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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186103
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】フィルタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/203 20060101AFI20221208BHJP
   H01P 1/205 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H01P1/203
H01P1/205 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094160
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】助川 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮本 貴裕
【テーマコード(参考)】
5J006
【Fターム(参考)】
5J006HB03
5J006JA01
5J006LA11
5J006NA04
5J006NB07
5J006NC02
(57)【要約】
【課題】基板などの製造誤差による通過帯域の変化に初段結合部の反射ディレイを対応させることができるフィルタを実現する。
【解決手段】本開示の一形態に係るフィルタ(1)は、誘電性を有する基板(2)と、基板(2)に形成された初段結合部と、基板(2)に形成された段間結合部と、を備える。初段結合部は、基板(2)又は段間結合部の製造誤差による通過帯域の増加に応じて、反射ディレイが減少するように形成されている、又は、通過帯域の減少に応じて、反射ディレイが増加するように形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電性を有する基板と、
前記基板に形成された初段結合部と、
前記基板に形成された段間結合部と、
を備え、
前記初段結合部は、前記基板又は前記段間結合部の製造誤差による通過帯域の増加に応じて、反射ディレイが減少するように形成されている、又は、前記通過帯域の減少に応じて、前記反射ディレイが増加するように形成されている、フィルタ。
【請求項2】
前記初段結合部は、前記基板に形成された入出力導体に形成されたスリット部である、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記初段結合部は、前記基板の同一面に形成された、入出力導体と、前記入出力導体に隣接する導体と、で形成されたスリット部である、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記初段結合部は、前記基板の一方の面に形成された入出力導体と、前記基板の一方の面と対向する他方の面に前記入出力導体と対向するように形成された導体と、で形成されたギャップ部である、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項5】
誘電性の基板に初段結合部及び段間結合部を形成する工程を備え、
前記初段結合部は、前記基板又は前記段間結合部の製造誤差による通過帯域の増加に応じて、反射ディレイが減少するように形成される、又は、前記通過帯域の減少に応じて、前記反射ディレイが増加するように形成される、フィルタの製造方法。
【請求項6】
前記初段結合部及び前記段間結合部は、エッチング加工によって前記基板に形成する、請求項5に記載のフィルタの製造方法。
【請求項7】
前記初段結合部は、前記基板に形成された入出力導体に形成されたスリット部である、請求項5又は6に記載のフィルタの製造方法。
【請求項8】
前記初段結合部は、前記基板の同一面に形成された、入出力導体と、前記入出力導体に隣接する導体と、で形成されたスリット部である、請求項5又は6に記載のフィルタの製造方法。
【請求項9】
