(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185886
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20221208BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093789
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】是松 和哉
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA08
2H500CA06
2H500EA13C
2H500EA17B
2H500EA33B
2H500EA36B
2H500EA38B
2H500EA42B
2H500EA42C
2H500EA44C
2H500EA45B
(57)【要約】
【課題】良好な低温定着性、保存性および粉砕性(生産性)を有するトナーを提供することを課題とする。
【解決手段】結着樹脂、着色剤および離型剤を少なくとも含み、前記結着樹脂が、分子量分布で質量分子量1×103~1×104の範囲に75%以上分布しかつフローテスター測定時に80℃のとき1×105Pa・s以下の粘度を有する低分子量の樹脂A、分子量分布で質量分子量1×104~1×105の範囲に20%以上分布しかつ質量分子量1×103~1×104の範囲にメインピークを有する中分子量の樹脂B、および分子量分布で質量分子量1×105以上に5%以上分布を有する高分子量の樹脂Cからなる少なくとも3種のポリエステル系樹脂であることを特徴とするトナーにより、上記の課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、着色剤および離型剤を少なくとも含み、
前記結着樹脂が、
分子量分布で質量分子量1×103~1×104の範囲に75%以上分布しかつフローテスター測定時に80℃のとき1×105Pa・s以下の粘度を有する低分子量の樹脂A、
分子量分布で質量分子量1×104~1×105の範囲に20%以上分布しかつ質量分子量1×103~1×104の範囲にメインピークを有する中分子量の樹脂B、および
分子量分布で質量分子量1×105以上に5%以上分布を有する高分子量の樹脂C
からなる少なくとも3種のポリエステル系樹脂である
ことを特徴とするトナー。
【請求項2】
前記樹脂Aおよび樹脂Cが、樹脂A≦樹脂Cの組成比率の関係を満たす請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記樹脂Bが、前記結着樹脂に対して5~20質量%の組成比率を有する請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
前記樹脂Cが、10~20質量%ゲル分を有する請求項1~3のいずれか1つに記載のトナー。
【請求項5】
前記離型剤が、30℃以上の融点差を有する離型剤Aおよび離型剤Bからなる2種の離型剤である請求項1~4のいずれか1つに記載のトナー。
【請求項6】
前記離型剤Aが、100℃以下の融点を有する請求項5に記載のトナー。
【請求項7】
前記離型剤Bが、120℃以上の融点を有する請求項5または6に記載のトナー。
【請求項8】
前記離型剤Aおよび離型剤Bの合計が、前記結着樹脂100質量部に対して1~5質量部である請求項5~7のいずれか1つに記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な低温定着性、保存性および粉砕性(生産性)を有するトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器の目覚しい発達に伴い、電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ装置などの画像形成装置が広く普及している。
電子写真方式を利用した画像形成装置では、通常、回転駆動する電子写真感光体(「感光体」ともいう)の表面を帯電装置により均一に帯電する帯電工程;帯電した感光体表面に露光装置によりレーザ光を照射して静電潜像を形成する露光工程;感光体表面の静電潜像を現像装置により電子写真用トナー(「トナー」ともいう)を用いて現像してトナー像を形成する現像工程;感光体表面のトナー像を転写装置により記録紙(「記録媒体」または「転写媒体」ともいう)上に転写する転写工程;および定着装置の加熱によりトナー像を記録紙に定着する定着工程を経て画像が形成される。
そして、画像形成動作後に感光体表面上に残留した転写残留トナーは、クリーニング工程においてクリーニング装置により除去されて所定の回収部に回収され、クリーニング後の感光体表面における残留電荷は、次の画像形成に備えるために、除電工程において除電装置により除電される。
【0003】
したがって、画像形成装置に用いられるトナーは、現像工程だけではなく、転写工程、定着工程およびクリーニング工程の各工程においても様々な機能が要求される。
例えば、トナーを加熱溶融してトナー像を記録紙に定着させる加熱定着方法を採用する定着工程において、省エネルギー化を達成するためには、できるだけ低い温度でトナー像を定着させる必要があり、低温定着性の良好なトナーが要求される。
例えば、特開2005-321473号公報(特許文献1)には、少なくとも結着樹脂、着色剤、離型剤を予備的に混合した原料混合物をオープンロール型連続混練機によって溶融混練する溶融混練工程と、溶融混練して得られる混練物を粉砕し分級する粉砕分級工程とを含む電子写真用トナーの製造方法において、結着樹脂が、分子量分布で高分子量成分(質量平均分子量=100,000~120,000、融点=120~160℃)、中分子量成分(質量平均分子量=80,000~100,000、融点=90~100℃)、低分子量成分(質量平均分子量=10,000~20,000、融点=100~110℃)を含み、離型剤が、原料混合物中に5質量%以上含有され、かつ結着樹脂中に内添されている電子写真用トナーの製造方法、およびそれにより得られた電子写真用トナーが開示されている。
そして、特許文献1の製造方法では、少なくとも結着樹脂、着色剤および離型剤を含む原料混合物がオープンロール型連続混練機によって溶融混練されるとき、せん断応力を充分に作用させることができ、結着樹脂中に離型剤と着色剤とが充分に分散されるので、耐久性に優れ、非オフセット域を充分確保できる電子写真用トナーを提供できるとしている。
