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特開2022-186016エネルギー管理システム、および、エネルギー管理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186016
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】エネルギー管理システム、および、エネルギー管理方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20221208BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094008
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】高坂 一郎
(72)【発明者】
【氏名】北村 聖一
(72)【発明者】
【氏名】田中 将太
(72)【発明者】
【氏名】澤村 亮太
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】異なるエリアを跨ぐ電力融通の電力融通量と電力融通の価値情報とを決定する。
【解決手段】エネルギー管理システムは、複数のサイトと、統括管理部とを備え、統括管理部は、複数のサイト間における電力融通の価値情報をそれぞれのサイトに通知し、エリアプライス予測値を加算することで電力融通の価値情報を書き換える電力融通の価値情報書き換え部をさらに備え、それぞれのサイトは、書き換えられた電力融通の価値情報に基づいて、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するように電力融通の価値情報を更新する。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄エネリソースを含む複数のサイトと、
複数の前記サイトを管理するための統括管理部とを備え、
前記統括管理部は、複数の前記サイト間における電力融通の価値情報をそれぞれの前記サイトに通知し、
前記統括管理部から通知された前記電力融通の価値情報にそれぞれの前記サイトのエリアプライス予測値を加算することで前記電力融通の価値情報を書き換えるための電力融通の価値情報書き換え部をさらに備え、
それぞれの前記サイトは、前記電力融通の価値情報書き換え部で書き換えられた前記電力融通の価値情報に基づいて、それぞれの前記サイトが電力融通可能な電力量である電力融通量を計算し、かつ、前記電力融通量を前記統括管理部に通知し、
前記統括管理部は、前記電力融通量に基づいて、複数の前記サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するように、前記電力融通の価値情報を更新し、かつ、更新された前記電力融通の価値情報を前記統括管理部から通知する、
エネルギー管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエネルギー管理システムであり、
それぞれの前記サイトは、前記電力融通の価値情報書き換え部で書き換えられた前記電力融通の価値情報を入力の一部として前記電力融通量を計算し、
前記計算において、前記電力融通の価値情報書き換え部で書き換えられた前記電力融通の価値情報が、小売電気事業者からの電力購入の価値または日本卸電力取引所からの前記電力購入の価値よりも前記電力融通の価値情報の価値が低いならば前記電力融通量の購入量を増やす、または、前記日本卸電力取引所への電力販売よりも前記電力融通の価値情報の価値が低いならば前記電力融通量の販売量を減らし、
前記計算において、前記電力融通の価値情報書き換え部で書き換えられた前記電力融通の価値情報が、前記小売電気事業者からの前記電力購入の価値または前記日本卸電力取引所からの前記電力購入の価値よりも前記電力融通の価値情報の価値が高いならば前記電力融通量の購入量を減らす、または、前記日本卸電力取引所への前記電力販売よりも前記電力融通の価値情報の価値が高いならば前記電力融通量の販売量を増やす、
エネルギー管理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエネルギー管理システムであり、
それぞれの前記サイトが計算する前記電力融通量は、全量約定が保証された前記電力融通量である、
エネルギー管理システム。
【請求項4】
請求項3に記載のエネルギー管理システムであり、
全量約定が保証された前記電力融通量は、それぞれの前記サイトのエネルギー運用コスト低減の項、および、ペナルティ項のうちの少なくとも1つの加算の組み合わせで表現される目的関数の最適化問題を演算することによって算出される、
エネルギー管理システム。
【請求項5】
請求項4に記載のエネルギー管理システムであり、
前記ペナルティ項は、前記電力融通量および前記電力融通量の平均値の多項式の累乗に、複数の前記サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致を促すパラメータであるペナルティパラメータを乗じることによって算出される、
エネルギー管理システム。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1つに記載のエネルギー管理システムであり、
前記統括管理部は、前記電力融通の価値情報の更新を、複数の前記サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するまでに複数回行う、
エネルギー管理システム。
【請求項7】
請求項1から6のうちのいずれか1つに記載のエネルギー管理システムであり、
前記電力融通の価値情報には、時刻断面ごとの電力融通の単価と、前記電力融通量の平均値と、複数の前記サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致を促すパラメータであるペナルティパラメータとが含まれる、
エネルギー管理システム。
【請求項8】
請求項7に記載のエネルギー管理システムであり、
前記電力融通の価値情報の更新は、前記ペナルティパラメータに前記電力融通量の平均値を乗じた値を前記電力融通の価値情報に加算する、または、前記電力融通量の平均値に任意の係数を乗じた値を前記電力融通の価値情報に加算することによって行われる、
エネルギー管理システム。
【請求項9】
請求項1から8のうちのいずれか1つに記載のエネルギー管理システムであり、
前記統括管理部は、複数の時刻断面における電力の需要と電力の供給とが一致するように、前記電力融通の価値情報を更新する、
エネルギー管理システム。
【請求項10】
請求項9に記載のエネルギー管理システムであり、
前記統括管理部は、前記サイト全体における前記電力融通量の購入量が前記サイト全体における前記電力融通量の販売量よりも大きい場合は、前記電力融通の価値情報の価値を上げるように前記電力融通の価値情報を更新し、
前記統括管理部は、前記サイト全体における前記電力融通量の購入量が前記サイト全体における前記電力融通量の販売量よりも小さい場合は、前記電力融通の価値情報の価値を下げるように前記電力融通の価値情報を更新する、
エネルギー管理システム。
【請求項11】
請求項1から10のうちのいずれか1つに記載のエネルギー管理システムであり、
前記統括管理部は、複数の前記サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致した場合、それぞれの前記サイトに対して前記電力融通の価値情報の更新の終了を通知する、
エネルギー管理システム。
【請求項12】
請求項11に記載のエネルギー管理システムであり、
前記電力融通の価値情報の更新の終了は、主残差または双対残差のうちのいずれか小さい方または主残差が収束判定指数よりも小さくなること、または、電力融通の価値情報の更新回数があらかじめ定められたしきい値よりも大きくなることのうちの少なくとも一方を含む基準で判断される、
エネルギー管理システム。
【請求項13】
請求項11または12に記載のエネルギー管理システムであり、
前記統括管理部が前記電力融通の価値情報をそれぞれの前記サイトに通知した後、かつ、前記統括管理部が前記電力融通の価値情報の更新の終了を通知するまでの間の電力融通の対象は、少なくとも1つの時刻断面である、
エネルギー管理システム。
【請求項14】
請求項1から13のうちのいずれか1つに記載のエネルギー管理システムであり、
それぞれの前記サイトは、それぞれの前記サイトにおけるエネルギーを管理するためのエネルギー管理部を備え、
前記エネルギー管理システムは、前記エネルギー管理部とは独立して設けられ、かつ、前記電力融通量を計算するための取引演算部を備える、
エネルギー管理システム。
【請求項15】
請求項14に記載のエネルギー管理システムであり、
前記取引演算部は、いずれか1つの前記サイトに設けられる、
エネルギー管理システム。
【請求項16】
請求項14に記載のエネルギー管理システムであり、
前記取引演算部は、2つ以上の前記サイトにそれぞれ設けられる、
エネルギー管理システム。
【請求項17】
蓄エネリソースを含む複数のサイト間における電力融通の価値情報をそれぞれの前記サイトに通知し、
それぞれの前記サイトは、通知された前記電力融通の価値情報にそれぞれの前記サイトのエリアプライス予測値を加算することで前記電力融通の価値情報を書き換え、さらに、書き換えられた前記電力融通の価値情報に基づいて、それぞれの前記サイトが電力融通可能な電力量である電力融通量を計算し、
前記電力融通量に基づいて、複数の前記サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するように、前記電力融通の価値情報を更新し、かつ、更新された前記電力融通の価値情報を通知する、
