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特開2022-185963機械的粉砕が可能なステンレス系合金、並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185963
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】機械的粉砕が可能なステンレス系合金、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221208BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20221208BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221208BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20221208BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20221208BHJP
   B22D 11/06 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
B22F9/04 C
B22F1/00 T
C22C30/02
C22C38/58
B22D11/06 360B
B22D11/06 380A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093914
(22)【出願日】2021-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】517081792
【氏名又は名称】BIZYME株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金清 裕和
【テーマコード(参考)】
4E004
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4E004DB02
4E004SA01
4E004SD02
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB04
4K017BB06
4K017BB13
4K017CA03
4K017CA07
4K017EA03
4K018AA33
4K018BA17
4K018BB01
4K018BB04
4K018CA29
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018KA58
(57)【要約】

【課題】 ステンレス系合金粉末の製造に係り、製品歩留りの悪い溶湯噴霧法を用いることなく、機械的粉砕にて優れた製品歩留りが得られるステンレス系合金を提供する。
【解決手段】 特定範囲の硼素(B)を添加したステンレス系の合金溶湯を用意した上、冷却ロール上で前記合金溶湯を急冷凝固可能な装置構成を整えた単ロール溶湯急冷装置にて製造した厚み15μm以上120μm以下のステンレス系合金は、α-Feを主体とする微細な金属組織が得られることで、ピンディスクミル、並びにジェットミル等の機械的粉砕法にて、金属粉末圧縮成形、金属粉末射出成形(MIM)、および金属3Dプリンター向けに最適な粉末粒径を有するステンレス系合金粉末を粉砕時の工程歩留り80%以上の優れた粉砕性を確保することが出来る。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Fe1-x-yCrxNiy)100-l-m-n-q-zMnlSimBnMoqCuz原子%で表現され、組成比率x、y、およびl、m、n、q、zがそれぞれ、
0.15≦x≦0.30
0.002≦y≦0.25
0.00≦l≦2.00原子%
0.00≦m≦3.00原子%
7.00≦n≦20.00原子%
0.00≦q≦3.50原子%
0.00≦z≦4.00原子%
を満足し、本組成式を満足する急冷合金への混入が不可避の不純物である炭素C、窒素N、酸素O、硫黄S、リンPの含有量がそれぞれ、
C≦2000ppm
N≦3000ppm
O≦3000ppm
S≦2000ppm
P≦500ppm
である厚みが15μm以上120μm以下であるステンレス系合金。
【請求項2】
請求項1のステンレス系合金において、ピンディスクミルを用いた粉砕工程により、平均粒径50μm以上200μm以下のステンレス系合金粉砕粉末が粉砕工程歩留り80%以上にて得ることが出来るステンレス系合金。
【請求項3】
請求項1のステンレス系合金において、ジェットミルミルを用いた粉砕工程により、平均粒径3μm以上50μm以下のステンレス系合金粉砕粉末が粉砕工程歩留り80%以上にて得ることが出来るステンレス系合金。
【請求項4】
組成式(Fe1-x-yCrxNiy)100-l-m-n-q-zMnlSimBnMoqCuz原子%で表現され、組成比率x、yおよびl、m、n、q、zがそれぞれ、
0.15≦x≦0.30
0.002≦y≦0.25
0.00≦l≦2.00原子%
0.00≦m≦3.00原子%
7.00≦n≦20.00原子%
0.00≦q≦3.50原子%
0.00≦z≦4.00原子%
