(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185931
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの製造方法及び蓄電デバイスの製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20221208BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20221208BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20221208BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20221208BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/058
H01G11/86
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093869
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元
(72)【発明者】
【氏名】加藤 覚
(72)【発明者】
【氏名】宮下 広司
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠昭
【テーマコード(参考)】
5E078
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078BA07
5E078BA12
5E078BA14
5E078BA18
5E078BA26
5E078BA27
5E078BA30
5E078BA52
5E078CA06
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5E078DA02
5E078DA06
5E078LA05
5H028AA05
5H028BB02
5H028BB17
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5H028HH00
5H028HH10
5H029AJ14
5H029AK02
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL15
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029BJ16
5H029CJ04
5H029CJ30
5H029HJ00
5H029HJ12
5H029HJ16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】柱状電極と分離膜と対極とを備えた電池構造体の外周側に形成された部材を精度よく除去することができる蓄電デバイスの製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】蓄電デバイス40の製造方法は、電極活物質を含む柱状電極15と、柱状電極15の外周面に形成され絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜16と、分離膜16の外周に形成され対極活物質を含む対極と、を有する電池構造体を用いる蓄電デバイス40の製造方法であって、480nm以上580nm以下の波長のレーザを用い、分離膜16を残存し対極を除去するエネルギー密度範囲でレーザを照射し対極を除去する対極除去処理を実行する照射工程、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を含む柱状電極と、前記柱状電極の外周面に形成され絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜と、前記分離膜の外周に形成され対極活物質を含む対極と、を有する電池構造体を用いる蓄電デバイスの製造方法であって、
480nm以上580nm以下の波長のレーザを用い、前記分離膜を残存し前記対極を除去するエネルギー密度範囲で前記レーザを照射し前記対極を除去する対極除去処理を実行する照射工程、
を含む蓄電デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記照射工程では、0.4J/cm2以上6.0J/cm2以下のエネルギー密度の前記レーザを照射して前記対極を除去する、請求項1に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記照射工程では、前記対極除去処理のあと、前記レーザを用い前記柱状電極を残存し前記分離膜を除去する、前記対極除去処理よりも高いエネルギー密度範囲で前記レーザを照射し前記分離膜を除去する分離膜除去処理を行う、請求項1又は2に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記照射工程では、3.0J/cm2以上のエネルギー密度の前記レーザを照射して前記分離膜を除去する、請求項3に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記照射工程では、前記分離膜と前記対極との境界が段差になるように前記対極を除去し、前記柱状電極と前記分離膜との境界が段差になるように前記分離膜を除去する、請求項3又は4に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記照射工程では、前記対極及び前記分離膜を除去した部位にレーザを照射し前記柱状電極を切断する切断処理を実行する、請求項3~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記照射工程では、515nm以上532nm以下の波長のパルスレーザを照射する、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の蓄電デバイスの製造方法であって、
