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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185861
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】走査型眼底撮影装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
A61B3/10 300
A61B3/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093754
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】深澤 衛
(72)【発明者】
【氏名】岩田 真也
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AA13
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB12
4C316AB16
4C316FA18
4C316FY01
4C316FY05
(57)【要約】
【課題】 被検眼の眼底画像を好適に取得できる走査型眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【解決手段】
走査型眼底撮影装置は、共焦点開口を有する第1光学系であって、眼底へ光を走査して照射し共焦点開口を介して眼底からの光の戻り光を受光する第1光学系と、第1光学系とは異なる第2光学系と、第1光学系の第1光路と第2光学系の第2光路とを結合する光路結合ミラーと、光路結合ミラーを保護する保護部材と、を備え、第1光学系の第1眼底共役位置は第1光路と第2光路における被検眼側の共通光路に存在し、第1光学系からの光の一部である分離光が光路結合ミラーにより共通光路とは異なる方向へ進行されることで分離光の第3光路が形成され、第3光路上には光路結合ミラーに関して第1眼底共役位置と鏡面対称な第2眼底共役位置が形成され、保護部材の壁部は第2眼底共役位置から距離を開けて配置される。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の眼底を撮影する走査型眼底撮影装置であって、
前記眼底と共役な位置に配置される共焦点開口を有する第1光学系であって、対物レンズを介して前記眼底へ光を走査して照射し、前記共焦点開口を介して前記眼底からの前記光の戻り光を受光することで、前記被検眼の眼底画像を撮影するための第1光学系と、
前記第1光学系とは異なる第2光学系と、
前記第1光学系の第1光路と、前記第2光学系の第2光路と、を結合する光路結合ミラーと、
少なくとも前記光路結合ミラーを保護する保護部材と、
を備え、
前記第1光学系の第1眼底共役位置は、前記第1光路と前記第2光路における被検眼側の共通光路に少なくとも存在し、
前記第1光学系からの前記光の一部である分離光が前記光路結合ミラーによって前記共通光路とは異なる方向へ進行されることによって、前記分離光の第3光路が形成され、前記第3光路上には前記光路結合ミラーに関して前記第1眼底共役位置と鏡面対称な第2眼底共役位置が形成され、
前記保護部材の壁部は、前記第2眼底共役位置から距離を開けて配置されることを特徴とする走査型眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の走査型眼底撮影装置において、
前記第1光学系は、前記対物レンズの近傍に前記光路結合ミラーを有し、前記光は、前記光路結合ミラーを経由した後に、光学部材を介することなく前記対物レンズに導光され、
前記第1眼底共役位置は、前記対物レンズと前記光路結合ミラーとの間に位置することを特徴とする走査型眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項1または2の走査型眼底撮影装置において、
前記第1眼底共役位置の第1移動範囲において、前記被検眼の視度を補正可能な視度補正手段と、
前記視度補正手段を制御し、前記被検眼の視度に応じて視度補正量を調整する制御手段と、
を備え、
前記保護部材の前記壁部は、前記第1移動範囲と鏡面対称な前記第2眼底共役位置の第2移動範囲から、距離を開けて配置されることを特徴とする走査型眼底撮影装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかの走査型眼底撮影装置において、
前記第1光学系における前記第1光路の独立光路は、前記光路結合ミラーの透過側に配置され、前記第2光学系における前記第2光路の独立光路は、前記光路結合ミラーの反射側に配置され、
前記分離光は、前記第1光学系からの前記光の一部が前記光路結合ミラーを透過せず反射した反射光であることを特徴とする走査型眼底撮影装置。
【請求項5】
請求項4の走査型眼底撮影装置において、
前記第2光学系の独立光路が配置される前記光路結合ミラーの反射側は、前記光路結合ミラーの下側であり、
前記分離光は、前記光路結合ミラーによって前記反射側とは反対側である上側に反射されて、前記第3光路及び前記第2眼底共役位置を形成し、
前記保護部材における前記光路結合ミラー側の壁部は、前記第2眼底共役位置から距離を開けて配置されることを特徴とする走査型眼底撮影装置。
【請求項6】
請求項3~5のいずれかの走査型眼底撮影装置において、
前記視度補正量は、少なくとも-15Dに対応可能な補正量であることを特徴とする走査型眼底撮影装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかの走査型眼底撮影装置において、
前記第1光学系における前記光の眼底上での走査画角は、40度以上であることを特徴とする走査型眼底撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の眼底を撮影する走査型眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光を走査することによって被検眼の眼底画像を取得する走査型眼底撮影装置(Scanning Light Ophthalmoscope:SLO)が知られている。この装置は、SLO光学系と、SLO光学系とは異なる他の光学系とを、主に対物レンズ系を共用して備える場合がある。例えば、特許文献1の装置は、SLO光学系とOCT(Optical Coherence Tomography)光学系とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-134896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の装置では、SLO光学系の光路と他の光学系の光路とが、光路結合部材によって結合されている。このような構成において、発明者らは、SLO光学系からの光の一部が光路結合部材によって意図しない方向に導かれ、眼底画像上にアーチファクトとして写りこむ可能性があることを見出した。