を満足する組成のステンレス系合金溶湯を用意する工程と、純銅、銅合金、モリブデン、およびタングステンのいずれかを主原料とする冷却ロール上にて合金溶湯を急冷凝固する急冷凝固工程を備え、急冷凝固工程において、冷却ロールをロール表面速度10m/秒以上40m/秒以下で回転させながら、冷却ロールの表面に合金溶湯を窒化硼素(BN)、石英(SiO2)、炭化珪素(SiC)、およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分とする噴射ノズルから噴射する工程を備え、噴射ノズルは、ノズル先端に単孔の開口孔、あるいは、冷却ロールの回転方向と直角の一方向に間隔をあけて配置された二孔以上の複数の開口孔を有し、前記開口孔の直径が0.5mm以上2.0mm以下であり、複数の開口孔では、開口部を構成する各開口孔同士の間隔が2.0mm以上30.0mm以下である、請求項1、請求項2、および請求項3に係るステンレス系合金の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、急冷凝固工程における雰囲気が、常圧(101.3kPa )の大気下、もしくは1kPa以上100kPa 以下の不活性ガス下において、噴射ノズルから噴出される合金溶湯の噴射圧力が2kPa以上60kPa以下である請求項1、請求項2、および請求項3に係るステンレス系合金の製造方法。
【請求項6】
請求項4において、急冷凝固工程における冷却ロール表面と噴射ノズル先端の距離(ノズル/ロール間ギャップ)が、0.3mm以上20mm以下である請求項1、請求項2、および請求項3に係るステンレス系合金の製造方法。
【請求項7】
請求項4において、冷却ロールの外径が200mm以上1500mm以下であり、加えて冷却ロール表面の算術平均粗さRaが10nm以上20μm以下である請求項1、請求項2、および請求項3に係るステンレス系合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末焼結、金属粉末射出成形および金属3Dプリンターに適用するステンレス系粉末の製造に適したステンレス系合金、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末圧縮成形(プレス成形)品を用いた焼結品、金属粉末射出成形(MIM)品、および金属3Dプリンターといった粉末冶金技術は、複雑形状、高精度部品をニアネットシェイプ、あるいはネットシェイプで成形可能であり、その高い成形精度、並びに経済性によって自動車工業を中核とする産業分野に広く浸透し発展してきた。これらの多くは鉄粉を原料とするものであったが,近年、ステンレス鋼や耐熱・耐食性超合金などの合金粉末を対象とするものも広く発展している。これらの発展の技術的背景には、第一に溶湯噴霧法(アトマイズ法)による合金粉末製造技術の量産技術の確立が挙げられ、これにより粉末冶金向け高品質金属粉末の量産が可能になったことがあり、現在、量産販売されているステンレス系粉末は、水アトマイズ、もしくはガスアトマイズ等の溶湯噴霧法によって全て製造されている。
【0003】
金属粉末の製造方法は機械的方法、化学的方法およびアトマイズ(噴霧)法に大別されるが、機械的方法は物理的な応力により金属塊を粉砕して粗大粒子から微細粉末を得る方法であり、最近では前記方法に加えて、純金属粉末の混合物にボールミルなどを用いて機械的エネルギーを与え,粉末同士の圧着・破砕を繰返しによって,合金粉末を製造するメカニカルアロイイング法も研究開発されている。なお、化学的方法は、還元や電気分解などの化学反応によって粉末を製造するもので、非常に微細な粒子を得ることが出来ることが特徴であり、最近ではサブミクロンの粒径の粉末製造技術について研究開発が広く行われている。しかし化学的方法は、原理上、純金属の微細粉末を製造することは出来るが、合金粉末をこれらの単一工程のみで製造することは難しい。
【0004】
一方、溶湯噴霧法(アトマイズ法)は、気体や液体などの高圧噴霧媒体の運動エネルギーや、ディスクの高速回転による遠心力によって合金溶湯の液滴を飛散させ、前記液滴を凝固させて粉末化する方法であり、安定した品質の粉末を量産出来ることから、粉末冶金用の金属粉末製造技術として主流となっている。なお、溶湯噴霧法は貯湯容器(タンディッシュ)の底部に配した注湯ノズルから合金溶湯を流下させつつ、周囲に配置した噴霧ノズルから噴霧媒体(水もしくはガス)を噴射して粉末化するガスアトマイズ法と、高速回転するディスク上に合金溶湯を流下し、遠心力で粉末化する遠心アトマイズ法というように使用される噴霧媒体や噴霧技法により大別される。
【0005】
なお、水アトマイズ法では突起の多い不規則な粉末形状になりやすく、ガスアトマイズ法および遠心噴霧法では真球に近い粉末形状となり、合金溶湯の単位時間当たりの流下量および噴霧媒体の圧力や流量の調整、あるいはディスク回転速度の調整によって得られる粉末の粒度(粉末の大きさ)を調整し、さらに篩を用いた粉末分級を行って用途に応じた所望の粉末粒度を持つ金属粉末を得る。
【0006】
ただし、溶湯噴霧法では、最も微細な粉末が得られる高圧水アトマイズ(非特許文献1「高圧水噴霧法によるステンレス鋼微粉末の製造と焼結体への影響」)を用いても得られる粉末の平均粉末粒径は10μm程度であり、一般的な量産対応の水アトマイズ装置では平均粉末粒径30μm、ガスアトマイズではさらに粗く平均粉末粒径は50μm程度であり、金属粉末射出成形(MIM)、および金属3Dプリンターで要求される数10μm以下に対応するためには、水アトマイズやガスアトマイズで得られた粉末を篩分けし、数10μmの粉末をオーバーカットした上、前記金属粉末射出成形、および金属3Dプリンター向け金属粉末として利用することから、ステンレス系粉末等の各種金属粉末の価格が高くなる主要因となっている。
【0007】
加えて、溶湯噴霧法で得られた金属粉末は正規分布の粒度分布となるが、前記の通り数10μm以上をオーバーカットすると粉末粒度分布は正規分布である粒度分布の粗粉側が無い分布となるため、粉末の最密充填が出来ず、金属粉プレス成形や金属射出成形において成形密度の低下を招来することから、金属粉末の歩留り、並びに粒度分布の改善が金属粉末に強く求められている。
【0008】
なお、ステンレス鋼は、靭性が高く機械的粉砕が困難であることから、ステンレス系粉末の製造方法は、溶湯噴霧法に限られており、金属粉末プレス成形、金属射出成形、および金属3Dプリンターに適用可能な平均粒径3μm~200μmの粉末が機械的粉砕にて得られるステンレス系合金は、現在、見出されていない。