しかしながら、電子写真の高速化、省エネルギー化およびフルカラー化のためには、トナーのさらなる物性向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、省エネ設計のPad定着では、定着ベルトが非常に薄く、揺動により動作するため、圧力を強くすると、ベルトのライフに悪影響を及ぼし、圧力を低く設定する必要がある。そのため、トナーとしては、低温にて低密度を示す必要がある。
そこで、結着樹脂として結晶性ポリエステル系樹脂を用いたトナーでは、優れた低温定着性が可能になるものの、製造時の粉砕性が著しく低下し、トナー中の結晶状態次第で保存性が悪化するという課題がある。また、低密度の樹脂構成で低融点離型剤を用いたトナーでは、製造時の粉砕性が悪化するという課題がある。
特許文献1には、後述するような本発明のトナーの結着樹脂の構成は記載されておらず、特許文献1に記載の発明には、Pad定着のような低圧力の定着方式に対応可能なトナーの課題はない。
【0006】
そこで、本発明は、良好な低温定着性、保存性および粉砕性(生産性)を有するトナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、少なくとも結着樹脂、着色剤および離型剤を含むトナーにおいて、結着樹脂が特定の分子量分布および粘度を有する少なくとも3種のポリエステル系樹脂であることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、結着樹脂、着色剤および離型剤を少なくとも含み、
前記結着樹脂が、
分子量分布で質量分子量1×103~1×104の範囲に75%以上分布しかつフローテスター測定時に80℃のとき1×105Pa・s以下の粘度を有する低分子量の樹脂A、
分子量分布で質量分子量1×104~1×105の範囲に20%以上分布しかつ質量分子量1×103~1×104の範囲にメインピークを有する中分子量の樹脂B、および
分子量分布で質量分子量1×105以上に5%以上分布を有する高分子量の樹脂C
からなる少なくとも3種のポリエステル系樹脂である
ことを特徴とするトナーが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な低温定着性、保存性および粉砕性(生産性)を有するトナーを提供することを提供することができる。
すなわち、本発明では、結着樹脂として、低分子量の樹脂Aと高分子量の樹脂Cに加えて中分子量の樹脂Bを用いることにより、樹脂Aと樹脂Cとが均一に溶融混錬されることにより、低温定着性と高温オフセット性との両立が実現できるものと考えられる。
【0010】
本発明のトナーは、少なくとも次の条件(1)~(7)のいずれか1つを満たす場合に、上記の効果をより発揮する。
(1)樹脂Aおよび樹脂Cが、樹脂A≦樹脂Cの組成比率の関係を満たす。
(2)樹脂Bが、結着樹脂に対して5~20質量%の組成比率を有する。
(3)樹脂Cが、10~20質量%ゲル分を有する。
(4)離型剤が、30℃以上の融点差を有する離型剤Aおよび離型剤Bからなる2種の離型剤である。
(5)離型剤Aが、100℃以下の融点を有する。
(6)離型剤Bが、120℃以上の融点を有する。
(7)離型剤Aおよび離型剤Bの合計が、結着樹脂100質量部に対して1~5質量部である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】定着性評価に用いたPad定着試作機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)トナー
本発明のトナーは、結着樹脂、着色剤および離型剤を少なくとも含み、
前記結着樹脂が、
分子量分布で質量分子量1×103~1×104の範囲に75%以上分布しかつフローテスター測定時に80℃のとき1×105Pa・s以下の粘度を有する低分子量の樹脂A、
分子量分布で質量分子量1×104~1×105の範囲に20%以上分布しかつ質量分子量1×103~1×104の範囲にメインピーク(最大分布)を有する中分子量の樹脂B、および
分子量分布で質量分子量1×105以上に5%以上分布を有する高分子量の樹脂C
からなる少なくとも3種のポリエステル系樹脂である
ことを特徴とする。
本発明のトナーは、上記の成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、帯電制御剤などの公知の添加剤を含んでいてもよい。
以下に、トナーの主な構成成分、それらの物性およびその製造方法について説明する。
【0013】
(1-1)結着樹脂
本発明のトナーの結着樹脂は、
上記の特定の分子量分布および粘度を有する低分子量の樹脂A、
上記の特定の分子量分布を有する中分子量の樹脂B、および
上記の特定の分子量分布を有する高分子量の樹脂C
からなる少なくとも3種のポリエステル系樹脂である。
本発明において、低分子量、中分子量および高分子量とは、3種のポリエステル系樹脂の分子量分布の相対的な比較による呼称であって、絶対的な意味ではない。
「少なくとも3種のポリエステル系樹脂」としては、樹脂A、樹脂Bおよび樹脂Cがそれぞれ1種の組み合わせ以外に、例えば、2種の樹脂A、1種の樹脂Bおよび1種の樹脂Cの組み合わせ、1種の樹脂A、2種の樹脂Bおよび1種の樹脂Cの組み合わせ、1種の樹脂A、1種の樹脂Bおよび2種の樹脂Cの組み合わせが挙げられ、工業的には各1種の組み合わせが好ましい。
【0014】
(1-1-1)樹脂A
樹脂Aは、分子量分布で質量分子量1×103~1×104の範囲に75%以上分布しかつフローテスター測定時に80℃のとき1×105Pa・s以下の粘度を有する。
質量分子量1×103未満の分子量分布が多くなると、樹脂が柔らかくなり、トナーの保存性が悪化することがある。一方、質量分子量1×104の分子量分布が多くなると、樹脂の粘度が上がり、トナーの低温定着性が悪化することがある。
好ましい質量分子量1×103~1×104の範囲の分子量分布は、80%以上である。
【0015】
樹脂Aが、フローテスター測定時に80℃のとき1×105Pa・s以下の粘度を有する場合、Pad定着などの低温定着に好適な良好な低温定着性が得られ、粘度が1×105Pa・sを超えると、トナーの低温定着性が悪化することがある。
