(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185890
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20221208BHJP
H02K 1/04 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093793
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 裕太郎
【テーマコード(参考)】
5H601
5H604
【Fターム(参考)】
5H601AA01
5H601BB11
5H601CC01
5H601DD01
5H601DD11
5H601GB22
5H604CC01
5H604DA13
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】絶縁シートを厚くすることなく、スロットに占める巻線の体積を減少させることなく、効率の低下、および出力トルクの低下を防ぎ、かつ巻線と鉄心との間の絶縁性能を向上させ、絶縁シートの摩耗に対する寿命を改善することが可能な電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】電動機12のティース先端部42bは、回転子22の回転方向Rに突出する回転方向第一突出部61と、回転子22の回転方向の逆方向に突出する逆転方向第一突出部62と、を有し、絶縁端板45A、45Bは、回転方向第一突出部61に覆い被さる回転方向第二突出部65と、逆転方向第一突出部62に覆い被さる逆転方向第二突出部66と、を有している。逆転方向第一突出部62は、回転方向第一突出部61よりも小さく、回転方向第二突出部65は、回転方向第一突出部61よりも巻線47に近く、逆転方向第二突出部66は、逆転方向第一突出部62よりも巻線47に近い。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の固定子と、
前記固定子の内側に配置される回転子と、を備え、
前記固定子は、
筒状のヨーク、および前記ヨークの内側へ突出し、かつ間隔を隔てて周方向へ並ぶ複数のティースを有する鉄心と、
前記鉄心のそれぞれの端面に設けられる複数の絶縁端板と、
前記ティースのそれぞれと前記絶縁端板とに巻き付けられる巻線と、
隣り合う前記ティースの間のそれぞれのスロットに配置されてそれぞれの前記巻線とそれぞれの前記ティースとの間に挟み込まれる複数の絶縁シートと、を有し、
前記回転子の回転中心線に沿う方向から見て、
それぞれの前記ティースの先端部は、前記回転子の回転方向に突出する回転方向第一突出部と、前記回転子の回転方向の逆方向に突出する逆転方向第一突出部と、を有し、
前記絶縁端板は、前記回転方向第一突出部に覆い被さる回転方向第二突出部と、前記逆転方向第一突出部に覆い被さる逆転方向第二突出部と、を有し、
前記逆転方向第一突出部は、前記回転方向第一突出部よりも小さく、
前記回転方向第二突出部は、前記回転方向第一突出部よりも前記巻線に近く、
前記逆転方向第二突出部は、前記逆転方向第一突出部よりも前記巻線に近い電動機。
【請求項2】
前記逆転方向第一突出部は、前記回転方向第一突出部よりも前記巻線から遠い請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記回転方向第二突出部と前記逆転方向第二突出部とは、同じ形状を有する請求項1または2に記載の電動機。
【請求項4】
前記回転子の回転中心線に沿う方向から見て、それぞれの前記逆転方向第一突出部の根元部分が窪んでいる請求項1から3のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項5】
密閉容器と、
前記密閉容器に収容され、冷媒を圧縮可能な圧縮機構部と、
前記密閉容器に収容され、かつ前記圧縮機構部を駆動させる前記請求項1から4のいずれか1項に記載される電動機と、を備える圧縮機。
【請求項6】
請求項5に記載される圧縮機と、放熱器と、膨張装置と、吸熱器と、前記圧縮機、前記放熱器、前記膨張装置、および前記吸熱器を接続して冷媒を流通させる冷媒配管と、を備える冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る実施形態は、電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁束の不均一を解消し振動や電磁騒音を低減するため、ティースの中心線に対して左右非対称な先端形状を有するティースを備える電動機が知られている。ティースの先端には、ロータ(回転子)の回転方向に突出する突起部が設けられている。
【0003】
なお、ティースの中心線とは、ロータの回転中心線に沿う方向から見て、ロータの回転方向へティースを二分する線分である。ステータ(固定子)全体では、この線分は、ティースと同数あって、それぞれの線分は、ロータの回転中心線からロータの径方向へ放射状に延びている。仮に、鉄心の径方向外側からロータを見て、ロータがティースの中心線を右から左へ横切るように回転している場合、突起部は、ティースの中心線に対して左方向へ突出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動機のステータは、筒状のヨーク、およびヨークの内側へ突出し、かつ間隔を隔てて周方向へ並ぶ複数のティースを有する鉄心と、鉄心のそれぞれの端面に設けられる複数の絶縁端板と、ティースのそれぞれと絶縁端板とに巻き付けられる巻線と、隣り合うティースの間のそれぞれのスロットに配置されて巻線とティースとの間に挟み込まれる複数の絶縁シートと、を備えている。絶縁シートは、巻線と鉄心との間に介在して両者を電気的に絶縁している。
