(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185997
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】パルスアーク溶接電源
(51)【国際特許分類】
B23K 9/09 20060101AFI20221208BHJP
B23K 9/073 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/073 545
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093981
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】下新原 春菜
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082EA11
4E082EB11
4E082EC03
4E082ED01
4E082EE07
(57)【要約】
【課題】パルスアーク溶接において、ピーク期間中に短絡が発生しても、スパッタ発生を少なくし、溶接状態を安定に維持すること。
【解決手段】立上り期間中はベース電流設定値Ibrからピーク電流設定値Iprへと上昇し、ピーク期間中はピーク電流設定値Iprとなり、立下り期間中はピーク電流設定値Iprからベース電流設定値Ibrへと下降し、ベース期間中はベース電流設定値Ibrとなる溶接電流設定信号Irを出力する溶接電流設定部IRと、溶接電流設定信号Irに基づいて溶接電流Iwを出力する電力制御回路MCと、を備えたパルスアーク溶接電源において、溶接ワイヤ1と母材2との短絡状態を判別して短絡判別信号Sdを出力する短絡判別部SDと、溶接電流設定部IRは、短絡判別信号Sdを入力として、ピーク期間中に短絡が発生するとベース期間に移行させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給する送給モータと、
前記送給モータの送給速度を制御する送給制御部と、
立上り期間中はベース電流設定値からピーク電流設定値へと上昇し、ピーク期間中は前記ピーク電流設定値となり、立下り期間中は前記ピーク電流設定値から前記ベース電流設定値へと下降し、ベース期間中は前記ベース電流設定値となる溶接電流設定信号を出力する溶接電流設定部と、
前記溶接電流設定信号に基づいて溶接電流を出力する電力制御回路と、
を備えたパルスアーク溶接電源において、
前記溶接ワイヤと母材との短絡状態を判別して短絡判別信号を出力する短絡判別部と、
前記溶接電流設定部は、前記短絡判別信号を入力として、前記ピーク期間中に短絡が発生すると前記ベース期間に移行させる、
ことを特徴とするパルスアーク溶接電源。
【請求項2】
前記溶接電流設定部は、前記短絡の継続中は前記ベース電流設定値を増加させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接電源。
【請求項3】
前記溶接電流設定部は、前記短絡の継続時間が基準時間以上になると前記ベース電流設定値から経時的に上昇し、前記短絡が解除されると前記ベース電流設定値に戻る溶接電流設定信号を出力する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接電源。
【請求項4】
前記送給制御部は、前記短絡判別信号を入力として、前記短絡の継続時間が前記基準時間以上になると前記溶接ワイヤを逆走し、前記短絡が解除されると正送に戻す、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のパルスアーク溶接電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤを送給して溶接するパルスアーク溶接電源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式パルスアーク溶接は、鉄鋼等の溶接に広く使用されている。このパルスアーク溶接では、溶接ワイヤを送給し、ピーク期間中はピーク電流を通電し、ベース期間中はベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返して溶接が行われる。また、溶接電圧の平均値が溶接電圧設定値と等しくなるように溶接電流のパルス周期又はピーク期間をフィードバック制御することによってアーク長を適正値に維持している。パルスアーク溶接では、1パルス周期1溶滴移行状態となるので、溶滴移行状態が安定しているために、スパッタの発生が少なく、美しいビード外観を得ることができる。
【0003】
消耗電極式パルスアーク溶接では、溶滴の移行に伴い溶接ワイヤと母材との短絡が時々発生する。短絡がピーク期間中に発生すると、大電流値のピーク電流が通電しているために、多くのスパッタが発生する。これを抑制するために、ピーク期間中に短絡が発生すると、溶接電流を低下させる制御が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術のパルスアーク溶接においては、ピーク期間中に短絡が発生すると、溶接電流を低下させている。しかし、ピーク期間中に短絡が発生すると、1パルス周期1溶滴移行状態から逸脱してしまうために、溶接状態が不安定になるという問題が発生する。
【0006】
そこで、本発明では、ピーク期間中に短絡が発生しても、スパッタ発生を少なくし、かつ、溶接状態を安定に維持することができるパルスアーク溶接電源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給する送給モータと、
前記送給モータの送給速度を制御する送給制御部と、
立上り期間中はベース電流設定値からピーク電流設定値へと上昇し、ピーク期間中は前記ピーク電流設定値となり、立下り期間中は前記ピーク電流設定値から前記ベース電流設定値へと下降し、ベース期間中は前記ベース電流設定値となる溶接電流設定信号を出力する溶接電流設定部と、
前記溶接電流設定信号に基づいて溶接電流を出力する電力制御回路と、
を備えたパルスアーク溶接電源において、
前記溶接ワイヤと母材との短絡状態を判別して短絡判別信号を出力する短絡判別部と、
前記溶接電流設定部は、前記短絡判別信号を入力として、前記ピーク期間中に短絡が発生すると前記ベース期間に移行させる、
ことを特徴とするパルスアーク溶接電源である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記溶接電流設定部は、前記短絡の継続中は前記ベース電流設定値を増加させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスアーク溶接電源である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記溶接電流設定部は、前記短絡の継続時間が基準時間以上になると前記ベース電流設定値から経時的に上昇し、前記短絡が解除されると前記ベース電流設定値に戻る溶接電流設定信号を出力する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスアーク溶接電源である。
