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特開2022-185913徐酸化装置及び金属粉末の徐酸化方法
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  • 特開-徐酸化装置及び金属粉末の徐酸化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185913
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】徐酸化装置及び金属粉末の徐酸化方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/14 20220101AFI20221208BHJP
   C23C 8/10 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B22F1/02 F
C23C8/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093837
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】寿福 誠
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BB06
4K018BC18
4K018BC33
(57)【要約】
【課題】粉末全体の酸化スピードの均一化を図ることができる新規な徐酸化装置を提供する。
【解決手段】徐酸化装置1は、上面が開放され内部に金属粉末を収容する容器3と、容器3の一部若しくは全体を昇降させる昇降機構部4と、を備えている。昇降機構部4は、容器3を上昇させた後、容器3内に収容された金属粉末の自由落下速度よりも早い速度で容器3を下降させ、所定の位置で下降停止させるように構成されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開放され内部に金属粉末を収容する容器と、
前記容器の一部若しくは全体を昇降させる昇降機構部と、を備え、
前記昇降機構部は、前記容器を上昇させた後、前記容器内に収容された前記金属粉末の自由落下速度よりも早い速度で前記容器を下降させ、所定の位置で下降停止させように構成されている、徐酸化装置。
【請求項2】
前記昇降機構部は、前記容器における対向する一端部側と他端部側とを同時に昇降させる、請求項1に記載の徐酸化装置。
【請求項3】
前記昇降機構部は、前記容器における対向する端部の何れか一方の側を昇降させた後、何れか他方の側を昇降させる、請求項1に記載の徐酸化装置。
【請求項4】
前記昇降機構部は、
前記容器と当接した状態で回転して前記容器を持ち上げ、その後容器との当接を解除するカム部材と、
前記容器に下向きの力を付与する付勢部材と、
を含んで構成されている、請求項1~3の何れかに記載の徐酸化装置。
【請求項5】
酸素濃度が調整された雰囲気下において、上面が開放された容器の内部に金属粉末を収容し、
前記容器を上昇された後、前記容器内に収容された前記金属粉末の自由落下速度よりも早い速度で前記容器を下降させ、所定の位置で下降停止させる動作を繰り返し実行する、金属粉末の徐酸化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、徐酸化装置及び金属粉末の徐酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性金属を粉末化する場合、通常は、非酸化雰囲気下で活性金属インゴットを粉末化する。その際に生成される新生の清浄面は非常に活性であり、活性金属の粉末を大気中に取り出すと、清浄な活性面が急速に大気中の酸素と結合する。このため金属粉末の製造加工や取扱いにおける「粉塵爆発」や「急激な酸化熱による発火リスク」を防ぐ目的で、事前に粉末を緩やかに酸化させる「徐酸化」の処理が施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-157904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
徐酸化は酸素濃度が調整された雰囲気下に粉末を静置して実施されるが、表層部の粉末と深部の粉末とでは徐酸化の進展度合い(酸化スピード)が異なり、粉末表面に形成される酸化被膜の状態がばらついてしまう問題があった。酸化被膜の状態は粉末特性に影響を与える場合があり、徐酸化処理される粉末全体に均一な酸化被膜を形成できるようにすることが望まれている。
