(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185983
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】鉄道模型用レンズおよび前照灯付鉄道模型
(51)【国際特許分類】
A63H 19/20 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
A63H19/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093956
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】307002839
【氏名又は名称】久米川 正光
(74)【代理人】
【識別番号】100101982
【弁理士】
【氏名又は名称】久米川 正光
(72)【発明者】
【氏名】久米川 正光
【テーマコード(参考)】
2C150
【Fターム(参考)】
2C150AA05
2C150CA08
2C150DG01
(57)【要約】
【課題】鉄道模型における前照灯の内部構造をリアリティ豊かに表現する新規な模型的表現を提供する。
【解決手段】鉄道模型用レンズ3は、反射面3cを備える。この反射面3cは、レンズ本体3aにおける他方の端部に設けられ、開口部より入射した外光を反射する。ここで、反射面3cは、円周側から中心側に向かって湾曲しながら窄まり、中心部位が開口部の奥行き方向に最も突出した凸レンズ状の曲面形状を有し、これによって、露出面3bから視認可能な状態で、実物の前照灯が備える曲面状の反射板が形状的に表現されている。また、反射面3cの中心部位には、底面が半球状に形成された凹部3dが設けられ、これによって、露出面3aから視認可能な状態で、実物の前照灯が備える電球が形状的に表現されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道模型用レンズにおいて、
前記鉄道模型がおける前照灯に相当する部位に設けられ、円状の開口形状を有する開口部に挿入されるレンズ本体と、
前記レンズ本体における一方の端部に設けられ、前記開口部より露出した露出面と、
前記レンズ本体における他方の端部に設けられ、前記開口部より入射した外光を反射する反射面とを有し、
前記反射面は、円周側から中心側に向かって湾曲しながら窄まり、中心部位が前記開口部の奥行き方向に最も突出した凸レンズ状の曲面形状を有し、これによって、前記露出面から視認可能な状態で実物の前照灯が備える曲面状の反射板が形状的に表現されており、
前記反射面の中心部位には、底面が半球状に形成された凹部が設けられ、これによって、前記露出面から視認可能な状態で実物の前照灯が備える電球が形状的に表現されていることを特徴とする鉄道模型用レンズ。
【請求項2】
前記反射面の径に対する前記凹部の径の比は、0.15以上かつ0.3以下であることを特徴とする請求項1に記載された鉄道模型用レンズ。
【請求項3】
前記反射面は、前記反射面の曲面形状に沿って湾曲したハーフミラーと対向していることを特徴とする請求項1または2に記載された鉄道模型用レンズ。
【請求項4】
前記反射面は、発光体の出射光を前記開口部近傍に導く導光部の先端面に設けられた平面状のハーフミラーと間隔を空けて対向していることを特徴とする請求項1または2に記載された鉄道模型用レンズ。
【請求項5】
前照灯付鉄道模型において、
車両本体と、
前記車両本体における前照灯に相当する部位に設けられ、円状の開口形状を有する開口部と、
前記車両本体内に設けられ、発光体の出射光を前記開口部近傍に導く導光部と、
前記開口部に挿入されるレンズ部とを有し、
前記レンズ部は、請求項1から4のいずれかに記載された前記鉄道模型用レンズであることを特徴とする前照灯付鉄道模型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道模型用レンズ、および、これを用いた前照灯付鉄道模型に係り、特に、前照灯の内部構造の模型的表現に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、点灯式前照灯を備えた鉄道模型(模型車両)では、消灯時における前照灯の色味が黒くなるため、鉄道模型としてのリアリティに欠けるといった課題が知られている。この消灯色味を改善すべく、特許文献1には、車両本体に内蔵された発光体の光を前照灯に相当する部位(露出面)に導く導光部の途中にハーフミラーを設け、ハーフミラーによって露出面より入射した外光を反射させる前照灯付模型用の導光機構が開示されている。この導光機構では、ハーフミラーの反射性と半透過性とを利用することで、点灯性を損なうことなく、リアリティのある消灯色味を実現する。
