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特開2022-185921作業管理装置および被ばく線量算出方法
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  • 特開-作業管理装置および被ばく線量算出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185921
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】作業管理装置および被ばく線量算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/00 20060101AFI20221208BHJP
   G01T 1/16 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01T1/00 D
G01T1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093856
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】首藤 祐希
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 良雄
(72)【発明者】
【氏名】葛西 良亮
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188BB17
2G188BB19
2G188GG02
2G188JJ06
(57)【要約】
【課題】作業を行う作業員の被ばく線量を高精度に見積もることを可能とする。
【解決手段】作業管理装置100は、作業空間を再現した3次元仮想空間内における作業員の動作を模擬する3次元モデルの表面を構成するそれぞれの面に照射される線源からの放射線量を積算して、3次元モデルの被ばく線量を算出する線量算出部115を備える。面に照射される放射線量は、3次元仮想空間内に存在し、線源と3次元モデルの間に存在する構造物・遮蔽物の何れかによる減衰を含めて算出されるようにしてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業空間を再現した3次元仮想空間内における作業員の動作を模擬する3次元モデルの表面を構成するそれぞれの面に照射される線源からの放射線量を積算して、前記3次元モデルの被ばく線量を算出する線量算出部を備える
ことを特徴とする作業管理装置。
【請求項2】
前記線源から前記3次元モデルの面に照射される放射線量は、前記3次元仮想空間内に存在し、前記線源と前記3次元モデルの間に存在する構造物・遮蔽物の何れかによる減衰を含めて算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項3】
前記線源から前記3次元モデルの面に照射される放射線量は、前記作業員の作業服による減衰を含めて算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項4】
前記3次元モデルの外形は、前記作業員の身体的特徴が反映されている
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項5】
前記3次元モデルが模擬する動作は、前記作業員の身体的特徴、技能的特徴、および心理的特徴のうち少なくとも1つが反映されている
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項6】
前記線源の位置および放射線量を前記作業空間における線量の実測値から推測する線源推測部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項7】
前記3次元仮想空間内の各位置における放射線量を示す線量マップを表示する表示制御部をさらに備え、
当該放射線量は、当該位置にある前記3次元モデルに照射される放射線量である
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項8】
表示制御部をさらに備え、
前記線量算出部は、前記3次元仮想空間内の各箇所における線量を、前記3次元仮想空間内に存在し前記線源と当該箇所の間に存在する構造物・遮蔽物の何れかによる減衰を含めて算出し、
前記表示制御部は、前記線量を含む前記作業空間の線量マップを表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項9】
