(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185859
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法
(51)【国際特許分類】
A01G 9/02 20180101AFI20221208BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20221208BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20221208BHJP
A01N 37/40 20060101ALI20221208BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20221208BHJP
A01G 13/10 20060101ALI20221208BHJP
A01M 29/34 20110101ALI20221208BHJP
【FI】
A01G9/02 603Z
A01N25/34 Z
A01P17/00
A01N37/40
A01N61/00 Z
A01G13/10 Z
A01M29/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093750
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000166649
【氏名又は名称】五洋紙工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100076820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 健次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航太
【テーマコード(参考)】
2B024
2B121
2B327
4H011
【Fターム(参考)】
2B024AA01
2B024GA10
2B121AA11
2B121BB28
2B121BB32
2B121CA02
2B121CA64
2B121CC22
2B121FA13
2B327NC23
2B327NC24
2B327NC39
2B327NC43
2B327NC44
2B327NC52
2B327ND03
2B327ND09
2B327NE05
4H011AE02
4H011BB06
4H011BB22
4H011CC01
(57)【要約】
【課題】 育苗中および土壌への移植後の両方において、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物から植物苗類の食害を効果的に防止することができる育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の育苗ポットは、底部および側壁部を有するカップ基部と、開口端部を形成するようにカップ基部の上方に配置されておりかつ動物忌避剤を含有する忌避帯部とを備える。ここで、カップ基部および忌避体部はそれぞれ独立して生分解性材料で構成されており、忌避帯部の厚みはカップ基部の側壁部の厚みよりも大きくなるように設計されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部および側壁部を有するカップ基部と、開口端部を形成するように該カップ基部の上方に配置されておりかつ動物忌避剤を含有する忌避帯部とを備え、
該カップ基部および該忌避体部がそれぞれ独立して生分解性材料で構成されており、
該忌避帯部の厚みが該カップ基部の該側壁部の厚みよりも大きい、育苗ポット。
【請求項2】
前記忌避帯部の生分解性速度が、前記カップ基部の生分解性速度より遅い、請求項1に記載の育苗ポット。
【請求項3】
前記忌避帯部が、前記カップ基部の上方側壁部の周囲に前記動物忌避剤を含有する忌避シートを配置して構成されている、請求項1または2に記載の育苗ポット。
【請求項4】
前記忌避帯部が、前記カップ基部の前記側壁部の上方に、前記動物忌避剤を含有する環状の忌避シートを配置して構成されている、請求項1または2に記載の育苗ポット。
【請求項5】
前記忌避帯部が、前記カップ基部の上方側壁部に前記動物忌避剤を含有する肉厚部によって構成されている、請求項1または2に記載の育苗ポット。
【請求項6】
前記生分解性材料が、紙および生分解性高分子からなる群から選択される少なくとも1つの材料である、請求項1から5のいずれかに記載の育苗ポット。
【請求項7】
前記動物忌避剤が、サポニン、ヒドロキシ安息香酸ブチル、およびヒドロキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1から6のいずれかに記載の育苗ポット。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の育苗ポット内に植物苗類および培土が収容されている、植物苗類製品。