【0009】
特許文献1では、高温においてマルテンサイトステンレス鋼とCo基合金と同等以上の耐摩耗性、および高温強度を兼ね備え、かつ、Co基合金よりも低コスト化が可能な合金製造物、および該製造方法が開示されているが、Cr-Fe-Nii 系合金粉は、アトマイズ工程で得ることがクレームされている。
【0010】
特許文献2では、Crを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼の肉盛層を形成する肉盛材となり得るFe 基合金粉末が開示されているが、前記Fe基合金粉末の製造方法は、ガスアトマイズ法が採用されている。
【0011】
特許文献3では、平均粒径10μm以上500μm以下のステンレス系粉末の表面に有機物のナノ粒子を付着することで、高い流動性を有し、かつ、有機物の存在による影響が低減された粉末材料が開示されているが、ステンレス系粉末の製造方法はガスアトマイズ法である。
【0012】
特許文献4では、酸脱脂法による脱脂に供されたとき、酸化に伴う特性の劣化を抑制し得る粉末冶金用析出硬化系ステンレス鋼粉末が開示されているが、前記粉末冶金用析出硬化系ステンレス粉末の最大粒径は、200μm 以下であることが好ましいことが開示されており、前記粉末冶金用析出硬化系ステンレス粉末の製造方法としては、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法のようなアトマイズ法、還元法、カルボニル法、粉砕法等の各種粉末化法によると記載されているが、製造方法は、アトマイズ法が好ましく、水アトマイズ法または高速回転水流アトマイズ法がより好ましいとされている。
【0013】
特許文献5では、機械的強度が高い焼結体を製造可能な析出硬化系ステンレス粉末とその製造方法が開示されているが、前記析出硬化系ステンレス粉末の製造方法としては、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法のようなアトマイズ法、還元法、カルボニル法、粉砕法等の各種粉末化法によると記載されているが、製造方法は、アトマイズ法が好ましく、水アトマイズ法または高速回転水流アトマイズ法がより好ましいとされている。
【0014】
非特許文献1では、高圧水噴霧法による噴霧条件と粉末平均粒径の関係、並びに焼結体への影響が紹介されている。
【0015】
非特許文献2では、高圧水アトマイズにおける噴霧ノズルの形状が金属粉末に与える影響が紹介されている。
【0016】
非特許文献3では、代表的なステンレス鋼種の水アトマイズ粉末を用いた,熱間型鍛造による高密度化の条件、並びに鍛造後の材料の機械的性質が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特願2018-67379
【特許文献2】特願2018-162021
【特許文献3】特願2020-176818
【特許文献4】特願2019-36328
【特許文献5】特願2020-100714
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】高圧水噴霧法によるステンレス鋼微粉末の製造と焼結体への応用、(大同特殊鋼株式会社・粉末事業部)林 清英、鈴木喜代志、久田建男:電気製鋼 第58巻 第4号、243頁(1987)
【非特許文献2】高圧水アトマイズジェットの形状が金属粉末の特性におよぼす影響、(大同特殊鋼株式会社・技術開発研究所)関本光一郎、奥村鉄平、中川知可夫:電気製鋼 第58巻 第4号、11頁(2017)
【非特許文献3】ステンレス鋼の粉末鍛造、(株式会社三菱金属・中央研究所)小原邦夫、佐藤録朗:電気製鋼 第48巻 第2号、128頁(1977)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ステンレス系合金粉末を用いた金属粉圧縮成形(プレス成形)、金属粉末射出成形(MIM)、および金属3Dプリンターといった粉末冶金製品は、複雑形状、高精度部品をニアネットシェイプあるいはネットシェイプでの成形が可能であることから、各種自動車向け部品他、様々な産業分野に広く適用されているが、ステンレス系合金粉末の製造方法は、粉末としての製品歩留りが悪い溶湯噴霧法に限られており、ステンレス系合金粉末の価格高騰を招来し、ステンレス系合金粉末を用いた粉末冶金製品の普及における障害となっている。そこで、種々の成形方法に任意に対応出来る平均粒径3μm~200μmのステンレス系合金粉末が得られると共に、製品歩留りに優れたステンレス系合金粉末の製造方法が粉末冶金業界から強く求められている。
【0020】
様々な成形方法に対応可能な平均粒径3μm~200μmの金属粉末を歩留り良く生産する方法としては、例えば、ハンマーミル、フェザーミル、ピンディスクミル、およびジェットミルといった機械的粉砕方法が挙げられるが、ステンレス系合金は、靭性が高く、前記の機械的粉砕法では、せいぜい平均粒径100μm程度が限界であり、
MIMや金属3Dプリンターというネットシェイプが可能な今後さらなる用途普及が期待される成形方法に対応出来る平均粒径3μm~70μmのステンレス系合金粉末を製造することは出来ない。
【0021】
そこで本発明は、ハンマーミル、フェザーミル、ピンディスクミル、およびジェットミルといった機械的粉砕方法を用いて、80%以上の製品歩留りを確保しながら、平均粒径3μm~200μmである任意の粉末粒度が容易に得られる粉砕性に優れたステンレス系合金、並びに前記ステンレス系合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係る粉砕性に優れたステンレス系合金は、
