物検出素子の吸光度と、前記測定工程により測定された前記揮発性硫黄化合物検出素子の吸光度との比較に基づいて、検知対象の気体中の揮発性硫黄化合物を検知する検知工程と、
を有する、
揮発性硫黄化合物検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気体中に存在する揮発性硫黄化合物を検出する検知素子および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性硫黄化合物は、歯周病罹患者の口臭原因物質として広く知られている。歯周病は、小児から高齢者にまでみられる最も罹患率の高い疾患であり、生活習慣病としても位置づけられている。さらに、歯周病およびその治療は、糖尿病、冠状動脈心疾患、誤嚥性肺炎などを始めとする全身性疾患に影響を与えることも明らかになってきている。歯周病の適切な治療は、国民の口腔保健の向上のみならず、全身の健康を維持増進することにも寄与すると期待されている。
【0003】
現在、歯周病は、ポケットの深さや出血、エックス線検査、写真、細菌検査など複数の検査を組み合わせて総合的に診断されている。しかしながら、歯科受診による歯周病検査は、時間的にも経済的にもハードルが高いのが実状である。そのため、呼気中の揮発性硫黄化合物濃度の分析により、歯周病の管理や予防に用いることが提唱され、研究されている。呼気の分析は非侵襲の方法であり、測定者に苦痛を与えず、また特別の技術を必要としないという利点がある。
【0004】
このため、呼気中の揮発性硫黄化合物分析技術として、酸化第二錫や酸化亜鉛、酸化セリウムなどを用いた半導体センサ(特許文献1、2参照)が提唱されている。また、唾液を、酢酸鉛を含む検知紙に接触させ検知する方法(特許文献3参照)などが提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01-035368号公報
【特許文献2】特開2004-108861号公報
【特許文献3】特開2004-309283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の測定技術では、気体中に含まれる揮発性硫黄化合物を、選択性をもって簡便に測定できないという問題があった。
【0007】
本開示は、以上のような問題点を解決するためになされたものであり、気体中に含まれている揮発性硫黄化合物を、高感度でかつ簡便に、省電力かつ化学薬品の使用を抑えて測定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の揮発性硫黄化合物検知素子は、酸化ケイ素を含む多孔体と、前記多孔体の孔内に配置された、分子内にジスルフィド結合を有する化合物を含む検知剤と、を備え、前記検知剤が配置された前記孔内の15~30℃でのpHは、4~8である。
【0009】
本開示の揮発性硫黄化合物検知方法は、本開示の揮発性硫黄化合物検知素子を検知対象の気体に曝露する曝露工程と、前記曝露工程により検知対象の気体に曝露された前記揮発性硫黄化合物検知素子の吸光度を測定する測定工程と、検知対象の気体に曝露する前にあらかじめ測定された前記揮発性硫黄化合物検出素子の吸光度と、前記測定工程により測定された前記揮発性硫黄化合物検出素子の吸光度との比較に基づいて、検知対象の気体中の揮発性硫黄化合物を検知する検知工程と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、気体中に含まれている揮発性硫黄化合物を、高感度でかつ簡便に、省電力かつ化学薬品の使用を抑えて測定可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子について説明するための説明図である。
【
図2】実施の形態1における揮発性硫黄化合物検知素子を用いた測定における、揮発性硫黄化合物を測定対象とした前後2回の吸光度の測定結果を示す特性図である。
【
図3】実施の形態2における揮発性硫黄化合物検知素子を用いた測定における、揮発性硫黄化合物を測定対象とした前後2回の吸光度の測定結果を示す特性図である。
【
図4】実施の形態3における揮発性硫黄化合物検知素子を用いた測定における、揮発性硫黄化合物を測定対象とした前後2回の吸光度の測定結果を示す特性図である。
【
図5】比較例1における検知素子について説明するための説明図である。
【
図6】比較例1における検知素子を用いた測定における、揮発性硫黄化合物を測定対象とした前後2回の吸光度の測定結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(揮発性硫黄化合物)
