(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186109
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】不織布及び電気化学素子用セパレータ
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4291 20120101AFI20221208BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20221208BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20221208BHJP
D21H 13/14 20060101ALI20221208BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20221208BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20221208BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20221208BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20221208BHJP
【FI】
D04H1/4291
D04H1/541
D06M15/53
D21H13/14
H01M50/403 E
H01M50/403 Z
H01M50/417
H01M50/44
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094175
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河原 萌恵
(72)【発明者】
【氏名】村田 修一
(72)【発明者】
【氏名】諸星 翔平
【テーマコード(参考)】
4L033
4L047
4L055
5H021
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AB01
4L033AC09
4L033CA48
4L047AA14
4L047AA27
4L047AA28
4L047BA04
4L047BA09
4L047BA21
4L047CC12
4L047DA00
4L055AF16
4L055AF17
4L055AF47
4L055EA16
4L055EA20
4L055EA32
4L055FA13
4L055FA30
4L055GA01
4L055GA31
4L055GA39
5H021BB08
5H021CC01
5H021CC02
5H021EE04
5H021EE34
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
【課題】油剤の付着量が少ない不織布、及び、前記不織布を親水化処理してなる電気化学素子用セパレータを提供すること。
【解決手段】本発明者らは、ポリプロピレン樹脂由来の最も温度の低い融解吸熱ピーク温度が160℃以下に存在する不織布は、そうでない不織布と比較して油剤の付着量が少ないことを見出した。この理由は完全には明らかになっていないが、160℃以下の融解吸熱ピーク温度を有する結晶形態を多く含むポリプロピレン樹脂は、油剤が有する疎水部との相溶性が低く、その結果油剤がポリプロピレン樹脂を含む繊維の内部に入り込みにくくなるためと考えられる。また、本発明の電気化学素子用セパレータは、油剤の付着量が少ない不織布を親水化処理してなる電気化学素子用セパレータであるため、強度が優れる電気化学素子用セパレータである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を含む繊維、及び油剤を含む不織布であり、示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で不織布の融解吸熱ピークを測定したとき、ポリプロピレン樹脂由来の最も温度の低い融解吸熱ピーク温度が160℃以下に存在する、不織布。
【請求項2】
不織布が湿式不織布である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
不織布に含まれる油剤の含有率が、不織布の質量の1.0質量%以下である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
