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  • 特開-有機性廃水処理システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185956
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】有機性廃水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20221208BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20221208BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20221208BHJP
   C02F 1/74 20060101ALI20221208BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20221208BHJP
   C12P 5/02 20060101ALN20221208BHJP
   C12M 1/107 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
C02F3/28 A
C02F1/44 F
B01D61/02 500
C02F1/74 101
C02F3/12 V
C12P5/02
C12M1/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093905
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈良 知幸
(72)【発明者】
【氏名】川尻 聡
(72)【発明者】
【氏名】瓜谷 真幸
(72)【発明者】
【氏名】間藏 毅行
【テーマコード(参考)】
4B064
4D006
4D028
4D040
4D050
【Fターム(参考)】
4B064AB03
4B064CD08
4B064CD23
4B064DA16
4D006GA03
4D006KA72
4D006KB22
4D006KB24
4D006KB30
4D006PA01
4D006PB08
4D028AB03
4D028BB02
4D040AA04
4D040AA12
4D040AA31
4D050AA12
4D050AB26
4D050BC01
4D050BC02
4D050BC05
4D050CA09
4D050CA17
(57)【要約】
【課題】消費エネルギー及び所望されない副産物の生成が少なく、食品由来の糖を含む有機性廃水の処理に好適な廃水処理システムを提供する。
【解決手段】食品由来の糖を含む廃水中の糖類を濃縮する有機性廃水濃縮部と、濃縮された廃水に含まれる糖類を水熱処理してフルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラールから選ばれる少なくとも1種に変換する水熱処理部と、水熱処理を経て得られたフルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラールから選ばれる少なくとも1種を回収する回収部と、回収部でフルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラールから選ばれる少なくとも1種が回収された廃水中に残存する有機物をメタン発酵により分解してバイオガスに変換し、バイオガスを回収するメタン発酵部と、を有する廃水処理システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品由来の糖を含む廃水中の糖類を濃縮する有機性廃水濃縮部と、
前記濃縮された廃水に含まれる糖類を水熱処理してフルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラールから選ばれる少なくとも1種に変換する水熱処理部と、
前記水熱処理を経て得られたフルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラールから選ばれる少なくとも1種を回収する回収部と、
前記回収部でフルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラールから選ばれる少なくとも1種が回収された廃水中に残存する有機物をメタン発酵により分解してバイオガスに変換し、バイオガスを回収するメタン発酵部と、
を有する廃水処理システム。
【請求項2】
前記有機性廃水濃縮部は、逆浸透膜を備える請求項1に記載の廃水処理システム。
【請求項3】
前記有機性廃水濃縮部にて分離された廃水及び前記メタン発酵部において分離された廃水の少なくともいずれかを好気性処理する好気性処理部をさらに有する請求項1又は請求項2に記載の廃水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機性廃水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場、廃棄食品処理施設等から排出される糖類を含む食品由来の有機性廃水は、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand:BOD値)が高く、水質汚染防止の観点から、環境への排出前に有機物を除去する処理が必要である。