好ましいローテスター測定時に80℃のときの粘度は、2×104Pa・s以下である。
フローテスターの粘度測定については実施例において説明する。
樹脂Aは、52~56℃のガラス転移温度Tg(℃)を有するのが好ましく、85~100℃の軟化点Tm(℃)を有するのが好ましい。
【0016】
(1-1-2)樹脂B
樹脂Bは、分子量分布で質量分子量1×104~1×105の範囲に20%以上分布しかつ質量分子量1×103~1×104の範囲にメインピークを有する。
樹脂Bは、樹脂Aと樹脂Cとの均一な溶融混錬に寄与し、樹脂Bを配合しない場合には、トナーの低温定着のみならず高温定着も確保できないことがある。
樹脂Bが、質量分子量1×104~1×105の範囲に20%以上分布せずかつ質量分子量1×103~1×104の範囲にメインピークを有さない場合、樹脂Aと樹脂Cとの均一な溶融混錬が困難になり、低温定着のみならず高温定着も確保が困難になることがある。
樹脂Bは、65~70℃のガラス転移温度Tg(℃)を有するのが好ましく、110~120℃の軟化点Tm(℃)を有するのが好ましい。
【0017】
(1-1-3)樹脂C
樹脂Cは、分子量分布で質量分子量1×105以上に5%以上分布を有する。
樹脂Cは、樹脂Aの低粘度化に対して、高温定着性の確保に寄与する。
樹脂Cが、分子量分布で質量分子量1×105以上に5%以上分布しない場合、トナーの弾性が損なわれ、高温定着を確保できないことがある。
樹脂Cが、分子量分布で質量分子量1×105以上の分布が5%未満では、Pad定着の低温側領域の確保ができないことがある。
【0018】
樹脂Cは、10~20質量%のゲル分を有するのが好ましい。
樹脂Cのゲル分が10質量%未満では、ローラ定着の高温側領域の確保ができないことがある。一方、樹脂Cのゲル分が20質量%を超えると、Pad定着の低温側領域を阻害し、粉砕性を悪化させることがある。
ゲル分測定については実施例において説明する。
樹脂Cは、55~65℃のガラス転移温度Tg(℃)を有するのが好ましく、130~150℃の軟化点Tm(℃)を有するのが好ましい。
【0019】
(1-1-4)ポリエステル系樹脂
本発明のトナーに含まれる結着樹脂は、ポリエステル系樹脂であり、非結晶性ポリエステル系樹脂(非晶性ポリエステル系樹脂)および結晶性ポリエステル系樹脂のいずれであってもよいが、本発明の構成要件を満たし易く、その優れた効果が得られ易い点で非結晶性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0020】
ここで、非晶性樹脂と結晶性樹脂は、結晶性指数により区別され、結晶性指数が0.6~1.5の範囲にある樹脂を結晶性樹脂とし、結晶性指数が0.6未満であるかまたは1.5を超える樹脂を非晶性樹脂とする。すなわち、結晶性指数が1.5を超える樹脂は非晶性であり、一方、結晶性指数が0.6未満である樹脂は結晶性が低く、非晶性部分が多い。
結晶性指数とは、樹脂の結晶化の度合いの指標となる物性であり、軟化温度と吸熱の最高ピーク温度の比(軟化温度/吸熱の最高ピーク温度)により定義される。ここで、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性ポリエステル樹脂においては、最高ピーク温度を融点Tmpとし、非結晶性ポリエステル樹脂においては、最も高温側にあるピークをガラス転移温度Tgとする。
結晶化の度合いは、原料モノマーの種類および比率、ならびに製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)などを調整することで制御できる。
【0021】
(1-1-5)非結晶性ポリエステル系樹脂
非晶性ポリエステル系樹脂は、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸またはイソフタル酸を主成分として含むカルボン酸モノマーと、エチレングリコールを主成分として含む多価アルコールとの重縮合反応により得られる。
その反応条件は、通常のポリエステル系樹脂の製造と同様であり、例えば、ジカルボン酸モノマーと多価アルコールとを、窒素ガス雰囲気中、必要に応じてエステル化触媒の存在下、温度190~240℃で反応させることにより、非晶性ポリエステル系樹脂が得られる。多価アルコールとカルボン酸モノマーとの反応比率は、好ましくは水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]:[COOH]で1.3:1~1:1.2である。
【0022】
ジカルボン酸モノマーに占めるテレフタル酸またはイソフタル酸のモル含有率は、好ましくは70~100%であり、より好ましくは80~100%である。
また、ジカルボン酸モノマーは、フマル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸などの脂肪族ジカルボン酸を含んでいてもよく、テレフタル酸またはイソフタル酸のエステル形成性誘導体、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、脂肪族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、これらのカルボン酸の酸無水物やアルキルエステルを含んでいてもよい。
さらに、ジカルボン酸モノマーは、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上のポリカルボン酸やそのエステル形成性誘導体と併用してもよい。
上記のジカルボン酸モノマーおよびポリカルボン酸モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
多価アルコールに占めるエチレングリコールのモル含有率は、好ましくは70~100%であり、より好ましくは80~100%である。
多価アルコールは、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの他の多価アルコールを含んでいてもよい。
上記の多価アルコールは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(1-1-6)結晶性ポリエステル系樹脂