前記切断した複数の電池構造体を結束する結束工程と、
前記結束した前記電池構造体から露出した前記柱状電極に集電部を接続する接続工程と、
を含む蓄電デバイスの製造方法。
【請求項9】
電極活物質を含む柱状電極と、前記柱状電極の外周面に形成され絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜と、前記分離膜の外周に形成され対極活物質を含む対極と、を有する電池構造体を用いる蓄電デバイスの製造装置であって、
480nm以上580nm以下の波長のレーザを照射する照射部と、
前記分離膜を残存し前記対極を除去するエネルギー密度範囲で前記照射部にレーザを照射させ前記対極を除去する対極除去処理を実行する制御部と、
を備えた蓄電デバイスの製造装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記対極除去処理のあと、前記柱状電極を残存し前記分離膜を除去する、前記対極除去処理よりも高いエネルギー密度範囲で前記レーザを前記照射部に照射させ前記分離膜を除去する分離膜除去処理を実行する、請求項9に記載の蓄電デバイスの製造装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記対極及び前記分離膜を除去した部位にレーザを前記照射部に照射させ前記柱状電極を切断する切断処理を実行する、請求項10に記載の蓄電デバイスの製造装置。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造装置であって、
前記電池構造体を載置して前記照射部のレーザが照射される領域で前記電池構造体を連続的又は断続的に搬送する搬送部、を備えた蓄電デバイスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、蓄電デバイスの製造方法及び蓄電デバイスの製造装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、電極活物質を有する柱状の第1電極(柱状電極)と、第1電極の周囲に形成され絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜と、第1電極の周囲に形成され対極活物質を含む第2電極(対極)とを備えた電極体を備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電極体では、柱状電極の一部が露出しており、柱状電極用の集電体に柱状電極を接続できるようになっている。
【0003】
蓄電デバイスに関する技術ではないが、コイルや電線の絶縁被膜の剥離にレーザを用いることが提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。また、積層フィルムの切断に波長の異なる複数のレーザ光源を用い各層の切断に適した波長のレーザを照射することや(例えば、特許文献4参照)、積層体の層の除去に1つのレーザ光源を用い複数に分岐及び波長変換して各層の除去に適した波長のレーザを照射すること(例えば、特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-152230号公報
【特許文献2】特開2000-23428号公報
【特許文献3】特開平2-155142号公報
【特許文献4】特開2019-98400号公報
【特許文献5】特開2017-69243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の電極体において、柱状電極と対極との絶縁を確保する観点から、柱状電極が対極で覆われた部分と柱状電極が露出した部分との間に柱状電極を覆う分離膜が露出した部分があることが好ましいが、分離膜だけを精度よく露出させるのは困難であった。特許文献2及び特許文献3では、絶縁被膜の除去しか検討されておらず、分離膜を残すことはできなかった。特許文献4では、特定の層を露出させることは検討されていなかった。特許文献5では、波長を使い分けることで特定の層を露出させることができるが、まだ十分ではなかった。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、柱状電極と分離膜と対極とを備えた電池構造体の外周側に形成された部材を精度よく除去することができる蓄電デバイスの製造方法及び蓄電デバイスの製造装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、柱状電極の外周に分離膜、対極が形成された円柱状の電池構造を有する蓄電デバイスにおいて、グリーンレーザを用いると対極のみの除去が可能であり、且つ分離膜のみの除去も可能であることを見出し、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本明細書で開示する蓄電デバイスの製造方法は、
電極活物質を含む柱状電極と、前記柱状電極の外周面に形成され絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜と、前記分離膜の外周に形成され対極活物質を含む対極と、を有する電池構造体を用いる蓄電デバイスの製造方法であって、
480nm以上580nm以下の波長のレーザを用い、前記分離膜を残存し前記対極を除去するエネルギー密度範囲で前記レーザを照射し前記対極を除去する対極除去処理を実行する照射工程、
を含むものである。
【0009】
本明細書で開示する蓄電デバイスの製造装置は、
電極活物質を含む柱状電極と、前記柱状電極の外周面に形成され絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜と、前記分離膜の外周に形成され対極活物質を含む対極と、を有する電池構造体を用いる蓄電デバイスの製造装置であって、