なかでも、食品由来の糖類を含む有機性廃水は、大量に発生し、且つ、有機性成分の含有量が低濃度であるため、一般の有機性廃水に比較して、例えば、嫌気性処理に係るメタン発酵の導入等は限定的となるという問題がある。例えば、麺類を製造する食品工場である製麺工場から排出される有機性廃水に含まれる糖類の濃度は、5質量%程度である。
【0003】
近年、有機性廃水の処理において、処理の効率化の観点から、消費エネルギー、残存廃棄物量及びコストの低減が求められている。
有機性廃水の処理方法としては、曝気処理、即ち、加圧浮上法により有機物の一部を固形物として分離し、汚泥として除去し、残余の廃水を好気性処理して、COに変換して下水放流する方法が挙げられる。曝気処理では、処理過程において、曝気のためにエネルギーを多く消費するという問題があり、さらに、スカム、汚泥等の固形物の副産物が発生し、これらは廃棄物として別途処理する必要がある。
有機性廃水の他の処理方法としては、上向流嫌気性スラッジブランケット反応器(upflow anaerobic sludge blanket digestion:UASB反応器)等を用いたメタン生成菌を利用した嫌気性処理を行う方法が挙げられる。
嫌気性処理は、消費エネルギーが好気性処理に比較してより少ないが、処理コスト低減を目的とした有価物の回収という観点からは、有価物として回収されるメタンガスが安価なために、コスト的にはなお改良の余地がある。
【0004】
有機性廃水の有効利用の観点から、バイオマス中の有機物から有価物を取り出して、廃水処理コストを下げる方法が試みられている。リグノセルロース系バイオマス中のヘミセルロースからリン酸水溶液の存在下、加圧熱水処理することでフルフラールを取り出す技術が提案されている(特許文献1参照)。
パルプ製造工程において生じる前加水分解液をエタノール発酵させてエタノールを取り出し、残余の処理液を酸処理して脱水反応させ、フルフラールを製造し、さらに残余の処理液をメタン発酵させてメタン及びメタン発酵排液を得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
また、原料糖に着目した技術として、ヘキソースを構成糖として含む糖質又はその誘導体を、活性炭を触媒として脱水反応させる、工業規模の生産に適する5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールの製造方法が提案されている。活性炭を触媒として用いることにより得られた5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールの回収も容易に行えることが開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-214086号公報
【特許文献2】特開2014-166172号公報
【特許文献3】特開2018-2701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の技術は、いずれも、廃液から有価物を回収するとの課題を有するが、セルロース系バイオマスの有効利用を目的とした廃液処理に係る技術であり、食品由来の有機性廃水の如き、大量発生し、低濃度な有機性廃水の処理に適用するといった着目はない。
特許文献3は、限定された原料糖から工業的に5-ヒドロキシメチル-2-フルフラールを高効率で製造する技術に関するものであり、種々の有機物が混在する有機性廃水処理への応用には適さない。
【0007】
大量に発生し、低濃度の有機性成分を含む食品由来の有機性廃水に対しても、所望されない副産物の発生を抑え、低エネルギーにて効率よく有価物を回収し、廃水中の有機性成分を低減させることで、廃水処理コストを低減させ、環境負荷を抑える廃水処理システムの構築が望まれている。
【0008】
本発明の一実施形態の課題は、消費エネルギー及び所望されない副産物の生成が少なく、食品由来の糖を含む有機性廃水の処理に好適な廃水処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は以下の実施形態を含む。
<1> 食品由来の糖を含む廃水中の糖類を濃縮する有機性廃水濃縮部と、前記濃縮された廃水に含まれる糖類を水熱処理してフルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラール(以下、5-HMFとも称する)から選ばれる少なくとも1種に変換する水熱処理部と、前記水熱処理を経た廃水から変換されたフルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラールから選ばれる少なくとも1種を回収する回収部と、前記水熱処理を経た廃水中に残存する有機物をメタン発酵により分解してメタンガスを含むバイオガスに変換し、バイオガスを回収するメタン発酵部と、を有する廃水処理システム。
【0010】
本開示の第1の実施形態によれば、まず、有機性廃水濃縮部により、糖類が濃縮され、廃水中の水分が減少するため、引き続き行われる水熱処理部における消費エネルギーが低減され、副産物の生成が抑制され、有価物であるフルフラール、バイオガス等が効率よく得られる。
さらに、回収部にてフルフラール等の有機物が予め回収された残存廃液は、有機物の含有量が減少しているために、回収部の下流にて行われるメタン発酵部における発酵槽の容積負荷が向上し、発酵槽を小型化することができる。
また、メタン発酵により処理された残余の廃水、及び有機性廃水濃縮部において分離された廃水は、有機物の含有量が少ない。従って、メタン発酵部の下流側に、所望により設けられる好気性処理部等の廃水処理設備の負荷をより低減することができる。
【0011】