組成式(Fe1-x-yCrxNiy)100-l-m-n-q-zMnlSimBnMoqCuz原子%で表現され、組成比率x、y、およびl、m、n、q、zがそれぞれ、
0.15≦x≦0.30
0.002≦y≦0.25
0.00≦l≦2.00原子%
0.00≦m≦3.00原子%
7.00≦n≦20.00原子%
0.00≦q≦3.50原子%
0.00≦z≦4.00原子%
を満足し、本組成式を満足する急冷合金への混入が不可避の不純物である炭素C、窒素N、酸素O、硫黄S、リンPの含有量がそれぞれ、
C≦2000ppm
N≦3000ppm
O≦3000ppm
S≦2000ppm
P≦500ppm
であることを特徴とし、厚みが15μm以上120μm以下であるステンレス系合金である。
【0023】
ピンディスクミルを用いた粉砕工程において、平均粒径50μm以上200μm以下のステンレス系合金粉砕粉末が粉砕工程歩留り80%以上にて得ることが出来る前記ステンレス系合金であることを特徴とする。
【0024】
ジェットミルミルを用いた粉砕工程において、平均粒径3μm以上50μm以下のステンレス系合金粉砕粉末が粉砕工程歩留り80%以上にて得ることが出来る前記ステンレス系合金であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の粉砕性に優れたステンレス系合金の製造方法は、
組成式(Fe1-x-yCrxNiy)100-l-m-n-q-zMnlSimBnMoqCuz原子%で表現され、組成比率x、yおよびl、m、n、q、zがそれぞれ、
0.15≦x≦0.30
0.002≦y≦0.25
0.00≦l≦2.00原子%
0.00≦m≦3.00原子%
7.00≦n≦20.00原子%
0.00≦q≦3.50原子%
0.00≦z≦4.00原子%
を満足する組成のステンレス系合金溶湯を用意する工程と、純銅、銅合金、モリブデン、およびタングステンのいずれかを主原料とする冷却ロール上で前記合金溶湯を急冷凝固する急冷凝固工程を備え、前記急冷凝固工程は、前記冷却ロールをロール表面速度10m/秒以上40m/秒以下で回転させながら、前記冷却ロールの表面に前記合金溶湯を窒化硼素(BN)、石英(SiO2)、炭化珪素(SiC)、およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分とする噴射ノズルから噴射する工程を備えており、前記噴射ノズルは、ノズル先端に単孔、あるいは、前記冷却ロールの回転方向と直角の一方向に間隔をあけて配置された二孔以上の複数の開口孔を有し、前記開口孔の直径が0.5mm以上2.0mm以下であり、前記開口部を構成する各開口孔同士の間隔が2.0mm以上30.0mm以下であることを特徴とする。
【0026】
前記ステンレス系合金の製造方法は、前記急冷凝固工程における雰囲気が、常圧(101.3kPa )の大気下、もしくは1kPa以上100kPa 以下の不活性ガス下において、前記噴射ノズルから噴出される前記合金溶湯の噴射圧力が2kPa以上60kPa以下であることを特徴とする。
【0027】
前記ステンレス系合金の製造方法は、前記急冷凝固工程において、前記冷却ロール表面と前記噴射ノズル先端の距離(ノズル/ロール間ギャップ)が、0.3mm以上20mm以下であることを特徴とする。
【0028】
前記ステンレス系合金の製造方法において、前記冷却ロールは、外径200mm以上1500mm以下であり、加えて前記冷却ロール表面の算術平均粗さRaが10nm以上20μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高い靭性を有するオーステナイト相を形成するγ-Feが主体のステンレス系合金とは異なり、α-Feを主体とする平均結晶粒径5μm以下の微細金属組織を有するステンレス系合金となることから、ハンマーミル、フェザーミル、ピンディスクミルおよびジェットミル等の機械的粉砕において、粉砕工程歩留り80%以上を確保しながら、粉末冶金に用いられる様々な成形方法に対応可能で、かつ、高い成形密度が得られる平均粒径3μm~200μmのステンレス系合金粉末の製造に最適なステンレス系合金が得られる。
【0030】
さらに、本発明の粉砕性に優れたステンレス系合金の製造方法として用いる単ロール急冷法では、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、硼素(B)といった溶解素原料からの前記ステンレス系合金を得るまでの原料歩留りは、95%以上99%以下であることから、前記の機械的粉砕工程と組み合わせた、前記ステンレス系合金粉砕粉末までの総工程における素原料の直行率は、76%以上となり、加えて、前記ステンレス系合金粉砕粉末が得られるまで、全て乾式工程で構成出来ることから、溶湯噴霧法に対して大幅な歩留り向上、およびそれに因る製造コストダウンが達成出来る
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(a)は、本発明による前記ステンレス系合金を製造する際に使用する単ロール溶湯急冷装置の全体構成例を示す断面図であり、(b)は、合金溶湯の急冷凝固が行われる部分の拡大図である。(c)は噴射ノズル底面の拡大図であり、(c-1)は単孔の開口部を有する単孔型噴射ノズルを、(c-2)は複数孔の開口部を有する複数孔型噴射ノズルの例をそれぞれ示している。
図2】本発明による前記ステンレス系合金を粉砕する際に用いるピンディスクミルの構成図を示す。なお、ピンディスクミルでは、固定ディスクと高速回転するディスクに配置されたピンが粉砕原料(本発明によるステンレス系合金)へ衝突し、その衝撃により粉砕原料を前記の高速回転するディスクの回転数、および前記ピンの本数を適宜調整することによって所望の粉末粒度になるよう粉砕する。
図3】実施例1で得られた前記ステンレス系合金の自由面側(冷却ロールの接触面と反対側)のX線回折プロファイルである。