【0006】
また、ティースの先端には、ロータの回転方向に突出する第一突起部と、ロータの逆転方向に突出する第二突起部と、が設けられている場合がある。
【0007】
ところで、電動機は、巻線への通電に伴う巻線間どうしでのローレンツ力の発生に伴い、巻線と絶縁シートとの間に周期的な変位を生じさせる。換言すると、巻線は、ローレンツ力によって振動し、そのため、巻線と絶縁シートとは擦れ合う。この巻線と絶縁シートとの擦れ合いによって、絶縁シートが摩耗する虞がある。絶縁シートが摩耗し過ぎると、巻線と鉄心とが短絡する。
【0008】
そこで、絶縁シートをより厚くすることで、巻線と鉄心との間の絶縁性能が向上し、絶縁シートの摩耗に対する寿命が改善する。
【0009】
しかしながら、絶縁シートをより厚くすると、巻線を収容するスロットと呼ばれる空間に占める絶縁シートの体積が増加し、ロータの回転中心線に直行する断面視における絶縁シートの断面積が増加する。換言すると、絶縁シートの厚みを厚くすると、スロットに占める巻線の体積が減少し、ロータの回転中心線に直行する断面視における巻線の断面積が減少する。そうすると、電動機の効率および出力トルクは、低下してしまう。
【0010】
そこで、本発明は、絶縁シートを厚くすることなく、スロットに占める巻線の体積を減少させることなく、効率の低下、および出力トルクの低下を防ぎ、かつ巻線と鉄心との間の絶縁性能を向上させ、絶縁シートの摩耗に対する寿命を改善することが可能な電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するため本発明の実施形態に係る電動機は、筒状の固定子と、前記固定子の内側に配置される回転子と、を備え、前記固定子は、筒状のヨーク、および前記ヨークの内側へ突出し、かつ間隔を隔てて周方向へ並ぶ複数のティースを有する鉄心と、前記鉄心のそれぞれの端面に設けられる複数の絶縁端板と、前記ティースのそれぞれと前記絶縁端板とに巻き付けられる巻線と、隣り合う前記ティースの間のそれぞれのスロットに配置されてそれぞれの前記巻線とそれぞれの前記ティースとの間に挟み込まれる複数の絶縁シートと、を有し、前記回転子の回転中心線に沿う方向から見て、それぞれの前記ティースの先端部は、前記回転子の回転方向に突出する回転方向第一突出部と、前記回転子の回転方向の逆方向に突出する逆転方向第一突出部と、を有し、前記絶縁端板は、前記回転方向第一突出部に覆い被さる回転方向第二突出部と、前記逆転方向第一突出部に覆い被さる逆転方向第二突出部と、を有し、前記逆転方向第一突出部は、前記回転方向第一突出部よりも小さく、前記回転方向第二突出部は、前記回転方向第一突出部よりも前記巻線に近く、前記逆転方向第二突出部は、前記逆転方向第一突出部よりも前記巻線に近い。
【0012】
また、本発明の実施形態に係る圧縮機は、密閉容器と、前記密閉容器に収容され、冷媒を圧縮可能な圧縮機構部と、前記密閉容器に収容され、かつ前記圧縮機構部を駆動させる前記電動機と、を備えている。
【0013】
さらに、本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置は、前記圧縮機と、放熱器と、膨張装置と、吸熱器と、前記圧縮機、前記放熱器、前記膨張装置、および前記吸熱器を接続して冷媒を流通させる冷媒配管と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置および圧縮機の概略的な図。
【
図2】本発明の実施形態に係る電動機の固定子の概略的な分解斜視図。
【
図3】本発明の実施形態に係る電動機の固定子の概略的な平面図。
【
図4】巻線に作用するローレンツ力の解析例の一例を示すベクトル図。
【
図5】本発明の実施形態に係る電動機の要部を示す図。
【
図6】本発明の実施形態に係る電動機において、回転方向第一突出部と逆転方向第一突出部との断面積比とトルクリップルの増減との関係を示す図。
【
図7】本発明の実施形態に係る電動機の要部の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る電動機、圧縮機、および冷凍サイクル装置の実施形態について
図1から
図7を参照して説明する。なお、複数の図面中、同じまたは相当する構成には同一の符号が付されている。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置および圧縮機の概略的な図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1は、密閉型の圧縮機2と、放熱器3と、膨張装置5と、吸熱器6と、アキュームレータ7と、冷媒配管8と、を備えている。冷媒配管8は、圧縮機2と放熱器3と膨張装置5と吸熱器6とアキュームレータ7とを順次に接続して冷媒を流通させる。
【0018】
圧縮機2は、冷媒配管8を通じて吸熱器6を通過した冷媒を吸い込み、圧縮し、冷媒配管8を通じて高温高圧の冷媒を放熱器3へ吐き出す。
【0019】