不織布に含まれる油剤が、ノニオン系油剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項5】
繊維径が1~5μmのポリプロピレンを含む極細繊維が含まれている、請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の不織布を親水化処理してなる、電気化学素子用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂を含有する不織布、及び前記不織布を親水化処理してなる電気化学素子用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電池やキャパシタなどの電気化学素子用セパレータとして、耐薬品性に優れるポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂などのポリオレフィン樹脂を含む繊維から構成された不織布が一般的に用いられている。また、ポリオレフィン樹脂を含む繊維から構成され不織布は親水性が低いことから、スルホン化処理やプラズマ処理などの親水化処理を施すことが一般的に行われている。
【0003】
不織布を構成する繊維の表面には繊維の紡糸時の紡糸性や、繊維の親水性、分散性などの向上を目的として、油剤が添加されている。しかし、ポリオレフィン樹脂を含む繊維から構成された不織布に親水性を付与するためにスルホン化処理などの親水化処理を施す際に、油剤が前記不織布に多く含有されていると悪影響であることが知られている。例えば、特開2011-165360号公報(特許文献1)には、不織布に油剤が残存していると、不織布をスルホン化処理する際に油剤がスルホン化され、不織布の実質的なスルホン酸基導入量が少なくなってしまうこと、また、スルホン化された油剤が電池内部で分解し、スルホン酸基による自己放電反応の抑制効果を低下させることから、スルホン化処理前の不織布の油剤含有量を0.40質量%以下に制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリオレフィン樹脂の一種であるポリプロピレン樹脂を含有する繊維を含む不織布において、例えば、不織布の一種である湿式不織布は、白水中に分散させた繊維を抄造することで製造するが、抄造時に湿式不織布の構成繊維に含まれる油剤が構成繊維から白水に流出しにくいことがあり、また、繊維が白水中で十分に分散できるように白水に添加されている油剤が湿式不織布に大量に付着することがあることや、不織布の一種である乾式不織布の製造時に、乾式不織布の構成繊維に含まれる油剤が構成繊維から流出しにくいことがあるなどの要因で、油剤が大量に付着した不織布であることがあった。また、油剤が大量に付着した不織布は、親水化処理した際に油剤が反応することで、親水化処理により不織布に導入されるスルホン酸基などの親水基の導入量が少なくなり、さらに、油剤が大量に付着した不織布は、親水化処理により不織布の強度が低下することがあった。
【0006】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、油剤の付着量が少ない不織布、及び、前記不織布を親水化処理してなる電気化学素子用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「ポリプロピレン樹脂を含む繊維、及び油剤を含む不織布であり、示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で不織布の融解吸熱ピークを測定したとき、ポリプロピレン樹脂由来の最も温度の低い融解吸熱ピーク温度が160℃以下に存在する、不織布。」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「不織布が湿式不織布である、請求項1に記載の不織布。」である。
【0009】
本発明の請求項3にかかる発明は、「不織布に含まれる油剤の含有率が、不織布の質量の1.0質量%以下である、請求項1または2に記載の不織布。」である。
【0010】
本発明の請求項4にかかる発明は、「不織布に含まれる油剤が、ノニオン系油剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の不織布。」である。
【0011】
本発明の請求項5にかかる発明は、「繊維径が1~5μmのポリプロピレンを含む極細繊維が含まれている、請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布。」である。
