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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185911
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】微生物培養装置及び微生物培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093829
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】横井 肇
(72)【発明者】
【氏名】木島 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 知之
(72)【発明者】
【氏名】木村 和輝
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA21
4B029BB01
4B029CC02
4B029DA10
4B029DG06
4B029GB09
(57)【要約】
【課題】装置全体の小型化を図ると共に、微生物の培養及び回収を容易に行うことの可能な微生物培養装置を提供する。
【解決手段】非吸液性を有する樹脂シートを基材とし、気相中に設置されて表面に微生物を付着させる担体12と、担体12の一端側を保持することにより担体12を吊り下げた状態で支持する支持体3と、担体12に培養液を供給する培養液供給部4と、を備え、担体12は、少なくとも一方の面に凹凸形状を有し、培養液供給部4は、担体12の凹凸形状が形成された面の上端側に、培養液を供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非吸液性を有する樹脂シートを基材とし、気相中に設置されて表面に微生物を付着させる担体と、
前記担体の一端側を保持することにより前記担体を吊り下げた状態で支持する支持体と、
前記担体に培養液を供給する培養液供給部と、を備え、
前記担体は、少なくとも一方の面に凹凸形状を有し、
前記培養液供給部は、前記担体の前記凹凸形状が形成された面の上端側に、前記培養液を供給することを特徴とする微生物培養装置。
【請求項2】
前記凹凸形状は、山状部及び谷状部からなる凹凸パターンを上下方向に繰り返す形状であることを特徴とする請求項1に記載の微生物培養装置。
【請求項3】
前記凹凸パターンのピッチは、10μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の微生物培養装置。
【請求項4】
前記凹凸形状は、前記担体の幅方向に水平に伸びるストライプ状に形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の微生物培養装置。
【請求項5】
前記担体は、前記樹脂シートそのものを蛇腹状に変形させてなることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の微生物培養装置。
【請求項6】
前記樹脂シートの厚みは、5μm以上200μm以下であり、前記凹凸形状の高低差は、前記樹脂シートの厚みよりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の微生物培養装置。
【請求項7】
前記培養液供給部は、前記担体に噴霧することにより前記培養液を供給することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の微生物培養装置。
【請求項8】
前記培養液供給部は、前記培養液の噴霧量を調整可能に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項7の何れか一項に記載の微生物培養装置。
【請求項9】
光を発する光源と、
前記支持体の上下方向に伸び、前記光源の発する光を上端に入射し、当該光を、表面に設けられた出射面から出射する導光部と、
を備え、
前記支持体は、前記凹凸形状を有する面が外側を向き、他方の面が前記出射面に接触又は近接して沿うように前記担体を支持することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の微生物培養装置。
【請求項10】