【請求項9】
植物苗類の移植方法であって、土壌に設けられた孔に請求項8に記載の植物苗類製品を該植物苗類製品の前記忌避帯部が該土壌の表面から露出するように配置する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業または園芸分野では、草花、果樹、庭木または樹木の生産のために、育苗ポットが多用されている。具体的には、例えば育苗ポット内で播種および発芽を行い、そのまま当該育苗ポット内で所定の大きさの苗(植物苗)になるまで生長させ、その後この苗を所定の土壌に移植することが行われている。一方で、その過程でナメクジ、カタツムリ、アブラムシなどの害虫による被害、特に芽から苗の状態ではナメクジやカタツムリなど柄眼目の軟体動物による食害が深刻である。
【0003】
これらを抑える手立てとしていくつかの技術が提案されている。例えば、特許文献1は、害虫の忌避剤を含む、ネットや織布、不織布、シートなどの部材を植物体の根元、あるいは植物体の幹または茎への巻き付けにより配置することにより、当該植物体の食害を防止することを開示する。
【0004】
しかし、こうした忌避剤を含む部材の配置では食害を十分に防止できず、さらに幹または茎への当該部材の巻き付けは植物体の生長自体に不適当となることもある。
【0005】
他方、特許文献2は、裏面には粘着剤などを付着させ、表面にはナメクジの忌避剤であるサポニンを付着させた合成樹脂製テープを植物体の根元や茎に巻き付けることを開示する。特許文献3は、サポニンを含有する生分解性プラスチックフィルムからなる軟体動物用忌避剤を開示する。特許文献4は、軟体動物の忌避のために、パラヒドロキシ安息香酸アルキルを含有するエチレン-エチルアクリレート共重合体樹脂(EEA樹脂)を含む樹脂組成物の使用について開示する。特許文献5は、紙製基材に生分解性樹脂を積層し、これを育苗ポットに使用することを開示している。
【0006】
しかし、上記を用いて育苗した植物苗を土壌に移植しても、移植後はナメクジなどの軟体動物をそのままで撃退することが難しい。さらにこれを解決するためには忌避剤や忌避材のさらなる使用が必要となるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-298915号公報
【特許文献2】特開2002-171892号公報
【特許文献3】特開2017-137261号公報
【特許文献4】特開2020-055950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、育苗中および土壌への移植後の両方において、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物から植物苗類の食害を効果的に防止することができる育苗ポットならびにそれを用いた植物苗類製品および植物苗類の移植方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、底部および側壁部を有するカップ基部と、開口端部を形成するように該カップ基部の上方に配置されておりかつ動物忌避剤を含有する忌避帯部とを備え、
該カップ基部および該忌避体部がそれぞれ独立して生分解性材料で構成されており、
該忌避帯部の厚みが該カップ基部の該側壁部の厚みよりも大きい、育苗ポットである。
【0010】
1つの実施形態では、上記忌避帯部の生分解性速度は、上記カップ基部の生分解性速度より遅い。
【0011】
1つの実施形態では、上記忌避帯部は、上記カップ基部の上方側壁部の周囲に上記動物忌避剤を含有する忌避シートを配置して構成されている。
【0012】
1つの実施形態では、上記忌避帯部は、上記カップ基部の上記側壁部の上方に、上記動物忌避剤を含有する環状の忌避シートを配置して構成されている。
【0013】
1つの実施形態では、上記忌避帯部は、上記カップ基部の上方側壁部に上記動物忌避剤を含有する肉厚部によって構成されている。
【0014】
1つの実施形態では、上記生分解性材料は、紙および生分解性高分子からなる群から選択される少なくとも1つの材料である。
【0015】
1つの実施形態では、上記動物忌避剤は、サポニン、ヒドロキシ安息香酸ブチル、およびヒドロキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0016】
本発明はまた、上記育苗ポット内に植物苗類および培土が収容されている、植物苗類製品である。
【0017】
本発明はまた、植物苗類の移植方法であって、土壌に設けられた孔に上記植物苗類製品を該植物苗類製品の上記忌避帯部が該土壌の表面から露出するように配置する工程を含む、方法である。
【0018】
