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  • 特開-多重殻タンク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186098
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】多重殻タンク
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/08 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
F17C13/08 302D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094150
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江上 武史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓央
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB11
3E172AB15
3E172BA06
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172CA08
3E172CA27
3E172DA03
3E172DA90
(57)【要約】
【課題】低温の液化ガスを貯溜する平底の多重殻タンクにおいて、二重殻タンクと比較して保冷性を向上しながらも、三重殻タンクと比較して内槽とタンク基礎との連結が容易な構造を提案する。
【解決手段】多重殻タンクは、タンク基礎と、タンク基礎上に配置され当該タンク基礎に固定された外槽底板、外槽底板に下端部が固定された筒状の外槽側板、及び、外槽側板の上端部に設けられた外槽屋根を有する外槽と、内槽底板、内槽底板に下端部が固定された筒状の内槽側板、及び、内槽側板の上端部に設けられた内槽屋根を有し、外槽の内部において外槽底板上に内側底部保冷層を介して配置された内槽と、外槽側板と内槽側板の間に配置され、外槽底板に下端部が固定された筒状の中間槽側板、及び、外槽屋根と内槽屋根の間に配置され、中間槽側板の上端部に設けられた中間槽屋根を有する中間槽と、を備え、内槽に液化ガスが収容される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク基礎と、
前記タンク基礎上に配置され当該タンク基礎に固定された外槽底板、前記外槽底板に下端部が固定された筒状の外槽側板、及び、前記外槽側板の上端部に設けられた外槽屋根を有する外槽と、
内槽底板、前記内槽底板に下端部が固定された筒状の内槽側板、及び、前記内槽側板の上端部に設けられた内槽屋根を有し、前記外槽の内部において前記外槽底板上に内側底部保冷層を介して配置された内槽と、
前記外槽側板と前記内槽側板の間に配置され、前記外槽底板に下端部が固定された筒状の中間槽側板、及び、前記外槽屋根と前記内槽屋根の間に配置され、前記中間槽側板の上端部に設けられた中間槽屋根を有する中間槽と、を備え、
前記内槽に液化ガスが収容される、
多重殻タンク。
【請求項2】
前記内槽側板と前記中間槽側板の間を通されて、前記外槽底板を貫いて前記内槽側板と前記タンク基礎とを連結する第1アンカーストラップと、
前記中間槽側板と前記外槽側板の間を通されて、前記外槽底板を貫いて前記中間槽側板と前記タンク基礎とを連結する第2アンカーストラップと、を更に備える、
請求項1に記載の多重殻タンク。
【請求項3】
前記内槽と前記中間槽の槽間に前記液化ガスの気化ガスが充填されており、
前記中間槽と前記外槽の槽間に前記液化ガスよりも沸点の高いガスが充填されている、
請求項1又は2に記載の多重殻タンク。
【請求項4】
前記内槽と前記中間槽の槽間と前記内槽の内部が連通されている、