【0005】
尚、上記特許文献1では、粉末全体を均一に酸化する方法として、金属粉末を収容する容器として回転可能に構成された筒状の容器を用い、かかる容器を軸心周りに回転させることで容器内の金属粉末を撹拌、混合しながら、容器内に継続的に酸素濃度が調整された徐酸化ガスを導入する点が開示されている。しかしながら容器内の酸素濃度の測定が困難であるため、酸化スピードのコントロールには不向きである。
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、粉末全体の酸化スピードの均一化を図ることができる新規な徐酸化装置及び金属粉末の徐酸化方法を提供し、金属粉末の徐酸化に関する技術の豊富化を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して本発明の徐酸化装置は、
上面が開放され内部に金属粉末を収容する容器と、
前記容器の一部若しくは全体を昇降させる昇降機構部と、を備え、
前記昇降機構部は、前記容器を上昇させた後、前記容器内に収容された前記金属粉末の自由落下速度よりも早い速度で前記容器を下降させ、所定の位置で下降停止させように構成されていることを特徴とする。
【0008】
このように規定された本発明の徐酸化装置によれば、容器内に収容された金属粉末の自由落下速度よりも早い速度で容器を下降させるので、金属粉末と容器の底面との間に空間が生じる。その際、容器外の雰囲気ガスは金属粉末の層を通って前記空間側に流通する。
また容器が所定の位置で下降停止した後は、金属粉末の自由落下により前記空間が消滅するため、先程とは逆に、前記空間内の雰囲気ガスは金属粉末の層を通って容器外へと流通する。
このように、容器内に収容された金属粉末の層の表層部から深部へと流通する雰囲気ガスの流れと、深部から表層部へと流通する雰囲気ガスの逆の流れを交互に実現させることで、本発明では金属粉末の層における表層部と深部での徐酸化度合いのばらつきを抑え、容器内の金属粉末全体についての酸化スピードの均一化を図っている。
【0009】
ここで、金属粉末の層内を流通する雰囲気ガスの流れは、強制的に容器内に供給されるガスよりも緩やかであるため、本発明の徐酸化装置は徐酸化により薄い酸化被膜を形成したい場合に特に好適である。また本発明の徐酸化装置は容器内に雰囲気ガスを強制的に供給もしくは排出するためのファンユニット等は不要であるため、徐酸化装置自体を小型化することができる。
【0010】
本発明の徐酸化装置では、前記昇降機構部が前記容器における対向する一端部側と他端部側とを同時に昇降させ、水平な状態を維持しながら容器を昇降させることができる。
【0011】
また本発明の徐酸化装置では、前記昇降機構部が前記容器における対向する端部の何れか一方の側を昇降させた後、何れか他方の側を昇降させ、容器全体を傾けつつ昇降させることができる。
【0012】
また本発明の徐酸化装置では、前記昇降機構部を、前記容器と当接した状態で回転して前記容器を持ち上げ、その後前記容器との当接を解除するカム部材と、前記容器に下向きの力を付与する付勢部材と、を含んで構成することができる。
【0013】
また本発明の金属粉末の徐酸化方法は、酸素濃度が調整された雰囲気下において、上面が開放された容器の内部に金属粉末を収容し、
前記容器を上昇された後、前記容器内に収容された前記金属粉末の自由落下速度よりも早い速度で前記容器を下降させ、所定の位置で下降停止させる動作を繰り返し実行することを特徴とする。
このように規定された金属粉末の徐酸化方法によれば、上記した本発明の徐酸化装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る徐酸化装置の概略構成を示した側面図である。
図2】同実施形態の徐酸化装置の概略構成を示した平面図である。
図3】同徐酸化装置を用いた徐酸化方法の説明図である。
図4図3に続く徐酸化方法の説明図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る徐酸化装置の概略構成を示した側面図である。
図6】同徐酸化装置を用いた徐酸化方法の説明図である。
図7図6に続く徐酸化方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の第1実施形態に係る徐酸化装置を図面に基づいて詳しく説明する。図1及び図2で示す徐酸化装置1は、酸素濃度が調整された雰囲気下において活性な金属粉末を徐酸化するための装置で、例えば粒径25μm以下の金属粉末の徐酸化に好適に用いることができる。ここで、酸素濃度が調整された雰囲気とは、不活性ガス(例えばArや窒素)中に酸素を供給し、酸素濃度を1~18質量%としたものである。
