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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185855
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】食肉製品用ケーシング
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20221208BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20221208BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
A23L13/60 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093744
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】岩井 浩二
(72)【発明者】
【氏名】田口 靖希
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勝則
(72)【発明者】
【氏名】中澤 重仁
(72)【発明者】
【氏名】駒崎 睦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 清太郎
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC10
4B042AD03
4B042AG03
4B042AH04
4B042AH06
4B042AK10
4B042AP01
(57)【要約】
【課題】従来よりも優れた人工ケーシングを提供する。
【解決手段】豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなる、共押出製法用ケーシング。豚腸由来コラーゲンドゥ:豚皮由来コラーゲンドゥの比は、例えば、30~60%:70~40%であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなる、共押出製法用ケーシング。
【請求項2】
豚腸由来コラーゲンドゥ:豚皮由来コラーゲンドゥの比が30~60%:70~40%である、請求項1に記載の共押出製法用ケーシング。
【請求項3】
豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなるケーシング材料と、原料肉類を含む食品材料とを同時に押し出す工程を含む、食肉製品類の共押出製法。
【請求項4】
豚腸由来コラーゲンドゥ:豚皮由来コラーゲンドゥの比が30~60%:70~40%である、請求項3に記載の共押出製法。
【請求項5】
豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなるケーシング材料。
【請求項6】
豚腸由来コラーゲンドゥ:豚皮由来コラーゲンドゥの比が30~60%:70~40%である、請求項5に記載のケーシング材料。
【請求項7】
請求項1または2に記載の共押出製法用ケーシングを備える、あるいは請求項3または4に記載の共押出製法を実施する工程を含む製造方法により得られた、食肉製品類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーセージ等の食肉製品の製造に用いられる、好ましくは共押出法において用いられる、ケーシングに関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー症状を持つ患者にとって食物アレルギーは非常に深刻な問題である。ハムやソーセージなどの畜肉製品に使用される牛肉、豚肉および鳥肉は食物アレルギーに該当し、加工食品への表示が推奨されている。
【0003】
ソーセージは、挽肉に塩および香辛料等を入れ混合し、ケーシングに充填して加熱した食肉製品である。ケーシングには、羊腸および豚腸ケーシング等の天然品が使用される他、コラーゲンで作られた人工ケーシングが使用されている。人工ケーシングには、(i)パイプ状に成形乾燥された後、シャーリング(ひだ寄せ)されており、原料肉を充填するだけの製法(本明細書において「充填製法」と呼ぶ。)で用いられるものと、(ii)コラーゲンドゥを原料肉と一緒に押し出し、押し出された配合肉の周囲にコラーゲンドゥからなるケーシングが形成されるようにする製法(本明細書において「共押出製法」と呼ぶ。)で用いられるものがある。共押出製法は生産性が高いが、食感が天然品より劣る問題点が挙げられている。
【0004】
また、人工ケーシングには一般的に豚皮由来コラーゲンドゥが使用されるとともに、食感を向上させるために、牛皮由来のコラーゲンドゥが用いられているため、2種類の畜肉由来アレルゲンが含まれている。
【0005】