エネルギー管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願明細書に開示される技術は、エネルギー管理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーの運用コストを低減すること、または、CO排出量を削減することを目的として、分散型エネルギーリソースの普及が拡大しつつある。あるサイトに設置された分散型エネルギーリソースは、熱需要および電力需要を満たす範囲で、運用コストの低減またはCO排出量の削減を目的とする最適運転計画に基づいて運用されることが多い。一方で、あるサイトに設置された分散型エネルギーリソースに発電余力がある場合には、電力供給が不足している他のサイトへ発電される電力を融通したほうが、それぞれのサイトおよびサイト全体として、運用コストの低減またはCO排出量の削減に寄与することができると考えられる。このことから、事業者間または需要家間における電力融通のニーズがある。
【0003】
たとえば、特許文献1に開示されるエネルギー管理システムは、蓄エネリソースを含む複数のサイトと、複数の当該サイトを管理するための統括管理部とを備える。当該エネルギー管理システムでは、統括管理部が、複数のサイト間における電力融通の価値情報をそれぞれのサイトに通知し、それぞれのサイトは、電力融通の価値情報に基づいて、それぞれのサイトが電力融通可能な電力量である電力融通量を計算し、かつ、電力融通量を統括管理部に通知する。そして、統括管理部は、電力融通量に基づいて、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するように、電力融通の価値情報を更新する。
【0004】
当該エネルギー管理システムによれば、蓄エネリソースを含む分散型エネルギーリソースで構成される複数のサイトのサイト全体の適切な電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-190924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術では、電力融通量は、それぞれのサイトのエネルギー運用コストの項とペナルティ項とのうちの少なくとも1つの加算の組み合わせで表現される目的関数の最小化問題を計算することによって算出されている。
【0007】
しかしながら、この方法では、一般送配電事業者が管轄するエリアを跨ぐサイト間の電力融通において、エリア価格差によるサイト全体の損益が発生する場合があるだけでなく、エリア価格差によるサイト全体の損益を含む総エネルギーコストの最小化を実現することができないという場合がある。
【0008】
このことを2つのサイト間の電力融通を例として説明する。同じエリアに属さないサイトAとサイトBとがあるとする。そして、特許文献1に開示された技術によって、電力融通の単価8円/kWhでサイトAからサイトBへ電力融通量5kWhを決定したとする。
【0009】
エリアを跨ぐサイト間の電力融通の場合、JEPX(日本卸電力取引所、Japan Electric Power eXchange)で電力融通を希望する電力量の販売または調達を完了する必要がある。
【0010】
JEPXで市場分断(すなわち、エリア間の連系線が混雑することによって、エリアごとの市場価格に値差が生じること)が起こって、サイトAが属するエリア価格が5円/kWh、サイトBが属するエリア価格が10円/kWhとなってエリア価格差が発生し、これを電力融通の単価8円/kWhで精算した場合、サイトAへの支出は8円/kWh×5kWh=40円、サイトBからの収入は8円/kWh×5kWh=40円、サイトAの融通電力量の販売に関するJEPXからの収入は5円/kWh×5kWh=25円、サイトBの融通電力量の調達に関するJEPXへの支出は10円/kWh×5kWh=50円となり、サイト全体としてはエリア価格差と電力融通量との積である(10円/kWh-5円/kWh)×5kWh=25円の損失が発生する。
【0011】
なお、上記の具体例において、市場分断が発生せず、サイトAが属するエリア価格が5円/kWh、サイトBが属するエリア価格が5円/kWhとなってエリア価格差が発生せず、これを電力融通の単価8円/kWhで精算した場合は、サイトAへの支出は8円/kWh×5kWh=40円、サイトBからの収入は8円/kWh×5kWh=40円、サイトAの融通電力量の販売に関するJEPXからの収入は5円/kWh×5kWh=25円、サイトBの融通電力量の調達に関するJEPXへの支出は5円/kWh×5kWh=25円となり、サイト全体としてはエリア価格差による損益は発生しない。
【0012】
上記の例のように、特許文献1に開示された技術では、エリア価格差によるサイト全体の損益を考慮して電力融通量を算出してはいないため、エリア価格差が発生する状況において、エリア価格差によるサイト全体の損益がほとんどの場合で発生するだけでなく、エリア価格差によるサイト全体の損益を含む総エネルギーコストの最小化はほとんどの場合で実現できない可能性がある。
【0013】
本願明細書に開示される技術は、以上に記載されたような問題を鑑みてなされたものであり、サイト全体の最適化問題を解かず、かつ、詳細な設備情報を公開せずに、エリアを跨ぐ電力融通の電力融通量と電力融通の価値情報とを決定するための技術である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願明細書に開示される技術の第1の態様であるエネルギー管理システムは、蓄エネリソースを含む複数のサイトと、複数の前記サイトを管理するための統括管理部とを備え、前記統括管理部は、複数の前記サイト間における電力融通の価値情報をそれぞれの前記サイトに通知し、前記統括管理部から通知された前記電力融通の価値情報にそれぞれの前記サイトのエリアプライス予測値を加算することで前記電力融通の価値情報を書き換えるための電力融通の価値情報書き換え部をさらに備え、それぞれの前記サイトは、前記電力融通の価値情報書き換え部で書き換えられた前記電力融通の価値情報に基づいて、それぞれの前記サイトが電力融通可能な電力量である電力融通量を計算し、かつ、前記電力融通量を前記統括管理部に通知し、前記統括管理部は、前記電力融通量に基づいて、複数の前記サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するように、前記電力融通の価値情報を更新し、かつ、更新された前記電力融通の価値情報を前記統括管理部から通知する。
【発明の効果】
【0015】
本願明細書に開示される技術の少なくとも第1の態様によれば、サイト全体の最適化問題を解かず、かつ、詳細な設備情報を公開せずに、蓄エネリソースを含む分散型エネルギーリソースで構成される複数のサイトのサイト全体の、適切な電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。また、一般送配電事業者が管轄するエリア内のサイト間の電力融通、または、エリアを跨ぐサイト間の電力融通において、市場分断によるエリア価格差の発生有無にかかわらず、適切な電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。
【0016】
また、本願明細書に開示される技術に関連する目的と、特徴と、局面と、利点とは、以下に示される詳細な説明と添付図面とによって、さらに明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態に関する、分散型エネルギー管理システムの全体構成の例を示す図である。
図2】実施の形態に関する分散型エネルギー管理システムの全体構成の変形例を示す図である。
図3】実施の形態に関する分散型エネルギー管理システムの全体構成の変形例を示す図である。
図4】実施の形態に関する分散型エネルギー管理システムにおけるサイト内のエネルギーフローの例を示す図である。
図5】実施の形態に関する統括EMSの構成の例を示す図である。
図6】実施の形態に関する統括EMSの、パラメータ設定部で扱うデータ項目の例を示す図である。
図7】実施の形態に関する統括EMSの、入力受け付け部で扱うデータ項目の例を示す図である。
図8】実施の形態に関する統括EMSの、出力部で扱うデータ項目の例を示す図である。
図9】実施の形態に関する統括EMSのハードウェア構成の例を示す図である。
図10】実施の形態に関するEMSの構成の例を示す図である。
図11】実施の形態に関するEMSの、パラメータ設定部で扱うデータ項目の例を示す図である。
図12】実施の形態に関するEMSの、入力受け付け部で扱うデータ項目の例を示す図である。
図13】実施の形態に関するEMSの、出力部で扱うデータ項目の例を示す図である。
図14】実施の形態に関するEMSのハードウェア構成の例を示す図である。
図15】実施の形態に関する統括EMSおよびEMSの処理フローの例を示すフローチャートである。
図16】統括EMSから通知される電力融通の単価の更新結果の例を示す図である。
図17】電力融通量の更新結果の例を示す図である。
図18】試行回数N回目の任意の時刻断面で、主残差が供給不足である場合の補填方法の例を示す図である。
図19】試行回数N回目の任意の時刻断面で、主残差が供給不足である場合の補填方法の例を示す図である。
図20】試行回数N回目の任意の時刻断面で、主残差が供給過剰である場合の補填方法の例を示す図である。
図21】試行回数N回目の任意の時刻断面で、主残差が供給過剰である場合の補填方法の例を示す図である。
図22】実施の形態に関する統括EMSの、パラメータ設定部で扱うデータ項目の例を示す図である。
図23】実施の形態に関する統括EMSの、出力部で扱うデータ項目の例を示す図である。