【0003】
また、ハーフミラーによる反射に代えて、導光部の構成材料と空気との屈折率の差に起因した反射を用いて、消灯色味を改善する手法も知られており、一部のNゲージ製品で既に採用されている。この反射は、発光体の光を自己の形状に沿って導く導光部の一部(先端面から見通すことができる導光部位)に、空気との境界面を形成することによって実現される。最も簡単なものは、α-モデル製の大型白熱灯タイプの前照灯(Nゲージ用パーツNo.233)のように、導部体を前後に分割する構成である(非特許文献1)。
図10に示すように、後導光部の前方に配置される前導光部は、模型の貫通孔より露出する一対の露出面Aを備え、それぞれの後面(空気との境界面)には、露出面A側に向かってすり鉢状に窄まった形状の凹部が反射面Bとして形成されている。また、別の構成として、KATO製のクモハ165ヘッドライトレンズ(ASSYパーツZ04-8103)のような導光部も存在する(非特許文献2)。
図11に示すように、この導光部は、模型の貫通孔より露出する一対の先端面Aを備え、それぞれの先端面Aから奥まるに向かって徐々に窄まったテーパー形状を有している。このテーパー状に窄まった導光部周りの表面(先端面に対して傾斜したテーパー面)が外光の反射面Bとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】[Nゲージ]アルファモデル113系地上・耐雪型キット ご予約受付中です,みやこ模型だより[online],2013年 5月15日,[検索日:2021/6/3],URL,http://blog.miyakomokei.com/?p=5335
【非特許文献2】[Nゲージ]カトークモハ165ヘッドライトレンズ他入荷しました,みやこ模型だより[online],2017年 1月17日,[検索日:2021/6/3],URL,http://blog.miyakomokei.com/?p=12696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いうまでもなく、鉄道模型のリアリティは全体のバランスが重要である。したがって、ある部分のリアリティが向上すると、今まで気にならなかった他の部分のリアリティが気になりだすということは、鉄道模型をこよなく愛するユーザにとっての極自然な心理といえる。鉄道模型における消灯色味の認知がここまで広まった今日、単なる消灯色味の改善にとどまらず、更なる付加価値の向上が望まれる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、鉄道模型における前照灯の内部構造をリアリティ豊かに表現する新規な模型的表現を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決すべく、第1の発明は、レンズ本体と、露出面と、反射面とを有する鉄道模型用レンズを提供する。レンズ本体は、鉄道模型がおける前照灯に相当する部位に設けられ、円状の開口形状を有する開口部に挿入される。露出面は、レンズ本体における一方の端部に設けられ、開口部より露出している。反射面は、レンズ本体における他方の端部に設けられ、開口部より入射した外光を反射する。ここで、反射面は、円周側から中心側に向かって湾曲しながら窄まり、中心部位が開口部の奥行き方向に最も突出した凸レンズ状の曲面形状を有し、これによって、露出面から視認可能な状態で実物の前照灯が備える曲面状の反射板が形状的に表現されている。また、反射面の中心部位には、底面が半球状に形成された凹部が設けられ、これによって、露出面から視認可能な状態で実物の前照灯が備える電球が形状的に表現されている。
【0009】
ここで、第1の発明において、上記反射面の径に対する上記凹部の径の比は、0.15以上かつ0.3以下であることが好ましい。また、上記反射面は、その曲面形状に沿って湾曲したハーフミラーと対向していてもよい。また、上記反射面は、発光体の出射光を開口部近傍に導く導光部の先端面に設けられた平面状のハーフミラーと間隔を空けて対向していてもよい。
【0010】
