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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186014
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/24 20060101AFI20221208BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20221208BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20221208BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20221208BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221208BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20221208BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
F01N3/24 E
F01N3/035 A ZAB
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
B01D53/94 222
B01D53/94 280
B01J35/04 301E
B01J35/04 301L
B01J23/63 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094006
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 幸司
(72)【発明者】
【氏名】平林 武史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 あけみ
(72)【発明者】
【氏名】村脇 啓介
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴也
(72)【発明者】
【氏名】池部 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】高▲崎▼ 孝平
(72)【発明者】
【氏名】森島 毅
【テーマコード(参考)】
3G091
3G190
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091BA15
3G091GA16
3G091GB01W
3G091GB04W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091GB10X
3G190BA17
3G190CA03
3G190CB13
4D148AA06
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148BA01Y
4D148BA03X
4D148BA06Y
4D148BA07Y
4D148BA08X
4D148BA14Y
4D148BA15Y
4D148BA19X
4D148BA30X
4D148BA31Y
4D148BA32Y
4D148BA33X
4D148BA34Y
4D148BA41X
4D148BA42X
4D148BB02
4D148BB14
4D148BB16
4D148CC32
4D148EA04
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC16A
4G169BC16B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CA03
4G169CA07
4G169CA08
4G169CA13
4G169CA15
4G169CA18
4G169DA06
4G169EA18
4G169EA27
4G169EB12Y
4G169EB14Y
4G169EC28
4G169EE09
(57)【要約】
【課題】リッチな混合気が流入する条件下において、高いHC除去性能を示す排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】排ガス浄化装置は、前記排ガスが流入する上流端及び前記排ガスが排出される下流端を有する基材、第一触媒層、及び第二触媒層を有し、前記基材は、前記上流端と前記下流端の間で延伸する複数のセルを画成する多孔質の隔壁を有し、前記基材の前記上流端を含む上流領域において、前記第一触媒層が前記隔壁の表面に配置され、前記基材の前記下流端を含む下流領域において、前記第二触媒層が前記隔壁の内部に配置され、前記第一触媒層は、第一金属触媒、及びアルミナ-ジルコニア複合酸化物を含み、前記第二触媒層は、第二金属触媒を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス浄化装置であって、