前記初段結合部は、前記基板の一方の面に形成された入出力導体と、前記基板の一方の面と対向する他方の面に前記入出力導体と対向するように形成された導体と、で形成されたギャップ部である、請求項5又は6に記載のフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の高周波フィルタを実現するためには、基板上に予め設定された分布定数で設計された銅箔(導体)のパターンで構成される平面回路を用いることが一般的である。例えば、特許文献1には、入力側半波長共振器及び出力側半波長共振器を備える共振回路と、特性インピーダンスの入力線路を特性インピーダンスの線路により2分岐し、1/4波長のところで分岐部同士を特性インピーダンスの抵抗で結合すると共に、分岐線の各延長部を入力側半波長共振器の両側面に1/4波長に渡ってエッジ結合させた電力分配器と、特性インピーダンスの出力線路を特性インピーダンスの線路により2分岐し、1/4波長のところで分岐部同士を特性インピーダンスの抵抗で結合すると共に、分岐線の各延長部を出力側半波長共振器の両側面に1/4波長に渡ってエッジ結合させた電力合成器と、を備えたフィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-352245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のフィルタは、エッジ結合を強くするための技術であり、基板などの製造誤差による通過帯域の変化に対応することができない課題を有する。
【0005】
本明細書に開示される実施の形態が達成しようとする目的の1つは、当該課題の解決に寄与するフィルタ及びその製造方法を提供することである。なお、この目的は、本明細書に開示される複数の実施の形態が達成しようとする複数の目的の1つに過ぎないことに留意されるべきである。その他の目的又は課題と新規な特徴は、本明細書の記述又は添付図面から明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様のフィルタは、
誘電性を有する基板と、
前記基板に形成された初段結合部と、
前記基板に形成された段間結合部と、
を備え、
前記初段結合部は、前記基板又は前記段間結合部の製造誤差による通過帯域の増加に応じて、反射ディレイが減少するように形成されている、又は、前記通過帯域の減少に応じて、前記反射ディレイが増加するように形成されている。
【0007】
第2の態様のフィルタの製造方法は、誘電性の基板に初段結合部及び段間結合部を形成する工程を備え、
前記初段結合部は、前記基板又は前記段間結合部の製造誤差による通過帯域の増加に応じて、反射ディレイが減少するように形成される、又は、前記通過帯域の減少に応じて、前記反射ディレイが増加するように形成される。
【発明の効果】
【0008】
上述の態様によれば、基板などの製造誤差による通過帯域の変化に初段結合部の反射ディレイを対応させることができる、フィルタ及びその製造方法を実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1のフィルタを概略的に示す斜視図である。
図2】実施の形態1のフィルタをZ軸+側から見た図である。
図3図3は、図2のIII部分の拡大図である。
図4】スリット部の幅寸法が異なる実施の形態1のフィルタの初段結合部の特性を示す図である。
図5】共振導体の隙間の違いによる実施の形態1のフィルタのリターンロス特性とスリット部が形成されていないフィルタのリターンロス特性とを比較する図である。
図6】基板の厚さの違いによる実施の形態1のフィルタのリターンロス特性とスリット部が形成されていないフィルタのリターンロス特性とを比較する図である。
図7】実施の形態2のフィルタの初段結合部を抽出して示す斜視図である。
図8】スリット部の幅寸法が異なる実施の形態2のフィルタの初段結合部の特性を示す図である。
図9】実施の形態3のフィルタの初段結合部を抽出して示す斜視図である。
図10】実施の形態3のフィルタの初段結合部をZ軸-側から見た図である。
図11】基板の厚さの違いによる本実施の形態のフィルタの初段結合部の特性を示す図である。