480nm以上580nm以下の波長のレーザを照射する照射部と、
前記分離膜を残存し前記対極を除去するエネルギー密度範囲で前記照射部にレーザを照射させ前記対極を除去する対極除去処理を実行する制御部と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示では、 柱状電極と分離膜と対極とを備えた蓄電デバイスの外周側に形成された部材を精度よく除去することができる蓄電デバイスの製造方法及び蓄電デバイスの製造装置を提供することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、グリーンレーザには、対極の除去に適しかつ分離膜を除去しないエネルギー密度領域があるため、そのエネルギー密度領域内のレーザを照射することで、精度良く対極を除去し分離膜を露出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】蓄電デバイス40及び単セル11の一例を示す説明図。
【
図3】グリーンレーザのエネルギー密度と加工レートとの関係図。
【
図4】被覆を除去する製造装置20の一例を示す説明図。
【
図5】各波長でのエネルギー密度と加工レートとの測定結果。
【
図6】IR又はグリーンレーザで正極合材を除去した写真。
【
図7】照射工程の各処理を行った電池構造体の写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(蓄電デバイスの製造方法)
本明細書で開示する蓄電デバイスの製造方法及び製造装置を図面を用いて説明する。
図1は、蓄電デバイス40及び単セル11の一例を示す説明図である。
図2は、照射工程の一例を示す説明図であり、
図2Aが対極除去処理の図、
図2Bが分離膜除去処理の図、
図2Cが切断処理の図、
図2Dが切断後の単セル11の説明図である。
図3は、グリーンレーザのエネルギー密度と加工レートとの関係図である。
図4は、被覆を除去する製造装置20の一例を示す説明図である。まず、製造物である、単セル11及びそれを用いた蓄電デバイス40について説明する。
【0013】
(蓄電デバイス)
図1は、蓄電デバイス40及び単セル11の一例を示す説明図である。蓄電デバイス40は、例えば、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムやナトリウムのアルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池、空気電池などが挙げられる。このうち、蓄電デバイス40としては、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。ここでは、蓄電デバイス40がリチウムイオン二次電池であるものとして主として説明する。蓄電デバイス40は、
図1に示すように、例えば、柱状電極15と、分離膜16と、対極18と、集電体41,42とを備える。また、柱状電極15と分離膜16と対極18とにより単セル11を構成する。柱状電極15は、電極活物質を含む柱状体である。ここで「柱状」とは、屈曲しない太さのもののほか、屈曲可能な太さのものも含むものとする。柱状電極15は、負極としてもよいし、正極としてもよいが、負極であることが好ましい。対極18は、正極としてもよいし、負極としてもよいが、正極であることが好ましい。集電体41は、導電性を有し、柱状電極15から集電する部材であり、柱状電極15の端面に電気的に接続されている。集電体42は、導電性を有し、対極18から集電する部材であり、対極18の端面に電気的に接続されている。
【0014】
柱状電極15は、電極活物質を含む繊維体13を結束したものとしてもよい。柱状電極15は、柱状であればよく、その断面は円形や楕円形であってもよいし、多角形であってもよい。蓄電デバイス40では、複数の柱状電極15が所定方向に配列されている。この柱状電極15は、長手方向に垂直な断面の平均直径が10μm以上500μm以下の範囲であることが好ましい。また、繊維体13は、その平均直径が5μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。この柱状体の長手方向の長さは、蓄電デバイスの用途などに応じて適宜定めることができ、例えば、20mm以上200mm以下の範囲などとしてもよい。繊維体13は、例えば、金属の繊維体としてもよいし、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料の繊維としてもよい。炭素材料は、導電性が高く、柱状電極15として好ましい。炭素材料としては、例えば、グラファイト類や、コークス類、ガラス状炭素類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類のうち1以上が挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。また、繊維体13は、グラファイト構造を有する炭素繊維としてもよい。また、柱状電極15は、一体成形された成形物としてもよい。このとき、電極活物質は、上述した炭素材料としてもよいし、シリコン材料としてもよいし、遷移金属との複合酸化物としてもよいし、キャリアイオンを挿入脱離可能な金属有機構造体(iMOF)としてもよい。複合酸化物としては、例えばリチウムチタン複合酸化物などが挙げられる。
【0015】