【0005】
本開示は、上記従来技術に鑑み、被検眼の眼底画像を好適に取得できる走査型眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
被検眼の眼底を撮影する走査型眼底撮影装置は、前記眼底と共役な位置に配置される共焦点開口を有する第1光学系であって、対物レンズを介して前記眼底へ光を走査して照射し、前記共焦点開口を介して前記眼底からの前記光の戻り光を受光することで、前記被検眼の眼底画像を撮影するための第1光学系と、前記第1光学系とは異なる第2光学系と、前記第1光学系の第1光路と、前記第2光学系の第2光路と、を結合する光路結合ミラーと、少なくとも前記光路結合ミラーを保護する保護部材と、を備え、前記第1光学系の第1眼底共役位置は、前記第1光路と前記第2光路における被検眼側の共通光路に少なくとも存在し、前記第1光学系からの前記光の一部である分離光が前記光路結合ミラーによって前記共通光路とは異なる方向へ進行されることによって、前記分離光の第3光路が形成され、前記第3光路上には前記光路結合ミラーに関して前記第1眼底共役位置と鏡面対称な第2眼底共役位置が形成され、前記保護部材の壁部は、前記第2眼底共役位置から距離を開けて配置される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】走査型眼底撮影装置の外観図である。
図2】撮影光学系を説明する為の図である。
図3】視度補正量と眼底共役位置の関係について説明する図である。
図4】撮影部の壁部の配置について説明する図である。
図5】走査型眼底撮影装置の制御系を示すブロック図である。
図6】被検眼を撮影する画角と撮影部の壁部との関係について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[概要]
図面を参照しつつ、本開示に係る走査型眼底撮影装置の実施形態を説明する。以下の<>にて分類された項目は、独立又は関連して利用されうる。なお、本実施形態の「共役」とは、必ずしも完全な共役関係に限定されるものではなく、「略共役」を含むものとする。すなわち、本実施形態の「共役」には、各部の技術意義との関係で許容される範囲で、完全な共役位置からずれて配置される場合についても含まれる。
【0009】
本実施形態の走査型眼底撮影装置(例えば、走査型眼底撮影装置1)は、被検眼の眼底を撮影する装置である。走査型眼底撮影装置は、被検眼の眼底上で光を走査する後述の第1光学系(SLO光学系)を有したSLO装置であってもよい。なお、走査型眼底撮影装置は、SLO装置とその他の装置とが複合された複合装置であってもよい。一例として、光干渉断層計、治療用レーザ装置、等の少なくともいずれかと複合された装置であってもよい。
【0010】
例えば、走査型眼底撮影装置は、被検眼の眼底画像を撮影するための第1光学系を備える。例えば、走査型眼底撮影装置は、第1光学系とは異なる第2光学系を備える。例えば、走査型眼底撮影装置は、第1光学系の第1光路と、第2光学系の第2光路と、を結合する光路結合ミラーを備える。例えば、走査型眼底撮影装置は、少なくとも光路結合ミラーを保護する保護部材を備える。
【0011】
<第1光学系>
例えば、第1光学系は、共焦点方式の眼底撮影光学系であってもよい。例えば、スポットスキャンタイプの光学系であってもよいし、ラインスキャンタイプ(スリットスキャンタイプ)の光学系であってもよい。例えば、第1光学系(例えば、SLO光学系500)は、対物レンズを介して眼底へ光を走査して照射し、共焦点開口を介して眼底からの測定光の戻り光を受光することで、被検眼の眼底画像を撮影する。つまり、例えば、第1光学系は、眼底共役位置に共焦点開口を配置する共焦点光学系であってもよく、眼底の共焦点正面画像を撮影してもよい。
【0012】
例えば、第1光学系の第1眼底共役位置は、第1光学系の第1光路と、第2光学系の第2光路と、における被検眼側の共通光路に少なくとも存在する。言い換えると、対物レンズに関する第1眼底共役位置が、被検眼側の共通光路に少なくとも存在する。なお、このような第1眼底共役位置は、対物レンズと光路結合ミラーとの間に位置するように構成されてもよい。
【0013】
第1光学系は、被検眼の眼底へ光を照射する光照射部(例えば、光源56)、眼底に対して光照射部からの光を走査する走査部(例えば、走査部52)、眼底と共役な位置に配置される共焦点開口(例えば、共焦点開口58)、眼底からの光の戻り光を受光する受光部(例えば、受光素子59)、等を備えてもよい。例えば、光照射部は、レーザ光を照射してもよい。なお、光照射部は、レーザ光とは異なる光を照射する構成であってもよい。例えば、受光部は受光した光の強度を検出するポイントセンサであってもよい。例えば、受光部は、1次元受光素子、2次元受光素子、等であってもよい。
【0014】
例えば、第1光学系は、眼底上にて光を大きく走査することで、眼底のより広範な領域を撮影できるように構成されてもよい。例えば、走査部は、眼底上での光の走査画角を40度以上とするように構成されてもよい。例えば、走査部は、反射ミラー(一例として、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、等)であってもよい。また、例えば、走査部は、光の進行方向を変化させる音響光学素子であってもよい。
【0015】
第1光学系は、第1眼底共役位置の第1移動範囲において、被検眼の視度を補正可能な視度補正手段(例えば、視度補正部53)を備えてもよい。視度補正手段は、被検眼の屈折誤差に応じて、第1光学系の視度を補正してもよい。視度補正手段は、光軸に沿ってレンズを移動させることによって、視度を補正する構成であってもよい。例えば、この場合、視度補正手段は、フォーカシングレンズ(例えば、フォーカシングレンズ53a)と、フォーカシングレンズを移動させるための駆動部(例えば、駆動部53b)と、を備えてもよい。また、視度補正手段は、光軸上でレンズを挿脱させることによって、視度を補正する構成であってもよい。また、視度補正部手段、可変焦点レンズの屈折率を変化させることによって、視度を補正する構成であってもよい。
