(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186120
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】試料支持体
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20221208BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01N27/62 F
H01J49/04 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094187
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】小谷 政弘
(72)【発明者】
【氏名】大村 孝幸
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041DA05
2G041DA20
2G041FA10
2G041GA05
2G041GA06
(57)【要約】
【課題】試料について高効率かつ高精度な分析を可能とする試料支持体を提供する。
【解決手段】試料支持体1Aは、基板2を備えている。基板2は、第1表面2a及び第1表面2aに開口する複数の孔2cを有している。基板2は、第1測定領域R1と、第2測定領域R2と、を有している。第1測定領域R1は、第1表面2aのうちの第1表面領域21aを含んでいる。第2測定領域R2は、第1表面2aのうちの第2表面領域22aを含んでいる。第1表面領域21aには、孔2cを塞がないように導電層5が設けられている。第2表面領域22aには、導電層5が設けられていない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイオン化に用いられる試料支持体であって、
表面及び前記表面に開口する複数の孔を有する基板を備え、
前記基板は、前記表面のうちの第1表面領域を含む第1測定領域と、前記表面のうちの第2表面領域を含む第2測定領域と、を少なくとも有し、
前記第1表面領域には、前記孔を塞がないように第1導電層が設けられており、
前記第2表面領域には、前記第1導電層が設けられていない、試料支持体。
【請求項2】
前記第1導電層は、前記試料の質量分析に適した材料によって形成されている、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記第2測定領域は、光透過性を有しており、
前記第2測定領域の前記第2表面領域、及び前記第2測定領域における前記第2表面領域とは反対側の表面領域は、露出している、請求項1又は2に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記基板の厚さは、5μm~50μmである、請求項3に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記第2測定領域の前記第2表面領域には、前記孔を塞がないようにかつ前記第1導電層とは異なる材料によって形成された第2導電層が設けられている、請求項1又は2に記載の試料支持体。
【請求項6】
前記第1測定領域と前記第2測定領域とは、互いに繋がっている、請求項1~5のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項7】
前記第1測定領域と前記第2測定領域との間に設けられた隔壁部を更に備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項8】
前記基板は、前記表面のうちの第3表面領域を含む第3測定領域を更に有し、
前記第3表面領域には、前記孔を塞がないようにかつ前記第1導電層とは異なる材料によって形成された第3導電層が設けられている、請求項1~7のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項9】
前記基板は、矩形板状を呈しており、
前記基板は、前記基板の厚さ方向から見た場合に、前記基板の互いに異なる角部に位置する複数のキャリブレーション領域を有している、請求項1~8のいずれか一項に記載の試料支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の質量分析に用いられる試料支持体に関する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の技術では、試料支持体の微細凹凸構造面に付着した試料に対してレーザ光が照射されることで、試料がイオン化され、これにより、試料の質量分析が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような技術では、試料について互いに異なる分析を行う場合には、試料を複数の試料支持体のそれぞれに付着させることになるため、作業が煩雑となるおそれがある。また、試料を複数の試料支持体のそれぞれに付着させると、各試料支持体に付着する試料の量又は各試料支持体に付着する試料の状態等にばらつきが生じる場合があり、その場合には、試料についての分析の精度が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、試料について高効率かつ高精度な分析を可能とする試料支持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る試料支持体は、試料のイオン化に用いられる試料支持体であって、表面及び表面に開口する複数の孔を有する基板を備え、基板は、表面のうちの第1表面領域を含む第1測定領域と、表面のうちの第2表面領域を含む第2測定領域と、を少なくとも有し、第1表面領域には、孔を塞がないように第1導電層が設けられており、第2表面領域には、第1導電層が設けられていない。
【0007】
この試料支持体では、基板は、第1測定領域及び第2測定領域を有している。これにより、試料に対して試料支持体を一回押し当てることで、第1測定領域及び第2測定領域の両方に試料を付着させることができる。しかも、第1測定領域の第1表面領域には、第1導電層が設けられており、第2測定領域の第2表面領域には、第1導電層が設けられていない。これにより、第1測定領域においては、例えば第1表面領域に対してエネルギー線を照射することで、試料の質量分析等を行うことができ、第2測定領域においては、試料について第1測定領域とは異なる分析を行うことができる。このように、この試料支持体によれば、1つの試料支持体によって、試料について互いに異なる分析を効率的に行うことができる。また、試料に対して試料支持体を一回押し当てることで、第1測定領域及び第2測定領域の両方に試料を付着させることができるため、第1測定領域に付着する試料の量と第2測定領域に付着する試料の量とのばらつきを抑制することができる。これにより、第1測定領域及び第2測定領域における分析を精度良く行うことができる。以上により、この試料支持体によれば、試料について高効率かつ高精度な分析を行うことが可能となる。
【0008】