図12】実施の形態4のフィルタを概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、説明を明確にするために、3次元(XYZ)座標系を用いて説明する。図1は、本実施の形態のフィルタを概略的に示す斜視図である。図2は、本実施の形態のフィルタをZ軸+側から見た図である。図3は、図2のIII部分の拡大図である。
【0011】
本実施の形態のフィルタ1は、片端短絡のインターディジタル型の7段帯域通過フィルタとして構成されている。フィルタ1は、図1に示すように、基板2、グランド導体3及び共振器4を備えている。基板2は、誘電性を有し、例えば、Z軸方向から見て略矩形状である。グランド導体3は、基板2のZ軸-側の面に形成されている。
【0012】
共振器4は、基板2のZ軸+側の面に形成されており、チェビシェフ分布が得られる分布定数で設計された導体のパターンである。共振器4は、例えば、図2に示すように、第1段目の共振導体41、第2段目の共振導体42、第3段目の共振導体43、第4段目の共振導体44、第5段目の共振導体45、第6段目の共振導体46及び第7段目の共振導体47を備えている。
【0013】
第1段目の共振導体41は、例えば、Y軸方向に長手を有する略矩形状であり、第1段目の共振導体41のY軸方向の長さは、通過帯域の中心周波数の略λ/4の長さである。第1段目の共振導体41のY軸-側の端部は、ビア電極61を介してグランド導体3に電気的に接続されている。また、第1段目の共振導体41は、第1の接続導体5を介して外部回路に電気的に接続されている。ここで、λは、通過帯域の中心周波数に相当する波長である。
【0014】
第1段目の共振導体41には、図2及び図3に示すように、スリット部41aが形成されている。スリット部41aは、例えば、Z軸方向から見てL字形状であり、X軸方向に延在する第1の部分41b、及びY軸方向に延在する第2の部分41cを備えている。
【0015】
第1の部分41bのX軸-側の端部は、第1段目の共振導体41と第1の接続導体5との接続部におけるY軸+側の端部に到達している。そして、第1の部分41bのX軸+側の端部は、第1段目の共振導体41におけるX軸方向の略中央に到達している。
【0016】
第2の部分41cのY軸+側の端部は、第1の部分41bのX軸+側の端部と連続している。そして、第2の部分41cは、第1の部分41bのX軸+側の端部からY軸-側に延在している。
【0017】
このような構成により、第1段目の共振導体41におけるスリット部41aの第2の部分41cに対してX軸-側の領域A1は、入出力導体の一方として機能することになり、スリット部41aの第2の部分41cは、初段結合部を形成することになる。
【0018】
なお、スリット部41aの幅寸法やY軸方向の長さなどは、上述の分布定数に基づいて設定することができる。ここで、図2及び図3では、領域A1をハッチングによって示している。
【0019】
第2段目の共振導体42は、例えば、Y軸方向に長手を有する略矩形状であり、第2段目の共振導体42のY軸方向の長さは、通過帯域の中心周波数の略λ/4の長さである。第2段目の共振導体42のY軸+側の端部は、ビア電極62を介してグランド導体3に電気的に接続されている。
【0020】
第2段目の共振導体42は、第1段目の共振導体41に対してX軸+側に間隔を開けて配置されており、フィルタ1をX軸方向から見て第2段目の共振導体42のX軸-側の辺の略全域が第1段目の共振導体41のX軸+側の辺と重なっている。そのため、第1段目の共振導体41と第2段目の共振導体42との隙間は、段間結合部を形成することになる。
【0021】
第3段目の共振導体43は、例えば、Y軸方向に長手を有する略矩形状であり、第3段目の共振導体43のY軸方向の長さは、通過帯域の中心周波数の略λ/4の長さである。第3段目の共振導体43のY軸-側の端部は、ビア電極63を介してグランド導体3に電気的に接続されている。
【0022】
第3段目の共振導体43は、第2段目の共振導体42に対してX軸+側に間隔を開けて配置されており、フィルタ1をX軸方向から見て第3段目の共振導体43のX軸-側の辺の略全域が第2段目の共振導体42のX軸+側の辺と重なっている。そのため、第2段目の共振導体42と第3段目の共振導体43との隙間は、段間結合部を形成することになる。