圧縮機2は、縦置きされる円筒形状の密閉容器11と、密閉容器11内の上半部に配置される電動機12と、密閉容器11内の下半部に配置される圧縮機構部13と、電動機12の回転駆動力を圧縮機構部13へ伝達する回転軸15と、回転軸15を回転自在に支持する主軸受16と、主軸受16と協働して回転軸15を回転自在に支持する副軸受17と、を備えている。
【0020】
密閉容器11は、上下方向に延びる円筒形状の胴部11aと、胴部11aの上端部を塞ぐ半球状または楕円状の鏡板11bと、胴部11aの下端部を塞ぐ半球状または楕円状の鏡板11cと、を備えている。
【0021】
密閉容器11の上側の鏡板11bには、冷媒の吐出用の吐出管8aが接続されている。吐出管8aは冷媒配管8に繋がれている。また、密閉容器11の上側の鏡板11bには、電力供給用の密封端子部18が設けられている。
【0022】
電動機12は、圧縮機構部13を回転させる駆動力を発生させる。電動機12は、例えば三相誘導電動機である。電動機12は、密閉容器11の内壁に固定される筒状の固定子21と、固定子21の内側に配置され、かつ回転軸15に固定される回転子22と、固定子21から引き出されて密封端子部18に接続される複数の口出し線23と、を備えている。
【0023】
回転子22は、磁石収容孔(図示省略)を有する回転子鉄心25と、磁石収容孔に収容される永久磁石と、を備えている。回転子22は、固定子21に対して回転可能であり、かつ回転軸15に支持されている。回転子22および回転軸15の回転中心線Cは、実質的に固定子21の中心線Pに一致している。
【0024】
複数の口出し線23は、密封端子部18を通じて固定子21に電力を供給する配線であり、いわゆるリード線である。口出し線23は、電動機12の種類に応じて複数配線される。口出し線23がオープン巻線型で利用される場合には、U相、V相、W相毎にそれぞれ2本、つまり合計6本の口出し線23が配線される。電動機12がスター結線で利用される場合には、U相、V相、W相にそれぞれ1本、つまり合計3本の口出し線23が配線される。
【0025】
回転軸15は、電動機12と圧縮機構部13とを連結している。回転軸15は、電動機12が発生させる回転駆動力を圧縮機構部13に伝達する。
【0026】
回転軸15の中間部分15aは、電動機12と圧縮機構部13とを繋ぎ、主軸受16によって回転可能に支持されている。回転軸15の下端部分15bは、副軸受17によって転可能に支持されている。主軸受16および副軸受17は、圧縮機構部13の一部でもある。換言すると、回転軸15は、圧縮機構部13を貫通している。
【0027】
また、回転軸15は、主軸受16に支持されている中間部分15aと副軸受17に支持されている下端部分15bとの間に、偏心部26を備えている。偏心部26は、回転軸15の回転中心線に不一致な中心を有する円盤、あるいは円柱である。
【0028】
圧縮機構部13は、冷媒、つまり単一冷媒または混合冷媒を圧縮することができる。電動機12が回転軸15を回転駆動することによって、圧縮機構部13は、冷媒配管8からガス状の冷媒を吸込んで圧縮し、かつ密閉容器11内に吐出する。
【0029】
圧縮機構部13は、円形のシリンダー室31を有するシリンダー32と、シリンダー室31内に配置される環状のローラー33と、ローラー33の外周面に接して往復動し、シリンダー室31内を吸込室と圧縮室とに仕切るブレード35と、を備えている。
【0030】
シリンダー32は、密閉容器11に複数箇所で溶接、例えばスポット溶接によって固定されている。
【0031】
シリンダー室31は、シリンダー32の内側の空間であって、主軸受16および副軸受17によって閉鎖されている。シリンダー室31は、回転軸15の偏心部26を収容している。
【0032】
主軸受16は、ボルトなどの締結部材38によってシリンダー32に固定されている。主軸受16には、シリンダー室31内で圧縮された冷媒を吐出する吐出弁機構(図示省略)と、吐出弁機構に覆い被さる吐出マフラー37と、が設けられている。吐出弁機構は、圧縮機構部13の圧縮作用にともないシリンダー室31内の圧力と吐出マフラー37内の圧力との圧力差が所定値に達したときに吐出ポートを開放して、圧縮された冷媒を吐出マフラー37内に吐出する。吐出マフラー37は、吐出マフラー37の内外を繋ぐ吐出孔(図示省略)を有している。吐出マフラー37内に吐出された圧縮冷媒は、吐出孔を通じて密閉容器11内へ吐出される。
【0033】
副軸受17は、ボルトなどの締結部材38によってシリンダー32に固定されている。
【0034】
ローラー33は、偏心部26の周面に嵌合されている。ローラー33の外周面は、シリンダー室31の内周面に線接触している。ローラー33は、回転軸15の回転にともなって、その外周面をシリンダー室31の内周面に線接触させながら偏心運動する。
【0035】
なお、ローラー33とシリンダー32との接触は直接的な接触ではなく、潤滑油39の油膜(図示省略)を介在させた間接的なものであるが、説明の便宜のために、これら油膜を介した接触を単に「接触」と表現する。ローラー33と偏心部26との間、ローラー33と主軸受16との間、およびローラー33と副軸受17との間も同じである。
【0036】
吸込管7aは、密閉容器11を貫いて、シリンダー32のシリンダー室31に接続されている。シリンダー32は、吸込管7aに繋がってシリンダー室31に到達する吸込孔
(図示省略)を有している。
【0037】
密閉容器11の下部は潤滑油39で満たされている。圧縮機構部13の大部分は、密閉容器11内の潤滑油39中に浸されている。
【0038】