【0012】
本発明の請求項6にかかる発明は、「請求項1~5のいずれか1項に記載の不織布を親水化処理してなる、電気化学素子用セパレータ。」である。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、請求項1に記載されている融解吸熱ピーク温度を有する不織布は、そうでない不織布と比較して油剤の付着量が少ないことを見出した。この理由は完全には明らかになっていないが、160℃以下の融解吸熱ピーク温度を有する結晶形態を多く含むポリプロピレン樹脂は、油剤が有する疎水部との相溶性が低く、その結果油剤がポリプロピレン樹脂を含む繊維の内部に入り込みにくくなるためと考えられる。
【0014】
本発明の請求項2にかかる不織布は、湿式不織布であることから、他の不織布と比べ薄手であり、厚さの薄い不織布が要求される用途、例えば、電気化学素子用セパレータ等の用途に適した不織布である。
【0015】
本発明の請求項3にかかる不織布は、不織布に含まれる油剤の含有率が、不織布の質量の1.0質量%以下であり、不織布の油剤含有量が少ない。不織布を液体に浸漬させると、不織布に含まれる油剤が液体に溶出する一方、不織布に含まれる油剤の含有量が少なければ液体に溶出する油剤量が少なく、不織布により液体に影響を及ぼしにくいことから、不織布を液体に浸漬させる用途、例えば電気化学素子用セパレータや液体フィルタ等の用途に適した不織布である。また、親水化処理により不織布の強度が低下しにくい傾向があること、及び、不織布に含まれる油剤が少ないことで、油剤が電気化学素子の電解液に含まれるイオンに悪影響を及ぼすおそれが小さいことから、特に電気化学素子用セパレータに適した不織布である。なお、油剤の付着量が少ない不織布を親水化処理した際に不織布の強度が低下しにくい傾向がある理由は、完全には明らかになっていないが、油剤の付着量の多い不織布は、160℃以上の融解吸熱ピーク温度を有する結晶形態を多く含むポリプロピレン樹脂を含み、この樹脂と油剤が有する疎水部との相溶性が高いことから、油剤が繊維の内部に入り込む。これにより不織布の親水化処理の際に親水化処理が油剤を経由して繊維の内部まで行われ繊維の強度が低下すると考えられる。一方で、油剤の付着量が少ない不織布は、不織布に含まれるポリプロピレン樹脂と油剤が有する疎水部との相溶性が低く、油剤が繊維の内部まで入り込んでおらず、不織布の親水化処理の際に親水化処理が繊維の内部まで行われないためと考えられる。
【0016】
本発明の請求項4にかかる不織布は、油剤がノニオン系油剤であり、ノニオン系油剤は、他の油剤と比較して繊維に付着しにくいことから、油剤含有量が少ない不織布であり、不織布を液体に浸漬させる用途、例えば電気化学素子用セパレータや液体フィルタ等の用途に適した不織布である。また、ノニオン系油剤は溶液中で電離してイオンにならないことから、本発明の不織布は液体中で油剤が電離してイオンにならないのが好ましい用途に好適に使用できる。例えば、電気化学素子の電解液に含まれるイオンに悪影響を及ぼすおそれが小さいことから、特に電気化学素子用セパレータに適した不織布である。
【0017】
本発明の請求項5にかかる不織布は、繊維径が1~5μmのポリプロピレンを含む極細繊維が含まれていることから、不織布の構造が緻密であり、緻密な構造の不織布が要求される用途、例えば、電気化学素子用セパレータ等の用途に適した不織布である。
【0018】
本発明の請求項6にかかる電気化学素子用セパレータは、油剤の付着量が少ない不織布を親水化処理してなる電気化学素子用セパレータであるため、強度が優れる電気化学素子用セパレータである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の不織布は、ポリプロピレン樹脂を含む繊維、及び油剤を含む不織布であり、示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分で不織布の融解吸熱ピーク温度を測定したとき、ポリプロピレン樹脂由来の最も温度の低い融解吸熱ピーク温度が160℃以下に存在する。これにより、油剤の付着量が少ない不織布である。この理由は完全には明らかになっていないが、160℃以下の融解吸熱ピーク温度を有する結晶形態を多く含むポリプロピレン樹脂は、油剤が有する疎水部との相溶性が低く、その結果油剤がポリプロピレン樹脂を含む繊維の内部に入り込みにくくなるためと考えられる。この不織布のポリプロピレン樹脂由来の最も温度の低い融解吸熱ピーク温度は、低ければ低いほどより油剤の付着量が少ない傾向があることから、159.9℃以下が好ましく、159.7℃以下がより好ましい。