【0023】
第4段目の共振導体44は、例えば、Y軸方向に長手を有する略矩形状であり、第4段目の共振導体44のY軸方向の長さは、通過帯域の中心周波数の略λ/4の長さである。第4段目の共振導体44のY軸+側の端部は、ビア電極64を介してグランド導体3に電気的に接続されている。
【0024】
第4段目の共振導体44は、第3段目の共振導体43に対してX軸+側に間隔を開けて配置されており、フィルタ1をX軸方向から見て第4段目の共振導体44のX軸-側の辺の略全域が第3段目の共振導体43のX軸+側の辺と重なっている。そのため、第3段目の共振導体43と第4段目の共振導体44との隙間は、段間結合部を形成することになる。
【0025】
第5段目の共振導体45は、例えば、Y軸方向に長手を有する略矩形状であり、第5段目の共振導体45のY軸方向の長さは、通過帯域の中心周波数の略λ/4の長さである。第5段目の共振導体45のY軸-側の端部は、ビア電極65を介してグランド導体3に電気的に接続されている。
【0026】
第5段目の共振導体45は、第4段目の共振導体44に対してX軸+側に間隔を開けて配置されており、フィルタ1をX軸方向から見て第5段目の共振導体45のX軸-側の辺の略全域が第4段目の共振導体44のX軸+側の辺と重なっている。そのため、第4段目の共振導体44と第5段目の共振導体45との隙間は、段間結合部を形成することになる。
【0027】
第6段目の共振導体46は、例えば、Y軸方向に長手を有する略矩形状であり、第6段目の共振導体46のY軸方向の長さは、通過帯域の中心周波数の略λ/4の長さである。第6段目の共振導体46のY軸+側の端部は、ビア電極66を介してグランド導体3に電気的に接続されている。
【0028】
第6段目の共振導体46は、第5段目の共振導体45に対してX軸+側に間隔を開けて配置されており、フィルタ1をX軸方向から見て第6段目の共振導体46のX軸-側の辺の略全域が第5段目の共振導体45のX軸+側の辺と重なっている。そのため、第5段目の共振導体45と第6段目の共振導体46との隙間は、段間結合部を形成することになる。
【0029】
第7段目の共振導体47は、例えば、Y軸方向に長手を有する略矩形状であり、第7段目の共振導体47のY軸方向の長さは、通過帯域の中心周波数の略λ/4の長さである。第7段目の共振導体47のY軸-側の端部は、ビア電極67を介してグランド導体3に電気的に接続されている。
【0030】
第7段目の共振導体47は、第6段目の共振導体46に対してX軸+側に間隔を開けて配置されており、フィルタ1をX軸方向から見て第7段目の共振導体47のX軸-側の辺の略全域が第6段目の共振導体46のX軸+側の辺と重なっている。そのため、第6段目の共振導体46と第7段目の共振導体47との隙間は、段間結合部を形成することになる。
【0031】
第7段目の共振導体47は、第2の接続導体7を介して外部回路に電気的に接続されている。第7段目の共振導体47には、図2に示すように、スリット部47aが形成されている。スリット部47aは、例えば、Z軸方向から見てL字形状であり、X軸方向に延在する第1の部分47b、及びY軸方向に延在する第2の部分47cを備えている。
【0032】
第1の部分47bのX軸+側の端部は、第7段目の共振導体47と第2の接続導体7との接続部におけるY軸+側の端部に到達している。そして、第1の部分47bのX軸-側の端部は、第7段目の共振導体47におけるX軸方向の略中央に到達している。
【0033】
第2の部分47cのY軸+側の端部は、第1の部分47bのX軸-側の端部と連続している。そして、第2の部分47cは、第1の部分47bのX軸-側の端部からY軸-側に延在している。
【0034】
このような構成により、第7段目の共振導体47におけるスリット部47aの第2の部分47cに対してX軸+側の領域A2は、入出力導体の他方として機能することになり、スリット部47aの第2の部分47cは、初段結合部を形成することになる。
【0035】
なお、スリット部47aの幅寸法やY軸方向の長さなども、上述の分布定数に基づいて設定することができる。ここで、図2では、領域A2をハッチングによって示している。
【0036】
