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  • 特開-アーク溶接装置 図1
  • 特開-アーク溶接装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022185999
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】アーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/09 20060101AFI20221208BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/073 545
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021093983
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082EA11
4E082EB11
4E082EC03
4E082EE07
(57)【要約】
【課題】くびれ検出制御を搭載したアーク溶接装置において、前進角であっても、スパッタの発生を少なくすること。
【解決手段】短絡期間になると溶接電流Iwを増加させ、ピーク値に達するとその値を維持するように溶接電流Iwを制御する電流制御設定部ICRと、くびれ検出信号Ndを出力するくびれ検出部NDと、溶接ワイヤ1と母材2との間に溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを供給して短絡期間とアーク期間とを繰り返すと共に、短絡期間中にくびれ検出信号Ndが入力されると溶接電流Iwを減少させてアーク期間に移行させる電力制御部PMと、を備えたアーク溶接装置において、ピーク値が通電するピーク期間は、第1ピーク値Ip1rが通電する第1ピーク期間と第2ピーク値Ip2rが通電する第2ピーク期間とから形成され、第1ピーク値Ip1rは第2ピーク値Ip2rよりも大きな値である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給する送給モータと、
前記溶接ワイヤと母材との間が短絡期間にあることを判別して短絡判別信号を出力する短絡判別部と、
前記短絡判別信号を入力として短絡期間になると溶接電流を増加させ、ピーク値に達するとその値を維持するように前記溶接電流を制御する電流制御設定部と、
前記短絡判別信号を入力として前記短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出してくびれ検出信号を出力するくびれ検出部と、
前記溶接ワイヤと前記母材との間に溶接電圧及び前記溶接電流を供給して前記短絡期間とアーク期間とを繰り返すと共に、前記短絡期間中に前記くびれ検出信号が入力されると前記溶接電流を減少させて前記アーク期間に移行させる電力制御部と、
を備えたアーク溶接装置において、
前記ピーク値が通電するピーク期間は、第1ピーク値が通電する第1ピーク期間と第2ピーク値が通電する第2ピーク期間とから形成され、前記第1ピーク値は前記第2ピーク値よりも大きな値である、
ことを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
前記短絡判別信号を入力として所定周期ごとに平均短絡時間を算出して平均短絡時間算出信号を出力する平均短絡時間算出部を備え、
前記電流制御設定部は、前記平均短絡時間算出信号に基づいて前記第1ピーク期間から前記第2ピーク期間へと移行させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置。
【請求項3】
前記電流制御設定部は、前記第1ピーク期間の経過時間が所定値に達すると前記第2ピーク期間へと移行させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出して溶接電流を減少させて溶接するアーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出し、くびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5851798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法においては、短絡期間中にくびれ検出制御によってアーク再発生時の溶接電流の値が小さくなるために、スパッタ発生量が非常に少なくなり、溶融池の振動が小さくなりビード外観が良好になる。しかし、溶接トーチが前進角になるとスパッタ発生量が増加するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明では、溶接トーチが前進角であっても、スパッタ発生量を少なくすることができるアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給する送給モータと、
前記溶接ワイヤと母材との間が短絡期間にあることを判別して短絡判別信号を出力する短絡判別部と、
前記短絡判別信号を入力として短絡期間になると溶接電流を増加させ、ピーク値に達するとその値を維持するように前記溶接電流を制御する電流制御設定部と、
前記短絡判別信号を入力として前記短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出してくびれ検出信号を出力するくびれ検出部と、
前記溶接ワイヤと前記母材との間に溶接電圧及び前記溶接電流を供給して前記短絡期間とアーク期間とを繰り返すと共に、前記短絡期間中に前記くびれ検出信号が入力されると前記溶接電流を減少させて前記アーク期間に移行させる電力制御部と、
を備えたアーク溶接装置において、
前記ピーク値が通電するピーク期間は、第1ピーク値が通電する第1ピーク期間と第2ピーク値が通電する第2ピーク期間とから形成され、前記第1ピーク値は前記第2ピーク値よりも大きな値である、
ことを特徴とするアーク溶接装置である。
【0007】
請求項2の発明は、
前記短絡判別信号を入力として所定周期ごとに平均短絡時間を算出して平均短絡時間算出信号を出力する平均短絡時間算出部を備え、
前記電流制御設定部は、前記平均短絡時間算出信号に基づいて前記第1ピーク期間から前記第2ピーク期間へと移行させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置である。
【0008】
請求項3の発明は、