第1導電層は、試料の質量分析に適した材料によって形成されていてもよい。これにより、第1測定領域において、試料の質量分析を好適に行うことができる。
【0009】
第2測定領域は、光透過性を有しており、第2測定領域の第2表面領域、及び第2測定領域における第2表面領域とは反対側の表面領域は、露出していてもよい。これにより、第2測定領域においては、光を透過させることで、第2測定領域に付着した試料の光透過率についての分析を行うことができる。
【0010】
基板の厚さは、5μm~50μmであってもよい。これにより、基板の強度を確保しつつ、第2測定領域の光透過性を確保することができる。
【0011】
第2測定領域の第2表面領域には、孔を塞がないようにかつ第1導電層とは異なる材料によって形成された第2導電層が設けられていてもよい。これにより、第2測定領域においては、試料について第1測定領域とは異なる分析を行うことができる。
【0012】
第1測定領域と第2測定領域とは、互いに繋がっていてもよい。これにより、第1測定領域及び第2測定領域の面積を確保しつつ、第1測定領域に付着する試料の量と第2測定領域に付着する試料の量とのばらつきをより確実に抑制することができる。
【0013】
上記の試料支持体は、第1測定領域と第2測定領域との間に設けられた隔壁部を更に備えてもよい。これにより、第1測定領域と第2測定領域との境界を明確にしつつ、基板の強度を補強することができる。
【0014】
基板は、表面のうちの第3表面領域を含む第3測定領域を更に有し、第3表面領域には、孔を塞がないようにかつ第1導電層とは異なる材料によって形成された第3導電層が設けられていてもよい。これにより、第3測定領域においては、試料について第1測定領域とは異なる分析を行うことができる。
【0015】
基板は、矩形板状を呈しており、基板は、基板の厚さ方向から見た場合に、基板の互いに異なる角部に位置する複数のキャリブレーション領域を有していてもよい。これにより、各測定領域の面積を確保しつつ、各測定領域における分析に対応するキャリブレーションを行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、試料について高効率かつ高精度な分析を可能とする試料支持体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、第1実施形態の試料支持体の平面図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-II線に沿っての試料支持体の概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III線に沿った試料支持体の概略断面図である。
【
図4】
図4は、
図1の試料支持体の基板の拡大像を示す図である。
【
図5】
図5は、
図1の試料支持体のうち、第1測定領域及び第1導電層を含む部分の光透過率と第2測定領域の光透過率との比較結果を示す図である。
【
図6】
図6は、
図1の試料支持体を用いた質量分析方法の工程の一部を示す図である。
【
図7】
図7は、
図1の試料支持体を用いた質量分析方法の工程の一部を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1の試料支持体を用いた質量分析方法の工程の一部を示す図である。
【
図9】
図9は、
図1の試料支持体を用いた質量分析方法の工程の一部を示す図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態の試料支持体の平面図である。
【
図12】
図12は、第1変形例に係る試料支持体の平面図である。
【
図13】
図13は、第2変形例に係る試料支持体の平面図である。
【
図15】
図15は、第3変形例に係る試料支持体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。各図において同一又は相当の部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。なお、図面においては、一部、実施形態に係る特徴部分を分かり易く説明するために誇張している部分があり、実際の寸法とは異なっている場合がある。
【0019】
[第1実施形態]
[試料支持体の構成]
図1~
図4を参照して、第1実施形態の試料支持体1Aについて説明する。試料支持体1Aは、試料をイオン化するために用いられるイオン化支援基板である。本実施形態では、試料支持体1Aは、人の皮膚上(皮膚表面)に塗布される試料のイオン化に用いられる。より具体的には、人の皮膚上に塗布された試料に対して試料支持体1Aを押し当てることにより、試料支持体1Aに試料を付着させる。その後、試料が付着した試料支持体1Aにレーザ光等のエネルギー線を照射することにより、当該試料をイオン化する。試料の例としては、薬剤、化粧料等が挙げられる。
【0020】
図1~
図3に示されるように、試料支持体1Aは、基板2と、フレーム3と、導電層(第1導電層)5と、を備えている。
図1に示されるように、試料支持体1Aは、平面視において略矩形状を有している。本実施形態では、試料支持体1Aの長辺に沿った方向をX軸方向と表し、試料支持体1Aの短辺に沿った方向をY軸方向と表し、X軸方向及びY軸方向に直交する方向(すなわち、試料支持体1Aの厚さ方向)をZ軸方向と表す。一例として、試料支持体1AのX軸方向の長さは3cm程度であり、Y軸方向の長さは2cm程度である。
【0021】
基板2は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、を有している。
図3に示されるように、基板2には、複数の孔2cが一様に(均一な分布で)形成されている。各孔2cは、基板2の厚さ方向D(第1表面2a及び第2表面2bが互いに対向する方向であり、Z軸方向と一致する方向)に沿って延在しており、第1表面2a及び第2表面2bに開口している。つまり、各孔2cは、基板2を貫通する貫通孔である。なお、
図2においては、孔2cの図示が省略されている。第1表面2aは、試料支持体1Aに付着した試料の成分をイオン化させる工程において、レーザ光等のエネルギー線が照射される面である。
【0022】
基板2は、矩形板状を呈している。厚さ方向Dから見た場合における基板2の一辺の長さは、例えば数cm程度である。基板2の厚さは、例えば1μm~50μm程度である。一例として、基板2の厚さは、5μm~50μmである。基板2の厚さは、5μm~20μmであることが好ましい。これにより、基板2の後述する光透過性を確実に確保することができる。厚さ方向Dから見た場合における孔2cの形状は、例えば略円形である。孔2cの幅は、例えば1nm~700nm程度である。基板2は、絶縁性材料によって形成されている。
【0023】
孔2cの幅は、以下のようにして取得される値である。まず、基板2の第1表面2a及び第2表面2bのそれぞれの画像を取得する。