【0010】
請求項4の発明は、
前記送給制御部は、前記短絡判別信号を入力として、前記短絡の継続時間が前記基準時間以上になると前記溶接ワイヤを逆走し、前記短絡が解除されると正送に戻す、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のパルスアーク溶接電源である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパルスアーク溶接電源によれば、ピーク期間中に短絡が発生しても、スパッタ発生を少なくし、かつ、溶接状態を安定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接装置のブロック図である。
【
図2】
図1のパルスアーク溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接装置のブロック図である。溶接装置は、主に破線で囲まれた溶接電源PS、ロボット制御装置RC、ロボット(図示は省略)等から構成されている。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
溶接電源PSは、以下の各ブロックから構成されている。
【0016】
電力制御回路MCは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接に適した溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電力制御回路MCは、図示は省略するが、交流商用電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランス、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路を備えている。
【0017】
リアクトルWLは、上記の電力制御回路MCの+側出力と溶接トーチ4との間に挿入されており、電力制御回路MCの出力を平滑する。
【0018】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcによって回転駆動される。溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給速度Fwで送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。送給モータWM及び溶接トーチ4は、ロボットに搭載されている。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間に溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。
【0019】
溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。溶接電圧平均化回路VAVは、この溶接電圧検出信号Vdを平均化(ローパスフィルタを通す)して、溶接電圧平均値信号Vavを出力する。溶接電圧設定回路VRは、予め定めた溶接電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の溶接電圧設定信号Vr(+)と上記の溶接電圧平均値信号Vav(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0020】
電圧フィードバック制御回路VFは、上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、電圧誤差増幅信号Evに基づいて電圧/周波数変換を行い、パルス周期ごとに短時間Highレベルとなるパルス周期信号Tfを出力する。
【0021】
立上り期間設定回路TURは、予め定めた立上り期間設定信号Turを出力する。ピーク期間設定回路TPRは、予め定めたピーク期間設定信号Tprを出力する。立下り期間設定回路TKRは、予め定めた立下り期間設定信号Tkrを出力する。
【0022】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0023】
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間であると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間であると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。
【0024】
短絡電流設定回路ISRは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた短絡ベース電流設定値Ibsrとなり、短絡期間の継続時間が基準時間以上になると上記の短絡ベース電流設定値Ibsrから経時的に上昇する短絡電流設定信号Isrを出力する。短絡ベース電流設定値Ibsrは、上記のベース電流設定信号Ibrと等しい値に設定しても良いし、その値に増加値を加算した値に設定しても良い。。短絡期間は多くは2msよりも短い期間であるが、時々、2ms以上の長期短絡が発生する場合がある。このような長期短絡を早期に解除してアーク期間に移行させるために、短絡電流を上昇させている。したがって、上記の基準時間は、長期短絡を判別する時間であり、例えば2msに設定される。
【0025】
溶接電流設定回路IRは、上記のパルス周期信号Tf、上記の立上り期間設定信号Tur、上記のピーク期間設定信号Tpr、上記の立下り設定信号Tkr、上記のピーク電流設定信号Ipr、上記のベース電流設定信号Ibr、上記の短絡判別信号Sd及び上記の短絡電流設定信号Isrを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化するごとに、以下の処理を行ない、溶接電流設定信号Irを出力する。
1)立上り期間設定信号Turによって定まる立上り期間Tu中は、ベース電流設定信号Ibrの値からピーク電流設定信号Iprの値へと上昇する溶接電流設定信号Irを出力する。
2)続けて、ピーク期間設定信号Tprによって定まるピーク期間Tp中は、ピーク電流設定信号Iprを溶接電流設定信号Irとして出力する。
また、ピーク期間Tp中に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化したときは、直ちに4)のベース期間の処理に移行する。
3)続けて、立下り期間設定信号Tkrによって定まる立下り期間Tk中は、ピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと下降する溶接電流設定信号Irを出力する。
4)続けて、パルス周期信号Tfが再び短時間Highレベルになるまでのベース期間Tb中は、ベース電流設定信号Ibrを溶接電流設定信号Irとして出力する。
