(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186052
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】窒化ケイ素スパッタリングターゲット、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法、および、窒化ケイ素膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20221208BHJP
C04B 35/597 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/597
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094076
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】梅本 啓太
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA35
4K029BA58
4K029BC02
4K029BD01
4K029CA05
4K029DC05
4K029DC07
4K029DC09
4K029DC12
(57)【要約】
【課題】光学特性(透過率および屈折率)のばらつきが小さい窒化ケイ素膜を成膜することが可能な窒化ケイ素スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含み、密度分布が5%以下である。酸化ケイ素を含有し、質量比で、前記添加元素αの含有量を〔α〕、酸素の含有量を〔O〕とした場合に、〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされていることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含み、密度分布が5%以下であることを特徴とする窒化ケイ素スパッタリングターゲット。
【請求項2】
酸化ケイ素を含有し、質量比で、前記添加元素αの含有量を〔α〕、酸素の含有量を〔O〕とした場合に、
〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記窒素の含有量が20mass%以上39mass%以下の範囲内、前記酸素の含有量が2mass%以上27mass%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化ケイ素スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記窒素の含有量のばらつきが8%以下とされ、前記酸素の含有量のばらつきが5%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素スパッタリングターゲット。
【請求項5】
密度比が80%以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の窒化ケイ素スパッタリングターゲット。
【請求項6】
5μm2以上の空孔の面積率が1%以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の窒化ケイ素スパッタリングターゲット。
【請求項7】
ケイ素と添加元素αとを含む複合酸化物相を有していることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の窒化ケイ素スパッタリングターゲット。
【請求項8】
窒化ケイ素粉と酸化ケイ素粉と第3族元素からなる添加元素αの酸化物粉を含む焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、
前記焼結原料粉を加圧および加熱して焼結する焼結工程と、
得られた焼結体を機械加工する機械加工工程と、
を備えていることを特徴とする窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
質量比で、前記焼結原料粉における前記添加元素αの含有量を〔α〕、前記酸化ケイ素の含有量を〔Si-O〕とした場合に、
〔α〕/(〔Si-O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内となるように、前記酸化ケイ素粉と前記添加元素αの酸化物粉とを混合することを特徴とする請求項8に記載の窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含み、質量比で、前記添加元素αの合計含有量を〔α〕と前記酸素の含有量を〔O〕とした場合に、
〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされているであることを特徴とする窒化ケイ素膜。
【請求項11】
膜面内の複数の箇所において測定した波長405nmにおける透過率のばらつきおよび屈折率のばらつきがそれぞれ5%以下とされていることを特徴とする請求項10に記載の窒化ケイ素膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素を主相とする窒化ケイ素スパッタリングターゲット、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法、および、窒化ケイ素膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ディスク等の光記録媒体においては、記録層や光反射膜を保護するために、保護膜が形成されている。
