(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186101
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ゴム組成物の摩擦性能の評価方法、及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20221208BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01N19/02 B
B60C19/00 H
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094153
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向井 将一
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC55
3D131LA22
3D131LA28
3D131LA32
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物の摩擦性能が精度よく評価されうる、ゴム組成物の評価方法の提供。
【解決手段】ゴム組成物の評価方法は、
(A)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力及び圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(B)上記引張応力及び上記圧縮応力の一方又は両方に基づいて、基準応力を決定するステップ、
(C)上記基準応力が負荷されたときの上記ゴム組成物の引張歪み及び圧縮歪みを求めるステップ、
並びに
(D)上記引張歪みと上記圧縮歪みとを対比するステップ
を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力又は圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(B)上記引張応力又は上記圧縮応力に基づいて、基準応力を決定するステップ、
(C)上記基準応力が負荷されたときの上記ゴム組成物の引張歪み及び圧縮歪みを求めるステップ、
並びに
(D)上記引張歪みと上記圧縮歪みとを対比するステップ
を備えた、ゴム組成物の摩擦性能評価方法。
【請求項2】
上記ステップ(A)において、有限要素法によって引張応力又は圧縮応力が算出される請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
上記ステップ(C)が、
(C-1)材質が上記ゴム組成物である第一試験片を引張試験に供して、上記引張歪みを測定するステップ
及び
(C-2)材質が上記ゴム組成物である第二試験片を圧縮試験に供して、上記圧縮歪みを測定するステップ
を含む、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
上記ステップ(C-2)において圧縮試験に供される第二試験片の形状が、上記ステップ(C-1)において引張試験に供される第一試験片の形状と同じである、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
上記ステップ(D)において、2つの歪みの差又は比が算出される請求項1から4のいずれかに記載の評価方法。
【請求項6】
ドライな路面での上記ゴム組成物の摩擦係数との対比によって、ウェットな路面での上記ゴム組成物の摩擦係数が評価される、請求項1から5のいずれかに記載の評価方法。
【請求項7】
(A)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力又は圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(B)上記引張応力又は上記圧縮応力に基づいて、基準応力を決定するステップ、
(C)上記基準応力が負荷されたときの上記ゴム組成物の引張歪み及び圧縮歪みを求めるステップ、
(D)上記引張歪みと上記圧縮歪みとを対比するステップ
(E)上記対比に基づいて、上記ゴム組成物の合否を判定するステップ、
(F)合格した上記ゴム組成物の組成に基づいて、タイヤのトレッドの仕様を決定するステップ、
並びに
(G)上記仕様を有する上記トレッドを製作するステップ