前記3次元モデルに対する移動を含む操作を受け付ける操作部と、
前記操作に従って動作した前記3次元モデルの視点から見える作業空間における線量を可視化した画像を表示する表示制御部とをさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項10】
前記表示制御部は、前記操作に従って前記3次元モデルが移動した位置での線量、または、操作開始時からの累計の被ばく線量が所定の値を超える場合には、警報を発する
ことを特徴とする請求項9に記載の作業管理装置。
【請求項11】
移動経路算出部と表示制御部とをさらに備え、
前記移動経路算出部は、指定された前記作業空間にあるスタート点から作業位置までの前記3次元モデルの前記3次元仮想空間内の移動経路を算出し、
前記線量算出部は、前記移動経路に沿って移動したときに前記3次元モデルの被ばく線量を算出し、
前記表示制御部は、前記移動経路のなかで前記放射線被ばく量が最小となる移動経路を表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の作業管理装置。
【請求項12】
作業管理装置が実行する被ばく線量算出方法であって、
前記作業管理装置が
作業空間を再現した3次元仮想空間内における作業員の動作を模擬する3次元モデルの表面を構成するそれぞれの面に照射される線源からの放射線量を積算して、前記3次元モデルの被ばく線量を算出するステップを実行する
ことを特徴とする被ばく線量算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線環境下で行われる作業の計画作成を支援する作業管理装置および被ばく線量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所の廃炉作業に従事している作業員は数千名にのぼり、これら作業員の被ばく線量が一人一人管理されている。作業員の年間被ばく量には上限が定められており、上限に達すると作業ができなくなる。このため作業員ごとに被ばく量や工程を最適化する作業計画を作成し、きめ細かく被ばく線量を管理する必要がある。
【0003】
特許文献1に記載の作業計画支援方法によれば、線量率の実測データに基づいて計算された2次元平面の線量率分布を3次元画像に重ね合わせることで線量マップを作成し、作成した線量マップに作業員の動作・行動を重ねて表示させることで放射線環境下における作業員の被ばく線量を従来よりも精度よく見積もることができる。
【0004】
特許文献2に記載の作業支援装置は、放射線管理区域内の作業員の位置と放射線線量計の測定値を取得し、作業場所と作業項目を関係づける情報と照合して、作業項目ごとの被ばく量の実績値を収集する。作業支援装置はこのようにして収集された放射線被ばく量実績を基に、高精度に放射線被ばく量を見積もる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-162368号公報
【特許文献2】特開2004-264161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の作業計画支援方法では作業員の動作・行動は考慮しているが、個々の作業員の身体的特徴や技能的特徴は考慮されておらず、被ばく線量の見積りに改善の余地がある。特許文献2に記載の作業支援装置では、作業を行った際の実績値に基づく被ばく量の見積りであるため、前例のない作業については被ばく量の見積りができない。
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、作業を行う作業員の被ばく線量を高精度に見積もることを可能とする作業管理装置および被ばく線量算出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、本発明に係る作業管理装置は、作業空間を再現した3次元仮想空間内における作業員の動作を模擬する3次元モデルの表面を構成するそれぞれの面に照射される線源からの放射線量を積算して、前記3次元モデルの被ばく線量を算出する線量算出部を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業を行う作業員の被ばく線量を高精度に見積もることを可能とする作業管理装置および被ばく線量算出方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る作業管理装置の機能ブロック図である。