また、タッチパネルや太陽電池、有機ELディスプレイなどの電子デバイスにはパターニングされた配線膜や電極が広く使用されており、これら配線膜や電極においては、金属膜の上に保護膜が積層された構造とされている。
さらに、熱感式プリンター等に用いられるサーマルヘッドにおいては、その表面に保護膜が形成される。
【0003】
これらの各種部品の表面に形成される保護膜として、硬く耐久性に優れるとともに、光学特性に優れた窒化ケイ素膜が用いられている。
ここで、上述の窒化ケイ素膜は、例えば特許文献1-3に記載されているように、窒化ケイ素焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタ法によって成膜されている。
【0004】
なお、窒化ケイ素は焼結性に劣るため、焼結体の密度が低くなり、スパッタ成膜時に異常放電が発生しやすくなる。
そこで、特許文献1-3に記載された窒化ケイ素焼結体からなるスパッタリングターゲットにおいては、焼結助剤としてY2O3,MgO,Al2O3等を添加し、密度の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-349381号公報
【特許文献2】特開2000-026959号公報
【特許文献3】特公平04-000948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1-3に記載されたように、焼結助剤としてY2O3,MgO,Al2O3等を添加した窒化ケイ素焼結体からなるスパッタリングターゲットを用いて窒化ケイ素膜を成膜した際に、窒化ケイ素膜の膜面内において、光学特性(透過率および屈折率)にばらつきが生じることがあった。このため、各種部品の保護膜として使用した場合に、誤作動が生じるおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、光学特性(透過率および屈折率)のばらつきが小さい窒化ケイ素膜を成膜することが可能な窒化ケイ素スパッタリングターゲット、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法、および、窒化ケイ素膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、焼結助剤としてY2O3,MgO,Al2O3等を添加した窒化ケイ素焼結体からなるスパッタリングターゲットにおいては、焼結時において焼結助剤が十分に流動せず、スパッタリングターゲット内における密度分布が大きくなり、その結果、成膜した窒化ケイ素膜の膜面内において、光学特性(透過率および屈折率)にばらつきが生じることが分かった。
そして、焼結助剤として第3族元素の酸化物をSiO2とともに添加することにより、焼結時において焼結助剤の流動性が向上し、焼結体からなるスパッタリングターゲット内における密度分布を小さくすることが可能となるとの知見を得た。ここでいう第3族元素とは、スカンジウム(Sc),イットリウム(Y),ランタノイド,アクチノイドなどである。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットは、ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含み、密度分布が5%以下であることを特徴としている。
【0010】
本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットによれば、密度分布が5%以下に制限されているので、膜面内における光学特性(透過率および屈折率)のばらつきが小さな窒化ケイ素膜を成膜することができる。
【0011】
ここで、本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、酸化ケイ素を含有し、質量比で、前記添加元素αの合計含有量を〔α〕、酸素の含有量を〔O〕とした場合に、〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、上述の質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上とされているので、第3族元素からなる添加元素αの酸化物により焼結性を十分に向上させることができ、密度比を確実に向上させることができる。一方、質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.70以下とされているので、成膜した窒化ケイ素膜の着色を抑制することができ、光学特性をさらに向上させることができる。
【0012】
また、本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、前記窒素の含有量が20mass%以上39mass%以下の範囲内、前記酸素の含有量が2mass%以上27mass%以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、前記窒素の含有量および前記酸素の含有量が上述の範囲内とされているので、十分に硬く耐久性に優れ、かつ、光学特性に特に優れた窒化ケイ素膜を成膜することができる。また、密度比を確実に向上させることができる。
【0013】
さらに、本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、前記窒素の含有量のばらつきが8%以下とされ、前記酸素の含有量のばらつきが5%以下とされていることが好ましい。