<2> 前記有機性廃水濃縮部は、逆浸透膜(reverse osmosis membrane、以下、RO膜とも称する)を備える<1>に記載の廃水処理システム。
【0012】
本開示の第2の実施形態によれば、本開示の第1の実施形態において、有機性廃水濃縮部にて、有機物と水分の分離に膜技術を適用することで、より低い消費エネルギーで、効率よく有機物の濃縮を行うことができる。また、RO膜により分離された廃液は、有機性成分を殆ど含まないため、そのまま処理水として放流することもできる。
【0013】
<3> 前記有機性廃水濃縮部にて分離された廃水及び前記メタン発酵部において分離された廃水の少なくともいずれかを好気性処理する好気性処理部をさらに有する<1>又は<2>に記載の廃水処理システム。
【0014】
本開示の第3の実施形態によれば、本開示の第1の実施形態又は第2の実施形態において、さらに好気性処理部を設けることで、有機性廃水濃縮部にて分離された廃水及びメタン発酵部において分離された廃水の少なくともいずれかを、さらに好気性処理することにより、環境負荷がより少ない下水放流が可能となる。
第3の実施形態において好気性処理部に供給される廃水は、予め有機性廃水濃縮部又はメタン発酵部において有機性成分の含有量が低減されているため、一般に行われる好気性処理に比較して、好気性処理部における消費エネルギーはより低減される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、消費エネルギー及び所望されない副産物の生成が少なく、食品由来の糖を含む有機性廃水の処理に好適な廃水処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態に係る廃水処理システムを示すシステム構成図である。
図2】本開示の別の実施形態に係る廃水処理システムを示すシステム構成図である。
図3】好気性処理を適用した従来の廃水処理システムの一実施形態を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の廃水処理システムについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されない。
なお、本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示では、5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラールを「5-HMF」と称することがある。また、フルフラール及び5-HMFからなる群より選ばれる少なくとも1種を「フルフラール類」と総称することがある。
本開示において、「室温」とは、特に断らない限り、25℃を指す。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。
図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0018】
以下、図面を参照しながら、本開示の一実施形態に係る廃水処理システムについて説明する。
【0019】
(廃水処理システム:第1実施形態)
図1には、本開示の第1実施形態に係る廃水処理システム10のシステム構成図が示されている。
【0020】
廃水処理システム10は、食品由来の有機性成分を含む廃水の有機性成分を濃縮する有機性廃水濃縮部12、濃縮された廃水を水熱処理する水熱処理部14、水熱処理部14にて有機性成分から変換されたフルフラール類を回収する回収部16、フルフラール類が回収された廃水をメタン発酵処理するメタン発酵部18、及び図示されないポンプ等を含む搬送設備30A~30Gを有して構成されている。
【0021】
搬送設備30A~30Gは、必要に応じて廃水の搬送に有用なポンプ(図示せず)を備えた配管を有して構成されている。
【0022】
図1に示すように、食品由来の糖を含む有機性成分を含む廃水(図1に「有機性廃水」と記載)は、有機性廃水濃縮部12へ搬送され、有機性廃水濃縮部12において、有機性成分が濃縮された濃縮液と、水を多く含む分離廃水とに分離される。
有機性廃水濃縮部12で濃縮された濃縮液は、搬送設備である配管30Aを通って水熱処理部14へ搬送される。
濃縮により分離された水を多く含む分離廃水は、配管30Bを通って下水に放流されるか、又は、必要に応じて好気性処理部(図示せず)へと搬送される。
【0023】
-有機性廃水濃縮部-
本開示の廃水処理システム10における有機性廃水濃縮部12では、食品由来の糖を含む有機性廃水を濃縮する。
食品工場等から排出される糖を含む有機性廃水は、食品の製造工程、食品の洗浄工程等により大量に排出され、例えば、固形分を含む食品廃棄物由来の廃液に比較して有機性成分の濃度が低く、且つ、液状成分の含有量が多い。
食品由来の糖を含む有機性廃水は、糖類以外の有機成分、例えば、タンパク質、脂質等を含んでおり、食品工場等から排出される有機性廃水における糖類の種類、糖類以外の有機性成分の種類及び含有量は様々である。
食品由来の糖を含む有機性廃水に、糖類に加え、タンパク質が含まれる場合、タンパク質は後述の水熱処理部で分解され、メタン発酵部でメタンに転換されるため、特に分離の必要はなく、本開示の廃水処理システムで処理することができる。一方、脂質は水熱処理部において分解され難いため、脂質を多く含む有機性廃水は、本開示の廃水処理システムに適用する前段にて脂質の分離除去を検討することが好ましい。
【0024】
食品由来の有機性廃水に含まれる糖類をフルフラール類に変換する場合、有機性廃水を加熱する処理が必要である。ここで、溶媒を多く含む廃水を昇温するためには多くのエネルギーを必要とする。