また、ベース期間Tb中に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときは短絡電流設定信号Isrを溶接電流設定信号Irとして出力する。
【0026】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の溶接電流設定信号Ir(+)と上記の溶接電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。駆動回路DVは、この電流誤差増幅信号Ei及び後述するロボット制御装置RCからの起動信号Onを入力として、起動信号OnがHighレベル(溶接開始)のときは電流誤差増幅信号Eiに基いてPWM変調制御を行ない上記の電力制御回路MC内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、起動信号OnがLowレベル(溶接停止)のときは駆動信号Dvを出力しない。
【0027】
送給速度設定回路FRは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡期間中は予め定めた正送値となり、短絡期間の継続時間が上記の基準時間以上になると予め定めた逆送値となり、アーク期間中は上記の正送値となる送給設定信号Frを出力する。正送とは溶接ワイヤを母材に近づく方向に前進送給させることであり、逆送とは溶接ワイヤを母材から離れる方向に後退送給させることである。上述したように、短絡期間は多くは2msよりも短い期間であるが、時々、2ms以上の長期短絡が発生する場合がある。このような長期短絡を早期に解除してアーク期間に移行させるために、溶接ワイヤを逆送させている。
【0028】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Fr及び後述するロボット制御装置RCからの起動信号Onを入力として、起動信号OnがHighレベル(溶接開始)のときは溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frの値で送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力し、起動信号OnがLowレベルのときは送給を停止するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0029】
ロボット制御装置RCは、予め教示された作業プログラムに従ってロボット(図示は省略)を移動させると共に、溶接開始又は溶接停止を指令する起動信号Onを出力する。
【0030】
上記の実施の形態においては、短絡の継続時間が基準時間以上となる長期短絡が発生すると、ベース電流の上昇と溶接ワイヤの逆送との両社を実施する場合について説明したが、どちらか一方だけを実施するようにしても良い。
【0031】
図2は、
図1のパルスアーク溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は溶接ワイヤの送給速度Fwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示す。送給速度Fwは、正の値のときは正送時であり、負の値のときは逆送時である。以下、同図を参照して、各信号の動作について説明する。
【0032】
同図は、時刻t1~t2のパルス周期Tfにおいては短絡が発生しなかった場合であり、時刻t2~t3のパルス周期Tfにおいてはピーク期間Tpの途中に短絡が発生した場合である。
【0033】
(1) 時刻t1~t2のパルス周期Tfにおいて、予め定めた立上り期間Tu中は、同図(A)に示すように、予め定めたベース電流Ibから予め定めたピーク電流Ipへと上昇する上昇遷移電流Iuが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する上昇遷移電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加する。続く予め定めたピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤから溶滴を移行させるために臨界値以上の大電流値のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したピーク電圧Vpが印加する。続く予め定めた立下り期間Tk中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する下降遷移電流Ikが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpからベース電圧Vbへと下降する下降遷移電圧が印加する。続くベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶滴を形成しないようにするために臨界値未満の小電流値のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したベース電圧Vbが印加する。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1~t2のパルス周期Tf中は予め定めた正送値となり、一定の速度で送給される。同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク期間)のままである。
【0034】
本実施の形態においては、
図1の溶接電圧平均値信号Vavの値が予め定めた
図1の溶接電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにパルス周期Tfがフィードバック制御(変調制御)される。このために、立上り期間Tu、ピーク期間Tp、立下り期間Tk、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定され、ベース期間Tb(パルス周期Tf)は溶接電圧Vwの平均値が予め定めた溶接電圧設定値と等しくなるようにフィードバック制御によって定まる。これにより、アーク長が適正値になるように制御される。
【0035】
立上り期間Tuは
図1の立上り期間設定信号Turによって設定され、ピーク期間Tpは
図1のピーク期間設定信号Tprによって設定され、立下り期間Tkは
図1の立下り期間設定信号Tkrによって設定される。ピーク電流Ipは
図1のピーク電流設定信号Iprによって設定され、ベース電流Ibは
図1のベース電流設定信号Ibrによって設定される。送給速度Fwの正送値は
図1の送給速度設定信号Frによって設定される。
【0036】
上述した各パラメータの数値例を以下に示す。
Tu=0.5ms、Tp=1.2ms、Tk=0.5ms、Tf=4~10ms
Ip=450A、Ib=50A
Fwの正送値=2~10m/min
【0037】