前記担体は、前記非吸液性と光透過性とを有することを特徴とする請求項9に記載の微生物培養装置。
【請求項11】
前記導光部は導光板からなり、一方の面が前記出射面をなし、他方の面には反射層を備えることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の微生物培養装置。
【請求項12】
非吸液性を有する樹脂シートを基材とし、少なくとも一方の面に凹凸形状を有する担体を用意し、
当該担体を気相中で吊り下げた状態で、当該担体の前記凹凸形状が形成された面の上端側に培養液を供給して、前記凹凸形状が形成された面に微生物を付着させることを特徴とする微生物培養方法。
【請求項13】
前記凹凸形状は、上下方向に山状部及び谷状部からなる凹凸パターンを繰り返す形状であることを特徴とする請求項12に記載の微生物培養方法。
【請求項14】
前記担体を、その一方の面に前記凹凸形状が形成されるように、前記樹脂シートそのものを蛇腹状に変形させて形成し、
前記微生物を回収するときには、前記担体の上下方向の両端が互いに離れる方向に引っ張った状態で、前記微生物の回収を行うことを特徴とする請求項13に記載の微生物培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物培養装置及び微生物培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物の培養方法として、懸濁相中で培養する方法が提案されている。この方法では、水を大量に使用し、また受光面が最表層近辺に限られている。これを改良するために、気相中や固相表面で培養する方法も開発されている。
気相中や固相表面で培養する方法では、シート上で培養することで、フットプリントを狭くし土地を有効利用することができる。さらに、このシートをスタックすることで、土地の利用効率を飛躍的に向上させることができる。このシート上で培養する方法においては、担体として、微生物や培養液を保持することができるように、多孔質材料が広く用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6152933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
担体として多孔質材料を用いた場合、内部に入り込んだ微生物を効率よく回収することができないという問題がある。また、担体として多孔質材料を用いた場合、水分を含むことから担体が重くなり、その結果、培養装置全体が重くなる。
そこで、この発明は、従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、装置全体の小型化を図ると共に、微生物の培養及び回収を容易に行うことの可能な微生物培養装置及び微生物培養方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の一態様によれば、非吸液性を有する樹脂シートを基材とし、気相中に設置されて表面に微生物を付着させる担体と、担体の一端側を保持することにより担体を吊り下げた状態で支持する支持体と、担体に培養液を供給する培養液供給部と、を備え、担体は、少なくとも一方の面に凹凸形状を有し、培養液供給部は、担体の凹凸形状が形成された面の上端側に、培養液を供給するようになっている微生物培養装置、が提供される。
【0006】
また、本願発明の他の態様によれば、非吸液性を有する樹脂シートを基材とし、少なくとも一方の面に凹凸形状を有する担体を用意し、担体を気相中で吊り下げた状態で、担体の凹凸形状が形成された面の上端側に培養液を供給して、凹凸形状が形成された面に微生物を付着させる微生物培養方法、が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、装置全体の小型化を図ると共に、微生物の培養及び回収を容易に行うことの可能な微生物培養装置及び微生物培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る微生物培養装置の一例を示す概略構成図である。
図2】微生物培養装置1の要部の概略構成の一例を示す説明図である。
図3】(a)は担体の一例を示す斜視図、(b)は側面図である。
図4】担体の形状のその他の例である。
図5】担体の形状のその他の例である。