分離膜16は、キャリアイオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有し柱状電極15と対極18とを絶縁し、短絡を防止するものであり、セパレータの機能を有する。この分離膜16としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)や、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などの樹脂が挙げられる。この分離膜16は、その厚さが、例えば、2μm以上40μm以下の範囲であることが、絶縁性を確保する上で好ましい。分離膜16の厚さは、例えば、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、8μm以上であるものとしてもよい。この厚さが2μm以上では、絶縁性を確保する上で好ましい。特に、分離膜15の厚さが2μm以上であれば、作製しやすい。また、分離膜16の厚さは、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、12μm以下であるものとしてもよい。この厚さが20μm以下では、イオン伝導性の低下を抑制できる点や、セルに占める体積をより低減する上で好ましい。また、分離膜16の厚さが2~40μmの範囲では、イオン伝導性及び絶縁性が好適である。
【0016】
また、分離膜16は、例えば、電子絶縁性粉末をバインダで固めた多孔体としてもよい。こうした分離膜16では、多孔体の空隙に電解液を保持することでイオン伝導性を発現する。電子絶縁性粉末としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ベーマイトなどが挙げられる。バインダとしては、PVdF、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリイミドなどが挙げられる。この分離膜16は、例えば、電子絶縁性粉末とバインダ粉末とを含む原料粉末又は原料スラリーから多孔質の自立膜を作製し、柱状電極15の表面をこの自立膜で被覆させることにより形成されてもよいし、電子絶縁性粉末とバインダ粉末とを含む原料スラリーへ柱状電極15を浸漬させてその表面にコートすることにより形成されるものとしてもよい。
【0017】
分離膜16は、キャリアであるイオンを伝導する電解液を含むものとしてもよい。この電解液は、例えば、非水系溶媒などが挙げられる。電解液の溶媒としては、例えば、非水電解液の溶媒などが挙げられる。この溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。この電解液には、蓄電デバイス10のキャリアであるイオンを含む支持塩を溶解したものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。
【0018】
対極18は、対極活物質を有し分離膜16を介して柱状電極15と対向する電極である。対極18は、分離膜16の外周面に形成され、単セル11を結束する構造を有していてもよいし、隣合う分離膜16同士の間を埋めるように設けられていてもよい。対極活物質は、例えば、キャリアであるリチウムを吸蔵放出可能な材料が挙げられる。対極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属とを有する化合物、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoaNibMncO2(a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)、Li(1-x)CoaNibMncO4(0<a<1、0<b<1、1≦c<2、a+b+c=2)などとするリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、基本組成式をLiFePO4とするリン酸鉄リチウム化合物などを正極活物質として用いることができる。これらのうち、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2やLiNi0.4Co0.3Mn0.3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、AlやMgなどの成分を含んでもよい趣旨である。
【0019】
対極18において、対極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、対極18の質量全体に対して70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。導電材の含有量は、対極18の全体の質量に対して0質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、電池容量の低下を抑制し、導電性を十分に付与することができる。また、結着材の含有量は、対極18の質量全体に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましく、0.2質量%以上3質量%以下の範囲であることがより好ましい。対極18の形成厚さは、柱状電極15の直径D及び活物質容量比に応じて適宜設定されるが、例えば、5μm以上50μm以下の範囲としてもよい。対極18の形成厚さは、例えば、単セル11においては、柱状電極15上に形成された部分のうち最大の厚さをいうものとする。また、蓄電デバイス40においては、隣り合う柱状電極15の距離を2で除算した平均値とする。
【0020】
集電体41は、導電性を有し、柱状電極15から集電する部材であり、柱状電極15の端面に電気的に接続されている。集電体41は、本数Nが500本以上である柱状電極15が並列接続されているものとしてもよいし、1千本以上や、1万以上の柱状電極15が並列接続されているものとしてもよい。集電体41は、導電性を有する部材であり、例えば、カーボンペーパ、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、白金、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化(還元)性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀、白金、金などで処理したものも用いることができる。集電体41の形状は、柱状電極15が接続できるものであれば特に限定されず、例えば、板状、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体42は、対極18に電気的に接続されている。この集電体42は、蓄電デバイス40の底面側もしくは側面側に配設されている。集電体42の材質及び形状は、例えば、上述した集電体41で挙げたいずれかの材質及び形状を用いることができる。