図2】本実施形態に係る作業管理装置の使用手順である。
図3】本実施形態に係る作業空間の線量を濃淡で可視化した画像である。
図4】本実施形態に係るスタート点から作業位置への経路を示す図である。
図5】本実施形態に係る線量算出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪作業管理装置の概要≫
以下に本発明を実施するための形態(実施形態)における作業管理装置について説明する。作業管理装置は、仮想的な3次元の作業空間のなかで作業員の3次元モデル(アバター)を用いて作業をシミュレーションする。作業管理装置はこのシミュレーションをとおして、3次元モデルの表面に照射される線量を積算して被ばく線量を算出することで作業員の被ばく線量を見積もる。3次元モデルは単なる人型の3次元モデルではなく、作業員の身体的特徴・技能的特徴・心理的特徴を反映したモデルであって、作業員ごとに大きさが異なったり、同じ作業でも作業時間が異なったりする。このため、作業場所ごとの放射線量を積算して被ばく線量を算出するよりも高精度に被ばく線量を見積もることができる。
【0011】
≪作業管理装置の構成≫
図1は、本実施形態に係る作業管理装置100の機能ブロック図である。作業管理装置100はコンピュータであって、制御部110、記憶部130、および入出力部180を備える。入出力部180には、ディスプレイやキーボード、マウスなどのユーザインターフェイス機器が接続される。入出力部180が通信デバイスを備え、他の装置とのデータ送受信が可能であってもよい。また入出力部180にメディアドライブが接続され、記録媒体を用いたデータのやり取りが可能であってもよい。
【0012】
≪作業管理装置の構成:記憶部≫
記憶部130は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびSSD(Solid State Drive)などの記憶機器を含んで構成される。記憶部130には、建屋データベース131、線量データベース132、作業員データベース133、作業内容データベース134、作業計画データベース135、実作業データベース136、遮蔽物データベース137、および廃棄物データベース138が記憶される。
【0013】
建屋データベース131には、作業場所となる建屋や建屋内にある構造物の位置や大きさ(寸法)、材質などの情報が格納される。建屋データベース131には、例えば壁、床、ドア、設備、機器、配管などの情報が格納される。
線量データベース132には、建屋内の放射線測定点の位置や当該測定点における放射線量(線量率)の他に、線源の位置や放射線量などの情報が格納される。
【0014】
作業員データベース133には、作業員ごとの身体的特徴や技能的特徴、心理的特徴、作業履歴、被ばく線量などの情報が格納される。身体的特徴とは、身長、体重、骨格、筋肉、視力、聴力などに係る情報である。技能的特徴とは、作業経験、資格、実務時間などに係る情報である。心理的特徴とは、軽はずみ/慎重・注意深い、性急/のんびりなど性格に係る情報である。作業履歴は過去に行った作業に係る情報であって、被ばく線量は当該作業中に被ばくした線量と累計(例えば年間累計)の被ばく線量である。
【0015】
作業内容データベース134には、作業ごとの作業内容(作業手順、作業項目)の詳細が格納される。例えば、制御棒駆動機構本体取外しという作業については、制御棒駆動機構制御盤面の操作内容、台車への制御棒駆動機構アタッチメントの搭載、台車の搬入位置などの作業手順や各作業手順の実行にかかる標準的な作業時間などの情報が格納されている。
【0016】
作業計画データベース135には、計画された作業の予定日時や担当する作業員、見積り作業時間、見積り被ばく線量などの情報が格納される。
実作業データベース136には、実行された作業の日時や担当した作業員、作業時間、被ばく線量などの情報が格納される。
【0017】
遮蔽物データベース137には、放射線遮蔽物の寸法や重量、材質などの情報が格納される。
廃棄物データベース138には、放射線廃棄物の形状や廃棄作業前後の位置、廃棄日時(廃棄物を移動した日時)、放射線量などの情報が格納される。
上記したデータベースの他に記憶部130には、作業員が着用する安全物やヘルメット、防護着などの材質、寸法、厚さ、着用位置などを含む着用物データベースなどが記憶される。
【0018】
≪作業管理装置の利用手順≫