口臭の主要原因物質とされる揮発性硫黄化合物(VSC:Volatile Sulfur Compounds)は、文字通り、沸点が低く、揮発しやすい硫黄化合物のことを言う。揮発性硫黄化合物としては、一般的には、硫化水素(H2S)、メチルメルカプタン(CH3SH)、ジメチルサルファイド[(CH3)2S]の3つが挙げられる。揮発性硫黄化合物は、口腔内に生息する嫌気性細菌が唾液、血液、剥離上皮細胞、食物残渣中の含硫アミノ酸を分解・腐敗することで産生される。産生部位としては、辺縁性歯周炎、口内炎、壊死性軟組織疾患、口腔癌などの疾患病巣、あるいは舌苔や貯留唾液が挙げられる。このうち、歯周病および舌苔が原因の大半を占め、この両者では舌苔からの産生量の方が多いといわれている。また、通常は、硫化水素の割合が多いが、歯周病患者ではしばしばメチルメルカプタンの割合が高いことが知られている。
【0013】
(揮発性硫黄化合物検知素子)
本開示に係る揮発性硫黄化合物検知素子は、揮発性硫黄化合物を検知するための素子であって、酸化ケイ素を含む多孔体(例えばガラスもしくはナノシリカ多孔体)と、多孔体の孔内に配置された検知剤とを備える。検知剤は、分子内にジスルフィド結合を有する化合物を含む。そして、検知剤を備えた多孔体の孔内のpHは、分子内にジスルフィド結合を有する化合物と揮発性硫黄化合物が反応する範囲、具体的には弱酸性~中性(pHが4~8の範囲)に調整されている。多孔体の孔内のpHは、pH指示薬により15~30℃で測定されうる。弱酸性~中性とは、より好ましくはpHが5~7の範囲をいう。
多孔体の孔内のpHは、多孔体を構成する材料や(検知剤に含まれる)弱酸と強塩基の塩などにより調整されうる。例えば、多孔体が、孔内のpHが酸性(例えば4未満、好ましくは3以下)の多孔質ガラスである場合、検知剤は、弱酸と強塩基の塩をさらに含むことが好ましい。
【0014】
揮発性硫黄化合物検知素子において、分子内にジスルフィド結合を有する化合物は、検知性能を高める観点では、ピリジン環をさらに有することが好ましく、ピリジン環に電子吸引基が結合していることがより好ましい。電子吸引基の例には、ニトロ基、アセチル基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基などが含まれ、好ましくはニトロ基である。また、分子内にジスルフィド結合を含み、電子吸引基が結合しているピリジン環を有する化合物は、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)であることが好ましい。弱酸と強塩基の塩は、酢酸ナトリウムもしくはクエン酸ナトリウムであることが好ましい。なお、多孔体は、平均孔径が50nm以下の多孔質ガラスあるいはナノシリカ多孔体であることが好ましい。
【0015】
そして、上記のように構成された揮発性硫黄化合物検知素子の孔内に揮発性硫黄化合物が侵入すると、揮発性硫黄化合物が、孔内に配置された分子内にジスルフィド結合を有する化合物と反応する。それにより、より長波長に光吸収を有し、化合物によっては可視領域にわたる光吸収特性を備える反応生成物が生成される。特に、反応生成物が光吸収を示す吸収極大の波長が、反応出発物である分子内にジスルフィド結合を有する化合物の光吸収を示す吸収極大の波長よりも、25nm以上の長波長領域に存在する場合のように、反応出発物と反応生成物の吸収スペクトルが明らかに異なるという特徴がある。
【0016】
それにより、気体中に含まれている揮発性硫黄化合物を、高感度にかつ簡便に測定することが出来るという優れた効果が得られる。また、本開示の揮発性硫黄化合物検知素子は、揮発性硫黄化合物に特有の反応を利用しているため、気体中に含まれる揮発性硫黄化合物を、選択的に検知および測定することができる。
また、多孔体は比表面積が大きいため、ポンプなどを用いて気体の吸引をする必要がなく省電力である。また、多孔体は、作製時に少量の化学薬品を用いるだけで、検出時に化学薬品の使用が必要ないという、環境面でも優れた効果が得られる。
【0017】
以下、本開示の実施の形態について図を参照して説明する。
【0018】
[実施の形態1]
<揮発性硫黄化合物検知素子>
はじめに、本開示の実施の形態1における揮発性硫黄化合物検知素子について、検知素子の作製方法とともに説明する。
【0019】
まず、揮発性硫黄化合物検知素子の作製方法について説明する。
図1(a)に示すように、分子内にジスルフィド結合を有する化合物(検知化合物)として、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)0.008gと、弱酸と強塩基の塩(緩衝化合物)として、酢酸ナトリウム0.12gとをエタノールに溶解して全量を25mlとした検知剤101を、容器102の中に作製する。
【0020】
なお、分子内にジスルフィド結合を有する化合物としては、ピリチノール、ビス(3-ニトロフェニル)ジスルフィド、4、4’-ジクロロ-2、2’-ジニトロビフェニルジスルフィド、2、2’-ジベンゾチアゾールジスルフィド、5、5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、2、2’-ジピリジルジスルフィド、4、4’-ジピリジルジスルフィド、2-ニトロフェニルジスルフィド、6、6’-ジチオニコチン酸、4-メチル-2-キノリルジスルフィド、ビス(5-(2-メトキシエトキシ)-2-ピリミジニル)ジスルフィド、2-ニトロ-p-トリルジスルフィドを用いてもよい。