図4】実施例3および実施例4で得られた前記ステンレス系合金の自由面側(冷却ロールの接触面と反対側)のX線回折プロファイルである。
図5】比較例11で得られたステンレス系合金の自由面(冷却ロールの接触面と反対側)のX線回折プロファイルである。
図6】比較例13で得られたステンレス系合金の自由面(冷却ロールの接触面と反対側)のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[合金組成]
ステンレス系合金においてCrは、耐食性確保のためには必須の主要元素であり、Feに対する置換率が15%以下の場合、良好な耐食性を維持できない。また、Feに対するCrの置換率を30%以上にするとステンレス系合金の硬度が著しく増し、粉砕性が悪化するため、本発明によるステンレス系合金におけるFeに対するCrの置換率は、15%以上30%以下が良い。なお、Feに対するCrの好ましい置換率は、17%以上29%以下であり、さらに好ましくは18%以上28%以下である。
【0033】
前記のCr同様にステンレス系合金において必須元素であるNiは、本発明によるステンレス系合金の粉砕粉を用いて粉末冶金法により作製した焼結品において、ステンレス鋼のオーステナイト組織を安定化させる役割を担い、このオーステナイト組織がステンレス系合金の粉砕粉を用いた粉末冶金法による焼結体における機械強度の向上に寄与するため、Feに対するNiの置換率を0.2%以下にすると前記焼結体における機械強度が低下する。また、Feに対するNiの置換量を25%以上にすると耐食性の低下、並びにコストアップを招来するため、本発明によるステンレス系合金におけるFeに対するNiの置換率は、0.2%以上25%以下が良い。なお、Feに対するNiの好ましい置換率は、2%以上23%以下であり、さらに好ましくは5%以上21%以下である。
【0034】
Mn添加は、Ni同様、本発明によるステンレス系合金の粉砕粉を用いた粉末冶金による前記焼結品の機械強度を高める働きをするが、添加量が2.0原子%以下の場合、前記焼結品の機械強度、および耐食性が劣化することから、本発明によるステンレス系合金におけるMnの添加量は、0.0%以上2.0原子%以下が良い。好ましくは0.5原子%以上2.0原子%以下が良く、さらに好ましくは0.5原子%以上1.8原子%以下が良い。
【0035】
Si添加は、本発明における単ロール溶湯急冷工程にて溶解時のスケール防止の働きと共にステンレス系合金組織を微細化するが、添加量が3.0原子%を超えると前記ステンレス系合金の粉砕性の低下を損なうことから、本発明によるステンレス系合金におけるSiの添加量は、0.0%以上3.0原子%以下が良い。好ましくは0.4原子%以上3.0原子%以下が良く、さらに好ましくは0.4原子%以上2.8原子%以下が良い。
【0036】
B添加は、単ロール溶湯急冷装置で作製される本発明のステンレス系合金の金属組織をγ-Fe主体からα-Feに換えるためには必須の元素であり、加えて、前記単ロール溶湯急冷工程における合金溶湯の粘性を低下させ、冷却ロールと合金溶湯の密着性を向上することで、溶湯冷却速度の向上させると共に、合金のガラス形成能を高め、本発明によるステンレス系合金の金属組織の微細化に貢献するが、添加量が7.0原子%以下ではα-Fe 相の生成が不十分であり、20.0原子%を超えると、ステンレス系合金の粉砕粉を用いた粉末冶金による前記焼結品の機械強度が低下するため、本発明によるステンレス系合金におけるBの添加量は、7.0%以上20.0原子%以下が良い。好ましくは8.0原子%以上15.0原子%以下が良く、さらに好ましくは8.0原子%以上13.0原子%以下が良い。
【0037】
Mo添加は、前記Crと同様、本発明によるステンレス系合金の耐食性に貢献するが、3.5原子%以上添加すると前記ステンレス系合金の硬度が増し、粉砕性が悪化することから、本発明によるステンレス系合金におけるMoの添加量は、0.0%以上3.5原子%以下が良い。好ましくは0.0原子%以上3.0原子%以下が良く、さらに好ましくは0.0原子%以上2.0原子%以下が良い。
【0038】
Cu添加は、Si添加と同様、本発明における単ロール溶湯急冷工程にて得られるステンレス系合金組織の微細化に寄与するが、添加量が4.0原子%を超えると、前記ステンレス系合金の粉砕粉を用いた粉末冶金による焼結品の機械強度が低下することから、本発明によるステンレス系合金におけるCuの添加量は、0.0%以上4.0原子%以下が良い。好ましくは0.0原子%以上3.0原子%以下が良く、さらに好ましくは0.0原子%以上2.0原子%以下が良い。
【0039】
本発明によるステンレス系合金において、不可避の不純物である炭素C、窒素N、酸素O、硫黄S、およびリンPは、前記ステンレス系合金の耐食性を維持するため、それぞれC≦2000ppm、N≦3000ppm、O≦3000ppm、S≦2000ppm、P≦500ppmにする必要があるが、CはNiと結びつき粉末冶金法にて得られるステンレス系焼結体において、オーステナイト相の生成に寄与するため、C≦1700ppmまでなら積極的に添加しても良い。同じくNも前記焼結体におけるオーステナイト相の生成に寄与するため、N≦1700ppmまでなら積極的に添加しても良い。さらに、SおよびPは前記焼結体における切削性の向上に寄与するため、S≦1500ppm、P≦450ppmを上限として積極的に添加しても良い。
【0040】
[金属組織]
一般的なステンレス鋼は、靭性に優れたオーステナイト相を構成するγ-Fe を主体とするが、本発明により得られるステンレス系合金は、α-Feを主体とした金属組織となる。但し、α-Feの体積比率が50%以下になると前記ステンレス系合金の靭性が増し、機械的粉砕を採用した際の粉砕性が低下するため、平均粉末粒径3μm~200μmを維持しながら、粉砕工程歩留り80%以上を確保出来ないため、前記ステンレス系合金に含まれるα-Feは、50体積%以上が良い。好ましくは、60体積%以上が良く、さらに好ましくは、80体積%以上が良い。
