(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185871
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】露光方法、露光装置、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093765
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂泉 純
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA06
2H197AA09
2H197CD12
2H197DB10
2H197DB11
2H197DB40
2H197EB22
2H197EB23
2H197HA03
(57)【要約】
【課題】ダミー照射を行うときのレチクルの交換等による手間の軽減あるいはダミー照射にかかるコストの低減に有利な技術を提供する。
【解決手段】基板を露光する露光方法が提供される。該露光方法は、投影光学系の光学特性が調整されるように前記投影光学系に光を照射する調整工程と、前記調整工程の後、マスクのパターンを前記投影光学系を介して前記基板に投影することにより前記基板を露光する露光工程と、を有する。前記調整工程は、照明光学系の瞳面に調整用の第1光強度分布を形成し、これにより前記投影光学系の瞳面に前記第1光強度分布に従った第2光強度分布が形成されるように前記投影光学系に対して光照射を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を露光する露光方法であって、
投影光学系の光学特性が調整されるように前記投影光学系に光を照射する調整工程と、
前記調整工程の後、マスクのパターンを前記投影光学系を介して前記基板に投影することにより前記基板を露光する露光工程と、を有し、
前記調整工程は、照明光学系の瞳面に調整用の第1光強度分布を形成し、これにより前記投影光学系の瞳面に前記第1光強度分布に従った第2光強度分布が形成されるように前記投影光学系に対して光照射を行う、ことを特徴とする露光方法。
【請求項2】
前記第2光強度分布は、前記投影光学系の物体面に配置された光学素子によらずに形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の露光方法。
【請求項3】
前記光学素子は、パターンが形成されていない領域を有し、
前記調整工程において前記投影光学系に照射される光は前記領域を透過する、ことを特徴とする請求項2に記載の露光方法。
【請求項4】
前記調整工程において、前記投影光学系に照射される光は、前記投影光学系の物体面の開口部を通る、ことを特徴とする請求項1に記載の露光方法。
【請求項5】
前記調整工程は、前記基板に光が到達しない状態で実行される、ことを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の露光方法。
【請求項6】
前記投影光学系の内部に配置された絞りを用いて前記基板に光が到達しない状態にすること、を特徴とする請求項5に記載の露光方法。
【請求項7】
計測用の光照射を実行する前と後とにおける前記光学特性の変動量の計測を、互いに異なる計測照明条件で複数回行う計測工程と、
前記計測工程により得られた計測照明条件ごとの前記計測用の光照射前後の前記光学特性の変動量の情報に対し、計測照明条件のパラメータに依存した関数のフィッティングを行うフィッティング工程と、
前記フィッティングされた関数に基づいて、前記調整工程における前記光照射の条件を決定する決定工程と、
を更に有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の露光方法。
【請求項8】
前記パラメータは、NAおよび有効光源に関する情報の少なくとも1つである、ことを特徴とする請求項7に記載の露光方法。
【請求項9】
前記関数は、2次関数である、ことを特徴とする請求項8に記載の露光方法。
【請求項10】
前記パラメータは、NAであり、
前記計測用の光照射前後の前記光学特性の変動量をCoef、NAの2乗に比例する係数をα、NAに比例する係数をβ、NAに依存しない定数をConstとすると、前記光学特性の変動量Coefは、
Coef = α・NA2+β・NA+Const
として表される、ことを特徴とする請求項9に記載の露光方法。
【請求項11】
前記計測は、空中像計測である、ことを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の露光方法。
【請求項12】
前記計測照明条件は、前記露光工程での露光に用いられる照明条件である、ことを特徴とする請求項5から9のいずれか1項に記載の露光方法。
【請求項13】
前記調整工程における前記光照射の前記条件は、該光照射の照射時間または照射量である、ことを特徴とする請求項7から12のいずれか1項に記載の露光方法。