請求項3に記載の多重殻タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低温の液化ガスを貯溜する平底の多重殻タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低温の液化ガスを貯溜するための平底の二重殻タンクや三重殻のタンクが提案されている。例えば特許文献1では、平底の三重殻タンクが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された三重殻タンクでは、コンクリート製のタンク基礎上に外槽が設けられ、この外槽の底板の上に保冷効果を有するパーライトコンクリート製の基板が設けられ、この基板の上に中間槽が設けられ、中間槽の底板の上にレベルコンクリート層が設けられ、レベルコンクリート層の上に内槽が設けられている。内槽の底板とレベルコンクリート層との上下間には、内槽の底板の周縁部を摺動可能に支持する取付座が設けられている。取付座の外周縁部は中間槽タンクの内壁近傍まで延び、中間槽タンクの内壁に設けられた係止片に下から当接可能である。第1のアンカー部材の一端部は内槽の側板に連結され他端部は取付座に連結されている。第2のアンカー部材の一端部は中間槽の側板に連結され他端部はタンク基礎内に延びて固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55-20937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の三重殻タンクでは、外槽の内部に中間槽が設けられ、中間槽の内部に内槽が設けられている。第1のアンカー部材は、一方の端部が内槽の側板と連結され、他方の端部が内槽の底板と中間槽の底板との間に配置された取付座と連結されている。取付座は内槽と摩擦で係合されているが、内槽及び中間槽に固定はされておらず、タンク基礎にも固定されていない。アンカー部材はタンク基礎に固定されることが望ましいが、特許文献1の三重殻タンクでは内槽とタンク基礎との間に中間槽及び外槽が存在することから、中間槽の内外で気密性を保持しつつ内槽とタンク基礎とをアンカー部材で連結することは難しい。
【0006】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、低温の液化ガスを貯溜する平底の多重殻タンクにおいて、二重殻タンクと比較して保冷性を向上しながらも、三重殻タンクと比較して内槽とタンク基礎との連結が容易な構造を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る多重殻タンクは、
タンク基礎と、
前記タンク基礎上に配置され当該タンク基礎に固定された外槽底板、前記外槽底板に下端部が固定された筒状の外槽側板、及び、前記外槽側板の上端部に設けられた外槽屋根を有する外槽と、
内槽底板、前記内槽底板に下端部が固定された上下方向に延びる筒状の内槽側板、及び、前記内槽側板の上端部に設けられた内槽屋根を有し、前記外槽の内部において前記外槽底板上に内側底部保冷層を介して配置された内槽と、
前記外槽側板と前記内槽側板の間に配置され、前記外槽底板に下端部が固定された筒状の中間槽側板、及び、前記外槽屋根と前記内槽屋根の間に配置され、前記中間槽側板の上端部に設けられた中間槽屋根を有する中間槽と、を備え、
前記内槽に液化ガスが収容されることを特徴とする。
【0008】
上記構成の多重殻タンクは、側板と屋根において三重構造となっているから、従来の二重殻タンクと比較して保冷性を向上させることができる。そして、多重殻タンクは、底板において二重構造となっているから、従来の三重殻タンクと比較して施工が容易であり、且つ、コストも抑えることができる。
【0009】
そのうえ、多重殻タンクでは、外槽底板が中間槽と外槽の底板を兼ねることから、内槽と中間槽の槽間、及び、中間槽と外槽の槽間の双方に、タンク基礎に直接的に固定された外槽底板が露出している。よって、内槽と中間槽の槽間を利用して、中間槽と外槽の槽間を通らずに、内槽をタンク基礎に固定することが可能となる。その結果、従来の三重殻タンクと比較して内槽とタンク基礎との連結が単純となり、施工が容易となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温の液化ガスを貯溜する平底の多重殻タンクにおいて、二重殻タンクと比較して保冷性を向上しながらも、三重殻タンクと比較して内槽とタンク基礎との連結が容易な構造を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る多重殻タンクの全体的な構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る多重殻タンク1の全体的な構成を示す断面図である。図1に示す多重殻タンク1は、側部と屋根部は三重殻で、底部は二重殻の地上据え置き式の平底型タンクである。多重殻タンク1は、コンクリート製のタンク基礎7と、タンク基礎7の上に設けられた外槽5と、外槽5に内包された内槽3と、外槽5と内槽3の間に設けられた中間槽4とを備える。多重殻タンク1の周囲にはコンクリート製の防液堤6が設けられている。
【0013】