結晶性ポリエステル系樹脂は、特に限定されないが、例えば、炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸を主成分として含むカルボン酸モノマーと、炭素数2~10の脂肪族ジオールを主成分として含む多価アルコールとの重縮合反応により得られる直鎖状飽和脂肪族ポリエステルユニットで構成されるのが好ましい。
その反応条件は、通常のポリエステル系樹脂の製造と同様であり、例えば、ジカルボン酸モノマーと多価アルコールとを、窒素ガス雰囲気中、必要に応じてエステル化触媒の存在下、温度190~240℃で反応させることにより、結晶性ポリエステル系樹脂が得られる。多価アルコールとカルボン酸モノマーとの反応比率は、トナーの保存性の観点などから、好ましくは水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]:[COOH]で0.83:1~1.3:1である。
【0025】
カルボン酸モノマーに占めるジカルボン酸のモル含有率は、好ましくは90~100%であり、ジカルボン酸のモル含有率が低いと、結晶化の割合や速度が低下して、耐トナー凝集性が不十分になることがある。
炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アゼライン酸、ゼバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸などが挙げられる。また、カルボン酸モノマーおよびポリカルボン酸モノマーは、これら脂肪族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体を含んでいてもよい。
さらに、カルボン酸モノマーは、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上のポリカルボン酸やそのエステル形成性誘導体と併用してもよい。
上記のカルボン酸モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
多価アルコールに占める炭素数2~10の脂肪族ジオールのモル含有率は、好ましくは80~100%である。
炭素数2~10の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどが挙げられる。
また、上記の脂肪族ジオールと併用可能な多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパンなど3価以上のアルコールが挙げられる。
上記の多価アルコールは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
(1-1-7)結着樹脂の配合割合
樹脂A、樹脂Bおよび樹脂Cの配合割合は、用いる樹脂材料の物性などにより本発明の優れた効果が得られる範囲で適宜設定すればよい。
例えば、樹脂全量を100質量%としたときに、樹脂Aが25~60質量%の範囲、樹脂Bが5~20質量%の範囲、樹脂Cが30~60質量%の範囲である。
【0028】
樹脂Aおよび樹脂Cは、樹脂A≦樹脂Cの組成比率の関係を満たすのが好ましい。
結着樹脂中に樹脂Aが樹脂Cよりも多い場合、樹脂Aの低温定着性が強く発現するため、十分な定着の高温側領域を確保できないことがある。
【0029】
樹脂Bは、結着樹脂に対して5~20質量%の組成比率を有するのが好ましい。
樹脂Bが結着樹脂に対して5質量%未満では、十分な溶融混錬ができず、定着領域の低温高温側の確保ができないことがある。一方、樹脂Bが結着樹脂に対して20質量%を超えると、樹脂Aが多い場合、定着領域の高温側が確保できないことがあり、樹脂Cが多い場合、定着領域の低温側が確保できないことがある。
より好ましい樹脂Bの組成比率は、結着樹脂に対して8~15質量%である。
【0030】
(1-2)着色剤
本発明のトナーに含まれる着色剤としては、当該技術分野で常用される有機系および無機系の様々な種類および色の顔料および染料を用いることができ、例えば、黒色、白色、黄色、橙色、赤色、紫色、青色および緑色の着色剤が挙げられる。
【0031】
黒色の着色剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、磁性フェライトおよびマグネタイトなどが挙げられる。
白色の着色剤としては、例えば、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛などが挙げられる。
【0032】
黄色の着色剤としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138などが挙げられる。
【0033】
橙色の着色剤としては、例えば、赤色黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43などが挙げられる。
【0034】
赤色の着色剤としては、例えば、ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀、カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッド、カルシウム塩、レーキレッドC、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222などが挙げられる。
【0035】
紫色の着色剤としては、例えば、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキなどが挙げられる。
青色の着色剤としては、例えば、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60などが挙げられる。
緑色の着色剤としては、例えば、クロムグリーン、酸化クロム、ピクメントグリーンB、マイカライトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG、C.I.ピグメントグリーン7などが挙げられる。
【0036】
本発明のトナーにおいては、上記の着色剤の1種を単独でまたは2種を組み合わせて用いることができ、それらの組み合わせは異色であっても同色であってもよい。