を備えた、タイヤの製造方法。
【請求項8】
(1)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力及び圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(2)上記引張応力に基づいて第一基準応力が決定され、上記圧縮応力に基づいて第二基準応力が決定されるステップ、
(3)上記第一基準応力が負荷されたときの上記ゴム組成物の引張歪みと、上記第二基準応力が負荷されたときの上記ゴム組成物の圧縮歪みとを求めるステップ、
並びに
(4)上記引張歪みと上記圧縮歪みとを対比するステップ
を備えた、ゴム組成物の摩擦性能評価方法。
【請求項9】
(1)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力及び圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(2)上記引張応力に基づいて第一基準応力が決定され、上記圧縮応力に基づいて第二基準応力が決定されるステップ、
(3)上記第一基準応力が負荷されたときの上記ゴム組成物の引張歪みと、上記第二基準応力が負荷されたときの上記ゴム組成物の圧縮歪みとを求めるステップ、
(4)上記引張歪みと上記圧縮歪みとを対比するステップ
(5)上記対比に基づいて、上記ゴム組成物の合否を判定するステップ、
(6)合格した上記ゴム組成物の組成に基づいて、タイヤのトレッドの仕様を決定するステップ、
並びに
(7)上記仕様を有する上記トレッドを製作するステップ
を備えた、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の評価方法に関する。詳細には、本発明は、ゴム組成物の摩擦性能が評価される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、トレッドを有している。トレッドの主たる材料は、架橋されたゴム組成物である。トレッドは、路面と直接に接触する。トレッドは、路面と擦れ合う。タイヤにとって、トレッドのゴム組成物の摩擦性能は重要な特性である。
【0003】
特開2017-67453公報には、ゴム組成物の粘弾性が利用されてこのゴム組成物の摩擦性能が評価される方法が、開示されている。この方法では、損失正接に基づいて、摩擦係数が予測される。この方法では、摩擦試験が行われることなく、摩擦性能が評価されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2017-67453公報に開示された評価方法の、評価の精度は不十分である。本発明の目的は、効率的になされ得てかつ精度よく摩擦性能が評価されうる、ゴム組成物の評価方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るゴム組成物の摩擦性能評価方法は、
(A)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力又は圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(B)この引張応力又は圧縮応力に基づいて、基準応力を決定するステップ、
(C)この基準応力が負荷されたときのゴム組成物の引張歪み及び圧縮歪みを求めるステップ、
並びに
(D)この引張歪みと圧縮歪みとを対比するステップ
を含む。
【0007】
好ましくは、ステップ(A)において、有限要素法によって引張応力又は圧縮応力が算出される。
【0008】
好ましくは、ステップ(C)は、
(C-1)材質がこのゴム組成物である第一試験片を引張試験に供して、引張歪みを測定するステップ
及び
(C-2)材質がこのゴム組成物である第二試験片を圧縮試験に供して、圧縮歪みを測定するステップ
を含む。好ましくは、ステップ(C-2)において圧縮試験に供される第二試験片の形状は、ステップ(C-1)において引張試験に供される第一試験片の形状と同じである。
【0009】
好ましくは、ステップ(D)において、2つの歪みの差又は比が算出される。
【0010】
好ましくは、この方法により、ドライな路面でのゴム組成物の摩擦係数との対比によって、ウェットな路面でのゴム組成物の摩擦係数が評価される。
【0011】
他の観点によれば、本発明に係るタイヤの製造方法は、