【0020】
なお、本発明における示差走査熱量計を用いる測定は、JIS K 7121(2012)「プラスチックの転移温度測定方法」 4.2(2)に記載の、熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)に準じ、TA Instruments社製Q1000を用い、次の(DSC測定条件)で行って、DSC曲線を描く。
【0021】
(DSC測定条件)
1.試験片の形状、大きさ:試験片として、直径6mmの円形の不織布を使用する。
2.窒素ガス流量:50ml/分
3.昇温温度:10℃/分
4.測定開始温度:0℃
【0022】
本発明の不織布に含まれるポリプロピレン樹脂を含む繊維は、1種類のポリプロピレン樹脂のみから構成された繊維であっても、2種類以上のポリプロピレン樹脂から構成された繊維であっても、少なくとも1種類のポリプロピレン樹脂と少なくとも1種類のポリプロピレン樹脂以外の樹脂から構成された繊維であってもよい。2種類以上のポリプロピレン樹脂から構成された繊維、又は、少なくとも1種類のポリプロピレン樹脂と少なくとも1種類のポリプロピレン樹脂以外の樹脂から構成された繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。これらの複合繊維の中でも、不織布の構成繊維同士が接着でき、機械的強度が高い不織布及び電気化学素子用セパレータが実現できることから、不織布の構成繊維表面に前記構成繊維に含まれる他の樹脂よりも融点の低い樹脂を有する、芯鞘型などの複合繊維を含んでいるのが好ましく、不織布の構成繊維表面に前記構成繊維に含まれる他の樹脂よりも融点の低い樹脂を有する複合繊維の中でも、不織布の耐薬品性が高い傾向があることから、芯成分がポリプロピレン樹脂から構成され、鞘成分がポリプロピレン樹脂よりも融点の低い樹脂から構成された芯鞘型複合繊維、又は、芯成分がポリプロピレン樹脂よりも融点の高い樹脂から構成され、鞘成分がポリプロピレン樹脂から構成された芯鞘型複合繊維を含んでいるのがより好ましく、不織布の耐薬品性が更に高い傾向があることから、不織布は芯成分がポリプロピレン樹脂から構成され、鞘成分がポリエチレン樹脂から構成された芯鞘型複合繊維を含んでいるのが更に好ましい。また、他に、水流やニードルパンチなどの外力により細繊維に分割できるオレンジ型などの複合繊維が分割された細繊維、あるいは、海島型複合繊維の海成分が溶解した島成分から構成された細繊維を含んでいると、緻密な構造の不織布及び電気化学素子用セパレータが実現できることから、不織布は複合繊維が分割された細繊維、あるいは海島型複合繊維の島成分由来の細繊維を含んでいることが好ましい。
【0023】
更に、不織布に含まれるポリプロピレン樹脂を含む繊維は、1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0024】
本発明の不織布の構成樹脂におけるポリプロピレン樹脂の割合は、高ければ高いほど、より耐薬品性及び耐熱性が優れる不織布を実現できることから、20mass%以上が好ましく、30mass%以上がより好ましく、40mass%以上が更に好ましい。
【0025】
本発明の不織布のポリプロピレン樹脂を含む繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0026】
本発明の不織布に含まれる、ポリプロピレン樹脂を含む繊維の繊維径は、繊維が均一に分散し、また、不織布の機械的強度が優れるように、1~30μmが好ましく、2~25μmがより好ましく、3~20μmが更に好ましい。なお、「繊維径」は、繊維の横断面形状が円形である場合にはその直径をいい、円形以外の場合には、横断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0027】
また、本発明の不織布を電気化学素子用セパレータ用途に使用する場合には、不織布が緻密になり、電気化学素子用セパレータに適した不織布であることができることから、不織布に繊維径が1~5μmのポリプロピレンを含む極細繊維が含まれているのが好ましく、前記極細繊維が30mass%以上含まれているのがより好ましく、40mass%以上含まれているのが更に好ましい。
【0028】