【0016】
本実施形態において、視度補正手段は、被検眼の屈折誤差が大きな場合であっても、その視度を適切に補正できるように構成されてもよい。例えば、ハイディオプタ眼とされる-10D以下及び+10D以上の屈折誤差に対する視度を補正することが可能であってもよい。一例としては、少なくとも-15Dに対応可能なように、視度補正量が調整されてもよい。
【0017】
<制御手段>
本実施形態の走査型眼底撮影装置は、視度補正手段を制御するための制御手段(例えば、制御部71)を備えてもよい。制御手段は、視度補正手段を制御し、被検眼の視度に応じて視度補正量を調整する。例えば、制御手段は、光軸に沿ってレンズを移動させるための駆動部、または、光軸上でレンズを挿抜させるための駆動部、等を駆動することで、視度補正量を調整してもよい。また、例えば、制御手段は、可変焦点レンズに与える電流値を制御することで、視度補正量を調整してもよい。
【0018】
<第2光学系>
例えば、第2光学系は、第1光学系とは異なる光学系であってもよい。例えば、第2光学系は、被検眼の断層画像を取得するOCT光学系(例えば、OCT光学系300)であってもよい。例えば、第2光学系は、被検眼の前眼部を撮影する前眼部撮影光学系(例えば、前眼部撮影光学系200)であってもよい。もちろん、OCT光学系及び前眼部撮影光学系は、第2光学系の一例であり、これらに限定されない。
【0019】
<光路結合ミラー>
例えば、光路結合ミラーは、第1光学系の第1光路と、第2光学系の第2光路と、の一部を共通光路(例えば、第1共通光路10)とする。例えば、光路結合ミラーは、ビームスプリッタ、ダイクロイックミラー(例えば、ダイクロイックミラー12)、ハーフミラー、等の少なくともいずれかの光学部材で構成されてもよい。光路結合ミラーは、光路結合ミラーに向かって入射した光を、透過または反射させる。
【0020】
<保護部材>
例えば、保護部材は、光路結合ミラーを埃や傷等から保護するために設けられる。例えば、保護部材は、各々の光学系を収納する筐体(例えば、撮影部2)であってもよい。また、例えば、保護部材は、筐体とは別に、少なくとも光路結合ミラーを収納するカバーであってもよい。
【0021】
<第1光学系と第2光学系の配置>
第1光学系の第1光路における独立光路と、第2光学系の第2光路における独立光路は、光路結合ミラーの反射側と透過側のいずれに配置してもよい。例えば、第1光路の独立光路を光路結合ミラーの反射側に配置してもよい。この場合、第2光路の独立光路を光路結合ミラーの透過側に配置してもよい。また、例えば、第1光路の独立光路が光路結合ミラーの透過側に配置されてもよい。この場合、第2光路の独立光路が光路結合ミラーの反射側に配置されてもよい。なお、第1光路の独立光路を光路結合ミラーの透過側に配置する場合は、第1光学系において、走査部による光の反射方向と眼底の走査方向とを容易に一致させることができるため、光学系の複雑化を抑制できる。
【0022】
本実施形態では、第1光学系の第1光路における独立光路を光路結合ミラーの透過側へ配置する場合、第2光学系の独立光路が配置される光路結合ミラーの反射側が、光路結合ミラーの上側、下側、右側、及び左側のいずれとされてもよい。なお、第2光学系の独立光路を光路結合ミラーの下側に設ける構成とした際には、第1光学系よりも第2光学系が下側に配置される。よって、被検眼よりも高い位置に光学部材が位置せず、被検眼と各光学系の光軸とを位置合わせした際に、被検眼の上側に装置が迫り出すことが抑制されるため、検者が容易に開瞼作業等を行うことができる。
【0023】
第1光学系の第1光路と第2光学系の第2光路との共通光路において、対物レンズと光路結合ミラーとの間には、光学部材が配置されてもよい。例えば、第1光学系及び第2光学系とは異なる第3光学系の光路を結合するための光路結合ミラーが配置されてもよい。もちろん、光路結合ミラーとは異なる部材が配置されてもよい。また、第1光学系の第1光路と第2光学系の第2光路との共通光路において、対物レンズと光路結合ミラーとの間には、光学部材が配置されなくてもよい。この場合、対物レンズの近傍に光路結合ミラーが配置されてもよく、第1光学系からの光が光路結合ミラーを経由した後に光学部材を介することなく対物レンズに導光されてもよい。
【0024】
<保護部材と眼底共役位置の関係>
例えば、第1光学系における光の一部である分離光は、第1光学系における第1光路の独立光路と第2光学系における第2光路の独立光路とを結合する光路結合ミラーによって、共通光路とは異なる方向へ意図せず進行される。例えば、第1光学系における第1光路の独立光路が光路結合ミラーの反射側に配置される場合、第1光学系における光の一部(分離光)は、光路結合ミラーを反射せずに透過した透過光として、共通光路とは異なる方向へ進行される。また、例えば、第1光学系における第1光路の独立光路が光路結合ミラーの透過側に配置される場合、第1光学系における光の一部(分離光)は、光路結合ミラーを透過せずに反射した反射光として、共通光路とは異なる方向へ進行する。これによって、分離光の第3光路が形成される。
【0025】
分離光の第3光路上には、光路結合ミラーに関して第1眼底共役位置と鏡面対称な第2眼底共役位置が形成される。例えば、被検眼の視度によって、第1眼底共役位置及び第2眼底共役位置は異なる。例えば、被検眼がマイナスディオプター側に大きな視度をもつほど、第1眼底共役位置は第1光路上にて光路結合ミラーから離れた位置に存在し、これに対応して、第2眼底共役位置も第2光路上にて光路結合ミラーから離れた位置に存在する。すなわち、視度補正手段が視度を補正することが可能な第1眼底共役位置の第1移動範囲、及び、第1移動範囲と鏡面対称な第2眼底共役位置の第2移動範囲、が存在する。
【0026】
例えば、このような分離光は、保護部材の壁部に向かって進行し、保護部材の壁部によって反射される。例えば、第1光学系において、分離光が壁部に反射された反射光は、共焦点開口によって遮られるため、受光部に到達しない。しかし、視度補正手段を用いた視度の補正によっては、分離光が壁部に反射された反射光が、共焦点開口によって遮られることなく、受光部に到達する場合がある。