図24】実施の形態に関するEMSの、入力受け付け部で扱うデータ項目の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付される図面を参照しながら実施の形態について説明する。以下の実施の形態では、技術の説明のために詳細な特徴なども示されるが、それらは例示であり、実施の形態が実施可能となるためにそれらすべてが必ずしも必須の特徴ではない。
【0019】
なお、図面は概略的に示されるものであり、説明の便宜のため、適宜、構成の省略、または、構成の簡略化などが図面においてなされるものである。また、異なる図面にそれぞれ示される構成などの大きさおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得るものである。また、断面図ではない平面図などの図面においても、実施の形態の内容を理解することを容易にするために、ハッチングが付される場合がある。
【0020】
また、以下に示される説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称と機能とについても同様のものとする。したがって、それらについての詳細な説明を、重複を避けるために省略する場合がある。
【0021】
また、本願明細書に記載される説明において、ある構成要素を「備える」、「含む」または「有する」などと記載される場合、特に断らない限りは、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0022】
また、本願明細書に記載される説明において、「第1の」または「第2の」などの序数が使われる場合があっても、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするために便宜上使われるものであり、実施の形態の内容はこれらの序数によって生じ得る順序などに限定されるものではない。
【0023】
<第1の実施の形態>
以下、本実施の形態に関するエネルギー管理システム、および、エネルギー管理方法について説明する。
【0024】
本実施の形態では、供給側の電力融通量の総和と需要側の電力融通量の総和との一致を促すペナルティパラメータを導入する場合における、分散型エネルギー管理システム101について説明する。
【0025】
<分散型エネルギー管理システムの構成について>
図1は、本実施の形態に関するエネルギー管理システムとしての分散型エネルギー管理システム101の全体構成の例を示す図である。分散型エネルギー管理システム101は、サイト106a、サイト106bおよびサイト106cと、それぞれのサイトを管理するEMS103a、EMS103bおよびEMS103cと、EMS103a、EMS103bおよびEMS103cとの間で通信105を介して連携する統括EMS102とを備える。
【0026】
統括EMS102は、取引演算部107を有する。また、EMS103a、EMS103bおよびEMS103cは、エネルギー管理部108a、エネルギー管理部108bおよびエネルギー管理部108cをそれぞれ有する。
【0027】
図2は、本実施の形態に関する分散型エネルギー管理システム101aの全体構成の変形例を示す図である。
【0028】
図2に例が示される分散型エネルギー管理システム101aのように、取引演算部107がいずれか1つのEMS(図2においては103a)に備えられていてもよい。
【0029】
なお、取引演算部107をいずれか1つのEMSに割り当てる方法は、いずれか1つのEMSに固定的に割り当てられる方法であってもよいし、取引ごとに割り当てられるEMSが変更される方法であってもよい。
【0030】
取引ごとに割り当てられるEMSが変更される具体的な方法としては、事業所番号順のローテーション方式、割り当て回数の少ないものから割り当てるローテーション方式、任意の乱数を生成させ当該乱数に基づいて割り当てるランダム方式、過去の取引演算の実績の評価が高いものを指名する実績評価方式などが用いられる。
【0031】
図3は、本実施の形態に関する分散型エネルギー管理システム101bの全体構成の変形例を示す図である。
【0032】
図3に例が示される分散型エネルギー管理システム101bのように、EMS103a、EMS103bおよびEMS103cに、取引演算部107a、取引演算部107bおよび取引演算部107cがそれぞれ対応して設けられていてもよい。
【0033】
EMS103a、EMS103bおよびEMS103cそれぞれにおける取引演算部は、それぞれの対応するエネルギー管理部108a、エネルギー管理部108bおよびエネルギー管理部108cへ電力融通の価値情報を公開し、また、電力融通の価値情報の更新を行い、最終的に電力融通量と電力融通の価値情報とを計算する。
【0034】
そして、EMS103a、EMS103bおよびEMS103cそれぞれにおける取引演算部の計算結果は、主残差または電力融通量などを引数とする評価関数で評価され、最も評価値の高い計算結果1つが採用される。
【0035】
本実施の形態に関する分散型エネルギー管理システムは図1図2および図3のうちのいずれに開示された分散型エネルギー管理システムであってもよいが、以降の説明では、図1に開示された構成を採用するものとする。
【0036】
それぞれのサイト間は電力融通104が可能である。電力融通の方法の例としては、自己託送を利用する事業所間の電力融通、特定規模電気事業者による自営線供給地域内の需要家間電力融通、または、自営線供給地域を保有する特定規模電気事業者間の電力融通などがある。
【0037】
電力融通の方法を、自己託送を利用する事業所間の電力融通とする場合、サイト106a、サイト106bおよびサイト106cは、近接する複数の事業所で構成される事業所群とみなすことができる。なお、サイト106a、サイト106bおよびサイト106cは、一般送配電事業者が管轄する同一のエリア内に属していなくともよい。
【0038】
電力融通の方法を、特定規模電気事業者による自営線供給地域内の需要家間電力融通とする場合、サイト106a、サイト106bおよびサイト106cは、近接する複数の需要家で構成される需要家群とみなすことができる。なお、サイト106a、サイト106bおよびサイト106cは、特定規模電気事業者による自営線供給地域内にともに属する必要がある。
【0039】
電力融通の方法を、自営線供給地域を保有する特定規模電気事業者間の電力融通とする場合、サイト106a、サイト106bおよびサイト106cは、特定規模電気事業者とみなすことができる。なお、サイト106a、サイト106bおよびサイト106cは、一般送配電事業者が管轄する同一のエリア内に属していなくともよい。
【0040】
本実施の形態では、いずれの方法の場合も採用可能であるが、以降の説明では、自己託送を利用する事業所間の電力融通を採用するものとする。
【0041】
図4は、本実施の形態に関する分散型エネルギー管理システムにおけるサイト内のエネルギーフローの例を示す図である。図4においては、電力201の流れ、ガス202の流れ、熱203の流れが、それぞれ示されている。
【0042】
サイト106は、図1におけるサイト106a、サイト106bおよびサイト106cのいずれにも対応する。
【0043】
サイト106は、分散型エネルギーリソースと、熱需要241と、電力需要242とを備える。
【0044】
分散型エネルギーリソースは、電気温水器224と、水電解装置223と、蓄電池231と、ガスタービン221と、ガスボイラ222と、水素貯蔵設備232と、燃料電池225と、蓄熱槽233とを備える。
【0045】
分散型エネルギーリソースにおけるこれらの構成のうち、蓄エネリソースは、蓄電池231と、水素貯蔵設備232と、蓄熱槽233とである。
【0046】
サイト106の外部からのエネルギー購入の手段は、小売電気事業者からの電力購入211、JEPXからの電力購入213、ガス小売事業者からのガス購入214、または、自己託送を利用する他のサイトからの電力受電212などがある。
【0047】
また、サイト106の外部へのエネルギー販売の手段は、JEPXへの電力販売215、または、自己託送を利用する他のサイトへの電力送電216などがある。
【0048】
なお、サイト106内に太陽光発電設備または風力発電設備などがある場合、発電出力を電力需要242に含めてもよい。
【0049】
図5は、本実施の形態に関する統括EMSの構成の例を示す図である。統括EMS102は、それぞれのEMSからの情報を取得する入力受け付け部301と、演算に関わるパラメータを設定するパラメータ設定部302と、電力融通の価値情報のうちの主に電力融通の単価を計算する演算部303と、各種情報を格納する情報保管部306と、それぞれのEMSへ情報を公開する出力部304と、システム所有者へ各種情報を表示する表示部305とを備える。
【0050】
パラメータ設定部302は、パラメータ342の入力を受け付け、さらに、情報保管部306へパラメータ342を登録する。
【0051】
入力受け付け部301は、それぞれのEMSからの電力融通量341に関する情報を受け付け、さらに、情報保管部306へそれぞれのEMSからの電力融通量341に関する情報を登録する。
【0052】
演算部303は、演算に必要な情報を情報保管部306から取得し、さらに、演算結果を情報保管部306へ登録する。
【0053】
出力部304は、それぞれのEMSへ公開する電力融通の価値情報343などの情報を情報保管部306から取得し、さらに、それぞれのEMSへ電力融通の価値情報343などの情報を公開する。
【0054】
表示部305は、システム所有者が要求する情報をシステム所有者へ表示する。
【0055】
図6は、本実施の形態に関する統括EMSの、パラメータ設定部302で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0056】