次いで、電動機12の固定子21について詳しく説明する。
【0039】
図2は、本発明の実施形態に係る電動機の固定子の概略的な分解斜視図である。
【0040】
図3は、本発明の実施形態に係る電動機の固定子の概略的な平面図である。
【0041】
図2および
図3に示すように、本実施形態に係る電動機12は、三相3Nスロットタイプ(Nは正の整数)である。
図2および
図3の電動機12は、三相9スロットタイプ(N=3)である。なお、説明を容易にするために以下、三相9スロットタイプの電動機12について説明するが、N≧4であっても良いし、N≦2であっても良い。つまり、電動機12は、三相12スロットタイプであっても良いし、三相15スロットタイプであっても良いし、それら以上のスロットを有していても良い。
【0042】
本実施形態に係る電動機12の固定子21は、集中巻固定子である。固定子21は、筒状のヨーク41(いわゆる継鉄)、およびヨーク41の内側へ突出し、かつ間隔を隔てて周方向へ並ぶ複数のティース42を有する固定子鉄心43と、固定子鉄心43のそれぞれの端面43a、43bに設けられる複数の絶縁端板45A、45Bと、ティース42のそれぞれと絶縁端板45A、45Bとに巻き付けられる巻線47と、それぞれの巻線47とそれぞれのティース42との間に挟み込まれる複数の絶縁シート48と、を備えている。
【0043】
なお、
図2では、巻線47が省略され、
図3では、絶縁シート48が省略されている。
【0044】
固定子21の中心線Pの延伸方向を「軸方向」と呼ぶ。固定子21の中心線Pは、実質的に回転子22の回転中心線Cに一致している。また、固定子21の中心線Pに直交する平面において、固定子21の中心線Pを通る方向を「径方向」と呼び、固定子21の中心線Pを中心とする円周方向、つまり径方向に直交する方向を「周方向」と呼ぶ。
【0045】
固定子鉄心43は、電磁鋼板の積層体である。つまり、固定子鉄心43は、軸方向に積層され、かつ一体化された複数の薄板(図示省略)を有している。それぞれの薄板は、例えばプレスで打ち抜かれた電磁鋼板である。固定子鉄心43は、平行な一対の端面43a、43bを有している。一対の端面43a、43bの法線は、軸方向に延びている。固定子21の上方側の面、つまり、密閉容器11の上側の鏡板11bに近い。固定子鉄心43の他方の端面43bは、固定子21の下方側の面、つまり、密閉容器11の下方側の鏡板11cに近く、かつ一方の端面43aよりも圧縮機構部13に近い。一方の端面43aには、絶縁端板45Aが設けられ、他方の端面43bには、絶縁端板45Bが設けられている。
【0046】
筒状のヨーク41の中心線は、固定子21の中心線Pに一致している。
【0047】
複数のティース42は、固定子21の周方向へ実質的に等間隔、かつ放射状に並んでいる。それぞれのティース42は、ヨーク41から径方向内側へ向かって延びている。それぞれのティース42は、ヨーク41の径方向内側へ向かってヨーク41から突出するティース基部42aと、ティース基部42aの先端部に設けられて周方向へ延びるティース先端部42bと、を有している。ティース基部42aの先端は、固定子21の最内周に配置されている。ティース先端部42bは、ヨーク41の内側を臨むティース先端面42cを有している。ティース先端面42cは、固定子21を臨んでいる。
【0048】
それぞれのティース42のティース先端部42bは、回転子22の回転方向(
図2中の実線矢印R方向)に突出する回転方向第一突出部61と、回転子22の回転方向の逆方向に突出する逆転方向第一突出部62と、を有している。
【0049】
それぞれのティース先端面42cは、固定子21の中心線Pを中心とする円弧形状に形成されている。回転子22は、複数のティース先端面42cによって画定される回転子収容空間43c内に配置されている。回転子22の外周面とティース先端面42cとの間には、空隙が隔てられている。
【0050】
ヨーク41、および周方向に隣接する2つのティース42は、スロット49を画定している。スロット49は、ティース42と同数ある。スロット49は、隣接する2つのティース42のティース先端部42bの間にスロット開口部を有している。
【0051】
また、固定子鉄心43は、固定子鉄心43の一方の端面43aから他方の端面43bへ達する第一孔を有している。第一孔は、固定子鉄心43の外周縁部、かつティース42の根元部分に配置されている。第一孔は、固定子21の中心線Pに実質的に平行して延びている。
【0052】
絶縁端板45A、45Bは、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer、Liquid Crystal Plastic、LCP、半・全芳香族ポリエステル)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、またはポリアミド(PA)の一体成型品である。絶縁端板45A、45Bは同じ構成を有している。そこで、以下の説明では絶縁端板45Bの説明を省略し、絶縁端板45Aについて説明する。
【0053】
絶縁端板45Aは、環状の外壁部51と、外壁部51の内側に配置され、かつ間隔を空けて周方向へ並ぶ複数の内壁部52と、外壁部51とそれぞれの内壁部52を連結する複数の架設部53と、を備えている。
【0054】
外壁部51は、径方向に薄く、軸方向に延び、かつ周方向にひと続きのリングである。
【0055】