本発明によれば、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物による食害から育苗中の植物苗類を効果的に保護できる。本発明の育苗ポットは、その全体が生分解性を有することにより、植物苗類とともに土壌にそのまま移植でき、これにより使用済のポットが廃棄ゴミとして残存する懸念から解放される。さらに、土壌への移植後は、本発明の育苗ポットに含まれる動物忌避剤が上記軟体動物からの食害を引き続き防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の育苗ポットの一例を示す図であって、(a)は当該育苗ポットの斜視図であり、(b)は当該育苗ポットの縦方向断面図である。
【
図3】本発明の育苗ポットの他の例を示す当該ポットの分解斜視図である。
【
図4】本発明の育苗ポットのさらに別の例を示す当該ポットの分解斜視図である。
【
図5】
図1に示す育苗ポットを用いた植物苗類製品の一例を説明するための斜視図である。
【
図6】
図5に示す植物苗類製品を土壌に移植する際の例を説明するための模式断面図であって、(a)は土壌に移植した直後の植物苗類製品の状態を示す断面図であり、(b)は土壌への移植後、育苗ポットの生分解が部分的に進行した植物苗類製品の状態を示す断面図であり、そして(c)は土壌への移植後、育苗ポットの生分解が完全に終了した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について図面を用いて詳述する。
【0021】
(育苗ポット)
図1は、本発明の育苗ポットの一例を示視図である。
図1の(a)に示すように、本発明の育苗ポット100は、カップ基部110と忌避帯部120とを備える。
【0022】
カップ基部110は、底部102および側壁部104を有し、これらによってカップ状の形態を構成する。底部102は、例えば円形、楕円形または矩形、六角形等の多角形を有する。
図1の(b)に示すように、本発明の育苗ポット100は、1つまたはそれ以上の水はけ用の孔105が設けられていてもよい。側壁部104は、好ましくは底部102から上方に向けて拡径するように設計されている。
【0023】
忌避帯部120は、カップ基部110の上方に配置されており開口端部106を形成し、そして動物忌避剤を含有する。
【0024】
ここで、本発明の育苗ポット100では、忌避帯部120の厚みTkが側壁部104の厚みTcよりも大きくなるように設計されている。ここで、忌避帯部120の厚みTkは忌避シート122の厚みと上方側壁部108の厚みとの合計を指して言う。忌避帯部120の厚みTkが側壁部104の厚みTcよりも大きいことにより、本発明の育苗ポット100が土壌中に移植された際、側壁部104よりも忌避帯部120の方が完全に生分解されるまでの時間を多く必要とすることになる。言い換えれば、土壌に移植された際に側壁部104が忌避帯部120よりも早く生分解されて消失する一方で、忌避帯部120は側壁部104よりも長く残存することができる。その結果、本発明の育苗ポット100は、その生分解性の性質を利用して土壌にそのまま移植できる一方で、忌避帯部120に含まれる動物忌避剤の忌避効果を長く保持することが可能となる。
【0025】
忌避帯部120の厚みTkは、必ずしも限定されないが、例えば0.05mm~3mmである。側壁部104の厚みTcもまた、必ずしも限定されないが、例えば本発明において、忌避帯部120の厚みTkと側壁部104の厚みTcの比Tk/Tcは例えば1より大きく10以下、好ましくは1.5~8である。比Tk/Tcがこのような範囲内にあることにより、本発明の育苗ポットにおいて、忌避帯部120が側壁部104よりも生分解に要する時間を長くでき、忌避帯部120に含まれる動物忌避剤の忌避効果を長く保持することができる。
【0026】
あるいは、本発明の育苗ポット100では、忌避帯部120の生分解性速度が、カップ基部110の生分解性速度よりも遅くなるように設計されている。これにより、本発明の育苗ポット100は、土壌に移植した後、カップ基部110が忌避帯部120よりも先に生分解により消失し得る。言い換えれば、忌避帯部120がカップ基部110よりも長く残存することができるので、忌避帯部120に含まれる動物忌避剤の忌避効果を長く保持できる。
【0027】
本発明の育苗ポット100において、カップ基部110および忌避帯部120はそれぞれ独立した生分解性材料で構成されている。すなわち、本発明の育苗ポット100におけるカップ基部110は、忌避帯部120を構成する生分解性材料と同一または異なるものであってもよい。
【0028】
カップ基部110および/または忌避帯部120を構成し得る生分解性材料は、後述のように土壌に移植して放置することにより徐々に分解し得る性質を有するものであり、例えば紙および生分解性高分子、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。カップ基部110および/または忌避帯部120を構成し得る生分解性材料は、上記紙および生分解性高分子のうちの複数を用いた積層体であってもよい。
【0029】