【0021】
弱酸と強塩基の塩としては、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを用いてもよい。
【0022】
弱酸と強塩基の塩は、検知剤を備える多孔体103の孔内のpHが、上述したように、分子内にジスルフィド結合を有する化合物と揮発性硫黄化合物とが反応する範囲となるように添加されればよい。例えば、多孔体103が、孔内のpHが3以下の多孔質ガラスである場合、検知剤における弱酸と強塩基の塩の含有量は、分子内にジスルフィド結合を有する化合物に対して質量比で5~25倍であることが好ましく、10~20倍であることがより好ましい。
【0023】
検知剤101は、上記の分子内にジスルフィド結合を有する化合物および弱酸と強塩基の塩以外の他の成分、例えば溶剤(本実施の形態ではエタノール)をさらに含みうる。
【0024】
次に、
図1(b)に示すように、検知剤101に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103(担体)を浸漬する。多孔体103は、例えば、コーニング社製のバイコール#7390である。多孔体103の孔内のpHは、2~3である。また、多孔体103は、例えば、8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。なお、多孔体103の平均孔径は、50nm以下であることが好ましい。また、ここでは、揮発性硫黄化合物検知素子103aを板状としたが、これに限るものではなく、ファイバ状に形成するようにしてもよい。
【0025】
多孔体103をガラス(硼珪酸ガラス)で構成した場合、この平均孔径を50nm以下とすることで、可視UV波長領域(波長200~2000nm)での透過スペクトルの測定において、可視領域(380~800nm)では光がより透過する。平均孔径が20nmを超えて大きくなると、可視領域で透過率の減少が観測されることがあるが(特許第3639123号参照)、50nm以下であると、光の透過率を良好に測定することが可能である。このことにより、多孔体103の平均孔径が20nm以下であると、より精度良く測定可能であるため、好ましい。なお、多孔体103の平均孔径の下限値は、特に制限されないが、例えば4nmとしうる。本実施の形態における多孔体103の比表面積は、1g当たり100m2以上であることが好ましい。
【0026】
多孔体103の平均孔径および比表面積は、ガス吸着法により測定することができる。
【0027】
なお、多孔体103は、多孔質ガラスに限らず、担持する検知剤(検知溶液)と反応しない材料で構成されていてもよい。例えば、シリカエアロゲルのようなナノシリカ多孔体を用いる場合は、弱酸と強塩基の塩は用いなくともよい場合があるが、用いることでより高感度に検出することができる。ナノシリカ多孔体としては、例えば、シリカエアロゲルと不織布繊維などからなる複合材料などが挙げられる。また、その他の多孔体材料としては、MCM-41をはじめとするメソポーラスシリカ系材料、ZSM-5をはじめとするゼオライト系材料なども用いることができる。
【0028】
上述した多孔体103を、検知剤101に、遮光した状態で24時間含浸し、多孔体103の孔内に検知剤101を含浸させる。その後、検知剤101が含浸した多孔体103を風乾させ、
図1(c)に示すように、遮光状態で窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥させて、揮発性硫黄化合物検知素子103aを作製する。従って、揮発性硫黄化合物検知素子103aの多孔体103の孔内には、分子内にジスルフィド結合を有する化合物を含む検知剤101(多孔質ガラスや一部のシリカエアロゲルのようなナノシリカ多孔体の場合は、弱酸と強塩基の塩をさらに含む検知剤)が導入され、担持されている。
【0029】
本開示の実施の形態1では、分子内にジスルフィド結合を有する化合物として2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)を用い、弱酸と強塩基の塩として酢酸ナトリウムを用いている。このように構成された揮発性硫黄化合物検知素子103aによれば、孔内に揮発性硫黄化合物が侵入すると、孔内に配置された分子内にジスルフィド結合を有する化合物(2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン))が、揮発性硫黄化合物と弱酸性~中性の条件下(本実施の形態ではpHが約5~8)で反応し、可視領域に光吸収特性を備える反応生成物が生成される。弱酸性の条件は、弱酸と強塩基の塩と、多孔質ガラスの酸性とにより達成される。このように、孔内が酸性である多孔体の場合は、酢酸ナトリウムのような弱酸と強塩基の塩を共用するのが好ましい。
【0030】
<揮発性硫黄化合物の検出方法>
次に、揮発性硫黄化合物検知素子103aを用いた揮発性硫黄化合物の検出方法について説明する。