(A)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力又は圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(B)この引張応力又は圧縮応力に基づいて、基準応力を決定するステップ、
(C)この基準応力が負荷されたときのゴム組成物の引張歪み及び圧縮歪みを求めるステップ、
(D)この引張歪みと圧縮歪みとを対比するステップ
(E)この対比に基づいて、ゴム組成物の合否を判定するステップ、
(F)合格したゴム組成物の組成に基づいて、タイヤのトレッドの仕様を決定するステップ、
並びに
(G)この仕様を有するトレッドを製作するステップ
を含む。
【0012】
他の観点によれば、本発明に係るゴム組成物の摩擦性能評価方法は、
(1)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力及び圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(2)この引張応力に基づいて第一基準応力が決定され、この圧縮応力に基づいて第二基準応力が決定されるステップ、
(3)この第一基準応力が負荷されたときのゴム組成物の引張歪みと、この第二基準応力が負荷されたときのゴム組成物の圧縮歪みとを求めるステップ、
並びに
(4)この引張歪みと圧縮歪みとを対比するステップ
を含む。
【0013】
さらに他の観点によれば、本発明に係るイヤの製造方法は、
(1)想定された材質がゴム組成物であるモデルが突起を有する面の上を滑るときに、この突起の近傍にてこのモデルに発生する引張応力及び圧縮応力を、シミュレーションにて算出するステップ、
(2)この引張応力に基づいて第一基準応力が決定され、この圧縮応力に基づいて第二基準応力が決定されるステップ、
(3)この第一基準応力が負荷されたときのゴム組成物の引張歪みと、この第二基準応力が負荷されたときのゴム組成物の圧縮歪みとを求めるステップ、
(4)この引張歪みと圧縮歪みとを対比するステップ
(5)この対比に基づいて、ゴム組成物の合否を判定するステップ、
(6)合格したゴム組成物の組成に基づいて、タイヤのトレッドの仕様を決定するステップ、
並びに
(7)この仕様を有するトレッドを製作するステップ
を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る評価方法により、ゴム組成物の摩擦性能が精度よく評価されうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る評価方法が示されたフローチャートである。
【
図2】
図2は、
図1の評価方法に用いられるモデルの一部が示された模式図である。
【
図3】
図3は、
図2のモデルが突起のモデルと共に示された模式図である。
【
図4】
図4は、
図1の評価方法に用いられる応力-歪み曲線が示されたグラフである。
【
図5】
図5は、
図1の評価方法に用いられる歪み差-摩擦係数低減幅の曲線が示されたグラフである。
【
図6】
図6は、
図1の評価方法に用いられる歪み差-摩擦係数の曲線が示されたグラフである。
【
図7】
図7は、本発明の他の実施形態に係る評価方法に用いられる応力-歪み曲線が示されたグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法が示されたフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る評価方法が示されたフローチャートである。この評価方法では、モデルが制作される(STEP1)。
図2に、このモデル2が示されている。このモデル2は、多数のメッシュ4を有している。このモデル2は、実存しない。このモデル2は、仮想されている。このモデル2の、想定された材質は、ゴム組成物である。従ってこのモデル2は、弾性を有している。基材ゴムの種類、添加剤の種類、添加剤の量等の、詳細な組成が特定されたゴム組成物が、材質として想定される。硬度等の詳細な特性が特定されたゴム組成物が、材質として想定される。
【0018】
このモデル2が、シミュレーションに供される(STEP2)。シミュレーションの典型的な手法は、有限要素法(FEM)である。
図3に、有限要素法による解析の様子が示されている。
図3には、
図2に示されたモデル2と共に、突起6を有する面8のモデルも示されている。図示が省略されているが、面8も多数のメッシュに分割されている。本実施形態では、突起6は剛体である。ゴム組成物のモデル2のサイズは、突起6のサイズに比べて十分に大きい。