更に、ポリプロピレン樹脂を含む繊維の繊維長は特に限定するものではないが、繊維が均一に分散し、また不織布の機械的強度が優れるように、0.1~75mmであるのが好ましく、1~20mmであるのがより好ましく、2~15mmであるのが更に好ましい。なお、本発明における繊維長は、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法):2010、8.4項のB法(補正ステープルダイヤグラム法)に規定されている方法により測定される長さを意味する。
【0029】
本発明の不織布には、ポリプロピレン樹脂を含む繊維以外の繊維を含んでいてもよい。具体的には、ポリプロピレン樹脂以外の1種類の樹脂から構成された繊維や、ポリプロピレン樹脂以外の2種類以上の樹脂から構成された複合繊維であることができる。なお、ポリプロピレン樹脂を含む繊維以外の繊維の平均繊維径は、ポリプロピレン樹脂を含む繊維の平均繊維径と同様に、2~30μmが好ましく、3~25μmがより好ましく、4~20μmが更に好ましい。また、ポリプロピレン樹脂を含む繊維以外の繊維の繊維長についても、ポリプロピレン樹脂を含む繊維の繊維長と同様に、0.1~75mmであるのが好ましく、1~20mmであるのがより好ましく、2~15mmであるのが更に好ましい。
【0030】
本発明の不織布は、例えば、カード法やエアレイ法などで製造する乾式不織布、抄紙することで製造する湿式不織布、あるいは直接紡糸(メルトブロー、スパンボンド)した繊維を集積することで製造する直接紡糸不織布が挙げられる。これらの中でも湿式不織布は、製造過程において不織布の構成繊維に含まれる油剤が白水中に溶解することで油剤の付着量が少ない不織布が実現できる傾向があること、また、他の不織布に比べて薄手であること、更に、例えば本発明の不織布を電気化学素子用セパレータに用いる場合は、薄手であることで電気抵抗の低い電気化学素子が実現できることから、本発明の不織布は湿式不織布であるのが好ましい。
【0031】
本発明の不織布に含まれる油剤は、一般的に繊維製造時に、静電気の防止、繊維摩擦の低下などを目的として付与された油剤や、不織布が湿式不織布である場合は、繊維を抄造して湿式不織布を製造する際に繊維が白水中で十分に分散できるように抄造時に使用する白水に添加されている油剤である。前記油剤は、ノニオン系の界面活性剤であるノニオン系油剤、アニオン系の界面活性剤であるアニオン系油剤、両性の界面活性剤である両性系油剤や天然油脂、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸などであることができる。この油剤がノニオン系油剤であると、ノニオン系油剤は他の油剤(カチオン系油剤など)と比較して繊維に付着しにくいことから油剤含有量が少なく、また、ノニオン系油剤は溶液中に電離してイオンにならないことから、ノニオン系油剤を含む不織布は液体中で油剤が電離してイオンにならないのが好ましい用途に好適に使用できる。例えば不織布を電気化学素子用セパレータに用いる場合、電気化学素子の電解液に含まれるイオンに悪影響を及ぼすおそれが小さいことから、本発明の不織布に含まれる油剤はノニオン系油剤であるのが好ましい。
【0032】
本発明の不織布に含まれる油剤の含有率は、含有率が少ないと、不織布を液体に浸漬させたときに液体に溶出する油剤量が少なく、また、不織布を親水化処理した際に不織布の強度が低下しにくい傾向があることから、1.0質量%以下が好ましい。不織布に含まれる油剤の含有率がより少ないと、より不織布を液体に浸漬させたときに液体に溶出する油剤量が少ないことから、0.80質量%以下がより好ましく、0.70質量%以下が更に好ましい。
【0033】
本発明の不織布の目付は、特に限定するものではないが、不織布の機械的強度が優れるように、20~100g/m2が好ましく、40~90g/m2がより好ましく、60~80g/m2が更に好ましい。なお、目付とは、不織布の最も大きい面である主面1m2あたりの質量をいう。
【0034】
同様に、本発明の不織布の厚さは、特に限定するものではないが、不織布の機械的強度が優れるように、50~500μmが好ましく、100~400μmがより好ましく、150~300μmが更に好ましい。なお、厚さは、4N荷重時の外側マイクロメーターによる測定値をいう。
【0035】
本発明の不織布は、油剤の付着量が少ないため、不織布を液体に浸漬させたときに液体に溶出する油剤量が少ないことから、液体に浸漬させる用途に好適に使用できる。例えば、一次電池や二次電池、キャパシタなどの電気化学素子用セパレータ、液体フィルタに好適に用いることのできる不織布である。また、親水化処理を施しても不織布の強度が低下しにくいことから、本発明の不織布は、親水化処理を施して電気化学素子用セパレータに特に好適に用いることができる。