制御部110に備わる機能部を説明する前に、作業管理装置100を使用する作業管理者の使用手順を説明する。図2は、本実施形態に係る作業管理装置100の使用手順である。なお、以下の説明では建屋や構造物に係る情報、線量の実測値、作業員に係る情報、作業内容は、それぞれ建屋データベース131、線量データベース132、作業員データベース133、作業内容データベース134に格納済みであるとする。
【0019】
ステップS11において作業管理者は、作業計画としてどの作業員が何の作業を担当するかを作業管理装置100に入力する。
ステップS12において作業管理者は、被ばく線量を算出するように作業管理装置100に指示する。指示を受けた作業管理装置100は、作業員ごとに被ばく線量(見積り被ばく線量)を算出して入出力部180に接続されたディスプレイに表示する。作業管理装置100は作業中の被ばく線量だけではなく、累計の被ばく線量も作業員ごとに表示する。
【0020】
ステップS13において作業管理者は、算出された被ばく線量を確認し計画が適切であれば(ステップS13→YES)ステップS14に進み、不適切であれば(ステップS13→NO)ステップS11に戻る。不適切であった場合に作業管理者は、作業員を替えたり作業内容を見直したりして、再び作業計画を入力する(ステップS11参照)。
ステップS14において作業管理者は、作業員に作業の実施を指示する。作業員はステップS11で入力された各担当の作業を実行する。
【0021】
ステップS15において作業管理者は、作業員の作業をモニタして作業項目(作業手順)ごとの作業時間を入力する。また、作業管理者は作業員の被ばく線量を入力する。入力された作業時間や被ばく線量は、作業員データベース133や実作業データベース136に格納される。
ステップS16において作業管理者は、作業管理装置100が表示した実作業における各作業手順の作業時間と、作業内容データベース134に格納される計画時の作業時間とを比較して、作業手順(作業内容)が適切か否かを確認する。作業手順が不適切な場合には、作業管理者は作業内容データベース134にある作業を見直す。
【0022】
≪作業管理装置の構成:制御部≫
図1に戻って制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、登録部111、仮想空間生成部112、線源推測部113、アバター制御部114、線量算出部115、実作業管理部116、表示制御部117、および移動経路算出部118を備える。
【0023】
登録部111は、入力された情報を記憶部130に格納する。例えば登録部111は、建屋内の各所で測定された線量(線量率)を線量データベース132に、作業を担当する作業員を作業計画データベース135に格納する。また登録部111は、実作業の作業時間を実作業データベース136に、作業員が作業時に被ばくした線量を作業員データベース133と実作業データベース136とに格納する。他に登録部111は、放射線廃棄物の形状や位置、廃棄日時、放射線量などの情報を廃棄物データベース138に格納する。
【0024】
仮想空間生成部112は、建屋データベース131に格納された情報に基に建屋内の作業場所(作業空間)の3次元仮想空間モデル(3次元仮想空間)を生成する。
線源推測部113は、線量データベース132に格納された情報を基に線源の位置や放射線量を推測し、推測結果を線量データベース132に格納する。線源推測部113は、作業空間の各所で測定された線量から逆算して、線源の位置と放射線量を算出する。
【0025】
なお、線量が測定されて線量データベース132に格納された後に移動した放射線廃棄物がある場合に線源推測部113は、廃棄物データベース138にある情報を参照して線源を推測してもよい。詳しくは、線源推測部113は線量データベース132にある情報から推測した線源の位置や放射線量に、廃棄物データベース138にある廃棄物となって移動した線源を加えて、線源の位置と放射線量を推測してもよい。例えば線源推測部113は、線量データベース132にある情報から推測された線源の位置の放射線量について、当該位置にあった廃棄物の線量を差し引く。
【0026】
アバター制御部114は、作業員の3次元モデル(アバター)を生成し、作業内容データベース134にある作業手順に従って3次元モデルを動作させる。アバター制御部114は、アバターを生成する際には、作業員データベース133にある作業員の身長・体重・骨格などの身体的特徴を参照してアバターの大きさや形状を決定する。またアバター制御部114は、作業内容データベース134にある作業手順に基づいて、3次元仮想空間内でアバターを移動したり、向きを変えたり、姿勢を変えたりなどアバターの動作を制御する。
【0027】