【0019】
このシミュレーションでは、モデル2は、
図3における矢印Aの方向に移動する。モデル2は、面8の上を滑りつつ、移動する。この移動により、モデル2には、突起6よりも前側(
図3の右側)において、引張応力が発生する。メッシュ4ごとの引張応力が、シミュレーションによって算出される。これらの引張応力は、分布を有する。突起6に近いメッシュ4の引張応力は、大きい。これらの引張応力から、代表値Vtが決定される。多数の引張応力の平均値が、代表値Vtとされてよい。多数の引張応力の最大値が、代表値Vtとされてよい。他の手段により、代表値Vtが決定されてもよい。
【0020】
モデル2の移動により、モデル2には、突起6よりも後ろ側(
図3の左側)において、圧縮応力が発生する。メッシュ4ごとの圧縮応力が、シミュレーションによって算出される。これらの圧縮応力は、分布を有する。突起6に近いメッシュ4の圧縮応力は、大きい。これらの圧縮応力から、代表値Vcが決定される。多数の圧縮応力の平均値が、代表値Vcとされてよい。多数の圧縮応力の最大値が、代表値Vcとされてよい。他の手段により、代表値Vcが決定されてもよい。
【0021】
シミュレーションに適したソフトウェアとして、Livermore Software Technology社の商品名「LS-DYNA」、及びDassault Systemes社の商品名「Abaqus」が挙げられる。
【0022】
シミュレーションで得られた引張応力の代表値Vt及び圧縮応力の代表値Vcに基づき、基準応力Rsが決定される(STEP3)。代表値Vtと代表値Vcとの平均が、基準応力Rsであってよい。代表値Vtと代表値Vcとの大きい方が、基準応力Rsであってよい。代表値Vtと代表値Vcとの小さい方が、基準応力Rsであってよい。他の手段により、基準応力Rsが決定されてもよい。
【0023】
代表値Vcが考慮されることなく、代表値Vtに基づいて基準応力Rsが決定されてもよい。この場合、シミュレーション(STEP2)において圧縮応力が算出される必要は、ない。
【0024】
代表値Vtが考慮されることなく、代表値Vcに基づいて基準応力Rsが決定されてもよい。この場合、シミュレーション(STEP2)において引張応力が算出される必要は、ない。
【0025】
次に、第一試験片が成形される(STEP4)。この第一試験片の材質は、シミュレーションに使用されたモデル2において想定されたゴム組成物である。この第一試験片が、引張試験に供される(STEP5)。引張試験は、既知の方法でなされる。引張試験の方法の一例が、「JIS K 6251」に規定されている。引張試験に適した装置として、島津製作所社の商品名「auto graph」が挙げられる。引張試験により、応力-歪み曲線が得られる。応力-歪み曲線の一例が、
図4に示されている。
図4において符号Stは、第一試験片に基準応力Rsが負荷されたときの引張歪みである。
【0026】
この方法では、第一試験片が成形されて、引張歪みStが測定される。シミュレーションにより、引張歪みStが算出されてもよい。
【0027】
次に、第二試験片が成形される(STEP6)。この第二試験片の材質は、第一試験片の材質と同じである。換言すれば、第二試験片の材質は、シミュレーションに使用されたモデル2において想定されたゴム組成物である。好ましくは、第二試験片の形状は、第一試験片の形状と同じである。この第二試験片が、圧縮試験に供される(STEP7)。圧縮試験は、既知の方法でなされる。圧縮試験の方法の一例が、「JIS K 6254」に規定されている。圧縮試験に適した装置として、前述の商品名「auto graph」が挙げられる。圧縮試験により、応力-歪み曲線が得られる。応力-歪み曲線の一例が、
図4に示されている。
図4において符号Scは、第二試験片に基準応力Rsが負荷されたときの圧縮歪みである。
【0028】
この方法では、第二試験片が成形されて、圧縮歪みScが測定される。シミュレーションにより、圧縮歪みScが算出されてもよい。
【0029】
引張試験(STEP5)に先立ち、圧縮試験(STEP7)が行われてもよい。引張試験(STEP5)と圧縮試験(STEP7)とが、並行して行われてもよい。
【0030】
この引張歪みStと圧縮歪みScとが、対比される(STEP8)。本実施形態では、この対比として、差(St-Sc)の算出がなされる。この差(St-Sc)によって、摩擦性能が評価される(STEP9)。この差(St-Sc)は、歪みパラメータの1種である。