第2の発明は、車両本体と、開口部と、導光部と、レンズ部とを有する前照灯付鉄道模型を提供する。開口部は、車両本体における前照灯に相当する部位に設けられ、円状の開口形状を有する。導光部は、車両本体内に設けられ、発光体の出射光を開口部近傍に導く。レンズ部は、開口部に挿入され、上記第1の発明に係る鉄道模型用レンズが用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実物の反射板のようなものを設けなくても、外光を反射する反射面を形状的に工夫することによって、前照灯の内部構造をリアリティ豊かに表現できる。特に、ハーフミラーを併用した場合、反射面を凸レンズ状に曲面化にすることで、これを平面状にした場合と比較して、消灯色味を実物同様のレベルまで高輝度化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図7】第1の変形例に係るレンズ部を含む光学系の断面図
【
図8】第2の変形例に係るレンズ部を含む光学系の断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、前照灯付鉄道模型の外観図である。この前照灯付鉄道模型1は、前照灯を備えた鉄道車両の外観形状を模した車両本体2を主体に構成されている。前照灯を備えた鉄道車両としては、電車や気動車の制御車、電気機関車(EL)、ディーゼル機関車(DL)、蒸気機関車(SL)などが挙げられる。特に、国鉄時代の車両の場合、大型白熱灯タイプや小型シールドビームタイプといった前照灯が汎用的に搭載されている。車両本体2の前照灯に相当する部位には、円状の開口形状を有する開口部2aが設けられている。開口部2aには、鉄道模型用レンズ3(以下「レンズ部3」という。)が外部に露出した形態で挿入されている。
【0014】
本実施形態に係るレンズ部3の説明に先立ち、鉄道車両が備える実物の前照灯の内部構造について説明する。
図2は、実物の前照灯の内部構造を示す断面図である。実物の前照灯4は、反射板4aと、電球4bと、ガラス部4cとを主体に構成されている。反射板4aは、アルミニウム等の金属板材で形成されており、円周側から中心側に向かって湾曲しながら窄まり、中心部位が奥行き方向(同図右側)に最も突出した曲面形状を有する。電球4bは、反射板4aの中央に取り付けられている。ガラス部4cは、反射板4aの前方に配置されており、これによって、反射板4aおよびガラス部4cの間に内部空間が形成されている。前照灯4の点灯時には、電球4bの光が反射板4aによって多方向に反射して、前照灯4の前方に向かって出射される。一方、前照灯4の消灯時には、ガラス部4cを透過した外光が反射板4aにて反射し、ガラス部4cを再び透過して外部へ出射される。
【0015】
図3は、消灯時における実物の前照灯4の写真である。消灯状態の前照灯4を外部から目視した場合、この前照灯4の内部構造、すなわち、反射板4aおよび電球4bが存在することが確認できる。特に、曲面状の反射板4aが外光を反射することに由来して、反射板4aの曲面形状が光のグラデーションとなって明確に看て取れる。本実施形態は、このような前照灯4の内部構造を再現することを目的とするが、Nゲージ(1/150スケール)やHOゲージ(1/80スケール)といった鉄道模型では、実物同様の構成は採り難い。
【0016】
図4は、本実施形態に係るレンズ部3の外観斜視図である。このレンズ部3は、レンズ本体3aを主体に構成されており、露出面3bと、反射面3cとを有する。本実施形態の特徴は、実物では別体化されている反射板4aおよびガラス部4cをレンズ本体3aとして一体化し、レンズ本体3aそのものの形状によって、実物の前照灯4の内部構造を表現する点にある。
【0017】
レンズ本体3aは、透明な樹脂材で形成されており、円柱状または円板状の形状を有する。このレンズ本体3aは、鉄道模型(車両本体2)の開口部2aに挿入される。露出面3bは、レンズ本体3aにおける一方の端部に設けられ、開口部2aより露出する。この露出面3bには、
図2に示した実物の前照灯4と同様、縦方向に筋状に延在する縦縞模様と、中央に設けられた円状の突起とが表現されている。一方、反射面3cは、レンズ本体3aにおける他方の端部に設けられ、開口部2aより入射した外光を反射する。反射面3cは、その全面が円周側から中心側に向かって湾曲しながら窄まり、中心部位が開口部2aの奥行き方向に最も突出した凸レンズ状の曲面形状を有する。これによって、露出面3bから視認可能な状態で、実物の前照灯4が備える曲面状の反射板4aが形状的に表現される。反射面3cの曲率は、実物の反射板4aのそれと必ずしも同一である必要はなく、開口部2aの奥行き方向のスペースなどを考慮した上で適宜設定すればよい。
【0018】
反射面3cの中心部位には、底面が半球状に形成された凹部3dが設けられてている。これによって、露出面3bから視認可能な状態で、実物の前照灯4が備える電球4bが形状的に表現される。反射面3cの径に対する凹部3dの径の比は、反射板4aおよび電球4bの実測比や、模型的表現としての凹部3dのバランスなどを考慮すると、0.15以上かつ0.3以下であることが好ましい。