本開示の廃水処理システムにおいては、有機性廃水濃縮部を設けて糖類を含む有機性廃水を濃縮することで、有機性廃水は、有機性成分、なかでも糖類の濃度がより高い濃縮液を得ることができる。また、濃縮液と分離された、主として水である溶媒を多く含む分離廃水は、糖類等の有機性成分の残存が極めて少ない分離廃水となる。
有機性廃水濃縮部において糖類の濃度を高め、水等の溶媒量を減少させた濃縮液を得ることにより、濃縮液からフルフラール類の如き有価成分を得る水熱処理において、加熱に必要な消費エネルギーをより低くすることができる。
【0025】
有機性廃水濃縮部における有機性廃水の濃縮率には特に制限はなく、有機性廃水濃縮部に導入される有機性廃水に比較して、溶媒が減少していれば効果を奏する。
なかでも、水熱処理部における処理の効率化の観点からは、得られた濃縮液における糖類の含有量が濃度1質量%~20質量%となる範囲で濃縮することが好ましく、3質量%~10質量%となる範囲で濃縮することがより好ましい。
【0026】
有機性廃水濃縮部における濃縮方法には特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。
濃縮方法としては、有機性廃水を膜、例えば、逆浸透膜(RO膜)を用いて濾過して濃縮する方法、有機性廃水を高温で加熱し、水分を蒸発させて濃縮する煮沸濃縮方法、低温下で、有機性廃水を減圧して水分を蒸発させる真空濃縮方法、有機性廃水に含まれる水分を凍結させ、氷の結晶を分離して取り出す凍結濃縮、及びこれらを任意に組み合わせる濃縮方法等が挙げられる。
【0027】
なかでも、消費エネルギーが低く、効率的な濃縮が達成でき、分離された廃水がクリーンであるとの観点から、RO膜による濃縮方法が好ましい。RO膜は、一般に開孔部が2nm以下の膜であり、連続的に糖類を多く含む濃縮液を得るためには、糖類の浸透圧を超える圧力を付与する必要がある。
なお、本開示において「RO膜」は、一般的な逆浸透膜(RO膜)のみならず、開孔部の大きさがRO膜よりも比較的大きいナノフィルター(nanofiltration membrane:NF膜)、例えば、開孔部の直径が1nm~2nmであって、イオン等の分離効率がRO膜よりも低い70%以下である如きNF膜を包含する意味で用いられる。
RO膜による濃縮液と分離廃水との分離は、公知の方法で行うことができる。RO膜の透過水量は温度依存性があるため、分離に必要な浸透圧以上の加圧条件は、有機性廃水の温度、有機性廃水に含まれる糖類の種類等を考慮して適宜調整すればよい。
【0028】
-水熱処理部-
有機性廃水濃縮部12にて得られた濃縮液は、搬送設備である配管30Aを通って水熱処理部14へ搬送される。
水熱処理部では、密閉系中で濃縮液を高温高圧処理して、有機性廃水中の糖類をフルフラール類に変換することができる。
水熱処理によれば、系中が高温高圧となるため、水が亜臨界状態で液状を維持し、高い加水分解能を有すると考えられる。
水熱処理部で処理される濃縮液は、糖類と、溶媒としての水とを含めば特に制限はない。
水熱処理部には、オートクレーブ、チューブラー反応器、フローリアクター等の装置を適用することができる。
濃縮液を水熱処理部の反応装置内に投入し、以下に示す温度及び圧力にて、水熱処理することで、反応が進行し、濃縮液中の糖類が、フルフラール類に変換される。
【0029】
水熱処理部の温度は、100℃~400℃とすることができ、140℃~260℃が好ましく、140℃~230℃がより好ましい。上記温度範囲に加熱することにより、濃縮液からフルフラール類が効率よく得られる。
【0030】
水熱処理部においては、上記温度範囲にて濃縮液を処理することで、フルフラール類が生成されるため、特に触媒を必要としない。
フルフラール類の生成効率向上の観点からは、触媒の存在下で水熱処理を行ってもよい。触媒を用いる場合、触媒は公知の触媒を適宜選択して用いることができる。水熱処理部にて用い得る触媒としては、例えば、修飾された又は非修飾の活性炭、クエン酸等の有機酸、硫酸等の無機酸、イオン交換樹脂等の固体酸触媒、触媒活性点を制御したゼオライト触媒等が挙げられる。
水熱処理部における圧力は常圧であってもよいが、反応効率の観点からは、加圧することも好ましい態様である。
水熱処理部を加圧する場合の加圧条件としては、0.15MPa~10MPaが好ましく、1.0MPa~3.5MPaがより好ましい。
反応時間は、0.2時間~3.0時間とすることが好ましく、0.5時間~1.5時間とすることがより好ましい。
反応終了後は、水熱処理部における装置内の温度を室温(25℃)まで冷却することが好ましい。
【0031】
一般に糖類、セルロース類等からフルフラール類を効率よく生成させるために種々の試みがなされている。しかし、本開示の廃水処理システムは、糖類を含む有機性廃水の処理において、消費エネルギー及び所望されない副産物の生成が少ないことを課題としている。本開示の廃水処理システムによれば、水熱処理部において有価物としてのフルフラール類が得られることで、廃水処理システム全体のコストが抑制できる。さらに、引き続き行われるメタン発酵部においても、有価物としてのバイオガスを回収することができる。このため、水熱処理部におけるフルフラール類生成の極端な高効率化は本開示の廃水処理システムにおいて重要ではない。
【0032】
水熱処理部14において水熱処理された濃縮液中には、水熱処理により生成したフルフラール類と、有機性廃水由来の有機性成分であってフルフラール類に変換されなかった有機酸等と、溶媒である水と、が少なくとも含まれる。水熱処理部14にて水熱処理された濃縮液は、室温まで冷却された後、搬送設備である配管30Cを通って回収部16へ搬送される。