【請求項14】
前記光学特性は、非点収差を含む、ことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の露光方法。
【請求項15】
光源からの光でマスクを照明する照明光学系と、前記マスクのパターンを基板に投影する投影光学系と、を備える露光装置であって、
前記投影光学系の光学特性を調整するために、前記照明光学系の瞳面に調整用の第1光強度分布を形成し、これにより前記投影光学系の瞳面に前記第1光強度分布に従った第2光強度分布が形成されるように前記投影光学系に対して光照射を行い、
前記光照射の後、前記マスクのパターンを前記投影光学系を介して前記基板に投影することにより前記基板を露光するように構成され、
前記照明光学系は、前記光源からの光束をそれぞれ異なる光強度分布に変換する複数の回折光学素子を含み、
前記光照射を行うとき、前記複数の回折光学素子のうちの調整用の回折光学素子を前記光源と前記マスクとの間の光路に挿入することにより、前記照明光学系の瞳面に前記第1光強度分布を形成する、
ことを特徴とする露光装置。
【請求項16】
前記複数の回折光学素子は、露光時の変形照明用の回折光学素子を更に含み、
露光時には、前記調整用の回折光学素子を前記光路から退避させ、前記変形照明用の回折光学素子を前記光路に挿入する、
ことを特徴とする請求項15に記載の露光装置。
【請求項17】
請求項1から14のいずれか1項に記載の露光方法に従い基板を露光する工程と、
前記露光された基板を現像する工程と、
を含み、前記現像された基板から物品を製造する、ことを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光方法、露光装置、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体プロセスのNAND工程においては、ワードラインパッド(WLP)階段を形成するために数μm厚のレジストを露光する厚膜プロセスが主流になっている。厚膜プロセスは、レジストが厚いため、露光するときの露光量が増加する傾向にある。スキャナーの場合、矩形スリットのため、露光による投影光学系に非回転対称の熱分布が発生し、非回転対称の露光収差(以下、「露光非点収差」と呼ぶ)が発生する。従来の露光装置は、投影光学系の瞳面に赤外線を照射し、露光非点収差をキャンセルするような熱分布をつくり、露光非点収差を補正している(特許文献1)。また、投影光学系の瞳面のレンズに電極を構成して、レンズを任意の熱分布にできるようにし、電極を制御して露光非点収差を補正している(特許文献2)。これらは、投影光学系に特別なハードを構成する必要があるため高価になってしまう。露光非点収差を補正するための安価な代替手段として、投影光学系の物体面に回折光学素子を構成して、その回折光学素子を照明し、投影光学系の露光非点収差を補正する方法も提案されている(特許文献3)。
【0003】
このように、投影光学系の光学特性の変動を補正するために、ダミー照射(ダミー露光)が行われる。また、投影光学系の透過率の安定化等のためにも、ダミー照射は行われうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-317847号公報
【特許文献2】特開2008-118135号公報
【特許文献3】特開2001-250761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ダミー照射には、特許文献3にも記載されているように、専用のレチクルが使用される。しかし、専用のレチクルを用意することは、コストの増加に繋がり、また、ダミー照射実行時にレチクルを交換する手間も増える。
【0006】
本発明は、ダミー照射を行うときのレチクルの交換等による手間の軽減あるいはダミー照射にかかるコストの低減に有利な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によれば、基板を露光する露光方法であって、投影光学系の光学特性が調整されるように前記投影光学系に光を照射する調整工程と、前記調整工程の後、マスクのパターンを前記投影光学系を介して前記基板に投影することにより前記基板を露光する露光工程と、を有し、前記調整工程は、照明光学系の瞳面に調整用の第1光強度分布を形成し、これにより前記投影光学系の瞳面に前記第1光強度分布に従った第2光強度分布が形成されるように前記投影光学系に対して光照射を行う、ことを特徴とする露光方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ダミー照射を行うときのレチクルの交換等による手間の軽減あるいはダミー照射にかかるコストの低減に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】空中像計測時のフォーカスと光量の関係を示す図。
【
図3】ZernikeのZ12項の波面収差を示す図。