図4は、基板2の第1表面2aの一部のSEM画像の一例を示している。当該SEM画像において、黒色の部分は孔2cであり、白色の部分は孔2c間の隔壁部である。続いて、取得した第1表面2aの画像に対して例えば二値化処理を施すことで、測定領域R内の複数の第1開口(孔2cの第1表面2a側の開口)に対応する複数の画素群を抽出し、1画素当たりの大きさに基づいて、第1開口の平均面積を有する円の直径を取得する。同様に、取得した第2表面2bの画像に対して例えば二値化処理を施すことで、測定領域R内の複数の第2開口(孔2cの第2表面2b側の開口)に対応する複数の画素群を抽出し、1画素当たりの大きさに基づいて、第2開口の平均面積を有する円の直径を取得する。そして、第1表面2aについて取得した円の直径と第2表面2bについて取得した円の直径との平均値を孔2cの幅として取得する。
【0024】
図4に示されるように、基板2には、略一定の幅を有する複数の孔2cが一様に形成されている。
図4に示される基板2は、Al(アルミニウム)を陽極酸化することにより形成されたアルミナポーラス皮膜である。例えば、Al基板に対して陽極酸化処理が施されることにより、Al基板の表面部分が酸化されると共に、Al基板の表面部分に複数の細孔(孔2cになる予定の部分)が形成される。続いて、酸化された表面部分(陽極酸化皮膜)がAl基板から剥離され、剥離された陽極酸化皮膜に対して上記細孔を拡幅するポアワイドニング処理が施されることにより、上述した基板2が得られる。なお、基板2は、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Zn(亜鉛)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)、Sb(アンチモン)等のAl以外のバルブ金属を陽極酸化することにより形成されてもよいし、Si(シリコン)を陽極酸化することにより形成されてもよい。
【0025】
フレーム3は、基板2の第1表面2aに設けられており、第1表面2a側において基板2を支持している。フレーム3は、基板2の第1表面2aに対向する第1面3hと、第1面3hとは反対側の第2面3gとを有している。本実施形態では、厚さ方向Dから見た場合に、フレーム3は、基板2よりも大きい矩形板状に形成されている。
【0026】
フレーム3の略中央部には、フレーム3の厚さ方向(すなわち、厚さ方向D)に貫通する開口部3aが形成されている。フレーム3の互いに対向する一対の角部には、フレーム3の厚さ方向に貫通する開口部31b,32bが形成されている。フレーム3のX軸方向における縁部3c(すなわち、Y軸方向に沿った縁部)の中央部には、X軸方向の内側に向かって窪んだ凹部3dが設けられている。
【0027】
開口部3aは、略円形状に形成されている。本実施形態では、開口部3aは、円の一部(一方向において互いに対向する部分)を弓型に切り欠いた形状を有している。具体的には、開口部3aは、Y軸方向における両側の縁部がX軸方向に平行となるように円の一部を弓型に切り欠いた形状を有している。一例として、開口部3aのY軸方向の幅は、1.5cm程度である。基板2のうち開口部3aに対応する部分(すなわち、厚さ方向Dから見た場合に開口部3aと重なる部分)は、試料の測定を行うための測定領域Rとして機能する。すなわち、フレーム3に設けられた開口部3aによって、測定領域Rが規定されている。言い換えれば、開口部3aは、測定領域Rに対応するように第1面3h及び第2面3gに開口している。つまり、フレーム3は、厚さ方向Dから見た場合に基板2の測定領域Rを包囲するように形成されている。
【0028】
開口部31b,32bは、開口部3aよりも小さい円形状に形成されている。一例として、開口部31b,32bの直径は、1mm程度である。基板2のうち開口部31b,32bに対応する部分(すなわち、厚さ方向Dから見た場合に開口部31b,32bと重なる部分)は、キャリブレーション用のキャリブレーション領域C1,C2として機能する。
【0029】
上述したように、基板2には複数の孔2cが一様に形成されているため、測定領域R及びキャリブレーション領域C1,C2のいずれも、複数の孔2cを含む領域である。測定領域Rにおける孔2cの開口率(厚さ方向Dから見た場合に測定領域Rに対して孔2cが占める割合)は、実用上は10~80%であり、特に60~80%であることが好ましい。複数の孔2cの大きさは互いに不揃いであってもよいし、部分的に複数の孔2c同士が互いに連結していてもよい。キャリブレーション領域C1,C2についても測定領域Rと同様である。
【0030】
フレーム3は、例えば、金属又はセラミックス等である。本実施形態では、フレーム3は、非磁性であり且つ耐酸性を有する材料によって形成されている。このような材料としては、例えば、チタン、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。本実施形態では、フレーム3は、SUSによって形成されている。試料支持体1Aの外形は、主にフレーム3によって規定されている。フレーム3のX軸方向の長さは3cm程度であり、フレーム3のY軸方向の長さは2cm程度である。フレーム3の厚さは、例えば3mm以下である。一例として、フレーム3の厚さは0.2mmである。
【0031】
本実施形態では、
図1に示されるように、厚さ方向Dから見た場合に、基板2は、フレーム3のX軸方向に沿った一対の縁部3eの間に収まると共に、フレーム3の一対の凹部3dの各々の底部3fの間に収まっている。基板2のうち測定領域R及びキャリブレーション領域C1,C2以外の部分は、接着層6によってフレーム3に接合されている。このように基板2がフレーム3に接合されて支持されることにより、試料支持体1Aのハンドリングが容易になると共に、温度変化等に起因する基板2の変形が抑制される。
【0032】
図3に示されるように、フレーム3は、接着層6によって基板2の第1表面2aに接合されている。接着層6は、基板2の第1表面2aとフレーム3の第1面3hとの間に形成されており、基板2とフレーム3とを接着している。なお、
図2においては、接着層6の図示が省略されている。接着層6は、例えば、放出ガスの少ない接着剤(例えば、低融点ガラス、真空用接着剤等)によって形成され得る。接着層6は、導電性接着剤によって形成されてもよいし、金属ペーストを塗布することによって形成されてもよい。また、接着層6は、UV硬化性接着剤(光硬化性接着剤)又は無機バインダー等によって形成されてもよい。UV硬化性接着剤の例として、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤等が挙げられる。また、無機バインダーの例として、オーデック社製のセラマボンド(登録商標)、東亞合成社製のアロンセラミック(登録商標)等が挙げられる。本実施形態では一例として、接着層6は、UV硬化性接着剤によって形成されている。
【0033】
導電層5は、基板2の第1表面2aに設けられている。