【0021】
単セル11は、柱状電極露出部A1と、分離膜露出部A2と、対極被覆部A3とを有する。柱状電極露出部A1は、柱状電極15が露出した部位であり、その軸方向の長さは、例えば、100μm以上10mm以下の範囲としてもよい。この柱状電極露出部A1の長さが長いと集電体41との電気的接続を確保しやすいが、単セル11の容量が小さくなるため、蓄電デバイス40の用途などに応じて適切な長さを選択するものとする。分離膜露出部A2は、分離膜16が露出した部分であり、正負極の短絡を防止する部位である。分離膜露出部A2の軸方向の長さは、例えば、10μm以上10mm以下の範囲としてもよい。この分離膜露出部A2の長さが長いと短絡防止は向上するが、単セル11の容量は低下するため、蓄電デバイス40の用途などに応じて適切な長さを選択するものとする。対極被覆部A3は、対極18が被覆した部分であり、単セル11が充放電する部位である。対極被覆部A3の軸方向の長さは、例えば、柱状電極露出部A1及び分離膜露出部A2の残部とする。この対極被覆部A3は、蓄電デバイス40の用途などに応じて適切な長さに設定される。単セル11において、分離膜露出部A2と対極被覆部A3との境界には段差S1が形成され、柱状電極露出部A1と分離膜露出部A2との境界には段差S2が形成されている。段差S1,S2の高さは、それぞれ対極18の厚さ、分離膜16の厚さと等しいものとしてもよい。
【0022】
この蓄電デバイス40において、体積エネルギー密度は、より高いことがより好ましく、例えば、400Wh/L以上であることが好ましく、500Wh/L以上であることがより好ましく、600Wh/L以上であることが更に好ましい。この蓄電デバイス40において、対極活物質(正極活物質)の容量に対する電極活物質(負極活物質)の容量の比である正負極容量比(負極容量/正極容量)は、1.0以上1.5以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1.2以下の範囲である。
【0023】
(蓄電デバイスの製造方法)
本開示の蓄電デバイスの製造方法は、電極活物質を含む柱状電極15と、柱状電極15の外周面に形成され絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜16と、分離膜16の外周に形成され対極活物質を含む対極18と、を有する電池構造体10を用いて蓄電デバイス40を製造する方法である。ここでは、電池構造体10は、柱状電極15の全体が分離膜16及び対極18で覆われているものとする。この製造方法では、少なくとも、集電体41を接続する柱状電極15の端部において、被覆された対極18や分離膜16を部分的に除去する処理を行う。また、単セル11は、柱状電極露出部A1と対極被覆部A3との間に分離膜露出部A2を設けることにより、柱状電極15と対極18との短絡を防止する。この製造方法では、分離膜16と対極18との境界に段差S1を設けるように対極16を除去する対極除去処理を実行し、柱状電極15と分離膜16との境界に段差S2を設けるように分離膜16を除去する分離膜除去処理を実行する。
【0024】
蓄電デバイス40の製造方法は、照射工程を含み、結束工程と、接続工程とを含むものとしてもよい。照射工程では、
図2に示すように、対極18を除去する対極除去処理を実行するが(
図2A)、その後、同じレーザを用いて、分離膜16を除去する分離膜除去処理や(
図2B)、電池構造体10を切断する切断処理(
図2C)を行うことが好ましい。この照射工程では、480nm以上580nm以下の波長のレーザを用い、分離膜16を残存し対極18を除去するエネルギー密度範囲でレーザを照射し、対極を除去する対極除去処理を実行する。このレーザは、波長範囲がグリーンレーザであることが好ましく、その波長範囲は、515nm以上532nm以下の波長であることが好ましい。この波長範囲のレーザでは、
図3に示すように、上述した分離膜16を除去する加工レートと、対極18の電極合材を除去する加工レートと、レーザのエネルギー密度との関係において、対極18を除去できるが分離膜16を除去できないエネルギー密度である分離膜不加工領域を有する。このエネルギー密度の領域では、より確実に分離膜16を残存させたまま対極18を除去することができる。なお、
図3の加工レートは、レーザの1ショットあたりに除去される厚さ(μm)を示している。対極除去処理では、対極18を除去可能なエネルギー密度であって、対極18を除去する厚さや加工レートに応じたエネルギー密度を適宜採用することができる。対極除去処理では、0.4J/cm
2以上6.0J/cm
2以下のエネルギー密度のレーザを電池構造体10へ照射することが好ましく、4.0J/cm
2以下がより好ましく、3.0J/cm
2以下が更に好ましい。エネルギー密度が3.0J/cm
2以下では、より確実に分離膜16を残存させることができる。また、対極除去処理では、0.8J/cm
2以上のエネルギー密度のレーザを電池構造体10へ照射することが好ましく、1.0J/cm
2以上がより好ましく、1.5J/cm
2以上が更に好ましい。エネルギー密度が0.4J/cm
2以上では、より確実に対極18を除去することができる。
【0025】
また、照射するレーザは、パルスレーザであることが好ましい。パルスレーザの条件は、例えば、パルス時間幅は、0.1ns以上10ns以下の範囲が好ましく、0.5ns以上5ns以下の範囲がより好ましい。また、平均パワーは、100mW以上100W以下の範囲が好ましく、1W以上50W以下が好ましい。繰り返し周波数は、10Hz以上10MHz以下の範囲が好ましく、0.5MHz以上5MHz以下の範囲がより好ましい。集光ビーム径は、例えば、5μm以上50μm以下の範囲とすることができる。また、対極除去処理では、電池構造体10に対してレーザを所定のずらし幅で複数回照射する。また、レーザ照射は、同じ領域を複数回走査してもよい。