排ガスが流入する上流端及び前記排ガスが排出される下流端を有する基材、第一触媒層、及び第二触媒層を有し、
前記基材が、前記上流端と前記下流端の間で延伸する複数のセルを画成する多孔質の隔壁を有し、
前記基材の前記上流端を含む上流領域において、前記第一触媒層が前記隔壁の表面に配置され、
前記基材の前記下流端を含む下流領域において、前記第二触媒層が前記隔壁の内部に配置され、
前記第一触媒層が、第一金属触媒、及びアルミナ-ジルコニア複合酸化物を含み、
前記第二触媒層が、第二金属触媒を含む、排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記第一金属触媒が、前記アルミナ-ジルコニア複合酸化物に担持されている、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記第一触媒層が、任意選択的に第一のセリウム含有酸化物をさらに含み、
前記第二触媒層が、第二のセリウム含有酸化物をさらに含み、
前記第一触媒層の、前記上流領域における前記基材の単位体積当たりのセリウムの含有量が、前記第二触媒層の、前記下流領域における前記基材の単位体積当たりのセリウムの含有量より少ない、請求項1又は2に記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
第二のセリウム含有酸化物が、セリア-ジルコニア複合酸化物である、請求項3に記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記第二金属触媒が、前記第二のセリウム含有酸化物に担持されている、請求項3又は4に記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記排ガスの流れ方向においてスタートアップコンバータの下流に配置される、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記第一金属触媒が、Pt、Pd、及びRhからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記第二金属触媒がRhである、請求項1~7のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項9】
前記複数のセルが、
前記上流端において開口し、前記下流端において封止された入側セルと、
前記入側セルに前記隔壁を挟んで隣接し、前記上流端において封止され、前記下流端において開口する出側セルと、
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両で使用される内燃機関から排出される排ガスには、炭素を主成分とする粒子状物質(PM:Particulate Matter)、不燃成分からなるアッシュ等が含まれ、これらは大気汚染の原因となることが知られている。また、排ガスには、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分も含まれている。これらの排出量の規制は年々強化されている。
【0003】
粒子状物質及びアッシュを排ガスから捕集して除去するために、ディーゼルエンジン用のディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)、ガソリンエンジン用のガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)等のパティキュレートフィルタが、内燃機関の排気通路に設けられている。パティキュレートフィルタとして、多数のセルを画成する多孔質の基材を備え、多数のセルの入口と出口が交互に閉塞されている、いわゆるウォールフロー構造を有するものが知られている。
【0004】
また、排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分の除去のために、貴金属触媒が用いられている。
【0005】