【0027】
例えば、視度補正手段が視度を補正し、対物レンズに関する第1眼底共役位置と共焦点開口とが共役な関係に調整されると、第1眼底共役位置と鏡面対称に存在する第2眼底共役位置も、共焦点開口と共役な関係となる。この場合において、保護部材の壁部と第2眼底共役位置が一致していると、分離光が壁部に反射された反射光が共焦点開口を通過して受光部に到達するため、保護部材の壁部がアーチファクトとして眼底画像上に写り込む問題が生じる。
【0028】
本実施形態においては、保護部材の壁部と第2眼底共役位置とが一致しないように、壁部を第2眼底共役位置から距離をあけて配置する。これによって、例えば、第2眼底共役位置と共焦点開口とが共役な関係に調整されても、保護部材の写りこみを抑制した良好な眼底画像を得ることができる。また、本実施形態においては、被検眼の広範囲の視度に対応可能な構成とする場合に、保護部材の壁部を第2眼底共役位置の視度補正範囲から距離を開けて配置することが重要となる。これによれば、被検眼の視度にかかわらず、保護部材の写りこみを抑制した良好な眼底画像を得ることができる。
【0029】
なお、第1光学系の第1光路における独立光路を光路結合ミラーの透過側かつ共焦点開口側に配置し、第2光学系の第2光路における独立光路を光路結合ミラーの反射側かつ下側に配置する場合、第1光学系における分離光は、光路結合ミラーに対して、第2光路の独立光路と反対側である上側に向かって反射されることによって、第3光路及び第2眼底共役位置を形成する。このとき、保護部材における光路結合ミラー側の壁部を、第2眼底共役位置(第2眼底共役位置の第2移動範囲)から距離を開けて配置することで、保護部材の写りこみを抑制できる。
【0030】
[実施例]
本実施形態の一実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、走査型眼底撮影装置1の外観図である。図1に示すように、本実施例において、走査型眼底撮影装置1は、基台101、移動台102、操作部8、モニタ73、駆動部5、顔支持ユニット110、撮影部2、制御部71、等を備える。
【0031】
操作部8は、撮影部2を操作するための信号を入力する。例えば、操作部8を傾倒させると、基台101に対して移動台102を左右方向(X方向)および前後方向(Z方向)の少なくともいずれかの方向へ移動させるための移動信号が入力される。また、例えば、操作部8の図示なきノブを回転させると、基台101に対して撮影部2を上下方向(Y方向)へ移動させるための移動信号が入力される。
【0032】
モニタ73は、被検眼Eの正面画像、OCTデータ、等を画面に表示する。また、モニタ73は、操作部8を兼ねたタッチパネルとして機能する。つまり、モニタ73の操作によっても、撮影部2を移動させるための移動信号が入力される。
【0033】
駆動部5は、撮影部2を左右方向、上下方向、および前後方向へ移動させる。例えば、駆動部5は、スライド機構である。一例として、スライド機構は、モータ、ギヤ、ガイドレール、等を有してもよい。
【0034】
顔支持ユニット110は、被検者の顔を支持する。顔支持ユニット110は、額当て111と、顎台112と、を有する。額当て111には、被検者の額が当接される。顎台112には、被検者の顎が載置される。
【0035】
撮影部2の内部には、被検眼Eを撮影するための撮影光学系3(図2参照)が格納されている。図2を参照して、撮影光学系3について説明する。本実施例の走査型眼底撮影装置1は、撮影光学系3として、SLO光学系500、OCT光学系300、アライメント指標投影光学系27、前眼部撮影光学系200、等を備える。
【0036】
本実施例において、SLO光学系500の光路と、OCT光学系300の光路とは、ダイクロイックミラー12によって結合される。すなわち、SLO光学系の光軸L1と、OCT光学系300の光軸L2と、がダイクロイックミラー12で同軸とされる。また、OCT光学系300の光軸L2と、前眼部撮影光学系200の光軸L3は、ハーフミラー201によって結合される。すなわち、OCT光学系の光軸L2と、前眼部撮影光学系200の光軸L3と、がハーフミラー201で同軸とされる。SLO光学系500、OCT光学系300、及び前眼部撮影光学系200の共通光路10(共通光軸)には、対物レンズ11が配置される。
【0037】
以下では、OCT光学系300がOCT信号を取得するために被検眼に出射するOCT測定光を、単に測定光と言う。また、被検眼Eの眼底Erを撮影するために、SLO光学系500のレーザ光源56から出射される光を、単にレーザ光と言う。
【0038】
<SLO光学系>
SLO光学系500は、眼底Erの正面画像を得るために用いられる。例えば、SLO光学系500は、対物レンズ11及びダイクロイックミラー12に加えて、走査部52、視度補正部53、ビームスプリッタ54、コリメートレンズ55、レーザ光源56、集光レンズ57、共焦点開口58、及び受光素子59を備える。
【0039】
SLO光学系500は、レーザ光源56から出射されたレーザ光を、眼底Erに照射する。受光素子59は、眼底Erによって反射されたレーザ光を受光する。本実施例において、レーザ光源56は、近赤外光であるレーザ光を出射する。レーザ光源56として、例えば、LED光源、及びSLD光源等が用いられてもよい。
【0040】
走査部52は、レーザ光の光路中に配置されている。本実施例では、走査部52は、眼底Er上で横断方向(図1におけるXY方向)にレーザ光を走査させるために用いられる。本実施例において、走査部52は、2つの光スキャナ(例えば、ポリゴンスキャナ、ガルバノミラー等)を備え、2つの光スキャナを駆動することで、レーザ光源56らのレーザ光を、眼底Er上で二次元的に走査する。例えば、走査部52の眼底上での走査画角は40度以上であってもよく、本実施例では50度である。もちろん、走査画角はこれに限定されない。
【0041】
本実施例において、集光レンズ57、共焦点開口58(例えば、ピンホール板)、及び受光素子59は、ビームスプリッタ54の反射側に配置されている。共焦点開口58は、眼底Erに共役な位置に配置されている。
【0042】
ここで、レーザ光源56から出射されるレーザ光は、コリメートレンズ55、ビームスプリッタ54、及び視度補正部53を介して走査部52に入射される。そして、走査部52によって、レーザ光の反射方向が変更される。走査部52を経たレーザ光は、ダイクロイックミラー12を透過する。更に、レーザ光は、対物レンズ11を通過して、眼底Erに集光される。