【0026】
この照射工程では、対極除去処理のあと、レーザを用い柱状電極15を残存し分離膜16を除去するエネルギー密度範囲でレーザを照射し、分離膜16を除去する分離膜除去処理を行うことが好ましい。この分離膜除去処理では、対極除去処理よりも高いエネルギー密度でレーザを照射する。分離膜除去処理では、分離膜16を除去可能なエネルギー密度であって、分離膜16を除去する厚さや加工レートに応じたエネルギー密度を適宜採用することができる。分離膜除去処理では、例えば、3.0J/cm2以上のエネルギー密度のレーザを照射して分離膜16を除去することが好ましく、5.0J/cm2以上がより好ましく、6.0J/cm2以上であるものとしてもよい。エネルギー密度が3.0J/cm2以上では、より確実に分離膜16を除去することができる。また、分離膜除去処理では、柱状電極15の除去をできるだけ抑制するエネルギー密度を採用することが好ましく、例えば、20J/cm2以下が好ましく、10J/cm2以下がより好ましく、8J/cm2以下としてもよい。
【0027】
また、この照射工程では、対極18及び分離膜16を除去した部位にレーザを照射し、柱状電極15を切断する切断処理を実行するものとしてもよい。この工程では、上述した、対極除去処理、分離膜除去処理、及び切断処理を同一の照射部から照射するレーザ(グリーンレーザ)を用いて行うことができる。このため、同一の構成を用いて、
図1に示す段差構造を有する単セル11を作製することができる。切断処理では、例えば、対極除去処理や分離膜除去処理よりも高いエネルギー密度でレーザを照射するものとしてもよい。切断処理では、柱状電極15の径や加工レートに応じて柱状電極15を切断するエネルギー密度を適宜採用することができる。切断処理では、例えば、6.0J/cm
2以上のエネルギー密度のレーザを照射して柱状電極15を切断することが好ましく、10J/cm
2以上がより好ましく、20J/cm
2以上であるものとしてもよい。また、切断処理では、例えば、200J/cm
2以下が好ましく、100J/cm
2以下がより好ましく、50J/cm
2以下としてもよい。
【0028】
結束工程では、上記照射工程で切断した複数の電池構造体(単セル11)を結束する処理を行う。結束処理では、複数の単セル11を配列して得られた積層体をプレス成形してもよい。また、接続工程では、結束した電池構造体から露出した柱状電極15に集電体41を接続する処理を行う。集電体41の接続は、例えば、導電性結着剤で結着してもよいし、金属箔などの集電体集電体41を圧着してもよい。このような工程を経て、複数の単セル11が結束された蓄電デバイス40を作製することができる。
【0029】
(蓄電デバイスの製造装置)
次に、上述した蓄電デバイスの製造方法を実行する製造装置20について説明する。この製造装置20は、電極活物質を含む柱状電極15と、柱状電極15の外周面に形成され絶縁性及びイオン伝導性を有する分離膜16と、分離膜16の外周に形成され対極活物質を含む対極18と、を有する電池構造体10を用いる。この蓄電デバイスの製造装置20は、
図4に示すように、照射部21と、制御部25と、観察部28と、搬送部29とを備える。なお、製造装置20において、上述した製造方法で説明した条件を適宜採用するものとして、その説明を一部省略する。
【0030】
照射部21は、レーザ光を発生する光源22と、レーザ光を加工対象としての電池構造体10に照射する際に所定方向へ走査する走査部24とを備える。この照射部21は、480nm以上580nm以下の波長のレーザを照射する。照射部21が照射するレーザは、波長範囲がグリーンレーザであることが好ましく、その波長範囲は、515nm以上532nm以下の波長であることが好ましい。また、照射部21が出力可能なエネルギー密度の範囲は、例えば、0.4J/cm2以上200J/cm2以下とすることができる。この光源22は、波長可変のものとしてもよいが、単一波長のものが好ましい。光源22は、パルスレーザを照射するものが好ましく、パルス幅可変のものがより好ましい。レーザ光源52はピコ秒レーザ及び/又はナノ秒レーザとしてもよい。走査部24は、レーザの照射位置を移動して調整する機構であり、例えば、電池構造体10の長軸方向に直交する方向と長軸方向に沿う方向に照射位置を移動可能に構成されている。この走査部24は、より高い精度でレーザ光の照射位置を移動可能であることが好ましいが、例えば、レーザ走査位置を1μm以上50μm以下の範囲の精度で制御可能であることが好ましく、5μm以上20μm以下の範囲の精度で制御可能であることがより好ましい。なお、搬送部29は、長軸方向に直交する方向に電池構造体10を移動するため、この直交方向への電池構造体10の移動は搬送部29が担うものとし、走査部24から省略してもよい。走査部24により、電池構造体10へのレーザ光の照射位置を変更することができる。
【0031】
制御部25は、CPU26を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、装置全体を制御する。また、制御部25には、HDDやフラッシュメモリなど、大容量の記憶装置として構成された記憶部27を備える。制御部25は、照射部21や搬送部29へ制御信号を出力し、観察部28から信号を入力することによって情報を取得する。この制御部25は、電池構造体10の分離膜16を残存し、対極18を除去するエネルギー密度範囲で照射部21にレーザを照射させ、対極18を除去する対極除去処理を実行する。また、制御部25は、対極除去処理のあと、柱状電極15を残存し分離膜16を除去するエネルギー密度範囲で照射部21にレーザを照射させ分離膜16を除去する分離膜除去処理を実行する。更に、制御部25は、対極18及び分離膜16を除去した部位にレーザを照射部21に照射させ、柱状電極15を切断する切断処理を実行する。各処理の実行条件は、上記製造方法で説明した条件を適宜採用することができる。この制御部25は、照射対象物である電池構造体10の軸方向に直交する方向において、複数位置で往復動させるよう走査部24を制御する。このとき、制御部25は、往動時のみレーザ光を照射してもよいし(