前記電流制御設定部は、前記第1ピーク期間の経過時間が所定値に達すると前記第2ピーク期間へと移行させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアーク溶接装置によれば、溶接トーチが前進角であっても、スパッタ発生量を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る溶接電源のブロック図である。
図2図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0013】
電力制御回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電力制御回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0014】
減流抵抗器Rは、上記の電力制御回路PMと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。このために、くびれ検出制御によって減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0015】
溶接ワイヤ1は、送給モータFDによって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0016】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。
【0017】
溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。
【0018】
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値Vta(10V程度)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0019】
くびれ検出基準値設定回路VTNは、予め定めたくびれ検出基準値信号Vtnを出力する。溶接法、送給速度、溶接ワイヤ1の材質、直径等の溶接条件に応じて、このくびれ検出基準値信号Vtnの値は適正値に設定される。
【0020】
くびれ検出回路NDは、上記のくびれ検出基準値信号Vtn、上記の短絡判別信号Sd、上記の溶接電圧検出信号Vd及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの溶接電圧検出信号Vdの電圧上昇値がくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれが形成されたと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の溶接電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応したくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、溶接電圧検出信号Vdの値を溶接電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応するくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0021】
平均短絡時間算出回路TSAは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)である短絡時間を所定周期にわたって移動平均して、平均短絡時間算出信号Tsaを出力する。上記の所定周期は、短絡が発生する周期であり、3~10周期程度に設定される。したがって、短絡が発生するごとに、その直前の所定周期の短絡時間の平均値が算出される。
【0022】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。
【0023】
電流比較回路CMは、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0024】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれ検出信号NdがHighレベルになるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。この結果、溶接電流Iwは、低レベル電流設定信号Ilrの値を維持する。
【0025】
第1ピーク値設定回路IP1Rは、予め定めた第1ピーク値設定信号Ip1rを出力する。第2ピーク値設定回路IP2Rは、予め定めた第2ピーク値設定信号Ip2rを出力する。ここで、Ip1r>Ip2rに設定される。
【0026】
第1ピーク期間設定回路TP1Rは、予め定めた第1ピーク期間設定信号Tp1rを出力する。
【0027】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr、上記のくびれ検出信号Nd、上記の平均短絡時間算出信号Tsa、上記の第1ピーク値設定信号Ip1r、上記の第2ピーク値設定信号Ip2r及び上記の第1ピーク期間設定信号Tp1rを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)その後の電流上昇期間中は、上記の初期電流設定値から予め定めた短絡時傾斜で上昇する電流制御設定信号Icrを出力する。
3その後に)電流制御設定信号Icrの値が第1ピーク値設定信号Ip1rの値に達すると、第1ピーク期間Tp1に移行し、第1ピーク値設定信号Ip1rの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
4)その後に、
a)短絡判別信号SdがHighレベルに変化した時点からの経過時間が平均短絡時間算出信号Tsaの値から所定時間を減算した値に達した時点、又は、
b)第1ピーク期間Tp1の経過時間が第1ピーク期間設定信号Tp1rの値に達した時点において、
第2ピーク期間Tp2に移行し、第2ピーク値設定信号Ip2rの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
5)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベル(くびれ検出)に変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
6)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して予め定めた遅延期間Tdが経過した時点から、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時傾斜で予め定めた高レベル電流設定値まで上昇させ、その値を維持する。