特許文献1には、ウォールフロー構造の排ガス浄化装置が記載されている。特許文献1の排ガス浄化装置は、上流側触媒層及び下流側触媒層を有し、上流側触媒層及び下流側触媒層はいずれも、貴金属触媒及び酸素吸蔵放出能(OSC)を示すCe含有酸化物を含む。特許文献1に記載の排ガス浄化装置は、排ガスの流れ方向において内燃機関の直下に配置されるスタートアップコンバータ(S/C)として用いられる。S/Cの下流には、アンダーフロアコンバータ(UF/C)としてさらなる排ガス浄化装置が配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-051442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
排ガス浄化装置には、燃料過剰の混合気(すなわち、空燃比A/Fが14.6未満の混合気、以下適宜「リッチな混合気」という)が流入することがある。本発明者らの鋭意検討によれば、特許文献1の排ガス浄化装置にリッチな混合気が流入すると、Ce含有酸化物からの酸素放出が不十分となり、その結果、排ガスに含まれるHCの除去が不十分となることがあった。
【0008】
そこで、本発明は、リッチな混合気が流入する条件(リッチ条件)下において、高いHC除去性能を示す排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に従えば、排ガス浄化装置であって、
前記排ガスが流入する上流端及び前記排ガスが排出される下流端を有する基材、第一触媒層、及び第二触媒層を有し、
前記基材が、前記上流端と前記下流端の間で延伸する複数のセルを画成する多孔質の隔壁を有し、
前記基材の前記上流端を含む上流領域において、前記第一触媒層が前記隔壁の表面に配置され、
前記基材の前記下流端を含む下流領域において、前記第二触媒層が前記隔壁の内部に配置され、
前記第一触媒層が、第一金属触媒、及びアルミナ-ジルコニア複合酸化物を含み、
前記第二触媒層が、第二金属触媒を含む、排ガス浄化装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の排ガス浄化装置は、リッチ条件下において高いHC除去性能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る排ガス浄化装置を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、実施形態に係る排ガス浄化装置をセルの延伸方向に平行な面で切断した要部拡大端面図であり、隔壁近傍の構成を模式的に示している。
図3図3は、実施例及び比較例の排ガス浄化装置の浄化性能を評価するための構成を模式的に示す図である。
図4図4は、実施例及び比較例の排ガス浄化装置からのHC-NOx排出量の平均値(規格化した値)を示すグラフである。
図5図5は、参考実験で作製したペレットによるHC浄化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1、2に示されるウォールフロー構造の排ガス浄化装置1を説明する。排ガス浄化装置1は、基材10、第一触媒層30、及び第二触媒層50を有する。
【0013】
(1)基材10
基材10は、円筒状の枠部11と、枠部11の内側の空間をハニカム状に仕切る隔壁12から構成される。枠部11と隔壁12は一体的に形成されていてよい。図1の枠部11は、円筒状であるが、これに限定されず、楕円筒状、多角筒状等の任意の形状であってよい。隔壁12は、基材10の第一端(第一端面)Iと第二端(第二端面)Jの間に延設され、第一端Iと第二端Jの間で延伸する複数のセルを画成する。複数のセルは、第一セル14及び第二セル16から構成される。第一セル14は、第一端Iにおいて開口し、第二端Jにおいて封止部70により目封じ(封止)されている。第二セル16は第一端Iにおいて封止部70により目封じされ、第二端Jにおいて開口している。第一セル14と第二セル16は、隔壁12を挟んで互いに隣接するように配置される。第一セル14と第二セル16の延伸方向に直交する面で切断した断面形状は、正方形であってよいが、それに限定されず、それぞれ、平行四辺形、長方形、台形などの矩形、三角形、その他の多角形(例えば、六角形、八角形)、円形等の任意の形状であってよい。
【0014】
隔壁12は、排ガスが通過可能な多孔質材料から形成される。例えば、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化ケイ素(SiC)、ムライト等のセラミックス、合金(ステンレス等)から形成されてよい。多孔質材料から形成される隔壁12は、排ガスが通過可能な細孔を含む。枠部11の材料は特に限定されないが、例えば、隔壁12と同様の材料から形成されてよい。