【0031】
まず、揮発性硫黄化合物検知素子103aの厚さ方向の吸光度を測定する。例えば、
図1(d)に示すように、光強度I
0の入射光を、揮発性硫黄化合物検知素子103aに透過させた透過光の強度Iを測定し、これらより吸光度(=log
10(I
0/I))を求める。
【0032】
次に、
図1(e)に示すように、例えば1.5ppmの濃度のメチルメルカプタンが存在する測定対象の空気104中に、揮発性硫黄化合物検知素子103aを24時間曝露する。この曝露は、室温(約25℃)の状態で行う。この後、曝露後の揮発性硫黄化合物検知素子103bを測定対象の空気104中より取り出し、
図1(f)に示すように、曝露後の検知素子103bの厚さ方向の吸光度を測定する。
【0033】
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を
図2に示す。
図2では、測定対象の空気に曝露する前の吸光度の測定結果を破線で示し、曝露した後の吸光度の測定結果を実線で示す。
【0034】
図2に示すように、波長385nm程度を中心として波長330~450nmの範囲において、実線と破線との間に大きな違いがみられる。吸収極大を示す波長は、反応出発物の2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)では310nm、反応生成物の2-チオ-5-ニトロピリジンでは385nmであり、両者の間の違いは75nmである。特に、可視領域である380~450nmに大きな違いがみられる。曝露前の揮発性硫黄化合物検知素子103aは目視でほぼ透明にみられるが、曝露後の揮発性硫黄化合物検知素子103bは黄色にみられる。
【0035】
図2に示したように、メチルメルカプタンが含まれる空気に揮発性硫黄化合物検知素子103aを曝露した後の、揮発性硫黄化合物検知素子103bの吸光度の測定(実線)では、おおよそ385nmを中心とした吸光度が増加している。従って、本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aにおける光吸収の変化の測定や、色の変化の観察により、揮発性硫黄化合物の測定及び定量などの測定が可能になる。例えば、紫外の発光ダイオード(中心波長385nm)からの光の透過率を測定することで、上記光吸収の変化が検出可能である。
【0036】
<検出範囲>
次に、本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aを用いた測定例について説明する。
【0037】
例えば、メチルメルカプタン濃度を0.01~1.5ppmの濃度範囲で作製した試料空気に、本実施の形態の揮発性硫黄化合物検知素子103aを、24時間曝露する。この曝露の前と後とにおける揮発性硫黄化合物検知素子103aの、波長385nmにおける透過吸光度の差と、試料空気におけるメチルメルカプタン濃度との関係を調べると、メチルメルカプタン濃度が高い試料空気に曝露された揮発性硫黄化合物検知素子103aほど、吸光度の差が大きいものとなる。
【0038】
また、メチルメルカプタン濃度が0.01ppmと低濃度であっても検出されており、高感度でメチルメルカプタンの検出が可能なことが判る。
【0039】
また、メチルメルカプタンの濃度を1.5ppmの濃度で作製した試料空気に、本実施の形態の揮発性硫黄化合物検知素子103aを、6時間及び12時間曝露する。この曝露の前と後とにおける揮発性硫黄化合物検知素子103aの、波長385nmにおける透過吸光度の差と、試料空気におけるメチルメルカプタン濃度との関係を調べると、いずれの試料空気においても、曝露時間が長いほど、吸光度の差が大きくなっている。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態1における揮発性硫黄化合物検知素子103aによれば、光を透過する多孔質ガラスである多孔体103を基板とし、この複数の孔内に2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)及び酢酸ナトリウムを含む検知剤101を担持させている。それにより、空気中に含まれるppbレベルの微量な揮発性硫黄化合物を、精度よく測定することが可能となる。また、測定の時間を長くするほど、吸光度の変化が大きく測定される。そのため、本検知素子は、時間的に蓄積した濃度の測定が可能であり、ppbレベルの極微量な濃度の揮発性硫黄化合物の測定も可能である。
【0041】
前述した本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aを用いた測定装置は、例えば、発光光の中心波長が385nmの紫外光発光ダイオードと、フォトディテクターと、それらの間に配置された本検知素子とを有する。そして、当該測定装置は、揮発性硫黄化合物検知素子103aを透過した光をフォトディテクターで検出可能とし、フォトディテクターからの出力信号を処理して、吸光度の変化を出力するように構成されている。このような簡便な装置構成で、上述した極微量な揮発性硫黄化合物の測定が容易に行える。