図2A参照)、往復動時にレーザ光を照射してもよい。また、制御部25は入熱量を考慮して設定されたずらし幅を用いて、レーザの往復動を照射部21に実行させるものとしてもよい。
【0032】
観察部28は、搬送部29上に存在する電池構造体10の位置を把握するものであり、例えば、カメラなどが挙げられる。観察部28は、搬送部29上の電池構造体10を撮像し、撮像した画像の信号を制御部25へ送信する。
【0033】
搬送部29は、電池構造体10を載置して照射部21のレーザが照射される領域で電池構造体10を連続的又は断続的に搬送する装置である。この搬送部29は、コンベアベルトの上に電池構造体10を載置して搬送するコンベアとしてもよい。また、この搬送部29は、レーザ照射される中央領域は空間とし、電池構造体10の両端部のみを支持して電池構造体10を搬送する構成としてもよい。この搬送部29によれば、照射部21がレーザ照射する際に、搬送部29の搬送部材(コンベアベルト)の劣化をより抑制することができ好ましい。また、搬送部29は、電池構造体10の端部をはさみ、電池構造体10自体を軸回転させる回転部を更に備えることが好ましい。この回転部を用いれば、電池構造体10を軸回転させ、その表側、裏側にレーザ光を照射可能であり、上述した照射工程をより効率よく実行することができる。
【0034】
以上説明した本実施形態の蓄電デバイスの製造方法及び製造装置20では、柱状電極15と分離膜16と対極18とを備えた電池構造体10の外周側に形成された部材を精度よく除去することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、蓄電デバイス40に用いられる柱状電極15を有する電池構造体10は、多層構造(正極材層/分離膜/負極材層)を有する。集電体41を電気的に接続する集電用の端部を作製する際に、機械加工などを行うと、正極材や負極材の変形が生じ、短絡などの製品不良の原因となる。本実施形態の製造方法では、レーザを用いることで、機械切断では不可能な清浄な加工を実現し、集電用の端部の短絡を抑制することができる。さらに、集電部作製時の短絡の抑制につながる端部の段差状構造を実現できる。特に、グリーンレーザには、対極18の除去に適しかつ分離膜16を除去しないエネルギー密度領域があるため、そのエネルギー密度領域内のレーザを照射することで、精度良く対極18を除去し、分離膜16に与えるダメージを低減しつつ、分離膜16を露出させることができる。また、グリーンレーザのエネルギー密度を変更すれば、分離膜16を更に除去し、柱状電極15を切断することが可能であり、1つの照射部21で各層の除去、切断を実行でき、作業効率や装置構成の簡素化を図ることができる。また、本実施形態の製造方法では、単セル11の段差構造の形成、ならびに切断を一工程にまとめることができる。
【0035】
また、レーザ加工を用いることで、高速な加工を実現するとともに、段差状構造の加工精度をビーム径レベル(数十ミクロン)にすることが可能である。更に、ビームを数十ミクロン単位で制御できる装置構成を用いることで、ビームの重複量を制御し、加工の際の入熱量を均一化するとともに、精度のよい加工を実現することができる。更にまた、対極18や分離膜16を除去する他の手法として、溶液を用いた洗浄方法が挙げられるが、切断は別工程となるため、工程数が増加する。一方で、本開示の製造方法では、レーザ加工にて各層の除去、切断を1工程で行えるため、工程数を低減できるとともに、溶液処理などの環境負荷をより低減することができる。
【0036】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、蓄電デバイス40は、柱状電極露出部A1、分離膜露出部A2及び対極被覆部A3を有した複数の単セル11を結束したものとして説明したが、特にこれに限定されず、単セル11自体を蓄電デバイスとしてもよい。単セル11の単体でも充放電可能である。
【0038】
上述した実施形態では、1つの照射部21を用いて照射工程を実行するものとして説明したが、照射部21を複数備え、対極除去処理、分離膜除去処理、切断処理の各処理のうち、1以上を別の照射部21を用いて実行するものとしてもよい。こうすれば、装置構成は増加するが、各処理を同時に実行することができる。なお、複数の照射部21を用いる場合、分離膜除去処理及び切断処理は、グリーンレーザ以外の波長の照射部21を用いるものとしてもよい。
【0039】
上述した実施形態では、本開示を蓄電デバイス40の製造方法及び製造装置20として説明したが、本開示は、いずれか一方であるものとしてもよい。
【実施例0040】
以下には、本開示の蓄電デバイスの製造方法及び製造装置を具体的に検討した例を実験例として説明する。
【0041】
(製造装置)
図4に示した製造装置20を作製した。また、製造装置20において、グリーンレーザのほか、ブルーレーザや赤外線(IR)レーザなどを照射可能な照射部を準備した。
【0042】
(電池構造体10)