【0031】
この評価に供されるグラフが、
図5に示されている。このグラフは、本発明に係る評価方法の実施に先立って、準備されている。多数のゴム組成物の摩擦係数の測定によって、このグラフが得られる。このグラフにおいて横軸は、差(St-Sc)である。このグラフにおいて縦軸は、ウェットな路面での摩擦係数μwの、ドライな路面での摩擦係数μdからの低下量を表す指標Idである。この指標Idは、下記の数式によって算出される。
Id = -(1 - μw / μd)
このIdは、摩擦係数パラメータの1種である。この指標Idにより、ドライな路面での摩擦係数μdと対比された、ウェットな路面での摩擦係数μwが評価されうる。
【0032】
一般的なゴム組成物では、ウェットな路面での摩擦係数μwは、ドライな路面での摩擦係数μdよりも小さい。指標Id小さいゴム組成物では、摩擦係数μwの摩擦係数μdとの差は、小さい。換言すれば、このゴム組成物の摩擦性能の、路面の状態への依存は、小さい。
【0033】
図5に示されるように、差(St-Sc)が約0.21であるゴム組成物では、指標Idが大きい。換言すれば、差(St-Sc)が0.21か、又はこれに近いゴム組成物では、摩擦性能の路面の状態への依存は、小さい。本実施形態では、差(St-Sc)が0.21か又はこれに近いゴム組成物は、「摩擦性能に優れる」と評価される。差(St-Sc)が0.21より大幅に小さいゴム組成物は、「摩擦性能に劣る」と評価される。差(St-Sc)が0.21より大幅に大きいゴム組成物は、「摩擦性能に劣る」と評価される。
図5とは異なるグラフが用いられる評価方法では、好ましい差(St-Sc)は、0.21以外であり得る。
【0034】
実際の滑りでは、ゴム組成物は、引張変形と復元とを繰り返す。ゴム組成物はさらに、圧縮変形と復元とを繰り返す。滑りの挙動は、複雑である。本発明者は、引張歪みと圧縮歪みとの対比により、ゴム組成物の摩擦性能を精度よく判定できることを、見出した。この評価方法では、ゴム組成物の摩擦係数のリアルな測定は、必要ない。この評価方法は、簡便である。
【0035】
図5のグラフの横軸として、他の値が設定されてもよい。換言すれば、他の歪みパラメータに基づいて、摩擦性能が評価されてもよい。他の歪みパラメータとして、差(Sc-St)、比(St/Sc)及び比(Sc/St)が挙げられる。引張歪みSt及び圧縮歪みScが所定の関係式に代入されて得られた値が、歪みパラメータとされてもよい。
【0036】
指標Id以外の摩擦係数パラメータによって、摩擦性能が評価されてもよい。このパラメータとして、ウェットな路面での摩擦係数μwが例示される。
図6に示されたグラフにおいて、横軸は差(St-Sc)であり、縦軸はウェットな路面での摩擦係数μwである。
図6に示されるように、差(St-Sc)が約0.23であるゴム組成物では、摩擦係数μwが大きい。本実施形態では、差(St-Sc)が0.23か、又はこれに近いゴム組成物は、「ウェットな路面での摩擦性能に優れる」と評価される。差(St-Sc)が0.23より大幅に小さいゴム組成物は、「ウェットな路面での摩擦性能に劣る」と評価される。差(St-Sc)が0.23より大幅に大きいゴム組成物は、「ウェットな路面での摩擦性能に劣る」と評価される。
【0037】
摩擦係数パラメータが、ドライな路面での摩擦係数μdであってよい。摩擦係数パラメータが、雪又は氷の路面での摩擦係数であってよい。摩擦係数パラメータが、雪又は氷の路面での摩擦係数と、ドライな路面での摩擦係数μdとの関係式であってもよい。
【0038】
グラフが用いられることなく、摩擦性能が評価されてもよい。この場合、引張歪みStと圧縮歪みScとの対比により、摩擦性能の良否が直接に判断される。例えば、差(St-Sc)が0.21か又はこれに近いゴム組成物は、「摩擦性能に優れる」と評価される。
【0039】
図7は、本発明の他の実施形態に係る評価方法に用いられる応力-歪み曲線が示されたグラフである。
図1に示された評価方法では、基準応力Rsの決定(STEP3)に、引張応力及び圧縮応力の両方が考慮される。一方、
図7に示された評価方法では、引張応力に基づいて第一基準応力Rs1が決定され、圧縮応力に基づいて第二基準応力Rs2が決定される。