人工ケーシングを使用したソーセージの食感を改良する手法として、特許文献1では、牛皮由来のI型コラーゲンと動物(豚等)の腸由来のIII型コラーゲンを90:100乃至75:25で含む混合物(コラーゲンブレンド)を用いて人工ケーシングを調製することが記載されている。しかしながら、そのような特許文献1の人工ケーシングは、豚肉由来だけでなく牛肉由来のアレルゲンを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-77415号公報(特許第3197236号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来よりも優れた人工ケーシングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、人工ケーシングの材料として、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなる混合物を用い、好ましくはこの人工ケーシングを用いて共押出法によりソーセージを製造することにより、食物アレルゲンを豚肉由来のみとすることができるだけでなく、天然品に近い食感を出せるようになることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1]
豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなる、共押出製法用ケーシング。
[2]
豚腸由来コラーゲンドゥ:豚皮由来コラーゲンドゥの比が30~60%:70~40%である、項1に記載の共押出製法用ケーシング。
[3]
豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなるケーシング材料と、原料肉類を含む食品材料とを同時に押し出す工程を含む、食肉製品類の共押出製法。
[4]
豚腸由来コラーゲンドゥ:豚皮由来コラーゲンドゥの比が30~60%:70~40%である、項3に記載の共押出製法。
[5]
豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなるケーシング材料。
[6]
豚腸由来コラーゲンドゥ:豚皮由来コラーゲンドゥの比が30~60%:70~40%である、項5に記載のケーシング材料。
[7]
項1または2に記載の共押出製法用ケーシングを備える、あるいは項3または4に記載の共押出製法を実施する工程を含む製造方法により得られた、食肉製品類。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、食物アレルゲンは豚肉由来のもののみに抑えつつ天然品に近い好ましい食感を有するケーシングを備えた、ソーセージ等の食肉製品類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1における、共押出製法により得られたソーセージ試料のケーシングの破断強度の測定結果を示す。
図2図2は、実施例1における、共押出製法により得られたソーセージ試料の官能評価の結果を示す。
図3図3は、実施例2における、充填製法用ケーシングの膜強度の測定結果を示す。
図4図3は、参考例における、ケーシングのプロリン水酸化率(A)およびリジン水酸化率(B)それぞれの測定結果(検量線)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
-共押出製法用ケーシング-
本発明の共押出製法用ケーシングは、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなるもの、つまりコラーゲンを供給するための原料として本質的に豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥのみを含むものであり、食物アレルゲンとして、豚腸および豚皮以外の原料(牛肉、鶏肉等)に由来するコラーゲンやその他のタンパク質は含まない。なお、本発明の作用効果が奏される範囲で、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥに加えて、他の原料をさらに含む共押出製法用ケーシングは、本発明の共押出製法用ケーシングを利用した発明ということができる。
【0013】
「豚腸由来コラーゲンドゥ」および「豚皮由来コラーゲンドゥ」は、本質的に、それぞれ豚腸由来コラーゲン(例えば、精製物または粗精製物)および豚皮由来コラーゲン(例えば、精製物または粗精製物)と水とを含み、その他の成分(例えば、コラーゲンの酸膨潤のために用いた酢酸、乳酸等)を含んでいてもよい混合物を指す。したがって、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなる本発明の共押出製法用ケーシングは、豚腸由来コラーゲンおよび豚皮由来コラーゲンならびに水等を含む組成物である。豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥは、十分な湿潤状態(ペースト状)において、約4~10%が固形分(コラーゲン)であり、残部(約90~96%)が水分である。
【0014】