それぞれの内壁部52は、径方向に薄く、軸方向および周方向へ延びる円弧状の板体である。複数の内壁部52は、環状に並んでいる。それぞれの内壁部52は、回転子22の回転中心線Cに沿う方向から見て、ティース先端部42bの回転方向第一突出部61に覆い被さる回転方向第二突出部65と、ティース先端部42bの逆転方向第一突出部62に覆い被さる逆転方向第二突出部66と、を有している。
【0056】
架設部53は、外壁部51の内周面と内壁部52の径方向外側の面との間に架け渡されている。
【0057】
外壁部51、複数の内壁部52、および複数の架設部53は、巻線47を収容する複数の空間を区画している。それぞれの空間は、固定子21の中心線Pに沿う方向において、ティース42に重なっている
【0058】
また、絶縁端板45Aは、固定子鉄心43の端面43aに接する端面(図示省略)を有している。絶縁端板45Aの端面は、外壁部51、内壁部52、および架設部53に跨がっている。
【0059】
固定子21の中心線Pに沿う方向において、複数の内壁部52の径方向内側の面52a(内周面52a)に画定される空間45aは、固定子鉄心43の回転子収容空間43cに対向している。固定子21の中心線Pに沿う方向において、外壁部51、隣接する2つの内壁部52および架設部53によって画定される空間45bは、固定子鉄心43のスロット49に対向している。
【0060】
絶縁端板45Aの外壁部51、内壁部52、および架設部53は、それぞれ固定子鉄心43のヨーク41、ティース42のティース先端部42b、およびティース基部42aに隣合わさるように配置される。
【0061】
絶縁端板45Aの外壁部51は、固定子鉄心43のヨーク41に隣り合わせて配置され、内壁部52は、固定子鉄心43のティース42のティース先端部42bに隣り合わせて配置され、架設部53は、固定子鉄心43のティース42のティース基部42aに隣合わせて配置されている。
【0062】
なお、内壁部52の内周面52aは、ティース42のティース先端面42cより回転子22側、つまり径方向内側に突出しない。また、外壁部51の径方向外側の面51a(外周面51a)は、ヨーク41の外周面41aより外側、つまり径方向外側に突出しない。
【0063】
ティース先端面42cは、固定子鉄心43の内周面であり、ヨーク41の外周面41aは、固定子鉄心43の外周面である。内壁部52の内周面52aは、絶縁端板45Aの内周面であり、外壁部51の外周面51aは、絶縁端板45Aの外周面である。
【0064】
それぞれの絶縁シート48は、それぞれのスロット49に挿入されている。絶縁シート48は、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)、またはポリエチレンナフタレート(PEN)をシート状に形成したものである。絶縁シート48は、固定子鉄心43の端面43a、43bから軸方向に突出している。そのため、絶縁シート48は、固定子鉄心43の端面43aと絶縁端板45Aとの境界部分、および固定子鉄心43の端面43bと絶縁端板45Bとの境界部分における絶縁不良を防止することができる。
【0065】
なお、
図2では、絶縁シート48は、スロット49に差し込まれる途中の状態で図示されている。
【0066】
巻線47は、集中巻き方式により、固定子鉄心43のティース42のティース基部42a、絶縁端板45Aの架設部53、および絶縁端板45Bの架設部53に巻き付けられている。
【0067】
ところで、電動機12は、巻線47への通電にともなって巻線47に周期的に変動するローレンツ力が作用する。そこで、発明者らは、回転子22の回転駆動にともなって巻線47に作用するローレンツ力について解析を行った。
【0068】
図4は、巻線に作用するローレンツ力の解析例の一例を示すベクトル図である。
【0069】
図5は、本発明の実施形態に係る電動機の要部を示す図である。
【0070】
図5は、回転子22の回転中心線C、つまり固定子21の中心線Pに沿い、かつ固定子鉄心43側から絶縁端板45A(45B)側へ固定子21を見た図であり、ティース先端部42bおよび絶縁端板45A(45B)を詳細に示す図である。
【0071】
先ず、
図4に示すように、それぞれのティース42のティース先端部42bは、回転子22の回転方向(
図2中の実線矢印R方向)に突出する回転方向第一突出部61と、回転子22の回転方向の逆方向に突出する逆転方向第一突出部62と、を有している。
【0072】
なお、
図4の解析モデルにおける回転方向第一突出部61と逆転方向第一突出部62とは、回転子22の回転中心Cから径方向へ延びてティース42を回転子22の回転方向Rへ二分する仮想線VLを対称線として対称形状を有している。
【0073】
発明者らは、巻線47に作用するローレンツ力(
図4中、符号のない、長さと向きの異なる多数の矢印で示されるベクトル)が、逆転方向第一突出部62の根元(逆転方向第一突出部62とティース基部42aとの境界部分)の近傍で大きく発生することを見出した。なお、
図4は、回転子22の回転のある時点でのローレンツ力の状態を図示したものである。
【0074】
ローレンツ力は、回転子22の回転駆動と巻線47への通電とで発生する電機子磁束の変動にともなって増減し、方向も変化する。そのため、逆転方向第一突出部62の根元とその近傍の巻線47との間には、周期的な変位、つまり振幅が生じる。この振幅は、ティース42と巻線47との間に挟み込まれている絶縁シート48を摩耗させる力を生じる。絶縁シート48が摩耗し過ぎると、巻線47と固定子鉄心43とが短絡する。