【0019】
なお、前照灯4の内部構造を忠実に再現するという観点では、反射面3cを凸レンズ状の曲面形状にすると共に、実際の電球4bを模した凹部3dを設けることが好ましいが、凹部3dについては省略しても構わない。
【0020】
また、反射面3cにおける凸レンズ状の部位は、
図4に示したように反射面3cの全面である必要は必ずしもない(ただし、反射面3cの主体を占める必要はある.)。例えば、
図5に示すように、レンズ部3の奥行き方向の位置決めなどの理由から、反射面3cの周囲に幅狭な平坦面3eを設けてもよい。
【0021】
図6は、レンズ部3の断面図である。前照灯の点灯時、すなわち、模型本体2に内蔵された発光体(図示せず。)の発光時には、発光体の出射光が反射面3cに入射する。反射面3cに入射した光は、レンズ本体3a内を透過して、露出面3bより外部に向かって出射される。一方、前照灯の消灯時(発光体の非点灯時)には、外光が露出面3bより入射する。露出面3bに入射した外光は、レンズ本体3a内を透過し、反射面3cにおいて部分的に反射する。反射面3cの反射率は、レンズ本体3aの構成材料と空気との屈折率の差に応じて決定される。そして、反射光は、レンズ本体3a内を折り返した上で、露出面3bより外部に向かって再び出射される。外部に出射された反射光を目視することによって、実際の反射板4aを模した反射面3cと、実際の電球4bを模した凹部3dとの存在が外部より看て取れる(内部構造のシースルー化)。
【0022】
上述した基本構成の変形例として、消灯色味を高輝度化すべく、ハーフミラーを併用してもよい。
図7は、第1の変形例に係るレンズ部3を含む光学系の断面図である。第1の変形例において、反射面3cは、その曲面形状に沿って湾曲した曲面状のハーフミラー5と対向している。曲面状のハーフミラー5の形成方法としては、例えば、真空蒸着またはスパッタリングによって、曲面状の反射面3c上にハーフミラー薄膜を形成してもよい。また、別の例として、レンズ部3と、その後ろに配置された導光部(図示せず。)との曲面部位同士を対向させて、別部材として用意されたハーフミラーフィルムを挟み込むことで曲面化してもよい。導光部は、発光体の出射光を開口部2a近傍に導くために用いられる。第1の変形例によれば、反射面3cの近傍に曲面状のハーフミラー5を設けることで、ハーフミラー5による反射光量が著しく増大するため、点灯性を阻害することなく、前照灯の内部構造をより鮮明にシースルー化できる。それとともに、反射面3cを平面状にした構成と比較して、反射面3cの面積が増大するため、消灯色味を著しく高輝度化できる。
【0023】
図8は、第2の変形例に係るレンズ部3を含む光学系の断面図である。第2の変形例において、反射面3cは、導光部6の先端面に設けられた平面状のハーフミラー5と間隔を空けて対向している。第2の変形例によれば、第1の変形例と同様、点灯性を阻害することなく、前照灯の内部構造をより鮮明にシースルー化できる。それとともに、反射面3cに形成された凸レンズの作用によって、反射面3cを平面状にした構成と比較して、消灯色味を著しく高輝度化できる。
図9は、消灯色味の比較写真であり、右側の前照灯は、既存製品(トミーテック製HOゲージのクハ153)のままの比較例、左側の前照灯は、既存製品を加工した実施例である。比較例では、導光部が備える平坦な先端面にハーフミラーがホットスタンプされており、平坦なハーフミラーと間隔を空けて、平坦な反射面を備えるレンズ部が配置されている。これに対して、実施例では、比較例における平坦な反射面にクリアパテを盛ることによって、反射面を凸レンズ化している。両者の比較写真から明らかなように、ハーフミラーの奥行き方向の位置が同一であっても、比較例の消灯色味よりも実施例の消灯色味の方がはるかに明るく、かつ、あたかも実物の反射板が存在するかのようなグラデーションが形成されていることが看て取れる。
【0024】
このように、本実施形態によれば、実物の反射板のようなものを設けなくても、外光を反射する反射面3cを形状的に工夫することによって、前照灯の内部構造をリアリティ豊かに表現できる。
【0025】
また、本実施形態によれば、ハーフミラー5を併用した場合、反射面3cを凸レンズ化することで、これを平面状にした構成と比較して、消灯色味を実物同様のレベルまで高輝度化できる。
【符号の説明】
【0026】
1 前照灯付鉄道模型
2 車両本体
2a 開口部
3 鉄道模型用レンズ(レンズ部)
3a レンズ本体
3b 露出面
3c 反射面
3d 凹部
4 実際の前照灯
4a 反射板
4b 電球
4c ガラス部
5 ハーフミラー
6 導光部