ところで、表1を用いて、チェビシェフ分布の帯域通過フィルタの規格化エレメントバリューを求めることができる。
【表1】
但し、gは規格化エレメントバリューであり、nは共振導体の入力側からの段数である。例えば、g1は、n=8、ripple=0.01dBの場合、g1=0.8072となる。
【0037】
そして、初段結合部の結合係数は、外部Q値と対応している。外部Q値は、例えば、第1段目の共振導体41又は第7段目の共振導体47と、外部回路と、の整合点を示す値であり、規格化エレメントバリューの値を用いて、以下の<数1>に基づいて導く出すことができる。
【数1】
但し、Qextは初段結合部の外部Q値である。gは規格化ローパス・プロトタイプ・フィルタで考えたときの入出力インピーダンスであり、1Ωである。ω’は通過帯域のエッジの角周波数であり、1である。ωは角周波数であり、ωrip(リップルハンド幅)/f(通過帯域の中心周波数)で求めることができる。
【0038】
そして、外部Q値は、反射ディレイとの間で以下の<数2>の関係を満たす。
【数2】
ここで、反射ディレイとは、共振器への入射信号に対する反射信号の遅延量である。但し、τは初段結合部の反射ディレイである。fは共振周波数である。このとき、τ=0としてよい。
【0039】
一般的に第1~第7の共振導体41~47は、エッチング加工などによって形成するが、その際に、例えば、銅箔を溶かす度合いがそのまま第1~第7の共振導体41~47の製造ばらつきになるので、各々の段間結合部の幅寸法(即ち、隣接する共振導体の隙間の幅寸法)には、略一律に製造誤差が現れる。
【0040】
このとき、段間結合が略一律に変化すると、チェビシェフ分布から大きく外れないため、フィルタの通過帯域の変化として現れる。例えば、段間結合部の幅寸法が広くなると、フィルタの通過帯域が狭まり、それに伴い、初段結合部の反射ディレイの値を大きくする必要がある。逆に、段間結合部の幅寸法の狭くなると、フィルタの通過帯域が広がり、それに伴い、初段結合部の反射ディレイの値も小さくする必要がある。
【0041】
一方、基板を形成した際に当該基板の厚さが製造誤差によって変化する。このとき、基板の厚さが厚くなると、フィルタの通過帯域が広がり、それに伴い、初段結合部の反射ディレイの値を小さくする必要がある。逆に、基板の厚さが薄くなると、フィルタの通過帯域が狭まり、それに伴い、初段結合部の反射ディレイの値を大きくする必要がある。
【0042】
上述のように、本実施の形態では、第1の共振導体41及び第7の共振導体47にスリット部41a、47aを形成している。そのため、エッチング加工などによって共振導体の各々の隙間が広がるのと同様に、スリット部41a、47aの幅寸法も広がり、それに伴って、外部Q値が大きくなる。逆に、共振導体の各々の隙間が狭まると同様に、スリット部41a、47aの幅寸法も狭まり、それに伴って、外部Q値が小さくなる。
【0043】
図4は、スリット部の幅寸法が異なる本実施の形態のフィルタの初段結合部の特性を示す図である。図5は、共振導体の隙間の違いによる本実施の形態のフィルタのリターンロス特性とスリット部が形成されていないフィルタのリターンロス特性とを比較する図であり、右側に本実施の形態のフィルタのリターンロス特性を示し、左側にスリット部が形成されていないフィルタのリターンロス特性を示している。
【0044】
ここで、図4では、横軸に周波数を示し、縦軸に反射ディレイを示している。また、図5では、横軸に周波数を示し、縦軸にリターンロスを示している。さらに、図4及び図5では、実線によってスリット部の幅寸法が基準寸法の初段結合部の特性を示し、一点鎖線によってスリット部の幅寸法が基準寸法に対して+40μmの初段結合部の特性を示し、二点鎖線によってスリット部の幅寸法が基準寸法に対して-40μmの初段結合部の特性を示している。
【0045】
本実施の形態のフィルタ1は、図4に示すように、エッチング加工による製造誤差によって求められる増加方向又は減少方向に初段結合部の反射ディレイを変化させることができる。そのため、本実施の形態のフィルタ1は、図5に示すように、スリット部41a、47aが形成されていないフィルタに比べて、リターンロスの劣化を抑制できている。ここで、図5のD1がリターンロスの劣化の抑制分の一例である。