パラメータ設定部302で扱うデータ項目(パラメータ342)には、価値情報更新の終了判定に用いる収束判定指数(図6においては、値が0.0001)、および、試行回数上限(図6においては、値が100)が含まれる。また、たとえば、募集単価更新に用いる、1日を48個のコマに等間隔で分割した場合の時刻断面ごとに設定される初期募集単価(図6においては、0:00-6:00で値が10.0、6:00-12:00で値が9.0、12:00-18:00で値が10.0、18:00-24:00で値が11.0)、および、初期ペナルティパラメータ(図6においては、0:00-6:00で値が2.0、6:00-12:00で値が1.5、12:00-18:00で値が2.0、18:00-24:00で値が2.5)が含まれる。以降の説明では、説明を簡易にするために1日を4個のコマに等間隔で分割した場合について考える。
【0057】
パラメータ設定部302は、パラメータ設定部302で扱うデータを、たとえば、システム所有者からの入力を受けて設定する。
【0058】
図7は、本実施の形態に関する統括EMSの、入力受け付け部301で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0059】
入力受け付け部301で扱うデータ項目(電力融通量341)には、それぞれのEMSの時刻断面ごとの電力融通量(需要側は正の値、供給側は負の値とする)が含まれる。
【0060】
図7においては、エージェントIDが#0001(サイトA)である場合に、電力融通量は、0:00-6:00で値が100、6:00-12:00で値が150、12:00-18:00で値が100、18:00-24:00で値が50であることが示されている。
【0061】
また、図7においては、エージェントIDが#0002(サイトB)である場合に、電力融通量は、0:00-6:00で値が-50、6:00-12:00で値が-100、12:00-18:00で値が-100、18:00-24:00で値が-150であることが示されている。
【0062】
また、図7においては、エージェントIDが#0003(サイトC)である場合に、電力融通量は、0:00-6:00で値が-100、6:00-12:00で値が-200、12:00-18:00で値が-100、18:00-24:00で値が-150であることが示されている。
【0063】
図8は、本実施の形態に関する統括EMSの、出力部304で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0064】
出力部304で扱うデータ項目(電力融通の価値情報343)には、時刻断面ごとの電力融通の単価と、電力融通量の平均値と、ペナルティパラメータとが含まれる。
【0065】
図8においては、電力融通の単価は、0:00-6:00で値が20.0、6:00-12:00で値が30.0、12:00-18:00で値が25.0、18:00-24:00で値が15.0であることが示されている。
【0066】
また、図8においては、電力融通量の平均値は、0:00-6:00で値が-5.0、6:00-12:00で値が2.0、12:00-18:00で値が2.5、18:00-24:00で値が12.0であることが示されている。
【0067】
また、図8においては、ペナルティパラメータは、0:00-6:00で値が3.0、6:00-12:00で値が2.0、12:00-18:00で値が5.0、18:00-24:00で値が2.5であることが示されている。
【0068】
図9は、本実施の形態に関する統括EMSのハードウェア構成の例を示す図である。
【0069】
図9に例が示されるように、統括EMS102は、入力装置315と、出力装置316と、中央演算処理装置(central processing unit、すなわち、CPU)313と、主記憶装置312と、二次記憶装置311と、たとえば、イントラネットなどのネットワーク317に接続するための通信機器314とを備える。
【0070】
図5における入力受け付け部301および出力部304は、通信機器314によって実現される。また、図5におけるパラメータ設定部302は、入力装置315によって実現される。
【0071】
また、図5における演算部303は、CPU313が計算に必要なデータを二次記憶装置311に保存し、または、計算に必要なデータを二次記憶装置311から読み出しつつ、主記憶装置312に格納されたソフトウェアプログラムを実行することによって実現される。
【0072】
また、図5における表示部305は、出力装置316によって実現される。また、図5における情報保管部306は、主記憶装置312または二次記憶装置311によって実現される。
【0073】
図10は、本実施の形態に関するEMSの構成の例を示す図である。EMS103は、統括EMS102からの情報を取得する入力受け付け部321と、演算に関わるパラメータおよび予測データを設定するパラメータ設定部322と、統括EMS102から通知された電力融通の価値情報を書き換える、電力融通の価値情報書き換え部327と、電力融通の価値情報書き換え部327で書き換えられた電力融通の価値情報に基づいて電力融通量を計算する演算部323と、各種情報を格納する情報保管部326と、統括EMS102へ情報を公開する出力部324と、システム所有者へ各種情報を表示する表示部325とを備える。
【0074】
パラメータ設定部322は、パラメータ345の入力を受け付け、さらに、情報保管部326へパラメータ342を登録する。
【0075】
入力受け付け部321は、統括EMS102からの電力融通の価値情報344を受け付け、さらに、情報保管部326へ統括EMS102からの情報を登録する。
【0076】
演算部323は、演算に必要な情報を情報保管部326から取得し、さらに、演算結果を情報保管部326へ登録する。
【0077】
出力部324は、統括EMS102へ提示する電力融通量347などの情報を情報保管部326から取得し、さらに、統括EMS102へ電力融通量347などの情報を提示する。
【0078】
表示部325は、システム所有者が要求する情報をシステム所有者へ表示する。
【0079】
電力融通の価値情報書き換え部327は、情報保管部326に登録された電力融通の価値情報を取得して書き換え、さらに、情報保管部326へ書き換えられた後の電力融通の価値情報を登録する。
【0080】
図11は、本実施の形態に関するEMSの、パラメータ設定部322で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0081】
パラメータ設定部322で扱うデータ項目(パラメータ345)には、設備情報と、エネルギー購入単価(手数料単価)と、時刻断面ごとのエネルギー購入単価(手数料単価)とが含まれる。
【0082】
設備Aの設備情報は、たとえば、エネルギー変換の入出力の関係を二次の多項式で近似した場合のエネルギー変換係数(2次係数項。図11においては、値が5)と、エネルギー変換係数(1次係数項。図11においては、値が4)と、エネルギー変換係数(定数項。図11においては、値が10)と、出力上限値(図11においては、値が1000)と、出力下限値(図11においては、値が0)とを含む。
【0083】
蓄エネリソースである設備Bの設備情報は、たとえば、システム効率(図11においては、値が90)と、出力上限値(図11においては、値が500)と、出力下限値(図11においては、値が-500)と、容量上限値(図11においては、値が1000)と、容量下限値(図11においては、値が0)と、初期容量(図11においては、値が500)と、最終容量(図11においては、値が500)とを含む。
【0084】
エネルギー購入単価(手数料単価)は、たとえば、ガス料金単価(図11においては、値が30)と、託送料金単価(図11においては、値が11.2)と、再エネ賦課金単価(図11においては、値が2.7)とを含む。
【0085】
時刻断面ごとのエネルギー購入単価(手数料単価)は、たとえば、小売契約の電力料金単価(図11においては、0:00-6:00で値が12.0、6:00-12:00で値が23.0、12:00-18:00で値が23.0、18:00-24:00で値が12.0)を含む。
【0086】
また、パラメータ設定部322で扱うデータ項目(予測データ346)には、時刻断面ごとの予測データが含まれる。
【0087】
時刻断面ごとの予測データは、たとえば、電力需要予測値(図11においては、0:00-6:00で値が1000、6:00-12:00で値が1100、12:00-18:00で値が1000、18:00-24:00で値が900)と、熱需要予測値(図11においては、0:00-6:00で値が200、6:00-12:00で値が180、12:00-18:00で値が200、18:00-24:00で値が220)と、エリアプライス予測値(図11においては、0:00-6:00で値が8.0、6:00-12:00で値が9.0、12:00-18:00で値が8.0、18:00-24:00で値が10.0)とを含む。
【0088】
予測データについては、たとえば、分散エネルギー管理システムの外部で予測することで作成することができる。
【0089】
パラメータ設定部322は、パラメータ設定部322で扱うデータを、たとえば、システム所有者からの入力を受けて設定する。
【0090】
図12は、本実施の形態に関するEMSの、入力受け付け部321で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0091】
入力受け付け部321で扱うデータ項目(電力融通の価値情報344)には、時刻断面ごとの電力融通の単価と、電力融通量の平均値と、ペナルティパラメータとが含まれる。
【0092】
