(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185929
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ニッケル-リン合金被覆基板、ニッケル-リン合金膜の無電解めっきのための溶液、及びニッケル-リン合金被覆基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/36 20060101AFI20221208BHJP
G11B 5/82 20060101ALI20221208BHJP
G11B 5/65 20060101ALI20221208BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C23C18/36
G11B5/82
G11B5/65
G11B5/84 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093867
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真利江
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 彩香
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 和正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆広
【テーマコード(参考)】
4K022
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA10
4K022BA14
4K022BA16
4K022DA01
4K022DB02
4K022DB07
5D006CA01
5D006CA04
5D112AA03
5D112BD06
5D112EE01
(57)【要約】
【課題】NiP膜の耐食性を損なうことなく、基板の外周端におけるNiP膜の膜厚分布を小さくすることができる無電解めっきのための溶液、それを用いたNiP被覆基板の製造方法、及びそれにより製造することができるNiP被覆基板を提供する。
【解決手段】NiP膜の無電解めっきのための溶液は、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、錯化剤、及びインジウムイオンを含有し、前記インジウムイオンの濃度が0.18~1.8ppmである。NiP被覆基板の製造方法は、前記溶液によりNiP膜を形成することを含む。NiP被覆基板は、基板と、前記基板上に形成されたNiP膜と、を有し、前記NiP膜はインジウムを70~620ppmの濃度で含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成されたニッケル-リン合金膜と、
を有し、
前記ニッケル-リン合金膜がインジウムを70~620ppmの濃度で含有する、ニッケル-リン合金被覆基板。
【請求項2】
前記ニッケル-リン合金膜が、リンを10~13重量%の濃度で含有する、請求項1に記載のニッケル-リン合金被覆基板。
【請求項3】
前記ニッケル-リン合金膜が、前記インジウムを170~410ppmの濃度で含有する、請求項1又は2に記載のニッケル-リン合金被覆基板。
【請求項4】
前記ニッケル-リン合金膜が、ヨウ素を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載のニッケル-リン合金被覆基板。
【請求項5】
ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、錯化剤、及びインジウムイオンを含有し、
前記インジウムイオンの濃度が0.18~1.8ppmである、ニッケル-リン合金膜の無電解めっきのための溶液。
【請求項6】
前記インジウムイオンを0.3~1.5ppmの濃度で含有する、請求項5に記載の溶液。
【請求項7】
ヨウ素を含まない、請求項5又は6に記載の溶液。
【請求項8】
鉛イオンをさらに含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか一項に記載の溶液を用いた無電解めっきによりニッケル-リン合金膜を形成することを含む、ニッケル-リン合金被覆基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケル-リン合金被覆基板を有する磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル-リン合金被覆基板、ニッケル-リン合金膜の無電解めっきのための溶液、及びニッケル-リン合金被覆基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブに用いられる磁気記録媒体は、一般に、基板上に無電解めっき法によりニッケル-リン合金(NiP)膜を形成し、NiP膜を研磨し、NiP膜上に磁性層を形成することによって製造される。