【0016】
徐酸化装置1は、基台2と、金属粉末を収容する容器3と、容器3を昇降させる昇降機構部4と、を備えている。
【0017】
容器3は平面視で四角形状をなしており、底部10と、底部10の縁より上方に延びる側壁部11を備え、上面は開放されている。容器3は、平面視において基台2に取り付けられた一対のガイド板15,15の間に配置され(図2参照)、側面視において基台2に立設されたストッパ部材18で支持され上下方向に位置が規定されている。なおストッパ部材18の先端部には、容器3と当接した際の衝撃を緩和するためゴム弾性体が装着されている。
【0018】
容器3の、ガイド板15と対向する側壁部11には外向きに突出するガイドピン13が設けられており、かかるガイドピン13はガイド板15に形成された上下方向に長い貫通の長溝16に係合している。これにより容器3は、長溝16に沿って上下方向にスライド移動可能とされている。
【0019】
昇降機構部4は、容器3の底部10に当接するカム部材20と、動力源としての駆動用モータ22と、駆動用モータ22の回転力をカム部材20に伝達するギヤ部23と、容器3に下向きの力を付与する付勢部材25と、を含んで構成されている。なお、付勢部材25としては弾性変形可能なバネ部材等を用いることができる。
【0020】
カム部材20は、ギヤ部23から延び出した出力軸23aに固着され、該出力軸23a周りに回転する。そして、容器3の底部10に当接し容器3を上昇させ、また容器3との当接を解除して容器3を下降させる。
【0021】
図2で示すように、カム部材20は容器3の隅角部近傍の4箇所に設けられている。これら4箇所のカム部材20は、共通の駆動用モータ22の下、同期回転するように構成されている。そして、図1で示す側面視において容器3の中央部を挟んで対向する一端部側6aと他端部側6bとを同時に上昇させ、また同時に下降させる。即ち、本例では容器3を水平な状態に維持しながら昇降させるようにカム部材20の動きが規定されている。
【0022】
付勢部材25は、一端が容器3に接続され、他端が基台2に接続されており、容器3には下向きの付勢力が付加されている。このため、容器3とカム部材20との当接が解除された後、容器3は付勢部材25の下向きの付勢力に基づいて、自重落下の場合よりも早い速度で下降する。付勢部材25は容器3の複数箇所に取り付けることができる。下降する容器3の姿勢を安定させることができるように、容器3の重心周りに偏りなく等間隔に設けることが望ましい。
【0023】
次に、徐酸化装置1を用いた徐酸化方法を図3及び図4を用いて説明する。徐酸化は、酸素濃度が調整された雰囲気下に設置された徐酸化装置1を用いて行われる。
【0024】
先ず、図3(I)で示すように、容器3内に徐酸化の対象である活性な金属粉末40を略平坦に敷き均した状態で収容する。そしてカム部材20を回転させ、容器3全体を昇降させる。図3(I)においてストッパ部材18にて支持されていた容器3の底部10にカム部材20が当接すると、図3(II)で示すように、付勢部材25の付勢力に抗して容器3がカム部材20によって持ち上げられる。ここで、容器3を上昇させる際は、容器3内の金属粉末40が振動や衝撃で容器外に飛散しないように緩やかに容器3を持ち上げることが望ましい。
【0025】
容器3が上昇端に到った後、容器3とカム部材20との当接が解除され、図4(III)で示すように、容器3は自身の自重と付勢部材25による下向きに付加された付勢力により急速に下降する。このとき、金属粉末40の層と容器3内の底面10aとの間には、下降速度の差に基づいて空間Kが生じ、図中下向きの矢印で示すように容器外の雰囲気ガスが金属粉末40の層を通って空間K側に流入する。
【0026】
その後、容器3がストッパ部材18に当接し、ストッパ部材18により規定された下降端の位置にて容器3の下降が停止すると、図4(IV)で示すように、自由落下していた金属粉末40が遅れて容器3内の底面10aに堆積し、容器下降中に生じていた空間Kは消失する。その際、図中上向きの矢印で示すように、空間K内の雰囲気ガスが、金属粉末40の層を通って容器外に排出される。
本例では以上の動作が繰り返され、雰囲気ガスと接した金属粉末40は徐々に酸化され、その表面に酸化被膜が形成される。ここで実施される昇降動作の繰り返し回数は、雰囲気ガスの酸化濃度や金属粉末40に求められる特性に応じて適宜決定することができる。
【0027】