【0028】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr(+)と上記の溶接電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0029】
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、電圧設定信号Vr(+)と溶接電圧検出信号Vd(-)との誤差を増幅して電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0030】
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して上記の遅延期間及び上記の高電流期間が経過した時点までの期間中は電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、それ以外の期間中は電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+遅延期間Td+高電流期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0031】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータFDに出力する。
【0032】
図2は、図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は短絡判別信号Sdの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0033】
(1)時刻t1の短絡発生から時刻t2のくびれ検出信号NdがHighレベルとなるまでの動作
時刻t1において溶接ワイヤ1が母材2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急減する。この溶接電圧Vwが短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別して、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルからHighレベルに変化する。同図(A)に示すように、図1の電流制御設定信号Icrによって設定される溶接電流Iwは、時刻t1においてアーク期間の溶接電流値から減少し、時刻t1~t11の予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となり、時刻t11~t12の電流上昇期間中は予め定めた短絡時傾斜で上昇し、時刻t12~t13の第1ピーク期間Tp1中は予め定めた第1ピーク値Ip1となり、時刻t13~t2の第2ピーク期間Tp2中は予め定めた第2ピーク値Ip2となる。第1ピーク値Ip1は図1の第1ピーク値設定信号Ip1rによって設定され、第2ピーク値Ip2は図1の第2ピーク値設定信号Ip2rによって設定される。Ip1>Ip2であり、その差分は少なくとも50A以上であり、50~150A程度の範囲である。
【0034】
第1ピーク期間Tp1から第2ピーク期間Tp2への移行タイミングは、以下の2つの方法から一つが選択されて実施される。
a)図1の平均短絡時間算出回路TSAによって、短絡が発生するごとに、それ以前の所定回数の短絡時間を移動平均して平均短絡時間算出信号Tsaが出力される。そして、時刻t1に短絡判別信号SdがHighレベルに変化した時点からの経過時間が平均短絡時間算出信号Tsaの値から所定時間を減算した値に達した時点において、第2ピーク期間Tp2に移行させる。所定時間は、例えば1ms程度に設定される。この値は、時刻t2~t3のくびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点からアークが再発生するまでのくびれ時間は0.5ms程度となるのが適正であり、第2ピーク期間Tp2は0.5ms程度となるのが適正であるからである。
【0035】
b)時刻t12からの第1ピーク期間Tp1の経過時間が、図1の第1ピーク期間設定信号Tp1rの値に達した時点において、第2ピーク期間Tp2に移行させる。第1ピーク期間設定信号Tp1rの値は、例えば0.5msに設定される。この値に設定すれば、第2ピーク期間Tp2は0.5ms程度となった時点でくびれ検出信号NdがHighレベルとなり、それから0.5ms程度でアークが再発生することになる。
【0036】
同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t2~t3の期間はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(D)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t2~t21の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t2以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、図2のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の消耗電極アーク溶接電源と同一の状態となる。例えば、上記の初期期間は0.5ms程度であり、初期電流値は50A程度である。短絡時傾斜は260A/ms程度であり、電流上昇期間は1.5ms程度である。第1ピーク期間Tp1は0.5ms程度であり、第1ピーク値Ip1は440A程度である。第2ピーク期間Tp2は0.5ms程度であり、第2ピーク値Ip2は340A程度である。
【0037】
同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、第2ピーク期間Tp2となる時刻t13あたりから上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。時刻t13からの期間がくびれを検出する期間となる。この期間においては、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは第2ピーク値Ip2で一定値である。
【0038】