【0015】
図1中の白抜き矢印は、排ガス浄化装置1に導入され、排ガス浄化装置1から排出される、排ガスの向きを示している。第一端Iを通って排ガス浄化装置1に流入した排ガスは、第二端Jを通って排ガス浄化装置1から排出される。そのため、以降、適宜、第一端Iを上流端I、第二端Jを下流端Jとも呼ぶ。また、排ガスは、図2中の破線矢印で示すように、上流端Iを通って第一セル14に流入し、第一セル14とそれに隣接する第二セル16とを仕切る多孔質の隔壁12を通過して第二セル16に流入し、下流端Jを通って第二セル16から排出される。そのため、第一セル14を入側セル14、第二セル16を出側セル16とも呼ぶ。
【0016】
(2)第一触媒層30
第一触媒層30は、基材10の上流端Iから、上流端Iから入側セル14及び出側セル16の延伸方向(すなわち隔壁12の延設方向であり、以下適宜「延伸方向」と称する)に沿って第一距離Dxを隔てた第一位置Kまでの領域(本明細書において、「上流領域」と称する)Xにおいて、隔壁12の入側セル14側の表面(すなわち、入側セル14に面している表面であり、以下適宜「第一表面」と称する)12aに配置される。上流領域Xは、上流端Iを一端として含む、延伸方向の長さDxを有する領域である。上流領域Xの延伸方向の長さDxは、所望の排ガス浄化性能が得られるように適宜設定してよいが、例えば、上流端Iから下流端Jまでの距離(すなわち、基材10の延伸方向の長さ)Dの10~90%としてよく、特に10~50%としてよい。
【0017】
上流領域Xにおいて、第一触媒層30が配置された隔壁12はガス非透過性であってよい。第一触媒層30が隔壁12の細孔を閉鎖し、それにより上流領域Xにおいて隔壁12をガス非透過性としてよい。なお、本願において、「ガス非透過性」とは、実質的にガスを透過しないことを意味する。
【0018】
第一触媒層30は、第一金属触媒を含む。第一金属触媒は、HCを酸化させるための触媒として機能する。第一金属触媒は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、及びロジウム(Rh)からなる群から選択される少なくとも一種であってよく、又はPt及びPdからなる群から選択される少なくとも一種であってよく、特にPtであってよい。第一触媒層30は、第一金属触媒の機能が損なわれない程度に、その他の金属、例えば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、金(Au)などの貴金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属をさらに含んでもよい。
【0019】
第一触媒層30は、アルミナ-ジルコニア複合酸化物(AZ複合酸化物)を含む。本願において「複合酸化物」とは、2種以上の元素の酸化物がナノメートルオーダーで均一に混ざり合った材料を意味する。アルミナ(Al)粉末とジルコニア(ZrO)粉末を物理的に混合しても、アルミナとジルコニアがナノメートルオーダーで均一に混ざり合った材料は得られない。そのため、SEM-EDX、EPMA等による分析により、AZ複合酸化物は、アルミナとジルコニアの物理的混合物とは明確に区別される。AZ複合酸化物は、アルミナとジルコニアの固溶体であってもよい。
【0020】
第一触媒層30は、任意選択的に、第一のセリウム含有酸化物を含んでよい。第一のセリウム含有酸化物は、セリア(CeO)、セリアとその他の酸化物の複合酸化物、又はこれらの混合物であってよく、好ましくは、セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物)であってよい。第一のセリウム含有酸化物は、酸素過剰雰囲気下で雰囲気中の酸素を吸蔵し、酸素欠乏雰囲気下で酸素を放出するOSC(Oxygen Storage Capacity)材として機能する。そのため、第一のセリウム含有酸化物は、排ガス浄化装置1に流入する排ガスの酸素含有量の変動に伴う排ガス浄化率の変動を低減させることができる。
【0021】
第一触媒層30の、上流領域Xにおける基材10の単位体積当たりのセリウムの含有量は、後述する第二触媒層50の、下流領域Yにおける基材10の単位体積当たりのセリウムの含有量より少なくてよい。第一触媒層30の、上流領域Xにおける基材10の単位体積当たりのセリウムの含有量は、第二触媒層50の、下流領域Yにおける基材10の単位体積当たりのセリウムの含有量の1倍未満、0.77倍以下、0.75倍以下、0.48倍以下、又は0.45倍以下であってよい。第一触媒層30の、上流領域Xにおける基材10の単位体積当たりのセリウムの含有量は、実質的に0g/Lであってもよい。セリウム含有酸化物は、上述のようにOSC材として機能する一方で、第一金属触媒の触媒活性を低下させると考えられている。第一触媒層30のセリウム含有量を上記範囲内にすることにより、第一金属触媒の触媒活性の低下を抑制することができる。