【0003】
特許文献1において、非磁性基板、ニッケル-リンめっき膜、及び磁性層を有する磁気記録媒体が記載されている。このNiPめっき膜は、錫、マンガン、インジウム、及びアンチモンからなる群から選択された少なくとも一種を0.05~1重量%含む。
【0004】
特許文献2において、ニッケル及びニッケル合金の無電解析出のための水性めっき浴組成物が記載されている。この組成物は、ニッケルイオン源、及び安定化剤を含み、安定化剤は、インジウムイオン及びガリウムイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、単体のヨウ素、ヨウ化物イオン含有化合物、ヨウ素酸イオン含有化合物、及び過ヨウ素酸イオン含有化合物から選択される少なくとも1種を含有する。インジウムイオン及びガリウムイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンの濃度は、0.01~0.5mmol/Lの範囲内である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01-269224号公報
【特許文献2】特許第6667525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板上に無電解めっき法によりNiP膜を形成すると、基板の外周端近傍において、相対的に厚みの大きいNiP膜が形成されることがある。このような膜厚分布を均一化するために、NiP膜の研磨が行われる。しかし、研磨の時間が長いと、NiP膜の品質の低下(例えば欠陥の増加)を引き起こすことがある。そのため、無電解めっきで形成されるNiP膜の膜厚分布を小さくして、研磨時間を短くすることが望まれる。また、NiP膜は高い耐腐食性を有することが求められる。
【0007】
そこで、NiP膜の耐食性を損なうことなく、基板の外周端におけるNiP膜の膜厚分布を小さくすることができる無電解めっきのための溶液、それを用いたNiP被覆基板の製造方法、及びそれにより製造することができるNiP被覆基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に従えば、基板と、前記基板上に形成されたニッケル-リン合金膜と、を有し、前記ニッケル-リン合金膜がインジウムを70~620ppmの濃度で含有する、ニッケル-リン合金被覆基板が提供される。
【0009】
本発明の一態様に従えば、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、錯化剤、及びインジウムイオンを含有し、前記インジウムイオンの濃度が0.18~1.8ppmである、ニッケル-リン合金膜の無電解めっきのための溶液が提供される。
【0010】
本発明の一態様に従えば、上記態様の溶液を用いた無電解めっきによりニッケル-リン合金膜を形成することを含む、ニッケル-リン合金被覆基板の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の一態様に従えば、上記態様のニッケル-リン合金被覆基板を有する磁気記録媒体が提供される。
【0012】
本発明により、NiP膜の耐食性を損なうことなく、基板の外周端におけるNiP膜の膜厚分布を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0014】
(1)NiP膜の無電解めっきのための溶液
実施形態に係る無電解めっきのための溶液は、ニッケルイオン、次亜リン酸イオン、錯化剤、及びインジウムイオンを含有する。
【0015】
溶液中のインジウムイオンの濃度は、0.18~1.8ppm、0.3~1.5ppm、又は0.3~0.8ppmである。それにより、後述する実施例で示すように、高い耐食性を有しつつ、基板の外周端における膜厚分布が小さいNiP膜の形成が可能になる。インジウムイオンの供給源としては、水溶性のインジウム塩、例えば、硝酸インジウム、硫酸インジウム、塩化インジウムを用いることができる。これらのインジウム塩は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
実施形態に係る溶液が含有するその他の成分及びその濃度は、一般にNiP膜の無電解めっきに用いられる溶液と同様であってよい。
【0017】
ニッケルイオンの供給源として水溶性のニッケル塩、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、スルファミン酸ニッケルが用いられる。これらのニッケル塩は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶液中のニッケルイオンの濃度は、例えば、1~30g/Lであってよい。