内槽3は、低温液化ガスが貯蔵される容器である。低温液化ガスとして、液体ヘリウム、液体水素、液体窒素、LNG、LPGなどが例示される。内槽3は、概ね平らな内槽底板31と、内槽底板31に下端部が固定された円筒状の内槽側板32と、内槽側板32の上端部に設けられた半球殻状(ドーム状)の内槽屋根33とを有する。
【0014】
内槽3は、外槽5に内包されている。外槽5は、タンク基礎7上に設けられタンク基礎7に固定された概ね平らな外槽底板51と、外槽底板51に下端部が固定された円筒状の外槽側板52と、外槽側板52の上端部に設けられた半球殻状の外槽屋根53とを有する。外槽底板51と内槽底板31との上下間には、内側底部保冷層36が介設されている。
【0015】
外槽側板52は、アンカーボルト(図示略)によって、タンク基礎7と結合されている。或いは、外槽底板51が、タンク基礎7に打設されたアンカープレートに固定されていてもよい。
【0016】
中間槽4は、外槽底板51に下端部が固定された円筒状の中間槽側板42と、中間槽側板42の上端部に設けられた半球殻状の中間槽屋根43とを有する。つまり、外槽底板51が中間槽4と外槽5の底板を兼ねる。中間槽側板42は、内槽側板32と外槽側板52の間に設けられている。中間槽屋根43は内槽屋根33と外槽屋根53との間に設けられている。なお、内槽屋根33は、中間槽屋根43に吊り下げ支持されてもよい。
【0017】
内槽側板32と中間槽側板42との間に間隙が設けられ、内槽屋根33と中間槽屋根43の間に間隙が設けられ、これらの間隙によって内槽3と中間槽4の槽間(以下、「第1槽間61」と称する)が形成されている。中間槽側板42と外槽側板52の間に間隙が設けられ、中間槽屋根43と外槽屋根53の間に間隙が設けられ、これらの間隙によって中間槽4と外槽5の槽間(以下、「第2槽間62」と称する)が形成されている。第1槽間61及び第2槽間62には、断熱材63が充填されている。断熱材63は、例えば、パーライトやグラスウールなどの、従来多重殻タンクの断熱材として使用されてきたものであってよい。
【0018】
内槽3の頂部にはBOG配管22が開口しており、BOG配管22を通じて内槽3内で生じた気化ガスが多重殻タンク1の外部へ送られる。このBOG配管22は、内槽屋根33、中間槽屋根43、及び外槽屋根53を貫いている。内槽3の下部には図示されない払出配管が開口しており、この払出配管を通じて内槽3の液化ガスが外部へ送られる。但し、払出配管は内槽3内を上方へ向かって延び、多重殻タンク1の上部を通じて外部へ液化ガスを送るように構成されていてもよい。
【0019】
第1槽間61と第2槽間62とを仕切る中間槽4の気密性によって、第1槽間61と第2槽間62は空間として分離されている。第1槽間61には、内槽3に収容されている液化ガスの気化ガスと同種のガス、又は、液化ガスの気化ガスと同等の低沸点の気体が充填されている。第1槽間61へガスを供給するために、内槽3内の上部と第1槽間61とを連通させる連通管21が内槽屋根33に設けられている。但し、連通管21は省略されて、BOG配管22の分岐管と第1槽間61とが接続されることによって、BOG配管22を通じて内槽3から排出された気化ガスが第1槽間61に導入されてもよい。
【0020】
第2槽間62には、不活性ガス供給源24から導入管23を通じて不活性ガスが供給され、不活性ガスが充填されている。この不活性ガスは内槽3に貯蔵された液化ガスよりも沸点の高い気体である。このような不活性ガスとして、窒素が例示される。
【0021】
内槽側板32とタンク基礎7とは、第1槽間61を通された第1アンカーストラップ9で連結されている。多数の第1アンカーストラップ9が、内槽側板32の周りに周方向に略等間隔で設けられている。第1アンカーストラップ9の上端部9aは、内槽側板32の外壁に結合されている。第1アンカーストラップ9の上端部9aは、内槽側板32の外壁上において上下方向の変位が許容されるように、内槽側板32の外壁と結合されていてよい。第1アンカーストラップ9の下端部9bは、外槽底板51を貫通してタンク基礎7に嵌め込まれたアンカーボックス71に溶接により結合されている。
【0022】
中間槽側板42とタンク基礎7とは、第2槽間62を通された第2アンカーストラップ10で連結されている。多数の第2アンカーストラップ10が、中間槽側板42の周りに周方向に略等間隔で設けられている。第2アンカーストラップ10の上端部10aは、中間槽側板42の外壁に溶接又は他の方法により結合されている。第2アンカーストラップ10の下端部10bは、外槽底板51を貫通してタンク基礎7に埋設されたアンカーボックス72に溶接により結合されている。なお、第1アンカーストラップ9及び第2アンカーストラップ10は、低温靭性を有する素材(例えば、SUS)から成る帯状の部材である。但し、第1アンカーストラップ9及び第2アンカーストラップ10は、軸状部材又は線状部材であってもよい。