図6】担体のその他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
〔微生物培養装置の構成〕
図1は、本発明に係る微生物培養装置1の一例を示す概略構成図である。
微生物培養装置1は、複数の培養部2と、複数の培養部2を支持する支持体3と、複数の培養部2それぞれに培養液を供給する培養液供給部4と、を備える。培養部2は、気相中に配置される。なお、微生物培養装置1は、図1図2では、3つの培養部2を備えているが、任意数の培養部2を設けることができる。
【0011】
なお、微生物培養装置1の培養対象の微生物は、光の照射によって有効成分を産出し蓄積できるものであればよく、好ましくは気相中で生息できる藻類であり、具体的にはボトリオコッカス属あるいは、クロレラ属の緑藻類、ヘマトコッカス属の緑藻類、あるいはパラクロレラを含むトレボキシア藻、紅藻などが例示できる。また、ミドリムシなどの光合成をする微生物であっても良い。
培養部2は、同一形状を有する。培養部2は、図2に示すように、長尺の板形状を有する導光板(導光部)11と、導光板11の一方の面に沿って接触して配置される透明な担体12と、導光板11の他方の面に形成された反射層13と、光源14と、を備える。なお、図2は、微生物培養装置1の要部の概略構成の一例を示す説明図である。
【0012】
導光板11は、上端面に入射された光を、導光板11の一方の面全体から出射する。導光板11を用いて面光源を作ることで、担体12と導光板11とを密着または近接させて配置した場合でも、担体12への均一な光照射が可能となる。
担体12は、非吸液性と光透過性とを有する樹脂シートで形成される。担体12が光透過性を有するため、導光板11から出射された光が担体12を透過して、担体12の導光板11とは逆側の面に形成される微生物に光照射が行われるようになっている。また、担体12として非吸液性を有する樹脂シートを用いることで、担体12が培養液を吸液することによって、担体12が重くなることを回避するようにしている。
【0013】
反射層13は、例えばアルミニウムを蒸着すること等により導光板11の他方の面に設けられ、反射層13の導光板11と接する側の面及び逆側の面の両面共に光を反射するようになっている。なお、反射層13は必ずしも設けなくともよいが、反射層13を設けることによって、導光板11に入射された光を有効に活用することができる。例えば、担体12を形成する樹脂シートが、光透過性を有していれば、担体12と導光板11と反射層13とを含む培養部2を複数スタックさせた状態で、例えば第1の培養部2の担体12上の微生物により吸収されずに担体12を透過した漏れ光が生じた際に、第1の培養部2に隣接する第2の培養部2に含まれる、相対する反射層13によってその光が反射され、再度、第1の培養部2の担体12上の微生物に照射される。さらに、第2の培養部2の反射層13によって反射された光が、第1の培養部2の担体12を透過すると、この担体12を透過した光は第1の培養部2の反射層13によって反射され、再度担体12を照射する。このため、光の利用効率が向上する。
【0014】
また、光源14として点光源を用いた場合、担体12全体に対して光照射を行うためには、光源14を担体12からある程度離して配置する必要がある。これに対し、導光板11を用いることで、担体12と導光板11とを近接して配置することができるため、その分、培養部2全体の大きさを小さくすることができ、導光板11を用いない場合に比較してより多くの培養部2をスタックすることが可能となり、より一層の高密度化を図ることができる。なお、スタックの方向は垂直、水平等に限定されない。
光源14は、例えば複数のLED等で構成される。光源14は、導光板11の幅方向の長さと同等程度の長さを有し、導光板11の幅方向略全体にわたって光を入射する。
【0015】
支持体3は、一対の側板3aを有し、導光板11の両側面を、側板3aで両側から挟むことにより導光板11を支持する。支持体3は、導光板11の下方に空間が確保されるように導光板11を支持する。このように導光板11の下方に空間を確保することによって、後述の培養槽25内で、導光板11及び担体12が培養液に接しないようになっている。
【0016】