【0075】
なお、
図4中に、絶縁シート48の摩耗の虞が高い部位を二点鎖線領域HRAで示した。
【0076】
発明者らの解析では、巻線47を通電する電流の周波数に伴う各巻線に加わるローレンツ力の変動幅は偏りを有し、特に、逆転方向第一突出部62の付け根部分近傍において、ローレンツ力の変動幅が大きい。このローレンツ力の大きな変動にともない、逆転方向第一突出部62の付け根部分近傍では、巻線47と絶縁シート48との摩擦の発生が顕著であることが分かった。一方、回転方向第一突出部61近傍においては、根本部分でのローレンツ力の変動幅はそれほど過大とはならない。したがって、回転方向第一突出部61近傍では、巻線47と絶縁シート48との摩擦は、それほど発生しないことが分かった。先端部でのローレンツ力の変動幅が比較的に大きくなる傾向が分かった。
【0077】
そこで、
図5に示すように、本実施形態に係るティース先端部42bの逆転方向第一突出部62は、ティース先端部42bの回転方向第一突出部61よりも小さく、絶縁端板45A(45B)の回転方向第二突出部65は、回転方向第一突出部61よりも巻線47に近く、絶縁端板45A(45B)の逆転方向第二突出部66は、逆転方向第一突出部62よりも巻線47に近い。
【0078】
回転方向第一突出部61と逆転方向第一突出部62とは、回転子22の回転中心Cから径方向へ延びてティース42を回転子22の回転方向Rへ二分する仮想線VLを対称線として非対称形状を有している。回転子22の回転中心線Cに沿う方向へ見て、逆転方向第一突出部62の断面積は、回転方向第一突出部61の断面積よりも小さく、かつ仮想線VLでティース42を折り返して回転方向第一突出部61と逆転方向第一突出部62とを重ねると、逆転方向第一突出部62は、回転方向第一突出部61に納まる。
【0079】
ティース基部42aは、固定子21の径方向内側へ向かって実質的に一様な幅で延びている。ティース基部42aは、仮想線VLを基準として回転子22の回転方向Rおよび逆転方向に同じ幅寸法を有して仮想線VLに沿って延びている。
【0080】
ティース先端部42bの回転方向第一突出部61および逆転方向第一突出部62は、いずれも固定子鉄心43の最内周面であって円弧形状のティース先端面42cに連続している。また、ティース基部42aを基準とする逆転方向第一突出部62の突出量は、ティース基部42aを基準とする回転方向第一突出部61の突出量と実質的に同じである。逆転方向第一突出部62の突出量は、回転子22の逆転方向への突出長さであり、回転方向第一突出部61の突出量は、回転子22の回転方向Rへの突出長さである。したがって、固定子鉄心43の径方向外側を向き、巻線47を臨む、逆転方向第一突出部62の径方向外側の面62aが、固定子鉄心43の径方向外側を向き、巻線47を臨む、回転方向第一突出部61の径方向外側の面61aよりも固定子21の中心側に位置しているので、逆転方向第一突出部62は、回転方向第一突出部61よりも小さい。
【0081】
巻線47は、ティース42の仮想線VLを対称線として対称形状に巻かれている。そのため、回転方向第一突出部61より小さい逆転方向第一突出部62は、回転方向第一突出部61よりも巻線47から遠い。
【0082】
ティース先端部42bの近傍における巻線47の位置は、絶縁端板45A(45B)の内壁部52によって決まる。ティース42の仮想線VLを対称線として対称形状に巻線47を巻くために、回転方向第二突出部65と逆転方向第二突出部66とは、ティース42の仮想線VLを対称線として対称形状を有している。なお、固定子鉄心43の径方向外側を向き、巻線47を臨む、逆転方向第二突出部66の径方向外側の面66aと固定子鉄心43の径方向外側を向き、巻線47を臨む、回転方向第二突出部65の径方向外側の面65aとが、ティース42の仮想線VLを対称線として対称形状であれば、巻線47は、ティース42の仮想線VLを対称線として対称形状に巻かれる。換言すると、ティース42の仮想線VLを対称線として対称形状に巻線47を巻くために、回転方向第二突出部65と逆転方向第二突出部66とは、少なくとも仮想線VLを対称線として対称形状を有する径方向外側の面65a、66aを有していれば良い。
【0083】
先の説明の通り、絶縁端板45A(45B)の回転方向第二突出部65は、ティース42の回転方向第一突出部61よりも巻線47に近く、絶縁端板45A(45B)の逆転方向第二突出部66は、ティース42の逆転方向第一突出部62よりも巻線47に近い。つまり、逆転方向第二突出部66の径方向外側の面66aは、逆転方向第一突出部62の径方向外側の面62aよりも巻線47に近く、回転方向第二突出部65の径方向外側の面65aは、回転方向第一突出部61の径方向外側の面61aよりも巻線47に近い。そのため、固定子鉄心43の中心線Pに沿って固定子鉄心43側から絶縁端板45A(45B)を見ると、
図5に示すように、回転方向第二突出部65の一部は、回転方向第一突出部61の径方向外側に位置し、逆転方向第二突出部66の一部は、逆転方向第一突出部62の径方向外側に位置する。これらの部位は、巻線47を絶縁シート48から離れさせ、かつティース42と巻線47との間に絶縁シート48が挟み込まれることを防いでいる。特に、逆転方向第二突出部66は、巻線47と逆転方向第一突出部62との間に、巻線47と回転方向第一突出部61との間よりも、より大きな隙間を形成する。
【0084】