図3に示されるように、導電層5は、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口部3aに対応する領域の一部(すなわち、測定領域Rの一部)、開口部3aの内面、及び開口部3aの周縁部のフレーム3の第2面3gに一続きに(一体的に)形成されている。導電層5は、測定領域Rにおいて、基板2の第1表面2aのうち孔2cが形成されていない部分を覆っている。つまり、導電層5は、各孔2cを塞がないように設けられている。従って、測定領域Rにおいては、各孔2cが開口部3aに露出している。また、導電層5は、基板2の第1表面2aのうちフレーム3の開口部31bに対応する領域(すなわち、キャリブレーション領域C1)、開口部31bの内面、及び開口部31bの周縁部のフレーム3の第2面3gにも一続きに(一体的に)形成されている。導電層5は、キャリブレーション領域C1において、基板2の第1表面2aのうち孔2cが形成されていない部分を覆っている。つまり、導電層5は、各孔2cを塞がないように設けられている。従って、キャリブレーション領域C1においても、測定領域Rと同様に、各孔2cが開口部31bに露出している。
【0034】
導電層5は、導電性材料によって形成されている。導電層5は、試料の質量分析に適した材料によって形成されている。具体的には、導電層5は、例えば、Pt(白金)又はAu(金)によって形成されている。導電層5の材料としては、以下に述べる理由により、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。
【0035】
例えば、タンパク質等の試料と親和性が高いCu(銅)等の金属によって導電層5が形成されていると、後述する試料のイオン化の過程において、試料分子にCu原子が付加した状態で試料がイオン化され、Cu原子が付加した分だけ、後述する質量分析法において検出結果がずれるおそれがある。したがって、導電層5の材料としては、試料との親和性が低い金属が用いられることが好ましい。
【0036】
一方、導電性の高い金属ほど一定の電圧を容易に且つ安定して印加し易くなる。そのため、導電性が高い金属によって導電層5が形成されていると、測定領域Rにおいて基板2の第1表面2aに均一に電圧を印加することが可能となる。また、導電性の高い金属ほど熱伝導性も高い傾向にある。そのため、導電性が高い金属によって導電層5が形成されていると、基板2に照射されたレーザ光(エネルギー線)のエネルギーを、導電層5を介して試料に効率的に伝えることが可能となる。したがって、導電層5の材料としては、導電性の高い金属が用いられることが好ましい。
【0037】
以上の観点から、導電層5の材料としては、例えば、Pt、Au等が用いられることが好ましい。本実施形態では、導電層5は、Ptである。導電層5は、例えば、蒸着又はスパッタリング等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層5の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Ag(銀)等が用いられてもよい。
【0038】
試料支持体1Aは、導電性テープ4によってスライドグラス(補強基板)8に固定されている。導電性テープ4は、導電性材料によって形成されている。導電性テープ4は、例えば、アルミテープ、カーボンテープ等である。導電性テープ4の厚さは、例えば100μmである。
【0039】
導電性テープ4は、フレーム3の第2面3g上に貼り付けられている。本実施形態では、導電性テープ4は、フレーム3のX軸方向における両側に設けられている。具体的には、導電性テープ4は、フレーム3のX軸方向における一方側(
図1の図示左側)に設けられた導電性テープ41と、フレーム3のX軸方向における他方側(
図1の図示右側)に設けられた導電性テープ42と、を有している。
【0040】
導電性テープ41は、フレーム3のX軸方向における中央部よりも一方側(
図1の図示左側)において、測定領域R及び及びキャリブレーション領域C2を覆わないように設けられている。導電性テープ42には、キャリブレーション領域C2を露出させるための円形状の開口部41aが設けられている。
図1に示されるように、本実施形態では、導電性テープ41の縁部は、フレーム3の縁部3c,3e、フレーム3の開口部3aの縁部、及びフレーム3の開口部32bの縁部から若干離間している。一方、導電性テープ41は、厚さ方向Dから見た場合に、フレーム3の凹部3dによって形成された空間と重なる位置にも設けられている。すなわち、導電性テープ41は、厚さ方向Dから見てフレーム3と重ならない部分4b(すなわち、凹部3dによって形成された空間と重なる部分)を有する。
【0041】
導電性テープ42は、フレーム3のX軸方向における中央部よりも他方側(
図1の図示右側)において、測定領域R及びキャリブレーション領域C1を覆わないように設けられている。導電性テープ42には、キャリブレーション領域C1を露出させるための円形状の開口部42aが設けられている。
図1に示されるように、本実施形態では、導電性テープ42の縁部は、フレーム3の縁部3c,3e、フレーム3の開口部3aの縁部、及びフレーム3の開口部31bの縁部から若干離間している。一方、導電性テープ42は、厚さ方向Dから見た場合に、フレーム3の凹部3dと重なる位置にも設けられている。すなわち、導電性テープ42は、厚さ方向Dから見てフレーム3と重ならない部分4b(すなわち、凹部3dによって形成された空間と重なる部分)を有する。導電性テープ41,42それぞれの部分4bがスライドグラス8の載置面8aに貼り付けられることにより、試料支持体1Aがスライドグラス8に固定される。
【0042】
スライドグラス8は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板であり、透明導電膜の表面が載置面8aとなっている。スライドグラス8は、基板2の少なくとも測定領域Rの第2表面2bの全体を覆うように、基板2に対して固定されている。一例として、スライドグラス8は、厚さ方向D(Z軸方向)から見て、フレーム3の外形よりも大きい矩形状を有している。すなわち、厚さ方向Dから見て、上述した試料支持体1Aを構成する全ての要素(基板2及びフレーム3等)が、スライドグラス8内に収まっている。すなわち、スライドグラス8は、測定領域Rだけでなく、基板2の全体を覆っている。試料支持体1Aは、スライドグラス8によって補強されている。なお、試料支持体1Aの補強基板としては、スライドグラス8以外の基板が用いられてもよい。
【0043】
次に、基板2及び測定領域Rについて詳細に説明する。基板2は、光透過性を有している。具体的には、基板2の孔2c間の隔壁部は、光透過性を有している。基板2は、光透過性を有する材料によって形成されている。光は、例えば紫外線又は可視光等である。測定領域Rは、上述したように、フレーム3の開口部3aによって規定されている。測定領域Rは、基板2の一部である。つまり、測定領域Rは、第1表面2aの一部、第2表面2bの一部及び複数の孔2cを含んでいる。
【0044】
測定領域Rは、第1測定領域R1と、第2測定領域R2と、を有している。第1測定領域R1は、厚さ方向Dから見た場合に、測定領域RのうちY軸方向における一方側(
図1の図示下側)の略半分である。第2測定領域R2は、厚さ方向Dから見た場合に、測定領域RのうちY軸方向における他方側(
図1の図示上側)の略半分である。第1測定領域R1と第2測定領域R2とは、互いに繋がっている。具体的には、第1測定領域R1及び第2測定領域R2のそれぞれは、基板2における互いに連続する一部である。つまり、第1測定領域R1と第2測定領域R2とは、互いに離れていない。第1測定領域R1と第2測定領域R2とは、その他の領域を介在していない。第1測定領域R1と第2測定領域R2との境界線Bは、X軸方向に沿って直線状に延びている。