【0043】
眼底Erで反射されたレーザ光は、対物レンズ11からビームスプリッタ54までの光路を逆に辿る。レーザ光は、ビームスプリッタ54で反射され、集光レンズ57及び共焦点開口58を通って、受光素子59によって受光される。受光素子59から出力された信号は後述する制御部71に入力される。制御部71は、入力された信号に基づいて、眼底Erの正面画像を生成し、記憶部72に記憶してもよい。制御部71は、生成された正面画像をモニタ73に表示させてもよい。
【0044】
<視度補正部>
視度補正部53は、被検眼の視度を補正する。視度補正部53は、被検眼Eの屈折誤差に応じて視度補正量を調整し、レーザ光源56から出射された光を被検眼Eの眼底Erに集光させる。例えば、視度補正部53は、フォーカシングレンズ53aと、フォーカシングレンズ53aを光軸方向に移動させるためのレンズ駆動部53bと、を備える。例えば、レンズ駆動部53bは、モータ及びスライド機構によって構成されてもよい。
【0045】
図3は、視度補正量と眼底共役位置の関係について説明する図である。図3(a)は、被検眼Eが近視眼である場合を示す。図3(b)は、被検眼Eが遠視眼である場合を示す。なお、図3において、眼底共役位置には『×』が付されている。
【0046】
被検眼Eの屈折誤差に応じて、共通光路10上(光軸L1上)の眼底共役位置P1は変化する。例えば、近視眼は、屈折誤差がマイナスディオプター側に大きいほど、その眼底共役位置P1が対物レンズ11に近い位置に存在する(図3(a)参照)。また、例えば、遠視眼は、屈折誤差がプラスディオプター側に大きいほど、その眼底共役位置P1がダイクロイックミラー12に近い位置に存在する(図3(b)参照)。視度補正部53は、レンズ駆動部53bの駆動によりフォーカシングレンズ53aを移動させることで、少なくともフォーカシングレンズ53aに関して形成される図示なき共役位置を変化させ、眼底Er(眼底共役位置P1)と共焦点開口58とが共役関係となるように調整する。
【0047】
本実施例では、被検眼Eにおける-15Dから+15Dまでの屈折誤差を補正することができるように、視度補正部53が構成される。このとき、被検眼Eに応じた眼底共役位置P1は、光軸L1上の位置R1aから位置R1bまでの範囲R1に存在し得る。例えば、被検眼Eが-15Dの場合の第1眼底共役位置は、位置R1aに対応する。また、例えば、被検眼Eが+15Dの場合の第1眼底共役位置、位置R1bに対応する。
【0048】
<OCT光学系>
OCT光学系300は、例えば、被検眼Eの組織の断層像を撮像するために用いられる。OCT光学系300は、対物レンズ11、ダイクロイックミラー12、及びハーフミラー201に加えて、低コヒーレント光を発するOCT光源、光源から出射した光を測定光及び参照光に分割する光分割器、被検眼Eへ測定光を導く測定光学系、被検眼Eの眼底上で測定光を横断方向に走査させる走査部、参照光を生成する参照光学系、測定光と参照光の合成による干渉信号を検出する検出器、等を備えた構成であってもよい。もちろん、OCT光学系300は、これらとは異なる構成を備えてもよい。なお、OCT光学系300の詳細については、例えば、特開2019-134896号公報に開示された構成を参照してもよい。
【0049】
例えば、OCT光学系300は、OCT光源から出射されたOCT光を光分割器によって測定光と参照光とに分割する。測定光は、ハーフミラー201、ダイクロイックミラー12、及び対物レンズ11を経て被検眼Eの眼底に到達する。OCT光学系300は、被検眼Eの眼底で反射された測定光と、参照光との干渉光を受光することで、被検眼Eの眼底のOCT信号を取得し、制御部71に入力する。制御部71は、入力された信号に基づいて、眼底ErのOCT画像を生成し、記憶部72に記憶してもよい。制御部71は、生成された正面画像をモニタ73に表示させてもよい。
【0050】
<アライメント指標投影光学系>
アライメント指標投影光学系27は、被検眼Eの角膜に向けてアライメント指標を投影するために用いられる。例えば、アライメント指標投影光学系27は、アライメント指標を投影するための光源27aを少なくとも備えていればよい。もちろん、光源27aの他に、レンズやミラー等の光学部材を有してもよい。例えば、光源27aは、光軸L1を中心に、リング状に配置される。なお、光源27aによる光は、被検眼Eに対して撮影部2をアライメントするためのアライメント光として用いられるとともに、被検眼Eの前眼部を照明するための前眼部照明光としても用いられる。
【0051】
<前眼部撮影光学系>
前眼部撮影光学系200は、前眼部の正面観察画像を得るために用いられる。本実施例では、前眼部撮影光学系200は、対物レンズ11、ダイクロイックミラー12、及びハーフミラー201に加えて、レンズ202と撮影素子203を備える。撮影素子203は、例えば、CCD等の二次元撮像素子である。撮影素子203は、光源27aによって照明された被検眼Eの前眼部を撮影する。撮影素子203から出力された信号は後述する制御部71に入力される。制御部71は、入力された信号に基づいて、眼底Erの前眼部画像を生成し、記憶部72に記憶してもよい。制御部71は、生成された正面画像をモニタ73に表示させてもよい。
【0052】
<SLO光学系とOCT光学系の光路共通化>
SLO光学系500の光路とOCT光学系300の光路は、前述のようにダイクロイックミラー12で結合される。本実施例では、SLO光学系500がダイクロイックミラー12の透過側に配置され、OCT光学系300がダイクロイックミラー12の反射側に配置される。
【0053】
ダイクロイックミラー12は、SLO光学系500におけるレーザ光(すなわち、レーザ光源56から出射される波長の光)を透過する。より詳細には、ダイクロイックミラー12は、第1共通光路10の光軸方向と平行方向に入射したレーザ光を透過して第1共通光路10に導き、また眼底Erで反射されたレーザ光を透過してSLO光学系500に導く。
【0054】