つまり、本実施形態に係る電動機12は、巻線47と逆転方向第一突出部62との間に、より大きな隙間を形成することで、巻線47に周期的、かつ局所的に大きく作用するローレンツ力で、巻線47と固定子鉄心43との間に設けられる絶縁シート48が摩耗することを防いでいる。
【0085】
また、これらの部位は、固定子鉄心43の端面から突出している絶縁シート48の縁の一部を保持するシート保持溝71を有している。
【0086】
シート保持溝71は、固定子鉄心43の端面に実質的に面一な絶縁端板45A(45B)の端面に設けられた溝であって、固定子鉄心43から離れる方向へ窪んだ溝である。シート保持溝71は、ティース42の回転方向第一突出部61の近傍、およびティース42の逆転方向第一突出部62の近傍において、巻線47と絶縁シート48との間に隙間を形成し、ティース42と巻線47との間に絶縁シート48が挟み込まれることを確実に防いでいる。
【0087】
また、巻線47がローレンツ力の影響を受けやすい逆転方向第一突出部62側よりも回転方向第一突出部61側の断面積を大きくすることで、固定子鉄心43全体の電機子磁束を確保することができる。
【0088】
また、
図6は、本発明の実施形態に係る電動機において、回転方向第一突出部と逆転方向第一突出部との断面積比とトルクリップルの増減との関係を示す図である。
【0089】
回転子22の回転駆動にともなって出力トルクが周期的に増加または減少するトルクリップルが発生する。
【0090】
図6の横軸は、固定子鉄心43の中心線Pに直交する断面において、回転方向第一突出部61の断面積を分母とし、逆転方向第一突出部62の断面積を分子とする断面積比ARである。つまり、断面積比AR=(逆転方向第一突出部62の断面積)÷(回転方向第一突出部61の断面積)で算出される。
図6の縦軸は、断面積比AR=1の場合のトルクリップルで正規化された比率であり、トルクリップル比αと表現する。
【0091】
図6に示すように、断面積比ARが1より小さい、すなわち逆転方向第一突出部62の断面積が回転方向第一突出部61の断面積より小さい場合には、トルクリップル比αは、1より低下する。他方、断面積比ARが1より大きい、すなわち逆転方向第一突出部62の断面積が回転方向第一突出部61の断面積より大きい場合には、トルクリップル比αは、1より増加する。したがって、断面積比ARを1より小さくすることで、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、回転子22と固定子21の空隙における磁束変化をなだらかにし、トルクリップルを低減できることが分かる。トルクリップルが低減されると、回転子22の回転にともなう騒音や振動の原因が抑制され、圧縮機2の信頼性および静粛性が向上する。
【0092】
図7は、本発明の実施形態に係る電動機の要部の他の例を示す図である。
【0093】
図7に示すように、本実施形態に係る固定子21Aの固定子鉄心43Aでは、回転子22の回転中心線Cに沿う方向から見て、それぞれの逆転方向第一突出部62の根元部分が、絶縁端板45A(45B)よりもティース42Aを回転子22の回転方向Rへ二分する仮想線VLへ向かって窪んでいる。固定子鉄心43Aのティース42Aは、根元部から突出端部まで一様な幅で延びる固定子鉄心43のティース42と異なり、それぞれの逆転方向第一突出部62の根元部分に仮想線VLへ向かって窪んだ溝状の凹部75を有している。
【0094】
他方、絶縁端板45A(45B)の架設部53は、ティース42Aのティース基部42aの大部分と実質的に同じ、かつ一様な幅で延びている。そのため、巻線47は、絶縁端板45A(45B)の架設部53に阻まれてティース42Aの凹部75に入り込むことなくティース42Aに巻き付けられる。したがって、逆転方向第一突出部62の根元部分では、絶縁端板45A(45B)よりもティース42の方が仮想線VLに近い。そのため、ティース42Aと巻線47とは、凹部75の部分に隙間を隔てる。この隙間は、逆転方向第一突出部62の根元部分において、ティース42と巻線47との間で絶縁シート48が挟み込まれることを確実に防いでいる。
【0095】
以上で説明したように、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、回転方向第一突出部61よりも小さい逆転方向第一突出部62を有するティース42と、回転方向第一突出部61よりも巻線47に近い回転方向第二突出部65、および逆転方向第一突出部62よりも巻線47に近い逆転方向第二突出部66を有する絶縁端板45A、45Bと、を備えている。そのため、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、巻線47に周期的に作用するローレンツ力で、巻線47と固定子鉄心43との間に設けられる絶縁シート48が摩耗することを防ぐ。つまり、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、絶縁シート48を厚くすることなく、スロット49に占める巻線47の体積を減少させることなく、効率の低下、および出力トルクの低下を防ぎ、かつ巻線47と固定子鉄心43との間の絶縁性能を向上させ、絶縁シート48の摩耗に対する寿命を改善できる。
【0096】