【0018】
次亜リン酸イオンの供給源として、例えば、次亜リン酸又はその塩、例えば、次亜リン酸ナトリウム若しくは次亜リン酸カリウムを用いることができる。溶液中の次亜リン酸イオンの濃度は、5~80g/Lであってよい。次亜リン酸イオンは、還元剤として働く。
【0019】
錯化剤としては、ジカルボン酸又はそのアルカリ塩、例えば、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、グリコール酸、グルコン酸、シュウ酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、又はこれらのナトリウム塩、カリウム塩、若しくはアンモニウム塩を用いることができる。これらのうち2種以上を併用してよく、そのうちの少なくとも1種はオキシジカルボン酸であってよい。溶液中の錯化剤の濃度は、0.01~2.0mol/Lであってよい。
【0020】
実施形態に係る溶液には、さらに、安定剤、pH調整剤、光沢剤、防黴剤、又は界面活性剤が添加されてよい。安定剤としては、鉛化合物、例えば酢酸鉛(II)を用いることができ、この場合、実施形態に係る溶液は鉛イオンを含む。pH調整剤としては、酸、アルカリ、又は塩を用いることができる。実施形態に係る溶液は、溶媒として水を含んでよい。
【0021】
実施形態に係る溶液は、ヨウ素を含有しなくてよい。ここで、「含有しない」とは、実質的に含有しないことを意味し、具体的には、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)で検出されないことを意味する。また、ヨウ素の化学種は限定されず、例えば、単体のヨウ素、ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン、過ヨウ素酸イオンを含む。したがって、実施形態に係る溶液は、単体のヨウ素、ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン又は過ヨウ素酸イオンのいずれも含有しなくてよい。
【0022】
(2)NiP被覆基板
上記の溶液に基板を浸漬して無電解めっきを行うことにより、NiP被覆基板が得られる。NiP被覆基板は、基板と、その上に形成されたNiP膜とを有する。
【0023】
基板は、円環状の形状を有してよい。また、基板は、非導電性(絶縁性)、導電性、又は半導電性であってよい。非導電性基板としては、ガラス、セラミックス、又はプラスチック製の基板が挙げられる。導電性基板としては、金属又は導電性金属酸化物製の基板が挙げられる。半導電性基材としては、半金属又は化合物半導体製の基板が挙げられる。特に、基板は、アルミニウム、アルミニウム合金、又はガラス製であってよい。
【0024】
NiP膜は、Inを70~620ppm、好ましくは170~410ppm、より好ましくは170~200ppmの濃度で含有する。このようなNiP膜は、後述する実施例で示すように、高い耐食性を有しつつ、基板の外周端における膜厚分布が小さい。また、NiP膜は、リン(P)を10~13重量%の濃度で含有してよい。NiP膜の組成は、NiP膜を硝酸に溶解させ、得られた溶液中の元素をICP-AESにより定量して求めることができる。NiP膜はヨウ素を含有しなくてよい。ここで、「含有しない」とは、実質的に含有しないことを意味し、具体的には、ICP-AESで検出されないことを意味する。また、ヨウ素の化学種は限定されず、例えば、単体のヨウ素、ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン、過ヨウ素酸イオンを含む。したがって、NiP膜は、単体のヨウ素、ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン又は過ヨウ素酸イオンのいずれも含有しなくてよい。
【0025】
NiP膜は、NiP被覆基板の外周端において、十分に小さい膜厚分布を有する。具体的には、NiP被覆基板の外周端からの距離が0~2mmである領域におけるNiP膜の表面の基準面からの高さの最大値が、NiP膜の厚みに対して3%以下、2.9%以下、2.8%以下、2.5%以下、又は2.4%以下であり得、NiP膜の厚みに対して0%以上、0%超、又は1.6%以上であり得る。NiP被覆基板の外周端からの距離が0~2mmである領域におけるNiP膜の表面の基準面からの高さの最大値は、触針式表面形状測定器(例えば、Bruker社製「Dektak 150」)により測定したNiP膜の表面プロファイルに基づいて求められる。基準面は、NiP被覆基板の外周端からNiP被覆基板の中心に向かって2~5mm離れたNiP膜の表面上の第1点と、第1点からNiP被覆基板の中心に向かって1~5mm離れたNiP膜の表面上の第2点とを通る直線を含む面と定義される。