【0036】
本発明の電気化学素子用セパレータは、上述の不織布を親水化処理したものである。親水化処理の方法としては、例えば、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、放電処理、あるいは親水性樹脂付与処理が挙げられる。これらの中でも、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、あるいは放電処理は、親水性の低下が少なく、長期にわたって電気化学素子用セパレータの保液性が優れるため好適である。
【0037】
本発明の不織布及び電気化学素子用セパレータは、例えば次のようにして製造することができる。
【0038】
まず、最も温度の低い融解吸熱ピーク温度が160℃以下に存在するポリプロピレン樹脂を含む繊維と、必要に応じてポリプロピレン樹脂を含む繊維以外の繊維を用意する。なお、繊維同士が接着できるように、前記ポリプロピレン樹脂を含む繊維の少なくとも1種類が構成繊維表面に前記構成繊維に含まれる他の樹脂よりも融点の低い樹脂を有する、芯鞘型などの複合繊維であるのが好ましい。
【0039】
次いで、前記繊維を配合して繊維ウエブを形成する。この繊維ウエブの形成方法は特に限定するものではないが、例えば、乾式法(カード法、エアレイ法など)や湿式法により形成することができる。これらの中でも繊維が均一に分散して繊維ムラの少ない繊維ウエブを製造しやすい湿式法により形成するのが好ましい。この湿式法としては、従来公知の方法、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式により形成できる。
【0040】
次にこの繊維ウエブの構成繊維を結合させて、本発明の不織布を得ることができる。繊維ウエブの構成繊維を結合させる方法としては、例えば、繊維ウエブの構成繊維に含まれる樹脂を融着させる方法や、繊維ウエブの構成繊維をバインダにより接着する方法、繊維ウエブの構成繊維を水流やニードル等の外力で絡合する方法等を採用できる。繊維ウエブの構成繊維に含まれる樹脂を融着させることで繊維ウエブの構成繊維を結合させる場合、融着方法については特に限定するものではないが、例えば繊維ウエブをコンベアで支持し、熱風を吹き付ける方法や、カレンダーによって熱をかける方法等を採用することができる。本発明の不織布は、繊維ウエブの構成繊維に含まれる樹脂を融着させる方法による熱接着不織布、繊維ウエブの構成繊維をバインダにより接着するバインダ不織布、繊維ウエブの構成繊維を水流で絡合する水流絡合不織布、繊維ウエブの構成繊維をニードルパンチで絡合するニードルパンチ不織布を例示することができる。
【0041】
なお、繊維ウエブがオレンジ型の複合繊維など、外力により細繊維に分割できる分割繊維を含んでいる場合、不織布及び電気化学素子用セパレータが緻密な構造になるように、水流やニードルなどの外力で繊維ウエブに含まれる分割繊維を細繊維に分割するのが好ましい。
【0042】
本発明の電気化学素子用セパレータを製造する場合は、本発明の不織布に親水化処理を実施する。親水化処理方法としては、例えば、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、放電処理、界面活性剤処理、あるいは親水性樹脂付与処理が挙げられる。
【実施例0043】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、繊維に含まれるノニオン系油剤の含有率は、後述の(油剤含有率測定)で含有率を測定した。
【0044】
(分割繊維A)
複合紡糸法により紡糸した、ポリプロピレン樹脂Aと高密度ポリエチレン樹脂とからなる、繊維断面の中心が中空でオレンジ状横断面を有する繊維径:15.3μm、繊維長:5mmのオレンジ型の複合繊維である分割繊維(分割して、横断面形状が略台形状のポリプロピレン樹脂Aからなる繊維径3.8μmの細繊維8本と、横断面形状が略台形状の高密度ポリエチレン樹脂からなる繊維径3.8μmの細繊維8本とを発生可能、ノニオン系油剤を含有、分割繊維Aに含まれるノニオン系油剤の含有率:0.72質量%)を用意した。
【0045】
(分割繊維B)
複合紡糸法により紡糸した、ポリプロピレン樹脂Bと高密度ポリエチレン樹脂とからなる、繊維断面の中心が中空でオレンジ状横断面を有する繊維径:15.3μm、繊維長:5mmのオレンジ型の複合繊維である分割繊維(分割して、横断面形状が略台形状のポリプロピレン樹脂Bからなる繊維径3.8μmの細繊維8本と、横断面形状が略台形状の高密度ポリエチレン樹脂からなる繊維径3.8μmの細繊維8本とを発生可能、ノニオン系油剤を含有、分割繊維Bに含まれるノニオン系油剤の含有率:0.91質量%)を用意した。