【0042】
[実施の形態2]
次に、本開示の実施の形態2における揮発性硫黄化合物検知素子について、揮発性硫黄化合物検知素子の作製方法とともに説明する。
【0043】
はじめに、揮発性硫黄化合物検知素子の作製方法について説明する。以下でも、実施の形態1と同様に
図1(a)~
図1(f)を用いて説明する。
【0044】
まず、
図1(a)に示すように、分子内にジスルフィド結合を有する化合物(検知化合物)として、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)0.008gと、弱酸と強塩基の塩(緩衝化合物)として、酢酸ナトリウム0.12gとをエタノールに溶解して全量を25mlとした検知剤101を、容器102の中に作製する。
【0045】
次に、
図1(b)に示すように、検知剤101に、シリカのエアロゲルを含む多孔体103(シリカキセロゲル複合材料から作製した多孔体を含む)を浸漬する。多孔体103は、例えば基板(好ましくは疎水性基板)である。シリカのエアロゲルから作製した多孔体103は、複数の細孔を有し、孔内のpHは4~5である。また、多孔体103は、例えば、8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。
【0046】
上述した多孔体103を検知剤101に24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知剤101を含浸させる。その後、検知剤が含浸した多孔体103を風乾させ、
図1(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥させて、揮発性硫黄化合物検知素子103aを作製する。従って、揮発性硫黄化合物検知素子103aの多孔体103の孔内には、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)よりなる検知剤101が導入され、担持されている。
【0047】
このように構成された揮発性硫黄化合物検知素子103aによれば、孔内に揮発性硫黄化合物が侵入すると、孔内に配置されたジスルフィド結合を分子内に有する化合物(2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン))が揮発性硫黄化合物と反応し、可視領域に光吸収特性を備える反応生成物が生成される。この結果、以下に示すように、揮発性硫黄化合物検知素子103aの吸光度が、揮発性硫黄化合物を測定した後に変化すると考えられる。
【0048】
次に、揮発性硫黄化合物検知素子103aを用いた揮発性硫黄化合物の検出方法について説明する。
【0049】
まず、揮発性硫黄化合物検知素子103aの厚さ方向の吸光度を測定する。例えば、
図1(d)に示すように、光強度I
0の入射光を揮発性硫黄化合物検知素子103aに透過させた透過光の強度Iを測定し、これらより吸光度(=log
10(I
0/I))を求める。
【0050】
次に、
図1(e)に示すように、例えば1.5ppmの濃度のメチルメルカプタンが存在する測定対象の空気104中に、揮発性硫黄化合物検知素子103aを24時間曝露する。この曝露は、室温(約20℃)の状態で行う。この後、曝露後の検知素子103bを測定対象の空気104中より取り出し、
図1(f)に示すように、曝露後の揮発性硫黄化合物検知素子103bの厚さ方向の吸光度を測定する。
【0051】
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を、
図3に示す。
図3では、測定対象の空気に曝露する前の吸光度の測定結果を破線で示し、曝露した後の吸光度の測定結果を実線で示す。
図3に示すように、波長430nm程度を中心として波長360~500nmの範囲において、実線と破線との間に大きな違いがみられる。なお、350nm以下の範囲では吸光度が高いために飽和している。特に、可視領域である400~500nmに大きな違いがみられ、曝露前の揮発性硫黄化合物検知素子103aは目視でほぼ透明にみられるが、曝露後の揮発性硫黄化合物検知素子103bは黄色にみられる。
【0052】
図3に示したように、メチルメルカプタンが含まれる空気に揮発性硫黄化合物検知素子103aを曝露した後の、揮発性硫黄化合物検知素子103bの吸光度の測定(実線)では、おおよそ370nm以上の吸光度が増加している。従って、本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aにおける光吸収の変化の測定や、色の変化の観察により、揮発性硫黄化合物の測定及び定量などの測定が可能になる。例えば、薄紫色の発光ダイオード(中心波長412nm)からの光の透過率を測定することで、上記光吸収の変化が検出可能である。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aによれば、シリカのエアロゲルより生成される多孔体103を基板とし、この複数の孔内に2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)と弱酸と強塩基の塩(緩衝化合物)を含む検知剤101を担持させている。それにより、空気中に含まれるppmレベルの微量な揮発性硫黄化合物を、精度よく測定することが可能となる。