また、支持体3は、光源14を、光源14で発した光が導光板11の上端面に入射されるように、光源14と導光板11との相対位置関係を一定に維持した状態で支持する。さらに、支持体3は、対向する側板3a間に張られた紐等の吊り下げ部材(図示せず)を備え、当該吊り下げ部材に、担体12の一端側を例えばクリップ等の把持部材(図示せず)で挟み込んで取り付けることにより、担体12を、導光板11の出射面に接触して沿うように支持する。担体12は、導光板11の出射面に沿って接触した状態を維持するように吊り下げ部材に吊り下げられる。なお、担体12を吊り下げる方法としては、担体12を、把持部材で吊り下げ部材に取り付ける方法に限るものではなく、担体12を、上端側で固定して吊り下げる方法であれば適用することができる。例えば、側板3aにクリップ等を取り付け、担体12の両端を、対をなす側板3aのクリップ等で挟持することで、担体12を支持するようにしてもよい。
【0017】
また、担体12は、導光板11の出射面に着脱可能に貼り付けてもよく、接触せずに近接して設けてもよく、要は、導光板11から出射される光を担体12内に入射できるように配置すればよい。担体12を導光板11の出射面に貼り付ける方法としては、コンタミネーションの観点から、摩擦力や吸盤等を利用して担体12を導光板11の出射面に貼り付けることが考えられる。
【0018】
支持体3の一対の側板3aはそれぞれ、培養部2間で共通の、脚部3bに連結され、これによって、培養部2は自立するようになっている。
培養液供給部4は、培養液を担体12に向けて噴霧する噴霧部21と、噴霧部21から噴霧される培養液の単位時間当たりの流量を調整する流量制御部22と、貯液槽23と、ポンプ24と、培養槽25と、を備える。
噴霧部21は、培養部2毎に設けられ、担体12の幅方向全面にわたって培養液を噴霧するように、複数の吐出口が設けられている。また、噴霧部21は、担体12の上端近傍に培養液を噴霧することの可能な位置に配置される。
【0019】
流量制御部22は、ポンプ24を駆動制御し、貯液槽23内の培養液を噴霧部21に供給して噴霧部21から噴霧させる。また、流量制御部22は、噴霧部21から噴霧される培養液の流量を切替可能に構成される。流量制御部22は、少なくとも、培養時用の流量と、回収時用の流量とに切替可能に構成され、例えば図示しない切替スイッチを操作することにより、流量を切り替える。培養時用の流量は、担体12の表面上で微生物を培養するときの噴霧量であって、担体12に付着した微生物が、噴霧される培養液によって剥がれ落ちない程度の流量に設定される。回収時用の流量は、担体12の表面上で培養された微生物が、噴霧される培養液によって剥がれ落ちる程度の流量に設定される。
【0020】
培養槽25は、全ての培養部2を収納可能な大きさを有し、各担体12に噴霧された培養液が外部に飛び散ることを防止すると共に、各担体12から剥がれ落ちた微生物を回収するために用いられる。支持体3は導光板11を、その下方に空間が確保されるように支持しているため、導光板11及び担体12が培養槽25内の培養液に漬からないようになっている。また、培養槽25には排水口(図示せず)が設けられ、培養槽25内に溜まった培養液は排水口から抜き取ることができるようになっている。例えば、培養槽25から抜き取った培養液を、貯液槽23に戻す循環系を設けてもよく、その際に、担体12から落下した微生物や不純物の回収を目的としたろ過や、雑菌等を死滅させることを目的とした紫外光照射等を行ってもよい。
【0021】
なお、ここでは、微生物培養装置1では、培養部2を開放された培養槽25内に設置し、開放された空間において培養を行う構成としているが、閉じた空間において培養を行うようにしてもよい。例えば、培養槽25を複数の培養部2を収納可能な箱状に形成すること、或いは、培養部2を個別に箱体内に収納すること等により、培養部2を閉じた空間内に配置して培養を行うようにしてもよい。
【0022】
このように、箱体等の閉じた空間内で培養を行うことによって、噴霧した培養液が拡散することを抑制することができる。また、風や、温度等といった微生物培養装置1が置かれた周囲環境によって、担体12に付着した培養液や微生物が担体12から剥がれたり、培養環境が変化することを抑制することができ、また、コンタミネーションの発生を防止することができる。また、箱体内の温度やCO濃度等といった、培養環境を制御するようにしてもよく、的確な培養環境に維持することができるため、微生物を効率よく培養することができる。
【0023】