この場合、前記窒素の含有量のばらつきおよび前記酸素の含有量のばらつきが上述の範囲内とされているので、密度分布をさらに低く抑えることができるとともに、成膜した窒化ケイ素膜における組成ばらつきを抑制でき、膜面内における光学特性(透過率および屈折率)のばらつきがさらに小さな窒化ケイ素膜を成膜することができる。
【0014】
また、本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、密度比が80%以上であることが好ましい。
この場合、密度比が80%以上とされているので、空孔が少なく、スパッタ成膜時における空孔を起因とした異常放電の発生を抑制でき、安定して窒化ケイ素膜を成膜することができる。
【0015】
さらに、本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、5μm2以上の空孔の面積率が1%以下であることが好ましい。
この場合、5μm2以上の空孔の面積率が1%以下に抑えられているので、スパッタ成膜時における空孔を起因とした異常放電の発生を抑制でき、安定して窒化ケイ素膜を成膜することができる。
【0016】
また、本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、ケイ素と添加元素αとを含む複合酸化物相を有していることが好ましい。
この場合、ケイ素と添加元素αとを含む複合酸化物相を有しているので、焼結助剤の流動性が向上しており、密度分布を確実に小さくすることができる。
【0017】
本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法は、窒化ケイ素粉と酸化ケイ素粉と第3族元素からなる添加元素αの酸化物粉を含む焼結原料粉を得る焼結原料粉形成工程と、前記焼結原料粉を加圧および加熱して焼結する焼結工程と、得られた焼結体を機械加工する機械加工工程と、を備えていることを特徴としている。
【0018】
この構成の窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法によれば、焼結原料粉が、酸化ケイ素粉と第3族元素からなる添加元素αの酸化物粉とを含んでいるので、これら酸化ケイ素と添加元素αの酸化物粉が焼結助剤となり、焼結体の密度を向上させることができる。
そして、焼結工程において、焼結助剤として作用する酸化ケイ素と添加元素αの酸化物粉が複合酸化物となって流動性が向上し、焼結体内における密度分布を小さく抑えることが可能となる。
【0019】
ここで、本発明の窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法においては、質量比で、前記焼結原料粉における前記添加元素αの含有量を〔α〕、前記酸化ケイ素の含有量を〔Si-O〕とした場合に、〔α〕/(〔Si-O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内となるように、前記酸化ケイ素粉と前記添加元素αの酸化物粉とを混合することが好ましい。
この場合、上述の焼結原料粉における質量比〔α〕/(〔Si-O〕+〔α〕)が0.01以上とされているので、第3族元素からなる添加元素αの酸化物により焼結性を十分に向上させることができ、密度比を確実に向上させることができる。一方、上述の焼結原料粉における質量比〔α〕/(〔Si-O〕+〔α〕)が0.70以下とされているので、成膜した窒化ケイ素膜の着色を抑制することができ、光学特性をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明の窒化ケイ素膜は、ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含み、質量比で、前記添加元素αの合計含有量を〔α〕と前記酸素の含有量を〔O〕とした場合に、〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされていることを特徴としている。
本発明の窒化ケイ素膜によれば、上述の質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされているので、光学特性のばらつきが小さく、かつ、着色が抑制され、光学特性に優れている。
【0021】
ここで、本発明の窒化ケイ素膜においては、膜面内の複数の箇所において測定した波長405nmにおける透過率のばらつきおよび屈折率のばらつきがそれぞれ5%以下とされていることが好ましい。
この場合、膜面内において光学特性のばらつきが確実に小さく抑えられており、光学特性が安定している。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、光学特性(透過率および屈折率)のばらつきが小さい窒化ケイ素膜を成膜することが可能な窒化ケイ素スパッタリングターゲット、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法、および、窒化ケイ素膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法を示すフロー図である。
【
図2】実施例において、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの特性を評価した箇所を示す説明図である。
【
図3】実施例において、窒化ケイ素膜の特性を評価した箇所を示す説明図である。
【
図4】本発明例5の窒化ケイ素スパッタリングターゲットのXRD結果を示す図である。
【