【0033】
-回収部-
回収部16では、濃縮液中に生成したフルフラール類が回収される。
回収部における濃縮液中のフルフラール類の回収は、公知の方法を適用することができる。
回収方法としては、濃縮液を濃縮液不透過性の容器内に導入し、活性炭、イオン交換樹脂等の吸着材にフルフラール類を吸着させる方法、ヘキサン/アセトン混合溶媒等の有機溶剤によって抽出する方法等が挙げられる。
吸着材に濃縮液を接触させる前に、まず、濃縮液を固液分離し、微細な固体成分を除去した後、分離した液成分のみを吸着材と接触させることも好ましい。予め濃縮液から固体成分を除去することで、活性炭等の吸着材の細孔に固体成分が付着して吸着効率が低下することを抑制することができる。
フルフラール類を吸着材に吸着させる方法をとる場合、吸着材を有機溶剤で洗浄することにより、有機溶剤中にフルフラール類が溶出し、高純度のフルフラール類が回収される。回収されたフルフラール類は、搬送設備である配管30Dを通って有価物として、回収、保存される。
【0034】
フルフラール類は、バイオマス由来の、化石資源を代替する化学品原料として注目されている。
フルフラールは、溶剤、合成ゴム原料、フラン樹脂を製造する際の原料、ポリアミドの原料となるアジピン酸の製造原料として有用である。また、5-HMFは、バイオ燃料の原料、合成樹脂原料として有用であり、生理活性物質としても用いられる。
従って、回収部16で回収されたフルフラール及び5-HMF等のフルフラール類は、有価物として販売することが可能である。このため、廃水処理システムにおける運転コストを低減することが期待できる。
本開示の廃水処理システムによれば、一定の収量で連続してフルフラール類を回収できるという利点を有する。
【0035】
回収部16でフルフラール類が回収された残余の廃水は、搬送設備である配管30Eを通って浄化処理部としてのメタン発酵部18へ搬送される。残余の廃水中には、なお、有機酸等のフルフラール類以外の有機性成分が残存しており、そのまま処理水として排水することは困難である。このため、浄化処理部としてのメタン発酵部18でさらに有機物の回収が行われる。
【0036】
-メタン発酵部-
メタン発酵部18においては、回収部16でフルフラール類を取り出した後の残余の廃水を原料としてメタン発酵を行い、メタンガスを含むバイオガスを生成させ、回収する。
【0037】
フルフラール類を取り出した後の廃液には、食品由来の微細な有機物、有機酸等の有機物が含まれている。
廃水中の有機性成分としては、廃水に溶解している有機酸等の可溶性成分及び廃水中に含まれる不溶性の有機性成分等が挙げられる。
【0038】
メタン発酵部では、嫌気性処理、即ち、嫌気性条件下において酸生成菌やメタン生成細菌等の嫌気性微生物群を利用して、残余の廃水の有機成分を分解し、メタンガス、二酸化炭素等のバイオガスを得る。
メタン発酵部には、公知の発酵槽が適用できる。発酵槽としては、例えば、UASB反応器、流動床方式反応器、固定床方式反応器等が好適に用いられる。
メタン発酵部において用いる嫌気性菌としては、嫌気性条件下で有機性成分を分解しうる公知の嫌気性菌を適用することができる。
【0039】
メタン生成菌は、増殖速度が低いため、処理水とともに流失して処理能力が低下する懸念がある。このため、処理能力を維持するため、嫌気性菌は自己造粒させるか、又は担体に固定化して発酵槽に配置することが好ましい。例えば、UASB反応器を用いる方法では、メタン生成菌が自己造粒してなる0.5mm~2mm程度の沈降性に優れたグラニュール汚泥を形成させることで、良好な反応性を達成している。
発酵条件には特に制限はなく、有機性成分の残存量、廃水の処理量等を考慮して適宜選択される。
【0040】
発酵槽には、メタン生成菌等の嫌気性微生物群が配置される。回収部16を経て、配管30Eを介して供給された有機酸等含有廃水中の有機性成分が、メタン発酵部においてメタン発酵により分解される。
メタン発酵部における嫌気性処理の条件としては、反応温度が37℃近傍の中温法、55℃近傍の高温法があり、いずれも適用することができる。
発酵効率の観点からは、高温法はより処理効率が良好であるが、加温のためのエネルギーを要する。中温法の場合には、加温は不要である。本開示の廃水処理システムにおいては、予め有機性成分としての有価物を取り除いた廃水を処理するため、中温法でも安定な処理効率が期待できる。なお、所望により中温法の発酵槽を2槽設けて、2段階発酵を行うこともできる。
嫌気性微生物群の好適な条件が中性付近であるため、発酵槽におけるpHは6.0~8.5が好ましく、7.0~8.0がより好ましい。所望により、メタン発酵部に導入される廃液のpHを調整してもよい。
嫌気性微生物群の処理条件を好適な範囲に維持するため、発酵槽の嫌気性状態については、例えば、酸化還元電位等を測定して管理することができる。
【0041】
メタン発酵部において、処理する廃水と発酵槽における嫌気性微生物群との接触時間、即ち、発酵槽における廃水の滞留時間には、特に制限はない。例えば、発酵槽における廃水の滞留時間は、5時間~30日間とすることができ、6時間~20日間とすることが好ましく、6時間~3日間とすることがより好ましい。
【0042】
発酵槽は嫌気性の雰囲気であり、中温法で行う場合には加熱が不要であり、好気性処理における如き曝気エネルギーも不要である。
メタン発酵部において生成されるバイオガスは、メタンガスと二酸化炭素が主成分であり、燃料等に適用することができる有価物である。なお、条件によっては、硫化水素が副生されることがあり、その場合には、バイオガスから硫化水素を除去する処理を行う。