【
図4】ダミー照射に使用される非回転対称の有効光源分布を示す図。
【
図5】計測照明NA毎のダミー照射による投影光学系の非点収差変動量を示す図。
【
図6】計測照明NA毎のダミー照射による投影光学系の非点収差変動量をフィッティングした結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、実施形態における露光装置1の構成を示す図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。一般には、被露光基板であるウェハ110はその表面が水平面(XY平面)と平行になるようにウェハステージ111の上に置かれる。よって以下では、ウェハ110の表面に沿う平面内で互いに直交する方向をX軸およびY軸とし、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とする。また、以下では、XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向といい、X軸周りの回転方向、Y軸周りの回転方向、Z軸周りの回転方向をそれぞれθx方向、θy方向、θz方向という。
【0012】
光源101から出射した光は、照明光学系102に入射し、回折光学素子103で所望の有効光源分布を形成し、レチクル104(マスク、原版)上に照射される。これによりレチクル104に描画されているパターンは、投影光学系107によりウェハ110上に縮小投影され露光される。レチクル104はレチクルステージ106に保持され、レチクルステージ106はY方向にスキャン駆動しうる。ウェハ110を保持するウェハステージ111は、露光するときには、レチクルステージ106がスキャン駆動する方向と逆方向にスキャン駆動しうる。そして、露光が終了すると、ウェハステージ111は次のショットを露光するためにステップ駆動する。制御部100は、露光装置の各部を統括的に制御する。制御部100は、プロセッサおよびメモリを含むコンピュータ装置によって構成されうる。
【0013】
本実施形態において、回折光学素子103は、被照明面(像面)であるレチクル104と共役な面または照明光学系102の瞳面とフーリエ変換の関係にある面に配置される。回折光学素子103は、投影光学系107の瞳面と共役な面である照明光学系102の瞳面やそれと共役な面などの所定面上に、光源101からの光束の光強度分布を回折作用により変換して所望の光強度分布を形成する。回折光学素子103には、回折パターン面に所望の回折パターンが得られるように計算機で設計された計算機ホログラム(CGH;Computer Generated Hologram)を使用してもよい。投影光学系107の瞳面に形成される光源形状は、「有効光源形状」と呼ばれる。なお、本明細書において、「有効光源」とは、被照明面およびその共役面上における光強度分布あるいは光の角度分布をいう。一例において、回折光学素子103は、光源101からの光束をそれぞれ異なる光強度分布に変換する複数の回折光学素子のうちから選択される回折光学素子でありうる。複数の回折光学素子のそれぞれは、例えば、ターレット(不図示)の複数のスロットに取り付けられて搭載されている。複数の回折光学素子はそれぞれ異なる有効光源形状を形成することができる。複数の回折光学素子は、露光時の変形照明用の回折光学素子を含みうる。変形照明の有効光源形状により、照明モードの名前が、小σ照明、大σ照明、輪帯照明、二重極照明、四重極照明などと呼ばれる。また、本実施形態では、回折光学素子103は、後述するようなダミー照射工程で使用される、投影光学系107の光学特性の調整用の有効光源形状を形成する回折光学素子を更に含む。
【0014】
レチクルステージ106には、レチクル104とは別のレチクル基準プレート105が構成され、レチクル基準プレート105には、空中像計測を行うためのレチクル側マーク113が配置されている。レチクル側マーク113は、周期的に並んだラインアンドスペースのパターンでありうる。更に、ウェハステージ111上には、ウェハ基準プレート112が構成されており、ウェハ基準プレート112上には、空中像を計測するためのウェハ側マーク114が配置されている。ウェハ側マーク114は、レチクル側マーク113のラインアンドスペースのパターンのピッチと同じラインアンドスペースのパターンでありうる。更に、ウェハ基準プレート112の下には光検出器115が構成されている。
【0015】
レチクル側マーク113、ウェハ側マーク114のラインアンドスペースのパターンのラインはクロムであり、スペースはガラスで構成されうる。光源101から出射した光は、照明光学系102を介して、レチクル基準プレート105上のレチクル側マーク113に照射されるようにレチクルステージ103がY方向にスキャン駆動し、停止する。レチクル基準プレート105のレチクル側マーク113を通過した光は、投影光学系107を介して、ウェハ基準プレート112上のウェハ側マーク114に到達する。到達した光は、ウェハ基準プレート112上のウェハ側マーク114を通過して、光検出器115に到達する。