【0046】
(分割繊維C)
複合紡糸法により紡糸した、ポリプロピレン樹脂Cと高密度ポリエチレン樹脂とからなる、繊維断面の中心が中空でオレンジ状横断面を有する繊維径:15.3μm、繊維長:5mmのオレンジ型の複合繊維である分割繊維(分割して、横断面形状が略台形状のポリプロピレン樹脂Cからなる繊維径3.8μmの細繊維8本と、横断面形状が略台形状の高密度ポリエチレン樹脂からなる繊維径3.8μmの細繊維8本とを発生可能、ノニオン系油剤を含有、分割繊維Cに含まれるノニオン系油剤の含有率:1.27質量%)を用意した。
【0047】
(分割繊維D)
複合紡糸法により紡糸した、ポリプロピレン樹脂Dと高密度ポリエチレン樹脂とからなる、繊維断面の中心が中空でオレンジ状横断面を有する繊維径:15.3μm、繊維長:5mmのオレンジ型の複合繊維である分割繊維(分割して、横断面形状が略台形状のポリプロピレン樹脂Dからなる繊維径3.8μmの細繊維8本と、横断面形状が略台形状の高密度ポリエチレン樹脂からなる繊維径3.8μmの細繊維8本とを発生可能、ノニオン系油剤を含有、分割繊維Dに含まれるノニオン系油剤の含有率:0.42質量%)を用意した。
【0048】
(融着繊維)
ポリプロピレン樹脂Eを芯成分(非融着成分)とし、低密度ポリエチレン樹脂を鞘成分(融着成分)とする、ポリオレフィン系融着繊維(両端部を除いて低密度ポリエチレン樹脂が繊維表面を被覆、芯成分と鞘成分の体積比率=5:5、繊維径:17.4μm、繊維長:10mm、繊維全体の密度:0.92g/cm3、ノニオン系油剤を含有、融着繊維に含まれるノニオン系油剤の含有率:0.26質量%)を用意した。
【0049】
(実施例1)
(水流絡合不織布の製造)
分割繊維A80mass%とポリオレフィン系融着繊維20mass%を白水中に分散させ、湿式法(水平長網方式)により、分割繊維Aとポリオレフィン系融着繊維が分散した繊維ウエブを形成した。
次いで、前記繊維ウエブをコンベアで支持し、コンベアの下方から吸引して繊維ウエブをコンベアと密着させて搬送しながら繊維ウエブに対して温度135℃の熱風を10秒間吹き付け、十分な量の熱風を通過させる無圧下での熱処理を実施するエアースルー方法により乾燥を行い、繊維ウエブの乾燥と同時にポリオレフィン系融着繊維に含まれる低密度ポリエチレン樹脂のみを融着させて融着繊維ウエブを形成し、融着繊維ウエブに水流を作用させることにより、融着繊維不織布に含まれる分割繊維Aを分割し、水流絡合不織布(目付:70g/m2、厚さ:0.25mm、不織布構成樹脂におけるポリプロピレン樹脂の割合:50mass%)を形成した。
(水流絡合不織布の親水化処理)
水流絡合不織布を温度60℃の発煙硫酸(15%SO3溶液)によるスルホン化処理へ供することで、親水化処理した電気化学素子用セパレータ(目付:75g/m2、厚さ:0.25mm)を形成した。
【0050】
(実施例2)
(水流絡合不織布の製造)
分割繊維Aの代わりに分割繊維Bを用いたことを除いては、実施例1と同様にして、分割繊維Bが分割された水流絡合不織布(目付:70g/m2、厚さ:0.25mm、不織布構成樹脂におけるポリプロピレン樹脂の割合:50mass%)を形成した。
(水流絡合不織布の親水化処理)
次いで、実施例1と同様に、スルホン化処理へ供することで、親水化処理した電気化学素子用セパレータ(目付:75g/m2、厚さ:0.25mm)を形成した。
【0051】
(比較例1)
(水流絡合不織布の製造)
分割繊維Aの代わりに分割繊維Cを用いたことを除いては、実施例1と同様にして、分割繊維Cが分割された水流絡合不織布(目付:70g/m2、厚さ:0.25mm、不織布構成樹脂におけるポリプロピレン樹脂の割合:50mass%)を形成した。
(水流絡合不織布の親水化処理)
次いで、実施例1と同様に、スルホン化処理へ供することで、親水化処理した電気化学素子用セパレータ(目付:75g/m2、厚さ:0.25mm)を形成した。
【0052】
(比較例2)
(水流絡合不織布の製造)
分割繊維Aの代わりに分割繊維Dを用いたことを除いては、実施例1と同様にして、分割繊維Dが分割された水流絡合不織布(目付:70g/m2、厚さ:0.25mm、不織布構成樹脂におけるポリプロピレン樹脂の割合:50mass%)を形成した。
(水流絡合不織布の親水化処理)
次いで、実施例1と同様に、スルホン化処理へ供することで、親水化処理した電気化学素子用セパレータ(目付:75g/m2、厚さ:0.25mm)を形成した。