【0026】
さらに、NiP膜は良好な耐食性を有する。具体的には、NiP被覆基板を45℃に加熱した濃度30%の硝酸に150秒間浸漬した場合にNiP膜の表面に形成される穴の面積割合が、0.75%以下であり得る。穴の面積割合は、NiP被覆基板を硝酸に浸漬した後にNiP膜の表面を光学顕微鏡で観察した画像から求められる。
【0027】
NiP被覆基板は、任意の用途に使用することができる。例えば、NiP被覆基板上に磁性層を形成して、磁気記録媒体を製造することができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。上記実施形態を組み合わせてさらなる実施形態を提供することもできる。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
27g/Lの硫酸ニッケル、30g/Lの次亜リン酸ナトリウム、30g/Lの乳酸、30g/Lのリンゴ酸、6g/Lのコハク酸、20.5g/Lの水酸化ナトリウム、及び酢酸鉛(II)を含む水溶液を調製した。さらに、実施例1~8及び比較例2~4では、溶液に硝酸インジウムを加えた。比較例5では溶液に硫酸ビスマス(III)を加えた。比較例6では、溶液に酢酸アンチモン(III)を加えた。比較例7では溶液にモリブデン酸アンモニウム4水和物を加えた。それぞれの添加量は、添加後の溶液がIn、Bi、Sb、又はMoイオンを表1に記載の濃度で含有するように設定した。こうして、各実施例及び比較例のめっき液を得た。
【0031】
円環状のアルミニウム合金板(JIS A-5052、内径25mm、外形95mm)にアルカリエッチング処理及び亜鉛置換処理を行った。アルミニウム合金板を85℃に加熱しためっき液に浸漬した。それにより、アルミニウム合金板上に、表1に示す厚さを有するNiP膜が形成された。こうして各実施例及び比較例の試験体を得た。
【0032】
(1)元素分析
各試験体のNiP膜を硝酸に溶解させ、得られた溶液中の元素をICP-AESにより定量した。Ni、P、Pb及びInの総量を基準とするInの濃度(すなわち、NiP膜中のIn濃度)及びPの濃度(すなわち、NiP膜中のP濃度)を求めた。結果を表1中に示す。
【0033】
(2)表面プロファイル測定
各試験体のNiP膜の表面プロファイルを触針式表面形状測定器(Bruker社製「Dektak 150」)で測定した。得られた表面プロファイルに基づき、試験体の外周端からの距離が0~2mmである領域における、NiP膜の表面の基準面からの高さの最大値(最大高さ)を求めた。同様の測定を7回行い、高さの最大値の平均を求めた。結果を表1中に示す。なお、試験体の外周端から試験体の中心に向かって2~5mm離れたNiP膜の表面上の第1点と、第1点から試験体の中心に向かって1~5mm離れたNiP膜の表面上の第2点とを通る直線を含む面を基準面とした。
【0034】
(3)耐食性評価
各試験体を45℃に加熱した濃度30%の硝酸に150秒間浸漬した。NiP膜の表面の光学顕微鏡像を画像処理して、表面に形成された穴の面積割合を求めた。結果を表1中に示す。
【0035】
(4)研磨
実施例1~8の試験体を研磨した。研磨した試験体の表面プロファイルを測定し、試験体の外周端からの距離が0~2mmである領域における、NiP膜の表面の基準面からの高さの最大値(最大高さ)を求めた。いずれの試験体も、ハードディスクドライブの磁気記録媒体の製造に使用に適した十分に小さい最大高さを有していた。
【0036】
【0037】
表1に示されるように、インジウムを0.18~1.8ppmの濃度で含有するめっき液を用いて形成した、インジウムを79~620ppmの濃度で含有する実施例1~8のNiP膜は、最大高さが小さかった。また、実施例1~8のNiP膜は、腐食穴の面積割合も小さかった。さらに、インジウムを0.36~1.44ppmの濃度で含有するめっき液を用いて形成した、インジウムを176~410ppmの濃度で含有する実施例2~7のNiP膜は、最大高さがさらに小さかった。インジウムを0.36~0.72ppmの濃度で含有するめっき液を用いて形成した、インジウムを176~194ppmの濃度で含有する実施例2~4のNiP膜は、最大高さが特に小さかった。
【0038】
インジウムの濃度が0.18ppm未満、又は1.8ppm超であるめっき液を用いて形成した、インジウムの濃度が70ppm未満、又は620ppm超である比較例1~4のNiP膜は、最大高さが大きかった。比較例3、4のNiP膜は腐食穴の面積割合も大きかった。ビスマスを含有するめっき液を用いた比較例5、及びアンチモンを含有するめっき液を用いた比較例6のNiP膜は、最大高さが大きく、且つ腐食穴の面積割合も大きかった。モリブデンを含有するめっき液を用いた比較例7のNiP膜は、最大高さは小さかったが、腐食穴の面積割合が大きかった。