【0054】
前述した本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aを用いた測定装置は、上記と同様に、例えば、発光光の中心波長が412nmの薄紫色の発光ダイオードと、フォトディテクターと、それらの間に配置された本検知素子とを有する。そして、当該測定装置は、揮発性硫黄化合物検知素子103aを透過した光をフォトディテクターで検出可能とし、フォトディテクターからの出力信号を処理して、吸光度の変化を出力するように構成されている。このような簡便な装置構成で、上述した極微量な揮発性硫黄化合物の測定が容易に行える。
【0055】
[実施の形態3]
次に、本開示の実施の形態3における揮発性硫黄化合物検知素子について、揮発性硫黄化合物検知素子の作製方法とともに説明する。
【0056】
はじめに、揮発性硫黄化合物検知素子の作製方法について説明する。以下でも、実施の形態1と同様に
図1(a)~
図1(f)を用いて説明する。
【0057】
まず、
図1(a)に示すように、分子内にジスルフィド結合を有する化合物として、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)0.008gをエタノールに溶解し、全量を25mlとした検知剤101を容器102の中に作製する。
【0058】
次に、
図1(b)に示すように、検知剤101に、シリカのエアロゲルを含む多孔体103(シリカキセロゲル複合材料から作製した多孔体を含む)を浸漬する。多孔体103は、例えば基板(好ましくは親水性基板)である。シリカのエアロゲルから作製した多孔体103は、複数の細孔を有し、孔内のpHは4~5である。また、多孔体103は、例えば、8(mm)×8(mm)で厚さ1(mm)のチップサイズである。
【0059】
上述した多孔体103を検知剤101に24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知剤101を含浸させる。その後、検知剤が含浸した多孔体103を風乾させ、
図1(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥させて、揮発性硫黄化合物検知素子103aを作製する。従って、揮発性硫黄化合物検知素子103aの多孔体103の孔内には、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)よりなる検知剤101が導入され、担持されている。本実施の形態では、分子内にジスルフィド結合を有する化合物として、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)を用い、弱酸と強塩基の塩は用いていない。
【0060】
すなわち、シリカエアロゲルのように孔内のpH環境が弱酸性~弱塩基性の多孔体の場合は、弱酸と強塩基の塩を共存させなくともよい。すなわち、孔内に揮発性硫黄化合物が侵入すると、孔内に配置された、分子内にジスルフィド結合を有する化合物(2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン))と揮発性硫黄化合物とが、弱酸性~弱塩基性の条件、好ましくは弱酸性~中性の条件(本実施の形態ではpHが約5)で反応する。この結果、以下に示すように、揮発性硫黄化合物検知素子103aの吸光度が、揮発性硫黄化合物を測定した後に変化すると考えられる。
【0061】
このように構成された揮発性硫黄化合物検知素子103aによれば、孔内に揮発性硫黄化合物が侵入すると、孔内に配置されたジスルフィド結合を分子内に有する化合物(2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン))が揮発性硫黄化合物と反応し、可視領域に光吸収特性を備える反応生成物が生成される。この結果、以下に示すように、揮発性硫黄化合物検知素子103aの吸光度が、揮発性硫黄化合物を測定した後に変化すると考えられる。
【0062】
次に、揮発性硫黄化合物検知素子103aを用いた揮発性硫黄化合物の検出方法について説明する。
【0063】
まず、揮発性硫黄化合物検知素子103aの厚さ方向の吸光度を測定する。例えば、
図1(d)に示すように、光強度I
0の入射光を揮発性硫黄化合物検知素子103aに透過させた透過光の強度Iを測定し、これらより吸光度(=log
10(I
0/I))を求める。
【0064】
次に、
図1(e)に示すように、例えば1.5ppmの濃度のメチルメルカプタンが存在する測定対象の空気104中に、揮発性硫黄化合物検知素子103aを3時間曝露する。この曝露は、室温(約20℃)の状態で行う。この後、曝露後の検知素子103bを測定対象の空気104中より取り出し、