【0053】
(水流絡合不織布、電気化学素子用セパレータの物性評価)
実施例と比較例の水流絡合不織布の油剤含有率測定、水流絡合不織布のDSC測定、実施例と比較例の電気化学素子用セパレータの引張強度測定を、以下の方法により行い、水流絡合不織布及び電気化学素子用セパレータの物性を評価した。
【0054】
(油剤含有率測定)
(1)水流絡合不織布の油剤含有率を測定する場合は、測定に使用する水流絡合不織布を10g切り取り、175mlのメタノールが入ったビーカーに浸漬させた。また、繊維の油剤含有率を測定する場合は、測定に使用する繊維を10gとり、175mlのメタノールが入ったビーカーに浸漬させた。
(2)(1)のビーカーを150℃のホットプレートに載せ、(1)のビーカーに入っているメタノールを15分間かき混ぜ、メタノールに水流絡合不織布又は繊維に含まれる油剤を溶解させた。
(3)(2)のビーカーに入っているメタノールを濾紙で濾して、濾液を蒸発皿に移した。
(4)(3)で濾紙上に残った水流絡合不織布又は繊維を、別の175mlのメタノールが入ったビーカーに浸漬させた。
(5)(4)のビーカーを150℃のホットプレートに載せ、(1)のビーカーに入っているメタノールを15分間かき混ぜ、メタノールに水流絡合不織布又は繊維に含まれる油剤を溶解させた。
(6)(5)のビーカーに入っているメタノールを濾紙で濾して(3)と同じ蒸発皿に濾液を移した。
(7)(3)(6)のメタノールが入っている蒸発皿を150℃のホットプレート上に静置し、メタノールを蒸発させた。このとき、蒸発皿には水流絡合不織布又は繊維から抽出した油剤が残った。
(8)メタノールが完全に蒸発した後、以下の式で抽出された油剤の質量を測定した。
C=B-A
A:濾液注液前の何も入っていない蒸発皿の質量(g)
B:抽出された油剤を有する蒸発皿の質量(g)
C:抽出された油剤質量(g)
(9)以下の式から、水流絡合不織布又は繊維の油剤含有率(=R、単位:%)を求めた。
R={C/10}×100
【0055】
(水流絡合不織布のDSC測定)
前述の(DSC測定条件)により、実施例と比較例の水流絡合不織布のDSC測定を行い、DSC曲線を描いた。
また、DSC測定により得られたDSC曲線から、水流絡合不織布に含まれるポリプロピレン樹脂由来の最も温度の低い融解吸熱ピーク温度を読み取った。なお、本発明の水流絡合不織布は、ポリプロピレン樹脂よりも大幅に融点が低いポリエチレン樹脂が存在することから、150℃以上に現れるDSC曲線のピークのうち、最も温度の低い融解吸熱ピークのトップをポリプロピレン樹脂由来の最も温度の低い融解吸熱ピーク温度とした。
【0056】
(電気化学素子用セパレータの引張強度測定)
(1)実施例及び比較例の電気化学素子用セパレータから、たて方向に200mm、よこ方向に50mmの長方形状の試料を採取した。なお、たて方向とは、電気化学素子用セパレータの製造方向(機械方向)であり、よこ方向とは、たて方向に直交する、電気化学素子用セパレータの幅方向をいう。
(2)前記たて方向の試料を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:100mm、引張速度:300mm/分)へ供し、試料が破断するまで引っ張った時の最大強度を測定した。前記測定を任意に選んだ試料3点に関して行い、この3点の算術平均値を電気化学素子用セパレータの引張強度(N/50mm)とした。
【0057】
実施例及び比較例の水流絡合不織布及び電気化学素子用セパレータの物性の評価結果を、以下の表1に示す。
【0058】
【0059】
実施例と比較例の比較から、不織布のポリプロピレン樹脂由来の最も温度の低い融解吸熱ピークが160℃以下と低い実施例の水流絡合不織布は、水流絡合不織布の油剤含有率が小さく、水流絡合不織布の油剤含有量が少ないものであり、また、水流絡合不織布を親水化処理して電気化学素子用セパレータとした際に、電気化学素子用セパレータの引張強度が高いことがわかった。
本発明の不織布は、油剤の含有量が少ないことから、不織布を液体に浸漬させる用途、例えば電気化学素子用セパレータや液体フィルタ等の用途に適した不織布である。また、親水化処理を施しても強度が高いため、電気化学素子用セパレータに好適に用いることができる。また、本発明の電気化学素子用セパレータは、例えば、一次電池、二次電池(ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池など)、キャパシタなどの電気化学素子に用いるセパレータとして、好適に用いることができる。