【0045】
第1測定領域R1は、第1表面2aのうちの第1表面領域21aを含んでいる。第1表面領域21aには、導電層5が設けられている。第2測定領域R2は、第1表面2aのうちの第2表面領域22aを含んでいる。第2表面領域22aには、導電層5が設けられていない。第2表面領域22aは、露出している。つまり、第2表面領域22aには、成膜されていない。第2測定領域R2における第2表面領域22aとは反対側の表面領域(基板2の第2表面2bの一部)は、露出している。つまり、第2測定領域R2における第2表面領域22aとは反対側の表面領域には、成膜されていない。本実施形態では、基板2の第2表面2bの全体が露出している。つまり、第2表面2bの全体には、成膜されていない。
【0046】
試料支持体1Aのうち第2測定領域R2に対応する部分は、光を透過させる。例えば、厚さ方向Dにおける試料支持体1Aの一方の側から第2測定領域R2に対して照射された光は、試料支持体1Aを透過して、厚さ方向Dにおける試料支持体1Aの他方の側に向かって出射する。
図5に示されるように、試料支持体1Aのうち第2測定領域R2に対応する部分の光透過率は、試料支持体1Aのうち第1測定領域R1に対応する部分の光透過率よりも大きい。これは、第2測定領域R2に対して照射された光は、試料支持体1Aを透過する一方、第1測定領域R1に対して照射された光は、導電層5によって遮られるためである。
【0047】
キャリブレーション領域C1,C2は、基板2の一部である。つまり、キャリブレーション領域C1,C2は、第1表面2aの一部、第2表面2bの一部及び複数の孔2cを含んでいる。キャリブレーション領域C1,C2は、基板2の互いに異なる角部に位置している。キャリブレーション領域C1は、第1測定領域R1に隣接している。具体的には、キャリブレーション領域C1は、厚さ方向Dから見た場合に、第1測定領域R1と第2測定領域R2との境界線Bに対して、第2測定領域R2とは反対側に位置している。キャリブレーション領域C1は、厚さ方向Dから見た場合に、基板2のうち第1測定領域R1に隣接する1つの角部に位置している。キャリブレーション領域C1の表面領域(第1表面2aの一部)は、導電層5が設けられている。
【0048】
キャリブレーション領域C1は、質量校正(マスキャリブレーション)のための領域として用いられ得る。例えば、試料の測定(後述する質量分析方法)を開始する前に、キャリブレーション領域C1に質量校正用の試料(例えばペプチド等)を配置して測定を実施することにより、マススペクトルの補正を行うことが可能となる。このようなマススペクトルの補正を測定対象試料の測定前に行うことにより、当該測定対象試料を測定した際に当該測定対象試料の正確なマススペクトルを得ることが可能となる。
【0049】
キャリブレーション領域C2は、第2測定領域R2に隣接している。具体的には、キャリブレーション領域C2は、厚さ方向Dから見た場合に、第1測定領域R1と第2測定領域R2との境界線Bに対して、第1測定領域R1とは反対側に位置している。キャリブレーション領域C2は、厚さ方向Dから見た場合に、基板2のうち第2測定領域R2に隣接する1つの角部に位置している。キャリブレーション領域C2の表面領域(第1表面2aの一部)には、導電層5が設けられていない。キャリブレーション領域C2の表面領域は、露出している。つまり、キャリブレーション領域C2の表面領域には、成膜されていない。
【0050】
キャリブレーション領域C2は、バックグラウンド測定領域として用いられ得る。例えば、試料が付着していないキャリブレーション領域C2、及びスライドグラス8の光透過率を測定し、試料が付着している第2測定領域R2、及びスライドグラス8の光透過率を測定した後、これらの光透過率の差分を算出することで試料のみの光透過率を得ることが可能となる。なお、第2測定領域R2の一部をバックグラウンド測定領域として用いてもよい。この場合、当該バックグラウンド測定領域に試料が付着しないように、予めマスク等を設けることが好ましい。
【0051】
[質量分析方法]
次に、
図6~
図9を参照して、試料支持体1Aを用いた質量分析方法(イオン化方法を含む)の一例について説明する。なお、
図6~
図9においては、孔2c、導電層5、及び接着層6の図示が省略されている。
【0052】
まず、上述した試料支持体1Aを予め用意する。続いて、
図6に示されるように、人の皮膚50上(皮膚50の表面)に、試料Sを塗布する。皮膚50は、人体の任意の部位の皮膚である。皮膚50は、試料Sの種類、用法等に応じて決定され得る。例えば、試料Sが顔に塗布される薬剤等である場合には、皮膚50は額の皮膚であってもよい。また、試料Sが日焼止めクリーム等の場合には、皮膚50は腕の皮膚であってもよい。また、試料Sの塗布前に、皮膚50の表面をアルコール等で消毒してもよい。或いは、試料Sが化粧料等であり、通常使用時における試料Sの状態(すなわち、皮脂と試料Sとが混合した状態)を分析したい場合等には、試料Sの塗布前に皮膚50の消毒をあえて行わないようにしてもよい。
【0053】
続いて、基板2の第1表面2aを人の皮膚50上に塗布された試料Sに対向させた状態で、試料支持体1Aを皮膚50に押し当てることにより、測定領域Rに試料Sを付着させる。つまり、測定領域Rに試料Sを転写させる。例えば、試料支持体1Aの測定領域Rに十分な量の試料を付着させるために、比較的大きい力で試料支持体1Aを試料Sに対して押し当てる必要が生じる場合がある。一方、試料支持体1Aの基板2は非常に薄い。このため、試料支持体1Aを皮膚50上の試料Sに対して押し当てる力が強すぎた場合、基板2(測定領域R部分)が破損するおそれがある。
【0054】
試料支持体1Aがスライドグラス8によって補強されているため、試料支持体1Aに試料Sを付着させる工程における試料支持体1A(特に基板2)の破損を効果的に抑制することができる。より具体的には、補強基板としてのスライドグラス8によって基板2の測定領域Rを含む部分の強度を高められるため、試料Sを付着させる工程、及びその後に試料支持体1Aを皮膚50から引き離す工程において、試料支持体1A(基板2)の破損を好適に抑制できる。
【0055】
図7に示されるように、皮膚50上の試料Sの一部である成分S1は、測定領域Rに付着する。成分S1は、第1測定領域R1及び第2測定領域R2の両方に付着する。成分S1は、1回のサンプリングによって、つまり、試料支持体1Aが試料Sに1回押し当てられることで、第1測定領域R1及び第2測定領域R2の両方に付着する。そのため、第1測定領域R1に付着する成分S1の量と第2測定領域R2に付着する成分S1の量とは、概ね同じである。測定領域Rに付着する成分S1の量とは、単位面積当たりの成分S1の量のことをいう。
【0056】
続いて、
図8に示されるように、試料支持体1Aは、予めスライドグラス8と一体化された状態で、質量分析装置10の支持部12上に載置される。試料支持体1Aは、導電性テープ41,42によってスライドグラス8に固定されていてもよいし、例えば両面テープ等を介してスライドグラス8に固定されていてもよい。