図12においては、電力融通の単価は、0:00-6:00で値が20.0、6:00-12:00で値が30.0、12:00-18:00で値が25.0、18:00-24:00で値が15.0であることが示されている。
【0093】
また、図12においては、電力融通量の平均値は、0:00-6:00で値が-5.0、6:00-12:00で値が2.0、12:00-18:00で値が2.5、18:00-24:00で値が12.0であることが示されている。
【0094】
また、図12においては、ペナルティパラメータは、0:00-6:00で値が3.0、6:00-12:00で値が2.0、12:00-18:00で値が5.0、18:00-24:00で値が2.5であることが示されている。
【0095】
図13は、本実施の形態に関するEMSの、出力部324で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0096】
出力部324で扱うデータ項目(電力融通量347)には、電力融通量(需要側は正の値、供給側は負の値とする)が含まれる。
【0097】
図13においては、エージェントIDが#0001(サイトA)である場合に、電力融通量は、0:00-6:00で値が100、6:00-12:00で値が150、12:00-18:00で値が100、18:00-24:00で値が50であることが示されている。
【0098】
図14は、本実施の形態に関するEMSのハードウェア構成の例を示す図である。
【0099】
図14に例が示されるように、EMSは、入力装置335と、出力装置336と、CPU333と、主記憶装置332と、二次記憶装置331と、たとえば、イントラネットなどのネットワーク317に接続するための通信機器334とを備える。
【0100】
図10における入力受け付け部321および出力部324は、通信機器334によって実現される。また、図10におけるパラメータ設定部322は、入力装置335によって実現される。
【0101】
また、図10における演算部323は、CPU333が計算に必要なデータを二次記憶装置331に保存し、または、計算に必要なデータを二次記憶装置331から読み出しつつ、主記憶装置332に格納されたソフトウェアプログラムを実行することによって実現される。
【0102】
また、図10における表示部325は、出力装置336によって実現される。また、図10における情報保管部326は、主記憶装置332または二次記憶装置331によって実現される。
【0103】
<分散型エネルギー管理システムの動作について>
次に、図15から図21を参照しつつ、本実施の形態に関する分散型エネルギー管理システムの動作を説明する。
【0104】
図15は、本実施の形態に関する統括EMSおよびEMSの処理フローの例を示すフローチャートである。
【0105】
まず、統括EMS102が電力融通の価値情報(電力融通の単価、ペナルティパラメータおよび電力融通量の平均値)をそれぞれのEMS103へ公開する(図15におけるステップST01を参照)。
【0106】
次に、それぞれのEMS103は、統括EMSから通知された電力融通の価値情報にパラメータ設定部322に入力された予測データ346のうちのエリアプライス予測値を加算することで、電力融通の価値情報を書き換える(図15におけるステップST11を参照)。ここで、エリアプライス予測値は、一般送配電事業者に管轄されるそれぞれのエリアにおける電力価格(エリア価格)の予測値である。
【0107】
次に、電力融通の価値情報書き換え部327で書き換えられた電力融通の単価に基づいて全量約定が保証された電力融通量を計算する(図15におけるステップST02を参照)。
【0108】
次に、それぞれのEMS103は、電力融通量を統括EMS102へ提示する(図15におけるステップST03を参照)。
【0109】
次に、統括EMS102は、電力融通の価値情報(電力融通の単価)の更新を終了するか否かを判定する(図15におけるステップST04を参照)。
【0110】
当該判定の結果、電力融通の価値情報(電力融通の単価)の更新を終了する場合、すなわち、図15に例が示されるステップST04から分岐する「YES」に対応する場合には、それぞれのEMS103へ電力融通の価値情報(電力融通の単価)の更新の終了を宣言する(図15におけるステップST05を参照)。
【0111】
一方で、当該判定の結果、電力融通の価値情報(電力融通の単価)の更新を終了しない場合、すなわち、図15に例が示されるステップST04から分岐する「NO」に対応する場合には、それぞれのEMS103から得られた電力融通量に基づいて電力融通の価値情報(電力融通の単価)を更新する(図15におけるステップST06を参照)。そして、ステップST01へ戻る。
【0112】
電力融通の価値情報の更新は、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するまでに複数回行うことができる。
【0113】
電力融通の単価の更新は、複数のサイト全体における供給側の電力融通量の総和と需要側の電力融通量の総和とを一致させることを目的に、たとえば、時刻をt、反復計算回数をn、電力融通の単価をTPC、ペナルティパラメータをρ、電力融通量の平均値をTPaveとした場合、以下の式(1)を演算することで実現される。
【0114】
【数1】
【0115】
ペナルティパラメータの更新は、主残差の減少または双対残差の減少を加速させることを目的に、たとえば、時刻をt、反復計算回数をn、ペナルティパラメータをρ、主残差をr、双対残差をs、係数μa、係数μb、係数μcとした場合、以下の式(2)を演算することによって実現される。
【0116】
【数2】
【0117】
電力融通の単価の更新の終了の判定は、収束判定条件を満たすか否か、または、試行回数条件に到達するか否かで判定する。
【0118】
収束判定条件を満たすか否かの判定は、時刻をt、反復計算回数をn、主残差をr、双対残差をs、収束判定指数をεとした場合、以下の式(3)を演算することによって実現される。
【0119】
【数3】
【0120】
試行回数条件に到達するか否かの判定は、反復計算回数をn、試行回数上限をnmaxとした場合、以下の式(4)を演算することによって実現される。
【0121】
【数4】
【0122】
主残差の計算は、たとえば、サイトをx、時刻をt、反復計算回数をn、電力融通量をTP、主残差をrとした場合、以下の式(5)を演算することによって実現される。
【0123】
【数5】
【0124】
双対残差の計算は、たとえば、時刻をt、反復計算回数をn、ペナルティパラメータをρ、主残差をr、双対残差をsとした場合、以下の式(6)を演算することによって実現される。
【0125】
【数6】
【0126】
電力融通の価値情報の書き換えは、統括EMS102から通知された電力融通の価値情報に、パラメータ設定部322に入力された予測データ346のうちのエリアプライス予測値を加算することで行われる。時刻をt、反復計算回数をn、エリアプライス予測値をCa、統括EMS102から通知された電力融通の単価をTPC、電力融通の価値情報書き換え部327で書き換えられた電力融通の単価をTPCxとした場合、書き換えられた電力融通の単価は、以下の式(13)のように表現することができる。
【0127】
【数7】
【0128】
電力融通量の計算は、たとえば、サイト内の分散型エネルギーリソースのエネルギー運用コスト低減の項とペナルティ項とで表現される目的関数の最小化問題を計算することによって実現される。
【0129】
エリア価格差(すなわち、エリア価格の差)によるサイト全体の損益は、サイト間の電力融通量とエリア価格差との積である全電力融通パターンの合計で表されるが、サイトごとに分解することはできない。
【0130】
本願明細書では、エリア価格差によるサイト全体の損益をサイトごとに分解することができる形で定式化する。
【0131】
時刻をt、サイトをx、エリアプライス予測値をCa、電力融通量をTPとする場合に、エリア価格差によるサイト全体の損益B(正の値は損失、負の値は利益)は、以下の式(14)のように表現することができる。なお、反復計算回数nは割愛する。
【0132】
【数8】
【0133】
したがって、電力融通の価値情報書き換え部327で書き換えられた電力融通の単価TPCxと電力融通量との積である全サイトの合計は、エリア価格差によるサイト全体の損益とサイト全体のエネルギー運用コストとの合計を表現している。
【0134】
サイト内の分散型エネルギーリソースのエネルギー運用コスト低減の項は、たとえば、時刻をt、反復計算回数をn、ガス小売り契約に基づくガス料金をBGC、電力小売供給契約に基づく電気料金をKBPC、日本卸電力取引所からの電力購入に対する対価をJBPC、日本卸電力取引所への電力販売に対する対価をJSPC、電力融通の価値情報書き換え部327で書き換えられた電力融通の単価をTPCx、電力融通量をTPとした場合、以下の式(7)のように表現することができる。なお、下記の式は再エネ賦課金単価または託送料金単価は無視しているが、必要に応じて式(7)に適切に考慮する。
【0135】
【数9】
【0136】
また、ペナルティ項は、たとえば、時刻をt、反復計算回数をn、電力融通量の平均値をTPave、電力融通量をTPとした場合、以下の式(8)のように表現することができる。
【0137】
【数10】
【0138】
エネルギー変換設備の入出力の関係式は、たとえば、時刻をt、反復計算回数をn、入力をGi、出力をGo、エネルギー変換係数(2次係数項)をa、エネルギー変換係数(1次係数項)をb、エネルギー変換係数(定数項)をcとした場合、以下の式(9)のように表現することができる。
【0139】
【数11】
【0140】
蓄エネリソースの残容量は、たとえば、時刻をt、反復計算回数をn、入力をHi、出力Ho、残容量をS、システム効率をefとした場合、以下の式(10)のように表現することができる。