なお、本実施例では、走査部52の一つとしてポリゴンスキャナが用いられる。例えば、ポリゴンスキャナは高速に回転するため、回転軸に対して物理的な負荷がかかりやすい。SLO光学系500をダイクロイックミラー12の透過側に配置し、ポリゴンスキャナの回転軸を鉛直方向に配置することで、特に回転軸を斜め方向に配置するような場合に比べて、負荷を軽減させることができる。また、SLO光学系500を透過側に配置することで、走査部52によるレーザ光の反射方向と、眼底Erの走査方向と、を同じにできるため、レーザ光の反射方向をミラーやレンズによって調整することは必ずしも必要にならない。よって、SLO光学系500が複雑化することを抑制できる。
【0055】
本実施例において、ダイクロイックミラー12は、OCT光学系300における測定光(すなわち、図示無きOCT光源から出射される波長の光)を反射する。例えば、OCT光学系300の測定光は、ダイクロイックミラー12に対して鉛直方向から入射するとともに、ダイクロイックミラー12によって水平方向へと反射される。言い換えると、OCT光学系300の測定光は、ダイクロイックミラー12の下側から入射し、反射されることによって、第1共通光路10に導かれる。このため、被検眼Eよりも高い位置に撮影部2が大きく迫り出すことが抑制され、検者が被検眼Eの開瞼を補助する場合等に、撮影部2の上から手を伸ばしやすくなる。なお、測定光がダイクロイックミラー12に入射する方向は、鉛直方向に対して傾いていてもよい。
【0056】
<アーチファクトの写りこみ>
図4は、撮影部2の壁部100の配置について説明する図である。ここで、SLO光学系500のレーザ光における一部の光は、ダイクロイックミラー12を透過せず、反射されてしまう場合がある。例えば、このようなレーザ光の一部の光(以下、分離光)は、ダイクロイックミラー12に関して、共通光路10と鏡面対称になる方向へと進行する。このために、分離光の光軸L4上には、ダイクロイックミラー12に関して、第1眼底共役位置P1と鏡面対称となる位置に、第2眼底共役位置P2が意図せず形成されるようになる。
【0057】
被検眼Eの屈折誤差に応じて、光軸L4上の第2眼底共役位置P2は変化する。例えば、近視眼の場合、屈折誤差がマイナスディオプター側に大きいほど、第1眼底共役位置P1が対物レンズ11に近い位置に存在するため、これにともない、第2眼底共役位置P2はダイクロイックミラー12から離れた位置に存在する。例えば、遠視眼の場合、屈折誤差がプラスディオプター側に大きいほど、第1眼底共役位置P1がダイクロイックミラー12に近い位置に存在するため、これにともない、第2眼底共役位置P2もダイクロイックミラー12に近い位置に存在する。例えば、第1眼底共役位置P1が範囲R1の位置R1aに位置するとき、第2眼底共役位置P2は位置R2aに位置する。例えば、第1眼底共役位置P1が位置R1bに位置するとき、第2眼底共役位置P2は位置R2bに位置する。つまり、眼底共役位置P2は、光軸L4上の位置R2aから位置R2bまでの範囲R2に存在し得る。
【0058】
例えば、分離光は、ダイクロイックミラー12によって上側に反射されるため、撮影部2の壁部100に向かって進行し、壁部100に到達する。
【0059】
ここで、例えば、撮影部2の壁部100が、図4に示したように、分離光の光軸L4に形成される第2眼底共役位置P2と重なる位置Waに存在する場合、壁部100が眼底画像上にアーチファクトとして写りこんでしまう。特に、被検眼Eの屈折誤差がマイナスディオプター側に大きいほど、第2眼底共役位置P2が壁部100に重なる可能性が高くなり、このようなアーチファクトの写りこみが問題となりやすい。
【0060】
そこで、本実施例では、図4に示すように、撮影部2の壁部100を、第2眼底共役位置P2の移動範囲R2から、距離を開けて配置する。より詳細には、撮影部2の壁部100を、光軸L4上の位置R2bから、距離を開けて配置する。これによれば、被検眼Eの屈折誤差にかかわらず、意図せず形成される第2眼底共役位置P2と壁部100とが重なることが抑制され、壁部100の写りこみがない好適な眼底画像を取得できる。
【0061】
なお、本実施例において、ダイクロイックミラー12は、第1共通光路10に対して角度dだけ傾いて配置される。例えば、角度dは45度以下である。好ましくは、角度dは30度から42度であり、本実施例では40度である。分離光は、ダイクロイックミラー12の角度dを45度とした場合は垂直に反射されるが、角度dを45度とは異なる角度とした場合は斜めに反射されるため、光軸L4が長くなり、壁部100が写りこみにくくなる。また、ダイクロイックミラー12の角度dを45度とは異なる角度とすることによって、壁部100が写り込んだ場合であっても、その強度が低下される。
【0062】
なお、壁部100と第2眼底共役位置P2の距離を開けず、光吸収部材を光軸L4上に配置することによっても、アーチファクトを軽減することができる。しかし、光吸収部材と第2眼底共役位置P2とが重なる場合、光吸収部材はその強度が低いながらも写りこむため、眼底画像を良好に取得できない可能性がある。本実施例のように、壁部100を第2眼底共役位置P2と重ならないように配置することで、アーチファクトの写りこみをより効果的に抑制できる。
【0063】
また、壁部100と第2眼底共役位置P2の距離を開けず、対物レンズ11とダイクロイックミラー12の距離を互いに近づけることによっても、アーチファクトを軽減することができる。これは、対物レンズ11とダイクロイックミラー12の距離が離れている場合よりも、第2眼底共役位置P2がダイクロイックミラー12の近くに位置し、壁部100と重なりにくいためである。しかし、このような構成では、ダイクロイックミラー12をより大きく設計しなければならず、撮影部2が大型化する可能性がある。また、第1眼底共役位置P1が光軸L1上を移動する移動範囲R1が短くなり、被検眼Eの屈折誤差を補正できるディオプターが制限される。本実施例のように、壁部100を第2眼底共役位置P2と重ならないように配置すれば、被検眼Eのより大きな屈折誤差に対応でき、アーチファクトの写りこみが抑制されるとともに、撮影部2の大型化を抑制できる。
【0064】
<制御部>
図5を参照して、走査型眼底撮影装置1の制御系を説明する。なお、図5は、走査型眼底撮影装置1の制御系を示すブロック図である。走査型眼底撮影装置1は、制御部71によって各部の制御が行われる。制御部71は、走査型眼底撮影装置1の各部の制御処理と、演算処理とを行う電子回路を有する処理装置(プロセッサ)である。制御部71は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ等で実現される。制御部71は、記憶部72と、バス等を介して電気的に接続されている。