【0041】
単ロール溶湯急冷法を用いた合金溶湯の急冷凝固により作製される本発明によるステンレス系合金は、平均結晶粒径0.1μm~10μmのα-Feからなる微細金属組織が得られるが、平均結晶粒径が0,1μm以下の場合、平均結晶粒径が10μm以上の場合、共に前記ステンレス系合金の粉砕性が低下するため、 本発明によるステンレス系合金の平均結晶粒径は、0.1μm以上10μm以下とする。好ましくは、0.3μm以上5μm以下が良く、さらに好ましくは、0.5μm以上3μm以下が良い。
【0042】
[合金厚み]
α-Feを50体積%以上有し、平均結晶粒径0.1μm~10μmの微細組織からなる本発明にて得られるステンレス系合金は、合金厚みを15μm以上120μm以下にすることで、機械的粉砕における粉砕歩留り80%以上を確保することが可能となるが、合金厚みが15μm以下では、単ロール溶湯急冷時におけるステンレス系合金の生産効率が低下するため、製造コスト上昇の原因となる。一方、120μm以上では平均結晶粒径が10μm以上となり、粉砕性が劣化するため、本発明によるステンレス系合金の厚みは、15μm以上120μm以下が良い。好ましくは、18μm以上100μm以下が良く、より好ましくは、20μm以上80μm以下が良い。
【0043】
[酸化被膜]
本発明にて得られるステンレス系合金は、単ロール溶湯急冷時に急冷合金表面に20nm以下の酸化被膜が形成されるが、前記ステンレス系合金の絶縁性、および耐食性の向上効果を考慮すると前記酸化被膜の下限は1nm以上必要であり、好ましい前記酸化被膜の厚みは、2nm以上20nm以下、さらに好ましくは5nm以上20nm以下が良い。
【0044】
[粉砕粒度]
本発明にて得られるステンレス系合金は、ピンディスクミルを用いた粉砕工程において粉砕工程歩留り80%以上が得られるが、その際の平均粉砕粒径が50μm以下の場合、粉砕工程歩留り80%以上を確保出来ない。一方、平均粉砕粒径が200μm以上では、金属圧縮成形、および金属射出成形(MIM)における成形密度の低下を招来するため、ピンディスクミルを用いた前記ステンレス系合金の平均粉砕粒径は、50μm以上200μm以下が良い。好ましくは、60μm以上160μm以下が良い。より好ましくは、60μm以上130μm以下が良い。
【0045】
本発明にて得られるステンレス系合金は、ジェットミルを用いた粉砕工程において粉砕工程歩留り80%以上が得られるが、その際の平均粉砕粒径が3μm以下の場合、粉砕工程歩留り80%以上を確保出来ない。一方、平均粉砕粒径が50μm以上では、金属3Dプリンターにて成形品を製造する際、プリンターノズルが閉塞する原因となるため、ジェットミルを用いた前記ステンレス系合金の平均粉砕粒径は、3μm以上50μm以下が良い。好ましくは、3μm以上40μm以下が良い。より好ましくは、4μm以上30μm以下が良い。
【0046】
[溶湯急冷]
本発明の単ロール溶湯急冷工程において合金溶湯を噴射するノズルは、ノズル底部に単孔の開口孔を配した噴射ノズル、あるいは、前記冷却ロールの回転方向に対して直角となる一方向に間隔をあけて配置された二孔以上の複数の開口孔を有する図面(c-2)に記載の複数孔型噴射ノズルを用いても良いが、開口孔の直径が0.5mm以下では合金溶湯をノズルから噴出する際の単位時間当たり溶湯出湯量が少なくなりの開口部が冷却固化した合金溶湯により閉塞する。一方、前記開口孔の直径が2.0mm以上では単位時間当たり溶湯出湯量が多くなり過ぎるため、前記冷却ロールによる合金溶湯の抜熱が間に合わず、冷却ロール表面が局所的に溶融し、作製される急冷合金(ステンレス系合金)が前記冷却ロールに張り付き、溶湯急冷を継続出来ないことから、前記開口孔の直径は、0.5mm以上2.0mm以下が良い。好ましくは、0.5mm以上1.5mm以下が良く、さらに好ましくは、0.7mm以上1.2mm以下が良い。
【0047】
なお、複数孔型噴射ノズルにおける各開口孔同士の間隔は、噴射ノズルからの合金溶湯噴出時、開口孔同士間の脱落を防止するため、各スリットの間隔を2.0mm以上離すことが良い。また、急冷合金(ステンレス系合金)の生成効率を上げることを考慮すると、複数の開口孔同士の間隔は、30.0mm以下であることが良い。
【0048】
前記の単孔型噴射ノズル、および複数孔型噴射ノズルを用い、銅、銅合金、Mo、およびWのいずれかを主原料とする冷却ロールの表面上に本発明の合金組成になるよう配合し溶解した合金溶湯を噴射することで、厚み15μm以上120μm以下のステンレス系合金を得ることが出来るが、ロール表面速度10m/秒以下の場合は、急冷合金の厚みが120μm以上となるため、ステンレス系合金の金属組織が粗大化し、粉砕性が損なわれる。一方、ロール表面速度が40m/秒以上では噴射ノズルから冷却ロール表面上へ供給された合金溶湯が冷却ロール表面と密着出来ず、急冷合金(ステンレス系合金)の生成が不安定になるため、ロール表面速度は、10m/秒以上40m/秒以下が良い。なお、ステンレス系合金組織の微細化、およびステンレス系合金の生成を安定化するには、ロール表面速度15m/秒以上40m/秒以下が好ましく、より好ましくは、18m/秒以上38m/秒以下が良い。
【0049】
前記合金溶湯を急冷ロール表面上へ供給する噴射ノズルの材質は、石英(SiO2)、窒化硼素(BN)、炭化珪素素(SiC)、およびアルミナ(Al2O3)のいずれかを主成分とすることが好ましい。
【0050】