図5】本発明例9の窒化ケイ素スパッタリングターゲットのXRD結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲット、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法、および、窒化ケイ素膜について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る窒化ケイ素スパッタリングターゲットは、例えば、光ディスク、サーマルヘッド等の各種部品の表面の保護膜として使用される窒化ケイ素膜を成膜する際に用いられるものである。
【0025】
なお、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、その形状に特に限定はなく、スパッタ面が矩形状をなす矩形平板型スパッタリングターゲットであってもよいし、スパッタ面が円形をなす円板型スパッタリングターゲットとしてもよい。あるいは、スパッタ面が円筒面とされた円筒型スパッタリングターゲットであってもよい。
【0026】
本実施形態に係る窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含んでいる。
ここで、本実施形態では、質量比で、前記添加元素αの含有量を〔α〕、酸素の含有量を〔O〕とした場合に、〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0027】
また、本実施形態では、前記窒素の含有量が20mass%以上39mass%以下の範囲内、前記酸素の含有量が2mass%以上27mass%以下の範囲内であることが好ましい。
さらに、本実施形態では、前記窒素の含有量のばらつきが8%以下とされ、前記酸素の含有量のばらつきが5%以下とされていることが好ましい。
【0028】
そして、本実施形態に係る窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、密度分布が5%以下とされている。
また、本実施形態では、密度比が80%以上であることが好ましい。
さらに、本実施形態では、5μm2以上の空孔の面積率が1%以下であることが好ましい。
また、本実施形態では、ケイ素と添加元素αとを含む複合酸化物相を有していることが好ましい。
【0029】
以下に、本実施形態に係る窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、密度分布、質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)、窒素含有量および酸素含有量、窒素含有量および酸素含有量のばらつき、密度比、5μm2以上の空孔の面積率、複合酸化物相について、上述のように規定した理由を示す。
【0030】
(密度分布)
本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、窒化ケイ素の焼結体で構成されている。窒化ケイ素は焼結性に劣るため、焼結助剤を添加しているが、焼結助剤が均一に分散されないことで、スパッタリングターゲット内において密度分布が大きくなるおそれがある。スパッタリングターゲット内において密度分布が大きくなると、成膜した窒化ケイ素膜において、光学特性(屈折率および透過率)にばらつきが生じてしまうおそれがある。
【0031】
このため、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、スパッタリングターゲット内における密度分布を5%以下に規定している。
なお、窒化ケイ素膜における光学特性(屈折率および透過率)のばらつきをさらに低減するためには、スパッタリングターゲット内における密度分布を4%以下とすることが好ましく、3%以下とすることがより好ましい。
【0032】
(質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕))
本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、後述するように、焼結助剤として、第3族元素からなる添加元素αの酸化物および酸化ケイ素を添加している。なお、第3族元素からなる添加元素αの酸化物は、焼結性を向上させる作用効果に優れているが、添加量が多すぎると成膜された窒化ケイ素膜に着色が生じるおそれがある。
【0033】
そこで、窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)を0.01以上とすることにより、第3族元素からなる添加元素αの酸化物の添加量が確保され、焼結性が確実に向上し、密度比を十分に高くすることが可能となる。一方、質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)を0.70以下とすることにより、第3族元素からなる添加元素αの酸化物が必要以上に添加されることが抑制され、成膜された窒化ケイ素膜への着色を抑制することが可能となる。
【0034】
なお、焼結性をさらに向上させるためには、質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)を0.02以上とすることが好ましく、0.03以上とすることがさらに好ましい。
一方、成膜された窒化ケイ素膜への着色をさらに抑制するためには、質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)を0.38以下とすることがさらに好ましく、0.20以下とすることがより好ましい。
【0035】
(窒素含有量および酸素含有量)