図1に示した柱状電極(ファイバー電極)を作製した。直径dが7μmの炭素繊維(日本グラファイトファイバー社製)を400本、5質量%のポリフッ化ビニリデン(PVdF)をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解した溶液を繊維長1mあたり0.025mL塗布しながら繊維長1cmあたり0.5回転の撚糸をかけて結束した。炭素繊維結束体は、直径Dが156.5μmであった。この炭素繊維結束体を柱状電極(柱状負極)とした。次に、上記柱状電極の外周面に、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)をNMPに溶解させ、アルミナ粒子を添加した溶液を塗布、乾燥することにより、20μmの膜厚で分離膜を形成した。そして、正極活物質(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)と、導電材としてのアセチレンブラック(デンカ社製HS-100)と、導電材としての気相成長炭素繊維(昭和電工製VGCF)と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ製PVdF7305)とを質量比で90:4:2:4となるよう配合したものにNMPを加えて対極合材ペーストとした。上記の分離膜被覆柱状電極に対して対極合材ペーストをディップコートして、対極合材の厚さが30μmとなるように対極合材層を形成した。作製した柱状電極/分離膜/対極合材層の単セルを作製し、これを下記の照射工程に用いた。
【0043】
(蓄電デバイスの作製:照射工程)
上記作製した製造装置20を用い、種々のレーザ光を用い、エネルギー密度(J/cm2)を変化させて対極や分離膜の加工レート(μm/Shot)を計測した。加工レートは、レーザ光の1ショット当たりの部材の除去厚さ(μm)として評価した。
【0044】
(結果と考察)
図5は、各波長でのエネルギー密度(J/cm
2)と加工レート(J/cm
2)との測定結果であり、
図5Aがλ=355nmのブルーレーザを用いた結果であり、
図5Bがλ=516nmのグリーンレーザを用いた結果であり、
図5Cがλ=1064nmのIRレーザを用いた結果である。また、レーザ波長 (nm)、加工対象、エネルギー密度(J/cm
2)及び加工レート(μm/shot)を表1にまとめた。
図5Aに示すように、ブルーのレーザ光源では、対極合材と分離膜の加工レートの差が小さかった。また、分離膜の加工レートが対極合材の加工レートを上回る領域が存在するため、対極合材を除去する際に分離膜へのダメージが多くなることが予想された。
図5Bに示すように、グリーンのレーザ光源では、対極合材の加工レートと分離膜の加工レートの差が大きいことがわかった。また、ある領域において分離膜の加工レートが0となる領域が存在し、一方で対極合材の加工レートは1μm/shotを示し、分離膜へのダメージがほとんどなく、対極合材を加工することができることが示唆された。
図5CのIR(赤外)のレーザ光源では、分離膜の加工レートが0となる領域は存在せず、対極合材の除去の際に絶縁層へのダメージは大きくなることが予想された。本技術では、
図5Bのグリーンのレーザ光源の特徴を生かし、レーザ加工装置に組み込むことで、ファイバー電池の段差状構造の形成を可能とすることができることが明らかとなった。
【0045】
図6は、IR又はグリーンレーザで正極合材を除去した写真であり、
図6AがIRレーザ光による対極除去処理後の写真であり、
図6Bがグリーンレーザ光による1回走査後の対極除去処理後の写真であり、
図6Cがグリーンレーザ光による2回走査後の対極除去処理後の写真である。
図6Aでは、IRレーザ光のエネルギー密度を134J/cm
2に設定して加工した。
図6Aに示すように、IRレーザ光では、対極合材が完全に剥離し、分離膜が現れている領域と対極合材が残存している領域が存在している。また、分離膜の一部は、剥がれている領域が観察され、各層の安定的な剥離はできなかった。
図6B,Cでは、グリーンレーザ光のエネルギー密度を2.6J/cm
2に設定して加工した。
図6B,Cでは、レーザ光のエネルギー密度が小さいため、走査回数を20回行った。
図6Bに示すように、グリーンレーザ光を用いると、対極合材が剥離し、分離膜の表面が現れることが分かった。さらに、同一条件のレーザを再照射すると、残存した対極合材層を更に除去することが可能であり、
図5Bに示した対極合材の除去に適したエネルギー密度にて加工することで、分離膜にダメージを与えずに対極合材を剥離できることがわかった。
【0046】
このように、グリーンレーザを用いて各層を分離して剥離することができることがわかったため、本開示の照射工程について具体的に検討した。
図7は照射工程の各処理を行った電池構造体の写真であり、
図7Aが処理前の電池構造体の写真、
図7Bが対極除去処理後、
図7Cが分離膜除去処理後、
図7Dが切断処理後の電池構造体の写真である。照射工程では、
図2に示すように、所望する加工領域を得るために、電池構造体に対してレーザを複数回照射した。この際、レーザのずらし幅は、入熱量が一定となる様に制御した。
図7に示すように、対極合材を剥離し(
図7B)、その後分離膜を剥離し(
図7C)、レーザを用いて露出した柱状電極の中央部を切断した(
図7D)。この手順にて加工することで、他の層を同時に加工することを防ぎ、対極合材と柱状電極との短絡を抑制することが可能となる。また、レーザ切断後には、両端にて段差構造が形成できるので効率のよい加工手順となった。
図8は、単セルのレーザ切断面の写真である。
図8は、
図7Dのレーザ切断部を観察方向を変えて観察したレーザ切断面を示した。
図8に示すように、対極合材、分離膜は柱状電極の全周に渡り剥離され、ファイバー電極の集電に必要な段差構造を形成できることがわかった。
【0047】
【0048】
なお、本明細書で開示した蓄電デバイスの製造方法及び蓄電デバイスの製造装置は、上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 電池構造体、11 単セル、13 繊維体、15 柱状電極、16 分離膜、18 対極、20 製造装置、21 照射部、22 光源、24 走査部、25 制御部、26 CPU、27 記憶部、28 観察部、29 搬送部、40 蓄電デバイス、41 集電体、42 集電体、A1 柱状電極露出部、A2 分離膜露出部、A3 対極被覆部、S1,S2 段差。