カップ基部110および/または忌避帯部120を構成し得る紙は、特に限定されないが、育苗ポットとして使用することを考慮すると、上記生分解性を有する一方で、降雨や散水によって簡単に破れることのない程度の適度な耐水性を有するものであることが好ましい。このような紙の具体例としては、上質紙、中質紙、更紙、ロール紙、クラフト紙、および工業用雑種紙、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
カップ基部110および/または忌避帯部120を構成し得る生分解性高分子としては、生分解性を示す生化学材料(例えばセルロース、酢酸セルロース、キトサン、デンプン、および修飾デンプン)ならびに生分解性樹脂の1種またはそれらの組み合わせが挙げられる。生分解性樹脂としては、例えばポリ-3-ヒドロキシアルカノエート(PHA)系樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)系樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)系樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)系樹脂、およびポリグリコール酸(PGA)系樹脂、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。あるいは、生分解性樹脂は、ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリエチレンサクシネート、およびポリビニルアルコール、ならびにそれらの組み合わせなどの生分解性熱可塑性樹脂であってもよい。取り扱い易く、土壌中での分解が早いという理由から、カップ基部110および/または忌避帯部120はセルロース、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、またはそれらの組み合わせで構成されていることが好ましい。
【0031】
カップ基部110および/または忌避帯部120は、上記生分解性材料に加えて、当該生分解性材料の生分解性や成形性を阻害しない範囲において他の添加剤を含有していてもよい。
【0032】
カップ基部110および/または忌避帯部120に含有され得る他の添加剤の例としては、必ずしも限定されないが、後述の動物忌避剤以外の他の薬効を有する薬剤(例えば、防ダニ剤、防虫剤);酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、および/またはリン系酸化防止剤);紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤および/またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤);帯電防止剤(例えば、アニオン系活性剤、カチオン系活性剤、非イオン系活性剤、および/または両性活性剤);透明化剤(例えば、カルボン酸金属塩、ソルビトール類、および/またはリン酸エステル金属塩類);滑剤(例えば、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、高級アルコール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、金属石ケン系滑剤、および/またはエステル系滑剤);難燃剤(例えば、有機系難燃剤および/または無機系難燃剤);および可塑剤(例えば、エポキシ化植物油、フタル酸エステル類、および/またはポリエステル系可塑剤);ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。カップ基部110および/または忌避帯部120に含有され得る上記他の添加剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0033】
カップ基部110は、上記生分解性材料から、例えば、Tダイを用いた押出しによって一旦シートまたはフィルムの形態に成形した後、鉢状に真空成型しその後必要に応じて底部102に水はけ用の孔105を設けることによって作製することができる。あるいは、上記生分解性材料のシートまたはフィルムを底部の形状および側面部の展開図の形状に切断し、それらをヒートシールまたは所定の接着剤等を介して貼り合わせることにより作製することもできる。なお、上記にてヒートシールする際の温度は、使用する生分解性材料(生分解性樹脂)の種類によって変動するため必ずしも限定されないが、例えば140℃~350℃である。
【0034】
図1の育苗ポット100では、
図2に示すようにカップ基部110の側壁部104から一体的に延びる上方側壁部108の周囲に、動物忌避剤130を含有する忌避シート122が配置されている。上方側壁部108における忌避シート122の位置は必ずしも限定されないが、忌避シート122は、開口端部106の近傍に設けられていることが好ましい。ここで、「忌避シートが上端の近傍に設けられている」とは、忌避シート122の端部と上方側壁部108の開口端部106とが重なっている状態、および忌避シート122の端部と上方側壁部108の開口端部106とが15mm未満の距離で離間している状態を包含していう。