【0141】
【数12】
【0142】
図16は、統括EMS102から通知される電力融通の単価の更新結果の例を示す図である。図16においては、縦軸が電力融通の単価を示し、横軸が試行回数を示し、奥行きが時刻であり、0:00-6:00、6:00-12:00、12:00-18:00および18:00-24:00それぞれの時間帯を示す。
【0143】
図17は、電力融通量の更新結果の例を示す図である。図17においては、縦軸が電力融通量を示し、横軸が試行回数を示し、奥行きが時刻であり、0:00-6:00、6:00-12:00、12:00-18:00および18:00-24:00それぞれの時間帯を示す。また、それぞれの試行回数ごとに左右2列のグラフが示されているが、左側が供給側の電力融通量の総和に相当し、右側が需要側の電力融通量の総和に相当する。
【0144】
図16および図17に例が示されるように、試行回数1回目の0:00-6:00では、需要側の電力融通量の総和(右側)が供給側の電力融通量の総和(左側)よりも少ないため、試行回数2回目の電力融通の単価は、試行回数1回目よりも安い値段に更新されている。すなわち、サイト全体における電力融通量の需要量(購入量)がサイト全体における電力融通量の供給量(販売量)よりも小さいため、電力融通の価値情報の価値を下げるように電力融通の単価が更新されている。そして、電力融通の価値情報が、小売電気事業者からの電力購入の価値または日本卸電力取引所からの電力購入の価値よりも電力融通の価値情報の価値が低くなる場合には電力融通量の購入量を増やす、または、日本卸電力取引所への電力販売よりも電力融通の価値情報の価値が低くなる場合には電力融通量の販売量を減らす。
【0145】
また、試行回数2回目の0:00-6:00では、需要側の電力融通量の総和(右側)が供給側の電力融通量の総和(左側)よりも多いため、試行回数3回目の電力融通の単価は、試行回数2回目よりも高い値段に更新されている。すなわち、サイト全体における電力融通量の需要量(購入量)がサイト全体における電力融通量の供給量(販売量)よりも大きいため、電力融通の価値情報の価値を上げるように電力融通の単価が更新されている。そして、小売電気事業者からの電力購入の価値または日本卸電力取引所からの電力購入の価値よりも電力融通の価値情報の価値が高くなる場合には電力融通量の購入量を減らす、または、日本卸電力取引所への電力販売よりも電力融通の価値情報の価値が高くなる場合には前記電力融通量の販売量を増やす。
【0146】
試行回数N回目とは、電力融通の単価の更新を終了した時の試行回数のことである。図16および図17に例が示される例では、試行回数N回目において、すべての時刻断面で需要側の電力融通量の総和(右側)と供給側の電力融通量の総和(左側)とが一致している。そのため、統括EMS102は、それぞれのEMS103へ電力融通の単価の更新の終了を宣言して、処理フローを正常に終了する。
【0147】
もし、試行回数N回目において、少なくとも1つ以上の時刻断面で需要側の電力融通量の総和(右側)と供給側の電力融通量の総和(左側)とが一致しなかった場合、統括EMS102は、総和同士が一致しなかった時刻断面の主残差を補填する。
【0148】
図18および図19は、試行回数N回目の任意の時刻断面で、主残差が供給不足である場合の補填方法の例を示す図である。
【0149】
需要側の電力融通量の総和(右側)と供給側の電力融通量の総和(左側)とを一致させる方法としては、需要側の電力融通量を減らす方法(図18に対応)と、供給側の電力融通量を増やす方法(図19に対応)とがある。
【0150】
図18に例が示される需要側の電力融通量を減らす方法としては、たとえば、統括EMS102が、需要側の電力融通量を提示したEMS103へ、電力融通の単価の更新の終了宣言に併せて、サイト単位の電力需要の削減希望量を通知する。
【0151】
なお、電力需要の削減希望量は、主残差を需要側の電力融通量の比率で按分することで算出することができる。
【0152】
電力需要の削減希望量の通知を受けたサイトは、分散型エネルギーリソースの運用計画を見直す、または、小売電気事業者から購入する電力または日本卸電力取引所から購入する電力を増やすなどの方法で、需要側の電力融通量を削減させる。
【0153】
一方で、図19に例が示される供給側の電力融通量を減らす方法としては、たとえば、統括EMS102が、供給側の電力融通量を提示したEMS103へ、電力融通の単価の更新の終了宣言に併せて、サイト単位の電力供給の増加希望量を通知する。
【0154】
なお、電力供給の増加希望量は、主残差を供給側の電力融通量の比率で按分することで算出することができる。
【0155】
電力供給の増加希望量の通知を受けたサイトは、分散型エネルギーリソースの運用計画を見直す、または、日本卸電力取引所へ販売する電力を減らすなどの方法で、供給側の電力融通量を増加させる。
【0156】
図20および図21は、試行回数N回目の任意の時刻断面で、主残差が供給過剰である場合の補填方法の例を示す図である。
【0157】
需要側の電力融通量の総和(右側)と供給側の電力融通量の総和(左側)とを一致させる方法としては、需要側の電力融通量を増やす方法(図20に対応)と、供給側の電力融通量を減らす方法(図21に対応)とがある。
【0158】
図20に例が示される需要側の電力融通量を増やす方法としては、たとえば、統括EMS102が、需要側の電力融通量を提示したEMS103へ、電力融通の単価の更新の終了宣言に併せて、サイト単位の電力需要の増加希望量を通知する。
【0159】
なお、電力需要の増加希望量は、主残差を需要側の電力融通量の比率で按分することで算出することができる。
【0160】
電力需要の増加希望量の通知を受けたサイトは、分散型エネルギーリソースの運用計画を見直す、または、小売電気事業者から購入する電力または日本卸電力取引所から購入する電力を減らすなどの方法で、需要側の電力融通量を増加させる。
【0161】
一方で、図21に例が示される供給側の電力融通量を増やす方法としては、たとえば、統括EMS102が、供給側の電力融通量を提示したEMS103へ、電力融通の単価の更新の終了宣言に併せて、サイト単位の電力供給の削減希望量を通知する。
【0162】
なお、電力供給の削減希望量は、主残差を供給側の電力融通量の比率で按分することで算出することができる。
【0163】
電力供給の削減希望量の通知を受けたサイトは、分散型エネルギーリソースの運用計画を見直す、または、日本卸電力取引所へ販売する電力を増やすなどの方法で、供給側の電力融通量を削減させる。
【0164】
なお、上記の例以外にも、統括EMS102を保有するEMSが主残差のすべてまたは一部を補てんしても差し支えない。
【0165】
以降では、分散型エネルギー管理システムの外部で行われる分散型エネルギーリソースの運用および精算までの流れの例を示す。
【0166】
それぞれのサイトの事業者は、分散型エネルギー管理システムで取り決められた電力融通量を、日本卸電力取引所へ入札し、約定を完了させる。
【0167】
そして、日本卸電力取引所から約定結果の通知を受けた後、それぞれのサイトの事業者は、電力広域的運営推進機関へ当日計画を提出する。
【0168】
当日計画を提出した後、それぞれのサイトの事業者は、当日計画に基づく分散型エネルギーリソースの運用を行う。
【0169】
その後、分散型エネルギー管理システムで取り決められた電力融通の単価にそれぞれの事業所のエリアプライス予測値を加算することで書き換えられた電力融通の単価と、電力融通量とから電力融通の対価を算出することによって精算が行われる。
【0170】
なお、統括EMS102からの主残差の補填に関わる依頼に応じたEMSは、電力需要の増加、電力需要の削減、電力の購入先変更、または、電力の販売先の変更に要した費用を統括EMS102から受け取ることができる。
【0171】
本実施の形態に関する分散型エネルギー管理システムによれば、蓄エネリソースを含む分散型エネルギーリソースで構成される複数のサイトのサイト全体の最適化問題を解かず、かつ、詳細な設備情報を公開せずに、蓄エネリソースを含む分散型エネルギーリソースで構成される複数のサイトのサイト全体の、適切な電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。
【0172】
また、一般送配電事業者が管轄するエリア内のサイト間の電力融通、または、異なるエリアを跨ぐサイト間の電力融通において、市場分断によるエリア価格差の発生の有無にかかわらず、エリア価格差によるサイト全体の損益を含むサイト全体のエネルギー運用コストの低減、または、CO排出量の低減を実現するように、電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。また、エリアプライス予測の精度が十分に高いならば、エリア価格差によるサイト全体の損益を発生させないように、電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。
【0173】
<第2の実施の形態>
本実施の形態に関するエネルギー管理システム、および、エネルギー管理方法について説明する。なお、以下の説明においては、以上に記載された実施の形態で説明された構成要素と同様の構成要素については同じ符号を付して図示し、その詳細な説明については適宜省略するものとする。
【0174】
<分散型エネルギー管理システムの構成について>
本実施の形態では、ペナルティパラメータを導入しない場合における、エネルギー管理システムとしての分散型エネルギー管理システムについて説明する。
【0175】
図22は、本実施の形態に関する統括EMSの、パラメータ設定部302で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0176】