なお、本明細書において、「共押出製法用ケーシング」は、共押出製法において、原料肉を含む食品材料を包み込むように用いられ、その状態で形成されるケーシングを指す。一方、「ケーシング材料」は、共押出製法においてそのようなケーシングを形成するために、原料肉を含む食品材料と共に押し出すようにして用いることができる材料であって、ケーシングとしての形状をまだ有していないものを指す。
【0015】
豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥは、それぞれ公知の方法で調製することができ、また市販品として入手することもできる。豚腸由来コラーゲンおよび豚皮由来コラーゲンの精製物または粗精製物は一般的に、それぞれ豚腸および豚皮から、アルカリ処理および酵素処理により非コラーゲン成分を除去した後に、水、酢酸および乳酸等を用いて酸膨潤させ、粉砕機を用いてペースト状のドゥとして調製することができる。原料として用いる豚腸および豚皮は、なるべく純度の高いコラーゲンが得られるよう、肉や脂肪を極力取り除く下処理などを行っておくことが好ましい。
【0016】
本発明の共押出製法用ケーシングにおける、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥの比率は、本発明の作用効果を考慮して、得られる食肉製品類の性状(例えば食感)が所望のものとなるよう、適宜調節することができる。一定の範囲までは、豚腸由来コラーゲンドゥの比率が増加する(豚皮由来コラーゲンドゥの比率が減少する)につれて、ケーシングの破断強度が上昇する、または官能評価において食感が強いという評価が多くなる傾向がある。本発明の一実施形態において、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥの比(本明細書において特に断らない限り、重量比を表す。)は、30~60%:70~40%の範囲で調節することが好ましく、50~60%:50~40%の範囲で調節することがより好ましい。豚腸由来コラーゲンドゥの比率が60%を超えると、ドゥ(ゲル)の流動性が低下して固くなり、ケーシングをうまく形成できない場合がある。なお、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥの固形分量はほぼ等しいので、本発明において必要であれば、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥの比は、それぞれに含まれている固形分量の比とみなす(換算する)ことも可能である。
【0017】
共押出製法用ケーシング(およびそれを形成するためのケーシング材料)に含まれる、豚腸由来コラーゲンおよび豚皮由来コラーゲンの比率は、例えば、プロリン水酸化率に基づき推定することが可能である。豚腸由来コラーゲンのプロリン水酸化率と、豚皮由来コラーゲンのプロリン水酸化率は相違している(一般的に、前者の方が後者より高い)ため、共押出製法用ケーシング全体としてのプロリン水酸化率は、豚腸由来コラーゲンおよび豚皮由来コラーゲンの比率に応じた値となる(一般的に、豚腸由来コラーゲンの比率が高いほど、共押出製法用ケーシングのプロリン水酸化率も高くなる)。したがって、豚腸由来コラーゲンおよび豚皮由来コラーゲンの比率が分かっている共押出製法用ケーシングの標準試料を用いて、プロリン水酸化率の検量線を作成しておくことで、共押出製法用ケーシングのサンプルのプロリン水酸化率の測定値から、測定対象とした共押出製法用ケーシングの豚腸由来コラーゲンおよび豚皮由来コラーゲンの比率を推定することが可能である。プロリン水酸化率の代わりに、リジン水酸化率を指標とした場合も、同様の推定が可能である。
【0018】
本発明の共押出製法用ケーシングは、例えば、上記のような形成方法により得られる(共押出製法において、原料肉を含む食品材料を包み込むように用いられる)ものであることや、食感を良好なものとすることを考慮して、例えば30~100μm、好ましくは60~100μm、より好ましくは60~80μmの膜厚を有するものとすることができる。また、本発明の共押出製法用ケーシングは、例えば、後記実施例に示した手法により測定される破断強度が、好ましくは600~800gの範囲、より好ましくは700~800gの範囲にあるものとして得ることができる。膜厚および破断強度を調節することにより、共押出製法において用いる際に好ましく、かつ得られる食品にとって好ましい特性を有する共押出製法用ケーシングとすることができる。一般的に、膜厚が薄く、破断強度が高いと、ケーシングの食感はよくなる傾向にある。
【0019】
本発明における「食肉製品類」は、典型的にはソーセージであるが、共押出製法によりソーセージと同様に製造することができる、ケーシングを有する食肉製品類であれば、食品分類上はソーセージには該当しない食肉製品類であってもよい。ソーセージ以外の食肉製品類としては、例えば、魚肉ソーセージや、ソーセージタイプのミートレス製品(食肉由来の食材の代替として、卵、乳等の動物性タンパク由来の食材または大豆等の植物性タンパク由来の食材を用いて製造された食肉製品類似品)またはハイブリッド製品(食肉と、動物性タンパク由来の食材および/または植物性タンパク由来の食材との混合物を用いて製造された食肉製品類似品)が挙げられる。