【0016】
(空中像計測)
次に、投影光学系107の光学特性である非点収差を計測する計測方法について説明する。この計測方法として空中像計測が採用されうる。光源101から出射した光は、照明光学系102を介して、レチクル基準プレートを照射し、レチクル側マーク113を、投影光学系107を介して、ウェハ側マーク114上に縮小投影する。縮小投影された状態でウェハステージ111を光軸方向と同じZ方向にスキャン駆動させる。このスキャン駆動における投影光学系107のベストフォーカス位置において、レチクル側マーク113の縮小投影された像は、ウェハ側マーク114と重なるため、光検出器115で受光される光量は最大となる。ベストフォーカスから外れていくと、ウェハ基準プレート112上のウェハ側マーク114上では、縮小投影されたレチクル側マーク113の像のコントラストが低下し、ぼけていくため、光検出器115で受光される光量は徐々に低下していく。
【0017】
図2に、レチクル側マーク113をウェハ側マーク上112に縮小投影した状態で、ベストフォーカスを挟んで、ウェハステージ111がZ方向にスキャン駆動したときのフォーカスカーブを示す。横軸にフォーカス、縦軸に光検出器115の光量とすると、上凸のカーブになり、このカーブのピーク位置をベストフォーカス(BF)とする。なお、このベストフォーカス位置を求める方法は一例であり、他の方法でベストフォーカス位置を求めてもよい。
【0018】
非点収差の計測のために、レチクル側マーク113とウェハ側マーク114には、X方向のラインアンドスペースおよびY方向のラインアンドスペースが構成される。制御部100は、レチクル側マーク113のX方向およびY方向のラインアンドスペースをウェハ側マーク114に縮小投影する。制御部100は、この状態で、X方向およびY方向のラインアンドスペースの両方に関してベストフォーカスを含む範囲内でウェハステージ111をZ方向にスキャン駆動させる。そして制御部100は、このスキャン駆動により、X方向およびY方向のラインアンドスペースのフォーカスカーブを取得する。制御部100は、取得したX方向とY方向のラインアンドスペースのフォーカスカーブのピーク位置からベストフォーカスをそれぞれ演算し、演算されたX方向とY方向のラインアンドスペースのベストフォーカスの差分をとり、非点収差を求めることができる。
【0019】
次に、投影光学系107に高次の非点収差が存在する場合、前述した空中像計測で非点収差を計測すると、レチクル側マーク113を照射する照明(以下、「計測照明」という。)条件によって、非点収差の計測値が異なることについて説明する。レチクル側マーク113を照射した光によって、レチクル側マーク113のラインアンドスペースのピッチに応じて0次と±1次の回折光が飛ぶ。この瞳面上での回折光の大きさおよび位置は、レチクル側マーク113のラインアンドスペースのピッチ、計測照明のNAおよびσによって変わる。例として、投影光学系107が、
図3に示すようなZernikeのZ12項の波面収差を持っている場合を考える。レチクル側マーク113のラインアンドスペースで回折された光は、計測照明のNAおよびσによって、投影光学系107の瞳面上で、大きさおよび位置が変わり、投影光学系107のもつ波面収差による影響が異なる。その結果、空中像計測された非点収差は、計測照明のNAおよびσによって異なる。
【0020】
(ダミー照射工程)
次に、本実施形態におけるダミー照射工程について説明する。ダミー照射工程は、投影光学系107の光学特性が調整されるように投影光学系107に対して光照射を行う調整工程である。本実施形態では、この調整工程の後に、レチクル104のパターンを投影光学系107を介してウェハ110に投影することによりウェハ110を露光する露光工程が実行されうる。
【0021】
ダミー照射工程では、回折光学素子103により照明光学系102の瞳面に調整用の第1光強度分布を形成する。これにより、投影光学系107の瞳面に上記第1光強度分布に従った第2光強度分布が形成される。本実施形態のダミー照射工程では、投影光学系107の物体面に配置された光学素子(ダミー照射専用のレチクル等)を使うことなく、投影光学系107の瞳面に上記第2光強度分布を形成する。一例において、レチクル基準プレート105は、空中像計測用のマークが形成されたマーク領域と、何もパターンが入っていない素ガラス領域とを有する。この場合、ダミー照射工程において第2光強度分布を形成するために、投影光学系107の物体面には、露光工程に使用されるレチクル104ではなく、レチクル基準プレート105の素ガラス領域が配置され、計測光はその素ガラス領域を透過する。別の例においては、ダミー照射工程において第2光強度分布を形成するために、投影光学系107の物体面には、何も配置されないようにしてもよい。この場合、投影光学系107に照射される光は、投影光学系107の物体面の開口部を通る。なおこれは、例えば、レチクル基準プレート105に上記したマーク領域と光を通過させる開口部とを形成しておき、ダミー照射工程において、投影光学系107の物体面に該開口部を配置することにより実現されてもよい。以下、具体例を説明する。