次に、担体12について説明する。図3(a)は、担体12の一例を示す斜視図であり、図3(b)は、図3(a)の側面図である。図3に示すように、担体12は、図3の上下方向に延在している。
【0024】
担体12は、表裏面に周期的な凹凸形状を有する。この凹凸形状は、山状部と谷状部とからなる凹凸パターンを上下方向に繰り返す形状である。担体12は、図3に示すように、一方の面にその幅方向全体にわたって水平且つ直線状に延在する谷状稜線12aと山状稜線12bとを交互に等間隔で有している。同様に、他方の面にもその幅方向全体にわたって水平且つ直線上に延在する谷状稜線12cと山状稜線12dとを交互に等間隔で有している。つまり、担体12は、幅方向に伸びるストライプ状に配置された谷状稜線12a、12c及び山状稜線12b、12dを有し、すなわち、図3に示すように蛇腹形状を有し、この蛇腹形状を有することにより、担体12は伸縮する。
【0025】
担体12において、谷状稜線12aと山状稜線12bのピッチPは等しくてもよいし、異なっていてもよく、同様に、谷状稜線12cと山状稜線12dのピッチも等しくてもよいし、異なっていてもよい。図3(b)において、谷状稜線12aと山状稜線12bまたは谷状稜線13aと山状稜線13bの高さ方向の距離Hを、担体12の高低差という。
【0026】
担体12は、非吸液性及び光透過性を有する樹脂シートを基材としている。担体12の厚みTは、5μm以上200μm以下であることが好ましい。担体12の厚みTは、必ずしも均一である必要は無い。稜線付近の担体12の厚さは、他の部分の厚さと異なっていても良い。また、凹凸形状の山谷の高低差Hは、担体12の厚みTよりも大きいことが好ましい。山谷の高低差Hが担体12の厚みTよりも小さい場合には、意図した延性を得にくい。また、山谷の高低差Hが300μm程度を超える場合は、製造上凹凸形状をつけることが難しくなるため、山谷の高低差Hが300μm以下であることが好ましい。
また、谷状稜線12aを含む谷状部及び山状稜線12bを含む山状部からなる凹凸パターンのピッチPは、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、製造上の作り易さの観点から50μm以上500μm以下であることがより好ましい。
【0027】
担体12の、高低差、ピッチ等といった凹凸形状は、担体12の凹凸形状が形成された面に、微生物を培養するのに十分な培養液が留まり且つ培養された微生物が留まるように設定すればよい。凹凸形状が形成された面における培養液の留まり易さや、培養する微生物の張り付き易さは、凹凸形状や、担体12の凹凸形状が形成された面の親液性、疎液性、撥液性等といった特性、担体12を形成する樹脂シートの材質、等に左右されるため、これらを考慮して設定すればよい。
また、凹凸形状は規則的に並んでいる周期的構造であることが好ましい。ランダムな構造としないことで、意図した延性を得やすいと同時に、凹凸形状の設計や製作を簡便にすることができる。ただし、ランダムな凹凸形状を設けることは任意である。
【0028】
担体12の凹凸形状は、図3で示した周期的な三角形状である必要はなく、波形でも良く、また矩形でもよい。さらに、山状稜線と谷状稜線は、必ずしも明瞭に視認できるものでなくてもよい。例えば図4(a)に示すように、波状の周期断面形状であってもよく、図4(b)に示すように、側面視で、山状稜線及び谷状稜線部分が除去された台形となる形状であってもよい。
担体12の凹凸形状は、例えば、押出成形により、凹凸のついたロール一対でニップし、製膜することにより形成することができる。担体12の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール等の非吸液性及び光透過性を有する樹脂を用いることができる。
【0029】
〔微生物培養装置の動作〕
微生物を培養するときには、利用者は、図1に示すように、担体12が導光板11に沿って接触して吊り下げられた微生物培養装置1において、流量制御部22で、培養時用の流量を選択し、培養液供給部4を作動させて担体12への培養液の噴霧を行う。また、光源14を発光させる。
【0030】
担体12は、上述のように非吸液性を有する樹脂シートを基材としている。そのため、噴霧部21が培養液を噴霧し、担体12の上方に噴射された培養液は、担体12に浸透せずに凹凸形状を有する担体12の表面に付着し、付着した培養液が、担体12の表面張力等によって決定されるある程度の大きさの滴となると下方に移動し、この動作が繰り返されて担体12の表面に沿って培養液が順に下方に移動し、担体12の下端に達した培養液は、培養槽25内に落下する。