前記ステンレス系合金を作製する際は、合金溶湯と冷却ロールの密着性が重要であり、本合金溶湯の密着性は冷却ロールの素材にも影響されることから冷却ロールの素材は熱伝導と融点も考慮し、銅または銅を主成分とする合金、MoまたはMoを主成分とする合金、あるいは、WまたはWを主成分とする合金のいずれかが良いが、ステンレス系合金の製造に係る設備およびランニングコストを鑑み、銅または銅を主成分とする合金が好ましい。加えて、冷却ロール表面の表面粗度も合金溶湯と冷却ロールの密着性に影響することから、冷却ロール表面の算術平均粗さRaを10nm以上20μm以下とすることが良く、生産効率と品質を考慮してRaは50nm以上10μm以下が好ましく、100nm以上10μm以下がより好ましい。
【0051】
本発明における合金溶湯と冷却ロールの密着性は、前記の冷却ロールの表面粗度に加えて、噴射ノズルから冷却ロール表面へ供給される合金溶湯の噴射圧力にも影響する。前記噴射圧力が2kPa以下では合金溶湯の冷却ロール表面への押し付けが弱く、合金溶湯が冷却ロール表面に密着出来ないことから、合金溶湯の急冷凝固が実施出来ない。一方、前記噴射圧力が60kPa以上では、冷却ロール表面への合金溶湯の押し付け圧が強過ぎるため、合金溶湯が冷却ロール上で跳ね飛ばされ溶湯急冷が実施出来ないことから噴射圧力は、2kPa以上60kPa以下が良い。好ましくは5kPa以上40kPa以下良く、より好ましくは、10kPa以上30kPa以下が良い。
【0052】
さらに本発明において重要な合金溶湯と冷却ロールの密着性は、前記冷却ロールの内部を流れるロール冷却水量および冷却水温にも影響する。ロール冷却水が0.1立米/min以下の場合、ノズルから冷却ロール表面上に噴射された合金溶湯の熱量を冷却ロールで抜熱出来ず、冷却ロールの表面温度が徐々に上がり冷却ロール表面が局所的に溶融するため溶湯急冷が実施出来ない。一方、20立米/min以上のロール冷却水量では、ロール冷却水IN側の温度とロール冷却水OUT側の温度差ΔTが1℃以下となり、溶湯冷却中の冷却ロールの表面温度が上がらず、冷却ロール表面と合金溶湯の密着性が不安定な状態になることから、0.1立米/min以上20立米/min以下のロール冷却水量が良い。好ましくは、0.2立米/min以上15立米/min以下が良く、より好ましくは、0.3立米/min以上15立米/min以下が良い。
【0053】
なお、前記ロール冷却水の水温は、5℃以上60℃以下であることが良い。5℃以下では前記合金溶湯と冷却ロールの密着性を確保出来ず、60℃以上ではステンレス系合金の冷却ロールからの剥離が不安定になる。好ましくは、10℃以上60℃以下が良く、より好ましくは、15℃以上55℃以下が良い。
【0054】
前記ステンレス系合金の製造方法において、前記冷却ロールは、外径200mm以上1500mm以下が良い。外径200mm以下では冷却ロール表面上にてステンレス系合金が生成された後、冷却ロールからステンレス系合金が剥離するまでの時間が短く、十分に溶湯急冷が実施されず、微細な金属組織が得られない。一方、外径1500mm以上の冷却ロールは鍛造方法で作製することが困難である。好ましくは、外径230mm以上1300mm以下が良く、より好ましくは、外径280mm以上1200mm以下が良い。
【0055】
本発明におけるステンレス系合金の製造方法において、前記冷却ロールの全長は、前記複数孔型ノズルの開口孔全長(開口孔の一方の最外から、もう一方の開口孔の最外までの距離をノズル開口孔の全長とする)に20mm以上400mm未満の長さを加えたロール全長が良く、加えて前記冷却ロールの厚みは5mm以上100mm以下が良い。前記開口孔全長に20mm以下の長さを加えた冷却ロール全長、並びに前記冷却ロールの厚みが5mm以下の場合は、前記冷却ロールのヒートシンクとしての熱容量を考慮した場合、噴射ノズルから冷却ロールに供給される合金溶湯が持つ熱量を前記ロール冷却水にて抜熱される前に冷却ロールの温度が上がり過ぎることから、安定した溶湯急冷が実施出来ない。一方、前記開口孔全長に400mm以上の長さ加えたロール全長、並びに前記冷却ロールの厚みが100mm以上の場合は、前記冷却ロールの加工コストが大幅に上がることに加えて、前記ロール冷却水への熱伝導が遅く、冷却ロールの表面温度が上がり過ぎるため安定した溶湯急冷が実施出来ない。好ましい冷却ロールの長さは、前記開口孔全長に30mm以上300mm以下の長さを加えた長さが良く、加えて、前記冷却ロールの厚みは5mm以上70mm以下が良い。さらに好ましくは、前記開口孔全長に40mm以上300mm以下の長さを加えた長さが良く、加えて前記冷却ロールの厚みは7mm以上50mm以下が良い。
【0056】
なお、本発明における単ロール溶湯急冷装置の冷却ロールと噴射ノズルの位置関係において、噴射ノズルを冷却ロールの長さ方向に水平往復移動(トラバース)させながら合金溶湯を噴射ノズルから冷却ロールへ供給することで、冷却ロール表面の局所的溶融による荒れを低減出来ることから、噴出ノズルをトラバースさせない場合に比べて急冷凝固時間を延ばせるが、噴出ノズルのトラバース範囲は、冷却ロール全長以内に収めることが良く、好ましくは冷却ロールの長さの90%以内、より好ましくは80%以内が良い。
【0057】
また、本発明における単ロール溶湯急冷装置を用いた合金溶湯の急冷凝固過程において、冷却ロール表面の局所的溶融による荒れを低減する方法として、溶湯急冷中、冷却ロール表面を研磨、もしくは研削加工を施し、荒れを取り除くことでも急冷凝固時間を延ばすことが可能となる。
【0058】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0059】
(実施例)
表1に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のFe、Cr、Ni、Mn、Si、B、Mo、Cuの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解し、合金溶湯を用意した後、表1に記載のBN製の噴射ノズル(孔径、孔間隔、孔数を表1に記載)を底部に配した内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、噴射ノズル直下には表1に記載のノズル/ロール間ギャップにてクロムジルコン銅製の冷却ロール(外径600mm×幅200mm)が配置されている。