(2)時刻t2のくびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwが上昇して初期期間中の電圧値からの電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtnと等しくなったことによってくびれを検出すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはピーク電流値から急減する。そして、時刻t21において、溶接電流Iwが低レベル電流設定信号Ilrで設定される低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。この結果、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t21からアークが再発生する時刻t3まで低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t2にくびれ検出信号NdがHighレベルに変化してから時刻t21に溶接電流Iwが低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので時刻t2から一旦減少し、その後に急上昇する。
【0039】
(3)時刻t3のアーク再発生から遅延期間Tdが経過して時刻t4の高電流期間が終了するまでの動作
時刻t3においてアーク3が再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwの値は短絡/アーク判別値Vta以上となり、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルに変化する。時刻t3~t31の期間が予め定めた遅延期間Tdとなり、時刻t31~t4の期間が予め定めた高電流期間となる。時刻t3にアークが再発生してから遅延期間Td及び高電流期間が経過する時刻t4まで溶接電源は定電流制御されているので、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中は低レベル電流値Ilとなり、時刻t31からはアーク時傾斜で上昇し、高レベル電流値に達するとその値を時刻t4まで維持する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中はアーク電圧値となり、時刻t31~t4の高電流期間中はそれよりも大の高レベル電圧値となる。時刻t3にアークが再発生するので、同図(C)に示すくびれ検出信号NdはLowレベルに戻る。例えば、上記の遅延期間Tdは0.1ms程度であり、上記のアーク時傾斜は300A/ms程度であり、上記の高レベル電流値は350A程度であり、上記の高電流期間は1.5ms程度である。
【0040】
(4)時刻t4の高電流終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
時刻t4において高電流期間が終了すると、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは高レベル電流値から次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは高レベル電圧値から次第に減少する。
【0041】
上述した実施の形態によれば、ピーク値が通電するピーク期間は、第1ピーク値が通電する第1ピーク期間と第2ピーク値が通電する第2ピーク期間とから形成され、第1ピーク値は第2ピーク値よりも大きな値である。そして、第2ピーク期間中にくびれの検出が行われる。このように、第1ピーク値を第2ピーク値よりも大きな値に設定することによって、溶滴に作用するピンチ力を強くすることができるので、短絡期間が適正値よりも長くなり、溶接状態が不安定になることを抑制することができる。その上で、第2ピーク値を小さくすることによって、溶滴に作用するアーク力を弱めることができるので、溶接トーチが前進角であってもスパッタの発生を少なくすることができる。従来技術のように、ピーク値を一定値として、その値を小さくすると、前進角であるときのスパッタ発生は少なくすることができるが、短絡期間が適正値よりも長くなり、溶接状態が不安定になる。本実施の形態では、上述したように、前進角であっても、短絡期間が長くなることを抑制しつつ、スパッタの発生を少なくすることができる。
【0042】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、短絡判別信号を入力として所定周期ごとに平均短絡時間を算出して平均短絡時間算出信号を出力する平均短絡時間算出部を備え、電流制御設定部は、平均短絡時間算出信号に基づいて第1ピーク期間から第2ピーク期間へと移行させる。このようにすると、第1ピーク期間から第2ピーク期間への移行タイミングを適正化することができるので、さらに溶接状態を安定化することができる。
【0043】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、電流制御設定部は、第1ピーク期間の経過時間が所定値に達すると第2ピーク期間へと移行させる。このようにすると、第1ピーク期間から第2ピーク期間への移行タイミングを適正化することができるので、さらに溶接状態を安定化することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FD 送給モータ
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Il 低レベル電流値
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Ip1 第1ピーク値
IP1R 第1ピーク値設定回路
Ip1r 第1ピーク値設定信号
Ip2 第2ピーク値
IP2R 第2ピーク値設定回路
Ip2r 第2ピーク値設定信号
Iw 溶接電流
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電力制御回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SW 制御切換回路
Td 遅延期間
Tp1 第1ピーク期間
TP1R 第1ピーク期間設定回路
Tp1r 第1ピーク期間設定信号
Tp2 第2ピーク期間
TR トランジスタ
TSA 平均短絡時間算出回路
Tsa 平均短絡時間算出信号
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vta 短絡/アーク判別値
VTN くびれ検出基準値設定回路
Vtn くびれ検出基準値(信号)
Vw 溶接電圧
ΔV 電圧上昇値
図1
図2