【0057】
質量分析装置10は、支持部12と、試料ステージ18と、カメラ16と、照射部13と、電圧印加部14と、イオン検出部15と、制御部17と、を備えている。支持部12は、試料ステージ18上に載置される。照射部13は、試料支持体1Aの第1表面2aに対してレーザ光L等のエネルギー線を照射する。電圧印加部14は、試料支持体1Aの第1表面2aに対して電圧を印加する。イオン検出部15は、イオン化された試料Sの成分(試料イオンS2)を検出する。カメラ16は、照射部13によるレーザ光Lの照射位置を含むカメラ画像を取得する装置である。カメラ16は、例えば、照射部13に付随する小型のCCDカメラである。
【0058】
制御部17は、試料ステージ18、カメラ16、照射部13、電圧印加部14、イオン検出部15の動作を制御する。制御部17は、例えば、プロセッサ(例えば、CPU等)、及びメモリ(例えば、ROM、RAM等)等を備えるコンピュータ装置である。
【0059】
続いて、電圧印加部14によって、スライドグラス8の載置面8a及び導電性テープ4を介して試料支持体1Aの導電層5(
図2参照)に電圧が印加される。続いて、制御部17が、カメラ16により取得された画像に基づいて、照射部13を動作させる。具体的には、制御部17は、レーザ照射範囲(例えば、第1測定領域R1のうち、カメラ16により取得された画像に基づいて特定された成分S1が存在する領域)内の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されるように照射部13を動作させる。
【0060】
一例として、制御部17は、試料ステージ18を移動させると共に、照射部13によるレーザ光Lの照射動作(照射タイミング等)を制御する。すなわち、制御部17は、試料ステージ18が所定間隔移動したことを確認した後に、照射部13にレーザ光Lの照射を実行させる。例えば、制御部17は、レーザ照射範囲内をラスタスキャンするように試料ステージ18の移動(走査)と照射部13によるレーザ光Lの照射とを繰り返す。なお、第1表面2aに対する照射位置の変更は、試料ステージ18ではなく照射部13を移動させることによって行われてもよいし、試料ステージ18及び照射部13の両方を移動させることによって行われてもよい。
【0061】
このように、導電層5に電圧が印加されつつレーザ照射範囲内の第1表面2aに対してレーザ光Lが照射されることにより、第1測定領域R1に付着した成分S1がイオン化され、試料イオンS2(イオン化された成分S1)が放出される。具体的には、レーザ光Lのエネルギーを吸収した導電層5から、第1測定領域R1に付着した成分S1にエネルギーが伝達され、エネルギーを獲得した成分S1が気化すると共に電荷を獲得して、試料イオンS2となる。以上の各工程が、試料支持体1Aを用いた成分S1のイオン化方法(ここでは一例として、質量分析方法の一部としてのレーザ脱離イオン化法)に相当する。
【0062】
放出された試料イオンS2は、試料支持体1Aとイオン検出部15との間に設けられたグランド電極(図示省略)に向かって加速しながら移動する。つまり、試料イオンS2は、電圧が印加された導電層5とグランド電極との間に生じた電位差によって、グランド電極に向かって加速しながら移動する。そして、イオン検出部15によって試料イオンS2が検出される。
【0063】
イオン検出部15による試料イオンS2の検出結果は、レーザ光Lの照射位置に関連付けられる。具体的には、イオン検出部15は、レーザ照射範囲内の各位置について個別に試料イオンS2を検出する。これにより、試料Sの質量分布を示す分布画像(MSマッピングデータ)が取得される。さらに、試料Sを構成する分子の二次元分布を画像化することができる。すなわち、イメージング質量分析を行うことができる。なお、ここでの質量分析装置10は、飛行時間型質量分析法(TOF-MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する質量分析装置である。
【0064】
続いて、第2測定領域R2に付着した成分S1の光透過率を測定する。具体的には、
図9に示されるように、試料支持体1Aは、スライドグラス8に固定された状態で、光測定装置20の支持部23上に載置される。光測定装置20は、光源21と、光検出部22と、支持部23と、を備えている。光源21は、試料支持体1Aの第1表面2aに対して紫外線U等の光を照射する。光検出部22は、試料支持体1Aを透過した紫外線Uを検出する。光源21、光検出部22、支持部23の動作は、制御部によって制御される。制御部は、制御部17と同様な構成を備えるコンピュータ装置である。
【0065】
続いて、光源21によって、キャリブレーション領域C2の表面領域及び第2測定領域R2の第2表面領域22aに対して、紫外線Uが照射される。キャリブレーション領域C2の表面領域に対して照射された紫外線Uは、キャリブレーション領域C2及びスライドグラス8を透過した後、光検出部22によって検出される。第2測定領域R2の第2表面領域22aに対して照射された紫外線Uは、第2測定領域R2、第2測定領域R2に付着した成分S1及びスライドグラス8を透過した後、光検出部22によって検出される。続いて、キャリブレーション領域C2における光透過率と第2測定領域R2における光透過率との差分が算出される。これにより、第2測定領域R2に付着した成分S1の光透過率が得られる。続いて、第1測定領域R1を用いて得られた結果(イメージング質量分析の結果)と第2測定領域R2を用いて得られた結果(光透過率の結果)との相関を分析する。
【0066】
以上説明したように、試料支持体1Aでは、基板2が、第1測定領域R1及び第2測定領域R2を有している。これにより、試料Sに対して試料支持体1Aを一回押し当てることで、第1測定領域R1及び第2測定領域R2の両方に試料Sを付着させることができる。しかも、第1測定領域R1の第1表面領域21aには、導電層5が設けられており、第2測定領域R2の第2表面領域22aには、導電層5が設けられていない。これにより、第1測定領域R1においては、第1表面領域21aに対してレーザ光Lを照射することで、試料Sの質量分析等を行うことができ、第2測定領域R2においては、試料Sについて第1測定領域R1とは異なる分析を行うことができる。更に、第1測定領域R1を用いて得られた結果と第2測定領域R2を用いて得られた結果との相関を分析することで、試料Sについてより詳細な分析を行うことができる。このように、試料支持体1Aによれば、1つの試料支持体1Aによって、試料Sについて互いに異なる分析を効率的に行うことができる。また、試料Sに対して試料支持体1Aを一回押し当てることで(1回のサンプリング)、第1測定領域R1及び第2測定領域R2の両方に試料Sを付着させることができるため、第1測定領域R1に付着する試料Sの量と第2測定領域R2に付着する試料Sの量とのばらつきを抑制することができる。これにより、第1測定領域R1及び第2測定領域R2における分析を精度良く行うことができる。第1測定領域R1に付着する試料Sの量と第2測定領域R2に付着する試料Sの量とのばらつきが抑制されていると、上記相関の分析の精度が更に向上する。以上により、試料支持体1Aによれば、試料Sについて高効率かつ高精度な分析を行うことが可能となる。