【0022】
第一触媒層30は、任意選択的に、その他の金属酸化物をさらに含んでもよい。その他の金属酸化物の例としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ(SiO)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO)、又はこれらの複合酸化物が挙げられる。これらの二種以上を併用してもよい。
【0023】
第一金属触媒は、担体に担持されてよい。担体は、上記のAZ複合酸化物、第一のセリウム含有酸化物、又はその他の金属酸化物であってよく、特にAZ複合酸化物であってよい。
【0024】
第一触媒層30は、例えば以下のようにして、上流領域Xにおいて隔壁12の第一表面12aに配置することができる。まず、第一金属触媒、AZ複合酸化物、及び任意成分として第一のセリウム含有酸化物を含むスラリーを用意する。スラリー中の第一金属触媒は担体粉末に担持されていてよい。また、スラリーはさらにバインダ、添加物等を含んでよい。用意したスラリーを、上流領域X内の隔壁12の第一表面12aに塗布する。例えば、基材10を上流端I側からスラリーに浸漬し、所定の時間が経過した後、該スラリーから基材10を引き上げることにより、スラリーを隔壁12の第一表面12aに塗布できる。あるいは、基材10の上流端I側から入側セル14にスラリーを流し込み、上流端Iにブロアーで風を吹きつけてスラリーを下流端Jに向かって塗り広げることにより、スラリーを隔壁12の第一表面12aに塗布してもよい。次に、所定の温度および時間でスラリーを乾燥、焼成する。それにより、隔壁12の第一表面12aに第一触媒層30が形成される。
【0025】
なお、上流領域Xにおいて、隔壁12の第一表面12a上に第一触媒層30が形成されるように、スラリーの性状、例えば、粘性、固形成分の粒子径等を適宜調整してよい。例えばスラリー中の固形成分の粒径を大きくすることにより、隔壁12の第一表面12a上に第一触媒層30を形成することができる。
【0026】
(3)第二触媒層50
第二触媒層50は、基材10の下流端Jから、下流端Jから延伸方向に沿って第二距離Dyを隔てた第二位置Lまでの領域(本明細書において、「下流領域」と称する)Yにおいて、隔壁12の内部に配置される。下流領域Yは、下流端Jを一端として含む、延伸方向の長さDyを有する領域である。下流領域Yの延伸方向の長さDyは、所望の排ガス浄化性能が得られるように適宜設定してよいが、例えば、上流端Iから下流端Jまでの距離Dの30~100%としてよい。
【0027】
なお、上流領域Xの延伸方向の長さDxと下流領域Yの延伸方向の長さDyの合計は、上流端Iから下流端Jまでの距離D以上であってよく、上流端Iから下流端Jまでの距離Dより大きくてよい。それにより、上流端Iから下流端Jまでの領域全体において、隔壁12上又は隔壁12中に第一触媒層30と第二触媒層50の少なくとも一方が形成され、排ガス浄化装置1に流入した排ガスを、第一触媒層30及び第二触媒層50にこの順で確実に接触させることができる。
【0028】
本明細書において、「第二触媒層50が隔壁12の内部に配置される」とは、第二触媒層50を構成する成分(すなわち触媒、担体、バインダ、添加物等)が隔壁12の外部(典型的には表面)ではなく、隔壁12の内部に主として存在することを意味する。具体的には、例えば第二触媒層50を構成する成分の総重量の80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは99%以上、特に実質的に100%が、隔壁12の内部に存在することを意味する。したがって、隔壁12の内部に配置される第二触媒層50は、隔壁12の表面に配置しようとして一部が意図せずに隔壁12の内部へ浸透した触媒層とは明確に区別される。
【0029】
第二触媒層50を構成する成分は、隔壁12の内部の細孔の全てを閉塞することなく、細孔を取り囲む隔壁12の表面(内表面)に保持されてよい。それにより、下流領域Y(ただし、上流領域Xとの重複部分を除く)において、第二触媒層50が配置された隔壁12はガスを透過可能となる。
【0030】