【0046】
一方、基板2の製造誤差によって当該基板2の厚さが厚くなった場合、第1の共振導体41及び第7の共振導体47に形成されたスリット部41a、47aによって、第1の共振導体41及び第7の共振導体47の特性インピーダンスが変化し、外部Q値が小さくなる。逆に、基板2の厚さが薄くなった場合、第1の共振導体41及び第7の共振導体47の特性インピーダンスが変化し、外部Q値が大きくなる。
【0047】
図6は、基板の厚さの違いによる本実施の形態のフィルタのリターンロス特性とスリット部が形成されていないフィルタのリターンロス特性とを比較する図であり、右側に本実施の形態のフィルタのリターンロス特性を示し、左側にスリット部が形成されていないフィルタのリターンロス特性を示している。
【0048】
ここで、図6では、横軸に周波数を示し、縦軸にリターンロスを示している、また、図6では、実線によって基板の厚さが基準厚さの場合の初段結合部の特性を示し、一点鎖線によって基板の厚さが基準厚さに対して+20%の場合の初段結合部の特性を示し、二点鎖線によって基板の厚さが基準厚さに対して-20%の場合の初段結合部の特性を示している。
【0049】
本実施の形態のフィルタ1は、図6に示すように、基板の製造誤差によって求められる増加方向又は減少方向に初段結合部の反射ディレイを変化させることができる。そのため、本実施の形態のフィルタ1は、スリット部41a、47aが形成されていないフィルタに比べて、リターンロスの劣化を抑制できている。ここで、図6のD2がリターンロスの劣化の抑制分の一例である。
【0050】
このように本実施の形態のフィルタ1は、基板2などの製造誤差による通過帯域の変化に初段結合部の反射ディレイを対応させることができる。つまり、初段結合部は、基板2又は段間結合部の製造誤差による通過帯域の増加に応じて、反射ディレイが減少するように形成されている、又は、通過帯域の減少に応じて、反射ディレイが増加するように形成されている。
【0051】
詳細には、初段結合部は、基板2又は段間結合部の製造誤差によって、製造誤差がない場合の通過帯域に対して通過帯域が増加する場合、製造誤差がない場合の反射ディレイに対して反射ディレイが減少するように形成されている、又は、製造誤差がない場合の通過帯域に対して通過帯域が減少する場合、製造誤差がない場合の反射ディレイに対して反射ディレイが増加するように形成されている。そのため、本実施の形態のフィルタ1は、リターンロスの劣化を抑制することができる。
【0052】
<実施の形態2>
図7は、本実施の形態のフィルタの初段結合部を抽出して示す斜視図である。図8は、スリット部の幅寸法が異なる本実施の形態のフィルタの初段結合部の特性を示す図である。なお、図7では、基板2のZ軸+側の面に形成された共振器を成す共振導体の一部や当該基板2のZ軸-側の面に形成されたグランド導体、ビア電極などを省略して簡略化している。
【0053】
ここで、図8では、横軸に周波数を示し、縦軸に反射ディレイを示している。また、図8では、実線によってスリット部の幅寸法が基準寸法の初段結合部の特性を示し、一点鎖線によってスリット部の幅寸法が基準寸法に対して+40μmの初段結合部の特性を示し、二点鎖線によってスリット部の幅寸法が基準寸法に対して-40μmの初段結合部の特性を示している。
【0054】
実施の形態1のフィルタ1の初段結合部は、第1段目の共振導体41のスリット部41a及び第7段目の共振導体47のスリット部47aで形成しているが、図7に示すフィルタ201のように、初段結合部を形成する入出力導体202と共振導体203とを別構成としてもよい。
【0055】
このような構成のフィルタ201も、図8に示すように、実施の形態1のフィルタ1と同様に、基板2などの製造誤差による通過帯域の変化に初段結合部の反射ディレイを対応させることができる。そのため、本実施の形態のフィルタ1は、リターンロスの劣化を抑制することができる。
【0056】
<実施の形態3>
図9は、本実施の形態のフィルタの初段結合部を抽出して示す斜視図である。図10は、本実施の形態のフィルタの初段結合部をZ軸-側から見た図である。図11は、基板の厚さの違いによる本実施の形態のフィルタの初段結合部の特性を示す図である。なお、図9及び図10では、基板2のZ軸+側の面に形成された共振器を成す共振導体の一部や当該基板2のZ軸-側の面に形成されたグランド導体、ビア電極などを省略して簡略化している。