【0031】
一方、光源14が発した光は、導光板11の上面に入射され、出射面から出射される。導光板11の出射面側には、出射面に沿って接触するように担体12が支持されている。そのため、出射面から出射された光は、担体12を透過して、出射面とは逆側の面に照射される。出射面とは逆側の面には凹凸形状が形成されるため培養液が留まっている。そのため、凹凸形状に留まる培養液によって微生物の培養が行われる。
ここで、担体12は、図3に示すように、山状部と谷状部とからなる凹凸パターンが交互に繰り返される面である。そのため、担体12の表面に培養液が留まり易く、微生物が培養される。また、培養時には、比較的少ない流量の培養液を担体12に向けて噴霧しているため、担体12の表面上の微生物は、培養液によって剥がされにくい。そのため、担体12の表面において微生物を効率よく培養することができる。
【0032】
この状態から、担体12の表面上の微生物を回収するときには、流量制御部22において回収時用の流量を選択し、培養液供給部4を作動させて担体12への培養液の噴霧を行う。この場合、比較的多量の培養液が噴霧されるため、担体12の表面上の微生物は、噴霧された培養液によって剥がされ、培養槽25内に落下する。これにより培養した微生物を回収することができる。
また、担体12は蛇腹状に形成されているため、担体12の下端を下方に引っ張ると、担体12が延伸され、凹凸形状の高低差Hが小さくなる。そのため、微生物が担体12から剥がれやすくなり、この状態で培養液の噴霧を行うことによって、微生物を担体12からより引き剥がし易くすることができる。そのため、微生物の回収効率を向上させることができる。
【0033】
〔効果〕
(1)本実施形態に係る微生物培養装置1では、樹脂シートを基材として担体12を形成している。そのため、担体として多孔質部材や、布等を用いた場合に比較して、担体12が保持する培養液の量を削減することができる。その結果、培養部2の重量を低減することができ、装置全体の重量を低減することができる。
(2)担体12の表面に凹凸形状を設けているため、担体12を略垂直に立てた場合でも、その表面に培養液を留めることができる。その結果、担体12を導光板11の出射面に沿って接触するように設けることで、導光板11及び担体12を有する培養部2の厚みを薄くすることができ、装置内における複数の培養部2の占有面積を小さくすることができる。そのため、装置全体の小型化を図ることができる。
【0034】
(3)担体12の表面に凹凸形状を設けているため、担体12を略垂直に立てた場合でも、凹凸形状を持たない場合に比較して、微生物は、担体12表面に留まりやすい。そのため、担体12を略垂直に立てた状態でも、担体12の表面に十分な培養液を留めることができる上、形成された微生物を担体12の表面上に留めおくことができる。そのため、培養中に微生物が培養槽25内に落下することを抑制することができ、良好に培養することができる。
また、谷状稜線12a、12c及び山状稜線12b、12dが、担体12の幅方向全体にわたって水平に延在するように凹凸形状を形成している。そのため、担体12の表面上の培養液が落下しにくくすることができ、培養液を表面上に保持することができる。
【0035】
(4)担体12に噴霧する培養液の流量を、培養時と回収時とで切り替えている。そのため、培養時には比較的少ない流量を噴霧することで、担体12の表面に付着した微生物が、噴霧された培養液が剥がされることを回避することができる。回収時には、比較的多くの流量を噴霧することで、噴霧された培養液の勢いによって、担体12の表面に付着した微生物を剥ぎ取ることができる。このように、噴霧する培養液の流量を切り替えることで、微生物の回収作業を容易に行うことができる。
【0036】
(5)担体12が蛇腹状に形成されているため、担体12を上下方向に引き延ばすことにより、担体12の表面と微生物との接着力を弱め、微生物をより剥がれやすくすることができる。そのため、仮に、凹凸形状の谷底部分に微生物が付着した場合でも、担体12を引き延ばすことで、微生物を剥がしやすくすることができると共に、スキージ等で担体12の表面を掻くことによって、微生物を容易に剥ぎ取ることができ、微生物の回収率を向上させることができる。