図7に示された応力-歪み曲線に基づいて、第一基準応力Rs1に対応する引張歪みStが測定され、第二基準応力Rs2に対応する圧縮歪みScが測定される。この引張歪みStと圧縮歪みScとが、対比されることで、摩擦性能が評価される。具体的な評価の手法は、
図1-6に示された実施形態での手法と、同じである。第一基準応力Rs1が用いられたシミュレーションにより、引張歪みが算出されてもよい。第二基準応力Rs2が用いられたシミュレーションにより、圧縮歪みScが算出されてもよい
【0040】
図8は、本発明の一実施形態に係るタイヤの製造方法が示されたフローチャートである。この製造方法では、
図1に示された評価方法と同様にして、モデル2の制作(STEP1)、シミュレーション(STEP2)、基準の応力の決定(STEP3)、第一試験片の成形(STEP4)、引張試験(STEP5)、第二試験片の成形(STEP6)、圧縮試験(STEP7)、歪みの対比(STEP8)及び摩擦性能の評価(STEP9)がなされる。摩擦性能の評価(STEP9)が、省略されてもよい。
【0041】
さらにこの製造方法では、ゴム組成物の合否判定(STEP10)がなされる。このステップでは、差(St-Sc)が予め定められた範囲に含まれるか否かが、判定される。この判定においてゴム組成物が合格でない場合、組成の異なる他のゴム組成物のモデル2が制作される(STEP2)。このゴム組成物に関するシミュレーション(STEP2)から合否判定(STEP10)までのステップが、なされる。これらのステップが繰り返されることにより、摩擦性能に優れたゴム組成物が、見いだされる。
【0042】
判定(STEP10)においてゴム組成物が合格である場合、トレッドの仕様が決定される(STEP11)。具体的には、トレッド用ゴム組成物の組成が決定される。このトレッド用ゴム組成物の組成が、判定(STEP10)において合格したゴム組成物の組成と同一であってよい。このトレッド用ゴム組成物の組成が、判定(STEP10)において合格したゴム組成物の組成と異なってもよい。換言すれば、判定(STEP10)において合格したゴム組成物の組成が参考にされて、トレッド用ゴム組成物の組成が決定されうる。判定(STEP10)において合格したゴム組成物の摩擦性能よりもさらに優れた摩擦性能を有するように、トレッド用ゴム組成物の組成が決定されうる。
【0043】
決定された仕様に従い、トレッドゴムが製作される(STEP12)。このトレッドゴムが、他のゴム部材とアッセンブリーされる(STEP13)。このアッセンブリーにより、ローカバー(グリーンタイヤ)が得られる。このローカバーが金型に投入され、加圧及び加熱される(STEP14)。加圧及び加熱により、ゴム組成物は金型のキャビティ内で、流動する。加熱により、ゴム組成物のゴム分子が、架橋反応を起こす。このようにして、タイヤが得られる。このタイヤは、摩擦性能に優れる。この製造方法により、摩擦性能に優れたタイヤが容易に得られる。
【0044】
この製造方法では、第一試験片が成形されて、引張歪みStが測定される(STEP4、STEP5)。シミュレーションにより、引張歪みStが算出されてもよい。この製造方法では、第二試験片が成形されて、圧縮歪みScが測定される(STEP6、STEP7)。シミュレーションにより、圧縮歪みScが算出されてもよい。
【0045】
この製造方法において、差(St-Sc)以外の歪みパラメータによって、合否判定(STEP10)がなされてもよい。例えば、差(Sc-St)、比(St/Sc)又は比(Sc/St)によって、合否判定がなされうる。引張歪みSt及び圧縮歪みScが所定の関係式に代入されて得られた値によって、合否判定がなされてもよい。摩擦係数パラメータによって、合否判定(STEP10)がなされてもよい。
【0046】
この製造方法において、引張応力に基づいて第一基準応力Rs1が決定され、圧縮応力に基づいて第二基準応力Rs2が決定されてもよい。この場合、応力-歪み曲線に基づいて、第一基準応力Rs1に対応する引張歪みStが測定される。応力-歪み曲線に基づいて、第二基準応力Rs2に対応する圧縮歪みScが測定される。この引張歪みStと圧縮歪みScとが、対比されることで、合否判定(STEP10)がなされうる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明された評価方法は、靴底、床、コンベア等の、種々のゴム製品の摩擦性能の評価に、適している。
【符号の説明】
【0048】
2・・・モデル
4・・・メッシュ
6・・・突起
8・・・面