パラメータ設定部302で扱うデータ項目(パラメータ342)には、募集価格更新に用いる価格更新の係数(図22においては、値が5)、価値情報更新の終了判定に用いる収束判定指数(図22においては、値が0.0001)、および、試行回数上限(図22においては、値が100)が含まれる。また、たとえば、募集単価更新に用いる、1日を48個のコマに等間隔で分割した場合の時刻断面ごとに設定される初期募集単価(図22においては、0:00-6:00で値が10.0、6:00-12:00で値が9.0、12:00-18:00で値が10.0、18:00-24:00で値が11.0)が含まれる。
【0177】
パラメータ設定部302は、パラメータ設定部302で扱うデータを、たとえば、システム所有者からの入力を受けて設定する。
【0178】
図23は、本実施の形態に関する統括EMSの、出力部304で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0179】
出力部304で扱うデータ項目(電力融通の価値情報343)には、時刻断面ごとの電力融通の単価が含まれる。
【0180】
図23においては、電力融通の単価は、0:00-6:00で値が20.0、6:00-12:00で値が30.0、12:00-18:00で値が25.0、18:00-24:00で値が15.0であることが示されている。
【0181】
図24は、本実施の形態に関するEMSの、入力受け付け部321で扱うデータ項目の例を示す図である。
【0182】
入力受け付け部321で扱うデータ項目(電力融通の価値情報344)には、時刻断面ごとの電力融通の単価が含まれる。
【0183】
図24においては、電力融通の単価は、0:00-6:00で値が20.0、6:00-12:00で値が30.0、12:00-18:00で値が25.0、18:00-24:00で値が15.0であることが示されている。
【0184】
<分散型エネルギー管理システムの動作について>
電力融通の単価の更新は、供給側の電力融通量の総和と需要側の電力融通量の総和とを一致させることを目的に、たとえば、時刻をt、反復計算回数をn、電力融通の単価をTPC、価値情報更新の係数をψ、電力融通量の平均値をTPaveとした場合、以下の式(11)を演算することで実現される。
【0185】
【数13】
【0186】
電力融通の単価の更新の終了の判定は、収束判定条件を満たすか否か、試行回数条件に到達するか否かで判定する。
【0187】
収束判定条件を満たすか否かの判定は、時刻をt、反復計算回数をn、主残差をr、収束判定指数をεとした場合、以下の式(12)を演算することによって実現される。
【0188】
【数14】
【0189】
電力融通の価値情報の書き換えは、統括EMS102から通知された電力融通の価値情報に、パラメータ設定部322に入力された予測データ346のうちのエリアプライス予測値を加算することで行われる。時刻をt、反復計算回数をn、エリアプライス予測値をCa、統括EMSから通知された電力融通の単価をTPC、電力融通の価値情報書き換え部327で書き換えられた電力融通の単価をTPCxとした場合、書き換えられた電力融通の単価は、以下の式(15)のように表現することができる。
【0190】
【数15】
【0191】
電力融通量の計算は、たとえば、サイト内の分散型エネルギーリソースのエネルギー運用コスト低減の項で表現される目的関数の最小化問題を計算することによって実現される。
【0192】
エリア価格差によるサイト全体の損益は、サイト間の電力融通量とエリア価格差との積である全電力融通パターンの合計で表されるが、サイトごとに分解することはできない。
【0193】
本願明細書では、エリア価格差によるサイト全体の損益をサイトごとに分解することができる形で定式化する。
【0194】
時刻をt、サイトをx、エリアプライス予測値をCa、電力融通量をTPとする場合に、エリア価格差によるサイト全体の損益B(正の値は損失、負の値は利益)は、以下の式(16)のように表現することができる。なお、反復計算回数nは割愛する。
【0195】
【数16】
【0196】
したがって、電力融通の価値情報書き換え部327で書き換えられた電力融通の単価TPCxと電力融通量との積である全サイトの合計は、エリア価格差によるサイト全体の損益とサイト全体のエネルギー運用コストとの合計を表現している。
【0197】
その他の動作については、第1の実施の形態に示された場合と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0198】
<以上に記載された実施の形態によって生じる効果について>
次に、以上に記載された実施の形態によって生じる効果の例を示す。なお、以下の説明においては、以上に記載された実施の形態に例が示された具体的な構成に基づいて当該効果が記載されるが、同様の効果が生じる範囲で、本願明細書に例が示される他の具体的な構成と置き換えられてもよい。
【0199】
また、当該置き換えは、複数の実施の形態に跨ってなされてもよい。すなわち、異なる実施の形態において例が示されたそれぞれの構成が組み合わされて、同様の効果が生じる場合であってもよい。
【0200】
以上に記載された実施の形態によれば、エネルギー管理システムは、蓄エネリソースを含む複数のサイトと、複数のサイトを管理するための統括管理部とを備える。ここで、複数のサイトは、たとえば、サイト106a、サイト106bおよびサイト106cに対応するものである。また、統括管理部は、たとえば、統括EMS102に対応するものである。統括EMS102は、複数のサイト間における電力融通の価値情報344をそれぞれのサイトに通知する。そして、それぞれのサイトは、統括EMS102から通知された電力融通の価値情報344にそれぞれの事業所のエリアプライス予測値を加算することで書き換えられた電力融通の価値情報344に基づいて、それぞれのサイトが電力融通可能な電力量である電力融通量347を計算し、かつ、電力融通量347を統括EMS102に通知する。そして、統括EMS102は、電力融通量341に基づいて、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するように、電力融通の価値情報343を更新し、かつ、更新された電力融通の価値情報343を統括EMS102から通知する。
【0201】
このような構成によれば、サイト全体の最適化問題を解かず、かつ、詳細な設備情報を公開せずに、蓄エネリソースを含む分散型エネルギーリソースで構成される複数のサイトのサイト全体の、適切な電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。また、一般送配電事業者が管轄するエリア内のサイト間の電力融通、または、異なるエリアを跨ぐサイト間の電力融通において、市場分断によるエリア価格差の発生有無にかかわらず、エリア価格差によるサイト全体の損益を含むサイト全体のエネルギー運用コストの低減、または、CO排出量の低減を実現するように、電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。また、エリアプライス予測の精度が十分に高いならば、エリア価格差によるサイト全体の損益が発生させないように、電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。
【0202】
なお、本願明細書に例が示される他の構成のうちの少なくとも1つを、以上に記載された構成に適宜追加した場合、すなわち、以上に記載された構成としては言及されなかった本願明細書に例が示される他の構成が適宜追加された場合であっても、同様の効果を生じさせることができる。
【0203】
また、以上に記載された実施の形態によれば、それぞれのサイトが計算する電力融通量347は、全量約定が保証された電力融通量347である。このような構成によれば、融通される電力量が保証されているため、確実に電力融通を行うことができる。
【0204】
また、以上に記載された実施の形態によれば、全量約定が保証された電力融通量347は、それぞれのサイトのエネルギー運用コスト低減の項、および、ペナルティ項のうちの少なくとも1つの加算の組み合わせで表現される目的関数の最適化問題を演算することによって算出される。このような構成によれば、電力融通の価値情報に対応する適切な電力融通量を求めることができる。
【0205】
また、以上に記載された実施の形態によれば、ペナルティ項は、電力融通量および電力融通量の平均値の多項式の累乗に、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致を促すパラメータであるペナルティパラメータを乗じることによって算出される。このような構成によれば、電力融通の価値情報の更新を効率的に行うことができる。
【0206】
また、以上に記載された実施の形態によれば、統括EMS102は、電力融通の価値情報343の更新を、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するまでに複数回行う。このような構成によれば、複数回の更新によって電力融通の価値情報(具体的には、電力融通の単価)を最適値に近づけることができるため、サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致する精度が高まる。
【0207】
また、以上に記載された実施の形態によれば、電力融通の価値情報343には、時刻断面ごとの電力融通の単価と、電力融通量の平均値と、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致を促すパラメータであるペナルティパラメータとが含まれる。このような構成によれば、電力融通の価値情報の更新を効率的に行うことができる。