作業にともなうアバターの動作については、アバター制御部114は、作業員の身体的特徴・技能的特徴・心理的特徴を参照して制御する。例えば、荷重がかかる動作についてアバター制御部114は、身体的特徴の1つである筋力のある作業員のアバターの動作速度を高めるように、延いては作業時間が短くなるように制御する。例えば技能的特徴の1つである作業経験についてアバター制御部114は、作業経験の長い作業員のアバターの作業時間が短くなるように、また作業経験の短い作業員のアバターの作業時間が長くなるように制御する。
【0028】
例えば心理的特徴の1つである軽はずみ/慎重・注意深いについてアバター制御部114は、軽はずみの度合いの高い作業員の作業ミスによるやり直しを見越してアバターの作業時間が長くなるように、また慎重さの度合いの高い作業員のアバターの作業時間が長くなるように制御する。例えば心理的特徴の1つである性急/のんびりについてアバター制御部114は、性急の度合いが高い作業員のアバターの動作速度を高めて作業時間が短くなるように、のんびりの度合いが高い作業員のアバターの動作速度を低めて作業時間が長くなるように制御する。
【0029】
線量算出部115は、アバターに照射される線量を算出する。詳しくは、線量算出部115は、単位時間ごと、アバター(3次元モデル)の表面を構成するポリゴン(面)ごとに、ポリゴンの位置・向き・大きさ、線源からの距離、構造物などによる減衰などからアバターに照射される線量を算出して積算することで被ばく線量を算出する。構造物などによる減衰について線量算出部115は、ポリゴンと線源との間にある構造物、遮蔽物、着用物(作業服)の位置・大きさ(厚さ)・材質を基に算出する。
【0030】
なお、ポリゴンに照射される線量について、線源からの距離が遠くなると線量は低減し、構造物などによる減衰があると線量は低減する(つまりアバターに照射される線量は低減する)。また、ポリゴンの向きについて、ポリゴンが線源に正対していない場合(斜めの場合)は、正対している場合よりも線量は低減する。ポリゴンの大きさについて、ポリゴンが小さい場合は、大きい場合よりも線量は低減する。
【0031】
実作業管理部116は、作業前(作業計画時)の作業内容データベース134にある作業時間と、作業後の実作業データベース136にある作業時間や線量とを比較して乖離が大きい作業手順(作業項目)が作業管理者により容易に認識されるように表示する。
表示制御部117は、作業空間内の線量を3次元仮想空間内に可視化した画像を生成し、入出力部180に接続されたディスプレイに表示する。ディスプレイは、例えばVR(Virtual Reality)ゴーグルであってもよい。
【0032】
図3は、本実施形態に係る作業空間の線量(線量率)を濃淡で可視化した画像420である。詳しくは、画像420は作業空間の垂直面での線量を示し、後記する図4のB-Bの断面(フロアに対して垂直な面)における線量を示す。表示制御部117は濃淡に替わりに色で線量を示してもよい。画像420に左側にあるポンプ421の奥側に線源があり、同心円状に外側ほど線量が低くなっている。また、作業空間に比べて、ポンプ421や配管426、弁425の線量がやや高くなっている。遮蔽物422により、放射線が遮られていることがわかる。
【0033】
アバター423,424については、表示位置にいるアバターの被ばく線量の様子を示している。アバター423の左側は、線源から見て遮蔽物422に隠れており被ばく線量は低いが、右側は高い。アバター424は、アバター423と比べて全体的に被ばく線量が高い。表示制御部117は、付加的にアバター423,424の(単位時間当たりの)被ばく線量を表示してもよい(「11.2」や「21.1」の数値参照)。
【0034】
図1に戻って移動経路算出部118は、建屋データベース131を参照してスタート点から作業位置までの作業員(アバター)の移動経路を算出する。移動経路は1つとは限らず、複数ある場合もある。アバター制御部114はアバターを算出された経路に沿って移動し、線量算出部115は移動時の被ばく線量を算出する。表示制御部117は、被ばく線量が少ない経路をフロア図上に表示する。
【0035】
図4は、本実施形態に係るスタート点432から作業位置433への経路437を示す図である。フロア図430上には線源431がある箇所、スタート点432、作業位置433、各種の構造物が示されている。スタート点432とは、例えばフロアへの入り口である。スタート点432から作業位置433まで移動経路として、3つの経路435~437がある。移動距離としては経路436が最短であるが、移動における被ばく線量は経路437が最小となり、表示制御部117は経路435,436を表示せず、経路437のみをディスプレイに表示する。なお、フロア図430は作業空間の水平面での線量を示し、図3のA-Aの断面(フロアに対して平行で水平な面)における線量を示す。楕円438,439は、図3記載のアバター423,424の位置を示す。