【0037】
(6)担体12を、非吸液性を有する材料で形成しているため、例えば、微生物が付着した担体12を乾燥させて微生物を回収する場合等には、多孔質材料等の保水性を有する材料で形成する場合に比較して、乾燥時間を短縮することができる。さらに、担体12が蛇腹状に形成されている場合には、担体12及び微生物が乾燥した状態で、担体12を上下方向に引っ張ることによって、担体12の表面から微生物を容易に引き剥がすことができ、速やかに微生物を回収することができる。
【0038】
(7)担体12は、その上端を把持部材によって吊り下げ部材に取り付け、下端は固定していない。そのため、担体12の取り外しを容易に行うことができ、微生物を回収するとき、或いは担体12の交換を行う場合等、担体12を容易に取り扱うことができ、使い勝手がよい。その際、担体12は非吸液性を有するため、担体12が重くなりすぎることを回避することができ、担体12を容易に取り扱うことができる。
(8)導光板11の上面を入射面とし、表裏面の一方を出射面としたため、導光板11の上部に光源14を設けることにより、光源14と、導光板11とを近接して設けることができる。その結果、培養部2の占有面積をより小さくすることができ、装置全体を小型化することができる。
【0039】
なお、装置の小型化を図る方法として、光源として漏光性光ファイバーを用い、この漏光性光ファイバーの表面に微生物、例えば藻を担持させる方法もある。この場合、小型化を図ることはできるものの、漏光性光ファイバーの表面に付着した微生物を回収することは困難である。
一方、本実施形態に係る担体12は、担体12から微生物を容易に回収することができる。すなわち本実施形態に係る微生物培養装置1は、装置全体の小型化と微生物の回収との両方を容易に行うことができる。
【0040】
〔変形例〕
(1)微生物を回収する際に、担体12の上端を支持する吊り下げ部材を振動させた状態で、培養液を噴霧するようにしてもよい。担体12は蛇腹状に形成されているため、振動させることによって、担体12が伸び縮みする。そのため、微生物は、担体12の表面から剥がれやすくなる。特に、担体12を上下方向に振動させることによって、左右方向に揺らす場合に比較して担体12がより大きく伸び縮みする。そのため、培養液の噴霧だけでなく、担体12が伸び縮みすることによっても微生物を剥がすことができ、微生物の回収効率をより向上させることができる。
【0041】
(2)担体12を蛇腹状に形成するのではなく、一方の面にのみ凹凸形状を形成するようにしてもよい。この場合には、凹凸形状が形成されている面が、導光板11とは反対側を向くように、担体12を配置すればよい。
(3)担体12に形成する凹凸形状は、幅方向に水平に延在するストライプ状に限るものではなく、幅方向に延在するサイン波形状、みうら折り形状等であってもよい。
【0042】
(4)担体12への培養液の供給は、噴霧する方法に限るものではない。例えば、担体12の凹凸形状上の微生物が剥がれない程度の量の培養液を担体12の表面上の微生物に衝撃を与えないように供給してもよい。また、二流体スプレーノズルを用いて培養液と共に、例えばCOを含む気体を噴霧するように構成してもよい。このように、COを含む気体も噴霧することによって、光合成を促進させ、培養速度を向上させるようにしてもよい。
また、培養時には培養液を噴霧し、回収時には培養液を液体の状態で吹きつけるようにしてもよい。
【0043】
(5)担体12への培養液の供給は、担体12の上端近傍に培養液を噴霧する方法に限るものではない。例えば、担体12に対し、その両側の側板3a側から担体12の幅方向中央に向けて培養液を噴霧するようにしてもよい。また、担体12毎に噴霧部21を設けるのではなく、培養槽25を箱状に形成し、箱状の培養槽25内全体を霧状の培養液が充満した状態に維持し、培養槽25内の担体12を、その全体が霧状の培養液で包まれた状態に維持するようにしてもよい。
【0044】
(6)導光板11を用い、一方の面のみから面発光させる場合について説明したが、両面それぞれが面発光する導光部を用い、導光部の両面に担体12を配置して両面で培養するように構成してもよい。