また、2種以上の着色剤を複合粒子化して用いてもよい。複合粒子は、例えば、2種以上の着色剤に適量の水、低級アルコールなどを添加し、ハイスピードミルなどの一般的な造粒機で造粒し、乾燥させることによって製造できる。さらに、結着樹脂中に着色剤を均一に分散させるために、マスターバッチ化して用いてもよい。複合粒子およびマスターバッチは、乾式混合の際にトナー組成物に混入される。
【0037】
本発明のトナーにおける着色剤の含有量は、特に限定されないが、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、より好ましくは0.2~10質量部である。
着色剤の含有量が上記の範囲内であれば、トナーの各種物性を損なうことなしに、高い画像濃度を有し、画質品位の非常に良好な画像を形成することができる。
換算すれば、トナー中の着色剤の含有量は、好ましくは2.5~7.5質量%であり、より好ましくは3.0~6.5質量%である。
【0038】
(1-3)離型剤(ワックス)
本発明のトナーに含まれる離型剤としては、当該技術分野で常用される離型剤を用いることができる。
例えば、パラフィンワックスおよびマイクロクリスタリンワックスならびにそれらの誘導体などの石油系ワックス;フィッシャートロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなど)、低分子量ポリプロピリンワックスおよびポリオレフィン系重合体ワックス(低分子量ポリエチレンワックスなど)ならびにそれらの誘導体などの炭化水素系合成ワックス;カルナバワックス、ライスワックスおよびキャンデリラワックスならびにそれらの誘導体、木蝋などの植物系ワックス;蜜蝋、鯨蝋などの動物系ワックス;脂肪酸アミドおよびフェノール脂肪酸エステルなどの油脂系合成ワックス;長鎖カルボン酸およびその誘導体;長鎖アルコールおよびその誘導体;シリコーン系重合体;高級脂肪酸などが挙げられる。
上記の誘導体には、酸化物、ビニル系モノマーとワックスとのブロック共重合物、ビニル系モノマーとワックスとのグラフト変性物などが含まれる。
本発明においては、上記の離型剤の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
本発明においては、離型剤は、30℃以上の融点差を有する離型剤Aおよび離型剤Bからなる2種の離型剤であるのが好ましい。
離型剤の融点差が30℃未満でかつ低融点側に近い場合、トナー製造時の粉砕性が悪化することがある。一方、離型剤の融点差が30℃未満でかつ高融点側に近い場合、低温側での定着領域において剥離不良が発生することがある。
【0040】
離型剤Aは、100℃以下の融点を有するのが好ましい。
離型剤Aの融点が100℃を超える場合、定着領域における低温側のベルトもしくはローラから紙(記録媒体)が剥離する、すなわち剥離性が悪化することがある。
離型剤Bは、120℃以上の融点を有するのが好ましい。
離型剤Bの融点が120℃未満の場合、高温側領域における剥離性が悪化することがある。
【0041】
離型剤Aは、特に限定されないが、上記の離型剤の中でも、エステルワックス、パラフィンワックスおよびポリエチレンワックスが特に好ましい。
また、離型剤Bは、特に限定されないが、上記の離型剤の中でも、ポリプロピレンワックスが特に好ましい。
【0042】
本発明のトナーにおける離型剤の含有量、離型剤Aおよび離型剤Bからなる2種の離型剤を用いる場合には、それらの合計量は、特に限定されないが、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1~5質量部であり、より好ましくは1.5~4質量部であり、特に好ましくは2~3質量部である。
離型剤の含有量が上記の範囲内であれば、トナーの各種物性を損なうことなしに、高い画像濃度を有し、画質品位の非常に良好な画像を形成することができる。
2種の離型剤を用いる場合、離型剤Aおよび離型剤Bの比率A/Bは、0.8~3が好ましい。
【0043】
(1-4)帯電制御剤
本発明のトナーに含まれていてもよい帯電制御剤としては、当該技術分野で常用される正電荷制御用および負電荷制御用の電荷制御剤を用いることができる。
【0044】
正電荷制御用の電荷制御剤としては、例えば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料およびその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩などが挙げられる。
負電荷制御用の電荷制御剤としては、例えば、オイルブラック、スピロンブラックなどの油溶性染料、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、ナフテン酸金属塩、サリチル酸およびその誘導体の金属錯体および金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウムなど)、ホウ素化合物、脂肪酸石鹸、長鎖アルキルカルボン酸塩、樹脂酸石鹸などが挙げられる。
本発明のトナーにおいては、上記の電荷制御剤の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明のトナーにおける帯電制御剤の含有量は、特に限定されないが、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5~3質量部であり、より好ましくは1~2質量部である。
帯電制御剤の含有量が、上記の範囲内であれば、トナーの各種物性を損なうことなしに、高い画像濃度を有し、画質品位の非常に良好な画像を形成することができる。
換算すれば、トナー中の帯電制御剤の含有量は、好ましくは0.5~2.0質量%であり、より好ましくは0.7~1.5質量%である。
【0046】
(1-5)外添剤
トナーは、その搬送性および帯電性などを向上させるために外添剤を含んでいてもよい。
外添剤としては、当該技術分野で常用される外添剤を用いることができ、例えば、シリカ、酸化チタンなどの無機微粒子が挙げられ、シリコーン樹脂、シランカップリング剤などにより表面処理(疎水化処理)されているものが好ましく、トナーに帯電性を付与するという点で、シリカ粒子が特に好ましい。
また、外添剤は、6~200nmの平均一次粒子径を有する無機微粒子が好ましい。
外添剤の添加量は特に限定されないが、トナー100質量部に対して、好ましくは0.2~5.0質量部であり、より好ましくは0.5~2.5質量部である。