以上のように本実施形態の徐酸化装置1では、容器3を昇降させる動作を繰り返し行い、上記した金属粉末40の層を通過する雰囲気ガスの流れを繰り返し生ぜしめることで、詳しくは、金属粉末40の層の表層部から深部へと流通する雰囲気ガスの流れと、深部から表層部へと流通する雰囲気ガスの逆の流れを交互に実現させることで、金属粉末40の層における表層部と深部での徐酸化度合いのばらつきを抑え、容器3内の金属粉末全体についての酸化スピードの均一化が図られる。
【0028】
ここで、金属粉末40の層内を流通する雰囲気ガスの流れは、強制的に容器内に供給されるガスよりも緩やかであるため、本実施形態の徐酸化装置1は徐酸化により薄い酸化被膜を形成したい場合に特に好適である。また本実施形態の徐酸化装置1では、容器3内に雰囲気ガスを強制的に供給もしくは排出するためのファンユニット等は不要であるため、徐酸化装置自体を小型化することができる。
【0029】
次に本発明の第2実施形態に係る徐酸化装置1Bについて説明する。図5は、徐酸化装置1Bの概略構成を示した側面図である。
本例の徐酸化装置1Bは側面視において容器3の中央部を挟んで対向する一端部側6aと他端部側6bとで昇降のタイミングを異ならせた点が上記第1実施形態の徐酸化装置1と異なっている。なお、本例の構成各部のうち、上記の徐酸化装置1と共通する構成については同じ符号を用いて示すとともに、その説明を省略する。
【0030】
図5で示すように、本例では一端部側6aに取り付けられたカム部材20と、他端部側6bに取り付けられたカム部材20とが非対称となるように取り付けられている。このため徐酸化装置1Bを用いて金属粉末の徐酸化を行った場合、それぞれのカム部材20が回転すると、図6(I)で示すように、容器3の他端部側6bがストッパ部材18に当接した状態で、一端部側6aに取り付けられたカム部材20のみが容器3の底部10に当接し、容器3の一端部側6aのみがカム部材20によって持ち上げられる。
【0031】
そして容器3の一端部側6aが上昇端に到った後、容器3とカム部材20との当接が解除され、図6(II)で示すように、容器3が自身の自重と下向きに付加された付勢力により容器3の一端部側6aが急速に下降する。このとき、金属粉末40の層と容器3内の底面10aとの間に空間Kが生じ、図中下向きの矢印で示すように容器外の雰囲気ガスが金属粉末40の層を通って空間K側に流入する。
【0032】
その後、容器3がストッパ部材18に当接し、ストッパ部材18により規定された下降端の位置にて容器3の下降が停止すると、図7(III)で示すように、自由落下していた金属粉末40が遅れて容器3内の底面10aに堆積し、容器下降中に生じていた空間Kは消失する。その際、図中上向きの矢印で示すように、空間K内の雰囲気ガスが、金属粉末40の層を通って容器外に排出される。
【0033】
その後、更にカム部材20が回転すると、今度は、図7(IV)で示すように、容器3の一端部側6aがストッパ部材18に当接した状態で、他端部側6bに取り付けられたカム部材20のみが容器3の底部10に当接し、容器3の他端部側6bのみがカム部材20によって持ち上げられ、以降、他端部側6bについての昇降動作が実行される。
【0034】
以上のように、容器3の対向する端部の一端部側6aを昇降させた後、他端部側6bを昇降させるように構成された本実施形態の徐酸化装置1Bを用いた徐酸化方法でも、容器3の昇降動作に基づいて金属粉末40の層を通過する雰囲気ガスの流れを生ぜしめ金属粉末40の層における表層部と深部での徐酸化度合いのばらつきを抑制することができる。
また本例では、容器3内の底面10aが昇降動作のたびに異なる角度で傾くことから容器3内の金属粉末40を撹拌、混合を促進する効果も認められる。
【0035】
以上本発明の徐酸化装置及び金属粉末の徐酸化方法について詳しく説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、昇降機構部がカム部材及び付勢部材を含む構成としたが、これらに替えて任意の速度で容器を昇降させ得るシリンダユニット等を用いることも可能である。また場合によっては容器の一部(一端部側)だけを揺動させることも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【符号の説明】
【0036】
1,1B 徐酸化装置
3 容器
4 昇降機構部
6a 一端部側
6b 他端部側
20 カム部材
25 付勢部材
40 金属粉末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7