【0022】
光源101から出射した光は、照明光学系102内にある回折光学素子103により、照明光学系102の瞳面に、
図4(a)または
図4(b)に示すような有効光源分布(第1光強度分布)を形成する。上記したように、回折光学素子103は、それぞれ異なる有効光源形状を形成する複数の回折光学素子を含み、例えば、これらの回折光学素子のそれぞれが、不図示のターレットの複数のスロットに搭載される。本実施形態において、複数の回折光学素子は、
図4(a)に示すような有効光源分布を形成するための調整用の回折光学素子と、
図4(b)に示すような有効光源分布を形成するための調整用の回折光学素子とを含みうる。ダミー照射を行う際には、ターレットから調整用の回折光学素子を選択して光源101とレチクル104との間の光路に該選択した回折光学素子を挿入する。これにより、照明光学系102の瞳面に
図4(a)または
図4(b)に示すような有効光源分布(第1光強度分布)が形成される。なお、上記したように、ターレットには、変形照明用の回折光学素子も搭載されている。ダミー照射工程の後の露光時には、ターレットを制御して、ダミー照射工程で使われた調整用の回折光学素子を光路から退避させ、変形照明用の回折光学素子を光路に挿入する。
【0023】
図4(a)および
図4(b)において示された破線は、σ=1を表し、白色領域が光強度をもつ。生成した有効光源分布(第1光強度分布)の光は、照明光学系102を介して、レチクルステージ103上まで到達し、投影光学系107の瞳面に第1光強度分布に従った第2光強度分布を形成する。
【0024】
本実施形態では、上記のような調整用の回折光学素子を使用するので、ダミー照射用のレチクルを用意する必要がない。すなわち、ダミー照射工程(調整工程)では、投影光学系107の物体面に配置された光学素子を使うことなく、投影光学系107の瞳面に上記第2光強度分布を形成する。したがって、本実施形態によれば、ダミー照射を行うときのレチクルの交換等による手間を軽減することができる。あるいはそのような専用の光学素子を用意する必要がないので、ダミー照射にかかるコストを低減することも可能になる。
【0025】
したがって、本実施形態のダミー照射工程では、照明光学系102から出射した光は、レチクルステージ103上のレチクル104を介さず、直接、投影光学系107に入射する。このとき、レチクル104はレチクルステージ103から取り外されてもよいし、レチクル104を搭載したレチクルステージ103が光路から退避するように駆動されてもよい。
【0026】
投影光学系107に入射した光は、投影光学系107の内部に配置されたNA絞り108に照射され、ウェハ110上に光が到達しないようにする。すなわち、本実施形態のダミー照射工程は、基板に光が到達しない状態で実行されうる。ウェハステージ111にウェハを載置したままダミー露光を行うと、ウェハが感光して製品として使用できなくなるためである。投影光学系107に入射した光が、投影光学系107を構成しているレンズ群に入射するとレンズの硝材吸収および、反射防止膜の膜吸収によって、レンズが加熱されてレンズの屈折率が変化し、波面収差が発生する。例えば、
図4(a)のような有効光源分布を回折光学素子103で生成し、投影光学系107に入射させると、レンズの硝材吸収および、反射防止膜の膜吸収によって発生する投影光学系107の波面収差は、
図3に示すような高次の波面収差になる。この高次の波面収差を、「高次の非点収差」と呼ぶこととする。
【0027】
(ダミー照射工程におけるダミー照射の条件の決定)
非回転対称な有効光源分布によるダミー照射によって、投影光学系に高次の非点収差が発生した場合、計測する照明条件によって、計測される投影光学系の非点収差の変動量が異なることがある。そのため、ダミー照射による投影光学系の非点収差の変動量の関係を、投影光学系の非点収差を計測するときの照明条件ごとに取得しておけばよい。しかし、計測時にとりうる照明条件の数は膨大であるため、すべての照明条件に対して、ダミー照射による投影光学系の非点収差の変動量の関係を取得することは時間がかかり現実的ではないし、生産性も低下させてしまう。
【0028】
そこで本実施形態では、所定の照射時間にわたるダミー照射(光照射)を実行する前と後とにおける光学特性(非点収差)の変動量の計測を、互いに異なる計測照明条件で複数回行う(計測工程)。計測照明条件は、露光工程での露光に用いられる照明条件でありうる。次に、この計測工程により得られた、計測照明条件ごとの光照射前後の光学特性の変動量の情報に対し、計測照明条件のパラメータに依存した関数のフィッティングを行う(フィッティング工程)。その後、フィッティングされた関数に基づいて、ダミー照射工程におけるダミー照射の条件を決定する(決定工程)。