本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、前記窒素の含有量を20mass%以上39mass%以下の範囲内、前記酸素の含有量を2mass%以上27mass%以下の範囲内とした場合には、十分に硬く耐久性に優れ、かつ、光学特性に特に優れた窒化ケイ素膜を成膜することが可能となる。また、焼結助剤の添加量が確保され、密度比を確実に向上させることができる。
【0036】
なお、窒素含有量の下限は、25mass%以上であることがさらに好ましく、29mass%以上であることがより好ましい。また、窒素含有量の上限は、36mass%以下であることがさらに好ましく、34mass%以下であることがより好ましい。
さらに、酸素含有量の下限は、3mass%以上であることがさらに好ましく、5mass%以上であることがより好ましい。また、酸素含有量の上限は、25mass%以下であることがさらに好ましく、20mass%以下であることがより好ましい。
【0037】
(窒素含有量および酸素含有量のばらつき)
本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、前記窒素の含有量のばらつきを8%以下、かつ、前記酸素の含有量のばらつきを5%以下に抑えた場合には、密度分布をさらに低く抑えることができるとともに、成膜した窒化ケイ素膜における組成ばらつきを抑制でき、膜面内における光学特性(透過率および屈折率)のばらつきがさらに小さな窒化ケイ素膜を成膜することができる。
なお、窒素含有量のばらつきは、5%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることがより好ましい。
また、酸素含有量のばらつきは、10%以下であることがさらに好ましく、7%以下であることがより好ましい。
【0038】
(密度比)
本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、密度比が低いと、内部に空孔が多く存在することになり、スパッタ成膜時に、これらの空孔を起因として異常放電が発生するおそれがある。
このため、本実施形態においては、密度比を80%以上とすることが好ましい。
なお、スパッタ成膜時における異常放電の発生をさらに抑制するためには、密度比を85%以上とすることがさらに好ましく、90%以上とすることがより好ましい。
【0039】
(5μm2以上の空孔の面積率)
本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、5μm2以上の空孔が多く存在すると、スパッタ成膜時に、粗大な空孔を起因として異常放電が発生するおそれがある。
このため、本実施形態においては、5μm2以上の空孔の面積率を1%以下に制限することが好ましい。
なお、スパッタ成膜時における異常放電の発生をさらに抑制するためには、5μm2以上の空孔の面積率を0.8%以下とすることがさらに好ましく、0.6%以下とすることがより好ましい。
【0040】
(ケイ素と添加元素αとを含む複合酸化物相)
本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいては、後述するように、焼結助剤として焼結助剤として、第3族元素からなる添加元素αの酸化物および酸化ケイ素を添加している。添加元素αの酸化物および酸化ケイ素を共添加して、焼結した場合には、添加元素αの酸化物および酸化ケイ素が反応し、ケイ素と添加元素αとを含む複合酸化物が生成し、焼結助剤の流動性が向上することになる。
そこで、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、ケイ素と添加元素αとを含む複合酸化物相が存在する場合には、焼結時に、焼結助剤の流動性が確実に向上しており、密度分布をさらに小さくすることができる。
【0041】
次に、上述した本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法の一例について、
図1を参照して説明する。
【0042】
(焼結原料粉形成工程S01)
窒化ケイ素粉と、酸化ケイ素粉と、第3族元素からなる添加元素αの酸化物粉と、を準備する。これらを秤量し、ボールミルで混合し、焼結原料粉を得る。なお、ボールミルは湿式でも乾式でもよいが、より均一に混合するためには、湿式で行うことが好ましい。
このとき、質量比で、焼結原料粉における添加元素αの含有量を〔α〕、酸化ケイ素の含有量を〔Si-O〕とした場合に、〔α〕/(〔Si-O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内となるように、酸化ケイ素粉と添加元素αの酸化物粉とを混合することが好ましい。
【0043】
(焼結工程S02)
次に、得られた焼結原料粉を、成形型に充填し、加圧および加熱し、焼結を進行させて焼結体を得る。
ここで、焼結工程S02においては、加圧圧力を20MPa以上40MPa以下の範囲内、焼結温度を1400℃以上1600℃以下の範囲内、焼結温度での保持時間を3時間以上10時間以下の範囲内の条件で行うことが好ましい。また、焼結工程S02においては、1.0×10-4Pa以下の真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0044】
(機械加工工程S03)
次に、得られた焼結体に対して、機械加工を行い、所定サイズの窒化ケイ素スパッタリングターゲットを得る。
【0045】
上述の工程により、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットが製造されることになる。
【0046】
次に、本実施形態である窒化ケイ素膜について説明する。