(7)担体12は、山状部及び谷状部からなる凹凸パターンを上下方向に繰り返す凹凸形状を有する場合について説明したが、凹凸パターンは必ずしも同一でなくともよく、例えば、担体12の上方には、一の凹凸パターンで凹凸形状が形成され、担体12の下方には、一の凹凸パターンとは異なる形状の凹凸形状が形成されていてもよい。
【0045】
(8)微生物を回収する際に担体12に付着した微生物全てを回収しなくともよく、例えば培養対象の微生物としての藻を回収する際に、敢えてその一部を種藻として残すようにしてもよい。この場合、例えば、回収時用の培養液の流量によって、ある程度の量の微生物を担体12上に残すことができ、また、例えば、回収時に、担体12を振動させることによって担体12上の微生物をある程度落下させることができるため、培養液の流量を調整すること、或いは担体12の振動させる度合を調整することによって、必要量の微生物を担体12上に留まらせるようにしてもよい。
【0046】
(9)山状部及び谷状部からなる凹凸パターンとして、図3図4に示すように、側面からみて、上下に連続して存在する谷状稜線、山状稜線、谷状稜線において、山状稜線が、二つの谷状稜線の略中央に位置し、担体12に対して略垂直となる方向に凸となる山状部を有する凹凸形状を形成した場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、図5(a)に示すように、側面からみて、上下に連続して存在する谷状稜線、山状稜線、谷状稜線において、山状稜線が、その上に位置する谷状稜線よりも上に位置し、担体12に対して斜め上方向に凸となる山状部を有する凹凸形状を形成してもよい。この場合には、図5(a)に示すように、先端が上方に向いた連続した段差部が形成されるため、この段差部分に微生物や培養液を留めることができる。
また、谷状稜線と山状稜線は、図5(b)、(c)に示すように担体12の下方にいくほど、谷状稜線と山状稜線との間隔が長くなるように設定してもよい。
【0047】
(10)上記実施形態においては、担体12を導光板11の出射面に沿うように接触して配置することで担体12に光照射を行う場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、太陽光等を利用する等、光源14を用いずに培養する場合には、担体12を吊り下げた状態で、担体12の凹凸形状が形成された面に太陽光等が入射されるようにすればよい。また、担体12の凹凸形状が形成された側の面と導光板11の出射面とが対向するように配置してもよい。図2に示すように担体12の凹凸形状が形成された側とは逆側の面に光照射を行うのではなく、担体12の凹凸形状が形成された面に光照射を行う場合には、担体12は必ずしも光透過性を有していなくてもよい。
また、上記実施形態において、光源14に替えて太陽光等の光を導光板11に入射するようにしてもよい。
(11)上記実施形態において、培養部2をユニット化してもよく、ユニット化した培養部2をカートリッジ式に培養槽25内に配置し、培養部2を、その上方から或いは横方向から、着脱するように構成してもよい。
【0048】
(12)担体12の表面の濡れ性や微生物の付着性を更に向上させるために、図6に示すように、担体12の基材として用いた樹脂シートの表面に、さらに細かな凹凸パターン(以下、シート面パターンspという。)をつけてもよい。このシート面パターンspの形状としては溝状、突起状、ディンプル状などが挙げられる。また、例えば溝状の場合、シート面パターンspの幅やピッチは1μm以上100μm以下であることが好ましい。また、溝状のシート面パターンspを形成する場合には、担体12の上下方向と溝の伸びる方向とが交差するように形成することが好ましい。また、シート面パターンspが形成された箇所に対してコロナ処理やコーティング剤塗工処理等を行うことで、基材表面での保水性の制御を補助してもよい。
【0049】
なお、上述した実施形態は、本発明の一例であり、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 微生物培養装置
2 培養部
3 支持体
3a 側板
3b 脚部
4 培養液供給部
11 導光板
12 担体
12a、12c 谷状稜線
12b、12d 山状稜線
13 反射層
14 光源
21 噴霧部
22 流量制御部
23 貯液槽
24 ポンプ
25 培養槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6