【0029】
次に、ダミー照射に対する投影光学系107の非点収差変動量の関係を取得する工程について説明する。ダミー照射をする前の投影光学系107の状態は、クール状態であることが望ましい。クール状態とは、投影光学系107内のレンズ群に露光もダミー照射もされず、投影光学系107が、投影光学系107を取り囲む環境温度に馴染んでいることを意味する。まず、ダミー照射をする前の投影光学系107がもつ非点収差を、一つの任意の計測照明条件で計測する。この非点収差計測値を、AS0とする。計測照明は、照明光学系102内に構成されている回折光学素子103で生成することができる有効光源分布を形成し、この有効光源分布はダミー照射で用いる有効光源分布とは異なる。照明光学系102内の回折光学素子103は、ダミー照射で使用する場合と投影光学系107の非点収差を計測する場合とで切り替え可能となっている。例えば、上記したターレットには、ダミー照射用の回折光学素子と、非点収差計測用の回折光学素子とが搭載されており、ダミー照射時と計測時で回折光学素子を切り替えるようターレットを制御してもよい。
【0030】
次に、
図4(a)のような有効光源分布で、ダミー照射を時間Tだけ行う。ダミー照射後の投影光学系107の波面収差は、
図3に示すような高次の非点収差をもつようになる。次に、ダミー照射後に、前述した任意の計測照明条件で投影光学系107の非点収差を計測する。この非点収差計測値を、AS1とする。式(1)で示すように、前述した任意の計測照明条件によるダミー照射前の投影光学系107の非点収差計測値AS0とダミー照射後の投影光学系107の非点収差計測値AS1との差を、ダミー照射時間Tで割る。これにより、ダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量(Coef)が算出される。ここでは、ダミー照射の直後に投影光学系107の非点収差を計測して非点収差変動量を求めることを示したが、これは一例にすぎない。例えば、ダミー照射後の経過時間毎に投影光学系107の非点収差を計測し、ダミー照射のエネルギーと計測された複数の投影光学系107の非点収差の時間特性をモデル化して、ダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量を求めてもよい。
【0031】
Coef =(AS1-AS0)/T (1)
【0032】
次に、本実施形態では、NAの異なる4つの計測照明条件に対して、前述したダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量を取得する。例えば、4つの異なる計測照明NAは、0.55、0.65、0.75、0.86である。
図5には、計測照明条件ごとのダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量が示されている。
図5において、横軸は計測照明NA、縦軸はダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量を示す。ここでは、ダミー照射時間Tを5秒間にしてダミー照射を実施した前後の投影光学系107の非点収差を計測し、式(1)により、計測照明条件ごとのダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量を求めた。ここで、ダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量がマイナスの場合は、レチクル基準プレート105にあるレチクル側マーク113のXパターンのベストフォーカスが、投影光学系107から離れる方向に存在することを意味する。さらに、該非点収差変動量がマイナスの場合は、レチクル基準プレート105にあるレチクル側マーク113のYパターンのベストフォーカスが、投影光学系107に近づく方向に存在することを意味している。
【0033】
次に、計測照明条件ごとに取得したダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量と、計測照明条件のパラメータに依存した関数化について説明する。前述した4つの異なる計測照明NAのダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量をCoef1、Coef2、Coef3、Coef4とする。また、計測照明条件のパラメータは計測照明NAとする。制御部100は、式(2)に表すような、計測照明条件のパラメータである計測照明NAに依存した多項式関数(例えば2次関数)で、ダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量Coef1、Coef2、Coef3、Coef4をフィッティングする。なお、式(2)に示したようなフィッティングする関数は、一例であり、他の関数を用いてフィッティングしてもよい。式(2)において、Coefはダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量、NAは計測照明NA、αは計測照明NAの2乗に比例する係数、βは計測照明NAに比例する係数、Constは計測照明NAに依らない定数である。なお、ここでは計測照明NAに依存する関数でフィッティングすることを示したが、計測照明NAに加えて、有効光源の情報を用いた関数にしてもよい。