図1(f)に示すように、曝露後の揮発性硫黄化合物検知素子103bの厚さ方向の吸光度を測定する。
【0065】
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を、
図4に示す。
図4では、測定対象の空気に曝露する前の吸光度の測定結果を破線で示し、曝露した後の吸光度の測定結果を実線で示す。
図4に示すように、波長400nm程度を中心として波長360~450nmの範囲において、実線と破線との間に大きな違いがみられる。なお、350nm以下の範囲では吸光度が高いために飽和している。特に、可視領域である400~450nmに大きな違いがみられ、曝露前の揮発性硫黄化合物検知素子103aは目視でほぼ透明にみられるが、曝露後の揮発性硫黄化合物検知素子103bは薄い黄色にみられる。
【0066】
図4に示したように、メチルメルカプタンが含まれる空気に揮発性硫黄化合物検知素子103aを曝露した後の、揮発性硫黄化合物検知素子103bの吸光度の測定(実線)では、おおよそ370nm以上の吸光度が増加している。従って、本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aにおける光吸収の変化の測定や、色の変化の観察により、揮発性硫黄化合物の測定及び定量などの測定が可能になる。例えば、薄紫色の発光ダイオード(中心波長412nm)からの光の透過率を測定することで、上記光吸収の変化が検出可能である。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aによれば、シリカのエアロゲルより生成される多孔体103を基板とし、この複数の孔内に2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)を含む検知剤101を担持させている。それにより、空気中に含まれるppmレベルの微量な揮発性硫黄化合物を、精度よく測定することが可能となる。
【0068】
前述した本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子103aを用いた測定装置は、上記と同様に、例えば、発光光の中心波長が412nmの薄紫色の発光ダイオードと、フォトディテクターと、それらの間に配置された本検知素子とを有する。そして、当該測定装置は、揮発性硫黄化合物検知素子103aを透過した光をフォトディテクターで検出可能とし、フォトディテクターからの出力信号を処理して、吸光度の変化を出力するように構成されている。このような簡便な装置構成で、上述した極微量な揮発性硫黄化合物の測定が容易に行える。
【0069】
[比較例1]
次に、比較例1における検知素子について、検知素子の作製方法とともに説明する。はじめに、検知素子の作製方法について説明する。以下、
図5(a)~
図5(f)を用いて説明する。
【0070】
まず、
図5(a)に示すように、分子内にジスルフィド結合を有する化合物として、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)0.01gをエタノールに溶解し、弱酸と強塩基の塩である酢酸ナトリウムは含まずに全量を25mlとした検知剤101’を容器102の中に作製する。
【0071】
次に、
図5(b)に示すように、検知剤101’に、平均孔径4nmの多孔質ガラスである多孔体103を浸漬する。多孔体103は、例えば、コーニング社製のバイコール#7930である。
【0072】
上述した多孔体103を検知剤101’に24時間浸漬し、多孔体103の孔内に検知剤101を含浸させる。その後、検知剤101’が含浸した多孔体103を風乾させ、
図5(c)に示すように、窒素ガス気流中に24時間放置して乾燥させて、検知素子103a’を作製する。従って、検知素子103a’の多孔体103の孔内には、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)よりなる検知剤が導入され、担持されている。
【0073】
次に、検知素子103a’を用いた揮発性硫黄化合物の検出方法について説明する。
【0074】
まず、検知素子103a’の厚さ方向の吸光度を測定する。例えば、
図5(d)に示すように、光強度I
0の入射光を検知素子103a’に透過させた透過光の強度Iを測定し、これらより吸光度(=log
10(I
0/I))を求める。
【0075】
次に、
図5(e)に示すように、例えば1.5ppmの濃度のメチルメルカプタンが存在する測定対象の空気104中に、検知素子103a’を24時間曝露する。この曝露は、室温(約25℃)の状態で行う。この後、曝露後の検知素子103b’を測定対象の空気104中より取り出し、
図5(f)に示す様に、曝露後の検知素子10賛美―’野厚さ方向野吸光度を測定する。
【0076】
上述した2回の吸光度の測定(吸光光度分析)結果を、
図6に示す。