【0065】
制御部71は、視度補正部53のレンズ駆動部53bと電気的に接続されている。制御部71は、レンズ駆動部53bの駆動によりフォーカシングレンズ53aの位置を光軸方向に移動させ、被検眼Eの屈折誤差を補正するように視度補正量を調整する。
【0066】
また、制御部71は、駆動部5、光源27a、レーザ光源56、受光素子59、走査部52、モニタ73、撮影素子203といった各部とも、電気的に接続されている。さらにまた、制御部71は、OCT光学系300に備えられる、図示なきOCT光源や、図示なき検出器といった各部とも電気的に接続されている。
【0067】
記憶部72には、各種の制御プログラム等が格納される。また、記憶部72には、一時データ等が記憶されてもよい。走査型眼底撮影装置1で得られた画像は、記憶部72に記憶されていてもよい。但し、必ずしもこれに限られるものでは無く、外部の記憶装置(例えば、LAN及びWANで制御部71に接続される記憶装置)へ得られた眼底画像等が記憶されてもよい。
【0068】
[動作]
以上のような構成を備える走査型眼底撮影装置1の動作を説明する。なお、以下では、SLO光学系500を用いて被検眼Eの眼底Erの眼底画像を取得する場合を例に説明する。
【0069】
まず、被検者が額当て111に額を当接させ、顎台112に顎を乗せると、図示なき検出器から検知信号が出力される。制御部71は、検知信号に基づいて、光源27aを点灯させるとともに、アライメント指標投影光学系27及び前眼部撮影光学系3を制御し、前眼部画像を取得する。また、制御部71は、前眼部画像に基づいて駆動部5の駆動を制御し、被検眼Eと撮影部2との位置関係を変更する。例えば、制御部71が駆動部5を駆動させることで、眼底Erが撮影できるように光軸L1と瞳孔中心とのXY方向(図1参照)の位置が調整され、眼底撮影に好適な作動距離となるようにZ方向(図1参照)の位置が調整される。例えば、被検眼Eと撮影部2との位置関係の調整方法は、特開2013-179978号公報に記載された方法を用いることができる。なお、もちろん、検者が操作部8を操作し、手動で被検眼Eと撮影部2との位置関係を調整してもよい。
【0070】
検者は、被検眼Eと撮影部2の位置合わせが完了すると、操作部8(モニタ73)を操作して、眼底画像の撮影を開始するための動作開始信号を入力する。制御部71は、動作開始信号に基づいて、レーザ光源56を点灯させる。また、走査部52を駆動させ、被検眼の眼底Erに対してレーザ光を走査させる。眼底で反射されたレーザ光は受光素子59によって受光される。受光素子59は、受光した眼底反射光の強度を出力する。制御部71は、走査部52の駆動と、受光素子59の出力した眼底反射光の強度とに基づいて、被検眼の眼底画像を形成し、これをモニタ73に表示させる。
【0071】
例えば、検者は、眼底画像を参照しながら操作部8を操作することによって、被検眼Eの屈折誤差を補正するための視度補正量を調整する。制御部71は、操作部8からの操作信号に基づいて、視度補正部53を制御し、フォーカシングレンズ53bを移動させる。例えば、これによって、レーザ光が眼底Erに集光するようになる。
【0072】
なお、前述の通り、本実施例では、撮影部2の壁部100が光軸L4上の位置P2bから距離を開けて配置されている。検者が視度補正量を調整することによって、眼底Erに焦点が合い、かつ壁部100の写りこみが抑制された、適切な眼底画像がリアルタイムに撮影される。検者が操作部8を介して撮影のトリガ信号(例えば、レリーズ操作信号等)を入力すると、制御部71は眼底画像をキャプチャする。
【0073】
以上説明したように、本実施例の走査型眼底撮影装置1は、撮影部2の壁部100が第2眼底共役位置P2から距離を開けて配置されることで、壁部100と第2眼底共役位置P2とが重ならず、壁部100がアーチファクトとして眼底画像上に写りこむことが抑制される。これによって、被検眼の眼底画像を好適に取得することができる。
【0074】
また、本実施例の走査型眼底撮影装置1は、SLO光学系500において対物レンズ11の近傍にダイクロイックミラー12が配置され、SLO光学系500からの光がダイクロイックミラー12を経由した後に光学部材を介することなく対物レンズ11に導光される。例えば、対物レンズ11から十分に離してダイクロイックミラー12を配置することによっても、壁部100と第2眼底共役位置P2とが重なることを抑制できるが、光学系が長くなるため、結果として装置の大型化につながりやすい。本実施例のように、対物レンズ11とダイクロイックミラー12を近接させて光学系を短く構成するような場合であっても、壁部100の位置を考慮することによって、壁部100が写り込まない眼底画像を取得することができる。
【0075】
また、本実施例の走査型眼底撮影装置1は、被検眼の屈折誤差に応じて視度を補正することが可能であり、被検眼の屈折誤差に応じた第1眼底共役位置P1と鏡面対称な第2眼底共役位置P2から距離を開けて、壁部100が配置される。つまり、第1眼底共役位置P1が存在し得る範囲R1と鏡面対称な、第1眼底共役位置P1が存在し得る範囲R2から距離を開けて、壁部100が配置される。このため、特に、被検眼の屈折誤差が大きく、ダイクロイックミラー12からより離れた位置に第2眼底共役位置R2が存在するような場合であっても、眼底画像上に壁部100が写りこむことを抑制できる。
【0076】
また、本実施例の走査型眼底撮影装置1は、SLO光学系500の光路をダイクロイックミラー12の透過側に配置し、SLO光学系とは異なる光学系(ここでは、OCT光学系300)の光路をダイクロイックミラー12の反射側に配置する。これによって、SLO光学系500からの光が走査部52によって反射される反射方向と、眼底Erの走査方向と、を同じにすることができる。なお、例えば、光の反射方向と走査方向が異なる場合は、ミラーやレンズを用いて各々の方向を調整する必要が生じる。本実施例のような構成であれば、SLO光学系500が複雑化することを抑制できる。
【0077】