【0034】
Coef = α・NA2+β・NA+Const (2)
【0035】
フィッティングの結果を
図6に示す。
図6には、
図5と同じ、計測照明NAに対する非点収差変動量のプロットが示されている。すなわち、横軸は計測照明NAを示し、縦軸はダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量を示している。
図6において、丸点は、前述した
図5の4つの計測照明NAで取得したダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量を示している。また、
図6において、破線は、当該4つの計測照明NAで取得したダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量に対して、式(2)の多項式でフィッティングした結果を示している。ここで取得した係数α、係数β、定数Constは、例えば制御部100におけるメモリに記憶され、露光装置1のパラメータとして設定されうる。制御部100は、これらのパラメータを用いて任意の計測照明NAのダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量を予測することができる。
【0036】
(露光方法)
図7のフローチャートを参照して、本実施形態における露光方法について説明する。
図7は、ロット間でダミー照射を実行する例を示している。また、この露光方法において、「露光ジョブ」とは、例えば、1ロット(例えば25枚のウェハ)における一連の露光に関するジョブをいう。
【0037】
まず、露光ジョブを開始する前に、工程S1において、制御部100は、投影光学系107の非点収差を計測する。次に、工程S2において、制御部100は、計測した投影光学系107の非点収差が、所定の閾値よりも大きいかを判定する。非点収差が閾値より大きい場合、処理は工程S3に進む。
【0038】
工程S3において、制御部100は、露光ジョブに設定されている計測照明NAを用いたダミー照射による投影光学系107の非点収差変動量を予測する。この予測には、露光ジョブに設定されている計測照明NAと、上述の処理により予め求められメモリに記憶されている係数α、係数β、定数Constとが用いられうる。すなわちこの予測は、上記のフィッティングされた関数に基づいて行われる。そして制御部100は、予測した非点収差変動量と工程S1で計測した投影光学系107の非点収差とに基づいて、ダミー照射工程における光照射の条件を決定する。ダミー照射工程における光照射の条件は、ダミー照射工程における光照射の照射時間(ダミー照射時間)または照射量(ダミー照射量)でありうる。
【0039】
その後、工程S4において、制御部100は、工程S3で決定された条件でダミー照射を実行する。これにより、投影光学系107の非点収差を低減することができる。
【0040】
工程S4におけるダミー照射工程の完了後、または、工程S2で非点収差が閾値以下であると判定された場合、工程S5において、制御部100は、露光ジョブ(露光工程)を開始する。その後、工程S6において、制御部100は、露光ジョブを終了する。
【0041】
このように本実施形態の露光方法によれば、予めフィッティングされた関数を用いてダミー照射工程の条件が決定されるので、生産性の点で有利である。なお、工程S4のダミー照射を実行後に、投影光学系107の非点収差が低減しているかを確認するための計測工程を更に入れてもよい。また、工程S4のダミー照射によって投影光学系107の非点収差の所望の低減が得られなかった場合に、ダミー照射の条件を変更して再度ダミー照射を実行するようにしてもよい。また、上述した露光方法では、ロット間でダミー照射を実行すると説明したが、ロット内でダミー照射を実行するようにしてもよい。
【0042】
<物品製造方法の実施形態>
本発明の実施形態に係る物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、基板に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0043】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0044】
1:露光装置、101:光源、102:照明光学系、103:回折光学素子、104:レチクル、106:レチクルステージ、107:投影光学系、110:ウェハ、111:ウェハステージ