【0035】
忌避シート122に含有され得る動物忌避剤は、軟体動物、特にナメクジやカタツムリなど柄眼目に属する軟体動物の忌避に有用な薬剤であり、例えばサポニン、パラヒドロキシ安息香酸アルキル、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
パラヒドロキシ安息香酸アルキルは、パラヒドロキシ安息香酸とアルキルアルコールとのエステル化反応生成物である。
【0037】
パラヒドロキシ安息香酸アルキルは、その分子構造中、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数4~7のアルキル基を含む。当該アルキル基は、直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよい。パラヒドロキシ安息香酸アルキルを構成するアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ペプチル基、n-オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、3-ペンチル基、t-ペンチル基などが挙げられる。
【0038】
本発明におけるパラヒドロキシ安息香酸アルキルの具体的な例としては、パラヒドロキシ安息香酸ブチル(例えば、パラヒドロキシ安息香酸n-ブチル)およびパラヒドロキシ安息香酸ヘキシル(例えば、パラヒドロキシ安息香酸n-ヘキシル)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
本発明においては、市販により入手が容易であり、かつナメクジ、カタツムリなど軟体動物に対して優れた忌避効果を奏することができる点から、動物忌避剤130の例として、サポニン、ヒドロキシ安息香酸ブチル、およびヒドロキシ安息香酸ヘキシル、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0040】
忌避シート122における動物忌避剤130の含有量は、忌避シート122の全体質量に対して0.5質量%~60質量%、好ましくは1質量%~50質量%、より好ましくは1質量%~45質量%である。動物忌避剤130の含有量が0.5質量%未満であれば、得られる忌避シートについて十分な軟体動物の忌避効果を提供することができない場合がある。動物忌避剤130の含有量が60質量%を超えると、相対的に忌避シート122における生分解性材料の含有量が低下することにより、得られた忌避シートの表面のべとつきが大きくなる場合がある。
【0041】
上方側壁部108の周囲への忌避シート122の配置にあたり、忌避シート122と上方側壁部1008との間は、例えば当該分野において公知のヒートシールまたは接着剤を介して貼り合わされている。その際、動物忌避剤130は、この貼り合わせの前に、忌避シート122内に(例えば、忌避シート122を構成する生分解性材料と動物忌避剤130との混練により)添加されていてもよく、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて忌避シート122の形態に成形した後に、スプレー、含浸等の任意の手段を用いて外表面および/または内部に動物忌避剤130が付与されていてもよい。
【0042】
あるいは、本発明においては、
図3に示すように、カップ基部210の開口端部206と略同じ大きさに成形されたリング状の忌避シート222が忌避帯部220となり、当該カップ基部210の開口端部206と接着剤等を介して貼り合わされて育苗ポット200を構成していてもよい。その際、動物忌避剤130は、この貼り合わせの前に、忌避シート222内に(例えば、忌避シート222を構成する生分解性材料と動物忌避剤130との混練により)添加されていてもよく、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて忌避シート222の形態に成形した後に、スプレー、含浸等の任意の手段を用いてその外表面および/または内部に動物忌避剤130が付与されていてもよい。
【0043】
あるいは、本発明においては、
図4に示すように、カップ基部310の上方に位置する開口端部306の近傍部分をそのまま忌避帯部320として使用して育苗ポット300を構成していてもよい。このため、
図4に示す実施形態では、カップ基部310と忌避帯部320とは一体となっている。その際、動物忌避剤130は、生分解性材料および必要に応じて他の添加剤を用いて上記カップ基部310と忌避帯部320とを一体成形した後、当該忌避帯部320に相当する部分に、スプレー、含浸等の任意の手段を用いてその外表面および/または内部に動物忌避剤130が付与されていてもよい。
【0044】