【0047】
(2)トナーの製造方法
本発明のトナーの製造方法は、
少なくとも結着樹脂、着色剤および離型剤を含む粗粉砕された溶融混練物とフィラーとを混合する混合工程と、
該混合工程で得られた混合物を微粉砕する微粉砕工程と、
該微粉砕工程で得られた微粉砕物を分級する分級工程と、
該分級工程で得られた分級物を熱風により球形化する球形化処理工程と
を含むことを特徴とする。
本発明のトナーの製造方法は、上記の方法に限定されず、公知の方法により製造することができるが、湿式法と比較して工程数が少なく、設備コストが掛からないなどの点で乾式法が好ましく、中でも粉砕法が特に好ましい。
下記の各工程における条件は、対象とする材料および所望の物性により適宜設定すればよい。
【0048】
(2-1)混合工程
混合工程では、少なくとも結着樹脂、着色剤および離型剤、ならびに必要に応じて配合される帯電制御剤などの公知の添加剤を含むトナー材料を混合・溶融混練し、さらにフィラーと混合し、得られた混練物を冷却固化・粗粉砕して混合物を得る。
【0049】
混合は乾式が好ましく、混合機としては、当該技術分野で常用される公知の装置を使用でき、例えば、ヘンシェルミキサ(商品名、三井鉱山株式会社(現 日本コークス工業株式会社)製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などの混合装置が挙げられる。
【0050】
混練機としては、当該技術分野で常用される公知の装置を使用でき、例えば、二軸押出機、三本ロール、ラボブラストミルなどの一般的な混練機が挙げられる。具体的には、例えば、TEM-100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM-65/87、PCM-30(以上いずれも商品名、株式会社池貝製)などの1軸または2軸のエクストルーダ、ニーデックス(商品名、三井鉱山株式会社製)などのオープンロール方式の混練機が挙げられ、これらの中でも、オープンロール方式の混練機は、混練時のシェアが強く顔料などの着色剤および離型剤などを高分散できる点で好ましい。
【0051】
(2-2)微粉砕工程
次に、微粉砕工程では、混合工程で得られた混合物を微粉砕する。
粉砕機としては、当該技術分野で常用される公知の装置を使用でき、例えば、超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に固化物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機が挙げられる。
【0052】
(2-3)分級工程
次に、分級工程では、微粉砕工程で得られた微粉砕物を分級する。
分級には、当該技術分野で常用される公知の装置、特に旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)のような遠心力および風力により過粉砕トナー粒子を除去できる分級機を使用できる。
【0053】
(2-4)球形化処理工程
次に、球形化処理工程では、分級工程で得られた分級物を熱風により球形化する。
球形化処理には、機械的な表面処理、熱的な表面処理(熱風処理)があるが、トナー円形度をより高められるという点で後者が好ましい。
熱風処理には、例えば、表面改質機メテオレインボー(日本ニューマチック工業株式会社製)を用いることができる。
熱風式球形化装置では、熱風で処理する前の処理前母粒子同士の凝集を防ぐため、二次エア噴射ノズルから空気を供給し、処理前母粒子を衝突部材に衝突させる。その処理前母粒子を熱風で球形化してトナー母粒子とした後、トナー母粒子同士の熱融着を防ぐため冷却空気でトナー母粒子を冷却する。
二次エア噴射ノズルからの空気の供給量は、毎分200L以上250L以下が好ましい。二次エア噴射ノズルからの空気の供給量が多過ぎると処理前母粒子が衝突部材で大きなダメージを受けるおそれがあり、供給量が少な過ぎると処理前母粒子同士が凝集し易い。
熱風の供給量は毎分700L以上1500L以下が好ましい。熱風の供給量が多過ぎると必要以上に処理前母粒子が溶融してしまい、少な過ぎると充分に処理前母粒子の球形化処理が行われないおそれがある。
熱風の温度は、50℃以上250℃以下が好ましい。熱風の温度が高過ぎると必要以上に処理前母粒子が溶融し、低過ぎると処理前母粒子の球形化処理に時間がかかる。冷却空気の供給圧力は、0.1MPa以上0.3MPa以下が好ましい。
冷却空気の供給圧力が高過ぎると充分にトナー母粒子を冷却処理できないおそれがあり、低過ぎるとトナー母粒子の冷却処理に時間がかかる。
【実施例0054】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において、各物性値を以下に示す方法により測定した。
【0055】
[ポリエステル系樹脂の軟化点Tm(℃)]
流動特性評価装置(株式会社島津製作所製、フローテスター、型番:CFT-100C)を用いて、試料1gを昇温速度6℃/分で加熱しながら、荷重20kgf/cm2(9.8×105Pa)を与え、ダイ(ノズル口径1mm、長さ1mm)から試料を流出させる。試料の半分量が流出したときの温度を軟化点(Tm)とする。
【0056】
[ポリエステル系樹脂の粘度:Pa・s]
上記の軟化点と同様の測定装置および条件で測定を実施し、プランジャーの沈降曲線より、粘度(Pa・s)を自動算出する。
【0057】
[ポリエステル系樹脂のガラス転移温度Tg(℃)]
示差走査熱量計(セイコー電子工業株式会社(現 株式会社日立ハイテクサイエンス)製、型番:DSC220)を用いて、日本工業規格(JIS)K7121-1987に準じて、試料1gを昇温速度10℃/分で加熱してDSC曲線を測定する。得られたDSC曲線において、ガラス転移に相当する吸熱ピークの高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ピークの立ち上がり部分から頂点までの曲線に対して勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とする。
【0058】
[ポリエステル系樹脂の分子量分布]