【0020】
-食肉製品類の共押出製法-
本発明の食肉製品類の共押出製法は、本明細書に記載した共押出製法用ケーシング、すなわち豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなるケーシングを形成するための材料と、原料肉類を含む食品材料とを同時に押し出す工程(以下「共押出工程」と呼ぶ。)を含む。このような本発明による共押出製法は、ケーシングとして本発明による特定のものを使用すること以外は、基本的に従来の一般的な、または公知の各種の共押出製法と同様に実施することができ、必要に応じて本発明に適合するよう変更することもできる。
【0021】
本発明の共押出製法で使用するケーシング材料は、本明細書に記載した共押出製法用ケーシングと同様に、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥからなるものであり、豚腸由来コラーゲンおよび豚皮由来コラーゲンならびに水を含有し、必要に応じてその他の成分をさらに含有していてもよいが、ケーシング材料の主体をなすコラーゲンについては、本質的には豚腸由来コラーゲンおよび豚皮由来コラーゲンのみからなるものである。ケーシング材料は、一般的または公知の手法に従って、豚腸由来コラーゲンドゥおよび豚皮由来コラーゲンドゥを混合し、共押出製法に適した流動性を有するペースト状の物質として調製することができる。
【0022】
本発明の共押出製法で使用する原料肉類を含む食品材料は、製造しようとする食肉製品類に応じて適宜調製することができる。典型的な食品材料類は、製造される食肉製品類(加工品)が食物アレルゲンとして豚肉由来のもののみを含むこととなるよう、原料肉として豚肉を含むが、牛肉や鶏肉は含まない(必要であれば、食物アレルゲンを含まない(表示が必要・推奨とされていない)その他の食肉は含むことは許容される)、ソーセージ用の食品材料である。一般的には、原料肉(豚肉)をあらびきのミンチ状にした後、食塩などを加えて冷蔵庫で数日間熟成させ(塩せき)、さらに調味料や香辛料を加えて混合することで、ソーセージ用の食品材料を調製することができる。ソーセージ以外の食肉製品類(例えば、魚肉ソーセージ、ソーセージタイプのミートレス製品またはハイブリッド製品)を製造する場合も、目的とする食肉製品類に対応した食品材料を調製して用いればよい。
【0023】
共押出工程の実施形態、例えば共押出工程に用いる装置・器具や、共押出に関する各種の条件は、適宜調節することができる。概略を記載すれば、食肉製品に応じて適切な芯部の太さおよび鞘部の厚さを有する同心円状の金具(押出ヘッド)を備え、内側から芯状に食品材料を、また外側から鞘状にケーシング材料を、それぞれ適切な速度で同調させながら押し出すことのできる押出装置が用いられる。
【0024】
食肉製品は、共押出工程の後、必要に応じてその他の工程を実施することで、最終製品として得ることができる。例えば、ソーセージを製造する場合は、共押出工程によりケーシング材料と食品材料とを同時に押し出した後、切断、乾燥、スモークリキッドによるスモークを行い、蒸気で加熱する工程、その後の冷却工程、適量のソーセージを包装する工程、などを経て製品化することができる。
【0025】
なお、本発明の共押出製法で使用するケーシング材料は、共押出製法以外の製法、特に、あらかじめパイプ状に成形乾燥された後、シャーリング(ひだ寄せ)されたケーシングを用いて、そこに食品材料を充填するような製法(充填製法)を実施するために使用することも可能である。すなわち本発明のケーシング材料は、共押出製法用ケーシングを作製するために使用することができるのみならず、充填製法用ケーシングを作製するために使用することもできる。
【0026】
本発明のケーシング材料を使用して充填製法用のケーシングを作製する場合も、基本的には従来の一般的な、または公知の各種の充填製法用のケーシングを作製する場合と同様に実施することができ、必要に応じて本発明に適合するよう変更することもできる。概略を記載すれば、調製されたケーシング材料を、装置から中空の鞘状に、塩水中に押し出し、塩析によりケーシングを形成し、適宜架橋処理を行った後、洗浄してパイプに巻き取る。このようにして得られたケーシング材料は、湿潤状態を保ったまま使用まで保存することが適切である。湿潤状態を保つための保存液の組成は、羊腸などの天然品の保存液の組成に準じて調節することができる。
【0027】
充填製法用ケーシングは、例えば、上記のような作製方法(塩水中への押出)により得られるものであることや、食感を良好なものとすることを考慮して、例えば60~100μm、好ましくは80~100μmの膜厚を有するものとすることができる。また、充填製法用ケーシングは、例えば、後記実施例に示した手法により測定される膜強度として、好ましくは400~600gの範囲にあるものとすることができる。膜厚および膜強度を調節することにより、充填製法において用いる際に好ましく、かつ得られる食品にとって好ましい特性を有する充填製法用ケーシングとすることができる。
【0028】