【0057】
ここで、図11では、横軸に周波数を示し、縦軸に反射ディレイを示している、また、図11では、実線によって基板の厚さが基準厚さの場合の初段結合部の特性を示し、一点鎖線によって基板の厚さが基準厚さに対して+20%の場合の初段結合部の特性を示し、二点鎖線によって基板の厚さが基準厚さに対して-20%の場合の初段結合部の特性を示している。
【0058】
実施の形態1のフィルタ1の初段結合部は、第1段目の共振導体41のスリット部41a及び第7段目の共振導体47のスリット部47aで形成しているのに対して、本実施の形態のフィルタ301は、基板2の厚みを利用して初段結合部を形成している。
【0059】
ここで、入力側の初段結合部と出力側の初段結合部とは、Y軸を対称軸とする線対称に形成されるため、以下の説明では、入力側又は出力側の初段結合部の一方の構成を代表して説明する。
【0060】
入出力導体302は、図9及び図10に示すように、基板2のZ軸-側の面に形成されている。入出力導体302は、例えば、図10に示すように、Z軸方向から見て略L字形状であり、第1の部分302a及び第2の部分302bを備えている。
【0061】
第1の部分302aは、X軸方向に延在しており、第1の部分302aのX軸-側の端部が外部回路に電気的に接続されている。第2の部分302bは、Y軸方向に延在しており、第2の部分302bのY軸+側の端部が第1の部分302aのX軸+側の端部に到達している。つまり、第2の部分302bは、第1の部分302aのX軸+側の端部からY軸-側に延在している。
【0062】
第1段目の共振導体303は、図9及び図10に示すように、基板2のZ軸+側の面に形成されており、グランド導体に電気的に接続されている。第1段目の共振導体303は、Y軸方向に長手を有する略矩形状であり、入出力導体302の第2の部分302bとZ軸方向で対向している。これにより、入出力導体302の第2の部分302bと第1段目の共振導体303との間で初段結合部が形成されることになる。
【0063】
このような構成のフィルタ301は、基板2の製造誤差によって当該基板2の厚さが厚くなると、フィルタ301の通過帯域が狭くなると共に、初段結合部の結合力が小さくなり、それに伴い、図11に示すように、反射ディレイが大きくなる。一方、基板2の厚さが薄くなると、フィルタ301の通過帯域が広くなると共に、初段結合部の結合力が大きくなり、それに伴い、図11に示すように、反射ディレイが小さくなる。
【0064】
これにより、本実施の形態のフィルタ301も、基板2の製造誤差による通過帯域の変化に初段結合部の反射ディレイを対応させることができる。そのため、本実施の形態のフィルタ301も、リターンロスの劣化を抑制することができる。
【0065】
<実施の形態4>
図12は、本実施の形態のフィルタを概略的に示す斜視図である。なお、図12では、グランド導体やビア電極などを省略して簡略化している。本実施の形態のフィルタ401は、図12に示すように、第1の入出力導体411、第2の入出力導体412及び共振器420を備えている。
【0066】
第1の入出力導体411は、X軸方向に長手を有する略矩形状であり、基板2のZ軸-側の面に形成されている。第2の入出力導体412は、X軸方向に長手を有する略矩形状であり、基板2のZ軸-側の面に形成されている。これらの第1の入出力導体411と第2の入出力導体412とは、Y軸方向に間隔を開けて配置されている。
【0067】
共振器420は、第1の共振導体421、第2の共振導体422、第3の共振導体423、第4の共振導体424及び第5の共振導体425を備えており、各々の共振導体がグランド導体に電気的に接続されている。
【0068】
第1の共振導体421は、例えば、Z軸方向から見てX軸+側が開放された略U字形状であり、基板2のZ軸+側の面に形成されている。第1の共振導体421におけるX軸方向に延在するY軸-側に配置された部分は、Z軸方向で第1の入出力導体411と対向している。
【0069】