【0036】
なおフロア図430は、フロア内の各所における線量(線量率)を濃淡で示した線量マップになっている。線源431がある箇所を中心に近い場所ほど線量が高くなっているが、構造物ないしは遮蔽物により線源431から陰になっている箇所の線量は低くなっている。線量マップで示される各箇所での線量は、アバターに照射される線量と同様に、線源の位置、線源の放射線量、線源と箇所の間にある構造物の材質・大きさ(厚さ)などから算出される。なお線量マップは、フロア内の箇所における線量ではなく、作業員の特徴を反映しその箇所にあるアバターに照射される線量を示したものであってもよい。
【0037】
≪線量算出処理≫
図5は、本実施形態に係る線量算出処理のフローチャートである。図5を参照しながら線量算出が指示されて表示するまで(図2記載のステップS12参照)の作業管理装置100が作業におけるアバターの被ばく線量を算出する処理を説明する。
ステップS21において仮想空間生成部112は、建屋データベース131に格納された情報に基に建屋内の作業場所の3次元仮想空間モデル(3次元仮想空間)を生成する。
【0038】
ステップS22において線源推測部113は、線量データベース132に格納された情報を基に線源の位置や放射線量を推測し、推測結果を線量データベース132に格納する。
ステップS23においてアバター制御部114は、作業員の身体的特徴を参照してアバターを生成する。
ステップS24において線量算出部115は、アバターの作業被ばく線量を0に設定する。作業被ばく線量とは、作業中に受ける被ばく線量である。
【0039】
ステップS25において線量算出部115は、アバター(作業員)が担当する作業を単位時間に区切る。単位時間は、その時間の間に作業にともなうアバターの位置や向き、姿勢がほぼ一定と見なせる時間であって、仮に一定でなくても時間が短く作業による被ばく線量全体からは誤差と見なせる時間である。
ステップS26において線量算出部115は、単位時間ごとにステップS27~S28の繰り返し処理を開始する。以下では、繰り返し処理における処理対象となる単位時間を対象単位時間と記す。
【0040】
ステップS27においてアバター制御部114は、作業内容データベース134にある線量算出対象となる作業の作業手順に基づいて、3次元仮想空間内でアバターを移動したり、向きを変えたり、姿勢を変えたりなどアバターの動作を制御して、対象単位時間におけるアバターの位置、向き、姿勢を算出する。
【0041】
ステップS28において線量算出部115は、アバターの表面を構成するポリゴン(面)ごとに、ポリゴンの位置・向き・大きさ、線源からの距離、構造物などによる減衰などから対象単位時間内にポリゴンに照射される線量(被ばく線量)を算出する。次に線量算出部115は、算出したポリゴンごとの被ばく線量の総和をアバターの作業被ばく線量に加算する。
【0042】
ステップS29において線量算出部115は、アバターの作業被ばく線量を作業計画データベース135のアバターに対応する作業員の作業における見積り被ばく線量として格納する。
上記の説明ではアバターは1つであるとしたが、複数の作業員による作業の場合には、それぞれのアバター(作業員)について被ばく線量を算出して見積もる。また、作業が複数ある場合には、それぞれの作業について被ばく線量を算出して見積もる。
【0043】
≪作業管理装置の特徴≫
作業管理装置は3次元仮想空間で作業を模擬するアバターに照射される線量を算出して、作業員の被ばく線量を見積もる。線源からアバター表面に照射される線量は、線源からの距離、線源とアバターの間にある遮蔽物、アバターの向きや姿勢を含めて算出される。また、アバターの大きさや形状、動作は作業員の身長や体重などの身体的特徴、作業経験などの技能的特徴、慎重さや性急さなどの心理的特徴を反映している。個々の作業員の特徴まで反映したアバターを用いて線量を算出しているので、作業管理装置は高精度に被ばく線量を見積もることができる。
【0044】
作業管理装置は作業空間内での線量を可視化して表示する(図3図4参照)。これを見ることで作業員は、作業を行う前に作業場所のどこで線量が多いのかをイメージでき、作業時に被ばく線量を下げるような行動を意識するようになる。また、作業管理装置は作業場所までの移動経路のなかで被ばく線量が少ない移動経路を表示する(図4参照)。作業員は表示された経路を通ることで、被ばく線量を最小化することができる。