本発明の育苗ポットは、上記のようにカップ基部および忌避帯部のいずれもが生分解性材料で構成されており、それ自体が生分解性を有する。このため、土壌中にそのまま配置することが可能であり、配置後はその生分解性により自然に分解を促すことができる。結果として、従来のポリエチレン等で構成される育苗ポットと比較して、廃棄ゴミとなって環境汚染の問題を引き起こす可能性を著しく低減できる。
【0045】
(植物苗類製品および植物苗類の移植方法)
上記のように育苗ポットは、それ自体が生分解性を有し、ポット内で育てられた植物苗や播種された種子(これらをまとめて植物苗類という)をそのまま1つの植物苗類製品として市場に流通させることができる。この点において、
図5に示すように、本発明の植物苗類製品500は、上記育苗ポット100内に植物苗類510および培土520が収容されている。
【0046】
植物苗類510の種類は特に限定されず、従来の育苗ポットで栽培可能な植物の苗や種子が挙げられる。具体的な例としては、トマト、キュウリ、オクラ、エンドウなどの農業用植物、アサガオ、パンジー、チューリップ、アジサイなどの園芸植物の苗や種子が挙げられる。
【0047】
上記植物苗類製品によれば、育苗ポット内の植物苗類を以下のようにして土壌に移植することができる。具体的には、例えば、
図6の(a)に示すように、土壌610に設けられた孔620に上記植物苗類製品500が当該植物苗類製品500の忌避帯部120が土壌610の表面から露出するように配置される。
【0048】
このように、本発明では、植物苗類510を土壌610に移植する際に植物苗類510および培土520をカップ基部110から取り出すことなく、カップ基部110に収容された状態で配置される。ここで、忌避帯部120は
図6に示すように忌避帯部120に相当する高さtに相当する分が土壌610の表面から露出している。これにより、カップ基部110は土壌610に埋められており、かつ忌避帯部120は土壌610の表面から露出した状態が保持される。
【0049】
このような配置によって、土壌610に移植された植物苗類510の周囲には、忌避帯120に含まれる動物忌避剤が、カップ本体110の内半径に相当する距離を離れて配置され、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物からの植物苗類510の食害を防止することができる。さらに、忌避帯部120が土壌610の表面から高さtだけ露出することにより、軟体動物が植物苗類510に到達するためには、この忌避帯120を乗り越えなければならず、さらに食害の可能性を低減することができる。
【0050】
時間が経過するにつれて、育苗カップ100は、カップ基部110および忌避帯部120の両方が各生分解性によって徐々に脆化する(
図6の(b))。しかし、上記のように育苗カップ100において、忌避帯部120の厚みがカップ基部110の厚みよりも大きいため、
図6の(b)に示すような状態では、カップ基部110の脆化が忌避帯部120よりも先に生じる。その一方で、土壌610に移植された植物苗類510の周囲には、忌避帯120に含まれる動物忌避剤が依然として残存するため、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物からの植物苗類510の食害を防止できる。
【0051】
さらに時間が経過すると、育苗カップ100のカップ基部および忌避帯部の両方の生分解がさらに進行し、当該カップ基部および忌避帯部のいずれもが完全に崩壊または消失する。この状態では、土壌610と培土520との間に動物性忌避剤130が残存する(
図6の(c))。この動物性忌避剤130は植物苗類510の周囲に環状に残存し、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物からの植物苗類510の食害をさらに防止できる。
【0052】
このように、本発明の育苗ポットを用いれば、カップ基部および忌避帯部の両方が生分解性を有しているため、このまま土壌に放置しても廃棄ゴミとして環境を汚染することなく自然に分解することができる。その一方で、忌避帯部に含有されている動物性忌避剤は植物苗類の周囲に一定の距離をおいて配置された状態が保持されるため、たとえカップ基部および忌避帯部の両方が完全に分解したとしても、ナメクジやカタツムリなどの軟体動物から植物苗類510を長期間にわたって保護することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、例えば、園芸分野および農業分野において有用である。
【符号の説明】
【0054】
100,200,300 育苗ポット
102 底部
104 側壁部
105 水はけ用の孔
106,206,306 開口端部
108 上方側壁部
110,210,310 カップ基部
120,220,320 忌避帯部
122,222 忌避シート
130 動物忌避剤
500 植物苗類製品
510 植物苗類
520 培土
610 土壌