【0208】
また、以上に記載された実施の形態によれば、電力融通の価値情報343の更新は、ペナルティパラメータに電力融通量の平均値を乗じた値を電力融通の価値情報343に加算する、または、電力融通量の平均値に任意の係数を乗じた値を電力融通の価値情報343に加算することによって行われる。このような構成によれば、電力融通の価値情報の更新を効率的に行うことができる。
【0209】
また、以上に記載された実施の形態によれば、統括EMS102は、複数の時刻断面における電力の需要と電力の供給とが一致するように、電力融通の価値情報343を更新する。このような構成によれば、複数の時刻断面における電力の需要と電力の供給とが一致するように電力融通の価値情報が更新されるため、サイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致する精度が高まる。
【0210】
また、以上に記載された実施の形態によれば、統括EMS102は、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致した場合、それぞれのサイトに対して電力融通の価値情報343の更新の終了を通知する。このような構成によれば、更新の終了が通知されたそれぞれのサイトでは、蓄エネリソースの状態を確定させることができる。そのため、蓄エネリソースを含む最適運転計画の立案を行うことができる。
【0211】
また、以上に記載された実施の形態によれば、電力融通の価値情報343の更新の終了は、主残差または双対残差のうちのいずれか小さい方または主残差が収束判定指数よりも小さくなること、または、電力融通の価値情報の更新回数があらかじめ定められたしきい値よりも大きくなることのうちの少なくとも一方を含む基準で判断される。このような構成によれば、電力融通の価値情報の更新の終了を適切に行うことができる。
【0212】
また、以上に記載された実施の形態によれば、統括EMS102が電力融通の価値情報343をそれぞれのサイトに通知した後、かつ、統括EMS102が電力融通の価値情報343の更新の終了を通知するまでの間の電力融通の対象は、少なくとも1つの時刻断面である。このような構成によれば、1回あたりの電力融通の取引で、少なくとも1つ以上の時刻断面で構成される商品を扱うことができる。
【0213】
また、以上に記載された実施の形態によれば、それぞれのサイトは、それぞれのサイトにおけるエネルギーを管理するためのエネルギー管理部108a、エネルギー管理部108bまたはエネルギー管理部108cを備える。エネルギー管理システムは、エネルギー管理部とは独立して設けられ、かつ、電力融通量347を計算するための取引演算部107、取引演算部107a、取引演算部107bまたは、取引演算部107cを備える。ここで、エネルギー管理システムは、たとえば、分散型エネルギー管理システム101、分散型エネルギー管理システム101aまたは分散型エネルギー管理システム101bに対応するものである。このような構成によれば、組織の中枢的役割を担う部署または市場を運営する取引所のような取引を行わないエージェントであっても、取引演算部を保有することができる。
【0214】
また、以上に記載された実施の形態によれば、取引演算部107は、いずれか1つのサイトに設けられる。このような構成によれば、取引演算部の配置の自由度が向上する。また、取引を行わないエージェントがいない場合であっても、市場を開設および運営することができる。
【0215】
また、以上に記載された実施の形態によれば、取引演算部107aはサイト106aに、取引演算部107bはサイト106bに、取引演算部107cはサイト106cにそれぞれ設けられる。このような構成によれば、取引演算部の配置の自由度が向上する。また、取引を行わないエージェントがいない場合であっても、市場を開設および運営することができる。
【0216】
以上に記載された実施の形態によれば、エネルギー管理方法において、蓄エネリソースを含む複数のサイト間における電力融通の価値情報344をそれぞれのサイトに通知する。そして、それぞれのサイトは、統括EMS102から通知された電力融通の価値情報344にそれぞれの事業所のエリアプライス予測値を加算することで書き換えられた電力融通の価値情報344に基づいて、それぞれのサイトが電力融通可能な電力量である電力融通量347を計算する。そして、電力融通量341に基づいて、複数のサイト全体における電力の需要と電力の供給とが一致するように、電力融通の価値情報343を更新し、かつ、更新された前記電力融通の価値情報343を統括EMS102から通知する。
【0217】
このような構成によれば、サイト全体の最適化問題を解かず、かつ、詳細な設備情報を公開せずに、蓄エネリソースを含む分散型エネルギーリソースで構成される複数のサイトのサイト全体の、適切な電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。また、一般送配電事業者が管轄するエリア内のサイト間の電力融通、または、異なるエリアを跨ぐサイト間の電力融通において、市場分断によるエリア価格差の発生有無にかかわらず、エリア価格差によるサイト全体の損益を含むサイト全体のエネルギー運用コストの低減、または、CO排出量の低減を実現するように、電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。また、エリアプライス予測の精度が十分に高いならば、エリア価格差によるサイト全体の損益が発生させないように、電力融通量と電力融通の価値情報とを決定することができる。
【0218】
なお、本願明細書に例が示される他の構成のうちの少なくとも1つを、以上に記載された構成に適宜追加した場合、すなわち、以上に記載された構成としては言及されなかった本願明細書に例が示される他の構成が適宜追加された場合であっても、同様の効果を生じさせることができる。
【0219】
また、特段の制限がない場合には、それぞれの処理が行われる順序は変更することができる。
【0220】
<以上に記載された実施の形態における変形例について>
以上に記載された実施の形態では、それぞれの構成要素の寸法、形状、相対的配置関係または実施の条件などについても記載する場合があるが、これらはすべての局面においてひとつの例であって、本願明細書に記載されたものに限られることはないものとする。
【0221】
したがって、例が示されていない無数の変形例、および、均等物が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。たとえば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの実施の形態における少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態における構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0222】
また、矛盾が生じない限り、以上に記載された実施の形態において「1つ」備えられるものとして記載された構成要素は、「1つ以上」備えられていてもよいものとする。
【0223】
さらに、以上に記載された実施の形態におけるそれぞれの構成要素は概念的な単位であって、本願明細書に開示される技術の範囲内には、1つの構成要素が複数の構造物から成る場合と、1つの構成要素がある構造物の一部に対応する場合と、さらには、複数の構成要素が1つの構造物に備えられる場合とを含むものとする。
【0224】
また、以上に記載された実施の形態におけるそれぞれの構成要素には、同一の機能を発揮する限り、他の構造または形状を有する構造物が含まれるものとする。
【0225】
また、本願明細書における説明は、本技術に関連するすべての目的のために参照され、いずれも、従来技術であると認めるものではない。
【0226】
また、以上に記載された実施の形態で記載されたそれぞれの構成要素は、ソフトウェアまたはファームウェアとしても、それと対応するハードウェアとしても想定され、その双方の概念において、それぞれの構成要素は「部」または「処理回路」(circuitry)などと称される。
【0227】
また、本願明細書に開示される技術は、それぞれの構成要素が複数の装置に分散して備えられる場合、すなわち、システムのような態様であってもよいものとする。
【符号の説明】
【0228】
101,101a,101b 分散型エネルギー管理システム、102 統括EMS、103,103a,103b,103c EMS、104 電力融通、105 通信、106,106a,106b,106c サイト、107,107a,107b,107c 取引演算部、108a,108b,108c エネルギー管理部、201 電力、202 ガス、203 熱、211,213 電力購入、212 電力受電、214 ガス購入、215 電力販売、216 電力送電、221 ガスタービン、222 ガスボイラ、223 水電解装置、224 電気温水器、225 燃料電池、231 蓄電池、232 水素貯蔵設備、233 蓄熱槽、241 熱需要、242 電力需要、301,321 入力受け付け部、302,322 パラメータ設定部、303,323 演算部、304,324 出力部、305,325 表示部、306,326 情報保管部、311,331 二次記憶装置、312,332 主記憶装置、313,333 CPU、314,334 通信機器、315,335 入力装置、316,336 出力装置、317 ネットワーク、327 電力融通の価値情報書き換え部、341,347 電力融通量、342,345 パラメータ、343,344 価値情報、346 予測データ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24