【0045】
作業管理装置は、線源とアバターとの間にある遮蔽物による被ばく線量の減衰分を含めて算出している。つまりは、材質、幅、高さ、厚みを指定した遮蔽物を作業空間に置くことによる被ばく線量の削減を予測することができるようなる。また作業管理装置は、構造物や遮蔽物による減衰分を含めて線量マップ(図4記載のフロア図430参照)を表示する。
【0046】
≪変形例:作業員の操作によるシミュレーション≫
上記した実施形態では、アバター制御部114がアバターの動作を制御して動作した結果としてのアバターの位置や向き、姿勢に基づいて被ばく線量が算出されている。アバター制御部114に替わって、作業員が入出力部180に接続された操作デバイス(操作部)を用いてアバターを制御(操作)するようにしてもよい。この場合、作業員の操作がそのままアバターの動作に反映されるとは限らず、作業員の身体的特徴に応じて、例えば移動速度や物を移動する速度が制限される。
【0047】
表示制御部117は、入出力部180に接続された操作部から取得されるアバターに対する操作情報や身体的特徴からアバターの位置や姿勢を算出し、アバターの視点から見える作業空間における線量を可視化した画像を生成して、入出力部180に接続されたVRゴーグルに出力してもよい。この画像は図3に示されるような作業空間を見渡せるような画像とは限らず、アバターの視点から例えば防護服付属のVRゴーグルを透して見える狭い視界の画像であってもよいし、身体的特徴である視力に応じた視界であってもよい。
【0048】
なお、線量が所定値以上である場合には作業管理装置は警報を発するようにしてもよい。この線量はアバターの位置における線量(線量率)であってもよいし、作業開始時から累計の被ばく線量であってもよい。このような作業のシミュレーションを行うことで作業員は、事前に作業を疑似体験することができ、実作業をスムーズにできるようになる。
【0049】
≪変形例:作業時のナビゲーション≫
フロア図430図4参照)は、作業管理装置100に接続されたディスプレイに表示されるスタート点432から作業位置433への経路437を示している。作業中の作業員が経路437を確認できるように表示制御部117は、作業員が装着するスマートグラスやヘッドマウントディスプレイのディスプレイに表示するようにしてもよい。表示される経路はフロア図上に表示される経路であってもよいし、作業員の位置や向きから算出される作業員の視野に対応した経路ないしは移動方向であってもよい。
【0050】
経路と合わせて表示制御部117は、作業員の位置における線量(線量率)を表示するようにしてもよい。線量は線量算出部115が算出した線量であってもよいし、作業員が携帯している線量計が測定した線量であってもよい。なお、作業員の位置は例えば、スマートグラスやヘッドマウントディスプレイに備わる加速度センサや角速度センサなどによる計測値から算出される。
【0051】
≪変形例:実作業時の情報取得≫
上記した実施形態において登録部111は、作業管理者が入力する(ステップS15参照)作業手順ごとの作業時間や作業員の被ばく線量を取得している。登録部111は、作業空間に設置されたカメラが取得した作業空間の映像や、通信機能を備え作業員が携帯する線量計から、作業時間や被ばく線量を取得するようにしてもよい。
【0052】
詳しくは、例えば機械学習技術を用いた画像認識技術を用いて作業中の映像を分析して、登録部111は作業員の位置や体の向き、姿勢などから作業手順ごとの作業時間を取得してもよい。また、作業時間の取得と同時に、リアルタイムまたは定期的に線量計から送られてくる線量を積算して作業手順ごとの線量を算出してもよい。作業員の位置は映像からではなく、GNSS(Global Navigation Satellite System)やビーコンなどを用いた測位技術を用いて特定してもよい。
【0053】
≪その他の変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
100 作業管理装置
111 登録部
112 仮想空間生成部
113 線源推測部
114 アバター制御部
115 線量算出部
116 実作業管理部
117 表示制御部
118 移動経路算出部
180 入出力部(操作部)
423,424 アバター(3次元モデル)
430 フロア図(線量マップ)
431 線源
432 スタート点
433 作業位置
435~437 経路(移動経路)
図1
図2
図3
図4
図5