充填製法により製造することのできる食品としては、共押出製法により製造することができる食品として挙げた、ソーセージ、魚肉ソーセージ、ソーセージタイプのミートレス製品等の食肉製品類の他、例えばグミが挙げられる。目的とする食品に対応する食品材料を用いて、充填製法により各種の食品を製造することができる。
【実施例0029】
[実施例1]
豚腸由来コラーゲンドゥ(明細書に記載の方法に従って調製、固形分4.5%、水分95.5%)および豚皮由来コラーゲンドゥ(明細書に記載の方法に従って調製、固形分4.2%、水分95.8%)を用いて、豚腸由来コラーゲンドゥの比率を0%(含有しない)、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%とし、残部を豚皮由来コラーゲンドゥとした、ケーシング材料の試料を調製した。得られたケーシング材料の試料と、別途常法に従って豚肉を用いて調製したソーセージ用の材料とを用いて、共押出工程により充填後、切断、乾燥、スモークリキッドによるスモークを行い、蒸気でさらに加熱した後に、すばやく冷却することで、ソーセージの試料を製造した。なお、ケーシングの膜厚は60~80μmであった。ケーシングの膜厚は、充填後に10~30%くん液に5~30分浸漬し、皮を剥ぎ取り、膜厚計(株式会社ミツトヨ MDC-25MX)を用いて測定した。
【0030】
<破断強度の測定>
実施例1により得られたソーセージの各試料を、測定環境下と同じ温度となるように数時間静置した後に、3mm円柱プランジャーを取り付けたレオメーター(RHEOTECH社製 FUDOH RHEO METER RTC-3010D)を用いて、ケーシングの破断強度(ソーセージにプランジャーを挿入したときの破断点)を測定した。結果を図1に示す。豚腸由来コラーゲンドゥを含有しない試料(0%)に比べ、豚腸由来コラーゲンドゥを含有する試料は破断強度が上昇しており、例えば豚腸由来コラーゲンドゥを30%以上含有する試料は、比較的高い破断強度を有している。
【0031】
<官能評価>
実施例1により得られたソーセージの各試料をボイル調理したものを用いて、10人のパネリストにより、下記の評価基準に基づき、食感についての官能評価を行った。結果を図2に示す。豚腸由来コラーゲンドゥを含有しない試料(0%)に比べ、豚腸由来コラーゲンドゥを含有する試料は破断強度が上昇しており、例えば豚腸由来コラーゲンドゥを30%以上含有する試料は、比較的高い破断強度を有している。
評価基準:5=とても強い/4=強い/2=弱い/1=とても弱い
【0032】
[実施例2]
実施例1と同様のケーシング材料の試料を調製した後、成型機を用いて、コラーゲンドゥを20~25%塩化ナトリウム水溶液中に押出成型し、5~30分浸し、10~30%くん液に5~30分間反応させ、充填製法用ケーシングの試料を製造した。得られた充填製法用ケーシングの各試料について、次のような手順で膜強度を測定した。充填製法用ケーシングの試料をシート状に切り開いた。2つの測定治具(5mm厚のスポンジゴムを貼り付けた、50mm×50mm M10の板付きナット)で切り開いたケーシングを挟み込み、クリップ
で固定し、7mm球プランジャーを取り付けたレオメーターを用いて、ケーシングの膜強度(治具中心部のナット空洞部にプランジャーを挿入したときの破断点)を測定した。結果を図3に示す。実施例1における、共押出製法用ケーシングの破断強度の評価のときと同様、充填製法用ケーシングの膜強度についても、豚腸由来コラーゲンドゥを含有しない試料(0%)に比べ、豚腸由来コラーゲンドゥを含有する試料は膜強度が上昇しており、例えば豚腸由来コラーゲンドゥを30%以上含有する試料は、比較的高い膜強度を有している。なお、充填製法用ケーシングの膜厚は80~100μmであった。
【0033】
[参考例]
実施例1と同様にして、豚腸由来コラーゲンドゥの比率を0%(含有しない)、25%、50%としたケーシング材料の試料を調製した後、そのケーシング材料(コラーゲンドゥ)と、実施例1と同様にして共押出製法を用いてソーセージ(スモークソーセージ)が製造された状態の共押出製法用ケーシングのそれぞれについて、プロリン水酸化率およびリジン水酸化率を測定した。プロリン水酸化率およびリジン水酸化率は、ケーシング材料(コラーゲンドゥ)およびソーセージから剥離したケーシングを試料とし、アセトンを用いて脱脂・脱水処理をし、タンパク質の構成アミノ酸分析法に従って加水分解し、日立L-8900アミノ酸アナライザーを用いて、プロリン(Pro)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、リジン(Lys)、ヒドロキシリジン(Hyl)を定量し(mg/100g)、下記式により求めた。結果を図4に示す。豚腸由来コラーゲンドゥの比率が高いほど、プロリン水酸化率、リジン水酸化率いずれも直線的に上昇する傾向が認められ、検量線を作成して試料中の豚腸由来コラーゲンドゥの比率を推定することが可能であることが示された。
プロリン水酸化率=Hyp/(Pro+Hyp)×100
リジン水酸化率=Hyl/(Lys+Hyl)×100
図1
図2
図3
図4