ポリエステル系樹脂を0.25重量%となるようテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、試料200μLをGPC装置(東ソー株式会社製、型式:HLC-8220GPC)に注入し、温度40℃において分子量分布曲線を求めた。得られた分子量分布曲線から、分子量分布を求める。なお、分子量校正曲線は標準ポリスチレンを用いて作成する。
【0059】
[ポリエステル系樹脂のゲル分(%)]
予め秤量しておいた約3.0gのポリエステル系樹脂を1000mLのテトラヒドロフラン(THF)に、45℃15分間の条件で溶解させ、不溶解分をオムニポアメンブレンフィルター(メルク社製、製品名:JAWP04700)で濾別し、メンブレンフィルター上に残った不溶解分を85℃10時間の条件で乾燥し、得られた乾燥物の質量を測定し、THF不溶分(%)をゲル分(%)として算出する。
【0060】
[離型剤(ワックス)の融点:℃]
示差走査熱量計(株式会社パーキンエルマージャパン製、型式:Diamond DSC)を用いて、ワックス0.01gを温度20℃から昇温速度10℃/分で200℃まで加熱し、次いで200℃から20℃に急冷する操作を2回繰返し、DSC曲線を測定し、2回目の操作で測定したDSC曲線の融解に相当する吸熱ピークの温度をワックスの融点(℃)とする。
【0061】
[トナー母粒子の体積平均粒子径:μm]
電解液(ベックマン・コールター株式会社製、商品名:ISOTON-II)50mLに、試料20mgおよびアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム1mLを加え、超音波分散器(アズワン株式会社製、型式:卓上型2周波超音波洗浄器VS-D100)を用いて周波数20kHzで3分間分散処理し、測定用試料とする。
得られた測定用試料について、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、型式:Multisizer3)を用い、アパーチャ径:100μm、測定粒子数:50000カウントの条件下で測定を行い、試料粒子の体積粒度分布から体積平均粒子径(μm)を求める。
【0062】
(実施例1)
下記の原料を用いて、溶融粉砕法によりトナー母粒子(コアトナー粒子)を作製した。
結着樹脂:
樹脂A:非晶性ポリエステル系樹脂/2000g
質量分子量1×103~1×104の範囲の分布76%
フローテスター測定時に80℃のときの粘度8.8×104Pa・s
樹脂B:非結晶性ポリエステル樹脂/500g
質量分子量1×104~1×105の範囲の分布28%
メインピークの質量分子量6.6×103
樹脂C:非晶性ポリエステル系樹脂/2500g
質量分子量1×105以上の分布6%
ゲル分18%
着色剤:カーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、商品名:#44)/500g
離型剤:
離型剤A:パラフィン系ワックス(融点90℃、日本精蝋株式会社製、商品名:フィッシャー・トロプシュワックスFNP0090)/86g
離型剤B:ポリプロピレン(PP)系ワックス(融点140℃、三井化学株式会社製、製品名:NP-505)/57g
帯電制御剤:カリウム塩、ビス[ベンジラト(2-)-k(2)O,O]ホウ酸(1-)カリウム、水への溶解度4.382g/L(20℃)、日本カーリット株式会社製、商品名:イオン導電材LR-147/50g
【0063】
上記のトナー母粒子の原料を、高性能流動式混合機(ヘンシェルミキサ、全容量:20L、三井鉱山株式会社(現 日本コークス工業株式会社)製、型式:FM20C)を用いて、回転数1500rpmで5分間、前混合した。
得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製、型式:PCM-30)を用いて、シリンダ設定温度100℃、バレル回転数250rpm、原料供給速度10kg/時間の条件で溶融混練して溶融混練物を得た。
【0064】
得られた溶融混練物を冷却ベルトで冷却固化させた後、固化物を流動層式対向型ジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製、型式:カウンタージェットミルAFG)を用いて微粉砕し、ロータリー(遠心力型気流)式分級機(ホソカワミクロン株式会社製、型式:TSPセパレータ)を用いて分級(粒度調整)することにより、体積平均粒子径7.0~8.0μmのトナー母粒子を得た。
【0065】
得られたトナー母粒子1000gに、外添剤として市販のシリカ微粒子(アエロジル社製、商品名:R976s)10gおよび酸化チタン微粒子(チタン工業株式会社製、商品名:STT-65ASC)10gを加え、高性能流動式混合機(ヘンシェルミキサ、全容量:20L、三井鉱山株式会社(現 日本コークス工業株式会社)製、型式:FM20C)を用いて、回転数3000rpmで3分間混合して、トナー1kgを得た。
【0066】
(実施例2~24および比較例1~6)
表1に示される物性値を有する樹脂A~Cを表1に示される組成比率で用いること、表1に示される融点および融点差を有する離型剤AおよびBを表1に示される配合割合で用いること以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
表1中の融点の異なる離型剤は下記を用いた。
融点85℃の離型剤A(パラフィンワックス、中京油脂株式会社製、商品名:SELOSOL R-586)
融点90℃の離型剤A(炭化水素系ワックス、日本精蝋株式会社製、商品名:FNP0090)
融点120℃の離型剤A(ポリエチレンワックス、クラリアント製、商品名:LICOWAX PE520)
融点110℃の離型剤B(ポリエチレンワックス、三洋化成工業株式会社製)
融点120℃の離型剤B(ポリエチレンワックス、クラリアント製、商品名:LICOWAX PE520)
融点130℃の離型剤B(ポリエチレンワックス、クラリアント製、商品名:LICOWAX PE130)
融点140℃の離型剤B(ポリプロピレンワックス、三洋化成株式工業会社製、商品名:LICOWAX 550P)
なお、実施例21では、離型剤AおよびBをそれぞれ57gおよび28.5gを、実施例22では、離型剤AおよびBをそれぞれ172gおよび171gを、実施例23では、離型剤AおよびBをそれぞれ0gおよび171gを、実施例24では、離型剤AおよびBをそれぞれ3.44gおよび0gを用いた。