バイオガスは、燃料として外部に供給して有効利用してもよく、例えば、水熱処理部における加熱用の燃料として使用することもできる。
本開示の廃水処理システムによれば、フルフラール類のみならず、バイオガスが生成される。バイオガスは、有価物として提供するか、廃水処理システムの加熱用のエネルギー源として使用できるため、廃水処理システム全体におけるコスト削減という目的を達成することができる。
【0043】
メタン発酵部18で生成したバイオガスは、配管30Gを介して系外に回収される。バイオガスを回収した後の分離廃水は、有機性成分の残存量が少ない場合には、そのまま配管30Fを介して下水放流される。なお、メタン発酵部18における処理後においても、分離廃水中に発酵により分解されなかった成分等の不溶性の有機性成分が残存する場合がある。そのような場合には、不溶性の有機性成分を固液分離して除去した後、下水放流することが好ましい。固液分離により分離された不溶性の有機性成分は、廃棄物として別途処理すればよい。
固液分離方法には特に制限はなく、濾過、遠心分離、静置して固形分を沈殿させる等の公知の方法により行うことができる。
【0044】
本開示の廃水処理システムにおいては、メタン発酵部に供給される分離廃水は、回収部にてフルフラール等の有機物が予め回収されており、廃水中の有機物の含有量が減少している。このため、回収部の下流にて行われるメタン発酵部における発酵槽をより小型化することができる。
また、メタン発酵により処理された残余の廃水、及び有機性廃水濃縮部において分離された廃水は、有機物の含有量が少ない。従って、有機性成分の含有量が所定量以下の場合には、そのまま下水放流することができる。また、メタン発酵部の下流側に、所望により設けられる好気性処理部等の廃水処理設備における処理の負荷を低減することができる。
【0045】
(廃水処理システム:第2実施形態)
図2には、本開示の第2実施形態に係る廃水処理システム20のシステム構成図が示されている。
【0046】
廃水処理システム20は、食品由来の有機性成分を含む廃水の有機性成分を濃縮する有機性廃水濃縮部12、濃縮された廃水を水熱処理する水熱処理部14、水熱処理部14にて有機性成分から変換されたフルフラール類を回収する回収部16、フルフラール類が回収された廃水をメタン発酵処理するメタン発酵部18、メタン発酵部18から分離された分離廃水を好気性処理する好気性処理部22及び図示されないポンプ等を含む搬送設備30A~30Hを有して構成されている。
【0047】
搬送設備30A~30Hは、必要に応じて廃水の搬送に有用なポンプ(図示せず)を備えた配管を有して構成されている。
廃水処理システム20は、メタン発酵部18の下流に好気性処理部22を備える以外は、第1実施形態に係る廃水処理システム10と同様の構成を示す。従って、有機性廃水濃縮部12、水熱処理部14、回収部16、及びメタン発酵部18に係る説明は省略する。
【0048】
-好気性処理部-
図2に示す好気性処理部22は、メタン発酵部18の下流に設けられ、メタン発酵部18においてバイオガスが回収された分離廃水を、さらに、好気性条件で廃水を処理し、下水放流に好適な浄化処理を行う処理部である。
好気性処理部22は、好気性微生物群に廃水中の有機性成分を分解処理させる活性汚泥法又は担体流動床法を適用する処理部である。
好気性処理部22は、一般的には、曝気槽と沈殿槽とを備える。
【0049】
曝気槽は、好気性微生物からなる塊状体(フロック)が浮遊した水と、水に好気性微生物群を活性化させるための空気を送り込む排気管を備える。排気管は、通常、曝気槽の底部又はその近傍に位置される。
曝気槽は、好気性微生物群を多量に含むフロックが浮遊した水で満たされている。曝気槽の底部近傍に配置された散気管から空気を微細な気泡として曝気槽内に噴出させており、空気の供給により好気性微生物が活性化し、廃水中の有機性成分が分解される。
曝気槽に連結して備えられる沈殿槽は、有機性成分が分解除去された処理水と、活性汚泥としてのフロックを沈殿によって分離させる機能を有する槽である。
沈殿槽における上澄み液は、処理水として下水放流することができる。沈殿槽にて沈殿した活性汚泥としてのフロックは、沈殿槽の底部から回収され、再び曝気槽に供給してもよい。また、曝気槽には容積負荷を向上するために、菌体を保持するための担体を投入してもよい。
好気性処理部22には、有機性廃水濃縮部12にて濃縮液と分離された分離廃水、及び、メタン発酵部18において、バイオガスを回収した後の分離廃水が供給され、好気性処理される。
好気性処理部22にて処理され、有機性成分の含有量が低減された沈殿槽における上澄み液は、配管30Hを通って下水に放流される。
【0050】
第2実施形態に係る廃水処理システム20では、有機性廃水濃縮部12及びメタン発酵部18からの分離廃水を、さらに好気性処理することで、下水放流される排水の水質がより向上する。
有機性廃水濃縮部12からの分離廃水は、好ましくはRO膜にて分離され、殆ど有機性成分を含まない水であり、メタン発酵部18からの分離廃水もまた、水熱処理部14及びメタン発酵部18にて予め有機性成分が取り除かれた水である。従って、本開示の廃水処理システムによれば、一般の好気性処理に比較して、より低エネルギーで、排水の水質を向上させることができる。
【0051】
図3には、従来の廃水処理システムの一例を示すシステム構成図が示されている。一例としての従来の廃水処理システム40は、好気性処理を利用したシステムであり、好気性処理部22と、好気性処理に先だって行われる加圧浮上のための加圧浮上処理部24とを有する。