第二触媒層50は、第二金属触媒を含む。第二金属触媒は、NOxを還元するための触媒として機能する。第二金属触媒は、例えば、Rhであってよい。第二触媒層50は、第二金属触媒の機能が損なわれない程度に、その他の金属、例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、金(Au)などの貴金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属をさらに含んでもよい。
【0031】
第二触媒層50は、任意選択的に、第二のセリウム含有酸化物を含む。第二のセリウム含有酸化物は、セリア、セリアとその他の酸化物の複合酸化物、又はこれらの混合物であってよく、好ましくは、CZ複合酸化物であってよい。第二のセリウム含有酸化物は、酸素過剰雰囲気下で雰囲気中の酸素を吸蔵し、酸素欠乏雰囲気下で酸素を放出するOSC材として機能する。そのため、第二のセリウム含有酸化物は、排ガス浄化装置1に流入する排ガスの酸素含有量の変動に伴う排ガス浄化率の変動を低減させることができる。
【0032】
第二触媒層50は、任意選択的に、その他の金属酸化物をさらに含んでもよい。その他の金属酸化物の例としては、アルミナ、ジルコニア、シリカ、マグネシア、チタニア、又はこれらの複合酸化物が挙げられる。これらの二種以上を併用してもよい。
【0033】
第二金属触媒は、担体に担持されてよい。担体は、上記のAZ複合酸化物、第二のセリウム含有酸化物、又はその他の金属酸化物であってよく、第二のセリウム含有酸化物であってよく、CZ複合酸化物であってよい。
【0034】
なお、本明細書において、「第一触媒層30の、上流領域Xにおける基材10の単位体積当たりのセリウムの含有量」とは、第一触媒層30に含まれるセリウムの質量を、上流領域Xにおける枠部11の内側の体積で除した値であり、「第二触媒層50の、下流領域Yにおける基材10の単位体積当たりのセリウムの含有量」とは、第二触媒層50に含まれるセリウムの質量を、下流領域Yにおける枠部11の内側の体積で除した値である。第一触媒層30及び第二触媒層50の各々に含まれるセリウムの質量は、例えば、第一触媒層30又は第二触媒層50が配置された隔壁12を粉砕し、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により分析することにより求めることができる。
【0035】
第二触媒層50は、例えば以下のようにして、下流領域Yにおいて隔壁12の内部に配置することができる。まず、第二金属触媒及び第二のセリウム含有酸化物を含むスラリーを用意する。スラリー中の第二金属触媒は担体粉末に担持されていてよい。また、スラリーはさらにバインダ、添加物等を含んでよい。用意したスラリーを下流領域Y内の隔壁12に浸透させる。例えば、基材10を下流端J側からスラリーに浸漬し、所定の時間が経過した後、該スラリーから基材10を引き上げることにより、スラリーを隔壁12に浸透させることができる。次に、所定の温度および時間でスラリーを乾燥、焼成する。それにより、隔壁12の内部に第二触媒層50が形成される。
【0036】
なお、下流領域Yにおいて、第二触媒層50が隔壁12の内部に形成されるように、スラリーの性状、例えば、粘性、固形成分の粒子径等を適宜調整してよい。例えばスラリー中の固形成分の粒径を小さくすることにより、隔壁12の細孔が閉塞されることなく、第二触媒層50を隔壁12の内部に形成することができる。
【0037】
排ガス浄化装置1の排ガス浄化性能について説明する。
【0038】
排ガス浄化装置1に排ガスを導入すると、図2において破線矢印で示すように、排ガスは、基材10の上流端Iを通って入側セル14に流入する。上流領域Xにおいて、排ガスは入側セル14内を第一触媒層30に沿って下流領域Yに向かって移動する。このとき、排ガスは第一触媒層30と接触する。それにより、排ガス中のHCが酸化されて排ガスから除去される。次いで、下流領域Yにおいて、排ガスが隔壁12内を通過して出側セル16に流入する。このとき、排ガス中のPM及びアッシュが、隔壁12の表面及び細孔内に捕集される。また、排ガスが隔壁12内の第二触媒層50と接触するため、排ガス中のNOxが還元されて排ガスから除去される。下流領域Yにおいて出側セル16に流入した排ガスは、出側セル16内を隔壁12に沿って下流端Jに向かって移動し、下流端Jを通って排ガス浄化装置1の外へ排出される。
【0039】
このように、排ガス浄化装置1に導入された排ガスは、所定の時間、所定の順序で確実に第一触媒層30及び第二触媒層50と接触する。上流領域Xにおいて、第一触媒層30が配置された隔壁12が実質的にガス非透過性であり、下流領域Y(ただし、上流領域Xとの重複部分を除く)において、第二触媒層50が配置された隔壁12がガス透過性である場合、排ガス浄化装置1に導入された排ガスは、特に確実に、所定の時間、所定の順序で第一触媒層30及び第二触媒層50と接触する。このことは、排ガスの浄化効率を向上させる。