【0047】
本実施形態である窒化ケイ素膜は、上述の窒化ケイ素スパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜することで形成されるものであり、ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含み、質量比で、添加元素αの合計含有量を〔α〕と酸素の含有量を〔O〕とした場合に、〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされている。
【0048】
本実施形態である窒化ケイ素膜において、添加元素αの合計含有量〔α〕と酸素の含有量〔O〕との質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)を0.01以上とすることにより、膜内における光学特性(透過率および屈折率)のばらつきを抑制することができる。一方、質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)を0.70以下とすることにより、膜の着色を抑制することができる。
なお、質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)の下限は、0.02以上でもよく、0.03以上であることが好ましく、0.055以上であることがさらに好ましい。一方、質量比〔α〕/(〔O〕+〔α〕)の下限は0.30以下であることが好ましく、0.20以下であることがさらに好ましい。
【0049】
また、本実施形態である窒化ケイ素膜においては、膜面内の複数の箇所において測定した波長405nmにおける透過率のばらつきおよび屈折率のばらつきがそれぞれ5%以下とされていることが好ましい。
本実施形態である窒化ケイ素膜において、透過率のばらつきおよび屈折率のばらつきがそれぞれ5%以下とされている場合には、光学特性の面内のばらつきが小さく、安定していることになる。
【0050】
以上のような構成とされた本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットによれば、スパッタリングターゲット内における密度分布が5%以下に制限されているので、膜面内における光学特性(透過率および屈折率)のばらつきが小さな窒化ケイ素膜を成膜することができる。
【0051】
また、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、酸化ケイ素を含有し、質量比で、前記添加元素αの合計含有量を〔α〕、酸素の含有量を〔O〕とした場合に、〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされている場合には、第3族元素からなる添加元素αの酸化物により焼結性を十分に向上させることができ、密度比を確実に向上させることができるとともに、成膜した窒化ケイ素膜の着色を抑制することができ、光学特性をさらに向上させることができる。
【0052】
さらに、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、窒素の含有量が20mass%以上39mass%以下の範囲内、酸素の含有量が2mass%以上27mass%以下の範囲内とされている場合には、十分に硬く耐久性に優れ、かつ、光学特性に特に優れた窒化ケイ素膜を成膜することができる。また、密度比を確実に向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、窒素の含有量のばらつきが8%以下とされ、酸素の含有量のばらつきが5%以下とされている場合には、スパッタリングターゲット内における密度分布をさらに低く抑えることができるとともに、成膜した窒化ケイ素膜における組成ばらつきを抑制でき、膜面内における光学特性(透過率および屈折率)のばらつきがさらに小さな窒化ケイ素膜を成膜することが可能となる。
【0054】
さらに、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、密度比が80%以上である場合には、内部に空孔が少なく、スパッタ成膜時における空孔を起因とした異常放電の発生を抑制でき、安定して窒化ケイ素膜を成膜することができる。
【0055】
また、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、5μm2以上の空孔の面積率が1%以下である場合には、スパッタ成膜時における空孔を起因とした異常放電の発生を抑制でき、安定して窒化ケイ素膜を成膜することができる。
【0056】
さらに、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットにおいて、ケイ素と添加元素αとを含む複合酸化物相を有している場合には、焼結助剤の流動性が向上しており、密度分布を確実に小さくすることができる。
【0057】
本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法によれば、焼結原料粉が、酸化ケイ素粉と第3族元素からなる添加元素αの酸化物粉とを含んでいるので、これら酸化ケイ素と添加元素αの酸化物粉が焼結助剤となり、焼結体の密度を向上させることができる。