加圧浮上処理部24では、加圧浮上方式によって有機性廃水に含まれる汚泥を浮上させて分離する。具体的には、図示しない加圧ポンプによって加圧浮上処理部24の有機性廃水中に空気を圧縮溶解させ、微細気泡に廃水中の汚泥を気泡に付着させて浮上させる。この方法を曝気処理とも称する。曝気処理により分離されたスカムは、図示しない吸引ポンプによって吸引されて配管30Iを介して集められ、廃棄物として処理される。
加圧浮上処理部24に残存した廃水は、配管30Jを介して好気性処理部22に送られる。好気性処理部22には、微生物が付着した担体が保持されており、廃水中の有機性成分は、生物学的に処理される。処理された有機性廃水における固形分は、図示されない排出弁を備えた配管30Kを経由して集められ、汚泥として処理される。
好気性処理部22の構成は、本開示の第2実施形態にかかる廃水処理システム20におけるのと同様である。
好気性処理部22において有機性成分が低減された分離廃水は、図示されない排出弁を備えた配管30Lを経由して下水に放流される。
従来の廃水処理システム40においては、曝気処理において空気を圧縮溶解させるためにエネルギーを必要とし、さらに、スカム、汚泥等の廃棄物が生成されるという問題を有する。
【0052】
本開示の廃水処理システムは、上記各処理部、即ち、有機性廃水濃縮部、水熱処理部、回収部、及びメタン発酵部に加え、必要に応じてその他の構成を有していてもよい。
その他の構成としては、食品由来の糖を含む有機性廃水から、予め有機性成分以外の固体状の異物を除去する異物除去装置、有機性廃水から脂質等の油分を除去するための油水分離装置又は加圧浮上装置等が挙げられる。
その他の構成としては、さらに、既述の好気性処理部で発生する汚泥を加圧浮上方式により浮上させて分離する加圧浮上処理部が挙げられる。
【実施例0053】
〔実施例1〕
廃水処理システムとして、図2に示す好気性処理部22を備える廃水処理システム20を用いて処理を行った。
【0054】
(モデル廃水の調製及びTOCの測定)
食品由来の廃水のモデルとして1質量%デンプン水溶液を調製した。
1日の処理量を50tとして処理を実施する。
以下、特に断らない限り、廃水の量、消費電力量、熱エネルギー等は、いずれも1日当たりの量を示す。
50tの1質量%デンプン水溶液に含まれる有機炭素量は、約222kgであり、水中に存在する全有機炭素量(total organic carbon :TOC)は、約4g/L(リットル)である。
廃水中のTOCの測定は、例えば、以下に示す燃焼酸化法で測定することができる。なお、本実施例では、無機体炭素を含まないモデル廃水を使用することから、通常行われる無機体炭素の除去工程は省略する。
(燃焼酸化法)
モデル水を空気とともに、酸化コバルト、白金、パラジウム等の酸化触媒を充填し、900℃~950℃に加熱した燃焼管に供給し、有機物を二酸化炭素に酸化させる。
発生した二酸化炭素量を赤外線分析計、具体的には、非分散形赤外線ガス検出器(NDIR)で測定し全炭素量を求める。
【0055】
(有機性廃水濃縮部:以下、「廃水濃縮部」と略称する)
モデル廃水は廃水濃縮部12に投入され、廃水濃縮部12において、廃水が濃縮される。濃縮は、限外ろ過膜(ultrafiltration membrane:UF膜:MWCO1,000)を備えた逆浸透膜(RO膜)方式の濃縮装置(Alfa Laval社製、RO98pHt)を用いて行う。
廃水濃縮部12における処理によって、廃水は、5.0t、即ち、10倍に濃縮されたデンプンを含む濃縮液(有機炭素量211kg)と、45tの分離廃水(残存炭素量:11kg)に分離される。
廃水濃縮部12において、逆浸透膜方式に必要な加圧等、濃縮に用いられた消費エネルギーは、600kWhである。
濃縮液は、配管30Aから、水熱処理部14へ搬送される。分離された分離廃水は、配管30Bを介して、好気性処理部22へ搬送される。
【0056】
(水熱処理部)
水熱処理部14では、廃水濃縮部12から搬送された濃縮液を加温して、フルフラール類を得る。水熱処理部14における温度は230℃、圧力は3.0MPaである。
濃縮液5.0tを処理するための加温の熱エネルギーは、3780MJであり、水熱処理部14で使用された消費電力は、200kWhである。
水熱処理部14における処理により、分析の結果、濃縮液には、フルフラールが89kg生成された。水熱処理され、フルフラールを含む濃縮液は、配管30Cを介して回収部に搬送される。
【0057】
(回収部)
フルフラールを含む濃縮液は、回収部16において、濃縮液に含まれるフルフラールを活性炭に吸着させて回収される。活性炭に吸着したフルフラール等は有機溶媒によって回収し、有機溶媒を蒸発させてフルフラール等の純度を高くする。
有機溶媒加温の熱エネルギーは、500MJであり、回収部16で使用された消費電力は、100kWhである。
回収部16でフルフラールが回収された残余の濃縮液の総量は、フルフラール回収後も殆ど変化はなく、約5.0tである、フルフラールに転換された有機炭素は40.6kgであり、残余の濃縮液における有機炭素量は、144kgである。
残余の濃縮液は、配管30Eを介してメタン発酵部18へ搬送される。
【0058】
回収部16で活性炭に吸着されたフルフラールは、活性炭を有機溶剤であるアセトンで洗浄し、有機溶剤を除去して回収される。フルフラールの生成量は71.2kgである。2021年3月の時価で換算したフルフラールの価格は、50,000円と見積もられる。
【0059】
(メタン発酵部)
メタン発酵部18における発酵槽には、UASB反応器を用いる。発酵槽中には、メタン生成菌が担持された担体が備えられている。