【0067】
導電層5は、試料Sの質量分析に適した材料によって形成されている。これにより、第1測定領域R1において、試料Sの質量分析を好適に行うことができる。
【0068】
第2測定領域R2は、光透過性を有している。第2測定領域R2の第2表面領域22a、及び第2測定領域R2における第2表面領域22aとは反対側の表面領域(基板2の第2表面2b)は、露出している。これにより、第2測定領域R2においては、光を透過させることで、第2測定領域R2に付着した試料Sの光透過率についての分析を行うことができる。
【0069】
基板2の厚さは、5μm~50μmである。これにより、基板2の強度を確保しつつ、第2測定領域R2の光透過性を確保することができる。
【0070】
第1測定領域R1と第2測定領域R2とは、互いに繋がっている。これにより、第1測定領域R1及び第2測定領域R2の面積を確保しつつ、第1測定領域R1に付着する試料Sの量と第2測定領域R2に付着する試料Sの量とのばらつきをより確実に抑制することができる。すなわち、例えば第1測定領域R1と第2測定領域R2とが互いに離れている場合に比べると、第1測定領域R1と第2測定領域R2との距離が近くなるため、上記のばらつきが抑制される。また、第1測定領域R1と第2測定領域R2とが互いに繋がっていると、測定領域Rの全体に亘って、各測定器(例えばプローブ等)を第1表面2aに近付けることができ、測定の精度を向上させることができる。
【0071】
基板2は、矩形板状を呈している。基板2は、厚さ方向Dから見た場合に、基板2の互いに異なる角部に位置するキャリブレーション領域C1,C2を有している。これにより、第1測定領域R1及び第2測定領域R2の面積を確保しつつ、第1測定領域R1及び第2測定領域R2のそれぞれにおける分析に対応するキャリブレーションを行うことができる。
【0072】
[第2実施形態]
図10及び
図11を参照して、第2実施形態の試料支持体1Bについて説明する。
図10に示されるように、試料支持体1Bは、基板2Bと、フレーム3Bと、導電層5と、導電層(第3導電層)53と、導電層54と、を備えている。一例として、試料支持体1BのX軸方向の長さは5cm程度であり、Y軸方向の長さは2cm程度である。基板2BのX軸方向における長さは、基板2のX軸方向における長さよりも大きい。基板2Bのその他は、基板2と同じである。
【0073】
フレーム3BのX軸方向における長さは、フレーム3のX軸方向における長さよりも大きい。フレーム3Bの開口部3aは、X軸方向に沿って延びる矩形状に形成されている。本実施形態では、開口部3aは、矩形の各角部を直線状に切り欠いた形状に形成されている。
【0074】
フレーム3Bの各角部には、フレーム3Bの厚さ方向に貫通する開口部31b,32b,33b,34bが形成されている。各開口部31b,32b,33b,34bは、フレーム3の開口部31b,32bと同様な形状に形成されている。基板2Bのうち各開口部31b,32b,33b,34bに対応する部分は、キャリブレーション用のキャリブレーション領域C1,C2,C3,C4として機能する。フレーム3Bのその他は、フレーム3と同じである。試料支持体1Bは、試料支持体1Aと同様に、導電性テープ4によってスライドグラス8に固定されている。
【0075】
導電層53,54は、導電層5と同様に、各孔2cを塞がないように基板2Bの第1表面2aに設けられている。導電層53,54は、導電層5とは異なる材料によって形成されている。本実施形態では、導電層53は、例えばAuであり、導電層54は、例えばAgである。
【0076】
基板2Bは、第1測定領域R1及び第2測定領域R2に加えて、第3測定領域R3及び第4測定領域R4を更に有している。本実施形態では、第1測定領域R1、第2測定領域R2、第3測定領域R3及び第4測定領域R4は、X軸方向における試料支持体1Bの一方側(
図10の図示左側)から他方側(
図10の図示右側)に向かって、この順に配置されている。第1測定領域R1と第2測定領域R2とは、互いに繋がっている。第2測定領域R2と第3測定領域R3とは、互いに繋がっている。第3測定領域R3と第4測定領域R4とは、互いに繋がっている。第1測定領域R1、第2測定領域R2、第3測定領域R3及び第4測定領域R4の境界線B1,B2,B3は、Y軸方向に沿って直線状に延びている。
【0077】
第1測定領域R1のその他は、第1実施形態の第1測定領域R1と同じである。第2測定領域R2のその他は、第1実施形態の第2測定領域R2と同じである。第3測定領域R3は、第1表面2aのうちの第3表面領域23aを含んでいる。第3表面領域23aには、導電層53が設けられている。第4測定領域R4は、第1表面2aのうちの第4表面領域24aを含んでいる。第4表面領域24aには、導電層54が設けられている。
【0078】
キャリブレーション領域C1,C2は、厚さ方向Dから見た場合に、基板2Bのうち第1測定領域R1に隣接する2つの角部のそれぞれに位置している。キャリブレーション領域C2,C3は、厚さ方向Dから見た場合に、基板2Bのうち第4測定領域R4に隣接する2つの角部のそれぞれに位置している。
【0079】
キャリブレーション領域C1の表面領域(第1表面2aの一部)には、導電層5が設けられている。キャリブレーション領域C2の表面領域(第1表面2aの一部)には、導電層5,53,54が設けられていない。キャリブレーション領域C2の表面領域は、露出している。つまり、キャリブレーション領域C2の表面領域には、成膜されていない。キャリブレーション領域C3の表面領域(第1表面2aの一部)には、導電層53が設けられている。キャリブレーション領域C4の表面領域(第1表面2aの一部)には、導電層54が設けられている。
【0080】
第1測定領域R1及び第2測定領域R2のそれぞれにおいては、試料支持体1Aと同様に、試料Sのイメージング質量分析及び光透過率に関する分析のそれぞれを行うことができる。第3測定領域R3においては、例えば第1測定領域R1とは異なるイメージング質量分析を行うことができる。また、第3測定領域R3においては、例えば表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を生じさせることができる。第4測定領域R4においては、例えば第1測定領域R1とは異なるイメージング質量分析を行うことができる。また、第4測定領域R4においては、例えば表面増強ラマン散乱を生じさせることができる。また、第4測定領域R4においては、例えば2次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行うことができる。
【0081】
導電性テープ41には、キャリブレーション領域C1,C2を露出させるための円形状の開口部41a,42aが設けられている。導電性テープ42には、キャリブレーション領域C3,C4を露出させるための円形状の開口部43a,44aが設けられている。
【0082】