そして、焼結工程S02において、焼結助剤として作用する酸化ケイ素と添加元素αの酸化物粉が複合酸化物となって流動性が向上し、焼結体内における密度分布を小さく抑えることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態である窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法において、質量比で、前記焼結原料粉における前記添加元素αの含有量を〔α〕、前記酸化ケイ素の含有量を〔Si-O〕とした場合に、〔α〕/(〔Si-O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内となるように、前記酸化ケイ素粉と前記添加元素αの酸化物粉とを混合する場合には、第3族元素からなる添加元素αの酸化物により焼結性を十分に向上させることができ、密度比を確実に向上させることができるとともに、成膜した窒化ケイ素膜の着色を抑制することができ、光学特性をさらに向上させることができる。
【0059】
本実施形態である窒化ケイ素膜によれば、ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含み、質量比で、前記添加元素αの合計含有量を〔α〕と前記酸素の含有量を〔O〕とした場合に、〔α〕/(〔O〕+〔α〕)が0.01以上0.70以下の範囲内とされているので、光学特性のばらつきが小さく、かつ、着色が抑制され、光学特性に優れている。
【0060】
また、本実施形態である窒化ケイ素膜において、膜面内の複数の箇所において測定した波長405nmにおける透過率のばらつきおよび屈折率のばらつきがそれぞれ5%以下とされている場合には、膜面内において光学特性のばらつきが確実に小さく抑えられており、光学特性が安定している。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0062】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0063】
Si3N4粉(純度:99mass%以上、平均粒径2μm以上10μm以下)、SiO2粉(純度:99mass%以上、平均粒径2μm以上10μm以下)、La2O3粉(純度:99.9mass%以上、平均粒径1μm以上10μm以下)、Y2O3粉(純度:99.9mass%以上、平均粒径0.1μm以上10μm以下)、および、SiC粉(純度:99.9mass%以上、平均粒径1μm以上10μm以下)を準備した。
【0064】
これらの原料粉を、表1に示す配合比となるように秤量し、溶剤にヘキサン、メディアにφ5mmのZrO2ボールを用いて、湿式ボールミルによって混合し、焼結原料粉を得た。
【0065】
ZrO2ボールを篩で除いた後、内径φ165mmのカーボン製の成形型に焼結原料粉を入れ、真空雰囲気のホットプレス装置(HP)を用いて、圧力350kg/cm2(35MPa)、保持温度1600℃、保持時間3時間の条件で、加圧焼結した。なお、比較例3においては、ホットプレスの代わりにHIPにて加圧焼結した。すなわち、比較例3においては、焼結原料粉をラバープレスで600MPaで加圧、成型した。その後300℃、24時間の条件で加熱脱気した後、密封し、保持温度1750℃、保持時間3時間の条件で、加圧焼結した。
得られた焼結体を、旋盤を用いてφ152.4mm×6mmtのサイズに加工し、窒化ケイ素スパッタリングターゲットを得た。
【0066】
得られた窒化ケイ素スパッタリングターゲットおよび成膜した窒化ケイ素膜について、以下の項目について評価した。評価結果を表2,3に示す。
【0067】
(密度比)
重量と体積から窒化ケイ素スパッタリングターゲットの密度求め、それを理論密度で除したものを密度比とした。なお、理論密度は以下の方式で算出した。
化合物A、化合物B、化合物C、・・・により構成される混合物において、化合物Aの含有量をWa(mass%)、密度をDa(g/cm3)、化合物Bの含有量をWb(mass%)、密度をDb(g/cm3)、化合物Cの含有量をWc(mass%)、密度をDc(g/cm3)、・・・とするとき、化合物A、化合物B、化合物C、・・・により構成される混合物の理論密度Ds(g/cm3)は、以下の計算式により算出される。
Ds=100/{(Wa/Da)+(Wb/Db)+(Wc/Dc)+・・・}
=100/Σ(Wn/Dn)
【0068】
(密度分布)
得られた窒化ケイ素スパッタリングターゲットの
図2に示す箇所からそれぞれ測定試料を採取し、上述のように、密度比を測定した。
なお、測定試料は、
図2に示すように、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの厚さ方向中央の断面Aにおける中心部(1)および径方向端部(2),(3)(180°対象の2点)、および、表面Bおよび裏面Cの中心部(1)の5点から採取した。
そして、これらの5箇所における測定結果から、以下の式により、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの密度分布を算出した。
密度分布=(5箇所の密度比の標準偏差)/(5箇所の密度比の平均値)×100
【0069】
(酸素含有量)
得られた窒化ケイ素スパッタリングターゲットの
図2に示す箇所からそれぞれ測定試料を採取し、酸素含有量を、不活性ガス融解-赤外線吸収法を用いて計測した。
そして、これらの5箇所における測定結果から、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの酸素含有量の平均値を算出した。また、以下の式から、酸素含有量のばらつきを算出した。
酸素含有量のばらつき=(5箇所の酸素含有量の標準偏差)/(5箇所の酸素含有量の平均値)×100
【0070】
(窒素含有量)
得られた窒化ケイ素スパッタリングターゲットの
図2に示す箇所からそれぞれ測定試料を採取し、窒素含有量を、不活性ガス融解-熱伝導法を用いて計測した。