また、本実施例の走査型眼底撮影装置1は、SLO光学系500の光路をダイクロイックミラー12の作動距離方向から結合させ、SLO光学系とは異なる光学系(OCT光学系300)の光路をダイクロイックミラー12の下方向から結合させる。これによって、SLO光学系500からの光の一部(分離光)は、ダイクロイックミラー12を透過せず、上方向へ反射される。例えば、このようにSLO光学系500の下にOCT光学系300を配置することによって、被検眼よりも高い位置(対物レンズ11よりも高い位置)に、撮影部2が大きく迫り出すことが抑制できる。このため、検者が走査型眼底撮影装置1の上から手を伸ばし、被検者に対して開瞼等をする場合に、手が届きやすく、検者の負担を抑制できる。
【0078】
[変容例]
本実施例においては、被検眼Eの屈折誤差に応じて、眼底画像における壁部100の写り込みが生じ得る場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、SLO光学系500における眼底Erの走査画角によっても、壁部100の写り込みは生じ得る。このため、壁部100は、眼底Erの走査画角を考慮して、配置されてもよい。
【0079】
図6は、被検眼を撮影する画角と撮影部2の壁部100との関係について説明する図である。SLO光学系500は、被検眼Eに対して横断方向(XY方向)にレーザ光を走査させるため、光軸L1上の第1眼底共役位置P1及び光軸L4上の第2眼底共役位置P2は、それぞれ、第1眼底共役面M1及び第2眼底共役面M2として存在する。例えば、眼底Erの走査画角が大きいほど、各々の眼底共役面は大きくなる。このため、眼底Erの走査画角が大きいほど、第2眼底共役面M2が壁部100に重なり、眼底画像上に壁部100がアーチファクトとして写りこみやすくなる。しかし、眼底Erの走査画角を考慮して壁部100を配置することで、アーチファクトを抑制し、好適な眼底画像を取得することができる。もちろん、壁部100は、被検眼Eの屈折誤差に対応する視度補正量、及び、眼底Erの走査画角をいずれも考慮して配置されてもよい。
【0080】
本実施例においては、SLO光学系500をダイクロイックミラー12の透過側に配置し、OCT光学系300をダイクロイックミラー12の反射側に配置する構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、SLO光学系500をダイクロイックミラー12の反射側に配置し、OCT光学系300をダイクロイックミラー12の透過側に配置する構成としてもよい。この場合、SLO光学系500のレーザ光における一部の光(分離光)は、ダイクロイックミラー12を反射せず透過されてしまうことがあり、同様に、分離光の光路上には眼底共役位置が意図せず形成される。しかし、このような構成であっても、撮影部2の壁部100を眼底共役位置と重ならないように配置することで、眼底画像上に壁部が写りこむことを抑制できる。
【0081】
なお、SLO光学系500をダイクロイックミラー12の反射側に配置する場合、SLO光学系500のレーザ光は、ダイクロイックミラー12の下側から入射されてもよい。このように構成することで、被検眼Eよりも高い位置に撮影部2が大きく迫り出すことが抑制される。もちろん、レーザ光はダイクロイックミラー12の上側から入射するように構成されてもよいが、上記の理由により、ダイクロイックミラー12の下側から入射させることが好ましい。
【0082】
本実施例においては、SLO光学系500の光路とOCT光学系300の光路が、ダイクロイックミラー12によって結合される構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、OCT光学系500の光路が、OCT光学系500とは異なる光学系(一例として、前眼部撮影光学系200、等)の光路と結合される構成であっても、分離光の影響による壁部100の写り込みが起こる。なお、この場合には、ダイクロイックミラー12に代えて、ハーフミラー等が使用されてもよい。例えば、このような場合であっても、壁部100を第2眼底共役位置P2と重ならないように配置することで、アーチファクトが抑制された適切な眼底画像を取得できる。
【0083】
なお、本実施例においては、撮影部2によってダイクロイックミラー12及びその他の光学部材を保護する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、ダイクロイックミラー12の表面は、埃がのったり傷が付いたりすることによって、埃や傷に由来するアーチファクトが眼底画像に写り込みやすくなる。このため、撮影部2は、少なくともダイクロイックミラー12を保護するための保護カバーを、別途備えてもよい。この場合、保護カバーは、ダイクロイックミラー12のみを覆う部材であってもよい。もちろん、保護カバーはこれに限定されるものではなく、一例として第1共通光路10に配置された光学部材(対物レンズ11及びダイクロイックミラー12)を覆う部材であってもよい。
【0084】
本実施例では、このように保護カバーを備える場合であっても、保護カバーの壁部が第2眼底共役位置P2と重ならないように配置される。これによれば、SLO光学系500からの光の一部(分離光)がダイクロイックミラー12によって意図せず反射しても、保護カバーの壁部がアーチファクトとして写り込むことを抑制し、好適な眼底画像を取得できる。
【0085】
また、上記実施例において、第1光学系の一例として、SLO光学系500を示した。SLO光学系500は、スポットスキャンタイプの光学系であって、眼底上にスポット状に照射された光束を2次元的に走査することによって、眼底画像を撮影する。但し、上述の通り、第1光学系にはラインスキャンタイプの光学系を適用可能である。この場合において、ラインスキャンタイプの光学系では、眼底上でライン状の光束が一方向に走査されることで眼底画像が撮像される。ラインスキャンタイプの光学系では、受光素子(例えば、ラインセンサ)に、共焦点開口機能が兼用され得る。この場合、眼底共役位置に受光素子が配置されることによって、受光素子とは別体のアパーチャが必ずしも眼底共役位置に配置されていなくても、迷光が受光されることが抑制される。なお、ラインスキャンタイプの光学系であっても、受光素子とは別体のアパーチャが眼底共役位置に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 走査型眼底撮影装置
10 第1共通光路
11 対物レンズ
12 ダイクロイックミラー
52 走査部
53 視度補正部
58 共焦点開口
59 受光素子
100 壁部
300 OCT光学系
500 SLO光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6