また、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、回転方向第一突出部61の近傍、および逆転方向第一突出部62の近傍で、巻線47を絶縁シート48から離れさせ、両者の距離を広げる。つまり、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、充電部(正常使用状態で電圧が印加される導体および導電性の部分)と非充電部との距離を広げて回転方向第一突出部61の近傍、および逆転方向第一突出部62の近傍における部分放電開始電圧を向上し、放電による絶縁シート48の劣化を防ぐことができる。
【0097】
また、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、回転方向第一突出部61よりも巻線47から遠い逆転方向第一突出部62を有するティース42を備えている。そのため、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、ローレンツ力が顕著に大きく作用する逆転方向第一突出部62の根元近傍の巻線47と固定子鉄心43との間における絶縁シート48の摩耗を確実に防ぐことができる。
【0098】
また、仮に、ローレンツ力の増減による巻線47どうしの摩耗、および巻線47と絶縁シート48との摩擦によって、絶縁シート48や巻線47の被膜が摩耗した場合でも、巻線47と固定子鉄心43との絶縁距離が確保される。巻線47と固定子鉄心43との絶縁距離が確保されると、部分放電による絶縁シート48や巻線47の絶縁部の更なる摩耗や劣化を防止することができる。これにより、絶縁シート48や巻線47の摩耗や劣化を抑制し、短絡の発生を防止し、電動機12の故障を防止することができる。
【0099】
さらに、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、回転方向第二突出部65と同じ形状の逆転方向第二突出部66を有する絶縁端板45A、45Bを備えている。そのため、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、中心を通る仮想線VLに対して非対称形状を有するティース42に、実質的に対称形状の巻線47を巻き付けて、ローレンツ力が顕著に大きく作用する逆転方向第一突出部62の根元近傍の巻線47と固定子鉄心43との間における絶縁シート48の摩耗を確実に防ぐことができる。
【0100】
また、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、逆転方向第一突出部62の根元部分が絶縁端板45A、45Bよりも中心を通る仮想線VLに近いティース42Aを備えている。そのため、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、そのため、冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、ローレンツ力が顕著に大きく作用する逆転方向第一突出部62の根元近傍の巻線47と固定子鉄心43との間における絶縁シート48の摩耗をより確実に防ぐことができる。
【0101】
したがって、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12によれば、絶縁シート48を厚くすることなく、スロット49に占める巻線47の体積を減少させることなく、ティース42Aでの体積低下を最小に抑えた固定子鉄心43を備えることが可能であって、効率の低下、および出力トルクの低下を防ぎ、かつ巻線47と固定子鉄心43、43Aとの間の絶縁性能を向上させ、絶縁シート48の摩耗に対する寿命を改善することができる。また、本実施形態に係る冷凍サイクル装置1、圧縮機2、および電動機12は、絶縁シート48や巻線47の被膜の摩耗を抑制できるとともに、絶縁シート48や巻線47の被膜が摩耗した場合であっても、摩耗した箇所での部分放電を抑制し、絶縁シート48や巻線47の被膜の更なる摩耗や劣化の進行を抑え、巻線47と固定子21、21Aとの間の短絡を防止することができる。つまり、冷凍サイクル装置1、および圧縮機2は、より信頼性の高い電動機12を備えることができる。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
1…冷凍サイクル装置、2…圧縮機、3…放熱器、5…膨張装置、6…吸熱器、7…アキュームレータ、7a…吸込管、8…冷媒配管、8a…吐出管、11…密閉容器、11a…胴部、11b、11c…鏡板、12…電動機、13…圧縮機構部、15…回転軸、15a…中間部分、15b…下端部分、16…主軸受、17…副軸受、18…密封端子部、21、21A…固定子、22…回転子、23…口出し線、25…回転子鉄心、26…偏心部、31…シリンダー室、32…シリンダー、33…ローラー、35…ブレード、36…締結部材、37…吐出マフラー、38…締結部材、39…潤滑油、41…ヨーク、41a…外周面、42、42A…ティース、42a…ティース基部、42b…ティース先端部、42c…ティース先端面、43、43A…固定子鉄心、43a、43b…端面、43c…回転子収容空間、45A…絶縁端板、45B…絶縁端板、45a、45b…空間、47…巻線、48…絶縁シート、49…スロット、51…外壁部、51a…外周面、52…内壁部、52a…内周面、53…架設部、61…回転方向第一突出部、61a…径方向外側の面、62…逆転方向第一突出部、62a…径方向外側の面、65…回転方向第二突出部、65a…径方向外側の面、66…逆転方向第二突出部、66a…径方向外側の面、71…シート保持溝、75…凹部。