そして、これらの5箇所における測定結果から、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの窒素含有量の平均値を算出した。また、以下の式から、窒素含有量のばらつきを算出した。
窒素含有量のばらつき=(5箇所の窒素含有量の標準偏差)/(5箇所の窒素含有量の平均値)×100
【0071】
(5μm
2以上の空孔の面積率)
得られた窒化ケイ素スパッタリングターゲットの
図2に示す箇所からそれぞれ観察試料を採取し、この観察試料を樹脂埋めした後、研磨し、観察試料のスパッタ面に対して、プローブマイクロアナライザ(EPMA)装置(日本電子株式会社製)を用いて、倍率1000倍で、縦90μm、横120μmの二次電子像を各サンプル9か所得た。
得られた画像について、画像処理ソフトImageJを用いて、Threshold colorによる二値化を行い、空隙のみを2値化した。二値化した後、得られた画像についてParticle測定機能を用いて、5μm
2以上の空隙の面積を算出し、全体の面積で割った割合(面積率)を計算した。
【0072】
得られた窒化珪素スパッタリングターゲットを、Cu製のバッキングプレートにInはんだを用いて接合した。
そして、スパッタチャンバー内にArを30sccmで流し、チャンバー内全圧が0.67Paの状態で、RFで、電流密度3.0W/cm2で、窒化ケイ素膜を成膜した。
【0073】
(添加元素αと酸素の質量比)
20mm×20mmのGe基板に上述の条件で膜厚50nm成膜を行い、成膜サンプルをEPMAの定量分析によって、ケイ素と、窒素と、酸素と、第3族元素からなる添加元素αを含有していることを確認し、添加元素αと酸素の定量値から添加元素αと酸素の質量比を計算した。
【0074】
(透過率)
4inchウエハに上述の条件で膜厚15nm成膜を行い、成膜サンプルを分光光度計(日立ハイテクテクノロジーズ社製U-4100)を用いて、透過率を測定した。
本実施例では、
図3に示すように、ウエハの5か所で測定を行い、平均値を計算した。
また、(1-「平均より最も離れた値」/「平均値」)×100の絶対値を、ばらつきとした。
【0075】
(屈折率)
4inchウエハに上述の条件で膜厚15nm成膜を行い、成膜サンプルを分光エリプソメトリー(堀場製作所社製UVISEL-HR320)を用いて、屈折率を測定した。
本実施例では、
図3に示すように、ウエハの5か所で測定を行い、平均値を計算した。
また、(1-「平均より最も離れた値」/「平均値」)×100の絶対値を、ばらつきとした。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
比較例1においては、焼結助剤としてSiO2を添加しておらず、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの密度分布が8.8%と大きくなり、密度比が44.8%と低くなった。そして、成膜された窒化ケイ素膜において、膜内の透過率および屈折率のばらつきが大きくなった。焼結時における焼結助剤の流動性が不十分であったためと推測される。
【0080】
比較例2においては、焼結助剤としてSiO2のみを添加しており、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの密度分布が6.9%と大きくなり、密度比が45.8%と低くなった。そして、成膜された窒化ケイ素膜において、膜内の透過率および屈折率のばらつきが大きくなった。添加元素αが入っておらず、焼結性が十分に向上しなかったためと推測される。
【0081】
比較例3においては、熱間等方圧加圧(HIP)で焼結を実施しており、焼結助剤としてSiO2を添加しておらず、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの密度分布が5.2%と大きくなった。そして、成膜された窒化ケイ素膜において、膜内の透過率および屈折率のばらつきが大きくなった。焼結時における焼結助剤の流動性が不十分であったためと推測される。
【0082】
比較例4においては、添加元素αの添加量が少なく、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの密度分布が5%を超えており、成膜された窒化ケイ素膜において、膜内の透過率および屈折率のばらつきが大きくなった。
【0083】
これに対して、本発明例1-12においては、焼結助剤として酸化ケイ素(SiO2)と第3族元素からなる添加元素αの酸化物(La2O3、Y2O3)を用いており、密度分布が5%以下と小さくなった。そして、成膜された窒化ケイ素膜において、膜内の透過率および屈折率のばらつきが小さくなった。焼結時に、酸化ケイ素(SiO2)と第3族元素からなる添加元素αの酸化物(La2O3、Y2O3)とが複合酸化物となり、焼結助剤の流動性が向上したためと推測される。
【0084】
なお、本発明例5のXRD結果を
図4に、本発明例9のXRD結果を
図5に示す。
第3族元素からなる添加元素αの酸化物としてLa
2O
3を添加した本発明例5においては、LaとSiとの複合酸化物が存在していることが確認される。また、第3族元素からなる添加元素αの酸化物としてY
2O
3を添加した本発明例9においては、YとSiとの複合酸化物が存在していることが確認される。
【0085】
以上のことから、本発明例によれば、光学特性(透過率および屈折率)のばらつきが小さい窒化ケイ素膜を成膜することが可能な窒化ケイ素スパッタリングターゲット、窒化ケイ素スパッタリングターゲットの製造方法、および、窒化ケイ素膜を提供できることが確認された。