【0060】
その後、貯湯容器の周囲に設置された高周波加熱用コイルへ通電することで、前記合金溶湯50kgをさらに加熱し、溶湯温度が表1に記載の配合組成合金の融点より約100℃以上の溶湯温度に到達した後、噴射ノズル上部に配したアルミナ製溶湯ストッパーを引き抜き、貯湯容器の底部に配した噴射ノズルから合金溶湯を表2に記載の噴射圧にて、同じく表2に記載のロール表面速度にて回転している冷却ロールの表面上へ噴出した。なお、冷却ロールの表面粗度は急冷凝固工程前に予め表2に記載の算術平均粗さ(Ra)になるよう調節した。
【0061】
前記冷却ロールの表面へ噴出されロール上に押し付けられた前記合金溶湯は冷却ロール表面上にて湯だまり(パドル)を形成、パドルと冷却ロールの界面にて急冷凝固され、表3に示す平均厚み、および平均幅を持つ薄帯状の急冷凝固合金(本発明によるステンレス系合金)を得た。得られた前記ステンレス系合金は、直後にフェザーミルにより、長手方向が5mm~50mmのステンレス系合金薄片になるよう粗粉砕した。なお、実施例1~実施例10の全てにおいて、フェザーミルを用いた粗粉砕にて、ステンレス系合金の長手方向が50mm以下となる前記ステンレス系合金薄片の収率は、99%以上であった。
【0062】
前記ステンレス系合金薄片をピンディスクミル、もしくはジェットミルを用いて粉砕した。表4に粉砕歩留り(粉砕粉の収率)と粉砕粉の平均粉末粒径を示す。また、実施例にて作製した各ステンレス系合金のX線回折(XRD)評価によりα-Fe相の体積比率について評価した。加えて、各ステンレス系合金を構成する結晶粒の平均結晶粒径を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した明視野像の画像に対して二値化処理を行い、JIS規格(JIS G 0551:2005)に基づく画像解析により評価した。前記評価にて得たα-Feの体積%、および平均結晶粒径を表4に示す。代表例として図3に実施例1、図4に実施例3、および実施例4におけるX線回折プロファイルを示す。
【0063】
なお、実施例1~10のステンレス系合金の断面を透過型電子顕微鏡により酸素含有濃度を分析したところ前記ステンレス系合金の表面から20nm以下の厚みに酸素が濃化しており、ステンレス系合金の表面に酸化膜相が形成されていることを確認した。
【0064】
(比較例)
表1に示す各合金組成となるよう、純度99.5%以上のFe、Cr、Ni、Mn、Si、Bの各元素を配合した素原料100kgをアルミナ製坩堝へ挿入した後、高周波誘導加熱により溶解し合金溶湯を用意した後、表1に記載のBN製の噴射ノズル(孔径、孔間隔、孔数を表1に記載)を底部に配した内径200mm×高さ400mmのアルミナ製貯湯容器へ前記合金溶湯50kgを注いだ。なお、噴射ノズル直下には表1に記載のノズル/ロール間ギャップにてクロムジルコン銅製の冷却ロール(外径600mm×幅200mm)が配置されている。
【0065】
その後、貯湯容器の周囲に設置された高周波加熱用コイルへ通電することで、前記合金溶湯50kgをさらに加熱し、溶湯温度が配合組成合金の融点より約100℃以上の溶湯温度に到達した後、出湯ノズル上部に配したアルミナ製溶湯ストッパーを引き抜き、貯湯容器の底部に配した前記噴射ノズルから合金溶湯を表2に記載の噴射圧にて、同じく表2に記載のロール表面速度にて回転している冷却ロールの表面上へ噴出した。なお、冷却ロールの表面粗度は急冷凝固工程前に予め表2に記載の算術平均粗さ(Ra)になるよう調節した。
【0066】
前記冷却ロールの表面へ噴出されロール上に押し付けられた前記合金溶湯は冷却ロール表面上にて湯だまり(パドル)を形成、パドルと冷却ロールの界面にて急冷凝固され、表3に示す平均厚みおよび平均幅を持つ薄帯状の急冷凝固合金(本発明によるステンレス系合金)を得た。得られた前記ステンレス系合金は、直後、フェザーミルにより長手方向が5mm~50mmのステンレス系合金薄片になるよう粗粉砕した。なお、比較例11、比較例12および比較例13については、フェザーミルを用いた粗粉砕にてステンレス系合金の長手方向が50mm以下となる前記ステンレス系合金薄片の収率は、70%以下であった。
【0067】
前記ステンレス系合金薄片をピンディスクミル、もしくはジェットミルを用いて粉砕した。表4に粉砕歩留り(粉砕粉の収率)と粉砕粉の平均粉末粒径を示す。また、実施例にて作製した各ステンレス系合金のX線回折(XRD)評価によりα-Fe相の有無、および体積比率について評価した。加えて、各ステンレス系合金を構成する結晶粒の平均結晶粒径を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した明視野像の画像に対して二値化処理を行い、JIS規格(JIS G 0551:2005)に基づく画像解析により評価した。前記評価にて得たα-Feの体積%、および平均結晶粒径を表4に示す。代表例として図5に比較例11、図6に比較例13におけるX線回折プロファイルを示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【符号の説明】
【0072】
1 溶解坩堝
2 溶解用誘導加熱コイル(ワークコイル)
3 溶解坩堝傾動軸
4 貯湯容器(タンデッシュ)
5 貯湯容器誘導加熱コイル(ワークコイル)
6 噴射ノズル
7 ストッパー
8 合金溶湯
9 冷却ロール
10 急冷凝固合金(ステンレス系合金)
12 単孔型噴射ノズル
13 複数孔型噴射ノズル
14 冷却ロール回転方向
15 ディスク駆動モータ
16 回転側ピンディスク
17 固定側ピンディスク
18 粉砕ピン
19 粉砕前原料
20 粉砕品
21 シールエアー
図1
図2
図3
図4
図5
図6