第2の共振導体422は、例えば、X軸-側が開放された略U字形状であり、基板2のZ軸-側の面に形成されている。第2の共振導体422におけるX軸方向で延在するY軸-側に配置された部分は、Z軸方向で第1の共振導体421におけるX軸方向に延在するY軸+側に配置された部分と対向している。
【0070】
第3の共振導体423は、例えば、Z軸方向から見てX軸+側が開放された略U字形状であり、基板2のZ軸+側の面に形成されている。第3の共振導体423におけるX軸方向に延在するY軸-側に配置された部分は、Z軸方向で第2の共振導体422におけるX軸方向に延在するY軸+側に配置された部分と対向している。
【0071】
第4の共振導体424は、例えば、Z軸方向から見てX軸-側が開放された略U字形状であり、基板2のZ軸-側の面に形成されている。第4の共振導体424におけるX軸方向に延在するY軸-側に配置された部分は、Z軸方向で第3の共振導体423におけるX軸方向に延在するY軸+側に配置された部分と対向している。
【0072】
第5の共振導体425は、例えば、Z軸方向から見てX軸+側が開放された略U字形状であり、基板2のZ軸+側の面に形成されている。第5の共振導体425におけるX軸方向に延在するY軸-側に配置された部分は、Z軸方向で第4の共振導体424におけるX軸方向に延在するY軸+側に配置された部分と対向している。そして、第5の共振導体425におけるX軸方向に延在するY軸+側に配置された部分は、Z軸方向で第2の入出力導体412と対向している。
【0073】
このような構成のフィルタ401も、実施の形態3のフィルタ301と同様に、基板2の製造誤差によって当該基板2の厚さが厚くなると、フィルタ401の通過帯域が狭くなると共に、初段結合部の結合力が小さくなり、それに伴い、反射ディレイが大きくなる。一方、基板2の厚さが薄くなると、フィルタ401の通過帯域が広くなると共に、初段結合部の結合力が大きくなり、それに伴い、反射ディレイが小さくなる。
【0074】
これにより、本実施の形態のフィルタ401も、基板2の製造誤差による通過帯域の変化に初段結合部の反射ディレイを対応させることができる。そのため、本実施の形態のフィルタ401も、リターンロスの劣化を抑制することができる。
【0075】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0076】
例えば、上記実施の形態のフィルタは、基板2上に分布定数で設計された銅箔のパターンで構成される平面回路フィルタの一例として片端短絡のインターディジタル型フィルタを示したが、フィルタは、エッチング加工で作られ、分布定数回路として構成されるものであれば、インターディジタル型以外でもよい。つまり、フィルタは、例えば、コムライン型、パラレルカップリング型、ヘアピンライン型、又はエバネセントモード型などでもよい。
【0077】
例えば、上記実施の形態では、チェビシェフ分布のフィルタを例示したが、これに限らず、バタワース関数、ベッセル関数、楕円関数、ルシャンドル関数などに基づくフィルタでもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 フィルタ
2 基板
3 グランド導体
4 共振器
41 第1の共振導体
41a スリット部、41b 第1の部分、41c 第2の部分
42 第2の共振導体
43 第3の共振導体
44 第4の共振導体
45 第5の共振導体
46 第6の共振導体
47 第7の共振導体
47a スリット部、47b 第1の部分、47c 第2の部分
5 第1の接続導体
61、62、63、64、65、66、67 ビア電極
7 第2の接続導体
201 フィルタ
202 入出力導体
203 共振導体
301 フィルタ
302 入出力導体、302a 第1の部分、302b 第2の部分
303 共振導体
401 フィルタ
411 第1の入出力導体
412 第2の入出力導体
420 共振器
421 第1の共振導体
422 第2の共振導体
423 第3の共振導体
424 第4の共振導体
425 第5の共振導体
A1、A2 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12