【0040】
後述する実施例で示すように、排ガス浄化装置1は、リッチ条件下において高いHC除去性能を示す。いかなる理論に拘束されるものではないが、その理由を本発明者らは以下のように考えている。
【0041】
排ガス浄化装置1に流入した混合気中のHCは、通常、混合気中の酸素又はOSC材から放出された酸素と反応してHOとCOに変換されて除去される。しかし、排ガス浄化装置1にリッチな混合気が継続して流入すると、HCと反応するための酸素が不足することがある。ここで、第一触媒層30に含まれるAZ複合酸化物は、後述する実施例で示されるように、HCの水蒸気改質を促進する高い効果を有する。そのため、酸素欠乏下においても、排ガス浄化装置1に流入した混合気中のHCは、混合気に含まれる水蒸気との反応(すなわち、水蒸気改質)により、除去することが可能である。したがって、排ガス浄化装置1は、リッチ条件下において高いHC除去性能を示す。
【0042】
また、第一触媒層30で除去されずに残留したHCは、重合体となって第二触媒層50に付着し、第二触媒層50中のOSC材のOSC能を低下させて第二触媒層50におけるNOxの還元効率の低下を引き起こすと考えられる。しかし、上述した排ガス浄化装置1の高いHC除去性能により、残留HCによるNOx還元効率への影響を低減することができる。
【0043】
排ガス浄化装置1は、内燃機関を備える種々の車両に適用され得る。排ガス浄化装置1は、排ガスの流れ方向において内燃機関の直下に配置されるスタートアップコンバータ(S/C)として、又は排ガスの流れ方向においてS/Cの下流に配置されるアンダーフロアコンバータ(UF/C)として、使用することができる。特に、UF/Cでは、HCと反応するための酸素が不足することが多いため、UF/Cに排ガス浄化装置1を適用することには大きな利点がある。
【0044】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。例えば、排ガス浄化装置は、図1、2に示されるウォールフロー構造に代えて、フロースルー構造を有してもよい。フロースルー構造を排ガス浄化装置は、複数のセルを封止する封止部を有せず、複数のセルが開口している点で、ウォールフロー構造を有する排ガス浄化装置とは異なる。また、排ガス浄化装置がフロースルー構造を有する場合、第一触媒層は、隔壁の第一表面及びその反対表面に配置されてよい。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(1)排ガス浄化装置の作製
実施例
コージェライト製のウォールフロー構造の基材を用意した。基材の寸法及び構造は、以下の通りである。
【0047】
基材の外径:117mm
セルの延伸方向における基材の長さ:122mm
隔壁の厚さ:約200μm
セル密度:1平方インチ当たり300個
【0048】
アルミナ-ジルコニア複合酸化物(AZ複合酸化物)(アルミナ:ジルコニア=1:2(重量比))の粉末に硝酸Pt水溶液を含浸させ、次いで乾燥して、Pt担持AZ複合酸化物粉末を調製した。得られた粉末とセリア粉末とイオン交換水とを混合して、第一触媒スラリーを調製した。
【0049】
セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物)の粉末に硝酸Rh水溶液を含浸させ、次いで乾燥して、Rh担持CZ複合酸化物粉末を調製した。得られた粉末とアルミナ粉末とイオン交換水とを混合して、第二触媒スラリーを調製した。
【0050】
第二触媒スラリーを、基材の下流端から出側セルに供給し、隔壁の内部に第二触媒スラリーを浸み込ませた。次いで、第二触媒スラリーを乾燥し、焼成した。それにより、隔壁の内部に第二触媒層を形成した。第二触媒層は、基材の下流端から、基材の下流端から上流端に向かって基材の延伸方向の長さの70%の距離を隔てた位置までの領域(下流領域)に形成された。
【0051】
第一触媒スラリーを、基材の上流端から入側セルに供給し、隔壁の入側セル側の表面に第一触媒スラリーの層を形成した。次いで、第一触媒スラリーを乾燥し、焼成した。それにより、隔壁の入側セル側の表面に第一触媒層を形成した。第一触媒層は、基材の上流端から、基材の上流端から下流端に向かって基材の延伸方向の長さの50%の距離を隔てた位置までの領域(上流領域)に形成された。
【0052】