(2) 時刻t2~t3のパルス周期Tfにおいて、時刻t21までの溶接電流Iw、溶接電圧Vw、送給速度Fw及び短絡判別信号Sdの波形は、前周期と同一である。
【0038】
ピーク期間TP中の時刻t21において、短絡が発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(d)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベルに変化する。これに応動して、
図1の溶接電流設定回路IRによって、直ちにベース期間Tbへと移行する。この結果、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは予め定めた短絡ベース電流Ibsへと急減する。短絡ベース電流Ibsの値は、ベース電流Ibと等しい値又はその値に増加値を加算した値に設定される。増加値は、例えば50~100A程度である。短絡期間中の溶接電流Iwは、
図1の短絡電流設定信号Isrによって設定される。上述したように、ピーク期間Tp中に短絡が発生すると、直ちにベース期間Tbに移行させることによって、溶接電流Iwを小電流値の短絡ベース電流値Ibsに急減させている。この結果、スパッタの発生を少なくすることができる。
【0039】
時刻t22において、短絡期間の継続時間が予め定めた基準時間に達すると、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは経時的に上昇する。同時に、同図(C)に示すように、溶接ワイヤは予め定めた逆送値で逆送される。上述したように、基準時間は、長期短絡を判別する値であり、例えば2msに設定される。逆送値は、早期に短絡を解除するために、大きな値に設定され、例えば-20~-40m/minに設定される。上述したように、短絡の多数は時刻t22までに解除されてアークが再発生する。しかし、時々、長期短絡が発生する場合が生じる。このような場合には、ベース電流Ibの上昇及び/又は溶接ワイヤの逆送を実施することによって、長期短絡状態を早期に解除してアークを再発生させることができる。
【0040】
時刻t23において、アークが発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値へと急増し、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベル(アーク期間)に変化する。これに応動して、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはベース電流Ibに戻る。同時に、同図(C)に示すように、送給速度Fwは逆送から正送に切り換えられて、溶接ワイヤは予め定めた正送値で正送される。
【0041】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、溶接電流設定部は、短絡判別信号を入力として、前記ピーク期間中に短絡が発生するとベース期間に移行させる。このようにすると、短絡が発生すると、大電流値のピーク電流から小電流値のベース電流に切り換えられるために、スパッタ発生を少なくすることができる。本実施の形態では、短絡に伴って溶滴が移行するので、ベース期間に直ちに移行させることによって、1パルス周期1溶滴移行状態を維持することができる。この結果、溶接状態を安定に保つことができる。従来技術のようにピーク期間中に短絡が発生したときに、溶接電流を低下させてピーク期間を継続すると、短絡解除後のピーク期間中に溶滴が形成される。このために、1パルス周期1溶滴移行状態から逸脱してしまい、溶接状態が不安定になる場合が生じる。これに対して、本実施の形態では、ピーク期間中に短絡が発生しても、スパッタ発生を少なくし、かつ、溶接状態を安定に維持することができる。
【0042】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、溶接電流設定部は、前記短絡の継続中は前記ベース電流設定値を増加させる。このようにすると、溶接電流値がベース電流値よりも大の状態で短絡が解除されるので、アーク再発生直後のアーク切れを抑制することができる。この結果、溶接状態をさらに安定化することができる。
【0043】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、溶接電流設定部は、短絡の継続時間が基準時間以上になるとベース電流設定値から経時的に上昇し、短絡が解除されるとベース電流設定値に戻る溶接電流設定信号を出力する。このようにすると、短絡の継続時間が基準時間以上となる長期短絡が発生したときに、ベース電流を経時的に上昇させることによって、長期短絡状態を早期に解除してアークを再発生させることができる。この結果、溶接状態をさらに安定化することができる。
【0044】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、送給制御部は、短絡判別信号を入力として、短絡の継続時間が基準時間以上になると溶接ワイヤを逆走し、短絡が解除されると正送に戻す。このようにすると、短絡の継続時間が基準時間以上となる長期短絡が発生したときに、溶接ワイヤを逆送することによって、長期短絡状態を早期に解除してアークを再発生させることができる。この結果、溶接状態をさらに安定化することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Ib ベース電流
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
Ibs 短絡ベース電流
Ibsr 短絡ベース電流設定値
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Ik 下降遷移電流
Ip ピーク電流
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
IR 溶接電流設定回路
Ir 溶接電流設定信号
ISR 短絡電流設定回路
Isr 短絡電流設定信号
Iu 上昇遷移電流
Iw 溶接電流
MC 電力制御回路
On 起動信号
PS 溶接電源
RC ロボット制御装置
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
Tb ベース期間
Tf パルス周期(信号)
TKR 立下り期間設定回路
Tkr 立下り期間設定信号
Tp ピーク期間
TPR ピーク期間設定回路
Tpr ピーク期間設定信号
Tu 立上り期間
TUR 立上り期間設定回路
Tur 立上り期間設定信号
VAV 溶接電圧平均化回路
Vav 溶接電圧平均値信号
Vb ベース電圧
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VF 電圧フィードバック制御回路
Vp ピーク電圧
VR 溶接電圧設定回路
Vr 溶接電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WL リアクトル
WM 送給モータ