図6では、測定対象の空気に曝露する前の吸光度の測定結果を破線で示し、曝露した後の吸光度の測定結果を実線で示す。
図6に示すように、揮発性硫黄化合物曝露後も可視領域での吸光度に違いは見られず、吸光度の変化は紫外領域のみで確認された。この紫外領域での吸光度の変化は、メチルメルカプタン溶剤であったトルエンによるものである。このように、可視領域での吸光度に違いが見られなかったのは、検知剤101’が担持された孔内のpHが酸性のままであり、揮発性硫黄化合物と分子内にジスルフィド結合を有する化合物との反応がほとんど起こらなかったためであると考えられる。
【0077】
上記実施の形態1~3および比較例1の評価結果を、表1にまとめる。
【0078】
【0079】
(揮発性硫黄化合物の検知メカニズム)
上記実施の形態1~3の揮発性硫黄化合物検知素子における、揮発性硫黄化合物の検知メカニズムの詳細については、以下のように推察される。
【0080】
まず、揮発性硫黄化合物として、チオール基を有する化合物を検知する場合(前述した実施の形態1~3参照)、揮発性硫黄化合物検知素子における光吸収の変化は、特定のpHの範囲下において、ジスルフィド結合とチオール基の反応によりジスルフィド結合が開裂した結果と考えられる。特に、ジスルフィド結合がピリジン環の2位もしくは4位に結合している場合に、この開裂が起こりやすいと考えられる。
分子内にジスルフィド結合を有する化合物を用いた、生体内のチオール基を有する化合物の検出方法は、イールマン試薬に代表されるように溶液系では一般的に用いられている。この場合は、緩衝液を用いて溶液のpHを調整しながら、溶液内でチオール基の水素を解離させ、イオン化して検出を行う。この方法では、溶液を用いる複雑な手順が必要であり、さらに溶液試料にしか適用できない分析方法である。
【0081】
これに対し、上述した本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子によれば、溶液を用いる複雑な手順の必要はなく、さらに気体状態の揮発性硫黄化合物の検出が可能である。本実施の形態によれば、揮発性硫黄化合物検知素子の基板が多孔体であるため、表面積が大きく、また透明であるため、吸光度の測定が可能である。また、可視領域での含浸化合物の吸収スペクトルの吸収極大の波長と反応生成物の吸収極大の波長との差が一定以上(例えば25nm以上)であるか、波長360~450nmの範囲の吸光度が増加するため、簡便に揮発性硫黄化合物の測定が可能である。また、反応生成物の吸収極大が可視領域に近いため、目視による観察も可能である。
【0082】
このことは、実施の形態1~3に示した2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)以外の分子内にジスルフィド結合を有する化合物(ピリチノール、ビス(3-ニトロフェニル)ジスルフィド、4、4’-ジクロロ-2、2’-ジニトロビフェニルジスルフィド、2、2’-ジベンゾチアゾールジスルフィド、5、5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、2、2’―ジピリジルジスルフィド、4、4’-ジピリジルジスルフィド、2-ニトロフェニルジスルフィド、6、6’-ジチオニコチン酸、4-メチル-2-キノリルジスルフィド、ビス(5-(2-メトキシエトキシ)-2-ピリミジニル)ジスルフィドなど)においても同様である。例えば、孔内に侵入してきた揮発性硫黄化合物と、各化合物により、前述した反応生成物が生成される。また、この反応生成物は、室温で安定に多孔質孔内に存在すると考えられる。また、従来の検知管に用いられている酢酸鉛では、気体の揮発性硫黄化合物の検出が可視的に可能であるが、揮発性硫黄化合物以外の物質でも同様の反応が起こり、それを分離することは難しく、さらに定量性が低い。本実施の形態における揮発性硫黄化合物検知素子によれば、チオール基特有の反応を用いることで、他の干渉物質と区別することが出来る。
【0083】
なお、上記実施の形態1~3では、分子内にジスルフィド結合を有する化合物として、2、2’-ジチオビス-(5-ニトロピリジン)を用いたが、これに限らず、揮発性硫黄化合物との反応前後での吸収スペクトルの極大値が25nm以上離れている化合物を用いることもできる。また、上記実施の形態1および2では、弱酸と強塩基の塩として、酢酸ナトリウムを用いたが、これに限るものではない。例えば、リン酸水素二ナトリウムやクエン酸ナトリウムでも同様である。
【0084】
また、上記実施の形態1~3では、揮発性硫黄化合物検知素子における吸光度の変化は、色の変化として目視により確認容易なものを用いたが、これに限らない。例えば、色の変化以外に、例えば、波長300~400nm付近の光吸収強度が変化するものであれば、紫外のLED光源を用いることで簡単に計測が可能である。
【符号の説明】
【0085】
101・・・検知剤、102・・・容器、103・・・多孔体、103a・・・揮発性硫黄化合物検知素子、103b・・・曝露後の揮発性硫黄化合物検知素子、104・・・測定対象の空気