【0023】
〔総括〕
以上に説明した通り、本開示に係る多重殻タンク1は、
タンク基礎7と、
タンク基礎7上に配置され当該タンク基礎7に固定された外槽底板51、外槽底板51に下端部が固定された筒状の外槽側板52、及び、外槽側板52の上端部に設けられた外槽屋根53を有する外槽5と、
内槽底板31、内槽底板31に下端部が固定された筒状の内槽側板32、及び、内槽側板32の上端部に設けられた内槽屋根33を有し、外槽5の内部において外槽底板51上に内側底部保冷層36を介して配置された内槽3と、
外槽側板52と内槽側板32の間に配置され、外槽底板51に下端部が固定された筒状の中間槽側板42、及び、外槽屋根53と内槽屋根33の間に配置され、中間槽側板42の上端部に設けられた中間槽屋根43を有する中間槽4と、を備え、
内槽3に液化ガスが収容されることを特徴としている。
【0024】
上記構成の多重殻タンク1は、側板と屋根において三重構造となっているから、二重殻タンクと比較して保冷性を向上させることができる。そして、多重殻タンク1は、底板において二重構造となっているから、従来の三重殻タンクと比較して施工が容易であり、且つ、コストも抑えることができる。そのうえ、多重殻タンク1では、外槽底板51が中間槽4と外槽5の底板を兼ねることから、内槽3と中間槽4の槽間、及び、中間槽4と外槽5の槽間の双方に、タンク基礎7に直接的に固定された外槽底板51が露出している。このような多重殻タンク1では、内槽3と中間槽4の第1槽間61を利用して、中間槽4と外槽5の第2槽間62を通らずに、内槽3をタンク基礎7に固定することが可能となる。その結果、従来の三重殻タンクと比較して内槽3とタンク基礎7との連結が単純となり、施工が容易となる。
【0025】
また、本開示に係る多重殻タンク1は、内槽側板32と中間槽側板42の間を通されて、外槽底板51を貫いて内槽側板32とタンク基礎7とを連結する第1アンカーストラップ9と、中間槽側板42と外槽側板52の間を通されて、外槽底板51を貫いて中間槽側板42とタンク基礎7とを連結する第2アンカーストラップ10と、を更に備える。
【0026】
上記構成の多重殻タンク1では、内槽側板32とタンク基礎7を連結する第1アンカーストラップ9は第2槽間62を通らず第1槽間61のみを通る。そのため、第1アンカーストラップ9を通すために中間槽4と外槽5の間に開口を形成する必要がない。このような開口の形成が不要であるから、従来の三重殻タンクと比較して内槽側板32とタンク基礎7との連結が容易である。更に、中間槽4の気密性が低下せず、第1槽間61の気体の第2槽間62への漏洩をより厳密に防止することができる。
【0027】
また、本開示に係る多重殻タンク1は、内槽3と中間槽4の第1槽間61に内槽3に収容された液化ガスの気化ガスが充填されており、中間槽4と外槽5の第2槽間62に液化ガスよりも沸点の高いガスが充填されている。ここで、内槽3と中間槽4の第1槽間61と内槽3の内部が連通されることによって第1槽間61に気化ガスが充填されている場合には、内槽3と外槽5との間の圧力差を減らすことでき、第1アンカーストラップ9へかかる応力を低減することができる。
【0028】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の多重殻タンク1の構成は、以下のように変更することができる。
【0029】
例えば、上記実施形態において、内槽側板32、中間槽側板42、及び外槽側板52は円筒状であるが、これらは円筒状に限られず、略多角形筒状であってもよい。
【0030】
例えば、上記実施形態において、多重殻タンク1の周囲には防液堤6が設けられているが、防液堤6は省略されてよい。
【0031】
例えば、上記実施形態において外槽5は常温用材料で構成されているが、脆化遷移温度が低い低温用材料で構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 :多重殻タンク
3 :内槽
4 :中間槽
5 :外槽
7 :タンク基礎
9 :第1アンカーストラップ
10 :第2アンカーストラップ
31 :内槽底板
32 :内槽側板
33 :内槽屋根
36 :内側底部保冷層
42 :中間槽側板
43 :中間槽屋根
51 :外槽底板
52 :外槽側板
53 :外槽屋根
61 :第1槽間
62 :第2槽間
図1