回収部16で分離された分離廃水は、発酵槽に搬入される。発酵槽は撹拌機を備え、分離廃水は、撹拌されながらメタン生成菌と接触する。発酵槽内の温度は、37℃前後、pHは7.5程度に維持されている。分離廃水は発酵槽内に約24時間滞留し、廃水中の有機性成分がメタン生成菌の作用により分解してなるバイオガスが生成する。生成したバイオガスは、発酵槽の上部から配管30Gを通って回収される。
バイオガスが回収された分離廃水は、配管30Fを介して、好気性処理部22へ搬送される。
メタン発酵部18において、温度維持及び発酵槽の撹拌に用いられる消費電力は164kWhである。
回収されたバイオガスのうち、メタンガスは102kgである。メタンガス102kgが生成しうる熱量は、5125MJと見積もられる。
【0060】
(好気性処理部)
好気性処理部22に搬入された分離廃水は、好気性処理部22における曝気槽に導入される。曝気槽は、好気性微生物からなる塊状体(フロック)が浮遊した水と、水に好気性微生物群を活性化させるための空気を送り込む排気管を備えており、曝気槽の底部近傍に配置された散気管から空気を微細な気泡として曝気槽内に噴出させ、曝気処理が行われる。曝気処理により、好気性微生物が活性化し、廃水中の有機性成分がさらに分解される。
曝気槽にて曝気処理された廃水は、曝気槽と連結して備えられる沈殿槽に搬送される。沈殿槽では、曝気槽において有機性成分が分解除去された処理水と、活性汚泥としてのフロックとが、沈殿によって分離される。
沈殿槽における上澄み液は、有機性成分の含有量が低減された処理水として配管30Hを通って下水に放流される。
沈殿槽にて沈殿した活性汚泥としてのフロックは、沈殿槽の底部から回収され、再び曝気槽に供給される。ここで、活性が低下した汚泥は、沈殿槽にて沈殿により分離された後、汚泥として処理される。
好気性処理部22において曝気処理に用いられる消費電力は471kWhである。
【0061】
実施例1の廃水処理システム20では、消費電力の総量は、1日1535kWhであり、水熱処理部14等で消費される熱量は、総量で1日当たり4413MJである。
既述のように、メタン発酵部18で得られるバイオガスの保有熱量は1日当たり5125MJであった。従って、実施例1の廃水処理システム20では、廃水の処理により得られる保有熱量で、システムの加熱用熱量を補える試算となる。
また、排出される汚泥の発生量は1日当たり86kgである。排出された汚泥を、さらに固液分離して、分離された水分は前記上澄み液と同様に有機性成分の含有量が少ないので、下水に放流することができる。固液分離する場合には、下水放流可能な水分は1日当たり30kgと推定され、汚泥の発生量が56kgに低減できる。
従って、実施例1の廃水処理システムによれば、有価物であるフルフラールが継続的に回収できる。さらに、消費電力が低く抑えられ、且つ、システムの加温に要するエネルギーが、有価物であるバイオガスの保有熱量で賄えるという利点を有する。
実施例1の廃水処理システムによれば、食品由来の糖を含む有機性廃水の処理に際して、消費エネルギー及び所望されない副産物の生成が少ないという効果を奏する。
【0062】
〔対照例1〕
対照例1では、廃水処理システムとして、好気性処理を適用し、廃水を曝気処理して汚泥と処理水に分離する廃水処理システムを用いて処理を行った場合の消費電力等を試算する。
対照例1では、実施例1と同様に、食品由来の廃水のモデルとして1質量%デンプン水溶液を用い、1日の処理量を50tとして処理を実施する。
実施例1と同様、50tの1質量%デンプン水溶液に含まれる有機炭素量は、約222kgであり、水中に存在する全有機炭素量(TOC)は、約4g/Lである。
【0063】
対照例1の廃水処理システムは、実施例1に適用した装置と同様の、曝気槽と沈殿槽とを備える好気性処理部を用いる。好気性処理部に備えられた曝気槽に1質量%デンプン水溶液を投入する。
処理量を1日当たり50tとした場合、曝気槽において廃水の加温と曝気処理に費やされる消費電力の総量は、1日当たり2919kWhと推算される。
曝気槽にて曝気処理された廃水は、曝気槽と連結して備えられる沈殿槽に搬送される。沈殿槽では、曝気槽において有機性成分が分解除去された処理水と、活性汚泥としてのフロックとが、沈殿によって分離される。
沈殿槽では、921kgの汚泥が回収される。沈殿槽における上澄み液は、下水放流される。
沈殿槽において回収された汚泥を、さらに固液分離してもよい。固液分離により分離された水分は有機性成分の含有量が少ないので、下水に放流することができる。固液分離する場合には、下水放流可能な水分は1日当たり30kgと推定され、汚泥の発生量が186kgに低減できる。
【0064】
対照例1の廃水処理システムでは、有価物は回収されない。また、対照例1の廃水処理システムにおいては、実施例1における水熱処理部及び回収部における如き加温は不要であり、熱量は消費されない。
一方、対照例1の廃水処理システムにおいては、曝気処理に要する電力消費量は2919kWhであり、実施例1の廃水処理システムにおける電力消費量の1.9倍となる。汚泥の発生量は、10.7質量倍となる。
対照例1の廃水処理システムでは、有価物は回収されず、且つ、実施例1の廃水処理システムよりも消費電力及び汚泥の発生量がより多いことから、実施例1の廃水処理システムの、対照例1の廃水処理システムに対する優位性は明らかである。
【符号の説明】
【0065】
10、20、40 廃水処理システム
12 有機性廃水濃縮部
14 水熱処理部
18 メタン発酵部
22 好気性処理部
24 加圧浮上処理部
30A、30B、30C、30D、30E、30F、30G、30H、30I、30J、30K、30L 配管(搬送設備)
図1
図2
図3