以上説明したように、試料支持体1Bによれば、試料支持体1Aと同様に、試料Sについて高効率かつ高精度な分析を行うことが可能となる。また、第3測定領域R3及び第4測定領域R4のそれぞれにおいては、試料Sについて第1測定領域R1とは異なる分析を行うことができる。
【0083】
[変形例]
図12に示されるように、試料支持体1Aにおいて、第1測定領域R1と第2測定領域R2との境界線Bは、Y軸方向に沿って直線状に延びていてもよい。第1測定領域R1及び第2測定領域R2の配置は、必要に応じて任意に設定されていてもよい。また、第2測定領域R2の第2表面領域22aには、孔2cを塞がないように導電層52(第2導電層)が設けられていてもよい。導電層52は、例えばAl等であってもよい。この場合、キャリブレーション領域C2の表面領域には、導電層52が設けられている。このような構成によれば、第2測定領域R2においては、例えば表面増強ラマン散乱を生じさせることができる。
【0084】
図13及び
図14に示されるように、試料支持体1Aにおいて、第1測定領域R1と第2測定領域R2とは、互いに離れていてもよい。具体的には、フレーム3は、隔壁部31を有していてもよい。隔壁部31は、開口部3aを横断している。隔壁部31は、厚さ方向Dから見た場合に、X軸方向に沿って直線状に延びている。隔壁部31は、第1測定領域R1と第2測定領域R2との間に設けられている。基板2における隔壁部31と重なる部分は、接着層6によって隔壁部31に接合されている。このような構成によれば、第1測定領域R1と第2測定領域R2との境界を明確にしつつ、基板2の強度を補強することができる。
【0085】
図15及び
図16に示されるように、試料支持体1Bにおいて、第1測定領域R1と第2測定領域R2とは、互いに離れていてもよい。第2測定領域R2と第3測定領域R3とは、互いに離れていてもよい。第3測定領域R3と第4測定領域R4とは、互いに離れていてもよい。第3測定領域R3と第4測定領域R4とは、互いに離れていてもよい。具体的には、フレーム3Bは、複数の隔壁部31を有していてもよい。
【0086】
各隔壁部31は、開口部3aを横断している。各隔壁部31は、厚さ方向Dから見た場合に、Y軸方向に沿って直線状に延びている。各隔壁部31は、厚さ方向Dから見た場合に、所定の間隔をもってX軸方向において並んでいる。各隔壁部31は、第1測定領域R1、第2測定領域R2、第3測定領域R3及び第4測定領域R4の間に設けられている。基板2Bにおける各隔壁部31と重なる部分は、接着層6によって各隔壁部31に接合されている。
【0087】
試料Sが人の皮膚50上に塗布されている例を示したが、試料Sは、人の皮膚50上に塗布された試料ではなくてもよい。試料Sは、例えば生体試料等であってもよい。試料Sは、例えば、動物の臓器切片又は植物等であってもよい。
【0088】
基板2の第1表面2aを試料Sに対向させた状態で、試料支持体1Aを皮膚50に押し当てることにより、測定領域Rに試料Sを付着させる例を示したが、基板2の第2表面2bを試料Sに対向させた状態で、試料支持体1Aを皮膚50に押し当てることにより、測定領域Rに試料Sを付着させてもよい。これにより、毛細管現象によって試料Sの成分S1を第2表面2b側から第1表面2a側へと各孔2cを介して移動させることができる。その結果、第1表面2aを試料Sの成分S1のイオン化に適した状態にすることができる。このような場合には、試料支持体1Aは、スライドグラス8に固定されていない。
【0089】
各孔2cが基板2を貫通する貫通孔である例を示したが、各孔2cは、基板2を貫通していなくてもよい。各孔2cは、例えば第2表面2bには開口していなくてもよい。つまり、各孔2cにおける第2表面2b側の部分は、塞がれていてもよい。各孔2cは、少なくとも第1表面2aに開口していればよい。
【0090】
導電層5,52,53,54の材料は、限定されない。導電層52,53,54が導電層5と異なっていれば、各導電層5,52,53,54の材料は、様々な組合せを有していてもよい。
【0091】
第2測定領域R2は、帯電した微小液滴(charged-droplets)を照射することにより、試料を脱離・イオン化する方法である脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI:Desorption Electrospray Ionization)に用いられてもよい。また、第2測定領域R2は、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)に用いられてもよい。この場合、隔壁部31が設けられていると、第2測定領域R2のみを試料支持体1A,1Bから容易に剥離させることができる。また、第2測定領域R2は、ラマン分光法によるイメージング分析、又は赤外分光法に用いられてもよい。
【0092】
試料支持体1Bは、第2測定領域R2、第3測定領域R3及び第4測定領域R4の少なくとも1つを有していてもよい。例えば、試料支持体1Bは、第3測定領域R3又は第4測定領域R4の少なくとも1つを有していなくてもよい。
【0093】
導電層5,53,54は、少なくとも第1表面2aに設けられていればよい。導電層5,53,54は、第1表面2aに加えて、例えば、第2表面2bにも設けられてもよいし、各孔2cの内面の全体又は一部にも設けられてもよい。
【0094】
電圧印加部14によって電圧が印加される対象は、載置面8aに限られない。例えば、電圧は、フレーム3,3B又は導電層5,53,54に直接印加されてもよい。
【0095】
質量分析装置10は、走査型の質量分析装置であってもよいし、投影型の質量分析装置であってもよい。走査型の場合、照射部13による1回のレーザ光Lの照射毎に、レーザ光Lのスポット径に対応する大きさの1画素の信号が取得される。つまり、1画素毎にレーザ光Lの走査(照射位置の変更)及び照射が行われる。一方、投影型の場合、照射部13による1回のレーザ光Lの照射毎に、レーザ光Lのスポット径に対応する画像(複数の画素)の信号が取得される。投影型の場合においてレーザ光Lのスポット径に測定領域Rの全体が含まれる場合には、1回のレーザ光Lの照射によってイメージング質量分析を行うことができる。なお、投影型の場合においてレーザ光Lのスポット径に測定領域Rの全体が含まれない場合には、走査型と同様にレーザ光Lの走査及び照射を行うことにより、測定領域R全体の信号を取得することができる。また、上述したイオン化方法は、イオンモビリティ測定等の他の測定・実験にも利用することができる。
【0096】
試料支持体の用途は、レーザ光Lの照射による試料のイオン化に限定されない。試料支持体は、レーザ光、イオンビーム、電子線等のエネルギー線の照射による試料のイオン化に用いることができる。上述したイオン化方法及び質量分析方法では、このようなエネルギー線の照射によって試料をイオン化することができる。
【符号の説明】
【0097】
1A,1B…試料支持体、2…基板、2a…第1表面、2c…孔、5…第1導電層、21a…第1表面領域、22a…第2表面領域、23a…第3表面領域、24a…第4表面領域、31…隔壁部、52…第2導電層、53…第3導電層、C1,C2…キャリブレーション領域、R1…第1測定領域、R2…第2測定領域、R3…第3測定領域、S…試料。