以上のようにして、排ガス浄化装置を作製した。第一触媒層の、上流領域における基材の単位体積当たりのセリウムの含有量(CFr)の、第二触媒層の、下流領域における基材の単位体積当たりのセリウムの含有量(CRr)に対する比(CFr/CRr)は、1/10であった。
【0053】
比較例1
第一触媒スラリーの調製において、AZ複合体粉末に代えて、アルミナ粉末を用いたこと以外は、実施例と同様にして、排ガス浄化装置を作製した。
【0054】
第一触媒スラリーの調製において、AZ複合体粉末に代えて、ジルコニア粉末を用いたこと以外は、実施例と同様にして、排ガス浄化装置を作製した。
【0055】
第一触媒スラリーの調製において、AZ複合体粉末に代えて、アルミナ粉末とジルコニア粉末の物理的混合物(アルミナ:ジルコニア=10:7(重量比))を用いたこと以外は、実施例と同様にして、排ガス浄化装置を作製した。
【0056】
(2)浄化性能評価
図3に示すように、2.0Lのガソリンエンジンベンチの排気系に、スタートアップコンバータ(S/C)と実施例及び比較例1~3の各排ガス浄化装置を接続した。ガソリンエンジンにリッチ(空燃比A/F<14.6)、ストイキ(A/F=14.6)、及びリーン(A/F>14.6)の混合気を一定時間ずつ繰り返し流入させて、50時間にわたってS/Cの床温を950℃、排ガス浄化装置の床温を900℃に維持した。それにより、S/C及び排ガス浄化装置をエージング処理した。
【0057】
次に、ガソリンエンジンを、車両の定常走行時を模した制御にて作動させた。具体的には、ガソリンエンジンの回転数を2400rpmとし、ガソリンエンジンに35g/sの流量で混合気を流入させた。混合気の空燃比A/Fは、まずはリーン(A/F>14.6)とし、その後リッチ(A/F<14.6)に切り替え、5分間保持した。また、排ガス浄化装置の床温が550℃になるように、ガソリンエンジンの運転条件を制御した。
【0058】
混合気の空燃比A/Fを切り替え始めてから200秒経過した時点から100秒間にわたり、排ガス浄化装置からのHC及びNOxの排出量(HC-NOx排出量)を測定し、測定期間中のHC-NOx排出量の平均値を求めた。実施例及び比較例1~3の各排ガス浄化装置からのHC-NOx排出量の平均値を、比較例1の排ガス浄化装置からのHC-NOx排出量の平均値で除することにより規格化した。図4のグラフに、規格化したHC-NOx排出量の平均値を示す。第一触媒層がAZ複合体を含む実施例の排ガス浄化装置は、比較例1~3の排ガス浄化装置と比べて、HC-NOx排出量を低減可能であることが示された。
【0059】
(3)参考実験(第一触媒層による水蒸気改質の評価)
アルミナ粉末、ジルコニア粉末、AZ複合酸化物(アルミナ:ジルコニア=1:2(重量比))の粉末、及びアルミナ粉末とジルコニア粉末の物理的混合物(アルミナ:ジルコニア=7:3(重量比))を用意し、これらのそれぞれからペレットを作製した。具体的には、まず、各原料を、メジアン径D50が8μmになるように湿式ミリングに供した。ミリング後の粉末に硝酸Pt水溶液を含浸させ、乾燥させた。結果物を電気炉により空気中で500℃で焼成し、次いで加圧成形してペレットを得た。
【0060】
各ペレットをNフロー(流量20L/分)中に置き、Nガスを600℃に加熱した。次いで、2000ppmC(炭素換算濃度)のC及び10vol%のHOを含み、残部がNである、600℃の混合ガスを、20L/分の流量で各ペレットに流した。C及びHOを含む混合ガスを流し始めてから3分間にわたりペレットを通過した後のガス中のCの濃度を測定し、HC浄化率を求めた。結果を図5に示す。
【0061】
各ペレットに供給されたCを含む混合ガスはOを含まないため、混合ガス中のCは、Oとの反応ではなく、HOとの反応(すなわち、水蒸気改質)により除去される。図5に示されるように、AZ複合酸化物の粉末から作製したペレットは、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、又はこれらの物理的混合物から作製したいずれのペレットよりも高いHC浄化率を示した。このことから、AZ複合酸化物が、アルミナ、ジルコニア、及びこれらの物理的混合物のいずれよりも高い水蒸気改質促進効果を有することが示された。
【符号の説明】
【0062】
1:排ガス浄化装置、10:基材、11:枠部、12:隔壁、14:入側セル(第一セル)、16:出側セル(第二セル)、30:第一触媒層、50:第二触媒層、70:封止部、I:上流端(第一端)、J:下流端(第二端)、K:第一位置、L:第二位置、X:上流領域、Y:下流領域
図1
図2
図3
図4
図5