【0067】
表1および表2に、実施例1~24および比較例1~6における樹脂A~Cの物性値とそれらの組成比率、離型剤AおよびBの融点とそれらの配合割合をまとめて示す。
表中、(数字S)E+(数字T)は「S×10T」を意味する。
また、分布Aは「質量分子量1×103~1×104の範囲」、分布Bは「質量分子量1×104~1×105の範囲」、分布Cは「質量分子量1×105以上」を意味する。
【0068】
【0069】
【0070】
[評価]
下記の項目について、実施例1~24および比較例1~6で得られたトナーを評価し、それらの結果に基づいて総合評価した。得られた結果を表3および表4に示す。
【0071】
[評価1:定着性]
PAD定着およびローラ定着の2種の定着方式について評価した。
【0072】
[評価1-1:PAD定着]
図1に示すPAD定着試作機1を用いて、PAD定着による定着性を評価した。
PAD定着試作機1の主要部は、加熱定着部2と、加圧ローラ9からなる加圧ローラ3とからなり、加熱定着部2は定着ベルト4、支持部材5、保護部材6、反射部材(反射板)7および加熱手段(ランプ)からなる。図中、図番10は剥離部材(剥離版)、Pは紙、図番11は紙送りの方向を示す矢符を示す。
【0073】
外部電源を用いて上記の定着機の定着温度を制御し、所望の温度に設定した。
紙面後端に、パッチ付着量が0.5±0.05g/cm2になるようにベタパッチを印字した。
低温側の定着については、上記の定着機通過後に、クリープ試験を実施してトナー層剥離部分が60μm以下である場合を可とし、その温度を定着温度とした。
高温側の定着については、ホットオフセット発生の有無を目視にて確認し、発生してない場合を可とし、その温度を定着温度とした。
【0074】
得られた結果から「低温側の定着性」を次の基準により判定した。
◎:優秀(最低温度が150℃未満)
○:良好(最低温度が150℃以上155℃未満)
△:可 (最低温度が155℃以上160℃未満)
×:不可(最低温度が160℃以上)
また、得られた結果から「高温側の定着性」を次の基準により判定した。
◎:優秀(最高温度が200℃以上)
○:良好(最高温度が195℃以上200℃未満)
△:可 (最高温度が190℃以上195℃未満)
×:不可(最高温度が190℃未満)
【0075】
[評価1-2:ローラ定着]
評価用に改造した市販複写機(シャープ株式会社製、型式:MX-M6570(taurus))を用いて、ローラ定着による定着性を評価した。
まず、記録用紙(シャープ株式会社製、PPC用紙、型式:SF-4AM3)に、ベタ画像(縦20mm、横50mmの長方形)を含むサンプル画像を未定着画像として形成した。この際、ベタ画像におけるトナーの記録用紙への付着量が0.5mg/cm2になるよう調整した。
次に、PAD定着装置を用いて定着画像を作製した。
定着プロセス速度を200mm/秒とし、定着ベルトの温度を110℃から5℃刻みで上げ、低温オフセットおよび高温オフセットがそれぞれ起こらない最低温度および最高温度を求めた。
「低温オフセット」および「高温オフセット」とは、定着時にトナーが記録用紙に定着せずに、定着ベルトに付着したまま定着ベルトが一周した後に記録用紙に付着することと定義する。
【0076】
得られた結果から「低温定着性」を次の基準により判定した。
◎:優秀(最低温度が160℃未満)
○:良好(最低温度が160℃以上165℃未満)
△:可 (最低温度が165℃以上170℃未満)
×:不可(最低温度が170℃以上)
また、得られた結果から「高温定着性」を次の基準により判定した。
◎:優秀(最高温度が230℃以上)
○:良好(最高温度が220℃以上230℃未満)
△:可 (最高温度が210℃以上220℃未満)
×:不可(最高温度が210℃未満)
【0077】
[評価2:粉砕性]
粉砕機(日本ニューマチック工業株式会社製、型式:ジェットミルIDS-2UR)を用いて、トナー試料を、粉圧0.32MPa、材料投入4kg/hの条件で処理し、処理後のトナーの体積平均粒径を測定した。
得られた結果から「粉砕性」を次の基準により判定した。
◎:優秀(体積平均粒子径が6.0μm未満)
○:良好(体積平均粒子径が6.0μm以上6.5μm未満)
△:可 (体積平均粒子径が6.5μm以上7.0μm未満)
×:不可(体積平均粒子径が7.0μm以上)
【0078】
[評価3:保存性]
20mLのポリ容器にトナー試料10gを入れ、温度50℃で48時間放置した。放置後、形式JIS-K-7365に準ずる嵩密度測定器により、トナー試料の嵩密度ADa(g/cm3)を測定した。放置処理前に予め測定しておいたトナー試料の嵩密度ADb(g/cm3)と共に次式により、処理前後の変化率を算出した。
。放置前と放置後のADを下記式にて算出する。
変化率(%)=ADb/ADa×100
得られた結果から「保存性」を次の基準で判定した。
◎:良好 (変化率が98%以上)
○:使用可(変化率が95%以上98%未満)
△:不良 (変化率が90%以上95%未満)
×:不良 (変化率が90%未満)
【0079】
[総合評価]
上記の評価結果に基づいて、次の基準で総合評価を行った。
◎:優秀(各要素◎が4コ以上:使用可能)
○:良好(各要素◎が3コ以下:使用可能)
△:可 (各要素◎が2コ以下:使用可能)
×:不可(×が1つ以上:使用不可)
【0080】
【0081】
表1および表2、表3および表4の結果から次のことがわかる。
(1)本発明の要件を備えたトナーは、良好な低温定着性、保存性および粉砕性(生産性)を有すること(実施例1~24、対照比較例1~6)
(2)樹脂A≦樹脂Cの組成比率の関係を満たすトナーが、低温定着性、保存性および粉砕性において総合的に優れていること(実施例2および11~13)
(3)樹脂Bが結着樹脂に対して5~20質量%の組成比率を有するトナーが、低温定着性、保存性および粉砕性において総合的に優れていること(実施例2および14~17)
(4)離型剤が30℃以上の融点差を有する離型剤Aおよび離型剤Bからなる2種の離型剤であり、離型剤Aが100℃以下の融点を有するトナーが、低温定着性、保存性および粉砕性において総合的に優れていること(実施例2および18~20)
(5)トナー中の離型剤の合計含有量が2~5質量%のトナーが、低温定着性、保存性および粉砕性において総合的に優れていること(実施例2および21~24)